説明

高感度なイムノクロマトグラフ方法及びイムノクロマトグラフ用キット

【課題】イムノクロマトグラフ方法でシグナルを増幅する際に偽陽性の発生を抑制することにより高感度かつ偽陽性のない検出を行うことができるイムノクロマトグラフ方法を提供すること。
【解決手段】被検物質と、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、の複合体を形成させた状態で、かかる複合体をタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下にて不溶性担体上に展開し;被検物質に対する第二の結合物質、又は被検物質に対する第一の結合物質への結合性を有する物質を含む不溶性担体上の検出部位において被検物質と標識物質を捕捉し;捕捉した標識物質を増幅して被検物質を検出することを含むイムノクロマトグラフ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識抗体を用いたイムノクロマトグラフ方法及びイムノクロマトグラフ用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
被検液中の特定成分を測定する方法として、抗原抗体反応を利用した免疫測定方法が数多く存在する。免疫測定方法では、測定したい特定成分に対する抗体又は抗原の非特異的な反応が問題となることが多い。従って、ブロッキング剤を使用して非特異的な反応を抑制する方法が通常用いられる。ブロッキング剤を用いた非特異反応抑制法としては、例えば、ELISAの場合は反応容器をブロッキング剤で処理すること、ラテックス凝集法の場合はラテックス粒子をブロッキング剤で処理することが行われる(特許文献1)。ブロッキング剤としてはウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す)、カゼイン、ゼラチンなどが用いられる。
【0003】
また、特許文献2には、EIAの系においてpH7.2の条件で100℃30分間熱処理を行ったカゼインを用いることにより非特異反応を抑制する担体を作製できることが記載されている。また、特許文献3には、プロテアーゼを用いて分子量約1,000〜26,000に分解したカゼインを、免疫測定を行う反応液中に添加することによって非特異反応を抑制することが開示されている。
【0004】
免疫測定方法の中でもイムノクロマトグラフ法は、操作が簡便であり短時間で測定可能であることから、一般的によく利用されている。イムノクロマトグラフ法で用いられている免疫反応としては、競合型反応又はサンドイッチ型反応が広く使われている。その中でも、イムノクロマトグラフ法ではサンドイッチ型反応が主流であり、その典型例においては、試料中の抗原よりなる被検物質を検出するために、以下のような操作が行われる。まず、被検物質である抗原に対する抗体により感作させた微粒子を固相微粒子としてクロマトグラフ担体に固定化することにより、あるいはこの抗体そのものをクロマトグラフ担体に直接固定化することにより、反応部位を有するクロマトグラフ担体を調製する。一方、標識微粒子に被検物質と特異的に結合可能な抗体を感作させて感作標識微粒子を調製する。この感作標識微粒子を試料と共に、クロマトグラフ担体上でクロマトグラフ的に移動させる。以上の操作により、クロマトグラフ担体に形成された反応部位において、固定化された抗体が固定化試薬となり、これに被検物質である抗原を介して感作標識微粒子特異的に結合し、その結果、感作標識微粒子が反応部位に捕捉されることにより生ずるシグナルの有無または程度を目視で判定することにより、試料中の被検物質の存在の有無または量を測定することができる。また、イムノクロマトグラフ法では、非特異吸着を抑制するために検体希釈液にタンパク質などのブロッキング剤を添加することが一般的に行われている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−313766号公報
【特許文献2】特開平6−194366号公報
【特許文献3】特開平2−36353号公報
【特許文献4】特表2004−503248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イムノクロマトグラフ法の中には、感度が低いために被検物質である抗原が検出されない(偽陰性)問題を回避するために、検出シグナルを増幅させる方法が行われる場合がある。シグナル増幅の方法として、標識としてアルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素を用いる場合があるが、金属コロイド標識及び金属硫化物標識からなる群から選んだ標識に銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を用いて増感すること(銀増幅)によって検出を行う場合もある。しかしこれらの増幅法を用いた場合、検出部位に非特異的に吸着した標識が増感されると、被検物質である抗原が存在しないのにシグナルが検出される(偽陽性)問題が発生することがある。特にシグナルの増幅を行うイムノクロマトグラフ法では、従来問題とならなかったような少量の非特異吸着でも偽陽性の問題を引き起こしてしまう。
【0007】
またイムノクロマトグラフ法では、非特異吸着を抑制するために検体希釈液にタンパク質などのブロッキング剤を添加することが一般的に行われている(特許文献4)が、このような少量の非特異吸着に対して効果のあるものは無かった。
【0008】
また、特に銀増幅を用いたイムノクロマトグラフ法においては、金属コロイド標識物質及び金属硫化物標識物質を使用したイムノクロマトグラフ用ストリップに検体を滴下し展開させた後、(1)還元剤溶液を展開させ、(2)銀含有溶液(銀増幅液)を滴下する必要がある。銀増幅液は銀イオンの安定性、および増幅活性を考えると、通常酸性が適している。それに対しタンパク質は、酸性条件で析出してしまうものが多いため、銀増幅液にタンパク質を添加すると、析出してしまう。従って、検体希釈液にタンパク質を添加した場合、酸性条件下ではメンブレン中で凝集し所々で液の流れを妨げるので、増幅後にムラとなってしまう。増幅ムラは、検出部位の発色と区別がつかないことがあるので、偽陽性となってしまうこともあり、大きな問題であった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、イムノクロマトグラフ方法でシグナルを増幅する際に偽陽性の発生を抑制することにより高感度かつ偽陽性の低減された検出を行うことができるイムノクロマトグラフ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カゼイン等のタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下において免疫反応を行うことにより、標識の非特異吸着を抑制し、増幅後の擬陽性を抑制できることを見出した。
【0011】
本発明によれば、被検物質と、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、の複合体を形成させた状態で、かかる複合体をタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下にて不溶性担体上に展開し;かかる被検物質に対する第二の結合物質、又は被検物質に対する第一の結合物質への結合性を有する物質を含む不溶性担体上の検出部位において被検物質と標識物質を捕捉し;捕捉した標識物質を増幅して被検物質を検出することを含むイムノクロマトグラフ方法が提供される。
【0012】
好ましくは、タンパク質のプロテアーゼ分解物の分子量の範囲が0.1kD〜15kDである。
好ましくは、タンパク質のプロテアーゼ分解物は、酸性条件下で不溶成分としての析出物が存在しない分解物である。
好ましくは、タンパク質のプロテアーゼ分解物は、タンパク質のプロテアーゼ分解物に酸を添加してpHを4以下とし、析出した析出物を除去することにより得られるタンパク質分解物である。
好ましくは、タンパク質のプロテアーゼ分解物が、カゼインのプロテアーゼ分解物である。
【0013】
好ましくは、タンパク質として用いられるカゼインが、αS1カゼイン、αS2カゼイン、βカゼイン、又はκカゼインから選ばれる1以上のカゼインである。
好ましくは、カゼインのプロテアーゼ分解物に、αS1カゼイン由来ペプチド配列(YLGYLEQLLR、FFVAPFPEVFGK、HQGLPQEVLNNLLR)、αS2カゼイン由来ペプチド配列(FALPQYLK)、βカゼイン由来ペプチド配列(AVPYPQR、YPVEPFTER)、κカゼイン由来ペプチド配列(YIPIQYVLSR)の少なくとも1以上が含まれる。
【0014】
好ましくは、不溶性担体が多孔性担体である。
好ましくは、金属を含む標識物質が、金属コロイドである。
好ましくは、金属コロイドが金コロイドである。
好ましくは、第一の結合物質及び第二の結合物質の少なくともいずれか一方が抗体である。
【0015】
好ましくは、捕捉した標識物質を増幅する工程を、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を含む増幅液を用いて行う。
好ましくは、被検物質と、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、の複合体を形成させた状態で、かかる複合体をタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下にて不溶性担体上に展開した後に、洗浄液を不溶性担体上に展開し、その後、捕捉した標識物質を増幅する。
好ましくは、検出時に平均粒子サイズが1μm以上20μm以下のサイズを有する標識物質を検出する。
或いは、本発明によれば、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、被検物質に対する第二の結合物質、又は被検物質に対する第一の結合物質への結合性を有する物質を含んだ不溶性担体と、タンパク質のプロテアーゼ分解物と、を具えるイムノクロマトグラフ用キットが提供される。
好ましくは、第一の結合物質及び第二の結合物質の少なくともいずれか一方が抗体であり、更に銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を含む増幅液を具える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イムノクロマト方法の増幅において増幅後の偽陽性を抑制することができ、明瞭かつ高感度な測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、第1の不溶性担体(イムノクロマトグラフ用ストリップ)の一態様を模式的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1で示された第1の不溶性担体(イムノクロマトグラフ用ストリップ)の一態様の縦断面を示す模式図である。 図1及び図2において、1はバック粘着シート、2は標識物質保持パッド、3はクロマトグラフ担体(抗体固定化メンブレン)、3aは捕捉部位、31は検出部位、32はコントロール部位、4は吸収パッド、5は試料添加パッド、10はイムノクロマトグラフ用ストリップ、を示す。被検物質を含有する被検試料がクロマトグラフ担体上を展開する方向を、矢印Aで示す。本発明においては、矢印Aの根元方向を上流、矢印Aの先端方向を下流と定義する。
【図3】図3は、本発明で用いることができるイムノクロマトグラフキットの一態様を模式的に示す。51は図1及び図2で示した第1の不溶性担体(イムノクロマトグラフ用ストリップ)、52は液体貯蔵ポッド、53は第2の不溶性担体(洗浄液添加パッド)、54は第3の不溶性担体、55は第1のデバイス部品、56は第2のデバイス部品、57は点着孔を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明のイムノクロマトグラフ方法においては、
被検物質と、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、の複合体を形成させた状態で、かかる複合体をタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下にて不溶性担体上に展開する。
【0019】
前記複合体をタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下で不溶性担体上において展開する方法としては、被検物質を含む被検試料を流した際にタンパク質のプロテアーゼ分解物が被検物質を含む被検試料と共に流れる方法であればよい。使用態様としては、被検物質を含む被検試料とタンパク質のプロテアーゼ分解物を含む溶液を不溶性担体上において展開させる方法などが挙げられる。
【0020】
タンパク質のプロテアーゼ分解物の分子量の範囲は、好ましくは0.1kD〜15kDであり、特に好ましくは1kD〜15kDである。タンパク質のプロテアーゼ分解物の分子量およびその含有率の測定方法としては、当業界でよく用いられるゲル電気泳動法によりタンパク質を分子量により分離し、染色液で染色し、その染色されたバンドを撮像し、濃度の積分値を求める方法等で、測定することができる。本発明における、タンパク質のプロテアーゼ分解物の分子量の範囲とは、上記のような方法で分子量及び含有率を求め、総タンパク量のうち50%以上を含むような分子量の範囲のことをいう。
【0021】
タンパク質のプロテアーゼ分解物を用いた場合、分子量が小さくなっていることにより酸性条件でも析出しにくくなっているが、生じる析出物が増幅後のムラの原因となる可能性がある。本発明では、タンパク質分解物中に含まれる、酸性条件下での不溶成分を予め除去しておくことが好ましい。即ち、本発明で用いるタンパク質のプロテアーゼ分解物としては、酸性条件下で不溶成分を実質的に析出しない分解物であることが好ましい。更に好ましくは、20℃pH4の水溶液で1g/5mlの濃度で不溶成分を析出しないような分解物である。例えば、タンパク質のプロテアーゼ分解物に酸を添加してpHを4以下とし、析出物を除去することにより得られる酸不溶物を除去したタンパク質分解物を、タンパク質のプロテアーゼ分解物として使用することができる。析出物除去としては、デカンテーション、超遠心、フィルターろ過等の方法を選択することができる。
【0022】
タンパク質の種類は本発明の効果を達成するためには、カゼイン、ゼラチン、牛血清アルブミンなどが好ましく用いられ、更に好ましくはカゼインを用いることができる。
【0023】
本発明で用いるカゼインの種類は、好ましくは、αS1カゼイン、αS2カゼイン、βカゼイン、又はκカゼインから選ばれる1以上のカゼインを用いることができる。
【0024】
本発明で用いるカゼインのプロテアーゼ分解物としては、例えば、αS1カゼイン由来ペプチド配列(YLGYLEQLLR、FFVAPFPEVFGK、HQGLPQEVLNNLLR)、αS2カゼイン由来ペプチド配列(FALPQYLK)、βカゼイン由来ペプチド配列(AVPYPQR、YPVEPFTER)、κカゼイン由来ペプチド配列(YIPIQYVLSR)の少なくとも1つが含まれるものを使用することができる。
【0025】
1.クロマトグラフ
一般に、クロマトグラフ方法とは以下のような手法で被検物質を簡便・迅速・特異的に判定・測定する手法である。すなわち、被検物質と結合可能な第二の結合物質である固定化試薬(抗体、抗原等)を含む少なくとも1つの反応部位を有するクロマトグラフ担体(不溶性担体)を固定相として用いる。このクロマトグラフ担体上で、被検物質と結合可能な第一の結合物質である試薬によって修飾された標識物質が分散されてなる分散液を移動層としてクロマトグラフ担体中をクロマトグラフ的に移動させると共に、被検物質と標識物質とが特異的に結合しながら、反応部位まで到達する。反応部位において、被検物質と標識物質の複合体が固定化試薬に特異的結合することにより、被検試料中に被検物質が存在する場合にのみ、固定化試薬部位に標識物質が濃縮されることを利用し、それらを目視または適当な機器を用いて被検試料中に被検物質が存在することを定性および定量的に分析する手法である。
【0026】
本発明におけるクロマトグラフ方法を行うキットや装置は、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を内蔵していることが好ましく、固定化試薬に結合した被検物質と標識物質の複合体を核として増幅反応によって、シグナルを増幅し、結果として高感度化を達成することができる。本発明によれば、迅速な高感度クロマトグラフを行うことができる。
【0027】
2.被検試料
本発明のクロマトグラフ方法で分析することのできる被検試料としては、被検物質を含む可能性のある試料である限り、特に限定されるものではなく、例えば、生物学的試料、特には動物(特にヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、又は喀痰)若しくは排泄物(例えば、糞便)、臓器、組織、粘膜や皮膚、それらを含むと考えられる擦過検体(スワブ)、うがい液、又は動植物それ自体若しくはそれらの乾燥体を挙げることができる。
【0028】
3.被検試料の前処理
本発明のクロマトグラフ方法では、被検試料をそのままで、あるいは、被検試料を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる抽出液の形で、更には、抽出液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形、若しくは抽出液を適当な方法で濃縮した形で、用いることができる。抽出用溶媒としては、通常の免疫学的分析法で用いられる溶媒(例えば、水、生理食塩液、又は緩衝液等)、あるいは、溶媒で希釈することにより直接抗原抗体反応を実施することができる水混和性有機溶媒を用いることもできる。
【0029】
4.構成
本発明のクロマトグラフ方法において使用することのできるクロマトグラフ用ストリップとしては、例えば、図1、図2に示したように、被検試料を展開する方向(図1のAの矢印の方向)に沿って、試料添加パッド、標識物質保持パッド(例えば金コロイド抗体保持パッド)、クロマトグラフ担体(不溶性担体、例えば抗体固定化メンブレン)、及び吸収パッドがこの順に、バック粘着シート上に配置することができる。クロマトグラフ担体は、捕捉部位を有し、分析対象物と特異的に結合する抗体又は抗原を固定化した領域である検出部位(検出ゾーンと記載することもある)を有し、所望により、コントロール用抗体又は抗原を固定化した領域であるコントロール部位(コントロールゾーンと記載することもある)を更に有することができる。標識物質保持パッドは、標識物質を含む懸濁液を調製し、その懸濁液を適当な吸収パッド(例えば、グラスファイバーパッド)に塗布した後、それを乾燥することにより調製することができる。試料添加パッドとしては、本発明においてはグラスファイバーパッドを好ましく用いることができる。
【0030】
4−1.標識物質
本発明で用いる標識物質としては、被検物質(抗原)と特異的に結合する第一の結合物質を標識するのに用いる標識として、金属を含む標識物質を用いることができる。本発明で用いることができる金属の種類としては、好ましくは、金、銀、白金の貴金属や、鉄、鉛、銅、カドミウム、ビスマス、アンチモン、錫、又は水銀を用いることができ、更に好ましくは金、銀、白金の貴金属を用いることができる。本発明において使用できる金属を含む標識物質の好ましい形態としては、金属コロイド標識又は金属硫化物標識を用いることができる。本発明においては、金属コロイド標識としては、好ましくは、白金コロイド、金コロイド、銀コロイド、鉄コロイド、又は水酸化アルミニウムコロイドなどを用いることができ、金属硫化物標識としては、好ましくは、鉄、銀、鉛、銅、カドミウム、ビスマス、アンチモン、錫、又は水銀の各硫化物を用いることができる。本発明においては更に好ましくは、白金コロイド、金コロイド、銀コロイド、を用いることができる。本発明のイムノクロマト法においては、これらの金属コロイド標識及び/又は金属硫化物標識の1又はそれ以上を標識として用いることができる。金属コロイドと特異結合物質との結合は、従来公知の方法(例えばThe Journal of Histochemistry and Cytochemistry, Vol.30,No.7,pp691-696,(1982))に従い行うことができる。
【0031】
4−2.結合物質
本発明では、標識物質は、被検物質に対する第一の結合物質で修飾されている。第一の結合物質とは、例えば被検物質(抗原)に対する抗体、被検物質(抗体)に対する抗原、被検物質(たんぱく質、低分子化合物等)に対するアプタマーなど、被検物質に対して親和性を持つ化合物などを使用することができる。
【0032】
本発明では、不溶性担体は、(a)被検物質に対する第二の結合物質、又は(b)第一の結合物質への結合性を有する物質を有している。被検物質に対する第二の結合物質とは、例えば被検物質(抗原)に対する抗体、被検物質(抗体)に対する抗原、被検物質(たんぱく質、低分子化合物等)に対するアプタマーなど、被検物質に対して親和性を持つ化合物を使用することができる。また、第二の結合物質と第一の結合物質とは異なるものでも、同一のものでも使用することができる。被検物質に対する第一の結合物質への結合性を有する物質とは、被検物質そのものでもよく、第一の結合物質が認識する部位を持つ化合物でもよく、たとえば被検物質の誘導体とタンパク質(例えばBSAなど)とを結合させたような化合物などがそれにあたる。
【0033】
本発明においては、好ましくは、第一の結合物質、及び第二の結合物質の少なくともいずれか一方が抗体である。本発明のイムノクロマトグラフ方法においては、被検物質に対して特異性を有する抗体として、その被検物質によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、その分析対象物によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、又はFv]を好ましく用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行うことができる。
【0034】
4−3.クロマトグラフ担体(抗体固定化メンブレン)
クロマトグラフ担体としては不溶性担体が使用でき、その中でも多孔性担体が好ましい。特に、ニトロセルロース膜、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等を好ましく使用することができる。
【0035】
通常、クロマトグラフ担体の一部に固定化試薬を固定化させて検出部位を作製する。固定化試薬は、クロマトグラフ担体の一部に物理的または化学的結合により直接固定化させてもよいし、固定化試薬をラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子をクロマトグラフ担体の一部にトラップさせて固定化させてもよい。なお、クロマトグラフ担体は、固定化試薬を固定化後、不活性蛋白による処理等により非特異的吸着防止処理をして用いるのが好ましい。
【0036】
4−4.試料添加パッド
試料添加パッドの材質は、セルロース濾紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、及び綿布等の均一な特性を有するものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。試料添加部は、添加された被検物質を含む被検試料を受入れるだけでなく、試料中の不溶物粒子等を濾過する機能をも兼ねる。また、分析の際、試料中の被検物質が被検試料添加部の材質に非特異的に吸着し、分析の精度を低下させることを防止するため、試料添加部を構成する材質は、予め非特異的吸着防止処理して用いることもある。
【0037】
4−5.標識物質保持パッド
標識物質保持パッドの素材としては、例えば、セルロース濾紙、グラスファイバー、及び不織布等が挙げられ、前述のように調製した標識物質を一定量含浸し、乾燥させて作製する。
【0038】
4−6.吸収パッド
吸収パッドは、添加された試料がクロマト移動により物理的に吸収されると共に、クロマトグラフ担体の検出部に不溶化されない未反応標識物質等を吸収除去する部位であり、セルロ−ス濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等吸水性材料が用いられる。添加された試料のクロマト先端部が吸収部に届いてからのクロマトの速度は、吸収材の材質、大きさなどにより異なるので、その選定により被検物質の測定に合った速度を設定することができる。
【0039】
5.免疫検査の方法
以下、本発明のクロマトグラフ方法について、その具体的な実施態様であるサンドイッチ法について説明する。
【0040】
サンドイッチ法では、特に限定されるものではないが、例えば、以下の手順により被検物質の分析を実施することができる。まず、被検物質(抗原)に対して特異性を有する第1抗体及び第2抗体を、先に4−2において述べた方法により予め調製しておく。また、第1抗体を、4−1、あるいは4−2で述べた方法を用いて、予め標識化しておく。第2抗体を、適当な第一の不溶性担体(例えば、ニトロセルロ−ス膜、ガラス繊維膜、ナイロン膜、又はセルロ−ス膜等)上に固定し、被検物質(抗原)を含む可能性のある被検試料(又はその抽出液)と接触させると、その被検試料中に被検物質が存在する場合には、抗原抗体反応が起きる。この抗原抗体反応は、通常の抗原抗体反応と同様に行なうことができる。抗原抗体反応と同時又は反応後に、過剰量の標識化第1抗体を更に接触させると、被検試料中に被検物質が存在する場合には、固定化第2抗体と被検物質(抗原)と標識化第1抗体とからなる免疫複合体が形成される。
【0041】
サンドイッチ法では、固定化第2抗体と被検物質(抗原)と第1抗体との反応が終了した後、免疫複合体を形成しなかった標識化第1抗体を除去し、続いて、第1の不溶性担体における固定化第2抗体を固定した領域について第一の光学濃度測定を行うことによって標識物を定量し、被検試料中の被検物質の量を測定することができる。次いで、金属イオン及び還元剤を供給することにより、免疫複合体を形成した標識化第1抗体の標識からの信号を増幅した後に、第二の光学濃度測定を行うことによって、増幅後の標識物質を定量し、被検試料中の被検物質の量を測定することができる。
【0042】
6.洗浄
本発明においては、被検物質と、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、の複合体を形成させた状態で、タンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下にて不溶性担体上に展開した後に、洗浄液を不溶性担体上に展開し、その後、捕捉した標識物質を増幅してもよい。
【0043】
(洗浄液)
免疫複合体を形成しなかった標識物質を除去するための洗浄液は、洗浄の機能があればどんなものでもよい。
【0044】
洗浄液は特異的な結合反応以外でクロマトグラフ担体内に残存している、つまり非特異的に残存している標識物質を洗浄するための液体であれば特に限定されるものではなく、単なる水やエタノールなどの溶剤単独でも良いし、例えば1質量%BSA入りのPBSバッファーや界面活性剤等の溶液等を用いることができる。また、洗浄液として、後述する銀イオンを含む液体、銀イオンの還元剤を含む液体を用いることもできる。なお、洗浄液は展開途中に非特異的に残存した標識物質を洗浄しながら展開するので標識物質を含みながら展開されることになるが、展開される前の洗浄液は洗浄効果を高めるために、標識物質を含んでいない液を用いる。なお、洗浄効果を上げる為にそのpHを調整したり、界面活性剤成分やBSAなどのタンパク質、ポリエチレングリコールなどの高分子化合物を加えたりした洗浄液を用いてもよい。
【0045】
(洗浄液の展開、その方向)
洗浄液は、検体液を展開した後に、クロマトグラフ用ストリップに添加しクロマトグラフ用ストリップに残存する抗原抗体反応で結合した以外の標識物質を洗浄する。洗浄液の送液方法としては、検体液を展開した後にそのまま試料滴下部に添加する方法や、予めストリップに洗浄液送液の為の洗浄液添加パッド、吸水パッドを付着させておき、その洗浄液添加パッドに添加し吸水パッド方向へ送液する方法、予めストリップに洗浄液の添加部位を備えておき、検体液の展開後にその洗浄液の添加部位に洗浄液を添加する方法、などがあるが、より好ましくは、検体液をストリップに展開した後に洗浄液送液の為の洗浄液添加パッド、吸水パッドをストリップに付着させ、洗浄液添加パットに洗浄液を供給し、洗浄液を展開させる方法である。洗浄液添加パッドに洗浄液を供給する方法としては、洗浄液の入ったポットに洗浄液添加パッドを挿入してもいいし、洗浄液添加パッドに洗浄液を滴下しても良い。
【0046】
本明細書中では、被検物質の液の展開方向とは、試料添加パッドと吸収パッドとを結ぶ方向と定義し、洗浄液の展開方向とは、洗浄液送液の為の洗浄液添加パッドと吸水パッドとを結ぶ方向と定義する。
【0047】
被検物質の液の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角が45度から170度の場合、洗浄効果が大きくなる。さらに、被検験物質の液の展開方向と洗浄液の展開方向との成す角は、好ましくは60度から170度、さらに好ましくは60度から150度である。
【0048】
洗浄液添加パッド(第2の不溶性担体とも標記する)は、本発明においては、グラスファイバーパッドやセルロースメンブレン、ニトロセルロースメンブレンなどを用いることができる。
吸水パッド(第3の不溶性担体とも標記する)は、本発明においては、セルロース、ニトロセルロース、グラスファイバー、それらの混合体などを用いることができる。
【0049】
7.増幅液
増幅液は、含まれる薬剤が標識物質や被検物質の作用により、触媒的に反応することで、着色した化合物や発光などを生じ、シグナルの増幅を起こすことができる溶液である。例えば、金属標識上で、物理現像により金属銀の析出を起こす銀イオン溶液や、ペルオキシダーゼ標識と過酸化水素の作用により色素となる、フェニレンジアミン化合物とナフトール化合物の溶液などが挙げられる。
【0050】
詳細には、写真化学の分野での一般書物(例えば、「改訂写真工学の基礎-銀塩写真編-」(日本写真学会編、コロナ社)、「写真の化学」(笹井明、写真工業出版社)、「最新処方ハンドブック」(菊池真一他、アミコ出版社))に記載されているような、いわゆる現像液を用いることができ、液中に銀イオンを含み、液中の銀イオンが現像の核となるような金属コロイド等を中心に還元される、いわゆる物理現像液であれば、特に限定されることなく増幅液として用いることができる。
【0051】
増幅液の具体例としては、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を含む増幅液を用いることができる。本発明における増幅液の調製は、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を共に含有する1つの増幅液として調製して用いることができるが、本発明の好ましい態様として、銀を含む化合物を含む増幅液と、銀イオンのための還元剤を含む増幅液とを、別々に調製して用いることが好ましい。以下、銀を含む化合物と銀イオンのための還元剤等について説明する。
【0052】
(銀(イオン)を含む化合物)
銀(イオン)含有化合物としては、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物であり、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。
【0053】
有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として一般に0.001モル/m2〜0.2モル/m2、好ましくは0.01モル/m2〜0.05モル/m2含有されることが好ましい。
【0054】
(銀イオンのための還元剤)
銀イオンのための還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。
無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やEDTAを用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本系ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはFe2+の金属塩が好ましい。
【0055】
なお、湿式のハロゲン化銀写真感光材料に用いられる現像主薬(例えばメチル没食子酸塩、ヒドロキノン、置換ヒドロキノン、3−ピラゾリドン類、p−アミノフェノール類、p−フェニレンジアミン類、ヒンダードフェノール類、アミドキシム類、アジン類、カテコール類、ピロガロール類、アスコルビン酸(またはその誘導体)、およびロイコ色素類)、および本分野での技術に熟練しているものにとって明らかなその他の材料、例えば米国特許第6,020,117号に記載されている材料も用いることができる。
【0056】
還元剤としては、アスコルビン酸還元剤も好ましい。有用なアスコルビン酸還元剤は、アスコルビン酸と類似物、異性体とその誘導体を含み、例えば、D−またはL−アスコルビン酸とその糖誘導体(例えばγ−ラクトアスコルビン酸、グルコアスコルビン酸、フコアスコルビン酸、グルコヘプトアスコルビン酸、マルトアスコルビン酸)、アスコルビン酸のナトリウム塩、アスコルビン酸のカリウム塩、イソアスコルビン酸(またはL−エリスロアスコルビン酸)、その塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩または当技術分野において知られている塩)、エンジオールタイプのアスコルビン酸、エナミノールタイプのアスコルビン酸、チオエノ−ルタイプのアスコルビン酸等を好ましく挙げることができ、特にはD、LまたはD,L−アスコルビン酸(そして、そのアルカリ金属塩)若しくはイソアスコルビン酸(またはそのアルカリ金属塩)が好ましく、ナトリウム塩が好ましい塩である。必要に応じてこれらの還元剤の混合物を用いることができる。
【0057】
8.その他の助剤
増幅液のその他の助剤としては、緩衝剤、防腐剤、例えば酸化防止剤または有機安定剤、速度調節剤を含む場合がある。緩衝剤としては、例えば、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウムまたはこれらのどれかの塩、またはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いた緩衝剤、その他一般的化学実験に用いられる緩衝剤を用いることができる。これら緩衝剤を適宜用いて、その増幅液に最適なpHに調整することができる。また、カブリ防止剤としてアルキルアミンを添加剤として用いることができ、特に好ましくはドデシルアミンである。またこれら添加剤の溶解性向上のため、界面活性剤を用いることができ、特に好ましくはC919-C64-O-(CH2CH2O)50Hである。
【0058】
9.イムノクロマトグラフ用キット
本発明のイムノクロマトグラフ方法は、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、被検物質に対する第二の結合物質、又は被検物質に対する第一の結合性を有する物質を含んだ不溶性担体と、タンパク質のプロテアーゼ分解物、とを具えたイムノクロマトグラフ用キットを用いて実施することができる。その場合、イムノクロマトグラフ用キットは、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質及びタンパク質のプロテアーゼ分解物を予め不溶性担体上に具えているものでもよい。あるいは、被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質及びタンパク質のプロテアーゼ分解物の少なくとも1つを不溶性担体とは別に具えているものでもよい。この場合、不溶性担体とは別に具えられた物質を被検試料と混合した後に不溶性担体上を展開するなどの方法で測定を行うことができる。更に、本発明のイムノクロマトグラフ用キットは、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を含む増幅液を具えることもできる。イムノクロマトグラフ用キットを構成する各素材の例、好ましい範囲は、イムノクロマトグラフ方法等で記載した例、範囲を好ましく用いることができる。
【0059】
10.検出時の平均粒子サイズの算出方法
検出時(増幅後)、テストライン部を切り出し、試料裏面をカーボンペーストで試料台に取り付けた後、断面を切り、カーボン蒸着し、走査型電子顕微鏡にて、形状と大きさを観察する。例えば、日立ハイテクノロジーズ製FE-STEM S-5500で、加速電圧10KVで反射電子による試料表面の観察をSEMで行う事ができる。その後、シグナル粒子を100粒子選び、粒子の投影面積の円相当直径を測定し、平均値を算出し、検出時の平均粒子サイズとする。
【0060】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
(1)インフルエンザA型検出イムノクロマトキットの作製
(1-1)抗インフルエンザA型抗体修飾金コロイドの作製
(1-1-1)F(ab’)2断片化抗インフルエンザA型ウイルス抗体の作製
抗インフルエンザA型ウイルス抗体(品番7307、メディックスバイオケミカ社)を使用し、ImmunoPureIgG1 Fab and F(ab')2 Preparation Kit(品番 44880、ピアース社)を用いて作製した。
【0062】
(1-1-2)抗インフルエンザA型断片化抗体修飾金コロイドの作製
直径50 nm金コロイド溶液(EM.GC50、BBI社)9 mLに50 mM KH2PO4バッファー(pH 7.5)1mLを加えてpHを調整した金コロイド溶液に、濃度が160 μg / mLである(1-1-1)で作成したF(ab’)2断片化抗インフルエンザA型ウイルス抗体溶液1 mLを加え攪拌した。10分間静置した後、1質量%ポリエチレングリコール(PEG Mw.20000、品番168-11285、和光純薬)水溶液を550 μL加え攪拌し、続いて10質量%牛血清アルブミン(BSA FractionV、品番A-7906、SIGMA)水溶液を1.1 mL加え攪拌した。この溶液を8000×g、4 ℃の条件で、30分間遠心(himacCF16RX、日立)した後、1 mL程度を残して上清を取り除き、超音波洗浄機により金コロイドを再分散した。この後、20 mLの金コロイド保存液(20 mM Tris-HClバッファー(pH 8.2), 0.05質量% PEG(Mw.20000), 150 mM NaCl, 1質量% BSA, 0.1質量% NaN3)に分散し、再び8000×g、4℃の条件で、30分間遠心した後、1 mL程度を残して上清を取り除き、超音波洗浄機により金コロイドを再分散し、抗体修飾金コロイド(50 nm)溶液を得た。
【0063】
(1-2)金コロイド抗体保持パッド(標識物質保持パッド)の作製
(1-1)で作成したインフルエンザA型抗体修飾金コロイドを、金コロイド塗布液(20 mM Tris-HClバッファー(pH 8.2), 0.05質量% PEG(Mw.20000), 5質量% スクロース)及び水により希釈し、520 nmの光学濃度(OD)が3.0となるように希釈した。この溶液を、8 mm×150 mmに切ったグラスファイバーパッド(Glass Fiber Conjugate Pad、ミリポア社)に対して1枚あたり0.8 mLずつ均一に塗布し、12時間減圧乾燥し、金コロイド抗体保持パッドを得た。
【0064】
(1-3)抗体固定化メンブレン(クロマトグラフ担体)の作製
25 mm×200 mmに切断したニトロセルロースメンブレン(プラスチックの裏打ちあり、HiFlow Plus HF120、ミリポア社)に関し以下のような方法により抗体を固定し抗体固定化メンブレンを作成した。メンブレンを横長に設置し、200mmの長辺から10 mmの位置に、1.5 mg / mLとなるように調製した抗インフルエンザA型ウイルス抗体(品番7307、メディックスバイオケミカ社)溶液をインクジェット方式の塗布機(BioDot社)を用いて幅0.7mm程度のライン状に塗布し、検出部位とした。さらに同様に、200mmの長辺から16mmの位置(検出部位から6mmの位置)に、0.5 mg / mLとなるように調製したコントロール用抗マウスIgG抗体(抗マウスIgG(H+L),ウサギF(ab')2, 品番566-70621、和光純薬)溶液をライン状に塗布し、コントロール部位とした。塗布したメンブレンは、温風式乾燥機で50℃、30分間乾燥した。ブロッキング液(0.5質量%カゼイン(乳由来、品番030-01505、和光純薬)含有50 mMホウ酸バッファー(pH 8.5))500 mLをバットに入れ、乾燥が終了したニトロセルロースメンブレンを浸した状態で、そのまま30分間静置した。その後、同様のバットに入れた洗浄・安定化液(0.5質量%スクロースおよび0.05質量%コール酸ナトリウムを含む50 mM Tris-HCl(pH 7.5)バッファー)500 mLにメンブレンを移して浸し、そのまま30分間静置した。その後、メンブレンを液から取り出し、室温で12時間乾燥し、抗体固定化メンブレンを作製した。
【0065】
(1-4)イムノクロマトグラフ用ストリップの作製
バック粘着シート(ARcare9020、ニップンテクノクラスタ社)に、(1-3)で作成した抗体固定化メンブレンを貼り付け、25mm×200mmのメンブレンが横長となるように設置した。設置したメンブレンのコントロール部位に対して検出部位側に相当するメンブレンの長辺の端の部分と約2 mm重なるように1-2で作成した金コロイド抗体保持パッド(標識物質保持パッド)を横長に貼り付けた。更に、金コロイド抗体保持パッドと約4 mm重なるようにしてメンブレンとは反対側の離れる位置に試料添加パッド(18 mm×250 mmに切ったグラスファイバーパッド(GlassFiber Conjugate Pad、ミリポア社))を横長に重ねて貼り付けた。次に、金コロイド抗体保持パッドとは反対側の抗体固定化メンブレンの端に、メンブレンと約5 mm重なるように吸収パッド(20 mm×250 mmに切ったセルロース・グラス膜(CF6、ワットマン社))を横長に重ねて貼り付けた。
【0066】
これら重ね張り合わせた部材(イムノクロマト本体部材)を、検出部位、及びコントロール部位と直交する方向に7 mm幅になるように短辺に平行にギロチン式カッター(CM4000、ニップンテクノクラスタ社)切断していくことで、複数の7 mm×60 mmのイムノクロマトグラフ用ストリップを、図1、及び図2に模式的に示したように作製した。これらを試験用イムノクロマトキットとした。
【0067】
(1-5)洗浄液
以下(1-6)に述べる増幅液A-1を用いた。
【0068】
(1-6)銀増幅液の作製
(1-6-1)増幅液A-1(銀イオンのための還元剤成分を含む溶液)の作製
水325gに、硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬、095-00995)を水に溶解して作成した1mol/Lの硝酸鉄水溶液40mL、クエン酸(和光純薬、038-06925)10.5g、ドデシルアミン(和光純薬、123-00246)0.1g、界面活性剤C919-C64-O-(CH2CH2O)50H 0.44gを溶解させる。全て溶解したら、スターラーで攪拌しながら硝酸(10質量%,)を40mL加える。この溶液80mLを測りとり、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(和光純薬、091-00855)を11.76g加えこれを増幅液A-1とした。
【0069】
(1-6-2)増幅液A-2(銀(イオン)を含む化合物を含む溶液)の作製
硝酸銀溶液10mL(10gの硝酸銀を含む)に水を加えて全体量が100gとなるようにし、増幅液A-2(10質量%硝酸銀水溶液)を作製した。
【0070】
(1-7)カゼイン分解物
(1-7-1)カゼイン分解物の作製
5質量%カゼイン溶液(αS1カゼイン、αS2カゼイン、βカゼイン、κカゼインのうち1種以上を含む)1 Lをスターラーで攪拌させておき、純水84.2 mLを加える。そこに、リシルエンドペプチダーゼ(R)(和光純薬、生化学用、125-02543)を溶解バッファー(0.1 M リン酸Na, 2 mM EDTA・2Na, pH 7.8)で0.05AU/mLとなるように溶解させたものを10mL加える。これを37℃の恒温槽で10日間静置し、カゼイン分解物として用いた。
【0071】
カゼイン分解物30uLに対し、NuPAGE LDS サンプルバッファー(4×)(Life Technologies社)を10uL入れた。70℃、10分間加熱処理しこれをNuPAGE Bis-Tris ゲル(Life Technologies社)にインジェクトした。NuPAGE MES SDS ランニングバッファー(20×) (Life Technologies社)を20倍に純水で希釈したものをランニングバッファーとして、XCell SureLock Mini-Cell (Life Technologies社) 及びパワーサプライ(Life Technologies社)を用いて、200V、40分電気泳動を行った。ゲル染色液としてInstantBlue(Former Novexin Ltd)を用い、室温で1時間染色し、バックグラウンドの色が脱色されるまで純水を交換して洗浄を繰り返した。その後LAS-4000(富士フイルム株式会社)にて撮像し、解析ソフトMulti Gaugeにてそのバンド濃度を積分し、タンパク量の分子量およびその含有率を定量した。その結果、総タンパク量のうち、50%以上が1kD以上15kD以下の分子量範囲であり、1kD以上15kD以下がメインの分子量範囲であった。
【0072】
(1-7-2)酸不溶物を除去したカゼイン分解物の作製
(1-7-1)で作成した酵素分解カゼイン4mLに対し、2mol/L 塩酸を用いてpHを3.0に調整して、懸濁する。4℃で5分間静置した後、9,000×g、4℃で10分間遠心した。沈殿を崩さないように、上清を採取し、酸不溶物を除去したカゼイン分解物を作製した。
【0073】
(2)評価
(デバイスのセッティング)
図3に示したイムノクロマトグラフキットを用いて実験を行った。図3の第1のデバイス部品(55)に(1-4)で作製したイムノクロマトグラフ用ストリップ(51)を取り付け、第2のデバイス部品(56)に、洗浄液添加パッドとして第2の不溶性担体(53)(15 mm×12mmに切ったグラスファイバーパッド(GF/F、GEヘルスケア社))、および給水パッドとして第3の不溶性担体(54)(15mm×12mmに切ったグラスファイバーパッド(GF/F、GEヘルスケア社))をそれぞれ取付けた。
【0074】
(抗原液の点着・展開)
被検試料(検体液)として、1質量%BSAを含むPBSバッファーにBD Flu エグザマンコントロールA+B-(ベクトン・ディッキンソン社)を溶解した抗原希釈溶液を作製した。
【0075】
市販イムノクロマト検出キット「キャピリアFluA・B」(アルフレッサファーマ)によるBD Flu エグザマンコントロールA+B-の検出限界は1/40であったが、ここでは1質量%BSAを含むPBSバッファーで、この陽性コントロール液を1/3200に希釈し、これを模擬陽性検体液1/3200として用いた。(1-4)で作製したイムノクロマトグラフ用ストリップの試料添加パッドに、検体液65μlを均一になるように滴下し、2分間静置した。
【0076】
(洗浄)
上記の如く検体液を滴下して2分間静置し展開させた後、図3に示した第3のデバイス部品(55)の液体貯蔵ポッド(52)に(1-6-1)で作製した還元剤成分を含む増幅液(A-1)150μlを入れた。第2のデバイス部品(56)を第1のデバイス部品(55)に向かい合わせて閉じて、第2の不溶性担体(53)(洗浄液添加パッド)の端を液体貯蔵ポッド(52)の還元剤成分を含む増幅液(A-1)に浸すとともに、第2の不溶性担体(53)(洗浄液添加パッド)及び第3の不溶性担体(54)(給水パッド)を第1の不溶性担体(51)である(1-4)で作製したイムノクロマトグラフ用ストリップに長手方向横から装着した。こうして還元剤成分を含む増幅液(A-1)をイムノクロマトグラフ用ストリップに展開させ2分間送液した。この工程によりイムノクロマトグラフ用ストリップが還元剤成分を含む増幅液(A-1)に浸され、さらに特異的に吸着していない材料が洗浄された。
【0077】
(増幅液によるシグナル増幅)
第2のデバイス部品(56)に設けられた点着孔(57)から(1-6-2)で作製した銀イオンを含む増幅液(A-2)を滴下し、検出部位に吸着された金コロイド標識を1分間増幅した。増幅後、第1の不溶性担体(51)であるイムノクロマトグラフ用ストリップを取り出し、1分間水洗した。
【0078】
(ラインの濃度測定)
このイムノクロマトグラフ用ストリップをイムノクロマトグラフ用濃度測定器ICA-1000(浜松ホトニクス)を用いて測定し、バックグランドと検出部位との吸光度の差(ΔOD、単位mABS)を求め評価した。
【0079】
(検体液)
Blank検体溶液としては、1質量%BSAを含むPBSバッファーを、×1/3200模擬陽性検体としては、1質量%BSAを含むPBSバッファーにBD Flu エグザマンコントロールA+B-(ベクトン・ディッキンソン社)を溶解し作製した。
【0080】
<比較例1>カゼインなし
上記Blank検体および、模擬陽性検体をそのまま検体液として用いた。
<比較例2>カゼイン添加
上記Blank検体および、模擬陽性検体に、終濃度1質量%となるようにカゼインを添加した。
<実施例1>カゼイン分解物添加
上記Blank検体および、模擬陽性検体に、終濃度1質量%となるようにカゼイン分解物を添加した。
<実施例2>
上記Blank検体および、模擬陽性検体に、終濃度1質量%となるようにカゼイン分解物酸不溶物除去を添加した。
【0081】
Blank検体における偽陽性は、ムラで測定不能な場合を「−」とし、偽陽性について1mABS〜50mABSの場合を「A」とし、偽陽性について51〜100mABSの場合を「B」とすることにより評価した。また、Blank検体における増幅面上のムラは、ムラなしの場合を「A」とし、弱いムラが発生する場合を「B」とし、ムラがある場合を「C」とすることにより評価した。更に、模擬陽性検体のラインの濃度は、1mABS〜50mABSの場合を「A」とし、偽陽性あり評価不能な場合やムラで測定不能な場合を「−」とすることにより評価した。
結果を下記の表1に示す。
比較例1では、強い偽陽性が発生した。
比較例2では、増幅ムラが発生してしまい、ラインの濃度を測定することが出来なかった。
実施例1では、偽陽性が大きく低減され、また模擬陽性検体1/3200でBlankに対して有意に検出できるライン濃度となった。しかし弱い増幅ムラが発生した。
実施例2では、偽陽性が大きく低減され、また模擬陽性検体1/3200でBlankに対して有意に検出できるライン濃度となった。
またこれら実施例1で検出した際の、検出時の平均粒子サイズを「9.検出時の平均粒子サイズの算出方法」に従い算出したところ、6〜8μmであった。
【0082】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質と、
被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、
の複合体を形成させた状態で、タンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下において不溶性担体上に展開し、
被検物質に対する第二の結合物質、又は被検物質に対する第一の結合物質への結合性を有する物質を含んだ不溶性担体上の検出部位において被検物質と標識物質を捕捉し、
捕捉した標識物質を増幅して被検物質を検出すること、
を含むイムノクロマトグラフ方法。
【請求項2】
タンパク質のプロテアーゼ分解物の分子量の範囲が0.1kD〜15kDである、請求項1に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項3】
タンパク質のプロテアーゼ分解物が、酸性条件下で不溶成分としての析出物が存在しない分解物である、請求項1又は2に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項4】
タンパク質のプロテアーゼ分解物が、タンパク質のプロテアーゼ分解物に酸を添加してpHを4以下とし、析出した析出物を除去することにより得られるタンパク質分解物である、請求項3に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項5】
タンパク質のプロテアーゼ分解物が、カゼインのプロテアーゼ分解物である、請求項1から4の何れか1項に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項6】
カゼインが、αS1カゼイン、αS2カゼイン、βカゼイン、又はκカゼインから選ばれる1以上のカゼインである、請求項5に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項7】
第一の結合物質、及び第二の結合物質の少なくともいずれか一方が抗体である、請求項1から6の何れか1項に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項8】
捕捉した標識物質を増幅する工程を、銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を含む増幅液を用いて行う、請求項1から7の何れか1項に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項9】
被検物質と、
被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、
の複合体を形成させた状態で、
かかる複合体をタンパク質のプロテアーゼ分解物の存在下にて不溶性担体上に展開した後に、洗浄液を不溶性担体上に展開し、
その後、捕捉した標識物質を増幅する、
請求項1から8の何れか1項に記載のイムノクロマトグラフ方法。
【請求項10】
被検物質に対する第一の結合物質で修飾した金属を含む標識物質と、
被検物質に対する第二の結合物質、又は被検物質に対する第一の結合物質への結合性を有する物質を含んだ不溶性担体と、
タンパク質のプロテアーゼ分解物と、
を具えることを特徴とするイムノクロマトグラフ用キット。
【請求項11】
第一の結合物質、及び第二の結合物質の少なくともいずれか一方が抗体であり、更に銀を含む化合物及び銀イオンのための還元剤を含む増幅液を具えた、請求項10に記載のイムノクロマトグラフ用キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate