説明

高有機質土の簡易分解度試験方法。

【課題】判定結果に大きなバラツキや誤差が生じるのを軽減して、試料の採取現場において、より定量的に精度良く高有機質土の分解度を判定することのできる、フォンポスト法に代わる高有機質土の簡易分解度試験方法を提供する。
【解決手段】 高有機質土の分解度を試料10の採取現場において判定するための高有機質土の簡易分解度試験方法であって、一握りの試料10を包み込む大きさのガーゼ11に採取した試料を包み込み、包み込んだ部分12を捻ることにより高有機質土の試料10に含まれる水分を浸出させて、ガーゼ11に浸出水の色を着色させ、予めサンプリングした分解度の異なる複数の高有機質土の試料から作成された、ガーゼ11に着色した浸出水の高有機質土の分解度に応じた色見本と対比して、採取した前記高有機質土の試料10の分解度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高有機質土の分解度を試料の採取現場において判定するための高有機質土の簡易分解度試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高有機質土は、例えば有機物含有量が50%以上の土壌であり、含水比が大きいこともあって、支持力の殆どない軟弱地盤を形成している。高有機質土による軟弱地盤の支持力を高めるためには、一般に、セメント系の地盤改良材が用いられることになるが、高有機質土には例えばセメントの凝結を阻害する要因となるフミン酸やフルボ酸などのリグニン類似物が多く含まれる場合があるため、高有機質土を分類してその物性を判定できるようにすることは、軟弱地盤の土壌改良を行う際の重要な管理項目の一つである。一方、高有機質土に関しては、定量性且つ客観性を持った工学的的分類方法が確立しているとはいい難く、高有機質土を分類するにあたっては、技術者の経験と知識によるところが大きい。
【0003】
高有機質土の分類方法として、高有機質土の分解度を判定するものが知られており、このような分解度の試験方法としては、一般に、比色法、水洗法、フォンポスト法の3方法が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。また、これらの3方法のうち、特にフォンポスト法は、現場における簡易的な分解度の判定方法として、広く用いられている。
【0004】
ここで、フォンポスト法は、以下の手順に従って行われている。
1)試料を一握り採って、そのときの色を記録する。
2)試料を手で握り締め、指間から絞り出された水又は浸出物の色と状態を観察して記録する。
3)握り締めた手を開き、その中に残ったものの繊維分の状態などを観察して記録する。
4)これらの記録(分解度の測定結果)を、図3に示すようなフォンポスト法による分解度判別表と照合して、分解度を決定する。
【非特許文献1】「土質試験の方法と解説(第一回改訂版)」平成12年3月20日、社団法人地盤工学会発行、「第2章有機質土」第734頁〜第737頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フォンポスト法は、「試料の色調」、「圧搾による水の色」、「圧搾による浸出物の色と状態」、「圧搾後の残さい物」を目視し、分解度判別表と照合するものであるが、高有機質土の試料を握り締める強さは人によって異なり、色に対する感覚も人によって異なることから、判定結果にバラツキや誤差が生じやすい。また、高有機質土の分解度を数値的に検証することなく現場で簡易に判定するものであるため、定量的に精度良く高有機質土の分解度を判定するには、相当の熟練と経験を要することになる。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、判定結果に大きなバラツキや誤差が生じるのを軽減して、試料の採取現場において、より定量的に精度良く高有機質土の分解度を判定することのできる、フォンポスト法に代わる高有機質土の簡易分解度試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高有機質土の分解度を試料の採取現場において判定するための高有機質土の簡易分解度試験方法であって、一握りの試料を包み込む大きさのガーゼに採取した試料を包み込み、包み込んだ部分を捻ることにより前記高有機質土の試料に含まれる水分を浸出させて、ガーゼに浸出水の色を着色させ、予めサンプリングした分解度の異なる複数の高有機質土の試料から作成された、ガーゼに着色した浸出水の高有機質土の分解度に応じた色見本と対比して、採取した前記高有機質土の試料の分解度を判定する高有機質土の簡易分解度試験方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明の高有機質土の簡易分解度試験方法は、前記一握りの試料として15〜25gの間で予め定められた所定重量の試料を採取して前記ガーゼに包み込み、10〜20回の間で予め定められた所定回数、前記試料を包み込んだ部分を捻ることにより、前記高有機質土の試料に含まれる水分を浸出させるようにすることが好ましい。
【0009】
また、本発明の高有機質土の簡易分解度試験方法は、10秒〜3分の間で予め定められた所定時間、前記試料を包み込んだ部分を所定回数捻ったままの状態に保持することが好ましい。
【0010】
さらにまた、本発明の高有機質土の簡易分解度試験方法は、浸出した前記高有機質土の試料に含まれる水分のpHを測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高有機質土の簡易分解度試験方法によれば、フォンポスト法に代わる方法として、判定結果に大きなバラツキや誤差が生じるのを軽減し、試料の採取現場において、より定量的に精度良く高有機質土の分解度を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の好ましい一実施形態に係る高有機質土の簡易分解度試験方法は、例えば高有機質土による軟弱地盤に土壌改良を施す際に、高有機質土の物性を把握するべく、現場において簡易且つ精度良く高有機質土の分解度を判定するために採用されたものである。
【0013】
すなわち、本実施形態の高有機質土の簡易分解度試験方法は、高有機質土の分解度を試料の採取現場において判定するための方法であって、図1及び図2に示すように、一握りの試料10を包み込む大きさのガーゼ11に採取した試料10を包み込み、包み込んだ部分12を捻ることにより高有機質土の試料10に含まれる水分を浸出させて、ガーゼ11に浸出水の色を着色させ、予めサンプリングした分解度の異なる複数の高有機質土の試料から作成された、ガーゼに着色した浸出水の高有機質土の分解度に応じた色見本と対比して、採取した高有機質土の試料10の分解度を判定するものである。
【0014】
本実施形態の簡易分解度試験方法では、土壌改良を施す現場における例えば複数の特定した採取箇所から、一握りの試料10を各々採取し、これらをガーゼ11に各々包み込む。ここで、一握りの試料10は、試験結果をより定量化できるように、例えば15〜25gの間で予め定められた所定重量の試料を各採取箇所から採取することが好ましく、本実施形態では、例えば20gづつ採取する。また、試験結果のバラツキを軽減するために、試料10に含まれる木根片等の大きな有機物を取り除いて、20gとなるように計量する。
【0015】
試料10を包み込むガーゼ11は、例えば容易に調達できる材料として、好ましくは市販の日本薬局方タイプIの30cm×10mのガーゼを所定の大きさに裁断して用いることができる。ガーゼを裁断する大きさは、例えばA4サイズ(29.7cm×21.0cm)に近い大きさとすることができる。これによって、試料10をくるむようにして包み込んだ部分12を、ガーゼ11の余剰部分を把持しつつ、例えば包み紙に入った飴玉のような形やてるてる坊主の頭ような形で、当該余剰部分に対して回転させながら捻る操作を容易に行うことが可能になる。
【0016】
また、試料10を包み込んだ部分12のガーゼ11を捻る操作は、試験結果をより定量化できるように、例えば10〜20回の間で予め定められた所定回数、包み込んだ部分12を余剰部分に対して回転させて行うことが好ましい。本実施形態では、例えば10回捻った後に、例えば10秒〜3分の間で予め定められた所定時間として、好ましくは1分間そのままの状態を保持して、高有機質土の試料10から浸出する水分を、例えばビーカー13に回収する。なお、試料10を包み込んだ部分12を捻る操作は、簡単な器具を使用して、捻りの力が一定になるようにすることもできる。
【0017】
そして、本実施形態では、試料10を包み込んだ部分12のガーゼ11を捻って水分を浸出させたら、ガーゼ11を開いて絞った後の試料10を観察すると共に、ガーゼ11には、高有機質土の試料10から浸出した浸出水の色が着色するので、この着色した色を予め作成した高有機質土の分解度に応じた色見本と対比する。また、ビーカー13に回収された浸出水の色を観察すると共に、好ましくは回収された浸出水から高有機質土の試料10に含まれる水分のpHを測定する。
【0018】
なお、本実施形態では、開いたガーゼ11の上において、残った試料10を容易かつ精度良く観察することができると共に、ガーゼ11を介してビーカー13に回収された浸出水の色を、容易かつ精度良く観察することができる。本実施形態では、例えば浸出水の色はやや濃い泥炭色であり、絞った後の試料10は、比較的分解の進んだ土で、全体として粘性が認められ、また色調は黒色〜極暗褐色を呈している。これらのことから、図3に示したフォンポスト法による分解度判別表にあてはめてみると、地盤工学会の判定基準によれば、分解度はH5と評価される。なお、フォンポスト法による分解度判別表には、「A.地盤工学会の判定基準」と「B.北海道開発庁の判定基準」があるが、北海道開発庁の判定基準は、北海道に分布する泥炭層(ローカルソイル)を対象としたものであることから、判定には地盤工学会の判定基準を採用した。
【0019】
本実施形態では、ガーゼ11に着色した高有機質土の試料10から浸出した水分の色を、予め作成した高有機質土の分解度に応じた色見本と対比して、採取した高有機質土の試料10の分解度を判定するする。ここで、高有機質土の分解度に応じた色見本は、例えば見本作成用の試料として種々の高有機質土の土壌から予めサンプリングした試料に対して、例えば室内実験によって分解度を精度良く測定すると共に、各サンプリングした試料に対して、上述の方法と同様の方法によって、所定量の試料10をガーゼ11に包み込んで所定回数捻ることにより、浸出水をガーゼ11に着色させる。そして、これらの各サンプリングした試料の分解度とガーゼ11に着色させた色とに基づいて、高有機質土の分解度を判別するための、各分解度に対応するガーゼに着色した浸出水の色を表示する色見本を容易に作成することができる。
【0020】
そして、本実施形態の高有機質土の簡易分解度試験方法によれば、フォンポスト法に代わる方法として、判定結果に大きなバラツキや誤差が生じるのを軽減し、試料の採取現場において、より定量的に精度良く高有機質土の分解度を判定することができる。すなわち、本実施形態では、現場で採取した所定重量の試料を市販のガーゼ11に包み込んで所定回数捻り、高有機質土の試料10から浸出する水分の色をガーゼ11に着色させて、予め作成した色見本の色と対比することにより高有機質土の分解度を判定するので、色見本を作成してさえおけば、試料の採取現場で簡易な試験用具を用いて迅速かつ容易に高有機質土の分解度を判定することが可能になる。またフォンポスト法と比較して、試料の重量、試験方法等を容易に定量化できることから、多くの熟練や経験を要することなく、バラツキや誤差の少ない精度良の良い判定結果を、より客観的に得ることが可能になる。
【0021】
また、本実施形態では、ガーゼ11やビーカー13を介して、絞った後の試料10や浸出水をより精度良く観察することができると共に、回収された浸出水から高有機質土の試料10に含まれる水分のpHを測定することにより、高有機質土の物性をさらに詳しく知ることができ、また大まかな含水比を測定することも可能である。さらに、浸出水の色が着色したガーゼ11は、平面的なサンプルとして保存しておくことも可能であり、絞った後の試料10やビーカー13に回収した浸出水を用いて、高有機質土の物性を知るためのその他の種々の試験を引き続いて行うことも可能である。
【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、ガーゼ11に包み込まれる試料の重量を20gとしたり、試料を包み込んだ部分を捻る回数を10回とする必要は必ずしもなく、試料の採取現場において簡易に試験を行うことができる範囲で、適宜増減変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一握りの試料をガーゼに包み込み前の状態を説明する斜視図である。
【図2】試料を包み込んだ部分を捻って、高有機質土の試料に含まれる水分を浸出さる状況を説明する斜視図である。
【図3】フォンポスト法において用いる分解度判別表の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10 試料
11 ガーゼ
12 試料を包み込んだ部分
13 ビーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高有機質土の分解度を試料の採取現場において判定するための高有機質土の簡易分解度試験方法であって、
一握りの試料を包み込む大きさのガーゼに採取した試料を包み込み、包み込んだ部分を捻ることにより前記高有機質土の試料に含まれる水分を浸出させて、ガーゼに浸出水の色を着色させ、予めサンプリングした分解度の異なる複数の高有機質土の試料から作成された、ガーゼに着色した浸出水の高有機質土の分解度に応じた色見本と対比して、採取した前記高有機質土の試料の分解度を判定する高有機質土の簡易分解度試験方法。
【請求項2】
前記一握りの試料として15〜25gの間で予め定められた所定重量の試料を採取して前記ガーゼに包み込み、10〜20回の間で予め定められた所定回数、前記試料を包み込んだ部分を捻ることにより、前記高有機質土の試料に含まれる水分を浸出させる請求項1に記載の高有機質土の簡易分解度試験方法。
【請求項3】
10秒〜3分の間で予め定められた所定時間、前記試料を包み込んだ部分を所定回数捻ったままの状態に保持する請求項1又は2に記載の高有機質土の簡易分解度試験方法。
【請求項4】
浸出した前記高有機質土の試料に含まれる水分のpHを測定する請求項1〜3のいずれかに記載の高有機質土の簡易分解度試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−101292(P2007−101292A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289759(P2005−289759)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】