説明

高減衰組成物

【課題】高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低い高減衰部材を形成できるため、例えば粘弾性ダンパ等を小型化することなしにその弾性率を小さくすることができる高減衰組成物を提供する。
【解決手段】ベースポリマとしてのジエン系ゴムに、シリカI、および表面処理炭酸カルシウムIIを、前記ジエン系ゴム100質量部あたりI+IIが100〜160質量部で、かつ


が10〜50質量%となるように配合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする高減衰部材のもとになる高減衰組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をするために、ゴム等をベースポリマとして含む高減衰部材が用いられる。
前記高減衰部材は、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして減衰性能を高める、すなわち前記振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰できるようにするために、前記ベースポリマを含み、損失正接tanδのピークが高減衰部材の使用温度域に入るように調整した高減衰組成物によって形成するのが一般的である。
【0003】
前記高減衰組成物を所定の立体形状に形成するとともに、ベースポリマがゴムである場合は架橋させることで高減衰部材が形成される。
ベースポリマとしては、ジエン系ゴムが好適に用いられる。前記ジエン系ゴムは、ガラス転移温度が室温(2〜35℃)付近に存在しないため、最も一般的な使用温度域である前記室温付近での、減衰性能の温度依存性を小さくして、広い温度範囲で安定した減衰性能を示す高減衰部材を形成できるという利点がある。
【0004】
高減衰組成物としては、前記ジエン系ゴム等のベースポリマに、減衰性付与剤としてのシリカとシラン化合物(シリル化剤)とを加え、混練してシリカとシラン化合物とを反応させて調製したもの等が知られている(特許文献1等参照)。
建築物の制振用ダンパ、いわゆる粘弾性ダンパは、例えば高減衰組成物のシート等を鋼板等で挟んだ状態で架橋反応させて、高減衰部材としての粘弾性体を形成するとともに、前記粘弾性体を前記鋼板と加硫接着等によって一体化させる等して構成される。
【0005】
前記粘弾性ダンパには、地震の揺れに対する制震機能の他に、風揺れ等の微小変形に対しても制振機能を有することが求められる。
また建築物によっては、前記粘弾性ダンパの弾性率を小さく分散させて、つまり弾性率の小さい粘弾性ダンパを複数個、分散的に配置して使用したいという事例が存在する。
ところが、前記従来の高減衰組成物を架橋させて形成される粘弾性体は、良好な減衰性能を発現するべく多量のシリカを含むため、どうしても剛性が高くなる傾向にある。
【0006】
そのため、かかる剛性の高い粘弾性体を備えた粘弾性ダンパの弾性率を小さくして、微小変形に対して十分な制振機能を発揮できるようにしたり、分散配置の要求を満足したりするために、前記粘弾性ダンパの全体の大きさを小型化することが考えられる。
しかしその場合には、粘弾性体の断面積が小さくなるため、例えば地震による大変形時に、面外方向への回転が大きくなって、場合によっては粘弾性体が破壊されるといった問題を生じやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−41603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低い高減衰部材を形成できるため、例えば粘弾性ダンパ等を小型化することなしにその弾性率を小さくすることができる高減衰組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ベースポリマとしてのジエン系ゴムにシリカ、および表面処理炭酸カルシウムを配合してなるとともに、前記ジエン系ゴム100質量部あたりの、前記シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は100質量部以上、160質量部以下で、かつ前記表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は10質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする高減衰組成物である。
【0010】
炭酸カルシウムは、シリカと同様に減衰性付与剤として機能する上、シリカよりも剛性を上昇させる働きが小さいため、前記シリカの一部を炭酸カルシウムによって置き換えることで、高減衰部材の剛性をこれまでよりも低いレベルに抑えることができる。
しかし未処理の炭酸カルシウムはジエン系ゴムとの相互作用が弱いため、前記のようにシリカの一部を炭酸カルシウムで置き換えると、全量がシリカである場合に比べて高減衰部材の減衰性能が低下する傾向がある。
【0011】
これに対し、例えばロジン酸や脂肪酸等で表面処理した表面処理炭酸カルシウムは、前記ジエン系ゴムと良好な相互作用を有するため、かかる表面処理炭酸カルシウムをシリカと併用することにより、前記のように高減衰部材の剛性をこれまでよりも低いレベルに抑えながら、高減衰部材の減衰性能を、全量がシリカである場合と同等またはそれ以上に向上することができる。
【0012】
そのため本発明の高減衰組成物によれば、高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低い高減衰部材を形成できるため、例えば粘弾性ダンパ等を小型化することなしにその弾性率を小さくすることができる。
したがって、例えば地震による大変形時に、面外方向への回転が大きくなって粘弾性体が破壊されるといった問題が発生するのを防止することが可能となる。
【0013】
なお本発明において、ジエン系ゴム100質量部あたりの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合が100質量部以上、160質量部以下に限定されるのは、配合割合が前記範囲未満では、前記両成分を減衰性付与剤として配合することによる効果が得られず、高減衰部材の減衰性能が低下してしまうためである。一方、前記範囲を超える場合には、シリカの一部を表面処理炭酸カルシウムで置き換えたことによる効果が得られず、高減衰部材の剛性が上昇してしまうためである。
【0014】
また本発明において、表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は10質量%以上、50質量%以下に限定されるのは、前記割合が前記範囲未満では、シリカの一部を表面処理炭酸カルシウムで置き換えたことによる効果が得られず、高減衰部材の剛性が上昇してしまうためである。一方、前記範囲を超える場合には、相対的にシリカの割合が少なくなって、高減衰部材の減衰性能が低下してしまうためである。
【0015】
前記表面処理炭酸カルシウムは、先に説明したジエン系ゴムとの相互作用を向上して、高減衰部材の減衰性能を向上することを考慮すると、ロジン酸、および脂肪酸からなる群より選ばれた少なくとも1種で表面処理した炭酸カルシウムであるのが好ましい。
高減衰部材の剛性をより一層低下させるため、本発明の高減衰組成物には、さらに軟化剤として液状ポリイソプレンゴムを配合してもよい。特に数平均分子量40000以下の、比較的分子量の小さい液状ポリイソプレンゴムを配合することにより、高減衰部材の剛性をより一層効果的に低下させることができる。
【0016】
ジエン系ゴムとしては、高減衰部材の減衰性能を向上することを考慮すると、天然ゴムとブタジエンゴムとを併用するのが好ましい。
前記本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の粘弾性ダンパの粘弾性体を形成した場合には、当該粘弾性体が高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低いため、前記粘弾性体を含む粘弾性ダンパの全体を小型化することなしにその弾性率を小さくすることができ、例えば地震による大変形時に、面外方向への回転が大きくなって粘弾性体が破壊されるといった問題が発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低い高減衰部材を形成できるため、例えば粘弾性ダンパ等を小型化することなしにその弾性率を小さくすることができる高減衰組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例、比較例の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する、前記高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ベースポリマとしてのジエン系ゴムにシリカ、および表面処理炭酸カルシウムを配合してなるとともに、前記ジエン系ゴム100質量部あたりの、前記シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は100質量部以上、160質量部以下で、かつ前記表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は10質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする高減衰組成物である。
【0020】
(ジエン系ゴム)
ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
前記ジエン系ゴムは、前記反応性成分との反応性に優れる上、ガラス転移温度が室温(2〜35℃)付近に存在しないため、最も一般的な使用温度域である前記室温付近での、剛性等の特性の温度依存性を小さくして、広い温度範囲で安定した減衰性能を示す高減衰部材を形成できるという利点がある。
【0021】
材料の入手のしやすさ等を考慮すると、ジエン系ゴムとしては天然ゴムを用いるのが好ましい。また高減衰部材の減衰性能を向上することを考慮すると、前記ジエン系ゴムとしては天然ゴムとブタジエンゴムとを併用するのが好ましい。
前記併用系における両ゴムの配合比率は特に限定されないが、両ゴムの総量中に占めるブタジエンゴムの割合(質量%)で表して10質量%以上、30質量%以下であるのが好ましい。
【0022】
前記範囲よりブタジエンゴムが少ない場合には、前記ブタジエンゴムを天然ゴムと併用することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が十分に得られないおそれがある。一方、前記範囲よりブタジエンゴムが多い場合には、相対的に天然ゴムの割合が少なくなるため、高減衰組成物の生産コストが上昇するおそれがある。
(シリカ)
シリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。またシリカとしては、充填剤として機能して高減衰部材の減衰性能を向上する効果を向上することを考慮すると、BET比表面積が100〜400m/g、特に200〜250m/gであるものが好ましい。BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定した値でもって表すこととする。
【0023】
前記シリカとしては、例えば東ソー・シリカ(株)製のNipSil(ニップシール)KQ等が挙げられる。
(表面処理炭酸カルシウム)
表面処理炭酸カルシウムとしては、例えば合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムを、例えば脂肪酸、4級アンモニウム塩、ロジン酸、およびリグニン酸等の1種または2種以上で表面処理した炭酸カルシウムの1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
特にロジン酸、および脂肪酸からなる群より選ばれた少なくとも1種で表面処理した表面処理炭酸カルシウムが、ジエン系ゴムとの相互作用を向上して、高減衰部材の減衰性能を向上する機能に優れるため好ましい。
前記表面処理炭酸カルシウムとしては、例えば白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〔合成炭酸カルシウムをロジン酸で表面処理したもの〕、白艶華CC〔合成炭酸カルシウムを脂肪酸で表面処理したもの〕等が挙げられる。
【0025】
(シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの配合割合)
前記のようにジエン系ゴム100質量部あたりの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は100質量部以上、160質量部以下で、かつ前記表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は10質量%以上、50質量%以下である必要がある。
【0026】
前記シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合が前記範囲内に限定されるのは、合計の配合割合が100質量部未満では、前記両成分を減衰性付与剤として配合することによる効果が得られず、高減衰部材の減衰性能が低下してしまうためである。一方、160質量部を超える場合には、シリカの一部を表面処理炭酸カルシウムで置き換えたことによる効果が得られず、高減衰部材の剛性が上昇してしまうためである。
【0027】
なお、高減衰部材の剛性のより一層低く抑えながら、減衰性能をさらに向上することを考慮すると、前記シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、前記範囲内でも120質量部以上、特に130質量部以上であるのが好ましく、150質量部以下、特に140質量部以下であるのが好ましい。
また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合が前記範囲内に限定されるのは、前記割合が10質量%未満では、シリカの一部を表面処理炭酸カルシウムで置き換えたことによる効果が得られず、高減衰部材の剛性が上昇してしまうためである。一方、50質量%を超える場合には、相対的にシリカの割合が少なくなって、高減衰部材の減衰性能が低下してしまうためである。
【0028】
なお、高減衰部材の剛性のより一層低く抑えながら、減衰性能をさらに向上することを考慮すると、前記表面処理炭酸カルシウムの割合は、前記範囲内でも20質量%以上、特に30質量%以上であるのが好ましく、40質量%以下、特に35質量%以下であるのが好ましい。
(軟化剤)
本発明の高減衰組成物には、高減衰部材の剛性をより一層低下させるため、さらに軟化剤を配合してもよい。前記軟化剤としては液状ゴムが挙げられる。また液状ゴムとしては、室温(3〜35℃)で液状を呈する種々のゴムが挙げられる。前記液状ゴムとしては、例えば液状ポリイソプレンゴム、液状ニトリルゴム(液状NBR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0029】
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。前記液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−30(数平均分子量:28000)、LIR−50(数平均分子量:54000)等が挙げられる。中でも特にLIR−30等の、数平均分子量40000以下の比較的分子量の小さい液状ポリイソプレンゴムを配合することにより、高減衰部材の剛性をより一層効果的に低下させることができる。
【0030】
液状ポリイソプレンゴムの配合割合は、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
配合割合が前記範囲未満では、当該液状ポリイソプレンゴムを配合することによる、高減衰部材の剛性を低下させる効果が十分に得られないおそれがある。一方、前記範囲を超える場合には高減衰部材の減衰性能が低下するおそれがある。
【0031】
(その他の成分)
本発明の高減衰組成物には、さらにシリカ、表面処理炭酸カルシウム以外の他の充てん剤や、あるいはジエン系ゴムを架橋させるための架橋成分等を、適宜の割合で配合してもよい。
前記他の充てん剤としては、例えばカーボンブラック等が挙げられる。
【0032】
前記カーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充てん剤として機能しうるカーボンブラックの1種または2種以上が使用可能である。
カーボンブラックの配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり1質量部以上、5質量部以下であるのが好ましい。
【0033】
架橋成分としては、ジエン系ゴムを架橋しうる種々の架橋成分が使用可能である。特に硫黄加硫系の架橋成分を用いるのが好ましい。前記硫黄加硫系の架橋成分としては、加硫剤、加硫促進剤、および加硫促進助剤を組み合わせたものが挙げられる。特に高減衰部材のゴム弾性が上昇して減衰性能が低下する問題を生じにくい加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤を組み合わせるのが好ましい。
【0034】
加硫剤としては、例えば硫黄や含硫黄有機化合物等が挙げられる。特に硫黄が好ましい。
加硫促進剤としては、例えばスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤等が挙げられる。加硫促進剤は、種類によって加硫促進のメカニズムが異なるため2種以上を併用するのが好ましい。
【0035】
このうちスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド〕等が挙げられる。またチウラム系加硫促進剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT〔テトラブチルチウラムジスルフィド〕等が挙げられる。
加硫促進助剤としては例えば亜鉛華、ステアリン酸等が挙げられる。通常は両者を加硫促進助剤として併用するのが好ましい。
【0036】
前記加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤の配合割合は、高減衰部材の用途等によって異なる減衰性能や剛性等の特性に応じて適宜調整すればよい。
本発明の高減衰組成物には、さらに必要に応じてシラン化合物、液状ポリイソプレンゴム以外の他の軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等の各種添加剤を、適宜の割合で配合してもよい。
【0037】
このうちシラン化合物としては、式(a):
【0038】
【化1】

【0039】
〔式中、R、R、R、およびRのうちの少なくとも1つはアルコキシ基を示す。ただしR、R、R、およびRが同時にアルコキシ基であることはなく、他はアルキル基またはアリール基を示す。〕
で表され、シランカップリング剤やシリル化剤等の、シリカの分散剤として機能しうる種々のシラン化合物が挙げられる。
【0040】
特にヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等のアルコキシシランが好ましい。
前記シラン化合物としては、例えば信越化学工業(株)製のKBE−103(フェニルトリエトキシシラン)等が挙げられる。
シラン化合物の配合割合は特に限定されないが、シリカ100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、25質量部以下であるのが好ましい。
【0041】
他の軟化剤としては、例えば先に例示した液状ポリイソプレンゴム以外の他の液状ゴムや、あるいはクマロンインデン樹脂等が挙げられる。
前記クマロンインデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロンインデン樹脂が挙げられる。
【0042】
前記クマロンインデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0043】
クマロンインデン樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下であるのが好ましい。
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂等が挙げられる。また石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
【0044】
前記石油樹脂の配合割合は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下であるのが好ましい。
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0045】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)MB〔2−メルカプトベンズイミダゾール〕等が挙げられる。またキノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン−アミン縮合物〕等が挙げられる。
両老化防止剤の配合割合は特に限定されないが、ベンズイミダゾール系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。またキノン系老化防止剤は、ジエン系ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0046】
本発明の高減衰組成物を用いて製造できる高減衰部材としては、例えばビル等の建築物の基礎に組み込まれる免震用ダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用ダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電気機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0047】
本発明によれば、前記ジエン系ゴム、シリカ、表面処理炭酸カルシウムその他、各種成分の種類とその組み合わせおよび配合割合を調整することにより、前記それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有する高減衰部材を得ることができる。
特に本発明の高減衰組成物を形成材料として用いて、高減衰部材としての建築物の粘弾性ダンパの粘弾性体を形成した場合には、当該粘弾性体が高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低いため、前記粘弾性体を含む粘弾性ダンパの全体を小型化することなしにその弾性率を小さくすることができ、例えば地震による大変形時に、面外方向への回転が大きくなって粘弾性体が破壊されるといった問題が発生するのを防止することができる。
【実施例】
【0048】
〈実施例1〉
(高減衰組成物の調製)
ベースポリマとしての天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕100質量部に、シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipSil(ニップシール)KQ〕90質量部、表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD、合成炭酸カルシウムをロジン酸で表面処理したもの〕45質量部、および液状ポリイソプレンゴム〔(株)クラレ製のLIR−30、数平均分子量:28000〕35質量部と、下記表1に示す各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0049】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は33.3質量%であった。
【0050】
【表1】

【0051】
表中の各成分は下記のとおり。
シラン化合物:フェニルトリエトキシシラン、信越化学工業(株)製のKBE−103
カーボンブラック:FEF、東海カーボン(株)製のシーストSO
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラックMB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A
クマロン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のエスクロン(登録商標)G-90
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製
スルフェンアミド系加硫促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系加硫促進剤:テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−N
〈実施例2〉
表面処理炭酸カルシウムとして、合成炭酸カルシウムを脂肪酸で表面処理したもの〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)CC〕45質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0052】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は33.3質量%であった。
〈実施例3〉
ベースポリマとして、天然ゴム〔SMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60〕とブタジエンゴム〔宇部興産(株)製のUBEPOL(登録商標) BR130B〕とを質量比で80/20の割合で配合したもの100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0053】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム+ブタジエンゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は33.3質量%であった。
〈比較例1〉
表面処理炭酸カルシウムを配合せず、かつシリカの配合割合を135質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0054】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は0質量%であった。
〈比較例2〉
シリカの配合割合を90質量部としたこと以外は比較例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0055】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり90質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は0質量%であった。
〈比較例3〉
液状ポリイソプレンゴムとして、数平均分子量が54000であるもの〔(株)クラレ製のLIR−50〕35質量部を配合したこと以外は比較例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0056】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は0質量%であった。
〈比較例4〉
表面処理をしていない未処理の重質炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製のホワイトン(登録商標)BF−300〕45質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0057】
シリカと重質炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また重質炭酸カルシウムの、シリカ、および重質炭酸カルシウムの総量中に占める割合は33.3質量%であった。
〈比較例5〉
表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕の配合割合を10質量部とし、かつシリカの配合割合を125質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0058】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は7.4質量%であった。
〈比較例6〉
表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕の配合割合を75質量部とし、かつシリカの配合割合を60質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0059】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり135質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は55.6質量%であった。
〈比較例7〉
表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕の配合割合を30質量部とし、かつシリカの配合割合を60質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0060】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり90質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は33.3質量%であった。
〈比較例8〉
表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕の配合割合を60質量部とし、かつシリカの配合割合を120質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0061】
シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は、天然ゴム100質量部あたり180質量部であった。また表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は33.3質量%であった。
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
実施例、比較例、従来例で調製した高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して円板1を形成する高減衰組成物を加硫させるとともに、前記円板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0062】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定した。
【0063】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0064】
測定は、温度20℃の環境下、前記操作を3サイクル実施して3回目の値を求める。また最大変位量は、円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向のずれ量が、前記円板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lの傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(2):
【0065】
【数1】

【0066】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。等価せん断弾性率が低いほど、試験体3は剛性が低く良好な弾性率を有していると判定できる。ここでは、等価せん断弾性率が0.25N/mm以下のものを弾性率良好、0.25N/mmを超えるのものを弾性率不良と評価した。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線Lと、グラフの横軸と、直線LとヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線Lとで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(3):
【0067】
【数2】

【0068】
により等価減衰定数Heqを求めた。等価減衰定数Heqが大きいほど、試験体3は減衰性能に優れていると判定できる。ここでは、Heqが0.25以上のものを減衰性能良好、0.25未満のものを減衰性能不良と評価した。
以上の結果を表2、表3に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2の比較例1、2の結果より、シリカを単独で配合した場合には剛性が高くなる傾向があることが判った。また比較例3の結果より、液状ポリイソプレンゴムとして数平均分子量が40000を超えるものを用いるとさらに剛性が高くなることが判った。
また表3の比較例4の結果より、シリカと未処理の炭酸カルシウムとを併用した場合には剛性を低く抑えることができるものの減衰性能が低下することが判った。
【0072】
これに対し表2の実施例1〜3の結果より、シリカと表面処理炭酸カルシウムとを併用した場合には、高い減衰性能を有する上、これまでよりも剛性が低い高減衰部材を形成できることが判った。
ただし前記実施例1〜3、および表3の比較例5〜8の結果より、シリカと表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合(表2、3中のI+II)が100質量部未満では減衰性能が低下し、160質量部を超える場合には剛性が高くなるため、前記合計の配合割合は100質量部以上、160質量部以下である必要があることが判った。
【0073】
また表面処理炭酸カルシウムの、シリカと表面処理炭酸カルシウムの総量に対する割合、すなわち表2、3中の:
【0074】
【数3】

【0075】
が10質量%未満では剛性が高くなり、50質量%を超える場合には減衰性能が低下するため、前記割合は10質量%以上、50質量%以下である必要があることも判った。
【符号の説明】
【0076】
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
直線
Keq 傾き
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマとしてのジエン系ゴムにシリカ、および表面処理炭酸カルシウムを配合してなるとともに、前記ジエン系ゴム100質量部あたりの、前記シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの合計の配合割合は100質量部以上、160質量部以下で、かつ前記表面処理炭酸カルシウムの、シリカ、および表面処理炭酸カルシウムの総量中に占める割合は10質量%以上、50質量%以下であることを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
前記表面処理炭酸カルシウムは、ロジン酸、および脂肪酸からなる群より選ばれた少なくとも1種で表面処理した炭酸カルシウムである請求項1に記載の高減衰組成物。
【請求項3】
さらに軟化剤として、数平均分子量40000以下の液状ポリイソプレンゴムをも含んでいる請求項1または2に記載の高減衰組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴムとブタジエンゴムとを併用している請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高減衰組成物。
【請求項5】
建築物の粘弾性ダンパの形成材料として用いる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高減衰組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43923(P2013−43923A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181685(P2011−181685)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】