説明

高液状性パーム系油脂の製造方法

【課題】品質が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる高液状性パーム系油脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の高液状性パーム系油脂の製造方法は、(A)ヨウ素価63以上のパーム系油脂を、リパーゼを用いてエステル交換する工程と、(B)エステル交換する前記工程(A)で得られた該エステル交換油を分別して、SSS(Sは飽和脂肪酸で、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去して高液状性パーム系油脂を得る工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高液状性パーム系油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用サラダ油としてはキャノーラなどの菜種油が主流である。しかしながら、昨今、ヨーロッパなどでのバイオディーゼルの急速な普及により、菜種油の価格が高騰し、サラダ油の製造コストが高くなっている。また、菜種油は今後供給面でも逼迫することが予測される。そこで、安価でしかも供給が安定なパーム系油脂を原料にサラダ油を製造することができれば極めて有意義である。
【0003】
パーム系油脂から高液状性油脂を得る方法としては、アルカリ触媒を用いる化学的エステル交換法がある。非特許文献1に開示のダイレクテッドエステル交換においては、パーム油をアルカリ触媒を用いて30℃前後でエステル交換を行う。トリ飽和脂肪酸グリセリドを結晶化させ、反応系から除去しながら、反応を進行させることにより、高液状性油脂が得られることが記載されている。しかしながら、この方法では触媒除去が煩雑で収率が悪い。収率を向上させるためには溶剤分別が必要となり、作業がより煩雑となる。
【0004】
非特許文献2には、多段ドライ分別法が開示されている。この方法では、パーム油からドライ分別を3回行い、ヨウ素価70の高液状性パーム系油脂を得ている。得られた高液状性パーム系油脂は単独でサラダ油冷却試験をクリアするが、収率が低く、また製造時間も長い。
【0005】
以上のように、化学的エステル交換法では、触媒除去が煩雑で収率が悪い。収率を向上させるためには溶剤分別が必要となり、作業がより煩雑となる。また、アルカリ触媒を用いる影響で精製を行っても油の風味が悪く、色も濃くなる。また、多段分別法では、収率が低く、製造時間も長い。さらに、液状性も十分ではない。
【0006】
上記課題を解決するために、パーム系油脂の酵素的エステル交換により高液状性パーム系油脂を得る方法がある(特許文献1および2)。しかしながら、従来の方法では依然として液状性が十分ではなく、特に高い液状性が要求されるサラダ油等への使用に適したものは得られていなかった。また、従来では、通常、パーム系油脂と液状性の高い他の油脂とを混合したものが原料として用いられており、パーム系油脂単独を原料として、高い収率で高液状性油脂を得ることは依然として困難であった。
そこで、酵素的エステル交換および分別を2回以上繰り返すことによりパーム系油脂から高液状性油脂を得る方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−293389号公報
【特許文献2】特開平8−38190号公報
【特許文献3】特開2008−194011号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Regina C.A.Lago and Leopold Hartman,J.Sci.Food Agric,37,pp.689−693(1986)
【非特許文献2】Dry multiple fractionation:trends in products and applications,Lipid Technology,7,pp.34−38(1995.3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年、油脂の色や、風味等の品質のさらなる向上が求められており、特許文献3に開示された方法では、このような要求に応えることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、(A)ヨウ素価63以上、85以下のパーム系油脂を、リパーゼを用いてエステル交換する工程と、(B)前記工程(A)で得られた該エステル交換油脂から、分別により、SSS(Sは飽和脂肪酸で、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去し、高液状性パーム系油脂を得る工程とを含む高液状性パーム系油脂の製造方法が提供される。
【0011】
この発明によれば、品質が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる。
【0012】
また、本発明では、高液状性パーム系油脂の製造方法において、前記工程(A)におけるエステル交換は複数回実施せず、前記工程(B)において、前記エステル交換油脂から、分別によりSSSを除去する操作を1回以上実施することが好ましい。さらに、前記工程(A)におけるエステル交換および前記工程(B)における分別除去操作(エステル交換油脂から分別により、SSSを除去する操作)をそれぞれ複数回実施しないことがより好ましい。
このように、エステル交換および分別除去操作を複数回繰り返さないことにより、より品質が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる。
さらに、エステル交換および分別除去操作をそれぞれ複数回繰り返さないことにより、作業性が改善されるとともに、高液状性パーム系油脂の収率も高めることができる。
【0013】
さらに、本発明では、前記パーム系油脂として、パーム油を1回以上分別して得られたヨウ素価63以上のパームオレインを使用することが好ましい。
このようにすることで、品質が良好な高液状性パーム系油脂を確実に得ることができる。
また、本発明では、工程(A)のエステル交換において、ランダムエステル交換能を有するリパーゼを用いることが好ましく、さらには、工程(B)において、分別をドライ分別にて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、品質が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる高液状性パーム系油脂の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】パーム系油脂のランダムエステル交換に関する概念図である。
【図2】POP/PPP比と融点との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の説明において、Sは飽和脂肪酸、Pはパルミチン酸、Oはオレイン酸、およびLはリノール酸を意味する。また、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリド、PPPはパルミチン酸3つで構成されるトリパルミチン、OOOはオレイン酸3つで構成されるトリオレインを意味する。さらに、POPは1および3位がパルミチン酸、2位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドであり、PPOは1および2位がパルミチン酸、3位がオレイン酸で構成されるトリグリセリド、と2および3位がパルミチン酸、1位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドとの両方を包含する。PLPは1および3位がパルミチン酸、2位がリノール酸で構成されるトリグリセリドであり、PLOは1位がパルミチン酸、2位がリノール酸、3位がオレイン酸で構成されるトリグリセリド、と3位がパルミチン酸、2位がリノール酸、1位がオレイン酸で構成されるトリグリセリドとの両方を包含する。
【0017】
本発明の高液状性パーム系油脂の製造方法は、(A)ヨウ素価63以上、85以下のパーム系油脂を、リパーゼを用いてエステル交換する工程と、(B)エステル交換する前記工程(A)で得られた該エステル交換油脂を分別して、SSSを除去し、高液状性パーム系油脂を得る工程と、を含む。
このような製造方法では、リパーゼを用いたエステル交換を行った後、固形部と、液状部とを分別し、高融点トリグリセリドを除去する。このような製造方法では、工程(B)を実施した後、工程(A)を再度実施するようなことがなく、品質、特に色、風味が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる。
具体的には、本発明の製造方法によれば、
(i)PPP含量が0.2質量%以下、
(ii)PO(POはパルミチン酸2つとオレイン酸1つで構成されるトリグリセリドを意味する)含量が16質量%以下、
(iii)POP/(POP+PPO)比が0.3以上、0.6以下、
(iv)ヨウ素価が70以上、
であり、かつ、品質、特に色、風味が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる。
【0018】
次に各工程について詳細に説明する。
【0019】
(工程(A))
工程(A)では、ヨウ素価63以上のパーム系油脂を、リパーゼを用いて酵素的エステル交換する。
原料であるヨウ素価63以上のパーム系油脂は、一回以上の分別によって得られたパームオレインであることが好ましい。
さらに、原料のパーム系油脂は、ヨウ素価65以上のパームオレインであることが好ましく、より好ましくは、ヨウ素価67以上のパームオレインである。このように、ヨウ素価63以上のパーム系油脂を使用することで、揚げ物の脂っぽさを低減させて軽い感じに仕上がるという効果を得ることができる。
なお、原料のパーム系油脂のヨウ素価の上限値は、製造効率の観点から、85以下、特には70以下であることが好ましい。
ヨウ素価85を超えるパーム系油脂を用いて本発明の製造方法により、液状性をさらに高めることは可能であるが、本発明の製造方法に用いるヨウ素価85を超えるパーム系油脂を分別で得ようとすると、原料であるパーム油からの収率がかなり低くなり、全工程の製造効率が非常に悪くなる。
原料として、ヨウ素価63以上のパーム系油脂単独で用いても、他の油脂と混合して用いてもよい。特に、原料中にパーム系油脂が大部分を占める場合、例えば、パーム系油脂を単独または実質的に単独で用いた場合や他の油脂の混合率が10質量%以下のような場合に、特に本発明の効果が顕著となる。
酵素的エステル交換に使用するリパーゼは、特に限定されない。しかし、1,3位特異性を有するものでは十分な効果を発揮できない可能性があるため、ランダムエステル交換能を有するものが好ましい。
【0020】
図1は、パーム系油脂のランダムエステル交換を概念的に示した図である。パーム系油脂のランダムエステル交換を行うことにより、油脂中にPPPなどの高融点のトリ飽和脂肪酸グリセリド(SSS)が増加する。パーム系油脂には、POPが多く含まれており、その他の成分として、PPO、OOP、PLP、POL、OOO等が混在している。
パーム系油脂における、POPおよびPPOの合計を基準としたPOP比は通常、約0.9〜約0.8である。ランダムエステル交換を行うことにより、PPP、PPO、およびOOOなどが形成され、POPの比率は減少する(図1を参照)。その後、分別にてPPPなどのトリ飽和脂肪酸グリセリド(SSS)を除去し、油脂中の飽和脂肪酸を減じることによって液状性を向上させることができる。
【0021】
酵素的エステル交換反応条件は、平衡(特にランダム化)に達する条件であれば、特に限定されない。また、反応形態はカラム充填式、バッチ式、またはその他の形態を用いてもよい。
【0022】
(工程(B))
工程(B)では、工程(A)で得られた該エステル交換油脂を分別して、SSSを除去する。
分別は、ドライ分別または溶剤分別を用いることができる。しかしながら、溶剤分別は設備投資が高額であり、しかも操作が煩雑であるため、ドライ分別を用いることが好ましい。本発明ではドライ分別を用いても、高い品質を有する液状部を収率良く得ることができる。
溶剤分別とは、エステル交換油脂を溶剤に溶解して、分別する方法であり、ドライ分別とは、溶剤を使用せずに、エステル交換油脂の晶析を行い分別する方法である。
【0023】
分別の条件は特に限定されないが、エステル交換油脂を分別して、SSSを除去する条件で行う。この工程(B)では、液状性を高めるためにSSSをほぼ完全に除去し、中融点部であるPO等もある程度除去することが好ましい。このような分別条件としては、例えば、分別の最終温度を0〜10℃程度で、30分〜3時間程度行うのが好ましい。
【0024】
本発明では、工程(A)におけるエステル交換は複数回実施せず、工程(B)において、前記エステル交換油脂から分別により、SSSを除去する操作(分別除去操作)を1回以上実施することが好ましい。
このようにすることで、より品質、特に味、風味が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる。
ただし、作業性や、高液状性パーム系油脂の収率等の観点から、工程(B)における分別除去操作は、2回以下であることが好ましい。工程(B)における分別除去操作を2回とした場合には、高液状性パーム系油脂の収率を低下させずに、ヨウ素価の高い高液状性パーム系油脂を得ることができる。
さらに、工程(A)におけるエステル交換および工程(B)における分別除去操作をそれぞれ複数回実施しないことがより好ましい。
このようにすることで、さらに品質、特に味、風味が良好な高液状性パーム系油脂を得ることができる。また、工程(A)におけるエステル交換および工程(B)における分別除去操作をそれぞれ2回以上実施しないことで、作業性が改善され、さらに、ヨウ素価が比較的高い高液状性パーム系油脂を得ることができるとともに、高液状性パーム系油脂の収率もさらに高めることができる。
すなわち、高い収率、良好な作業性、比較的高いヨウ素価の3点を両立させるという観点からは、工程(A)におけるエステル交換および工程(B)における分別除去操作をそれぞれ2回以上実施しないことが好ましい。
【0025】
なお、特許文献3においては、酵素的エステル交換、分別の一連の工程を2回以上繰り返さないと、高い収率で高液状性パーム系油脂を得ることは難しいとされている。これに対し、本発明では、ヨウ素価63以上のパーム系油脂を使用することで、酵素的エステル交換、分別の工程を実施したのち再度酵素的エステル交換、分別の工程を実施しなくても、高い収率で高液状性パーム系油脂を得ることができる。さらに、本発明者は、味、風味が良好な高液状性パーム系油脂を得られ、なおかつ、得られた高液状性パーム系油脂を揚げ物に使用した場合、揚げ物の油っぽさが低減されて軽い感じに仕上がるという効果があることを見出した。
【0026】
ここで、酵素的ランダムエステル交換を行うことにより、POP/PPO比が変化する。パーム系油脂におけるPOPの比率は、POPおよびPPOの合計を基準とした場合約0.9〜約0.8である。一方、ランダムエステル交換すると、POPおよびPPOの合計を基準としたPOP比は約0.33となる。最終的に得られる高液状性パーム系油脂における、POPおよびPPOの合計を基準としたPOP比は、好ましくは0.3以上、0.6以下であり、より好ましくは0.4以上、0.55以下である。
【0027】
図2に、POP/PPO比と融点との関係を示す。図2の縦軸が融点を示し、横軸がPOP/PPO比を示す。POP/PPOの相図によると、POP/PPOが50/50で分子化合物を形成し、POとしては融点が最も低くなる。よって、最終的に得られた油脂組成物のPOPの比がPOPおよびPPOの合計を基準として、約0.5である場合に、PO含量が同じ組成物であれば、最も液状性が高いものが得られる。相図からPOとして析出してくる温度は、ランダムエステル交換した方が低くなることがわかる。従って、ランダムエステル交換を行った方がPPPとPOの融点の差が広がるため、分別時の温度を高くすることができ、PPPを除去しやすくなり、収率が向上する。
【0028】
本発明の方法により製造されるパーム系油脂は、高い液状性を有する。具体的には、本発明の高液状性パーム系油脂は、PPP含量が0.2質量%以下、PO含量が16質量%以下である。該範囲内で、高液状性パーム系油脂は菜種油の配合が50質量%以下でサラダ油規格の冷却試験をクリアすることが可能である。
また、さらに好ましくは、PPP含量が0.05質量%未満、PO含量が12質量%以下であり、このような範囲内であると単独でサラダ油規格の冷却試験をクリアする。
【0029】
さらに、本発明により製造される高液状性パーム系油脂は、POPの比が、POPおよびPPOの合計を基準として、0.3以上、0.6以下であり、通常のパーム系油脂と比較してPPOに対するPOP比が小さいことを特徴とする。さらに好ましくは、POPの比がPOPおよびPPOの合計を基準として、0.4以上、0.55以下である。これに対し、エステル交換を行っていないパーム系油脂原料のPOPの比は、POPおよびPPOの合計を基準として、通常、約0.9〜約0.8である。上述の通り、PO含量が同じ組成物なら、POP/PPOの比が約50/50である場合、すなわちPOPの比が、POPおよびPPOの合計を基準として、約0.5である場合に、最も液状性が高い。本発明の高液状性パーム系油脂は、PPOに対するPOP比が減少されているため、エステル交換されていないPO含量が同じ組成物と比較して液状性が高くなっている。
【0030】
本発明により製造される高液状性パーム系油脂は、ヨウ素価が70以上であり液状性が高い。ヨウ素価は不飽和結合の量を示す指標である。ヨウ素価が高いほど不飽和脂肪酸の量が多いため、液状性が高くなり、好ましい。
【0031】
さらに、高液状性パーム系油脂は、エステル交換の際にアルカリ触媒を用いずに製造されているため、風味がよく、色度も低い。また、菜種油やアルカリ触媒を用いたエステル交換油脂と比較して、耐熱性に優れ、着色上昇率も低い。
【0032】
従って、本発明により製造される高液状性パーム系油脂は液状性が高く、サラダ油への使用にも適したものである。また、従来の菜種油主体のサラダ油と比較して、この高液状性パーム系油脂を高配合で調製したサラダ油は、耐熱性に優れており、フライ油、天ぷら油に使用した場合において風味、色等がよい。また、菜種油は今後、バイオディーゼルの普及により、価格が高騰して供給面でも逼迫すると予測されるが、本発明ではパーム油を利用することにより、価格および供給面においても比較的安定したサラダ油を供給することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
ヨウ素価67のパームオレインを60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にし、Lipozyme TL IM(ノボザイムズ社)を約4kg充填した直径10cmのカラムに流速1.3kg/hで通液してエステル交換を行った(工程(A))。得られたエステル交換油脂のPPP含量は5質量%、PO含量は19質量%、POP/(POP+PPO)比は0.38であった。このエステル交換油脂10kgをDe Smet社のLab Pilot Fractionation Unit(以降の分別も同設備を用いて行った)を用いて70℃で完全溶解後、18℃まで急冷し、18℃で60分、その後14℃で90分、11℃で90分、8℃で120分、5℃で150分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にて、ろ別し、ヨウ素価79、PPP含量0質量%、PO含量9質量%、POP/(POP+PPO)比0.48の液状部を収率64%で得た(工程(B))。
なお、POP/(POP+PPO)比は液体クロマトグラフィーにて、先ずはODSカラム(LiChrosorb RP-18 5μm/GL−Pack、ジーエルサイエンス社製)を用いてトリグリセリド種を分画してPO画分を分取後、PO画分を銀イオンカラム(ChromSpher 5 Lipids、VARIAN社製)を用いてPOPとPPOを分画し、その比を測定した。ヨウ素価は社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996に準じて測定した。後述する実施例、比較例においても、同様である。
また、工程(A)におけるエステル交換、工程(B)における分別除去操作はそれぞれ1回のみ実施された。
【0035】
(実施例2)
ヨウ素価63のパームオレインを実施例1と同様な方法でエステル交換を行った。得られたエステル交換油脂のPPP含量は7質量%、PO含量は21質量%、POP/(POP+PPO)比は0.38であった。このエステル交換油脂10kgを実施例1と同様な方法で晶析、ろ別を行って、ヨウ素価76、PPP含量0質量%、PO含量13質量%、POP/(POP+PPO)比0.49の液状部を収率58%で得た。
工程(A)におけるエステル交換、工程(B)における分別除去操作はそれぞれ1回のみ実施された。

【0036】
(実施例3)
ヨウ素価63のパームオレインを実施例1と同様な方法でエステル交換を行った(工程(A))。得られたエステル交換油脂のPPP含量は7質量%、PO含量は21質量%、POP/(POP+PPO)比は0.38であった。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、18℃まで急冷し、18℃で60分、その後14℃で90分、11℃で90分、8℃で120分、5℃で120分、4℃で60分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価78、PPP含量0質量%、PO含量10質量%、POP/(POP+PPO)比0.49の液状部を収率53%で得た(工程(B))。
また、工程(A)におけるエステル交換、工程(B)における分別除去操作はそれぞれ1回のみ実施された。
【0037】
(実施例4)
ヨウ素価63のパームオレインを実施例1と同様な方法でエステル交換を行った(工程(A))。得られたエステル交換油脂のPPP含量は7質量%、PO含量は21質量%、POP/(POP+PPO)比は0.38であった。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、24℃まで急冷し、その後30℃で50分、26℃で50分、22℃で70分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価71、PPP含量1質量%、P2O含量19質量%の液状部を収率87%で得た。得られた液状部を70℃で完全溶解後、14℃まで急冷し、その後14℃で60分、11℃で90分、8℃で120分、6℃で120分、4℃で120分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価80、PPP含量0質量%、PO含量8質量%、POP/(POP+PPO)比0.49の液状部を収率60%で得た。ヨウ素価63のパームオレインからの収率は52%であった(工程(B))。
本実施例では、工程(A)におけるエステル交換は1回のみ実施され、工程(B)における分別除去操作は2回実施された。
【0038】
(実施例5)
ヨウ素価68のパームオレインを実施例1と同様な方法でエステル交換を行った(工程(A))。得られたエステル交換油脂のPPP含量は5質量%、PO含量は19質量%、POP/(POP+PPO)比は0.38であった。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、18℃まで急冷し、18℃で60分、その後14℃で90分、11℃で90分、8℃で120分、5℃で120分、4℃で60分、3℃で60分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価83、PPP含量0質量%、PO含量4質量%、POP/(POP+PPO)比0.49の液状部を収率51%で得た(工程(B))。また、工程(A)におけるエステル交換、工程(B)における分別除去操作はそれぞれ1回のみ実施された。
【0039】
(比較例1)
ヨウ素価60のパームオレインを実施例1と同様な方法でエステル交換を行った。得られたエステル交換油脂のPPP含量は10質量%、PO含量は26質量%、POP/(POP+PPO)比は0.37であった。このエステル交換油脂10kgを実施例1と同様な方法で晶析、ろ別を行って、ヨウ素価72、PPP含量0.3質量%、PO含量18質量%、POP/(POP+PPO)比0.44の液状部を収率26%で得た。ろ過性は非常に悪かった。
【0040】
(比較例2)
撹拌機のついた反応装置にヨウ素価67のパームイオレイン10kgを投入し、60℃、減圧下で窒素バブリングを行い、残存水分を50ppm以下にした後、窒素気流下で触媒であるナトリウムメトキシド30gを添加した。窒素気流下、60℃で2時間撹拌し、エステル交換を行った。触媒を除去するために中性になるまで水洗を行った後、減圧下で水分を除去し、エステル交換油脂を収率92%で得た。得られたエステル交換油脂のPPP含量は5質量%、PO含量は19質量%、POP/(POP+PPO)比は0.37であった。このエステル交換油脂10kgを実施例1と同様な方法で晶析、ろ別を行って、ヨウ素価78、PPP含量0質量%、PO含量11質量%、POP/(POP+PPO)比0.47の液状部を収率60%で得た。全工程の収率は56%であった。
【0041】
(比較例3)
ヨウ素価57のパームオレインを実施例1と同様な方法でエステル交換を行った。得られたエステル交換油脂のPPP含量は11質量%、PO含量は28質量%、POP/(POP+PPO)比は0.30であった。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、28℃まで急冷し、その後32℃で90分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価62、PPP含量3質量%、PO含量30質量%、POP/(POP+PPO)比0.33の液状部を収率80%で得た(1サイクル目)。この液状部を再度同様な方法でエステル交換を行い、PPP含量9質量%、PO含量24質量%のエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、26℃まで急冷し、その後32℃で40分、30℃で30分、28℃で40分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価66、PPP含量2質量%、PO含量25質量%の液状部を収率85%で得た(2サイクル目)。得られた液状部を再度同様な方法でエステル交換を行い、PPP含量6質量%、PO含量22質量%、POP/(POP+PPO)比0.26のエステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂10kgを70℃で完全溶解後、19℃まで急冷し、その後25℃で45分、20℃で30分、15℃で90分、10℃で120分、5℃で120分晶析を行い、フィルタープレス(12barまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価75、PPP含量0.1質量%、PO含量16質量%、POP/(POP+PPO)比0.47の液状部を収率66%で得た(3サイクル目)。全工程の収率は45%であった。
【0042】
(比較例4)
比較例3の3サイクル目のエステル交換油脂(PPP含量6%、PO含量22%、POP/(POP+PPO)比0.26)を70℃で完全溶解後100mlビーカーに90g採取し、撹拌機で撹拌しながら(20rpm)12℃まで急冷し、その後25℃で60分、20℃で30分、15℃で30分、10℃で30分、5℃で30分晶析を行い、フィルタープレス(12brまで加圧)にてろ別し、ヨウ素価78、PPP含量0%、PO含量12%、POP/(POP+PPO)比0.48の液状部を収率61%で得た。全工程の収率は41%であった。
【0043】
(試験例1:油脂組成物の冷却試験)
実施例1〜5および比較例1〜4で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行った。得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものおよび得られた油脂組成物単独について、JASのサラダ油規格をクリアするかを確認するための冷却試験(0℃、5.5h)を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
上記結果より、実施例1〜5および比較例2〜4で得られた油脂組成物は、菜種油と50質量%配合した場合、サラダ油規格の冷却試験(0℃、5.5h)をクリアした。実施例1、3〜5および比較例2、4で得られた油脂組成物は単独(100%)でも冷却試験をクリアした。しかし、比較例1で得られた油脂組成物を菜種油とそれぞれ50質量%配合した場合は、冷却試験をクリアできず、比較例1で得られた油脂組成物の液状性は十分満足できるものではなかった。
また、実施例1〜5に比べ、比較例1、3、4では、高液状性パーム系油脂の収率が悪いことがわかった。
【0046】
(試験例2:油脂組成物の色度)
実施例1〜5および比較例1〜4で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行って、ロビボンド比色計(The Tintometer社製)を用いて色度を測定した(社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.2.1.1−1996に準ずる)。結果を表2に示す。なお、用いたセルのサイズは1インチである。また、表2中のRは赤色を、Yは黄色を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
上記結果より、実施例1〜5および比較例1、3、4で得られた油脂組成物に比べて、比較例2で得られた油脂組成物は色度が非常に高く、他の液状油を、混合油全体を基準として50質量%配合したとしても、サラダ油として商品にするには耐え難いものであった。また、実施例1〜5および比較例1で得られた油脂組成物は、比較例3、4で得られた油脂組成物よりもやや色度が低かった。
【0049】
(試験例3:油脂組成物の風味試験)
実施例1〜5および比較例1〜4で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行い、精製直後と缶容器に移し密栓をして25℃の恒温器に6ヵ月保存後の風味をパネラー10名が評価した。評価は5点法にて行い、5点:新鮮で非常においしい、4点:非常においしい、3点:おいしい、2点:ややまずい、1点:まずい、とし、平均点を算出した。結果を表3に示す。表3中の評価は比較例3を基準にして、比較例3の評点+0.3以上を「○」、比較例3の評点−0.3を超え、比較例3の評点+0.3未満を「△」、比較例3の評点−0.3以下を「×」とした。
【0050】
【表3】

【0051】
上記結果より、実施例1〜4および比較例1で得られた油脂組成物は、比較例3、4よりも風味が良好であり、風味の点でサラダ油として十分使用できるものであった。また、比較例2で得られた油脂組成物は精製直後でも風味が悪く、サラダ油としての使用には適さないものであった。
【0052】
(試験例4:油脂組成物の空加熱試験)
実施例1、2、5および比較例1〜4で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行った後、それぞれにシリコーン2ppmを添加した。このようにしてシリコーンが添加された実施例1、2、5および比較例1〜4の油脂組成物と菜種油(シリコーン2ppm含有)とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物を、直径18cmの丸底磁製皿に300g採取し、180℃、5時間空加熱を行った。比較として菜種油(シリコーン2ppm含有)の空加熱試験も行った。常温まで戻した後、アニシジン価、粘度上昇率(空加熱前との比較)および着色上昇率(空加熱前との色度比較)を比較した。結果を表4に示す。
アニシジン価、粘度、色度は、以下のように測定した。
アニシジン価は、社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.5.3−1996に準じて測定した。粘度は、社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.2.10.1−1996に準じて測定した。色度は、試験例2と同様に社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.2.1.1−1996に準じて測定した。
また、粘度上昇率および着色上昇率は、以下の式から算出した。
粘度上昇率(%)=(空加熱後の粘度/空加熱前の粘度)×100−100
着色上昇率(%)=(空加熱後の色度/空加熱前の色度)×100−100
【0053】
【表4】

【0054】
上記結果より、実施例1、2、5および比較例1〜4で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物は、サラダ油の主体である菜種油よりも耐熱性が良かった。比較例2で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものは、実施例1、2、5および比較例3、4で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものよりも、着色上昇率がかなり劣っていた。また、実施例1、2、5および比較例1と比較例3、4で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合した油脂組成物を比較すると、比較例3、4で得られた油脂組成物と菜種油とをそれぞれ50質量%配合したものが、着色上昇率がやや劣った。
【0055】
(試験例5:油脂組成物の天ぷら風味試験)
実施例1、2および比較例1〜4で得られた油脂組成物を通常の精製(脱酸/脱色/脱臭)を行った。実施例1、2および比較例1〜4の油脂組成物に、混合油全体を基準として菜種油を50質量%配合した油脂組成物を、直径18cmの丸底磁製皿に300g採取した。170℃で下記の材料を用いて天ぷらを作り、天ぷらの風味をパネラー10名が評価した。評価は試験例3と同様におこなった。なお、比較として菜種油の風味試験も行った。結果を表5に示す。また、天ぷらの油っぽさについてもパネラー10名が評価した。評価は5点法にて行い、5点:油っぽくない、4点:若干油っぽい、3点:やや油っぽい、2点:油っぽい、1点:非常に油っぽい、とし、平均点を算出した。結果を表6に示す。表5、6中の評価は比較例3を基準にして、比較例3の評点+0.3以上を「○」、比較例3の評点−0.3を超え、比較例3の評点+0.3未満を「△」、比較例3の評点−0.3以下を「×」とした。
使用した材料: 海老 2尾、南瓜 2切れ
バッター組成: 卵 50g、水 150g、小麦粉 100g
【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
上記結果より、菜種油を50質量%配合した実施例1、2および比較例1で得られた油脂組成物で揚げた天ぷらは、菜種油を50質量%配合した比較例3、4で得られた油脂組成物および菜種油で揚げた天ぷらよりも風味が良好であった。さらに、菜種油を50質量%配合した実施例1、2で得られた油脂組成物で揚げた天ぷらは、菜種油を50質量%配合した比較例1、3、4で得られた油脂組成物や菜種油で揚げた天ぷらよりも油っぽくなく軽い感じで仕上がった。従って、本発明の製造方法で得られた油脂組成物は、揚げ物の油っぽさが低減されて軽い感じに仕上がるという効果を有する天ぷら油として使用できることがわかった。また、比較例2で得られた油脂組成物は風味が悪く、天ぷら油としての使用には適さないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヨウ素価63以上、85以下のパーム系油脂を、リパーゼを用いてエステル交換する工程と、
(B)前記工程(A)で得られた該エステル交換油脂から、分別により、SSS(Sは飽和脂肪酸で、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去し、高液状性パーム系油脂を得る工程とを含む高液状性パーム系油脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高液状性パーム系油脂の製造方法において、
前記工程(A)におけるエステル交換は複数回実施せず、
前記工程(B)において、前記エステル交換油脂から、分別によりSSS(Sは飽和脂肪酸で、SSSは飽和脂肪酸3つで構成されるトリグリセリドを意味する)を除去する操作を1回以上実施する高液状性パーム油脂の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高液状性パーム系油脂の製造方法において、
前記工程(A)では、前記パーム系油脂として、パーム油を1回以上分別して得られたヨウ素価63以上のパームオレインを使用する高液状性パーム系油脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の高液状性パーム系油脂の製造方法において、
前記工程(A)のエステル交換において、ランダムエステル交換能を有するリパーゼを用いる、高液状性パーム系油脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の高液状性パーム系油脂の製造方法において、
前記工程(B)において、分別をドライ分別にて行う高液状性パーム系油脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−92059(P2011−92059A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247932(P2009−247932)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】