説明

高減衰組成物およびその製造方法

【課題】生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供する。
【解決手段】少なくともベースポリマを含む高減衰組成物に、水分率が6質量%以下に調整された湿式法シリカを配合する。前記水分率は3質量%以下であるのが好ましい。前記湿式法シリカは、低湿度保管処理、または高温保管処理することで水分率を調整するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする高減衰部材のもとになる高減衰組成物と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をするために、ゴム等をベースポリマとして含む高減衰部材が用いられる。
前記高減衰部材は、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして減衰性能を高める、すなわち前記振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰できるようにするために、前記ベースポリマを含み、損失正接tanδのピークが高減衰部材の使用温度域に入るように調整した高減衰組成物によって形成するのが一般的である。
【0003】
前記高減衰組成物を所定の立体形状に形成するとともに、ベースポリマがゴムである場合は加硫させることで高減衰部材が形成される。
前記高減衰組成物としては、例えばベースポリマに減衰性付与剤としてのシリカとシラン化合物(シリル化剤)とを加え、混練してシリカとシラン化合物とを反応させて調製したもの等が知られている(特許文献1〜3等参照)。
【0004】
またシリカとしては、高温の燃焼工程を必要とする乾式法シリカに比べて、かかる燃焼工程を必要としないためより少ないエネルギーでコスト安価に製造できる湿式法シリカが広く好適に用いられている。
しかし前記従来の高減衰組成物では、高減衰部材の減衰性能を十分に高めることはできない。
【0005】
高減衰部材の減衰性能を現状よりもさらに高めるためには、充てん剤や粘着性付与剤等の配合割合をさらに増加させること等が考えられる。ところが、多量の充てん剤や粘着性付与剤を配合した高減衰組成物は加工性が低下して、所望の立体形状を有する高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり、前記立体形状に成形加工したりするのが容易でないという問題がある。
【0006】
特に工場レベルで高減衰部材を量産する場合、前記加工性の低さは高減衰部材の生産性を大きく低下させ、生産に要するエネルギーを増大させ、さらには生産コストを高騰させる原因となるため望ましくない。
特許文献4では、極性側鎖を有しないベースポリマに、充てん剤としてのシリカと、2以上の極性基を有する減衰性付与剤等とを配合することが検討されている。かかる構成によれば、シリカを併用することで良好な減衰性能を維持しながら、ベースポリマとして極性基を有しないものを用いることで、室温付近での特性の温度依存性を小さくすることができる。
【0007】
しかし、前記2以上の極性基を有する減衰性付与剤としては特殊でかつ高価な材料を用いる必要がある上、現状よりも減衰性能をさらに向上するために前記減衰性付与剤の配合割合を増加させた場合には、高減衰組成物の粘着性が増すため前記加工性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−41603号公報
【特許文献2】特開2009−30016号公報
【特許文献3】特開平6−32945号公報
【特許文献4】特開2009−138053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物と、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくともベースポリマを含む高減衰組成物であって、水分率が6質量%以下に調整された湿式法シリカが配合されていることを特徴とするものである。
本発明では、少なくともベースポリマを含む高減衰組成物に、水分率が6質量%以下に調整された湿式法シリカを選択して配合することにより、前記水分率が調整されていない湿式法シリカを配合する場合に比べて、同等の配合量でより高い減衰性能を得ることができるとともに、同等の減衰性能を得るための湿式法シリカの配合量を少なくすることができる。
【0011】
したがって本発明によれば、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成することができる。
なお前記効果をより一層向上することを考慮すると、湿式法シリカは、水分率が、前記範囲内でも3質量%以下に調整されているのが好ましい。
また湿式法シリカとしては、水分率の調整に要する工数や手間を省くとともに、前記水分率が常に一定した状態で安定的に供給することを考慮すると、温度15℃以下、相対湿度15%以下の環境下で3日間以上保管する低湿度保管処理、または温度85℃以上の環境下で3日間以上保管する高温保管処理によって水分率が前記範囲内に調整されたものを用いるのが好ましい。
【0012】
前記本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の制震用ダンパを形成した場合には、当該制震用ダンパが減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。
本発明は、少なくともベースポリマに湿式法シリカを配合する工程を含む高減衰組成物の製造方法であって、前記配合前の湿式法シリカを、温度15℃以下、相対湿度15%以下の環境下で3日間以上保管する低湿度保管処理、または温度85℃以上の環境下で3日間以上保管する高温保管処理することで、その水分率をあらかじめ6質量%以下に調整しておく工程を含むことを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、前記低湿度保管処理、または高温保管処理の工程を経て湿式法シリカの水分率を6質量%以下に調整した状態で、ベースポリマその他と配合することで、前記本発明の高減衰組成物を、より少ない工数で安定して製造することができる。
なお湿式法シリカの水分率を、本発明では、加熱乾燥式水分計を用いて測定した、質量基準の水分率(質量%)でもって表すこととする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、生産性や高減衰部材を形成する際の加工性等に優れる上、現状よりも減衰性能に優れた高減衰部材を形成しうる高減衰組成物と、その製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する、前記高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〈高減衰組成物〉
本発明は、少なくともベースポリマを含む高減衰組成物であって、水分率が6質量%以下に調整された湿式法シリカが配合されていることを特徴とするものである。
(ベースポリマ)
ベースポリマとしては、湿式法シリカを配合することで高い減衰性能を発揮しうる種々のベースポリマがいずれも使用可能であり、中でもゴムが好ましい。
【0017】
前記ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0018】
特に、減衰性能の温度依存性を小さくして広い温度範囲で安定した減衰性能を示す高減衰部材を提供することを考慮すると、前記の中でも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、およびスチレンブタジエンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種のジエン系ゴムが好ましい。
ゴムは2種以上を併用してもよいが、高減衰組成物の組成を簡略化して前記高減衰組成物、ならびに高減衰部材の生産性を向上し、さらには生産コストを低減することを考慮すると、いずれか1種を単独で用いるのが好ましい。
【0019】
(湿式法シリカ)
高減衰組成物に配合する湿式法シリカの水分率が6質量%以下に限定されるのは、水分率が前記範囲を超える湿式法シリカを配合する場合に比べて、同等の配合量でより高い減衰性能を得ることができるとともに、同等の減衰性能を得るための湿式法シリカの配合量を少なくすることができるためである。
【0020】
前記湿式法シリカの水分率は、前記効果をより一層向上することを考慮すると、前記範囲内でも3質量%以下に調整されているのが好ましい。
なお水分率の下限については特に限定されず、前記効果を考慮すると、水分率は小さいほど好ましい。
ただし、湿式法シリカの水分率は0.1質量%以上であるのが好ましい。湿式法シリカの水分率を前記範囲未満に調整してもそれ以上の効果が得られないだけでなく、当該水分率を、例えば次に説明する低湿度保管処理や高温保管処理等によって調整する際に、これらの処理に長時間を要して、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがある。
【0021】
湿式法シリカの具体例としては、例えば東ソー・シリカ(株)製のNipsil(登録商標)KQ、VN3、AQ、ER等の1種または2種以上が挙げられる。
いずれの湿式法シリカも、周知のように高い吸湿性を有するため、発明者の検討によると従来は、製造後の吸湿等によって水分率が6%を超える状態で市場に提供され、そのままの状態で高減衰組成物に配合されるのが一般的であった。
【0022】
例えば結晶水による含水率が7質量%前後である湿式法シリカは、製造後の吸湿等によってトータルの水分率が8質量%を超えているのが普通であり、従来はそのままの状態で高減衰組成物の製造原料として使用していた。
それでもベースポリマとの混練時の加熱や、あるいはベースポリマとしてのゴムの架橋時の加熱によって水分が除去されるため問題ないと考えられてきたが、今般、発明者が検討したところ、ベースポリマその他と配合して高減衰組成物の調製に使用する原料としての湿式法シリカの水分率を、あらかじめ6質量%以下に調整することにより、前述したように、同等の配合量でより高い減衰性能を得ることができるとともに、同等の減衰性能を得るための湿式法シリカの配合量を少なくできることが明らかとなったのである。
【0023】
湿式法シリカの水分率を6質量%以下に調整するためには、例えば前記水分率が管理されていない通常の湿式法シリカを、
(i) 温度15℃以下、相対湿度15%以下の環境下で3日間以上保管する低湿度保管処理、または
(ii) 温度85℃以上の環境下で3日間以上保管する高温保管処理
するのが好ましい。これらの処理をすることで、水分率の調整に要する工数や手間を省きながら、前記水分率が常に一定範囲に調整された湿式法シリカを安定的に供給することができる。
【0024】
前記(i)の低湿度保管処理の温度が15℃以下、相対湿度が15%以下であるのが好ましいのは、いずれか一方でも前記範囲を超える場合には、湿式法シリカの水分率を6質量%以下に調整するために長時間を要し、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがあるためである。
なお温度は、前記範囲内でも5℃以上であるのが好ましい。温度が前記範囲未満では、温度が低すぎて却って湿式法シリカの水分率を効率的に減少できなくなり、処理に長時間を要して、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがある。
【0025】
また相対湿度は、前記範囲内でも5%以上であるのが好ましい。相対湿度を前記範囲未満としてもそれ以上、湿式法シリカの水分率を効率的に減少する効果が期待できない上、前記低湿度の状態を維持するためのエネルギー量が増加するため、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがある。
さらに(i)の低湿度保管処理の時間は、前記範囲内でも5日間以下であるのが好ましい。処理時間が前記範囲を超えてもそれ以上、湿式法シリカの水分率を効率的に減少する効果が期待できない上、処理に長時間を要して、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがある。
【0026】
また(ii)の高温保管処理の温度が85℃以上であるのが好ましいのは、温度が前記範囲未満では、湿式法シリカの水分率を6質量%以下に調整するために長時間を要し、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがあるためである。
なお温度は、前記範囲内でも95℃以下であるのが好ましい。温度が前記範囲を超える場合は、前記温度を維持するためのエネルギー量が増加するため、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがある。
【0027】
また(ii)の高温保管処理の時間は、前記範囲内でも5日間以下であるのが好ましい。処理時間が前記範囲を超えてもそれ以上、湿式法シリカの水分率を効率的に減少する効果が期待できない上、処理に長時間を要して、高減衰部材の生産性が低下し、生産コストが上昇するおそれがある。
特に(ii)の高温保管処理が好ましい。(i)の低湿度保管処理と比較すると、(ii)の高温保管処理の方が、ほぼ同時間の処理で、水分率を効率よく、より大きく低減することができる。
【0028】
湿式法シリカの配合割合は、ベースポリマ100質量部あたり80質量部以上、特に120質量部以上であるのが好ましく、180質量部以下、特に150質量部以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、湿式法シリカを配合することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。一方、配合割合が前記範囲を超える場合には高減衰組成物の加工性が低下して、高減衰部材を製造するために前記高減衰組成物を混練したり任意の形状に成形加工したりするのが容易でなくなるおそれがある。
【0029】
(その他の成分)
本発明の高減衰組成物には、さらに湿式法シリカ以外の他の充てん剤や、あるいはベースポリマがゴムであるとき当該ゴムを架橋させるための架橋成分等を、適宜の割合で配合してもよい。
前記他の充てん剤としては、例えば炭酸カルシウムやカーボンブラック等が挙げられる。
【0030】
このうち炭酸カルシウムとしては、その製造方法等によって分類される合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等のうち、充てん剤として機能しうる粉末状の炭酸カルシウムがいずれも使用可能である。また炭酸カルシウムとしては、ベースポリマ等に対する親和性、分散性等を向上するために表面処理を施したものを用いてもよい。
またカーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充てん剤として機能しうる種々のカーボンブラックがいずれも使用可能である。
【0031】
カーボンブラックの配合割合は特に限定されないが、ベースポリマ100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下、特に5質量部以下であるのが好ましい。
架橋成分としては、ベースポリマを架橋しうる種々の架橋成分が使用可能である。例えばベースポリマがジエン系ゴムである場合は、硫黄加硫系の架橋成分を用いるのが好ましい。前記硫黄加硫系の架橋成分としては、加硫剤、加硫促進剤、および加硫促進助剤を組み合わせたものが挙げられる。特に高減衰部材のゴム弾性が上昇して減衰性能が低下する問題を生じにくい加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤を組み合わせるのが好ましい。
【0032】
加硫剤としては、例えば硫黄や含硫黄有機化合物等が挙げられる。特に硫黄が好ましい。
加硫促進剤としては、例えばスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤等が挙げられる。加硫促進剤は、種類によって加硫促進のメカニズムが異なるため2種以上を併用するのが好ましい。
【0033】
このうちスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド〕等が挙げられる。またチウラム系加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT〔テトラブチルチウラムジスルフィド〕等が挙げられる。
加硫促進助剤としては例えば亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。通常は両者を加硫促進助剤として併用するのが好ましい。
【0034】
前記加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤の配合割合は、高減衰部材の用途等によって異なる減衰性能やゴム硬さ等の特性に応じて適宜調整すればよい。
本発明の高減衰組成物には、さらに必要に応じてシラン化合物、軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等の各種添加剤を、適宜の割合で配合してもよい。
このうちシラン化合物としては、式(a):
【0035】
【化1】

【0036】
〔式中、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つはアルコキシ基を示す。ただしR、R、R、およびRが同時にアルコキシ基であることはなく、他はアルキル基またはアリール基を示す。〕
で表され、シランカップリング剤やシリル化剤等の、湿式法シリカの分散剤として機能しうる種々のシラン化合物が挙げられる。
【0037】
特にヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のアルコキシシランが好ましい。
前記シラン化合物としては、例えば信越化学工業(株)製のKBE−103(フェニルトリエトキシシラン)等が挙げられる。
シラン化合物の配合割合は特に限定されないが、湿式法シリカ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、25質量部以下であるのが好ましい。
【0038】
軟化剤としては、クマロンインデン樹脂、液状ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
このうちクマロンインデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
【0039】
前記クマロンインデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0040】
クマロンインデン樹脂の配合割合は特に限定されないが、ベースポリマ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
また液状ゴムとしては、室温(3〜35℃)で液状を呈する種々のゴムが挙げられる。前記液状ゴムとしては、例えば液状ポリイソプレンゴム、液状ニトリルゴム(液状NBR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0041】
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。前記液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−50等が挙げられる。
液状ポリイソプレンゴムの配合割合は特に限定されないが、ベースポリマ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、80質量部以下であるのが好ましい。
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂等が挙げられる。また石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
【0042】
前記石油樹脂の配合割合は特に限定されないが、ベースポリマ100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0043】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)MB〔2−メルカプトベンズイミダゾール〕等が挙げられる。またキノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン−アミン縮合物〕等が挙げられる。
両老化防止剤の配合割合は特に限定されないが、ベンズイミダゾール系老化防止剤は、ベースポリマ100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。またキノン系老化防止剤は、ベースポリマ100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0044】
〈高減衰組成物の製造方法〉
前記本発明の高減衰組成物は、前記の各成分を任意の割合で配合し、任意の混練機等を用いて混練することで製造される。
前記配合に先立って、本発明の製造方法では、配合前の湿式法シリカを、前記(i)の低湿度保管処理、または(ii)の高温保管処理することで、その水分率をあらかじめ6質量%以下に調整しておく工程を実施する。
【0045】
これにより本発明の高減衰組成物を、より少ない工数で安定して製造することができる。
なお前記工程終了後の湿式法シリカは、前記保管処理の環境から通常環境に移行させると直ちに吸湿を開始して水分率が増加する傾向がある。そのため前記工程の終了後できるだけ速やかに他の成分と配合するのが好ましい。
【0046】
〈高減衰部材〉
前記本発明の高減衰組成物を所望の立体形状に成形加工するとともに、ベースポリマがゴムである場合は当該ゴムを架橋させることで、所定の減衰性能を有する高減衰部材が製造される。
本発明の高減衰組成物を用いて製造できる高減衰部材としては、例えばビル等の建築物の基礎に組み込まれる免震用ダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用ダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0047】
本発明によれば、前記ベースポリマ、湿式法シリカその他、各種成分の種類とその組み合わせおよび配合割合を調整することにより、前記それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有する高減衰部材を得ることができる。
特に本発明の高減衰組成物を用いて建築物の構造中に組み込まれる制震用ダンパを形成した場合には、当該制震用ダンパが減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。
【実施例】
【0048】
〈実施例1〉
(湿式法シリカの水分率の調整)
湿式法シリカとしては、東ソー・シリカ(株)製のNipSil(ニップシール)KQ〔含水率(カタログ値):7.0質量%〕を用いた。前記湿式法シリカの水分率を、加熱乾燥式水分計〔(株)エー・アンド・デイ製のMX−50〕を用いて測定したところ、処理前の時点で8.4質量%であった。
【0049】
前記湿式法シリカを、次に説明する高減衰組成物の調製に先立ち、温度10℃、相対湿度10%以下の環境下で3日間保管する低湿度保管処理したのち再び水分率を測定したところ5.5質量%であった。
(高減衰組成物の調製)
ベースポリマとしての天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕100質量部に、前記低湿度保管処理終了直後の湿式法シリカ135質量部と、下記表1に示す各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0050】
【表1】

【0051】
表中の各成分は下記のとおり。
カーボンブラック:FEF、東海カーボン(株)製のシーストSO
シラン化合物:フェニルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製のKBE−103
液状ポリイソプレンゴム:軟化剤、(株)クラレ製のLIR50
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のエスクロン(登録商標)G-90
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製
スルフェンアミド系加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N
〈実施例2〉
(湿式法シリカの水分率の調整)
湿式法シリカとしては、東ソー・シリカ(株)製のNipSil(ニップシール)KQを用いた。前記湿式法シリカの水分率は、先に説明したように処理前の時点で8.4質量%であった。
【0052】
前記湿式法シリカを、高減衰組成物の調製に先立ち、温度90℃の環境下で3日間保管する高温保管処理したのち再び水分率を測定したところ2.2質量%であった。
(高減衰組成物の調製)
前記高温保管処理終了直後の湿式法シリカを同量(135質量部)配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0053】
〈比較例1〉
低湿度保管処理も高温保管処理もしていない、水分率が8.4質量%の湿式法シリカを、そのままの状態で同量(135質量部)配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
実施例1、2、比較例1で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに、前記円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0054】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0055】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0056】
測定は、前記操作を3サイクル行って3回目の値を求めた。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち
・ その最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lと、グラフの横軸と、前記直線LとヒステリシスループHとの交点から前記グラフの横軸におろした垂線Lとで囲まれた、同図中に網線を付して示した領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWと、
・ 同図中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、
から、式(1):
【0057】
【数1】

【0058】
により等価減衰定数Heqを求めた。等価減衰定数Heqが大きいほど、試験体3は減衰性能に優れていると判定できる。
そこで、比較例1における等価減衰定数Heqを1.00としたときの、各実施例、比較例の等価減衰定数Heqの相対値を求め、前記相対値が1.10以上のものを、減衰性能の向上効果きわめて良好(◎)、1.05以上のものを良好(○)、1.00以上のものを従来レベル(−)、1.00未満のものを不良(×)と評価した。
【0059】
以上の結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2の実施例1、2の結果より、湿式法シリカとして水分率が6質量%以下に調整されたものを配合することで、現状よりも高減衰部材の減衰性能を向上できることが判った。また実施例1、2の結果より、湿式法シリカの水分率を3質量%以下に調整することで、高減衰部材の減衰性能をさらに向上できることも判った。
【符号の説明】
【0062】
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
直線
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともベースポリマを含む高減衰組成物であって、水分率が6質量%以下に調整された湿式法シリカが配合されていることを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
前記湿式法シリカの水分率は3質量%以下である請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
前記湿式法シリカは、温度15℃以下、相対湿度15%以下の環境下で3日間以上保管する低湿度保管処理、または温度85℃以上の環境下で3日間以上保管する高温保管処理することによって水分率が前記範囲内に調整されている請求項1または2に記載の高減衰組成物。
【請求項4】
建築物の制震用ダンパの形成材料として用いる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項5】
少なくともベースポリマに湿式法シリカを配合する工程を含む高減衰組成物の製造方法であって、前記配合前の湿式法シリカを、温度15℃以下、相対湿度15%以下の環境下で3日間以上保管する低湿度保管処理、または温度85℃以上の環境下で3日間以上保管する高温保管処理することで、その水分率をあらかじめ6質量%以下に調整しておく工程を含むことを特徴とする高減衰組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43912(P2013−43912A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181441(P2011−181441)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】