説明

高温で使用される可撓性絶縁電線及び製造方法

【課題】高温環境で使用される可撓性絶縁電線が提供される。
【解決手段】可撓性絶縁電線100は、導線102と導線102上の被膜104とを含む。被膜104は誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤とから調製され、有機物成分は製造中に被膜104から実質的に分解されてしまう。可撓性絶縁電線100は構成部材に組み込むことができる可撓性絶縁電線100の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明の主題事項は、全般的に絶縁電線(insulated wires)に関し、より詳細には、可撓性の高温用絶縁電線を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]絶縁電線は膨大な用途に用いられる。例えば、絶縁電線はモータ等の電磁機器の製作に用いられ得る。特に、電線は磁気コアに巻き付けられたコイルを形成することができる。電線に電流が流れると、磁界が生み出され、コアを動かして力を生み出す。他の事例では、絶縁電線は線形の可変差動変圧器等のセンサの一部として用いられることがある。ここで、電線は一次巻線及び穴を画定する二次巻線を構成することができ、磁気コアを穴に配置できる。巻き付けられた電線に対して穴内を軸方向に移動して、巻線に差動電流を生じさせるように、磁気コアを構成することができる。
【0003】
[0003]典型的には、絶縁電線は絶縁材料を被覆した導電性材料から作られる。絶縁材料は、ポリイミド、テフロン(登録商標:デラウエア州所在のE.I.デュポン・ド・ヌムール社から入手可能)、ポリ塩化ビニル(PVC)、又は絶縁特性を与える他の好適な材料とすることができる。噴霧法、引抜き(drawing)法又は電解法により、これらの材料を電線に塗布することができる。ポリイミド絶縁電線は、比較的安価であり、製造が簡単であって、殆どの状況下で十分に機能する。しかし、同電線は連続使用温度の上限が約240℃である。絶縁電線が240℃以上の温度に曝されるような場合、ポリイミド絶縁電線は、保護ハウジング内に配置されても、あるいは他の種類の絶縁電線に置き換えてもよい。テフロン(登録商標)は、作業温度を260℃の使用温度及び300℃近くの最大可動域(excursion)温度にまで高めて使用されることがあるが、コスト及び厚さの増大をもたらす。シリコン・オキサイド等の良好な誘電特性を与える他の絶縁材料は、より高い温度安定性を与えるが、絶縁材料が作り出された後には曲げたり成形することができない。このように、上記種類の絶縁材料の使用は、スペースの制約に問題がない、温度を制御できる、あるいは材料を最終の用途に成形・硬化できる、といった用途に依存するであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
[0004]従って、絶縁電線は、比較的高温環境(例えば、約240℃以上)で使用でき、かつ、絶縁体が被覆された後には何時でも所望の形状に曲げる得ることが望ましい。その上、かかる絶縁電線が比較的安価であり、その製造方法が簡単であることが望ましい。更に、本発明における主題のその他の望ましい特徴などは、添付の図面及び本発明の主題の前記背景技術を併せてみると、本発明の主題における以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[0005]高温環境で使用される可撓性絶縁電線及び電線の形成方法が提供される。[0006]ある実施の形態において、ほんの一例として、電線は、導線、及び、誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤とから調製されると共に導線を被覆する被膜を含むことができ、有機物成分は製造中に被膜から実質的に分解される。[0007]別の実施の形態において、ほんの一例として、構成要素は、コアと少なくとも部分的にコアに巻き付けられた可撓性絶縁電線とを含む。可撓性絶縁電線は導線と導線を被覆する被膜とを含み、被膜は誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤とから調製され、有機物成分は可撓性絶縁電線の製造中に被膜から実質的に分解されてしまう。
【0006】
[0008]更に別の実施の形態において、ほんの一例として、高温環境で使用される可撓性絶縁電線の製造方法が含まれる。方法は、誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤とを含む混合物を導線に塗布して、表面が被覆された導線を形成し、そして、被覆された導線を加熱処理して被覆された導線における全ての有機物成分を実質的に分解し、可撓性絶縁電線を形成する方法を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
[0009]添付の図面を併用して以下に本発明の主題を説明するが、同じ番号は同様の要素を示す。[0015]以下の詳細な説明は、本来単なる例示にすぎず、本発明の主題又は本発明の主題の用途及び使用の限定を意図するものではない。更に、前述の背景技術又は以下の詳細な説明に提示されるいかなる理論に拘束されることを意図するものでもない。
【0008】
[0016]図1は、本発明の実施例にかかる絶縁電線100の横断面図である。電線100は、1本以上の導線102(明確にするために、1本のみ示す)と、導線102を被覆する被膜104とを含む。導線102は、金属又は金属合金等の数多くの導電性材料の中のいずれか1つとすることができる。好適な導電性材料としては、限定されるものではないが、ニッケル、銅、アルミニウム、銀、及びこれらの合金が挙げられる。ある実施の形態では、導線102は、第一の導電性材料から作られる本体106と、第二の導電性材料から作られる層108とを含むことができる。第一の導電性材料については、第二の導電性材料よりも導電性であるが、第二の導電性材料より融点が低くてもよいように、調製することができる。一例を挙げれば、本体106を銅とすることができ、一方、層108をニッケルとすることができる。
【0009】
[0017]被膜104は、導線102の少なくとも長さの一部分を被覆する。ある実施の形態では、被膜104は内面が導線102の表面と接触する。別の実施の形態では、被膜104は非晶質構造を含み、結晶質の界面が被膜内面に配置されて導線表面と接触する。この点に関し、誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤とから被膜104を調製することができ、有機物成分は、製造中に被膜から実質的に分解されてしまう。
【0010】
誘電材料は、導線102の絶縁に好適な誘電率が比較的低い材料とすることができる。ある実施の形態では、誘電材料は誘電率(κ)を10未満とすることができる。別の実施の形態では、誘電率を約1〜約10の範囲の値とすることができる。絶縁電線100を交流用途に用いる実施の形態では、材料の誘電率の傾向は1に向かうであろう。誘電材料は、240℃以上の温度に曝されると、導線102を絶縁可能にすることができる。上述の特性を有する好適な材料としては、限定されるものではないが、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミネート(silica aluminate)、ゼオライト、窒化ホウ素、及び他の好適な無機酸化物が挙げられる。
【0011】
[0018]更に図2を参照すると、可撓性絶縁電線100の製造方法200が図2に示されている。ある実施の形態において、方法200は混合物を導線に塗布して被覆された導線を形成する方法を含み、混合物は誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤との水性混合物を含む(ステップ202)。次いで、被覆された導線は、加熱処理に付されてそれから全ての有機物成分を実質的に分解し、これにより絶縁電線100を形成する(ステップ204)。一実施の形態において、絶縁電線をコアに巻回することができる(ステップ206)。これらのステップの各々については以下により詳細に説明する。
【0012】
[0019]簡単に上記したように、混合物が導線に塗布される(ステップ202)。導線は、ニッケル、銅、アルミニウム、銀、及びこれらの合金など、数多くの慣用の導電性材料の中のいずれか1つとすることができる。ある実施の形態では、導線は1本の導線でも多重導線の束であってもよい。別の実施の形態では、導線は層を含む本体から構成されてもよい。このような場合、本体は、ニッケル、銅、アルミニウム、銀、又はこれらの合金等の第一の導電性材料とすることができ、第二の導電性材料を被覆して層を形成することができる。第二の導電性材料を第一の導電性材料よりも融点が高い導電性材料とすることができる。いずれの場合でも、各導電性材料の選択は、絶縁電線100を製造工程中又はその後に曝さすことのできる特定の温度環境に依存するであろう。導線を市販のものから得ても方法200の一環として形成してもよい。
【0013】
[0020]混合物は誘電材料及び結合剤を含む。誘電材料は、前述の被膜104に用いられる数多くの絶縁材料の中のいずれか1つとすることができ、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミネート、ゼオライト、窒化ホウ素、又は他の好適な無機酸化物とすることができる。結合剤は、加熱処理に付したとき、実質的に完全に分解できる有機物成分を含むことができる。ある実施の形態では、有機物成分は、少なくとも1種のポリマー成分と酸素原子とを含むことができる。かかる有機物成分は、他の種類の有機物成分と比較して、加熱処理に曝されるとより容易に分解することができる。好適な有機物成分としては、限定されるものではないが、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、又は両者の組合せが挙げられる。
【0014】
[0021]ある実施の形態では、混合物を操作して所望の範囲の粒径を得ることができる。別の例では、混合物を操作して均一なコンシステンシを得ることができる。これらの点に関して、混合物を粉砕、混合又はブレンドしてもよいが、しかし、均一な粒径を維持するためには、例えばボールミル等で材料を粉砕することが好ましい。塗布する際の導線への混合物の接着を確実にするために、混合物は、所定量の誘電材料、結合剤及び水を含むことができる。結合剤が水性結合剤である実施の形態では、水を含有するポリビニルアルコール及びポリエチレンオキサイドのポリマー・ブレンドから、結合剤を構成することができる。ある例では、ポリマー・ブレンドは重量比が約2.5:1のポリビニルアルコールとポリエチレンオキサイドを含むことができ、ポリマー・ブレンドと水を約1:18の重量比で結合剤に存在させることができる。このような場合、約5重量%〜約15重量%の誘電材料を混合物に含有させ、残余を水性結合剤から構成される混合物とすることができる。
【0015】
[0022]導体の所望の部分が所望の厚さに被覆されるいかなる方法でも、混合物を導体に塗布することができる。一実施の形態では、導体全体に混合物が塗布される。別の実施の形態では、所望の厚さを約0.025mm〜約0.127mm(0.001インチ〜約0.005インチ)の範囲とすることができる。しかし、当然のことながら、いかなる厚さも採用することができ、厚さは絶縁電線100を用いることができる目的に依存するであろう。ある実施の形態では、混合物は導線上に噴霧される。別の実施の形態では、混合物は容器内に配置され、導線が容器内の混合物に浸漬されるか又は混合物から引き出されて、液体と導線の間に親密な接触を生み出す。被覆された導線を形成した後に、乾燥して導線から全ての水分を実質的に除去することができる。ある実施の形態では、被覆された導線を乾燥させるために加熱空気流が用いられる。
【0016】
[0023]次に、被覆された導線は加熱処理されて絶縁電線100を形成する(ステップ204)。ある実施の形態では、被覆された導線を所定の温度に所定の時間加熱処理して、被覆された導線の少なくとも外面の全ての有機物成分を実質的に分解させる。ある実施の形態では、約200℃〜約800℃の範囲の温度において約2〜10時間の加熱処理を生じさせ得る。理論に拘束されるものではないが、被覆された導線を処理する熱は、導線上の混合物を酸化・分解させて、二酸化炭素又は一酸化炭素のようなガス状無機副生成物を生成するものと考えられる。その無機副生成物は、ガス状であるため、放出され、被覆された導線から除去され、導線上の混合物から無機物質を放出させる。この方法での有機物成分の分解により、潜在的に導電性のカーボンを被膜から除去しながら、混合物の無機物質を導線に接着させる。更にまた、絶縁電線100が屈曲される際に加熱処理された誘電材料に微細な亀裂が生じるため、得られる被膜104は亀裂が発生することなく折り曲げ可能である。その結果、絶縁電線100を所望の形状に折り曲げることができ、可撓性電線が役立ち得る様々な用途に使用することができる。
【0017】
[0024]ある実施の形態では、絶縁電線100をコアに巻回することができる(ステップ206)。更に図3を参照すると、実施例にかかる巻回された絶縁電線100を含む、簡略化した構成要素の側面図が添付されている。ここで、モータ、センサ、ソレノイド、もしくは、変換器、インデューサ等のその他のあらゆる機器などの電磁機器300用コイルとして、又はプリント配線板の導線として、絶縁電線100が用いられる。従来から電磁機器に用いられている磁気透過性材料からコア302を作ることができる。例えば、コア302は、鉄、ニッケル、コバルト、これらの合金、又はその他の好適な磁気材料を含むことができる。このようにして、絶縁電線100に電流を流すと、コア302を絶縁電線100に対して移動させる磁界が発生する。コア302の運動を利用して、別の構成要素が使用するためのエネルギーを生み出すことができる。
【0018】
[0025]別の例では、1本以上の絶縁電線100を用いてセンサを形成することができる。図4は実施例にかかるセンサ400の横断面図である。センサ400は線形の可変差動変圧器等の位置センサとすることができる。ここで、3本の電線100a,100b,100cが巻回され、これらを貫通する穴402が螺旋状をなす。コア404は、穴402内に配置され、長さが穴402の長さよりも短いように設定される。このようにして、電線100bに電流を流すと、電線100a,100cに電圧が発生し、コア404が穴402内を移動している時にこれらの電圧比が現れる。
【0019】
[0026]他の例では、絶縁電線100を用いてアクチュエータを形成することができる。図5は実施例にかかるアクチュエータ500の横断面図である。アクチュエータ500は電磁アクチュエータ等のアクチュエータとすることができる。ここで、電線100が巻回され、これを貫通する穴502が螺旋状をなす。コア504は、穴502内に配置され、その長さの一部が穴502に挿入されるように構成される。このようにして、電線100に電流を流すと、コア504に力が加えられ、コア504は穴502内を移動するようになる。
【0020】
[0027]本発明の主題のより完全な理解を提供するために、次の実施例が提示される。例証として挙げる特定の技術、条件、材料、及び報告されたデータは、模範的であり、本発明の主題の範囲を限定すると解釈してはならない。
【0021】
[0028]ニッケル及び銀の試料にゼオライト及び結合剤を含有する混合物を被覆した。混合物には12重量%のゼオライト及び残余の結合剤が含まれていた。結合剤は重量比が約2.5:1のポリビニルアルコールとポリエチレンオキサイドのポリマー・ブレンドを含み、ポリマー・ブレンドには水を重量比1:18で存在させた。被覆された切取り試片を噴霧又は浸漬被覆し、200℃で予備加熱した。次いで、被覆された切取り試片を800℃で10時間最終の加熱処理に付した。被膜は、良好な接着性、可撓性、及び電気性能を示すことが判明した。
【0022】
[0029]特定の一実施例において、厚さが1.5mmで上述の被膜を有する0.3mの銀電線の試料を6mmのステンレス鋼管の試料に巻回した。絶縁された銀電線を500℃で評価すると、絶縁破壊電圧が400V及び絶縁抵抗が650kΩであることを示した。別の実施例では、長さ3mのニッケル電線について試験した。ここで、混合物をニッケル電線に噴霧して、電線を約800℃の温度に約5時間暴露した。電線を500℃で調査すると、絶縁破壊電圧が250Vであり、絶縁抵抗が300kΩであった。
【0023】
[0030]高温環境(例えば、約240℃以上)で使用でき、かつ、所望の形状に曲げることができる、絶縁電線及びその電線の製造方法がここに提供された。しかも、絶縁電線は比較的安価で簡単に製造できる。
【0024】
[0031]少なくとも1つの典型的な実施例を以上の本発明の主題の詳細な説明に提示してきたが、当然のことながら膨大な数の変更が存在する。同様に当然のことながら、典型的な実施例又は典型的な実施の形態は、単なる例にすぎず、本発明の主題の範囲、利用可能性、又は構成の限定を決して意図されるものではない。むしろ、以上の詳細な説明は、当業者に本発明の主題の典型的な実施の形態を実施する簡便な道筋を提供するものである。添付の特許請求の範囲に示された本発明の主題の範囲から逸脱することなく、典型的な実施の形態に説明された要素の機能及び処理に、様々な変更をなし得ることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例による絶縁電線の簡略化した断面図である。
【図2】本発明の実施例による可撓性絶縁電線を製造する方法である。
【図3】本発明の実施例による絶縁電線を含む簡略化した構成要素の側面図である。
【図4】本発明の実施例による絶縁電線を含む簡略化したセンサの断面図である。
【図5】本発明の実施例による絶縁電線を含む簡略化したアクチュエータの横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温環境において使用するために製造される可撓性絶縁電線(100)であって、
導線(102)及び前記導線上の被膜(104)を含み、
前記被膜(104)が誘電材料と有機物成分を含有する有機結合剤とから調製され、
前記有機物成分が製造中に被膜(104)から実質的に分解されることを特徴とする可撓性絶縁電線。
【請求項2】
前記誘電材料がゼオライト及びシリカ・アルミネートからなる群から選ばれた材料を含む請求項1に記載の可撓性絶縁電線。
【請求項3】
前記誘電材料が約10より小さい誘電率を有する請求項1に記載の可撓性絶縁電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−176718(P2009−176718A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−285491(P2008−285491)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】