説明

高水分アルファー化米麹及びその製造方法

【課題】蒸米設備を簡略し、発酵現場で要する時間及びエネルギーを減らしても、従来の米麹と同等の酵素の生産性を有して同品質の醸造物を得て、製品の多様化を低コストで図れる高水分アルファー化米麹及びその製造方法を提供する。
【解決手段】洗米した米に水を吸収させた後、水切りして蒸し、得られた蒸米を急冷した後、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、得られた高水分アルファー化米に麹菌を添加して、麹菌を生育させることで、蒸米を得るための洗米設備、浸漬タンク設備、水切り設備及び蒸気供給設備を全て発酵現場で用意をする必要が無く、廃液の浄化も必要なくなるから、製品の多様化を低コストで実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味噌、みりん、清酒などの醸造物に用いる麹菌を高水分アルファー化米に生育させてなる高水分アルファー化米麹及びその製造方法に関し、詳しくは、保存性の良い高水分アルファー化米に直接あるいは所定時間蒸してから麹菌を添加し、繁殖生育させてなる高水分アルファー化米麹及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米麹は、洗米した米を浸漬(吸水)させた後、水切りして蒸し、得られた蒸米に麹菌を添加し、麹菌を繁殖生育して得られるものである。我が国で一般的に使用されている麹菌は、Aspergillus 属に分類される麹菌であり、この麹菌は加熱処理してアルファー化した米でん粉を分解して糖類にすることが出来るが、生米のベータ状態の米でん粉を分解することができないものである。したがって、味噌、みりん、清酒などの醸造メーカーにとり、これらに適した米麹を製造する際、アルファー化したでん粉を含む蒸米を、如何に効率よく得ることができるかが重要となる。
【0003】
これら各醸造メーカーは、上記した蒸米を得るため、洗米設備、吸水のための浸漬タンク設備、水切り設備及び蒸すための蒸気供給設備を用意することになって、上記各設備を使用して以下の工程を踏んで蒸米を得ている。
すなわち、図1、2に示したフロー図における洗浄工程20において、意図する精米歩合にしてある原料米を洗う。次の浸漬(吸水)工程21において、洗浄後の原料米を3時間程度浸漬して吸水させ、さらに、脱水工程22にて水切りをする。次の蒸し工程23において、60分間ほど蒸気を送り蒸し、さらに、冷却工程24にて20℃程度の常温まで冷却し、そして、ほぐし工程25において、冷えて塊状になっている蒸米をほぐし粒状にすることで、アルファー化した米でん粉を含み、麹菌を生育し易い状態の蒸米を得る。その後の麹製造工程26において、上述の通り、粒状の蒸米に種麹を添加し、繁殖生育して米麹とする。
【0004】
その一方で、米麹を得るための蒸米としてではないが、貯蔵米の分野で米でん粉を部分的にアルファー化して、炊飯時間を短縮した、所謂早炊き米として、1.生米を浸漬し水切りしたあと、短時間蒸して米でん粉を部分的にアルファー化し、急速に冷却しさらに低温で熟成して水分値35重量%前後にするもの(特許文献1、2)、2.生米を浸漬し水切りしたあと、乾熱処理して米でん粉を部分的にアルファー化するもの(特許文献3)、および、3.生米を高温高圧処理して米でん粉を部分的にアルファー化するもの(特許文献4)、などが知られている。
【0005】
【特許文献1】特公平6−24474号公報
【特許文献2】特許第3271028号
【特許文献3】特公平6−69348号公報
【特許文献4】特開平3−155761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
各醸造メーカーは、上述の通り、米でん粉をアルファー化している蒸米を得るため、洗米設備、浸漬タンク設備、水切り設備及び蒸気供給設備を全て自前で用意をし、さらに、これらの設備から排出される廃水も浄化しなければならないので、大きな負担を抱え込むことになる。そこで、上記蒸米を得るための設備を全く必要とせず、あるいは単に蒸気を送るだけで、容易に蒸気のような蒸米を得ることが望まれる。
【0007】
しかしながら、炊飯時間を短縮して直ぐに食べることができる早炊き米は、上述の特許文献1ないし4に記載があるものの、これらの早炊き米をそのまま、あるいは単に蒸気を供給するだけで、米麹や発酵原料とするための蒸米を得る技術は存在しない。すなわち、早炊き米そのままあるいは早炊き米を蒸したものに麹菌を添加し、繁殖生育させた試み自体が無く、したがって、得られた米麹が、果たして、従来の方法にて得た米麹と同じような酵素の生産性を有し、それにより得られた醸造物の品質に差異があるかどうかも、不明である。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、米でん粉をアルファー化している蒸米を得るための設備を簡略することが出来、発酵現場で上記蒸米を得るために要する時間及びエネルギーを減らし、且つ従来の米麹と同等の酵素の生産性を有して、しかも同等の品質の醸造物を得ることができる高水分アルファー化米麹及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。
すなわち、請求項1記載の発明は、高水分アルファー化米に麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹である。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、高水分アルファー化米が、水分値が20重量%ないし44重量%である高水分アルファー化米麹である。
【0011】
アルファー化米は、通常その水分値が5重量%ないし50重量%の範囲内のものを言うが、その前に「高水分」と言う冠を付けた場合は、水分値が20重量%ないし44重量%の範囲内にあり、且つ少なくとも米のでん粉の一部がアルファー化しているものである。この水分値は、生米の水分値より高いこと、及びおいしいと言われるご飯の水分値より低いことが条件となる。生米の水分値は、新米あるいは古米により異なり、さらに種類や銘柄あるいは産地により微妙に異なるが、概ね14重量%ないし17重量%の範囲に入る。したがって、高水分アルファー化米の水分の下限値は20重量%である。
【0012】
一方、ご飯の水分値は、個人差があるものの、おいしいと言われるのは概ね55重量%ないし65重量%の範囲に入る。したがって、高水分アルファー化米の水分の上限値は44重量%である。なお、高水分アルファー化米のより好ましい水分値は、33重量%ないし42重量%の範囲である。
【0013】
前記高水分アルファー化米のアルファー化度は、特に限定がないが、加熱処理により米のでん粉は比較的容易にアルファー化するので、60%ないし100%の範囲内であることが望ましい。なお、このアルファー化度は、上記の加熱処理の温度条件及び加熱時間により規定され、最終的に得たいと思う味噌、みりん、清酒などの醸造物によって、その最適値が選択される。
【0014】
前記麹菌は、Aspergillus 属に分類されるものであり、最終的に得る醸造物、例えば、味噌、みりん、清酒の各々用を使用する。すなわち、上記した高水分アルファー化米に各々用の種麹菌を振りかけ、温度調整と切り返しとを巧みに行い、繁殖生育させて各々用の高水分アルファー化米麹とするものである。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、高水分アルファー化米が、水の存在下で、米を60℃ないし150℃の温度域で30分間以内の加熱処理を行ったのち、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、米のでん粉の再結晶化(老化)及び米の水分の均一化(熟成)を行ったものである高水分アルファー化米麹である。
【0016】
前記高水分アルファー化米は、上述のとおりのものでも良く、水の存在下、すなわち、米を重量換算で0.1倍ないし50倍の範囲の水の存在下で加熱処理を行うが、0.1倍に満たないと、水が少なすぎて加熱処理がうまく行かず、米のでん粉のアルファー化が不十分となり、50倍を越えると、水が多すぎて熱効率が極端に低下して、でん粉のアルファー化がうまくゆかない。したがって、好ましくは0.3倍ないし10倍の水の存在下であり、より好ましくは0.6倍ないし5倍の水の存在下である。
【0017】
また、米の加熱処理の温度は、60℃ないし150℃、好ましくは90℃ないし120℃の温度域であり、より好ましくは98℃ないし105℃の温度域である。
温度が60℃に満たないと、温度が低すぎて米のでん粉のアルファー化が不十分となり、150℃を超える温度では、エネルギーの消費に見合うでん粉のアルファー化度にならない。
【0018】
また、米の加熱処理の時間は、1分間ないし30分間の範囲、好ましくは3分間ないし20分間の範囲であり、より好ましくは8分間ないし15分間の範囲である。
加熱処理時間が1分間に満たないと、短すぎて米のでん粉のアルファー化が不十分となり、30分間を越えると、エネルギーの消費に見合うアルファー化度にならない。
【0019】
上記のような水分存在下の短時間の加熱処理は、従来の単なる水浸漬と比較すると、米の表層部での水分吸収量を増加させ、アルファー化温度付近での加熱により米のでん粉そのものが吸水する。また、加熱処理により、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼなどの多糖類に関与する内在酵素活性を高め、米の中心部への水分移行阻害物質のペクチン、セルロースを部分的に低分子化することにより、表層部から中心部への水分移行を容易にする。
【0020】
そして、水分存在下の短時間の加熱処理のあとの米は、0℃ないし10℃の低温下で12時間以上保持することにより、表層付着水が低分子化した上記ペクチンなどの水分移行阻害物質を通り中心部まで容易に移行することになり、その結果、従来例のような長時間の水浸漬と同等の均一した水分分布となる可能性がある。なお、理想的には24時間以上保持して、米の水分の均一化(熟成)を行うと共に、その上に米のでん粉の再結晶化(老化)をするのがよい。以上のようにして、高水分アルファー化米が得られる。
【0021】
上記米は、最初の加熱処理により、含有するでん粉の一部が加熱アルファー化でん粉及び再結晶化(老化)でん粉(なお、老化でん粉は一度加熱アルファー化している。)になっているから、その状態で一旦保管に回しても良い。そして、この加熱処理後の高水分アルファー化米を必要に応じて実際の米麹を作る現場に運び込み、その高水分アルファー化米そのまま、あるいは短時間蒸したものに、最終的に得たい醸造物の各々用の種麹菌を振りかけ、繁殖生育させて各々用の高水分アルファー化米麹としてもよい。すなわち、醸造物の各々の発酵現場で、米麹を得るための前提となる蒸米の製造設備を全て用意する必要がなく、最低限蒸気供給設備のみ用意すれば良いことになり、発酵と蒸米との分業が可能となる。
【0022】
また、請求項4の発明は、上記した高水分アルファー化米を所定時間蒸した後、その再蒸米に麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹である。
【0023】
すなわち、この高水分アルファー化米麹は、請求項2の発明の水分値が20重量%ないし44重量%である上記高水分アルファー化米、あるいは請求項3の発明における水の存在下で、米を60℃ないし150℃の温度域で30分間以内の加熱処理を行ったのち、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、米のでん粉の再結晶化(老化)及び米の水分の均一化(熟成)を行ったものである上記高水分アルファー化米を、さらに所定時間蒸して、それらの再蒸米に麹菌を振りかけ、繁殖生育したものである。これは、上記2つの高水分アルファー化米のでん粉のアルファー化度を、必要に応じてさらに上げて、麹菌を繁殖生育し易くし、より適切で優れた高水分アルファー化米麹を得るためのものである。
【0024】
また、請求項5の発明は、洗米した米に水を吸収させた後、水切りして蒸し、得られた蒸米を急冷した後、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、得られた高水分アルファー化米に麹菌を添加して、麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹の製造方法である。
【0025】
高水分アルファー化米麹の製造方法は、以下に示すとおりである。
まず、高水分アルファー化米とする原料米を、最終的に得たいと願う醸造物の精米歩合にし、洗米する。この洗米方法は、水洗や水を使用しない方法、例えば、蒸気を使用したり、精米機でぬかの部分まで精米する、などいずれの方法でもよい。因みに、精米歩合が90%以上であれば、米の表面のぬかの部分を通り越し、米表面を削り精米していることになるから、特に洗米しなくても良い。次に、洗米した原料米に吸水させる。この吸水方法も、常温の水でも50℃ないし60℃の湯あるいは生蒸気が任意に使用できる。常温の水では20分間ないし120分間の浸漬が必要となり、50℃ないし60℃の湯では10分間ないし60分間の浸漬が必要となって、更に、生蒸気では10分間未満とすることができる。
【0026】
所定の浸漬ないし蒸気吸水を終えた原料米を水切りして、蒸し器に投入し、
0.25kg/cm2 ないし1.5kg/cm2 の水蒸気で蒸す。この蒸し器で8分間ないし12分間ほど蒸し、少なくとも米澱粉の一部をアルファー化させる。なお、上記の0.25kg/cm2 ないし1.5kg/cm2 の水蒸気で8分間ないし12分間ほど蒸すと、米澱粉のアルファー化度は90ないし99%程度になり、その水分値は、35重量%±2重量%ないし42重量%±2重量%程度となる。従って、上述した高水分アルファー化米の定義における水分値は、20重量%ないし44重量%の範囲内であるから、水分値を20重量%ないし35重量%−2重量%未満の範囲にするには、得られた35重量%±2重量%ないし42重量%±2重量%のものを乾燥させる必要がある。
【0027】
蒸し器内で水蒸気で蒸し、場合により加水して所定の水分値及びアルファー化度となった蒸し米、あるいはその蒸米を乾燥して所定の水分値とした乾燥蒸米を、熱い状態のまま直ちに無菌状態のガスバリアー性の袋に入れ、袋を開いたまま真空冷却容器内に入れて真空冷却容器を密封し、減圧して急速に真空冷却する。この真空冷却容器内を−600mmHgほどの真空状態を10秒間ないし30秒間保持できるまで真空冷却を継続すると、蒸米あるいは乾燥蒸米はほぼ常温となるから、この真空冷却容器内に無菌エアーを送り大気圧とし、この真空冷却容器内で無菌エアーを入れた状態の袋の口をシールする。そして、真空冷却容器を開けて口をシールした袋入り蒸米あるいは乾燥蒸米を取り出し、常温にて12時間ないし48時間放置してアルファー化した米澱粉を均質化、換言すれば熟成させて、早炊き米、すなわち、前記高水分アルファー化米を得る。この状態の早炊き米である高水分アルファー化米は、塊状になっているから、袋の上から揉みほぐして単粒化すると、あたかも炊飯する前の通常の流通米のような状態になる。
【0028】
そして、上記の方法にて得られた高水分アルファー化米の水分値は、上記のとおり20重量%〜44重量%の範囲であるが、好ましくは35重量%±2重量%〜42重量%±2重量%の範囲である。その理由はすでに述べたように0.25kg/cm2 ないし1.5kg/cm2 蒸気で8分間ないし12分間ほど蒸すと、アルファー化度は90ないし99%程度になり、その水分値は、35重量%±2重量%ないし42重量%±2重量%程度となり、この蒸し米から35重量%±2重量%未満の20重量%とするには別途乾燥機により乾燥させなければならないからである。
【0029】
以上のようにして得られた高水分アルファー化米には、既述のように、Aspergillus 属に分類される、最終的に得る醸造物の各々用の麹菌が振りかけられ、温度調整と切り返しとが巧みに行われ、約40時間ほど繁殖生育させれば、各々用の高水分アルファー化米麹が得られるものである。
【0030】
また、請求項6の発明は、洗米した米に水を吸収させた後、水切りして蒸し、得られた蒸米を急冷した後、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、得られた高水分アルファー化米を所定時間蒸した後、その再蒸米に麹菌を添加して、麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹の製造方法である。
【0031】
この高水分アルファー化米麹の製造方法は、上記の製造方法にて得た高水分アルファー化米をさらに所定時間、例えば8分間ないし20分間ほど蒸して、米のでん粉のアルファー化度をさらに上げたものである。
【0032】
上記の再蒸米処理は、最初の加熱処理により、米に含有しているでん粉の一部がアルファー化しているが、そのまま麹菌を繁殖生育させるにはでん粉のアルファー化度が低く、麹菌が十分に有効に働くことができないような場合に、でん粉のアルファー化度を充分に高めるためにおこなうものである。すなわち、この再蒸米処理は、最初の加熱処理に加えて、米のでん粉をほぼ完全にアルファー化するためのものである。米は、最初の加熱処理により水分分布が均一になっており、水分移行並びにでん粉膨張アルファー化を阻害する細胞壁構成成分のペクチン、セルロースが低分子化していることにより、熱移動及びでん粉のアルファー化が迅速となって、従来のものと比較して、短時間の再蒸米処理により容易にでん粉のアルファー化度を完全な状態にまで高めることが可能となっている。
【発明の効果】
【0033】
請求項1の発明は、従来方法による蒸米に代えて、米のでん粉をアルファー化している高水分のアルファー化米に麹菌を単に繁殖生育させたものでるから、どこの場所で高水分アルファー化米を製造しても良く、発酵現場で製造する必然性が無くなり、従来の蒸米を得るための設備を簡略することが出来、発酵現場で蒸米を得るために要する時間及びエネルギーを減らすことが出来る効果があり、且つ、この高水分アルファー化米麹は、従来の米麹と同等の酵素の生産性を有しているから、同等の品質の醸造物を得ることができる効果がある。
【0034】
また、請求項2の発明は、従来方法による蒸米に代えて、米でん粉をアルファー化している、水分値が20重量%ないし44重量%である高水分アルファー化米に、麹菌を単に繁殖生育させても、上記と同様の効果を得ることが出来る。
【0035】
また、請求項3の発明は、従来方法による蒸米に代えて、水の存在下で、米を60℃ないし150℃の温度域で30分間以内の加熱処理を行ったのち、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、米のでん粉の再結晶化(老化)及び米の水分の均一化(熟成)を行った高水分アルファー化米に、麹菌を単に繁殖生育させても、上記と同様の効果を得ることが出来る。
【0036】
そして、請求項4の発明は、上記した高水分アルファー化米をさらに蒸して、再蒸米に麹菌を単に繁殖生育させても、上記と同様の効果を得ることが出来る。
【0037】
また、請求項5の発明方法により、上記した高水分アルファー化米を得ることが出来、これにより得られた高水分アルファー化米は、外観上「生米」に近く、これに麹菌を単に繁殖生育させても、上記と同様の効果を得ることが出来る。
【0038】
また、請求項6の発明は、請求項5の発明方法により得た高水分アルファー化米をさらに蒸して、再蒸米に麹菌を繁殖生育させても、上記と同様の効果を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の実施形態を示す高水分アルファー化米麹の製造方法のフロー図である。このフロー図は、生米から高水分アルファー化米麹を製造する工程を示すものであり、精米工程1において原料米を充分に精米して、例えば精米歩合を90%の精白米として、洗浄工程2に進み精白米を洗浄して浸漬(吸水)工程3に進む。浸漬工程3において洗浄後の精白米を90分間ほど浸漬して脱水工程4に進み水切りして蒸し工程5に進む。蒸し工程5において、10分間ほど蒸気を送り蒸して冷却工程6に進み、急速に冷却して5°Cほどで半日以上保持してほぐし工程7に進む。ほぐし工程7において、塊状になっている蒸米、すなわち、高水分アルファー化米をほぐし粒状にして梱包工程8に進み、ここで粒状の高水分アルファー化米を梱包する。
【0040】
この梱包した粒状の高水分アルファー化米を発酵現場に運搬持ち込み、開梱工程9において開梱して再蒸し工程10に進む。再蒸し工程10において、再び10分間ほど蒸気を送り2度蒸して再冷却工程11に進み、麹菌生育に適する温度まで冷却して再ほぐし工程12に進む。再ほぐし工程12において再蒸し高水分アルファー化米をほぐし、麹製造工程13に進み再蒸し高水分アルファー化米に種麹を添加して温度管理を充分にし、必要に応じて切り返して、約40時間ほど繁殖生育すれば、高水分アルファー化米麹を得ることが出来る。
【0041】
あるいは、再蒸し工程10、再冷却工程11及び再ほぐし工程12を省略して、開梱工程9で開梱した高水分アルファー化米に種麹を添加して温度管理を充分にし、必要に応じて切り返して、約40時間ほど繁殖生育し、高水分アルファー化米麹を得ても良い。
以下に、各実施例により、味噌、みりん及び清酒の各用の高水分アルファー化米麹による酵素生産性、ならびに各用の高水分アルファー化米麹から生産された味噌、みりん及び清酒の品質を精査する。
【実施例1】
【0042】
味噌用の高水分アルファー化米の原料として、一般米「キヌヒカリ」を用い、精米歩合90%、常温の水に90分間浸漬し、100℃の蒸気で10分間蒸した後、直ちに常温まで冷却して、脱酸素剤と共に包装して5℃の冷蔵庫に入れ5日間保存する。この後開封し高水分アルファー化米を取り出して、100℃の蒸気で10分間蒸し、この高水分アルファー化米に味噌用の種麹を生米1kgに対して1gの比率で添加し、温度管理を充分にし必要に応じて切り返して、約40時間ほど繁殖生育して、高水分アルファー化米麹を得る。この味噌用の10分間蒸しの高水分アルファー化米麹につき、そのプロテアーゼ及びアミラーゼの酵素活性を財団法人日本醤油研究所のしょうゆ試験法286−294(1985年)に従い測定した。
さらに、蒸煮大豆200g、10分間蒸しの高水分アルファー化米麹200g、食塩49.3gの仕込み配合で、30℃で5ヶ月間発酵熟成させて味噌を得た。この味噌につき、タンパク質、脂質、灰分、水分、炭水化物を五訂日本食品標準成分表分析マニュアルの解説(2001年)に従い測定した。
【実施例2】
【0043】
高水分アルファー化米を100℃の蒸気で20分間蒸すこと以外、実施例1と同様にして高水分アルファー化米麹を得て、そのプロテアーゼ及びアミラーゼの酵素活性を、実施例1と同様の方法で測定した。さらに、この20分間蒸しの高水分アルファー化米麹を用いて、実施例1と同様にして味噌を得て、そのタンパク質、脂質、灰分、水分、炭水化物を、実施例1と同様の方法で測定した。
【実施例3】
【0044】
高水分アルファー化米を蒸すこと無くそのままで、実施例1と同様にして高水分アルファー化米麹を得て、そのプロテアーゼ及びアミラーゼの酵素活性を、実施例1と同様の方法で測定した。さらに、この蒸無しの高水分アルファー化米麹を用いて、実施例1と同様にして味噌を得て、そのタンパク質、脂質、灰分、水分、炭水化物を、実施例1と同様の方法で測定した。
[比較例1]
【0045】
一般米「キヌヒカリ」を用い、精米歩合90%、常温の水に180分間浸漬し、100℃の蒸気で60分間蒸した後、麹菌生育に適する温度まで冷まし、この蒸米に味噌用の種麹を生米1kgに対して1gの比率で添加し、温度管理を充分にし必要に応じて切り返して約40時間ほど繁殖生育して、通常の米麹を得る。この通常の米麹のプロテアーゼ及びアミラーゼの酵素活性を、実施例1と同様の方法で測定した。
さらに、この通常の米麹を用いて、実施例1と同様にして味噌を得て、そのタンパク質、脂質、灰分、水分、炭水化物を、実施例1と同様の方法で測定した。
以上の結果を表1及び表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1によれば、実施例1ないし3と比較例1との間には、プロテアーゼ及びアミラーゼの酵素生産性に差が認められず、さらに、表2によれば、得られた味噌の成分についても、差が認められなかった。よって、高水分アルファー化米麹を利用して味噌を生産しても何ら差し支えないことが判明した。
【実施例4】
【0049】
みりん用の高水分アルファー化米は、味噌の場合と同様にして得る。その高水分アルファー化米を、100℃の蒸気で10分間蒸し、この高水分アルファー化米にみりん用の種麹を生米1kgに対して1gの比率で添加し、温度管理を充分にし必要に応じて切り返して約40時間ほど繁殖生育して、高水分アルファー化米麹を得る。このみりん用の10分間蒸しの高水分アルファー化米麹につき、そのプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性を、日本醸造協会の第4回改正 国税庁所定分析法注解229−231(1990年)に従い測定した。
さらに、表3の仕込配合で、30℃で1ヶ月間糖化熟成させてみりんを得た。このみりんにつき、酸度、アミノ酸度、ボーメ、エキス分は、日本醸造協会の第4回改正 国税庁所定分析法注解229−231(1990年)に従い測定した。アルコール濃度は理研計器株式会社製の商品名アルコメイトにて測定した。
【0050】
【表3】

【実施例5】
【0051】
高水分アルファー化米を、100℃の蒸気で20分間蒸すこと以外、実施例4と同様にして高水分アルファー化米麹を得て、そのプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性も実施例4と同様の方法で測定した。さらに、この20分間蒸しの高水分アルファー化米麹を用いて、実施例4と同様にしてみりんを得て、その酸度、アミノ酸度、ボーメ、アルコール濃度及びエキス分を、実施例4と同様の方法で測定した。
【実施例6】
【0052】
高水分アルファー化米を蒸すこと無くそのままで、実施例4と同様にして高水分アルファー化米麹を得て、そのプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性も実施例4と同様の方法で測定した。さらに、この無蒸しの高水分アルファー化米麹を用いて、実施例4と同様にしてみりんを得て、その酸度、アミノ酸度、ボーメ、アルコール濃度及びエキス分を、実施例4と同様の方法で測定した。
[比較例2]
【0053】
一般米「キヌヒカリ」を用い、精米歩合90%、常温の水に180分間浸漬し、100℃の蒸気で60分間蒸した後、麹菌生育に適する温度まで冷まし、この蒸米にみりん用の種麹を生米1kgに対して1gの比率で添加し、温度管理を充分にし必要に応じて切り返して約40時間ほど繁殖生育して、通常の米麹を得る。この通常の米麹のプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性を、実施例4と同様の方法で測定した。さらに、この通常の米麹を用いて、実施例4と同様にしてみりんを得て、その酸度、アミノ酸度、ボーメ、アルコール濃度及びエキス分を、実施例4と同様の方法で測定した。
以上の結果を表4及び表5に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
表4によれば、実施例4ないし6と比較例2との間には、プロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素生産性に差が認められず、さ
らに、表5によれば、得られたみりんの成分についても、差が認められなかった。よって、高水分アルファー化米麹を利用してみりんを生産しても何ら差し支えないことが判明した。
【実施例7】
【0057】
清酒用の高水分アルファー化米の原料として、一般米「あさひの夢」を用い、精米歩合70%、常温の水に60分間浸漬し、100℃の蒸気で10分間蒸した後、直ちに常温まで冷却して、脱酸素剤と共に包装して5℃の冷蔵庫に入れ5日間保存する。この後開封し高水分アルファー化米を取り出して、100℃の蒸気で10分間蒸し、この高水分アルファー化米に清酒用の種麹を生米1kgに対して1gの比率で添加し、温度管理を充分にし必要に応じて切り返して、約40時間ほど繁殖生育して、高水分アルファー化米麹を得る。この清酒用の10分間蒸しの高水分アルファー化米麹につき、そのプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性を、実施例4のみりんの場合と同様の方法で測定した。
さらに、表6の仕込配合で、最大で28日間発酵させて清酒を得た。この清酒につき、その固形分、ボーメ、アルコール濃度、酸度、アミノ酸度は、実施例4のみりんの場合と同様の方法で測定した。
【0058】
【表6】

[比較例3]
【0059】
一般米「あさひの夢」を用い、精米歩合70%、常温の水に180分間浸漬し、100℃の蒸気で60分間蒸した後、麹菌生育に適する温度まで冷まし、この蒸米に清酒用の種麹を生米1kgに対して1gの比率で添加し、温度管理を充分にし必要に応じて切り返して約40時間ほど繁殖生育して、通常の米麹を得る。この通常の米麹のプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性を、実施例4のみりんの場合と同様の方法で測定した。
さらに、この通常の米麹を用いて、実施例7と同様にして清酒を得て、その固形分、ボーメ、アルコール濃度、酸度、アミノ酸度は、実施例4のみりんの場合と同様の方法で測定した。
以上の結果を表7及び表8に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
表7によれば、実施例7と比較例3との間には、プロテアーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素生産性に差が認められず、さらに、表
8によれば、得られた清酒の成分についても、差が認められなかった。よって、高水分アルファー化米麹を利用して清酒を生産しても何ら差し支えないことが判明した。
【0063】
以上、本発明の実施例1ないし7を説明したが、具体的な構成はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更・追加、各請求項における他の組み合わせにかかるものも、適宜可能であることが理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の高水分アルファー化米麹及びその製造方法は、米でん粉をアルファー化している蒸米を得るための設備を簡略し、発酵現場で上記蒸米を得るために要する時間及びエネルギーを減らし、且つ従来の米麹と同等の酵素の生産性を有し、その上同等の品質の醸造物を得ることができて、少量多品種生産をして製品の多様化を図りたい場合に、その利用可能性が極めて高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態を示す高水分アルファー化米麹の製造方法のフロー図である。
【図2】従来例の米麹の製造方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0066】
1 精米工程
2 洗浄工程
3,21 浸漬(吸水)工程
4,22 脱水工程
5,23 蒸し工程
6,24 冷却工程
7,25 ほぐし工程
8 梱包工程
9 開梱工程
10 再蒸し工程
11 再冷却工程
12 再ほぐし工程
13,26 麹製造工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高水分アルファー化米に麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹。
【請求項2】
前記高水分アルファー化米は、水分値が20重量%ないし44重量%である請求項1記載の高水分アルファー化米麹。
【請求項3】
前記高水分アルファー化米は、水の存在下で、米を60℃ないし150℃の温度域で30分間以内の加熱処理を行ったのち、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、米のでん粉の再結晶化(老化)及び米の水分の均一化(熟成)を行ったものである請求項1記載の高水分アルファー化米麹。
【請求項4】
請求項2または3記載の高水分アルファー化米を所定時間蒸した後、その再び蒸した高水分アルファー化米に麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹。
【請求項5】
洗米した米に水を吸収させた後、水切りして蒸し、得られた蒸米を急冷した後、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、得られた高水分アルファー化米に麹菌を添加して、麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹の製造方法。
【請求項6】
洗米した米に水を吸収させた後、水切りして蒸し、得られた蒸米を急冷した後、0℃ないし10℃の低温で少なくとも12時間以上保持し、得られた高水分アルファー化米を所定時間蒸した後、その再蒸米に麹菌を添加して、麹菌を生育させてなることを特徴とする高水分アルファー化米麹の製造方法。



【図1】
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【図2】
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