説明

高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法

本発明は、生産コストが低く、製品の品質に優れているジェランゴム発酵液から高次アシル基ジェランゴムを抽出する方法に関する。具体的には、発酵液の酵素処理ステップ(1)と、発酵液の酸凝集ステップ(2)と繊維材料の洗浄ステップ(3)と乾燥粉砕ステップ(4)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物発酵の分野に関し、特に高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェランゴムは、自然界から幅広く選別・分離した細菌----スフィンゴモナス・パウチモビリス(Sphingomonas paucimobilis)が発酵して生成した親水性コロイドであり、有用な特性が多くある。
【0003】
ジェランゴムの分子基本構造は重複する四糖単位からなるメインチェーンであり、前記重複する四糖単位を構成する単糖はグルコース、ラムノース及びグルクロン酸である。ジェランゴムの原型即ち高次アシル基ジェランゴムには、二つの置換基――アセチル置換基とアシルグリセロール置換基が存在する。二つの基がともに同じグルコース残基にあり、各重複単位につき一つのアシルグリセロール置換基があり、二つの重複単位につき一つのアセチル置換基がある。低次アシル基ジェランゴムには、アシル基が徹底的に取り除かれる。アシル基がゲルの性質に対して顕著な影響を与え、高次アシル基型は柔軟性・弾性に優れ、脆性を有しないゲルを生成できるのに対して、低次アシル基ジェランゴムは堅く、弾性を有せず、非常にもろいゲルを生成する。
【0004】
商品に対応する観点から、ジェランゴムも二つの形態がある。一つは低次アシル基ジェランゴムであり、つまりジェランゴム分子メインチェーンのアシル基は全部又は一部が除外される。もう一つは天然ジェランゴムであり、つまり高次アシル基ジェランゴムである。
【0005】
高次アシル基ジェランゴムは、優れたイェリング、成形、固定及び結膜の作用を果たすことができるとともに、以下の特性を有する。高次アシル基ジェランゴムは、せん断可逆・熱可逆的ゲルであり、かつ極めて優れた香料発散性能を有し、その他の水ゾルと共に用いることができ、澱粉と協同作用し、非常に優れた良い成形作用を有し、味わいを向上できる弾性ゲルである。そのため、高次アシル基ジェランゴムが医薬、化工と食品工業などの広範囲にわたって応用することができ、カラゲニン、寒天、ペクチンとその他の親水性コロイドの良い代用品であり、市場潜在力が大きくある。
【0006】
現在、海外には高次アシル基ジェランゴムの製造は米国CP Kelco会社のみに行われ、その製造方法に関して、中国国内では特許文献はない。中国国内における高次アシル基ジェランゴムの抽出方法は、まず、高温で細菌を消滅させ、また、アルカリ金属塩化物とイソプロパノールを添加して凝集沈殿するということである(張禹等、高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法、中国特許公開番号:CN1687437A)。このステップは以下の欠点がある。
【0007】
1.このステップでは、凝集沈殿する時、塩化カルシウムを用いるため、新たな不純物が導入された。
2.このステップによって製造された高次アシル基ジェランゴムは、製品の外観が悪く、純度が低く、製品のゲル強度が低く、かつ溶解性が劣っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、生産コストが低下し、製品の品質に優れているジェランゴム発酵液から高次アシル基ジェランゴムを抽出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明全体の構成要件は以下のとおりである。
本発明の高次アシル基ジェランゴム抽出方法は、ジェランゴム発酵液の酵素処理ステップ、酸凝集ステップ、固体・液体分離後の固体繊維状材料の洗浄ステップ、固体・液体の再分離ステップ、固体材料の乾燥粉砕ステップを含む。具体的には、
この高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法は、発酵液に酵素製剤を添加して昇温反応する、発酵液の酵素処理ステップ(1)と、ステップ(1)酵素処理後の発酵液の温度を下げて、酸を添加して凝集し、固体・液体を分離する、発酵液の酸凝集ステップ(2)と、ステップ(2)固体・液体分離後に得られた固体繊維状材料を先に低極性又は無極性溶媒により洗浄して固体・液体を分離し、そして低級アルコールにより固体繊維状材料を洗浄して固体・液体を分離する、固体繊維状材料の洗浄ステップ(3)と、ステップ(3)に得られた固体材料を乾燥しかつ粉砕し、高次アシル基ジェランゴム製品を得る乾燥粉砕ステップ(4)と、を含む。
【0010】
さらに詳しく説明すると、本発明の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法は、少量の水により溶解・分散された、発酵液の体積を基準とする濃度が100PPMである酵素製剤を発酵液に添加し、温度を50℃〜60℃までに上げて4h〜6hを維持する発酵液の酵素処理ステップ(1)と、ステップ(1)に得られた材料の温度を35℃以下に下げ、酸を添加してpH1.5〜4に調整し、繊維状凝集を生成して、固体・液体を分離する発酵液の酸凝集ステップ(2)と、ステップ(2)得られた材料を重量比1〜2倍の無極性溶媒に添加し、アルカリを用いてpH4.5〜8に調整し、2h洗浄し、固体・液体を分離する、低極性又は無極性溶媒による洗浄ステップ(3.1)と、ステップ(3.1)に得られた材料を重量比4〜5倍の低級アルコールに添加し、2h洗浄し、固体・液体を分離する、低級アルコールによる洗浄ステップ(3.2)とを含む繊維材料の洗浄ステップ(3)と、ステップ(3)に得られた生成物を75℃〜80℃において真空乾燥しかつ粉砕し、高次アシル基ジェランゴム製品を得る乾燥粉砕ステップ(4)とを含む。
【0011】
本発明の各ステップの具体的な条件は以下のとおりである。
ステップ1に用いられる酵素は中性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、パパイン、リゾチームから選ばれた1種又は2種以上の組み合わせであり、かついずれも均一高温酵素である。2種以上の酵素の組み合わせである場合、任意の比率で混合することができる。好ましくは、アルカリプロテアーゼとリゾチームの組み合わせであり、その重量比が5:1である。
【0012】
ステップ1に用いられる酸の濃度は10%である。
【0013】
ステップ2に用いられる酸は酢酸、クエン酸、塩酸、硫酸から選ばれた1種である。好ましくは酢酸である。
【0014】
ステップ2における固体・液体を分離する装置はチャンバー型プレートとフレームフィルタープレスである。
【0015】
ステップ3.1の低極性又は無極性溶媒はアセトン、ブタノン、ジエチルエーテル、ノルマルヘキサンから選ばれた1種であり、好ましくはアセトンである。
【0016】
ステップ3.1にpH調整アルカリの濃度は10%である。
【0017】
ステップ3.1にpH調整用のアルカリはNaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3から選ばれた1種である。
【0018】
ステップ3.2に低級アルコールはメチルアルコール、エタノール、イソプロパノールから選ばれた1種である。
【0019】
ステップ3に固体・液体を分離する装置はスクリュープレスである。
【0020】
ステップ4の真空乾燥の温度は75℃〜80℃である。
【0021】
ステップ4の真空乾燥の真空度は−0.09mpである。
【0022】
ステップ4の真空乾燥の時間は1.5hである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を実施例によってさらに説明するが、本発明は何らこれらに限定されることはない。
【0024】
実施例1
A.発酵済みのジェランゴム発酵液を撹拌しながら100PPMのアルカリプロテアーゼとリゾチームを添加し、温度を55℃までに上昇させ、5h撹拌し続け、温度を32℃に下げる。
【0025】
B.上記材料液のpHが2.0になるまでに10%の酢酸溶液を上記材料液にゆっくり添加し、10min撹拌し続け、材料をポンプでチャンバー型プレートとフレームフィルタープレスに押し込んで濾過する。ろ液を廃水処理場に入れ、得られたろ過ケーキは後に用いられる。
【0026】
C.Bに得られたろ過ケーキに重量で2倍のアセトンを添加し、濃度10%のNaOHを添加してpHを6.0に調整し、2時間撹拌洗浄した後、ポンプでスクリュープレスに押し込み、固体・液体を分離し、液体は精留塔でアセトンを回収し、固体は次のステップに入る。
【0027】
D.Cに得られた材料を重量で4倍のエタノールを添加し、2時間撹拌洗浄した後、ポンプでスクリュープレスに押し込み、固体・液体を分離し、液体は精留塔でエタノールを回収し、固体は次のステップに入る。
【0028】
E.Dに得られた繊維状固体は、乾燥温度78℃、真空度-0.09mpにおいて1.5h真空乾燥する。乾燥後に粉砕機で粉砕して白色粉末、つまり高次アシル基ジェランゴム製品を得る。
【0029】
実施例2
A.発酵済みのジェランゴム発酵液を撹拌しながらパパイン100PPMを添加し、温度を55℃までに上昇させ、5h撹拌し続け、温度を30℃に下げる。
【0030】
B.上記材料液のpHが2.5になるまでに10%の塩酸溶液を上記材料液にゆっくりと添加し、10min撹拌し続け、材料をポンプでチャンバー型プレートとフレームフィルタープレスに押し込んで濾過する。ろ液を廃水処理場に入れ、得られたろ過ケーキは後に用いられる。
【0031】
C.Bに得られたろ過ケーキを重量で5倍のジエチルエーテルを添加し、濃度10%のKOHを添加してpHを5.3に調整し、2時間撹拌洗浄した後、ポンプでスクリュープレスに押し込み、固体・液体を分離し、液体は精留塔でジエチルエーテルを回収し、固体は次のステップに入る。
【0032】
D.Cに得られた材料を重量で4.5倍のエタノールを添加し、2時間撹拌洗浄し続けた後にポンプでスクリュープレスに押し込み、固体・液体を分離し、液体は精留塔でエタノールを回収し、固体は次のステップに入る。
【0033】
E.Dに得られた繊維状固体は、乾燥温度80℃、真空度-0.09mpにおいて1.5h真空乾燥する。乾燥後に粉砕機で粉砕して白色粉末、つまり高次アシル基ジェランゴム製品を得る。
【0034】
従来の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法と比較して、本発明のステップのメリットは以下のとおりである。
【0035】
1.発酵液は高温で細菌を消滅させる必要がないため、本発明のステップ全体のエネルギー消費量は従来のステップより少ないこと、
【0036】
2.原材料の使用量が少なく、本発明には、凝集沈殿時に、新たなカルシウムイオン又はその他のアルカリ金属イオン等の不純物を用いておらず、有機酸のみを用いていること、
【0037】
3.製品の品質が大幅に改善され、海外の進んでいるレベルに達し、製品の外観に優れ、純度が高く、製品のゲル強度が高くかつ溶解性も大幅に改善されること。具体的には下表を参照する。

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従来の技術における高次アシル基 本発明のステップ方法
ジェランゴムのポスト抽出方法
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製品の色度 ≧ 60% 製品の色度 ≧ 75%
純度 ≧ 70% 純度 ≧ 80%
ゲル強度(0.5%濃度) ゲル強度(0.5%濃度)
300〜400g/cm2 450〜600g/cm2
溶解度 溶解度
80℃水浴 5〜6min溶解 80℃水浴 1〜2min溶解
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵液に酵素製剤を添加して昇温反応する、発酵液の酵素処理ステップ(1)と、
ステップ(1)酵素処理後の発酵液の温度を下げて、酸を添加して凝集し、固体・液体を分離する、発酵液の酸凝集ステップ(2)と、
ステップ(2)固体・液体分離後に得られた固体繊維状材料を先に低極性又は無極性溶媒により洗浄して固体・液体を分離し、そして低級アルコールにより固体繊維状材料を洗浄して固体・液体を分離する 固体繊維状材料の洗浄ステップ(3)と、
ステップ(3)に得られた固体材料を乾燥しかつ粉砕し、高次アシル基ジェランゴム製品を得る乾燥粉砕ステップ(4)と、を含むことを特徴とする高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項2】
ステップ1に用いられる酵素が中性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、酸性プロテアーゼ、パパイン、リゾチームから選ばれた1種又は2種以上の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項3】
ステップ1に用いられる酵素が、アルカリプロテアーゼとリゾチームを組み合せて用いて、両者の重量比が5:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項4】
発酵液の体積を基準とし、酵素製剤使用量の濃度が100PPMであることを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項5】
酵素を少量の水により溶解・分散させてから添加することを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項6】
ステップ(1)の昇温反応において、温度を50℃〜60℃までに上げて4h〜6hを維持することを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項7】
ステップ(2)における酸凝集はステップ(1)の材料の温度を35℃以下に下げ、酸を添加してpH1.5〜4に調整し、繊維状凝集を生成して、固体・液体を分離することを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項8】
ステップ(2)に用いられる酸の濃度は10%であることを特徴とする請求項1又は7に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項9】
ステップ(2)に用いられる酸は酢酸、クエン酸、塩酸、硫酸から選ばれた1種であることを特徴とする請求項1又は7に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項10】
ステップ(2)に用いられる酸は酢酸を用いることを特徴とする請求項1又は7に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項11】
ステップ(2)において、固体・液体を分離する装置はチャンバー型プレートとフレームフィルタープレスであることを特徴とする請求項1又は7に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項12】
ステップ(3)の無極性溶媒による洗浄は、ステップ(1)に得られた材料に、重量比1〜2倍の無極性溶媒を添加し、アルカリを用いてpH4.5〜8に調整し、2h洗浄し、固体・液体を分離することを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項13】
ステップ(3)に用いられる低極性又は無極性溶媒はアセトン、ブタノン、ジエチルエーテル、ノルマルヘキサンから選ばれた1種であることを特徴とする請求項12に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項14】
ステップ(3)に用いられる低極性又は無極性溶媒はアセトンを用いることを特徴とする請求項12又は13に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項15】
ステップ(3)に用いられるアルカリの濃度は10%であることを特徴とする請求項12に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項16】
ステップ(3)に用いられるアルカリはNaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3から選ばれた1種であることを特徴とする請求項12又は15に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項17】
ステップ(3)のアルコールによる洗浄は重量比4〜5倍の低級アルコールを添加し、2h洗浄し、固体・液体を分離することを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項18】
ステップ(4)に用いられる低級アルコールの濃度は90〜95%であることを特徴とする請求項17に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項19】
低級アルコールはメチルアルコール、エタノール、イソプロパノールから選ばれた1種を用いることを特徴とする請求項17又は18に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項20】
ステップ(3)において、固体・液体を分離する装置はスクリュープレスであることを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項21】
ステップ(4)における真空乾燥の温度は75℃〜80℃であることを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項22】
ステップ(4)における真空乾燥の真空度は−0.09mpであることを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。
【請求項23】
ステップ4における真空乾燥の時間は1.5hであることを特徴とする請求項1に記載の高次アシル基ジェランゴムのポスト抽出方法。

【公表番号】特表2012−528903(P2012−528903A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513453(P2012−513453)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【国際出願番号】PCT/CN2010/000784
【国際公開番号】WO2010/139191
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511208911)浙江帝斯曼中肯生物科技有限公司 (4)
【Fターム(参考)】