説明

高撥水性表面の形成方法

【課題】
微細な凹凸構造を有し、高撥水性の表面を容易に形成する方法を提供する。
【解決手段】
一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある撥水性表面処理微粒子金属酸化物、乾性油及び揮発性溶媒を配合しており、かつ揮発性溶媒を除く撥水性微粒子金属酸化物分散型配合物の質量に対して撥水性表面処理微粒子金属酸化物の配合質量が60〜80質量%の範囲にある微粒子金属酸化物分散型配合物を回転塗布法を用いて基板表面に塗工することを特徴とする高撥水性表面の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子金属酸化物分散型配合物を回転塗布法を用いて塗工・乾燥することにより高撥水性の表面を基材に形成する方法に関する。
さらに詳しくは、材料の表面に微粒子金属酸化物を分散・担持した乾性油を揮発性溶剤で希釈した塗膜を回転塗布法で形成させることで、乾燥後に機械的に安定で、高撥水性の表面を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、材料表面に高撥水性の表面を形成する技術が多く発表されているが、これらの多くは、ハスの葉の表面のように材料表面に凹凸構造を形成させて高撥水性の表面を形成させる技術か、フッ素系化合物を用いて材料表面に高撥水性の被膜を形成させる技術である。前者としては、例えば特許文献1には、ポリマー成分と撥水性微粒子とが均一に分散混合された混合体の表面に、レーザーを照射してレーザーアブレーションを行うと、レーザーが照射された表面及びその付近のポリマー成分が除去されて(この現象をスパッタリングという)、撥水性微粒子による凹凸面が表面に露出することにより、表面が優れた撥水性を発揮することができることが記載されている。また、特許文献2には、平均粒子径0.1〜0.5μmのTFE樹脂及びポリアミック酸を含む水溶性有機液体に発泡剤及び/又は凝集剤を添加混合し、得られた混合液を基材上に塗布した後、これを加熱して水、水溶性有機液体、発泡剤及び/又は凝集剤を除去すると共に、ポリアミック酸を縮合して、ポリイミド又はポリアミドイミドを形成させる技術が記載されている。
【0003】
次に後者の例としては、特許文献3には撥水性のバインダー樹脂、ポリテトラフルオロエチレン粒子及び分散剤、さらに要すれば低熱容量の粒子及び溶媒からなり、微小水滴の滑落角が極めて小さい塗膜を与える表面処理用配合物であって、着氷及び着雪を防止し得る高撥水性で易水滴滑落性の塗膜を与える表面処理用配合物についての技術が記載されている。双方の技術はそれぞれ一長一短があり、両者の融合も進んでいる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−179441号公報
【特許文献2】特開平10−17695号公報
【特許文献3】国際公開WO2003−93388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
材料表面に凹凸構造を形成させて高撥水性の表面を形成させる手法の場合、基材膜表面に塗布した塗膜表面に安定的に、かつ安価に凹凸構造を形成させるのは簡単ではなく、複雑な製造工程を経るために手間がかかる、形成コストが高いなどの問題があり、より安価に、より単純な製造工程で材料表面に高撥水性を示す微細凹凸構造を形成する技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの問題に鑑み、鋭意研究した結果、凹凸構造を形成して高撥水性表面を得たい物体や基板に特定組成の溶液を滴下させるか、又は該特定組成溶液中に該物体や基板を浸漬した後、空気中で該物体や基板を機械的に回転させるだけで、該物体や基板表面に微細な凹凸構造を形成させ、かつこれらの物体や基板表面を簡単に高撥水性表面に転換する方法を見出した。
【0007】
本願に記載された発明は、以下の第1〜第7の発明よりなるものである(以下、特に断りない限り「本発明」という)。
【0008】
すなわち、本願の第1の発明は、一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある撥水化表面処理微粒子金属酸化物、乾性油及び揮発性溶媒を配合してなり、かつ揮発性溶媒を除く配合物質量に対して撥水化表面処理微粒子金属酸化物の配合質量が60〜80質量%の範囲にある微粒子金属酸化物分散型配合物を、回転塗布法を用いて基板表面に塗工することを特徴とする高撥水性表面の形成方法にある。
【0009】
本願の第2の発明は、回転塗布法がスピンコーターを用いるものであることを特徴とする第1の発明に記載の高撥水性表面の形成方法にある。
【0010】
本願の第3の発明は、回転塗布法におけるスピンコーターの回転速度が、毎分2000〜6000回転の範囲にあることを特徴とする第1又は第2の発明に記載の高撥水性表面の形成方法にある。
【0011】
本願の第4の発明は、微粒子金属酸化物分散型配合物中の微粒子金属酸化物が酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化クロムの少なくとも1種であることを特徴とする第1〜第3の発明に記載の高撥水性表面の形成方法にある。
【0012】
本願の第5の発明は、微粒子金属酸化物分散型配合物中に用いる乾性油が、アマニ油、ケシ油、胡桃油、ベニバナ油及びひまわり油の少なくとも1種であることを特徴とする第1〜第3の発明に記載の高撥水性表面の形成方法にある。
【0013】
本願の第6の発明は、微粒子金属酸化物の撥水化表面処理が、アルキル鎖長が6〜12の範囲にあるアルキル基を有するモノアルキルトリアルコキシシラン類、トリメチルシラン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、シリコーン樹脂、片末端反応性ジメチルポリシロキサン、金属石鹸、有機化チタネート、有機化アルミネート、フッ素化シラン、片末端反応性パーフルオロポリエーテル、シランカップリング剤の少なくとも1種を用いて行われたことを特徴とする第1〜第3の発明に記載の高撥水性表面の形成方法にある。
【0014】
本願の第7の発明は、撥水化金属酸化物分散型配合物中の揮発性溶剤が、低級アルコール、n―ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、イソパラフィン、フルオロカーボン、次世代フロン、n―ブタン、環状シロキサン、揮発性シリコーンの少なくとも1種であることを特徴とする第1〜第3の発明に記載の高撥水性表面の形成方法にある。
【発明の効果】
【0015】
以上のことから本発明は、一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある撥水化表面処理微粒子金属酸化物、乾性油及び揮発性溶媒を配合しており、かつ揮発性溶媒を除く配合物質量に対して撥水化表面処理微粒子金属酸化物の配合質量が60〜80質量%の範囲にある微粒子金属酸化物分散型配合物を、スピンコーターのような回転塗布法を用いて基板表面に塗工することにより、簡単に、しかも安価に基板表面に高撥水性表面を形成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、上記本願第1〜第7の発明(以下、総称して「本発明」という)を詳細に説明する。
まず、本発明は、一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある撥水化表面処理微粒子金属酸化物、乾性油及び揮発性溶媒を配合しており、かつ揮発性溶媒を除く配合物質量に対して撥水化表面処理微粒子金属酸化物の配合質量が60〜80質量%の範囲にある微粒子金属酸化物分散型配合物を、回転塗布法を用いて基板表面に塗工することにより簡単に、しかも安価に基板表面に高撥水性表面を形成することを特徴とする、高撥水性表面の形成方法に関する。
本発明で言う「回転塗布法」とは、スピンコーターに代表されるような塗工方法であり、物体や基板を回転軸に固定し、微粒子金属酸化物分散型配合物なる溶液を物体に滴下又は物体を微粒子金属酸化物分散型配合物なる溶液に浸漬した後、それを高速で回転させて余分な溶液自体を除去し、物体表面に溶液を比較的均一に塗工する方法である。スピンコーターは通常、2ピース缶の塗装、液晶やレジストなどの大変低い粘度の溶液の塗工に用いられるが、微粒子金属酸化物分散型配合物のようなそれと比べて高粘度の溶液の塗工に適用すると、基材表面に微細な凹凸構造を形成できる場合がある。この現象を利用することにより、基材表面に極めて容易に高撥水性の表面を形成することができる。本発明では、特に塗工する物体又は基材の回転速度が毎分2000〜6000回転の範囲にあると、物体又は基材表面に塗工された塗膜に凹凸構造が安定して明確に形成させることができる。
【0017】
本発明では、一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある撥水化表面処理した微粒子金属酸化物を用いるが、この微粒子金属酸化物の一次粒子径の評価方法としては、電子顕微鏡観察により行った。微粒子金属酸化物の一次粒径がこの範囲をはずれると、基材表面に塗工した塗膜に微細な凹凸構造が安定して形成し難くなり、基材表面の高撥水性の向上を期待できない場合が生じる。
【0018】
本発明における微粒子金属酸化物の撥水化表面処理とは、アルキル鎖長が炭素数6〜12の範囲にあるアルキル基を有するオクチルトリエトキシシランなどのモノアルキルトリアルコキシシラン類、トリメチルシラン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、シリコーン樹脂、片末端反応性のジメチルポリシロキサン、ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸、有機化チタネート、有機化アルミネート、フッ素化シラン、片末端反応性パーフルオロポリエーテル、シランカップリング剤等による表面処理である。これら微粒子金属酸化物の表面処理量としては、表面処理前の金属酸化物の質量に対して、0.5〜20質量%の範囲であり、より好ましくは3〜15質量%の範囲が挙げられる。また、これらの金属酸化物の表面処理は、単独の表面処理剤で処理されていても複数の表面処理剤を組み合わせて差し支えない。
【0019】
これらの表面処理剤の中で、特に微粒子金属酸化物の分散安定性の優れている表面処理剤としては、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシランである。さらに、微粒子金属酸化物の表面処理の方法として、乾式及び湿式の方法が一般に挙げられるが、微粒子金属酸化物の凝集を解除して乾性油への分散性を向上させる効果の高いビーズミルなどの湿式の微粉砕装置を用いて表面処理する方法が好ましい。
【0020】
本発明で用いる微粒子金属酸化物としては、一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある金属酸化物を用いることができ、その形状としては、球状、略球状、棒状、紡錘状、板状、不定形状などいずれの形状であっても差し支えない。一次粒子径が10nm未満、又は50nm以上では、本発明の効果である基材に高撥水性表面の形成が難しく、高撥水性表面の耐水性が低下する問題がある。
【0021】
本発明における微粒子金属酸化物としては、具体的に酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウム、酸化タングステン、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化錫の少なくとも1種を含むことが好ましく、特に酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化珪素の少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの金属酸化物は安全であり、皮膜形成時の安定性に優れる特性がある。また、本発明で用いるこれらの金属酸化物は微粒子の形態では固体触媒活性を示すものが多く、経時で配合物中の乾性油などを酸化劣化させる原因となるため、その表面をシリカ、アルミナなどで被覆されているものを使用すると触媒活性は大幅に低下し、塗膜の長期の安定性に良い影響を与えるので好ましい。
【0022】
本発明で用いる微粒子金属酸化物分散型配合物は、揮発性溶媒を除く配合物質量に対して上記撥水性表面処理した微粒子金属酸化物の配合質量が60〜80質量%の範囲であることが好ましく、配合質量が60質量%未満では、回転塗布法を用いても用いなくても水に対する被膜表面の接触角が変わらなくなる問題があり、また80質量%を超えると酸化重合して架橋被膜を形成する乾性油などの配合量が不足して、塗膜の耐久性が低下してくる問題が生じる。
【0023】
本発明における微粒子金属酸化物分散型配合物中の乾性油としては、アマニ油、ケシ油、胡桃油、ベニバナ油及びひまわり油の少なくとも1種を用いることを特徴としており、酸素架橋により硬化する油脂が挙げられ、特にアマニ油は取り扱いがしやすく使用に適している。
乾性油の配合量としては、揮発性溶媒を除く配合物質量に対して乾性油が10〜40質量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは20〜40質量%の範囲が挙げられる。この範囲であると、乾性油の硬化した塗膜中に微粒子金属酸化物が分散固定され、皮膜の耐久性も向上するメリットがある。
【0024】
さらに、本発明で用いられる揮発性溶媒としては、乾性油の溶解性に優れ、かつ微粒子金属酸化物の分散性に優れた有機溶媒であれば良く、その例としてエチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール等の低級アルコール、n―ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、イソパラフィン、フルオロカーボン、次世代フロン、n―ブタン、環状シロキサン、メチルトリメチコン等の揮発性シリコーンが挙げられる。この中でも特に環状シロキサンの一種であるデカメチルシクロペンタンシロキサンや低級アルコール類は価格、入手の容易性、人体に対する安全性などに優れているので好ましい。これら揮発性溶媒の微粒子金属酸化物分散型配合物への配合量は、揮発性溶媒を除く配合物質量100質量部に対して400〜1900質量部の範囲が好ましい。400質量部未満では、微粒子金属酸化物分散型配合物の溶液粘度が高くなり過ぎ、皮膜形成を均一に調整することが難しく、塗工に問題が生じる。また、1900質量部を超えると揮発性溶媒が蒸発した後の塗膜が薄くなり過ぎ、塗膜強度が不足する問題が生じる。
【0025】
本発明で用いる微粒子金属酸化物分散型配合物は、上記各成分を均一に混合分散したものを用いる。この際、微粒子金属酸化物はこの前に微粉砕されたもの、又は溶液中に高度に分散されたスラリー形態のもののいずれをもちいても良い。また、微粒子金属酸化物をそのまま投入した後、配合物をビーズミル等を用いて微粉砕して均一な微粒子金属酸化物分散型配合物としてもよい。
【0026】
本発明では、撥水性の微粒子金属酸化物を分散させた分散液を基板上に塗布するが、撥水性の微粒子金属酸化物を分散させる方法としては、微粒子金属酸化物の表面を表面処理剤で表面処理して分散安定性を高めたものを用いる方法、界面活性剤を用いて微粒子金属酸化物の安定性を高める方法など、機械的な分散力を用いる方法を組み合わせて使用することが好ましい。
【0027】
ここで用いる界面活性剤としては、焼成後にシリカに転換できる特性を有するシリコーン系の界面活性剤が好ましく、例えば、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、アルキル・ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン、ポリグリセリル変性オルガノポリシロキサン、アルキル変性オルガノポリシロキサンの少なくとも1種から選ばれる変性オルガノポリシロキサンを用いることが好ましい。また、機械的に分散する方法としては、ディスパーやアトライター、ホモミキサーなどを用いて分散させる方法、スラリーを高圧噴射する方法、ペイントシェーカー、サンドミル、ペブルミルなどの媒体型粉砕機やロールミルなどを用いる方法などが挙げられる。前者は安価で作業が簡単なメリットがあり、後者は高分散が可能であり、塗膜の透明性や外観を重視する場合には好ましい方法である。
【0028】
本発明で用いる撥水性微粉末金属酸化物分散型配合物の塗布方法としては、アプリケーター、ロールコーターなどを用いて均一な厚みで塗布したり、刷毛などを用いて塗布する方法、また分散液中に基板を浸漬する方法などがあるが、厚く塗ると塗膜の強度にムラがでたり、強度が弱くなる問題があり、本発明においては、回転塗布法を用いて基板表面に塗工する。
【0029】
回転塗布法について、さらに詳細に説明すると、基板が板状の材料ならば、スピンコーターを用いて中心部に微粒子金属酸化物分散型配合物を垂らした後、基板自体を高速回転させて余分な分散配合物を除去し、さらに加熱乾燥するなどの乾性油皮膜の架橋方法が挙げられる。
また、基板が立体物の場合、立体物の重心付近に回転用の軸を固定し、立体物をそのまま微粒子金属酸化物分散型配合物に浸漬した後、回転用の軸を高速で回転させ、さらに加熱乾燥するなどの架橋方法が挙げられる。
さらに、基板の材料、材質に制限無く、微粒子金属酸化物分散型配合物が弾かれてしまい塗工できないような材料を除いて塗工可能である。かかる塗工不可能な基板の場合、基板に予め塗工可能となるようなプライマーを塗布しておき、その表面に塗工する方法が適用できる場合もある。また、さらに塗膜の凹凸構造を強調する方法として、塗工後の基板を流水で洗浄する方法も効果的である。
【0030】
本発明で用いる微粒子金属酸化物分散型配合物においては、上記の各成分以外にフィラー、油剤、防腐剤、防かび剤、殺菌剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分を適宜使用することもできる。
【0031】
以下、実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例で用いた各種特性に対する評価方法を以下に示す。
<接触角の評価方法>
接触角測定装置(協和界面科学社製DM500型接触角測定装置)を用いて基板に水滴を接触させ、その直後の基板と水滴間のデータから接触角を求めた。接触角の解析には同社製解析ソフトウェアFAMASを使用した。
また、測定に用いた試料は再度乾燥して接触角の測定を繰り返し、水との接触の繰り返しにより高撥水性が維持されるか否かを確認した。
【実施例1】
【0032】
まず、オクチルシリル化微粒子酸化チタン(オクチルトリエトキシシラン10質量%処理シリカ・アルミナ処理微粒子酸化チタン。平均粒子径35nm。溶媒としてトルエンを使用し、ビーズミル中で反応させた後、乾燥・加熱処理をおこなったもの)40質量部とデカメチルシクロペンタシロキサン(環状揮発性シリコンの一種。沸点210℃)60質量部を、粗混合した後、ビーズミル(横型サンドグラインドミル)を用いて微粉砕し、オクチルシリル化微粒子酸化チタンが均一に分散したオクチルシリル化微粒子酸化チタンのスラリーを得た。
次に、オクチルシリル化微粒子酸化チタンスラリー中のオクチルシリル化微粒子酸化チタンの60質量部に対して、アマニ油を40質量部の割合で加え、さらに揮発性デカメチルシクロペンタシロキサンを加えて全体量がオクチルシリル化微粒子酸化チタンとアマニ油の合計量の5倍量になるように調製した。
スピンコーター(共和理研社製 フォトレジストスピナー K−359SD−1型)を用い、ガラス板の中央に上記配合物を0.2mL滴下した後、500回転/分の回転速度で5秒間回転し、続いて4000回転/分の回転速度で20秒間回転させて塗工を終了した。その後、60℃で十分乾燥させて安定な塗膜を得た。
【0033】
上記と同様の工程で、オクチルシリル化微粒子酸化チタンとアマニ油の質量比率を2:8(20質量%:80質量%、以下同様の質量%表示省略)、4:6、6:4、6.25:3.75、6.5:3.5、6.75:3.25、7:3、7.25:2.75、7.5:2.5、7.75:2.25、8:2の比率でそれぞれの試料を作成することができた。
【0034】
(比較例1)
実施例1の試料を用いてスピンコーターを用いることなしに、ガラス板上に1ミリインチのスリットを持ったアプリケーターを用いて、0.02m/秒の速度で塗工した後、実施例1と同様に60℃で乾燥させて試料を得た。
【実施例2】
【0035】
実施例1のオクチルシリル化微粒子酸化チタンとアマニ油の質量比率を7.75:2.25に設定した試料を用い、同じように揮発性デカメチルシクロペンタシロキサンを加えて全体量がオクチルシリル化微粒子酸化チタンとアマニ油の合計質量の5倍量になるように調製した。
スピンコーターの回転速度を6000回転/分に変更した他はすべて実施例1と同様にした試料を得た。
この試料について、精製水に対する接触角を測定した結果、149度の高い接触角値を示した。
【実施例3】
【0036】
実施例2におけるスピンコーターの回転速度を2000回転/分に変更した以外はすべて実施例2と同様にして試料を作成した。この試料の精製水に対する接触角は130度であり、実施例2における試料よりやや低く、基材表面の撥水性がやや低い結果を示した。
【0037】
(比較例2)
実施例1におけるオクチルシリル化微粒子酸化チタンの代わりに、一次粒子径5nmのシリカを同様の方法でオクチルシリル化処理したものを用いた以外は実施例1と同様にして試料を得た。この塗膜表面の精製水に対する接触角は最大でも120度程度であり、高撥水性表面を形成しているとは言えなかった。
【0038】
(比較例3)
実施例1におけるオクチルシリル化微粒子酸化チタンの代わりに、一次粒子径250nmのシリカを同様の方法でオクチルシリル化処理したもの以外は実施例1と同様にして試料を得た。この塗膜表面の精製水に対する接触角は最大でも115度程度であり、高撥水性表面を形成できなかった。
【実施例4】
【0039】
基材が立体物の例として角型ブロックの中心部に金属製の軸を固定し、これを実施例2で用いた微粒子酸化チタンスラリーに浸漬し、モーターを用いて3000回転/分の回転速度で30秒間回転して塗工した。その後、60℃で乾燥し、処理を完結させた。このブロックの精製水に対する接触角は、135°前後で、高い撥水性の表面を有していた。
【0040】
(結果の総括)
実施例1と比較例1における試料の精製水に対する接触角を測定した結果を図1に示す。
図1では、縦軸に接触角(C.A.(°))を、横軸にオクチルシリル化微粒子酸化チタンとアマニ油合計質量に対するオクチルシリル化微粒子酸化チタンの質量比率を示している。
図1の結果からみると、アプリケーターで塗工した場合(「アプリケーター」と記載)と比べて同じ配合物でもスピンコーターを用いて塗工した場合(「スピンコーター」と記載)の方が、オクチルシリル化酸化チタンの高濃度領域、特に60質量%〜80質量%において有意に接触角が大きくなっていることが確認できた。とりわけ、オクチルシリル化酸化チタンの濃度比率が70質量%を越えると飛躍的に接触角が大きくなることが判った。
【0041】
さらに、オクチルシリル化酸化チタンとアマニ油の質量比率が7.75:2.25(77.5質量%:22.5質量%)における塗膜表面の状態を走査型電子顕微鏡を用いて観察した結果を図2に示す。
図2から、塗膜表面に細かい筋状の構造が形成されていることがわかる。
【0042】
次いで、実施例1の結果(図1)からみて、アプリケータに比して大きな接触角が得られるスピンコーターにおけるオクチルシリル化酸化チタンとアマニ油の質量比率を7.5:2.5(75質量%:25質量%)のときの試料について、有機溶剤による希釈倍率及びスピンコーターの回転速度による接触角への影響を調べた。
表1に示すように、希釈倍率、スピンコーターの回転速度(回転数/分)
を各変化させた場合の塗膜表面の精製水に対する接触角を求めた。
縦軸の希釈倍率は、実施例1と同様の手法で求めた。
表1によれば、塗膜表面の精製水に対する接触角は、有機溶剤の希釈率及
びスピンコーターの回転速度に関係しており、塗膜表面の撥水性がこれらの塗膜形成条件と密接に関係していることが判る。
【0043】
【表1】

なお、表中の「平滑」は、ガラス板上に1ミリインチのスリットを持ったアプリケーターを用いて0.02m/秒の速度で塗工した後、実施例1と同様に60℃で乾燥させて得たものの接触角を示す。また、粘度の単位は10−3Pa・sである。
【0044】
以上の実施例及び比較例の結果から、回転塗布法を用いて撥水性微粒子金属酸化物分散型配合物は、従来の塗布方法と比べて有意に高い接触角を有する表面、すなわち高い撥水性表面を形成できることが明らかになった。さらに、その表面を観察すると、筋状の微細構造が多数形成されていることが明らかになった。
本発明の用途としては、水滴のつかない窓ガラス、汚れにくいタイル、外壁材などの形成が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1及び比較例1の接触角測定結果を示す。
【図2】実施例1において、オクチルシリル化酸化チタンとアマニ油の質量比率 が7.75:2.25における塗膜表面の状態を走査型電子顕微鏡を用いて観察し た写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子金属酸化物、乾性油及び揮発性溶媒からなる微粒子金属酸化物分散型配合物を用いて高撥水性表面を形成する方法において、該微粒子金属酸化物として一次粒子径が10nm〜50nmの範囲にある撥水化表面処理微粒子金属酸化物を使用し、かつ揮発性溶媒を除く配合物質量に対して撥水化表面処理微粒子金属酸化物の配合質量が60〜80質量%の範囲にある微粒子金属酸化物分散型配合物を、回転塗布法を用いて基板表面に塗工することを特徴とする高撥水性表面の形成方法。
【請求項2】
回転塗布法がスピンコーターを用いるものであることを特徴とする請求項1記載の高撥水性表面の形成方法。
【請求項3】
回転塗布法におけるスピンコーターの回転速度が、毎分2000〜6000回転の範囲にあることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高撥水性表面の形成方法。
【請求項4】
微粒子金属酸化物分散型配合物中の微粒子金属酸化物が酸化チタン、酸化亜鉛、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化クロムの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の高撥水性表面の形成方法。
【請求項5】
微粒子金属酸化物分散型配合物中に用いる乾性油が、アマニ油、ケシ油、胡桃油、ベニバナ油及びひまわり油の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の高撥水性表面の形成方法。
【請求項6】
微粒子金属酸化物の撥水化表面処理が、アルキル鎖長が6〜12の範囲にあるアルキル基を有するモノアルキルトリアルコキシシラン類、トリメチルシラン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、シリコーン樹脂、片末端反応性ジメチルポリシロキサン、金属石鹸、有機化チタネート、有機化アルミネート、フッ素化シラン、片末端反応性パーフルオロポリエーテル、シランカップリング剤の少なくとも1種を用いて行われたことを特徴とする請求項1記載の高撥水性表面の形成方法。
【請求項7】
撥水化金属酸化物分散型配合物中の揮発性溶剤が、低級アルコール、n―ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、イソパラフィン、フルオロカーボン、次世代フロン、n―ブタン、環状シロキサン、揮発性シリコーンの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の高撥水性表面の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−62182(P2008−62182A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242821(P2006−242821)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】