説明

高活性型のバソヒビン1調製物およびその調製方法

【課題】動物もしくはヒトへの投与に用いるに足る純度の、変性、リフォールディング及びゲルろ過クロマトグラフィーの工程を経て精製された高活性型のバソヒビン1調製物を生産し、これを提供する
【解決手段】(1)変性、リフォールディング及びゲルろ過クロマトグラフィーの工程を経て精製された高活性型のバソヒビン1調製物の製造方法、及び(2)高活性型のバソヒビン1調製物。本発明の高活性型のバソヒビン1調製物は、活性を有する非凝集体型の割合が高いので、血管新生抑制効果を要する疾患の治療等に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製された高活性型のバソヒビン1調製物に関する。より詳しくは、変性、リフォールディング及びゲルろ過クロマトグラフィーの工程を経て精製されたバソヒビン1調製物、及び高純度の非凝集体型のバソヒビン1を含有する高活性型のバソヒビン1調製物、に関する。
【背景技術】
【0002】
バソヒビン1は、腫瘍細胞や間質細胞、マクロファージなどから分泌される血管新生促進因子(VEGF、FGF−2等)の刺激により血管内皮細胞に発現し(特許文献1参照)、内皮細胞自身にオートクライン的に作用して、血管新生を抑制する作用を有するポリペプチドである。従って、バソヒビン1は、生体内における抗血管新生阻害効果、ひいては抗腫瘍効果を奏する薬物として、適用が期待される。
バソヒビン1の組換タンパク質の発現については、既にCOS7細胞やバキュロウィルスで発現させたバソヒビン1が知られている(特許文献1参照)。バキュロウィルスで発現させたバソヒビン1については、血管内皮細胞に対する細胞遊走阻害活性が調べられている(特許文献1参照)。
しかし、この方法では、3Lのバキュロウィルスを培養して得られるバソヒビン1調製物は収量が少なく、不純物を除去するため、更なる精製を行なうのは困難である。 また、本発明者らが追試したところ、当該方法を使用して得られたバソヒビン1調製物の細胞遊走阻害活性は、本発明で得られるバソヒビン1調製物の活性と比較して弱かった。
一方、バソヒビン1調製物を大腸菌で発現させ、その活性を調べた報告は存在するけれども(特許文献2参照)、感度のよいマウス角膜を用いたアッセイ結果があるのみであった。本発明者らが追試したところ、当該方法を使用して得られたバソヒビン1調製物の細胞遊走阻害活性は、本発明で得られるバソヒビン1調製物の活性より遥かに弱かった。
バソヒビン1は、生体内における抗血管新生阻害効果、ひいては抗腫瘍効果を奏する薬物として、適用が期待されるので、バソヒビン1を効率よく生産する方法の開発と、活性を保持した高純度のバソヒビン1の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO02/090546号パンフレット
【特許文献2】WO2010/074082公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、大腸菌封入体としてバソヒビン1を発現させた後に、封入体よりバソヒビン1を精製しても、その大部分が活性を有していない凝集体として存在していることを見出した。活性を有していない凝集体を除去するため、ゲルろ過による精製を試みたけれども、濃縮の過程で、その大部分が凝集体に変化することを確認した。また、バソヒビン1を通常の手法で変性(グアニジン塩酸、ラウリルサルコシン等)させ、その後、通常使用される緩衝液(MOPS、HEPES等)に通常使用されるような添加剤(TCEP、アルギニン、NDSB−201、トレハロース、ソルビトール等)を適宜組み合わせて加えてリフォールディングさせても、活性を有していない凝集体のままであることを確認した。
【0005】
本発明の課題は、動物もしくはヒトへの投与に用いるに足る純度の、変性、リフォールディング及びゲルろ過クロマトグラフィーの工程を経て精製された高活性型のバソヒビン1調製物を生産し、これを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、活性を有しない凝集体型が多くを占めるバソヒビン1を変性、リフォールディング及びゲルろ過クロマトグラフィーの工程により精製することで、高活性型のバソヒビン1調製物を高純度で精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
〔1〕 凝集体型及び非凝集体型のバソヒビン1を含むバソヒビン1調製物を原料とし、これを変性、リフォールディング及び精製を含む工程に付すことにより、バソヒビン1調製物中の非凝集体型のバソヒビン1の割合を75パーセント以上とすることを特徴とする、バソヒビン1調製物の製造方法、
〔2〕 変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する〔1〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔3〕 変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、還元剤を添加した塩基性の緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する〔1〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔4〕 変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、還元剤を添加した塩基性のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する〔1〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔5〕 変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、酸化型及び/又は還元型グルタチオンを添加した塩基性のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する〔1〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、

〔6〕 変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、酸化型及び/又は還元型グルタチオン及び「FoldACETM Reagent 2(登録商標)」を添加した塩基性のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する〔1〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔7〕 変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、酸化型及び/又は還元型グルタチオン及び「FoldACETM Reagent 2(登録商標)」を添加したpH8.5のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する〔1〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔8〕 原料であるバソヒビン1調製物が大腸菌で発現させたものを含むものである、〔1〕乃至〔7〕いずれかに記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔9〕 原料であるバソヒビン1調製物が大腸菌で発現させたものを含むものであり、得られるバソヒビン1調製物が高活性型であることを特徴とする、〔1〕乃至〔7〕記載のバソヒビン1調製物の製造方法、
〔10〕非凝集体型のバソヒビン1の割合が75パーセント以上であるバソヒビン1調製物、
〔11〕バソヒビン1が大腸菌で発現されたものである、〔10〕記載のバソヒビン1調製物、
〔12〕高活性型であることを特徴とする、〔10〕又は〔11〕記載のバソヒビン1調製物、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高活性型のバソヒビン1調製物は、非凝集体型のバソヒビン1の純度が高く、優れた細胞遊走阻害効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、iFOLDTM Protein Refolding System 3を用いたリフォールディング条件の探索結果を、各緩衝液に含まれるリフォールディング促進剤(FoldACETM Reagent 1〜5)の種類および各緩衝液のpHに着目してプロットしたものを示す。縦軸は各サンプルの非凝集型のバソヒビン1の割合(%)を示し、横軸は使用したリフォールディング促進剤の種類を示している。また、プロットの点の形は、リフォールディング緩衝液のpHを示している。FoldACETM Reagent 2が添加されたpH8.5の緩衝液を用いてリフォールディング反応を行なうことにより、非凝集体バソヒビン1の割合は増加した。
【図2】図2(a)は、大腸菌で発現させたバソヒビン1について、リフォールディング反応を行なう前における凝集体と非凝集体の割合をサイズ排除クロマトグラフィー分析により求めた結果を表す。リフォールディング前には、非凝集体の割合は約12%であった。図2(b)は、大腸菌で発現させたバソヒビン1について、リフォールディング反応後における凝集体と非凝集体の割合をサイズ排除クロマトグラフィー分析により求めた結果を表す。リフォールディングを行なうことにより、非凝集体の割合は約45%に増加した。図2(c)は、大腸菌で発現させたバソヒビン1について、リフォールディング後、ゲルろ過により精製を行なった後の凝集体と非凝集体の割合を、サイズ排除クロマトグラフィー分析により求めた結果を表す。ゲルろ過精製を経ることにより、非凝集体の割合は約92%に増加した。図2(d)は、バキュロウィルスで発現させたバソヒビン1について、凝集体と非凝集体の割合をサイズ排除クロマトグラフィー分析により求めた結果を表す。非凝集体の割合は約19%であった。
【図3】図3は、VEGF刺激により遊走したHUVECに対して、原料(変性及びリフォールディング前)と精製後(変性、リフォールディング及びゲルろ過精精製後)のバソヒビン1調製物の細胞遊走阻害効果を検討した結果を表す。縦軸は遊走している細胞数(個)を示す。VEGFを添加することにより、HUVECの細胞遊走が引き起こされ(左から2つ目のバー)、この細胞遊走は原料のバソヒビン1ではあまり阻害できないけれども(右から2つ目のバー)、精製後のバソヒビン1では効率的に阻害できた(右端のバー)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の高活性型のバソヒビン1調製物の製造方法について説明する。
本発明の高活性型のバソヒビン1調製物は、凝集体型および非凝集体型のバソヒビン1を含むバソヒビン1調製物を、変性、リフォールディング及びゲルろ過クロマトグラフィーを含む工程に付すことによって得ることができ、高純度の非凝集体型のバソヒビン1を含有し、優れた血管新生阻害効果を有する。なお、本明細書において「バソヒビン1調製物」とは、凝集体型のバソヒビン1と非凝集体型のバソヒビンを含んでなるタンパク質混合物を意味する。
【0011】
本発明の高活性型のバソヒビン1調製物の製造方法において、先ず、凝集体型および非凝集体型のバソヒビン1を含むバソヒビン1調製物を変性工程に付して、調製物中のバソヒビン1を変性させ、可溶化させる。変性工程は公知の方法、材料を用いて行うことができ、変性工程にグアニジン塩酸を用いることが好ましい。
【0012】
変性工程を終えたバソヒビン1調製物をリフォールディング処理に付して、調製物中のバソヒビン1を再生させる。一般的には、リフォールディングには、変性剤を透析等の手段により徐々に除去していく稀釈法が用いられる。その際に、凝集体の生成を抑制するために添加剤を用いることが好ましい。本発明においては、GlutathionおよびFoldACETM Reagent 2 (MERCK)を含む塩基性のTris緩衝液がリフォールディング工程において好適に用いられる。Tris緩衝液のpHは好ましくは7より大、より好ましくは約8〜約9、さらに好ましくは約8.5である。
【0013】
次に、リフォールディング工程を経たバソヒビン1調製物を精製工程に付して、 調製物中の凝集体型のバソヒビン1を除去する。精製工程も公知の方法、材料を用いて行うことができるが、ゲルろ過工程が好ましい。ゲルろ過用担体も多くの種類が市販されており、適宜選択することができる。ゲルろ過工程を用いる場合には、凝集体型のバソヒビン1を素通し画分に溶出させて除去することが簡便で好ましい。
【0014】
かくして得られる高活性型のバソヒビン1調製物は、非凝集体型のバソヒビン1の割合が上昇し、凝集体型のバソヒビン1の割合が低下しており、かつ、ボイデンチャンバー法による臍帯静脈血管内皮細胞の細胞遊走阻害活性評価において、コントロールと比較して50%以上阻害効果を示す濃度(IC50)が100nM以下である。コントロールとは、バソヒビン1調製物を加えることなく、VEGFで細胞遊走を行うことを意味する。高活性型のバソヒビン1調製物中の非凝集体型のバソヒビン1の割合は好ましくは75パーセント以上、より好ましくは85パーセント以上、さらに好ましくは90パーセント以上である。かかる純度であれば、動物もしくはヒトへの投与に用いるに足る純度である。
【0015】
本発明の高活性型のバソヒビン1調製物の製造方法の原料として用いられる凝集体型および非凝集体型のバソヒビン1を含むバソヒビン1調製物は、いずれの方法で得られたものであってもよいが、大腸菌により発現されたバソヒビン1を含むバソヒビン1調製物が好適である。大腸菌でのバソヒビン1の発現手段・方法も公知のものを用いることができる。本発明の製造方法によれば、大腸菌で発現され多くが封入体となって凝集しているバソヒビン1を効率的に脱凝集させることができ、高活性型のバソヒビン1調製物を大量に得ることができる。
【0016】
さらに本発明は、非凝集体型のバソヒビン1の割合が上昇しており、かつ凝集体型のバソヒビン1の割合が低下した高活性型のバソヒビン1調製物を提供し、該調製物中の非凝集体型のバソヒビン1の割合は、好ましくは75パーセント以上、より好ましくは85パーセント以上、さらに好ましくは90パーセント以上である。このように非凝集体型のバソヒビン1の割合が上昇しており、かつ凝集体型のバソヒビン1の割合が低下した高活性型のバソヒビン1調製物は、これまで得られていなかった。
【0017】
以下に、本明細書で用いられる用語等について説明する。
【0018】
本発明において、リフォールディングの工程とは、変性されたタンパク質が生理活性を有するコンフォメーションを取れるように再生する工程を意味し、精製工程とは、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィーなどの方法を用いることにより、バソヒビン1調製物中の非凝集体型のバソヒビン1調製物の割合を高める工程を意味する。
【0019】
本発明において、凝集体型のバソヒビン1とは、グリシン-アルギニン緩衝液(25mM Glycine, 500mM L-arginine-HCl, pH3.5)で平衡化したTSKgel SuperSW2000カラム(TOSOH)を用いて行なうサイズ排除クロマトグラフィーにおいて、排除体積にて溶出されるバソヒビン1のタンパク質を意味する。排除体積にて溶出されたかは、ブルーデキストラン2000(200kDa)など排除限界分子量以上の標準サンプルが示す溶出位置と比較することにより確認することが出来る。
【0020】
本発明において、非凝集体型のバソヒビン1とは、グリシン-アルギニン緩衝液(25mM Glycine, 500mM L-arginine-HCl, pH3.5)で平衡化したTSKgel SuperSW2000カラム(TOSOH)を用いて行なうサイズ排除クロマトグラフィーにおいて、排除体積以降に溶出されるバソヒビン1のタンパク質を意味する。排除体積以降に溶出されたかは、ブルーデキストラン2000(200kDa)など排除限界分子量以上の標準サンプルが示す溶出位置と比較することにより確認することが出来る。
【0021】
本発明において、高純度の非凝集体型のバソヒビン1調製物とは、非凝集体型の割合が75パーセント以上であるバソヒビン1調製物を意味し、好ましくは非凝集体型の割合が85パーセント以上であるバソヒビン1調製物を意味し、より好ましくは、非凝集体型の割合が90パーセント以上であるバソヒビン1調製物を意味する。
【0022】
本発明において、塩基性のTris緩衝液とは、pHが7.0を超えるTris緩衝液のことを意味する。
【0023】
また、血管新生抑制効果は、血管内皮細胞の遊走に対する効果をボイデンチャンバー法により評価することもできる。具体的には、後述の実施例3に示すように、Lower chamberに、(1)M199培地のみを分注、(2)終濃度20ng/mLのVEGFを添加したM199培地を分注、又は(3)終濃度20ng/mLのVEGF及び終濃度100nMのバソヒビン1調製物を添加したM199培地を分注したものを用意し、Upper chamberには、0.5%FCSを含むM199培地で約17時間培養した臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC、クラボウ社製)を1x105cells/wellとなるように分注し、37℃にて4時間培養後、メンブレン外側に遊走した細胞をギムザ染色に供し細胞数を計測することにより測定を行なう。Lower chamberに、上記の(2)の終濃度20ng/mLのVEGFを添加したM199培地を分注したサンプルと、上記(3)の終濃度20ng/mLのVEGF及び終濃度100nMのバソヒビン1調製物を添加したM199培地を分注したサンプルにおけるメンブレン外側に遊走した細胞数を比較することで、バソヒビン1調製物の血管新生抑制効果を測定できる。
【0024】
バソヒビン1は配列番号1の386番目のAから1480番目のCで表される塩基配列からなるバソヒビン1ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質、及び配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるバソヒビン1ポリペプチドのことをいう。
【0025】
バソヒビン1ポリヌクレオチドとしては、配列番号1に表される塩基配列からなるポリヌクレオチド以外に、前記ポリヌクレオチド又はそれらの相補鎖とストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうるポリヌクレオチドが例示される。
【0026】
ここでいう「ストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうるポリヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチドの断片をプローブとして、当該分野において周知慣用な手法、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチドを意味し、具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のポリヌクレオチドを固定化したメンブランを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(Saline Sodium Citrate:150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウム)溶液を用い、65℃でメンブランを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Current Protocols in Molecular Biology(1994)(Wiley−Interscience)、DNA Cloning 1:A Practical Approach Core Techniques,Second Edition(1995)(Oxford University Press)などに記載されている方法に準じて行うことができる。
【0027】
本明細書において「ハイブリダイズしうるポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。そのようなポリヌクレオチドとして、具体的には、配列番号1で表されるバソヒビン1ポリヌクレオチドと少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書において、相同性は、例えば、Altschulら(The Journal of Molecular Biology,215,403−410(1990))の開発したアルゴリズムを使用した検索プログラムBLASTを用いることにより、スコアで類似度を算出することができる。
【0028】
上記ポリヌクレオチドは、公知の方法に準じて調製することができ、例えば、WO02/090546に開示された方法に従って調製することができる。また、アミノ酸配列に基づいて、バソヒビン1ポリペプチドをコードするDNAを化学合成することによっても調製することができる。DNAの化学合成は、チオホスファイト法を利用した島津製作所製のDNA合成機、フォスフォアミダイト法を利用したパーキン・エルマー社製のDNA合成機model392などを用いて行うことができる。
【0029】
バソヒビン1ポリペプチドとしては、配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド以外に、前記アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸残基の欠失、付加、挿入又は置換を有するポリペプチド、及びそれらの誘導体、ならびにそれらの塩であって、かつ細胞遊走阻害活性を有するタンパク質が例示される。
【0030】
本明細書中において、「ポリペプチドの誘導体」とは、例えば、アセチル誘導体、パルミトイル誘導体、ミリスチル誘導体、アミド誘導体、アクリル誘導体、ダンシル誘導体、ビオチン誘導体、リン酸誘導体、サクシニル誘導体、アニリド誘導体、ベンジルオキシカルボニル誘導体、ホルミル誘導体、ニトロ誘導体、スルフォン誘導体、アルデヒド誘導体、環状化誘導体、グリコシル誘導体、モノメチル誘導体、ジメチル誘導体、トリメチル誘導体、グアニジル誘導体、アミジン誘導体、マレイル誘導体、トリフルオロアセチル誘導体、カルバミル誘導体、トリニトロフェニル誘導体、ニトロトロポニル誘導体、又はアセトアセチル誘導体等が挙げられる。
【0031】
本明細書において、「塩」とは、ポリペプチド又はそれらの誘導体の薬理学的に許容される任意の塩(無機塩及び有機塩を含む)をいい、例えば、ポリペプチド又はそれらの誘導体のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩、有機酸塩(酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、ピクリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、燐酸塩が望ましい。
【0032】
上記ポリペプチドは、公知の方法に準じて調製することができ、例えば、WO02/090546、WO2006/073052等に開示された方法に従って調製することができる。
【0033】
また、上記ポリペプチドの誘導体は、当該分野で公知の方法により、作製され得る。また、上記ポリペプチドの塩も、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に作製され得る。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0035】
調製例1.バソヒビン1の調製
<バソヒビン1発現株の構築>
バソヒビン1ポリヌクレオチド(配列番号1の386番目から1480番目の塩基配列)について、HRV3Cプロテアーゼ認識配列を形成させるため、386番目から388番目の塩基をATGからGGAに置換し、その他の塩基については当業者にとって周知な方法(Current Opinion in Biotechnology,6,494−500(1995),等)により大腸菌での発現に適したコドンに変更したバソヒビン1遺伝子をthioredoxin(Trx)融合発現用のpET-48b(+)ベクター(Novagen社製)に導入し、Escherichia coli BL21(DE3)を形質転換した(BL21(DE3)/TrxVh1-pET48b)。単一の形質転換株を単離した後、LB培地(1.0% Bacto tryptone,0.5% Bacto yeast extract,0.5% NaCl,50μg/mL ampicillin,pH7.0)を用いて試験管で37℃、16h培養した。培養後、30% glycerolを等量添加して-80℃で保管した(バソヒビン1発現株保存液)。
【0036】
<バソヒビン1発現株の発酵・培養>
50mLのLB培地を仕込んだ500mL容三角フラスコに、バソヒビン1発現株保存液500μLを添加し、37℃、9h前培養を行った。その後3Lの本培養培地(4.0% glycerol,2.4% Bacto yeast extract,1.2% Bacto tryptone,1.25% K2HPO4,0.23% KH2PO4,500μg/mL polypropylene glycol #2000,50μg/mL ampicillin,pH7.0)を仕込んだ5L培養槽に前培養した培養液を1%植菌し、37℃で22h培養した。培養開始後OD650値が4〜5になれば最終濃度が1mMとなるようにisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を添加した。培養中のpHは28%アンモニア水と35%りん酸を用いてpH7.0に制御した。
【0037】
<Trxバソヒビン1の調製>
培養終了液を遠心分離(10,000g,30min)によって集菌し、懸濁緩衝液(20mM sodium phosphate,0.5M NaCl,1mM phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF),pH7.6)で洗浄した。高圧ホモジナイザーを用いて菌体を破砕(55Pa,5回)した後、遠心分離(10,000g,30min)を行い、さらに同緩衝液で洗浄して不溶性画分を取得した。得られた画分を可溶化緩衝液(20mM sodium phosphate,0.5M NaCl,1mM PMSF,5mM 2-mercaptoethanol,10mM imidazole,7M Guanidine-HCl,pH8.0)で可溶化し、不溶性画分を遠心分離(72,000g,30min)によって除去した後、予め同可溶化緩衝液で平衡化したNi Chelating Sepharose column(φ26mm×320mm)に供した。非吸着画分を洗浄緩衝液(20mM sodium phosphate,0.5M NaCl,1mM PMSF,5mM 2-mercaptoethanol,10mM imidazole,8M Urea,pH8.0)で洗い流した後、溶出緩衝液(20mM sodium phosphate,0.5M NaCl,1mM PMSF,5mM 2-mercaptoethanol,300mM imidazole,8M Urea,pH8.0)で溶出し、Trxバソヒビン1画分を捕集した。
【0038】
<バソヒビン1の調製>
上記のようにして得られたTrxバソヒビン1にグリシン緩衝液(20mM Glycine-HCl,pH3.5)に対して透析した後,HRV3C(Novagen社製)を最終濃度16U/mLとなるように添加し、限定分解を4℃で18h実施した。反応終了時に現れる沈殿画分を遠心分離(70,000g,30min)で回収後、可溶化緩衝液(20mM sodium phosphate,0.5M NaCl,1mM PMSF,5mM 2-mercaptoethanol,10mM imidazole,7M Guanidine-Cl,pH8.0)で可溶化し、予め同可溶化緩衝液で平衡化したNi Chelating Sepharose column(φ26mm×270mm)に供した。非吸着画分中のバソヒビン1画分を捕集後、グリシン緩衝液に対して透析を行った。得られたバソヒビン1画分をリフォールディング条件検討用の原料とした。
【0039】
実施例1. バソヒビン1のリフォールディング条件の探索
<バソヒビン1の変性>
調製例1で得られたバソヒビン1に0.1M NaOH溶液を添加し溶液のpHを9.5に調整後、4℃下で一晩静置することでバソヒビン1タンパク質の沈殿化を促した。得られた沈殿化バソヒビン1を変性緩衝液(50mM Tris, 200mM NaCl, 2mM EDTA, 7M Guanidine-HCl , pH8.0)に溶解することで変性バソヒビン1を得た。
【0040】
<バソヒビン1のリフォールディング条件>
iFOLDTM Protein Refolding System 3(MERCK)はリフォールディング条件を系統的に評価するために、各種試薬およびリフォールディング促進剤(FoldACETM Reagent 1〜5)を組合せた緩衝液があらかじめ分注されたキットである。本キット96通りについてリフォールディング条件の探索を行った。変性バソヒビン1を終濃度0.1mg/mLとなるように各緩衝液に希釈し4℃下にて一晩静置後、グリシン緩衝液に対して透析を行った。
【0041】
<バソヒビン1のリフォールディングの成否評価>
リフォールディングの成否はサイズ排除クロマトグラフィー分析により非凝集状態のバソヒビン1がどれだけ存在しているかを基準に評価した。サイズ排除クロマトグラフィー分析は、グリシン-アルギニン緩衝液(25mM Glycine, 500mM L-arginine-HCl, pH3.5)で平衡化したTSKgel SuperSW2000カラム(TOSOH)を用いて行った。緩衝液のpHと使用したFoldACETM試薬の種類に着目して結果をプロットしてみると、pH8.5の緩衝液中にFoldACETM Reagent 2を添加した条件において、非凝集体型のバソヒビン1含有割合が増加することが判明した(図1)。
【0042】
<リフォールディング条件の決定>
図1で得られた実験結果を基に、更なる条件検討を行なった結果、25mM Tris, 9.5mM Glutathione(reduced form), 0.5mM Glutathione(oxidized form), 200mM NaCl, 200mg/ml FoldACETM Reagent 2, pH8.5の緩衝液を使用して、リフォールディングを行うことにより、図1で得られた結果より、更に10%程度、非凝集体の割合を減らすことができた。そこで、以下ではこの条件でリフォールディングを実施することに決定した。
【0043】
実施例2. 高純度の非凝集体型のバソヒビン1調製物の調製
<バソヒビン1のリフォールディング>
実施例1と同様の手順で得た変性バソヒビン1をリフォールディング緩衝液(25mM Tris, 9.5mM Glutathione(reduced form), 0.5mM Glutathione(oxidized form), 200mM NaCl, 200mg/ml FoldACETM Reagent 2, pH8.5)に終濃度0.4mg/mLとなるように希釈し、4℃下で3日間攪拌した。その後、リフォールディング反応液をグリシン緩衝液に対して透析を行った。
【0044】
<バソヒビン1のリフォールディングの成否確認>
グリシン緩衝液に対して透析を行なった後、サイズ排除クロマトグラフィー分析を行なった結果、非凝集体型のバソヒビン1の割合が12%から45%にまで増加していることが確認できた(図2A及び図2B)。
【0045】
<ゲルろ過クロマトグラフィーによる非凝集体型のバソヒビン1の精製>
遠心濃縮によって1.5mg/mLにまで濃縮した後、ゲルろ過緩衝液(20mM Glycine, 200mM NaCl, pH3.5)にて平衡化したHiLoad 16/60 Superdex200 pg(GE Healthcare)に供してゲルろ過精製を行った(流速0.8mL/min)。溶出フラクションについて280nm波長における紫外吸収の測定を行い、非凝集体型のバソヒビン1に相当するフラクションを捕集した。捕集した非凝集型バソヒビン1の画分をグリシン緩衝液に対して透析を行った後、遠心濃縮を行った。
【0046】
<ゲルろ過クロマトグラフィーによる非凝集体型のバソヒビン1の精製確認>
遠心濃縮後、サイズ排除クロマトグラフィー分析に供したところ、非凝集体型の割合は92%にまで増加した(図2C)。
なお、実施例2における方法を用いて、3Lの培養液の大腸菌から得られるバソヒビン1を定量したところ、変性前の段階で約300mg、ゲルろ過クロマトグラフィーによる精製後の段階では約30mgであった。
【0047】
比較例1
<バキュロウィルス発現により得られたバソヒビン調製物中の非凝集体型バソヒビン1含有割合の確認>
また、比較として、バキュロウィルスを用いて従来技術(国産出願公開第WO2002/090546号公報)に従い生産したバソヒビン1を同様にサイズ排除クロマトグラフィー分析に供したところ、非凝集体型の割合は19%であった(図2D)。
なお、3Lの培養液のバキュロウィルスから得られるバソヒビン1は、わずか約0.7mg程度に過ぎなかった。
【0048】
実施例3 高純度の非凝集体型のバソヒビン1調製物の血管内皮細胞の遊走に対する阻害活性の評価
<ボイデンチャンバー法による細胞遊走阻害>
高純度の非凝集体型のバソヒビン1調製物の血管内皮細胞の遊走に対する効果をボイデンチャンバー法により評価した。
Lower chamberには、(1)M199培地、(2)終濃度20ng/mLのVEGFを添加したM199培地、(3)終濃度20ng/mLのVEGFおよび終濃度100nMの変性前のバソヒビン1調製物を添加したM199培地、及び(4)終濃度20ng/mLのVEGFおよび終濃度100nMのゲルろ過クロマトグラフィー精製後のバソヒビン1調製物を添加したM199培地を分注し、Upper chamberには、0.5%FCSを含むM199培地で約17時間培養した臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC,クラボウ社製)を1x105cells/wellとなるように分注した。これらを、37℃にて4時間培養後、メンブレン外側に遊走した細胞をギムザ染色に供し細胞数を計測した。
【0049】
<ボイデンチャンバー法による細胞遊走阻害活性評価>
終濃度20ng/mLのVEGFを加えることで、HUVECの細胞遊走が誘導される(図3、左の2つのバー)。100nMの変性前のバソヒビン1調製物では、この細胞遊走を阻害する効果は弱いけれども(図3、右から2つの目のバー)、ゲルろ過精製後のバソヒビン1調製物では、この細胞遊走はベースレベルにまで抑制された(図3、一番左のバーと一番右のバー)。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の高活性型バソヒビン1調製物は高純度で得られるので、血管新生抑制効果を要する疾患の治療等に好適に用いられる。
【配列表フリーテキスト】
【0051】
配列表の配列番号1は、バソヒビン1ポリヌクレオチド及びそこにコードされているポリペプチドである。
配列表の配列番号2は、バソヒビン1ポリペプチドである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集体型及び非凝集体型のバソヒビン1を含むバソヒビン1調製物を原料とし、これを変性、リフォールディング及び精製を含む工程に付すことにより、バソヒビン1調製物中の非凝集体型のバソヒビン1の割合を75パーセント以上とすることを特徴とする、バソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項2】
変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する請求項1記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項3】
変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、還元剤を添加した塩基性の緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する請求項1記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項4】
変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、還元剤を添加した塩基性のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する請求項1記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項5】
変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、酸化型及び/又は還元型グルタチオンを添加した塩基性のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する請求項1記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項6】
変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、酸化型及び/又は還元型グルタチオン及び「FoldACETM Reagent 2(登録商標)」を添加した塩基性のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する請求項1記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項7】
変性工程にグアニジン塩酸又はウレアを使用し、リフォールディングの工程において、酸化型及び/又は還元型グルタチオン及び「FoldACETM Reagent 2(登録商標)」を添加したpH8.5のTris緩衝液を使用し、精製工程でゲルろ過クロマトグラフィーを使用する請求項1記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項8】
原料であるバソヒビン1調製物が大腸菌で発現させたものを含むものである、請求項1乃至7いずれかに記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項9】
原料であるバソヒビン1調製物が大腸菌で発現させたものを含むものであり、得られるバソヒビン1調製物が高活性型であることを特徴とする、請求項1乃至7記載のバソヒビン1調製物の製造方法。
【請求項10】
非凝集体型のバソヒビン1の割合が75パーセント以上であるバソヒビン1調製物。
【請求項11】
バソヒビン1が大腸菌で発現されたものである、請求項10記載のバソヒビン1調製物。
【請求項12】
高活性型であることを特徴とする、請求項10又は11記載のバソヒビン1調製物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−180314(P2012−180314A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44994(P2011−44994)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】