説明

高比表面積水酸化カルシウム粒子の製造方法

【課題】 比表面積が大きい水酸化カルシウム粒子の簡便且つ経済的な製造方法を提供する。
【解決手段】 生石灰(酸化カルシウム)を水中にて反応(消化反応)し、水酸化カルシウム粒子を得る際に、珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸よりなる群より選ばれた少なくとも1種の添加物の存在下に消化反応することを特徴とする水酸化カルシウム粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】高比表面積を有する水酸化カルシウム粒子の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、高性能で且つ簡便で経済的な高比表面積を有する水酸化カルシウム粒子の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】水酸化カルシウム粒子は一般的に、生石灰(酸化カルシウム)を水と反応させる方法で製造されているが、水中での生石灰の溶解度が高いために結晶成長しやすく比表面積の小さい水酸化カルシウム粒子が生成する。特開2001−123071公報では、カルシウムに対して当量以上の水酸化アルカリ金属を含有する水溶液に、水溶性カルシウム塩水溶液を注加して反応させ、熟成する方法が記載されている。しかしながら、上記方法は原料が高価であることおよび副生溶解質を水洗する必要があり且つ生成する粒子が微粒子であるために濾過が困難であるという問題がある。さらに、比表面積も十分に高いものが得られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の水酸化カルシウム粒子の前記した製造方法における問題を克服し、高比表面積を有する水酸化カルシウムを簡便且つ経済的に製造する方法の提供を目的とする。本発明の方法による水酸化カルシウム粒子は、比表面積が大きいので高活性であり、酸中和剤やハロゲン捕捉剤等としての用途が期待される。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、前記本発明の目的は、生石灰を水中にて反応(消化反応)せしめて水酸化カルシウム粒子を製造する方法において、珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の添加剤を含有する水中にて該消化反応を行うことを特徴とする水酸化カルシウム粒子の製造方法により達成される。
【0005】かかる本発明の方法により、BET比表面積が5〜40cm2/g、20〜40m2/gの高比表面積を有する水酸化カルシウム粒子が得られる。また得られた水酸化カルシウム粒子は、レーザ光回折散乱法による粒子径測定法に基づいて平均2次粒子径が2〜10μm、好ましくは2.5〜8μmである。
【0006】以下本発明方法についてさらに具体的に説明する。
【0007】本発明の方法は、珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の添加剤を含有する水中にて生石灰(酸化カルシウム)を消化反応させる。好適には前記添加物を含有し、10〜60℃、好ましくは30〜60℃の水中に攪拌下に生石灰を供給して消化反応させる。反応温度は、生石灰を加えることによって自生熱により上昇し、例えば90℃以上に達する。
【0008】消化反応中に含有される添加物の具体的化合物について説明すると、(1)珪酸アルカリ、珪酸塩、含水珪酸、無水珪酸および結晶性珪酸(例えばクオーツ)よりなる群から選ばれた少なくとも一種の珪素系化合物;(2)燐酸、その塩、縮合燐酸、その塩、ポリ燐酸およびその塩よりなる群から選ばれた少なくとも一種の燐系化合物;(3)アルミニウム塩、結晶性水酸化アルミニウムおよび無定形水酸化アルミニウムよりなる群から選ばれた少なくとも一種のアルミニウム系化合物;(4)塩酸、硝酸および硫酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸および(5)クエン酸、酒石酸、エチレンジアミンの四酢酸、リンゴ酸、コハク酸およびそれらの塩よりなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸である。
【0009】本発明の方法において、前記した添加物の使用量は、生成する水酸化カルシウム粒子に対して0.1〜2モル%、好適には0.2〜1.0モル%が有利である。0.1モル%より少ないと結晶成長阻害剤としての効果が小さくなくなり、生成する水酸化カルシウム粒子の比表面積が小さくなる。2.0モル%を超えると、Ca−Si、Ca−Al、Ca−Pなどの化合物および無機酸Ca、有機酸Caが生成すると共に、生成する水酸化カルシウム粒子中のカルシウム含量が少なくなり純度のよい目的物質を得ることが困難となる。
【0010】本発明の方法において、前記添加剤がどのような作用により水酸化カルシウム粒子のBET表面積を大きくすることを可能としているのかは明らかではないが、添加剤が結晶成長阻害剤として働き結晶成長を制御するためと思われる。
【0011】本発明の方法により前述した消化反応を実施することにより高比表面積を有する水酸化カルシウム粒子を得ることができるが、消化反応後さらに反応混合物を熟成することによって、さらに高品質の水酸化カルシウム粒子を得ることができる。この熟成は反応混合物を60〜170℃、好ましくは80〜120℃、最も好ましくは90〜100℃の温度で、5分〜3時間、好ましくは10分〜2時間、より好ましくは20分〜1時間実施することができる。
【0012】さらに反応終了後、もしくは熟成終了後、必要に応じて得られた水酸化カルシウム粒子を懸濁液中にて湿式ボールミルなどの粉砕手段で粉砕することもできる。粉砕することによって平均2次粒径が2μmより小さい粒子を得ることができる。
【0013】本発明の方法により得られた水酸化カルシウム粒子は、所望により、それ自体公知の表面処理剤、例えばアニオン系界面活性剤により、表面処理することもできる。表面処理により、樹脂等への相溶性を改良することができる。
【0014】本発明者らの研究によれば、水酸化アルカリ金属と水溶性カルシウムとの反応時に本発明の添加剤を利用することも可能であることが判明した。すなわち、水酸化アルカリ金属に珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤を添加しておき攪拌下、水溶性のカルシウム塩を加えて反応することもできる。反応後、必要に応じて熟成する方法により目的の水酸化カルシウム粒子が得られる。しかしながら、この製造方法は原料が高価であることさらに副生溶解質を洗浄により除く必要があるので経済性において劣る。
【0015】さらに本発明者らの研究によれば、一般的に実施されている生石灰を水に投入し消化反応して得られる水酸化カルシウム粒子懸濁液に、珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸からなる群より選ばれた少なくとも1種を添加し、熟成により目的物質を得ることも可能であることが判明したがその効果が弱く有用性において劣る(参考例参照)。
【0016】
【実施例】以下、実施例を掲げて本発明を詳述する。
【0017】実施例1−1〜1−33L容ビーカーに水道水1.5リットルおよび珪素系化合物として、塩野義製薬株式会社製含水二酸化珪素(カープレックス#80、SiO2含量95%)を、水酸化カルシウム粒子の収量の0.2モル%、0.5モル%または1.0モル%に相当する量、それぞれ、0.5g、1.3gまたは2.5gを入れ水温を約60℃に昇温後、生石灰(ウベマテリアルズ株式会社製カルシード)225gを攪拌下に投入し消化反応せしめた。その後、90℃で30分間撹拌した(反応温度は90℃以上に自生熱で上昇する。)。冷却後、200メッシュの篩を通過し、濾過、脱水、乾燥、粉砕した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0018】実施例2−1実施例1において、珪素系化合物をアルミニウム系化合物として協和化学工業株式会社製乾燥水酸化アルミニウムゲル(S−100、Al含量28.6% )とした以外は実施例1と同様に処理した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0019】実施例3−1実施例1において、珪素系化合物を燐系化合物としてオルガノ株式会社製ポリリン酸ナトリウムとした以外は実施例1と同様に処理した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0020】実施例4−1および4−2実施例1において、珪素系化合物を無機酸として、塩酸または硝酸とする以外は実施例1と同様に処理した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0021】実施例5−1〜5−4実施例1において、珪素系化合物を有機酸およびその塩として、クエン酸ナトリウムまたは酒石酸とする以外は実施例1と同様に処理した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0022】実施例6−1および6−2実施例1の含水二酸化珪素0.5モル%および1.0モル%添加で得られた水酸化カルシウム懸濁液を、容量1Lのオートクレーブに入れ120℃で2時間水熱処理を行なった。冷後、200メッシュの篩を通過し、濾過、脱水、乾燥、粉砕した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0023】実施例7−1および7−2実施例1の含水珪素0.5モル%および実施例5のクエン酸ナトリウム0.5モル%添加で得られた水酸化カルシウム懸濁液を80℃に昇温後、攪拌下に、5%ステアリン酸ソーダー液(80℃)を加えて表面処理を行なった。冷却後、200メッシュの篩を通過し、濾過、脱水、乾燥、粉砕した。なお、ステアリン酸ソーダー添加量は水酸化カルシウム表面を単分子層で覆える量とした。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0024】実施例8実施例1の含水珪素0.5モル%添加で得られた水酸化カルシウム懸濁液を、湿式ボールミルとして、シンマルエンタープライゼス製ダイノ−ミルを用いて、ガラスビーズ径0.5mm、ディスク周速10m/s、スラリー供給量250L/hの条件で粉砕し、濾過、脱水、乾燥、粉砕した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0025】実施例9−1〜9−3実施例1において、消化反応終了後の熟成(90℃で30分撹拌する)をしないこと以外実施例1と同様に処理した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0026】比較例3L容ビーカーに水道水1.5リットルを入れ水温を約60℃に昇温後、攪拌下に、生石灰225gを投入し消化反応する。その後、90℃で30分間攪拌した(反応温度は90℃以上に自生熱で昇温する。)。冷却後、200メッシュの篩を通過さし、濾過、脱水、乾燥、粉砕した。得られた粉末のBET比表面積、レーザ回折法粒度分布測定機で測定した2次粒子の平均粒子径を表1に示す。
【0027】参考例3L容ビーカーに水道水1.5リットルを入れ、水温を約60℃に昇温後、撹拌下に、生石灰225gを投入し消化反応する。得られた水酸化カルシウム水溶液に、珪素系化合物として塩野義製薬株式会社製含水二酸化珪素(カープレックス#80,SiO2含量95%)を、水酸化カルシウム収量の0.5モル%に相当する量を添加し、90℃で30分間撹拌した。冷後、200メッシュの篩を通過し、濾過、脱水、乾燥、粉砕した。得られた粉末のBET比表面積およびレーザ光回折散乱法粒度分布測定機で測定した2次粒子の粒子径を表1に示す。
【0028】
【表1】


【0029】
【発明の効果】本発明方法によれば、高比表面積を有する水酸化カルシウム粒子が容易に得られる。得られた水酸化カルシウム粒子は、比表面積が大きいので高活性であることにより酸中和剤やハロゲン捕捉剤等としての用途が期待される。さらに、反応は生石灰の消化を利用するので熱エネルギーは自生熱でまかなえることができ安価に、また、簡便に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 生石灰を水中にて反応(消化反応)せしめて水酸化カルシウム粒子を製造する方法において、珪素系化合物、燐系化合物、アルミニウム系化合物、無機酸および有機酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の添加剤を含有する水中にて該消化反応を行うことを特徴とする水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項2】 得られた水酸化カルシウム粒子は、そのBET比表面積が5〜40cm2/gである請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項3】 得られた水酸化カルシウム粒子は、その平均2次粒子径(レーザ光回折散乱法による粒子径測定法による)が2〜10μmである請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項4】 該添加物が、珪酸アルカリ、珪酸塩、含水珪酸、無水珪酸および結晶性珪酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の珪素系化合物である請求項1の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項5】 該添加物が、燐酸、その塩、縮合燐酸、その塩、ポリ燐酸およびその塩よりなる群から選ばれた少なくとも一種の燐系化合物である請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項6】 該添加物が、アルミニウム塩、結晶性水酸化アルミニウムおよび無定形水酸化アルミニウムよりなる群から選ばれた少なくとも一種のアルミニウム系化合物である請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項7】 該添加物が、塩酸、硝酸および硫酸よりなる群から選ばれた少なくとも一種の無機酸である請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項8】 該添加物が、クエン酸、酒石酸、エチレンジアミンの四酢酸、リンゴ酸、コハク酸およびそれらの塩よりなる群から選ばれた少なくとも一種の有機酸である請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項9】 水中に含有する添加剤の含有量が、生成する水酸化カルシウム粒子に対して0.2〜1.0モル%の範囲である請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項10】 添加物を含有し、30〜60℃の温度の水中に攪拌下、生石灰を供給して消化反応せしめる請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。
【請求項11】 該消化反応後、反応混合物を60〜170℃の温度で5分〜3時間熟成せしめる請求項1記載の水酸化カルシウム粒子の製造方法。

【公開番号】特開2003−327427(P2003−327427A)
【公開日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−137581(P2002−137581)
【出願日】平成14年5月13日(2002.5.13)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】