説明

高減衰支承用ゴム組成物および高減衰支承体

【課題】高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させた高減衰支承用ゴム組成物および高減衰支承体を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/g以上250m2/g以下であり、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、かつ、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)が10cm3/100g以下であるカーボンブラックを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁支承用などとして好適に用いることができる高減衰支承用ゴム組成物および高減衰支承体に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高架道路などの構造物の支承や建築物の基礎免震には、ゴム支承などの支承体が用いられている。ゴム支承とは、一般に複数個の鋼板等の硬質板と粘弾性的性質を有するゴム材料からなるゴム組成物とを交互に積層した積層体である。ゴム支承は、上部構造(例えば、主桁・主構など)と下部構造(例えば、橋台や橋脚など)との接点に設置される部材であり、ビルや橋梁等の建造物の上部構造の荷重を支え、かつ前記建造物を地震等により引き起こされる震動によって生じる上部構造及び下部構造の変位に対して追従できるようにしている。ゴム支承は、硬質板とゴム組成物とを交互に積層し、両者を強固に接着させることで、建造物の上部構造に対する耐荷重性の向上を図ると共に、地震などの震動で生じる水平力をゴムの弾力性で分散させるようにしている。
【0003】
また、ゴム支承には、地震などの振動エネルギーをゴムで吸収するようにした減衰性能を有する免震用のゴム組成物が用いられる。免震用のゴム支承用として用いられるゴム組成物には、高い減衰性(振動をより多くの熱に変換して振動エネルギーを減衰させる)を有することが要求されている。
【0004】
このような免震用のゴム支承に用いられるゴム組成物として、ジエン系ゴム100質量部と、窒素吸着比表面積(N2SA)が150〜300m2/gであり、DBP吸収量が115cm3/100g以下であり、かつ、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差が5〜34m2/gであるカーボンブラック50〜90質量部とを含有するゴム組成物が提案されている。このゴム組成物によれば、減衰性が高く、長期に渡り安定した特性を発揮させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、天然ゴムを主成分とし、窒素吸着比表面積(N2SA)が100〜140m2/g、CTAB吸着比表面積が100〜130m2/g、DBP吸収量が90〜120ml/100g、ΔDBP(24M4DBP吸油量−DBP吸油量)が10〜30cm3/100gのカーボンブラックをゴム成分100質量部に対し、30〜80質量部添加してなるゴム組成物が提案されている。このゴム組成物によれば、天然ゴムであっても優れた減衰性を発揮し、温度に依存せず安定的に優れた減衰性を発揮させることができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−246655号公報
【特許文献2】特開2008−222874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、防振、除振、免震用として用いられるゴム支承は長期使用に耐えうる必要があり、特に耐疲労性の改善は重要である。減衰性を向上させるためには小粒径のカーボンブラックが用いられ、耐疲労性を向上させるには大粒径で高ストラクチャーのカーボンブラックが用いられるため、減衰性と耐疲労性とは二律背反の関係にある。そのため、従来のような上記特許文献1、2に記載のゴム組成物では、減衰性を向上させるようにしているが、耐疲労性の更なる改善が望まれている、という問題がある。
【0008】
ゴム支承として長期使用に耐えられるようにするため、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させたゴム組成物が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させた高減衰支承用ゴム組成物および高減衰支承体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、次に示す(1)〜(5)である。
(1) 窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/g以上250m2/g以下であり、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、かつ、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)が10cm3/100g以下であるカーボンブラックを含有することを特徴とする高減衰支承用ゴム組成物。
(2) 天然ゴムと、該天然ゴム以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムとを含有し、
前記カーボンブラックの含有量が、前記天然ゴムと該天然ゴム以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムとを合計したゴム100質量部に対し、50質量部以上95質量部以下であることを特徴とする上記(1)に記載の高減衰支承用ゴム組成物。
(3) 更に、石油樹脂を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高減衰支承用ゴム組成物。
(4) 前記石油樹脂の含有量が、前記ゴム100質量部に対して、5質量部以上45質量部以下であることを特徴とする上記(3)に記載の高減衰支承用ゴム組成物。
(5) 上記(1)〜(4)の何れか1つに記載の高減衰支承用ゴム組成物からなる軟質板と剛性を有する硬質板とを交互に積層してなることを特徴とする高減衰支承体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カーボンブラックのN2SAが150m2/g以上250m2/g以下であり、DBP吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量との差(ΔDBP)を10cm3/100g以下とすることで、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させた高減衰支承用ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の高減衰支承体の一例を簡略に示す断面概略図である。
【図2】図2は、ラップシェア型せん断試験用試料を模式的に示す側面図である。
【図3】図3は、ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線の一例を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について詳細に説明する。なお、この実施の形態及び実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施の形態]
本発明の高減衰支承用ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/g以上250m2/g以下であり、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、かつ、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)が10cm3/100g以下であるカーボンブラックを含有する高減衰支承用ゴム組成物である。以下、本発明の組成物に用いられる各成分について説明する。
【0015】
<カーボンブラック>
本発明の組成物に用いられるカーボンブラックは、上述のように、窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/g以上250m2/g以下であり、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、かつ、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)が10cm3/100g以下のカーボンブラックである。
【0016】
(窒素吸着比表面積)
窒素吸着比表面積(N2SA)とは、窒素吸着法による比表面積をいい、窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック等の粉体粒子の全比表面積を測定する方法である。通常、窒素吸着比表面積(N2SA)の値が大きいほどカーボンブラックの粒径が小さくなる傾向がある。また、窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K6217−2−2001に記載の「窒素吸着法−単点法」に準じて測定される。
【0017】
本発明においては、窒素吸着比表面積(N2SA)は、150m2/g以上250m2/g以下であり、175m2/g以上225m2/g以下が好ましく、185m2/g以上215m2/g以下がより好ましい。窒素吸着比表面積(N2SA)が上記範囲であると、本発明の高減衰支承用ゴム組成物の加工性と、後述する本発明の高減衰支承体の減衰性とのバランスが良好となる。
【0018】
(DBP吸油量)
フタル酸ジブチル(DBP)吸油量とは、カーボンブラックがフタル酸ジブチル(DBP)を吸収する能力の尺度であり、DBP吸油量は、カーボンブラック構成単位粒子同士のつながりの発達度合い(ストラクチャー)の指標となるものである。同程度の粒子径を有するカーボンブラックであれば、DBP吸油量の値が小さいほどカーボンブラックのストラクチャーが小さくなる傾向がある。また、DBP吸油量は、JIS K6217−4−2008に記載の「オイル吸収量の求め方」に準じて測定される。
【0019】
本発明においては、DBP吸油量は、80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、95cm3/100g以上113cm3/100g以下が好ましく、99cm3/100g以上110cm3/100g以下が更に好ましい。一般に高ストラクチャー化とすることによりゴムマトリックス中への分散性を改良することができるが、DBP吸油量が115cm3/100gを超えると支承用ゴムとして重要な特性の一つである伸び特性が低下したり、混練り時の加工性が低下するおそれがある。また、DBP吸油量が80cm3/100g未満になると弾性率が低下して、バネ特性が十分でなくなるおそれがあるからである。
【0020】
(ΔDBP)
ΔDBPとは、上記DBP吸油量と、24000psiで4回圧縮した試料について測定された圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP=DBP吸油量−24M4DBP吸油量)を示す値である。ΔDBPは、ゴムとの混練り後におけるカーボンブラックのストラクチャー特性を評価する指標となるものである。24M4DBP吸油量は、ストラクチャー破壊後(ゴムとの混練り後)におけるDBP吸油量を示すものであり、圧縮DBP吸油量を24M4DBP吸油量と表記することもある。
【0021】
本発明においては、ΔDBPは、0cm3/100gよりも大きく10cm3/100g以下であり、3cm3/100g以上9cm3/100g以下が好ましく、5cm3/100g以上9cm3/100g以下がより好ましい。ΔDBPが10cm3/100gを超えると、ストラクチャーの壊れやすい構造の割合が大きくなり、ゴムとの混練り中にストラクチャーが破壊され、十分な強度を得ることができない虞があるためである。ΔDBPを上記範囲で制御したカーボンブラックを配合して得られるゴム組成物は高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させることができる。
【0022】
(凝集体分布の半値幅とストークス径との比)
凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比(D50/Dst)は、製造されるカーボンブラックの分布の程度を表し、この値が小さいほど凝集体分布がシャープとなる。ストークス径(Dst)とは、カーボンブラックを遠心沈降させ、光学的に得た凝集体のストークス相当径の分布曲線における最大頻度のストークス相当径をいう。また、半値幅(D50)とは、ストークス相当径最大頻度の50%の頻度が得られる位置の分布曲線の幅をいう。本発明においては、次のように測定する。まず、カーボンブラックを水に加え、カーボンブラック濃度を0.05質量%にした後、超音波で充分に分散させた試料溶液を調製する。次いで、スピン液(蒸留水)10mLを回転ディスク(回転数:8000rpm)に加えた後、上記試料溶液を0.2ml注入し、遠心沈降を開始させ、光電沈降法により吸光度を測定する。その結果から、凝集体分布曲線を作成し、凝集体分布の半値幅(D1/2)およびストークス径(Dst)を算出する。なお、吸光度の測定には、Disk Centrifuge Photo sedimentometer(Joice Loebl社製)を使用する。
【0023】
本発明においては、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比(D50/Dst)は、0.78以下であるのが好ましく、0.65以上0.78以下であるのがより好ましく、0.68以上0.78以下であるのが更に好ましい。凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比(D50/Dst)が上記範囲にあると、凝集体分布がシャープ化され、これによりカーボンブラックの分散性が良好となり、本発明の組成物の加工性も良好となる。
【0024】
本発明の組成物に用いられるカーボンブラックの含有量は、後述する天然ゴム(NR)と天然ゴム(NR)以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムとを合計したゴム100質量部に対し、50質量部以上95質量部以下であり、55質量部以上90質量部以下であるのが好ましく、60質量部以上85質量部以下であるのがより好ましい。上記カーボンブラックの含有量を上記範囲として後述する天然ゴム(NR)と天然ゴム(NR)以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムからなるゴム成分に混合することにより、本発明の組成物の加工性が良好となり、高いせん断弾性率が維持され、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させることができる。
【0025】
(製造方法)
本発明のカーボンブラックの製造方法は特に限定されず、燃焼条件、高温燃焼ガス流速、原料油の導入条件、反応停止時間等を適宜制御することによって製造することができる。具体的には、例えば、原料炭化水素をカーボンブラックに転化させる反応帯域において、焼成ガスを均一にして、高温(1600℃以上)かつ短時間(100m秒以内)で熱分解反応させる方法等が挙げられる。
【0026】
<ジエン系ゴム>
本発明の組成物に用いられるジエン系ゴムは、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらのジエン系ゴムの平均分子量、単量体構成モル比、ハロゲン化率等は特に限定されず、用いられる用途に応じて任意に設定できる。
【0027】
これらのうち、本発明の組成物の加工性が良好となり、本発明の高減衰支承体の減衰性も良好となることから、ゴム成分として天然ゴム(NR)を用いるのが好ましい。
また、後述する本発明の高減衰支承体の減衰性、せん断弾性率の温度依存性を低減させることができることから、ゴム成分として天然ゴム(NR)の他にブタジエンゴム(BR)を用いるのが好ましい。
【0028】
本発明においては、上記天然ゴム(NR)の他に、上記天然ゴム(NR)以外の少なくとも1つ以上の上記ジエン系ゴムを併用するのが好ましい。上記NRと、上記NR以外の2種以上の上記ジエン系ゴムを併用する場合の好適な組み合わせとしては、ゴム成分同士の相溶性、加工性、グリーン強度および加硫物性に優れ、また、後述する本発明の高減衰支承用ゴム組成物を用いた高減衰支承体の温度依存性と減衰性を確保できるものが好ましい。例えば、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)との併用系、天然ゴム(NR)とイソプレンゴム(IR)とブタジエンゴム(BR)との併用系が好適に挙げられる。中でも、この特性がより優れる点で、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)との併用系がより好ましい。これらの混合比率は特に限定されない。また、天然ゴム(NR)に代えてイソプレンゴム(IR)とブタジエンゴム(BR)との併用系も好適に用いられる。
【0029】
<石油樹脂>
本発明の組成物は、更に、石油樹脂を含有するのが好ましい。上記石油樹脂としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体等を使用することができる。このような石油樹脂を含有することにより、加硫後の引張強さや切断時伸び等の物性が良好となり、また、後述する本発明の高減衰支承体の減衰性がより高くなる。また、このような石油樹脂は、後述する石英とカオリナイトとの凝集体と組み合わせて用いると高減衰性および優れたせん断弾性率を安定して発揮できる。
【0030】
C5系の脂肪族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC5留分中に含まれる、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンのようなオレフィン系炭化水素;2−メチル−1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンのようなジオレフィン系炭化水素;等が挙げられる。これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0031】
C9系の芳香族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC9留分中に含まれる、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンのようなビニル置換芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC9系の芳香族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC9系の芳香族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0032】
また、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、この共重合体の軟化点が高くなる点で、C9系の芳香族不飽和炭化水素ユニットが60モル%以上であるものが好ましく、90モル%以上であるものがより好ましい。C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、適当な触媒の存在下で、共重合可能である。
【0033】
本発明においては、上記石油樹脂は、ジエン系ゴムの物性に対し、その分子量および二重結合の反応性が影響を与えるので、軟化点(JIS K2207)が100℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。
【0034】
また、本発明においては、上記石油樹脂の含有量は、天然ゴム(NR)と天然ゴム(NR)以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムとを合計したゴム100質量部に対して、5質量部以上45質量部以下であるのが好ましく、10質量部以上45質量部以下であるのがより好ましい。石油樹脂の含有量が上記範囲であると、高い減衰性を維持しつつ、温度依存性が小さく、長期の繰り返しせん断変形に対する安定性を悪化させることのないバランスの取れた高減衰支承体を得ることができる。
【0035】
更に、本発明においては、後述する無機充填剤と上記石油樹脂との質量比(無機充填剤/石油樹脂)は、石油樹脂の含有量が上記質量部の範囲において、1/0.2以上1/3.5以下であるのが好ましく、1/1以上1/3.0以下であるのがより好ましく、1/1以上1/2.5以下であるのが更に好ましい。無機充填剤と上記石油樹脂との質量比が上記範囲であると、高減衰性、繰り返しせん断変形に対する安定性に優れる高減衰支承体を得ることができる。
【0036】
<シリカ>
本発明の組成物は、更に、シリカを含有するのが好ましい態様の1つである。シリカは、従来公知のものを用いることができ、その具体例としては、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等を挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、シリカは、平均凝集粒径が、5μm以上50μm以下のものが好ましく、5μm以上30μm以下のものがより好ましい。
【0037】
本発明においては、上記シリカの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5質量部以上35質量部以下であるのが好ましく、10質量部以上30質量部以下であるのがより好ましい。シリカの含有量が上記範囲であると、減衰性およびせん断弾性率が優れた高減衰支承体を得ることができる。
【0038】
<無機充填剤>
本発明の組成物は、更に、無機充填剤を含有するのが好ましい態様の1つである。上記無機充填剤には、上述したカーボンブラックおよびシリカは含まれない。使用される無機充填剤としては、例えば、T−クレー、カオリンクレー、ろう石クレー、セリサイトクレー、焼成クレー等のソフトクレー;けいそう土;重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、石英とカオリナイトとの凝集体;等が挙げられる。これらのうち、後述する本発明の高減衰支承体の減衰性および繰り返しせん断変形に対する物性の安定性を特に高く保つことができるという観点から、T−クレー、カオリンクレー、石英とカオリナイトとの凝集体が好ましい。
【0039】
ここで、上記石英とカオリナイトとの凝集体は、従来公知のものを使用することができる。中でも、塊状石英と板状のカオリナイトとの天然結合物であることが好ましい。市販品としては、例えば、シリチン(シリチンZ86、シリチンV85、シリチンN82、シリチン85、シリチンN87、(いずれもホフマンミネラル社製))等が好適に挙げられる。なお、人工的に製造された同様の構造を有するものを用いることもできる。
【0040】
本発明の組成物は、上述したように、上記石英とカオリナイトとの凝集体を含む場合、特に、減衰性およびせん断弾性率の安定性改善効果に優れ、上記石油樹脂と組み合わせて用いると、減衰性およびせん断弾性率をより安定して発揮することができる。
【0041】
また、上記石英とカオリナイトとの凝集体を構成する石英とカオリナイトの質量比(石英/カオリナイト)は特に限定されないが、後述する本発明の高減衰支承体が繰り返しせん断変形されても、より高い減衰性およびより優れたせん断弾性率を安定して発揮できるという理由から、石英とカオリナイトの質量比は、12/1以上1/1以下であるのが好ましく、9/1以上2/1以下であるのがより好ましい。
【0042】
更に、上記石英とカオリナイトとの凝集体は、石英とカオリナイトとの他に、例えば、酸化鉄、リン成分、硫黄成分を含むことができる。このような凝集体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明においては、上記無機充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5質量部以上55質量部以下が好ましく、10質量部以上50質量部以下がより好ましく、15質量部以上40質量部以下が更に好ましい。無機充填剤の含有量が上記範囲であると、高い減衰性を維持しつつ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率を安定な高減衰支承体を得ることができる。
【0044】
また、本発明においては、上記シリカと上記無機充填剤との合計量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、20質量部以上75質量部以下であるのが好ましく、30質量部以上65質量部以下であるのがより好ましい。シリカと無機充填剤との合計量がこのような範囲である場合、減衰性がより高くなり、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率がより安定なものとなる、バランスの優れた高減衰支承体が得られる。
【0045】
更に、本発明においては、上記シリカと上記無機充填剤の質量比は、1/1以上1/2.5以下であるのが好ましく、1/1以上1/2.0以下であるのがより好ましい。シリカと無機充填剤との質量比がこの範囲の場合、本発明の組成物の加工性がより良好となる。
【0046】
<添加剤>
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有することができる。上記添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、加硫助剤、難燃剤、耐候剤、耐熱剤等が挙げられる。加硫剤としては、具体的には、例えば、硫黄;TMTDなどの有機含硫黄化合物;ジクミルペルオキシドなどの有機過酸化物;等が挙げられる。加硫促進剤としては、具体的には、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)などのスルフェンアミド類;メルカプトベンゾチアゾールなどのチアゾール類;テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム類;ステアリン酸;等が挙げられる。老化防止剤としては、具体的には、例えば、TMDQなどのケトン・アミン縮合物;DNPDなどのアミン類;スチレン化フェノールなどのモノフェノール類;等が挙げられる。可塑剤としては、具体的には、例えば、フタル酸誘導体(例えば、DBP、DOP等)、セバシン酸誘導体(例えば、DBS等)のモノエステル類等が挙げられる。軟化剤としては、具体的には、例えば、パラフィン系オイル(プロセスオイル)等が挙げられる。
【0047】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述した各成分を配合した未加硫ゴム組成物を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混練等により調製できる。
【0048】
このように、本発明の組成物は、窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/g以上250m2/g以下であり、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、かつ、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)が10cm3/100g以下であるカーボンブラックを含有する高減衰支承用ゴム組成物である。ΔDBPを上記範囲とし、抑制することで、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させた高減衰支承用ゴム組成物を得ることができる。
【0049】
<高減衰支承体>
以下、本発明の高減衰支承体について説明する。本発明の高減衰支承体は、上述した本発明の組成物からなる軟質板と剛性を有する硬質板とを交互に積層することで得られる高減衰支承体であって、本発明の高減衰支承体は、橋梁の支承やビルの基礎免震等に用いられる構造体である。
【0050】
図1は、本発明の高減衰支承体の一例を簡略に示す断面概略図である。図1に示すように、高減衰支承体(免震積層体)10は、高減衰支承体用ゴム組成物(本発明の組成物)からなる軟質板11−1〜11−6と、剛性を有する硬質板12−1〜12−7とが交互に積層されてなるものである。軟質板11−1〜11−6は本発明の組成物からなるものであり、ゴム状弾性板であるため、振動吸収層として機能する。硬質板12−1〜12−7は補強用剛性板であり、硬質板12−1〜12−7としては、特に限定されるものではなく、例えば、一般構造用鋼板、冷間圧延鋼板のような鋼板、セラミックス、プラスチック、繊維強化プラスチック(FRP)などの強化プラスチック、ポリウレタン、木材等、金属、非金属などの各種材料が用いられる。
【0051】
また、高減衰支承体10は、軟質板11−1〜11−6と硬質板12−1〜12−7との間に接着層を設けて構成してもよく、また、接着層を設けずに直接加硫して構成してもよい。
【0052】
また、高減衰支承体10は、軟質板11−1〜11−6と、硬質板12−1〜12−7とを交互に積層させているが、軟質板11−1〜11−6は各々2層以上積層させるようにしてもよい。
【0053】
また、高減衰支承体10は、軟質板11−1〜11−6からなる6層と、硬質板12−1〜12−7からなる7層とからなる13層で構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。高減衰支承体10を構成する軟質板11−1〜11−6と硬質板12−1〜12−7との積層数は、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
【0054】
更に、高減衰構造体10の大きさ、全体の厚さ、軟質板11−1〜11−6の層の厚さ、硬質板12−1〜12−7の厚さ等についても、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
【0055】
高減衰支承体10を製造するには、本発明の組成物をシート状に成形した後に加硫して、本発明のゴム組成物からなるシート状の軟質板11−1〜11−6を形成した後、接着剤を含む層を設けて硬質板12−1〜12−7と交互に積層させてもよい。または、予め未加硫の本発明の組成物をシート状に成形し、硬質板12−1〜12−7と交互に積層した後、加熱して本発明の組成物を加硫し、軟質板11−1〜11−6を形成すると同時に、軟質板11−1〜11−6と硬質板12−1〜12−7とを接着させるようにしてもよい。
【0056】
高減衰支承体10は、上述した本発明の組成物を軟質板11−1〜11−6を構成する材料として用いているため、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させるのに優れるという効果を有する。具体的には、後述するラップシェア型せん断試験により測定する減衰性能の指標となるせん断弾性率(Geq)は、0.87N/mm2以上であるのが好ましく、0.90N/mm2以上であるのがより好ましい。また、同様に測定する等価減衰定数(Heq)は、0.18%以上であるのが好ましく、0.19%以上であるのがより好ましく、0.20%以上であるのが更に好ましい。
【0057】
本発明の高減衰支承体においては、製品各々に要求されるせん断弾性率(Geq)および等価減衰定数(Heq)を満たした上、後述する方法によって求められるGeq変化率およびHeq変化率は以下の範囲であるのが好ましい。本発明の高減衰支承体におけるGeq変化率は、Geqの上昇が小さい(せん断剛性の上昇が小さい)との点から、0.90以上1.15以下が好ましく、0.90以上1.10以下がより好ましく、0.90以上1.05以下が更に好ましい。また、本発明の高減衰支承体におけるHeq変化率は、繰り返しせん断変形に対してHeqの低下が小さい(減衰性の低下が小さい)との点から、0.82以上0.90以下が好ましく、0.84以上0.90以下がより好ましく、0.87以上0.90以下が更に好ましい。
【0058】
(HeqおよびGeq)
等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)は、ラップシェア型せん断試験により測定される。図2は、ラップシェア型せん断試験用試料を模式的に示す側面図である。図2に示すように、ラップシェア型せん断試験用試料20は、圧延した未加硫ゴム組成物21と鋼板22とを配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫して得られる。未加硫ゴム組成物21は、幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延された、本発明の組成物の未加硫ゴム組成物である。鋼板22は、表面がサンドブラストされ、金属接着剤が塗布された鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm)である。
【0059】
ラップシェア型せん断試験は、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用いて、以下に示す条件で行われる。上記のように作製されたラップシェア型せん断試験用試料20を用いて、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃下で、175%歪みを11回加えたときの各1回のせん断特性値の平均(n=10)(Geq、Heq)を求める。Geq、Heqは、上記ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシスループより、下記式(1)、(2)に従って算出する。また、この高減衰支承体を用いて、引き続き、同様の条件で、70%歪みを5000回加えた後に上記せん断特性値と同条件で再度平均せん断特性値(Geq5000、Heq5000)を求める。
【0060】
(Geq変化率およびHeq変化率)
次に、Geq5000をGeqで割ったGeq変化率およびHeq5000をHeqで割ったHeq変化率を求める。このGeq変化率およびHeq変化率によって、支承体が繰り返しせん断変形されたときの物性の変化を評価できる。
【0061】
図3は、支承体のヒステリシス曲線の一例を表したグラフであり、支承体に一方向から周期的にせん断歪みを加えていき、せん断歪みに対して生じる支承体の応力を、横軸に歪み(%)、縦軸に応力をとって示したものである。支承体の等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)は、各々、下記式(1)および式(2)で表される。支承体の等価減衰定数(Heq)は、上記ラップシェア型せん断試験にて得られた図3に示すようなヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、下記式(1)に従って算出される。せん断弾性率(Geq)は、下記式(2)により算出される。
【0062】
【数1】

【0063】
【数2】

【0064】
式(1)中、△Wはヒステリシスループの面積(図3中、斜線部分)である。式(2)中、Keqは下記式(3)で表され、Hは高減衰支承体中に積層されるゴム層の合計の厚みを表し、Aはゴム層の断面積である。
【0065】
【数3】

【0066】
本発明の高減衰支承体10は、防振装置、除振装置、免震装置等の振動エネルギーの吸収装置として用いられればその用途等は、特に限定されるものではない。特に、本発明の高減衰支承体10は、上述のように優れた特性を有することから、例えば、橋梁や高架道路などの構造物の支承、橋梁、建築物の基礎免震、戸建免震用途など各種の免震、除振、防振等の振動エネルギーの吸収装置として好適に用いられる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0068】
<カーボンブラック1〜6の作製>
カーボンブラック製造プラントを用い、窒素吸着比表面積(N2SA)[m2/g]、DBP吸油量[cm3/100g]、24M4DBP吸油量[cm3/100g]およびDBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)[cm3/100g]とが、各々下記表1に示すような値となるようにカーボンブラック1〜6(CB1〜6)を作製した。なお、窒素吸着比表面積はJIS K6217−2−2001に準じて、DBP吸油量はJIS K6217−4−2001に準じて測定を行った。また、CB1、3、4および6については、新日化カーボン(株)に製造を依頼することで入手可能であり、CB2については、新日化カーボン社製の「ニテロン#415UD」、CB5については、新日化カーボン社製「ニテロン#410」という商品名で入手可能である。
【0069】
【表1】

【0070】
<実施例1〜6、比較例1〜14>
[未加硫ゴム組成物を調製]
下記表2に示す組成(単位は質量部)になるように、各成分を配合し、B型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0071】
[ラップシェア型せん断試験用試料の作製]
調製した未加硫ゴム組成物を幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延した。圧延後の未加硫ゴム組成物(図2中の符号21)と、表面をサンドブラストして金属接着剤を塗布した鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm、図2中の符号22)とを、図2に示すラップシェア型せん断試験用試料20のように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫してラップシェア型せん断試験用試料を作製した。
【0072】
上記のように調整した未加硫ゴム組成物の未加硫物性と常態物性と動特性を測定した。
動特性としては、平均せん断特性値(Geq、Heq)と、Geq5000をGeqで割って求められるGeq変化率(Geq5000/Geq)と、Heq5000をHeqで割って求められるHeq変化率(Heq5000/Heq)を求めた。なお、比較例13、14は、実施例1〜3のCB1の配合量を45質量部と100質量部としたときの推定値を求めた。
【0073】
[未加硫物性]
未加硫物性は、未加硫のゴム組成物のムーニー粘度の最低粘度(Vm)を測定したものである。得られた未加硫のゴム組成物について、JIS K6300−1−2001に準じて、L形ロータを使用し、予熱時間1分、試験温度125℃の条件で、ムーニー粘度の最低粘度(Vm)を測定した。結果を表2に示す。また、125℃におけるムーニー粘度の最低粘度(Vm)は、100以下であれば加工性に優れていると判断できるが、量産時における加工性の観点からは90以下であるのが好ましい。
【0074】
[常態物性]
常態物性は、未加硫のゴム組成物の引張強さ(TB)[MPa]、切断時伸び(EB)[%]およびJIS A硬度(Hs)を測定したものである。なお、JIS A硬度(Hs)は、JIS K6253に準じて測定を行った。得られた未加硫ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で45分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。このシートからJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251−2004に準拠して行い、引張強さ(TB)[MPa]、切断時伸び(EB)[%]および硬度Hs(JIS A)を室温にて測定した。結果を表2に示す。
【0075】
[動特性]
動特性は、平均せん断特性値(Geq、Heq)、Geq変化率およびHeq変化率を測定したものである。
(平均せん断特性値(Geq、Heq))
上記ラップシェア型せん断試験用試料に対して、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用い、ラップシェア型せん断試験を行った。なお、各実施例および各比較例で使用したラップシェア型せん断試験用試料の数は10個であった。上記ラップシェア型せん断試験用試料に対し、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃下で、175%歪みを11回加え、ラップシェア型せん断試験を行い、各回毎のせん断特性値の平均を求めた。このラップシェア型せん断試験によって得られたヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、上記式(1)および(2)に従って平均せん断特性値(Geq、Heq)を求めた。結果を表2に示す。ここで、せん断弾性率(Geq)は、高い値が望ましいが、0.87以上であるのが好ましく、0.90以上であるのがより好ましい。また、等価減衰定数(Heq)は、高い値が望ましいが、0.19以上であるのが好ましく、0.20以上であるのがより好ましい。
【0076】
引き続き、当該試料を用いて、上記と同様のせん断試験機により、変形周波数0.5Hz、測定温度23℃下、70%歪みを5000回加えて、再度ラップシェア型せん断試験を行った。上記と同様に平均せん断特性値(Heq5000、Geq5000)を求めた。
【0077】
(Geq変化率およびHeq変化率)
Geq5000をGeqで割りGeq変化率(Geq5000/Geq)を求めた。Geq変化率(Geq5000/Geq)の値は、1.04より小さい場合、せん断弾性係数の特性変化が少なく、好ましい。また、Heq5000をHeqで割りHeq変化率(Heq5000/Heq)を求めた。Heq変化率(Heq5000/Heq)の値は、0.87以上の場合、高せん断弾性係数の高減衰支承用ゴム組成物として好適であり、好ましい。それぞれの結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
上述したCB1〜6以外の表2中の各成分は、以下のものを使用した。
・天然ゴム:STR20、SIAM INDO RUBBER社製
・ブタジエンゴム:NipolBR1220、日本ゼオン社製
・シリカ:ニプシールAQ、東ソー・シリカ社製
・クレー:SUPREX CLAY、ケンタッキーテネシークレイカンパニー社製
・酸化亜鉛:亜鉛華3号、正同化学工業社製
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR、日本油脂社製
・石油樹脂:ハイレジン#120S(軟化点120℃)、東邦化学社製
・老化防止剤:6C、精工化学社製
・ワックス:サンノック、大内新興化学工業社製
・オイル:アロマオイル(AO−MIX、三共油化社製)
・硫黄:粉末イオウ、細井化学工業社製
・加硫促進剤:ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製
【0080】
表1、2から明らかなように、DBP吸油量が所定の範囲にないCB5を用いて調製したゴム組成物を用いた場合は、量産時における加工性の観点から、ムーニー粘度の最低粘度(Vm)が高く、加工性に劣ることが分かった(比較例7〜9参照)。また、DBP吸油量と24M4DBP吸油量との差(ΔDBP)が所定の範囲にないCB3〜6を用いた場合は、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させる観点から、その配合量を増やした場合、Geq変化率が高くなるか、Heq変化率が低くなり、耐疲労性が劣ることが分かった(比較例1〜14参照)。これに対し、窒素吸着比表面積(N2SA)、DBP吸油量、DBP吸油量と24M4DBP吸油量との差(ΔDBP)が所定の範囲となるように調整したCB1、2を用いて調製したゴム組成物は、CB3〜6を用いて調製したゴム組成物に比べ、Geq変化率が低く、Heq変化率が高く維持でき、加工性に優れ、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させるのに優れることが分かった(実施例1、2参照)。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明に係る高減衰支承用ゴム組成物および高減衰支承体は、高い減衰性を維持しつつ、耐疲労性を向上させることができるので、橋梁等の支承、建築物の基礎免震用などに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 高減衰支承体(免震積層体)
11−1〜11−6 軟質板
12−1〜12−7 硬質板
20 ラップシェア型せん断試験用試料
21 圧延した未加硫ゴム組成物
22 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積(N2SA)が150m2/g以上250m2/g以下であり、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が80cm3/100g以上115cm3/100g以下であり、かつ、DBP吸油量と圧縮DBP吸油量(24M4DBP吸油量)との差(ΔDBP)が10cm3/100g以下であるカーボンブラックを含有することを特徴とする高減衰支承用ゴム組成物。
【請求項2】
天然ゴムと、該天然ゴム以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムとを含有し、
前記カーボンブラックの含有量が、前記天然ゴムと該天然ゴム以外の少なくとも1つ以上のジエン系ゴムとを合計したゴム100質量部に対し、50質量部以上95質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の高減衰支承用ゴム組成物。
【請求項3】
更に、石油樹脂を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高減衰支承用ゴム組成物。
【請求項4】
前記石油樹脂の含有量が、前記ゴム100質量部に対して、5質量部以上45質量部以下であることを特徴とする請求項3に記載の高減衰支承用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の高減衰支承用ゴム組成物からなる軟質板と剛性を有する硬質板とを交互に積層してなることを特徴とする高減衰支承体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179594(P2011−179594A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44582(P2010−44582)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】