説明

高温大気ろう付け用フィラー材料、ならびにその調製および使用のための方法

種々の三元金属合金で構成される高温大気ろう付け用フィラー材料が開示される。貴金属(M)が三元構成要素として銀-酸化銅(Ag-CuOx)系に加えられる。銀(Ag)成分を貴金属で直接置き換えることで、一連の合金が形成される。貴金属を加えることによって、結果として得られる大気ろう付け用フィラー金属の固相線温度および液相線温度が上昇し、これらのフィラー金属から形成されたシールおよび他の封止成分が利用できる温度が上昇する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省によって与えられた契約番号DE-AC05-76RL01830に基づく米国政府の支援により生み出された。米国政府は本発明における特定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般にセラミック-セラミックおよびセラミック-金属の大気ろう付け用ろう材およびフィラー材料に関する。特に、本発明は、たとえば、高温大気ろう付け用ろう材および/またはフィラー金属としての用途を有する金属-金属酸化物-金属合金に関する。
【0003】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年7月11日に出願された米国仮出願第60/949,069号、および2008年7月10日に出願されたUS Utility application number 12/170,593の優先権を主張し、その記載内容全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
臨界高温成分中でのセラミックの適用は、これらの材料が高温において優れた機械的性質、摩耗、および腐食に対する抵抗性を有するため、長く関心が持たれてきた。しかし、これらの使用は、信頼性のある性能で大型または複雑な形状の構成要素を経済的に製造することができないことが妨害となることが多い。一体セラミック部品に対する可能性のある代案の1つは、多くの場合で高温金属成分を使用して組み立ておよび接合を行い、より大きくより複雑な構造を最終的に形成することが可能な、より小型で単純な形状の部分の製造である。問題となるのは、セラミック-セラミックまたはセラミック-金属の実際的な接合方法の特定である。異なる材料の接合の最も信頼性の高い方法の1つはろう付けであり、この場合、材料を接合させる液相線温度より十分低いフィラー金属が加熱される。加熱すると、フィラー金属が溶融しはじめ、接合される2つの部分の間の間隙を毛管現象によって満たす。続いて冷却すると、固体の接合部が形成される。セラミックを結合させるために、接合界面に反応金属(たとえば、TiまたはZr)の添加が必要となることが多い(活性金属ろう付けとして公知である)。しかし、活性金属ろう材は、完全に酸化することによって接合部の強度がほとんどまたは全くなくなることがあるため、500℃を超える温度で信頼性がなくなる場合がある。大気ろう付けは、不活性カバーガスまたは表面反応性フラックスを必要とせずに、空気中で主として金属である接合部が形成される新しい接合方法の1つである。この結果得られる結合は優れた強度を有し、高温用途中の酸化に対して本来抵抗性である。この結合は、気密性または液密性シーラントとして利用する場合に、高温において長期の密封性(封止能力)も得られる。大気ろう付けは、典型的には、溶融した場合には貴金属フィラー中に溶解した酸化物からなるろう材組成物を利用する。大気ろう付けに適していると思われる貴金属-酸化物の組み合わせの1つはAg-CuOx系である。しかし、高温装置(固体酸化物燃料電池(SOFC)が最も注目される)の中では、800℃を超える温度で長期間使用可能な大気ろう付け用ろう材が望ましい。問題となるのは、このような高い使用温度が実現可能となるように、大気ろう付け用フィラー金属をいかにして改質するかである。したがって、セラミック-セラミックおよびセラミック-金属の構成要素の結合を改善し、高温装置および高温用途での使用温度を上昇させる新規組成物が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
一局面では、本発明は、式[1]:
[(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOx]] [1]
によって与えられる組成物である。
【0006】
この組成物中、(M)は、0mol%〜100mol%の濃度を有するあらかじめ選択された貴金属であり;y=0mol%〜100mol%のCuOxであり、銅(Cu)金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1であり;およびz=0mol%〜100mol%の銀(Ag)である。使用に適した貴金属(M)としてはたとえば、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、およびイリジウム(Ir)にこれらの金属の混合物を含めたものが含まれるが、これらに限定されるわけではない。本発明は大気ろう付け用フィラー金属合金としての用途を見いだしている。パラジウムは、本発明を説明するために本明細書において使用される例示的な金属成分の1つであるが、これに限定されることを意図したものではない。貴金属(M)を三元成分として、たとえば、AgおよびCuOxを含有する混合物、または類似の二元合金系に加えることができる。あるいは、貴金属(M)を、AgおよびCu金属と、たとえば、粉末または箔として混合して、金属の三元混合物を得ることができる。続いて、三元金属混合物を空気中で加熱すると、混合物中のCu金属が酸化して合金中の所望の酸化銅(CuOx)成分となる。これらの三元系中、三元金属(たとえば、パラジウム)を加えると、合金中の銀含有率が低下し、特定の式および組成を有する一連の生じ得る合金が得られる。例示的な混合物中では、パラジウムを加えることによって、結果として得られる大気ろう付け用ろう材および/またはフィラー金属組成物の固相線温度および液相線温度が上昇する。たとえば、液相線温度は、式(100-y)(25Pd-75Ag)-(y)CuOxの合金組成物の場合、二元Ag-CuOx合金と比較して220℃を超えて上昇する。固相線温度は、これらの合金組成物中、約0mol%〜約1mol%の範囲内の(y)の値で約185℃、および約4mol%〜約10mol%の範囲内の(y)の値で約60℃上昇する。式(100-y)(50Pd-50Ag)-(y)CuOxの合金組成物の場合、固相線温度は、組成物中の酸化銅が0mol%〜約8mol%の場合、二元Ag-CuOx合金よりも約380℃〜390℃の間の高さで変動する。
【0007】
別の貴金属(たとえば、AuまたはRh)を含む別の態様では、液相線温度および/または固相線温度は、組成物中の貴金属の選択された濃度に基づいて選択的に調節することができる。金(Au)の場合、たとえば、組成物中のAgがAuで完全に置換されている場合(すなわち、非合金の金)、液相線温度は未改質のAg-CuOx合金よりも最高で110℃上昇し得る。最高値までの液相線温度の種々の上昇は、組成物中Auで置換されるAgの分率に依存して達成され得る。上昇の大きさは、Au置換量の関数として変化し、Ag-Au二元相図から概算することができる。ロジウム(Rh)が選択された貴金属として使用される場合、組成物中のAgが完全に置換されると(すなわち、非合金のロジウム)、液相線温度が未改質のAg-CuOx合金よりも最高1000℃上昇する(すなわち、液相線温度が最高1960℃になる)。同様に、固相線温度の上昇も、非合金の金の場合で未改質のAg-CuOx合金よりも最高50℃となることがあり、非合金のロジウムの場合には固相線温度が最高1910℃になり得る。要するに、液相線および/または固相線温度は、貴金属の選択された濃度に依存して、意図する用途、使用条件、および装置に合わせて選択的に調整することができる。
【0008】
別の一局面では、本発明は、三元M-Ag-CuOx合金を含む、高温装置用のシールまたはシーラントである。この合金は、あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、(Ag)金属、およびCuOxを含む。この合金は、以下の化学組成を有する:(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOx、式中、M=0mol%〜100mol%の貴金属であり;y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;z=0mol%〜100mol%のAgであり;およびCu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。本発明の三元M-Ag-CuOx合金組成物を含むシールは、たとえば、固体酸化物燃料電池(SOFC)、SOFC成分、センサーおよびセンサー用途、シールおよび封止成分、ガス濃縮装置、ガス分離装置、ならびに類似の用途および装置において可能性のある用途を有する。限定することを意図したものではない。
【0009】
別の一局面では、本発明は、あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxを互いに混合して、式:(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOxの三元M-Ag-CuOx合金を定義する混合物を得ることを含むシールの製造方法に関する。ここで、M=0mol%〜100mol%の前記貴金属であり;y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;z=0mol%〜100mol%のAgであり;およびCu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。この混合物を溶融させると、三元M-Ag-CuOx合金の溶融物が得られる。そして、溶融物が固化すると、三元M-Ag-CuOx合金を含むシールが形成される。貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxを、たとえば、独立した元素の粉末または箔として、または複合合金粉末もしくは箔として混合して、所望の混合物を得ることができる。種々の態様では、貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxの混合を、たとえば、Ag-CuOx合金(たとえば、粉末または箔として)を貴金属(M)(たとえば、粉末または箔として)と混合することによって行って、所望の混合物を得ることができる。または、M-Ag金属合金(たとえば、粉末または箔として)をCuOxと混合して混合物を得ることもできる。または、M-CuOx合金(たとえば、粉末または箔として)をAg金属(たとえば、粉末または箔として)と混合して混合物を得ることもできる。溶融物を金型またはダイに導入し固化させることで、あらかじめ選択された形状および厚さを有するシールを形成することができる。別の用途では、溶融物を、封止される構成材料の間に導入し、固化させることでシールを形成することができる。
【0010】
別の一局面では、本発明は、あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、Ag金属、およびCu金属を互いに混合して、その混合物を得ることを含むシールの製造方法に関する。混合物を、あらかじめ選択された温度に加熱して、混合物中のCu金属を酸化させることで、式:(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOxの三元M-Ag-CuOx合金を形成することができる。ここで、M=0mol%〜100mol%の前記貴金属であり;y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;z=0mol%〜100mol%のAgであり;およびCu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。次に混合物を溶融させることで、三元M-Ag-CuOx合金の溶融物が得られる。次に溶融物を固化させることで、三元M-Ag-CuOx合金を含むシールが形成される。貴金属(M)、Ag金属、およびCu金属は、独立した成分として、および/または複合(たとえば、二元)合金(たとえば、粉末または箔として)として混合して、所望の混合物を得ることができる。種々の態様では、貴金属(M)、Ag金属、およびCu金属の混合を、たとえば、Ag-Cu合金(たとえば、粉末または箔として)を貴金属(M)(たとえば、粉末または箔として)と混合することによって行って、所望の混合物を得ることができる。または、M-Ag金属合金をCu金属(たとえば、粉末または箔として)と混合して混合物を得ることができる。または、M-Cu合金をAg金属(たとえば、粉末または箔として)と混合して混合物を得ることができる。溶融物を金型またはダイに導入し固化させることで、あらかじめ選択された形状および厚さを有するシールを形成することができる。別の用途では、溶融物を、封止される構成材料の間に導入し固化させることで、シールを形成することができる。別の一態様では、方法は、混合物を微粒子化して、溶融前に均一な組成を有する粉末を形成する段階を含む。あらかじめ選択された量のバインダー、溶媒、可塑剤、およびこれらの構成要素の組み合わせを上記粉末と混合して、混合物を接合面に堆積可能にするペースト、スクリーン印刷用インク、塗料、またはスプレースラリーを形成することができる。たとえば、ワックスバインダー;芳香族バインダー;ポリマーバインダー;およびその他のバインダー、またはこれらのバイダーの組み合わせを含むバインダーを使用することができる。別の態様では、方法は、粉末をプレス加工して、あらかじめ選択された形状のプリフォームを形成する段階を含む。ここで、プレス加工の段階は、あらかじめ選択された量のバインダーを上記混合物と混合して、プリフォームの接合面上での取り扱いおよび配置のために十分な安定性を提供することを含むことができる。粉末は、ロールプレス法または鋳造法などの方法を使用してプレス成形することができる。一態様では、粉末は、意図する用途または装置中の接合面に合ったあらかじめ選択された構造または形状を形成するために切断または機械加工することができるシートプリフォームとしてプレス成形することができる。
【0011】
別の一局面では、本発明は、あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxを互いに混合して、式:(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOxを有する三元M-Ag-CuOx合金を定義する混合物を得ることを含む、三元M-Ag-CuOx合金の調製方法に関する。ここで、M=0mol%〜100mol%の前記貴金属であり;y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;z=0mol%〜100mol%のAgであり;およびCu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。次にこの三元M-Ag-CuOx合金は、微粒子化されて均一な組成の粉末が形成される。
【0012】
別の一局面では、本発明は、あらかじめ選択された量の貴金属(M)、Ag金属、およびCu金属を混合して、三元M-Ag-Cu合金を定義する混合物を得ることを含む、三元M-Ag-CuOx合金の調製方法にも関する。M-Ag-Cu合金の混合物は加熱されて、混合物中のCu金属が酸化して、式:(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOxの三元M-Ag-CuOx合金が形成される。ここで、M=0mol%〜100mol%の貴金属であり;y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;z=0mol%〜100mol%のAgであり;およびCu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。次に三元M-Ag-CuOx合金の混合物は、微粒子化されて均一な組成の粉末が形成される。これらの粉末組成物は、高温大気ろう付け用フィラー金属として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1a】本発明の一態様による、酸化銅の含有率の関数としての例示的な三元(Pd-Ag-CuOx)大気ろう付け用フィラー金属組成物の液相線温度を示すプロットである。
【図1b】本発明の一態様による、酸化銅の含有率の関数としての例示的な三元(Pd-Ag-CuOx)大気ろう付け用フィラー金属組成物の固相線温度を示すプロットである。
【図2】Pd濃度の関数としてのPd-Ag-CuOx系の液相線温度および固相線温度を示すプロットである。
【図3】酸化銅含有率の関数としての、三元(Pd-Ag-CuOx)大気ろう付け用フィラー金属組成物から作製した接合部の曲げ強度を示すプロットである。
【図4】本発明の一態様による三元大気ろう付け用フィラー金属組成物から作製された1つまたは複数のシールを含む固体酸化物燃料電池の概略図である。
【図5】本発明の別の一態様による三元大気ろう付け用フィラー金属組成物から作製された種々の大きさの1つまたは複数のシールを含むガス濃縮装置の概略図である。
【図6】本発明のさらに別の一態様による本発明の三元大気ろう付け用フィラー金属組成物で構成されるシールを含むガス分離装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本明細書において説明されるのは、一連のM-Ag-CuOx三元合金組成物を一括して定義する、二元成分の銀(Ag)および酸化銅(CuOx)、ならびに三元金属(M)を含む新規な大気ろう付け用ろう材および/またはフィラー金属組成物である。これらの組成物が関与する用途における使用温度は、組成物中の三元金属、たとえば、より高融点の貴金属の存在によって拡大されることが示されている。これらの三元合金組成物中での使用に適した金属(M)としては、たとえば、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、イリジウム(Ir)、および類似の貴金属にこれらの金属の合金を含めたものが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの大気ろう付け用フィラー金属組成物は、高い融点温度を示し、広範囲の使用温度にわたって利用することができる。これらの組成物は、高温装置中および高温用途における使用中に、優れた接合強度が得られ、酸化に対して抵抗性であり、長期の密封性(封止性)が得られる。これらの合金組成物は:1)高温大気ろう付け用フィラー金属として、ならびに2)限定するわけではないが、たとえば、固体酸化物燃料電池(SOFC)、ガス分離器、ガス濃縮器、およびセンサーを含む固体電気化学的装置および他の高温装置の気密封止に使用される、間隙または接合部のフィラー材料としての用途を有する。本発明は、パラジウムを貴金属成分として言及しながら説明されるが、この金属元素は単に例示的なものである。本発明がこれに限定されるわけではない。三元金属-金属酸化物-金属組成物の液相線温度および固相線温度に対するパラジウム含有率の影響は、これらの材料のアルミナ基材に対するぬれ特性と同様に説明される。用語「液相線温度」は、選択された合金組成物が液体状態にある温度である。用語「固相線温度」は、選択された合金組成物が固体状態にある、または固体になる相変化を経由する転移が起こる温度である。液相線温度および固相線温度によって、フィラー金属合金組成物を、後の装置製造段階または用途の最中に再溶融しない固体の接合部を形成するために利用することができる、ある範囲の処理温度および最高使用温度が定義される。たとえば、2段階ろう付けプロセスでは、第1のフィラー金属組成物を第1のろう付け材料として分配または堆積し、第1の液相線温度に加熱し、第1の固相線温度で固化させて、複数の隣接する基材または構成材料の間で固体の接合部を形成することができる。次により低い液相線温度を有する第2のフィラー金属組成物を、分配または堆積して、形成された第1の接合部の再溶融および脱落、および/または不十分な密封性または機械的完全性が生じない温度で、第2のろう付けされた接合部を形成することができる。固相線温度は、示差熱分析(DTA)実験において、温度差またはエネルギー差の曲線の傾き、またはこの曲線の導関数が、吸熱ピークを追跡したときに最初にベースラインから外れ始める温度として特定することができる。液相線温度は、吸熱ピークがベースラインに再び到達する温度、またはあるピーク(たとえば、最終ピーク)の導関数がベースラインに戻る温度として特定することができる。表1および表2は、それぞれ25mol%および50mol%のPdを含有する本発明の例示的な試験中に使用されるAg-Pd-CuOxフィラー金属組成物の一覧である。
【0015】
(表1)25mol%のPdを含有する三元Ag-Pd-CuOx合金(フィラー金属)の組成

【0016】
(表2)50mol%のPdを含有する三元Ag-Pd-CuOx合金(フィラー金属)の組成

【0017】
これらの種々の一連のフィラー金属組成物に言及するために、25-Pdまたは50-Pdの簡便な表記法が本明細書において使用される。例示的な試験において、パラジウムは、25mol%の増分で0mol%〜50mol%の範囲の量で銀に加えた。酸化銅を加えて三元Pd-Ag-CuOx合金を形成する場合、各組成物は、(100-y)[(100-z)Pd-(z)Ag]-(y)CuOxで表され、式中、y=0mol%〜34mol%のCuOxであり、ならびにz=50mol%、75mol%、および100mol%の銀である。説明の目的で例示的な組成物を本明細書において記載しているが、本発明がそれらに限定されるわけではない。当業者には明らかであるように、多くの異なる三元合金組成物は、本明細書において示される具体的な式の範囲内となるように製造することができる。したがって、限定が意図されるものではない。
【0018】
銅金属粉末をフィラー金属ペースト配合物中に使用ことができ、この粉末は大気ろう付け作業中に酸化する。Ag-CuOx系の偏晶温度未満で、この結果得られる平衡酸化銅相はCuOであり、これは偏晶温度よりも高温で分解してCuOおよびCu2Oの混合物を形成する。したがって、表1に挙げた目標組成は、CuOの最終組成を仮定しているが、実際には最終フィラー金属組成物は、温度およびろう付け作業時間に依存してCu2Oを含有することができる。銅相は、総称的にCuOxと記載され、式中のx=0、0.5、または1は、それぞれ金属銅、1/2Cu2O、およびCuOに対応している。ろう材組成物を、適切な量の銀粉末(99.9%、平均粒度0.75μm、銅粉末(99%、平均粒度1.25μm)、およびパラジウム粉末(>99.9%、サブミクロンの平均粒度)を乳鉢および乳棒で乾式混合することによって配合した。混合物を空気中で加熱することで、銅をその場で酸化させた。たとえば示差熱分析(DTA)を使用して温度の関数として、種々のろう材組成物中の相変化を特定することができる。Pd-Ag-CuOx混合物の液相線温度および固相線温度に対するパラジウムの添加の影響について、図1a〜1bを参照してこれより議論する。
【0019】
図1a〜1bは、それぞれCuOx含有率の関数としてのPd-Ag-CuOx系の液相線温度を示すプロットである。Pd-Ag-CuOx系の固相線および液相線温度に対する中から高のパラジウム濃度(>5mol%)の影響を、DTAを使用して調べた。一部の試料は、複数のピークを有する多数の吸熱を示し、それぞれが相変化に対応している可能性がある。場合により、高温においてより広い吸熱が観察される。これらの試料の冷却時の微細構造の検査に基づくと、これらの結果は2相非混和性液体の形成に起因する。Ag-Pd二元系において、パラジウム含有率の増加とともに、固相線温度および液相線温度の両方が、962℃におけるAgの融点から1555℃におけるPdの融点まで単調に上昇するが、これらの二相の線は理想的な挙動からわずかな負の偏差を示している。Pd-CuO系はほとんど知られていないが、銀に対するパラジウムの融点上昇効果に基づくと、固相線および液相線は、適量のパラジウムをAg-CuOx系に加えると、特に低酸化銅濃度の場合に上昇すると予想された。図1aおよび図1bに示されるように、この効果は三元Pd-Ag-CuOx系において観察される。両方のフィラー金属系において、パラジウムの添加によって、Ag-CuOx系において見られるよりも、はるかに高く各特性温度が上昇する。一般に、25-Pdシリーズのフィラー金属組成物の液相線は、Ag-CuOx二元材料の場合よりも約220℃高い。50-Pd試験片の場合、液相線温度の上昇は、8mol%のCuOxにおける280℃から、ほぼ0mol%の酸化銅における390℃を超えるまでの範囲となる。同様に、固相線温度は、25mol%Pd試験片の場合、銀リッチフィラー金属組成物の場合に185℃、銅リッチ組成物の場合には60℃上昇する。50-Pdシリーズのフィラー金属組成物では、固相線温度の上昇は、0mol%〜10mol%のCuOxの組成範囲にわたって390℃から170℃まで変化する。
【0020】
図2は、Pd濃度の関数としてのPd-Ag-CuOx系の液相線温度および固相線温度を示すプロットである。図面中に示されているように、液相線温度および固相線温度の両方が、本発明の三元組成物中のパラジウム濃度の増加とともに上昇する。この現象に基づくと、一連の大気ろう付け用フィラー金属組成物は、同等のAg-CuOxフィラー金属組成物で使用可能となる(すなわち二元フィラー金属が液化する、または顕著なクリープ変形が起こる)温度よりも高い使用温度で使用するために開発することができる。
【0021】
図3は、増加する(CuO)含有率の関数としての、本発明の三元(Pd-Ag-CuOx)組成物から作製した接合部の平均曲げ強度を示すプロットである。これらの組成物の試験では、15mol%の一定のパラジウム(Pd)濃度を利用したが、本発明がそれに限定されるわけではない。Pd-Ag-CuOフィラー金属組成物を使用して、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)曲げ試験片を接合した。図面中、接合強度は、約4mol%〜8mol%の間の(CuO)濃度において約110MPaの最大値まで増加し、その後全体的に放物線状の傾向で減少する。接合部の強度は、選択したフィラー金属組成物中の構成要素の濃度に基づいて最適化することができる。接合部におけるぬれ性と接着性との間のバランスは、CuO含有率を増加させることで改善され、これは全体的な接合強度に寄与する。種々の曲げ強度が、あらかじめ選択された(Cu)濃度に基づいて得られる。したがって好適な曲げ強度を、所与の用途または特に使用温度に対して選択することができる。組成物中の例示的な成分濃度をここで示してきたが、本発明がそれらに限定されるわけではない。
【0022】
高温装置および用途
平面固体酸化物燃料電池(pSOFC)などの高温勾配に基づく電気化学的装置の設計および製造には、たとえば隣接する金属およびセラミックの構成材料成分を、シールおよび/または封止成分を併用して封止する必要がある。本明細書において記載の本発明の組成物は、高温装置中のシールまたは封止成分としての使用に適している。これらの本発明の三元合金組成物から製造されたシーラントも、装置構成材料の封止に適している。本発明の三元合金組成物を含有するシール、封止成分、およびプリフォームは、限定するわけではないが、たとえば、テープ鋳造、ペースト鋳造、分配ペースト鋳造、砂型鋳造、鋳型鋳造、シェル型鋳物、鋳金、ダイカスティング、スピン鋳造、ロストワックス鋳造、遠心鋳造、箔鋳造、連続鋳造、ロール鋳造、および類似の鋳造方法を含む機械技術分野において公知の種々の鋳造方法を使用して所望の形状および厚さで製造することができる。さらに、本発明の三元合金組成物を含有するシール、封止成分、およびプリフォームは、ロールプレス法、および当業者に公知の他のプレス成形方法を使用して製造することができる。本発明の三元合金組成物は、高温装置中のシーラントおよび大気ろう付け用フィラー材料として、限定するわけではないがたとえば、スクリーン印刷、予備成形法、大気ろう付け法、多段階ろう付け法、および製造技術分野において公知の類似の方法などの方法を併用して、さらに適用することができる。このような用途では、本発明の組成物を、バインダー、溶媒、可塑剤、およびこれらの構成要素の混合物などの構成要素と混合することで、組成物を接合面に堆積可能にするペースト、スクリーン印刷用インク、塗料、およびスプレースラリーを形成することができる。装置の構成材料の封止は、たとえば、Weil et al.(「Reactive Air Brazing: a novel method of sealing SOFCs and other solid-state electrochemical devices」, Electrochem. So. St. Lett. 8 (2): A133-A136中)(この記載内容全体が参照により本明細書に組み入れられる)などによって記載されるような大気ろう付け方法を使用して行うことができる。例示的な高温装置の封止をこれより説明する。
【0023】
図4aは、例示的な固体酸化物燃料(SOFC)スタック(スタックは図示せず)の1つのカセット50(ユニット)を示している。カセットは、相互接続板10によって上部および底部の境界が付けられている。カセットの分解組立図を図4bに示している。図示される設計では、セパレーター(相互接続)板10、窓枠15、およびセラミックセル20が、SOFCスタック全体で繰り返されるユニットまたはカセットを形成している。窓枠は、スタック内およびスタックを通過するガスを集配するための信頼性のある手段を提供し、SOFCカソード(図示せず)を横断する気流を提供する均一な間隙が形成される。図面中、3つのシール25が示されている。第1のシール25は、上部相互接続板10と窓枠15との間に配置されている。第2のシール25は、セラミックセル20の上面上に配置され、セラミックセルを窓枠15に封止している。第3のシール25は、窓枠15とカセットの(底部)相互接続板10との間に配置されている。SOFCスタック中の各シールは、個別の装置、用途、および/または使用温度のためにあらかじめ選択された、式[1]によって定義される好適な三元大気ろう付け用フィラー金属組成物で構成される。3つのシールが本設計中に示されているが、数は限定されない。これらのスタック組立体中のシールおよび封止成分は、たとえば、650℃〜800℃の間の通常の使用温度において、酸化性および還元性の両方の雰囲気または環境に曝露すると推測されるが、これらの温度に限定されるわけではない。選択された使用条件下で、スタック中のシールおよび封止成分は、それらの密封性(封止能力)、機械的耐久性、および化学安定性を、多数の熱サイクルおよび装置の寿命の間に維持する必要があり、この寿命は25,000時間を超えるまで延長され得る。多成分装置の製造における問題の1つは、連続する一連の接合および/または封止の段階が多くの場合に必要となることである。引き続く接合または封止段階は、場合により元のシールを劣化させることもある温度に元のシールを再曝露することがある。たとえば上部相互接続板10と窓枠15との間に配置されたシール25は、好ましくは、引き続くスタック封止段階において利用される温度において再溶融したり完全性が損なわれたりすることがない十分高い固相線温度を有する。三元フィラー金属組成物(たとえば、Pd-Ag-4CuO)中へのパラジウムなどの融点上昇物質の導入によって、合金の固相線温度を最高でたとえば50℃〜100℃上昇させることができ、使用に適した接合強度がさらに得られる。好適な三元フィラー金属組成物(たとえば、図2を参照して前述したように)を選択することによって、大気ろう付け封止は、最低970℃の温度で確実に行うことができる。好適な固相線温度を有する異なるフィラー金属組成物を選択することによって、大気ろう付けを封止作業中のあらゆるシールに利用することができる。本発明の三元組成物を使用した大気ろう付けによって、SOFCシールおよびセラミック構成材料を空気中で直接接合することができ、酸化に抵抗性である気密シールが形成される。これらの条件下での封止は、好ましくは、1)構成材料部品を接合する大気ろう付けプロセス中のこれらの組成物のぬれ挙動に対して、または2)結果として得られる接合部の強度に対してほとんど影響がない三元フィラー金属組成物を使用して行われる。
【0024】
図5は、あらかじめ選択された大きさの1つまたは複数のシール25を含むガス濃縮装置の概略図である。シール25は、本明細書において記載の三元大気ろう付け用フィラー金属組成物で構成される。この設計において、好適な電極および電気的接続部を含有する好適なセラミック電解質膜60が、シール25において金属製セパレーター板65に気密接合されることで、1つのユニット100が得られ、これが複数の膜のスタックの形成において全体的に繰り返される。シールは、式[1]によって定義される任意の種々の三元フィラー金属組成物を使用することによって形成することができる。空気は、各セパレーター板65中の一連のマニホールド孔(図示せず)を介してスタックに入り、各電解質膜60の一方の側(たとえば、カソード側)を通過する。この空気中の酸素は、触媒によってイオン化され、電界下および/または化学勾配下でイオンとして膜を横断し、アノード上で還元された後、精製された酸素流を形成し、この酸素流は、スタックの中央のチムニー70付近の各セパレーター板中の第2の組のマニホールド孔(図示せず)を通して集めることができる。次に、精製された酸素は、装置下流の用途のためにチムニー70を上昇して流れる。シールの気密性は、高い分離効率を確実にし、高純度酸素流を提供するために重要である。
【0025】
図6aは、それぞれがガスマニホールド120に連結された一群のガス分離管110を含む例示的なガス分離装置の1つのユニット150を示している。1つの分離管を図6bに示している。この設計では、好適な管状膜110が、シール25を使用して隣接する金属またはセラミック製ガスマニホールド120に、管のいずれかの端部(その一方が図示されている)において気密接合される。マニホールド中に挿入される各管の部分は、本発明の三元大気ろう付け用フィラー金属のコーティングを含む。膜110は、ナノポーラスであってよいし、または1種類の所与の化学種の選択輸送を行うために混合伝導性(イオンおよび電子)セラミック電解質で構成されていてもよい。一群の管は、この方法で接合されることで、分離ユニットが形成される(図6a参照)。図示されているように、ガス混合物(大部分がH2、CO、H2O、およびCO2のガスで構成される石炭ガスが一例である)が、一群の管状膜の上を通過する。物理的分離(すなわち、最小ガス種のみが移動できるのに十分な小ささの孔を通って)または電気化学的分離(すなわち電界下および/または化学勾配下で)によって、1つのガス種が、膜の一方の側から他方の側に優先的に移動する。たとえば、水素は、管の外側から内側に優先的に移動することができ、内側で水素が収集され、最終的にマニホールド120系に流されて、装置の下流で適用するために移送される。シールの密封性は、高い分離効率および高純度生成物流の供給を確実にするために重要である。シールは、式[1]によって定義される任意の種々の三元フィラー金属組成物を使用して形成することができる。
【0026】
以下の実施例によって、本発明をより広い局面でさらに理解できる。
【0027】
実施例1:Pd-Ag-CuOx三元合金のDTA分析
Pd-Ag-CuOx三元合金組成物の熱分析を、高温炉およびType-S試料キャリアが取り付けられたDTAシステムを使用して行った。試料は、おおよそ5〜10mgの所与の粉末混合物を直径2mmのペレットにコールドプレスすることによって調製した。DTA試験は、10mL/分の速度で流れる乾燥空気中で行った。10℃/分の加熱速度を利用し、最高温度は、検討する試料のパラジウム含有率に基づいた。二元合金試料(対照)は1000℃の最高温度まで加熱した。三元25-Pd合金試料は1250℃まで加熱し;50-Pd試料は1400℃まで加熱した。良好な再現性のある結果が確実に得られるように、各試料を3回分析した。Ag中0〜50mol%のPdの合金組成の関数としての固相線温度および液相線温度の測定の差は1%未満であった。
【0028】
実施例2:Pd-Ag-CuOxフィラー材料のぬれ性
三元Pd-Ag-CuOx三元合金組成物のぬれ性を、たとえば、詳細がHumpston et al.により「Principles of Soldering and Brazing」(ASM International, Materials Park, OH, 1993)、およびEustathopoulos et al.により「Wettability at High Temperatures」(Pergamon, Amsterdam, New York, 1999)に記載されており、(J. T. Darsell and K. S. Weil,「The effect of palladium additions on the solidus/liquidus temperatures and wetting properties of Ag-CuO based air brazes,」J. Alloy Comp., 433 (1-2) (2007), 184-92)に報告されている標準的な液滴技術を使用して求めた。液滴試験は、加熱した試験片の接触角(θ、度)を外から見て記録することができる石英窓が取り付けられた静止空気マッフル炉中で行った。選択した合金のペレット[直径約7mm×厚さ10mm]を、多結晶アルミナ基材(99.7%α-Al2O3:直径50mm×厚さ6mmの円板)]の研磨面上でコールドプレスし、検討する組成物のパラジウム含有率に依存した計画を使用して加熱した。25-Pd試料の場合、炉を30℃/分で1100℃の初期温度まで加熱し、続いて1150℃、1200℃、および1250℃のそれぞれにおいて15分間の平衡時間を使用しながら10℃/分で加熱した。同じ加熱サイクルを50-Pd試料の場合にも利用し、1300℃および1350℃において2回の15分間の平衡時間を追加した。ズームレンズを取り付けた高速ビデオカメラを使用して、加熱サイクル全体でのろう材ペレットの輪郭を記録した。大気ろう付け用ろう材とアルミナ基材との間の接触角をデジタル静止画像から測定し、加熱試験の温度記録と相関させた。データを表3〜5に示している。
【0029】
(表3)Ag-CuOx合金(対照)について測定した接触角

【0030】
(表4)三元(25-Pd)Pd-Ag-CuOx合金について測定した接触角

【0031】
(表5)三元(50-Pd)Pd-Ag-CuOx合金について測定した接触角

【0032】
実施例3(接合強度測定)
4点曲げ強度試験によって接合強度測定を行った。YSZ粉末をダイ中25MPaで一軸加圧成形し、YSZコンパクトを135MPaで等方圧緻密化し、コンパクトを1450℃で1時間焼結して、緻密化された板を形成することによってYSZコンパクトから製造された厚さ〜5.5mmの長方形のYSZ板から試験片を作製した。焼結後、各板の1つの端部を-3μmの仕上げとなるまで研磨して、平坦な接合面を得た。ポリマーバインダーと混合した70重量%のフィラー金属ろう材ペーストをこの表面上にスクリーン印刷した。印刷した端部に沿って2つの板をつなぎ合わせ、鋼製クリップを使用して固定した。後の曲げ試験用に均一な間隙厚さを維持するために、接合部の末端にシムを配置した。得られた組立体を1150℃で30分間大気ろう付けした。得られた64mmの正方形の板を厚さ4mmまで研磨し、幅3mmの曲げ試験片に切断した。破壊が記録される時点まで、0.5mm/分のヘッド速度で曲げ荷重を加えた。
【0033】
結論
M-Ag-CuOx系を主成分とする三元合金組成物が、たとえば、高温大気ろう付け用フィラー材料として、封止用途の気密シールおよび封止成分中、固体電気化学的装置、ならびに限定するわけではないが、たとえば、固体酸化物燃料電池(SOFC)、ガス分離器、ガス濃縮器、およびセンサーを含む他の高温装置中への使用が見出されたことを説明してきた。少量のCuOxを加えることによって、合金組成物のぬれ特性、たとえばYSZ基材に対するたとえば15PdAg合金のぬれ特性が改善され、それによってあらかじめ選択された好適な強度を有する接合部が形成される。特に、おおよそ4mol%〜8mol%のCuOを15Pd-Ag合金に加えることによって、90MPa程度の最適な曲げ強度が得られる。このCuO濃度範囲で、接合される基材の間に連続で十分なCuO界面層の形成が促進され、最適な接合強度が実現される。これらのフィラー金属組成物を使用したろう付けは、最高約1075℃の温度で効率的に行うことができる。さらに、本発明の組成物は、他の大気ろう付け用フィラー金属、たとえば、二元フィラー金属に対して適合性である。パラジウムなどの貴金属をAg-CuOx大気ろう付け用ろう材系に加えると、その結果得られるろう付けフィラー金属および材料の使用温度が上昇する。たとえば、パラジウムによって液相線温度および固相線温度の両方が、当技術分野で公知の二元組成物よりも最高350℃上昇する。より高いCuOx含有率の組成物の温度上昇はあまり顕著ではないが、このような組成物でも、広範囲の使用温度である範囲で許容される大気ろう付け材料が得られる。パラジウムを加えることによって、大気ろう付け用フィラー金属と、たとえばアルミナ基材との間のぬれ角も増加する。(100-x)(25Pd-75Ag)-(x)CuOxの組成物は、調査したすべてのCuOx含有率で十分なぬれ性を示す。(100-x)(50Pd-50Ag)-(x)CuOxシリーズのフィラー金属は、CuOx濃度が約10mol%未満の場合にはアルミナを効果的にぬらさない。本明細書において記載の三元系は、高温大気ろう付け材料としての潜在的用途を有し、当技術分野で公知のAg-CuOx系よりも高い温度性能を示す。TiO2などの湿潤剤を加えることによって、貴金属で改質した大気ろう付け用フィラー金属(合金)のぬれ挙動、接着、および接合強度が改善される。本発明の例示的な態様を示し、説明してきたが、本発明の真の範囲およびより広い局面から逸脱することなく多数の変更および修正を行えることは、当業者には明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の意図および範囲の中にあるとして、このようなすべての変更および修正に及ぶことを意図している。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を特徴とする、シール:
あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、(Ag)金属、およびCuOxで構成される三元M-Ag-CuOx合金であって、該合金が以下の化学組成を有する:
(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOx;
式中、M=0mol%〜100mol%の該貴金属であり、該貴金属が:金(Au);パラジウム(Pd);白金(Pt);ロジウム(Rh);ルテニウム(Ru);オスミウム(Os);レニウム(Re);イリジウム(Ir);およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;
y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;
z=0mol%〜100mol%のAgであり;および
Cu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。
【請求項2】
シールが、固体酸化物燃料電池、ガス濃縮装置、またはガス分離装置の構成材料である、請求項1記載のシール。
【請求項3】
以下の段階を含む、シールの製造方法:
あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxを互いに混合して、以下式の三元M-Ag-CuOx合金を得る段階;
(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOx
式中、M=0mol%〜100mol%の前記貴金属であり、前記貴金属が:金(Au);パラジウム(Pd);白金(Pt);ロジウム(Rh);ルテニウム(Ru);オスミウム(Os);レニウム(Re);イリジウム(Ir);およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;
y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;
z=0mol%〜100mol%のAgであり;および
Cu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である;
前記混合物を溶融させて、前記三元M-Ag-CuOx合金の溶融物を得る段階;および
前記溶融物を固化させて、前記三元M-Ag-CuOx合金を含むシールを形成する段階。
【請求項4】
混合する段階が、前記混合物中のCuOxをCu金属で置き換えることを含み、この段階の後に、前記混合物を加熱してCu金属をCuOxに酸化して、三元M-Ag-CuOx合金を得る段階が続く、請求項3記載の方法。
【請求項5】
貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxを混合する段階が、a)Ag-CuOx合金を貴金属(M)に混合して混合物を得ること、またはb)M-Ag合金をCuOxに混合して前記混合物を得ること、またはc)M-CuOx合金をAg金属に混合して前記混合物を得ることを含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
固化させる段階が、それによってシールのあらかじめ選択された形状および厚さが得られる鋳型の使用を含む、請求項3記載の方法。
【請求項7】
固化させる段階が、高温装置の構成材料の間で溶融物を固化させることを含み、それによって前記装置の前記構成材料の間に構成材料を封止するシールが形成される、請求項3記載の方法。
【請求項8】
混合物を微粒子化して、溶融前に均一な組成の粉末を形成する段階をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項9】
バインダー、溶媒、可塑剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるあらかじめ選択された量の構成要素を前記粉末と混合して、接合面に堆積可能なペースト、スクリーン印刷用インク、塗料、またはスプレースラリーを形成する段階をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
粉末をプレス成形して、あらかじめ選択された形状のプリフォームを形成する段階をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
粉末をプレス成形する段階が、接合面上でのプリフォーム取り扱い、供給、または配置に十分な安定性を提供するあらかじめ選択された量のバインダーを混合することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
粉末をプレス成形する段階が、前記粉末のロールプレスまたは鋳造によって、シート状プリフォームを提供することを含み、該シート状プリフォームは、切断または機械加工によって、それを上に適用するための接合面に合ったあらかじめ選択された構造または形状を実現することができる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
以下を含む、組成物:
以下式の三元M-Ag-CuOx合金を定義する、あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、Ag、およびCuOx
(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOx;
式中、M=0mol%〜100mol%の貴金属であり、前記貴金属が:金(Au);パラジウム(Pd);白金(Pt);ロジウム(Rh);ルテニウム(Ru);オスミウム(Os);レニウム(Re);イリジウム(Ir);およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;
y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;
z=0mol%〜100mol%のAgであり;および
Cu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である。
【請求項14】
以下の段階を含む、三元M-Ag-CuOx合金の調製方法:
あらかじめ選択された濃度の貴金属(M)、Ag金属、およびCuOxを互いに混合して、以下式の三元M-Ag-CuOx合金を定義する混合物を得る段階:
(100-y)[(100-z)M-(z)Ag]-(y)CuOx;
式中、M=0mol%〜100mol%の前記貴金属であり、前記貴金属が:金(Au);パラジウム(Pd);白金(Pt);ロジウム(Rh);ルテニウム(Ru);オスミウム(Os);レニウム(Re);イリジウム(Ir);およびそれらの組み合わせからなる群より選択され;
y=0mol%〜100mol%のCuOxであり;
z=0mol%〜100mol%のAgであり;および
Cu金属、Cu2O、またはCuOの場合にそれぞれx=0、0.5、または1である;
前記混合物を微粒子化して、前記三元M-Ag-CuOx合金の均一な組成の粉末を形成する段階。
【請求項15】
混合する段階が、混合物中のCuOxの代わりにCu金属を混合し、続いて、前記混合物を微粒子化する前に加熱してCu金属をCuOxに酸化することを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
三元M-Ag-CuOx合金が大気ろう付け用フィラー材料の構成要素である、請求項14記載の方法。
【請求項17】
三元M-Ag-CuOx合金がシーラントの構成要素である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
三元M-Ag-CuOx合金がシールまたは封止手段の構成要素である、請求項14記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−534135(P2010−534135A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516257(P2010−516257)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/069729
【国際公開番号】WO2009/009710
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(506283798)バッテル メモリアル インスティチュート (19)
【Fターム(参考)】