説明

高放射率の放射体

本発明は、放射体10及び放射体を製造する方法に関する。特に、本発明は、全体構造のサーマル放射率を増加させるのに役立つ薄膜コーティング5を有する放射体10に関する。放射体10は、基板12、アモルファスカーボン層16、及び前記基板12と前記アモルファスカーボン層16の間に挿入された金属化カーバイド形成層14を備えている。さらに、放射体を製造する方法は、基板上に金属化カーバイド形成層を形成する工程、及び前記金属化カーバイド形成層上にアモルファスカーボン層を形成する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射体及び放射体の製造方法に関する。特に、本発明は、全体構造の放射率を増加させるのに役立つ薄膜コーティングを有し、それによって「黒体」放射体の熱放射に、より調和する放射体に関する。また、本発明は、そのような放射体をどのように製造するかに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、全ての物体は熱放射するであろう。熱放射を行う際の効率はその物体の放射率として定義される。放射率は、理想的なソース、通常は黒体と呼ばれる、からの熱放射の百分率として定量化される。完全な黒体を実現することは理論的には不可能であるけれども、注意深く材料を選択した現行の最適化された光学設計では、意図された作動波長領域を越えて95%ほどの高い放射率を持つ複数の放射体が見出されている。良く知られているように、放射率は電磁スペクトルに関して変化し、特定の作動波長領域に最適化される。
【0003】
高放射率の放射体は多数の工業的及び研究応用に有用である。例えば、高温計の較正標準器として使用する、あるいは赤外画像又はターゲット機器のテストのために赤外画像を形成するためにサーマル画像を統合するものに使用することができる。
【0004】
現行のデザインは、しばしば光学的積層に基づいており多層である。この多層化手法は高度に正確な各層の厚み制御を必要とし、そうでないと、全体の構造の性能が危うくなる。単層のエミッターは相対的に厚く、機械的性能が劣っている。これらの高放射率の放射体はかさ高である。増加した質量は、それらが作動温度に達し、希望する熱放射スペクトルを生成するための応答時間が遅くなる原因となる。これは、典型的なテレビのフレーム速度(例えば、50Hz)で画像化がなされなければならない場合であるサーマル画像を統合する際に特別の問題となる。さらに、高放射率の放射体の容積は、サイズ無しのオブジェクトとして、及びおそらく意味ありげに変化するそのオブジェクトの形状として適用することはできないということを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この背景に対して、第1の観点から、本発明は、基板、アモルファスカーボン層、及び前記基板と前記アモルファスカーボン層の間に挿入された金属化カーバイド形成層を備えた放射体に関する。この配置により、非常に小さな容積でそれ故非常に小さな質量である、金属の薄層とアモルファスカーボンの薄層が沈積される。さらに、複数の薄層は、実質的にそのオブジェクトのサイズ又は形状を変更すること無しに処理されるように、オブジェクトの形状に一致するだろう。さらに、金属層とアモルファスカーボン層を準備することで、公知の設計の95%の放射率に匹敵する放射体を提供する。
【0006】
好ましくは、アモルファスカーボン層は0.1〜1.0μmの厚みを有し、特に0.3〜0.6μmの厚みが好ましく、実質的に0.4μmの厚みがさらに好ましい。これらの値では赤外領域で高い放射率を提供することがわかった。
【0007】
カーバイド形成層が基板と一体的に設けられても良いし、基板から離間していても良い。例えば、アモルファスカーボンが基板上に沈積される時に、基板それ自体がカーバイド層を形成することが可能であれば、分離した金属化カーバイド形成層を沈積する必要はない。他方、基板がカーバイドを形成しない、又はカーバイドを単に不十分に形成する際には、金属化カーバイド形成層を沈積することが必要であるか、分離した金属化カーバイド形成層を沈積することによってより良い結果が得られるかも知れない。例えば、金属化カーバイド形成層はチタンを含んでいても良い。この配置はアモルファスカーボン層に隣接するチタン層をもたらし、これらの層間の反応はそれらの境界でチタニウムカーバイドを形成する。チタンは基板材料であっても良いし、例えば、半導体基板上に沈積される層であっても良い。随意に、チタン層は0.1〜1.0μmの厚みを有しており、0.3μmの厚みが特に好ましい。
【0008】
随意に、アモルファスカーボン層及び/又は金属化カーバイド形成層はスパッタ沈積によって形成される。
【0009】
随意に、アモルファスカーボン層は保護層によって保護されても良い。こうすることで、摩損及び/又は酸化による損傷から保護することができる。放射体から発射される赤外サーマール放射の減衰を防止するために、保護層は実質的に赤外放射を透過する必要がある。例えば、保護層は随意にSiC,SiO2,ダイアモンド又はダイアモンドのようなカーボンを含んでいても良い。
【0010】
第2の観点から、本発明は、基板上に金属化カーバイド形成層を形成する工程、及び前記金属化カーバイド形成層上にアモルファスカーボン層を形成する工程を備える放射体を製造する方法に関する。前記金属化カーバイド形成層及び前記アモルファスカーボン層は、どのような方法で形成しても良い。例えば、前記金属化カーバイド形成層は基板上に沈積されても良く、続いて前記アモルファスカーボン層が前記金属化カーバイド形成層上に沈積されても良い。代わりになるべきものとして、もし前記基板が金属カーバイドそれ自体を形成することができるならば、前記アモルファスカーボン層が直接基板上に沈積されても良い。このようにして、アモルファスカーボンの沈積が前記基板との反応を引き起こし、それによってカーバイド層が自動的に形成される。そのような放射体は、本発明の第1の観点に関連して上述したような有益性を有している。
【0011】
好ましくは、アモルファスカーボン層は、0.1〜1.0μmの範囲の深さまで形成され、特に0.3〜0.6μmの厚みが好ましく、実質的に0.4μmの厚みがさらに好ましい。随意に、アモルファスカーボン層はスパッタ沈積により形成される。好ましくは、スパッタ沈積は実質的に随意に圧力1×10−6Torr又はそれ以下で成される純グラファイトターゲットから成される。好ましくは、スパッタリングはアルゴンのような不活性ガスを用いて行われる。これらの処置はアモルファスカーボンの純粋性を維持するのに役立つ。アモルファスカーボンフィルム内の不純物のレベルが増大するにつれて、放射率は減少することがわかっている。
【0012】
随意に、チタン層は金属化カーバイド層として形成され、前記チタン層は随意にスパッタ沈積又は蒸着によって形成されてよい。好ましくは、前記チタン層は0.1〜1.0μmの範囲の厚みで形成され、実質的に0.3μmの厚みが特に好ましい。
【0013】
方法は、随意にさらにアモルファスカーボン層の頂部に保護層を形成する工程を含んでいても良い。好ましくは、SiC,SiO2,ダイアモンド又はダイアモンドのようなカーボンの層が保護層として形成される。
【0014】
随意に、金属化カーバイド形成層とアモルファスカーボン層の形成工程の後で前記放射体は焼鈍される。好ましくは、600℃から900℃の範囲、特に実質的に800℃が好ましい、の温度で前記放射体は焼鈍される。現今の好ましい具体例においては、前記放射体を実質的に800℃の温度で、実質的に5分間保持することによって、前記放射体は焼鈍され、そして随意に不活性雰囲気中で(例えば、アルゴン中)焼鈍されても良い。
【0015】
本発明は、添付図面を参照しつつ、例を用いて記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明による放射体10は図1に示されており、チタンフィルム14、アモルファスカーボンフィルム16、及び保護シリコンカーバイド(SiC)フィルム18が、各フィルムが前のフィルムを覆った状態で沈積された基板表面12aを備えたシリコン基板12を含んでいる。この例では、基板12の厚みはより大きい(数ミリメートルのオーダー)けれども、チタン、アモルファスカーボン、及びSiCのフィルム14,16,18は薄く、各々は1マイクロメートルよりも薄い。しかしながら、基板は、チタン、アモルファスカーボン、及びSiCのフィルム14,16,18よりも薄くても良い。明らかなように、図1において、基板12のサイズに比してチタン、アモルファスカーボン、及びSiCのフィルム14,16,18の厚みが、明確にするために増加させられている。この放射体10は、赤外領域で高い熱放射率を現出する。
【0017】
図2は、基板12上にチタン、アモルファスカーボン、及びSiCのフィルム14,16,18が成長するのに適切な機器を簡単化したスケッチとして示したものである。基板12は、清潔で平滑な基板表面12aを生成するために準備される。基板10は、概略的に20として示されている基板テーブル上に搭載され、表面18がスパッタリングターゲット22とイオンソース24に面する。基板テーブル20、スパッタリングターゲット22、及びイオンソース24は、符号26で示される真空室内に配置される。
【0018】
高放射率の放射体10を製造するために、準備される基板12は、1×10−6Torrの真空室26内に保管され、この減圧状態で、フィルム14,16,18は基板表面12a上に沈積される。3つの全てのフィルム14,16,18は、スパッタ沈積の良く知られた技術を利用して沈積される。本実施例においては、イオンソース24は、3つの交換可能なスパッタリングターゲット22のうちの1つを照準しており、これらのターゲット22はチタン、純グラファイト、SiCから製造されている。イオンソース24は、どんな標準的な構造、例えば、両電極が好ましくは水冷式(図示されていない)のダイオード又はマグネトロンでも良い。高純度のアルゴンガスがイオンソースとして利用され、真空室内の圧力が4ミリTorrに増加するような流速で導入される。基板テーブル20は接地されても良いし、電源に接続されていなくても良い。
【0019】
初めに、チタンのスパッタリングターゲットは、符号22で示される位置に置かれ、イオンソース24が活性化され、薄いチタンフィルム12が清潔な基板表面12a上に0.3μm深さまで沈積される。深さは、水晶発振子マイクロバランス(図示しない)の使用のようなかなり多数の標準的な方法で確かめると良い。それから、位置22でチタンのスパッタリングターゲットは、グラファイトのスパッタリングターゲットに置き換えられる。イオンソース24が活性化されることで、チタンフィルム14上にアモルファスカーボンフィルムが沈積されることになる。スパッタリングのこの第2の工程は、アモルファスカーボンフィルム16が0.5μm厚さに沈積されるまで継続する。アモルファスカーボンフィルム16は軟質で、一対のピンセットのようなもので容易に剥がすことができ、このタイプのフィルム16は、最適の放射率を提供することがわかっている。
【0020】
それから、放射体10は、基板12、チタンフィルム14、及びアモルファスカーボンフィルム16を含んでいるが、真空室の基本圧力1×10−6Torrで焼鈍され、真空室26内の残留ガスの大部分はスパッタリングのために導入された不活性アルゴンを含んでいる。このことは、焼鈍工程中に、アルゴンはアモルファスカーボンフィルム16と反応しないので有益である。放射体10は、その温度がゆっくりと800℃に上昇するように加熱される。それから放射体10は、環境温度にまでゆっくりと冷却される前に、800℃で5分間保持される。この焼鈍工程によって、改良された均質性を持ち、このことが、放射体10を横断して一様であるより高い熱放射率を提供する、アモルファスカーボンフィルム16が生成される。
【0021】
最後に、グラファイトのターゲット22がSiCのターゲットに置き換えられ、保護膜であるSiCフィルム18が、アモルファスカーボンフィルム16の上に、スパッタ沈積によって形成される。SiCフィルム18は、1μm又はそれ以下から1mm厚さを越える厚みの間で沈積されるが、0.1μmの厚みが通常は好ましい。そのようなSiCフィルム18は、赤外放射が通過する。
【0022】
このようにして、波長が3μmから5μmの間(赤外領域)で高い放射率を持った放射体10が形成される。95%ほどの放射率が測定されている。出願人は、図3に示されているように、放射率はアモルファスカーボンフィルム16の厚さの関数として変化することを見出した。
【0023】
添付した請求項記載の本発明の概念から離れることなく、上述した実施例を変更することが可能であることは、当業者には直ちに明らかであろう。
【0024】
例えば、複数のフィルム14,16,18は基板12を完全に覆っている必要はない。複数のフィルムは基板表面12aの1又はそれ以上の領域を覆っていても良く、希望のパターンにしたがって形成されていても良い。沈積の方法としてスパッタリングが用いられるときには、希望のパターンを達成するためにマスクが用いられ得る。さらに、複数のフィルム14,16,18は、同一の領域を覆うために延びている必要はない。それは、チタン及びアモルファスカーボンフィルム14,16は完全に重なり合っているが、保護フィルム18は、特に損傷を受けやすい複数の選択領域において必要なだけであるので、非常に有益である。
【0025】
シリコンは基板のほんの一例である。本質的には、チタンの沈積が可能で焼鈍工程に耐えることができるならば、どのような材料でも基板を形成することができる。適切な基板として、半導体、金属を含む。
【0026】
上述の実施例では交換可能な複数のスパッタリングターゲット22を採用しているが、複数のスパッタリングターゲット22は、異なる複数の位置に固定して配置することもできる。そのような複数のスパッタリングターゲット22は、各スパッタリングターゲット22に向けられる共通のイオンソース24を一緒に使うか、各スパッタリングターゲット22のための専用のイオンソース22を備えるかである。さらに、アルゴンはほんの好ましいイオンソースである。窒素、酸素のような選択肢も可能である。
【0027】
イオンソースによるスパッタリングは、基板12上に複数のフィルム14,16,18を形成するのに適した多くの良く知られた技術の一つである。例えば、プラズマソーススパッタリング、化学蒸着法、レーザアブレーション、熱加熱又はe−ビーム加熱ソース等を用いた分子線エピタキシ(MBE)のようなカソードアーク処理又は蒸着が、複数のフィルム14,16,18を形成するために用いることができる。
【0028】
保護のためのSiCフィルム18の沈積に先立って、放射体10は焼鈍されており、SiCフィルム18の沈積後にも焼鈍が等しくなされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例の放射体の透視図である。
【図2】本発明の好ましい方法による単純化した放射体を製造する機器である。
【図3】本発明の実施例の多数の放射体のために達成されたアモルファスカーボンフィルムの厚さの関数としての放射率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、アモルファスカーボン層、及び前記基板と前記アモルファスカーボン層の間に挿入された金属化カーバイド形成層を備えた放射体。
【請求項2】
前記金属化カーバイド形成層はチタンを含む請求項1記載の放射体。
【請求項3】
前記アモルファスカーボン層及び/又は前記チタン層は、0.1〜1.0μmの厚みを有する請求項1又は請求項2記載の放射体。
【請求項4】
前記アモルファスカーボン層は、保護層で保護されている請求項1から請求項3のいずれか1項記載の放射体。
【請求項5】
前記保護層は、実質的に赤外の放射を透過する請求項4記載の放射体。
【請求項6】
前記保護層は、SiC,SiO,ダイアモンド、ダイアモンドのようなカーボンの少なくとも1つを含んでいる請求項5記載の放射体。
【請求項7】
基板上に金属化カーバイド形成層を形成する工程、及び前記金属化カーバイド形成層上にアモルファスカーボン層を形成する工程を備える放射体を製造する方法。
【請求項8】
前記アモルファスカーボン層及び/又は前記金属化カーバイド形成層は、スパッタ沈積又はスパッタ蒸着により形成される請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記アモルファスカーボン層の頂部に保護層を形成する工程をさらに備える請求項7又は請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記放射体は前記金属化カーバイド形成層及び前記アモルファスカーボン層を形成する工程の後に焼鈍される請求項7から請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
実質的に図示し説明したような放射体。
【請求項12】
実質的に図示し説明したような放射体を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−534957(P2007−534957A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510130(P2007−510130)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050171
【国際公開番号】WO2006/038040
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(390038014)ビ−エイイ− システムズ パブリック リミテッド カンパニ− (74)
【氏名又は名称原語表記】BAE SYSTEMS plc
【Fターム(参考)】