高温安定性酸素担体を含む医薬組成物の製造方法およびその使用
哺乳類における使用に適切な高効率な酸素送達を有し、腎障害および血管収縮の原因とはならない、高温安定性で高精製された架橋化(任意に≧70%β−β架橋化された)された四量体ヘモグロビンが提供される。ヘモグロビンの二量体形態は変性され、精製プロセスが全血からの赤血球において行われる。瞬間細胞溶解装置における制御された低張溶解は白血球の溶解を防止する。白血球からの核酸およびリン脂質不純物は検出されない。スルフヒドリル試薬による反応性スルフヒドリル基の阻害は、酸素化環境において行われる。流液カラムクロマトグラフィは異なる血漿タンパク質不純物を除去する。N−アセチルシステインが架橋四量体ヘモグロビンに対して添加され、低濃度のメトヘモグロビンが維持される。安定化されたヘモグロビンは、アルミニウム上包装を有する注入バッグ中に保存され、酸素の侵入によるメトヘモグロビンの形成を防止する。生成物は組織酸素化および癌治療における使用を提供する。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2010年5月27日に提出された米国仮特許出願第61/348,764号および2011年1月26日に提出された米国特許出願第13/013,847号の優先権を主張するものであり、その開示は参照により組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、高温安定性酸素担体を含む医薬組成物の製造方法および当該方法により製造された組成物に関する。本発明はまた、高温安定性酸素担体を含む医薬組成物のヒトおよびその他の動物のための癌治療、酸素欠乏障害の治療および臓器保存のための使用に関する。
【発明の背景】
【0003】
ヘモグロビンは、殆どの脊椎動物において、血管系と組織の間のガス交換のために重要な役割を果たす。それは、血液循環を介して呼吸器系から体細胞へと酸素を運搬し、また代謝老廃物である二酸化炭素を、二酸化炭素が吐出される呼吸器系へと体細胞から運び去ることを担当している。ヘモグロビンはこの酸素輸送の特徴を有しているので、エクスビボで安定化でき且つインビボで使用できれば、強力な酸素供給体として使用することができる。
【0004】
天然に存在するヘモグロビンは、赤血球内に存在するときには一般に安定な四量体である。しかしながら、天然に存在するヘモグロビンが赤血球から取り出されると、それは血漿中で不安定になり、二つのα−β二量体に分裂する。これら二量体の各々は、分子量が約32kDaである。これら二量体は、腎臓を通して濾過および排泄されるときに実質的な腎障害を引き起こす。四量体結合の分解はまた、循環系における機能的ヘモグロビンの持続可能性に悪影響を与える。
【0005】
四量体の分解を防止するために、ヘモグロビン加工における最近の発展は、四量体内での分子内結合、並びに四量体間での分子間結合を形成してポリマーヘモグロビンを形成するために、種々の架橋技術を取込んできた。従来技術は、ヘモグロビンの循環半減期を増大させるためには、ポリマーヘモグロビンが好ましい形態であることを教示している。しかし、本発明者等が確認したように、ポリマーヘモグロビンは血液循環系において容易にメトヘモグロビン(met-hemoglobin)に変換される。メトヘモグロビンは酸素と結合することができず、従って組織に酸素供給することができない。従って、従来技術によりポリマーヘモグロビンの形成を生じることが教示された架橋は問題である。当該技術においては、ポリマーヘモグロビンの同時形成を伴うことなく安定な四量体を形成するための、分子内架橋を可能にする技術が必要とされている。
【0006】
更に、ヘモグロビンを安定化させようとした従来技術に伴う更なる問題には、許容できない高パーセンテージの二量体ユニットを含んだ四量体ヘモグロビンの産生が含まれる:二量体の存在により、ヘモグロビン組成物は、哺乳類への投与について満足できないものとなる。ヘモグロビンの二量体形態は、哺乳類の身体において幾つかの重篤な腎障害を生じる可能性がある;この腎障害は死亡の原因になり得るほどに十分に重篤である。従って、当該技術においては、最終生成物中に望まれない二量体形態が低い安定な四量体ヘモグロビンを製造することが必要とされている。
【0007】
安定なヘモグロビンを作製しようとする従来技術に伴う更なる問題には、哺乳類において、アレルギー効果を生じ得る免疫グロブリンGなどのタンパク質不純物の存在が含まれる。従って、当該技術では、タンパク質不純物の存在しない安定な四量体ヘモグロビンを製造できる方法が必要とされている。
【0008】
従来技術のヘモグロビン製造に伴う他の問題は、哺乳類での輸血に続く血管収縮を含む。この血管収縮は内皮由来弛緩因子のヘモグロビン分子の反応性スルフヒドリル基への結合によるものであると示されている。従って、当該技術には、輸血に続く血管収縮を引き起こさない安定化された四量体ヘモグロビンの作製の必要性がある。
【0009】
上記問題に加えて、当該技術では、リン脂質を含まず且つ工業的規模で製造できる安定化された四量体ヘモグロビンが必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、重篤な腎障害、血管への有害な影響または死亡を含む他の重篤な副作用を起こすことなく、哺乳類において使用するために適した高温安定性の精製された架橋四量体ヘモグロビンを産生する方法を提供する。本発明はまた、高温安定性の精製された架橋四量体ヘモグロビン、並びにインビボおよびエキソビボ組織の酸素化のための当該ヘモグロビンの使用を含む。当該方法は、少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類の全血である出発物質を含む。赤血球は哺乳類の全血中の血漿から分離され、続いて濾過によって濾過された赤血球画分が得られる。濾過された赤血球は洗浄され、血漿タンパク質が除去される。洗浄された赤血球は、流量が50〜1000リットル/時の瞬間細胞溶解装置中で、白血球を溶解することなく赤血球を溶解するために充分な時間をかけて制御された低張溶解により破壊される。濾過が行われて、溶解物から不用残留物の少なくとも一部が除去される。前記溶解物から、第1のヘモグロビン溶液が抽出される。
【0011】
第1の限外濾過プロセスは、四量体ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去し、更に第1のヘモグロビン溶液から何れかのウイルスおよび残存する不用残留物を除去するように構成された限外濾過を使用して行われて、第2のヘモグロビン溶液が得られる。流液カラムクロマトグラフィ(Flowthrough column chromatography)を第2のヘモグロビン溶液において行い、タンパク質不純物、二量体ヘモグロビンおよびリン脂質を除去して、リン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液を形成する。不純物を除去するように構成されたフィルタを使用して、第2の限外濾過プロセスをリン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液において行い、濃縮され精製されたリン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液を得る。
【0012】
完全に酸素化された環境中でスルフヒドリル溶液により、濃縮され精製されたリン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液におけるヘモグロビン分子のスルフヒドリル基を阻害する。ヘモグロビン分子はシステイン部位で内皮由来弛緩因子に結合できなくなるように、得られたヘモグロビン分子の各々はチオール保護基を有する少なくとも1つのシステイン分子を有する。
【0013】
得られる架橋四量体ヘモグロビンの分子量が60〜70kDaであるように、チオール保護化ヘモグロビンの少なくともα-αおよび/またはβ-βサブユニットでフマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによって架橋化されて、ポリマーヘモグロビンの形成を伴わない高温安定性架橋四量体ヘモグロビンが形成される。架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液が交換される。何れかの残留する非架橋四量体ヘモグロビンおよび何れかの残留化学物質を接線流限外濾過(tangential-flow ultrafiltration)を用いて除去される。N−アセチルシステインが0.2〜0.4%の濃度で架橋四量体ヘモグロビンに対して添加され、メトヘモグロビンレベルが5%以下に維持される。リン脂質非含有低二量体チオール保護化高温安定化架橋四量体ヘモグロビンを次に、薬学的に許容される担体に添加し、薬学的に許容される担体は生理学的緩衝液または水であってよい。この工程に続いて、得られたヘモグロビンは気密性ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、エチレンビニルアルコール(PE、EVA、EVOH)輸血容器に任意に包装される。当該包装は、不活性メトヘモグロビンの形成を齎す酸素汚染を防止する。上記の方法により産生された高温安定性架橋ヘモグロビンは、種々の癌、例えば、白血病、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、上咽頭癌および食道癌などの治療のために使用される。癌細胞を破壊する機序は、腫瘍細胞における酸素化を改善し、それにより放射線および化学療法剤に対する感受性を向上するというものである。高温安定性架橋四量体ヘモグロビンはまた、臓器移植中の臓器組織の保存またはインビボにおける酸素供給が不足した状況、例えば、酸素が剥奪された心臓などにおける心臓の保存のために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、異なるヘモグロビンのアミノ酸配列アラインメントを図示する。
【図2】図2は、本発明の方法の概要を図示するフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の方法において使用される瞬間細胞溶解装置を模式図である。
【図4】図4は、酸素化および脱酸素化の環境におけるスルフヒドリル試薬でのヘモグロビンの反応を示すグラフである。
【図5】図5は、架橋四量体ヘモグロビンのための高速液体クロマトグラフィ分析を図示する。
【図6】図6は、架橋四量体ヘモグロビンのためのエレクトロスプレーイオン化質量(ESI-MS)分析を図示する。
【図7】図7は、(a)精製ヘモグロビン溶液および(b)架橋四量体ヘモグロビンのための円偏光二色性(CD)分光法分析を示す。
【図8】図8は、インビトロでの架橋四量体ヘモグロビンの化学増感効果を示す。
【図9】図9は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンを用いる正常組織の酸素化の改善を図示する。
【図10】図10は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンを用いる極度の低酸素腫瘍領域の酸素化の改善を図示する。
【図11】図11は、本発明の安定化架橋四量体ヘモグロビンでの処理後の重篤な出血性ショックのラットモデルにおける平均動脈圧変化を示す。
【図12】図12は、流液カラムクロマトグラフィのための溶出プロファイルである;ヘモグロビン溶液は流液画分中にある。
【図13】図13は、工業的規模操作のための限外濾過を伴う流液CMカラムクロマトグラフィシステムを概略的に図示する。
【図14】図14は、酸素化環境におけるスルフヒドリル反応と脱酸素化環境における反応との間の比較である。
【図15】図15は従来のヘモグロビンと対比した本発明の架橋四量体ヘモグロビンの熱安定性を示すグラフである。
【図16】図16は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンのための輸液バッグの模式図である。
【図17】図17は、インビトロにおけるメトヘモグロビンの形成を試験するために用いられる装置の模式図である。
【図18】図18は、図17の装置におけるポリマーヘモグロビンと本発明のヘモグロビンとについてのメトヘモグロビン形成の割合を示す。
【発明の詳細な説明】
【0015】
ヘモグロビンは、哺乳類および他の動物の血液の赤血球における、鉄を含んだ酸素輸送タンパク質である。ヘモグロビンは、タンパク質の三次構造および四次構造の両方の特徴を示す。ヘモグロビン中のアミノ酸の殆どは、短い非螺旋セグメントにより接続されたαへリックスを形成する。水素結合は、ヘモグロビンの内側の螺旋セクションを安定させて分子内での引力を生じ、それによって各ペプチド鎖を特定の形状に折畳む。ヘモグロビン分子は、四つの球状タンパク質サブユニットから組み立てられる。各サブユニットは、埋め込まれたヘム基と共に、「ミオグロブリン畳み込み」配列で接続された1組のαへリックス構造セグメントに配置されたポリペプチド鎖で構成される。
【0016】
ヘム基は、ポルフィリンとして知られる複素環の中に保持された鉄原子からなっている。該鉄原子は、1つの面内にある環の中心において、四つの全ての窒素原子に均等に結合している。次に、酸素はポルフィリン環の平面に対して垂直に、鉄中心に結合することができる。このように、単一のヘモグロビン分子は、酸素の4つの分子と結合する能力を有する。
【0017】
ヒト成人において、最も共通するタイプのヘモグロビンは、ヘモグロビンAと呼ばれる四量体であり、α2β2と称する非共有結合で結合された二つのαサブユニットおよび二つのβサブユニットからなり、各々がそれぞれ141アミノ酸残基および146アミノ酸残基でできている。αサブユニットおよびβサブユニットのサイズおよび構造は、相互に非常に類似している。四量体の約65kDaの総分子量について、各サブユニットは約16kDaの分子量を有している。四つのポリペプチド鎖は、塩橋、水素結合および疎水性結合によって相互に結合される。ウシヘモグロビンの構造はヒトヘモグロビンに類似している(α鎖で90.14%の同一性;β鎖で84.35%の同一性)。相違点は、ウシヘモグロビンにおける二つのスルフヒドリル基がβCys93に位置するのに対して、ヒトヘムロビンにおけるスルフヒドリル基はαCys104、βCys93およびβCys112にそれぞれ位置することである。図1は、ウシ、ヒト、イヌ、ブタおよびウマのヘモグロビンのアミノ酸配列アラインメントを示しており、それぞれB、H、C、P、およびEで標識されている。種々の起源に由来する異なるアミノ酸には影が付されている。図1は、ヒトヘモグロビンが、それらのアミノ酸配列を比較したときに、ウシ、イヌ、ブタおよびウマのヘモグロビンとの高い類似性を有していることを示している。
【0018】
赤血球の内部で天然に存在するヘモグロビンにおいて、α鎖とその対応するβ鎖との会合は非常に強く、生理学的条件下では脱離しない。しかし、赤血球の外側では、一つのαβ二量体ともう一つのαβ二量体との会合は非常に弱い。結合は、各々が約32kDaの二つのαβ二量体に分離する傾向を有している。これらの望ましくない二量体は、腎臓により濾過され排泄されるためには十分に小さく、その結果として潜在的な腎障害および実質的に血管内保持時間の低下が生じる。
【0019】
従って、有効性および安全性の両方のために、赤血球の外側で使用される全てのヘモグロビンを安定化させることが必要とされる。安定化されたヘモグロビンを製造するための方法を以下で概説する;本発明の方法の概観が図2のフローチャートに提示されている。
【0020】
最初に、赤血球由来ヘモグロビンの供給源としての全血源を選択する。ヒト、ウシ、ブタ、ウマおよびイヌの全血を含む哺乳類の全血が選択されるが、これらに限定されない。赤血球を血漿から分離し、濾過し、洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去する。
【0021】
赤血球からヘモグロビンを放出するために、細胞膜を溶解させる。赤血球を溶解させるために種々の技術を使用できるが、本発明では、工業的規模の生産に適した容量で正確に制御できるように、低張条件下での溶解を使用する。この目的のために、図3に見られる瞬間細胞溶解装置を、赤血球を溶解するために使用する。低張溶解が、ヘモグロビンおよび不用残留物を含有する溶解物の溶液を形成する。工業的規模での製造を可能にするために、溶解は、白血球または他の細胞を溶解することなく、赤血球だけを溶解するように注意深く制御される。1つの態様において、瞬間細胞溶解装置のサイズは、約30秒で赤血球が装置を横切るように選択され、細胞溶解装置は、静的ミキサーを含む。脱イオン化された蒸留水が低張溶液として使用される。勿論、異なる塩水濃度を有する他の低張溶液の使用は、異なる時間で赤血球細胞溶解が得られることが理解される。制御された溶解方法は、白血球または細胞物質を溶解せずに赤血球のみを破壊するので、毒性タンパク質、リン脂質または白血球由来のDNAおよび他の細胞物質の放出を最小限に抑える。低張溶液は30秒後に、即ち、赤血球を含有する溶液が細胞溶解装置の静的ミキサー部分を横切った後、直ちに添加される。得られたヘモグロビンは、他の溶解技術を使用して得られたヘモグロビンよりも高い純度で、且つ低レベルで汚染物、例えば望ましくないDNAおよびリン脂質を有する。白血球由来の望ましくない核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応法(検出限界=64pg)および高速液体クロマトグラフィ法(HPLC、検出限界=1μ/mL)によっても、ヘモグロビン溶液中において検出されない。
【0022】
2つの限外濾過プロセスが行われる:1つは、流液カラムクロマトグラフィの前に、ヘモグロビンよりも大きい分子量を有する不純物を除去するものであり、もう1つは、流液カラムクロマトグラフィの後に、ヘモグロビンよりも小さい分子量を有する不純物を除去するものである。後者の限外濾過プロセスはヘモグロビンを濃縮する。幾つかの態様において、第1の限外濾過のために100kDaのフィルタが使用されるのに対して、第2の限外濾過のためには30kDaのフィルタが使用される。
【0023】
流液カラムクロマトグラフィが使用されて、精製されたヘモグロビン溶液中のタンパク質不純物、例えば免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水酵素が除去される。幾つかの態様において、カラムクロマトグラフィは、DEAEカラム、CMカラム、ヒドロキシアパタイトカラムなどの商業的に入手可能な1つのイオン交換カラムまたはこれらカラムの組合せを使用することにより行われる。カラムクロマトグラフィのためのpHは、典型的には6〜8.5である。1つの態様において、流液CMカラムクロマトグラフィ工程は、pH8.0でタンパク質不純物を除去するために使用される。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が行われて、カラムクロマトグラフィから溶出した後に、試料中に残存しているタンパク質不純物およびリン脂質が検出される。この独特の流液カラムクロマトグラフィ分離が、工業的規模での製造を可能にする連続的な分離スキームを可能にする。ELISAの結果は、溶出した架橋四量体ヘモグロビン中で、これら不純物の量が実質的に低いことを示している(免疫グロブリンG:44.3ng/mL;アルブミン:20.37ng/mL;炭酸脱水素酵素:81.2μg/mL)。異なるpH値で異なる種類のカラムを用いたタンパク質不純物除去の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0024】
望ましくない血管収縮を引き起こすヘモグロビンのシステイン部位に対する内皮由来弛緩因子の結合を防止するために、酸素化条件下でヘモグロビンをスルフヒドリル試薬との反応に供する。これは、脱酸素化条件下でのヘモグロビンとスルフヒドリル試薬との間の反応を強調する従来技術の教示とは対照的な方向にある。本発明は、スルフヒドリル試薬が、酸素化条件下でヘモグロビンの反応性スルフヒドリル基とより早く且つ完全に反応することを示している。ヘモグロビンのスルフヒドリル基とのスルフヒドリル試薬の反応は、ヨウ化物を生成する。従って、アルキル化反応の完全性は、ヨウ化物放出を測定することによりモニターできる。図4および図14において示されるように、経時的な実験の間に、アルキル化反応は、脱酸素化環境に比較して、酸素化環境においてより早く且つより効率的に行われる。反応完了のために必要とされる反応時間は、脱酸素化環境に比較して、酸素化環境において5時間未満に短縮される。より短い反応時間は、工業的規模プロセスのために非常に重要である。それはまた、最終生成物中の副作用を引き起こす望まれない不純物に起因する反応を減少する。
【0025】
スルフヒドリル反応プロセスに続き、ヘモグロビンは、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチル(DBSF)によるα−αおよび/またはβ−β架橋化を受ける。ポリマーヘモグロビンの形成を防止するために、反応は、脱酸素化された環境において、ヘモグロビンのDBSFに対するモル比が1:2.5〜1:4.0の間で、得られるα−αおよび/またはβ−β架橋ヘモグロビンが60〜70kDaの分子量を有する四量体ヘモグロビンであり、且つポリマーヘモグロビンが存在しないことが示されるように、注意深く制御される。DBSF反応の収率は高く、>99%、最終生成物における二量体濃度は低く、本発明との関連で、低い二量体含有量とは5%未満、より好ましくは2%未満の二量体を意味する。1つの態様において、架橋は、β−β架橋ヘモグロビンが全架橋四量体ヘモグロビンの50%よりも多くなるように選択される。もう1つの態様において、架橋は、β−β架橋ヘモグロビンが全架橋四量体ヘモグロビンの60%よりも多くなるように選択される。更に、β−β架橋ヘモグロビンが全架橋四量体ヘモグロビンの70%よりも多くなるように条件が選択される。β−β架橋ヘモグロビンがα−α架橋四量体ヘモグロビンよりも低い酸素親和性を有し得るという幾つかの証拠がある。従って、β−β架橋ヘモグロビンが、α−α架橋ヘモグロビンよりも酸素運搬の効率を高めるために好ましい状況であり得る。更に、β−β架橋ヘモグロビンは、腎毒性の減少を助けるであろう少ないα−β二量体を生じ得る。
【0026】
N−アセチルシステインを0.2〜0.4%の濃度でα−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビンに対して添加し、メトヘモグロビンレベルを5%未満に維持する。
【0027】
ヘモグロビンの最終適用に依存して、本発明の精製された架橋四量体ヘモグロビンは任意に気密包装に脱酸素環境において包装される。本発明において使用される包装は、結果として2年以上に亘り安定したα−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビンを生じる。一方、本発明のヘモグロビンは、酸素化条件下では2、3日以内に急速にメトヘモグロビンに変わる。従来技術のヘモグロビン溶液は、高酸素透過性を有するPVC血液バッグまたはステリコン(Stericon)血液バッグに包装されおり、そのために製品の寿命が短縮される。
【0028】
本発明の多くの態様において、架橋ヘモグロビンを含む酸素担体を含む医薬組成物は、静脈注射により送達される。そのため、包装設計および物質の選択は、静脈注射の適用に向けられる。EVA/EVOH物質の多層包装が使用されて気体透過性が最小化され、不活性なメトヘモグロビンの形成が回避される。本発明の精製された架橋ヘモグロビンと共に使用されるために設計された100mLの注入バッグは、厚さ0.4mmの5層EVA/EVOH積層物質から作られ、室温気圧当たり24時間当たり100平方インチ当たり0.006〜0.132cm3の酸素透過性を有する。この物質はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、インビボ生物反応性試験および物理化学試験に適合し、静脈注射目的のための注入バッグを作るために適切である。この主要なバッグは、特にα−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビン溶液を、不安定性の原因となって最終的にその治療特性に影響する長期間の酸素暴露から保護するために有用である。
【0029】
血液生成物の二次保護のために、潜在的な空気の漏出から保護し、脱酸素化状態に生成物を維持するためにアルミニウム上包装の使用が知られている。しかしながら、アルミホイル上包装においてピンホールのある可能性があり、これはその気密を損ない、生成物を不安定にする。従って、本発明は、二次包装として、酸素化を防ぎ、また光暴露を防ぐアルミニウム上包装パウチを使用する。上包装パウチの組成は、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(AL)、0.015mmのナイロン(NY)および0.1mmのポリエチレン(PE)を含む。上包装フィルムは、0.14mmの厚さと、室温気圧当たり24時間当たり100平方インチ当たり0.006cm3の酸素透過率を有する。この二次包装は、ヘモグロビンのための安定時間を延長し、生成物貯蔵寿命を延長する。
【0030】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、エレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS)、および円偏光二色性(CD)分光分析を使用して、α−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビンが分析され、特徴付けがなされる。ウシ血液源について、図5はHPLC分析による分子量分布に関して生成物の組成を示す。HPLC分析法を使用して、四量体および二量体の量がそれぞれ検出される。HPLC分析のための移動相は、塩化マグネシウム(0.75M)を含み、これは二量体、非架橋四量体と安定化されたα−αおよび/またはβ−β架橋四量体とを分離できる。ヘモグロビンの二量体への分離の促進について、塩化マグネシウムは同じイオン強度での塩化ナトリウムよりも約30倍効率的である。
【0031】
ESI-MSは、非常に大きな分子の分析を可能にする。それは、タンパク質をイオン化し、次いでイオン化されたタンパク質を質量/電荷比に基づいて分離することにより、高分子量化合物を分析するイオン化技術である。従って、分子量およびタンパク質相互作用を正確に決定することができる。図6において、ESI−MS分析結果は、安定性四量体のサイズが65kDaであることを示している。190〜240nmの遠紫外線CDスペクトルは、ヘモグロビンにおけるグロブリン部分の二次構造を明らかにしている。図7において、精製された架橋ヘモグロビンのスペクトルの一致性は、DBSFによる架橋後でさえも、ヘモグロビン鎖が適正に折り畳まれていることを明らかにしている。このCDの結果は、架橋ヘモグロビンがαへリックスの42%、βシートの38%、βターンの2.5%およびランダムコイルの16%を有していることを示している。それは更に、架橋四量体ヘモグロビンを形成するためのDBSFでの架橋工程がヘモグロビンの二次構造に影響しないことを裏付ける。
【0032】
本発明の方法により産生された精製された架橋四量体ヘモグロビンは、60〜70kDaの分子量を有し、少なくとも1つのシステイン部分を有し、ヘモグロビンはシステイン部位で内皮由来弛緩因子に結合する能力を持たないように、前記システイン部分は、チオール保護基を含む。更に、架橋ヘモグロビンは非発熱性であり、エンドトキシン非含有(<0.05EU/mL)であり、ストローマ非含有(<1%)である。
【0033】
本発明の方法は、架橋四量体ヘモグロビンの大規模な工業生産のために適用される。加えて、医薬担体(例えば、カプセル形態における水、生理学的緩衝液)との組み合わせる架橋四量体ヘモグロビンは、哺乳類での使用に適している。
【0034】
本発明の架橋四量体ヘモグロビンは、組織の酸素化、癌治療、出血性ショックなどの酸素欠乏症の治療、および低酸素含量環境下での心臓保存(例えば心臓移植)のために使用される。架橋四量体ヘモグロビンの用量は、約0.3〜1.3g/kgの濃度範囲で選択される。
【0035】
癌治療における使用について、本発明の酸素担体を含有する医薬組成物は、腫瘍組織における酸素化を改善することにより、化学感受性(例えば、化学療法に対する感受性)および放射線感受性を高めるための組織酸素化剤として働く。
【0036】
図8は、インビトロにおける架橋四量体ヘモグロビンを含む組成物を適用した後の癌腫瘍細胞の向上された化学的感受性を明示する。5つの異なる癌細胞株(A)ジャーカット(白血病)、(B)HKESCI(食道癌)、(c)COLO205(大腸癌)、(D)A549/Cisp(肺癌)および(E)MCF−7/ADM(乳癌)は種々の化学療法剤単独、または本発明の架橋四量体ヘモグロビンとの組み合わせた化学療法剤で処理される。腫瘍細胞成長の阻害は、ATP腫瘍化学的感受性アッセイ(ATP-TCA)(ジャーカット、COLO205、A549/CispおよびMCF−7/ADM細胞株について)またはMTT細胞増殖アッセイ(HKESCl細胞株について)により決定される。結果は、化学的感受性は、化学療法に対して高度に耐性であるA549/CispおよびMCF−7/ADMを含む全ての癌細胞株において本発明の架橋四量体ヘモグロビンの添加により高度に増強されることを示す。図8における結果は、架橋四量体ヘモグロビンの添加により増強された化学的感受性の結果として、白血病細胞、食道癌細胞、肺癌細胞、大腸癌細胞および乳癌細胞についての治療効果が大いに増大したことを示す。
【0037】
加えて、本発明の架橋四量体ヘモグロビンの正常組織(図9)と極度に低酸素の腫瘍組織(図10)(ヒト上咽頭癌(CNE2))とにおける酸素化の改善能力が本発明において示される。ヒトCHE2異種移植片の組織トラックに従う代表的な酸素プロファイルを図10に示す。微小位置決めシステム(DTI Limited)に結合された光ファイバー酸素センサ(Oxford Optronix Limited)によって直接モニターされる。1.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、pO2の中央値は、0.2mmHgから、3時間では3.9mmHgにまで、6時間では10.6mmHgまでにそれぞれ上昇する。最も低酸素の領域においてさえも、本発明の酸素担体を含有する医薬組成物は、有意に酸素圧を上昇した。他の同様な商業的製品または何れの現存する技術も、本発明により製造された酸素担体を含有する医薬組成物と比べると、同様に高い効果を示すものはない。
【0038】
酸素欠乏障害の治療における使用および心臓保存における使用のために、本発明の酸素担体含有医薬組成物は、標的臓器に対して酸素を提供する代替血液として働く。幾つかの態様において、当該組成物は、心臓保存のための心筋保護液として使用される。
【0039】
0.5g/kgの本発明の架橋四量体ヘモグロビンで治療した後の、重篤な出血性ショック(例12bを参照されたい)のラットモデルにおける平均動脈圧変化を図11に示す。重篤な出血性ショックのラットモデルにおいて、安定性架橋四量体ヘモグロビンでの治療後に、平均動脈圧は安全且つ安定なレベルに復帰し、基線またはその近傍も維持される。本発明のヘモグロビンでの治療に続き、平均動脈圧が正常にまで復帰するまでの反応時間は、陽性コントロールとして使用するラット全血の投与に続く場合よりもまさに短い。上記結果は、本発明のヘモグロビンを注入した後の血管作動性イベントが、安定した血流力学状態を維持するために有益であることを示す。従来のヘモグロビンに基づく酸素担体は、多くの血管収縮イベントを引き起こした。例えば、ヘモピュア(Hemopure(登録商標))製品(Biopure Co., USA)は、カッツら(Katz et al., 2010)により開示されるように基線(96±10mmHg)に比べて高い平均動脈圧(124±9mmHg)を生じた。
【0040】
本発明のヘモグロビンの注入のための使用は、マウス(18%から75%)およびビーグル犬(46%から97%)のショックモデルにおいて生存率を上昇する。重篤な出血性ショック動物モデルの生存率は、異なる量の架橋四量体ヘモグロビンの注入により有意に増大される(例12を参照されたい)。従って、本発明のヘモグロビンは出血性ショックの治療として使用される。
【0041】
例
次の例は、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図することなく、本発明の特定の態様を説明することにより提供される。
【0042】
例1
全体的な工程
図2に、本発明の方法の概略フロー図が示される。ウシ全血を、抗凝固剤として3.8%(w/v)のクエン酸三ナトリウム溶液を含む閉じた滅菌容器/バッグ中に採取する。次いで、血液を直ちにクエン酸三ナトリウム溶液と充分に撹拌し、血液の凝固を阻害する。赤血球(RBC)は、アフェレーシス機序により、血漿および他の小さい血液細胞から単離および回収される。「細胞洗浄機」はこの方法のために、ガンマ線滅菌された使い捨ての遠心分離ボウルと共に使用される。RBCは等容量の0.9%(w/v塩化ナトリウム)塩水で洗浄される。
【0043】
洗浄されたRBCを溶解し、RBC細胞膜に対して低張性ショックを処置することにより、ヘモグロビン内容物を放出する。RBC溶解装置のために特殊化された図3に示す瞬間細胞溶解装置を、この目的のために使用する。RBC溶解に続き、ヘモグロビン分子を100kDa膜を使用する接線流限外濾過により、他のタンパク質から単離する。濾液中のヘモグロビンを、流液カラムクロマトグラフィのために採取し、30kDa膜によって更に12〜14g/dLまで濃縮する。カラムクロマトグラフィを行い、タンパク質不純物を除去する。
【0044】
最初に、濃縮ヘモグロビン溶液を自然の酸素化条件下にてスルフヒドリル試薬(アルキル化反応)で修飾し、次いで前記成分をDBSFと反応させて、安定性α−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビン分子を形成する。
【0045】
例2
時間および制御された低張溶解および濾過
ウシ全血を新たに採取し、冷却条件下で輸送する。細胞洗浄機およびこれに続く0.65μmの濾過を経て、赤血球を血漿から分離する。赤血球(RBC)濾液を0.9%塩水で洗浄した後、濾液を低張溶解により破壊する。前記低張溶解は、図3に示した瞬間細胞溶解装置を使用して行う。この細胞溶解装置は、細胞溶解を支援するための静的ミキサーを含む。ヘモグロビン濃度が制御された(12〜14g/dL)RBC懸濁液を4容量の精製水と混合して、RBC細胞膜に対して低張ショックを発生させる。低張ショックの時間は、白血球および血小板の望ましくない溶解を回避するように制御される。この低張溶液は、瞬間細胞溶解装置の静的ミキサー部分を約30秒間に亘って通過する。このショックは、溶解物が静的ミキサーを出るときに、該溶解物を1/10容量の高張緩衝液と混合することによって30秒後に停止される。使用される高張溶液は、0.1Mリン酸緩衝液、7.4%NaCl、pH7.4である。図3の瞬間細胞溶解装置は、連続運転で1時間あたり50〜1000Lの溶解物、好ましくは1時間当たり少なくとも300Lの溶解物を処理することができる。
【0046】
RBC溶解の後、赤血球の溶解物を0.22μmのフィルタにより濾過してヘモグロビン溶液を得る。白血球からの核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)およびHPLC法(検出限界=1μg/mL)により、ヘモグロビン溶液中に検出されない。最初の100kDa限外濾過が行われ、ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物が除去される。ヘモグロビン溶液を更に精製するために、流液カラムクロマトグラフィが続いて行われる。次いで、第二の30kDa限外濾過が行われ、ヘモグロビンよりも低分子量を有する不純物が除去されて、濃縮される。
【0047】
例3
ストローマを含まないヘモグロビン溶液におけるウイルスクリアランス研究
本発明の生成物の安全性を証明するために、(1)0.65μmダイアフィルトレーション工程および(2)100kDa限外濾過工程のウイルス除去能力が、ウイルス検証研究によって示される。これは、異なるモデルウイルス(脳心筋炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、およびウシパルボウイルス)を用いたこれら2つの処理の縮小規模バージョンの慎重なスパイキングによって行われた。この研究においては、4つのタイプのウイルスが使用された(次の表2参照)。これらのウイルスは、それらの生物物理学的および構造的特徴が変化し、かつそれらは物理的および化学的な薬剤または治療に対する抵抗性において変化を示す。
【表2】
【0048】
ウイルス検証スキームを、以下の表3に簡単に示す。
【表3】
【0049】
(1)0.65μmダイアフィルトレーションおよび(2)100kDa限外濾過における4種類のウイルスの対数減少結果の要約を、下記の表4に示す。全ての4種類のウイルス、BVDV, BPV, EMCVおよびPRVは0.65μmダイアフィルトレーションおよび100kDa限外濾過によって効率的に除去された。
【表4】
【0050】
例4
流液カラムクロマトグラフィ
何れのタンパク質不純物も更に除去するために、CMカラム(GEヘルスケア社から商業的に入手可能)を使用する。出発緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム(pH8.0)であり、溶出緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム、2MのNaCl(pH8.0)である。出発緩衝液でCMカラムを平衡化した後、タンパク質試料を該カラムに装填する。未結合のタンパク質不純物を、少なくとも5カラム容量の出発緩衝液で洗浄する。溶出を8カラム容量の25%溶出緩衝液(0〜0.5MのNaCl)を使用して行う。溶出プロファイルを図12に示す;ヘモグロビン溶液は流液画分中に存在する。
【0051】
流液画分の純度を、ELIZAにより分析する。その結果を下記の表5に示す。
【表5】
【0052】
ヘモグロビン溶液は、pH8のCMカラムクロマトグラフィからの流液の中に存在するので(溶出液中ではない)、連続的な工業的規模の操作にとっては良好なアプローチである。工業的規模の操作のために、第一の限外濾過設備を流液CMカラムクロマトグラフィシステムに直接接続し、かつ流液配管を第二の限外濾過設備に接続することができる。概略工業的プロセス構成を図13に示す。
【0053】
例5
スルフヒドリル反応および架橋
(5a)スルフヒドリル反応
本発明において、ヘモグロビンとスルフヒドリルとの間の反応は従来の教示と対照的に酸素化環境で行われ、前記反応は窒素のような不活性雰囲気で典型的に生じる。アルキル化スルフヒドリル試薬はヘモグロビンの遊離スルフヒドリル基をアルキル化するために添加される。この態様において、ヘモグロビンとスルフヒドリル試薬とのモル比率は1:2から1:4である。この反応は、ヘモグロビンのスルフヒドリル基と反応する内皮由来弛緩因子の結合を排除できる。内皮由来弛緩因子は、ヘモグロビンの反応スルフヒドリル基の結合することを示されており、それはヘモグロビンに基づく酸素担体の発生前の注入後に観察される血圧の上昇を説明できる。スルフヒドリル反応の完了は、生成物の放出または残留スルフヒドリル試薬(265nmでのUV分光測定法による)を測定することによってモニターできる。図14は、酸素化環境における反応と脱酸素化環境における反応との間の比較を示す。図14は、残留スルフヒドリル試薬が経時的実験の間に酸素化環境中、3時間で横ばい状態になることを示す。これに対し、多くの未反応スルフヒドリル試薬は脱酸素化環境において残存する。酸素化環境におけるスルフヒドリル反応の収率は、反応の4時間後に高くなる(92.7%)。
【0054】
(5b):安定な四量体を形成するための架橋反応
α−αおよび/またはβ−βの架橋反応は脱酸素環境において行う。フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチル(DBSF)をヘモグロビン溶液に加えて、四量体内にα−α架橋および/またはβ−β架橋を含む架橋四量体ヘモグロビンを形成する。任意に、多少のα−β架橋が四量体内に含まれる。
【0055】
この態様において、ヘモグロビンとDBSFとのモル比率は1:2.5から1:4.0である。DBSF安定化法は、ヘモグロビンの四量体形態(65kDa)を安定化させて、腎臓を通して排泄される二量体(32kDa)への解離を防止する。この架橋プロセスにおいて、四量体ヘモグロビンのみが形成され、ポリマーヘモグロビンは形成されない。このプロセスは、生理学的に不活性な第一鉄メトヘモグロビンを形成するためにヘモグロビンの酸化を防止するために、窒素の不活性雰囲気中において行われる。DBSF反応の完了は、HPLCを使用して残留DBSFを測定することによりモニターされる。DBSF反応の収率は高く、>99%である。
【0056】
1つの態様において、架橋反応は室温(15−25℃)で脱酸素化環境(溶解酸素<0.1mg/L)にて行われる。BDSFが、ヘモグロビン溶液に添加され、架橋四量体ヘモグロビンを形成する;この架橋四量体ヘモグロビンは以下に説明されるように特徴付けられる。この特徴は1つの態様のみに基づくことに留意されたい。四量体内の架橋の種々の割合およびタイプは、使用されるDBSFの量、反応の時間および温度、並びに他のプロセス条件によって制御される。
【0057】
ヘモグロビンとDBSFとのモル比率を1:5.0に変化させるとき、八量体(13kDa)のパーセントが18%まで敏速に増加する。
【0058】
(5b−1)15%SDS−PAGEを用いる架橋ヘモグロビンの電気泳動分析
架橋ヘモグロビン溶液を等容量の試料還元緩衝液(62mMトリス−HCl,10%(v/v)グリセロール5%(v/v)メルカプトエタノールおよび2.3%(w/v)SDS)と混合し、95℃で10分間に亘って加熱した。試料混合物を、4%濃縮用ゲルと共に15%アクリルアミドスラブゲルを用いて分離した。電気泳動を60mAの一定電流で動作させた。電気泳動後にSDS−PAGEゲルを0.1%(w/v)クーマシーブルーR350、20%(v/v)メタノールおよび10%(v/v)酢酸で染色した。ブラックライトユニット(BLU)で表されるタンパク質のバンドの強度をバイオ−ラッドクオンティティワンソフトウエア(Bio-Rad Quantity One Software)を用いて定量化した。
【0059】
(5b−2)15%SDS−PAGEから励起されるタンパク質のバンドのトリプシン消化
タンパク質のバンドを15%SDS−PAGEから切り取り、立方体(1×1mm)に切断し、10%メタノール/10%酢酸で脱染色した。脱染色ゲルを25mMのNH4CO3中の10mMDTTで還元し、暗所で45分間に亘って25mMのNH4CO3中の55mMインドアセタミドでアルカリ化し、次いで37℃で一晩、25mMのNH4CO3中の20ng/μL修飾トリプシンでゲル内消化した。トリプシン消化後に、トリプシン消化ペプチドを50%(v/v)アセトニトリルおよび1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)への拡散によって抽出した。
【0060】
(5b−3)トリプシン消化タンパク質バンドのマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法(MALDI−TOF MS)
ゲル立方体から抽出されたトリプシン消化エプチドを、プレートは1μLのマトリックス溶液(2mg/mLHCCA)で予備スポットされたアンカーチッププレート上にスポットし、50%アセトニトリル/0.1TFAで飽和され、空気乾燥される。乾燥後に、試料スポットを10mMリン酸塩緩衝液で洗浄し、EtOH:アセトン:0.1% TFA(6:3:1比率)の溶液を用いて再結晶化した。MALDI−TOF MS分析を800−3500 Daのm/z範囲の間のリフレクトロンモードで操作されるブルーカーオートフレックスIII(Bruker Daltonic GmbH, Bremen, Germany)で行われ、パラメータを次のように設定した:ペプチドマスフィンガープリント(PMF)のためにイオン源25kV、およびPMFのためにリフレクタ26.3 kV。外部キャルブレーションを、ブルーカーペプチドミックキャルブレーションスタンダードを用いて行った。S/N比が4を越えるピークは、フレックス分析(Bruker Daltonic GmbH, Bremen, Germany)によって自動的に標識化される。MSデータをMASCOT 2.2.04およびバイオツール2.1ソフトウエア(Bruker Daltonic GmbH, Bremen, Germany)を介してさらに分析し、かつこれらのデータをNCBI非冗長(NCBInr)データベースの哺乳類プロテインに対して調査した。次のパラメータをデータベース調査のために用いた:モノアイソトピック質量精度<250ppm、親電荷+1、稽留開裂1、固定修飾としてのシステインのカルバミドメチル化、種々の修飾としてのメチオニンの酸化。PMFに基づく67(p=0.05)以上のプロテインスコアでの結果は、陽性同定として考慮される。確信的な同定のための他の基準は、プロテイン一致が少なくとも15%配列適用範囲と、少なくとも4ペプチドの一致を有するべきことである。
【0061】
(a)15%SDS−PAGEおよび(b)MALDI−TOFMSから分析結果を組み合わせた後、架橋ヘモグロビンの組成を決定する。結果から、架橋ヘモグロビンの70%がβ−β架橋である。
【0062】
例6
製剤後の生成物における低レベルの不活性メトヘモグロビンの維持
他の酸素担体医薬品またはUS特許7494974 B2およびUS特許7504377 B2に開示される方法に従って形成される生成物を比較すると、本発明による生成物は低レベルの不活性メトヘモグロビン分子を含む。この態様において、N−アセチルシステインのような抗酸化剤が架橋四量体ヘモグロビンに対して0.2%で添加される。抗酸化剤を添加しないと、不活性メトヘモグロビンが高レベル(12−20%)で見出される。本発明による生成物は、低レベルの不活性メトヘモグロビン(<5%)を有し、それは治療に用いられるときにより大きい効力をもたらす高温安定性である。
【0063】
本発明による生成物の安定性を証明するために、熱安定性試験を80℃で行う。結果は図15に図示される。US特許7494974およびUS特許7504377に従って作られる生成物は、高メトヘモグロビン含有量(22−28%)を示す。しかしながら、本発明の生成物は低レベルのメトヘモグロビン(<5%)を示す。
【0064】
例7
包装および生成物安定性
本発明の生成物は脱酸素条件下において安定であるので、該生成物の包装はガス透過性を最小化することが重要である。静脈適用のために、注文設計された100mLの注入バッグを、室温気圧当たり24時間当たり100平方インチ当たり0.006〜0.132cm3の酸素透過性を有する厚さ0.4mmの5層のEVA/EVOH積層材料から作製した。この特別な物質はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、これはインビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、静脈注入目的の注入バッグを製造するために適している(望ましい用途に応じて、他の形態の包装も同様にこの材料から製造できることに留意されたい)。二次包装のアルミニウム上包装パウチもまた、この一次包装注入バッグに適用されて追加のバリアを提供し、光暴露および酸素拡散を最小化する。パウチの組成は:0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(AL)、0.015mmのナイロン(NY)および0.1mmのポリエチレン(PE)からなる。上包装フィルムは0.14mmの厚さ、および室温気圧当たり24時当たり100平方インチ当たり0.006cm3の酸素透過速度を有している。該注入バッグの概略的描写が図16に図示されている。本発明による各注入バッグについての全体の酸素透過性は、室温気圧当たり24時間当たり0.0025cm3である。
【0065】
安定性研究は、40℃、75%相対湿度で前記包装材料について行う。結果を以下の表6に示す。結果は、包装物質が長時間に亘って低レベルのメトヘモグロビンを維持することを示す。
【表6】
【0066】
例8
毒性研究
実験は、本発明の精製架橋四量体ヘモグロビンの潜在的毒性を評価するために行われる。10匹の雄性Sprague-Dawleyラットを3群に、コントロール群に3匹、低用量群に3匹および高用量群に4匹を割り当てる。通常塩水(コントロール)、低用量(5.52g/kg)での精製架橋四量体ヘモグロビン、高用量(6.90g/kg)での精製架橋四量体ヘモグロビンは、各々ラットに対して頸静脈を介して3mL/kg/hrの注入速度で連続的な静脈内注入により投与される。薬物処理日程を以下の表7に示す。架橋四量体ヘモグロビンは33.3時間までに亘りラットに対して注入される。動物は9日間の期間に亘り詳しく関される。
【表7】
【0067】
9日目に臨床病理評価のために血液試料を全ての実験動物から採取する。尿は0日目から3日目および9日目において尿検査のために採取される。最終的な剖検は9日目において行われる。評価される指標は、臨床観察、体重、体重変化、水消費、臨床病理(ケマトロジー(chematology)、臨床化学および尿検査)、臓器重量、臓器体重比、臓器体重比、全体病理および組織病理を含む。本発明の架橋四量体ヘモグロビンでの処理は致死的または不都合な臨床所見を齎すことはなく、並びに体重変化および水消費における著しい影響はない。
【0068】
処理に関連する臨床化学および血液学指標において観察される明らかな変化はない。尿検査は、塩化物およびカリウムの濃度は2日目において、コントロール群よりも処理群において低いことを示す。血液染色すると、2日目から3日目において尿中により高いタンパク質濃度とより多くの赤血球がコントロール群よりも処理群において見られる。それらの観察は、全て間もなく正常に回復する。有意差、肺体重比に観察されない。研究の間、予期しない死および毒性の臨床的兆候は観察されない。加えて、全体病理および組織病理解析が、肺、心臓、肝臓、脾臓及び腎臓を含む全ての臓器において大きな異常がないことが明白にする(そのような異常は注入の毒性副作用に起因する)。
【0069】
例9
心臓保存
架橋四量体ヘモグロビンはビーグル犬における心肺バイパス中の心臓保存のモデルにおいて心臓保護液として使用できる。18頭のビーグル犬を無作為に3群に分ける;擬似、セントトーマス溶液(St. Thomas’ solution (STS))、および0.1%の架橋四量体ヘモグロビン群。心肺バイパスは標準的な方法でベントのために上行大動脈、上および下大動脈、および左心室のカニューレ挿入により確立される。擬似群を除いて、0.1g/dLの架橋四量体ヘモグロビンなしでSTS(STS群)または0.1g/dL架橋四量体ヘモグロビンと共にSTS(0.1%Hb群)を大動脈クランプ後に大動脈基部に心停止を達成するまで注入し、それを120分間維持する。心臓血液搏出量、肺動脈圧、肺動脈楔入圧、平均動脈圧、中心静脈圧および心拍並びに血液ガスを含む心臓機能を再灌流の間測定し、基線と比較する。また、クレアチンキナーゼMB、乳酸脱水素酵素およびトロポニン−1を含む心筋酵素の放出を心障害の代理マーカーとして測定する。ヘマトキシリンおよびエオシン染色および心臓水含量検出を行い、心筋の形態学的および病理学的変化を再灌流後120分に測定する。
【0070】
基本条件下で、心臓機能、酸素消費量および心筋酵素の放出の測定は、3群間で同じである。再灌流中では、心拍数、心臓血液搏出量および中心静脈圧は擬似群に比較してSTS群において大きく減少される。しかしながら、心拍数、心臓血液搏出量、中心静脈圧および心臓酸素消費量は0.1%Hb群において大いに保持され、これは擬似群のものと同じである。STS中の架橋四量体ヘモグロビンはまた、乳酸脱水素酵素、クレアチンキナーゼMBおよびトロポニン−1の出現をSTS群に比べて大きく減少する。更に、細胞腫脹、脂肪変化およびヒアリン変化は、STS群と比較して0.1%Hb群において有意に減少された。肺動脈圧、肺動脈楔入圧、平均動脈圧および心臓水含量を含む他の測定は、3群の間で有意差はない。本研究における0.1%Hb群の全ての測定は、擬似群に比較して有意差はない。心肺バイパス中のSTS中の0.1g/dLgの架橋四量体ヘモグロビンは、STS(現在の標準的な心臓保護液)の場合よりも良好に心臓保護効果を示し、また結果は擬似群に匹敵する。
【0071】
例10
組織酸素化、正常および癌組織における研究
(10a)正常組織における酸素化の改善
架橋四量体ヘモグロビンによる正常組織酸素化についての幾つかの研究が行われる(図9に示される)。比較薬物動態および薬力学研究はバッファローラットにおいて行われる。雄性同系交配バッファローラットは個々に0.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビン溶液またはリンゲル酢酸緩衝液(コントロール群)を静脈注射により投与される。血漿ヘモグロビンの濃度−時間プロファイルをヘモキュー(Hemocue、登録商標)光度計により1、6、24、48時間に測定し、基線測定値と比較する。当該方法はヘモグロビンの光度計測定に基づき、ヘモグロビンの濃度を直接にg/dLとして出力する。バッファローラットの後肢において酸素分圧(pO2)をOxylab(登録商標)組織酸素化および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接に測定する。ラットを30〜50mg/kgのペントバルビタール溶液の腹腔内注射により麻酔し、続いて筋肉内に酸素センサを挿入する。全pO2読み出しは、データトラックス2データ収集システム(Datatrax2 data acquisition system (World Precision Instrument))によりリアルタイム法で記録される。
【0072】
図9において見られるように、0.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビン溶液の注入は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンの薬物動態(血漿ヘモグロビン濃度)および薬力学(筋肉組織への酸素送達)特性の間の相関を示す。重要なことには、酸素化における有意な増加が、血漿ヘモグロビン濃度と比較してより長い時間に亘り観察される。血漿ヘモグロビン濃度をグラフ(A)に示し、筋肉への酸素送達をグラフ(B)に示す。
【0073】
(10b)極度な低酸素腫瘍領域における酸素化の改善
極度な低酸素腫瘍領域における酸素化の改善をヒト上咽頭癌(CNE2)異種移植モデルにより評価する。CNE2細胞株を癌遺伝学研究室(香港大学)から入手する。約1×106細胞を4〜6週齢の同系交配BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。腫瘍が8〜10mmの直径に達したときに、腫瘍塊内の酸素分圧をオキシラブ(Oxylab、登録商標)組織酸素供給温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接モニターする。酸素分圧を完全にコンピュータ化されたPTS30微小位置決めシステム(Discovery Technology International)により腫瘍トラックに沿って測定する。全pO2読み出しをデータトラックス2データ収集システム(World Precision Instrument)によりリアルタイム法で記録する。pO2読み出しが安定化されるときに、1.2g/kgの本発明の架橋四量体ヘモグロビン溶液をマウスの尾静脈から静脈注射し、組織の酸素化を測定する。結果は、大部分の低酸素腫瘍領域において酸素化の有意な増大を証明する。1.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、pO2の中央値は、0.2mmHgから3.9mmHg(3時間)および10.6mmHg(6時間)までそれぞれ上昇する(図10に示す)。
【0074】
例11
癌治療研究(架橋四量体ヘモグロビンの化学増感効果)
本発明の架橋四量体ヘモグロビンの化学増感効果を異なる癌細胞株において評価する。白血病細胞株(ジャーカット)、大腸癌細胞株(COLO205)、シスプラチン耐性肺癌細胞株(A549/Cisp)およびアドリアマイシン耐性乳癌細胞株(MCF−7/ADM)をチャイニーズ・アカデミー・オブ・メディカル・サイエンス・センター・インスティテュート(Chinese Academy of Medical Sciences Cancer Institute)から得る。8000のジャーカット細胞、4000のCOLO205細胞、3000のA549/Cisp細胞および3000のMCF−7/ADM細胞を個々にトリプリケートで96ウェルプレートに播種する。付着後、細胞を37℃で種々の化学療法剤単独または0.5mg/mLの架橋四量体ヘモグロビン溶液との併用と共にインキュベートする。ジャーカット細胞を、0.31、0.63、1.25、2.5、5および10μg/mLの硫酸ビンクリスチンにより処理する;COLO205細胞を0.78、1.56、3.13、6.25および12.5μg/mLの5−フルオロウラシルにより処理する;A549/Cisp細胞を0.39、0.78、1.56、3.13、6.25および12.5μg/mLのシスプラチンで処理する;およびMCF−7/ADM細胞を0.39、0.78、1.56、3.13、6.25および12.5μg/mLのアドリアマイシンで処理する。処理後、癌細胞成長の阻害をATP腫瘍化学的感受性アッセイ(ATP−TCA)により測定する。
【0075】
食堂癌細胞株HKESc−1を癌遺伝学研究室(香港大学)から入手する。2000の癌細胞を96ウェルプレートに播種する。付着後、細胞を37℃で0.08、0.4、2、10および50μg/mLのシスプラチン単独、または3mg/mLの架橋四量体ヘモグロビン溶液との併用でインキュベートする。インキュベーション後、細胞毒性をMTT細胞増殖アッセイにより評価する。結果は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンの添加は、化学療法に対して極めて抵抗性であるA549/CispおよびMCF−7/ADM細胞を含む種々の癌細胞株において化学的感受性を有意に向上することを示す(図8に示す)。
【0076】
例12
急性の重篤な出血性ショックの治療
(12a)ビーグル犬における急性の重篤な出血性ショックの治療
ビーグル犬における急性重症出血性ショックのモデルにおいて本発明の架橋四量体ヘモグロビンを蘇生剤として使用する。60頭のビーグル犬を無作為に蘇生剤に従って4群、各群15頭に分ける。
【0077】
グループ1:デキストラン(陰性コントロール)
グループ2:動物自家血液(陽性コントロール)
グループ3:低用量処理(0.35g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)
グループ4:中用量処理(1.05g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)。
【0078】
急性の重篤な出血性ショックは、動物の全血の50%を抜き取ることにより樹立する。樹立された出血性ショックの後10分に、デキストラン(50mL/kg)、動物自家血液(50mL/kg)、異なる用量の架橋四量体ヘモグロビン(5mL/kg、15mL/kg)を動物に注入する。架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は10mL/kg/hで設定し、その後、全ての実験動物を7日間に亘り観察する。研究期間に亘って、生存、体重、エレクトロカルジオグラフィ(ECG)、血圧、心拍数、呼吸数、体温、血漿ヘモグロビン濃度、血液学、動脈血液ガス、尿検査、臨床化学、凝固、健康状態および有害イベントを含む一群のパラメータを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。7日間の観察の後、本発明の架橋四量体ヘモグロビン処理群は、正常群および自家血液群と比較して、非常に高い生存率を有する(下記の表8に示す)。
【表8】
【0079】
(12b)ラットにおける急性重篤出血性ショックの治療
本発明の架橋四量体ヘモグロビンをまた急性重篤出血性ショックのラットモデルにおいて蘇生剤として使用する。80匹のSprague-Dawleyラットを蘇生剤に従い無作為に5群、各群16ラットに分ける。
【0080】
グループ1:乳酸リンゲル溶液(陰性コントロール)
グループ2:動物自家血液(陽性コントロール)
グループ3:低用量処理(0.1g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)
グループ4:中用量処理(0.3g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)
グループ5:高用量処理(0.5g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)。
【0081】
急性の重篤な出血性ショックは、動物の全血の50%を抜き取ることにより樹立し、それは35mL/体重kgと推定される。樹立された出血性ショックの後10分に、乳酸リンゲル溶液、動物自家血液、異なる用量の架橋四量体ヘモグロビン(0.1gHb/kg、0.3gHb/kg、0.5gHb/kg)を動物に注入する。架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は5mL/時に設定し、その後、全ての実験動物を24時間に亘り観察する。研究期間に亘って、生存、血行動態、心筋機構、心臓血液搏出量、心臓機能、血液ガス、組織酸素送達および消費、組織灌流および酸素張力(肝臓、腎臓および脳)、肝機能および腎機能、血液レオロジー(血液粘度)、およびミトコンドリア呼吸制御速度(肝臓、腎臓および脳)を含む一群のパラメータを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。24時間の観察の後、本発明の架橋四量体ヘモグロビン処理群は、正常群および自家血液群と比較して、非常に高い生存率を有する(下記の表9に示す)。
【表9】
【0082】
例13:インビトロでのメトヘモグロビン形成研究
従来技術は、高分子量ポリマーヘモグロビン溶液が好ましいと述べており、それは環流中により長い残留性を生じるためである。従って、本発明の安定性架橋四量体ヘモグロビンを、インビトロにおいてシミュレート環流条件における安定性分析について高分子量ポリマーヘモグロビンと比較する。試験環流を図17に示す。メトヘモグロビン形成バイパス回路において、Aは試料貯蔵容器であり、Bは試料出口であり、Cはポンプであり、Dはリキ−セル接触器(Liqui-Cel contactor)であり、Eは試料収集点であり、Fは試料入口である。本発明の架橋四量体ヘモグロビン溶液の時間的経過メトヘモグロビン形成は、約68%のポリマー画分を含む(≧128,000 MW)商業的に入手可能な製品(オキシグロビン(登録商標))と比較される。実験前に、全ての試料を5g/dLに希釈し、50mLの希釈された試料を試料入口から試料貯蔵容器に導入する。液体ポンプ速度を30mL/minに設定し、試料を回路に満たす。実験の間中、試料貯蔵容器を37℃で維持する。メトヘモグロビンレベルを測定するために、0.2mLの試験試料を共酸素測定法(IL-682, Instrumentation Laboratory)のための試料収集点から収集する。圧縮空気を次に、リキ−セル膜接触器を経て流速2.0mL/minで通過させ、試料の酸素化を開始する。0.2mLの試料を30分間隔で収集する。5時間の処理の後、本発明の架橋四量体ヘモグロビン溶液と当該商業的に入手可能な製品(オキシグロビン(登録商標))のメトヘモグロビン画分は、それぞれ8.7%および16.4%に増加する。これは、ポリマーヘモグロビンのための不活性メトヘモグロビン形成率が本発明の架橋四量体ヘモグロビンについてのものよりも実質的に大きいことを立証する(図18)。
【0083】
上記のように種々の態様に関して本発明を説明したが、このような態様は限定的なものではない。当業者は多くの変形例および修飾を理解するであろう。このような変形および修飾は、特許請求の範囲の範囲内に含まれるものと看做される。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2010年5月27日に提出された米国仮特許出願第61/348,764号および2011年1月26日に提出された米国特許出願第13/013,847号の優先権を主張するものであり、その開示は参照により組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、高温安定性酸素担体を含む医薬組成物の製造方法および当該方法により製造された組成物に関する。本発明はまた、高温安定性酸素担体を含む医薬組成物のヒトおよびその他の動物のための癌治療、酸素欠乏障害の治療および臓器保存のための使用に関する。
【発明の背景】
【0003】
ヘモグロビンは、殆どの脊椎動物において、血管系と組織の間のガス交換のために重要な役割を果たす。それは、血液循環を介して呼吸器系から体細胞へと酸素を運搬し、また代謝老廃物である二酸化炭素を、二酸化炭素が吐出される呼吸器系へと体細胞から運び去ることを担当している。ヘモグロビンはこの酸素輸送の特徴を有しているので、エクスビボで安定化でき且つインビボで使用できれば、強力な酸素供給体として使用することができる。
【0004】
天然に存在するヘモグロビンは、赤血球内に存在するときには一般に安定な四量体である。しかしながら、天然に存在するヘモグロビンが赤血球から取り出されると、それは血漿中で不安定になり、二つのα−β二量体に分裂する。これら二量体の各々は、分子量が約32kDaである。これら二量体は、腎臓を通して濾過および排泄されるときに実質的な腎障害を引き起こす。四量体結合の分解はまた、循環系における機能的ヘモグロビンの持続可能性に悪影響を与える。
【0005】
四量体の分解を防止するために、ヘモグロビン加工における最近の発展は、四量体内での分子内結合、並びに四量体間での分子間結合を形成してポリマーヘモグロビンを形成するために、種々の架橋技術を取込んできた。従来技術は、ヘモグロビンの循環半減期を増大させるためには、ポリマーヘモグロビンが好ましい形態であることを教示している。しかし、本発明者等が確認したように、ポリマーヘモグロビンは血液循環系において容易にメトヘモグロビン(met-hemoglobin)に変換される。メトヘモグロビンは酸素と結合することができず、従って組織に酸素供給することができない。従って、従来技術によりポリマーヘモグロビンの形成を生じることが教示された架橋は問題である。当該技術においては、ポリマーヘモグロビンの同時形成を伴うことなく安定な四量体を形成するための、分子内架橋を可能にする技術が必要とされている。
【0006】
更に、ヘモグロビンを安定化させようとした従来技術に伴う更なる問題には、許容できない高パーセンテージの二量体ユニットを含んだ四量体ヘモグロビンの産生が含まれる:二量体の存在により、ヘモグロビン組成物は、哺乳類への投与について満足できないものとなる。ヘモグロビンの二量体形態は、哺乳類の身体において幾つかの重篤な腎障害を生じる可能性がある;この腎障害は死亡の原因になり得るほどに十分に重篤である。従って、当該技術においては、最終生成物中に望まれない二量体形態が低い安定な四量体ヘモグロビンを製造することが必要とされている。
【0007】
安定なヘモグロビンを作製しようとする従来技術に伴う更なる問題には、哺乳類において、アレルギー効果を生じ得る免疫グロブリンGなどのタンパク質不純物の存在が含まれる。従って、当該技術では、タンパク質不純物の存在しない安定な四量体ヘモグロビンを製造できる方法が必要とされている。
【0008】
従来技術のヘモグロビン製造に伴う他の問題は、哺乳類での輸血に続く血管収縮を含む。この血管収縮は内皮由来弛緩因子のヘモグロビン分子の反応性スルフヒドリル基への結合によるものであると示されている。従って、当該技術には、輸血に続く血管収縮を引き起こさない安定化された四量体ヘモグロビンの作製の必要性がある。
【0009】
上記問題に加えて、当該技術では、リン脂質を含まず且つ工業的規模で製造できる安定化された四量体ヘモグロビンが必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、重篤な腎障害、血管への有害な影響または死亡を含む他の重篤な副作用を起こすことなく、哺乳類において使用するために適した高温安定性の精製された架橋四量体ヘモグロビンを産生する方法を提供する。本発明はまた、高温安定性の精製された架橋四量体ヘモグロビン、並びにインビボおよびエキソビボ組織の酸素化のための当該ヘモグロビンの使用を含む。当該方法は、少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類の全血である出発物質を含む。赤血球は哺乳類の全血中の血漿から分離され、続いて濾過によって濾過された赤血球画分が得られる。濾過された赤血球は洗浄され、血漿タンパク質が除去される。洗浄された赤血球は、流量が50〜1000リットル/時の瞬間細胞溶解装置中で、白血球を溶解することなく赤血球を溶解するために充分な時間をかけて制御された低張溶解により破壊される。濾過が行われて、溶解物から不用残留物の少なくとも一部が除去される。前記溶解物から、第1のヘモグロビン溶液が抽出される。
【0011】
第1の限外濾過プロセスは、四量体ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去し、更に第1のヘモグロビン溶液から何れかのウイルスおよび残存する不用残留物を除去するように構成された限外濾過を使用して行われて、第2のヘモグロビン溶液が得られる。流液カラムクロマトグラフィ(Flowthrough column chromatography)を第2のヘモグロビン溶液において行い、タンパク質不純物、二量体ヘモグロビンおよびリン脂質を除去して、リン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液を形成する。不純物を除去するように構成されたフィルタを使用して、第2の限外濾過プロセスをリン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液において行い、濃縮され精製されたリン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液を得る。
【0012】
完全に酸素化された環境中でスルフヒドリル溶液により、濃縮され精製されたリン脂質非含有低二量体ヘモグロビン溶液におけるヘモグロビン分子のスルフヒドリル基を阻害する。ヘモグロビン分子はシステイン部位で内皮由来弛緩因子に結合できなくなるように、得られたヘモグロビン分子の各々はチオール保護基を有する少なくとも1つのシステイン分子を有する。
【0013】
得られる架橋四量体ヘモグロビンの分子量が60〜70kDaであるように、チオール保護化ヘモグロビンの少なくともα-αおよび/またはβ-βサブユニットでフマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによって架橋化されて、ポリマーヘモグロビンの形成を伴わない高温安定性架橋四量体ヘモグロビンが形成される。架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液が交換される。何れかの残留する非架橋四量体ヘモグロビンおよび何れかの残留化学物質を接線流限外濾過(tangential-flow ultrafiltration)を用いて除去される。N−アセチルシステインが0.2〜0.4%の濃度で架橋四量体ヘモグロビンに対して添加され、メトヘモグロビンレベルが5%以下に維持される。リン脂質非含有低二量体チオール保護化高温安定化架橋四量体ヘモグロビンを次に、薬学的に許容される担体に添加し、薬学的に許容される担体は生理学的緩衝液または水であってよい。この工程に続いて、得られたヘモグロビンは気密性ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル、エチレンビニルアルコール(PE、EVA、EVOH)輸血容器に任意に包装される。当該包装は、不活性メトヘモグロビンの形成を齎す酸素汚染を防止する。上記の方法により産生された高温安定性架橋ヘモグロビンは、種々の癌、例えば、白血病、結腸直腸癌、肺癌、乳癌、上咽頭癌および食道癌などの治療のために使用される。癌細胞を破壊する機序は、腫瘍細胞における酸素化を改善し、それにより放射線および化学療法剤に対する感受性を向上するというものである。高温安定性架橋四量体ヘモグロビンはまた、臓器移植中の臓器組織の保存またはインビボにおける酸素供給が不足した状況、例えば、酸素が剥奪された心臓などにおける心臓の保存のために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、異なるヘモグロビンのアミノ酸配列アラインメントを図示する。
【図2】図2は、本発明の方法の概要を図示するフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の方法において使用される瞬間細胞溶解装置を模式図である。
【図4】図4は、酸素化および脱酸素化の環境におけるスルフヒドリル試薬でのヘモグロビンの反応を示すグラフである。
【図5】図5は、架橋四量体ヘモグロビンのための高速液体クロマトグラフィ分析を図示する。
【図6】図6は、架橋四量体ヘモグロビンのためのエレクトロスプレーイオン化質量(ESI-MS)分析を図示する。
【図7】図7は、(a)精製ヘモグロビン溶液および(b)架橋四量体ヘモグロビンのための円偏光二色性(CD)分光法分析を示す。
【図8】図8は、インビトロでの架橋四量体ヘモグロビンの化学増感効果を示す。
【図9】図9は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンを用いる正常組織の酸素化の改善を図示する。
【図10】図10は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンを用いる極度の低酸素腫瘍領域の酸素化の改善を図示する。
【図11】図11は、本発明の安定化架橋四量体ヘモグロビンでの処理後の重篤な出血性ショックのラットモデルにおける平均動脈圧変化を示す。
【図12】図12は、流液カラムクロマトグラフィのための溶出プロファイルである;ヘモグロビン溶液は流液画分中にある。
【図13】図13は、工業的規模操作のための限外濾過を伴う流液CMカラムクロマトグラフィシステムを概略的に図示する。
【図14】図14は、酸素化環境におけるスルフヒドリル反応と脱酸素化環境における反応との間の比較である。
【図15】図15は従来のヘモグロビンと対比した本発明の架橋四量体ヘモグロビンの熱安定性を示すグラフである。
【図16】図16は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンのための輸液バッグの模式図である。
【図17】図17は、インビトロにおけるメトヘモグロビンの形成を試験するために用いられる装置の模式図である。
【図18】図18は、図17の装置におけるポリマーヘモグロビンと本発明のヘモグロビンとについてのメトヘモグロビン形成の割合を示す。
【発明の詳細な説明】
【0015】
ヘモグロビンは、哺乳類および他の動物の血液の赤血球における、鉄を含んだ酸素輸送タンパク質である。ヘモグロビンは、タンパク質の三次構造および四次構造の両方の特徴を示す。ヘモグロビン中のアミノ酸の殆どは、短い非螺旋セグメントにより接続されたαへリックスを形成する。水素結合は、ヘモグロビンの内側の螺旋セクションを安定させて分子内での引力を生じ、それによって各ペプチド鎖を特定の形状に折畳む。ヘモグロビン分子は、四つの球状タンパク質サブユニットから組み立てられる。各サブユニットは、埋め込まれたヘム基と共に、「ミオグロブリン畳み込み」配列で接続された1組のαへリックス構造セグメントに配置されたポリペプチド鎖で構成される。
【0016】
ヘム基は、ポルフィリンとして知られる複素環の中に保持された鉄原子からなっている。該鉄原子は、1つの面内にある環の中心において、四つの全ての窒素原子に均等に結合している。次に、酸素はポルフィリン環の平面に対して垂直に、鉄中心に結合することができる。このように、単一のヘモグロビン分子は、酸素の4つの分子と結合する能力を有する。
【0017】
ヒト成人において、最も共通するタイプのヘモグロビンは、ヘモグロビンAと呼ばれる四量体であり、α2β2と称する非共有結合で結合された二つのαサブユニットおよび二つのβサブユニットからなり、各々がそれぞれ141アミノ酸残基および146アミノ酸残基でできている。αサブユニットおよびβサブユニットのサイズおよび構造は、相互に非常に類似している。四量体の約65kDaの総分子量について、各サブユニットは約16kDaの分子量を有している。四つのポリペプチド鎖は、塩橋、水素結合および疎水性結合によって相互に結合される。ウシヘモグロビンの構造はヒトヘモグロビンに類似している(α鎖で90.14%の同一性;β鎖で84.35%の同一性)。相違点は、ウシヘモグロビンにおける二つのスルフヒドリル基がβCys93に位置するのに対して、ヒトヘムロビンにおけるスルフヒドリル基はαCys104、βCys93およびβCys112にそれぞれ位置することである。図1は、ウシ、ヒト、イヌ、ブタおよびウマのヘモグロビンのアミノ酸配列アラインメントを示しており、それぞれB、H、C、P、およびEで標識されている。種々の起源に由来する異なるアミノ酸には影が付されている。図1は、ヒトヘモグロビンが、それらのアミノ酸配列を比較したときに、ウシ、イヌ、ブタおよびウマのヘモグロビンとの高い類似性を有していることを示している。
【0018】
赤血球の内部で天然に存在するヘモグロビンにおいて、α鎖とその対応するβ鎖との会合は非常に強く、生理学的条件下では脱離しない。しかし、赤血球の外側では、一つのαβ二量体ともう一つのαβ二量体との会合は非常に弱い。結合は、各々が約32kDaの二つのαβ二量体に分離する傾向を有している。これらの望ましくない二量体は、腎臓により濾過され排泄されるためには十分に小さく、その結果として潜在的な腎障害および実質的に血管内保持時間の低下が生じる。
【0019】
従って、有効性および安全性の両方のために、赤血球の外側で使用される全てのヘモグロビンを安定化させることが必要とされる。安定化されたヘモグロビンを製造するための方法を以下で概説する;本発明の方法の概観が図2のフローチャートに提示されている。
【0020】
最初に、赤血球由来ヘモグロビンの供給源としての全血源を選択する。ヒト、ウシ、ブタ、ウマおよびイヌの全血を含む哺乳類の全血が選択されるが、これらに限定されない。赤血球を血漿から分離し、濾過し、洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去する。
【0021】
赤血球からヘモグロビンを放出するために、細胞膜を溶解させる。赤血球を溶解させるために種々の技術を使用できるが、本発明では、工業的規模の生産に適した容量で正確に制御できるように、低張条件下での溶解を使用する。この目的のために、図3に見られる瞬間細胞溶解装置を、赤血球を溶解するために使用する。低張溶解が、ヘモグロビンおよび不用残留物を含有する溶解物の溶液を形成する。工業的規模での製造を可能にするために、溶解は、白血球または他の細胞を溶解することなく、赤血球だけを溶解するように注意深く制御される。1つの態様において、瞬間細胞溶解装置のサイズは、約30秒で赤血球が装置を横切るように選択され、細胞溶解装置は、静的ミキサーを含む。脱イオン化された蒸留水が低張溶液として使用される。勿論、異なる塩水濃度を有する他の低張溶液の使用は、異なる時間で赤血球細胞溶解が得られることが理解される。制御された溶解方法は、白血球または細胞物質を溶解せずに赤血球のみを破壊するので、毒性タンパク質、リン脂質または白血球由来のDNAおよび他の細胞物質の放出を最小限に抑える。低張溶液は30秒後に、即ち、赤血球を含有する溶液が細胞溶解装置の静的ミキサー部分を横切った後、直ちに添加される。得られたヘモグロビンは、他の溶解技術を使用して得られたヘモグロビンよりも高い純度で、且つ低レベルで汚染物、例えば望ましくないDNAおよびリン脂質を有する。白血球由来の望ましくない核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応法(検出限界=64pg)および高速液体クロマトグラフィ法(HPLC、検出限界=1μ/mL)によっても、ヘモグロビン溶液中において検出されない。
【0022】
2つの限外濾過プロセスが行われる:1つは、流液カラムクロマトグラフィの前に、ヘモグロビンよりも大きい分子量を有する不純物を除去するものであり、もう1つは、流液カラムクロマトグラフィの後に、ヘモグロビンよりも小さい分子量を有する不純物を除去するものである。後者の限外濾過プロセスはヘモグロビンを濃縮する。幾つかの態様において、第1の限外濾過のために100kDaのフィルタが使用されるのに対して、第2の限外濾過のためには30kDaのフィルタが使用される。
【0023】
流液カラムクロマトグラフィが使用されて、精製されたヘモグロビン溶液中のタンパク質不純物、例えば免疫グロブリンG、アルブミンおよび炭酸脱水酵素が除去される。幾つかの態様において、カラムクロマトグラフィは、DEAEカラム、CMカラム、ヒドロキシアパタイトカラムなどの商業的に入手可能な1つのイオン交換カラムまたはこれらカラムの組合せを使用することにより行われる。カラムクロマトグラフィのためのpHは、典型的には6〜8.5である。1つの態様において、流液CMカラムクロマトグラフィ工程は、pH8.0でタンパク質不純物を除去するために使用される。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が行われて、カラムクロマトグラフィから溶出した後に、試料中に残存しているタンパク質不純物およびリン脂質が検出される。この独特の流液カラムクロマトグラフィ分離が、工業的規模での製造を可能にする連続的な分離スキームを可能にする。ELISAの結果は、溶出した架橋四量体ヘモグロビン中で、これら不純物の量が実質的に低いことを示している(免疫グロブリンG:44.3ng/mL;アルブミン:20.37ng/mL;炭酸脱水素酵素:81.2μg/mL)。異なるpH値で異なる種類のカラムを用いたタンパク質不純物除去の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0024】
望ましくない血管収縮を引き起こすヘモグロビンのシステイン部位に対する内皮由来弛緩因子の結合を防止するために、酸素化条件下でヘモグロビンをスルフヒドリル試薬との反応に供する。これは、脱酸素化条件下でのヘモグロビンとスルフヒドリル試薬との間の反応を強調する従来技術の教示とは対照的な方向にある。本発明は、スルフヒドリル試薬が、酸素化条件下でヘモグロビンの反応性スルフヒドリル基とより早く且つ完全に反応することを示している。ヘモグロビンのスルフヒドリル基とのスルフヒドリル試薬の反応は、ヨウ化物を生成する。従って、アルキル化反応の完全性は、ヨウ化物放出を測定することによりモニターできる。図4および図14において示されるように、経時的な実験の間に、アルキル化反応は、脱酸素化環境に比較して、酸素化環境においてより早く且つより効率的に行われる。反応完了のために必要とされる反応時間は、脱酸素化環境に比較して、酸素化環境において5時間未満に短縮される。より短い反応時間は、工業的規模プロセスのために非常に重要である。それはまた、最終生成物中の副作用を引き起こす望まれない不純物に起因する反応を減少する。
【0025】
スルフヒドリル反応プロセスに続き、ヘモグロビンは、フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチル(DBSF)によるα−αおよび/またはβ−β架橋化を受ける。ポリマーヘモグロビンの形成を防止するために、反応は、脱酸素化された環境において、ヘモグロビンのDBSFに対するモル比が1:2.5〜1:4.0の間で、得られるα−αおよび/またはβ−β架橋ヘモグロビンが60〜70kDaの分子量を有する四量体ヘモグロビンであり、且つポリマーヘモグロビンが存在しないことが示されるように、注意深く制御される。DBSF反応の収率は高く、>99%、最終生成物における二量体濃度は低く、本発明との関連で、低い二量体含有量とは5%未満、より好ましくは2%未満の二量体を意味する。1つの態様において、架橋は、β−β架橋ヘモグロビンが全架橋四量体ヘモグロビンの50%よりも多くなるように選択される。もう1つの態様において、架橋は、β−β架橋ヘモグロビンが全架橋四量体ヘモグロビンの60%よりも多くなるように選択される。更に、β−β架橋ヘモグロビンが全架橋四量体ヘモグロビンの70%よりも多くなるように条件が選択される。β−β架橋ヘモグロビンがα−α架橋四量体ヘモグロビンよりも低い酸素親和性を有し得るという幾つかの証拠がある。従って、β−β架橋ヘモグロビンが、α−α架橋ヘモグロビンよりも酸素運搬の効率を高めるために好ましい状況であり得る。更に、β−β架橋ヘモグロビンは、腎毒性の減少を助けるであろう少ないα−β二量体を生じ得る。
【0026】
N−アセチルシステインを0.2〜0.4%の濃度でα−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビンに対して添加し、メトヘモグロビンレベルを5%未満に維持する。
【0027】
ヘモグロビンの最終適用に依存して、本発明の精製された架橋四量体ヘモグロビンは任意に気密包装に脱酸素環境において包装される。本発明において使用される包装は、結果として2年以上に亘り安定したα−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビンを生じる。一方、本発明のヘモグロビンは、酸素化条件下では2、3日以内に急速にメトヘモグロビンに変わる。従来技術のヘモグロビン溶液は、高酸素透過性を有するPVC血液バッグまたはステリコン(Stericon)血液バッグに包装されおり、そのために製品の寿命が短縮される。
【0028】
本発明の多くの態様において、架橋ヘモグロビンを含む酸素担体を含む医薬組成物は、静脈注射により送達される。そのため、包装設計および物質の選択は、静脈注射の適用に向けられる。EVA/EVOH物質の多層包装が使用されて気体透過性が最小化され、不活性なメトヘモグロビンの形成が回避される。本発明の精製された架橋ヘモグロビンと共に使用されるために設計された100mLの注入バッグは、厚さ0.4mmの5層EVA/EVOH積層物質から作られ、室温気圧当たり24時間当たり100平方インチ当たり0.006〜0.132cm3の酸素透過性を有する。この物質はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、インビボ生物反応性試験および物理化学試験に適合し、静脈注射目的のための注入バッグを作るために適切である。この主要なバッグは、特にα−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビン溶液を、不安定性の原因となって最終的にその治療特性に影響する長期間の酸素暴露から保護するために有用である。
【0029】
血液生成物の二次保護のために、潜在的な空気の漏出から保護し、脱酸素化状態に生成物を維持するためにアルミニウム上包装の使用が知られている。しかしながら、アルミホイル上包装においてピンホールのある可能性があり、これはその気密を損ない、生成物を不安定にする。従って、本発明は、二次包装として、酸素化を防ぎ、また光暴露を防ぐアルミニウム上包装パウチを使用する。上包装パウチの組成は、0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(AL)、0.015mmのナイロン(NY)および0.1mmのポリエチレン(PE)を含む。上包装フィルムは、0.14mmの厚さと、室温気圧当たり24時間当たり100平方インチ当たり0.006cm3の酸素透過率を有する。この二次包装は、ヘモグロビンのための安定時間を延長し、生成物貯蔵寿命を延長する。
【0030】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、エレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS)、および円偏光二色性(CD)分光分析を使用して、α−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビンが分析され、特徴付けがなされる。ウシ血液源について、図5はHPLC分析による分子量分布に関して生成物の組成を示す。HPLC分析法を使用して、四量体および二量体の量がそれぞれ検出される。HPLC分析のための移動相は、塩化マグネシウム(0.75M)を含み、これは二量体、非架橋四量体と安定化されたα−αおよび/またはβ−β架橋四量体とを分離できる。ヘモグロビンの二量体への分離の促進について、塩化マグネシウムは同じイオン強度での塩化ナトリウムよりも約30倍効率的である。
【0031】
ESI-MSは、非常に大きな分子の分析を可能にする。それは、タンパク質をイオン化し、次いでイオン化されたタンパク質を質量/電荷比に基づいて分離することにより、高分子量化合物を分析するイオン化技術である。従って、分子量およびタンパク質相互作用を正確に決定することができる。図6において、ESI−MS分析結果は、安定性四量体のサイズが65kDaであることを示している。190〜240nmの遠紫外線CDスペクトルは、ヘモグロビンにおけるグロブリン部分の二次構造を明らかにしている。図7において、精製された架橋ヘモグロビンのスペクトルの一致性は、DBSFによる架橋後でさえも、ヘモグロビン鎖が適正に折り畳まれていることを明らかにしている。このCDの結果は、架橋ヘモグロビンがαへリックスの42%、βシートの38%、βターンの2.5%およびランダムコイルの16%を有していることを示している。それは更に、架橋四量体ヘモグロビンを形成するためのDBSFでの架橋工程がヘモグロビンの二次構造に影響しないことを裏付ける。
【0032】
本発明の方法により産生された精製された架橋四量体ヘモグロビンは、60〜70kDaの分子量を有し、少なくとも1つのシステイン部分を有し、ヘモグロビンはシステイン部位で内皮由来弛緩因子に結合する能力を持たないように、前記システイン部分は、チオール保護基を含む。更に、架橋ヘモグロビンは非発熱性であり、エンドトキシン非含有(<0.05EU/mL)であり、ストローマ非含有(<1%)である。
【0033】
本発明の方法は、架橋四量体ヘモグロビンの大規模な工業生産のために適用される。加えて、医薬担体(例えば、カプセル形態における水、生理学的緩衝液)との組み合わせる架橋四量体ヘモグロビンは、哺乳類での使用に適している。
【0034】
本発明の架橋四量体ヘモグロビンは、組織の酸素化、癌治療、出血性ショックなどの酸素欠乏症の治療、および低酸素含量環境下での心臓保存(例えば心臓移植)のために使用される。架橋四量体ヘモグロビンの用量は、約0.3〜1.3g/kgの濃度範囲で選択される。
【0035】
癌治療における使用について、本発明の酸素担体を含有する医薬組成物は、腫瘍組織における酸素化を改善することにより、化学感受性(例えば、化学療法に対する感受性)および放射線感受性を高めるための組織酸素化剤として働く。
【0036】
図8は、インビトロにおける架橋四量体ヘモグロビンを含む組成物を適用した後の癌腫瘍細胞の向上された化学的感受性を明示する。5つの異なる癌細胞株(A)ジャーカット(白血病)、(B)HKESCI(食道癌)、(c)COLO205(大腸癌)、(D)A549/Cisp(肺癌)および(E)MCF−7/ADM(乳癌)は種々の化学療法剤単独、または本発明の架橋四量体ヘモグロビンとの組み合わせた化学療法剤で処理される。腫瘍細胞成長の阻害は、ATP腫瘍化学的感受性アッセイ(ATP-TCA)(ジャーカット、COLO205、A549/CispおよびMCF−7/ADM細胞株について)またはMTT細胞増殖アッセイ(HKESCl細胞株について)により決定される。結果は、化学的感受性は、化学療法に対して高度に耐性であるA549/CispおよびMCF−7/ADMを含む全ての癌細胞株において本発明の架橋四量体ヘモグロビンの添加により高度に増強されることを示す。図8における結果は、架橋四量体ヘモグロビンの添加により増強された化学的感受性の結果として、白血病細胞、食道癌細胞、肺癌細胞、大腸癌細胞および乳癌細胞についての治療効果が大いに増大したことを示す。
【0037】
加えて、本発明の架橋四量体ヘモグロビンの正常組織(図9)と極度に低酸素の腫瘍組織(図10)(ヒト上咽頭癌(CNE2))とにおける酸素化の改善能力が本発明において示される。ヒトCHE2異種移植片の組織トラックに従う代表的な酸素プロファイルを図10に示す。微小位置決めシステム(DTI Limited)に結合された光ファイバー酸素センサ(Oxford Optronix Limited)によって直接モニターされる。1.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、pO2の中央値は、0.2mmHgから、3時間では3.9mmHgにまで、6時間では10.6mmHgまでにそれぞれ上昇する。最も低酸素の領域においてさえも、本発明の酸素担体を含有する医薬組成物は、有意に酸素圧を上昇した。他の同様な商業的製品または何れの現存する技術も、本発明により製造された酸素担体を含有する医薬組成物と比べると、同様に高い効果を示すものはない。
【0038】
酸素欠乏障害の治療における使用および心臓保存における使用のために、本発明の酸素担体含有医薬組成物は、標的臓器に対して酸素を提供する代替血液として働く。幾つかの態様において、当該組成物は、心臓保存のための心筋保護液として使用される。
【0039】
0.5g/kgの本発明の架橋四量体ヘモグロビンで治療した後の、重篤な出血性ショック(例12bを参照されたい)のラットモデルにおける平均動脈圧変化を図11に示す。重篤な出血性ショックのラットモデルにおいて、安定性架橋四量体ヘモグロビンでの治療後に、平均動脈圧は安全且つ安定なレベルに復帰し、基線またはその近傍も維持される。本発明のヘモグロビンでの治療に続き、平均動脈圧が正常にまで復帰するまでの反応時間は、陽性コントロールとして使用するラット全血の投与に続く場合よりもまさに短い。上記結果は、本発明のヘモグロビンを注入した後の血管作動性イベントが、安定した血流力学状態を維持するために有益であることを示す。従来のヘモグロビンに基づく酸素担体は、多くの血管収縮イベントを引き起こした。例えば、ヘモピュア(Hemopure(登録商標))製品(Biopure Co., USA)は、カッツら(Katz et al., 2010)により開示されるように基線(96±10mmHg)に比べて高い平均動脈圧(124±9mmHg)を生じた。
【0040】
本発明のヘモグロビンの注入のための使用は、マウス(18%から75%)およびビーグル犬(46%から97%)のショックモデルにおいて生存率を上昇する。重篤な出血性ショック動物モデルの生存率は、異なる量の架橋四量体ヘモグロビンの注入により有意に増大される(例12を参照されたい)。従って、本発明のヘモグロビンは出血性ショックの治療として使用される。
【0041】
例
次の例は、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図することなく、本発明の特定の態様を説明することにより提供される。
【0042】
例1
全体的な工程
図2に、本発明の方法の概略フロー図が示される。ウシ全血を、抗凝固剤として3.8%(w/v)のクエン酸三ナトリウム溶液を含む閉じた滅菌容器/バッグ中に採取する。次いで、血液を直ちにクエン酸三ナトリウム溶液と充分に撹拌し、血液の凝固を阻害する。赤血球(RBC)は、アフェレーシス機序により、血漿および他の小さい血液細胞から単離および回収される。「細胞洗浄機」はこの方法のために、ガンマ線滅菌された使い捨ての遠心分離ボウルと共に使用される。RBCは等容量の0.9%(w/v塩化ナトリウム)塩水で洗浄される。
【0043】
洗浄されたRBCを溶解し、RBC細胞膜に対して低張性ショックを処置することにより、ヘモグロビン内容物を放出する。RBC溶解装置のために特殊化された図3に示す瞬間細胞溶解装置を、この目的のために使用する。RBC溶解に続き、ヘモグロビン分子を100kDa膜を使用する接線流限外濾過により、他のタンパク質から単離する。濾液中のヘモグロビンを、流液カラムクロマトグラフィのために採取し、30kDa膜によって更に12〜14g/dLまで濃縮する。カラムクロマトグラフィを行い、タンパク質不純物を除去する。
【0044】
最初に、濃縮ヘモグロビン溶液を自然の酸素化条件下にてスルフヒドリル試薬(アルキル化反応)で修飾し、次いで前記成分をDBSFと反応させて、安定性α−αおよび/またはβ−β架橋四量体ヘモグロビン分子を形成する。
【0045】
例2
時間および制御された低張溶解および濾過
ウシ全血を新たに採取し、冷却条件下で輸送する。細胞洗浄機およびこれに続く0.65μmの濾過を経て、赤血球を血漿から分離する。赤血球(RBC)濾液を0.9%塩水で洗浄した後、濾液を低張溶解により破壊する。前記低張溶解は、図3に示した瞬間細胞溶解装置を使用して行う。この細胞溶解装置は、細胞溶解を支援するための静的ミキサーを含む。ヘモグロビン濃度が制御された(12〜14g/dL)RBC懸濁液を4容量の精製水と混合して、RBC細胞膜に対して低張ショックを発生させる。低張ショックの時間は、白血球および血小板の望ましくない溶解を回避するように制御される。この低張溶液は、瞬間細胞溶解装置の静的ミキサー部分を約30秒間に亘って通過する。このショックは、溶解物が静的ミキサーを出るときに、該溶解物を1/10容量の高張緩衝液と混合することによって30秒後に停止される。使用される高張溶液は、0.1Mリン酸緩衝液、7.4%NaCl、pH7.4である。図3の瞬間細胞溶解装置は、連続運転で1時間あたり50〜1000Lの溶解物、好ましくは1時間当たり少なくとも300Lの溶解物を処理することができる。
【0046】
RBC溶解の後、赤血球の溶解物を0.22μmのフィルタにより濾過してヘモグロビン溶液を得る。白血球からの核酸およびリン脂質不純物は、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(検出限界=64pg)およびHPLC法(検出限界=1μg/mL)により、ヘモグロビン溶液中に検出されない。最初の100kDa限外濾過が行われ、ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物が除去される。ヘモグロビン溶液を更に精製するために、流液カラムクロマトグラフィが続いて行われる。次いで、第二の30kDa限外濾過が行われ、ヘモグロビンよりも低分子量を有する不純物が除去されて、濃縮される。
【0047】
例3
ストローマを含まないヘモグロビン溶液におけるウイルスクリアランス研究
本発明の生成物の安全性を証明するために、(1)0.65μmダイアフィルトレーション工程および(2)100kDa限外濾過工程のウイルス除去能力が、ウイルス検証研究によって示される。これは、異なるモデルウイルス(脳心筋炎ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス、およびウシパルボウイルス)を用いたこれら2つの処理の縮小規模バージョンの慎重なスパイキングによって行われた。この研究においては、4つのタイプのウイルスが使用された(次の表2参照)。これらのウイルスは、それらの生物物理学的および構造的特徴が変化し、かつそれらは物理的および化学的な薬剤または治療に対する抵抗性において変化を示す。
【表2】
【0048】
ウイルス検証スキームを、以下の表3に簡単に示す。
【表3】
【0049】
(1)0.65μmダイアフィルトレーションおよび(2)100kDa限外濾過における4種類のウイルスの対数減少結果の要約を、下記の表4に示す。全ての4種類のウイルス、BVDV, BPV, EMCVおよびPRVは0.65μmダイアフィルトレーションおよび100kDa限外濾過によって効率的に除去された。
【表4】
【0050】
例4
流液カラムクロマトグラフィ
何れのタンパク質不純物も更に除去するために、CMカラム(GEヘルスケア社から商業的に入手可能)を使用する。出発緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム(pH8.0)であり、溶出緩衝液は20mMの酢酸ナトリウム、2MのNaCl(pH8.0)である。出発緩衝液でCMカラムを平衡化した後、タンパク質試料を該カラムに装填する。未結合のタンパク質不純物を、少なくとも5カラム容量の出発緩衝液で洗浄する。溶出を8カラム容量の25%溶出緩衝液(0〜0.5MのNaCl)を使用して行う。溶出プロファイルを図12に示す;ヘモグロビン溶液は流液画分中に存在する。
【0051】
流液画分の純度を、ELIZAにより分析する。その結果を下記の表5に示す。
【表5】
【0052】
ヘモグロビン溶液は、pH8のCMカラムクロマトグラフィからの流液の中に存在するので(溶出液中ではない)、連続的な工業的規模の操作にとっては良好なアプローチである。工業的規模の操作のために、第一の限外濾過設備を流液CMカラムクロマトグラフィシステムに直接接続し、かつ流液配管を第二の限外濾過設備に接続することができる。概略工業的プロセス構成を図13に示す。
【0053】
例5
スルフヒドリル反応および架橋
(5a)スルフヒドリル反応
本発明において、ヘモグロビンとスルフヒドリルとの間の反応は従来の教示と対照的に酸素化環境で行われ、前記反応は窒素のような不活性雰囲気で典型的に生じる。アルキル化スルフヒドリル試薬はヘモグロビンの遊離スルフヒドリル基をアルキル化するために添加される。この態様において、ヘモグロビンとスルフヒドリル試薬とのモル比率は1:2から1:4である。この反応は、ヘモグロビンのスルフヒドリル基と反応する内皮由来弛緩因子の結合を排除できる。内皮由来弛緩因子は、ヘモグロビンの反応スルフヒドリル基の結合することを示されており、それはヘモグロビンに基づく酸素担体の発生前の注入後に観察される血圧の上昇を説明できる。スルフヒドリル反応の完了は、生成物の放出または残留スルフヒドリル試薬(265nmでのUV分光測定法による)を測定することによってモニターできる。図14は、酸素化環境における反応と脱酸素化環境における反応との間の比較を示す。図14は、残留スルフヒドリル試薬が経時的実験の間に酸素化環境中、3時間で横ばい状態になることを示す。これに対し、多くの未反応スルフヒドリル試薬は脱酸素化環境において残存する。酸素化環境におけるスルフヒドリル反応の収率は、反応の4時間後に高くなる(92.7%)。
【0054】
(5b):安定な四量体を形成するための架橋反応
α−αおよび/またはβ−βの架橋反応は脱酸素環境において行う。フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチル(DBSF)をヘモグロビン溶液に加えて、四量体内にα−α架橋および/またはβ−β架橋を含む架橋四量体ヘモグロビンを形成する。任意に、多少のα−β架橋が四量体内に含まれる。
【0055】
この態様において、ヘモグロビンとDBSFとのモル比率は1:2.5から1:4.0である。DBSF安定化法は、ヘモグロビンの四量体形態(65kDa)を安定化させて、腎臓を通して排泄される二量体(32kDa)への解離を防止する。この架橋プロセスにおいて、四量体ヘモグロビンのみが形成され、ポリマーヘモグロビンは形成されない。このプロセスは、生理学的に不活性な第一鉄メトヘモグロビンを形成するためにヘモグロビンの酸化を防止するために、窒素の不活性雰囲気中において行われる。DBSF反応の完了は、HPLCを使用して残留DBSFを測定することによりモニターされる。DBSF反応の収率は高く、>99%である。
【0056】
1つの態様において、架橋反応は室温(15−25℃)で脱酸素化環境(溶解酸素<0.1mg/L)にて行われる。BDSFが、ヘモグロビン溶液に添加され、架橋四量体ヘモグロビンを形成する;この架橋四量体ヘモグロビンは以下に説明されるように特徴付けられる。この特徴は1つの態様のみに基づくことに留意されたい。四量体内の架橋の種々の割合およびタイプは、使用されるDBSFの量、反応の時間および温度、並びに他のプロセス条件によって制御される。
【0057】
ヘモグロビンとDBSFとのモル比率を1:5.0に変化させるとき、八量体(13kDa)のパーセントが18%まで敏速に増加する。
【0058】
(5b−1)15%SDS−PAGEを用いる架橋ヘモグロビンの電気泳動分析
架橋ヘモグロビン溶液を等容量の試料還元緩衝液(62mMトリス−HCl,10%(v/v)グリセロール5%(v/v)メルカプトエタノールおよび2.3%(w/v)SDS)と混合し、95℃で10分間に亘って加熱した。試料混合物を、4%濃縮用ゲルと共に15%アクリルアミドスラブゲルを用いて分離した。電気泳動を60mAの一定電流で動作させた。電気泳動後にSDS−PAGEゲルを0.1%(w/v)クーマシーブルーR350、20%(v/v)メタノールおよび10%(v/v)酢酸で染色した。ブラックライトユニット(BLU)で表されるタンパク質のバンドの強度をバイオ−ラッドクオンティティワンソフトウエア(Bio-Rad Quantity One Software)を用いて定量化した。
【0059】
(5b−2)15%SDS−PAGEから励起されるタンパク質のバンドのトリプシン消化
タンパク質のバンドを15%SDS−PAGEから切り取り、立方体(1×1mm)に切断し、10%メタノール/10%酢酸で脱染色した。脱染色ゲルを25mMのNH4CO3中の10mMDTTで還元し、暗所で45分間に亘って25mMのNH4CO3中の55mMインドアセタミドでアルカリ化し、次いで37℃で一晩、25mMのNH4CO3中の20ng/μL修飾トリプシンでゲル内消化した。トリプシン消化後に、トリプシン消化ペプチドを50%(v/v)アセトニトリルおよび1%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)への拡散によって抽出した。
【0060】
(5b−3)トリプシン消化タンパク質バンドのマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析法(MALDI−TOF MS)
ゲル立方体から抽出されたトリプシン消化エプチドを、プレートは1μLのマトリックス溶液(2mg/mLHCCA)で予備スポットされたアンカーチッププレート上にスポットし、50%アセトニトリル/0.1TFAで飽和され、空気乾燥される。乾燥後に、試料スポットを10mMリン酸塩緩衝液で洗浄し、EtOH:アセトン:0.1% TFA(6:3:1比率)の溶液を用いて再結晶化した。MALDI−TOF MS分析を800−3500 Daのm/z範囲の間のリフレクトロンモードで操作されるブルーカーオートフレックスIII(Bruker Daltonic GmbH, Bremen, Germany)で行われ、パラメータを次のように設定した:ペプチドマスフィンガープリント(PMF)のためにイオン源25kV、およびPMFのためにリフレクタ26.3 kV。外部キャルブレーションを、ブルーカーペプチドミックキャルブレーションスタンダードを用いて行った。S/N比が4を越えるピークは、フレックス分析(Bruker Daltonic GmbH, Bremen, Germany)によって自動的に標識化される。MSデータをMASCOT 2.2.04およびバイオツール2.1ソフトウエア(Bruker Daltonic GmbH, Bremen, Germany)を介してさらに分析し、かつこれらのデータをNCBI非冗長(NCBInr)データベースの哺乳類プロテインに対して調査した。次のパラメータをデータベース調査のために用いた:モノアイソトピック質量精度<250ppm、親電荷+1、稽留開裂1、固定修飾としてのシステインのカルバミドメチル化、種々の修飾としてのメチオニンの酸化。PMFに基づく67(p=0.05)以上のプロテインスコアでの結果は、陽性同定として考慮される。確信的な同定のための他の基準は、プロテイン一致が少なくとも15%配列適用範囲と、少なくとも4ペプチドの一致を有するべきことである。
【0061】
(a)15%SDS−PAGEおよび(b)MALDI−TOFMSから分析結果を組み合わせた後、架橋ヘモグロビンの組成を決定する。結果から、架橋ヘモグロビンの70%がβ−β架橋である。
【0062】
例6
製剤後の生成物における低レベルの不活性メトヘモグロビンの維持
他の酸素担体医薬品またはUS特許7494974 B2およびUS特許7504377 B2に開示される方法に従って形成される生成物を比較すると、本発明による生成物は低レベルの不活性メトヘモグロビン分子を含む。この態様において、N−アセチルシステインのような抗酸化剤が架橋四量体ヘモグロビンに対して0.2%で添加される。抗酸化剤を添加しないと、不活性メトヘモグロビンが高レベル(12−20%)で見出される。本発明による生成物は、低レベルの不活性メトヘモグロビン(<5%)を有し、それは治療に用いられるときにより大きい効力をもたらす高温安定性である。
【0063】
本発明による生成物の安定性を証明するために、熱安定性試験を80℃で行う。結果は図15に図示される。US特許7494974およびUS特許7504377に従って作られる生成物は、高メトヘモグロビン含有量(22−28%)を示す。しかしながら、本発明の生成物は低レベルのメトヘモグロビン(<5%)を示す。
【0064】
例7
包装および生成物安定性
本発明の生成物は脱酸素条件下において安定であるので、該生成物の包装はガス透過性を最小化することが重要である。静脈適用のために、注文設計された100mLの注入バッグを、室温気圧当たり24時間当たり100平方インチ当たり0.006〜0.132cm3の酸素透過性を有する厚さ0.4mmの5層のEVA/EVOH積層材料から作製した。この特別な物質はクラスVIプラスチック(USP<88>に定義されている)であり、これはインビボ生物学的反応性試験および物理化学的試験に適合し、静脈注入目的の注入バッグを製造するために適している(望ましい用途に応じて、他の形態の包装も同様にこの材料から製造できることに留意されたい)。二次包装のアルミニウム上包装パウチもまた、この一次包装注入バッグに適用されて追加のバリアを提供し、光暴露および酸素拡散を最小化する。パウチの組成は:0.012mmのポリエチレンテレフタレート(PET)、0.007mmのアルミニウム(AL)、0.015mmのナイロン(NY)および0.1mmのポリエチレン(PE)からなる。上包装フィルムは0.14mmの厚さ、および室温気圧当たり24時当たり100平方インチ当たり0.006cm3の酸素透過速度を有している。該注入バッグの概略的描写が図16に図示されている。本発明による各注入バッグについての全体の酸素透過性は、室温気圧当たり24時間当たり0.0025cm3である。
【0065】
安定性研究は、40℃、75%相対湿度で前記包装材料について行う。結果を以下の表6に示す。結果は、包装物質が長時間に亘って低レベルのメトヘモグロビンを維持することを示す。
【表6】
【0066】
例8
毒性研究
実験は、本発明の精製架橋四量体ヘモグロビンの潜在的毒性を評価するために行われる。10匹の雄性Sprague-Dawleyラットを3群に、コントロール群に3匹、低用量群に3匹および高用量群に4匹を割り当てる。通常塩水(コントロール)、低用量(5.52g/kg)での精製架橋四量体ヘモグロビン、高用量(6.90g/kg)での精製架橋四量体ヘモグロビンは、各々ラットに対して頸静脈を介して3mL/kg/hrの注入速度で連続的な静脈内注入により投与される。薬物処理日程を以下の表7に示す。架橋四量体ヘモグロビンは33.3時間までに亘りラットに対して注入される。動物は9日間の期間に亘り詳しく関される。
【表7】
【0067】
9日目に臨床病理評価のために血液試料を全ての実験動物から採取する。尿は0日目から3日目および9日目において尿検査のために採取される。最終的な剖検は9日目において行われる。評価される指標は、臨床観察、体重、体重変化、水消費、臨床病理(ケマトロジー(chematology)、臨床化学および尿検査)、臓器重量、臓器体重比、臓器体重比、全体病理および組織病理を含む。本発明の架橋四量体ヘモグロビンでの処理は致死的または不都合な臨床所見を齎すことはなく、並びに体重変化および水消費における著しい影響はない。
【0068】
処理に関連する臨床化学および血液学指標において観察される明らかな変化はない。尿検査は、塩化物およびカリウムの濃度は2日目において、コントロール群よりも処理群において低いことを示す。血液染色すると、2日目から3日目において尿中により高いタンパク質濃度とより多くの赤血球がコントロール群よりも処理群において見られる。それらの観察は、全て間もなく正常に回復する。有意差、肺体重比に観察されない。研究の間、予期しない死および毒性の臨床的兆候は観察されない。加えて、全体病理および組織病理解析が、肺、心臓、肝臓、脾臓及び腎臓を含む全ての臓器において大きな異常がないことが明白にする(そのような異常は注入の毒性副作用に起因する)。
【0069】
例9
心臓保存
架橋四量体ヘモグロビンはビーグル犬における心肺バイパス中の心臓保存のモデルにおいて心臓保護液として使用できる。18頭のビーグル犬を無作為に3群に分ける;擬似、セントトーマス溶液(St. Thomas’ solution (STS))、および0.1%の架橋四量体ヘモグロビン群。心肺バイパスは標準的な方法でベントのために上行大動脈、上および下大動脈、および左心室のカニューレ挿入により確立される。擬似群を除いて、0.1g/dLの架橋四量体ヘモグロビンなしでSTS(STS群)または0.1g/dL架橋四量体ヘモグロビンと共にSTS(0.1%Hb群)を大動脈クランプ後に大動脈基部に心停止を達成するまで注入し、それを120分間維持する。心臓血液搏出量、肺動脈圧、肺動脈楔入圧、平均動脈圧、中心静脈圧および心拍並びに血液ガスを含む心臓機能を再灌流の間測定し、基線と比較する。また、クレアチンキナーゼMB、乳酸脱水素酵素およびトロポニン−1を含む心筋酵素の放出を心障害の代理マーカーとして測定する。ヘマトキシリンおよびエオシン染色および心臓水含量検出を行い、心筋の形態学的および病理学的変化を再灌流後120分に測定する。
【0070】
基本条件下で、心臓機能、酸素消費量および心筋酵素の放出の測定は、3群間で同じである。再灌流中では、心拍数、心臓血液搏出量および中心静脈圧は擬似群に比較してSTS群において大きく減少される。しかしながら、心拍数、心臓血液搏出量、中心静脈圧および心臓酸素消費量は0.1%Hb群において大いに保持され、これは擬似群のものと同じである。STS中の架橋四量体ヘモグロビンはまた、乳酸脱水素酵素、クレアチンキナーゼMBおよびトロポニン−1の出現をSTS群に比べて大きく減少する。更に、細胞腫脹、脂肪変化およびヒアリン変化は、STS群と比較して0.1%Hb群において有意に減少された。肺動脈圧、肺動脈楔入圧、平均動脈圧および心臓水含量を含む他の測定は、3群の間で有意差はない。本研究における0.1%Hb群の全ての測定は、擬似群に比較して有意差はない。心肺バイパス中のSTS中の0.1g/dLgの架橋四量体ヘモグロビンは、STS(現在の標準的な心臓保護液)の場合よりも良好に心臓保護効果を示し、また結果は擬似群に匹敵する。
【0071】
例10
組織酸素化、正常および癌組織における研究
(10a)正常組織における酸素化の改善
架橋四量体ヘモグロビンによる正常組織酸素化についての幾つかの研究が行われる(図9に示される)。比較薬物動態および薬力学研究はバッファローラットにおいて行われる。雄性同系交配バッファローラットは個々に0.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビン溶液またはリンゲル酢酸緩衝液(コントロール群)を静脈注射により投与される。血漿ヘモグロビンの濃度−時間プロファイルをヘモキュー(Hemocue、登録商標)光度計により1、6、24、48時間に測定し、基線測定値と比較する。当該方法はヘモグロビンの光度計測定に基づき、ヘモグロビンの濃度を直接にg/dLとして出力する。バッファローラットの後肢において酸素分圧(pO2)をOxylab(登録商標)組織酸素化および温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接に測定する。ラットを30〜50mg/kgのペントバルビタール溶液の腹腔内注射により麻酔し、続いて筋肉内に酸素センサを挿入する。全pO2読み出しは、データトラックス2データ収集システム(Datatrax2 data acquisition system (World Precision Instrument))によりリアルタイム法で記録される。
【0072】
図9において見られるように、0.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビン溶液の注入は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンの薬物動態(血漿ヘモグロビン濃度)および薬力学(筋肉組織への酸素送達)特性の間の相関を示す。重要なことには、酸素化における有意な増加が、血漿ヘモグロビン濃度と比較してより長い時間に亘り観察される。血漿ヘモグロビン濃度をグラフ(A)に示し、筋肉への酸素送達をグラフ(B)に示す。
【0073】
(10b)極度な低酸素腫瘍領域における酸素化の改善
極度な低酸素腫瘍領域における酸素化の改善をヒト上咽頭癌(CNE2)異種移植モデルにより評価する。CNE2細胞株を癌遺伝学研究室(香港大学)から入手する。約1×106細胞を4〜6週齢の同系交配BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。腫瘍が8〜10mmの直径に達したときに、腫瘍塊内の酸素分圧をオキシラブ(Oxylab、登録商標)組織酸素供給温度モニター(Oxford Optronix Limited)により直接モニターする。酸素分圧を完全にコンピュータ化されたPTS30微小位置決めシステム(Discovery Technology International)により腫瘍トラックに沿って測定する。全pO2読み出しをデータトラックス2データ収集システム(World Precision Instrument)によりリアルタイム法で記録する。pO2読み出しが安定化されるときに、1.2g/kgの本発明の架橋四量体ヘモグロビン溶液をマウスの尾静脈から静脈注射し、組織の酸素化を測定する。結果は、大部分の低酸素腫瘍領域において酸素化の有意な増大を証明する。1.2g/kgの架橋四量体ヘモグロビンの静脈注射の後、pO2の中央値は、0.2mmHgから3.9mmHg(3時間)および10.6mmHg(6時間)までそれぞれ上昇する(図10に示す)。
【0074】
例11
癌治療研究(架橋四量体ヘモグロビンの化学増感効果)
本発明の架橋四量体ヘモグロビンの化学増感効果を異なる癌細胞株において評価する。白血病細胞株(ジャーカット)、大腸癌細胞株(COLO205)、シスプラチン耐性肺癌細胞株(A549/Cisp)およびアドリアマイシン耐性乳癌細胞株(MCF−7/ADM)をチャイニーズ・アカデミー・オブ・メディカル・サイエンス・センター・インスティテュート(Chinese Academy of Medical Sciences Cancer Institute)から得る。8000のジャーカット細胞、4000のCOLO205細胞、3000のA549/Cisp細胞および3000のMCF−7/ADM細胞を個々にトリプリケートで96ウェルプレートに播種する。付着後、細胞を37℃で種々の化学療法剤単独または0.5mg/mLの架橋四量体ヘモグロビン溶液との併用と共にインキュベートする。ジャーカット細胞を、0.31、0.63、1.25、2.5、5および10μg/mLの硫酸ビンクリスチンにより処理する;COLO205細胞を0.78、1.56、3.13、6.25および12.5μg/mLの5−フルオロウラシルにより処理する;A549/Cisp細胞を0.39、0.78、1.56、3.13、6.25および12.5μg/mLのシスプラチンで処理する;およびMCF−7/ADM細胞を0.39、0.78、1.56、3.13、6.25および12.5μg/mLのアドリアマイシンで処理する。処理後、癌細胞成長の阻害をATP腫瘍化学的感受性アッセイ(ATP−TCA)により測定する。
【0075】
食堂癌細胞株HKESc−1を癌遺伝学研究室(香港大学)から入手する。2000の癌細胞を96ウェルプレートに播種する。付着後、細胞を37℃で0.08、0.4、2、10および50μg/mLのシスプラチン単独、または3mg/mLの架橋四量体ヘモグロビン溶液との併用でインキュベートする。インキュベーション後、細胞毒性をMTT細胞増殖アッセイにより評価する。結果は、本発明の架橋四量体ヘモグロビンの添加は、化学療法に対して極めて抵抗性であるA549/CispおよびMCF−7/ADM細胞を含む種々の癌細胞株において化学的感受性を有意に向上することを示す(図8に示す)。
【0076】
例12
急性の重篤な出血性ショックの治療
(12a)ビーグル犬における急性の重篤な出血性ショックの治療
ビーグル犬における急性重症出血性ショックのモデルにおいて本発明の架橋四量体ヘモグロビンを蘇生剤として使用する。60頭のビーグル犬を無作為に蘇生剤に従って4群、各群15頭に分ける。
【0077】
グループ1:デキストラン(陰性コントロール)
グループ2:動物自家血液(陽性コントロール)
グループ3:低用量処理(0.35g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)
グループ4:中用量処理(1.05g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)。
【0078】
急性の重篤な出血性ショックは、動物の全血の50%を抜き取ることにより樹立する。樹立された出血性ショックの後10分に、デキストラン(50mL/kg)、動物自家血液(50mL/kg)、異なる用量の架橋四量体ヘモグロビン(5mL/kg、15mL/kg)を動物に注入する。架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は10mL/kg/hで設定し、その後、全ての実験動物を7日間に亘り観察する。研究期間に亘って、生存、体重、エレクトロカルジオグラフィ(ECG)、血圧、心拍数、呼吸数、体温、血漿ヘモグロビン濃度、血液学、動脈血液ガス、尿検査、臨床化学、凝固、健康状態および有害イベントを含む一群のパラメータを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。7日間の観察の後、本発明の架橋四量体ヘモグロビン処理群は、正常群および自家血液群と比較して、非常に高い生存率を有する(下記の表8に示す)。
【表8】
【0079】
(12b)ラットにおける急性重篤出血性ショックの治療
本発明の架橋四量体ヘモグロビンをまた急性重篤出血性ショックのラットモデルにおいて蘇生剤として使用する。80匹のSprague-Dawleyラットを蘇生剤に従い無作為に5群、各群16ラットに分ける。
【0080】
グループ1:乳酸リンゲル溶液(陰性コントロール)
グループ2:動物自家血液(陽性コントロール)
グループ3:低用量処理(0.1g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)
グループ4:中用量処理(0.3g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)
グループ5:高用量処理(0.5g架橋四量体ヘモグロビン/体重kg)。
【0081】
急性の重篤な出血性ショックは、動物の全血の50%を抜き取ることにより樹立し、それは35mL/体重kgと推定される。樹立された出血性ショックの後10分に、乳酸リンゲル溶液、動物自家血液、異なる用量の架橋四量体ヘモグロビン(0.1gHb/kg、0.3gHb/kg、0.5gHb/kg)を動物に注入する。架橋四量体ヘモグロビンの注入速度は5mL/時に設定し、その後、全ての実験動物を24時間に亘り観察する。研究期間に亘って、生存、血行動態、心筋機構、心臓血液搏出量、心臓機能、血液ガス、組織酸素送達および消費、組織灌流および酸素張力(肝臓、腎臓および脳)、肝機能および腎機能、血液レオロジー(血液粘度)、およびミトコンドリア呼吸制御速度(肝臓、腎臓および脳)を含む一群のパラメータを観察および分析する。特に、生存は主要な終点である。24時間の観察の後、本発明の架橋四量体ヘモグロビン処理群は、正常群および自家血液群と比較して、非常に高い生存率を有する(下記の表9に示す)。
【表9】
【0082】
例13:インビトロでのメトヘモグロビン形成研究
従来技術は、高分子量ポリマーヘモグロビン溶液が好ましいと述べており、それは環流中により長い残留性を生じるためである。従って、本発明の安定性架橋四量体ヘモグロビンを、インビトロにおいてシミュレート環流条件における安定性分析について高分子量ポリマーヘモグロビンと比較する。試験環流を図17に示す。メトヘモグロビン形成バイパス回路において、Aは試料貯蔵容器であり、Bは試料出口であり、Cはポンプであり、Dはリキ−セル接触器(Liqui-Cel contactor)であり、Eは試料収集点であり、Fは試料入口である。本発明の架橋四量体ヘモグロビン溶液の時間的経過メトヘモグロビン形成は、約68%のポリマー画分を含む(≧128,000 MW)商業的に入手可能な製品(オキシグロビン(登録商標))と比較される。実験前に、全ての試料を5g/dLに希釈し、50mLの希釈された試料を試料入口から試料貯蔵容器に導入する。液体ポンプ速度を30mL/minに設定し、試料を回路に満たす。実験の間中、試料貯蔵容器を37℃で維持する。メトヘモグロビンレベルを測定するために、0.2mLの試験試料を共酸素測定法(IL-682, Instrumentation Laboratory)のための試料収集点から収集する。圧縮空気を次に、リキ−セル膜接触器を経て流速2.0mL/minで通過させ、試料の酸素化を開始する。0.2mLの試料を30分間隔で収集する。5時間の処理の後、本発明の架橋四量体ヘモグロビン溶液と当該商業的に入手可能な製品(オキシグロビン(登録商標))のメトヘモグロビン画分は、それぞれ8.7%および16.4%に増加する。これは、ポリマーヘモグロビンのための不活性メトヘモグロビン形成率が本発明の架橋四量体ヘモグロビンについてのものよりも実質的に大きいことを立証する(図18)。
【0083】
上記のように種々の態様に関して本発明を説明したが、このような態様は限定的なものではない。当業者は多くの変形例および修飾を理解するであろう。このような変形および修飾は、特許請求の範囲の範囲内に含まれるものと看做される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高精製高温安定性酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該酸素担体を含有する医薬組成物がヘモグロビンを含み、当該方法が、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類の全血を用意すること;
b)前記哺乳類の全血中の当該血漿から当該赤血球を分離すること;
c)当該血漿から分離された当該赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ること;
d)当該濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ること;
e)50〜1000リットル/時の流量で瞬間細胞溶解装置中で、白血球を溶解することなく赤血球を溶解するために充分な時間に亘り制御された低張溶解により当該洗浄された赤血球を破壊し、破壊された赤血球の溶解物を含む溶液を作ること;
f)濾過を行って当該溶解物から不用残留物の少なくとも一部分を除去すること;
g)当該溶解物から第1のヘモグロビン溶液を抽出すること;
h)四量体ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去し、更に当該第1のヘモグロビン溶液からの何れのウイルスおよび残存する不用残留物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第1の限外濾過プロセスを行い、第2のヘモグロビン溶液を得ること;
i)前記第2のヘモグロビン溶液において流液カラムクロマトグラフィを行い、リン脂質、タンパク質不純物および二量体ヘモグロビンを除去し、リン脂質非含有の低タンパク質不純物および低二量体のヘモグロビン溶液を形成すること;
j)当該リン脂質非含有の低タンパク質不純物および低二量体のヘモグロビン溶液について、不純物を除去するように構成されたフィルタを用いて第2の限外濾過プロセスを行って、濃縮され精製されたリン脂質非含有の低タンパク質不純物および低二量体のヘモグロビン溶液を得ること;
k)ヘモグロビン分子がシステイン部位で内皮由来弛緩因子に結合できないように、当該ヘモグロビン分子の各々がチオール保護基を含む少なくとも1つのシステイン部分を有するように、完全な酸素化環境においてスルフヒドリル試薬により、当該濃縮され精製されたリン脂質非含有低タンパク質不純物および低二量体ヘモグロビン溶液におけるヘモグロビン分子のスルフヒドリル基を阻害すること;
l)得られる架橋四量体ヘモグロビンの分子量が60〜70kDaであり、本質的に非ポリマー架橋四量体ヘモグロビンからなるようにポリマーヘモグロビンの形成を伴わずに、当該チオール保護化ヘモグロビンをフマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによって架橋化して高温安定性架橋四量体ヘモグロビンを形成すること;
m)当該架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換すること;
n)何れの残留非架橋四量体ヘモグロビンおよび何れの残留化学物質を洗浄により除去すること;
o)N−アセチルシステインを0.2〜0.4%の濃度で当該架橋四量体ヘモグロビンに対して添加して、メトヘモグロビンレベルを5%以下に維持すること;および
p)当該低二量体、リン脂質非含有、チオール保護化、80℃の温度まで高温安定性の、ポリマーヘモグロビンを含まない架橋四量体ヘモグロビンを薬学的に許容される担体に対して添加すること。
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該瞬間細胞溶解装置が静的ミキサーを含む方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、前記架橋四量体ヘモグロビンがウシ、ブタ、イヌまたはウマヘモグロビンに由来する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該カラムクロマトグラフィが1または1以上のカチオン交換カラムおよびアニオン交換カラムを含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該イオン交換カラムが1または1以上のDEAEカラム、CMカラムおよび/またはヒドロキシアパタイトカラムである方法。
【請求項6】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによるヘモグロビンの架橋化が、少なくともα−αおよび/またはβ−β架橋を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該架橋化条件が、β−β架橋が全架橋の50%よりも大きくなるように選択される方法。
【請求項8】
請求項6に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該架橋化条件が、β−β架橋が全架橋の60%よりも大きくなるように選択される方法。
【請求項9】
請求項6に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該架橋化条件が、β−β架橋が全架橋の70%よりも大きくなるように選択される方法。
【請求項10】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該薬学的に許容される担体が生理学的緩衝液または水である方法。
【請求項11】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、更に、当該製造された組成物を環境条件で24時間当たり0.0025cm3未満の酸素透過性を有する多層の柔軟な輸血包装中に包装することを含む方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により形成される非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンから本質的になるヘモグロビンを含む、高精製された高温安定性酸素担体を含有する医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物を用意することを含む、インビボまたはエキソビボの何れかにおいて組織を酸素化する方法。
【請求項1】
高精製高温安定性酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該酸素担体を含有する医薬組成物がヘモグロビンを含み、当該方法が、
a)少なくとも赤血球および血漿を含む哺乳類の全血を用意すること;
b)前記哺乳類の全血中の当該血漿から当該赤血球を分離すること;
c)当該血漿から分離された当該赤血球を濾過して、濾過された赤血球画分を得ること;
d)当該濾過された赤血球画分を洗浄して、血漿タンパク質不純物を除去し、洗浄された赤血球を得ること;
e)50〜1000リットル/時の流量で瞬間細胞溶解装置中で、白血球を溶解することなく赤血球を溶解するために充分な時間に亘り制御された低張溶解により当該洗浄された赤血球を破壊し、破壊された赤血球の溶解物を含む溶液を作ること;
f)濾過を行って当該溶解物から不用残留物の少なくとも一部分を除去すること;
g)当該溶解物から第1のヘモグロビン溶液を抽出すること;
h)四量体ヘモグロビンよりも高分子量を有する不純物を除去し、更に当該第1のヘモグロビン溶液からの何れのウイルスおよび残存する不用残留物を除去するように構成された限外濾過フィルタを使用して第1の限外濾過プロセスを行い、第2のヘモグロビン溶液を得ること;
i)前記第2のヘモグロビン溶液において流液カラムクロマトグラフィを行い、リン脂質、タンパク質不純物および二量体ヘモグロビンを除去し、リン脂質非含有の低タンパク質不純物および低二量体のヘモグロビン溶液を形成すること;
j)当該リン脂質非含有の低タンパク質不純物および低二量体のヘモグロビン溶液について、不純物を除去するように構成されたフィルタを用いて第2の限外濾過プロセスを行って、濃縮され精製されたリン脂質非含有の低タンパク質不純物および低二量体のヘモグロビン溶液を得ること;
k)ヘモグロビン分子がシステイン部位で内皮由来弛緩因子に結合できないように、当該ヘモグロビン分子の各々がチオール保護基を含む少なくとも1つのシステイン部分を有するように、完全な酸素化環境においてスルフヒドリル試薬により、当該濃縮され精製されたリン脂質非含有低タンパク質不純物および低二量体ヘモグロビン溶液におけるヘモグロビン分子のスルフヒドリル基を阻害すること;
l)得られる架橋四量体ヘモグロビンの分子量が60〜70kDaであり、本質的に非ポリマー架橋四量体ヘモグロビンからなるようにポリマーヘモグロビンの形成を伴わずに、当該チオール保護化ヘモグロビンをフマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによって架橋化して高温安定性架橋四量体ヘモグロビンを形成すること;
m)当該架橋四量体ヘモグロビンのために適切な生理学的緩衝液を交換すること;
n)何れの残留非架橋四量体ヘモグロビンおよび何れの残留化学物質を洗浄により除去すること;
o)N−アセチルシステインを0.2〜0.4%の濃度で当該架橋四量体ヘモグロビンに対して添加して、メトヘモグロビンレベルを5%以下に維持すること;および
p)当該低二量体、リン脂質非含有、チオール保護化、80℃の温度まで高温安定性の、ポリマーヘモグロビンを含まない架橋四量体ヘモグロビンを薬学的に許容される担体に対して添加すること。
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該瞬間細胞溶解装置が静的ミキサーを含む方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、前記架橋四量体ヘモグロビンがウシ、ブタ、イヌまたはウマヘモグロビンに由来する方法。
【請求項4】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該カラムクロマトグラフィが1または1以上のカチオン交換カラムおよびアニオン交換カラムを含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該イオン交換カラムが1または1以上のDEAEカラム、CMカラムおよび/またはヒドロキシアパタイトカラムである方法。
【請求項6】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該フマル酸ビス−3,5−ジブロモサリチルによるヘモグロビンの架橋化が、少なくともα−αおよび/またはβ−β架橋を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該架橋化条件が、β−β架橋が全架橋の50%よりも大きくなるように選択される方法。
【請求項8】
請求項6に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該架橋化条件が、β−β架橋が全架橋の60%よりも大きくなるように選択される方法。
【請求項9】
請求項6に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該架橋化条件が、β−β架橋が全架橋の70%よりも大きくなるように選択される方法。
【請求項10】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、当該薬学的に許容される担体が生理学的緩衝液または水である方法。
【請求項11】
請求項1に記載の酸素担体を含有する医薬組成物を製造する方法であって、更に、当該製造された組成物を環境条件で24時間当たり0.0025cm3未満の酸素透過性を有する多層の柔軟な輸血包装中に包装することを含む方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により形成される非ポリマー性架橋四量体ヘモグロビンから本質的になるヘモグロビンを含む、高精製された高温安定性酸素担体を含有する医薬組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の組成物を用意することを含む、インビボまたはエキソビボの何れかにおいて組織を酸素化する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2012−526859(P2012−526859A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517937(P2012−517937)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2011/032594
【国際公開番号】WO2011/149602
【国際公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(511091036)
【出願人】(511091047)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2011/032594
【国際公開番号】WO2011/149602
【国際公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(511091036)
【出願人】(511091047)
【Fターム(参考)】
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