説明

高活性セメントクリンカ、高活性セメント及び早強セメント組成物

【課題】産業廃棄物をセメント焼成原料の一部として用いることにも対応可能で、汎用性の高い早強型セメント系固化材や早強型セメントの母体となる高活性セメントクリンカと該高活性セメントクリンカに石膏を適量添加してなる高活性セメントを提供する。
【解決手段】早強型セメント系固化材や早強型セメントの母体となる高活性セメントクリンカであって、該セメントクリンカの鉱物組成がボーグ式による計算値で、C3S>70%、C2S<5%であって、L.S.D.>1であり、該セメントクリンカ中の遊離石灰量が0.5〜7.5重量%であることを特徴とする高活性セメントクリンカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤の改良や汚染土壌の改良等に用いる早強型セメント系固化材、コンクリートブロック、サイディングボード、コンクリート杭、生コンクリート等の建築・土木関連のセメント製品に用いる早強型セメントの母体となる高活性セメントクリンカ及び該高活性セメントクリンカによる高活性セメント及び高活性セメントを用いた早強セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメントクリンカ中のC3S量が普通ポルトランドセメントに比べて多く短期強度発現の良いJIS規格に定められる早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントが知られており、寒中コンクリート、蒸気養生コンクリート製品、土壌改良材、重金属や放射性廃棄物の固化処理材など様々な用途に用いられている。
【0003】
また、前記ポルトランドセメント以外にもC3Sを多く含む早強型のセメントが種々開発されている。例えば、特許文献1には、C3Sが60〜75重量%、C3Aが9〜11重量%、C2Sが0〜4重量%、C4AFが4〜7重量%、C3S+C3Aが70〜80重量%、カルシウム硫酸塩がSO3換算で3〜8重量%の化学組成で早期高強度が得られるセメント接合の混合物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、C3Sが40〜80重量%、C4AFが20重量%未満、C2Sが30重量%未満、C3Aが20重量%未満、SO3含有量が1.0〜3.0重量%のクリンカ相成分を有し低温焼成が可能で強度発現の良いポートランドセメントクリンカが開示されている。
【0005】
一方、スラグ、石炭灰、焼成灰、下水汚泥、建設汚泥、サイディング廃材等の産業廃棄物の排出増加に伴い、これらを大量処理すべく、セメント焼成原料の一部に用いる試みも種々なされている。例えば、特許文献3には、石炭灰、各種スラッジ、各種スラグ、建設廃土、下水汚泥焼却灰、廃サイディングボード等の一般廃棄物をセメント焼成原料の一部として用いるセメントの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−340455号公報
【特許文献2】特表平10−512841号公報
【特許文献3】特開2004−299955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、石炭灰、高炉スラグ、下水汚泥、焼却灰等の再利用については検討が進んでいるものの、カルシウムリッチな溶銑予備処理による脱硫スラグや窯業系サイディング廃材の再利用(特にセメント焼成原料への利用)についてはあまり検討されていない。
【0008】
また、JIS規格に定められる早強ポルトランドセメントや超早強ポルトランドセメントの製造において上記各種産業廃棄物を処理することは、品質・性能の安定維持の面で難しい。
【0009】
特許文献1の発明技術により早強型セメントを得ようとすると、粉末度が細かいためエネルギーコストがかかるとともに複雑な粒度管理が必要となる。また、明細書に示されているように、この発明のものは特殊セメントであり、オイルやガス工業における縦穴を含むセメント接合作業には適するものの土木建築材料や地盤改良材としては好適ではない。したがって、上記各種産業廃棄物を製造工程で処理することも難しい。
【0010】
特許文献2の発明技術によりC3S量が多くC2S量が極端に少ない早強型セメントを得ようとすると、SO3分が多く低温焼成であり、排ガス中にSOx(硫黄酸化物)が発生するため、安定した焼成が難しい。特に、セメント焼成原料の一部に上記各種産業廃棄物を用いた場合は難しいので、この発明技術では上記各種産業廃棄物の処理は難しい。
【0011】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、カルシウムリッチな溶銑予備処理による脱硫スラグやカルシウム分を多く含む窯業系サイディング廃材などのカルシウム分をCaO換算で20重量%以上含む廃棄物をセメント焼成原料の一部として用いることにも対応可能で、軟弱地盤の改良や汚染土壌の改良等に用いる早強型セメント系固化材、コンクリートブロック、サイディングボード、コンクリート杭、生コンクリート等の建築・土木関連のセメント製品に用いることができる早強型セメントの母体となる、C3S量が多くC2S量が極端に少ない高活性セメントクリンカと該高活性セメントクリンカに石膏を適量添加してなる高活性セメントと該高活性セメントを用いた早強セメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る高活性セメントクリンカは、「早強型セメント系固化材や早強型セメントの母体となる高活性セメントクリンカであって、該セメントクリンカの鉱物組成がボーグ式による計算値で、C3S>70%、C2S<5%であって、L.S.D.>1であり、該セメントクリンカ中の遊離石灰量が0.5〜7.5重量%であることを特徴とする高活性セメントクリンカ」である。
【0013】
高活性セメントクリンカとは、水和活性が高く、該セメントクリンカによるセメントのコンダクションカロリーメータでの水和発熱速度のピーク値が早強セメントクリンカ相当のクリンカによるセメントのそれより大きく、かつ、水和発熱量が早強セメントクリンカ相当のクリンカによるセメントのそれより多いクリンカをいう。
【0014】
早強型セメント系固化材とは、地盤改良や重金属溶出抑制や放射性廃棄物処理等に用いるセメントを含む固化処理材であって、短期強度発現が普通セメントを用いたものより良い固化処理材をいう。また、早強型セメントとは、早強ポルトランドセメント並みの強度発現性を有するセメントあるいはセメント組成物であって、単に早強セメントクリンカ(高活性セメントクリンカ)に石膏を添加してなる高活性セメントの他、該高活性セメントにフライアッシュ、シリカ粉、スラグのいずれか一つを混合した早強混合セメント、該高活性セメントに公知の無機混和材を複数混和してなる早強セメント組成物をいう。本願明細書では、このように、セメント類を「早強型セメント系固化材」と「早強型セメント」に分け、早強型セメントは高活性セメント、早強混合セメント、早強セメント組成物の3つを含む広い概念のものとする。
【0015】
本発明の高活性セメントクリンカは、鉱物組成がボーグ式による計算値で、C3S>70%、C2S<5%であり、好ましくはC2S<3%である。C3Sが70%以下では、早強型セメント系固化材や早強混合セメントや早強セメント組成物に用いる従来の早強セメントと同等以上の水和活性を有する高活性セメントが得られ難くなる。C2Sが5%以上であるとカルシウムアルミネート系鉱物や非晶質物等からなる間隙相が少なくなるので高活性セメントクリンカを焼成し難くなったりアルミニウム分を多く含む産業廃棄物のセメント焼成原料としての使用が難しくなったりする。
【0016】
従来の早強セメントでは、セメントクリンカのL.S.D.(石灰飽和度)が1以下となるようにセメント焼成原料の調合がなされるが、本発明の高活性セメントクリンカでは、L.S.D.>1である。
【0017】
L.S.D.>1となるようにセメント焼成原料を調合することによって、C3S>70%、C2S<5%の高活性セメントクリンカが得られる。
【0018】
上記の通り、本発明の高活性セメントクリンカでは、L.S.D.>1であるので、セメントクリンカ中に遊離石灰を含むことになるが、この発明では、その量を0.5〜7.5重量%に限定するものである。0.5重量%未満では、高温の焼成または焼成帯の位置・長さが変化してキルン内部のレンガが破損する場合がある。7.5重量%を超えると、セメントクリンカ中の遊離石灰の水和により過剰な膨張をする場合がある。
【0019】
本願の請求項2に係る高活性セメントクリンカは、「上記C2Sのボーグ式による計算値が0%未満(マイナス値)であることを特徴とする請求項1に記載の高活性セメントクリンカ」である。
【0020】
ボーグ式によるクリンカ鉱物組成は計算値であるので、条件によっては計算値がマイナスになってしまうことがある。現実的には含有量がマイナスになることはないので、X線回折で分析すると、わずかにピークが確認されることもある。この発明では、C2Sのボーグ式による計算値が0%未満(マイナス値)であり、計算上はC2Sを含まないことを示すものである。マイナス値としては、例えば、−4%〜−14%程度である。
【0021】
本願の請求項3に係る高活性セメントクリンカは、「上記高活性セメントクリンカ中の硫酸分がSO3換算で1重量%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高活性セメントクリンカ」である。
【0022】
本発明の高活性セメントクリンカ中の硫酸分はSO3換算で1重量%未満である。1重量%未満にすることによって、排ガス中にSOx(硫黄酸化物)の発生が抑制される。
【0023】
本願の請求項4に係る高活性セメントクリンカは、「上記高活性セメントクリンカでの活動係数(A.I.)が3.10〜3.80であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高活性セメントクリンカ」である。
【0024】
活動係数(Activity Index A.I.=SiO2/Al2O3)はSM(ケイ酸率)と同様の指標であり、数値が大きいとクリンカ中の二酸化ケイ素量が増しC2Sに富むクリンカになり易くなる。また、焼成を円滑に進めるために必要なクリンカ融液の量が少なくなり焼成温度は高くなりがちになる。ポルトランドセメントでの標準的な値は3.8〜4.8である。
それに対し、本発明のセメントクリンカでは3.10〜3.80であり早強ポルトランドセメント等に比べて小さい。この範囲にすることによってC2Sを極端に少なくでき、C3Sが多くても焼成し易くなる。
【0025】
本願の請求項5に係る高活性セメントクリンカは、「上記高活性セメントクリンカは、カルシウムをCaO換算で20重量%以上を含む廃棄物の1種以上を含むセメント焼成原料を焼成して得られたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高活性セメントクリンカ」である。
【0026】
本発明の高活性セメントクリンカは、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを製造する際に用いる石灰石、珪石、粘土、銅カラミ等の従来のセメント焼成原料のみを用いても製造できるが、溶銑予備処理による脱硫スラグ、これを磁選して鉄分を除去した脱硫スラグ、還元処理により鉄分を除去した転炉スラグ、窯業系サイディング廃材などの廃建材、生コンスラッジなどのカルシウムをCaO換算で20重量%以上を含むカルシウムリッチ廃棄物をセメント焼成原料の一部として用いることができ、これらを用いることによって、これまであまり再利用されていなかった産業廃棄物の再利用、石灰石使用量の低減による炭酸ガス排出量の削減ができるので好ましい。なお、従来からセメント焼成原料に用いられている産業廃棄物である石炭灰、下水汚泥焼却灰などはカルシウムがCaO換算で20重量%以下のものが多いが、これらも使用できる。
【0027】
本願の請求項6に係る高活性セメントは、「上記請求項1〜5のいずれか一項に記載の高活性セメントクリンカに石膏をSO3換算で1.5〜4.0重量%となるよう添加してなる高活性セメント」である。
【0028】
本発明の高活性セメントは、上記高活性セメントクリンカを母体としているので、早強ポルトランドセメント並みの水和活性を有する。また、従来のセメント規格にとらわれたものではないので、セメント規格が重視されポルトランドセメント等でなければならない用途には使用し難いが、地盤改良用のセメント系固化材、廃棄物処理用固化材、ブロックやサイディングボード等のセメント製品には使用可能な特殊硬化材である。
【0029】
この高活性セメントでは、高活性セメントクリンカに対し石膏がSO3換算で1.5〜4.0重量%であることが好ましい。1.5重量%未満ではセメントクリンカ中のC3Aが急結してコンクリート製品を製造するときに十分な作業時間が確保できない場合がある。4.0重量%を超えると、セメントの硬化後に未反応の石膏により遅れ膨張が生じる場合がある。
【0030】
本願の請求項7に係る早強セメント組成物は、「上記請求項6の高活性セメントに高炉スラグを10〜70重量%添加し、石膏をSO3換算で2.0〜9.0重量%となるよう添加してなる早強セメント組成物」である。添加は内割りである。
【0031】
本発明の早強セメント組成物は、上記高活性セメントクリンカを母体としているので、高炉スラグなどの混合材を添加してもポルトランドセメントを母体としたセメント組成物よりも水和活性を有する。この早強セメント組成物は、地盤改良用のセメント系固化材、廃棄物処理用固化材等の早強型セメント系固化材、ブロックやサイディングボード、生コンクリート等のセメント製品におけるセメント系硬化材として使用できる。
【0032】
この早強セメント組成物では、組成物中、石膏がSO3換算で2.0〜9.0重量%であることが好ましい。2.0重量%未満ではセメントクリンカ中のC3Aが急結してセメント製品を製造するときに十分な作業時間が確保できない場合がある。また、初期の強度が十分に確保できない場合がる。9.0重量%を超えると、セメントの硬化後に未反応の石膏により遅れ膨張が生じる場合がある。なお、ここでの石膏の種類は限定しない。
【発明の効果】
【0033】
本発明の高活性セメントクリンカはC3S量が多く遊離石灰を含みC2S量が極端に少ない。したがって、水和初期から長期にわたって早強ポルトランドセメント以上に高く安定した水和性能が得られる。また、これを母体として、高活性セメント、早強混合セメント、低温用セメント組成物、早強型セメント系固化材等の様々なセメント材が製造できる。
【0034】
また、カルシウムリッチな溶銑予備処理による脱硫スラグこれを磁選して鉄分を除去した脱硫スラグ、還元処理により鉄分を除去した転炉スラグ、や窯業系サイディング廃材などの廃建材、生コンスラッジなどのカルシウムリッチな産業廃棄物をセメント焼成原料の一部として用いることにも対応可能なので、環境負荷の低減にも寄与するものである。
【0035】
本発明の高活性セメントは、早強ポルトランドセメント以上の水和活性を有するが、従来のセメント規格にとらわれたものではないので、地盤改良材、セメント建材製品、規格外コンクリート、モルタル用セメント、その他のセメント系固化材、高炉セメントおよびフライアッシュセメントなどの混合セメントの母体セメントなどを中心に様々な用途に使用できる汎用性の高いものである。また、上記のような産業廃棄物をセメント焼成原料としたものや粉末度の低いものであれば、早強ポルトランドセメント等の従来の早強セメントより低価格で供給することも可能となる。
【0036】
本発明の早強セメント組成物は、本発明の高活性セメントを含むセメント組成物であるからして、従来のセメント−高炉スラグ−石膏系のセメント組成物に比べ高性能であり、この従来のセメント組成物に置き換えて使用することにより品質・性能の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】試製1(比較品)と試製2〜4(本発明の実施品)の初期水和熱曲線の比較図である。
【図2】試製1(比較品)と試製2〜4(本発明の実施品)の初期水和160時間までの累積発熱量曲線の比較図である。
【図3】試製5〜8(本発明の実施品)の初期水和熱曲線の比較図である。
【図4】試製5〜8(本発明の実施品)の初期水和160時間までの累積発熱量曲線の比較図である。
【図5】試製1(比較品)と試製4〜6(本発明の実施品)の初期水和160時間までの累積発熱量曲線と高炉スラグの添加量の関係の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0039】
まず、本発明の高活性セメントクリンカについて説明する。
【0040】
〔高活性セメントクリンカ〕
(1)鉱物組成
本発明の高活性セメントクリンカは、鉱物組成がボーグ式による計算値で、C3S>70%、C2S<5%であり、残りがカルシウムアルミネート系を主体とした間隙相である。
【0041】
ボーグ式は従来からセメントクリンカ中の主鉱物組成を算定するのに用いられている式であり、各鉱物の割合は化学組成の分析結果から算定される。得られた割合は、あくまで化学組成の分析結果に基づく算定値であるからして、セメントクリンカ中の実際の割合と合致するものではない。なお、%は質量%である。
【0042】
[ボーグ式]
3S(%)=(4.07×CaO%)−(7.60×SiO2%)−(6.7×Al23%)−(1.43×Fe23%)−(2.85×SO3%)
2S(%)=(2.8×SiO2%)−(0.754×C3S%)
3A(%)=(2.65×Al23%)−(1.69×Fe23%)
4AF(%)=3.04×Fe23
【0043】
3Sは短期材令から長期材令に渡ってセメント強度発現の主となる鉱物であって、これが多いほど高強度かつ早強となる。C2Sは短期材令での強度発現にはあまり寄与しないが、長期にわたり水和を継続するため長期材令での強度発現には寄与し、これが多いほど低発熱で長期材令での強度の伸びが良いものとなる。また、化学抵抗性や乾燥収縮に優れたものとなる。
【0044】
3Aは水和活性が高く、短期材令での強度発現に大きく寄与する。しかし、これが多いと急硬性で長期材令での強度の伸びが悪いものとなる。また、水和発熱が高く化学抵抗性や乾燥収縮に劣ったものとなる。
【0045】
4AFは水和性能としては目立った特徴はないが、クリンカ焼成では間隙相として易焼成に貢献する。
【0046】
本発明でC3S>70%とするのは、極めて初期水和活性が高いセメントを得るためであり、C3Sが70%以下では従来の早強セメントと同等以上の水和活性を有する早強型セメントが得難くなる。上限は特に限定されないが、85%以下が好ましい。
【0047】
85%を超えると遊離石灰量も著しく増えてしまう場合があり、セメントクリンカの品質安定が維持できなくなってしまう。また、より水和活性の高いC3A等のカルシウムアルミネート系の鉱物を多用しないのは、長期での強度発現、ワーカビリティー、耐久性等を考慮したことによる。
【0048】
一方、本発明でC2S<5%とするのは、クリンカ焼成条件を従来と比べ大きく変えることなく極めて初期水和活性が高いセメントを得るためであり、C2Sが5%以上であるとカルシウムアルミネート系鉱物や非晶質物等からなる間隙相が少なくなるのでセメントクリンカを焼成し難くなったり相対的にC3S量が減ったりするので前記目的が達成し難くなる。
【0049】
下限値は特に限定されないが、ボーグ式による計算値でありC2S量は上式の通り、SiO2量とC3S量との関係で決まるので、SiO2量が少なくC3S量が多い場合は、計算値が0未満(マイナス値)となる場合も起こる。本発明では、このような0未満も含み、安定してC3Sを多量に得るために0未満となることが好ましい。
【0050】
本発明の高活性セメントクリンカは、上記C3SとC2S以外はカルシウムアルミネート系を主体とした間隙相からなる。間隙相にはC3A、C4AF等の鉱物が含まれる。C3Aは上記ボーグ式による計算値で4〜9%含まれていることが好ましい。また、C4AFは8〜16%含まれていることが好ましい。この範囲にあれば、C3S>70%、C2S<5%のセメントクリンカが安定して焼成しやすくなる。
残りは非晶質間隙相などである。
【0051】
(2)硫酸分
本発明の高活性セメントクリンカ中の硫酸分は、SO3換算で1重量%未満である。1重量%以上だと排ガス中にSOx(硫黄酸化物)が発生したり、プレヒータ内部で固結物が生成して閉塞する場合があるので好ましくない。
【0052】
(3)遊離石灰
本発明の高活性セメントクリンカでは、C3Sの水和活性をより高くするために、発熱量を大きくして練り上がり温度を高くするための遊離石灰をクリンカ中に含ませることは好ましい。その量は、0.5〜7.5重量%である。0.5重量%未満では十分な効果が得られない。7.5重量%を超えると膨張を起こしたり、流動性の低下を生じたりするので好ましくない。
【0053】
次に、本発明の高活性セメントクリンカの製造方法について説明する。
【0054】
〔高活性セメントクリンカの製造方法〕
本発明の高活性セメントクリンカの製造は、従来の早強ポルトランドセメントクリンカの製造と特に大きく変わることはなく、所定のセメント焼成原料をC3S>70%、C2S<5%、遊離石灰量が0.5〜7.5重量%で、なるべく硫酸分がSO3換算で1重量%未満となるセメントクリンカが得られるように調合し調合原料をセメントキルン等で焼成して製造する。
【0055】
(A)セメント焼成原料
従来からクリンカ主原料として使用されている石灰石、粘土、珪石、鉄原料等が従来と同様にして使える。この他、本発明では、再利用のあまり進んでいない、カルシウム分をCaO換算で20重量%以上を含むカルシウムリッチな産業廃棄物を利用することが好ましい。
【0056】
カルシウム分をCaO換算で20重量%以上を含む廃棄物としては、溶銑予備処理による脱硫スラグ、これを磁選して鉄分を除去した脱硫スラグ、還元処理により鉄分を除去した転炉スラグ、窯業系サイディング廃材などの廃建材、生コンスラッジ等があげられる。
【0057】
溶銑予備処理による脱硫スラグは、銑鉄中の硫黄分を除去したスラグであり、主成分がカルシウムと鉄である。磁石で選別して鉄分を除去したカルシウムが多い脱硫スラグも利用できる。溶銑予備処理とは、鉄鋼の高純度化のために転炉精錬の前工程で珪素、リン、硫黄を除去する工程である。
【0058】
還元処理により鉄分を除去した転炉スラグとは、例えば下記文献のLDスラグである。このLDスラグも利用できる。
【0059】
S.Kubodera, T.Koyama, R.Ando and R.Kondo, An Approach to the full utilization of LD Slag, Transactions of The Iron and Steel Institute of Japan, 419-427(1979)
【0060】
窯業系サイディング材は主原料としてセメント質原料と繊維質原料を成型し、養生・硬化させたもので、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強ケイカル板などがあり住宅の外壁仕上げ材として用いられている。
【0061】
昨今の住宅補修や住宅解体に伴い廃材が増えてきておりその処理が検討されている。廃材におけるセメント質部分はカルシウムリッチなセメント組成となっているので、本発明の高活性セメントクリンカの製造原料として利用可能である。
【0062】
生コンスラッジは、レディーミクストコンクリート工場でプラントのミキサ、ホッパ、アジテータ車などに付着したコンクリート、戻りコンクリート、および戻りコンクリートの洗浄排水を濃縮して流動性を失った状態のスラッジ、またはスラッジを乾燥したものである。
【0063】
これらの産業廃棄物は、石灰石や粘土の一部代替として利用できる。セメント焼成原料への添加量は、石灰石および粘土の化学成分によるがセメントクリンカ1tあたり400kg以下が好ましい。セメントクリンカ1tあたり400kg以上添加すると不純物が増えてしまいクリンカ焼成がし難くなったり得られるセメントクリンカの品質に悪影響を及ぼしたりする場合がある。産業廃棄物を石灰石の一部代替として利用すれば、炭酸ガス排出量の削減にも繋がるので、環境負荷低減の観点から好ましい。
【0064】
(B)原料調合
焼成後に目的の化学組成・鉱物組成のクリンカが得られるよう調合設計され、これに基づき上記各セメント焼成原料が計量され原料ミルでの混合粉砕やブレンディングサイロでの混合が行われる。
【0065】
上記調合設計は、従来と同様、H.M.(水硬率)、A.I.(活動係数)、S.M.(ケイ酸率)、I.M.(鉄率)、L.S.D.(石灰飽和度)の比率係数(モジュラス)を用いて行う。通常は、C3Sの生成量に大きく関わるH.M.と焼成のし易さと関係するS.M.が重視されるが、本発明ではL.S.D.(石灰飽和度)とA.I.(活動係数)を重視する。
【0066】
L.S.D.(石灰飽和度)は二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄と結合できる酸化カルシウム量を1.0とする指標であり、次の式で示される。
【0067】
L.S.D.=100CaO/(2.80×SiO2%+1.18×Al23%+0.65Fe23%)
【0068】
L.S.D.が1以下であれば、充分時間をかけることにより遊離石灰を0%にすることができるが、L.S.D.>1の場合には、焼成温度を高くしても、焼成時間を長くしても、常に遊離石灰が残ってしまう。通常のセメントクリンカでは0.92〜0.96であり、早強ポルトランドセメントクリンカでも0.94〜1.00である。
【0069】
本発明の高活性セメントクリンカでは、L.S.D.>1である。L.S.D.>1とし、あえて遊離石灰が残るようにセメント焼成原料を調合することによって、C3S>70%、C2S<5%のカルシウム分が多いセメントクリンカを焼成できる。遊離石灰の存在により初期水和熱が高くなるのでC3Sを活性化でき、高炉スラグと混合したときには刺激剤として作用する。
【0070】
上限値は特に限定されないが、遊離石灰量が多すぎると膨張するなどクリンカの安定性を欠くので1.16程度以下が好ましい。
【0071】
A.I.(活動係数)は次式で示され、前述の通り、C2Sの生成量やクリンカの焼き易さに関係する。
A.I.=SiO2/Al23
【0072】
本発明の高活性セメントクリンカでは3.10〜3.80であり従来の早強ポルトランドセメント等に比べて小さい。この範囲にすることによってC2Sを極端に少なくでき、C3Sが多くても焼成し易くなる。
【0073】
(C)クリンカ焼成
本発明の高活性セメントクリンカは、上記原料調合によるセメント焼成原料を、セメント焼成キルンにより、従来の早強ポルトランドセメントクリンカ焼成と同様にして焼成することにより得られる。少量の焼成であれば電気炉焼成でもよい。
【0074】
焼成温度は1250〜1600℃が好ましい。1250℃未満ではC3Sの生成自体が不可能である。また、1600℃を超えるとロータリーキルン内部の耐火物が溶解するなどセメントクリンカの焼成に差し支える。
【0075】
焼成後のクリンカ冷却、粗砕等は従来と同様である。得られた本発明の高活性セメントクリンカは、早強型セメント系固化材や早強型セメントの母体となる。
【0076】
〔高活性セメント〕
本発明の高活性セメントは、上記高活性セメントクリンカに石膏をSO3換算で1.5〜4.0重量%となるよう添加し、粉砕助剤とともに仕上ミル等で混合粉砕されて得られる。工程や装置は従来のセメント製造における仕上工程と同じである。石膏と粉砕助剤も従来のセメント製造で使用されているものと同じである。
【0077】
添加する石膏の量は、SO3換算で1.5〜4.0重量%である。1.5重量%未満では、セメントクリンカ中のC3Aが急結してコンクリート製品等を製造するときに十分な作業時間が確保できない場合がある。4.0重量%を超えると、セメントの硬化後に未反応の石膏により遅れ膨張が生じる場合がある。
【0078】
粉末度は、とくに限定しないが、ブレーン値で3000cm2/g以上が好ましい。
【0079】
本発明の高活性セメントは、本願明細書で定義する早強型セメントの一種であり、このままコンクリート二次製品やサイディングボードやモルタルのセメントとして用いても良いが、例えば、高炉スラグ等の混和材と共に地盤改良材として用いれば早強型セメント系固化材となる。
【0080】
また、フライアッシュ、シリカ粉、スラグのいずれかと混合すれば、早強フライアッシュセメント、早強シリカセメント、早強シリカフュームセメント、早強高炉セメント等の早強混合セメントとなる。
【0081】
また、複数種類の無機混和材を混和すれば、早強セメント組成物となる。本発明の早強セメントは早強ポルトランドセメント並みの水和活性を有するもののJIS規格品ではないのでJIS規格品を必要としているところには使用できないが、早強性が必要な多くの分野に使用できる。
【0082】
〔早強セメント組成物〕
本発明の早強セメント組成物は、上記高活性セメントに高炉スラグを10〜70重量%添加し、石膏をSO3換算で2.0〜9.0重量%となるよう添加してなるものである。高炉スラグは、従来から高炉セメントやセメント混和材に使われているものであればよく、粉末度としては、高炉スラグ粗粉、高炉スラグ微粉、高炉スラグ超微粉も含む。
【0083】
この早強セメント組成物では、組成物中、高炉スラグは10〜70重量%であるのが好ましい。高炉スラグは流動性、耐久性、長期強度発現等に寄与するが10重量%未満では、十分な効果が得られない。70重量%を超えると高活性セメントの割合が少なくなるので十分な強度が得られなくなる場合がある。
【0084】
また、この早強セメント組成物では、組成物中、石膏はSO3換算で2.0〜9.0重量%であるのが好ましい。石膏は、天然二水石膏、排脱二水石膏、天然無水石膏、合成無水石膏、廃石膏等のいずれでもよく、特に限定されない。石膏は初期強度発現、流動性等に寄与するが、2.0重量%未満ではセメントクリンカ中のC3Aが急結してセメント製品を製造するときに十分な作業時間が確保できない場合がある。また、初期の強度が十分に確保できない場合がる。9.0重量%を超えると、セメントの硬化後に未反応の石膏により遅れ膨張が生じる場合がある。
【0085】
本発明の早強セメント組成物は、例えば、本発明の高活性セメントに高炉スラグと石膏を所定量添加し、混合機や混合粉砕機を用いて混和することにより得られる。この早強セメント組成物は、建材製品、生コンクリートやコンクリート製品を製造する際のセメント材、地盤改良材や廃棄物固化処理材の早強型セメント系固化材として用いることができる。
【0086】
〔本発明の高活性セメントクリンカ(高活性セメント)の初期水和活性確認試験〕
電気炉で本発明に係る高活性セメントクリンカを試焼成し、得られた高活性セメントクリンカに石膏を添加して本発明の高活性セメントを得、この高活性セメントの初期水和活性をコンダクションカロリーメータにより確認した。
【0087】
(1)使用原料
使用原料の種類と化学成分を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
(2)原料調合
各試製クリンカにおけるセメント焼成原料の配合を表2に示す。
【0090】
試製1は比較品、試製2〜8は本発明の実施品である。また、表中の数値は原単位である。調合は、各原料を100℃で乾燥し、ディスクミルで粉砕後に乳鉢で混合して行った。
【0091】
【表2】

【0092】
(3)クリンカ焼成
上記配合で原料調合した各試料は、粒径30mm程度の大きさにペレット化し、このペレットを電気炉に入れて10℃/minで1450℃まで温度上昇させ、1450℃で3時間保持して焼成した。得られた試製クリンカは、電気炉から取り出した後室内に放置し急冷し、その後、250rpmボールミルで75μm篩が全通となるように粉砕した。
【0093】
各粉砕品につき、化学成分分析、ブレーン測定を行い、比率係数、ボーグ式による鉱物組成、遊離石灰量を求めた。各試製クリンカの化学分析結果を表3に、比率係数、ボーグ式による鉱物組成、遊離石灰量を表4に示す。なお、表中の%は重量%である。
【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
上記の通り、本発明の高活性セメントクリンカは、下水焼却灰、石炭灰、PS灰、脱硫スラグ等の産業廃棄物を混和しても、また、C3S量を多くしC2S量を極端に少なくしても、従来のセメントクリンカ焼成温度で容易に得られる。
【0097】
(4)高活性セメントによる水和熱測定
上記各試製クリンカに石膏(特級試薬の硫酸カルシウム2水和物)をSO3換算で3.0重量%添加し高活性セメント等を作製した。試製1の早強セメント相当品は比較品であり、試製2〜8の高活性セメントは本発明の実施品である。
【0098】
各セメントにW/C=50%の蒸留水を添加してセメントペーストを作製し、コンダクションカロリーメータでこのセメントペーストの水和発熱速度を測定した。
【0099】
その結果を図1〜4に示す。
【0100】
図1と図3から、本発明の実施品(試製2〜8)は、従来の早強セメント相当の比較品(試製1)に比べ水和発熱速度のピークはいずれも大きく、初期水和活性が高いことがわかる。また、図2と図4に示す累積発熱量から、本発明の実施品は持続して水和活性が高いことがわかる。
【0101】
このように、本発明のセメントクリンカは高活性セメントクリンカであり、このクリンカを用いてセメントを製造すれば、従来の早強セメントより高活性な高活性セメントが得られる。
【0102】
(5)早強セメント組成物による水和熱測定
上記試製1、4、5、6の各セメントに、高炉スラグ微粉末(商品名:セラメント、株式会社デイ・シイ製、ブレーン4570cm2/g)を内割りで各々20重量%又は60重量%添加し、いずれも無水石膏をSO3換算で5.0重量%となるように内割添加したセメント組成物(No.1;試製1ベース、No.4;試製4ベース、No.5;試製5ベース、No.6;試製6ベース)を作製した。(No.1は比較品)
【0103】
各セメント組成物にW/C=50%(C;組成物粉体)の蒸留水を添加してセメントペーストを作製し、コンダクションカロリーメータでこのセメントペーストの水和発熱速度を測定した。材齢160時間までの累積発熱量と高炉スラグ量の関係を図5に示す。
【0104】
試製4〜6の高活性セメントに高炉スラグ微粉末を30〜40重量%添加しても、累積発熱量は試製1単味(早強セメント相当)とほぼ同等となった。本発明の高活性セメントを用いることにより、従来の早強セメント並みの水和活性を有するセメント−高炉スラグ−石膏系の早強セメント組成物が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強型セメント系固化材や早強型セメントの母体となる高活性セメントクリンカであって、該セメントクリンカの鉱物組成がボーグ式による計算値で、C3S>70%、C2S<5%であって、L.S.D.>1であり、該セメントクリンカ中の遊離石灰量が0.5〜7.5重量%であることを特徴とする高活性セメントクリンカ。
【請求項2】
上記C2Sのボーグ式による計算値が0%未満(マイナス値)であることを特徴とする請求項1に記載の高活性セメントクリンカ。
【請求項3】
上記セメントクリンカ中の硫酸分がSO3換算で1重量%未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高活性セメントクリンカ。
【請求項4】
上記セメントクリンカでの活動係数(A.I.)が3.10〜3.80であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高活性セメントクリンカ。
【請求項5】
上記高活性セメントクリンカは、カルシウム分をCaO換算で20重量%以上を含む廃棄物の1種以上を含むセメント焼成原料を焼成して得られたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高活性セメントクリンカ。
【請求項6】
上記請求項1〜5のいずれか一項に記載の高活性セメントクリンカに石膏をSO3換算で1.5〜4.0重量%となるよう添加してなる高活性セメント。
【請求項7】
上記請求項6の高活性セメントに高炉スラグを10〜70重量%添加し、石膏をSO3換算で2.0〜9.0重量%となるよう添加してなる早強セメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91992(P2012−91992A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35810(P2011−35810)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)