説明

高機能性不織布とその製造方法およびその用途

【課題】
耐久性ある吸水性を有し、柔軟性に優れ、かつ優れた機能性が付与された高機能性不織布とその製造方法およびその用途を提供する。
【解決手段】
不織布構造体中に水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが不織布質量に対して0.001〜10質量%存在しており、さらにポリビニルアルコール中に平均粒子径が50nm以下の金属化合物が微細に分散しており、その含有量がポリビニルアルコールに対して0.5質量%以上であることを特徴とする不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能化された不織布とその製造方法および用途に関する。より詳細には、複合繊維を構成していた水溶性かつ熱可塑性のポリビニルアルコールが不織布の内部に一部残存し、さらにポリビニルアルコール中に機能性金属化合物が微細に分散している不織布、その製造方法およびそれを使用したワイパー、フィルター等の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維・不織布に各種性能を付与し、高機能化する方法として、種々の技術が開発されている。例えば、高機能性のポリマーを繊維化して不織布を製造する方法、各種機能化剤を予めポリマーに配合して繊維・不織布化する方法、あるいは後工程にて不織布に各種機能化剤を付与する方法などが挙げられる。特に最近は各種機能化剤の開発が進んでいることから、機能剤を活用することにより幅広い用途展開が可能であり、親水性、導電性、抗菌・消臭性など、さまざまな分野にて利用されている。
【0003】
しかし、上記機能化剤にて効率良く性能付与を行うためには、種々の課題も残されている。例えば、予めポリマー中に配合する場合、紡糸後の繊維中に均一に機能化剤が存在することになり、繊維表面のみに存在させることが極めて困難なため、多量に機能化剤を配合する必要がある。また、後加工にてコーティング等により機能化剤を付与する場合、不織布構造体中に均一に分散させることが困難であり、品質の安定性に問題が生じる場合がある。
さらにバインダー樹脂等の接着剤が必要となる場合には、それらが品質に悪影響を及ぼすことがあり、さらにバインダー樹脂等で機能化剤表面が被覆されてしまうことで、機能の発現が妨げられる場合がある。
このようなことから、各種機能化剤を不織布構造体中の繊維表面に均一に付与する方法
が確立できれば、あらゆる分野にて有用な技術となることが期待できる。
【0004】
一方、本発明者等は、水溶性でかつ溶融成形可能なポリマーとして、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを提案している。ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することもある)は水溶性のポリマーであって、その基本骨格と分子構造、形態、各種変性により水溶性の程度を変えることができることが知られている。また、PVAは生分解性であることが確認されており、地球環境的に、合成物を自然界といかに調和させるかが大きな課題となっている現在、このような基本性能を有するPVAは多いに注目されている。
【0005】
上記したようなPVAを不織布に付与する方法として、不織布にPVA水溶液を付与し乾燥させる方法が考えられるが、この方法の場合には、付与したPVAが水や温水により簡単に脱落し、本発明が目的とする耐久性ある吸水性および機能性は得られない。また、この方法において、PVAが水により簡単に脱落することを防ぐ方法として、付与したPVA水溶液の乾燥条件として、PVAが結晶化するような高い温度を採用することにより、付与したPVAの耐久性ある吸水性を高める方法も考えられるが、この方法の場合には、結晶化した後のPVAは吸水性が低下するという問題があり、十分な吸水性は得られていない。
【0006】
本発明者等は、水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマーから構成された溶融紡糸による複合繊維からなる不織布からPVAを特定の条件下にて抽出除去および乾燥処理することにより、他の熱可塑性ポリマーからなる極細繊維を主成分としながらも、微量のPVAが不織布構造体中に均一に残存することで、耐久性を有し、かつ吸水性を示す不織布が得られることを見出している(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
PVAは分子構造中に多数の水酸基を有しており、それら官能基を活用することで、金属化合物や無機化合物など各種化合物を配位させることが可能であり、その結果、水酸基による親水性能以外にも新たな性能を付与することが可能であるが、このような親水性能以外にも新たな性能を付与する技術が今だ確立されていないのが現状であった。
【0008】
【特許文献1】特開2006−089851号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、不織布構造体内にPVAおよび各種機能化剤を微細に分散させることにより、耐久性ある吸水性を有し、柔軟性に優れ、かつ優れた機能性が付与された高機能性不織布とその製造方法およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマーから構成された複合紡糸繊維による不織布から該水溶性熱可塑性PVAを特定の条件下にて抽出除去し、さらには微量に残存するPVA中に機能化剤を微細に分散させることにより、耐久性に優れ、かつ吸水性および優れた機能性を有する不織布が得られることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、不織布構造体中に水溶性熱可塑性PVAが不織布質量に対して0.001〜10質量%存在しており、さらにPVA中に平均粒子径が50nm以下の金属化合物が分散しており、その含有量がPVAに対して0.5質量%以上であることを特徴とする不織布であり、好ましくは不織布構造体が平均繊度0.5dtex以下の極細長繊維からなることを特徴とする上記の不織布であり、より好ましくは不織布構造体表面の30%以上が水溶性熱可塑性PVAにより被覆されている上記の不織布である。
【0012】
また本発明は、水溶性熱可塑性PVAが、好ましくは炭素数4以下のαオレフィン単位を0.1〜20モル%含有する変性PVAである上記の不織布であり、より好ましくは水溶性熱可塑性PVAがエチレン単位を3〜20モル%含有する変性PVAである上記の不織布であり、さらに好ましくは不織布中に硫化銅、硫化亜鉛、酸化鉄(フェライト)、酸化銀からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物が分散されていることを特徴とする上記の不織布である。
【0013】
また本発明は不織布が、好ましくは熱エンボス・カレンダー法による部分的な熱圧着により形態を維持している上記の不織布であり、より好ましくは不織布がウォータージェット法またはニードルパンチ法による繊維絡合処理により形態を維持している上記の不織布である。
【0014】
さらに本発明は、不織布が好ましくはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーからなる上記の不織布であり、より好ましくは上記の不織布と他の不織布が積層されている不織布積層物である。
【0015】
そして本発明は、水溶性熱可塑性PVAおよび他の熱可塑性ポリマーからなる複合繊維不織布を製造する方法において、下記(a)および(b)の工程により不織布構造体中に金属化合物を生成させることを特徴とする機能性不織布の製造方法である。
(a)複合繊維からPVAの大部分を水で溶解除去すると共に、該PVAの一部を不織布構造体中に残存させる工程。
(b)上記工程で得られた不織布を、金属イオンを含む化合物(A)が10〜200g/Lの濃度で溶解された浴を通してPVA中に該化合物を均一に浸透させ、次いで金属イオンを還元させる反応剤(B)が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴を通して金属化合物と反応させることで、平均粒子径が50nm以下の金属化合物を生成させる工程。
さらに本発明は、上記不織布からなるワイパー、フィルター等に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、熱可塑性ポリマーからなる繊維を極細繊維として形成させることができる。その結果繊維表面積が大きくなり、繊維中に各種機能化剤を微細に分散させることができるので、耐久性に優れ、かつ吸水性および優れた機能性を有する不織布を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられる水溶性熱可塑性PVAは、PVAのホモポリマーは勿論のこと、例えば、共重合、末端変性、および後変性により官能基を導入した変性PVAも包括するものである。勿論、溶融紡糸可能なものであらねばならない。通常の一般市販PVAは溶融温度と熱分解温度が近接しているため溶融紡糸することが困難であり(すなわち熱可塑性ではなく)、種々の工夫が必要である。
【0018】
PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜800が好ましく、230〜600がより好ましく、250〜500が特に好ましい。通常の繊維用に使用されるPVAは、重合度が高いほど高強度繊維が得られることから、重合度1500以上のものが一般的であり、例えば重合度約1700のものや約2100のものが一般的である。そのことから考えると、本発明で用いられるPVAの重合度200〜800は極めて低いと言える。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、その結果として満足な複合繊維不織布が得られない場合がある。一方、重合度が800を越えると溶融粘度が高すぎて紡糸ノズルからポリマーを吐出することができず、満足な複合繊維不織布を得られない場合がある。
【0019】
PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、PVAを完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0020】
本発明に用いられるPVAのけん化度は90〜99.99モル%の範囲が好ましく、92〜99.9モル%がより好ましく、94〜99.8モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって安定な複合溶融紡糸を行うことができない場合がある。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することが困難である。
【0021】
PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを生産性よく得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0022】
本発明の不織布を構成するPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変成PVAであってもよいが、複合溶融紡糸性、吸水性、繊維物性および不織布物性の観点からは、共重合単位を導入した変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等のオキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類またはそのエステル化物、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、共重合PVAを構成する全単位のモル数を100%とした場合の通常その20モル%以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01モル%以上が上記共重合単位であることが好ましい。
【0023】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテートで代表されるアリルエステル類、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、 N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0024】
特に、共重合性、溶融紡糸性および繊維物性等の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類およびビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、0.5〜18モル%がより好ましい。
さらに、α−オレフィンがエチレンである場合には、特に繊維物性が高くなることからもっとも好ましく、特にエチレン単位が3〜20モル%存在する場合が好適であり、より好ましくは5〜18モル%エチレン単位が導入された変性PVAを使用する場合である。
【0025】
本発明で使用するPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜200℃の範囲が適当である。
【0026】
本発明で使用するPVAはアルカリ金属イオンを含有し、その割合はPVA100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.00001〜0.05質量部が好ましく、0.0001〜0.03質量部がより好ましく、0.0005〜0.01質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.00001質量部未満のものは工業的に製造困難である。またアルカリ金属イオンの含有量が0.05質量部より多い場合には複合溶融紡糸時のポリマー分解、ゲル化および断糸が著しく、安定に繊維化することができない場合がある。なお、アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等が挙げられる。
【0027】
通常の場合、アルカリ金属イオンはビニルエステル系樹脂をけん化してPVAを製造するに際し、けん化触媒としてアルカリ金属イオンを含有するアルカリ性物質を使用し、けん化後のPVA樹脂を洗浄液で洗浄することにより、PVA樹脂中の含有量が制御される。ただし、特定量のアルカリ金属イオンをPVA中に含有させる目的で、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加してもよい。なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0028】
けん化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが挙げられる。けん化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括添加しても良いし、けん化反応の途中で追加添加しても良い。
【0029】
けん化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがもっと好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオンの含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましい。
【0030】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、PVAには融点や溶融粘度を調整する等の目的で可塑剤を添加することが可能である。可塑剤としては、従来公知のもの全てが使用できるが、ジグリセリン、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル類、グリコール類にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加したものが好適に使用される。そのなかでも、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル%付加した化合物が好ましい。
【0031】
本発明の不織布構造体中に存在する水溶性熱可塑性PVAの割合は、不織布質量に対して0.001〜10質量%であることが必要であり、0.01〜4質量%であることが好ましく、0.03〜3.5質量%であることがより好ましく、0.05〜3質量%であることが特に好ましい。水溶性熱可塑性PVAの割合が10質量%より多い場合には、使用時に水溶性熱可塑性PVAの溶出が高くなり、また不織布の柔軟性が低下する。一方、水溶性熱可塑性PVAの割合が0.001質量%より少ない場合には、機能化剤の配合量も低下し、不織布の機能化が十分でなく、各種用途で使用する際に満足する性能を得ることができない。なお、不織布構造体中の水溶性熱可塑性PVAの割合は、複合繊維不織布から該水溶性熱可塑性PVAを水で抽出除去する際、温度、時間、浴比等の抽出条件を制御することにより調整が可能である。すなわち、抽出除去温度を高くする、抽出時間を長くする、あるいは抽出時の浴比を大きくすることにより、PVA残存量を少なくすることができる。
【0032】
本発明においては、不織布構造体表面の30%以上が水溶性熱可塑性PVAで被覆されていることが好ましく、50%以上の場合がより好ましい。水溶性熱可塑性PVAによる被覆率が30%未満の場合には、不織布の性能が十分でない場合がある。
不織布構造体表面の水溶性熱可塑性PVA被覆率はX線光電子分光法により分析することができる。
【0033】
また本発明は、機能化剤として金属化合物ナノ微粒子を含有することが必須である。
該金属化合物の平均粒子径は、50nm以下のナノ粒子であることが必要であり、20nm以下であることが好ましい。そのようなナノ微粒子として存在することにより、粒子間距離の著しい減少が可能となり、不織布として優れた機能を発現することができる。一方、平均粒子径が50nmより大きい場合、十分なナノサイズ効果が得られず、不織布として十分な機能を発現することができない。
金属化合物の粒子径は、金属イオンを浸透させる際の処理条件によりコントロールすることが可能である。例えば、処理液の濃度を高くし、処理回数を減らすことで粒子径は大きくなり、一方、処理液の濃度を低くし、処理回数を増やすことで粒子径は微細になる傾向を示す。
【0034】
また本発明では、金属化合物ナノ微粒子を水溶性熱可塑性PVAに対して0.5質量%以上含有していることが必要であり、1.0質量%以上含有していることが好ましい。金属化合物ナノ微粒子の含有量が0.5質量%より少ない場合、十分な機能を発現させることが困難である。一方、金属化合物ナノ微粒子の含有量が多過ぎると、機械的物性等の他の性能が低下する場合があることから、水溶性熱可塑性PVAに対して50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明では、PVAが水酸基を介して金属イオンと強い配位結合を形成する特徴を活かし、金属化合物微粒子を水溶性熱可塑性PVA中に均一に分散させることを特徴としている。すなわち本発明においては、まず不織布構造体中に存在する水溶性熱可塑性PVAに金属イオンを浸透させ、PVAの水酸基に配位させることが重要である。次いで配位結合した金属イオンを還元反応等で処理することにより、目的とする機能性の金属化合物ナノ微粒子を形成させることができる。
【0036】
本発明で使用する金属イオンを含有する化合物(A)としては、可溶であるものであれば特に制限はなく、金属イオンとしては、例えばマンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン等、種々の金属イオンが適用可能であり、またそれら金属イオンを含有する化合物としては、例えば酢酸塩、ギ酸塩、硝酸塩、あるいは塩化物、臭化物等、種々の化合物を用いることができる。
一方、金属イオンを還元する反応剤(B)についても、PVAの水酸基と金属イオンとの配位結合を切断してナノ微粒子を形成させる目的を成し得るものであれば特に制約はなく、例えば、酸化剤、硫化剤、沃化剤等が適用可能である。その中でも、硫化物イオンによる還元反応が最もよく用いられ、その化合物としては、硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫化水素等が挙げられる。
【0037】
上記各種金属イオンおよび反応剤の組み合せにより、各種微粒子の形成および機能化が可能である。例えば、硫化銅による導電性、熱伝導性、紫外・近赤外吸収性付与、硫化亜鉛による発光性付与、フェライト(酸化鉄)による磁性付与、沃化銀による超イオン伝導性付与、酸化銀による消臭性、抗菌性付与などが挙げられる。
【0038】
本発明に用いられる水溶性熱可塑性PVA以外の熱可塑性ポリマーの具体例としては、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート-ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルおよびその共重合体などが挙げられ、さらにナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12等の脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンおよびその共重合体、エチレン単位を25モル%から70モル%含有する水不溶性のエチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリスチレン系、ポリジエン系、塩素系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、フッ素系のエラストマー等の中から少なくとも一種類を選んで用いることができる。
本発明に好適に用いられるPVAと複合紡糸しやすい点からは、ポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリ乳酸、ナイロン6、ポリプロピレンおよびポリエチレンが好ましい。
【0039】
本発明において、水溶性熱可塑性PVA以外の熱可塑性ポリマーからなる繊維は平均0.5dtex以下の繊度を有している長繊維であることが好ましく、0.4dtex以下の繊度を有することがより好ましく、0.3dtex以下の繊度を有することが特に好ましい。繊度が0.5dtexよりも大きい場合には、繊維表面積が不十分となり、さらに柔軟性が低下する場合がある。また、下限値に関しては特に限定はないが、生産のし易さの点で0.001dtex以上が好ましい。
【0040】
次に本発明の不織布の製造方法について説明する。本発明の不織布は、水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマーからなる複合繊維で構成された不織布から該水溶性熱可塑性PVAを水で溶解(抽出)除去し、さらに水溶性熱可塑性PVA中に前記した機能性を付与する金属化合物を微細に分散させることにより製造することができる。
【0041】
水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマーからなる複合繊維不織布は、溶融紡糸と不織布形成を直結したいわゆるスパンボンド不織布の製造方法によって効率良く製造することができる。
【0042】
例えば、水溶性熱可塑性PVAと他の熱可塑性ポリマーをそれぞれ別の押出機で溶融混練し、引き続きこれら溶融したポリマーの流れをそれぞれ紡糸頭に導き、合流し、流量を計量し、紡糸ノズル孔から吐出させ、この吐出糸条を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて、目的の繊度となるように、1000〜6000m/分の糸条の引取り速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に堆積させて不織布ウエブを形成させ、引き続きこのウエブを部分熱圧着して巻き取ることによって複合繊維不織布を得ることができる。
【0043】
複合繊維不織布を構成する複合繊維の長さ方向に分離可能な複合断面としては、分割性や極細化後の繊維の均一性を考慮すると、図1に示すような海成分と島成分からなる海島型の形状を有するもの、あるいは図2に示すようなミカンの横断面形状型または扇型の形状を有するもの、短冊状に配列した貼り合せ型形状を有するものが好ましい。複合繊維の横断面形状が海島型である場合には、極細繊維形成成分である島成分の数としては5〜1000の範囲が均質性の点で好ましく、より好ましくは10〜600の範囲である。また複合断面がミカンの横断面形状型、扇型、或いは貼り合せ型の形状を有する場合には、複合繊維を構成する極細繊維形成成分は水溶性熱可塑性PVAにより2〜20個に分割されているのが生産性の点で好ましい。
【0044】
フィルターに用いる場合には、繊維の細さが重要であることから、細い繊維が得られやすい海島型の形状が好ましく、一方、ワイパーに使用する場合には、繊維断面が角張ったものがふき取り性に優れていることから、ミカン型の横断面形状または扇型の形状を有するもの、短冊状に配列した貼り合せ型形状を有するものが好ましい。
【0045】
本発明に用いる水溶性熱可塑性PVAと熱可塑性ポリマーとからなる複合長繊維不織布における水溶性熱可塑性PVAと熱可塑性ポリマーの質量比は目的に応じて適宜設定されるので特に制限はないが、5/95〜95/5が好適であり、10/90〜90/10がより好ましい。好適な範囲を外れた場合には複合した効果が現れない場合がある。
【0046】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、熱可塑性ポリマーおよび水溶性熱可塑性PVAには、必要に応じて可塑剤、安定剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤を重合反応時、またはその後の工程で添加することができる。
【0047】
また必要に応じて平均粒子径が0.01μm以上5μm以下の微粒子を0.05質量%以上10質量%以下、重合反応時、またはその後の工程で該熱可塑性ポリマーおよび水溶性熱可塑性PVAに添加することができる。微粒子の種類は特に限定されず、たとえばシリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の不活性微粒子を添加することができ、これらは単独で使用しても2種以上併用しても良い。特に平均粒子径が0.02μm以上1μm以下の無機微粒子、例えばシリカ等が添加されていることが好ましく、この場合には紡糸性、延伸性が向上する。
【0048】
本発明において複合繊維不織布を構成する繊維化の条件は、ポリマーの組み合せ、複合断面に応じて適宜設定する必要があるが、主に、以下のような点に留意して繊維化条件を決めることが望ましい。
紡糸口金温度は、複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点をMpとするときMp+10℃〜Mp+80℃の範囲が好ましく、せん断速度(γ)は500〜25000sec−1、ドラフト(V)は50〜2000の範囲で紡糸することが好ましい。また、複合紡糸するポリマーの組み合せから見た場合、紡糸時における口金温度とノズル通過時のせん断速度で測定したときの溶融粘度が近接したポリマー、例えば溶融紡糸口金温度において、せん断速度1000sec−1における溶融粘度差が2000poise以内である組み合せで複合紡糸することが紡糸安定性の面から好ましい。
【0049】
本発明におけるポリマーの融点Tmとは、示差走査熱量計(DSC:例えばMettler社「TA3000」)で観察される主吸熱ピークのピーク温度である。せん断速度(γ)は、ノズル半径をr(cm)、単孔あたりのポリマー吐出量をQ(cm/sec)とするとき、γ=4Q/πrで計算される。またドラフトVは、引取速度をA(m/分)とするとき、V=1000A・πr/Qで計算される。
【0050】
本発明の複合繊維を製造するに際して、紡糸口金温度が複合繊維を構成するポリマーのうち高い融点を持つポリマーの融点Mp+10℃より低い温度では、該ポリマーの溶融粘度が高すぎて、高速気流による曳糸・細化性に劣り、またMp+80℃を越えるとPVAが熱分解しやすくなるために安定した紡糸ができない。また、せん断速度は500sec−1よりも低いと断糸しやすく、25000sec−1より高いとノズルの背圧が高くなり紡糸性が悪くなる。ドラフトは50より低いと繊度むらが大きくなり安定に紡糸しにくくなり、ドラフトが2000より高くなると断糸しやすくなる。
【0051】
本発明において、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて吐出糸条を牽引細化させるに際し、1000〜6000m/分の糸条の引取速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させるのが好ましい。吸引装置による糸条の引取条件は、紡糸ノズル孔から吐出する溶融ポリマーの溶融粘度、吐出速度、紡糸ノズル温度、冷却条件などにより適宜選択するが、1000m/分未満では、吐出糸条の冷却固化遅れによる隣接糸条間の融着が起こる場合があり、また糸条の配向・結晶化が進まず、得られる複合不織布は、粗雑で機械的強度の低いものになってしまい好ましくない。一方、6000m/分を越えると、吐出糸条の曳糸・細化性が追随できず糸条の切断が発生して、安定した複合長繊維不織布の製造ができない場合がある。
【0052】
さらに、本発明の複合長繊維不織布を安定に製造するに際し、紡糸ノズル孔とエアジェット・ノズルのような吸引装置との間隔は30〜200cmが好ましい。該間隔は使用するポリマー、組成、上記で述べた紡糸条件にもよるが、該間隔が30cmより小さい場合には、吐出糸条の冷却固化遅れによる隣接糸条間の融着が起こる場合があり、また糸条の配向・結晶化が進まず、得られる複合不織布は、粗雑で機械的強度の低いものになってしまい好ましくない。一方、200cmを越える場合には、吐出糸条の冷却固化が進みすぎて吐出糸条の曳糸・細化性が追随できず糸条の切断が発生して、安定した複合長繊維不織布の製造ができない場合がある。
【0053】
エアジェット・ノズルのような吸引装置で細化された複合長繊維は、捕集用シート面上にほぼ均一な厚さとなるように分散捕集してウエブを形成する。吸引装置と捕集面との間隔としては30〜200cmであることが生産性、得られる不織布の繊維物性の観点から好ましい。また、ウエブの目付としては、5〜500g/mの範囲が不織布の生産性および後加工性の点で好ましい。更に吸引細化されたウエブ形成複合繊維の太さとしては0.2〜8dtexの範囲が生産性の点で好ましい。
【0054】
また本発明においては、不織布の目付として5〜500g/mの範囲が生産性および後加工性の点で好ましい。
【0055】
本発明では、複合繊維不織布から水溶性熱可塑性PVAを水で抽出除去することにより、熱可塑性ポリマーの極細化が可能である。複合繊維不織布から水溶性熱可塑性PVAを水で抽出する方法に関しては特に制約はなく、サーキュラー、ビーム、ジッカー、ウィーンス等の染色機やバイブロウォッシャー、リラクサー、タイミングウォッシャー等の熱水処理設備を使用する方法、高圧水流や蒸気を噴射する方法等、任意の方法を適宜選択することができる。高圧水流や蒸気を噴射する方法は、分割極細長繊維が相互に強く絡まされ、さらには毛細管現象により吸水性がより向上するという点で、非常に有効な方法あるが、高圧水流や蒸気を噴射するだけでは水溶性熱可塑性PVAの減少量が不十分である場合が多い。したがって、高圧水流や蒸気で処理した後、水浴中で不織布を攪拌処理して水溶性熱可塑性PVAの付着量を目的とする範囲する方法を用いることが好ましい。抽出水は中性でかまわないし、アルカリ水溶液、酸性水溶液、あるいは界面活性剤等を添加した水溶液であっても良い。
【0056】
特に本発明において重要なことは、水で水溶性熱可塑性PVAを抽出除去する際に、不織布内に水溶性熱可塑性PVAの一部が残存するように、除去処理を行わなければならないことである。そのためには、予め、除去処理に使用する水の量、処理方法、処理時間、処理温度等を種々変更して、水溶性熱可塑性PVAの残存量が適切な範囲となるようにこれら条件を決めておくのが好ましい。
【0057】
具体的には、本発明においては、水溶性熱可塑性PVAを水で抽出除去する方法として、水浴中で複合繊維不織布を処理して含有水溶性熱可塑性PVAを溶解除去する方法が好ましく、その際の水浴比は、複合繊維不織布の質量に対して100〜2000倍であることが好ましく、200〜1000倍であることがより好ましい。水浴比が100倍より少ない場合、水溶性熱可塑性PVAの溶解除去が不十分となり、目的とする極細繊維不織布が得られないことがある。また、水浴比が2000倍を越える場合には、複合繊維から極細繊維への分割性が低下することがある。もちろん、抽出除去が不十分な場合には、水溶性熱可塑性PVAを含まないフレッシュな水を用いて、再度水浴中で水溶性熱可塑性PVAを抽出除去する方法が用いられる。
【0058】
抽出処理温度は目的に応じて適宜調整すればよいが、熱水を用いて抽出する場合には、40〜120℃で処理するのが好ましく、60〜110℃で処理するのがより好ましく、80〜100℃で抽出処理を行うのが特に好ましい。処理温度が40℃より低い場合、水溶性熱可塑性PVAの抽出性が十分でなく、生産性が低下する。また、処理温度が120℃より高い場合には、水溶性熱可塑性PVAの溶解時間が極端に短くなり、目的とする水溶性熱可塑性PVAの割合での安定な生産が困難な場合がある。一旦、水溶性熱可塑性PVAが不織布から完全に抽出除去された場合には、その後で、水溶性熱可塑性PVA水溶液を付与する等の方法を用いて水溶性熱可塑性PVAを不織布に添加しても本発明で規定するような耐久性ある吸水性は得られ難い。
本発明の不織布が耐久性に優れた吸水性を有する理由としては、水溶性熱可塑性PVAが複合繊維の段階で繊維を構成している一成分であったことから、繊維を構成している他の熱可塑性ポリマーとの間で何らかの結合が存在していること、さらに、水溶性熱可塑性PVA除去後、PVAは繊維中あるいは繊維間の隙間の奥に主として存在していること等により、水溶性熱可塑性ポリマーを水により抽出除去する際の処理では繊維表面から脱落しにくい状態となっており、それが耐久性ある吸水性をもたらしているものと予想される。
【0059】
抽出処理時間についても、目的や使用する装置、処理温度に応じて適宜調整が可能であるが、生産効率、安定性、得られる極細繊維不織布の品質・性能等を考慮すると、バッチ処理を行う場合には10〜200分であることが好ましく、連続処理の場合は1〜20分であることが好ましい。
【0060】
本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋めておくと分解されて水と二酸化炭素になる。PVAを溶解した後の廃液の処理に特に制約はないが活性汚泥法が好ましい。該PVA水溶液を活性汚泥で連続処理すると2日間から1ヶ月で分解される。また、本発明に用いるPVAは燃焼熱が低く、焼却炉に対する負荷が小さいので、PVAを溶解した排水を乾燥させてPVAを焼却処理してもよい。
【0061】
次に本発明の機能性を付与する金属化合物ナノ微粒子を形成させる方法について説明する。
まず水溶性熱可塑性PVAが存在する不織布を、金属イオンを含む化合物(A)を溶解した浴を通過させて、該化合物を水溶性熱可塑性PVA中に含浸させる。その際、浴に用いる溶媒としては、メタノール等のアルコール類や水であることが好ましい。また金属イオンを含む化合物(A)の浴への溶解量は目的に応じて適宜設定すればよいが、10〜200g/Lの範囲であることが好ましい。添加量が10g/L未満の場合、目的とする物性が得られない場合があり、また200g/Lを超える場合には、工程性が安定しない場合がある。さらに浴の滞留時間については特に制限はないが、金属イオンを均一に含浸させ、PVAの水酸基と十分な配位結合を形成させるためには、浴での滞留時間は3秒以上、好ましくは30秒以上であることが望ましい。
【0062】
次に上記にて配位結合した金属イオンを酸化還元処理等する目的の反応剤(B)を溶解した浴を通過させる必要がある。その場合、前記反応剤(B)の浴への添加量は金属イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、1〜100g/Lの範囲であることが好ましい。添加量が1g/L未満の場合、目的とする機能化剤の形成が十分でない場合があり、また100g/Lを超える場合には、工程性が安定しない場合がある。この場合も滞留時間に特に制限はないが、十分な処理を施すためには、滞留時間は0.1秒以上であることが好ましい。
【0063】
さらに不織布の機能化を高めたい場合、上記の金属イオンを含浸させる工程と、酸化還元処理等を施す工程を繰り返し通過させることが効果的である。
【0064】
本発明の機能性不織布を乾燥する方法に関しては特に制約はなく、目的や装置、温度等を適宜選択することができる。ただし、ワイパー用途等で良好な吸水性能を発現させるためには、乾燥温度は120℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることが特に好ましい。乾燥温度が120℃を超える場合には、残存する水溶性熱可塑性PVAの結晶化が進行することにより、不織布構造体の含水率が低下し、吸水性能が低下する。もちろん、室温で乾燥を行なってもよい。また乾燥時間は、バッチ処理を行う場合には24時間以内であることが好ましく、連続処理の場合は1時間以内であることが好ましい。
【0065】
また本発明では、以上のようにして得られる機能性不織布を熱エンボス・カレンダー法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法、超音波シール法、スルーエアー法、ステッチボンド法、エマルジョン接着法、粉末ドット接着法等の接着・絡合方法により形態を保持する方法が採用される。その中でも、長繊維不織布としての外観、品質等の観点から、熱エンボス法、ウォータージェット法、ニードルパンチ法が特に好ましい。接合をどの段階で行うかについて特に制限はなく、必要に応じて適宜実施することが可能である。例えば、PVAを水抽出する前であってもよいし、PVAを水抽出した後で機能剤を分散処理する前でもよい。
【0066】
熱エンボスにて部分的な熱圧融着を行う方法としては、加熱された凹凸模様の金属ロール(エンボスロール)と加熱平滑ロールとの間に該ウエブを通して、部分的な熱圧着により繊維同士を結合させ、不織布としての形態安定化を図る。熱圧着処理における加熱ロールの温度、熱圧する圧力、処理速度、エンボスロールの模様等は目的に応じて適宜選択することができる。またエンボス模様で熱圧着された部分は、形態安定性と柔軟性、吸水性の観点から、不織布の表面積の5〜30%であることが好ましい。
【0067】
また、ウォータージェット法としては、例えばノズル径が0.02〜0.4mm、好ましくは0.05〜0.2mm、ピッチが0.1〜5mm、好ましくは0.5〜2mmで1列〜3列に配列したノズルプレート等を利用し、水圧1〜300kg/cmの水流で1回、あるいは複数回処理することにより繊維を分散させ、絡合させる方法が考えられる。
【0068】
さらにニードルパンチ法についても、油剤、ニードル形状、ニードル深度、パンチ数等、公知の条件から適宜選択することができる。例えばニードル形状は、バーブ数が多いほうが効率的であるが、針折れが生じない範囲で1〜9バーブが好ましく、深度はニードル針のバーブが不織布表面まで貫通するような条件でかつニードルマークが強く出ない範囲が好ましい。必要パンチ数は針の種類、油剤等の選択によるが、不織布の均質性あるいは柔軟性から50〜5000パンチ/cmで処理する方法が好ましい。
【0069】
また、本発明で得られる極細長繊維不織布は、単独で使用するのみではなく、他の長繊維不織布や短繊維不織布、織物や編物等と積層して用いることも可能であり、上記の用途に用いる場合、実用機能をさらに付与することができる。例えば、本発明の極細長繊維不織布の片面にメルトブローン不織布を積層すると、フィルター用途に適した極細繊維からなる積層不織布が得られる。
【0070】
以上のようにして機能化された不織布は、不織布構造体中に水溶性熱可塑性PVAの一部を残存させることによって、吸水性・保水性にも優れ、さらには良好な柔軟性を有することから、高機能性ワイパーとして使用することができる。具体的には、水性液を拭き取るワイパー、あるいはワイパーに水性液を含ませた状態で使用するウェットワイパー等のワイパー類として好適に使用することができる。
【0071】
本発明の高機能性不織布をワイパーとして使用する場合、80℃水中で60分間浸漬処理を行った後のバイレックス法による20℃、10分間の吸上性が30mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがより好ましく、60mm以上であることが特に好ましい。吸上性が30mm未満の場合には、十分な吸水機能を果たすことができない。このような耐久性ある吸水性は、特定太さの極細繊維からなる不織布に特定の熱可塑性PVAが残存され、かつそれが特定の条件で乾燥されること等により達成される。但し、吸上性が300mmを越えるようなものは製造することが困難である。なお、ここでいう「80℃水中で60分間浸漬処理」とは、「不織布の重量に対して1000倍の水量の80℃水中に不織布約20gを浸漬し、軽い攪拌条件下で60分間放置し、その後、不織布を取り出し、20℃の水で表面を洗い流し、その状態で80℃で3分間乾燥し、得られる不織布の吸上性を測定」する操作を言う。
【0072】
不織布の吸上性はJIS−1018−70「メリヤス生地試験法」(吸水性B法(バイレック法)KRT No.411−2)に準じて測定される。2.5cm×20cmの不織布の下端に荷重を取り付け、水溶性インク(インク/水=1/5)に試験片の下端1cmまで沈め、10分間保持したときの吸い上げ高さを測定する。
【0073】
また、本発明の機能性不織布は、極細繊維化が可能であり、表面積が大きく濾過性に優れることから、高機能性フィルター基材としても使用することができる。その場合、気体用フィルターだけでなく、その優れた吸水特性を活かすことで、異物が混合されている水性の液体から該異物を除去するような液体用フィルターとしても好適に使用することができる。フィルター基材として利用する場合、通気度が200cc/cm/sec以下であることが好ましく、160cc/cm/sec以下であることがより好ましく、120cc/cm/sec以下であることが特に好ましい。通気度が200cc/cm/secを越える場合には、十分なフィルター機能を果たすことができない場合がある。下限値に関しては特に限定されないが、フィルターとしての目的を達成する上で1cc/cm/secが下限値である。このような通気度はJIS−L1906「一般長繊維不織布試験方法」のフラジール法に準じて測定される。
【0074】
さらに目的に応じ、エレクトレット加工による帯電処理により、さらに捕集性を向上させることも可能である。
【0075】
また必要に応じ、さらに吸水性を向上させる目的で、各種親水化処理を行ってもよい。親水化処理方法としては、例えば、スルホン化処理、コロナ放電やプラズマ放電などの放電処理、グラフト重合処理、フッ素ガス処理などが挙げられる。
【0076】
その他にも、本発明の高機能性不織布は、優れた柔軟性、吸水性、濾過性と各種機能性を活かし、種々の用途で使用することができる。例として、絶縁材で代表されるエレクトロニクス用、油吸着材、皮革基布、セメント用配合材、ゴム用配合材、各種テープ基材などの産業用資材;紙おむつ、ガーゼ、包帯、医療用ガウン、サージカルテープなどの医療・衛材;印刷物基材、包装・袋物資材、収納材などの生活関連資材;衣料用;断熱材、吸音材などの内装材用;建設資材用;農業・園芸用資材;土壌安定材、濾過用資材、流砂防止材、補強材などの土木・資材用;鞄靴材等の用途を挙げることができる。
【0077】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において、各物性値は以下のようにして測定した。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0078】
[PVAの分析方法]
PVAの分析方法は、特に記載のない限り、JIS−K6726に従った。
変性量は、変性ポリビニルエステルあるいは変性PVAを用いて500MHz、H−NMR(日本電子株式会社製「GX−500」)装置による測定から求めた。アルカリ金属イオンの含有量は原子吸光法で求めた。
【0079】
[融点 ℃]
PVAの融点は、DSC(メトラー社製「TA3000」)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温後室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で250℃まで昇温した場合のPVAの融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を調べた。
【0080】
[紡糸状態]
溶融紡糸の状態を観察して次の基準で評価した。
◎:極めて良好、○:良好、△:やや難あり、×:不良
【0081】
[不織布の状態]
得られた不織布を目視観察および触手観察して次の基準で評価した。
◎:均質で極めて良好、○:ほぼ均質で良好、△:やや難あり、×:不良
【0082】
[PVA残存率 %]
30cm×30cmの不織布試料をオートクレーブ中で2000ccの水に浸漬し、120℃で1時間加熱処理した。処理後、熱水中から不織布を取り出して軽く搾り、抽出液を取り換えて同様の操作を実施。計3回の繰り返し処理により、不織布中の水溶性熱可塑性樹脂を完全抽出除去。処理前後の質量変化より、不織布中の水溶性熱可塑性樹脂の割合を求めた。
【0083】
[PVA被覆率 %]
X線光電子分光法(XPS)により不織布表面の構成元素および結合状態を解析し、その結果よりPVAの割合を算出した。
【0084】
[繊維繊度 dtex]
顕微鏡により倍率1000倍で撮影した不織布試料の拡大写真から、無作為に10本の繊維を選び、それらの繊維径を測定し、その平均値を平均繊維径とした。
【0085】
[不織布の目付 g/m
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0086】
[不織布の引張強度 N/5cm]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0087】
[金属化合物(硫化銅)含有量 %/PVA]
機能化処理後の不織布中の金属化合物(硫化銅)の含有量は原子吸光法で求めた。
【0088】
[金属化合物(硫化銅)粒子径 nm]
顕微鏡により倍率10000倍で撮影した不織布試料の繊維表面拡大写真から、無作為に50個の金属化合物微粒子を選び、それらの大きさを測定し、その平均値を平均粒子径とした。
【0089】
[柔軟性]
得られた不織布を触手観察して次の基準で評価した。
◎:極めて良好、○:ほぼ良好、△:やや硬い、×:硬く難あり
【0090】
[体積固有抵抗値(導電性)測定]
不織布を温度105℃で1時間かけて乾燥し、その後、温度20℃、湿度30%の条件下で24時間以上放置して調湿した。この不織布から5cm×5cmの試験片を採取し、該試験片の両端間に、横河ヒューレットパッカード社製の抵抗値測定機「MULTIMETER」を使用して、10Vの電圧をかけてその抵抗値(Ω)を測定した。体積固有抵抗値(ρ)(Ω・cm)=R×(S/L)より、各試験片の体積固有抵抗値を測定し、その平均値を不織布の体積固有抵抗値とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、Lは長さ(cm)を示す。
【0091】
[実施例1]
<エチレン変性PVAの製造>
撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口および開始剤添加口を備えた50L加圧反応槽に酢酸ビニル15.0kgおよびメタノール16.0kgを仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系内を窒素置換した。次いで反応槽圧力が5.5kg/cm(5.4×10Pa)となるようにエチレンを導入仕込みした。開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)をメタノールに溶解した濃度2.8g/L溶液を調整し、窒素ガスによるバブリングを行って窒素置換した。上記の重合槽内温を60℃に調整した後、上記の開始剤溶液170mlを注入し重合を開始した。重合中はエチレンを導入して反応槽圧力を5.5kg/cm(5.4×10Pa)に、重合温度を60℃に維持し、上記の開始剤溶液を用いて300ml/hrでAMVを連続添加して重合を実施した。9.0時間後に重合率が68%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下に未反応酢酸ビニルモノマーを除去しポリ酢酸ビニルのメタノール溶液とした。
【0092】
得られた該ポリ酢酸ビニル溶液にメタノールを加えて濃度が50%となるように調整したポリ酢酸ビニルのメタノール溶液2.0kg(溶液中のポリ酢酸ビニル1.0kg)に、0.48kg(ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニルユニットに対してモル比(MR)0.11)のアルカリ溶液(NaOHの10%メタノール溶液)を添加してけん化を行った。アルカリ添加後約5分で系がゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、60℃で3時間放置してけん化を進行させた後、0.5%酢酸濃度の水/メタノール=20/80混合溶液10.0kgを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVAに水/メタノール=20/80の混合溶液20.0kgを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、さらにメタノール10.0kgを加えて室温で3時間放置洗浄した。その後、遠心脱液して得られたPVAを乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥PVA(PVA−1)を得た。
【0093】
得られたエチレン変性PVAのけん化度は99.1モル%であった。また該変性PVAを灰化させた後、酸に溶解したものを用いて原子吸光光度計により測定したナトリウムの含有量は、変性PVA100質量部に対して0.0006質量部であった。
【0094】
また、重合後未反応酢酸ビニルモノマーを除去して得られたポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をn−ヘキサンに沈殿、アセトンで溶解する再沈精製を3回行った後、80℃で3日間減圧乾燥を行って精製ポリ酢酸ビニルを得た。該ポリ酢酸ビニルをDMSO−d6に溶解し、500MHz、H−NMR(日本電子株式会社製「GX−500」)を用いて80℃で測定したところ、エチレンの含有量は8.4モル%であった。上記のポリ酢酸ビニルのメタノール溶液をアルカリモル比0.5でけん化した後、粉砕したものを60℃で5時間放置してけん化を進行させた後、メタノールソックスレーを3日間実施し、次いで80℃で3日間減圧乾燥を行って精製されたエチレン変性PVAを得た。該PVAの平均重合度を常法のJIS K6726に準じて測定したところ350であった。さらに該精製された変性PVAの5%水溶液を調整し厚み10μmのキャスト製フィルムを作成した。該フィルムを80℃で1日間減圧乾燥を行った後に、DSC(メトラー社製「TA3000」)を用いて、前述の方法によりPVAの融点を測定したところ212℃であった(表1)。
上記で得られたPVAを日本製鋼所(株)二軸押出機(30mmφ)を用いて設定温度230℃、スクリュー回転数200rpmで溶融押出することによりペレットを製造した
【0095】
<海島型複合長繊維不織布の製造>
上記で得られたPVA(PVA−1)ペレットと、固有粘度が0.7、融点が240℃のポリエチレンテレフタレートにイソフタル酸を6モル%共重合したポリマーを準備し、それぞれのポリマーを別の押出機で加熱して溶融混練して、不織布を構成する複合長繊維の繊維軸に直交する繊維断面に占める質量比率がPET/PVA=70/30になるように260℃の海島型断面を有する複合紡糸パックに導き、ノズル径0.35mmφ×1008ホール、吐出量1050g/分、せん断速度2500sec−1の条件で紡糸口金から吐出させ、紡出フィラメント群を20℃の冷却風で冷却しながら、ノズルから80cmの距離にあるエジェクターにより高速エアーで4000m/分の引取り速度で牽引細化させ、開繊したフィラメント群をエンドレスに回転している捕集コンベア装置上に捕集堆積させ長繊維ウエブを形成させた。紡糸状態は、断糸は全く見られず、断面形状も極めて良好であった。
【0096】
次いで、このウエブを170℃に加熱した凹凸柄エンボスロールとフラットロールとの間で、線圧50kg/cmの圧力下で通過させ、エンボス部分熱圧着させることにより、単繊維繊度3.5dtexの長繊維からなる目付82g/mの海島型複合長繊維不織布を得た。得られた不織布は均質なもので極めて良好であった。複合長繊維不織布の製造条件を表2に記載する。
【0097】
得られた複合長繊維不織布約50mについて、サーキュラー型染色機(水浴800L、不織布質量に対する水浴比330倍、不織布回転速度約50m/分)を用い、PVA成分の抽出処理を行った。複合長繊維不織布投入後、室温から約5℃/分の速度で90℃まで昇温させ、さらに90℃にて30分間熱水処理を行った。これにより、複合長繊維不織布中のPVA成分を抽出除去した。さらに、このウエブを連続処理にて90℃で5分間熱風乾燥させることにより、ポリエチレンテレフタレートの極細長繊維不織布を得た。
得られた極細長繊維不織布のPVA残存率、被覆率、繊度、目付を表3に示す。
【0098】
次いで、上記で得られた極細長繊維不織布を、硝酸銅を280g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が600秒となるように導布し、引き続き、硫化ナトリウムを17g/L溶解した25℃の水浴に滞留時間が300秒となるように導布した。さらに25℃の水浴を通した後、95℃の熱風で5分間乾燥した。得られた不織布の性能評価結果を表4に示す。不織布中の硫化銅ナノ微粒子の含有量は5.1%/PVA、平均粒子径は8.2nmであった。また体積固有抵抗値は2.8×10Ω・cmであり、良好な導電性を示した。
【0099】
[実施例2〜6]
実施例1で用いたPVA−1あるいはポリエチレンテレフタレートの代わりに表1に記載するPVA2−4あるいはポリエチレンテレフタレート以外の熱可塑性ポリマー(ポリプロピレンあるいは6−ナイロン)を用いる以外は実施例1と同じ条件下にて複合長繊維からなる不織ウエブを製造し、実施例1と同様にサーキュラー染色機を用いて表2に記載する条件にてPVA成分を抽出し、さらには実施例1と同じ条件下にて導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0100】
[実施例7〜9]
実施例1で用いた海島型(25島)の断面形状を有する複合紡糸口金の代わりに、表2に記載する型状の複合紡糸用口金を用い、表2に記載する紡糸条件を採用し、適宜ノズル−エジェクター間距離およびラインネット速度、エンボス温度を調整する以外は実施例1と全く同じ条件下にて複合長繊維からなる不織ウエブを得た。複合繊維成分の質量比率はパックへのポリマー導入量を変えることで調整させた。さらには実施例1と同様にサーキュラー染色機を用いて表2に記載する条件にてPVA成分を抽出し、実施例1と同じ条件下にて導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0101】
[実施例10]
エンボス温度を70℃とする以外は実施例1と全く同じ条件下にて複合長繊維からなる不織ウエブを製造した。次いで、水流絡合機(水圧150kg/cm、不織布通過速度3m/分)を用いて高圧水流を噴射させることにより、複合長繊維を分割交絡処理した。得られたウエブを表2に示す条件下にてサーキュラー染色機による抽出を行い、実施例1と同じ条件で導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0102】
[実施例11]
エンボス温度を70℃とする以外は実施例1と全く同じ条件下にて複合長繊維からなる不織ウエブを製造した。次いで、ニードルパンチ法(針深度8mm、パンチ数500パンチ/cm、不織布通過速度2m/分)にて、複合長繊維を分割交絡処理した。得られたウエブを表2に示す条件下にてサーキュラー染色機による抽出を行い、実施例1と同じ条件で導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0103】
[実施例12〜13]
実施例1で製造した複合長繊維不織ウエブを使用し、表2に示す条件にてサーキュラー染色機によるPVA抽出処理を行い、実施例1と同じ条件で導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0104】
[実施例14〜16]
実施例1で製造した複合長繊維不織ウエブを使用し、実施例1と同じ条件にてサーキュラー染色機によるPVA抽出処理を行い、表4に記載する条件で導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0105】
[比較例1〜2]
実施例1で製造した複合長繊維不織ウエブを使用し、表2に示す条件にてサーキュラー染色機によるPVA抽出処理を行い、実施例1と同じ条件で導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0106】
比較例1については、熱水処理後のPVA残存率が高くなり、柔軟性に劣る極細長繊維不織布しか得られず、不織布として各種用途で使用するには困難なものであった。
比較例2については、熱水処理でPVAがほぼ完全に除去されたことにより、導電化処理による性能付与が不十分であった。
【0107】
[比較例3]
固有粘度が0.7、融点が240℃のポリエチレンテレフタレートのイソフタル酸6モル%共重合ポリマーを準備し、押出機内で加熱して溶融混練し、260℃の紡糸パックに導き、ノズル径0.35mmφ×1008ホール、吐出量859g/分、せん断速度3000sec−1の条件で紡糸口金から吐出させ、紡出フィラメント群を20℃の冷却風で冷却しながら、ノズルから80cmの距離にあるエジェクターにより高速エアーで4000m/分の引取り速度で牽引細化させ、開繊したフィラメント群をエンドレスに回転している捕集コンベア装置上に捕集堆積させ、ポリエチレンテレフタレートからなる長繊維ウエブを形成した。
次いで、このウエブを170℃に加熱した凹凸柄エンボスロールとフラットロールとの間で、線圧50kg/cmの圧力下で通過させ、エンボス部分熱圧着させることにより、単繊維繊度2.13dtexの長繊維からなる目付59g/mの長繊維不織布を得た。
【0108】
得られた長繊維不織布を用い、実施例1と同様の条件下にて導電化処理を行った。得られた長繊維不織布の性能評価結果を表4に示す。PVAが存在しないため硫化銅ナノ微粒子の形成が不可能であり、導電性を付与することができなかった。
【0109】
[比較例4]
メルトフローレート(MFR)が400g/10分のポリプロピレンを溶融押出機を用いて230℃で溶融混練し、溶融したポリマー流をメルトブローダイヘッドに導き、ギヤポンプで計量し、直径0.3mmΦの孔を0.75mmピッチで一列に並べたメルトブローンノズルから吐出させ、同時にこの樹脂に240℃の熱風を噴射して吐出した繊維を成形コンベア上に捕集し、目付57g/mのポリプロピレン系極細繊維不織布を得た。
【0110】
得られた極細繊維不織布を用い、実施例1と同様の条件下にて導電化処理を行った。得られた極細繊維不織布の性能評価結果を表4に示す。PVAが存在しないため硫化銅ナノ微粒子の形成が不可能であり、導電性を付与することができなかった。
【0111】
[比較例5〜6]
実施例1で製造した複合長繊維不織ウエブを使用し、実施例1と同じ条件にてサーキュラー染色機によるPVA抽出処理を行い、表4に記載する条件で導電化処理を行った。得られた極細長繊維不織布のPVA残存量、被覆率、繊度、目付、および性能評価結果を表3、表4に示す。
【0112】
比較例5については、硫化銅微粒子が形成されておらず、導電性に劣るものであった。
比較例6については、硫化銅ナノ微粒子の含有量が少ないため、導電性に劣るものであった。
【0113】
[比較例7]
比較例3で得られた長繊維不織布を、あらかじめPVA−1の1%水溶液に硫化銅を混合・分散させた液に浸漬し、95℃で1時間加熱処理を行った。処理後、長繊維不織布を引き上げ、そのまま80℃にて3分間熱風乾燥させることにより、不織布構造体中にPVA−1を含有する長繊維不織布を得た。長繊維不織布中のPVA残存率は1.7%であった。
得られた長繊維不織布を用いて各種性能評価を行った結果を表4に示す。
硫化銅を付与することができたが、硫化銅微粒子の粒子径が大きく、導電性に劣るものであった。
【0114】
[実施例17]
比較例3で得られた長繊維不織布をPVA−1の1%水溶液に浸漬し、95℃で1時間加熱処理を行った。処理後、長繊維不織布を引き上げ、そのまま80℃にて3分間熱風乾燥させることにより、不織布構造体中にPVA−1を含有する長繊維不織布を得た。長繊維不織布中のPVA残存率は1.5%であった。
得られた長繊維不織布を用いて、実施例1と同じ条件で導電化処理を行い、各種性能評価を行った。結果を表4に示す。
【0115】
[実施例18]
比較例4で得られた極細繊維不織布をPVA−1の1%水溶液に浸漬し、95℃で1時間加熱処理を行った。処理後、極細繊維不織布を引き上げ、そのまま80℃にて3分間熱風乾燥させることにより、不織布構造体中にPVA−1を含有する極細繊維不織布を得た。極細繊維不織布中のPVA残存率は0.8%であった。
得られた極細繊維不織布を用いて、実施例1と同じ条件で導電化処理を行い、各種性能評価を行った。結果を表4に示す。
【0116】
[実施例19]
実施例1で得られた長繊維不織布を用い、JIS L1018−70「メリヤス生地試験法」(吸水性B法(バイレック法)KRTNo.411−2)に準じて吸上性の測定を行ったところ、縦方向188mm、横方向178mmと、PVAが均一に残存することにより良好な吸水性を示した。さらにワイパーとして埃、水、油、インク等の拭き取り性を評価したところ、極細繊維から構成されることで良好な拭き取り性を示し、静電気の少ないワイパーとして好適なものであった。
【0117】
[実施例20]
実施例8で得られた長繊維不織布を用い、マスクテスターおよび平均1μm石英粉塵を使用し、面速度8.6cm/秒にて捕集効率および圧力損失測定を行った。その結果、捕集効率99.59%、圧力損失89Paと良好なフィルター性能を示し、静電気の少ない防護材・フィルターとして好適なものであった。
【0118】
[実施例21]
実施例8において、硝酸銅の変わりに硝酸銀を用い、硫化ナトリウムの変わりに水酸化ナトリウムを使用する以外は、実施例8と同じ条件で機能化処理を行った。その結果、不織布中に酸化銀ナノ微粒子が4.4%/PVAの含有量で形成され、平均粒子径は8.9nmであった。
【0119】
上記長繊維不織布を用い、マスクテスターおよび平均1μm石英粉塵を使用し、面速度8.6cm/秒にて捕集効率および圧力損失測定を行った。その結果、捕集効率99.71%、圧力損失83Paと良好なフィルター性能を示し、マスク等に好適な消臭性、抗菌性を有するフィルター材を得ることができた。
【0120】
【表1】

【0121】
【表2】

【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の高機能性不織布は、優れた柔軟性、吸水性、濾過性と各種機能性を活かし、種々の用途で使用することができる。例として、絶縁材で代表されるエレクトロニクス用、油吸着材、皮革基布、セメント用配合材、ゴム用配合材、各種テープ基材などの産業用資材;紙おむつ、ガーゼ、包帯、医療用ガウン、サージカルテープなどの医療・衛材;印刷物基材、包装・袋物資材、収納材などの生活関連資材;衣料用;断熱材、吸音材などの内装材用;建設資材用;農業・園芸用資材;土壌安定材、濾過用資材、流砂防止材、補強材などの土木・資材用;鞄靴材等の用途を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明に使用される複合長繊維の複合形態の一例を示す繊維断面図
【図2】本発明に使用される複合長繊維の複合形態の一例を示す繊維断面図
【符号の説明】
【0126】
1 水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール
2 他の熱可塑性ポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布構造体中に水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが不織布質量に対して0.001〜10質量%存在しており、さらにポリビニルアルコール中に平均粒子径が50nm以下の金属化合物が分散しており、その含有量がポリビニルアルコールに対して0.5質量%以上であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
不織布構造体が平均繊度0.5dtex以下の極細長繊維からなることを特徴とする請求項1記載の不織布。
【請求項3】
不織布構造体表面の30%以上が水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールにより被覆されている請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが、炭素数4以下のαオレフィン単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが、エチレン単位を3〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項4記載の不織布。
【請求項6】
前記不織布中に硫化銅、硫化亜鉛、酸化鉄(フェライト)、酸化銀からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物が分散されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の不織布。
【請求項7】
前記不織布が熱エンボス・カレンダー法による部分的な熱圧着により形態を維持している請求項1〜6のいずれかに記載の不織布。
【請求項8】
前記不織布がウォータージェット法またはニードルパンチ法による繊維絡合処理により形態を維持している請求項1〜7のいずれかに記載の不織布。
【請求項9】
前記不織布が、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンからなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーからなるものである請求項1〜8のいずれかに記載の不織布。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の不織布と他の不織布が積層されている不織布積層物。
【請求項11】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールおよび他の熱可塑性ポリマーからなる複合繊維不織布を製造する方法において、下記(a)および(b)の工程により不織布構造体中に金属化合物を生成させることを特徴とする不織布の製造方法。
(a)複合繊維からポリビニルアルコールの大部分を水で溶解除去すると共に、該ポリビニルアルコールの一部を不織布構造体中に残存させる工程。
(b)上記工程で得られた不織布を、金属イオンを含む化合物(A)が10〜200g/Lの濃度で溶解された浴を通してポリビニルアルコール中に該化合物を均一に浸透させ、次いで金属イオンを還元する反応剤(B)が1〜100g/Lの濃度で溶解された浴を通して金属化合物と反応させることで、平均粒子径が50nm以下の金属化合物を生成させる工程。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の不織布からなるフィルター。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の不織布からなるワイパー。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−321309(P2007−321309A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154560(P2006−154560)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】