説明

高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭

【課題】軸方向鉄筋を増やすことなく、高い曲げ耐力を具備した鉄筋コンクリート杭を提供することにある。
【解決手段】遠心力鉄筋コンクリート杭の中空部5に、PC鋼材7を介してプレストレスを導入したプレストレストコンクリート構造部4を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力鉄筋コンクリート杭の中空部にプレストレストコンクリート構造部を備えた高い曲げ耐力を有する鉄筋コンクリート杭に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度コンクリート(設計基準強度が78.5N/mm2 を越えるコンクリート)を使用した高強度プレストレスト鉄筋コンクリート杭(高強度PRC杭)は、ひび割れ抵抗性や曲げ破壊耐力が大きく且つ高い靭性を具備しているため、耐震性の必要な上杭として使用されている。
【0003】
この従来の高強度PRC杭Bは、図2に示すように、遠心力高強度プレストレストコンクリート杭(高強度PHC杭)の杭体肉厚部10内にあって、PC鋼材11,11の間にこれと平行する軸方向の補強鉄筋12,12をほゞ全長にわたって配設するとゝもに、スパイラル鉄筋13の量もPHC杭よりも多く使用した構造のものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の高強度PRC杭Bにあって、杭体にプレストレスを与える前記PC鋼材11は、中空杭の杭体肉厚部10に位置している。したがって、このPRC杭Bの曲げに対する抵抗は、遠心力成形により造られる中空杭の杭体肉厚部10の高強度コンクリート10aと、この杭体肉厚部10の中に配筋される軸方向の補強鉄筋12によって決定される。したがって、従来の前記高強度PRC杭Bにあって、曲げ耐力を向上させるためにはこの軸方向の補強鉄筋12やスパイラル鉄筋13等の補強筋量を増やさざるを得ないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、コンクリート圧縮強度を高強度化すること、そして高強度RC杭の中空部にPC鋼材を介してプレストレスを一様に導入したプレストレストコンクリート構造部を設置することで、高強度RC杭が曲げを受けたときに中立軸位置が引張縁に近づいて、断面内の多くが圧縮領域に変わる構成とすることで、軸方向鉄筋を増やすことなく、高い曲げ耐力を具備した鉄筋コンクリート杭を得ようとするものであり、その要旨は、遠心力鉄筋コンクリート杭(RC杭)の中空部に、PC鋼材を介してプレストレスを導入したプレストレストコンクリート構造部を全長又は作用曲げモーメントが大きい領域に備えたことを特徴とする高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭にある。
【0006】
上記構成からなる高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭を開発するに至った経緯を図3によって説明すると、軸力が小さい遠心力鉄筋コンクリート杭(RC杭)14は曲げを受けると、同図(イ)のひずみ分布に示すように、中立軸位置が圧縮縁に近づき過ぎる。その結果、中空杭の断面内の曲げ圧縮を受ける領域(圧縮領域)が小さくなり、逆に、断面内の多くが引張領域となる。したがって、RC杭では断面の曲げ耐力にコンクリート圧縮強度は殆ど影響せず、引張側鉄筋の量と強度で曲げ耐力は決定される。
【0007】
土木構造物では、作用軸力(死荷重)が小さいことを利用し、図3(ロ)のひずみ分布に示すように、PC鋼材を介したプレストレスにより断面に一様な軸ひずみを与えることで、部材(RC杭)が曲げを受けたときに、図3(ハ)のひずみ分布に示すように、中立軸位置が引張縁に近づき、断面内の多くが圧縮領域となる。
【0008】
そこで、従来の高強度PRC杭Bのように、曲げ耐力を向上させるために軸方向鉄筋を増やすのではなく、中空杭の杭体肉厚部を形成するコンクリートの圧縮強度を高強度化すること(高強度コンクリートを使用すること)、高強度の杭体肉厚部が曲げ圧縮を受けて横膨張することに対して中空杭の中空部に設置した中詰コンクリートが抵抗してくれることで、高強度の杭体肉厚部が高い曲げ圧縮力を負担できる。これにより、軸方向鉄筋を増やすことなく高い曲げ耐力を備えた鉄筋コンクリート杭を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面に示す説明図によって詳細に説明するに、図1において、Aは本発明に係る高強度PRC杭で、1は遠心力成形により造られる中空杭の杭体肉厚部であり、設計基準強度がおおむね50N/mm2 以上の高強度コンクリートで形成されている。2は前記杭体肉厚部1の断面内に位置する軸方向鉄筋である。なお、図中、3は高強度スパイラル鉄筋である。
【0010】
4は中空杭の中空部5に設置したプレストレストコンクリート構造部で、前記中空部5に充填した中詰めコンクリート6と、この中詰めコンクリート6にプレストレスを導入したPC鋼材7とから構成されており、本実施形態ではPC鋼材7を介して0〜50N/mm2 のプレストレスが前記中詰めコンクリート6に導入されている。なお、図中8はナット又は定着コーン、9はワッシャ又はアンカープレートであり、前記PC鋼材7の定着の例である。
【0011】
次に、本発明に係る高い曲げ耐力を有する鉄筋コンクリート杭A(以下、本発明杭と言う)の諸条件について、従来の既成PHC杭と比較した表1に基づいて以下に説明する。
【0012】
表 1

【0013】
本発明杭にあっては、前記中詰めコンクリート6にPC鋼材7によりプレストレスを与える。PC鋼材は、それにより与えられるプレストレスの合力がおおむね中心位置となるように配置し、曲げに対する抵抗は期待せず、あくまでもプレストレスを与えるためだけに利用する。従来の既製PHC杭がPC鋼材に曲げの負担も期待していたのとは対照的である。
【0014】
これにより、(1)PC鋼材7が弾性状態にとどまることで、荷重除荷後にひび割れ幅や残留変位の低減を期待することができる。(2)従来の既製PHC杭では、導入プレストレスを大きくしてもそれ程曲げ耐力は変化しないのに対して、本発明杭の構造では導入プレストレスの大きさが曲げ耐力の向上に直結する。
【0015】
また、本発明杭にあって、曲げに対する抵抗は、遠心力成形により造られる杭体肉厚部のコンクリートとその中に配筋される軸方向鉄筋である。前記したとおり、本発明杭の構造では、コンクリート圧縮強度の大きさが曲げ耐力の向上に直結することから、おおむね50N/mm2 以上の高強度コンクリートを使用する。軸方向鉄筋に関してはSD345以上の高強度鉄筋を使用し、効果的に曲げ耐力を向上させる。
【0016】
なお、通常の既製PHC杭は、遠心力成形後は中空構造となるが、本発明杭の構造では中空部分にコンクリートを充填する。通常の既製PHC杭では、中空部分にコンクリートを中詰めしても曲げ耐力はほとんど向上しないが(肉厚部コンクリートで曲げ圧縮を受ける領域が小さいため、肉厚部コンクリートが膨張することがない)、本発明杭の構造の場合、肉厚部1のおおむね50N/mm2 以上の高強度コンクリートが曲げ圧縮を受けて横膨張することに対して前記プレストレスト中詰めコンクリート6が抵抗してくれることで、肉厚部1のコンクリートが高い曲げ圧縮力を負担できる。なお、中空部5に充填するコンクリートは高強度コンクリートである必要はなく、おおむね30N/mm2 以上の通常のスランプを有するコンクリート又は、施工が容易な自己充填に優れるコンクリートを用いてよい。
【0017】
高い曲げ耐力を発揮する本発明杭の構造では、必然的に作用せん断力も大きくなってしまう。そのため、スパイラル鉄筋3には、高強度スパイラル鉄筋を使用する必要がある。このスパイラル鉄筋3には、せん断補強のほか軸方向鉄筋2のはらみ出し防止、さらには肉厚部コンクリート1の拘束効果も期待する。これらを期待するためにはスパイラル鉄筋比(ρ)と降伏点強度(σ)の積が5.0N/mm2 以上が必要である。
【0018】
なお、本発明杭にあって、かぶりコンクリートの剥落を防止するため、炭素繊維シートなどで被覆することにより曲げ耐力がさらに向上する。
【0019】
つぎに、本発明杭の曲げ耐力の算定法について述べるに、以下の条件により得ることができる。(1)断面のひずみ分布は平面保持を仮定。(2)断面中心位置に配置したPC鋼材は、曲げ荷重の増加によりプレストレス導入直後のひずみ状態から若干の変動が生じるが、その影響は小さい。そのため、曲げ耐力の計算にPC鋼材は考慮せず、単にPC鋼材から与えられるプレストレスのみを考慮する。
【0020】
また、構成則については以下のとおりである。(3)かぶりコンクリート:プレーンコンクリートの構成則。(4)コアコンクリート:「秋山 充良,渡邉 正俊,阿部 諭史,崔 松涛,前田 直己,鈴木 基行:一軸圧縮を受ける高強度RC杭の破壊性状および力学的特性に関する研究,土木学会論文集E,Vol.62, No.3, pp.477-496, 2006.8」等を参考に応力−ひずみ関係を適切に評価する。(5)軸方向鉄筋:バイリニアモデル
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭の説明平面図である。
【図2】従来の高強度PRC杭の説明平面図である。
【図3】中空杭が曲げ荷重を受けた場合の作用説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 杭体肉厚部
2 軸方向鉄筋
3 スパイラル鉄筋
4 プレストレストコンクリート構造部
5 中空部
6 充填した中詰めコンクリート
7 PC鋼材
8 ナット又は定着コーン
9 ワッシャ又はアンカープレート
10 杭体肉厚部
11 PC鋼材
12 軸方向鉄筋
13 スパイラル鉄筋
14 遠心力鉄筋コンクリート杭
A 鉄筋コンクリート杭
B 高強度PRC杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心力鉄筋コンクリート杭の中空部に、PC鋼材を介してプレストレスを導入したプレストレストコンクリート構造部を全長又は作用曲げモーメントが大きい領域に備えたことを特徴とする高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭。
【請求項2】
前記遠心力鉄筋コンクリート杭の杭体肉厚部を圧縮強度おおむね50N/mm2 以上の高強度コンクリートで形成したことを特徴とする請求項1記載の高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭。
【請求項3】
前記プレストレストコンクリート構造部の導入プレストレスの大きさが0〜50N/mm2 であることを特徴とする請求項1又は2記載の高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭。
【請求項4】
前記プレストレストコンクリート構造部のコンクリートが、通常のスランプを有するコンクリート又は、自己充填性に優れたコンクリートであることを特徴とする請求項1,2又は3記載の高曲げ耐力遠心力鉄筋コンクリート杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−97278(P2009−97278A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271623(P2007−271623)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【出願人】(502067598)
【出願人】(507346580)
【Fターム(参考)】