説明

高比表面積金属用化成処理液および化成処理方法

【課題】金属板・箔など平坦な形状の部材のみならず、プレス部品、塑性加工部品、焼結部品、粉体材料など反応を伴わない塗布処理によっては均一な皮膜が得られ難い形状の金属材料に対しても均一な防錆皮膜を形成できるとともに、処理後の水洗を必要とせず、乾燥も容易で錆を発生しない金属用化成処理液の提供。
【解決手段】リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを含み、残部が主としてアルコール系溶剤からなることを特徴とする高比表面積金属用化成処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食しやすい金属材料の防食技術に関するもので、特に、高比表面積を有する、鉄、亜鉛、銅、アルミニウムなどの金属との化成反応により防食膜を形成するための金属用化成処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食しやすい金属材料の防錆のための表面処理としては、金属表面と表面処理液の化成反応によって耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる技術のひとつであるリン酸塩処理法やクロメート処理法が一般に用いられている。このような基材金属との化成反応による金属表面処理は、形状が複雑な場合でも全体を均一な皮膜で被覆することが可能な利点があるため、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガンなどのリン酸塩処理法は、自動車車体、機械部品、電機部品や建築材料などの広い分野で使用されている。
【0003】
このようなリン酸塩処理では、一般にリン酸を含む処理水溶液に被処理金属材料を接触させることにより不溶性金属リン酸塩の皮膜を形成したのち水洗することにより、耐食性に有害な腐食性イオン(フッ素イオン、塩素イオン、硫酸イオン等)や、塗装密着性に有害なアルカリ金属イオン(ナトリウム・カリウム等)、および反応によって生成するスラッジを表面から除去することが必要となる。しかし、化成処理後に数工程の水洗を行うことは、水洗廃水が多量に発生し、表面処理ラインが長大となるとともに乾燥までに長時間を要したり錆が発生し易いなどの問題を抱えていた。
【0004】
処理液中に有害成分を含まない表面処理方法としては、これまでに種々の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、孤立電子対を持つ窒素原子を含有する化合物および前記化合物とジルコニウム化合物を含有する金属表面用ノンクロムコーティング剤が記載されている。この方法は、前記組成物を塗布することによって、有害成分である6価クロムを含まずに、塗装後の耐食性および密着性に優れた表面処理皮膜を得ることを可能とするものである。
しかし、この方法は対象とされる金属素材がアルミニウム合金に限られており、塗布乾燥によって表面処理皮膜を形成せしめるため、自動車車体の様な複雑な構造物に適用することは困難である。
【0005】
また、化成反応によって塗装後の密着性および耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる方法として、特許文献2〜5等に、多数の方法が記載されている。
しかしながら、これらの方法は、いずれも対象とされる金属材料が、素材そのものの耐食性に優れるアルミニウム合金に限定されており、鉄系材料や亜鉛系材料の表面に表面処理皮膜を析出させることは不可能であった。
【0006】
また、特許文献6には、金属アセチルアセトネートと、水溶性無機チタン化合物、または水溶性無機ジルコニウム化合物とからなる表面処理組成物で、塗装後の耐食性および密着性に優れる表面処理皮膜を析出させる方法が記載されている。この方法では、適用される金属材料がアルミニウム合金のほか、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛および亜鉛めっき合金にまで拡大されている。しかしながら、この方法でも化成処理液中にはフッ素イオンなどの腐食性イオンなどが含まれるため、処理後には水洗を行うことが必須であった。水洗が不要な防錆処理剤の技術としては、例えば特許文献7のように塩化ビニリデン共重合体と金属イオンを含む水性防錆塗料が開示されているが、乾燥に時間がかかる問題があった。また、乾燥が容易なものでは、特許文献8に示すリン酸とエチルアルコールからなる表面処理剤が開示されおり、これは金属粉体など高比表面積材料の処理も可能であるが、その耐食性は十分なものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2000-204485号公報
【特許文献2】特開昭56-136978号公報
【特許文献3】特開平8-176841号公報
【特許文献4】特開平9-25436号公報
【特許文献5】特開平9-31404号公報
【特許文献6】特開2000-199077号公報
【特許文献7】特開平4-314766号公報
【特許文献8】特開平10-231447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これら従来の化成処理技術では、複雑な形状物や金属粉、焼結合金などに対して細孔内に至る均一な防錆皮膜を得ることができなかったり、処理後の水洗が困難なため多量の廃水が生じたり、水洗後の乾燥が困難なため錆を生じたりすることにより、特に高比表面積材料に適用した場合の耐食性の面で課題が残されていた。
【0009】
即ち、本発明は、金属板・箔など平坦な形状の部材のみならず、プレス部品、塑性加工部品、焼結部品、粉体材料など反応を伴わない塗布処理によっては均一な皮膜が得られ難い形状の金属材料に対しても均一な防錆皮膜を形成できるとともに、処理後の水洗を必要とせず、乾燥も容易で錆を発生しない金属用化成処理液を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リン酸を使用した金属の化成処理技術について実験的検討を重ねた結果、リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを一定比率で含み、溶媒が主にアルコール系溶剤からなる化成処理液で鉄などの金属材料を処理することにより均一な皮膜が金属表面に形成され、処理後に水洗することなく良好な耐食性と密着性を有することを見出した。
また、本発明者らは、前記ポリフェノールが、タンニン、カテキン、またはフラボノイドから選ばれる少なくとも1種が有効であり、水/アルコールに可溶なアルコール可溶性樹脂をさらに含有させることにより耐食性が向上することを見出して本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明の高比表面積用金属用化成処理液は、第1の発明(1)が、リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを含み、残部が主としてアルコール系溶剤からなることを特徴とするものである。
【0012】
また、第2の発明(2)は、前記高比表面積金属が、鉄、亜鉛、アルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含み、かつその比表面積が0.001m/g以上である前記高比表面積金属用化成処理液である。
【0013】
また、第3の発明(3)は、前記処理液中に、さらにZn、Al、Fe、Zr、Ti、Sm、Nd、Ca、Mg、MnおよびCeの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する前記(1)または(2)に記載の高比表面積金属用化成処理液である。
【0014】
また、第4の発明(4)は、前記処理液中に、さらにアルコール可溶性樹脂を含有する前記(1)〜(3)に記載の高比表面積金属用化成処理液である。
【0015】
また、第5の発明(5)は、前記ポリフェノールが、タンニン、カテキン、またはフラボノイドから選ばれる少なくとも1種である前記(1)〜(4)の金属用化成処理液金属用化成処理液である。
【0016】
さらに第6の発明(6)は、リン酸系化合物(A)、ポリフェノール(B)、アルコール可溶性樹脂(C)との質量比が、(B+C)/Aとして、1〜100の範囲である前記(1)〜(5)の金属用化成処理液である。
【0017】
また、第7の発明(7)は、前記アルコール系溶剤の沸点が60〜150℃である前記(1)〜(6)に記載の金属用化成処理液である。
【0018】
さらに第8の発明(8)は、鉄、亜鉛、およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含み、比表面積が0.001m/g以上である金属材料を、リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを含み、残部が主としてアルコール系溶剤からなる化成処理液と接触させることにより該金属表面に反応層を形成させたのち乾燥させることを特徴とする高比表面積金属の化成処理方法である。
【0019】
また、第9の発明(9)は、前記処理液中に、さらにZn、Al、Fe、Zr、Ti、Sm、Nd、Ca、Mg、MnおよびCeの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する、前記(8)に記載の高比表面積金属の化成処理方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属板・箔など平坦な形状の部材のみならず、プレス部品、塑性加工部品、球体、粉体など塗布処理によっては均一な皮膜が得られ難い形状の金属材料に対しても袋部や隙間部にまで欠陥なく均一な膜厚を持つ防錆皮膜を形成できるとともに、処理後の水洗を必要としないため廃水を発生せず、乾燥も容易で錆を発生しない金属用化成処理液を得ることができる。また、乾燥の際、蒸発したアルコールを回収し、再利用するようにすれば、クローズドシステムとすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の金属用化成処理液(以下、単に「本発明の処理液」という)について詳細に説明する。本発明の処理液が使用できる金属は、特に限定されないが、鉄、鉄を主体とする合金、亜鉛、亜鉛めっき鋼、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金などが好ましい。また、前記高比表面積金属は、鉄、亜鉛、およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含み、かつその比表面積が0.001m/g以上であることが好ましい。比表面積の上限は特に限定されないが、例えば、10m/g以下である。比表面積が0.001m/g未満であっても使用することができるが、処理液の面積あたり付着量が少量となるためその耐食性は十分といえないものとなる。尚、比表面積は、BET法により測定する。
【0022】
本発明の処理液には、リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを含み、残部が主としてアルコール系溶剤からなることが必要である。ここで、「残部が主として」とは、不揮発成分を除いた溶剤(アルコール系溶剤+水)の概ね70質量%以上を意味する。
【0023】
リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物は、少量の水を含む水溶液であっても無水物であってもかまわないが、ハンドリングの面からの好ましい含水率は5〜50質量パーセントである。適度な水分は、リン酸系化合物が金属と反応する際、酸の解離を促進させ、反応速度を高める効果があるため、処理液中の水は0.03〜3質量パーセントとすることが好ましい。ポリリン酸を使用する場合は、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸やこれらを含む混合物が好ましい。
【0024】
リン酸系化合物は、一部がアンモニア、アミンなどのアルカリ分で中和されていてもかまわないが、その水を含むリン酸系化合物のpHは5以下であることが好ましい。ポリリン酸としてはピロリン酸やトリポリリン酸を含む分子量が1000未満の低重合度のものが好ましい。また、有機ホスホン酸としては、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、ヒドロキシエチルジメチレンホスホン酸などが好ましい。
【0025】
また、本発明で使用されるポリフェノールとしては、タンニン、カテキン、およびフラボノイドから選ばれる1種または2種以上が好ましい。好ましいタンニンの種類としては、タンニン酸、ほか、ゲンノショウコ、チョウジ、カキ、ダイオウ、ケイヒなどの植物に含まれるタンニンや、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどの緑茶カテキンなどのカテキン類のほか、フラボン、フラボノール、フラバノール、アントシアニジン、イソフラボノイドなどのフラボノイドなどが使用できる。これらは天然物でも合成品であってもかまわない。平均分子量は300〜30000のものが好ましい。
【0026】
また、本発明の処理液中には、さらにZn、Al、Fe、Zr、Ti、Sm、Nd、Ca、Mg、MnおよびCeの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含有することが好ましい。これらの金属の少なくとも1種を含有させることにより耐食性および耐熱性をさらに向上させることができる。これらの金属の含有量は、前記リン酸系化合物(A)の100質量部に対してこれらの金属の総和が1〜50質量部の範囲が好ましい。これらの金属を添加する形態は特に限定されないが、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、酸化ネオジム、酸化第二鉄、などの酸化物・水酸化物、硝酸ジルコニウム、硝酸セリウム、硝酸サマリウム、硝酸ネオジム、硝酸セリウムアンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、などの硝酸塩、フッ化チタン、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウムなどのフッ素化合物、金属亜鉛末などの金属粉、シュウ酸塩(例えば、シュウ酸チタン)、酢酸塩などの有機酸塩・金属キレートなどが好ましい。
【0027】
また、本発明の処理液中には、さらにアルコール可溶性樹脂を含有することが好ましく、アルコール可溶性樹脂としては、特に限定されないが、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびシリコーン樹脂等が使用できる。これら樹脂は、必要に応じて変性して可溶化させたり、可溶化剤や分散剤を添加して水溶化することが好ましいが、本発明では、水溶性樹脂およびアルコールにより溶解できる樹脂は使用することができる。好ましい樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルレート等のアクリル系単量体との共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリウレタン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、キトサンおよびその誘導体が挙げられる。これらの樹脂は、処理した表面に接合される塗料や樹脂との接着性を高めたり、耐食性をさらに向上させる効果がある。
【0028】
処理液中におけるリン酸系化合物の濃度は、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、ポリフェノールの濃度は0.2〜8質量%が好ましく、アルコール可溶性樹脂の濃度は0.5〜5質量%が好ましく、金属は0.1〜1質量%が好ましい。
【0029】
本発明の処理液において、前記リン酸系化合物(A)、ポリフェノール(B)、アルコール可溶性樹脂(C)との質量比は、(B+C)/Aとして、1〜100の範囲であることが好ましく、この質量比が1未満ではリン酸系化合物が過剰となり、金属のエッチングが過剰となり、生成した皮膜の耐水性、耐食性が不十分となるため好ましくない。一方、この質量比が100を越えると、エッチング不足となり、皮膜が薄くなって耐食性が低下するため好ましくない。質量比は3〜30の範囲が最も好ましい。
【0030】
また、本処理液に含まれるアルコールの沸点は60〜150℃の範囲であることが好ましく、このため本発明で使用されるアルコールの種類としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メタノールなどが好ましい。これらは単独または混合して使用できるが、本発明におけるアルコール系溶剤とは、アセトンやジオキサン、セロソルブなどの水と相溶性のあるアルコール以外の有機溶媒でもかまわない。これらのアルコールの添加により、微細な空隙や被処理物間のすきまに処理液が速やかに入り込み、無処理部の発生を防止するとともに、乾燥速度が向上し、錆の発生を防止することができる。また、処理液中に含まれるアルコール系溶剤の含有率は、50〜99質量パーセントの範囲が好ましく、50質量パーセント未満では乾燥が遅くて錆が発生しやすく、99質量パーセントを超えるとリン酸系化合物がイオン化しにくいため反応性が低下するため好ましくない。皮膜成分とアルコールを除く残部は水であるが、水の好ましい含有率は、0.03〜3質量パーセントである。
【0031】
本発明の金属用化成処理液の用途は金属表面処理用途であれば限定されないが、金属としては鉄、亜鉛、アルミ、銅およびこれらの1種以上を含む合金が好ましく適用できる。被処理物の形状やサイズは限定されないが、特に小物や微細な部品、通常の表面処理剤や塗料では詰まりを生じる微細な穴や加工が施された部品、または金属粉体が特に好ましく、その理由は、これらの微小部品や粉状部品は生産性に支障がないよう多量の個数を同時に処理する必要があることから極めて液切れに優れ、個々の被処理物どうしの固着を生じにくく乾燥性の良いという特長による。
【0032】
ここで、本発明に係る高比表面積金属用化成処理液の使用方法の一例を説明する。まず、先に説明した本処理液が使用できる金属材料を、本発明に係る化成処理液に接触させることにより、当該金属表面に化成皮膜を形成させる(化成皮膜形成工程)。その後に、当該皮膜を形成した金属材料を乾燥する(乾燥工程)。当該処理を行うことにより、表面に防食膜を有する金属材料を製造することが可能である。次に各工程について詳細に説明する。
【0033】
「化成皮膜形成工程」において、金属材料と処理液の接触時間は、1〜600秒が好適であり、30〜180秒がより好適である。微小部品、粉体、粒体などの高比表面積金属に均一に接触させるには一定量の高比表面積金属を攪拌しながら処理液を添加し、均一に混ぜ合わせることが好ましく、さらに混合しながら減圧、温風吹き込みなどによって乾燥することが好ましい。また、接触させる温度は、10〜50℃が好適であり、20〜40℃がより好適である。化成皮膜形成工程において、金属材料と処理液の接触を、浸漬または混合攪拌により行なうことが好適である。浸漬する場合、金属材料の引き上げ速度は、1〜50cm/秒が好適であり、1〜30cm/秒がより好適である。乾燥前に必要に応じて液切りを行ってもよく、振動装置や遠心装置を使用してもかまわない。「乾燥工程」において、乾燥時間は、1〜60分が好適であり、3〜30分がより好適である。また、乾燥させる温度は、20〜150℃が好適であり、30〜120℃がより好適であり、40〜100℃が更に好適である。乾燥時間が短い場合や乾燥温度が低い場合は皮膜の耐水性が不十分となり、乾燥温度が高すぎる場合はポリフェノールが酸化されるため好ましくない。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示して説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0035】
(処理液の調製)
表1に示す組成の処理液を調製し、実施例1〜21、および比較例1〜4の試験を行った。
処理液の調製は、所定量を計量、混合したアルコール系溶剤にリン酸系化合物を添加、攪拌し、さらにポリフェノールを加えて攪拌・溶解させ、アルコール可溶性樹脂を含む実験水準ではこれにアルコール可溶性樹脂を加えて溶解させることにより行った。
リン酸系化合物(A)
85%リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸(ピロリン酸やトリポリリン酸を含む低重合度のもの)、および有機ホスホン酸(エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸)の中から選択して使用した。中和剤は添加せずに使用し、そのpHは何れも1〜2の範囲であった。
ポリフェノール(B)
茶カテキン、タンニン酸、柿タンニン、緑茶カテキン、フラボンの中から選択して使用した。
アルコール可溶性樹脂(C)
水溶性フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製淡色フェノール樹脂)、水溶性アクリル樹脂(日本純薬(株)製ポリアクリル酸水溶液)、水溶性変性ポリアミド樹脂(東レ(株)製AQナイロン)、ウレタン樹脂(大日本インキ(株)製ハイドラン)の中から選択して使用した。
添加金属(D)
酸化亜鉛、フッ化アルミニウム、酸化第二鉄、硝酸ジルコニウム、シュウ酸チタン、硝酸サマリウム、硝酸ネオジム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸マンガン、および硝酸セリウムアンモニウム(JIS1級試薬相当品)の中から添加金属を選択して処理液中に溶解または分散して加えた。
アルコール系溶剤(E)
メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、およびアセトンを単独または混合して使用した。アルコール系溶剤以外の残部溶剤は水とした。
【0036】
(試験片の準備)
0.1mm厚さの、鋼板、亜鉛板、アルミ板を、それぞれ2×5mmのサイズに切断し、3種の高比表面積金属材料からなる微細試験片を準備した。これらの比表面積は、鋼板および亜鉛板が、0.002m/g、アルミ板が0.006m/gであった。
【0037】
(化成処理)
金属製微小試験片1g(70〜200枚相当)をステンレスメッシュのかごに入れ、アルコールで浸漬脱脂したのち、処理液をガラスビーカーに採って25℃の温度に保持した処理液に60秒間浸漬したのち、約1cm/秒の速度で引き上げ、そのまま真空乾燥機で内部が80℃になるようにヒーター加熱しながら3分間真空乾燥した。金属製テストパネルの材質は、実施例1〜4、実施例6、実施例11〜14、実施例16、実施例19〜21、および比較例1〜2は鋼板(SPC)を使用し、実施例5、実施例7〜8、実施例15、および比較例3は亜鉛を使用し、実施例9〜10、実施例17〜18、および比較例4はアルミニウム合金板(A1100)を使用した。
【0038】
(評価試験)
処理した金属板は下記の評価試験により性能評価した。
1.乾燥後の外観
オーブン乾燥後の外観を目視により錆発生の有無を確認した。
2.耐食性
塩水噴霧試験法(JIS Z2371)により耐食性試験を行った。各金属種について、無処理のテストパネルの錆発生までの時間を基準として、錆発生までの時間が1.1〜1.5倍になったものを1点(やや効果あり)、1.5〜3.0倍になったものを2点(有効)、3.0〜4.0倍となったものを3点(良好)、4.0倍以上となったものを4点(優れている)とした。
3.密着性
カッターナイフで処理後のテストパネルに碁盤目をいれ、碁盤目−テープ法(JIS K-5400)により皮膜の密着性を試験した。剥がれの認められないものを○、一部または全部が剥離したものを×とした。
【0039】
表1の実施例および比較例の試験結果に示すように、本発明の実施例では、全ての水準において密着性、耐食性に優れ、錆の発生もなく、効果が認められた。これに対し、比較例では耐食性や密着性が十分でなく、錆が発生して問題となる場合もあった。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法によれば水洗廃水を発生させることなく微細な金属材料表面に対しても耐食性、密着性に優れた皮膜を形成することが可能で、その適用範囲は、機械、自動車部品、建築材料、電気・電子機器部品など幅広い用途に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを含み、残部が主としてアルコール系溶剤からなることを特徴とする高比表面積金属用化成処理液。
【請求項2】
前記高比表面積金属は、鉄、亜鉛、およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含み、かつその比表面積が0.001m/g以上である請求項1に記載の高比表面積金属用化成処理液。
【請求項3】
前記処理液中に、さらにZn、Al、Fe、Zr、Ti、Sm、Nd、Ca、Mg、MnおよびCeの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する請求項1または2に記載の高比表面積金属用化成処理液。
【請求項4】
前記処理液中に、さらにアルコール可溶性樹脂を含有する請求項1〜3に記載の高比表面積金属用化成処理液。
【請求項5】
前記ポリフェノールが、タンニン、カテキン、またはフラボノイドから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4に記載の高比表面積金属用化成処理液。
【請求項6】
前記リン酸系化合物(A)、ポリフェノール(B)、アルコール可溶性樹脂(C)との質量比が、(B+C)/Aとして、1〜100の範囲である請求項1〜5に記載の高比表面積金属用化成処理液。
【請求項7】
前記アルコール系溶剤の沸点が60〜150℃である請求項1〜6に記載の高比表面積金属用化成処理液。
【請求項8】
鉄、亜鉛、およびアルミニウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含み、比表面積が0.001m/g以上である金属材料を、リン酸、ポリリン酸、有機ホスホン酸の中から選ばれる少なくとも1種のリン酸系化合物と、ポリフェノールとを含み、残部が主としてアルコール系溶剤からなる化成処理液と接触させることにより該金属表面に反応層を形成させたのち乾燥させることを特徴とする高比表面積金属の化成処理方法。
【請求項9】
前記処理液中に、さらにZn、Al、Fe、Zr、Ti、Sm、Nd、Ca、Mg、MnおよびCeの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する、請求項8に記載の高比表面積金属の化成処理方法。

【公開番号】特開2010−138466(P2010−138466A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317896(P2008−317896)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】