説明

高機能性鰻油調整プロセス

【課題】鰻及び鰻の加工残渣の蛋白質を酵素分解し、短時間に鰻油を分離回収するプロセスを提供することで、酸化や異性化などの品質の低下の少ない鰻油が得られ、これに含まれるDHAやEPAなどの多価不飽和脂肪酸やビタミンA,D及びミネラルなどの機能性因子の免疫調節および脂質代謝調節機能をラットへの摂食試験を通じて明らかにする事で多機能性食品や医療品などの提供を図る。
【解決手段】以下の4工程で構成される高機能性鰻油調製プロセス
第1工程:蛋白質分解酵素による分解反応液を静置分離し、油脂成分を回収する。
第2工程:反応生成物を固液分離機で10μm以上の固形物を除去し、遠心分離機で油脂成分と水溶性成分とに分離する。
第3工程:水溶性成分中の蛋白質分解酵素とペプチドやアミノ酸などの反応生成物とを孔拡散式膜分離装置で分離し、蛋白質分解酵素を回収する。
第4工程:第3工程で回収した蛋白質分解酵素を第1工程へ循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鰻の加工残さいを構成する中骨とそれに付着する肉、頭、内臓などを蛋白質分解酵素で分解し、油脂成分を分離回収し、多機能性食品並びに医療品を提供する。
【背景技術】
【0002】
鰻を蒲焼加工した際に、中骨や頭や内臓などが加工残さいとして鰻重量の約2割発生する。その多くが廃棄物として処理されているため資源として有効利用されていない。現在、加工残さい中の中骨については、骨粗鬆症の予防に効果のあるカルシウム粉末の原料として微粉末化する試みがなされている(特許文献1〜7)。これらの試みは一般的に動物あるいは魚類を対象にするもので鰻に特定化した技術は少ない。
【0003】
カルシウム粉末の製造方法としては、骨を加熱水あるいは高圧水処理により骨髄成分などを水中に溶解除去する方法(特許文献1、2)、1規定以上の高濃度のアルカリ水溶液による加熱処理により蛋白質や脂肪を分解除去する方法(特許文献3,4)、或いは微生物あるいは酵素を用いて骨に付着する蛋白質や脂肪分を分解除去する方法(特許文献5)を含めて、上記の方法の複数個を組み合せる方法(特許文献6,7)が知られている。
【0004】
骨以外の組織からカルシウム以外の有効成分を回収する試みとしては、魚体又は加工残渣中の蛋白質を酵素又は微生物で分解しスラリー状として、ろ過して固形物を分離し、魚油や魚蛋白質を得る方法(特許文献8)あるいは酵素たとえばプロテアーゼで蛋白質を処理する事により調味エキスを作製したり、脂肪分をリパーゼで分解して油分と抽出エキスを有効利用する試み(特許文献9)がある。
【0005】
しかし、これまで鰻の油脂成分については、摂食効果に関する免疫調節機能が明らかにされていない事からも、その製法についての研究が行なわれてこなかったので、一般的には産業廃棄物として回収された加工残滓から飼料或いは肥料として利用する為に加熱水で煮出したり、高圧釜で分解して湯面の上層に浮遊した油脂成分を採取し、これを水酸化ナトリウム水溶液などの化学薬品で繰り返し洗浄し、さらに精製して油脂を回収している。
【0006】
これらの方法では煮沸に90℃程度、さらに精製段階で230℃以上の高温で処理しているため、この時、油脂成分中の不飽和二重結合が酸化・異性化・重合などで品質が低下した物しか得られない。
【0007】
これに対して、鰯、鮪、鰹などの魚肉のすり身の製造時に生じる排液について、排液を20℃以下の低温で遠心分離する事で、加熱工程を伴わない天然に含まれる魚油の健康上有用な成分を失わない方法も提案(特許文献10)されてはいるが、加工残渣に含まれる油脂成分の回収効率としては不充分である。
【0008】
一方、従来の酵素反応を利用した技術で、鰻などの加工残さいを蛋白質分解酵素で分解し、骨などの固形分と分解液とに分離し、分解液中の油脂成分を回収する方法においては、(a)高価な酵素を使用し、反応後は失活させる。このため製造コストに占める酵素のコスト比率が高くなり、経済的に問題がある。(b)酵素反応をバッチ的に行うため、設備費用がかかる。(c)酵素分解反応に1昼夜近い時間をかける。(d)反応温度は通常40℃〜60℃であるため雑菌の増殖防止対策に特別な操作・条件が必要とされるなどの問題点がある。
【0009】
【特許文献1】特開平2−231059「魚骨粉の製造方法」 中骨を圧力5〜20kg1平方メートルの高圧水で洗浄し、存在する蛋白質を蛋白質分解酵素で分解し、分解物を洗浄除去し、次いで中骨を真空加熱蒸発法で乾燥した後、粉砕する方法
【特許文献2】特開2001−48793「鰻又は穴子の骨を原料とする粉末栄養補給剤の製造方法」 鰻又は穴子の骨をミンチングし、1.5〜4.0kg/平方センチ、70〜180℃の高圧高温工程により、骨髄液を除去した骨粉の製造方法
【特許文献3】特開平4−121166「食用骨粉の製造方法」 苛性ソーダを用いて蛋白、脂肪を加水分解することにより、脱蛋白、脱脂肪を容易する。
【特許文献4】特開2001−346547「鰻又は穴子の骨を原料とする微粉末栄養補給剤の製造方法」骨粒を食塩濃度10%以上の水溶液に6時間以上浸漬し、塩分を洗い流して骨髄液を除去して脱脂状骨粒を得た後、乾燥する。
【特許文献5】特公昭55−30831「微細骨粉の製造法」 微生物等を用いて蛋白質や脂肪を除去する方法
【特許文献6】特開昭52−136968「微細骨粉の製造法」 蒸煮処理した動物骨を微生物培養液もしくは培養物で付着蛋白質及び脂肪分を分解発酵した後、洗浄滅菌乾燥し、更に粉砕後有機溶剤で抽出除去し、低温度アルカリ水溶液で加熱処理し、洗浄乾燥し、微粉砕機で微粉砕骨粉とする。
【特許文献7】特開平11−318389「無臭・フィッシュカルシウム剤の製造方法」 中骨を蒸湯処理・水洗い、粉砕し有機物分解酵素、酵母で分解し、両性界面活性剤で処理し、更に酸化剤処理し、低温乾燥して無臭カルシウム剤を製造
【特許文献8】特公平4−24027「動物、魚介類よりカルシウム製造方法」
【特許文献9】特開2002−234「うなぎ骨の有効処理方法」 骨を煮出し骨と煮出し液とに分別し、骨に付着する蛋白質をエンドペプチターゼ型酵素で分解し、更に脂肪分もリパーゼで分解した後に骨を乾燥して粉砕する。一方、煮出し液の上層の油分と下層の抽出エキス分も回収し利用する。
【特許文献10】特開2004−91524「低温抽出魚油」 魚肉すり身排液から遠心分離法により抽出された構成の低温抽出魚油
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、鰻の加工残渣を蛋白質分解酵素で分解する方法において、油の酸化や異性化などの品質の低下を防ぎ、かつ従来の酵素反応を利用した技術が抱えた前述の(a)〜(d)の問題点のすべてを解消し、品質的にも経済的にもすぐれたプロセスにより、高機能性鰻油を調整し、鰻油に含まれるDHAやEPAなどの多価不飽和脂肪酸やビタミンA,D及びミネラルなどの機能性因子が免疫調節および脂質代謝調節機能をラットへの摂食試験を通じて明らかにする事で多機能性食品並びに医療品などの提供を図る。
【0011】
従来の酵素反応の問題点の内(a)については、高価な酵素を分離回収し循環再利用するシステムにすることで解決すると共に、これにより通常より高濃度の酵素雰囲気で短時間に分解反応を進めることが可能となり、かつ耐熱性蛋白質分解酵素を使用することで雑菌の増殖が行なわれない60℃以上で行なうことで、(b)〜(d)の問題点が解消される。
【0012】
本発明では、魚類とりわけ鰻の加工残さいの中骨、頭及び内臓などを蛋白質分解酵素で分解する工程において、固形物として得られる骨粒からは骨粗鬆症の予防に良い吸収性の良好なカルシウムが得られる。油脂分には脳の働きを良くするDHA(ドコサヘキサエン酸)、血液の流れを良くし血栓症を防ぐ作用があるとされるEPA(エイコサペンタエン酸)や視力の改善、新陳代謝の促進、生殖機能の強化をもたらすビタミンA、カルシウムでリンの吸収を促進し、骨や歯に沈着させる働きをするビタミンD、または酸化作用による細胞の活性化に伴う老化防止、美肌効果のあるビタミンEなどを含んでいる。
固形物と油脂成分を分離した後の水溶性成分には、蛋白質分解酵素と蛋白質の分解生成物として高血圧予防に効果のあるペプチドをはじめダイエット、疲労回復によく旨味調味料として使用される各種アミノ酸などの有効成分が含まれている。これらの分解酵素と有効成分を効率よくかつ経済的に優れた分離回収システムの研究において、孔拡散式膜分離装置を取り入れることで、酵素を再使用し、有効成分の回収ができ、前述の解決すべき課題のすべてが達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の最大の特徴は連続する4つの工程(それぞれ第1工程、第2工程、第3工程、第4工程)で構成されている点である。しかも酵素分解された反応液から第1〜第3工程で順次、固形分、油脂成分、水溶成分が分離回収され、蛋白質分解酵素とわずかに未分解の蛋白質のみが第4工程を経て第1工程に循環される。図1に本発明の酵素分解方法での工程と物質流れのモデル図を示す。
【0014】
第1工程では鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などを原料1として、予め粗粉砕2して水3と混合し、スラリー4とする。スラリーと蛋白質分解酵素5を酵素分解塔6に投入する。第1工程に投入される加工残さいの中骨や頭や内臓などは予め粗粉砕されてスラリー状で投入することで酵素分解塔内での反応を均一にかつ速い速度で分解するためには重要である。また該分解塔内の内部には邪魔板を設け、塔内温度を均一にし、流れにショートパスが生じないようにする。また、該分解塔の出口にはドラムフィーダーを使用し、反応液を定量的に排出する。蛋白質分解酵素は、第4工程で回収される蛋白質分解酵素を循環使用することで酵素の消費量を抑える事が出来る。
【0015】
酵素分解塔6では所定の温度・滞留時間で分解反応を行い、酵素分解塔6の上部は攪拌部と静置部が隔壁で仕切られ油脂成分8が静置分離7される構造とし、油脂成分を適時抜取ることが出来る。油脂成分にはビタミンA、D、E及びDHA,EPAあるいはコエンザイムQ10などの有効成分が含まれている。
【0016】
酵素分解塔での細菌等の繁殖を防止し、ウィルスの不活化のために、酵素分解塔内温度を60℃〜70℃に設定する事が好ましい。但し、この場合、蛋白質分解酵素の至適温度がこの範囲の耐熱性蛋白質分解酵素を選択する必要があり、天野エンザイム株式会社製サモアーゼPC−10,プロテアーゼS「アマノ」3G,ヤクルト薬品工業株式会社製アロアーゼXA−10、エイチビィアイ株式会社オリエンターゼ22BFなどが使用可能であるが、至適温度が60℃〜70℃の耐熱性蛋白質分解酵素であればこれらに限定されるものではない。
【0017】
第2工程として、第1工程で排出された反応生成物を振動フルイまたは、及び遠心濃縮機、プレスフィルターなどの固液分離機9で固形物(骨粒10)を分離回収する。ここで固形物とは一定の形状を維持した固形状物でその形状の一辺の長さが10μm以上のものを意味する。さらに遠心分離機11で油脂成分と水溶性成分液とに分離し、残存する油脂成分を系外に回収する工程である。両成分を完全に分離することは油脂成分の有効物質と水溶性成分の有用成分との回収率及び精製率を高めるのに必要であり、また、第3工程での膜分離において油脂成分が膜に吸着することによる目詰まりを防止するためにも両成分の分離が好ましい。
【0018】
第3工程では、膜分離装置としては水溶性成分液中の蛋白質分解酵素と蛋白質分解生成物であるペプチドやアミノ酸との分離が可能なものであればよいが、可能なものの一つに孔拡散式膜分離装置がある。水溶性成分液を被拡散液12として孔拡散式膜分離装置13で処理し、拡散水14に低分子量成分のペプチドやアミノ酸などの水溶性成分が拡散液15として分離される。一方、被拡散液中の蛋白質分解酵素や未反応蛋白質などの高分子量成分は膜拡散されず、被拡散残液16として回収され、必要に応じて、第4工程の膜濃縮機17で濃縮されてから第1工程に循環使用される。
【0019】
第3工程で使用される孔拡散式膜分離装置内の膜の特性は酵素の回収率、分解生成物の回収率を決定する。そのため孔特性は目標とする最終製品に最適なように選定されなくてはならないが、一般的には平均孔径10〜50nm、空孔率48〜75%、膜の厚みが100〜1000ミクロメートルの平面状膜で、素材としては再生セルロース膜が良い。平均孔径がよりおおきくなると拡散液中に酵素が混入する。平均孔径が小さくなると目的物質の拡散速度が小さくなりすぎ、またペプチドなどの回収率が低下する。空孔率は50〜70%が取扱い性及び拡散速度の大きさから最適である。膜の厚みは一般的には厚い方が使用後の膜の再生処理時の損傷が少ない。膜の素材として親水性高分子が吸着性の点で好ましい。
【0020】
第4工程では第3工程の孔拡散式膜分離装置で拡散水側に拡散されない被拡散液の残液はそのまま第1工程に戻してもよいが、マスバランスをとるために2倍程度酵素濃度を高める場合に、膜による濃縮を行なう。
【発明の効果】
【0021】
本発明により得られた鰻の油脂成分は、70℃以下の比較的低温で短時間に行なわれるので、油の酸化や異性化などの品質の低下を防ぐことが出来、かつ60℃以上にすることで雑菌の増殖を防止できる。しかも、高価な酵素は循環使用できるのでコスト面でも安価に回収できる。この鰻油は一般的な酸化生成物による刺激臭もなく、DHA,EHAの含有量も多い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
鰻の加工残さいを予備的に水洗浄し、残さいに付着した蛋白質の分解を容易にするため、骨や頭の固形物を数ミリ程度に粗粉砕する。この粉砕物を適量の水でスラリー状にして、酵素分解塔の上部から投入し、耐熱性蛋白質分解酵素(ヤクルト薬品工業株式会社製「アロアーゼXA−10」)を原料に対して1重量%添加し、60℃〜70℃で酵素分解反応を行う。
【0023】
3時間程度で酵素分解塔の上部の静置部に油脂成分が分離されてくるので油脂層を回収する。
【0024】
酵素分解塔の下部に取り付けたフィーダーにて一定量づつ分解液を抜取り、これに含まれる骨や頭の固形物を振動フルイなどで分離回収する。液成分に含まれる若干の油脂成分は、遠心分離機で油脂層と水層とに分離回収する。水層の反応液を被拡散液とし、これを孔拡散式平膜分離装置で処理する。該蛋白質分解酵素、未反応蛋白質などの直径20nm以上の粒子を含む水溶液は拡散速度が遅いので、被拡散液の残液としてそのまま第4工程を経て、第1工程に還流させる。一方、反応生成物であるペプチドやアミノ酸などの低分子量物は拡散水に拡散し易く、拡散液として分離される。
【0025】
孔拡散式平膜分離装置内には平均孔径30nm、空孔率60%、膜厚300ミクロンメートルの再生セルロース膜が使用されている。目的とする反応生成物の分子量と酵素の分子量及び分散状態によって用いる平膜での平均孔径を変化させる。平均孔径を15nmに設定すれば拡散速度が遅くなるため、必要とする膜面積を大きくしなければならない。1平方メートル当たり、1時間当たり、3キログラムの反応生成物水溶液の拡散量を基準とした操作条件を採用する。
【0026】
本発明中で利用される膜の孔特性の評価方法を以下にまとめて示す。
平均孔径(nmの単位)=2(J・d・V/P/A・Pr)1/2
ここでJは純水のろ過速度(ml/分)
dは膜厚(ミクロン)
Vは水の粘度(センチポイズ)
Pは膜間差圧(mmHg)
Aは有効ろ過面積(平方メートル)
Prは空孔率(無次元) 空孔率=1−膜の見掛け密度/膜素材高分子の密度
孔拡散式平膜分離装置とは、幾何学的な孔の存在が明らかな平面状な膜(通常、平均孔径5nm以上の膜)を用いて拡散により物質分離を行う装置で、特に、孔内での物質の拡散が分離性能を支配するように連動した送液ポンプを用いた装置。
【実施例1】
【0027】
鰻の蒲焼加工の時に残さいとして出る中骨を水洗いし、そのまま、孔径6mmΦのプレートをつけてミンサーで粗粉砕した。このスラリー2.5kgと水5kgに耐熱性蛋白質分解酵素(ヤクルト薬品工業株式会社製アロアーゼXA−10)を25gの割合で原料ホッパーに入れ混合し、これを酵素分解塔(内容量8L)の上部から投入し攪拌した。一方、分解塔のジャケットを70℃に加熱し、酵素分解を行った。投入開始から3時間後に塔上部に設けた静置部に油脂層が一定のレベル分離した。その後、反応液を分解塔の下部から2.5kg/hrで排出し、排出液を連続的に200メッシュの振動フルイにかけ骨粒として0.3kg/hrで回収した。回収した骨粒を乾燥し、ジェットミルで平均粒径10ミクロンの超微粉末を得た。固形分を除いた分解液を被拡散液として、孔拡散式平膜分離装置で処理した。同時に孔拡散式平膜分離装置には拡散水として、蒸留水を6kg/hrで送入し、被拡散液から反応生成物を蒸留水に拡散させ、拡散液を回収した。被拡散液から拡散水に拡散されない蛋白質分解酵素並びに未反応の蛋白質などの高分子物質は残液として孔拡散式平膜分離装置から排出され、酵素液として再び酵素分解塔に2.3kg/hrで送入した。循環酵素液を酵素分解塔に循環を始めて、新たな原料として中骨0.8kg/hrの粗粉砕スラリーを送入開始した。酵素分解塔の上部静置部に浮遊した油脂層のレベルを保ちながら一定量づつ抜き出した。得られた油脂層を遠心分離機で水層と分離した。
連続的に酵素分解を続け、中骨スラリーとして5kg処理して、油脂成分300gを得た。
得られた鰻油の栄養機能性の評価のため、ラットによる摂食効果を調べた。
表1に摂取量および体重増加に及ぼす影響を示した。
コントロールとしてはサフラワー油を使用。
【0028】
【表1】

自由摂食で実験を開始したが、体重が鰻油で有意に高い傾向が認められたので摂取開始から11日目から餌の投与量を制限したが、最終的に有意な体重増加が認められた。
結果として、鰻油で摂取効率が高い結果が得られたので、栄養分の有効利用を支持する成分が含まれていることが分かる。
表2に組織重量に及ぼす影響を示した。
【0029】
【表2】

この結果、鰻油は睾丸周辺脂肪、褐色脂肪組織重量が有意に高い結果が得られた。
睾丸周辺脂肪は白色脂肪組織であり、肥満につながる結果であるが、体脂肪の燃焼につながる褐色脂肪組織の重量増加は肥満抑制に寄与するので、表1及び表2から鰻油は摂取効率を上昇させながら、体脂肪の蓄積は抑制効果が得られることが分かる
表3に血清脂質レベル及び肝機能指数に及ぼす影響を示す。
【0030】
【表3】


この結果、脂質過酸化の指標であるTBARSレベルが低く、鰻油には抗酸化成分が存在する事が分かる。
表4に血清および肝臓の脂質過酸化物レベルおよび肝臓α―トコフェロールレベルに及ぼす影響を示す。
【0031】
【表4】


一般的に、魚油を摂食させると脂質過酸化により、α―トコフェロールが消耗し、低下する事が報告されているが、この結果では、有意に高いα―トコフェロールレベルが得られており、この事からも抗酸化成分の存在が分かる。
表5に食餌脂肪の脂肪酸組成を示す。
【0032】
【表5】


表6に肝臓リン脂質の一つであるホスファチジルコリンの脂肪酸組成を示す。
【0033】
【表6】

リノール酸からはアラキドン酸が合成され、アラキドン酸から1型アレルギーの原因物質である4−シリーズロイコトリエンが生産されるが、鰻油ではリノール酸およびアラキドン酸のレベルが低い事から、アレルギー原因物質である4−シリーズロイコトリエンの産生が低下している。また、n−3系列のEPAから5−シリーズロイコトリエンが生産され、4−シリーズロイコトリエンとの競合により抗アレルギー効果が発現する。鰻油では、EPAレベルが有意に高く、抗アレルギー的環境が形成されている。DHAは脳に多く存在し、細胞活性を高めるが、鰻油ではDHAレベルの顕著な上昇が認められ、ラットの生理機能に多様な影響を及ぼしている。
表7にリンパ球の抗体産生能に及ぼす影響を示す。[単位:(ng/ml)]
【0034】
【表7】

脾臓リンパ球は全身免疫系に属し、抗原特異的IgGおよびIgMの産生を通じて感染症の予防に寄与する。腸間膜リンパ節リンパ球(MLN)は腸管免疫系に属し、抗原特異的IgAの産生を通じて感染症およびアレルギー予防に寄与する。この結果から鰻油の摂食が脾臓リンパ球のIgGおよびIgM産生能を上昇させ、全身免疫系を活性化する事が示された。一方、腸間膜リンパ節リンパ球のIgA並びにIgGの産生能には影響を及ぼさず、IgM産生能は低下させた。この結果から鰻油成分が全身免疫系を特異的に活性化させることが分かる。

【実施例2】
【0035】
鰻油と骨微粉末を利用した健康補助食品として、日常の食卓に常備し、お年寄りや子供達に好んで食べやすいものとしてのふりかけ食品を得た。
まず、実施例1でえられた鰻油70gとカゼインナトリウム10gにデキストリン20gを鰻の蒲焼用のたれ100gと水100gに乳化剤1gを用いて、エマルジョンとし、これをスーパードライヤーで粉末油脂とした。この鰻油粉末のうち40gに、同じく実施例1で得られた骨微粉末20gと黒胡麻10g、白胡麻20g並びに青海苔10gを混合して、蒲焼風味の美味しいふりかけで、栄養価の高い高機能性の栄養補助食品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明方法は鰻に含まれる油脂成分を品質的にも経済的にもすぐれたプロセスで分離回収するために、蛋白質分解酵素を用いて、短時間で分解することで、酸化変性並びに細菌汚染による有効成分の劣化を防ぎ、鰻に含まれる生理活性物質を変質や損傷の少ない状態で回収でき、免疫調節および脂質代謝機能にすぐれた多機能性食品や医療品産業などに利用される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】工程図
【符号の説明】
【0038】
1 原料
2 粗粉砕
3 水
4 スラリー
5 蛋白質分解酵素
6 酵素分解塔
7 静置分離
8 油脂成分
9 固液分離機
10 骨粒
11 遠心分離機
12 被拡散液
13 孔拡散式膜分離機
14 拡散水
15 拡散液
16 被拡散残液
17 膜濃縮機




























【特許請求の範囲】
【請求項1】
鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などを蛋白質分解酵素で酵素分解し、油脂成分を調整するプロセスにおいて、酵素分解装置の上部を攪拌部と静置部とに隔壁にて分離し、静置部から油脂成分を回収する高機能性鰻油調整プロセス。
【請求項2】
請求項1において、鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などの原料と蛋白質分解酵素を酵素分解装置に供給し、滞留時間1〜6時間の短時間で加水分解反応させることにより、摂取効率を上昇させながら、栄養分の有効利用を支持する成分を含んだ高機能性鰻油の調整プロセス。
【請求項3】
請求項1において、鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などの原料と蛋白質分解酵素を酵素分解装置に供給し、滞留時間1〜6時間の短時間で加水分解反応させることにより、体脂肪の蓄積は抑制され、抗酸化成分を含んだ高機能性鰻油の調整プロセス。
【請求項4】
請求項1において、鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などの原料と0.05〜5重量%の蛋白質分解酵素を酵素分解装置に供給し、滞留時間1〜6時間の短時間で加水分解反応させることにより、摂取効率を上昇させながら、栄養分の有効利用を支持する成分を含んだ高機能性鰻油の調整プロセス。
【請求項5】
請求項1において、鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などの原料と0.05〜5重量%の蛋白質分解酵素を酵素分解装置に供給し、滞留時間1〜6時間の短時間で加水分解反応させることにより、体脂肪の蓄積は抑制され、抗酸化成分を含んだ高機能性鰻油の調整プロセス。
【請求項6】
請求項1において、鰻の加工残さいの中骨、頭、内臓などの原料と0.05〜5重量%の蛋白質分解酵素を酵素分解装置に供給し、滞留時間1〜6時間の短時間で加水分解反応させることにより、EPAレベルが有意に高く、抗アレルギー的環境が形成されている全身免疫系を特異的に活性化させる効果が得られる高機能性鰻油の調整プロセス。
【請求項7】
請求項1、2,3,4,5,6において得られた油脂成分を原料とする栄養補助食品。
【請求項8】
請求項1、2,3,4,5,6において得られた油脂成分を原料とする医療品。


【図1】
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【公開番号】特開2006−312674(P2006−312674A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135765(P2005−135765)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(502366446)株式会社福岡養鰻 (4)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】