説明

高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システム

【課題】 安価で、かつ高精度の高架橋柱の最大応答部材角を測定するシステム測定装置を用いた地震災害計測システムを提供する。
【解決手段】高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、高架橋柱の2方向の最大応答部材角を測定するセンサーシステムと、このセンサーシステムからの計測データを伝送する無線LAN方式もしくはRF−IDタグ方式の伝送システムと、この伝送システムから伝送される計測データを取込み、前記高架橋柱の損傷度評価を行う評価システムとを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムに係り、特に、高架橋柱の最大応答部材角と損傷レベルを計測するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、地震そのものを検知するシステムとして加速度センサーを用いて得られたデータより柱の損傷状況を推定し、列車運行等の可否を判断するシステムは存在しているが、部材の損傷を直接的に把握するシステムは存在していない。
【0003】
また、最大ひずみ記憶センサーを用いた橋梁の診断技術(下記非特許文献1)が提案されている。
【非特許文献1】下見成明,松井義昌、新川秀一、中泉義政:「最大ひずみ記憶センサーを用いた橋梁の診断技術」,「耐震補強・補修技術,耐震診断技術に関するシンポジウム」講演論文集,Vol.3,pp.143−150,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加速度データでは、実際の損傷状態を把握するには精度が落ちるため、柱の損傷を直接的に把握するシステムが求められている。その指標として最大応答部材角があり、高架橋柱の最大応答部材角を安価で、かつ高精度に測定し、広域の地震災害を計測できるシステムが望まれている。
【0005】
本発明は、上記状況に鑑みて、安価で、かつ高精度の高架橋柱の最大応答部材角を測定するシステム測定装置を用いた地震災害計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、高架橋柱の2方向の最大応答部材角を測定するセンサーシステムと、このセンサーシステムからの計測データを伝送する無線LAN方式もしくはRF−IDタグ方式の伝送システムと、この伝送システムから伝送される計測データを取込み、前記高架橋柱の損傷度評価を行う評価システムとを具備することを特徴とする。
【0007】
〔2〕上記〔1〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記センサーシステムは、前記高架橋柱のブロック毎に1個程度配置することを特徴とする。
【0008】
〔3〕上記〔2〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記センサーシステムから、測定データを短距離の無線LAN送信部へ送り、次いで、短距離無線LAN受信部へ送り、さらに、長距離の無線LANの送受信によりリレー形式で指令所へと伝送することを特徴とする。
【0009】
〔4〕上記〔2〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記センサーシステムから、測定データをRF−IDタグ方式を用いて指令所へ伝送することを特徴とする。
【0010】
〔5〕上記〔1〕記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記評価システムは、高架橋柱の最大応答部材角と高架橋柱の損傷レベルとの関係を把握することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0012】
(1)機械式ピークセンサーにより簡便に高架橋柱の最大応答部材角を測定し、広範な地域の高架橋柱の地震災害の計測を実施することができる。
【0013】
(2)1つの装置で、2方向の高架橋柱の最大応答部材角の測定を高精度に行うとともに、各高架橋柱の損傷レベルを把握することができる。
【0014】
(3)センサーシステムは、高架橋柱のブロック毎に1個配置することにより、高架橋全体の損傷レベルを計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムは、広範な地域の高架橋柱の地震災害の計測に利用可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例を示す高架橋柱の最大応答部材角を測定するシステム測定装置を用いた地震災害計測システムの模式図である。
【0018】
この図において、1は高架橋柱、2はその高架橋柱1の天端部に設置される高架橋のX方向(線路方向)とY方向(線路直角方向)の2方向の最大応答部材角θを測定可能なセンサーシステム、3はセンサーシステム2からの計測データを伝送する伝送システム、4はその伝送システム3を介して伝送された計測データを取込み、評価する評価システムからなる。
【0019】
評価システム4には設置位置データAと応答最大部材角Bと損傷レベルCとを取得できるようにしている。その高架橋柱1の場合、1ブロックに1個のセンサーシステムを配置することにより、高架橋の損傷レベルを正確に把握することができる。
【0020】
まず、本発明にかかる地震災害計測システムのセンサーシステムについて説明する。
【0021】
図2は本発明の実施例を示すセンサーシステムの模式図、図3は図2における機械式センサーとしてのピークセンサーの模式図、図4はその最大応答部材角測定装置の外観を示す代用図面としての写真である。
【0022】
この図において、11は高架橋柱、11Aはその高架橋柱における塑性ヒンジ区間(RC柱部材の基部付近の損傷が集中する箇所)、12はその高架橋柱11に支持される上層梁、13AはX方向に配置される第1のピークセンサー、13BはそのX方向に直交するY方向に配置される第2のピークセンサー〔この第2のピークセンサー13Bは、Y方向に第1の治具(図示なし)が設けられており、Y方向に第1のピークセンサー13Bと同様の構造のピークセンサーが配置されている〕。14はピークセンサーを取りつけた第1の治具、15は第1の治具14と上層梁12との接続箇所、16はアーム、17はそのアーム16の先端と高架橋柱11との間に設けられる第2の治具、18はアーム揺動部、19はアーム揺動部18を構成する2層のボールベアリング、20は第2の治具17と高架橋柱11との接続箇所である。
【0023】
なお、第2の治具17の先端には、穴(図示なし)が形成されており、その穴にアーム16の先端が貫通し係合するようにしている。また、アーム16とピークセンサー13A,13Bとは、例えば、ピークセンサー13A,13Bの先端部に固定された2個の円筒状体の間に係合するようにしている(図4参照)。
【0024】
表1にはピークセンサーの仕様が示されており、ピークセンサーの寸法は、例えば、127×18×32mm、重量は155g、検出範囲±10mm、分解能は2μmである。
【0025】
【表1】

図3において、21はケース部分、22は第1の可動部分、23は第2の可動部分、24は正側、25は負側、26は第1の可動部分22に接続される正側最大値検出機構、27は正側最大値検出機構26にかかるポテンショメータ、28は第2の可動部分23に接続される負側最大値検出機構、29は負側最大値検出機構28にかかるポテンショメータである。
【0026】
このように、ピークセンサー13A,13Bは正側24と負側25の両方の最大変位量を検知し、記憶することが可能である。ここで、ピークセンサー13の検出範囲は±10mmであるため、図2に示すように、幾何学的な相似の関係を利用して部材角θを測定できる第1の治具14を用いた。ただし、高架橋柱11の柱端部では、地震により全方位に振動することが予測される。そこで、図4に示すように、アーム16とピークセンサー13A(X方向に配置),ピークセンサー13B(Y方向に配置)とは、例えば、ピークセンサーの先端部に固定された2個の円筒状体の間に係合するように構成されているので、任意方向の変位量をX方向(路線方向)とY方向(路線直角方向)成分に分解し、1つの装置で2方向の最大応答部材角を測定する機構を提供することができる。
【0027】
この最大応答部材角測定装置を実構造物に設置する場合、第1の治具14と上層梁12の接続箇所15は、第2の治具17と高架橋柱11の接続箇所20は、塑性ヒンジ区間(RC柱部材の基部付近の損傷が集中する箇所)11Aを避ける位置となるようにした。
【0028】
最大応答部材角測定装置に生じるガタつきおよび機械的な歪みは、測定精度に大きく影響する可能性がある。そのため、正弦波加振や円加振による予備実験結果をもとに、アーム揺動部18のボールベアリング19を2層に設置したり、ピークセンサー13を取りつけた第1の治具14の剛性を高める等、最大応答部材角測定装置の改善を図っている。
【0029】
次に、本発明の地震災害計測システムの伝送システムについて説明する。
【0030】
図5は本発明にかかる無線LANの伝送システム例を示す代用図面としての写真である。
【0031】
データの即効性を求められる伝送システム(無線LAN)を構築し、被災直後、測定データを指令所(例えば、土木技術センター等)に伝送する。
【0032】
なお、無線LAN方式のデータ転送システムの試作を実施し(図5参照)、センサーシステム2より得られたデータについて、送信機と受信機の距離が100m程度、障害物が少ない箇所では最大300m程度転送可能であることを確認した。
【0033】
図6は本発明にかかる無線LANの伝送システム例を示す図である。
【0034】
この図において、31はセンサーシステム、32はセンサーシステム31からの測定データを短距離(数10m程度)送信する無線LAN送信部、33は無線LAN送信部32から送信された測定データを受信する短距離無線LAN受信部、34は指令所、35はセンサーシステム31と指令所34に接続される電源である。
【0035】
ここでは、センサーシステム31から、測定データを短距離(数10m程度)無線LAN送信部32へ送り、次いで、短距離無線LAN受信部33へ送る。さらに、長距離(数100m程度)無線LANの送受信によりリレー形式で指令所34まで伝送する。
【0036】
また、無線LAN方式に代えて、RF−IDタグ方式を用いた伝送システムを用いるようにしてもよい。
【0037】
図7は本発明にかかるRF−IDタグの伝送システム例を示す図である。
【0038】
この図において、41はセンサーシステムであり、ここでは、センサーはそれぞれIDタグを備えている。42はセンサーシステム41からそのセンサーのID情報とともに、測定データを送信するRF−IDタグ送信部、43はRF−IDタグ送信部42から送信されたID情報と測定データを受信する携帯用RF−IDタグ受信部である。
【0039】
ここでは、それぞれのセンサーシステム41からのID情報と測定データをRF−IDタグ送信部42を介してRF−IDタグ受信部43で収集するようにしている。
【0040】
次に、本発明にかかる評価システムについて説明する。
【0041】
評価システムでは損傷度評価手法の構築を行う。具体的には、最大応答部材角と損傷レベルとの関係をパラメータより把握し、簡易な標準値の数表として表す。この標準値を用いて、各柱の損傷レベルの閾値とする。
【0042】
表2に入力パラメータの種類を示す。
【0043】
【表2】

このようにして、損傷レベル閾値の設定から評価システムのアウトプットの概念(表3)〜(表5)が示される。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムは、高架橋柱の損傷度合を広範囲に精確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例を示す高架橋柱の最大応答部材角を測定するシステム測定装置を用いた地震災害計測システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示すセンサーシステムの模式図である。
【図3】図2における機械式センサーとしてのピークセンサーの模式図である。
【図4】本発明の実施例を示す最大応答部材角測定装置の外観を示す代用図面としての写真である。
【図5】本発明にかかる無線LANの伝送システム例を示す代用図面としての写真である。
【図6】本発明にかかる無線LANの伝送システム例を示す図である。
【図7】本発明にかかるRF−IDタグの伝送システム例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 高架橋柱
2,31,41 センサーシステム
3 伝送システム
4 評価システム
11 高架橋柱
11A 塑性ヒンジ区間
12 上層梁
13A 第1のピークセンサー(X方向に配置)
13B 第2のピークセンサー(Y方向に配置)
14 第1の治具
15 センサー部と上層梁との接続箇所
16 アーム
17 第2の治具
18 アーム揺動部
19 2層のボールベアリング
20 第2の治具と高架橋柱との接続箇所
21 ケース部分
22 第1の可動部分
23 第2の可動部分
24 正側
25 負側
26 正側最大値検出機構
27,29 ポテンショメータ
28 負側最大値検出機構
32 無線LAN送信部
33 短距離無線LAN受信部
34 指令所
35 電源
42 RF−IDタグ送信部
43 携帯用RF−IDタグ受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高架橋柱の2方向の最大応答部材角を測定するセンサーシステムと、
(b)該センサーシステムからの計測データを伝送する無線LAN方式もしくはRF−IDタグ方式の伝送システムと、
(c)該伝送システムから伝送される計測データを取込み、前記高架橋柱の損傷度評価を行う評価システムとを具備することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システム。
【請求項2】
請求項1記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記センサーシステムは、前記高架橋柱のブロック毎に1個程度配置することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システム。
【請求項3】
請求項2記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記センサーシステムから、測定データを短距離の無線LAN送信部へ送り、次いで、短距離無線LAN受信部へ送り、さらに、長距離の無線LANの送受信によりリレー形式で指令所へと伝送することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システム。
【請求項4】
請求項2記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記センサーシステムから、測定データをRF−IDタグ方式を用いて指令所へ伝送することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システム。
【請求項5】
請求項1記載の高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システムにおいて、前記評価システムは、高架橋柱の最大応答部材角と高架橋柱の損傷レベルとの関係を把握することを特徴とする高架橋柱の最大応答部材角測定装置を用いた地震災害計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−51676(P2008−51676A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228683(P2006−228683)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591248223)株式会社計測リサーチコンサルタント (12)
【Fターム(参考)】