説明

高比重アラミド繊維

【課題】引張強度において格段の強さを持っており、釣糸が水の表面近傍に浮上することが無くなると共に、操作性が良い釣糸を提供することを目的とし、高比重、且つ、高強力繊維、および該繊維なる釣糸を提供することにある。
【解決手段】高強力の特徴を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維に、5.0以上の比重をもつ酸化鉄を1〜20重量%含有せしめることによって、高比重、且つ高強力の特徴を有する繊維、および該繊維なる釣糸を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャスティングが行いやすく、十分な強度があり、釣糸用に適する高比重芳香族ポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高強力、低伸度で耐磨耗性、耐屈曲性に優れている釣糸として、高強力ポリエチレン繊維を芯糸とし、これを合成繊維、例えばナイロン繊維で包み込むように製紐した釣糸が知られている(実公平4−40456号公報)。しかしながら、ポリエチレン樹脂自体の比重が他の合成樹脂のものより小さいため、水面付近に浮く傾向があるため、魚等が釣針に掛かった時の魚信が竿先や手元に伝わるのが遅れたり、釣針が水中で不自然な動きになって魚等に警戒心を起こさせたりするという課題があった。釣糸の比重を高める方法として特開平6−46726号公報、特開2002−335836号公報では金属線を芯部に用いることが提案されている。この方法である程度比重の調整はできるものの金属線は耐屈曲性が十分でなく、又加工工程が煩雑でコストアップになるという問題があった。
【0003】
【特許文献1】実公平4−40456号公報
【特許文献2】特開平6−46726号公報
【特許文献3】特開2002−335836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、釣糸が水の表面近傍に浮上することが無くなると共に、操作性が良い釣糸とすることができる、高比重且つ高強力繊維、および該繊維からなる釣糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
高強力の特徴を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維に、5.0以上の比重をもつ酸化鉄を1〜20重量%含有せしめることによって、高比重、且つ高強力の特徴を有する繊維、および該繊維からなる釣糸とすることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維は、5.0以上の比重をもつ酸化鉄を1〜20重量%含有せしめることによって、金属線等と組み合わせることなく、簡単に高比重、且つ高強力の特徴を有する繊維とすることができ、該繊維を用いることで、耐久性及び操作性が良い釣糸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の酸化鉄を1〜20重量%含有するパラ型芳香族ポリアミド繊維は、繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が下記の繰り返し単位からなる芳香族コポリアミドである。
【0008】
【化1】

(ここでAr1 、Ar2 は、下記の群から選ばれた同一のまたは相異なる芳香族残基である。但し、芳香族残基の水素原子はハロゲン原子または低級アルキル基で置換されていてもよい。)
【化2】

Xは下記残基から選ばれる。
【化3】

【0009】
かかるパラ型芳香族ポリアミドの製造方法については、例えば英国特許第1501948号公報、米国特許第3738964号公報、特開昭49−100522号公報等に記載されている。
【0010】
本発明で使用する酸化鉄の1次粒子径のサイズは50〜500nmである。パラ型芳香族ポリアミドのような異方性溶液の場合はドープ中でポリマーが液晶を形成して緻密な構造となるので酸化鉄の如き添加物を取り込むためにはサイズが小さいことが必要である。これに対し、等方性溶液ではドープ中のポリマー構造がルーズなので添加物の取り込みが容易であり、添加剤のサイズの問題は少ない。しかし以下の理由により、添加すべき酸化鉄の1次粒子径は50〜500nmとし、繊維中での凝集粒子径は500nmを越えないよう工夫する必要がある。
【0011】
酸化鉄の1次粒子径が50nm未満では表面エネルギーが高いため、凝集を起こしやすく、また、500nmを越える場合は繊維中で粗大凝集物として欠陥異物になり単糸切れによる毛羽や断糸の原因となり好ましくない。酸化鉄の添加濃度は1〜20重量%である。1重量%未満では添加により、目標とする比重を達成することができない。また、20重量%を越えると異物としての影響が増大して物性が低下する。
【0012】
繊維の単糸繊度は0.5〜50dtexである。0.5dtex未満の場合は添加粒子が糸欠陥として作用し製糸性が不安定となる。また繊維の比表面積が大きくなるので耐光劣化を受け易い。その結果、粒子の添加量を増加させることにつながり、なお一層異物として悪影響を及ぼし工程調子を乱し好ましくない。50dtexを越える場合は、製糸工程で比表面積が小さいので、凝固が不完全になりやすく、その結果紡糸や延伸工程で工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすいため好ましくない。強度は15g/dtex以上である。強度は高い程好ましいが、添加物の濃度を上げるにつれて強度は低下の傾向があり、15g/dtex未満では高強度繊維としてのアラミド繊維の特長が不足する。伸度は3.5%以上である。3.5%未満の場合は撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、強力利用率が低下する。初期20%モジュラスは450g/dtex以上である。450g/dtex未満の場合は高モジュラス繊維として好ましくない。本発明は、従来と同程度の繊維物性を維持しながら、高比重を有するアラミド繊維を提供する。
釣糸にする方法としては、モノフィラでそのまま用いるか、これを合成繊維、例えばナイロン繊維等と撚り合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
(1)繊度 強伸度 初期20%モジュラス
JIS L 1013法に準じて測定した。
(2)比重
柴田科学(株)社製精密密度勾配管用恒温槽を用い、密度勾配管法に準じて測定した。
【0014】
[実施例1]
コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド樹脂(帝人テクノプロダクツ製 テクノーラ)のN−メチル−2ピロリドン(NMPと略称)溶媒の94%溶液に、比重が5.2で、一次平均粒径が100nmの酸化鉄「100ED(戸田工業株式会社製)」を樹脂重量に対して5重量%含有するように添加し、湿式紡糸し、水洗後水和ゲル形成性無機化合物を付与後乾燥し、510℃での熱延伸を経て、繊維を得た。得られた繊維は、単糸繊度が1.5de、強度が21.1g/dtex、伸度が3.5%、20%モジュラスが623g/dtex、比重が1.57であった。
【0015】
得られた糸を90本撚り合わせて釣り糸を得た。釣糸の評価は、実際に磯釣りを行った。竿先と浮きの間の釣糸は、海水中に少し沈むので、風、波への対応は容易であった。浮き止めを使用しないで、釣り糸が自由に動ける状態で釣るスルスル釣りにおいても、風、波の影響を受ける度合いが小さく、浮きの操作が簡単で広範囲な棚が容易に探ることができた。
【0016】
[実施例2]
実施例1において、酸化鉄を樹脂重量に対して1.5重量%含有するように添加した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維は、単糸繊度が1.5de、強度が22.1g/dtex、伸度が3.7%、20%モジュラスが638g/dtex、比重が1.45であった。
【0017】
得られた糸を90本撚り合わせて釣り糸を得た。釣糸の評価は、実際に磯釣りを行った。竿先と浮きの間の釣糸は、海水中に少し沈むので、風、波への対応は容易であった。浮き止めを使用しないで、釣り糸が自由に動ける状態で釣るスルスル釣りにおいても、風、波の影響を受ける度合いが小さく、浮きの操作が簡単で広範囲な棚が容易に探ることができた。
【0018】
[比較例1]
実施例1において、酸化鉄を樹脂重量に対して0.5重量%含有するように添加した以外は実施例1と同様に実施した。得られた繊維は、単糸繊度が1.5de、強度が26.6g/dtex、伸度が4.0%、20%モジュラスが579g/dtex、比重が1.40であった。
【0019】
得られた糸を90本撚り合わせて釣り糸を得た。釣糸の評価は、実際に磯釣りを行った。竿先と浮きの間の釣糸は、風、波への対応は容易でなかった。浮き止めを使用しないで、釣り糸が自由に動ける状態で釣るスルスル釣りにおいても、風、波の影響を受ける度合いが大きく、浮きの操作が難しく広範囲な棚が容易に探ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の繊維は、高比重、且つ高強力の繊維とすることができ、該繊維を用いることで、耐久性及び適度な比重で操作性が良い釣糸を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5.0以上の比重で、一次粒子径が50〜500nmである酸化鉄を1〜20重量%含有してなる芳香族ポリアミド繊維であって、下記の要件を満足することを特徴とする高比重芳香族ポリアミド繊維。
a)単糸繊度:0.5〜50dtex
b)強度:15g/dtex以上
c)伸度:3.5%以上
d)初期20%モジュラス:450g/dtex以上
e)比重:1.42以上
【請求項2】
芳香族ポリアミドがパラ型芳香族ポリアミドである請求項1記載の高比重芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
5.0以上の比重で、一次粒子径が50〜500nmである酸化鉄を1〜20重量%含有し、下記の要件を満足する高比重芳香族ポリアミド繊維からなる釣り糸。
a)単糸繊度:0.5〜50dtex
b)強度:15g/dtex以上
c)伸度:3.5%以上
d)初期20%モジュラス:450g/dtex以上
e)比重:1.42以上
【請求項4】
芳香族ポリアミドがパラ型芳香族ポリアミドである請求項2記載の高比重芳香族ポリアミド繊維からなる釣り糸。

【公開番号】特開2008−274481(P2008−274481A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119004(P2007−119004)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】