説明

高減衰組成物

【課題】建築物の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能を備えるとともに、前記減衰性能の温度依存性が現状よりも小さい高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供する。
【解決手段】ベースポリマとして、S−EPジブロック共重合体とS−IB−Sトリブロック共重合体とを、両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合が10質量%以上、40質量%以下となるように併用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする高減衰部材のもとになる高減衰組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において高減衰部材が用いられる。前記高減衰部材を用いることで、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする、すなわち免震、制震、制振、防振等をすることができる。
前記高減衰部材は、種々のベースポリマを含む高減衰組成物によって形成される。
【0003】
例えば芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(S)と、イソブチレンを構成単量体とする重合体ブロック(IB)とのブロック共重合体(イソブチレン系ブロック共重合体)は、その構造から減衰性能に優れた高減衰部材を形成できることが期待されるため、前記高減衰組成物のベースポリマとしての実用化が検討されている。
特に重合体ブロック(S)と重合体ブロック(IB)とを1ブロックずつ繋いだ構造を有するS−IBジブロック共重合体は、減衰性能に優れている。しかしS−IBジブロック共重合体を単独でベースポリマとして使用した場合には高減衰組成物の成形加工性が低いという問題がある。
【0004】
また、前記高減衰組成物を用いて形成した高減衰部材は、引張応力が加わった際に切断に至るまでの伸び量、すなわち切断時伸びが小さいため、特に地震等が発生した際に大きく変形することが求められる制震用ダンパ等としては適さないという問題もある。
そこで、成形加工性に優れるとともに切断時伸びが大きい上、前記S−IBジブロック共重合体との相溶性に優れた他のポリマを、前記S−IBジブロック共重合体とともに、高減衰組成物のベースポリマとして併用することが検討されている(例えば特許文献1〜3等参照)。
【0005】
前記他のポリマとしては、例えばS−IB−Sトリブロック共重合体〔1つの重合体ブロック(IB)を2つの重合体ブロック(S)で挟んだ構造を有するもの〕等が挙げられる。かかるS−IB−Sトリブロック共重合体は、S−IBジブロック共重合体ほど減衰性能は高くないものの、前記S−IBジブロック共重合体よりも成形加工性に優れるとともに切断時伸びが大きく、しかも同じ重合体ブロック(S)(IB)によって構成されることから、S−IBジブロック共重合体との相溶性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 01/74964 A1
【特許文献2】特開平11−263896号公報
【特許文献3】特開2000−119478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記S−IBジブロック共重合体とS−IB−Sトリブロック共重合体との併用系では、両者の配合割合を調整することで、減衰性能、成形加工性、および切断時伸びのバランスをとることが可能である。
しかし、単に両者を併用して配合割合を調整しただけでは、例えば建築物の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能を高減衰部材に付与することはできない。また前記併用系では、前記減衰性能が温度によって変化する、いわゆる温度依存性が大きいという問題もある。
【0008】
発明者の検討によると、前記併用系に、さらに炭酸カルシウムや粘着付与材を配合すると、建築物の制振用ダンパ等として十分に使用できる高い減衰性能を高減衰部材に付与できるとともに、前記減衰性能の温度依存性をある程度は小さくすることができる。
しかし、特に温度依存性を小さくする効果には限界があり、現状よりもより一層温度依存性を小さくすることが求められている。
【0009】
本発明の目的は、建築物の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能を備えるとともに、前記減衰性能の温度依存性が現状よりも小さい高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ベースポリマとして、
(1) 芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(S)と、エチレン/プロピレンを構成単位とする重合体ブロック(EP)とのS−EPジブロック共重合体、および
(2) 前記重合体ブロック(S)と、イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(IB)とのS−IB−Sトリブロック共重合体、
の2種のブロック共重合体を併用するとともに、前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合が10質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする高減衰組成物である。
【0011】
本発明によれば、従来のS−IBジブロック共重合体に代えて(1)のS−EPジブロック共重合体を用い、当該S−EPジブロック共重合体を(2)のS−IB−Sトリブロック共重合体と併用するとともに、前記S−IB−Sトリブロック共重合体の割合を前記範囲内に規定することにより、高減衰部材の減衰性能を良好なレベルに維持しながら、前記減衰性能の温度依存性をこれまでよりも大幅に小さくすることができる。
【0012】
すなわち、周波数0.1Hz、せん断ひずみ率100%の動的粘弾性測定により得られる20℃での等価減衰定数Heqを0.20以上として良好な減衰性能を維持しながら、0℃での等価せん断弾性率Geq0と20℃での等価せん断弾性率Geq20との比Geq0/Geq20を2.0以下として、前記減衰性能の温度依存性を小さくすることができる。
【0013】
前記本発明の高減衰組成物は、先に例示した種々の高減衰部材の形成材料として使用することができる。中でも、高減衰部材としての建築物の制震用ダンパを形成した場合には、前記高減衰部材が減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また、前記制震用ダンパは制震性能の温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建築物の制震用ダンパ等として十分に使用できるだけの高い減衰性能を備えるとともに、前記減衰性能の温度依存性が現状よりも小さい高減衰部材を形成しうる高減衰組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の高減衰組成物からなる高減衰部材の減衰性能を評価するために作製する、前記高減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
【図2】同図(a)(b)は、前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
【図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《高減衰組成物》
本発明は、ベースポリマとして、
(1) 芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(S)と、エチレン/プロピレンを構成単位とする重合体ブロック(EP)とのS−EPジブロック共重合体、および
(2) 前記重合体ブロック(S)と、イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(IB)とのS−IB−Sトリブロック共重合体、
の2種のブロック共重合体を併用するとともに、前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合が10質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする高減衰組成物である。
【0017】
〈ベースポリマ〉
ベースポリマとしては、前記のようにS−EPジブロック共重合体、およびS−IB−Sトリブロック共重合体の2種のブロック共重合体を併用する。
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合が10質量%以上、40質量%以下に限定されるのは、下記の理由による。
【0018】
すなわち、前記範囲よりS−IB−Sトリブロック共重合体が少ない場合には、高減衰組成物に良好な成形加工性を付与する効果や、高減衰部材の切断時伸びを大きくする効果が得られない。一方、前記範囲よりS−IB−Sトリブロック共重合体が多い場合には、高減衰部材に良好な減衰性能を付与する効果が得られない。
前記両ブロック共重合体において、重合体ブロック(S)のもとになる芳香族ビニル系化合物としては、例えばスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−クロロメチルスチレン、m−クロロメチルスチレン、p−クロロメチルスチレン、o−ブロモメチルスチレン、m−ブロモメチルスチレン、p−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、およびビニルナフタレン等の1種または2種以上が挙げられる。特にスチレンが好ましい。
【0019】
重合体ブロック(S)は、前記芳香族ビニル系化合物以外の他の単量体を含んでいてもよいし、前記他の単量体を含んでいなくてもよい。
かかる他の単量体としては、例えばイソブチレン、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の1種または2種以上が挙げられる。
重合体ブロック(S)が他の単量体を含む場合、前記重合体ブロック(S)を構成する全ての単量体の総量中に占める芳香族ビニル系化合物の割合は60質量%以上、特に80質量%以上であるのが好ましい。
【0020】
また重合体ブロック(IB)は、イソブチレン以外の他の単量体を含んでいてもよいし、前記他の単量体を含んでいなくてもよい。同様に重合体ブロック(EP)は、エチレン、およびプロピレン以外の他の単量体を含んでいてもよいし、前記他の単量体を含んでいなくてもよい。
かかる他の単量体としては、例えば前記芳香族ビニル系化合物、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0021】
重合体ブロック(IB)が他の単量体を含む場合、前記重合体ブロック(IB)を構成する全ての単量体の総量中に占めるイソブチレンの割合は60質量%以上、特に80質量%以上であるのが好ましい。
また重合体ブロック(EP)が他の単量体を含む場合、前記重合体ブロック(EP)を構成する全ての単量体の総量中に占めるエチレン/プロピレンの割合は60質量%以上、特に80質量%以上であるのが好ましい。
【0022】
脂肪族オレフィン類としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、およびノルボルネン等の1種または2種以上が挙げられる。
ジエン類としては、例えばブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、およびエチリデンノルボルネン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0023】
ビニルエーテル類としては、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、およびエチルプロペニルエーテル等の1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
(S−EPジブロック共重合体)
S−EPジブロック共重合体は、前記重合体ブロック(S)と、重合体ブロック(EP)とを1ブロックずつ繋いだ構造を有している。
前記S−EPジブロック共重合体における、両重合体ブロック(S)(EP)の共重合比率は、前記両重合体ブロック(S)(EP)の総量中に占める重合体ブロック(S)の割合で表して2質量%以上、中でも5質量%以上、特に15質量%以上であるのが好ましく、80質量%以下、中でも60質量%以下、特に40質量%以下であるのが好ましい。
【0025】
重合体ブロック(S)の割合を前記範囲内とすることで両重合体ブロック(S)(EP)の鎖長のバランスを取って、S−EPジブロック共重合体としての、高減衰部材に良好な減衰性能を付与する効果を良好に発揮させることができる。
なお重合体ブロック(EP)におけるエチレンとプロピレンの割合は、特に限定されないが、50:50程度であるのが好ましい。例えば下記クレイトンポリマーズ社製のS−EPジブロック共重合体中の重合体ブロック(EP)はイソプレンを水添して構成されるため、エチレンとプロピレンの割合は50:50程度である。
【0026】
前記S−EPジブロック共重合体としては、これに限定されないが、例えばクレイトンポリマーズ社製の、いずれもスチレン−エチレン/プロピレンジブロック共重合体であるクレイトン(登録商標)G1701E(スチレンの含有割合:35質量%)、G1701H(スチレンの含有割合:37質量%)、G1701M(スチレンの含有割合:37質量%)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0027】
(S−IB−Sトリブロック共重合体)
S−IB−Sトリブロック共重合体は、1つの重合体ブロック(IB)を2つの重合体ブロック(S)で挟んだ構造を有している。
前記S−IB−Sトリブロック共重合体における、両重合体ブロック(S)(IB)の共重合比率は、前記両重合体ブロック(S)(IB)の総量中に占める重合体ブロック(S)の割合で表して2質量%以上、中でも5質量%以上、特に15質量%以上であるのが好ましく、80質量%以下、中でも60質量%以下、特に40質量%以下であるのが好ましい。
【0028】
重合体ブロック(S)の割合を前記範囲内とすることで両重合体ブロック(S)(IB)の鎖長のバランスを取って、S−IB−Sトリブロック共重合体としての、高減衰組成物に良好な成形加工性を付与するとともに、高減衰部材の断時伸びを大きくする効果を、いずれも良好に発揮させることができる。またS−IBジブロック共重合体に対する良好な相溶性を付与することもできる。
【0029】
S−IB−Sトリブロック共重合体の分子量は、数平均分子量で表して3,000以上、中でも30,000以上、特に50,000以上であるのが好ましく、1,000,000以下、中でも500,000以下、特に400,000以下であるのが好ましい。
数平均分子量が前記範囲未満では、ポリマとしての機械的強度等の物性を十分に発現させることができないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、高減衰組成物の成形加工性が低下するおそれがある。
【0030】
前記S−IB−Sトリブロック共重合体は、例えば前記特許文献1、2に記載の合成方法等によって製造することができる。
前記S−IB−Sトリブロック共重合体としては、これに限定されないが、例えば(株)カネカ製の、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体であるSIBSTAR(登録商標)062T、072T、102T等が挙げられる。
【0031】
〈その他〉
本発明の高減衰組成物には、さらに炭酸カルシウム、粘着付与剤、パラフィン系オイル等を配合してもよい。
(炭酸カルシウム)
炭酸カルシウムを配合することにより、高減衰部材の減衰性能をさらに向上することができる。
【0032】
炭酸カルシウムとしては、例えば製造方法によって分類される、種々の粒子径を有する合成炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムや、あるいはこれらの表面を脂肪酸、4級アンモニウム塩、ロジン酸、おおびリグニン等の1種または2種以上で表面処理した表面処理炭酸カルシウム等の1種または2種以上が挙げられる。
前記炭酸カルシウムの配合割合は、ベースポリマ、すなわち前記2種のブロック共重合体の総量100質量部に対して10質量部以上、特に50質量部以上であるのが好ましく、120質量部以下、特に100質量部以下であるのが好ましい。
【0033】
配合割合が前記範囲未満では、充填剤として炭酸カルシウムを配合することによる、高減衰部材の減衰性能を向上する効果が得られないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、高減衰部材の切断時伸びが小さくなるおそれがある。また、環境温度によって高減衰部材の減衰性能が大きく変化する、つまり減衰性能の温度依存性が大きくなるおそれもある。
【0034】
(粘着付与剤)
粘着付与剤を配合することにより、高減衰部材の減衰性能をさらに向上し、かつ前記減衰性能の尾温度依存性をさらに小さくすることができるとともに、高減衰部材の切断時伸びを大きくすることができる。
粘着付与剤としては、例えば石油樹脂、水素化石油樹脂、ロジン誘導体等の1種または2種以上が挙げられる。特に、軟化点が125℃未満の水素化石油樹脂が好ましい。
【0035】
前記の軟化点を有する水素化石油樹脂は、ベースポリマとしての2種のブロック共重合体に対する分散性に優れており、前記ベースポリマ中に、できるだけ小さい分散粒径で分散させることができる。
具体的には、平均粒径が20μm以下の微細な状態で分散させることができるため、高減衰部材の減衰性能を向上する効果や、前記減衰性能の温度依存性を小さくする効果、あるいは高減衰部材の切断時伸びを大きくする効果に優れている。
【0036】
なお軟化点は、日本工業規格JIS K2207−1996「石油アスファルト」所載の軟化点測定方法(環球法)によって測定した値でもって表すこととする。
また平均粒径は、顕微FTIRイメージング装置を用いて、内部標準ピーク(トータルCH、1450cm−1)に対するポリマ成分のピーク(イソブチレン、1230cm−1)の相対強度を描写し、ポリマ成分に由来する強度が弱い部分のドメインの大きさの平均値でもって表すこととする。
【0037】
前記水素化石油樹脂としては、いずれも荒川化学工業(株)製のアルコン(登録商標)シリーズのうちP−90(軟化点:90±5℃)、P−100(軟化点:100±5℃)、およびP−115(軟化点115±5℃)等の1種または2種以上が挙げられる。
粘着付与剤の配合割合は、ベースポリマ、すなわち前記2種のブロック共重合体の総量100質量部に対して5質量部以上、中でも10質量部以上、特に20質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下、特に40質量部以下であるのが好ましい。
【0038】
配合割合が前記範囲未満では、当該粘着付与剤を配合することによる、炭酸カルシウムを配合したことによる効果を補助して、高減衰部材の減衰性能をさらに向上するとともに、前記減衰性能の温度依存性を小さくし、かつ高減衰部材の切断時伸びを大きくする効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、却って減衰性能の温度依存性が大きくなってしまうおそれがある。
【0039】
(パラフィン系オイル)
パラフィン系オイルを配合することにより、高減衰部材に良好な柔軟性、および復元性を付与して、例えばせん断ひずみ率300%といった大変形を繰り返した際の、前記高減衰部材の耐久性を向上することができる。
パラフィン系オイルとしては、鉱物油(原油)から精製され、基油がパラフィン系である種々のパラフィン系オイルが使用可能である。
【0040】
前記パラフィン系オイルの具体例としては、例えば出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380等が挙げられる。
パラフィン系オイルの配合割合は、ベースポリマ、すなわち前記2種のブロック共重合体の総量100質量部に対して5質量部以上、中でも10質量部以上、特に20質量部以上であるのが好ましく、80質量部以下、特に60質量部以下であるのが好ましい。
【0041】
配合割合が前記範囲未満では、当該パラフィン系オイルを配合することによる、高減衰部材に、大変形を繰り返した際の高い耐久性を付与する効果が十分に得られないおそれがある。また前記範囲を超える場合には、過剰のパラフィン系オイルが、高減衰部材のもとになる高減衰組成物の成形品の表面にブリードして、前記成形品を金属部材等と接合して高減衰部材を形成する際の妨げとなるおそれがある。
【0042】
〈減衰性能評価〉
高減衰部材の減衰性能は、下記の測定方法によって求める等価減衰定数Heqの大小で評価することとする。すなわち等価減衰定数Heqが大きいほど、高減衰部材は減衰性能に優れていると判定できる。特に、等価減衰定数Heqは0.20以上であるのが好ましい。
【0043】
(試験体の作製)
特性を評価する高減衰組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように円板1(厚み5mm×直径25mm)を作製し、前記円板1の表裏両面に、それぞれシアノアクリレート系接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧することで、前記円板1を2枚の鋼板2と接着させて、高減衰部材のモデルとしての減衰性能評価用の試験体3を作製する。
【0044】
(変位試験)
図2(a)に示すように前記試験体3を2個用意し、前記2個の試験体3を、一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4にボルトで固定するとともに、それぞれの試験体3の他方の鋼板2に、1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定する。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6に、ジョイント7を介してボルトで固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、前記試験機の下側の可動盤8に、ジョイント9を介してボルトで固定する。
【0045】
次にこの状態で、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、試験体3のうち円板1を、図2(b)に示すように前記試験体3の積層方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から、可動盤8を図中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、前記図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、前記試験体3のうち円板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、前記試験体3の積層方向と直交方向への円板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求める。
【0046】
測定は、温度20℃の環境下、前記操作を3サイクル実施して3回目の値を求める。振動の周波数は0.1Hzとする。また円板1を挟む2枚の鋼板2の、前記積層方向と直交方向の最大のずれ量は、前記円板1の厚みに対する百分率(せん断ひずみ率)で表して100%となるように設定する。
次いで、前記測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線Lの傾きKeq(N/mm)を求め、前記傾きKeq(N/mm)と、円板1の厚みT(mm)と、円板1の断面積A(mm)とから、式(1):
【0047】
【数1】

【0048】
により等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求める。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、前記直線Lと、グラフの横軸と、直線LとヒステリシスループHとの交点から前記横軸におろした垂線Lとで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(2):
【0049】
【数2】

【0050】
により等価減衰定数Heqを求める。
〈減衰性能の温度依存性評価〉
減衰性能の温度依存性は、前記と同じ変位試験を温度0℃の環境下で実施して求める等価せん断弾性率Geq0(N/mm)と、前記温度20℃の環境下での等価せん断弾性率Geq20(N/mm)との比Geq0/Geq20の大小で評価することとする。
【0051】
すなわち比Geq0/Geq20が1に近いほど、減衰性能の温度依存性は小さいと判定できる。特に、比Geq0/Geq20は2.0以下であるのが好ましい。
〈引張特性評価〉
温度20℃の環境下、高減衰組成物を用いて、日本工業規格JIS K6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に規定されたダンベル状1号形試験片を作製し、前記試験片を用いて、同規格に規定された試験方法に則って試験速度300mm/minの条件で引張試験を実施して、切断時伸びE(%)を求める。
【0052】
前記切断時伸びEは、先に説明したように大きいほど好ましいと判定できる。特に、切断時伸びEは200%以上であるのが好ましい。
《高減衰部材》
本発明の高減衰組成物を用いて形成できる高減衰部材としては、例えばビル等の建造物の基礎に組み込まれる免震用のダンパ、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用のダンパ、吊橋や斜張橋等のケーブルの制振部材、産業機械や航空機、自動車、鉄道車両等の防振部材、コンピュータやその周辺機器類、あるいは家庭用電機機器類等の防振部材、さらには自動車用タイヤのトレッド等が挙げられる。
【0053】
本発明によれば、前記S−EPジブロック共重合体、S−IB−Sトリブロック共重合体、その他の種類とその組み合わせ、および配合割合を前記範囲内で調整することにより、前記それぞれの用途に適した優れた減衰性能を有する高減衰部材を得ることができる。
特に本発明の高減衰組成物を用いて建築物の構造中に組み込まれる制震用ダンパを形成した場合には、前記高減衰部材が減衰性能に優れるため、1つの建築物中に組み込む前記制震用ダンパの数量を減らすことができる。また、前記制震用ダンパは制震性能の温度依存性が小さいことから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近にも前記制震用ダンパを設置することができる。
【実施例】
【0054】
〈実施例1〉
ベースポリマとして、S−EPジブロック共重合体〔前出のクレイトンポリマーズ社製のクレイトン(登録商標)G1701E〕80質量部、およびS−IB−Sトリブロック共重合体〔前出の(株)カネカ製のSIBSTAR(登録商標)102T〕20質量部を配合し、密閉式混練機を用いて混練して高減衰組成物を調製した。
【0055】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は20質量%であった。
〈実施例2〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を65質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を35質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0056】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は35質量%であった。
〈実施例3〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を90質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を10質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0057】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は10質量%であった。
〈実施例4〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を65質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を35質量部とし、かつ前記両者の総量100質量部に、さらに表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕50質量部、および粘着付与剤としての水素化石油樹脂〔荒川化学工業(株)製のアルコン(登録商標)P−100、軟化点:100±5℃〕20質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0058】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は35質量%であった。
〈実施例5〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を65質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を35質量部とし、かつ前記両者の総量100質量部に、さらに表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕50質量部、およびパラフィン系オイル〔出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380〕20質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0059】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は35質量%であった。
〈実施例6〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を65質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を35質量部とし、かつ前記両者の総量100質量部に、さらに表面処理炭酸カルシウム〔白石カルシウム(株)製の白艶華(登録商標)DD〕50質量部、粘着付与剤としての水素化石油樹脂〔荒川化学工業(株)製のアルコン(登録商標)P−100、軟化点:100±5℃〕20質量部、およびパラフィン系オイル〔出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380〕20質量部を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0060】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は35質量%であった。
〈比較例1〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を40質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を60質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0061】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は60質量%であった。
〈比較例2〉
前記S−EPジブロック共重合体の量を95質量部、S−IB−Sトリブロック共重合体の量を5質量部としたこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0062】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は5質量%であった。
〈比較例3〉
前記S−EPジブロック共重合体に代えて、同量のスチレン−イソブチレンジブロック共重合体〔(株)カネカ製のSIBSTAR042D〕を配合したこと以外は実施例1と同様にして高減衰組成物を調製した。
【0063】
前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合は20質量%であった。
前記実施例、比較例で調製した高減衰組成物について、先に説明した減衰性能評価、減衰性能の温度依存性評価、および引張特性評価を実施して、その特性を評価した。
減衰性能は、等価減衰定数Heqが0.20以上のものを良好、0.20未満のものを不良と評価した。減衰性能の温度依存性は、比Geq0/Geq20が2.0以下のものを良好、2.0を超えるものを不良と評価した。また引張特性は、切断時伸びEが200%以上のものを良好、200%未満のものを不良と評価した。
【0064】
なお比較例2は切断時伸びEが120%と小さく、減衰性能評価の変位試験によって破断するおそれがあったため、前記減衰性能評価は実施しなかった。
以上の結果を表1、表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1、表2の比較例3、実施例1〜6の結果より、従来のS−IBジブロック共重合体とS−IB−Sトリブロック共重合体の併用系に代えて、S−EPジブロック共重合体とS−IB−Sトリブロック共重合体を併用することで、良好な減衰性能を維持しながら、前記減衰性能の温度依存性を大幅に小さくできることが判った。
ただし実施例1〜6、比較例1、2の結果より、前記併用系においては、高減衰組成物に良好な成形加工性を付与し、かつ高減衰部材の切断時伸びを大きくするとともに、前記高減衰部材に良好な減衰性能を付与するために、両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合が10質量%以上、40質量%以下である必要があることも判った。
【符号の説明】
【0068】
1 円板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
直線
垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマとして、
(1) 芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(S)と、エチレン/プロピレンを構成単位とする重合体ブロック(EP)とのS−EPジブロック共重合体、および
(2) 前記重合体ブロック(S)と、イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(IB)とのS−IB−Sトリブロック共重合体、
の2種のブロック共重合体を併用するとともに、前記両ブロック共重合体の総量中に占めるS−IB−Sトリブロック共重合体の割合が10質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする高減衰組成物。
【請求項2】
建築物の制振用ダンパの形成材料として用いる請求項1に記載の高減衰組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−95863(P2013−95863A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240302(P2011−240302)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】