説明

高洗浄性ガラス成形品

【課題】 ガラス本体そのものが安定した高洗浄性を有する高洗浄性ガラス成形品を開発する。
【解決手段】
ガラス成形品のガラス組成を、SiOを63〜75wt%、Alを7.9〜16wt%、NaOを14.6〜17.5wt%、Bを8〜13wt%含有するものとし、ガラスの密度を2.46g/cm以下、NaO/Alのモル比を2〜4、NaO/SiOのモル比を0.21〜0.3、SiO+NaO+Alの合計を83〜93wt%、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重を200g重以上とすることで、ガラス本体そのものが安定した高洗浄性を有する高洗浄性ガラス成形品を得ることができる。さらに耐水性、耐アルカリ性にも優れ、低脆性で強度低下しにくいものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に安定した高い親水性が維持されることにより、防汚性、防曇性にも優れた高洗浄性ガラス成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
製造直後の清浄なソーダ石灰ガラス表面はシラノール基(Si−OH)に水が水素結合するため親水性が高い(水の接触角5°〜10°)が、空気中又は水中の有機物も吸着しやすいので、付着した有機物などの影響により、また、ガラスの風化・洗浄などにより、時間の経過と共に親水性が低下していくことが知られている。
【0003】
時間が経過しても、安定して親水性を維持できれば、防汚性、高洗浄性又は防曇性を保つことができる。このために、ガラス表面に親水処理膜を形成する技術が提案されている。例えばTiOの光触媒性を利用して、ガラス表面が常に高い親水性を示す皮膜(特許文献1)や、空気中では撥水性を示しながら、水中では親水性になり油洗浄性を示す有機無機ハイブリット膜(特許文献2)等がある。また、ガラス基板上にSiO膜を形成した後、水処理によって親水基であるシラノール基(Si−OH)を表面に多量に形成させる技術がある(特許文献3)。これは、膜中にSi成分に対してAl成分を0.1〜20重量%ドープすると、シラノール基の水との結合が安定化して、ほかの有機物との結合に優先するというものであるが、その機構は明らかでない。
【特許文献1】特開2001−70801号公報
【特許文献2】特開2002−12450号公報
【特許文献3】特開2003−160360号公報
【0004】
ガラス容器、置物、板ガラスなどのガラス成形品に使用される一般的なソーダ石灰ガラスの組成はSiO:70〜73wt%、CaO+MgO:11〜13wt%、NaO+KO:12〜16.1wt%、Al:1〜2wt%である。Alは耐水性、耐酸性、耐アルカリ性(化学的耐久性)を改善することで知られているが、多く配合すると失透を生じやすくなり、ガラスを高い温度で溶融しなければならなくなるので、特に化学的耐久性を要求される特殊なガラス以外は2wt%以下に抑えられている。また、ガラス組成中におけるAlの量とガラス表面の親水性との関係は全く知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術は、ガラス基体表面に被膜形成の為のコーティング加工処理が必要となり、製造工程が多く、製造コストが高くなる。また上記の従来技術の被膜形成においても水中における油滴の洗浄性と耐久性は十分とは言えないものであった。特にTiO膜は、空気中では強い親水性を示すものの、水中においては親水機能が発揮されず、油滴は基板にへばりつき、油脂類の洗浄性がきわめて悪いことを本発明者らは発見した。
【0006】
本発明は、従来の一般的な組成のガラスの欠点と、皮膜形成法の欠点とを改善する目的で、ガラス本体そのものが安定した高洗浄性を有する(初期の洗浄性も高く、時間経過に伴う洗浄性の低下も少ない)高洗浄性ガラスを開発することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(構成1)本発明は、SiOを63〜75wt%、Alを7.9〜16wt%、NaOを14.6〜17.5wt%、Bを8〜13wt%含有し、ガラスの密度が2.46g/cm以下であって、NaO/Alのモル比が2〜4、NaO/SiOのモル比が0.21〜0.3であり、かつ、SiO+NaO+Alの合計が83〜93wt%であり、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重が200g重以上であるガラスからなることを特徴とする高洗浄性ガラス成形品である。
【0008】
従来のガラス食器や板ガラス等として使用される一般組成のソーダ石灰ガラスにはSi−O−Si架橋酸素も表面に存在するが、この酸素にはあまり親水性がないことが知られる。実際にSi−O−Si架橋酸素のみから構成される石英ガラスの水中油滴接触角は90°程度であって大きくない。そこで本発明者らは、先ず、NaO−Al−SiO3成分ガラスにおけるAl−O−Si架橋酸素に注目して3成分ガラス組成と水中油滴接触角の関係を検討した。
【0009】
この系のガラスはAlが網目形成イオンとして酸素とAlO4面体を形成するときに、電荷補償サイトにナトリウムが存在するため、架橋酸素にナトリウムを配位することで知られる。この3成分ガラスのNaO/Alモル比が1以上においては架橋酸素に配位するナトリウムと非架橋酸素に配位する2種類のアルカリサイトがあるが、モル比を1に近づけると非架橋酸素が減少、1においては架橋酸素のみ存在するため、ガラス構造や物性研究の対象とされてきたが、親水性との関係については全く知られていない。本発明者は下記の参考例に示すごとく、意外にもNaO/Alモル比=2〜4かつSiOが63〜75wt%の場合に水中油滴接触角が安定して大きいことを発見した。
【0010】
(3成分ガラスの例)
25NaO−25Al−50SiO組成ではNaO/Alモル比=1のため、理論上非架橋酸素が存在しないが、500回湯洗後の水中油滴接触角は132°であった。これは、Al−O−Si架橋酸素に起因する親水基だけでは、安定しているが親水性はあまり高くないことを意味する。また、ガラス構造があまり開放的でないことが、ナトリウムイオンの室温度域での表面への拡散を制限するため、表面電位に起因して親水性に影響したとも考えられる。また、25NaO−XAl−(75−X)SiO組成ではNaO/Alモル比=9において、500回湯洗後の水中油滴接触角は100°であった。これは、非架橋酸素を増やして表面にシラノール基単体が多く生じても安定した高い親水性が得られないことを意味する。また、ガラス構造が開放的であって、洗浄を繰り返すとナトリウムイオンが表面から溶出して、表層では内部に比べてナトリウムが少なくなり、表面電位に起因して安定した高い親水性を維持できないとも考えられる。これに比較して、同組成ではNaO/Alモル比=2〜4において、500回湯洗後の水中油滴接触角は150°であった。
【0011】
これらの結果から、本発明者は、NaO/Alモル比=2〜4の場合には、Al−O−Si架橋酸素に起因する親水基近傍に非架橋酸素に起因するシラノール基(Si−OH)が複数または単数混在することになり、これらによって形成されるAl−O−Si近傍の表面構造が安定した高い親水性に寄与するとの重要で新規の知見を得た。NaO/Alモル比=2〜4の場合であって、かつSiOが63〜75wt%の場合はAlO4面体に隣接する複数のSiO4面体には非架橋酸素が必ず存在することからこの新知見が得られたのである。また、安定した高い親水性の維持が表面電位に起因するとすれば、ガラス構造が適度に開放的であるため必要なナトリウムの表面への拡散性が確保され、かつ溶出の少ない組成域があるとの新知見も得られた。
【0012】
3成分系ガラスで得られた知見を実用ソーダ石灰ガラスにおいて確認・応用するため、NaO/SiOモル比=O.4の固定条件下、NaO/Alモル比=3〜11の5種類のガラス(NO.1〜5)について、500回湯洗浄を繰り返した場合の水中油滴接触角を測定した。その結果、NaO/Alモル比が小さい程、水中油滴接触角が大きいことが分かった。(表1及び図1)
【0013】
【表1】

【0014】
次に、NaO/Alモル比=11と同モル比=3の固定条件下、NaO/SiOモル比=0.2〜0.6の各5種類(NO.2-1 〜 NO.2-10)のガラスについて、500回湯洗浄を繰り返した場合の水中油滴接触角を測定した(表2・図2)。
【0015】
【表2】

【0016】
その結果、NaO/Alモル比=3は同モル比=11に比較して、水中油滴接触角が高く、NaOが少なくても、NaO/SiOモル比=0.2においては、水中油滴接触角が150°を超えた。
【0017】
次に、上記のNO.2−6、ソーダ石灰1、ソーダ石灰2、ホウ珪酸塩、石英、無アルカリの各ガラス(組成を表3に示す)について、洗浄回数と水中油滴接触角の関係を調べた。その結果を図3に示す。「ソーダ石灰1」及び「ソーダ石灰2」は通常の一般的な組成のソーダ石灰ガラス、「ホウ珪酸塩」は通常の一般的な組成のホウ珪酸塩ガラス、「石英」はSiOのみからなる石英ガラス、「無アルカリ」は通常の一般的な組成の無アルカリガラスである。図3から明らかなように、参考例のNO.2−6は他のガラスに比べて格段の安定した高洗浄性を有している。
【0018】
【表3】

【0019】
本発明者らは、以上のような知見からさらに研究を進め、前記構成1の組成のガラスは、それ自体で高い親水性を安定して維持でき(製造当初はもちろん、繰り返し洗浄後も高い親水性を有する)、したがって高洗浄性も安定して維持できることを発見した。したがって、このガラスで製造したガラス成形品は高洗浄性を安定して維持できる。
【0020】
本発明において、ガラス成形品とは、ガラス食器、包装用ガラスびん、ジューサー・ミキサー・フードプロセッサー・ミルなどの家庭用品などのガラス容器、灰皿、花瓶その他のガラス製の装飾用置物、建築用、車両用、カバーガラスなどの板ガラス、基板用ガラス、鏡用ガラス、曲げ板ガラスなどの板ガラス加工品、水道用・電気用などのメータのカバーとして使用されるメータカバー、蛍光灯、電球その他の照明用ガラス、及びガラスブロック、タイルなどの建材用ガラス成形品である。
【0021】
SiOの含有量は63〜75wt%が適当である。SiOが少なすぎると化学的耐久性が悪くなり、多すぎると溶融性が悪化するばかりでなく、この範囲を逸脱すると安定した高洗浄性が得られない。
【0022】
Alの含有量は7.9〜16wt%が適当で、好ましくは2≦NaO/Alモル比≦4の範囲が適当である。Alが少なすぎると化学的耐久性が悪化し、多すぎると溶融性が悪化するばかりでなく、この範囲を逸脱すると安定した高洗浄性が得られない。
【0023】
NaOの含有量は14.6〜17.5wt%が適当で、好ましくは0.21≦NaO/SiOモル比≦0.3の範囲が適当である。NaOが少なすぎると溶融性と洗浄性が悪化し、多すぎると化学的耐久性が悪化すると共に風化しやすくなる。この範囲を逸脱すると安定した高洗浄性が得られない。
【0024】
は溶融性と耐風化性を改善するために含有することが好ましい。また、Bは網目形成酸化物であるが、軟化点以上の温度では網目を切断して融剤として働くため、溶融性を改善し、温度が下がるとAl同様に4配位の網目を形成するので、水中油滴接触角を高く維持するためにも有効である。8〜13wt%の範囲での含有が好ましく、13wt%を超えると揮発損失があり、また炉材へのダメージが大きく実用上問題がある。
【0025】
上記組成のガラスとすることで、安定した高洗浄性を得ることができると共に、Bを8〜13wt%とすることで、ガラスの密度を2.46g/cm以下とし、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重を200g重以上とすることが可能である。ガラスの密度を2.46g/cm以下とすることで、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重が200g重以上になる。ガラスの密度は、例えばAlやBの含有量を増減することで容易に調整することができる。すなわち、Alの含有量を増加すると密度が大きくなり、Bの含有量を増加すると密度が小さくなる。
【0026】
(構成2)また本発明は、前記構成1記載の高洗浄性ガラス成形品において、ガラス表面の500回洗浄後の水中油滴接触角が140°以上であることを特徴とする高洗浄性ガラス成形品である。
【0027】
高洗浄性の定量的評価は、油性汚れが洗浄液中で基材から脱離する機構(ローリングアップ)について洗浄技術分野で常用される水中撥油性指標である水中油滴接触角の測定によった。この評価方法はガラス基板上の有機無機ハイブリッド膜の洗浄性評価に使用されている(特開2002−12450)。
【0028】
水中油滴接触角(水中油滴のガラス表面上の接触角):θ
油滴と水の界面張力:γow
ガラス表面と水の界面張力:γgw
ガラス表面と油滴の界面張力:γgo
とすると、cosθ=(γgw − γgo)/γow が成立することが知られている。親水性のガラス表面ほどガラス表面と水の界面張力γgwが減少するから、θの値が増加して油滴がガラス表面から脱離しやすい。また、親油性のガラス表面ほど逆の効果になるが、親油性のガラス組成依存は小さい。従って、油滴をガラス表面に載せ、水中に沈めて室温におけるガラスの水中油滴接触角の測定を行えば、ガラス表面の親水性の安定性、洗浄性を同時に評価できる。
【0029】
本発明の水中油滴接触角とは、ガラス表面(ガラス溶融して流し出し成形時に空気と接する自由表面)に大豆油25μlの油滴をマイクロピペットで滴下後、20℃水中に水平のまま入れ、ビデオ撮影し、30秒放置後の画像を印刷した後、hr法にて測定したものである。30秒後の測定としたのは、油滴が水中で安定するからである。
大豆油(林ケミカル製試薬)は台所用洗剤の洗浄力試験方法(JIS K−3370)のモデル汚れにも採用されており、その主成分はリノール酸とオレイン酸である。
【0030】
本発明において、500回洗浄後の水中油滴接触角とは、ガラス表面に対して70℃の湯で60秒間湯洗浄を行った後、80℃の湯で15秒間湯ススギを行うことを500回繰り返した後に測定した水中油滴接触角を意味する。洗浄は1タンク(70L)ドアタイプ・上下圧力噴霧回転ノズル方式業務用食器洗浄機(IHI製JWD−6型、給湯消費量6.5L/回、洗浄水圧1〜1.75kg/cm)にて行った。
【0031】
本発明において、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重とは、図4(A)に示すにように、研磨したガラス試料(1)表面にマイクロビッカーズ硬度試験機の圧子(2)を同一試料に対して、負荷時間15秒、25g〜2000gの任意の荷重で10回ずつ打ち込み、除荷後30秒後に発生したクラックの本数の平均値を求め、例えば図4(B)に示すように、圧痕(3)の4つの角のいずれか2つの角からクラック(4)が発生したときの荷重Wをいう。測定はAkashi製マイクロビッカーズ硬度計を用いて、大気中20℃で行った。
【0032】
マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重はガラスの脆性(脆さ)の指標となる。すなわち、初発荷重が大きいほど低脆性となる。ガラス成形品を構成するガラスの初発荷重は200g重以上が望ましく、さらに好ましくは450g重以上である。低脆性とすることで、ガラスの強度低下の主原因である表面のマイクロクラックの発生を減少させ、強度低下を防ぐことができる。
【0033】
前記構成1又は2のガラス組成で、ガラスの密度を2.46g/cm以下とすることで、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重が200g重以上になる。ガラスの密度は、例えばAl、BやMgOの含有量を増減することで容易に調整することができる。すなわち、Alの含有量を増加すると密度が大きくなり、B又はMgOの含有量を増加すると密度が小さくなる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のガラス成形品は、ガラス自体が、その製造当初はもちろん、繰り返し多数回洗浄を行った後でも、水中での撥油性を高い状態で維持できる、優れた、安定した高洗浄性を有するので、コーティング加工処理が不要であり、通常のソーダ石灰ガラスと同じ製造工程で製造でき、製造コストが高くならない。このような安定した高洗浄性とともに、高い耐水性、耐アルカリ性を示す効果がある。さらに、安定した高洗浄性とともに、低脆性を示す効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】NaO/Alモル比と水中油滴接触角の関係を示す説明図である。
【図2】NaO/SiOモル比と水中油滴接触角の関係を示す説明図である。
【図3】ガラスの種類と水中油滴接触角の説明図である。
【図4】マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重の説明図である。
【図5】実施例、参考例2及び比較例1のアルカリ浸食重量減少率の説明図である。
【図6】クラック初発荷重と密度の関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明におけるガラスは、NaO/Alのモル比が2〜4、NaO/SiOのモル比が0.21〜0.3であり、かつ、SiO+NaO+Alの合計が83〜93wt%であることが望ましい。各成分のモル比をこのように設定することで、さらに安定した高洗浄性を取得することができる。NaO/Alのモル比が小さすぎるとNaOが少ないために溶融性が悪化し、大きすぎるとAlが少ないために洗浄性が低下し、ガラスの耐水性も低下する。
【0037】
本発明におけるガラスは、TiOを0〜9wt%含有させることができる。TiOを添加することで溶融性が改善するが、9wt%を超えると洗浄性が低下し、好ましくない。
【0038】
本発明におけるガラスは、ガラス表面の500回洗浄後の水中油滴接触角を140°以上とすることが容易にできる。例えば、前記構成1に記載したうちの所望の組成でテストガラスを作製し、500回洗浄後の水中油滴接触角を測定し、万一140°に満たない場合には、Al又はBをやや増量するか、NaOをやや減量するなどの調整を行うことで、容易に500回洗浄後の水中油滴接触角を140°以上とすることができる。
【0039】
初期水中油滴接触角が160°以上の場合には、30秒以内に油滴はガラス表面から自然脱離(ローリングアップ)することが観察される。30秒後の水中油滴接触角が140°以上、160°未満の場合には、油滴は微弱な水流で全体がガラス表面から自然脱離(ローリングアップ)することが観察されるから洗浄性に優れていることになり、雨水によるセルフクリーニングなどの防汚性が高い。30秒後の水中油滴接触角が140°未満の場合には、油滴を水流で脱離させても一部が表面に残ることが観察される。したがって、水中油滴接触角が140°以上であれば好適な高洗浄性を有することとなる。
【0040】
また本発明におけるガラスは、ガラスの密度が2.46g/cm以下とすることで、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重を200gとすることができる。
【実施例】
【0041】
表4において、実施例のガラス食器のガラス組成を表す。参考例1、2は、Bが8wt%に満たない代わりに、CaO又はMgOを配合し、その他は、本願発明におけるガラス組成と同じにしたものである。比較例1は従来の一般的なガラス食器の組成、比較例2はガラス構造研究用3成分組成の例を示している。
【0042】
【表4】

【0043】
(高洗浄性の評価)
表4から明らかなように、実施例は、500回洗浄後の水中油滴接触角が140°以上(152°)であり、水中の油滴は微弱な水流でガラス表面から自然脱離するので、繰り返し洗浄を行った後でも、安定した高洗浄性を確保している。一方、比較例1、2は、いずれも500回洗浄後の水中油滴接触角が実施例に比べて大きく劣り、安定した洗浄性を有していない。
【0044】
(耐アルカリ性評価)
40mmX40mmX5mm形状のサンプルをアルカリ洗剤液(ウオッシュメイトEP)0.2%液(PH=10.5)100ML中に65℃X24時間浸漬し、サンプルを取り出て水洗乾燥後重量減を測定するのを1サイクルとし、12サイクル繰り返した。この結果を図5に示す。また、12サイクル後の「アルカリ浸食重量減少率(12日)」を表4に示す。実施例は比較例に比べて著しく耐アルカリ性に優れており(重量減少率が1/3程度)、食器洗浄機使用による白化のおそれがない。
【0045】
(マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重の評価)
坩堝溶融後流し出したガラスを560℃において徐冷後、切断研磨して40mm角で厚さ5mmの試料を作製し、マイクロビッカーズ硬度計にてクラック初発荷重を求めた。通常のソーダ石灰ガラスのクラック初発荷重は50g重〜100g重であるが、参考例2は450g重、実施例は250g重であり、3〜5倍以上の値である。図6は密度とクラック初発荷重との関係を表したものである。参考例2は密度を2.45g/cmとすることでクラック初発荷重が450g重となり、実施例は密度を2.46g/cm以下とすることでクラック初発荷重が200g重以上となる。密度が2.47g/cm以上では、クラック初発荷重は低い水準である。ガラスの実用においては、表面の微小なクラックが破壊起点になることが知られるため、クラックが発生しにくいことは脆性が小さいことを意味する。なお、密度の測定は高精度電子比重計(JIS適合アルキメデス原理法)によった。
【0046】
(親水性・防曇性の評価)
参考例1及び比較例1について7日間放置後(湯洗浄後7日間放置した後)の空気中での水滴接触角を測定した。参考例1は10°よりも小さい値であり、比較例1は20°であった。これにより、参考例1は一般的なソーダ石灰ガラスと比較して、親水性及び防曇性にも優れることが確認された。
【0047】
(溶融性の評価)
実施例、参考例1、2及び比較例1について、高温粘性測定(LOGη=2(℃)及びLOGη=3(℃))を行い、溶融性の評価を行った。その結果、表4に示すように、実施例及び参考例のガラスは比較例1(通常のソーダ石灰ガラス)と殆ど遜色ない溶融性を有していることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
1 ガラス試料
2 圧子
3 圧痕
4 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiOを63〜75wt%、Alを7.9〜16wt%、NaOを14.6〜17.5wt%、Bを8〜13wt%含有し、ガラスの密度が2.46g/cm以下であって、NaO/Alのモル比が2〜4、NaO/SiOのモル比が0.21〜0.3であり、かつ、SiO+NaO+Alの合計が83〜93wt%であり、マイクロビッカーズ硬度計を用いたクラック初発荷重が200g重以上であるガラスからなることを特徴とする高洗浄性ガラス成形品。
【請求項2】
請求項1記載の高洗浄性ガラス成形品において、ガラス表面の500回洗浄後の水中油滴接触角が140°以上であることを特徴とする高洗浄性ガラス成形品。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248071(P2010−248071A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172518(P2010−172518)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2004−62448(P2004−62448)の分割
【原出願日】平成16年3月5日(2004.3.5)
【出願人】(000001823)東洋佐々木ガラス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】