高機能繊維構造体
【課題】培養培地を流通させ、培地の剪断応力により細胞接着能の低下が考えられる用途(バイオリアクター等)にも使用できる、細胞接着能を向上させた高機能繊維構造体を提供する。
【解決手段】平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維構造体であり、内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の無機系繊維構造体を開示する。
【解決手段】平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維構造体であり、内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の無機系繊維構造体を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能繊維構造体に関する。本発明の高機能繊維構造体は、例えば、培養基材、培養担体、スキャフォールドなどに使用することができ、特に、培養細胞に対して培地の剪断応力がかかる流通型培養装置の培養基材として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、静電紡糸法によれば、繊維径の揃った繊維が3次元のネットワーク構造を成し、孔径が均一な不織布を製造できる。
このような静電紡糸法は、紡糸原液を紡糸空間へ供給するとともに、供給した紡糸原液に対して電界を作用させて延伸し、対向電極上に集積させることによって紡糸する方法である。このように、電界の作用により延伸し、紡糸された繊維は対向電極上に、直接電界の力で集積するため、ペーパー状の不織布になる。しかしながら、断熱材の用途、濾過用途などに使用する場合には、嵩高な不織布であるのが好ましい。
【0003】
そのため、本願出願人は、紡糸するポリマー溶液に電荷を付与するステップ、前記電荷を付与したポリマー溶液を紡糸空間へ供給し静電気力により飛翔させるステップ、前記供給して形成した繊維に、前記繊維とは反対極性のイオンを照射するステップ、紡糸した繊維を回収するステップを含む、嵩高な不織布の製造方法(=中和紡糸法、特許文献1,2)を提案した。
この嵩高な不織布は、繊維同士が接着していないか、あるいは、極めて弱く接着した低密度で綿状の不織布であるため、保形性や強度を必要としない用途には適用できたが、液体濾過など、保形性や強度を必要とする用途においては、不織布形態を保つことができず、実用に適さない場合があった。
【0004】
そのため、中和紡糸した無機系繊維不織布の保形性や強度を付与するための方法として、例えば、以下のような方法が考えられる。
(1)無機系繊維を抄造して無機系繊維不織布を製造する方法
(2)無機系繊維不織布にバインダーをスプレーし、乾燥する方法
(3)無機系繊維不織布をバインダー浴に浸漬した後、2本ロールプレス機(圧をかける装置)に通して余剰バインダーを除き、その後乾燥する方法
【0005】
しかしながら、(1)の方法は、静電紡糸法によるナノファイバーの抄紙は極めて困難である。(2)の方法は、無機系繊維不織布全体に(特に不織布内部まで)バインダーを均一に付与することが困難で、強度的に劣る。(3)の方法は、無機系繊維不織布の空隙が潰れ、嵩高性を維持できず、空隙率が低くなる。
【0006】
ところで、このような無機系繊維不織布をはじめとする繊維構造体は、培養担体に適用することができる。細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養するため、細胞を3次元培養することによる組織形成誘導技術がある。この培養担体として、フィルム、粒子、中空糸、繊維集合体、発泡体などが知られている。
しかしながら、これら培養担体は3次元培養に必要な細胞の足場となる表面積が不充分であるため、細胞の高密度培養が困難であったり、生体内環境に類似した細胞の組織形成能を保有していない場合が多い。
このような従来の培養担体の問題点を解決し、3次元培養できる培養担体として、「エレクトロスピニング法により作製したナノファイバーを含むスキャフォールド」が提案されている(特許文献3)。具体的な実施例においては、シリカ、PVAからなるナノファイバーを使用している。
しかしながら、このようなナノファイバーを含むスキャホールドであっても、細胞増殖能が低く、高密度培養を行うことが困難であり、また、細胞機能も発現しにくいものであった。更には、繊維密度や厚みの制御が困難であり、また細胞塊が不均一に形成されることから、培養状態を観察することが困難であった。
【0007】
また、繊維構造体に機能を付与するために金属イオン含有化合物を付与することが行われている。例えば、細胞の分裂・増殖・分化、血液の凝固、筋肉の収縮、神経感覚細胞の興奮、貪食、抗原認識、抗体分泌など免疫反応、各種ホルモン分泌など広範囲な生体反応に関与し、また、リンと共にヒドロキシアパタイト結晶を形作って骨や歯牙のマトリクス構造に沈着して強度を与えるカルシウム、細胞外液の浸透圧維持のために働くナトリウム、酸素の運搬作用、及びエネルギー代謝における電子伝達体(チトクロムC)の必須部位である鉄、骨と歯牙の主要な無機成分であるマグネシウム、神経興奮性の維持、筋肉の収縮、細胞内の浸透圧維持のために働くカリウム、或いは銅、ヨウ素、セレン、クロム、亜鉛、モリブデンなどの金属を繊維構造体に付与することによって、細胞機能を向上させることができる細胞培養基材として、又は抗菌性能を有する繊維構造体として使用することができる。
【0008】
例えば、特許文献3には、「エレクトロスピニング法により作製した細胞接着因子(特にリン酸カルシウム)により表面修飾されたナノファイバーを含むスキャフォールド」(請求項1、8、9)が提案されている。具体的には、ゾルゲル法により合成されたシリカナノファイバーが好適であること、シリカナノファイバーの焼成温度によって親水性又は疎水性とし、細胞の接着率を操作できること、シリカナノファイバーを人工体液中でインキュベーションすることにより、ナノファイバー表面にリン石灰を析出させることができ、人工骨用細胞担体として有用であること、などが開示されている(段落番号0015、0018、0025など)。
しかしながら、このようなナノファイバーを含むスキャフォールドは細胞機能の低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−238749号公報
【特許文献2】特開2005−264374号公報
【特許文献3】特開2007−319074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術のこれらの課題を解決し、保形性、強度を必要とする用途にも使用できる嵩高な高機能繊維構造体、前記性能に優れることによって、細胞増殖能が高く、高密度培養を行うことができ、また、細胞機能も発現しやすく、繊維密度や厚みの制御が可能であり、培養状態を観察しやすい高機能繊維構造体、細胞機能が高い、抗菌性に優れるなど、機能性に優れる高機能繊維構造体、あるいは、培養培地を流通させ、培地の剪断応力により細胞接着能の低下が考えられる用途(バイオリアクター等)にも使用できる、細胞機能を向上させた高機能繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1)平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維集合体の内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の高機能繊維構造体;
(2)引張破断強度が0.2MPa以上である、(1)の高機能繊維構造体;
(3)繊維単位質量あたりの水酸基量が50μmol/g以上である、(1)又は(2)の高機能繊維構造体;
(4)静電紡糸法により紡糸された無機系繊維に対して、前記無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させる工程を含んで製造された無機系繊維集合体を、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着し、繊維表面に細胞機能性因子を付与した、(1)〜(3)の高機能繊維構造体;
(5)無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成していない、(1)〜(4)の高機能繊維構造体;
(6)更に金属イオン含有化合物が付与された、(1)〜(5)の高機能繊維構造体;
(7)培養担体として用いる、(1)〜(6)の高機能繊維構造体;
に関する。
【発明の効果】
【0012】
前記(1)の本発明の高機能繊維構造体は、内部を含む全体が無機系接着剤で接着されているため、保形性に優れ、充分な強度を有する。特に、液体中においても、保形性に優れ、充分な強度を有する。また、繊維表面に細胞機能性因子が付与されているため、細胞接着能、細胞増殖能、物質生産能、細胞分化能などの向上が認められる。また、高機能繊維構造体の空隙率が90%以上であるため、断熱材の用途、濾過用途、細胞等の培養担体用途、スキャフォールド用途、抗菌材料用途など、嵩高であるのが好ましい用途に適用することができる。
【0013】
前記(2)の本発明の好適態様によれば、引張破断強度が0.2MPa以上であるため、保形性に優れ、充分な強度を有する。
前記(3)の本発明の別の好適態様によれば、繊維単位質量あたりの水酸基量が50μmol/g以上であるため、アパタイト等を繊維表面に析出させることができ、高機能繊維構造体に機能を付与することができる。
【0014】
前記(4)の本発明の更に別の好適態様によれば、静電紡糸法により紡糸された繊維を使用しており、繊維径が細いため、表面積が広い。更に、孔径分布が均一であることから、高機能繊維構造体内部に均一空間が存在する。この結果、機能を充分に発揮することができる。例えば、培養担体として使用した場合、細胞の足場となる表面積が広いため、表面積が広い均一空間での3次元培養が可能である。また、細胞と、細胞との足場となる繊維との接着効率が向上し、更に、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率が向上するため、細胞増殖能に優れ、高密度培養できる。
また、無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積し、無機系繊維集合体を形成している、つまり、中和紡糸法に由来する90%以上の高い空隙率(嵩高)の結果、繊維密度が低いため、高機能繊維構造体内部を有効に利用することができる。例えば、培養基材として使用した場合、繊維密度が低いため、細胞が培養担体内部まで広がりやすいという効果を奏する。また、無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積し、無機系繊維集合体を形成しているため、嵩高となり、観察可能なまでの繊維密度と厚みの制御が可能である。また、繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積するため90%以上の高い空隙率となる。
更に、無機系繊維集合体であるため、無機系接着剤を付与する際に厚さが潰れない。その結果、繊維密度と厚みの制御が可能である。そのため、培養基材として使用した場合、培養状態を観察しやすい。
更に、無機系接着剤で接着されているため、溶液中など様々な使用条件下で形態を維持でき、そのため高機能繊維構造体内部を有効に利用できる。培養基材とした場合、3次元に培養でき、細胞が組織環境に近い状態で培養されるため、細胞機能を発現しやすい。
更に、高機能繊維構造体は90%以上の空隙率を有する。例えば、培養担体として使用した場合、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率を向上させることができ、かつ、細胞培養に必要な足場が多いため、高密度培養できる。
また、繊維表面に細胞機能性因子が付与されているため、細胞接着能、細胞増殖能、物質生産能、細胞分化能などの向上が認められる。
【0015】
前記(5)の本発明の更に別の好適態様によれば、高機能繊維構造体は内部を含む全体において、無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成することなく、無機系接着剤で接着されているため、内部空隙を有効に利用することが可能である。例えば、培養担体として使用した場合、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率を向上させることができ、かつ、細胞培養に必要な足場が多いため、高密度培養できる。
【0016】
前記(6)の本発明の更に別の好適態様によれば、金属イオン含有化合物が付与され、含有するため、細胞機能が高い、抗菌性に優れるなど、機能性に優れている。
前記(7)の本発明の更に別の好適態様によれば、本発明の高機能繊維構造体を培養担体として使用した場合、平均繊維径が3μm以下と細いため、表面積が広い。その結果、細胞と、細胞との足場となる繊維との接着効率が向上し、更に、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率が向上するため、細胞増殖能に優れ、高密度培養できる。
また、無機系接着剤で接着されているため、培養液中においても形態を維持できる。その結果、高機能繊維構造体の嵩高な構造を維持できるため、3次元に培養でき、細胞が組織環境に近い状態で培養されるため、細胞機能を発現しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の一態様を模式的に示す説明図である。
【図2】紡糸用無機系ゾル溶液中に浸したエッジ電極を模式的に示す説明図である。
【図3】紡糸用無機系ゾル溶液中に浸したコンベア状のワイヤ電極を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)は沿面放電素子の構造を模式的に示す平面図であり、(b)は沿面放電素子の構造を模式的に示す側面図である。
【図5】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の別の一態様を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の更に別の一態様を模式的に示す説明図である。
【図7】実施例1で作製した各培養担体〔フィブロネクチン(FN)付与または未付与〕における培養日数14日までのCHO−K1細胞の単位ディッシュ当たりの細胞数変化を示すグラフである。
【図8】実施例1で作製した各培養担体上でのCHO−K1細胞の細胞接着率を示すグラフである。
【図9】実施例1で作製した各培養担体における培養日数14日までのCHO−K1細胞の分泌するIL−6の濃度変化を示すグラフである。
【図10】培養担体b(FN未付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図11】培養担体FN(1)(1μg/mL FN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図12】培養担体FN(5)(5μg/mL FN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図13】培養担体FN(30)(30μg/mL FN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図14】実施例3で作製した各培養担体〔ビトロネクチン(BN)付与または未付与〕における培養日数14日までのCHO−K1細胞の単位ディッシュ当たりの細胞数変化を示すグラフである。
【図15】実施例3で作製した各培養担体上でのCHO−K1細胞の細胞接着率を示すグラフである。
【図16】実施例3で作製した各培養担体における培養日数14日までのCHO−K1細胞の分泌するIL−6の濃度変化を示すグラフである。
【図17】培養担体b〔BN未付与〕上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図18】培養担体BN(0.01)(0.01μg/mL BN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図19】培養担体BN(0.1)(0.1μg/mL BN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図20】培養担体BN(5)(5μg/mL BN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の高機能繊維構造体は、平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維集合体の内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の高機能繊維構造体であり、所望により、金属イオン含有化合物を付与している。
【0019】
本発明における無機系繊維には、例えば、無機系ゲル状繊維、無機系乾燥ゲル状繊維又は無機系焼結繊維が含まれる。
無機系ゲル状繊維とは、溶媒を含む状態の繊維であり、例えば、無機系繊維の原料がテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水、塩酸からなる場合は、最も沸点の高い物質が水であるため、100℃未満の温度で熱処理をした、又は熱処理をしていない繊維である。
【0020】
また、無機系乾燥ゲル状繊維とは、ゲル状繊維中に含まれる溶媒などが抜けた状態を意味する。例えば、無機系繊維の原料がテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水、塩酸からなる場合は、最も沸点の高い物質が水であるため、100℃以上の温度で熱処理をした繊維である。
【0021】
また、無機系焼結繊維とは、無機系乾燥ゲル状繊維(多孔質)が、焼結(無孔質)した状態を意味する。例えば、無機系繊維の原料がシリカ系の場合は、800℃以上の熱処理した繊維である。
【0022】
本発明の高機能繊維構造体においては、無機系ナノファイバーの平均繊維径は表面積が広く、機能性に優れるように、3μm以下である。好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
「平均繊維径」は50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は高機能繊維構造体を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した繊維の太さをいう。
【0023】
高機能繊維構造体の形態は、不織布のような二次元的形態、中空円筒形、円筒形などの三次元的形態などがある。なお、三次元的形態の高機能繊維構造体は、例えば、不織布形態等の二次元的形態の無機系繊維集合体又は高機能繊維構造体を成形することによって製造できる。
【0024】
本発明の高機能繊維構造体は、空隙率が90%以上の高い空隙率(嵩高)の結果、繊維密度が低いため、高機能繊維構造体内部を有効に利用することができる。例えば、培養基材として使用した場合、繊維密度が低いため、細胞が培養担体内部まで広がりやすいという効果を奏する。好ましい空隙率は91%以上であり、より好ましくは92%以上であり、更に好ましくは93%以上であり、更に好ましくは94%以上である。上限は特に限定するものではないが、形態安定性に優れるように、99.9%以下であるのが好ましい。
【0025】
なお、空隙率は次の式から算出することができる。
P=[1−Ws/(V×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Wsは高機能繊維構造体の質量(g)、Vは高機能繊維構造体の占める見掛上の体積(cm3)、SGは細胞機能性因子が付与された繊維の密度(g/cm3)をそれぞれ表す。なお、SGは細胞機能性因子と繊維の質量平均値であり、例えば、密度SGfの繊維Aがa(mass%)と、密度SGcの細胞機能性因子Bがb(mass%)からなる場合、細胞機能性因子が付与された繊維の密度SGは、次の式により得られる値をいう。
SG=SGf×a/100+SGc×b/100
例えば、不織布のように厚さが均一な場合は、次の式から算出することができる。
P=[1−Wn/(t×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Wnは高機能繊維構造体の目付(g/m2)、tは高機能繊維構造体の厚さ(μm)、SGは細胞機能性因子が付与された繊維の密度(g/cm3)をそれぞれ表す。なお、SGは細胞機能性因子と繊維の質量平均値である。
なお、目付は、最も面積の広い面の面積と質量を測定し、1m2当たりの質量に換算した値であり、厚さは、最も面積の広い面における荷重が100g/cm2となるように設定したマイクロメーター法で測定した値である。
また、高機能繊維構造体がウエット状態にある場合には、溶液を除去した後に測定した値を空隙率とする。
【0026】
高機能繊維構造体が二次元的形態(特に不織布)の場合、保形性に優れ、充分な強度を有するように、引張破断強度が0.2MPa以上であるのが好ましい。より好ましくは0.3MPa以上であり、更に好ましくは0.4MPa以上であり、更に好ましくは0.5MPa以上であり、更に好ましくは0.55MPa以上である。
【0027】
この引張破断強度は切断荷重を高機能繊維構造体の断面積で除した商である。なお、切断荷重は次の条件で測定した値であり、断面積は測定時の試験片の幅と厚さの積から得られる値である。
また、高機能繊維構造体がウエット状態にある場合には、溶液を除去した後に、高機能繊維構造体の切断荷重及び断面積を測定し、切断荷重を断面積で除した商を引張破断強度とする。
製品名:小型引張試験機
型式:TSM−01−cre サーチ株式会社製
試験サイズ:5mm幅×40mm長
チャック間間隔:20mm
引張速度:20mm/min.
初荷重:50mg/1d
【0028】
繊維単位質量あたりの水酸基量は親水性に優れるように、50μmol/g以上であるのが好ましく、100μmol/g以上であるのがより好ましく、200μmol/g以上であるのが更に好ましく、300μmol/g以上であるのが更に好ましく、400μmol/g以上であるのが更に好ましく、500μmol/g以上であるのが更に好ましい。
【0029】
この繊維単位質量あたりの水酸基量は高機能繊維構造体の水酸基量を水酸基量測定に用いた高機能繊維構造体の繊維量(単位:g)で除した商である。
なお、水酸基量は中和滴定法を用いて定量した値である。つまり、高機能繊維構造体を20vol%の塩化ナトリウム水溶液50mL中に分散させた後、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を中和点まで滴下し、中和に必要な水酸化ナトリウム滴下量から、高機能繊維構造体の水酸基量を決定する(参考文献参照)。
(参考文献)
George W S.,Determination of Specific Sufface Area of Colloidal Silica by Titration with Sodium Hydroxide,Anal.Cheam.;28,1981-1983,(1956)
【0030】
本発明の高機能繊維構造体は、内部を含む全体において、無機系接着剤(すなわち、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液)で接着(好ましくは、無機系繊維間に被膜を形成することなく接着)されているため、90%以上の空隙率を保持することが可能である。例えば、培養担体として使用した場合、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率を向上させることができ、かつ、細胞培養に必要な足場が多いため、高密度培養できる。
【0031】
本明細書において、「細胞機能性因子」とは、細胞の機能、例えば、細胞接着、細胞増殖、細胞物質生産、細胞分化等に影響を及ぼす物質を意味する。細胞機能性因子には、膜タンパク質、細胞外マトリックスに存在するタンパク質、サイトカインのような特有のタンパク質、ペプチド、各種成長因子等が挙げられる。また、細胞に機能性を付与できるのであれば、人工的に作製された物質も含まれる。
【0032】
膜タンパク質や細胞外マトリックスに存在するフィブロネクチンやラミニンなどは、細胞接着因子として細胞に影響を及ぼす。また、細胞接着因子としては、フィブロネクチン分子中の細胞接着活性本体であるRGD配列をフィブロイン骨格に遺伝子工学的に高効率で組み込んだ人工細胞接着因子(プロネクチン(三洋化成))も含まれる。
【0033】
前記膜タンパク質としては、アドヘレンス・ジャンクションの形成と維持に関与するカドヘリン、細胞基質接着に関わるインテグリンが、代表的な細胞機能性因子である。ギャップジャンクション、タイトジャンクションやデスモソームにもそれぞれ、コネキシン、クローディン、デスモグレインが接着分子として存在している。さらに上皮、血管内皮、免疫系、神経などの様々な細胞間認識に関わる免疫グロブリンスーパーファミリー分子、白血球の組織分配に関わるセレクチン、神経シナプスの誘導に関わるニューロリギンなどがある。これらの接着分子を含め、膜タンパク質としては、カドヘリンスーパーファミリー(クラシックカドヘリン、プロトカドヘリン)、インテグリンファミリー、クローディンファミリー、デスモグレイン、免疫グロブリンスーパーファミリー(NCAM、L1、ICAMファミリー、ネクチン)、セレクチン、ニューロリギン、ニューレキシンを挙げることができる。
【0034】
細胞外マトリックスタンパク質としては、例えば、コラーゲン群、非コラーゲン性糖タンパク質群〔フィブロネクチン、ビトロネクチン(血清中。培養細胞の接着因子)、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド(von Willebrand)因子(血漿中)、オステオポンチン(破骨細胞)、フィブリノーゲンなど〕、エラスチン群、プロテオグリカン群を挙げることができる。
細胞接着試薬として販売されているものとしては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、ゼラチン、ポリL−リジン、ポリD−リジン、ラミニンなどがある。
【0035】
サイトカインは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをいう。多くの種類があるが特に免疫、炎症に関係したものが多く、また細胞の増殖、分化、細胞死、あるいは創傷治癒などに関係するものがある。
サイトカインの機能は、白血球が分泌し免疫系の調節に機能するインターロイキン、同様に免疫系調節に関与し、リンパ球が分泌するものをリンフォカイン、また単球やマクロファージが分泌するモノカイン、白血球の遊走を誘導するケモカイン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の機能を持つインターフェロン、血球の分化・増殖を促進する造血因子、特定の細胞に対して増殖を促進する細胞増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF−α)やリンフォトキシン(TNF−β)など細胞にアポトーシスを誘発する細胞傷害因子、脂肪組織から分泌されるレプチン、TNF−αなどで、食欲や脂質代謝の調節に関わるアディポカイン、神経成長因子(NGF)など神経細胞の成長を促進する神経栄養因子などがある。
【0036】
本発明の高機能繊維構造体は、所望により、更に金属イオン含有化合物を付与することができる。
金属イオン含有化合物を構成する金属としては、例えば、カルシウム、ナトリウム、鉄、マグネシウム、カリウム、銅、ヨウ素、セレン、クロム、亜鉛、又はモリブデンなどを挙げることができる。これらの金属は、細胞機能誘導因子又は抗菌作用を奏する。
金属イオン含有化合物は、例えば、金属塩であることができる。金属塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩、硝酸塩、水酸化物などを挙げることができる。特に、カルシウムイオン含有塩、マグネシウムイオン含有塩、アパタイト(りん灰石)を付与した機能性を有する高機能繊維構造体は、細胞機能を高めた細胞培養を行うことができる。
【0037】
本発明の高機能繊維構造体は、例えば、
(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液から、静電紡糸法により無機系繊維を紡糸する工程(紡糸工程)、
(2)前記無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させ、無機系繊維集合体を形成する工程(集積工程)、
(3)前記無機系繊維集合体の内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液(無機系接着剤)を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維構造体を形成する工程(接着工程)、
(4)前記無機系繊維構造体に細胞機能性因子を付与して、高機能繊維構造体を形成する工程(細胞機能性因子付与工程)
を含む製造方法により製造することができる。
【0038】
前記製造方法は、所望により、
(5)前記高機能繊維構造体に金属イオン含有化合物を付与し、機能性を付与する工程(金属イオン含有化合物付与工程)
を更に含むか、あるいは、前記工程(4)に代えて、
(4’)前記無機系繊維構造体に金属イオン含有化合物を付与した後、更に細胞機能性因子を付与して高機能繊維構造体を形成する工程(金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程)
を含むことができる。
【0039】
前記製造方法では、前記金属イオン含有化合物付与工程(5)〔あるいは、前記金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程(4’)における金属イオン含有化合物付与工程〕に代えて、あるいは、前記工程(5)〔あるいは、前記金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程(4’)における金属イオン含有化合物付与工程〕に加えて、紡糸工程(1)で使用する紡糸用無機系ゾル溶液、及び/又は、接着工程(3)で使用する接着用無機系ゾル溶液に金属イオン含有化合物を添加することができる。
【0040】
図1は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の一態様を模式的に示す説明図である。
図1において、静電紡糸装置1は、繊維の原料となる、無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する紡糸ノズル2と、この紡糸ノズル2の先端下方に配置された繊維回収装置である繊維回収容器3内に配置された捕集部材(例えばネット、コンベアなど)4とを備えている。さらに、紡糸ノズル2に対向して配置され、吐出されて形成する繊維とは反対極性のイオンを発生するイオン発生手段であると共に、電気的に繊維を吸引できる対向電極5を備えている。紡糸ノズル2には、紡糸用無機系ゾル溶液を供給するゾル溶液供給機6が接続されており、紡糸ノズル2及び対向電極5にはそれぞれ第1高電圧電源7及び第2高電圧電源8が接続されている。また、繊維回収容器3には、繊維を繊維回収容器3に吸引する吸引機9が設けられている。
【0041】
紡糸ノズル2としては、内径0.01〜5ミリ程度の金属・非金属パイプを使用できる。また、図2に示すように、紡糸用無機系ゾル溶液21を収容したゾル溶液容器22中に回転するノコギリ状歯車20を浸漬させ、対向電極5に向かうノコギリ状歯車20の先端部20aを電極とするエッジ電極を使用できる。同様に図3に示すように、ワイヤ20bをローラー23によってゾル溶液容器22内を回転させ、紡糸用無機系ゾル溶液21の付着したコンベア状のワイヤ20bを電極として使用することもできる。なお、図3においては、対向電極(図示しない)は、紙面に垂直に配置されている。さらに、従来の種々の静電紡糸用電極を利用することもできる。
【0042】
対向電極5としては、コロナ放電用ニードル(高電圧印加あるいは接地でもよい)、コロナ放電用ワイヤ(高電圧印加あるいは接地でもよい)、交流放電素子などが使用できる。また、交流放電素子として、図4に示すような沿面放電素子を使用できる。すなわち図4において、沿面放電素子25は、誘電体基板26(例えば、アルミナ膜)を挟んで放電電極27及び誘起電極28を設け、これらの電極間に交流の高電圧を印加することにより、放電電極27部分で沿面放電を起こし、正及び負のイオンを生成させることができる。
【0043】
紡糸工程(1)では、まず、(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液を形成する工程を実施する。本明細書において「無機成分を主体とする」とは、無機成分が50mass%以上を占めていることを意味し、60mass%以上を占めているのがより好ましく、75mass%以上を占めているのがより好ましい。
【0044】
この紡糸用無機系ゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機系繊維を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、100℃以下程度の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えばアルコール)又は水である。
【0045】
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0046】
前記の化合物としては、例えば前記元素の酸化物を挙げることができ、具体的には、SiO2、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、FeO、Fe3O4、Fe2O3、VO2、V2O5、SnO2、CdO、LiO2、WO3、Nb2O5、Ta2O5、In2O3、GeO2、PbTi4O9、LiNbO3、BaTiO3、PbZrO3、KTaO3、Li2B4O7、NiFe2O4、SrTiO3などを挙げることができる。前記の無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO2−Al2O3のニ成分から構成することができる。
【0047】
前記の紡糸用無機系ゾル溶液は、後述する繊維を形成する工程において紡糸が可能となる粘度を有していることが必要である。その粘度は、紡糸可能な粘度である限り特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜100ポイズ、より好ましくは0.5〜20ポイズ、特に好ましくは1〜10ポイズ、最も好ましくは1〜5ポイズである。粘度が100ポイズを超えると細繊維化が困難となり、0.1ポイズ未満になると繊維形状が得られなくなる傾向があるためである。なお、ノズルを使用する場合には、ノズル先端部分における雰囲気を原料溶液と同様の溶媒ガス雰囲気とする場合には、100ポイズを超える紡糸用無機系ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
【0048】
紡糸工程(1)で用いる紡糸用無機系ゾル溶液は、上述のような無機成分以外に、有機成分を含んでいることができ、この有機成分として、例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物、などを挙げることができる。より具体的には、前記原料溶液に含まれる化合物がシラン系化合物である場合には、メチル基やエポキシ基で有機修飾されたシラン系化合物が縮重合したものを含んでいることができる。
【0049】
前記原料溶液は、前記原料溶液に含まれる化合物を安定化する溶媒(例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)又は水)、前記原料溶液に含まれる化合物を加水分解するための水、及び加水分解反応を円滑に進行させる触媒(例えば、塩酸、硝酸など)を含んでいることができる。また、前記原料溶液は、例えば、化合物を安定化させるキレート剤、前記化合物の安定化のためのシランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善、柔軟性、硬度(もろさ)調整のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う前、加水分解を行う際、或いは加水分解後に添加することができる。
【0050】
また、前記原料溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.002〜0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、触媒機能、吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。更に、前記原料溶液は、金属イオン含有化合物付与工程で詳述する金属イオン含有化合物を含有することもできるし、含有しないものであることもできる。
【0051】
テトラエトキシシランの場合、水の量がアルコキシドの4倍(モル比)を超えると曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、アルコキシドの4倍以下であるのが好ましい。
触媒として塩基を使用すると、曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、塩基を使用しないのが好ましい。
反応温度は使用溶媒の沸点以下であれば良いが、低い方が適度に反応速度が遅く、曳糸性のゾル溶液を形成しやすい。あまり低すぎても反応が進行しにくいため、10℃以上であるのが好ましい。
【0052】
以上のような静電紡糸装置1により無機系繊維集合体を形成する工程[すなわち、紡糸工程(1)及び集積工程(2)]は、次のように行われる。まず、紡糸する繊維の原料となる紡糸用無機系ゾル溶液をゾル溶液供給機6から紡糸ノズル2に供給する。次に、紡糸ノズル2及び対向電極5間に高電圧を印加した状態で、紡糸ノズル2先端から紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する。すると、帯電した液状のゾル溶液はその溶媒が揮発し、凝固してゲル状の無機系繊維となり対向電極5に向かって進行する[以上、紡糸工程(1)]。このとき、紡糸ノズル2に対向して配置された対向電極5から、繊維に向かってイオン5aが照射される。このイオンによって繊維の帯電が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状の無機系繊維集合体を得ることができる[以上、集積工程(2)]。
【0053】
なお、イオンの発生及び照射は、連続的に又は不連続的に行うことができる。また、紡糸ノズル2と対向電極5との間に電界が生じれば良く、いずれか一方のみに高電圧を印加し、他方を接地しても良い。また、紡糸ノズル2は加熱されていても、加熱されていなくても良い。
【0054】
図5は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の別の一態様を模式的に示す説明図である。
図5において、静電紡糸装置1Aは、実施形態1におけるイオンを発生できると共に、繊維を吸引できる対向電極5に替えて、電離放射線を照射できる電離放射線源10と、繊維を吸引できるネット状の対向電極5(第3高電圧電源11に接続されている)を用いた以外は、静電紡糸装置1と同様な構成であり、重複する説明は省略する。
【0055】
静電紡糸装置1Aにおいて、第1高電圧電源7及び/又は第3高電圧電源11により所定の電圧を紡糸ノズル2及び/又は対向電極5に印加することにより、紡糸ノズル2と対向電極5との間に電位差が生じ、繊維は電気的に吸引されて、対向電極5に向かって飛翔する[以上、紡糸工程(1)]。この飛翔する繊維に対して、電離放射線10aが照射され、気体をイオン化し、イオン源として作用する。これにより、繊維の帯電が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状の無機系繊維集合体を得ることができる[以上、集積工程(2)]。電離放射線源10を使用した場合には、その線量を紡糸ノズル2と対向電極5との間の電位差の形成とは独立して調節できるため、安定して無機系繊維集合体を得ることが可能である。
【0056】
なお、電離放射線源10としては種々の放射線源を使用することができ、特にX線照射装置が望ましい。なお、対向電極5は紡糸ノズル2との間に電位差が生じていれば良く、接地されていても電圧が印加されていても良い。また、電離放射線源10は、繊維に対して放射線を照射できれば良く、対向電極5の背後に位置している必要はない。さらに、対向電極5はネット状である必要はなく、電離放射線が透過できれば種々の部材が使用でき、蒸着フィルムであっても使用可能である。
【0057】
図6は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の更に別の一態様を模式的に示す説明図である。
図6において、静電紡糸装置1Bは、第1紡糸ノズル2aと第2紡糸ノズル2bとが、互いに対向して配置されている。第1紡糸ノズル2aには、紡糸用無機系ゾル溶液を供給する第1ゾル溶液供給機6a及び高電圧を印加する第1高電圧電源7が接続され、第2紡糸ノズル2bには、紡糸用無機系ゾル溶液を供給する第2ゾル溶液供給機6b及び第1高電圧電源7とは反対極性の高電圧を印加する第2高電圧電源8がそれぞれ接続されている。その他は、静電紡糸装置1と同様な構成であり、重複する説明は省略する。
【0058】
静電紡糸装置1Bにおいて、第1高電圧電源7及び第2高電圧電源8により互いに反対極性の電圧をそれぞれ第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bに印加しながら、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bから紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する[以上、紡糸工程(1)]。すると、互いに反対極性に帯電された繊維は、対向して吐出されることにより接触及び接近して電荷が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状の無機系繊維集合体を得ることができる[以上、集積工程(2)]。また、第1紡糸ノズル2aからのゾル溶液吐出条件と、第2紡糸ノズル2bからのゾル溶液吐出条件とが異なるように調整することにより、繊維径が異なる、繊維構成材の組成が異なるなど、異種の無機系繊維が混在する無機系繊維集合体を製造できる。
【0059】
なお、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bからの紡糸用無機系ゾル溶液の吐出は、連続的に又は不連続的に行うことができる。また、第1紡糸ノズル2aと第2紡糸ノズル2bとの間に電界が生じれば良く、これらのいずれか一方のみに高電圧を印加し、他方を接地しても良い。また、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bは加熱されていても、加熱されていなくても良い。
【0060】
上述した静電紡糸装置1、静電紡糸装置1A、静電紡糸装置1Bにおいては、1つの紡糸ノズル2、2a、2bに対して1本の紡糸ノズルを使用した態様であるが、紡糸ノズルは1本である必要はなく、生産性を高めるために、2本以上の紡糸ノズルを備えていることができる。
【0061】
また、これらの静電紡糸装置においては、紡糸空間における空気の速度を5〜100cm/秒、好ましくは10〜50cm/秒とすることができるように、捕集部材4の下方に吸引装置9を設けているが、吸引装置9に加えて、又はこれに替えて、送風装置を捕集部材4の上方に設けることができる。これによって、繊維の捕集性を向上させ、安定して無機系繊維集合体を製造することができる。
【0062】
集積工程(2)で得られた無機系繊維集合体は、集積させたそのままの無機系繊維集合体に対して、次の接着工程(3)を実施させることができるし、あるいは、熱処理した後に、次の接着工程(3)を実施させることもできる。この熱処理(以下、後述の接着用熱処理と区別する必要がある場合、集積後熱処理と称することがある)を実施することにより、無機系繊維集合体の構造や耐熱性が安定する。
なお、熱処理はオーブン、焼結炉等を用いて実施することができ、その温度は無機系繊維集合体を構成する無機成分によって適宜設定する。
【0063】
この集積後熱処理温度は200℃以上であるのが好ましく、300℃以上であるのが好ましい。このような温度で熱処理をすると、無機系繊維集合体の構造が安定化及び強度が増し、つまり、繊維同士がその交点で点状に接着するため、次の接着工程等の際に、無機系繊維構造体の形態を維持することができる。
【0064】
一方で、この集積後熱処理温度が500℃以下であると、無機系繊維構造体の親水性を高めることができる。また、培養基材として使用する場合には、細胞をスフェロイド形態で培養しやすい。例えば、無機系繊維が水酸基を有する場合、500℃以下の温度で集積後熱処理を実施することによって、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができるため、親水性が向上する。
【0065】
別の見方をすると、集積後熱処理温度を500℃よりも高くすることによって、疎水性を高め、細胞の接着性を高めることができ、培養基材として使用した場合には、細胞をシート形態で培養しやすく、更には、無機系繊維同士の接着力が高まるため、無機系繊維構造体の強度を高めることができる。
【0066】
接着工程(3)では、これまでの工程で得られた無機系繊維集合体の内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を形成させた(以下、接着工程(3)のこの前半の工程を、接着用無機系ゾル溶液付与工程と称することがある)後、前記接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を熱処理し(あるいは、室温で自然乾燥し)、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維構造体を形成する(以下、接着工程(3)のこの後半の工程を、接着用熱処理工程と称することがある)。なお、先述の集積後熱処理と区別する必要がある場合、接着用熱処理工程における前記熱処理を、接着用熱処理と称することがある。接着用無機系ゾル溶液を構成する原料(化合物)としては、無機系繊維を構成する元素を含む化合物と同様であるが、無機系繊維集合体内に浸透する限り、紡糸用無機系ゾル溶液と同じであっても異なっていてもよい。例えば、曳糸性である必要はなく、曳糸性がなくてもよい。また、粒子が含まれていてもよい。紡糸用無機系ゾル溶液を希釈したものであってもよく、濃度は適宜選択することができる。特には、金属アルコキシド加水分解・縮合物であるのが好ましい。更に、前記接着用無機系ゾル溶液は、金属イオン含有化合物付与工程で詳述する金属イオン含有化合物を含有することもできるし、含有しないものであることもできる。
【0067】
前記接着用無機系ゾル溶液の無機系繊維集合体への付与は、その全体に均一に、すなわち、無機系繊維集合体の外側部分と同様に、内部まで充分に接着用無機系ゾル溶液を到達させ、付与することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、無機系繊維集合体を接着用無機系ゾル溶液に浸漬することにより、実施することができる。集積工程(2)において無機系繊維集合体の集積後熱処理を実施した場合には、浸漬処理を実施してもばらけにくい。
【0068】
浸漬後の無機系繊維集合体に含まれる余剰の接着用無機系ゾル溶液は、通気により除去する。無機系繊維集合体は、無機系繊維から構成されているため、吸引及び/又は加圧により通気させても、厚さを潰すことがなく、内部を含む全体の繊維間に被膜を形成することなく、接着用無機系ゾル溶液を付与した接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を得ることができる。
【0069】
接着用熱処理工程では、接着用無機系ゾル溶液付与工程で得られた接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を乾燥し、内部を含む全体において、無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成することなく、無機系接着剤で接着した無機系繊維構造体を製造できる。前記接着用熱処理は接着用無機系ゾル溶液に含まれる溶媒などを揮発させることができれば良く、特に限定されるものではなく、例えば、80〜150℃の温度で10〜30分間保持することにより実施することができる。なお、室温で自然に乾燥させることもできる。本明細書における「接着用熱処理」には、前記の加熱による乾燥、室温による自然乾燥の他に、以下の焼成処理が含まれる。
【0070】
接着工程(3)では、前記の溶媒などを揮発させる接着用熱処理の後に、所望により、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体に含まれる接着用無機系ゾル溶液及び/又は無機系繊維を無機化するために、焼成処理を行なうことができる。この焼成処理を実施することにより、無機系繊維集合体の繊維交点を接着した無機系接着剤の強度及び耐熱性が向上する。また、無機系繊維の強度及び耐熱性が向上する。焼成処理は、例えば、焼結炉を用いて実施することができ、その温度は無機系接着剤及び無機系繊維を構成する無機成分によって適宜設定する。一般的には、焼成温度は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは300℃以上である。また、アパタイトを付与した機能性を有する高機能繊維構造体を製造する場合には、後述する焼成温度で実施することが好ましい。なお、本発明の製造方法では、このような焼成処理を実施しなくても構わない。
無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成することなく、また、空隙率を下げないように、無機系接着剤で接着する際には、無加重で焼成を実施することが好ましい。
【0071】
なお、この接着用熱処理温度が500℃以下であると、無機系繊維構造体の親水性を高めることができる。また、培養基材として使用する場合には、細胞をスフェロイド形態で培養しやすい。例えば、無機系繊維が水酸基を有する場合、500℃以下の温度で接着用熱処理を実施することによって、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができるため、親水性が向上する。
【0072】
別の見方をすると、接着用熱処理温度を500℃よりも高くすることによって、疎水性を高め、細胞の接着性を高めることができ、培養基材として使用した場合には、細胞をシート形態で培養することができ、更には、無機系繊維同士の接着力が高まるため、無機系繊維構造体の強度及び耐熱性を高めることができる。このような接着用熱処理は、例えば、オーブン、焼結炉等を用いて実施することができる。
【0073】
細胞機能性因子付与工程(4)では、前記接着工程(3)で得られた無機系繊維構造体に細胞機能性因子を付与して、本発明の高機能繊維構造体を形成する。細胞機能性因子の付与方法としては、例えば、細胞機能性因子含有溶液中に無機系繊維構造体を浸漬する方法、細胞機能性因子含有溶液を無機系繊維構造体に塗布又はスプレーする方法などを挙げることができる。
より具体的には、細胞機能性因子を、その活性を維持することのできる適用な溶媒(例えば、緩衝液)に溶解し、その溶液に無機系繊維構造体を浸漬することにより、あるいは、前記溶液を塗布又はスプレーすることにより、高機能繊維構造体を得ることができる。
【0074】
金属イオン含有化合物付与工程(5)では、前記細胞機能性因子付与工程(4)で得られた高機能繊維構造体に、金属イオン含有化合物含有溶液を付与することにより、更に機能性を付与した高機能繊維構造体を形成することができる。
なお、本発明においては、前記細胞機能性因子付与工程(4)及びそれに続く前記金属イオン含有化合物付与工程(5)(すなわち、細胞機能性因子の付与後に、金属イオン含有化合物を付与する操作)に代えて、金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程(4’)(すなわち、金属イオン含有化合物の付与後に、細胞機能性因子を付与する操作)を実施することもできる。
【0075】
金属イオン含有化合物を構成する金属としては、例えば、カルシウム、ナトリウム、鉄、マグネシウム、カリウム、銅、ヨウ素、セレン、クロム、亜鉛、又はモリブデンなどを挙げることができる。これらの金属は、細胞機能誘導因子又は抗菌作用を奏する。
金属イオン含有化合物は、例えば、金属塩であることができる。金属塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩、硝酸塩、水酸化物などを挙げることができる。特に、カルシウムイオン含有塩、マグネシウムイオン含有塩、アパタイト(りん灰石)を付与した高機能繊維構造体は、細胞機能を高めた細胞培養を行うことができる。
【0076】
金属イオン含有化合物の付与方法としては、例えば、金属イオン含有化合物含有溶液中に無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体を浸漬する方法、金属イオン含有化合物含有溶液を無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体に塗布又はスプレーする方法などを挙げることができる。無機系繊維がシリカ繊維の場合、金属イオン含有化合物を浸漬、塗布又はスプレーした後、熱処理(焼成処理)を行い、金属イオン含有化合物を高濃度で付与するのが好ましい。なお、タンパク質などを付与した後に、金属イオンを付与する場合、加熱するとタンパク質が壊れる場合があるので、加熱処理はタンパク質の種類によって適宜調整する必要がある。
【0077】
より具体的には、カルシウムイオン含有塩又はマグネシウムイオン含有塩を付与した機能性を有する無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体は、例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩を適当な溶媒(例えば、低級アルコール)に溶解した溶液に、無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体を浸漬することにより、あるいは、前記溶液を塗布又はスプレーすることにより、得ることができる。
【0078】
また、アパタイトを付与した高機能繊維構造体は、例えば、表面に水酸基を含む無機系繊維(特に、シリカ繊維)を、少なくともリン酸イオンとカルシウムイオンを含む人工体液中に浸漬させることにより、無機系繊維上にアパタイトを析出させることができる。無機系繊維がシリカ繊維の場合(特に、骨培養基材用繊維構造体とする場合)には、集積工程(2)で集積後熱処理を実施することも、あるいは、実施しないでおくこともできるが、集積後熱処理を行う場合には、無機系繊維集合体を500℃以下の温度で熱処理することが好ましく、120〜300℃であることがより好ましい。このように、集積後熱処理を行わないか、あるいは、集積後熱処理を行っても500℃以下であることによって、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができ、好ましくは100μmol/g以上とすることができる。
また、接着用無機系ゾル溶液を付与した後、接着工程(3)において、同様の温度範囲で接着用熱処理(乾燥及び/又は焼成)し、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上(より好ましくは100μmol/g以上)とすることが好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0080】
《実施例1:フィブロネクチン(FN)付与高機能繊維構造体(不織布)の作製と評価》
(1)シリカ繊維不織布の作製
紡糸工程(1)及び集積工程(2)
金属化合物としてのテトラエトキシシラン、溶媒としてのエタノール、加水分解のための水、及び触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で10時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去して濃縮した後、温度60℃に加熱して、粘度が2ポイズのゾル溶液を形成した。得られたゾル溶液を紡糸液(紡糸用無機系ゾル溶液)として用い、中和紡糸法によりゲル状シリカ繊維ウエブを作製した。
【0081】
なお、前記中和紡糸法は、特開2005−264374号公報の実施例8と同じ紡糸条件で実施した。つまり、図1の対向電極5として、図4の対向電極(沿面放電素子25)を使用した。詳細を以下に示す。
紡糸ノズル:内径0.4mmの金属製注射針(先端カット)
紡糸ノズルと対向電極との距離:200mm
対向電極及びイオン発生電極(両電極を兼ねる):ステンレス板(誘起電極)上に厚さ1mmのアルミナ膜(誘電体基板)を溶射し、その上に直径30μmのタングステンワイヤ(放電電極)を10mmの等間隔で張った沿面放電素子(タングステンワイヤ面を紡糸ノズルと対向させると共に接地し、ステンレス板とタングステンワイヤ間に交流高電圧電源により50Hzの交流高電圧を印加)
第1高電圧電源:−16kV
第2高電圧電源:±5kV(交流沿面のピーク電圧:5kV、50Hz)
気流:水平方向25cm/sec、鉛直方向15cm/sec
紡糸室内の雰囲気:温度25℃、湿度40%RH以下
連続紡糸時間:30分以上
【0082】
集積後熱処理工程(3)
次に、前記工程で得られたゲル状シリカ繊維ウエブを、800℃で集積後熱処理することにより、シリカ繊維ウエブ(目付:10g/m2)を作製した。
【0083】
接着用無機系ゾル溶液付与工程(4)
繊維間接着のために用いる接着用無機系ゾル溶液として、金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、及び触媒として硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた。反応後、酸化ケイ素の固形分濃度が0.25%となるようにエタノールで希釈し、シリカゾル希薄溶液(接着用無機系ゾル溶液)とした。
前記工程で得られたシリカ繊維ウエブを前記シリカゾル希薄溶液に浸漬した後、吸引により余剰のシリカゾル希薄溶液を除去することにより、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。
【0084】
接着用熱処理工程(5)
無機系接着剤(シリカゾル希薄溶液)に含まれる溶媒の乾燥除去のために、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを110℃の雰囲気中に30分保持した(接着用第一熱処理工程)。
続いて、前記工程で得られたシリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを、500℃で接着用熱処理すること(接着用第二熱処理工程)により、シリカ繊維不織布〔以下、焼成シリカ繊維不織布(又は参考例1)と称する〕を作製した。
一方、集積後熱処理工程(3)における800℃での熱処理、および、前記の接着用第二熱処理工程を実施しなかったことを除き、紡糸工程(1)〜接着用熱処理工程(5)を繰り返して得られたシリカ繊維不織布を、以下、未焼成シリカ繊維不織布(又は参考例2)と称する。
【0085】
(2)フィブロネクチン(FN)付与シリカ繊維不織布(培養担体)の作製
フィブロネクチン(カタログ番号02-070-002、シグマ社)をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に各種濃度(1、3、5、10、30μg/mL)になるように希釈し、それぞれ、常温でガラスシャーレに10mLずつ分注した。また、PBSのみ(すなわち、FN未添加)を10mL注いだガラスシャーレも用意した。
前記(1)で得られた焼成シリカ繊維不織布をオートクレーブにより滅菌した後、ガラスシャーレに焼成シリカ繊維不織布(1シャーレ当たり10枚ずつ)を浸し、37℃で一昼夜インキュベートした。シャーレ中のPBS又はFN含有PBSを、2%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSで置き換え、37℃で20分間ブロッキングを実施した後、PBSで2回洗浄し、本発明の高機能繊維構造体であるFN付与シリカ繊維不織布を作製した。
また、前記(1)で得られた未焼成シリカ繊維不織布については、オートクレーブ滅菌後、PBS10mLを注いだガラスシャーレに37℃で一昼夜インキュベートし、ブロッキングを実施した後、PBSで2回洗浄した。
以下、焼成シリカ繊維不織布に1、3、5、10、30μg/mLの濃度でFNを付与して得られたFN付与シリカ繊維不織布を、それぞれ、培養担体FN(1)、培養担体FN(3)、培養担体FN(5)、培養担体FN(10)、培養担体FN(30)と称する。また、焼成シリカ繊維不織布をPBSに浸し(FN未付与;blank)、ブロッキング処理のみ行ったものを培養担体bと、未焼成シリカ繊維不織布をPBSに浸し(FN未付与)、ブロッキング処理のみ行ったものを培養担体cと、それぞれ、称する。
なお、いずれの培養担体の空隙率も、次の(3)で測定した各シリカ繊維不織布の空隙率と、小数点以下一桁までは同じであった。
また、いずれの培養担体の引張破断強度も、次の(3)で測定した各シリカ繊維不織布の引張破断強度と、小数点以下三桁までは同じであった。
【0086】
(3)シリカ繊維不織布の評価
前記(1)で作製した焼成シリカ繊維不織布(参考例1)および未焼成シリカ繊維不織布(参考例2)について、10cm×10cmのサイズに切断し、厚み、見掛密度、空隙率、引張破断強度を測定した。結果を表1に示す。なお、いずれのシリカ繊維不織布においても、それを構成するナノファイバーの平均繊維径は0.8μmであった。また、シリカ繊維不織布全体が無機系接着剤の被膜を形成することなく、シリカで接着していた。
なお、不織布の厚みは、加重100g/cm2となるように設定したマイクロメーター法で測定した値、見掛密度は目付(1m2の大きさに換算した質量)を厚みで除した値をそれぞれ意味する。
また、切断荷重測定の条件を以下に示す。
製品名:小型引張試験機
型式:TSM−01−cre サーチ株式会社製
試験サイズ:5mm×40mm
チャック間隔:20mm
引張速度:20mm/min
初荷重:50mg/1d
空隙率は、下記式:
[空隙率(%)]=[1−(目付/厚み/比重)]×100
(目付の単位=g/m2、厚みの単位=μm、シリカの比重=2g/cm3)
により算出した。
【0087】
【表1】
【0088】
《実施例2:フィブロネクチン(FN)付与培養担体の評価》
(1)チャイニーズハムスター卵巣細胞由来CHO−K1を用いた評価
CHO−K1細胞(ATCC:CCL-61、参考文献:Puch TT,et al., Genetics of somatic mammalian cells III. Long-term cultivation of euploid cells from human and animal subjects., J.Exp.Med.108:945-956,4958.PudMed:13598821)の培養は、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)に、10%FBS、抗生物質(60μg/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン)、0.1μmol/Lメトトレキサート(MTX)を添加した培地を使用し、37℃、5%CO2条件下にて実施した。
培養環境としては、24ウェルプレートの各ウェル内に、評価用の培養担体(1cm×1cm)を載置し、CHO−K1細胞(5×105cells/mL)1mLを播種し、1日毎に培地交換を行った。
【0089】
実施例1で作製した培養担体FN(1)、培養担体FN(3)、培養担体FN(5)、培養担体FN(10)、及び培養担体FN(30)、並びに、培養担体bについて、培養14日までの単位ディッシュ当たりの細胞数変化を図7に、細胞接着能を示す培養24時間後の細胞接着率を図8に、培養14日までのIL−6の濃度変化を図9に、それぞれ示す。また、図8には、培養担体cの結果も併せて示す。
また、培養担体b、培養担体FN(1)、培養担体FN(5)、及び培養担体FN(30)について、培養日数14日目の細胞形態を示すSEM写真を図10〜図13に、それぞれ示す。
【0090】
なお、細胞接着能は、式:
(担体上の細胞数/播種細胞数)×100
により算出した細胞接着率で評価した。
また、IL−6濃度は、24時間で培養培地に分泌されたIL−6量を、市販キット(EIA IL−6キット IM1120;Beckman coulter社販売、immunotec社製造)を用いて測定した。
【0091】
フィブロネクチンを添加した焼成シリカ繊維不織布上では、CHO−K1細胞は総じて細胞増殖能の向上が見られた。添加したフィブロネクチンの濃度が高いほど細胞増殖能も向上することがわかった。特に10、30μg/mLの濃度のフィブロネクチンを添加した条件では、未添加の条件と比較すると、培養14日目で約1.5倍の細胞増殖能の向上を達成した(図7)。
【0092】
細胞接着能についても、フィブロネクチンを付与した全ての条件で、未添加の条件よりも細胞接着能の向上が見られた。添加したフィブロネクチンの濃度が高いほど細胞接着能も向上することがわかった。3μg/mL以上の濃度でフィブロネクチンを添加することにより、細胞接着能を60%から80%以上に向上させることが可能であり、30μg/mLの添加では90%まで向上することがわかった(図8)。
IL−6濃度変化についても、細胞増殖能と同様の傾向がみられた(図9)。
SEM写真からフィブロネクチンを添加しても細胞の増殖は見られたが、形態学上の変化は特になかった(図10〜図13)。
【0093】
《実施例3:ビトロネクチン(BN)付与シリカ繊維不織布(培養担体)の作製》
ビトロネクチン(カタログ番号02-072-002、シグマ社)をPBSに各種濃度(0.01、0.05、0.1、0.5、1、5μg/mL)になるように希釈し、それぞれ、常温でガラスシャーレに10mLずつ分注した。また、PBSのみ(すなわち、BN未添加)を10mL注いだガラスシャーレも用意した。
実施例1(1)で得られた焼成シリカ繊維不織布をオートクレーブにより滅菌した後、ガラスシャーレに焼成シリカ繊維不織布(1シャーレ当たり10枚ずつ)を浸し、37℃で一昼夜インキュベートした。シャーレ中のPBS又はBN含有PBSを、2%BSA含有PBSで置き換え、37℃で20分間ブロッキングを実施した後、PBSで2回洗浄し、本発明の高機能繊維構造体であるBN付与シリカ繊維不織布を作製した。
以下、焼成シリカ繊維不織布に0.01、0.05、0.1、0.5、1、5μg/mLの濃度でBNを付与して得られたBN付与シリカ繊維不織布を、それぞれ、培養担体BN(0.01)、培養担体BN(0.05)、培養担体BN(0.1)、培養担体BN(0.5)、培養担体BN(1)、培養担体BN(5)と称する。また、焼成シリカ繊維不織布をPBSに浸し(BN未付与;blank)、ブロッキング処理のみ行ったものを、実施例1と同様に、培養担体bと称する。
なお、いずれの培養担体の空隙率も、前述の実施例1(3)で測定した各シリカ繊維不織布の空隙率と、小数点以下一桁までは同じであった。
また、いずれの培養担体の引張破断強度も、前述の実施例1(3)で測定した各シリカ繊維不織布の引張破断強度と、小数点以下三桁までは同じであった。
【0094】
《実施例4:ビトロネクチン(BN)付与培養担体の評価》
(1)チャイニーズハムスター卵巣細胞由来CHO−K1を用いた評価
実施例3で作製した培養担体BN(0.01)、培養担体BN(0.05)、培養担体BN(0.1)、培養担体BN(0.5)、培養担体BN(1)、及び培養担体BN(5)、並びに、培養担体bについて、実施例2と同じ評価を実施した。培養14日までの単位ディッシュ当たりの細胞数変化を図14に、細胞接着能を示す培養24時間後の細胞接着率を図15に、培養14日までのIL−6の濃度変化を図16に、それぞれ示す。
また、培養担体b、BN(0.01)、培養担体BN(0.1)、及び培養担体BN(5)について、培養日数14日目の細胞形態を示すSEM写真を図17〜図20に、それぞれ示す。
【0095】
フィブロネクチン添加時と同様、ビトロネクチンを添加した系においても、細胞増殖能の向上が見られた。特に0.5、1μg/mLの濃度の条件では、未添加の条件と比較すると培養14日目で約2.1倍の細胞増殖能の向上が見られた(図14)。
細胞接着能については、0.5μg/mL以上のビトロネクチンを添加することによって、80%以上の細胞接着率を得られることがわかった。特に1μg/mLならびに5μg/mLの条件では、90%の細胞接着率を示していた(図15)。
IL−6濃度変化についても、細胞増殖能と同様の傾向がみられた(図16)。
SEM写真からビトロネクチンを添加しても細胞の増殖は見られたが、形態学上の変化は特になかった(図17〜図20)。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の高機能繊維構造体は、例えば、培養基材、培養担体、スキャフォールドなどに使用することができ、特に、培養細胞に対して培地の剪断応力がかかる流通型培養装置の培養基材として好適に使用できる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能繊維構造体に関する。本発明の高機能繊維構造体は、例えば、培養基材、培養担体、スキャフォールドなどに使用することができ、特に、培養細胞に対して培地の剪断応力がかかる流通型培養装置の培養基材として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、静電紡糸法によれば、繊維径の揃った繊維が3次元のネットワーク構造を成し、孔径が均一な不織布を製造できる。
このような静電紡糸法は、紡糸原液を紡糸空間へ供給するとともに、供給した紡糸原液に対して電界を作用させて延伸し、対向電極上に集積させることによって紡糸する方法である。このように、電界の作用により延伸し、紡糸された繊維は対向電極上に、直接電界の力で集積するため、ペーパー状の不織布になる。しかしながら、断熱材の用途、濾過用途などに使用する場合には、嵩高な不織布であるのが好ましい。
【0003】
そのため、本願出願人は、紡糸するポリマー溶液に電荷を付与するステップ、前記電荷を付与したポリマー溶液を紡糸空間へ供給し静電気力により飛翔させるステップ、前記供給して形成した繊維に、前記繊維とは反対極性のイオンを照射するステップ、紡糸した繊維を回収するステップを含む、嵩高な不織布の製造方法(=中和紡糸法、特許文献1,2)を提案した。
この嵩高な不織布は、繊維同士が接着していないか、あるいは、極めて弱く接着した低密度で綿状の不織布であるため、保形性や強度を必要としない用途には適用できたが、液体濾過など、保形性や強度を必要とする用途においては、不織布形態を保つことができず、実用に適さない場合があった。
【0004】
そのため、中和紡糸した無機系繊維不織布の保形性や強度を付与するための方法として、例えば、以下のような方法が考えられる。
(1)無機系繊維を抄造して無機系繊維不織布を製造する方法
(2)無機系繊維不織布にバインダーをスプレーし、乾燥する方法
(3)無機系繊維不織布をバインダー浴に浸漬した後、2本ロールプレス機(圧をかける装置)に通して余剰バインダーを除き、その後乾燥する方法
【0005】
しかしながら、(1)の方法は、静電紡糸法によるナノファイバーの抄紙は極めて困難である。(2)の方法は、無機系繊維不織布全体に(特に不織布内部まで)バインダーを均一に付与することが困難で、強度的に劣る。(3)の方法は、無機系繊維不織布の空隙が潰れ、嵩高性を維持できず、空隙率が低くなる。
【0006】
ところで、このような無機系繊維不織布をはじめとする繊維構造体は、培養担体に適用することができる。細胞を生体内の環境に近づけた状態で培養するため、細胞を3次元培養することによる組織形成誘導技術がある。この培養担体として、フィルム、粒子、中空糸、繊維集合体、発泡体などが知られている。
しかしながら、これら培養担体は3次元培養に必要な細胞の足場となる表面積が不充分であるため、細胞の高密度培養が困難であったり、生体内環境に類似した細胞の組織形成能を保有していない場合が多い。
このような従来の培養担体の問題点を解決し、3次元培養できる培養担体として、「エレクトロスピニング法により作製したナノファイバーを含むスキャフォールド」が提案されている(特許文献3)。具体的な実施例においては、シリカ、PVAからなるナノファイバーを使用している。
しかしながら、このようなナノファイバーを含むスキャホールドであっても、細胞増殖能が低く、高密度培養を行うことが困難であり、また、細胞機能も発現しにくいものであった。更には、繊維密度や厚みの制御が困難であり、また細胞塊が不均一に形成されることから、培養状態を観察することが困難であった。
【0007】
また、繊維構造体に機能を付与するために金属イオン含有化合物を付与することが行われている。例えば、細胞の分裂・増殖・分化、血液の凝固、筋肉の収縮、神経感覚細胞の興奮、貪食、抗原認識、抗体分泌など免疫反応、各種ホルモン分泌など広範囲な生体反応に関与し、また、リンと共にヒドロキシアパタイト結晶を形作って骨や歯牙のマトリクス構造に沈着して強度を与えるカルシウム、細胞外液の浸透圧維持のために働くナトリウム、酸素の運搬作用、及びエネルギー代謝における電子伝達体(チトクロムC)の必須部位である鉄、骨と歯牙の主要な無機成分であるマグネシウム、神経興奮性の維持、筋肉の収縮、細胞内の浸透圧維持のために働くカリウム、或いは銅、ヨウ素、セレン、クロム、亜鉛、モリブデンなどの金属を繊維構造体に付与することによって、細胞機能を向上させることができる細胞培養基材として、又は抗菌性能を有する繊維構造体として使用することができる。
【0008】
例えば、特許文献3には、「エレクトロスピニング法により作製した細胞接着因子(特にリン酸カルシウム)により表面修飾されたナノファイバーを含むスキャフォールド」(請求項1、8、9)が提案されている。具体的には、ゾルゲル法により合成されたシリカナノファイバーが好適であること、シリカナノファイバーの焼成温度によって親水性又は疎水性とし、細胞の接着率を操作できること、シリカナノファイバーを人工体液中でインキュベーションすることにより、ナノファイバー表面にリン石灰を析出させることができ、人工骨用細胞担体として有用であること、などが開示されている(段落番号0015、0018、0025など)。
しかしながら、このようなナノファイバーを含むスキャフォールドは細胞機能の低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−238749号公報
【特許文献2】特開2005−264374号公報
【特許文献3】特開2007−319074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、従来技術のこれらの課題を解決し、保形性、強度を必要とする用途にも使用できる嵩高な高機能繊維構造体、前記性能に優れることによって、細胞増殖能が高く、高密度培養を行うことができ、また、細胞機能も発現しやすく、繊維密度や厚みの制御が可能であり、培養状態を観察しやすい高機能繊維構造体、細胞機能が高い、抗菌性に優れるなど、機能性に優れる高機能繊維構造体、あるいは、培養培地を流通させ、培地の剪断応力により細胞接着能の低下が考えられる用途(バイオリアクター等)にも使用できる、細胞機能を向上させた高機能繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1)平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維集合体の内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の高機能繊維構造体;
(2)引張破断強度が0.2MPa以上である、(1)の高機能繊維構造体;
(3)繊維単位質量あたりの水酸基量が50μmol/g以上である、(1)又は(2)の高機能繊維構造体;
(4)静電紡糸法により紡糸された無機系繊維に対して、前記無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させる工程を含んで製造された無機系繊維集合体を、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着し、繊維表面に細胞機能性因子を付与した、(1)〜(3)の高機能繊維構造体;
(5)無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成していない、(1)〜(4)の高機能繊維構造体;
(6)更に金属イオン含有化合物が付与された、(1)〜(5)の高機能繊維構造体;
(7)培養担体として用いる、(1)〜(6)の高機能繊維構造体;
に関する。
【発明の効果】
【0012】
前記(1)の本発明の高機能繊維構造体は、内部を含む全体が無機系接着剤で接着されているため、保形性に優れ、充分な強度を有する。特に、液体中においても、保形性に優れ、充分な強度を有する。また、繊維表面に細胞機能性因子が付与されているため、細胞接着能、細胞増殖能、物質生産能、細胞分化能などの向上が認められる。また、高機能繊維構造体の空隙率が90%以上であるため、断熱材の用途、濾過用途、細胞等の培養担体用途、スキャフォールド用途、抗菌材料用途など、嵩高であるのが好ましい用途に適用することができる。
【0013】
前記(2)の本発明の好適態様によれば、引張破断強度が0.2MPa以上であるため、保形性に優れ、充分な強度を有する。
前記(3)の本発明の別の好適態様によれば、繊維単位質量あたりの水酸基量が50μmol/g以上であるため、アパタイト等を繊維表面に析出させることができ、高機能繊維構造体に機能を付与することができる。
【0014】
前記(4)の本発明の更に別の好適態様によれば、静電紡糸法により紡糸された繊維を使用しており、繊維径が細いため、表面積が広い。更に、孔径分布が均一であることから、高機能繊維構造体内部に均一空間が存在する。この結果、機能を充分に発揮することができる。例えば、培養担体として使用した場合、細胞の足場となる表面積が広いため、表面積が広い均一空間での3次元培養が可能である。また、細胞と、細胞との足場となる繊維との接着効率が向上し、更に、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率が向上するため、細胞増殖能に優れ、高密度培養できる。
また、無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積し、無機系繊維集合体を形成している、つまり、中和紡糸法に由来する90%以上の高い空隙率(嵩高)の結果、繊維密度が低いため、高機能繊維構造体内部を有効に利用することができる。例えば、培養基材として使用した場合、繊維密度が低いため、細胞が培養担体内部まで広がりやすいという効果を奏する。また、無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積し、無機系繊維集合体を形成しているため、嵩高となり、観察可能なまでの繊維密度と厚みの制御が可能である。また、繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積するため90%以上の高い空隙率となる。
更に、無機系繊維集合体であるため、無機系接着剤を付与する際に厚さが潰れない。その結果、繊維密度と厚みの制御が可能である。そのため、培養基材として使用した場合、培養状態を観察しやすい。
更に、無機系接着剤で接着されているため、溶液中など様々な使用条件下で形態を維持でき、そのため高機能繊維構造体内部を有効に利用できる。培養基材とした場合、3次元に培養でき、細胞が組織環境に近い状態で培養されるため、細胞機能を発現しやすい。
更に、高機能繊維構造体は90%以上の空隙率を有する。例えば、培養担体として使用した場合、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率を向上させることができ、かつ、細胞培養に必要な足場が多いため、高密度培養できる。
また、繊維表面に細胞機能性因子が付与されているため、細胞接着能、細胞増殖能、物質生産能、細胞分化能などの向上が認められる。
【0015】
前記(5)の本発明の更に別の好適態様によれば、高機能繊維構造体は内部を含む全体において、無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成することなく、無機系接着剤で接着されているため、内部空隙を有効に利用することが可能である。例えば、培養担体として使用した場合、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率を向上させることができ、かつ、細胞培養に必要な足場が多いため、高密度培養できる。
【0016】
前記(6)の本発明の更に別の好適態様によれば、金属イオン含有化合物が付与され、含有するため、細胞機能が高い、抗菌性に優れるなど、機能性に優れている。
前記(7)の本発明の更に別の好適態様によれば、本発明の高機能繊維構造体を培養担体として使用した場合、平均繊維径が3μm以下と細いため、表面積が広い。その結果、細胞と、細胞との足場となる繊維との接着効率が向上し、更に、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率が向上するため、細胞増殖能に優れ、高密度培養できる。
また、無機系接着剤で接着されているため、培養液中においても形態を維持できる。その結果、高機能繊維構造体の嵩高な構造を維持できるため、3次元に培養でき、細胞が組織環境に近い状態で培養されるため、細胞機能を発現しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の一態様を模式的に示す説明図である。
【図2】紡糸用無機系ゾル溶液中に浸したエッジ電極を模式的に示す説明図である。
【図3】紡糸用無機系ゾル溶液中に浸したコンベア状のワイヤ電極を模式的に示す説明図である。
【図4】(a)は沿面放電素子の構造を模式的に示す平面図であり、(b)は沿面放電素子の構造を模式的に示す側面図である。
【図5】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の別の一態様を模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の更に別の一態様を模式的に示す説明図である。
【図7】実施例1で作製した各培養担体〔フィブロネクチン(FN)付与または未付与〕における培養日数14日までのCHO−K1細胞の単位ディッシュ当たりの細胞数変化を示すグラフである。
【図8】実施例1で作製した各培養担体上でのCHO−K1細胞の細胞接着率を示すグラフである。
【図9】実施例1で作製した各培養担体における培養日数14日までのCHO−K1細胞の分泌するIL−6の濃度変化を示すグラフである。
【図10】培養担体b(FN未付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図11】培養担体FN(1)(1μg/mL FN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図12】培養担体FN(5)(5μg/mL FN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図13】培養担体FN(30)(30μg/mL FN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図14】実施例3で作製した各培養担体〔ビトロネクチン(BN)付与または未付与〕における培養日数14日までのCHO−K1細胞の単位ディッシュ当たりの細胞数変化を示すグラフである。
【図15】実施例3で作製した各培養担体上でのCHO−K1細胞の細胞接着率を示すグラフである。
【図16】実施例3で作製した各培養担体における培養日数14日までのCHO−K1細胞の分泌するIL−6の濃度変化を示すグラフである。
【図17】培養担体b〔BN未付与〕上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図18】培養担体BN(0.01)(0.01μg/mL BN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図19】培養担体BN(0.1)(0.1μg/mL BN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【図20】培養担体BN(5)(5μg/mL BN付与)上で14日間培養したCHO−K1細胞の形態を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の高機能繊維構造体は、平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維集合体の内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の高機能繊維構造体であり、所望により、金属イオン含有化合物を付与している。
【0019】
本発明における無機系繊維には、例えば、無機系ゲル状繊維、無機系乾燥ゲル状繊維又は無機系焼結繊維が含まれる。
無機系ゲル状繊維とは、溶媒を含む状態の繊維であり、例えば、無機系繊維の原料がテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水、塩酸からなる場合は、最も沸点の高い物質が水であるため、100℃未満の温度で熱処理をした、又は熱処理をしていない繊維である。
【0020】
また、無機系乾燥ゲル状繊維とは、ゲル状繊維中に含まれる溶媒などが抜けた状態を意味する。例えば、無機系繊維の原料がテトラエトキシシラン(TEOS)、エタノール、水、塩酸からなる場合は、最も沸点の高い物質が水であるため、100℃以上の温度で熱処理をした繊維である。
【0021】
また、無機系焼結繊維とは、無機系乾燥ゲル状繊維(多孔質)が、焼結(無孔質)した状態を意味する。例えば、無機系繊維の原料がシリカ系の場合は、800℃以上の熱処理した繊維である。
【0022】
本発明の高機能繊維構造体においては、無機系ナノファイバーの平均繊維径は表面積が広く、機能性に優れるように、3μm以下である。好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
「平均繊維径」は50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は高機能繊維構造体を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した繊維の太さをいう。
【0023】
高機能繊維構造体の形態は、不織布のような二次元的形態、中空円筒形、円筒形などの三次元的形態などがある。なお、三次元的形態の高機能繊維構造体は、例えば、不織布形態等の二次元的形態の無機系繊維集合体又は高機能繊維構造体を成形することによって製造できる。
【0024】
本発明の高機能繊維構造体は、空隙率が90%以上の高い空隙率(嵩高)の結果、繊維密度が低いため、高機能繊維構造体内部を有効に利用することができる。例えば、培養基材として使用した場合、繊維密度が低いため、細胞が培養担体内部まで広がりやすいという効果を奏する。好ましい空隙率は91%以上であり、より好ましくは92%以上であり、更に好ましくは93%以上であり、更に好ましくは94%以上である。上限は特に限定するものではないが、形態安定性に優れるように、99.9%以下であるのが好ましい。
【0025】
なお、空隙率は次の式から算出することができる。
P=[1−Ws/(V×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Wsは高機能繊維構造体の質量(g)、Vは高機能繊維構造体の占める見掛上の体積(cm3)、SGは細胞機能性因子が付与された繊維の密度(g/cm3)をそれぞれ表す。なお、SGは細胞機能性因子と繊維の質量平均値であり、例えば、密度SGfの繊維Aがa(mass%)と、密度SGcの細胞機能性因子Bがb(mass%)からなる場合、細胞機能性因子が付与された繊維の密度SGは、次の式により得られる値をいう。
SG=SGf×a/100+SGc×b/100
例えば、不織布のように厚さが均一な場合は、次の式から算出することができる。
P=[1−Wn/(t×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Wnは高機能繊維構造体の目付(g/m2)、tは高機能繊維構造体の厚さ(μm)、SGは細胞機能性因子が付与された繊維の密度(g/cm3)をそれぞれ表す。なお、SGは細胞機能性因子と繊維の質量平均値である。
なお、目付は、最も面積の広い面の面積と質量を測定し、1m2当たりの質量に換算した値であり、厚さは、最も面積の広い面における荷重が100g/cm2となるように設定したマイクロメーター法で測定した値である。
また、高機能繊維構造体がウエット状態にある場合には、溶液を除去した後に測定した値を空隙率とする。
【0026】
高機能繊維構造体が二次元的形態(特に不織布)の場合、保形性に優れ、充分な強度を有するように、引張破断強度が0.2MPa以上であるのが好ましい。より好ましくは0.3MPa以上であり、更に好ましくは0.4MPa以上であり、更に好ましくは0.5MPa以上であり、更に好ましくは0.55MPa以上である。
【0027】
この引張破断強度は切断荷重を高機能繊維構造体の断面積で除した商である。なお、切断荷重は次の条件で測定した値であり、断面積は測定時の試験片の幅と厚さの積から得られる値である。
また、高機能繊維構造体がウエット状態にある場合には、溶液を除去した後に、高機能繊維構造体の切断荷重及び断面積を測定し、切断荷重を断面積で除した商を引張破断強度とする。
製品名:小型引張試験機
型式:TSM−01−cre サーチ株式会社製
試験サイズ:5mm幅×40mm長
チャック間間隔:20mm
引張速度:20mm/min.
初荷重:50mg/1d
【0028】
繊維単位質量あたりの水酸基量は親水性に優れるように、50μmol/g以上であるのが好ましく、100μmol/g以上であるのがより好ましく、200μmol/g以上であるのが更に好ましく、300μmol/g以上であるのが更に好ましく、400μmol/g以上であるのが更に好ましく、500μmol/g以上であるのが更に好ましい。
【0029】
この繊維単位質量あたりの水酸基量は高機能繊維構造体の水酸基量を水酸基量測定に用いた高機能繊維構造体の繊維量(単位:g)で除した商である。
なお、水酸基量は中和滴定法を用いて定量した値である。つまり、高機能繊維構造体を20vol%の塩化ナトリウム水溶液50mL中に分散させた後、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を中和点まで滴下し、中和に必要な水酸化ナトリウム滴下量から、高機能繊維構造体の水酸基量を決定する(参考文献参照)。
(参考文献)
George W S.,Determination of Specific Sufface Area of Colloidal Silica by Titration with Sodium Hydroxide,Anal.Cheam.;28,1981-1983,(1956)
【0030】
本発明の高機能繊維構造体は、内部を含む全体において、無機系接着剤(すなわち、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液)で接着(好ましくは、無機系繊維間に被膜を形成することなく接着)されているため、90%以上の空隙率を保持することが可能である。例えば、培養担体として使用した場合、細胞に必要不可欠な栄養素や酸素などの供給効率を向上させることができ、かつ、細胞培養に必要な足場が多いため、高密度培養できる。
【0031】
本明細書において、「細胞機能性因子」とは、細胞の機能、例えば、細胞接着、細胞増殖、細胞物質生産、細胞分化等に影響を及ぼす物質を意味する。細胞機能性因子には、膜タンパク質、細胞外マトリックスに存在するタンパク質、サイトカインのような特有のタンパク質、ペプチド、各種成長因子等が挙げられる。また、細胞に機能性を付与できるのであれば、人工的に作製された物質も含まれる。
【0032】
膜タンパク質や細胞外マトリックスに存在するフィブロネクチンやラミニンなどは、細胞接着因子として細胞に影響を及ぼす。また、細胞接着因子としては、フィブロネクチン分子中の細胞接着活性本体であるRGD配列をフィブロイン骨格に遺伝子工学的に高効率で組み込んだ人工細胞接着因子(プロネクチン(三洋化成))も含まれる。
【0033】
前記膜タンパク質としては、アドヘレンス・ジャンクションの形成と維持に関与するカドヘリン、細胞基質接着に関わるインテグリンが、代表的な細胞機能性因子である。ギャップジャンクション、タイトジャンクションやデスモソームにもそれぞれ、コネキシン、クローディン、デスモグレインが接着分子として存在している。さらに上皮、血管内皮、免疫系、神経などの様々な細胞間認識に関わる免疫グロブリンスーパーファミリー分子、白血球の組織分配に関わるセレクチン、神経シナプスの誘導に関わるニューロリギンなどがある。これらの接着分子を含め、膜タンパク質としては、カドヘリンスーパーファミリー(クラシックカドヘリン、プロトカドヘリン)、インテグリンファミリー、クローディンファミリー、デスモグレイン、免疫グロブリンスーパーファミリー(NCAM、L1、ICAMファミリー、ネクチン)、セレクチン、ニューロリギン、ニューレキシンを挙げることができる。
【0034】
細胞外マトリックスタンパク質としては、例えば、コラーゲン群、非コラーゲン性糖タンパク質群〔フィブロネクチン、ビトロネクチン(血清中。培養細胞の接着因子)、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド(von Willebrand)因子(血漿中)、オステオポンチン(破骨細胞)、フィブリノーゲンなど〕、エラスチン群、プロテオグリカン群を挙げることができる。
細胞接着試薬として販売されているものとしては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、ゼラチン、ポリL−リジン、ポリD−リジン、ラミニンなどがある。
【0035】
サイトカインは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものをいう。多くの種類があるが特に免疫、炎症に関係したものが多く、また細胞の増殖、分化、細胞死、あるいは創傷治癒などに関係するものがある。
サイトカインの機能は、白血球が分泌し免疫系の調節に機能するインターロイキン、同様に免疫系調節に関与し、リンパ球が分泌するものをリンフォカイン、また単球やマクロファージが分泌するモノカイン、白血球の遊走を誘導するケモカイン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の機能を持つインターフェロン、血球の分化・増殖を促進する造血因子、特定の細胞に対して増殖を促進する細胞増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF−α)やリンフォトキシン(TNF−β)など細胞にアポトーシスを誘発する細胞傷害因子、脂肪組織から分泌されるレプチン、TNF−αなどで、食欲や脂質代謝の調節に関わるアディポカイン、神経成長因子(NGF)など神経細胞の成長を促進する神経栄養因子などがある。
【0036】
本発明の高機能繊維構造体は、所望により、更に金属イオン含有化合物を付与することができる。
金属イオン含有化合物を構成する金属としては、例えば、カルシウム、ナトリウム、鉄、マグネシウム、カリウム、銅、ヨウ素、セレン、クロム、亜鉛、又はモリブデンなどを挙げることができる。これらの金属は、細胞機能誘導因子又は抗菌作用を奏する。
金属イオン含有化合物は、例えば、金属塩であることができる。金属塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩、硝酸塩、水酸化物などを挙げることができる。特に、カルシウムイオン含有塩、マグネシウムイオン含有塩、アパタイト(りん灰石)を付与した機能性を有する高機能繊維構造体は、細胞機能を高めた細胞培養を行うことができる。
【0037】
本発明の高機能繊維構造体は、例えば、
(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液から、静電紡糸法により無機系繊維を紡糸する工程(紡糸工程)、
(2)前記無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させ、無機系繊維集合体を形成する工程(集積工程)、
(3)前記無機系繊維集合体の内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液(無機系接着剤)を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維構造体を形成する工程(接着工程)、
(4)前記無機系繊維構造体に細胞機能性因子を付与して、高機能繊維構造体を形成する工程(細胞機能性因子付与工程)
を含む製造方法により製造することができる。
【0038】
前記製造方法は、所望により、
(5)前記高機能繊維構造体に金属イオン含有化合物を付与し、機能性を付与する工程(金属イオン含有化合物付与工程)
を更に含むか、あるいは、前記工程(4)に代えて、
(4’)前記無機系繊維構造体に金属イオン含有化合物を付与した後、更に細胞機能性因子を付与して高機能繊維構造体を形成する工程(金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程)
を含むことができる。
【0039】
前記製造方法では、前記金属イオン含有化合物付与工程(5)〔あるいは、前記金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程(4’)における金属イオン含有化合物付与工程〕に代えて、あるいは、前記工程(5)〔あるいは、前記金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程(4’)における金属イオン含有化合物付与工程〕に加えて、紡糸工程(1)で使用する紡糸用無機系ゾル溶液、及び/又は、接着工程(3)で使用する接着用無機系ゾル溶液に金属イオン含有化合物を添加することができる。
【0040】
図1は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の一態様を模式的に示す説明図である。
図1において、静電紡糸装置1は、繊維の原料となる、無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する紡糸ノズル2と、この紡糸ノズル2の先端下方に配置された繊維回収装置である繊維回収容器3内に配置された捕集部材(例えばネット、コンベアなど)4とを備えている。さらに、紡糸ノズル2に対向して配置され、吐出されて形成する繊維とは反対極性のイオンを発生するイオン発生手段であると共に、電気的に繊維を吸引できる対向電極5を備えている。紡糸ノズル2には、紡糸用無機系ゾル溶液を供給するゾル溶液供給機6が接続されており、紡糸ノズル2及び対向電極5にはそれぞれ第1高電圧電源7及び第2高電圧電源8が接続されている。また、繊維回収容器3には、繊維を繊維回収容器3に吸引する吸引機9が設けられている。
【0041】
紡糸ノズル2としては、内径0.01〜5ミリ程度の金属・非金属パイプを使用できる。また、図2に示すように、紡糸用無機系ゾル溶液21を収容したゾル溶液容器22中に回転するノコギリ状歯車20を浸漬させ、対向電極5に向かうノコギリ状歯車20の先端部20aを電極とするエッジ電極を使用できる。同様に図3に示すように、ワイヤ20bをローラー23によってゾル溶液容器22内を回転させ、紡糸用無機系ゾル溶液21の付着したコンベア状のワイヤ20bを電極として使用することもできる。なお、図3においては、対向電極(図示しない)は、紙面に垂直に配置されている。さらに、従来の種々の静電紡糸用電極を利用することもできる。
【0042】
対向電極5としては、コロナ放電用ニードル(高電圧印加あるいは接地でもよい)、コロナ放電用ワイヤ(高電圧印加あるいは接地でもよい)、交流放電素子などが使用できる。また、交流放電素子として、図4に示すような沿面放電素子を使用できる。すなわち図4において、沿面放電素子25は、誘電体基板26(例えば、アルミナ膜)を挟んで放電電極27及び誘起電極28を設け、これらの電極間に交流の高電圧を印加することにより、放電電極27部分で沿面放電を起こし、正及び負のイオンを生成させることができる。
【0043】
紡糸工程(1)では、まず、(1)無機成分を主体とする化合物を含む紡糸用無機系ゾル溶液を形成する工程を実施する。本明細書において「無機成分を主体とする」とは、無機成分が50mass%以上を占めていることを意味し、60mass%以上を占めているのがより好ましく、75mass%以上を占めているのがより好ましい。
【0044】
この紡糸用無機系ゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機系繊維を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、100℃以下程度の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えばアルコール)又は水である。
【0045】
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0046】
前記の化合物としては、例えば前記元素の酸化物を挙げることができ、具体的には、SiO2、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、CeO2、FeO、Fe3O4、Fe2O3、VO2、V2O5、SnO2、CdO、LiO2、WO3、Nb2O5、Ta2O5、In2O3、GeO2、PbTi4O9、LiNbO3、BaTiO3、PbZrO3、KTaO3、Li2B4O7、NiFe2O4、SrTiO3などを挙げることができる。前記の無機成分は、一成分の酸化物から構成されていても、二成分以上の酸化物から構成されていても良い。例えば、SiO2−Al2O3のニ成分から構成することができる。
【0047】
前記の紡糸用無機系ゾル溶液は、後述する繊維を形成する工程において紡糸が可能となる粘度を有していることが必要である。その粘度は、紡糸可能な粘度である限り特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜100ポイズ、より好ましくは0.5〜20ポイズ、特に好ましくは1〜10ポイズ、最も好ましくは1〜5ポイズである。粘度が100ポイズを超えると細繊維化が困難となり、0.1ポイズ未満になると繊維形状が得られなくなる傾向があるためである。なお、ノズルを使用する場合には、ノズル先端部分における雰囲気を原料溶液と同様の溶媒ガス雰囲気とする場合には、100ポイズを超える紡糸用無機系ゾル溶液であっても紡糸可能な場合がある。
【0048】
紡糸工程(1)で用いる紡糸用無機系ゾル溶液は、上述のような無機成分以外に、有機成分を含んでいることができ、この有機成分として、例えば、シランカップリング剤、染料などの有機低分子化合物、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子化合物、などを挙げることができる。より具体的には、前記原料溶液に含まれる化合物がシラン系化合物である場合には、メチル基やエポキシ基で有機修飾されたシラン系化合物が縮重合したものを含んでいることができる。
【0049】
前記原料溶液は、前記原料溶液に含まれる化合物を安定化する溶媒(例えば、有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド)又は水)、前記原料溶液に含まれる化合物を加水分解するための水、及び加水分解反応を円滑に進行させる触媒(例えば、塩酸、硝酸など)を含んでいることができる。また、前記原料溶液は、例えば、化合物を安定化させるキレート剤、前記化合物の安定化のためのシランカップリング剤、圧電性などの各種機能を付与することができる化合物、接着性改善、柔軟性、硬度(もろさ)調整のための有機化合物(例えば、ポリメチルメタクリレート)、あるいは染料などの添加剤を含んでいることができる。なお、これらの添加剤は、加水分解を行う前、加水分解を行う際、或いは加水分解後に添加することができる。
【0050】
また、前記原料溶液は、無機系又は有機系の微粒子を含んでいることができる。前記無機系微粒子としては、例えば、酸化チタン、二酸化マンガン、酸化銅、二酸化珪素、活性炭、金属(例えば、白金)を挙げることができ、有機系微粒子として、色素又は顔料などを挙げることができる。また、微粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.001〜1μm、より好ましくは0.002〜0.1μmである。このような微粒子を含んでいることによって、光学機能、多孔性、触媒機能、吸着機能、或いはイオン交換機能などを付与することができる。更に、前記原料溶液は、金属イオン含有化合物付与工程で詳述する金属イオン含有化合物を含有することもできるし、含有しないものであることもできる。
【0051】
テトラエトキシシランの場合、水の量がアルコキシドの4倍(モル比)を超えると曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、アルコキシドの4倍以下であるのが好ましい。
触媒として塩基を使用すると、曳糸性のゾル溶液を得ることが困難になるため、塩基を使用しないのが好ましい。
反応温度は使用溶媒の沸点以下であれば良いが、低い方が適度に反応速度が遅く、曳糸性のゾル溶液を形成しやすい。あまり低すぎても反応が進行しにくいため、10℃以上であるのが好ましい。
【0052】
以上のような静電紡糸装置1により無機系繊維集合体を形成する工程[すなわち、紡糸工程(1)及び集積工程(2)]は、次のように行われる。まず、紡糸する繊維の原料となる紡糸用無機系ゾル溶液をゾル溶液供給機6から紡糸ノズル2に供給する。次に、紡糸ノズル2及び対向電極5間に高電圧を印加した状態で、紡糸ノズル2先端から紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する。すると、帯電した液状のゾル溶液はその溶媒が揮発し、凝固してゲル状の無機系繊維となり対向電極5に向かって進行する[以上、紡糸工程(1)]。このとき、紡糸ノズル2に対向して配置された対向電極5から、繊維に向かってイオン5aが照射される。このイオンによって繊維の帯電が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状の無機系繊維集合体を得ることができる[以上、集積工程(2)]。
【0053】
なお、イオンの発生及び照射は、連続的に又は不連続的に行うことができる。また、紡糸ノズル2と対向電極5との間に電界が生じれば良く、いずれか一方のみに高電圧を印加し、他方を接地しても良い。また、紡糸ノズル2は加熱されていても、加熱されていなくても良い。
【0054】
図5は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の別の一態様を模式的に示す説明図である。
図5において、静電紡糸装置1Aは、実施形態1におけるイオンを発生できると共に、繊維を吸引できる対向電極5に替えて、電離放射線を照射できる電離放射線源10と、繊維を吸引できるネット状の対向電極5(第3高電圧電源11に接続されている)を用いた以外は、静電紡糸装置1と同様な構成であり、重複する説明は省略する。
【0055】
静電紡糸装置1Aにおいて、第1高電圧電源7及び/又は第3高電圧電源11により所定の電圧を紡糸ノズル2及び/又は対向電極5に印加することにより、紡糸ノズル2と対向電極5との間に電位差が生じ、繊維は電気的に吸引されて、対向電極5に向かって飛翔する[以上、紡糸工程(1)]。この飛翔する繊維に対して、電離放射線10aが照射され、気体をイオン化し、イオン源として作用する。これにより、繊維の帯電が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状の無機系繊維集合体を得ることができる[以上、集積工程(2)]。電離放射線源10を使用した場合には、その線量を紡糸ノズル2と対向電極5との間の電位差の形成とは独立して調節できるため、安定して無機系繊維集合体を得ることが可能である。
【0056】
なお、電離放射線源10としては種々の放射線源を使用することができ、特にX線照射装置が望ましい。なお、対向電極5は紡糸ノズル2との間に電位差が生じていれば良く、接地されていても電圧が印加されていても良い。また、電離放射線源10は、繊維に対して放射線を照射できれば良く、対向電極5の背後に位置している必要はない。さらに、対向電極5はネット状である必要はなく、電離放射線が透過できれば種々の部材が使用でき、蒸着フィルムであっても使用可能である。
【0057】
図6は、本発明の製造方法における紡糸工程(1)及び集積工程(2)を実施することのできる静電紡糸装置の更に別の一態様を模式的に示す説明図である。
図6において、静電紡糸装置1Bは、第1紡糸ノズル2aと第2紡糸ノズル2bとが、互いに対向して配置されている。第1紡糸ノズル2aには、紡糸用無機系ゾル溶液を供給する第1ゾル溶液供給機6a及び高電圧を印加する第1高電圧電源7が接続され、第2紡糸ノズル2bには、紡糸用無機系ゾル溶液を供給する第2ゾル溶液供給機6b及び第1高電圧電源7とは反対極性の高電圧を印加する第2高電圧電源8がそれぞれ接続されている。その他は、静電紡糸装置1と同様な構成であり、重複する説明は省略する。
【0058】
静電紡糸装置1Bにおいて、第1高電圧電源7及び第2高電圧電源8により互いに反対極性の電圧をそれぞれ第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bに印加しながら、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bから紡糸用無機系ゾル溶液を吐出する[以上、紡糸工程(1)]。すると、互いに反対極性に帯電された繊維は、対向して吐出されることにより接触及び接近して電荷が中和され、静電気力による飛翔力を失い、重力に従って落下、あるいは微風により繊維が繊維回収容器3で回収される。従って、低密度で綿状の無機系繊維集合体を得ることができる[以上、集積工程(2)]。また、第1紡糸ノズル2aからのゾル溶液吐出条件と、第2紡糸ノズル2bからのゾル溶液吐出条件とが異なるように調整することにより、繊維径が異なる、繊維構成材の組成が異なるなど、異種の無機系繊維が混在する無機系繊維集合体を製造できる。
【0059】
なお、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bからの紡糸用無機系ゾル溶液の吐出は、連続的に又は不連続的に行うことができる。また、第1紡糸ノズル2aと第2紡糸ノズル2bとの間に電界が生じれば良く、これらのいずれか一方のみに高電圧を印加し、他方を接地しても良い。また、第1紡糸ノズル2a及び第2紡糸ノズル2bは加熱されていても、加熱されていなくても良い。
【0060】
上述した静電紡糸装置1、静電紡糸装置1A、静電紡糸装置1Bにおいては、1つの紡糸ノズル2、2a、2bに対して1本の紡糸ノズルを使用した態様であるが、紡糸ノズルは1本である必要はなく、生産性を高めるために、2本以上の紡糸ノズルを備えていることができる。
【0061】
また、これらの静電紡糸装置においては、紡糸空間における空気の速度を5〜100cm/秒、好ましくは10〜50cm/秒とすることができるように、捕集部材4の下方に吸引装置9を設けているが、吸引装置9に加えて、又はこれに替えて、送風装置を捕集部材4の上方に設けることができる。これによって、繊維の捕集性を向上させ、安定して無機系繊維集合体を製造することができる。
【0062】
集積工程(2)で得られた無機系繊維集合体は、集積させたそのままの無機系繊維集合体に対して、次の接着工程(3)を実施させることができるし、あるいは、熱処理した後に、次の接着工程(3)を実施させることもできる。この熱処理(以下、後述の接着用熱処理と区別する必要がある場合、集積後熱処理と称することがある)を実施することにより、無機系繊維集合体の構造や耐熱性が安定する。
なお、熱処理はオーブン、焼結炉等を用いて実施することができ、その温度は無機系繊維集合体を構成する無機成分によって適宜設定する。
【0063】
この集積後熱処理温度は200℃以上であるのが好ましく、300℃以上であるのが好ましい。このような温度で熱処理をすると、無機系繊維集合体の構造が安定化及び強度が増し、つまり、繊維同士がその交点で点状に接着するため、次の接着工程等の際に、無機系繊維構造体の形態を維持することができる。
【0064】
一方で、この集積後熱処理温度が500℃以下であると、無機系繊維構造体の親水性を高めることができる。また、培養基材として使用する場合には、細胞をスフェロイド形態で培養しやすい。例えば、無機系繊維が水酸基を有する場合、500℃以下の温度で集積後熱処理を実施することによって、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができるため、親水性が向上する。
【0065】
別の見方をすると、集積後熱処理温度を500℃よりも高くすることによって、疎水性を高め、細胞の接着性を高めることができ、培養基材として使用した場合には、細胞をシート形態で培養しやすく、更には、無機系繊維同士の接着力が高まるため、無機系繊維構造体の強度を高めることができる。
【0066】
接着工程(3)では、これまでの工程で得られた無機系繊維集合体の内部を含む全体に、無機成分を主体とする化合物を含む接着用無機系ゾル溶液を付与し、余剰の接着用無機系ゾル溶液を通気により除去し、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を形成させた(以下、接着工程(3)のこの前半の工程を、接着用無機系ゾル溶液付与工程と称することがある)後、前記接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を熱処理し(あるいは、室温で自然乾燥し)、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着した無機系繊維構造体を形成する(以下、接着工程(3)のこの後半の工程を、接着用熱処理工程と称することがある)。なお、先述の集積後熱処理と区別する必要がある場合、接着用熱処理工程における前記熱処理を、接着用熱処理と称することがある。接着用無機系ゾル溶液を構成する原料(化合物)としては、無機系繊維を構成する元素を含む化合物と同様であるが、無機系繊維集合体内に浸透する限り、紡糸用無機系ゾル溶液と同じであっても異なっていてもよい。例えば、曳糸性である必要はなく、曳糸性がなくてもよい。また、粒子が含まれていてもよい。紡糸用無機系ゾル溶液を希釈したものであってもよく、濃度は適宜選択することができる。特には、金属アルコキシド加水分解・縮合物であるのが好ましい。更に、前記接着用無機系ゾル溶液は、金属イオン含有化合物付与工程で詳述する金属イオン含有化合物を含有することもできるし、含有しないものであることもできる。
【0067】
前記接着用無機系ゾル溶液の無機系繊維集合体への付与は、その全体に均一に、すなわち、無機系繊維集合体の外側部分と同様に、内部まで充分に接着用無機系ゾル溶液を到達させ、付与することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、無機系繊維集合体を接着用無機系ゾル溶液に浸漬することにより、実施することができる。集積工程(2)において無機系繊維集合体の集積後熱処理を実施した場合には、浸漬処理を実施してもばらけにくい。
【0068】
浸漬後の無機系繊維集合体に含まれる余剰の接着用無機系ゾル溶液は、通気により除去する。無機系繊維集合体は、無機系繊維から構成されているため、吸引及び/又は加圧により通気させても、厚さを潰すことがなく、内部を含む全体の繊維間に被膜を形成することなく、接着用無機系ゾル溶液を付与した接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を得ることができる。
【0069】
接着用熱処理工程では、接着用無機系ゾル溶液付与工程で得られた接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体を乾燥し、内部を含む全体において、無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成することなく、無機系接着剤で接着した無機系繊維構造体を製造できる。前記接着用熱処理は接着用無機系ゾル溶液に含まれる溶媒などを揮発させることができれば良く、特に限定されるものではなく、例えば、80〜150℃の温度で10〜30分間保持することにより実施することができる。なお、室温で自然に乾燥させることもできる。本明細書における「接着用熱処理」には、前記の加熱による乾燥、室温による自然乾燥の他に、以下の焼成処理が含まれる。
【0070】
接着工程(3)では、前記の溶媒などを揮発させる接着用熱処理の後に、所望により、接着用無機系ゾル溶液含有無機系繊維集合体に含まれる接着用無機系ゾル溶液及び/又は無機系繊維を無機化するために、焼成処理を行なうことができる。この焼成処理を実施することにより、無機系繊維集合体の繊維交点を接着した無機系接着剤の強度及び耐熱性が向上する。また、無機系繊維の強度及び耐熱性が向上する。焼成処理は、例えば、焼結炉を用いて実施することができ、その温度は無機系接着剤及び無機系繊維を構成する無機成分によって適宜設定する。一般的には、焼成温度は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは300℃以上である。また、アパタイトを付与した機能性を有する高機能繊維構造体を製造する場合には、後述する焼成温度で実施することが好ましい。なお、本発明の製造方法では、このような焼成処理を実施しなくても構わない。
無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成することなく、また、空隙率を下げないように、無機系接着剤で接着する際には、無加重で焼成を実施することが好ましい。
【0071】
なお、この接着用熱処理温度が500℃以下であると、無機系繊維構造体の親水性を高めることができる。また、培養基材として使用する場合には、細胞をスフェロイド形態で培養しやすい。例えば、無機系繊維が水酸基を有する場合、500℃以下の温度で接着用熱処理を実施することによって、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができるため、親水性が向上する。
【0072】
別の見方をすると、接着用熱処理温度を500℃よりも高くすることによって、疎水性を高め、細胞の接着性を高めることができ、培養基材として使用した場合には、細胞をシート形態で培養することができ、更には、無機系繊維同士の接着力が高まるため、無機系繊維構造体の強度及び耐熱性を高めることができる。このような接着用熱処理は、例えば、オーブン、焼結炉等を用いて実施することができる。
【0073】
細胞機能性因子付与工程(4)では、前記接着工程(3)で得られた無機系繊維構造体に細胞機能性因子を付与して、本発明の高機能繊維構造体を形成する。細胞機能性因子の付与方法としては、例えば、細胞機能性因子含有溶液中に無機系繊維構造体を浸漬する方法、細胞機能性因子含有溶液を無機系繊維構造体に塗布又はスプレーする方法などを挙げることができる。
より具体的には、細胞機能性因子を、その活性を維持することのできる適用な溶媒(例えば、緩衝液)に溶解し、その溶液に無機系繊維構造体を浸漬することにより、あるいは、前記溶液を塗布又はスプレーすることにより、高機能繊維構造体を得ることができる。
【0074】
金属イオン含有化合物付与工程(5)では、前記細胞機能性因子付与工程(4)で得られた高機能繊維構造体に、金属イオン含有化合物含有溶液を付与することにより、更に機能性を付与した高機能繊維構造体を形成することができる。
なお、本発明においては、前記細胞機能性因子付与工程(4)及びそれに続く前記金属イオン含有化合物付与工程(5)(すなわち、細胞機能性因子の付与後に、金属イオン含有化合物を付与する操作)に代えて、金属イオン含有化合物及び細胞機能性因子付与工程(4’)(すなわち、金属イオン含有化合物の付与後に、細胞機能性因子を付与する操作)を実施することもできる。
【0075】
金属イオン含有化合物を構成する金属としては、例えば、カルシウム、ナトリウム、鉄、マグネシウム、カリウム、銅、ヨウ素、セレン、クロム、亜鉛、又はモリブデンなどを挙げることができる。これらの金属は、細胞機能誘導因子又は抗菌作用を奏する。
金属イオン含有化合物は、例えば、金属塩であることができる。金属塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、リン酸水素塩、炭酸水素塩、硝酸塩、水酸化物などを挙げることができる。特に、カルシウムイオン含有塩、マグネシウムイオン含有塩、アパタイト(りん灰石)を付与した高機能繊維構造体は、細胞機能を高めた細胞培養を行うことができる。
【0076】
金属イオン含有化合物の付与方法としては、例えば、金属イオン含有化合物含有溶液中に無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体を浸漬する方法、金属イオン含有化合物含有溶液を無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体に塗布又はスプレーする方法などを挙げることができる。無機系繊維がシリカ繊維の場合、金属イオン含有化合物を浸漬、塗布又はスプレーした後、熱処理(焼成処理)を行い、金属イオン含有化合物を高濃度で付与するのが好ましい。なお、タンパク質などを付与した後に、金属イオンを付与する場合、加熱するとタンパク質が壊れる場合があるので、加熱処理はタンパク質の種類によって適宜調整する必要がある。
【0077】
より具体的には、カルシウムイオン含有塩又はマグネシウムイオン含有塩を付与した機能性を有する無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体は、例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩を適当な溶媒(例えば、低級アルコール)に溶解した溶液に、無機系繊維構造体又は高機能繊維構造体を浸漬することにより、あるいは、前記溶液を塗布又はスプレーすることにより、得ることができる。
【0078】
また、アパタイトを付与した高機能繊維構造体は、例えば、表面に水酸基を含む無機系繊維(特に、シリカ繊維)を、少なくともリン酸イオンとカルシウムイオンを含む人工体液中に浸漬させることにより、無機系繊維上にアパタイトを析出させることができる。無機系繊維がシリカ繊維の場合(特に、骨培養基材用繊維構造体とする場合)には、集積工程(2)で集積後熱処理を実施することも、あるいは、実施しないでおくこともできるが、集積後熱処理を行う場合には、無機系繊維集合体を500℃以下の温度で熱処理することが好ましく、120〜300℃であることがより好ましい。このように、集積後熱処理を行わないか、あるいは、集積後熱処理を行っても500℃以下であることによって、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上とすることができ、好ましくは100μmol/g以上とすることができる。
また、接着用無機系ゾル溶液を付与した後、接着工程(3)において、同様の温度範囲で接着用熱処理(乾燥及び/又は焼成)し、繊維単位質量あたりの水酸基量を50μmol/g以上(より好ましくは100μmol/g以上)とすることが好ましい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0080】
《実施例1:フィブロネクチン(FN)付与高機能繊維構造体(不織布)の作製と評価》
(1)シリカ繊維不織布の作製
紡糸工程(1)及び集積工程(2)
金属化合物としてのテトラエトキシシラン、溶媒としてのエタノール、加水分解のための水、及び触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で10時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去して濃縮した後、温度60℃に加熱して、粘度が2ポイズのゾル溶液を形成した。得られたゾル溶液を紡糸液(紡糸用無機系ゾル溶液)として用い、中和紡糸法によりゲル状シリカ繊維ウエブを作製した。
【0081】
なお、前記中和紡糸法は、特開2005−264374号公報の実施例8と同じ紡糸条件で実施した。つまり、図1の対向電極5として、図4の対向電極(沿面放電素子25)を使用した。詳細を以下に示す。
紡糸ノズル:内径0.4mmの金属製注射針(先端カット)
紡糸ノズルと対向電極との距離:200mm
対向電極及びイオン発生電極(両電極を兼ねる):ステンレス板(誘起電極)上に厚さ1mmのアルミナ膜(誘電体基板)を溶射し、その上に直径30μmのタングステンワイヤ(放電電極)を10mmの等間隔で張った沿面放電素子(タングステンワイヤ面を紡糸ノズルと対向させると共に接地し、ステンレス板とタングステンワイヤ間に交流高電圧電源により50Hzの交流高電圧を印加)
第1高電圧電源:−16kV
第2高電圧電源:±5kV(交流沿面のピーク電圧:5kV、50Hz)
気流:水平方向25cm/sec、鉛直方向15cm/sec
紡糸室内の雰囲気:温度25℃、湿度40%RH以下
連続紡糸時間:30分以上
【0082】
集積後熱処理工程(3)
次に、前記工程で得られたゲル状シリカ繊維ウエブを、800℃で集積後熱処理することにより、シリカ繊維ウエブ(目付:10g/m2)を作製した。
【0083】
接着用無機系ゾル溶液付与工程(4)
繊維間接着のために用いる接着用無機系ゾル溶液として、金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、及び触媒として硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた。反応後、酸化ケイ素の固形分濃度が0.25%となるようにエタノールで希釈し、シリカゾル希薄溶液(接着用無機系ゾル溶液)とした。
前記工程で得られたシリカ繊維ウエブを前記シリカゾル希薄溶液に浸漬した後、吸引により余剰のシリカゾル希薄溶液を除去することにより、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを作製した。
【0084】
接着用熱処理工程(5)
無機系接着剤(シリカゾル希薄溶液)に含まれる溶媒の乾燥除去のために、シリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを110℃の雰囲気中に30分保持した(接着用第一熱処理工程)。
続いて、前記工程で得られたシリカゾル希薄溶液含有シリカ繊維ウエブを、500℃で接着用熱処理すること(接着用第二熱処理工程)により、シリカ繊維不織布〔以下、焼成シリカ繊維不織布(又は参考例1)と称する〕を作製した。
一方、集積後熱処理工程(3)における800℃での熱処理、および、前記の接着用第二熱処理工程を実施しなかったことを除き、紡糸工程(1)〜接着用熱処理工程(5)を繰り返して得られたシリカ繊維不織布を、以下、未焼成シリカ繊維不織布(又は参考例2)と称する。
【0085】
(2)フィブロネクチン(FN)付与シリカ繊維不織布(培養担体)の作製
フィブロネクチン(カタログ番号02-070-002、シグマ社)をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に各種濃度(1、3、5、10、30μg/mL)になるように希釈し、それぞれ、常温でガラスシャーレに10mLずつ分注した。また、PBSのみ(すなわち、FN未添加)を10mL注いだガラスシャーレも用意した。
前記(1)で得られた焼成シリカ繊維不織布をオートクレーブにより滅菌した後、ガラスシャーレに焼成シリカ繊維不織布(1シャーレ当たり10枚ずつ)を浸し、37℃で一昼夜インキュベートした。シャーレ中のPBS又はFN含有PBSを、2%ウシ血清アルブミン(BSA)含有PBSで置き換え、37℃で20分間ブロッキングを実施した後、PBSで2回洗浄し、本発明の高機能繊維構造体であるFN付与シリカ繊維不織布を作製した。
また、前記(1)で得られた未焼成シリカ繊維不織布については、オートクレーブ滅菌後、PBS10mLを注いだガラスシャーレに37℃で一昼夜インキュベートし、ブロッキングを実施した後、PBSで2回洗浄した。
以下、焼成シリカ繊維不織布に1、3、5、10、30μg/mLの濃度でFNを付与して得られたFN付与シリカ繊維不織布を、それぞれ、培養担体FN(1)、培養担体FN(3)、培養担体FN(5)、培養担体FN(10)、培養担体FN(30)と称する。また、焼成シリカ繊維不織布をPBSに浸し(FN未付与;blank)、ブロッキング処理のみ行ったものを培養担体bと、未焼成シリカ繊維不織布をPBSに浸し(FN未付与)、ブロッキング処理のみ行ったものを培養担体cと、それぞれ、称する。
なお、いずれの培養担体の空隙率も、次の(3)で測定した各シリカ繊維不織布の空隙率と、小数点以下一桁までは同じであった。
また、いずれの培養担体の引張破断強度も、次の(3)で測定した各シリカ繊維不織布の引張破断強度と、小数点以下三桁までは同じであった。
【0086】
(3)シリカ繊維不織布の評価
前記(1)で作製した焼成シリカ繊維不織布(参考例1)および未焼成シリカ繊維不織布(参考例2)について、10cm×10cmのサイズに切断し、厚み、見掛密度、空隙率、引張破断強度を測定した。結果を表1に示す。なお、いずれのシリカ繊維不織布においても、それを構成するナノファイバーの平均繊維径は0.8μmであった。また、シリカ繊維不織布全体が無機系接着剤の被膜を形成することなく、シリカで接着していた。
なお、不織布の厚みは、加重100g/cm2となるように設定したマイクロメーター法で測定した値、見掛密度は目付(1m2の大きさに換算した質量)を厚みで除した値をそれぞれ意味する。
また、切断荷重測定の条件を以下に示す。
製品名:小型引張試験機
型式:TSM−01−cre サーチ株式会社製
試験サイズ:5mm×40mm
チャック間隔:20mm
引張速度:20mm/min
初荷重:50mg/1d
空隙率は、下記式:
[空隙率(%)]=[1−(目付/厚み/比重)]×100
(目付の単位=g/m2、厚みの単位=μm、シリカの比重=2g/cm3)
により算出した。
【0087】
【表1】
【0088】
《実施例2:フィブロネクチン(FN)付与培養担体の評価》
(1)チャイニーズハムスター卵巣細胞由来CHO−K1を用いた評価
CHO−K1細胞(ATCC:CCL-61、参考文献:Puch TT,et al., Genetics of somatic mammalian cells III. Long-term cultivation of euploid cells from human and animal subjects., J.Exp.Med.108:945-956,4958.PudMed:13598821)の培養は、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)に、10%FBS、抗生物質(60μg/mLペニシリン及び100μg/mLストレプトマイシン)、0.1μmol/Lメトトレキサート(MTX)を添加した培地を使用し、37℃、5%CO2条件下にて実施した。
培養環境としては、24ウェルプレートの各ウェル内に、評価用の培養担体(1cm×1cm)を載置し、CHO−K1細胞(5×105cells/mL)1mLを播種し、1日毎に培地交換を行った。
【0089】
実施例1で作製した培養担体FN(1)、培養担体FN(3)、培養担体FN(5)、培養担体FN(10)、及び培養担体FN(30)、並びに、培養担体bについて、培養14日までの単位ディッシュ当たりの細胞数変化を図7に、細胞接着能を示す培養24時間後の細胞接着率を図8に、培養14日までのIL−6の濃度変化を図9に、それぞれ示す。また、図8には、培養担体cの結果も併せて示す。
また、培養担体b、培養担体FN(1)、培養担体FN(5)、及び培養担体FN(30)について、培養日数14日目の細胞形態を示すSEM写真を図10〜図13に、それぞれ示す。
【0090】
なお、細胞接着能は、式:
(担体上の細胞数/播種細胞数)×100
により算出した細胞接着率で評価した。
また、IL−6濃度は、24時間で培養培地に分泌されたIL−6量を、市販キット(EIA IL−6キット IM1120;Beckman coulter社販売、immunotec社製造)を用いて測定した。
【0091】
フィブロネクチンを添加した焼成シリカ繊維不織布上では、CHO−K1細胞は総じて細胞増殖能の向上が見られた。添加したフィブロネクチンの濃度が高いほど細胞増殖能も向上することがわかった。特に10、30μg/mLの濃度のフィブロネクチンを添加した条件では、未添加の条件と比較すると、培養14日目で約1.5倍の細胞増殖能の向上を達成した(図7)。
【0092】
細胞接着能についても、フィブロネクチンを付与した全ての条件で、未添加の条件よりも細胞接着能の向上が見られた。添加したフィブロネクチンの濃度が高いほど細胞接着能も向上することがわかった。3μg/mL以上の濃度でフィブロネクチンを添加することにより、細胞接着能を60%から80%以上に向上させることが可能であり、30μg/mLの添加では90%まで向上することがわかった(図8)。
IL−6濃度変化についても、細胞増殖能と同様の傾向がみられた(図9)。
SEM写真からフィブロネクチンを添加しても細胞の増殖は見られたが、形態学上の変化は特になかった(図10〜図13)。
【0093】
《実施例3:ビトロネクチン(BN)付与シリカ繊維不織布(培養担体)の作製》
ビトロネクチン(カタログ番号02-072-002、シグマ社)をPBSに各種濃度(0.01、0.05、0.1、0.5、1、5μg/mL)になるように希釈し、それぞれ、常温でガラスシャーレに10mLずつ分注した。また、PBSのみ(すなわち、BN未添加)を10mL注いだガラスシャーレも用意した。
実施例1(1)で得られた焼成シリカ繊維不織布をオートクレーブにより滅菌した後、ガラスシャーレに焼成シリカ繊維不織布(1シャーレ当たり10枚ずつ)を浸し、37℃で一昼夜インキュベートした。シャーレ中のPBS又はBN含有PBSを、2%BSA含有PBSで置き換え、37℃で20分間ブロッキングを実施した後、PBSで2回洗浄し、本発明の高機能繊維構造体であるBN付与シリカ繊維不織布を作製した。
以下、焼成シリカ繊維不織布に0.01、0.05、0.1、0.5、1、5μg/mLの濃度でBNを付与して得られたBN付与シリカ繊維不織布を、それぞれ、培養担体BN(0.01)、培養担体BN(0.05)、培養担体BN(0.1)、培養担体BN(0.5)、培養担体BN(1)、培養担体BN(5)と称する。また、焼成シリカ繊維不織布をPBSに浸し(BN未付与;blank)、ブロッキング処理のみ行ったものを、実施例1と同様に、培養担体bと称する。
なお、いずれの培養担体の空隙率も、前述の実施例1(3)で測定した各シリカ繊維不織布の空隙率と、小数点以下一桁までは同じであった。
また、いずれの培養担体の引張破断強度も、前述の実施例1(3)で測定した各シリカ繊維不織布の引張破断強度と、小数点以下三桁までは同じであった。
【0094】
《実施例4:ビトロネクチン(BN)付与培養担体の評価》
(1)チャイニーズハムスター卵巣細胞由来CHO−K1を用いた評価
実施例3で作製した培養担体BN(0.01)、培養担体BN(0.05)、培養担体BN(0.1)、培養担体BN(0.5)、培養担体BN(1)、及び培養担体BN(5)、並びに、培養担体bについて、実施例2と同じ評価を実施した。培養14日までの単位ディッシュ当たりの細胞数変化を図14に、細胞接着能を示す培養24時間後の細胞接着率を図15に、培養14日までのIL−6の濃度変化を図16に、それぞれ示す。
また、培養担体b、BN(0.01)、培養担体BN(0.1)、及び培養担体BN(5)について、培養日数14日目の細胞形態を示すSEM写真を図17〜図20に、それぞれ示す。
【0095】
フィブロネクチン添加時と同様、ビトロネクチンを添加した系においても、細胞増殖能の向上が見られた。特に0.5、1μg/mLの濃度の条件では、未添加の条件と比較すると培養14日目で約2.1倍の細胞増殖能の向上が見られた(図14)。
細胞接着能については、0.5μg/mL以上のビトロネクチンを添加することによって、80%以上の細胞接着率を得られることがわかった。特に1μg/mLならびに5μg/mLの条件では、90%の細胞接着率を示していた(図15)。
IL−6濃度変化についても、細胞増殖能と同様の傾向がみられた(図16)。
SEM写真からビトロネクチンを添加しても細胞の増殖は見られたが、形態学上の変化は特になかった(図17〜図20)。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の高機能繊維構造体は、例えば、培養基材、培養担体、スキャフォールドなどに使用することができ、特に、培養細胞に対して培地の剪断応力がかかる流通型培養装置の培養基材として好適に使用できる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維集合体の内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の高機能繊維構造体。
【請求項2】
引張破断強度が0.2MPa以上である、請求項1に記載の高機能繊維構造体。
【請求項3】
繊維単位質量あたりの水酸基量が50μmol/g以上である、請求項1又は2に記載の高機能繊維構造体。
【請求項4】
静電紡糸法により紡糸された無機系繊維に対して、前記無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させる工程を含んで製造された無機系繊維集合体を、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着し、繊維表面に細胞機能性因子を付与した、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項5】
無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成していない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項6】
更に金属イオン含有化合物が付与された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項7】
培養担体として用いる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項1】
平均繊維径3μm以下の無機系繊維からなる無機系繊維集合体の内部を含む全体が無機系接着剤で接着され、繊維表面に細胞機能性因子が付与され、空隙率が90%以上の高機能繊維構造体。
【請求項2】
引張破断強度が0.2MPa以上である、請求項1に記載の高機能繊維構造体。
【請求項3】
繊維単位質量あたりの水酸基量が50μmol/g以上である、請求項1又は2に記載の高機能繊維構造体。
【請求項4】
静電紡糸法により紡糸された無機系繊維に対して、前記無機系繊維とは反対極性のイオンを照射し、集積させる工程を含んで製造された無機系繊維集合体を、内部を含む全体において、無機系接着剤で接着し、繊維表面に細胞機能性因子を付与した、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項5】
無機系繊維間に無機系接着剤の被膜を形成していない、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項6】
更に金属イオン含有化合物が付与された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【請求項7】
培養担体として用いる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の高機能繊維構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−16323(P2012−16323A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156440(P2010−156440)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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