説明

高意匠性ランダムマット

【課題】繊維強化複合材料成形の先駆体として用いられるランダムマットを提供する。
【解決手段】繊維長10〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、強化繊維が25〜3000g/mの目付けにて実質的に2次元ランダムに配向しており、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合が0Vol%超30Vol%未満であり、かつ強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とするランダムマット。
臨界単糸数=600/D (1)
1.0×10/D<N<2.5×10/D (2)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形体のプリフォームとして用いられるランダムマット、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度・比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などの一般産業やスポーツ用途などに広く利用されてきた。これらに用いられる強化繊維の形態としては、連続繊維を用いて作られる織物や、1方向に繊維が引き揃えられたUDシート、カットした繊維を用いて作られるランダムシート、不織布等がある。
【0003】
一般的に、連続繊維を用いた織物やUDシート等は、繊維の持つ異方性から、例えば0/+45/-45/90等の様に、様々な角度に積層され、さらに成形品の反りを防ぐため、面対象に積層されるなど、積層工程が煩雑になる事が、繊維強化複合材料のコストを引き上げる原因の一つとなっていた。
【0004】
そのため、予め等方性であるランダムマットを用いる事で、比較的安価な繊維強化複合材料を得られる事ができる。このランダムマットは、カットした強化繊維単体、あるいは熱硬化性の樹脂を成形型に同時に吹き付けるスプレーアップ方式(乾式)や、バインダーを含有させたスラリーに予めカットした強化繊維を添加し、抄紙する方法(湿式)等により得る事ができるが、装置が比較的小型である事から、乾式製造方法を用いる事で、より安価にランダムマットを得る事ができる。
【0005】
乾式製造方法としては、連続繊維を用いて、カットと同時に吹き付ける手法が多く用いられ、その多くはロータリーカッターを使用したものである。しかしながら、繊維長を長くするために、刃の間隔を広くした場合、カット頻度が下がることより、繊維の吐出が不連続となってしまう。このため、局所的なマットの繊維目付け斑が生じ、特に目付けの低いマットを作成する場合には、厚み斑が顕著になる事から、表面意匠が不良になるという問題があった。
【0006】
一方、繊維強化複合材料のコストを引き上げるもう一つの要因として、成形時間が長いという点がある。通常、繊維強化複合材料は、予め、強化繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグと呼ばれる材料を、オートクレーブを用いて2時間以上加熱・加圧する事により得られる。近年、樹脂を含浸させていない強化繊維基材を金型内にセットした後、熱硬化性樹脂を流し入れるRTM成形方法が提案され、成形時間は大幅に短縮された。しかしながら、RTM成形方法を用いた場合でも、1つの部品を成形するまでに10分以上必要となる。
【0007】
そのため、従来の熱硬化性樹脂に代わり、熱可塑性樹脂をマトリックスに用いたコンポジットが注目されている。しかしながら、熱可塑性樹脂は、一般的に熱硬化性樹脂と比較して粘度が高く、そのため、繊維基材に樹脂を含浸させる時間が長く、結果として成形までのタクトが長くなるという問題があった。
【0008】
これらの問題を解決する手法として、熱可塑スタンピング成形(TP−SMC)と呼ばれる手法が提案されている。これは、予め熱可塑性樹脂を含浸させたチョップドファイバーを融点又は流動可能な温度以上に加熱し、これを金型内の一部に投入した後、直ちに型を閉め、型内にて繊維と樹脂を流動させる事により製品形状を得、冷却・成型するという成型方法である。この手法では、予め樹脂を含浸させた繊維を用いる事により、約1分程度という短い時間で成形が可能である。チョップド繊維束および成形材料の製造方法についての特許文献1および2があるが、これらはSMCやスタンパブルシートと呼ばれるような成形材料とする方法であって、かかる熱可塑スタンピング成形では、型内を繊維と樹脂を流動させるために、薄肉ものが得られにくい、繊維配向が乱れ、制御が困難である等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−114611号公報
【特許文献2】特開2009−114612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、繊維強化複合材料成形体のプリフォームとして用いられるランダムマット、およびその製造方法に関するものである。本発明のランダムマットは、成形時に熱可塑性のマトリックス樹脂を好ましく含浸できることを特徴とし、これより薄肉の複合材料が作成可能であり、表面品位に優れた繊維強化複合材料が提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂と特定の収束あるいは開繊条件を満たす強化繊維とから構成されるランダムマットとすることで、熱可塑性のマトリックス樹脂を容易に含浸できることを見出し本発明に至ったものである。即ち、本発明は、平均繊維長10〜100mmの強化繊維が25〜3000g/mの目付けにて実質的に2次元ランダムに配向したマットであって、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合が0Vol%超30Vol%未満であり、かつ強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とするランダムマット、
臨界単糸数=600/D (1)
1.0×10/D<N<2.5×10/D (2)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
およびその製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のランダムマットはプリフォームとして好ましく用いられ、これより表面品位に優れた繊維強化複合材料が提供できる。また得ようとする繊維強化複合材料の薄肉化や等方化が可能であるので、各種構成部材、例えば自動車の内板、外板、構成部材、また各種電気製品、機械のフレームや筐体等のプリフォームとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カット工程の模式図
【図2】ロータリー分繊カッターの正面と断面の概略図
【図3】ナイフ角度の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ランダムマット]
本発明のランダムマットは、繊維長10〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、強化繊維は25〜3000g/mの目付けにて実質的に2次元ランダムに配向させたマット状の基材であり、ランダムシートともいう。
【0015】
本発明のランダムマットは、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合が0Vol%超30Vol%未満であり、かつ強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とする。
臨界単糸数=600/D (1)
1.0×10/D<N<2.5×10/D (2)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
【0016】
ここで「実質的に2次元ランダム」とは、複合材料を構成する強化繊維が、複合材料の接表面内に繊維軸の主配向方向があり、かつその面内において互いに直交する二方向に測定した引張弾性率の値のうち大きいものを小さいもので割った比が2を超えないことを言う。
【0017】
ランダムマットの厚さにとくに制限はなく、後述する好ましい方法にて1〜100mm厚みのものを得ることができる。本発明のランダムマットより薄肉の成形体が得られるという本発明の効果を発揮する点では2〜50mm厚みとすることが好ましい。
【0018】
[強化繊維]
ランダムマットを構成する強化繊維は不連続であり、平均繊維長10〜100mmである。本発明のランダムマットは、ある程度長い強化繊維を含んでおり、得られる複合材料の表面品質に優れることを特徴とし、表面品質に優れるといった観点より平均繊維長の上限は好ましくは50mmであり、より好ましくは40mmである。また強度に優れるといった観点から平均繊維長の下限は好ましくは15mmである。また後述する好ましい強化繊維のカット方法を採用することで、ランダムマットを構成する強化繊維の長さは固定長とすることができる。
【0019】
ランダムマットを構成する強化繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらは併用することもでき、なかでも炭素繊維が軽量でありながら強度に優れた複合材料が提供できる点で好ましい。炭素繊維の場合、平均繊維径は好ましくは3〜12μmであり、より好ましくは5〜7μmである。
強化繊維はサイジング剤が付着されたものを用いることが好ましく、サイジング剤は強化繊維100重量部に対し、0超〜10重量部であることが好ましい。好ましくは0.01〜5重量部である。
【0020】
[開繊程度]
本発明のランダムマットは、式(1)
臨界単糸数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
で定義する臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合が0Vol%超30Vol%未満であることを特徴とする。マット中には、強化繊維束(A)以外の強化繊維として、単糸の状態または臨界単糸数未満で構成される繊維束が存在する。
【0021】
すなわち本発明のランダムマットには、平均繊維径に依存して定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束の存在量を30Vol%未満とする、すなわち強化繊維の開繊程度をコントロールし、特定本数以上の強化繊維からなる強化繊維束と、それ以外の開繊された強化繊維を特定の比率で含むことを特徴とする。
【0022】
強化繊維束(A)の割合が30Vol%以上になると、本発明のランダムマットを成形した際に、機械物性に優れた繊維強化複合材料が得られるという利点はあるものの、表面品位に優れた繊維強化複合材料が得にくくなる。強化繊維束(A)の割合はより好ましくは0Vol%超20Vol%未満である。
【0023】
さらに臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)
1.0×10/D<N<2.5×10/D (2)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
を満たすことを特徴とする。
【0024】
具体的にはランダムマットを構成する炭素繊維の平均繊維径が5〜7μmの場合、臨界単糸数は86〜120本となり、炭素繊維の平均繊維径が5μmの場合、繊維束中の平均繊維数は400〜1000本の範囲となるが、なかでも400〜800本であることが好ましい。炭素繊維の平均繊維径が7μmの場合、繊維束中の平均繊維数は204〜510本の範囲となるが、なかでも204〜400本であることが好ましい。
【0025】
強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が1.0×10/D以下の場合、薄いランダムマットを得る事が困難となる。また強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が2.5×10/D以上の場合、本発明のランダムマットを成形した際に、表面品位に優れた繊維強化複合材料が得にくくなる。
【0026】
本発明のランダムマットは、各種の厚みとすることが可能であるが、これをプリフォームとして、厚みが0.2〜1mm程度の薄肉の成形品も好適に得ることができる。すなわち本発明により、各種目的とする成形品の厚さに合わせたランダムマットを作成する事ができ、特にサンドイッチ材の表皮等、薄物の成形品のプリフォームとして有用である。
【0027】
[熱可塑性樹脂]
本発明のランダムマットは粒子状および/または短繊維状の熱可塑性樹脂を含み、表面品位に優れた繊維強化複合材料を得るためのプリフォームとなる。強化繊維と粒子状および/または短繊維状の熱可塑性樹脂が混合して存在していることにより、型内で繊維と樹脂を流動させる必要がなく、成形時に熱可塑性樹脂を容易に含浸できることを特徴とする。ランダムマットおける熱可塑性樹脂の存在量は、強化繊維100重量部に対し、50〜1000重量部であることが好ましい。より好ましくは、強化繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂100〜600重量部、更に好ましくは、強化繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂150〜300重量部である。
【0028】
熱可塑性樹脂の種類としては例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。
【0029】
熱可塑性樹脂は、繊維状および/または粒子状で構成されることが好ましい。熱可塑性樹脂の種類を2種以上とすることもでき、また繊維状と粒子状のものを併用してもよい。粒子状の場合、粒子の形状は球状、細片状、あるいはペレットのような円柱状が好ましく挙げられる。球状の場合は、真円または楕円の回転体、あるいは卵状ような形状が好ましく挙げられる。細片状の場合、ある程度のアスペクト比を有しても良いが、好ましい長さは下記の繊維状の場合と同程度とする。球とした場合の好ましい平均粒子径は0.01〜5mmである。より好ましくは平均粒子径0.1〜3mmものがより好ましく、更に好ましくは平均粒子径0.5〜1.5mmものがより好ましい。粒子径分布についてはとくに制限はないが、分布シャープなものがより肉厚の薄い成形体を得る目的としてはより好ましいが、分級等の操作により所望の粒度分布として用いる事が出来る。
【0030】
繊維状の場合、繊度100〜5000dtexのもの、より好ましくは繊度1000〜2000dtexものがより好ましく、平均繊維長としては0.5〜50mmが好ましく、より好ましくは平均繊維長1〜10mmである。
【0031】
[製造方法]
以下本発明のランダムマットを好ましく得る方法について述べる。本発明のランダムマットは以下の工程1〜4より、好ましく製造方法される。
1.強化繊維をカットする工程、
2.カットされた強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付ける事により、繊維束を開繊させる工程、
3.開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状または粒子状の熱可塑性樹脂とともに吸引し、強化繊維と熱可塑性樹脂を同時に散布する塗布工程、
4.塗布された強化繊維および熱可塑性樹脂を定着させる工程。
【0032】
以下、各工程について詳細に述べる。
[カット工程]
本発明方法における強化繊維のカット方法は、具体的にはナイフを用いて強化繊維をカットする工程である。ナイフとしてはロータリーカッター等が好ましく、カット工程の具体的な模式図を図1に示す。ロータリー分繊カッターの好ましい例について、正面と側面の概略図を図2に、およびナイフ角度の説明図を図3に示す。
【0033】
ロータリーカッターとしては、角度を規定した螺旋状ナイフまたは分繊ナイフを用いることが好ましい。表面品位に優れる熱可塑樹脂強化用ランダムマットを得るためには、繊維の疎密斑が大きく影響する。従来のロータリーカッターでは、繊維のカットが不連続であり、そのまま塗布工程に導入した場合には、繊維目付けに斑ができてしまう。そのため、角度を規定したナイフを用いて繊維を途切れる事無く、連続的にカットする事により、疎密斑の小さい塗布が可能となる。強化繊維を連続的にカットするためのナイフ角度は、使用する強化繊維の幅と、カットした後の繊維長により幾何学的に計算され、それらの関係は、下記の式(3)とすることが好ましい。
強化繊維の繊維長(刃のピッチ)=強化繊維ストランド幅×tan(90−θ) (3)
ここで、θは周方向とナイフの配置方向のなす角である。
【0034】
[開繊工程]
本発明方法における開繊工程はカットされた強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付ける事により、繊維束を開繊させる工程である。開繊の度合いについては、空気の圧力等により適宜コントロールする事が出来る。
【0035】
本発明のランダムマット製造における強化繊維開繊方法は、空気を強化繊維に吹き付ける事を特徴としている。開繊工程において好ましくは圧縮空気吹き付け孔より、風速500〜1000m/secにて空気を直接繊維束に吹き付ける事により、より完全に強化繊維を開繊させる事ができる。具体的には強化繊維の通る管内にΦ1mm程度の孔を数箇所あけ、外側より0.2〜0.8MPa程度の圧力をかけ、圧縮空気を繊維束に直接吹き付けることにより、繊維束を容易に開繊する事ができる。
【0036】
[塗布工程]
本発明方法における塗布工程は開繊させた強化繊維を、拡散させると同時に、繊維状または粒子状の熱可塑性樹脂とともに吸引し、強化繊維と熱可塑性樹脂を同時に散布する塗布工程である。開繊させた強化繊維と、繊維状または粒子状の熱可塑性樹脂とを同時に、シート上、具体的には開繊装置下部に設けた通気性シート上に塗布する。
【0037】
塗布工程において、熱可塑性樹脂の供給量は、強化繊維100重量部に対し、50〜1000重量部であることが好ましい。より好ましくは、強化繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂100〜600重量部、更に好ましくは、強化繊維100重量部に対し、熱可塑性樹脂150〜300重量部である。
【0038】
ここで、強化繊維と、繊維状または粒子状の熱可塑性樹脂は2次元配向する様に散布することが好ましい。開繊した繊維を2次元配向させながら塗布するためには、塗布方法及び下記の定着方法が重要となる。強化繊維の塗布方法には、円錐形等のテーパ管を用いることが好ましい。円錐等の管内では、空気が拡散し、管内の流速が減速し、このとき強化繊維には回転力が与えられる。このベンチュリ効果を利用して開繊させた強化繊維を好ましく拡散させ散布することができる。
また下記の定着工程のためにも、吸引機構を持つ可動式の通気性シート上に散布することが好ましい。
【0039】
[定着工程]
本発明方法における定着工程は、塗布された強化繊維および熱可塑性樹脂を定着させる工程である。好ましくは通気性シート下部よりエアを吸引して繊維を定着させる。強化繊維と同時に散布された熱可塑性樹脂も混合されつつ、繊維状であればエア吸引により、粒子状であっても強化繊維に伴って定着される。
【0040】
通気性のシートを通して、下部より吸引する事により、2次元配向の高いマットを得る事ができる。又、発生する負圧を用いて粒子状、または短繊維状の熱可塑性樹脂を吸引し、更に、管内で発生する拡散流により、強化繊維と容易に混合する事ができる。得られる強化基材は、強化繊維の近傍に熱可塑性樹脂が存在する事により、含浸工程において、樹脂の移動距離が短く、比較的短時間で樹脂の含浸が可能となる。なお、予め、用いるマトリックス樹脂と同じ材質の通気性の不織布等を定着部にセットし、不織布上に強化繊維及び粒子を吹き付ける事も可能である。
【0041】
[繊維強化複合材料]
本発明のランダムマットをプリフォームとして熱成形することにより、強化繊維と、熱可塑性樹脂とからなる繊維強化複合材料を得ることができる。すなわち本発明はこれにより得られた繊維強化複合材料を包含する。ランダムマットを用いて成形することにより、熱可塑性のマトリックス樹脂を容易に含浸でき、表面品位に優れた繊維強化複合材料が提供できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
強化繊維束(A)のマットの繊維全量に対する割合の求め方は、以下の通りである。
ランダムマットを100mm×100mmに切り出し、厚み(Ta)と重量を測定する(Wa)。
切り出したマットより、繊維束をピンセットで全て取り出し、繊維束を太さ毎に分類する。本実施例では分類は、太さ0.2mm程度単位で分類した。
分類毎に、全ての繊維束の長さ(Li)と重量(Wi)、繊維束数(I)を測定し、記録する。ピンセットにて取り出す事ができない程度に繊維束が小さいものについては、まとめて最後に重量を測定する(Wk)。このとき、1/1000gまで測定可能な天秤を用いる。なお、特に強化繊維を炭素繊維とした場合や、繊維長が短い場合には、繊維束の重量が小さく、測定が困難になる。こういった場合には、分類した繊維束を複数本まとめて重量を測定する。
測定後、以下の計算を行う。使用している強化繊維の繊度(F)より、個々の繊維束の繊維本数(Ni)は次式により求められる。
Ni=Wi/(Li×F)。
強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は以下の式により求める。
N=ΣNi/I
また、個々の繊維束の体積(Vi)及び、強化繊維束(A)の繊維全体に対する割合(VR)は、使用した強化繊維の繊維比重(ρ)を用いて次式により求められる。
Vi=Wi/ρ
VR=ΣVi/Va×100
ここで、Vaは切り出したマットの体積であり、Va=100×100×Ta
なお、なお、既にコンポジット化されているものについては、500℃×1時間程度、炉内にて樹脂を除去した後、測定する事ができる。
【0043】
[実施例1]
強化繊維として、東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)STS40−24KS(平均繊維径7μm、繊維幅10mm)を使用した。カット装置には、超硬合金を用いて螺旋状ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用いた。このとき、下記式(3)
強化繊維の繊維長(刃のピッチ)=強化繊維ストランド幅×tan(90−θ) (3)
(ここで、θは周方向とナイフのなす角である。)
におけるθは45度であり、刃のピッチを10mmとし、強化繊維を繊維長10mmにカットするようにした。開繊装置として、径の異なるSUS304製のニップルを溶接し、二重管を製作した。内側の管に小孔を設け、外側の管との間にコンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。この時、小孔からの風速は、650m/secであった。この管をロータリーカッターの直下に配置し、さらに、その下部にはテーパ管を溶接した。テーパ管の側面より、マトリックス樹脂を供給し、このマトリックス樹脂として、帝人化成社製のポリカーボネート“パンライト”(登録商標)L−1225Lペレットを冷凍粉砕し、更に、20メッシュ、及び30メッシュにて分級したパウダー粒子を用いた。ポリカーボネートパウダーの平均粒径は約1mmであった。次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、強化繊維の供給量を180g/min、マトリックス樹脂の供給量を480g/min、にセットし、装置を稼動したところ、強化繊維と熱可塑性樹脂が混合された、厚み1mm程度のランダムマットを得た。得られたランダムマットの強化繊維の目付け量は、200g/mであった。
得られたランダムマットについて、強化繊維束(A)の割合と、平均繊維数(N)を調べたところ、式(1)で定義される臨界単糸数は86であり、強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合は18%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は450であった。
得られたランダムマットを300℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて5分間加熱し、t=0.6mmの成形板を得た。得られた成形板の繊維体積含有率は20%であり、表面に繊維の凹凸が無く、品位は良好であった。
【0044】
[実施例2]
強化繊維として、東邦テナックス社製の炭素繊維“テナックス”(登録商標)IMS60−12K(平均繊維径5μm、繊維幅6mm)を使用した。カット装置には、超硬合金を用いて螺旋状ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用いた。このとき、上記式(3)中のθは17度、刃のピッチを20mmとし、強化繊維を繊維長20mmにカットするようにした。開繊装置として、小孔を有した管を用意し、コンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。小孔からの風速は、750m/secとした。この管をロータリーカッターの直下に配置し、さらに、その下部にはテーパ管を溶接した。テーパ管の側面より、マトリックス樹脂を供給し、このマトリックス樹脂として、2mmにドライカットしたPA66繊維(旭化成せんい製 T5ナイロン 繊度1400dtex)を用いた。次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、強化繊維の供給量を1000g/min、マトリックス樹脂の供給量を3000g/min、にセットし、装置を稼動したところ、強化繊維とポリアミドが混合された厚み10mm程度のランダムマットを得た。強化繊維の目付け量1000g/mであった。
得られたランダムマットについて、強化繊維束(A)の割合と、平均繊維数(N)を調べたところ、式(1)で定義される臨界単糸数は120であり、強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合は12%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は650であった。
得られたランダムマットを280℃に加熱したプレス装置にて、2.5MPaにて3分間加熱し、t=3.2mmの成形板を得た。得られた成形板の繊維堆積含有率は17%であり、表面に繊維の凹凸が無く、品位は良好であった。
【0045】
[実施例3]
強化繊維として、日本電気硝子社製のガラス繊維EX−2500(平均繊維径15μm、繊維幅9mm)を使用した。カット装置には、超硬合金を用いて、繊維と90度方向の短い刃が斜めに配置された、分繊ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用いた。このとき、上記式(3)中のθは10度であり、刃のピッチを50mmとし、強化繊維を繊維長50mmにカットするようにした。開繊装置として、実施例1と同様の装置を用いた。コンプレッサーの圧力を上げる事により、小孔からの風速は、550m/secとした。この管をロータリーカッターの直下に配置し、さらに、その下部にはテーパ管を溶接した。テーパ管の側面より、マトリックス樹脂を供給し、このマトリックス樹脂として、帝人化成社製のポリカーボネート“パンライト”(登録商標)L−1225Lペレットを冷凍粉砕し、更に、30メッシュ、及び40メッシュにて分級したパウダー粒子を用いた。このとき、平均粒径は約0.5mmであった。次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、強化繊維の供給量を300g/min、マトリックス樹脂の供給量を600g/min、にセットし、装置を稼動したところ、強化繊維と熱可塑性樹脂が混合されたランダムマットを得た。強化繊維の目付け量300g/mであった。
このランダムマットを300℃に加熱したプレス装置にて、2.0MPaにて10分間加熱し、t=0.6mmの成形板を得た。得られたコンポジットの繊維堆積含有率は19%であり、表面に繊維の凹凸が無く、品位は良好であった。
得られたランダムマットについて、強化繊維束(A)の割合と、平均繊維数(N)を調べたところ、式(1)で定義される臨界単糸数は40であり、強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合は28%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は80であった。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、小孔からの風速を、300m/secとした以外は同様にランダムマットを作成した。
得られたランダムマットについて、強化繊維束(A)の割合と、平均繊維数(N)を調べたところ、式(1)で定義される臨界単糸数は86であり、強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合は35%、強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)は820であった。
得られたランダムマットは、強化繊維束が太く、このランダムマットを用いて実施例1と同様に成形板を作成したところ、成形板表面に繊維束の部分が凸になっている箇所が観察された。
【符号の説明】
【0047】
1.強化繊維
2.ピンチローラー
3.ゴムローラー
4.ロータリーカッター本体
5.刃
6.カットされた強化繊維
7.周方向と刃の配列のなす角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長10〜100mmの強化繊維と熱可塑性樹脂とから構成され、強化繊維が25〜3000g/mの目付けにて実質的に2次元ランダムに配向しており、式(1)で定義される臨界単糸数以上で構成される強化繊維束(A)について、マットの繊維全量に対する割合が0Vol%超30Vol%未満であり、かつ強化繊維束(A)中の平均繊維数(N)が下記式(2)を満たすことを特徴とするランダムマット。
臨界単糸数=600/D (1)
1.0×10/D<N<2.5×10/D (2)
(ここでDは強化繊維の平均繊維径(μm)である)
【請求項2】
強化繊維が炭素繊維、アラミド繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のランダムマット。
【請求項3】
ランダムマットにおける熱可塑性樹脂の存在量が、強化繊維100重量部に対し、50〜1000重量部である事を特徴とする請求項1または2に記載のランダムマット。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、繊維状および/または粒子状で存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のランダムマット。
【請求項5】
以下の工程1〜4を含む請求項1〜4のいずれかに記載のランダムマットの製造方法。
1.強化繊維をカットする工程、
2.カットされた強化繊維を管内に導入し、空気を繊維に吹き付ける事により、繊維束を開繊させる工程、
3.開繊させた強化繊維を拡散させると同時に、繊維状および/または粒子状の熱可塑性樹脂とともに吸引し、強化繊維と熱可塑性樹脂を同時に散布する塗布工程、
4.塗布された強化繊維および熱可塑性樹脂を定着させる工程。
【請求項6】
工程1に供する強化繊維はサイジング剤を強化繊維100重量部に対し、0超〜10重量部である事を特徴とする請求項5に記載のランダムマット製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158846(P2012−158846A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19889(P2011−19889)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】