説明

高機能性二重特異性抗体

【課題】構造的な安定性の向上や活性化リンパ球(T-LAK)を共投与することなく、単独で十分な効果を発揮する等の優れた機能を有するヒト型化二重特異性抗体を提供する。
【解決手段】抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(5L)、並びに、抗CD3抗体OKT3のH鎖のヒト型化可変領域(OH)及びL鎖のヒト型化可変領域(OL)を含み、以下の構造:(OH5L)及び(5HOL)の2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体がいずれか一方の一本鎖ポリペプチドによりヒンジ領域を介してヒト抗体の2つのFc領域に結合して成る抗体;を有するヒト型化高機能性二重特異性抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん特異的免疫療法に使用することのできるヒト型化高機能性二重特異性抗体、それを構成する一本鎖ポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、該抗体の製造方法、及び、それらの医薬として用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
がん(悪性腫瘍) に対する主な治療法として、外科的除去、化学療法、放射線療法、及び免疫療法等が組み合わされて用いられている。この中で、免疫療法は未だ開発途上ではあるが多くの可能性を秘めており、これからの進展が期待されている。
【0003】
がん特異的免疫療法は、がん細胞にのみ細胞傷害活性が働く治療法のことを指す。抗体と細胞傷害活性を示す薬物とを結合させ、薬物に標的指向性を持たせるもので、現在ではミサイル療法とも呼ばれる。現在、がん細胞において異常に発現している物質または細胞のがん化に伴い多少の変化が起こる物質を標的にして、副作用を最小限にして抗体の能力を発揮できる抗原を使用するといった方向で研究が進められている。このような抗原はがん関連抗原と呼ばれる。
【0004】
多重特異性抗体のうちの一つである二重特異性抗体(Bispecific Antibody:BsAb)は2つの異なる抗原に対して特異的に結合することが可能であるため、この特性を生かして特異的な抗腫瘍効果を持った治療薬としての利用法が可能であるとして、その研究が盛んに行われている。ダイアボディ(diabody:Db)とはこのような二重特異性抗体の最小単位であり、それぞれ同じ親抗体由来の重鎖(H鎖)の可変領域(V領域)(「VH」と表わされる)と軽鎖(L鎖)の可変領域(V領域)(「VL」と表わされる)VLとが互いに非共有結合によりヘテロ二量体を形成するという性質を利用し考案されたものである(Hollinger, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 6444-6448, 1993)。
【0005】
このようなダイアボディ型二重特異性抗体の特徴としては、低分子(分子量約60,000)であることによる低免疫原性及び腫瘍組織への高浸透性、更には、例えば、大腸菌等の微生物を利用した安価な大量製造が可能であること、又、遺伝子工学を利用した機能改変が容易であることを挙げることができる。
【0006】
本発明者等は、これまでに、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1(Her1)抗体528及び抗CD3抗体OKT3を用いて作製したダイアボディ型二重特異性抗体(Ex3)及び該抗体をヒト型化したダイアボディ型二重特異性抗体は極めて強力な抗腫瘍効果を有していることを見出している(特許文献1:尚、該文献中においては、「hExh3」と標記されている)。更に、他の抗体を用いて作製したダイアボディ型二重特異性抗体との比較により、該hExh3が上記の優れた効果を発揮する為には、ヒト型化528抗体及びヒト型化OKT3抗体の可変領域自身の構造的安定性、及びこれらの組み合わせが非常に重要であることが推測された。
【0007】
又、ダイアボディ型二重特異性抗体以外の二重特異性抗体の調製等は、以下の非特許文献1及び非特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2004−242638号公報
【非特許文献1】Alt M, et. al. Novel tetravalent and bispecific IgG-like antibody molecules combining single-chain diabodies with the immunoglobulin gamma1 Fc or CH3 region. FEBS Lett., 454, 90-4. (1999)
【非特許文献2】Lu D, et. al. A fully human recombinant IgG-like bispecific antibody to both the epidermal growth factor receptor and the insulin-like growth factor receptor for enhanced antitumor activity. J Biol Chem., 280, 19665-72. (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このヒト型化Ex3を治療薬として更に展開させるためには、構造的な安定性の向上や活性化リンパ球(T-LAK)を共投与することなく、単独で十分な効果を発揮するための更なる改変、改良が望まれている。従って、本発明の主な目的は、このような優れた機能を有する二重特異性抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、ヒト型化Ex3の高機能化に向けて鋭意研究の結果、6種のヒト型化二重特異性抗体(BsAb)を作製することに成功し、本発明を完成した。尚、以下に記載する本発明においては、ヒト型化Ex3を単に「Ex3」と標記する。
【0010】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
[態様1] 抗ヒト上皮(細胞)成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(5L)、並びに、抗(ヒト)CD3抗体OKT3のH鎖のヒト型化可変領域(OH)及びL鎖のヒト型化可変領域(OL)を含み、以下のいずれかの構造:
(i)(OH5L)−(ペプチドリンカー)−(5HOL);
(ii)(OH5L)及び(5HOL)の2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体がいずれか一方の一本鎖ポリペプチドによりヒンジ領域を介してヒト抗体の2つのFc領域に結合して成る抗体;
(iii)(OH5L)−(ペプチドリンカー)−(5HOL)、(OH5H)−(ペプチドリンカー)−(5LOL)、又は(5L5H)−(ペプチドリンカー)−(OHOL)から成る一本鎖ポリペプチドがヒンジ領域を介してヒト抗体の2つのFc領域に結合して成る抗体;
(iv)抗体のVHを抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(5HL)又は抗CD3抗体OKT3のH鎖のヒト型化可変領域及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(OHL)のいずれか一方の一本鎖Fvで置換し、該抗体のVLをもう一方の一本鎖Fvで置換して成る抗体;
(v)(OH5H)−(ペプチドリンカー)−(5LOL);又は
(vi) (5L5H)−(ペプチドリンカー)−(OHOL)を有するヒト型化高機能性二重特異性抗体であって、上記の5H、5L、OH、及びOLが、夫々、配列番号25、配列番号26、配列番号27、及び配列番号28に示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって当該可変領域を実質的に同等の抗原結合性を有するアミノ酸配列であることを特徴とする、前記ヒト型化高機能性二重特異性抗体。
[態様2](ii)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体であって、該ヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体がプロテアーゼ切断部位を介してヒンジ領域に結合していることを特徴とする、前記ヒト型化高機能性二重特異性抗体。
[態様3](iii)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体であって、一本鎖ポリペプチドがプロテアーゼ切断部位を介してヒンジ領域に結合していることを特徴とする、前記ヒト型化高機能性二重特異性抗体。
[態様4](ii)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成する2種類のポリペプチドのうち、OH5L又は5HOLから成るポリペプチドがヒンジ領域を介してヒト抗体のFcに結合して成るポリペプチド。
[態様5](iii)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成するポリペプチド。
[態様6](iv)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成する2種類のポリペプチドのいずれか一方のポリペプチド。
[態様7](i)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体、又は、態様4、5若しくは6のいずれか一項に記載の一本鎖ポリペプチドをコードする核酸分子。
[態様8]態様7記載の核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
[態様9]プラスミドベクターである、態様8記載のベクター。
[態様10]態様8又は9記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
[態様11]哺乳動物細胞である態様10記載の宿主細胞。
[態様12]態様11記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、態様4、5又は6のいずれか一項に記載のポリペプチドを回収し、精製することを特徴とする、(i)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体の製造方法。
[態様13]態様11記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、態様4、5又は6のいずれか一項に記載のポリペプチドを回収し精製して得られた2種類のポリペプチドを会合せしめて、抗体分子を形成させることを特徴とする、(ii)又は(iV)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体の製造方法。
[態様14]態様2又は3に記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体をプロテアーゼで消化することによりFc領域及びヒンジ領域を切断することから成る、夫々、OH5L及び5HOLの二種類のポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体、又は(i)の構造を有する態様1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体の製造方法。
[態様15] 態様1〜3のいずれか一項に記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
[態様16]腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする態様15記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体は、Ex3が更に高機能化されたものである。即ち、本発明によって提供されるヒト型化高機能性二重特異性抗体は、Ex3に比べて、細胞傷害活性が格段に向上し、安定性が向上し、更に、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び細胞依存性サイトカイン(CDC)の誘導能が新たに付与され、各抗原に対して二価で結合可能であり、プロテアーゼ消化によりTag等の付加配列を最小限にした二重特異性抗体が容易に調製され、更には、プロテインAによる簡易精製が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体の構造及びその主な特徴を示す。
【図2】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成するポリペプチドをコードする発現ベクターの概略を示す。
【図3−1】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成するドメインである可変領域5H及び5Lのアミノ酸配列の一例を示す。
【図3−2】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成するドメインである可変領域OH及びOLのアミノ酸配列の一例を示す。
【図3−3】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成するドメインであるCH1、CH2&CH3、PreSission 認識配列、Hinge(ヒンジ)配列のアミノ酸配列の一例を示す。
【図3−4】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成するドメインであるCL、各種リンカー、シグナルペプチド、及びc-myc &His tagのアミノ酸配列の一例を示す。
【図4−1】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体の精製の様子を示すSDS-PAGE及びWestern blottingの写真である。
【図4−2】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体の精製の様子を示すSDS-PAGE及びWestern blottingの写真である。
【図5】Flow cytometryによる結合試験結果を示す。
【図6】PBMC proliferation asssay結果を示す。尚、各BsAbの添加濃度における棒グラフは、夫々、左から右の順に、10pmol/ml, 1pmol/ml, 0.1pmol/ml, 0.01pmol/mlである。
【図7】T-LAKを用いた細胞傷害試験結果を示す。
【図8】PBMCを用いた細胞傷害試験結果を示す。
【図9】IgGによる傷害性阻害試験結果を示す。
【図10】Ex3 scFv-Fcの抗原特異的な細胞傷害性を示す。Ex3 scFv-Fcの各濃度における棒グラフは、夫々、左から右の順に、Colo-Tc, EGFR/CHO 及びCHOを示す。
【図11】Ex3-Fc 及びEx3 scDb-Fc から2分子のEx3及びEx3 scDbの調製の概念図を示す。
【図12】Ex3-Fc 及びEx3 scDb-Fc をプロテアーゼ消化した後、Ex3及びEx3 scDbを精製した結果を示す電気泳動の写真である。
【図13】Ex3-Fc 及びEx3 scDb-Fc から調製したEx3及びEx3 scDbの細胞傷害試験結果を示す。
【図14】Ex3-Fc 及びEx3 scDb-Fc から調製したEx3及びEx3 scDb比較検討結果を示す。
【図15】in vivo治療実験によるEx3 scFv-Fcの機能評価の結果を示す。
【図16】市販抗体医薬との比較実験によるEx3 scFv-Fcの機能評価を示す。
【図17】本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体であるEx3 tandem scFv及びEx3 tandem scFv-Fc構造、及びそれらを用いたMTS assay のin vitro細胞傷害試験の結果を示す。各抗体濃度の棒グラフは、夫々、左から右の順に、Ex3, Ex3 tandem scFv, Ex3-Fc, 及び Ex3 tandem scFv-Fcを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体(以下、「本発明BsAb」とも称す)は、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1(Her1)抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(5L)、並びに、細胞傷害性T細胞で発現される表面抗原の一種であるCD3に対する抗CD3抗体OKT3のH鎖のヒト型化可変領域(OH)及びL鎖のヒト型化可変領域(OL)を含むものであり、それらの構造及びその主な特徴は図1に示されている。
【0014】
本発明BsAbの第一の型(i)(Ex3 scDb)は、(OH5L)−(ペプチドリンカー)−(5HOL)で示される構造を有する。即ち、Ex3を構成する2種類のポリペプチド鎖であるOH5L及び5HOLが更にペプチドリンカーにより結合されて、全体としてシングルポリペプチド鎖となったものである。この結果、BsAb分子の構造がEx3に比べてより安定化される。更に、このBsAbを製造する際に必要な発現ベクターは一種で済み、その結果、Ex3に比べてより均一なBsAb分子を調製することが可能である。尚、「scDb」は一本鎖(Single Chain) ダイアボディ抗体を意味する。
【0015】
上記ペプチドリンカーは、OH及びOL、並びに、5H及び5L同士を会合させて、夫々の抗原と特異的に反応し得る抗原結合部位が形成されるものである限り、その長さなどに特に制限はなく、例えば当該分野で広く知られたものあるいは該公知のリンカーを改変したものの中から選択して使用することが可能である。該ペプチドリンカーは、例えば1〜約20個のアミノ酸からなるポリペプチドであってよく、好ましくは約1〜約15個のアミノ酸からなるポリペプチド、さらに好ましくは約2〜約10個のアミノ酸からなるポリペプチドが挙げられる。
【0016】
尚、上記ペプチドリンカーは、5H及び5Lの間、又は、OH及びOLの間のいずれかに挿入されていても良い。更に、各Ex3単位において、VH又はVLのいずれがポリペプチド鎖のN末側に位置していても良い。即ち、本発明BsAbの第一の型は、(1)N末側:OH−5L−(ペプチドリンカー)−5H−OL:C末側(実施例)、(2)N末側:5H−OL−(ペプチドリンカー)−OH−5L:C末側、(3)N末側:5L−OH−(ペプチドリンカー)−OL−5H:C末側、又は、(4)N末側:OL−5H−(ペプチドリンカー)−5L−OH:C末側のいずれかの順で各可変領域を含んで成るものである。
【0017】
本発明BsAbの第ニの型(ii)(Ex3-Fc)は、OH5L及び5HOLの二種類のポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体(Ex3)がいずれか一方のポリペプチドによりヒンジ領域を介してヒト抗体の2つのFc領域に結合しているものである。即ち、具体的には、ヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域と結合したEx3を構成する2種類のポリペプチドの何れか一方のポリペプチド(例えば、(5HOL)−ヒンジ領域−Fc領域)、及び、Ex3を構成するもう一方のポリペプチド(例えば、(OH5L))の2種類のポリペプチドから構成されるものである。該抗体はこれら2種類の一本鎖ポリペプチドを共発現させた後に会合せしめることによって製造することが出来る。尚、「Fc領域」とは、定常領域(C領域)を構成するH鎖のC末端側の2個のドメイン(CH2及びCH3)を意味する。
【0018】
この型の抗体において、5HOL又はOH5Lの何れかのポリペプチドをヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合させることができ、更に、各一本鎖ポリペプチドに含まれるH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがヒンジ領域と結合していても良い。
【0019】
本発明BsAbの第三の型(iii)(Ex3 scDb-Fc)は、本発明BsAbの第ニの型(ii)において、Ex3の代わりに本発明BsAbの第一の型Ex3 scDb、下記の本発明BsAbの第五の型(v)、又は本発明BsAbの第六の型(v)から成る一本鎖ポリペプチドがヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を有している。尚、ヒンジ領域には、(OH5L)−(ペプチドリンカー)−(5HOL)、(OH5H)−(ペプチドリンカー)−(5LOL)、又は、(5L5H)−(ペプチドリンカー)−(OHOL)から成る一本鎖ポリペプチドに含まれる2種類のH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがヒンジ領域と結合していても良い。
【0020】
本発明BsAbの第ニの型(ii)及び第三の型(iii)を構成するドメインの数はIgGタイプの免疫グロブリン分子と同じであり、これらの抗体は該免疫グロブリン分子に近い立体的構造を有しているものと考えられる。更に、これら本発明BsAbの第ニの型(ii)及び第三の型(iii)において、Ex3又はEx3 scDbとヒンジ領域の間にプロテアーゼ切断部位を介在させることにより、これらのBsAbをプロテアーゼ消化し、その後、後述する各種精製操作を適宜行うことによって、Ex3又はEx3 scDbを容易に製造することが可能となる。又、こうしたプロテアーゼ消化によって得られたEx3又はEx3 scDbは、従来の方法で作製したものと比較してより高い細胞傷害活性を示す。
【0021】
本発明BsAbの第四の型(iv)(Ex3 scFv-Fc)は、抗体(免疫グロブリン分子)のVH及びVLを、夫々、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体抗体528のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(scFv)(5HL)又は抗CD3抗体OKT3のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(OHL)で置換して成る抗体である。即ち、該抗体は、IgGタイプの免疫グロブリン分子においてH鎖の定常領域を構成するCH1ドメインのN末端側にscFvであるOHL又は5HLのいずれか一方が結合してなるポリペプチド、及びL鎖の定常領域CLのN末端側にもう一方のscFvが結合してなるポリペプチドの2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されるものである。尚、scFvに含まれるH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがヒンジ領域と結合していても良い。従って、該抗体はこれら2種類の(一本鎖)ポリペプチドを共発現させた後に会合せしめることによって製造することが出来る。
【0022】
以上の本発明の第二の型(ii)、第三の型(iii)及び第四の型(iv)のBsAbは何れもヒトFc領域を有しているために、プロテインAによる精製が容易であり、又、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び細胞依存性サイトカイン(CDC)を誘導することが出来、更には、各抗原に対して二価で結合することが可能、というEx3には見られない効果を奏する。
【0023】
本発明BsAbの第五の型(v)は、(OH5H)−(ペプチドリンカー)−(5LOL)で示される構造を有する。即ち、夫々、2種類のH鎖から成るポリペプチド鎖、及び2種類のL鎖から成るポリペプチド鎖が更にペプチドリンカーにより結合されて、全体としてシングルポリペプチド鎖となったものである。
【0024】
上記ペプチドリンカーは、OH及びOL、並びに、5H及び5L同士を会合させて、夫々の抗原と特異的に反応し得る抗原結合部位が形成されるものである限り、その長さなどに特に制限はなく、例えば当該分野で広く知られたものあるいは該公知のリンカーを改変したものの中から選択して使用することが可能である。該ペプチドリンカーは、例えば1〜約20個のアミノ酸からなるポリペプチドであってよく、好ましくは約1〜約15個のアミノ酸からなるポリペプチド、さらに好ましくは約2〜約10個のアミノ酸からなるポリペプチドが挙げられる。
【0025】
尚、上記ペプチドリンカーは、5H及び5Lの間、又は、OH及びOLの間のいずれかに挿入されていても良い。更に、各シングルポリペプチド鎖において、いずれの末端がN末側に位置していても良い。即ち、本発明BsAbの第五の型は、(1)N末側:OH−5H−(ペプチドリンカー)−5L−OL:C末側、(2)N末側:5L−OL−(ペプチドリンカー)−OH−5H:C末側、(3)N末側:5H−OH−(ペプチドリンカー)−OL−5L:C末側、又は、(4)N末側:OL−5L−(ペプチドリンカー)−5H−OH:C末側のいずれかの順で各可変領域を含んで成るものである。
【0026】
本発明BsAbの第六の型(vi)(Ex3 tandem scFv)は、(5L5H)−(ペプチドリンカー)−(OHOL)で示される構造を有する。即ち、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体抗体528のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(528 scFv)(5HL)と抗CD3抗体OKT3のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(OKT3 scFv)とをポリペプチドリンカーで縦列に連結させて、全体としてシングルポリペプチド鎖となったものである。ポリペプチドリンカーは本発明BsAbの第五の型に使用するものと同様なものである。尚、528 scFv又はOKT3 scFvのいずれかが一本鎖ポリペプチドにおけるN末端側になっても良く、更に、528 scFv及びOKT3 scFvの夫々において、各H鎖及びL鎖のいずれがN末端側になっても良い。その結果、夫々2種類あるH鎖及びL鎖の順序を考慮すると、本発明BsAbの第六の型は総計8種類の一本鎖ポリペプチドを含むものとなる。
【0027】
尚、本発明のBsAbの構成要素であるEx3を構成する2つのポリペプチドの少なくとも一方において、H鎖の可変領域とL鎖の可変領域とを連結するリンカーを含有している。本明細書中、「リンカー(linker)」とは、H鎖の可変領域(VH)とL鎖の可変領域(VL)とを結合して一本鎖ポリペプチドを与える働きをするオリゴペプチド又はポリペプチドを指している。該ペプチドリンカーは、二つのポリペプチドを機能的に結合せしめて一つの一本鎖ポリペプチドを与えることのできるものであれば特に限定されず、例えば当該分野で広く知られたものあるいは該公知のリンカーを改変したものの中から選択して使用することが可能である。該ペプチドリンカーは、例えば1〜約50個のアミノ酸からなるペプチドであってよく、好ましくは約2〜30個のアミノ酸からなるペプチド、さらに好ましくは約2〜20個のアミノ酸からなるペプチドが挙げられる。ここで「機能的に結合」せしめるとは、ポリペプチドを適切に折り畳み(folding) 、オリジナルのタンパク質(当該ポリペプチドは該オリジナルのタンパク質に由来するものあるいは該オリジナルのタンパク質から誘導されたものである)の機能、例えば生物活性などの一部あるいはその全てを模擬することができる三次元構造を持った融合タンパク質を与えるような結合を意味する。
【0028】
また、当該リンカーの長さは、結合されるペプチドの性状にもよるが、生成する一本鎖ポリペプチド(あるいは融合タンパク質)に所望の活性を与えるものであればよい。該リンカーの長さは、生成せしめられる一本鎖ポリペプチドが適切に折り畳まれて所望の生物活性を得るに十分な長さのものであるべきである。また該リンカーの長さは、所望の生物活性について各種の長さのリンカーで結合した一連の一本鎖ポリペプチドをテストすることにより実験して決定することができる。リンカーについては、上記ダイアボディ及びその製造技術に関連して挙げられた文献などを参照することができる。
【0029】
尚、一本鎖ポリペプチドにおけるVLとVHの配置は、N-末端側がVLでそれにリンカー、続いてVHと配置されているもの(VL-Linker-VH 構築体) でも、N-末端側がVHでそれにリンカー、続いてVLと配置されているもの(VH-Linker-VL 構築体) のいずれであってもよい。
【0030】
本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体のドメインを構成する、4種類のヒト型化可変領域、即ち、5H、5L、OH、及びOLの代表例として、夫々、配列番号25及び配列番号26、並びに、配列番号27及び配列番号28(図3−2)に示されるアミノ酸配列を挙げることが出来る。
【0031】
本発明BsAbに含まれる定常領域又はFc領域はヒト抗体に由来するものである限り特に制限はない。例えば、CLはκまたはλ鎖の何れに由来するものでも良い。又、Fc領域又はH鎖定常領域は、通常、IgGのγ鎖に由来するものが使用される。CH1、CH2及びCH3、並びにCLの一例として、夫々、配列番号29及び配列番号30、配列番号33に示したアミノ酸配列を有するものを挙げることができる(図3−3−、図3−4)。
【0032】
更に、本発明BsAbを構成する一本鎖ポリペプチドに含まれる、PreSission配列、ヒンジ領域、ペプチドリンカー、シグナルペプチド等のアミノ酸配列の代表例も図3−3及び図3−4に示した。尚、PreSission配列はプロテアーゼ切断部位を含む配列である。使用するプロテアーゼの種類に特に制限はなく、例えば、Thrombin及びFactor Xa等の当業者に公知の酵素を使用することが出来、それに応じて、プロテアーゼ切断部位を含むアミノ酸配列を適宜選択することが出来る。
【0033】
更に、上記の各配列番号で示される各アミノ酸配列において、一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって、元のアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能・活性、例えば、可変領域の抗原特異性と実質的に保持しているアミノ酸配列も本発明のBsAbを構成するポリペプチドとして使用することが出来る。欠失、置換、挿入若しくは付加されるアミノ酸は、好ましくは、同族アミノ酸(極性・非極性アミノ酸、疎水性・親水性アミノ酸、陽性・陰性荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸など)同士が置換されるか、又は、アミノ酸の欠失若しくは付加によって、蛋白質の三次元構造及び/又は局所的電荷状態に大きな変化が生じない、又は、実質的にそれらが影響を受けないようなものが好ましい。このような欠失、置換又は付加されるアミノ酸を有するポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法(点突然変異導入及びカセット式変異導入等)、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作製することが可能である。尚、これらの一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列は、元のアミノ酸配列全長に対して、90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性を示すものということもできる。
【0034】
本発明BsAbを構成する一本鎖ポリペプチドに含まれる各領域又は配列をコードする核酸分子(オリゴヌクレオチド)の代表例は、上記の各配列番号に示された塩基配列を有するものである。その他に、各配列番号に記載の塩基配列の全長と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性を示すような塩基配列から成る核酸分子は、上記の各領域又は配列と実質的に同等の活性又は機能を有するポリペプチドをコードしていると考えられるので、これらの核酸分子も上記の本発明の核酸に含まれる。
【0035】
2つのアミノ酸配列又は塩基配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行なう。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
【0036】
ここで、「相同性」とは、ポリペプチド配列(あるいはアミノ酸配列)又はポリヌクレオチド配列(あるいは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同志の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものである。相同性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、「相同性」(「同一性」とも言われる)なる用語は、当業者には周知である (例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994);von Heinje, G., Sequence Analysis in Molecular Biology, Academic Press,New York, (1987); Gribskov, M. & Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991) 等) 。二つの配列の相同性を測定するのに用いる一般的な方法には、Martin, J. Bishop (Ed.), Guide to Huge Computers, Academic Press, San Diego, (1994);Carillo, H. & Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988) 等に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。相同性を測定するための好ましい方法としては、試験する二つの配列間の最も大きな適合関係部分を得るように設計したものが挙げられる。このような方法は、コンピュータープログラムとして組み立てられているものが挙げられる。二つの配列間の相同性を測定するための好ましいコンピュータープログラム法としては、GCG プログラムパッケージ (Devereux, J. et al., Nucleic Acids Research, 12(1): 387 (1984)) 、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215: 403 (1990)) 等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、当該分野で公知の方法を使用することができる。
【0037】
更に、上記の各核酸分子は、各配列番号で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記配列番号で示された各ポリペプチドの機能・活性と実質的に同じものを有するポリペプチドをコードするDNAを含むものである。
【0038】
ここで、ハイブリダイゼーションは、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0039】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0040】
本明細書において、DNAのハイブリダイズにおける「ストリンジェント(stringent)な条件」は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。更に、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。
【0041】
従って、「ストリンジェントな条件」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃〜68℃において、ナトリウム濃度150〜900mM、好ましくは600〜900mM、pH 6〜8であるような条件を挙げることが出来る。ストリンジェントな条件の一具体例としては、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウム)、1% SDS、5 x デンハルト溶液50% ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1 x SSC (15 mM NaCl、1.5 mM クエン酸三ナトリウム)、0.1% SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものである。
【0042】
本発明の6種の新規BsAbを構成する一本鎖ポリペプチドを製造する為に使用する各種の発現ベクターは、当業者であれば、当該技術分野における公知技術を用いて容易に作製することが出来る。その一例として、ダイアボディ型二重特異性抗体の作製に関して記載されている上記の特許文献1の記載、特に、実施例1、2、11及び12の記載を挙げることが出来る。尚、本明細書の実施例に記載された5HOL、OH5L、5HL (528 scFv)、OHL (OKT3 scFv)、OH-Fc (ヒト型化OKT3抗体Fc 領域)、及びOL-CL(ヒト型化OKT3抗体L鎖)の各種発現ベクターに含まれる可変領域は全て、特許文献1に記載されている方法でヒト型化されたものである。ヒト型化OKT3抗体を構成する定常領域、CH1、CH2、CH3、及びCLはヒトIgG1抗体由来のものである。
【0043】
「ヒト型化」とは、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)の可変領域における相補性決定領域 (complementarity-determining region; CDR)の残基の少なくとも一部において、マウス、ラット、またはウサギといったような非ヒト動物(ドナー抗体)であり且つ所望の特異性、親和性、および能力を有するCDR に由来する残基によって置換されている抗体を意味する。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク(FR)残基が対応する非ヒト残基によって置換される場合もある。さらに、ヒト型化抗体は、レシピエント抗体および導入されたCDR またはフレームワーク配列のいずれにおいても見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに優れたものあるいは最適なものとするために行われる。更に詳しくは、Jones et al., Nature 321, 522-525 (1986); Reichmann et al., Nature 332, 323-329 (1988);EP-B-239400; Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596(1992); およびEP-B-451216 を参照することができる。
【0044】
このような抗体の可変領域のヒト型化は当業者に公知の方法に従って実施することが出来る。例えば、レシピエント抗体及びドナー抗体の3次元イムノグロブリンモデルを使用し、種々の概念的ヒト型化生成物を分析する工程により、ヒト型化抗体が調製される。3次元イムノグロブリンモデルは、当業者にはよく知られている。更に詳細については、WO92/22653を参照することができる。
【0045】
従って、ヒト型化された可変領域の例として、可変領域における相補性決定領域(CDR)がマウス抗体由来であり、その他の部分がヒト抗体由来である抗体を挙げることができる。
【0046】
本発明では更に、ヒト型化によって抗体自身の機能低下等が生起する場合があるので、一本鎖ポリペプチド中の適当な部位、例えば、CDR構造に影響を与える可能性があるフレームワーク(FR)中の部位、例えば、canonical 配列又はveriner 配列において部位特異的変異を起こさせることによってヒト型化抗体の機能の改善をすることが出来る。
【0047】
本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成する各種一本鎖ポリペプチドに、更に、ブドウ球菌エンテロトキシン、大腸菌エンテロトキシン及びコレラ菌エンテロトキシンに代表される細菌性エンテロトキシンまたはそれらの各種誘導体等を結合させて細胞傷害活性を高めることも出来る。但し、これらのスーパー抗原はMHCclassIIに対する強力な親和力によるサイトカイン依存性トキシックショック症候群を起こす可能性があることが知られている。更に、製造した一本鎖ポリペプチドの検出及び精製等を容易にする目的のために、当業者に公知の各種のペプチドタグ(例えば、c−mycタグ及びHis−tag)をその末端等に含むことが出来る。
【0048】
本発明の一本鎖ポリペプチド又はそれに含まれる各領域をコードする核酸は当業者に公知の方法で取得し、その塩基配列を決定することが出来る。例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することのできるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより行うことができる (R. Orlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 3833-3837 (1993))。上記したモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、こうした方法におけるDNAの供給源として使用することが出来る。
【0049】
より具体的には、本発明の一本鎖ポリペプチドをコードする核酸は、既に構築され当業者に公知である、一本鎖Fv((single-chain Fv)又は「scFv」)又は特許文献1に記載されたダイアボディ型二重特異性抗体をコードする核酸に基づき、その中のVHないしVLを別の特異性を有する抗体由来のものと夫々入れ換えることによって調製することが出来る。ここで「scFv」とは、ある抗体のVHとVLのドメインを含有しているもので、該ドメインが一本のポリペプチド鎖中にあるものを指している。一般的には該FvポリペプチドはさらにVHとVLのドメイン間にポリペプチドリンカーを含有し、抗原結合のために必要な構造を与えることを可能にしている。scFvについては、Rosenburg and Moore (Ed.), “The Pharmacology of Monoclonal Antibodies", Vol. 113, Springer-Verlag, New York, pp.269-315 (1994)を参照することができる。
【0050】
更に、一本鎖ポリペプチドにおけるヒト型化された可変領域をコードする核酸を作製する場合には、以下の実施例に記載されているように、予め設計されたアミノ酸配列に基づきオーバーラップPCR法により全合成することができる。尚、「核酸」とは、一本鎖ポリペプチドをコードする分子であれば、その化学構造及び取得経路に特に制限はなく、例えば、gDNA、cDNA、化学合成DNA及びmRNA等を含むものものである。
【0051】
具体的には、cDNAライブラリーから、文献記載の配列に基づいてハイブリダイゼーションにより、あるいはポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 技術により単離されうる。一旦単離されれば、DNA は発現ベクター中に配置され、次いでこれを、大腸菌(E. coli )細胞、COS 細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、またはイムノグロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞にトランスフェクションさせ、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成させることができる。PCR 反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えば R. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki, et al., Science, 239: 487, 1988 ; H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; M. A. Innis et al. ed., “PCR Protocols: a guide to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988)などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR 法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。
【0052】
ハイブリダイゼーションについてはL. Grossman et al. (ed.), “Methods in Enzymology", Vol. 29 (Nucleic Acids and Protein Synthesis, Part E), Academic Press, New York (1974) などを参考にすることができる。DNA など核酸の配列決定は、例えばSanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467 (1977)などを参考にすることができる。また一般的な組換えDNA 技術は、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (ed.), “Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)及び D. M. Glover et al. (ed.), “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) などを参考にできる。
【0053】
こうして取得された本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成する一本鎖ポリペプチド又はそれに含まれる各領域をコードする核酸は、目的に応じて、当業者に公知の手段により適宜所望のペプチド又はアミノ酸をコードするように改変することができる。この様にDNA を遺伝子的に改変又は修飾する技術は、Mutagenesis: a Practical Approach, M.J.Mcpherson (Ed.), (IRL Press, Oxford, UK(1991) における総説において示されており、例えば、位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)、カセット変異誘発法及びポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 変異生成法を挙げることができる。
【0054】
ここで、核酸の「改変」とは、得られたオリジナルの核酸において、アミノ酸残基をコードする少なくとも一つのコドンにおける、塩基の挿入、欠失または置換を意味する。例えば、オリジナルのアミノ酸残基をコードするコドンを、別のアミノ酸残基をコードするコドンにより置換することにより一本鎖ポリペプチドを構成するアミノ酸配列自体を改変する方法がある。このようにして、本発明のヒト型化されたダイアボディ型二重特異性抗体を構成する一本鎖ポリペプチドを得ることが出来る。
【0055】
又は、本明細書の実施例に記載されているように、アミノ酸自体は変更せずに、その宿主細胞にあったコドン(至適コドン)を使用するように、一本鎖ポリペプチドをコードする核酸を改変することも出来る。このように至適コドンに改変することによって、宿主細胞内における一本鎖ポリペプチドの発現効率等の向上を図ることが出来る。
【0056】
尚、リンカー及びスーパー抗原等は、組換え技術等の遺伝子工学的手法及びペプチド化学合成等の当業者に公知の任意の技術手段を用いて、本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成する一本鎖ポリペプチド内に適宜導入することが出来る。
【0057】
一本鎖ポリペプチドは、当業者に公知の方法、例えば、遺伝子工学的手法又は化学合成等の各種手段を用いて製造することが出来る。遺伝子工学的手法としては、例えば、上記核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクターを作製し、このベクターで宿主細胞を形質転換せしめ、該形質転換された宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、それを回収し、精製することによって製造することが出来る。本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体が2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されている場合には、通常、このようなベクターにはそれらのうちのいずれか一方の一本鎖ポリペプチドをコードする核酸が含まれている。このような場合には得られる2種類のベクターは同一の宿主細胞に導入することが好ましい。或いは、2種類の一本鎖ポリペプチドの夫々をコードする2種類の核酸を同一のベクターに含有させることも可能である。
【0058】
ここで、「複製可能な発現ベクター(replicable expression vector)」および「発現ベクター(expression vector) 」は、DNA(通常は二本鎖である)の断片(piece) をいい、該DNAは、その中に外来のDNAの断片を挿入せしめることができる。外来のDNAは、異種DNA (heterologous DNA)として定義され、このものは、対象宿主細胞においては天然では見出されないDNA である。ベクターは、外来DNAまたは異種DNA を適切な宿主細胞に運ぶために使用される。一旦、宿主細胞中に入ると、ベクターは、宿主染色体DNA とは独立に複製することが可能であり、そしてベクターおよびその挿入された(外来)DNA のいくつかのコピーが生成され得る。さらに、ベクターは外来DNAのポリペプチドへの翻訳を可能にするのに不可欠なエレメントを含む。従って、外来DNAによってコードされるポリペプチドの多くの分子が迅速に合成されることができる。
【0059】
このようなベクターは、適切な宿主中で DNA配列を発現するように、適切な制御配列(control sequence)とそれが機能するように(operably)(即ち、外来DNAが発現できるように)連結せしめられたDNA配列を含有する DNA構築物(DNA construct) を意味している。そうした制御配列としては、転写(transcription) させるためのプロモーター、そうした転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードしている配列、エンハンサー、リアデニル化配列、及び転写や翻訳(translation) の終了を制御する配列等が挙げられる。更にベクターは、、当業者に公知の各種の配列、例えば、制限酵素切断部位、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子(選択遺伝子)、シグナル配列、リーダー配列等を必要に応じて適宜含むことが出来る。これらの各種配列又は要素は、外来DNAの種類、使用する宿主細胞、培養培地等の条件に応じて、当業者が適宜選択して使用することが出来る。
【0060】
該ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、あるいは単純にゲノムの挿入体(genomic insert)等の任意の形態が可能である。一旦、適切な宿主の中に形質転換で導入せしめられると、該ベクターは宿住のゲノムとは独立して複製したり機能するものであり得る。又は、該ベクターはゲノムの中に組み込まれるものであってもよい。
【0061】
宿主細胞としては当業者に公知の任意の細胞を使用することができるが、例えば、代表的な宿主細胞としては、大腸菌(E. coli) 等の原核細胞、及び、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、ヒト由来細胞などの哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞等の真核細胞が挙げることができる。
【0062】
このような宿主細胞における発現等により得られた一本鎖ポリペプチドは一般に分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収されるが、それが分泌シグナルを持たずに直接に産生された場合には宿主細胞溶解物から回収することが出来る。一本鎖ポリペプチドが膜結合性である場合には、適当な洗浄剤(例えば、トライトン-X100) を使用して膜から遊離せしめることができる。
【0063】
精製操作は当業者に公知の任の方法を適宜組み合わせて行うことが出来る。例えば、遠心分離、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン樹脂クロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム等)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、硫酸アンモニウム沈殿、及びアフィニティクロマトグラフィーによって好適に精製される。アフィニティクロマトグラフィーは、一本鎖ポリペプチドが有するぺプチドタグとの親和力を利用した効率が高い好ましい精製技術の一つである。
【0064】
尚、回収された一本鎖ポリペプチドは不溶性画分に含まれていることも多いために、精製操作は、一本鎖ポリペプチドを可溶化し変性状態にした上で行うことが好ましい。この可溶化処理は、エタノールなどのアルコール類、グアニジン塩酸塩、尿素などの解離剤として当業者に公知の任意の薬剤を使用して行うことが出来る。
【0065】
更に、こうして精製された2種類の一本鎖ポリペプチドを会合(巻き戻し)せしめ、形成された抗体分子を分離して回収することによって、本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を製造することが出来る。
【0066】
会合処理は、単独の一本鎖ポリペプチドを適切な空間的配置に戻すことによって、所望の生物活性を有する状態に戻すことを意味する。従って、会合処理は、ポリペプチド同志あるいはドメイン同志を会合した状態に戻すという意味も有しているので「再会合」ともいうことができるし、所望の生物活性を有するものにするという意味で、再構成ということもでき、或いは、リフォールディング (refolding)とも呼ぶことが出来る。会合処理は当業者に公知の任意の方法で行うことが出来るが、例えば、透析操作により、一本鎖ポリペプチドを含むバッファ溶液中の変性剤(例えば、塩酸グアニジン)の濃度を段階的に下げる方法が好ましい。この過程で、凝集抑制剤、及び酸化剤を反応系に適宜添加することによって、酸化反応の促進を図ることも可能である。形成されたヒト型化高機能性二重特異性抗体の分離及び回収も当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。
【0067】
本発明の医薬組成物は、本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体、一本鎖ポリペプチド、核酸、ベクター、及び形質転換された宿主細胞から成る群から選ばれたものを有効成分として含有することを特徴とする。かかる有効成分は、以下の実施例に示されているように、インビトロ及びインビボで上皮細胞成長因子受容体を発現する(陽性)腫瘍細胞を有意に排除・殺傷・傷害する作用を有しているので、本発明の医薬組成物はこのような腫瘍細胞に対する抗腫瘍剤として使用することが出来る。
【0068】
更に、以下の実施例に示されているように、本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を食作用又は細胞傷害活性を有する細胞及びヒト上皮細胞成長因子受容体を発現する腫瘍細胞とインビボ又はインビトロで共存させることにより、食作用又は細胞傷害活性を有する細胞におけるサイトカイン(例えば、IFN−γ、GM−CSF、TFN−α等)の生産量を増加させることが出来るので、本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体又はそれを有効成分として含有する医薬組成物はこの目的の為に使用することも出来る。例えば、インビトロでは、上記2種類の細胞を含む培養系に本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体を添加することによってサイトカインの生産を増加させることができる。
【0069】
本発明の有効成分の有効量は、例えば治療目的、腫瘍の種類、部位及び大きさ等の投与対象における病状、患者の諸条件、及び投与経路等によって当業者が適宜決めることが出来る。典型的な1回の投与量又は日用量は、上記の条件に応じ、可能ならば、例えば当分野で既知の腫瘍細胞の生存又は生長についての検定法を使用して、まずインビトロで、そして次に、人間の患者のための用量範囲を外挿し得る適切な動物モデルで、適当な用量範囲を決定することもできる。
【0070】
本発明の医薬組成物には、有効成分の種類、薬剤形態、投与方法・目的、投与対象の病態等の各種条件に応じて、有効成分に加えて当業者に周知の薬学上許容し得る各種成分(例えば、担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤、等)を適宜添加することが出来る。
【0071】
本発明の医薬組成物は、上記各種条件に応じて、錠剤、液剤、粉末、ゲル、及び、噴霧剤、或いは、マイクロカプセル、コロイド状分配系(リポソーム、マイクロエマルジョン等)、及びマクロエマルジョン等の種々薬剤形態をとり得る。
【0072】
投与方法としては、静脈内、腹腔内、脳内、脊髄内、筋肉内、眼内、動脈内、特には胆管内、又は病変内経路による注入又は注射、及び持続放出型システム製剤による方法が挙げられる。本発明の活性物質は、輸液により連続的に、または大量注射により投与されることができる。尚、本発明の医薬組成物を投与する場合には、食作用又は細胞傷害活性を有する細胞と共に投与することが好ましい。或いは、投与前に本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体のような有効成分と上記細胞とを混合することによって、投与前に該抗体を予め該細胞に結合させておくことが好ましい。
【0073】
持続放出製剤は、一般的には、そこから本発明の活性物質をある程度の時間放出することのできる形態のものであり、持続放出調製物の好適な例は、蛋白質を含む固体疎水性ポリマーの半透過性担体を含み、該担体は、例えばフィルムまたはマイクロカプセル等の成型物の形態のものである。
【0074】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法、例えば日本薬局方解説書編集委員会編、第十三改正 日本薬局方解説書、平成8年7月10日発行、株式会社廣川書店などの記載を参考にしてそれらのうちから必要に応じて適宜選択して製造することができる。
【0075】
なお、明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。
【0076】
以下に参考例及び実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
【0077】
全ての参考例及び実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。尚、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングでは J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, “Molecular Cloning", 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor, N. Y. (1989) 及び D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; 特にPCR 法では、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed.,“DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed.,“PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
【0078】
参考例1 抗上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)抗体のクローニング
抗EGFR抗体産生マウスB細胞ハイブリドーマ528(ID:TKG0555)を東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターより分譲して頂き、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いmRNAを抽出、First-Strand cDNA Synthesis Kit(Amersham Biosciences社)によりcDNAを調製した。このcDNAを参考論文1に基づき合成したクローニングプライマーを用いPCRを行い528可変領域VH(以下5H)、VL(以下5L)の配列を明らかにした。尚、528抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.HB-8509 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。
【0079】
○参考論文1 - Krebber, A. et al. Reliable cloning of functional antibody variable domains from hybridomas and spleen cell repertoires employing a reengineered phage display system. J Immunol Methods 201, 35-55. (1997).
【0080】
参考例2 Ex3 diabody発現ベクターの作製
ダイアボディ型二重特異性抗体であるEx3 diabody(以下Ex3)は5HOLとOH5Lの二つの分子から作製される。発現ベクターはすでに本発明者らによって構築されているMUC1及びCD3を標的としたMx3 diabody(以下Mx3)発現ベクターを基に作製した(国際公開第WO02/06486 A1参照)。即ち、制限酵素部位を導入したA-Bプライマーを用いPCR法により5Hを増幅後NcoI-EagIで消化し、Mx3発現ベクターの一つpSNE4-MHOL(抗MUC1抗体MUSE11 VH(以下MH)-GGGGS(以下G1)-抗CD3抗体OKT3 VL(以下OL))のMHと入れ換えpRA-5HOLを作製した。同様にC-Dプライマーを用い5Lを増幅後EcoRV-SacIIで消化し、pSNE4-OHML(OKT3 VH(以下OH)-G1-MUSE11 VL(以下ML))のMLと入れ換えpRA-OH5Lを作製した。C末端側には検出のためのc-mycペプチドタグ、並びに精製のためのHis-tag (Hisx6:ヒスチジン6量体tag)が並列に導入されている。尚、抗CD3抗体OKT3(ID:TKG0235)は東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターより分譲して頂いた。又、OKT3抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.CRL-8001 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。
【0081】
A NcoI-5H back primer 5'-nnnccatggcccaggtccagctgcagcagtctg-3'
〔配列番号:1〕
B 5H-EagI forward primer 5'-nnncggccgaggagactgtgagagtggt-3'
〔配列番号:2〕
C EcoRV-5L back primer 5'-nnngatatcctaatgacccaatctcc-3'
〔配列番号:3〕
D 5L-SacII forward primer 5'-nnnccgcggcacgtttgatttccagcttg-3'
〔配列番号:4〕
【0082】
参考例3 ヒト型化Ex3遺伝子の作製
ヒト型化OKT3可変領域はすでに報告されており、マウスOKT3に比べて十分に活性を保持していることも確かめられている(参考論文2)。参考論文2に記載されているヒト型化OKT3可変領域のアミノ酸配列を基に、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行った。この際にコドンは大腸菌における至適コドンを用いた。至適コドンに置換した全合成遺伝子を用いることでの大腸菌における発現量の増加はすでに報告されている。
【0083】
528可変領域のヒト型化はCDR grafting法により行った。まずVH、VLそれぞれ相同性検索を行い、各CDR(complementarity determining region
)の長さ等を考慮した上でもっとも相同性の高いFR(frame work)をもつヒト抗体配列を選択する。選択したヒト抗体のCDRを528のCDRと入れ換えたアミノ酸配列を設計し、対応するコドンについては先と同様に大腸菌至適コドンを用い、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行った。

【0084】
○参考論文2 - Adair, J. R. et al. Humanization of the murine anti-human CD3 monoclonal antibody OKT3. Hum Antibodies Hybridomas 5, 41-7. (1994).
【0085】
参考例4 ヒト型化Ex3発現ベクターの作製
ヒト型化Ex3 diabodyはヒト型化された5HOLとOH5Lの二つの分子から作製される。発現ベクターはEx3を構成する各々の発現ベクターを基に作製した。即ち、制限酵素部位を導入したE-Fプライマーを用いPCR法によりヒト型化5Hを増幅後NcoI-EagIで消化し、pRA-5HOLの5Hと入れ換えた。引き続きヒト型化OL(以下、単に「OL」)をG-Hプライマーを用い増幅後EcoRV-SacIIで消化し、OLと入れ換えpRA-5HOL(ヒト型化)を作製した。同様にI-Jプライマーを用いヒト型化OHを増幅後NcoI-EagIで消化、pRA-OH5LのOHと入れ換え、K-Lプライマーを用いヒト型化5Lを増幅後EcoRV-SacIIで5Lと入れ換えpRA-OH5L(ヒト型化)を作製した。Ex3発現ベクターと同様C末端側には検出のためのc-mycペプチドタグ、並びに精製のためのHis-tag (Hisx6:ヒスチジン6量体tag)が並列に導入されている。
【0086】
E NcoI-5H back primer 5'-nnnccatggcccaggtgcaactggttcagagc-3'
〔配列番号:5〕
F 5H-EagI forward primer 5'-nnncggccgagctcacggtaaccagcgta-3'
〔配列番号:6〕
G EcoRV-OL back primer 5'-nnngatatccagatgacccagag-3'
〔配列番号:7〕
H OL-SacII forward primer 5'-nnnccgcggcgcgggtaatctgc-3'
〔配列番号:8〕
I NcoI-OH back primer 5'-nnnccatggcccaggtgcaactggtg-3'
〔配列番号:9〕
J OH-EagI forward primer 5'-nnncggccgagctaacggtcacc-3'
〔配列番号:10〕
K EcoRV-5L back primer 5'-nnngatatcgtgatgacccagagccc-3'
〔配列番号:11〕
L 5L-SacII forward primer 5'-nnnccgcggcgcgtttaatttccactttggtgccac-3'
〔配列番号:12〕
【実施例1】
【0087】
本発明BsAb発現ベクターの作製(図1及び2参照)
(1)第一の型
制限酵素部位を導入したa-bプライマーを用いPCR法により5HOL(ヒト型化されたもの、以下、同様)を増幅後BamHI-XhoIで消化し、動物細胞発現ベクターpKHI-Neoに挿入した。続いてc-dプライマーを用いOH5Lを増幅後、更にe-fプライマーを用いて2nd PCRを行いNheIとBamHIで消化、5HOLの上流に挿入しpKHI-Ex3 scDbを作製した。C末端側には検出のためのc-mycペプチドタグ、並びに精製のためのHis-tag (Hisx6:ヒスチジン6量体tag)が並列に導入されている。
【0088】
(2)第二の型
Ex3-FcはOH5L、5HOL-Fcから構成されるため後者のみ新たに作製した。まず5HOL、及びOH-Fcをそれぞれg-hプライマー、i-jプライマーで増幅を行った。続いてPCR産物を混合し、さらにe-jプライマーでPCR増幅後NheIとXhoIで消化し、pKHI-Ex3 scDbのEx3 scDbと入れ換えpKHI-5HOL-Fcを作製した。
【0089】
(3)第三の型
続いてa-jプライマーを用い5HOL-Fcを増幅後BamHI-XhoIで消化し、pKHI-Ex3 scDbの5HOLと入れ換えpKHI-Ex3 scDb-Fcを作製した。Ex3-Fc、Ex3 scDb-FcはいずれもFcの上流にPreScissionプロテアーゼ切断部位を導入している。
【0090】
(4)第四の型
Ex3 scFv-FcはOHL-Fcと5HL-CLから構成される。c-kプライマーを用いOHLを増幅後、さらにe-kプライマーを用いて2nd PCRを行いNheIとXhoIで消化し、pKHI-OH-FcのOHと入れ換えpKHI-OHL-Fc作製した。続いてg-lプライマーで5HLを増幅後、さらにe-lプライマーを用いて2nd PCRを行いNheIとNarIで消化し、pKHI-OL-CLのOLと入れ換えpKHI-5HL-CLを作製した。尚、pKHI-Neo、pKHI-HygベクターはそれぞれInvitrogen社製のpcDNA3.1-Neo、pcDNA3.1-Hygのマルチクローニングサイトに動物細胞発現用分泌シグナル配列、及び転写効率を上げるためのKozak配列を導入したものである。
【0091】
a G2 linker-528H back primer: 〔配列番号:13〕
をTLしたるですです5'-ggcggcggcggctccggtggtggtggatcccaggtgcaactggttcagagc -3'

b c-myc & His-tag-XhoI forward primer: 〔配列番号:14〕
5'-nnncggccgaggagactgtgagagtggt-3'

c signal H-OH back primer: 〔配列番号:15〕
5'-gtaactgcaggtgtccactcccaggtgcaactggtgcagag-3'

d 5L-G3 linker forward primer: 〔配列番号:16〕
5'-ggagccgccgccgccagaaccaccaccaccagaaccaccaccacctgcagccgcggcgcgtttaatttccactttggt-3'
e NheI-signal H back primer: 〔配列番号:17〕
5'-nnngctagccaccatggattgggtgtggaccttgctattcctgttgtcagtaactgcaggtgtccactcc-3'

f G4 linker-BamHI forward primer:〔配列番号:18〕
5'- nnnggatccaccaccaccggagccgccgccgccagaacc-3'

g signal H-5H back primer: 〔配列番号:19〕
5'- gtaactgcaggtgtccactcccaggtgcaactggttcagag-3'

h OL-precission forward primer:〔配列番号:20〕
5'- cccctggaacagaacttccagggcgcgggtaatctgcagttt-3'

i prescission-hinge back primer:〔配列番号:21〕
5'- ctggaagttctgttccaggggcccgacaaaactcacacatgc-3'

j CH3-XhoI forward primer:〔配列番号:22〕
5'- nnnctcgagtcatttacccggagacagggagag-3'

k hOL-XhoI forward primer:〔配列番号:23〕
5'- nnnctcgagcgggtaatctgcagtttggta-3'

l h528L-NarI forward primer:〔配列番号:24〕
5'- nnnggcgccgccacagtgcgtttaatttccactttggtgcc -3'

【実施例2】
【0092】
動物細胞を用いた4種のBsAbの調製
Ex3 scDb:発現ベクターpKHI-Ex3 scDbをCHO細胞に遺伝子導入し、G418を含む選択抗生剤培地でスクリーニング後、限界希釈法を行い、細胞傷害試験(以下MTS assay)とフローサイトメトリーにより安定産生株のクローニングを行った。ローラーボトルを用いて無血清培養を行い、培養上清をPBSに透析後、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(以下IMAC)により精製した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(以下SDS-PAGE)、及びWestern blottingにより精製を確認した(図4−1)。
Ex3-Fc:発現ベクターpKHI-OH5L、pKHI-5HOL-FcをCHO細胞に共遺伝子導入し、G418、及びHygromycinを含む選択抗生剤培地でスクリーニング後、同様にクローニングを行いプロテインAカラムクロマトグラフィーにより精製した(図4−1)。
Ex3 scDb-Fc:発現ベクターEx3 scDb-FcをCHO細胞に遺伝子導入し、G418を含む選択抗生剤培地でスクリーニング後、Ex3-Fcと同様に調製した(図4−2)。
Ex3 scFv-Fc:発現ベクターpKHI-OHL-Fc、pKHI-5HL-CLをCHO細胞に共遺伝子導入し、G418、及びHygromycinを含む選択抗生剤培地でスクリーニング後、Ex3-Fcと同様に調製した(図4−2)。
それぞれ、精製度が高く目的の分子が調製されている様子が分かる。精製後の収量は培養液1L当たりそれぞれ約1 mgであった。
【実施例3】
【0093】
4種のBsAbの機能評価(1) - Flow cytometric analysis
Flow cytometryにより4種のBsAbとEx3の各細胞に対する結合を調べた。標的細胞に対し一次抗体としてEx3、Ex3 scDbを200 pmol、それ以外のBsAbは100 pmol加え30分、4℃で静置後、0.1%NaN3/PBSで2回Washし、続いて検出抗体としてanti-c-myc抗体、あるいはanti-human Fc
抗体を加え同様の操作を行い蛍光を測定した。ネガティブコントロール(以下NC)は検出抗体以降の操作を行い、ポジティブコントロール(以下PC)には検出抗体としてT-LAK細胞に対してはOKT3 IgG、TFK-1細胞に対しては528 IgGをそれぞれ用いた。結果はどちらの細胞に対しても結合することが分かり、特に二価性を有するBsAbはそれぞれIgGに匹敵、あるいは若干上回る強い結合が見られた(図5)。
【実施例4】
【0094】
4種のBsAbの機能評価(2) - PBMC proliferation assay
末梢血リンパ球(PBMC)を5×104個/50 ml/wellとなるように96穴プレートにまき、濃度調整した各BsAbを加えて、37 ℃で48 hrインキュベートを行った。続いて、5-ブロモ-デオキシウリジン(BrdU)を加え、その取り込み量を450 nmの吸光度を測定することで増殖したPBMCを定量した。結果、ヒトFc領域を融合したEx3-Fc、Ex3 scDb-Fc、Ex3 scFv-FcにおいてのみPCのPHAを加えた時に匹敵する強力なPBMCの増殖作用が確認された。これは、ヒトFc領域がPBMCに含まれるNK細胞等に存在するFcレセプターに結合し、活性化シグナルが伝達されたためであると考えられる(図6)。
【実施例5】
【0095】
4種のBsAbの機能評価(3) - in vitro細胞傷害試験(MTS assay)
MTS assay により、TFK-1細胞がT-LAK細胞によりどれほど傷害されたかを測定した。セルカウントを行い、RPMI 100mLあたり細胞5×103個になるよう調整し、96穴プレートに100mLずつ分注、37℃で一晩静置した。目的蛋白質を目的濃度になるようにRPMIで希釈、前日準備したプレートに蛋白質を50mLずつ分注。LAK 細胞を目的E/T 比になるようにRPMIで希釈し、50mLずつ分注 (E/T 比:effector(T-LAK細胞)/target(TFK-1細胞)比)。37℃で48時間培養。プレートの培養液を取り除き、PBS により洗浄、MTS、PMS、RPMIを加え、37℃で30〜60分インキュベート。プレートリーダーで490nm の吸光度を測定した。
(注) MTS 試薬 (CellTiter 96 AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay, Promega社製) 、PMS(CellTiter 96 AQueous Non-Radioactive Cell Proliferation Assay,Promega 社製)
結果は、Ex3 scDbは従来のEx3と同等の濃度に依存した細胞傷害性が確認され、また、Ex3-Fc、Ex3 scDb-Fcはそれぞれ同等、かつEx3の約10倍の効果を示した。さらに、Ex3 scFv-FcはEx3の約1/1000の濃度で同等の効果を示した(図7)。
PBMCを用いたMTS assayも同様に行った結果、Ex3 scDbはEx3と同等、またEx3-Fc、Ex3 scDb-Fc、Ex3 scFv-Fcの順により強い細胞傷害活性が見られた。PBMCでの効果は、臨床応用に向けた単独での効果に期待がもたれる(図8)。
さらにEx3 scFv-Fcに関して、各種IgGを加えた阻害試験では、親抗体であるOKT3、及び528 IgGでは濃度に依存した傷害性の低下が見られたが、系に無関係のOKT8、MUSE11 IgGの添加では全く傷害性の阻害が見られなかった(図9)。
【実施例6】
【0096】
Ex3 scFv-Fcの機能評価 - in vitro細胞傷害試験(51Cr release assay)
in vitroでの細胞傷害性の評価はMTS assayにより簡便に行えるが、これは腫瘍細胞の成長阻害(growth inhibition)を評価する方法でまた付着細胞にしか用いることができない。このため直接的な傷害活性(cytotoxicity)を調べるため51Cr release assayを行った。
結果はEx3 scFv-Fcの濃度、及び抗原に依存した傷害性が見られ、またEx3に比べて約1/500の濃度で同等の傷害性が見られた(図10)。
【実施例7】
【0097】
Ex3-Fc、Ex3 scDb-Fcから2分子のEx3、Ex3 scDbの調製
Ex3-Fc及びEx3 scDb-Fcは、PreScissionプロテアーゼ消化によりFc領域を切断することで、それぞれ二分子のEx3、Ex3 scDbを調製できるように設計している(図1、図11)。
Ex3-Fc及びEx3 scDb-FcをGST-tagが付加したPreScissionでプロテアーゼ消後、Glutathione 固定化樹脂を用いたカラムクロマトグラフィーを用いてPreScissionを除去した。続いて、プロテインAカラムクロマトグラフィーを用いて切断されたFc領域及び未消化のEx3-Fc、Ex3 scDb-Fcを除去し、Ex3及びEx3 scDbを調製、SDS-PAGEにより各操作段階の分子を確認した。収率は、Ex3が49%、Ex3 scDbが68%であり、純度も高くPreScissionプロテアーゼを用いたEx3、Ex3 scDbの新規調製法の有用性が示された(図12)。
【実施例8】
【0098】
Ex3-Fc、Ex3 scDb-Fcから調製したEx3、Ex3 scDbの機能評価
Ex3-Fc、Ex3 scDb-Fcからプロテアーゼ消化により調製したEx3、Ex3 scDbと従来の単独発現させIMACにより調製したEx3、Ex3 scDbとの機能の比較を行うために細胞傷害性試験を行った。結果、プロテアーゼ消化により調製した2種類の分子は同等の傷害性を有しており、かつ従来の方法で調製したEx3、Ex3 scDbより高い効果を示した(図13)。
更にFcを融合したBsAbとの比較によりEx3-Fc、Ex3 scDb-Fcとほぼ同等の細胞傷害性を有していることも明らかになった(図14)。この高い効果は、従来のIMAC精製には必要であったtag等のペプチドの付加を最小限に抑えたこと、新規精製法による精製度の高さ等が考えられ、プロテアーゼを用いたEx3、Ex3 scDbの調製法の有用性が示された。
【実施例9】
【0099】
Ex3 scFv-Fcの機能評価 - in vivo治療実験
SCIDマウスを納入後、10数日後に5x106個のTFK-1細胞をマウスに皮下注射した。TFK-1細胞移植後10日後(腫瘍径約4 mmから6 mm)、2x106個のT-LAK細胞及びIL-20 (500IU)とEx3、並びにEx3 scFv-Fc単独を4日連続で尾静脈より注入した。一週間ごとに腫瘍径を測定し、長径と短径から腫瘍体積を概算した。
結果、腫瘍が成長し続けたT-LAK細胞単独投与群に比べ、Ex3を20μg/mouse/day投与した群では、以前の結果を再現する腫瘍の縮退効果が見られた(図15)。一方、Ex3 scFv-FcはT-LAK細胞を共投与しなくても単独で十分な効果を示した。これは価数の増加、あるいはFc領域によってADCCが誘導されたことに起因すると考えられ、単独での有意な効果は臨床応用に大いに期待がもたれる。
【実施例10】
【0100】
Ex3 scFv-Fcの機能評価−市販抗体医薬との比較実験
市販抗体医薬ハーセプチンが認識するHER2とEx3 scFv-Fcが認識するEGFRの両抗原が陽性のヒト乳がん細胞株SK-BR3を用いて比較実験を行った。リンパ球とがん細胞との架橋により細胞傷害性を誘導する二重特異性抗体は図7及び図8に示すようにエフェクター細胞としてPBMCよりT-LAK細胞を用いた方がより強い効果を示す。ハーセプチン(Herceptin) の主な作用機序の一つはFc領域を介したADCCとされているためFcレセプター陽性細胞が多く含まれるPBMCをエフェクター細胞として用いた方がより強い効果が見られた(図16)。しかしながらいずれの細胞をエフェクター細胞として用いてもEx3 scFv-Fcはハーセプチンに対し有意な効果を示した。
【実施例11】
【0101】
Ex3を基盤とする新規二重特異性抗体の構築と機能評価
Ex3を基盤とする更に高機能な二重特異性抗体の構築を目指して、図17に示すようなさらに二種の分子を設計した。即ち、528 scFvとOKT3 scFvをポリペプチドリンカーで縦列に連結させたEx3 tandem scFv(第六の型)、及び、更にこれにFcを付加させたEx3 tandem scFv-Fc(第三の型)を構築し、比較検討を行った。
それぞれの発現ベクターは、本発明者等によりで既に構築されている5LH (528 scFv LH型)、OHL (OKT3 scFv)、OH-Fc (OKT3 H鎖)発現ベクターを基に作製した(ここではすべての可変領域はヒト型化後のものである)。まず5LH、及びOHLをそれぞれm-nプライマー、o-bプライマーで増幅を行った。続いてPCR産物を混合し、さらにe-bプライマーでPCR増幅後NheIとXhoIで消化し、pKHI-Neoに挿入することで、発現ベクターpKHI-Ex3 tandem scFvを作製した。続いてこのEx3 tandem scFv、及びOH-Fcをそれぞれe-hプライマー、i-jプライマーで増幅を行った。続いてPCR産物を混合し、さらにe-jプライマーでPCR増幅後NheIとXhoIで消化し、pKHI-Neoに挿入することで、発現ベクターpKHI-Ex3 tandem scFv-Fcを作製した。
それぞれ、CHO細胞に遺伝子導入し、G418を含む選択抗生剤培地でスクリーニング後、上記同様にクローニングを行いプロテインAカラムクロマトグラフィーにより精製した。
続いてMTS assay によりin vitro細胞傷害試験を行ったところ、どちらもEx3-Fcと同等、あるいはそれ以上の、Ex3を遙かに凌駕する効果が見られた。以上のことから、Ex3を基盤とする二重特異性抗体がいずれも利用価値が高いことが示されたといえる。
【0102】
m signal H-5L back primer:〔配列番号:39〕
5'- gtaactgcaggtgtccactccgatatcgtgatgacccagagccc-3'

n 5H-G1-OH forward primer:〔配列番号:40〕
5'- ctgcgaaccgcccccgccggccgagctcacggtaacca -3'

o 5H-G1-OH back primer:〔配列番号:41〕
5'- ccggcgggggcggttcgcaggtgcaactggtgcagagc -3'
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のヒト型化高機能性二重特異性抗体によって、活性化リンパ球(T-LAK)を共投与することなく、単独で十分な効果を発揮することが出来る抗体医薬の開発が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のH鎖のヒト型化可変領域(5H)及びL鎖のヒト型化可変領域(5L)、並びに、抗CD3抗体OKT3のH鎖のヒト型化可変領域(OH)及びL鎖のヒト型化可変領域(OL)を含み、以下の構造:
(OH5L)及び(5HOL)の2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体がいずれか一方の一本鎖ポリペプチドによりヒンジ領域を介してヒト抗体の2つのFc領域に結合して成る抗体; を有するヒト型化高機能性二重特異性抗体であって、
上記の5H、5L、OH、及びOLが、夫々、配列番号25、配列番号26、配列番号27、及び配列番号28に示されるアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって当該可変領域を実質的に同等の抗原結合性を有するアミノ酸配列であることを特徴とする、前記ヒト型化高機能性二重特異性抗体。
【請求項2】
請求項1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体であって、該ヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体がプロテアーゼ切断部位を介してヒンジ領域に結合していることを特徴とする、前記ヒト型化高機能性二重特異性抗体。
【請求項3】
請求項1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体を構成する2種類のポリペプチドのうち、OH5L又は5HOLから成るポリペプチドがヒンジ領域を介してヒト抗体のFcに結合して成るポリペプチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項5】
請求項4記載の核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項6】
プラスミドベクターである、請求項5記載のベクター。
【請求項7】
請求項5又は6記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項8】
哺乳動物細胞である請求項7記載の宿主細胞。
【請求項9】
請求項8記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、請求項3に記載のポリペプチドを回収し精製して得られた2種類のポリペプチドを会合せしめて、抗体分子を形成させることを特徴とする、請求項1記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のヒト型化高機能性二重特異性抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項11】
腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする請求項10記載の医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図3−4】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−179051(P2012−179051A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−83565(P2012−83565)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2008−506151(P2008−506151)の分割
【原出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年11月25日 第28回日本分子生物学会年会組織委員会発行の「第28回日本分子生物学会年会講演要旨集」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】