説明

高温水のろ過性能評価装置およびろ過方法

【課題】 高温水のろ過に用いられるろ過エレメントのろ過性能を正確に評価することができるろ過性能評価装置、ならびにこれにより選定されたろ過エレメントを用いて効率よくろ過を行うことができる高温水のろ過方法を提案する。
【解決手段】 高温水系L1から分岐する高温試験水路L2に設けられた高温試験装置11に第1のろ過エレメント6aを装着して高温水のろ過性能を評価し、冷却装置C1の下流側から分岐する低温試験水路L3に設けられた低温試験装置12に、第2のろ過エレメント6bを装着して低温水のろ過性能を評価し、両評価結果から高温水系L1におけるろ過性能を予測して、高温水系L1に設けられたろ過装置2で使用するろ過エレメント6を選択し、ろ過を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温水のろ過に用いられるろ過エレメントのろ過性能を評価するためのろ過性能評価装置、および評価されたろ過エレメントを用いるろ過方法に関し、特に火力または原子力発電装置の復水処理系等の高温水のろ過に用いられるろ過エレメントのろ過性能を評価するためのろ過性能評価装置およびろ過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力または原子力発電装置の復水処理系では、復水に鉄クラッド、その他の不純物が含まれるため、ろ過装置により鉄クラッド、その他のSS成分を除去し、また脱塩装置により塩類を除去する復水処理を行った処理水を給水としてボイラに供給している。このような復水処理系のろ過では、高温水をろ過することが求められ、ろ過にはろ過エレメントを有するフィルタが用いられ、ろ過性能が低下したろ過エレメントを交換してろ過が継続される。高温水は、100℃以上では液体状態を維持するために高圧になっているので、高温(高圧)水と表示する場合がある。
【0003】
高温水を対象とするろ過では、高温水に耐える材質のろ過エレメントが必要であるが、事前の検討では、材質が高温水に耐えるかどうかのみを検討し、高温水に耐える材質であると判定されたろ過エレメントを選択して実装置に装着し、実際の高温水系のろ過に適用していた。このようなろ過エレメントは、実装置による運転に伴ってろ過性能が低下するので、特許文献1(特開2010−184232)に示すように、実装置の運転中にろ過性能を評価し、ろ過性能が低下したろ過エレメントを交換してろ過を継続することが行われる。
【0004】
高温水を対象とするろ過では、ろ過エレメントの材質が高温水に耐えるものであるということは重要であるが、それ以上に高温水中におけるろ過性能の問題が重要である。被処理水中のSS成分に対するろ過性能は、常温水に対するろ過性能とは異なる。これは単に昇温による物理的な差異のほかに、物質の化学的な形態変化の差異によるものが大きい。
【0005】
高温水における物質の化学的な形態変化としては、カルシウム化合物、珪酸化合物などでも起こるが、鉄化合物では特に大きく現れる。水中の鉄化合物としては、酸化鉄、水酸化鉄が一般的であるが、高温水中では常温水中とは、鉄の価数、結合状態、解離度、溶解度などが異なることが多い。これに伴って同じ組成の被処理水でも、高温水中と常温水中とではろ過性が異なり、同じろ過エレメントでろ過しても異なったろ過性能が得られる。
【0006】
ろ過エレメントは特定のろ過性能が得られるように製造され、販売されているが、そのろ過性能は特定組成の常温水でテストされ、得られたデータを保証値としている。発電所の復水のような特定の高温水用のろ過エレメントを選定する場合、メーカの保証値をもとに選定し、これを高温水に対応する組成の常温水で通水テストしてろ過性能を判定し、また通水を伴わない高温水への浸漬試験で耐熱、耐圧性をテストして選定している。
【0007】
こうして選定されたろ過エレメントは、そのまま実装置に装着して、実際の高温水系のろ過に適用することが行われている。ところが実際の高温水におけるろ過特性は、常温水の場合とは相違し、常温水で予測したろ過特性とは異なるろ過特性でろ過が行われる。このような実際の高温水におけるろ過特性や寿命などは、常温水での予測とは異なるため、前記特許文献1に示すように、実装置の運転中にろ過性能を評価し、ろ過性能が低下したろ過エレメントを交換する必要があった。
【0008】
従来の高温水のろ過では、このように常温水で予測したろ過特性に基づいて選定したろ過エレメントであっても、実装置において実際の高温(高圧)水により、温度(圧力)、流量等の条件が変化する状態でのろ過特性の違いを調べなければ、最終的なろ過性能を把握することができない。このため選定にあたって、実際の高温(高圧)水系に適したろ過エレメントを選定し、実装置において効率よく高温水のろ過を行うことができないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−184232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、用いようとするろ過エレメントが、高温水のろ過に用いることができるろ過性能を有するかどうかを、効率的かつ正確に評価することができるろ過性能評価装置、ならびにこれにより選定されたろ過エレメントを用いて効率よくろ過を行うことができる高温水のろ過方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の高温水のろ過性能評価装置およびろ過方法である。
(1) 高温水系に設けられたろ過装置に装着されるろ過エレメントのろ過性能を評価する装置であって、
前記高温水系から分岐する高温試験水路と、
高温試験水路から第1の冷却装置を介して分岐する低温試験水路と、
第1のろ過エレメントを装着して高温水のろ過を行うように、高温試験水路に設けられた高温試験装置と、
第2のろ過エレメントを装着して低温水のろ過を行うように、低温試験水路に設けられた低温試験装置と、
低温試験水路の第1の冷却装置と低温試験装置間に連絡する第1のサンプリング路と、
高温試験水路の高温試験装置の下流側に第2の冷却装置を介して連絡する第2のサンプリング路と、
低温試験水路の低温試験装置の下流側に連絡する第3のサンプリング路と
を備えていることを特徴とするろ過性能評価装置。
(2) 高温試験装置および低温試験装置に、それぞれ同じ差圧をつけるように負荷をかけて通水し、試験を行うように構成された制御装置を備えている上記(1)記載の装置。
(3) 高温試験水路の高温試験装置の前に加熱装置を備えている上記(1)または(2)記載の装置。
(4) 第1ないし第3のサンプリング路に、SS粒子を捕捉し、その粒径を計測するメンブレンフィルタを備えている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の装置。
(5) 高温水系から分岐する高温試験水路を構成する配管の外部に保温材を装着した上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の装置。
(6) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のろ過性能評価装置を用い、
高温水系から分岐する高温試験水路に設けられた高温試験装置に、第1のろ過エレメントを装着し高温水をろ過して、高温水におけるろ過性能を評価し、
高温試験水路から第1の冷却装置を介して分岐する低温試験水路に設けられた低温試験装置に、第2のろ過エレメントを装着し低温水をろ過して、低温水におけるろ過性能を評価し、
高温水における評価結果と低温水における評価結果から、前記高温水系におけるろ過性
能を予測して、高温水系で使用するろ過エレメントを選択し、
選択されたろ過エレメントを前記高温水系に設けられたろ過装置に装着して高温水のろ過を行うことを特徴とする高温水のろ過方法。
【0012】
本発明において、処理の対象となる高温水は、ろ過特性が常温、常圧水と異なる高温度で、場合によっては高圧力の水であり、ろ過を行うときの温度が80〜200℃、好適には100〜150℃であり、圧力は上記の高温水が液相を保つ圧力であり、一般的には常圧〜3MPa程度のものが対象となる。ここで常圧は、大気圧にろ過のための差圧分を加えた圧力である。本発明においてろ過を行う高温水系は、このような高温水を保持する水系であり、その例として復水処理系があげられるが、他の水系でもよい。
【0013】
復水処理系は、火力または原子力発電装置等のボイラ(蒸気発生器)を含む系において、コンデンサ(凝縮器)で発する蒸気を凝縮させることにより生成する復水を、ろ過装置による鉄クラッド、その他のSS成分の除去、さらに脱塩装置による塩類の除去などの復水処理を行い、処理水を給水としてボイラに供給する処理系である。このような復水処理系の温度、圧力は、上記高温水について示した程度の温度、圧力であり、復水のろ過はこのような温度、圧力の復水に対して行われる。
【0014】
このような復水系で生成する復水には、蒸気から持ち込まれるシリカ、カルシウム、その他の塩分などのほか、ボイラ、コンデンサ、配管等から持ち込まれる鉄クラッド、その他のSS成分が含まれる。このような復水に含まれるSS成分のろ過特性は、常温、常圧水をろ過する場合のろ過特性とは異なる特性を示す。特に鉄クラッド、その他の鉄成分は、温度、圧力により鉄の価数、結合状態、解離度、溶解度などが異なるため、ろ過特性の差は大きい。このため常温でのろ過性能、ろ過試験結果により、高温(高圧)の復水におけるろ過特性を予測することはできない。
【0015】
本発明のろ過性能評価装置は、高温水系に設けられたろ過装置に取り付けてろ過するためのろ過エレメントのろ過性能を、効率的かつ正確に評価するためのものである。ろ過エレメントは、復水処理系等の高温水系のろ過装置に装着して、復水等の被処理水のろ過に用いられる部材である。ここで評価対象となるろ過エレメントは、実際の復水処理系のろ過装置に装着して使用しようとするろ過エレメントであるのが好ましいが、小型化した試験用のろ過エレメントであってもよい。エレメントの形式はリーフ型、シリンダ型、パイプ型など、ろ材もメンブレン、繊維、短繊維、パウダなど、またろ過方式も固定式、プレコート式など任意のものがある。
【0016】
本発明のろ過性能評価装置で評価するろ過性能としては、1)固形物除去率、2)単位ろ過面積当たりの捕捉容量、3)ろ過流速と差圧の相関関係、4)その他のろ過特性などがあげられる。
【0017】
本発明の高温ろ過性能評価装置は、高温水系に設けられたろ過装置に装着されるろ過エレメントのろ過性能を評価する装置であって、高温水系から分岐する高温試験水路と、高温試験水路から第1の冷却装置を介して分岐する低温試験水路と、第1のろ過エレメントを装着して高温水のろ過を行うように、高温試験水路に設けられた高温試験装置と、第2のろ過エレメントを装着して低温水のろ過を行うように、低温試験水路に設けられた低温試験装置と、低温試験水路の第1の冷却装置と低温試験装置間に連絡する第1のサンプリング路と、高温試験水路の高温試験装置の下流側に第2の冷却装置を介して連絡する第2のサンプリング路と、低温試験水路の低温試験装置の下流側に連絡する第3のサンプリング路とを備えている。
【0018】
高温試験水路に設けられた高温試験装置は、第1のろ過エレメントを装着して高温水の
ろ過を行い、第1のろ過エレメントの高温水におけるろ過性能を評価するように構成される。また低温試験水路に設けられた低温試験装置は、第2のろ過エレメントを装着し低温水をろ過して、第2のろ過エレメントの低温水におけるろ過性能を評価するように構成される。低温試験水路における試験水の温度は10〜50℃、好ましくは常温(20〜40℃)、圧力は常圧、好ましくは常温でろ過が行える圧力(0.1Pa程度)とすることができる。
【0019】
本発明の評価方法では、金属製(例えばステンレス鋼製)の配管を用いて、ボイラ給水配管などの、評価されるべきろ過装置が挿入されるであろうボイラ水配管より高温試験水を分流させ、この試験水にかかった圧力や温度を変化させること無く評価すべきろ過エレメントに導入すると共に、ろ過エレメントを透過する前後の試験水をサンプリング可能として、水質の変化を計測・比較することで、ろ過エレメントの性能を実機に装着した時とほぼ同じ状態で評価することを可能とすることに加えて、このとき導入した高温試験水を冷却し、併設したろ過エレメントに流すことにより、低温例えば常温でのろ過エレメントのろ過特性との直接の比較が可能となる。
【0020】
この場合、高温試験装置および低温試験装置に、それぞれ同じ差圧をつけるように負荷をかけて通水し、試験を行うように構成された制御装置を設け、それぞれの高温試験装置および低温試験装置に、同じ差圧をつけるように負荷をかけて通水することにより、高温試験および低温試験をほぼ同じ条件で平行して行うことができ、直接の対比が可能になる。また高温試験水路の高温試験装置の前に加熱装置を設け、その加熱により高温試験水路の温度、圧力を変えて試験することにより、実際の高温水系における運転状況の変化に対応した試験を行うことができる。高温試験水路の弁の制御等により、流速を変え、あるいは他の条件を変えて試験を行う場合も同様である。
【0021】
ろ過エレメントのろ過性能は、通常メーカーによりカタログ値等として提示されるが、そのろ過性能は通常、特定の水を通常条件で試験したものであり、そのまま高温水系におけるろ過に適用できない。このためこのようなろ過エレメントの使用可否を判断する際、(A)水質、(B)温度圧力の条件変動を考慮する必要がある。この場合、(A)の要因でろ過性能に問題が生じたのか、(B)の要因で問題が生じたのかをそれぞれ理解するためには、高温試験装置と低温試験装置の2系列の装置を設け、項目を分けてみていく必要がある。この場合、(A)の水質の影響を低温試験装置で、(B)の温度圧力の影響を高温試験装置で、それぞれ評価していく。そしてろ過性能の良し悪しの単発的な評価ではなく、汎用性のある評価をするために、項目を分けた試験結果を蓄積することで、上記(A)、(B)が変動した場合でも、ろ過性能が推定でき、ろ過エレメントの選定が容易になる。
【0022】
一般にろ過エレメントのろ過性能は、ろ過対象物の捕捉量や、流速等によっても変化するし、ろ過すべき原水の性状によっても影響を受ける。このうち捕捉量や流速の影響については、常温下における試験によってその影響を調べることは可能であるが、高温(高圧)下における原水中の物質の状態は不明なことが多く、実質的には実機で使用して、通水に伴う差圧上昇等のろ過特性の変化を観察することが必要であった。しかしながら、実機における使用状態での変化は、流速や捕捉量による影響も同時に受けているため、高温(高圧)下における水質の影響のみを評価することができない。本装置では、高温(高圧)下における水質変化がろ過エレメントにおよぼす影響を明らかにするために、高温(高圧)下でのろ過処理と、常温常圧におけるろ過処理を同じ原水を用いて同時に行うことにより、その差から高温(高圧)下におかれた水質によるろ過エレメントへの影響を取り出すことが可能である。本装置を用いれば、流速等のろ過条件を変更した場合のろ過性能の変化を正確に予測することが可能となる。
【0023】
例えば既に使用期間が所定の8割を過ぎているろ過エレメントを用いて、本装置にて評価を実施する場合、所定の差圧以降の上昇速度は常温一定水温においては、メーカーで示されているデータを基に予測可能であるが、水質の違いと高温(高圧)環境下におかれることによる水質変化による影響は、ろ過性能を変化させたり、差圧上昇速度を高める可能性がある。本装置を用いれば、水質の違いによる上昇速度と、前記に加えて高温(高圧)下におかれた事による上昇速度の違いを比較することで高温(高圧)下におかれる場合の影響を2つの差から知ることが可能となり、寿命を間近にしたろ過エレメントを使い続けた場合に、どのように差圧上昇を起こすかを予測することが可能となる。
【0024】
このため本発明のろ過方法では、高温試験装置に第1のろ過エレメントを装着し高温水をろ過して、高温水におけるろ過性能を評価し、低温試験装置に、第2のろ過エレメントを装着し低温水をろ過して、低温水におけるろ過性能を評価し、高温水における評価結果と低温水における評価結果から、高温水系におけるろ過性能を予測して、高温水系で使用するろ過エレメントを選択し、選択されたろ過エレメントを高温水系に設けられたろ過装置に装着して高温水のろ過を行う。これによりろ過エレメントのろ過性能を迅速かつ正確に評価し、効率よく高温水のろ過を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の通り本発明のろ過性能評価装置は、高温水系から分岐する高温試験水路と、高温試験水路から第1の冷却装置を介して分岐する低温試験水路と、第1のろ過エレメントを装着して高温水のろ過を行うように、高温試験水路に設けられた高温試験装置と、第2のろ過エレメントを装着して低温水のろ過を行うように、低温試験水路に設けられた低温試験装置と、低温試験水路の第1の冷却装置と低温試験装置間に連絡する第1のサンプリング路と、高温試験水路の高温試験装置の下流側に第2の冷却装置を介して連絡する第2のサンプリング路と、低温試験水路の低温試験装置の下流側に連絡する第3のサンプリング路とを備えているので、用いようとするろ過エレメントが、高温水のろ過に用いることができるろ過性能を有するかどうかを、効率的かつ正確に評価することができ、これにより選定されたろ過エレメントを用いて効率よくろ過を行うことができるなどの効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の高温水のろ過方法およびろ過性能評価装置を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1において、1は復水処理装置であって、ろ過装置2および脱塩装置3を備えており、発電所のコンデンサ4からボイラ5へ復水を送る高温水系(復水系)L1に設けられている。ろ過装置2は、ろ過エレメント6が容器7内の集液盤8に装着されており、高温水系(復水系)L1から容器7内に供給される被処理水である高温水(復水)が、ろ過エレメント6を通してろ過されるように構成されている。ろ過装置2には、低下したろ過能力を回復するための逆洗装置が設けられているが、図示は省略されている。
【0028】
10はろ過性能評価装置であり、高温水系L1から分岐する高温試験水路L2と、高温試験水路L2から第1の冷却装置C1を介して分岐する低温試験水路L3と、第1のろ過エレメント6aを装着して高温水のろ過を行うように、高温試験水路L2に設けられた高温試験装置11と、第2のろ過エレメント6bを装着して低温水のろ過を行うように、低温試験水路L3に設けられた低温試験装置12と、低温試験水路L3の第1の冷却装置C1と低温試験装置12間に連絡する第1のサンプリング路S1と、高温試験水路L2の高温試験装置11の下流側に第2の冷却装置C2を介して連絡する第2のサンプリング路S2と、低温試験水路L3の低温試験装置12の下流側に連絡する第3のサンプリング路S3とを備えている。高温試験水路L2の高温試験装置11の上流側には加熱装置13が設
けられている。
【0029】
第1、第2、第3のサンプリング路S1、S2、S3には、SS粒子を捕捉し、その粒径を計測するメンブレンフィルタM1〜M3が設けられている。V1〜V8は弁、CV1〜CV3は定圧弁、T1〜T3は温度計、P1〜P5は圧力計、F1、F2は流量計であり、これらの開度信号、温度信号、圧力信号、流量信号等は入力信号線Inから制御装置14に入り、出力信号線Outからの出力する制御信号により、弁の開度、等が制御されるように構成されている。高温水系L1と高温試験水路L2の配管(実施例ではステンレス鋼)、および高温試験装置11の外部には、保温材9が装着され、サンプリング水が透過する時に放熱により温度が低下することを防止するようにされている。
【0030】
上記のろ過性能評価装置10では、高温水系L1から分岐する高温試験水路L2に設けられた高温試験装置11に第1のろ過エレメント6aを装着して高温水のろ過性能を評価し、第1の冷却装置C1の下流側から分岐する低温試験水路L3に設けられた低温試験装置12に、第2のろ過エレメント6bを装着して低温水のろ過性能を評価し、両評価結果から高温水系L1におけるろ過性能を予測して、高温水系L1で使用するろ過エレメント6を選択する。そして選択されたろ過エレメント6を高温水系L1に設けられたろ過装置2に装着して高温水系L1のろ過を行う。
【0031】
上記ろ過性能評価装置10による評価は以下のようにして行われる。まず弁V1を開くことにより、高温水系L1から高温試験水路L2を通して、高温試験水が高温試験装置11に導入され、評価用の第1のろ過エレメント6aでろ過された後、流量計F1を通り弁V4を通ってボイラ5の給水処理系(図示省略)ヘ戻される。このようにして高温試験水路L2に設けられた高温試験装置11において、第1のろ過エレメント6aでろ過することにより、第1のろ過エレメント6aの高温水におけるろ過性能を評価する。
【0032】
また弁V2を開くことにより、高温試験水路L2から第1の冷却装置C1に高温試験水が導入され、試験温度、圧力としての低温(例えば30℃)に下げた後、低温試験水路L3の低温試験装置12に導入され、評価用の第2のろ過エレメント6bでろ過された後、流量計F2を通り弁V7を通って排出される。このようにして低温試験水路L3に設けられた低温試験装置12において、第2のろ過エレメント6bでろ過することにより、第2のろ過エレメント6bの低温水におけるろ過性能を評価する。
【0033】
この場合、弁V1〜V8、定圧弁CV1〜CV3の開度信号、温度計T1〜T3の温度信号、圧力計P1〜P5の圧力信号、流量計F1、F2の流量信号等を入力信号線Inから制御装置14に入力する。そして制御装置14において、高温試験装置11および低温試験装置12にそれぞれ同じ差圧をつけて負荷をかけて通水するように設定し、出力信号線Outから出力する制御信号を弁V1〜V8、定圧弁CV1〜CV3に入力して弁の開度等を行って試験を行う。高温試験装置11および低温試験装置12の流量(流速)を変えて試験を行う場合も同様である。高温試験水路L2の高温試験水の温度を高くし、さらに高温で高温試験装置11の試験を行う場合は、出力信号線Outから出力する制御信号により、加熱装置13を運転する。
【0034】
高温試験装置11および低温試験装置12に供給されるサンプル水中の成分(例えば鉄粒子)の濃度を計測するためには、弁V5を開くと、第1の冷却装置C1により冷却されたサンプル水がサンプリング路S1に入ってメンブレンフィルタM1を通り、定圧弁CV1を通って給水サンプルとしてサンプリングされる。析出している鉄粒子等は、捕捉可能な粒子径が順に小さくなるように直列に配置されたメンブレンフィルタM1で捕捉され、メンブレンフィルタM1の孔径よりも小さな粒子やイオン性の物質はメンブレンフィルタM1を透過してサンプリング路S1からサンプリングされる。
【0035】
また高温試験装置11に装着された評価用の第1のろ過エレメント6aでろ過された液は、弁V6を開くことにより第2の冷却装置C2を通って低温試験水路L3と同程度の低温に冷却されてサンプリング路S2に入り、メンブレンフィルタM2を通ってメンブレンフィルタM1の場合と同様に鉄粒子等の粒子が捕捉され、定圧弁CV2を通ってサンプリング路S2からサンプリングされる。
【0036】
同様に低温試験装置12に装着された評価用の第2のろ過エレメント6bでろ過された液は、弁V8を開くことによりサンプリング路S3に入り、メンブレンフィルタM3を通ってメンブレンフィルタM1の場合と同様に鉄粒子等の粒子が捕捉され、定圧弁CV3を通ってサンプリング路S3からサンプリングされる。
【0037】
第1のろ過エレメント6aのろ過性能について評価する場合は、高温試験装置11に評価すべき第1のろ過エレメント6aを装着し、弁V1、V2、V4、V5、V6および定圧弁CV1、CV2を調節して、所定の処理流量を与えるように流量計F1の表示値により調節して、高温水のろ過を行う。第2のろ過エレメント6bのろ過性能について評価する場合は、低温試験装置12に評価すべき第2のろ過エレメント6bを装着し、弁V1、V2、V3、V5、V7、V8および定圧弁CV1、CV3を調節して、所定の処理流量を与えるように流量計F2の表示値により調節して、低温水のろ過を行う。
【0038】
高温試験装置11における第1のろ過エレメント6aの鉄粒子捕捉性能について評価する場合は、メンブレンフィルタM1、M2に捕捉された鉄量をそれぞれf1、f2とし、給水サンプルおよび処理水サンプルのそれぞれのサンプル量をs1、s2とし、それぞれの溶解性の鉄分濃度をd1、d2とした時、フィルタの入口側から供給される鉄濃度Fe1とフィルタの出口水の鉄濃度Fe2はそれぞれ式1および式2で求められる。
Fe1=f1/s1+d1・・・・・〔式1〕
Fe2=f2/s2+d2・・・・・〔式2〕
【0039】
このとき高温試験装置11における評価用の第1のろ過エレメント6aに通水した水量をQ1とすると、式3ないし式6により、
流入した鉄量=(f1/s1+d1)×Q1・・・・・〔式3〕
透過した鉄量=(f2/s2+d2)×Q1・・・・・〔式4〕
捕捉した鉄量=(f1/s1−f2/s2+d1−d2)×Q1
・・・〔式5〕
鉄捕捉率(%)=(f1/s1−f2/s2+d1−d2)/(f1/s1+d1)・・・・・〔式6〕
として算出されることとなり、ろ過エレメント6aの鉄捕捉性能を定量的に表記することが可能である。但し、s1,s2<<Q1とする。
【0040】
低温試験装置12における第2のろ過エレメント6bの鉄粒子捕捉性能について評価する場合は、サンプリング路S3においてメンブレンフィルタM3に捕捉された鉄量をf3とし、処理水のサンプル量をs3とし、その溶解性の鉄分濃度をd3とし、第2のろ過エレメント6bに通水した水量をQ2とした時、
捕捉した鉄量=(f1/s1−f3/s3+d1−d3)×Q2・・・〔式7〕
鉄捕捉率(%)=(f1/s1−f3/s3+d1−d3)/(f1/s1+d1)・・・〔式8〕
【0041】
このため第2のろ過エレメント6bとして、第1のろ過エレメント6aと同じものを装着して低温下での通水試験を実施すれば、第1のろ過エレメント6aの高温下での処理性能と、低温下での処理性能とを直接比較することが可能となり、温度、圧力による除鉄性
能の変化を定量的に評価することが可能となる。この場合、s2=s3となるように調節することにより、高温時と低温時でのろ過エレメントに捕捉された鉄量を直接比較することが可能である。
またこの評価は、高温試験装置11に装着された第1のろ過エレメント6aと、低温試験装置12に装着された第2のろ過エレメント6bに捕捉されている鉄量を直接比較することによっても可能である。
【0042】
特定の水質におけるろ過エレメントの常温常圧下でのろ過特性の経時変化が、フィルタメーカーにより下記のように提示されているとする。
[ろ過エレメントの水質q0における常温常圧下での経時特性]=F00[T]
そして水質q1における常温常圧下でのろ過特性の経時変化が
[ろ過エレメントの水質q1における常温常圧下での経時特性]=F01[T]
で与えられ、且つ高温(高圧)下における変化が
[ろ過エレメントの水質q1における高温(高圧)下での経時特性]=F11[T]
として得られたとする。
また流量・温度・圧力一定の時に原水水質の違いがろ過エレメントへ及ぼす影響をf00とすると、
00=F01[T]/F00[T]
として知ることができる。
【0043】
一方、F11[T]は高温(高圧)下において、水質およびろ過エレメントの関係が変化することにより与えられるものであると考えられるから、それぞれをf10、f01とおくと、
11[T]/F01[T]=f10+f01
として知ることができる。
【0044】
ろ過エレメントに使用する素材の耐熱性が良好で、高温(高圧)下におかれることでのろ過エレメントの素材自体の変化がわずかであると仮定するなら、
11[T]/F01[T]≒f10
と近似することができるので、高温(高圧)下におかれることでの水質変化がろ過エレメントに及ぼす影響は
11[T]=f10×{f00×F00[T]}
【0045】
ここでf00やf10は、本試験装置により与えられる特性であり、F00[T]はろ過エレメントのメーカーや過去の知見により得られる情報であるから、高温(高圧)下におかれた原水水質の変化がろ過エレメントに与える経時的な影響F11[T]を、それぞれの特性から求めることが可能となる。
【0046】
以上のように、本装置を用いれば、水質の違いによる上昇速度と、前記に加えて高温(高圧)下におかれた事による上昇速度の違いを比較することで高温(高圧)下におかれる場合の影響を2つの差から知ることが可能となり、寿命を間近にしたろ過エレメントを使い続けた場合に、どのように差圧上昇を起こすかを予測することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、高温水のろ過に用いられるろ過エレメントのろ過性能を評価するためのろ過性能評価装置、および評価されたろ過エレメントを用いるろ過方法に関し、特に火力または原子力発電装置の復水処理系等の高温水のろ過に用いられるろ過エレメントのろ過性能を評価するためのろ過性能評価装置およびろ過方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1: 復水処理装置、2: ろ過装置、3: 脱塩装置、4: コンデンサ、5: ボイラ、6: ろ過エレメント、6a: 第1のろ過エレメント、6b: 第2のろ過エレメント、7: 容器、8: 集液盤、9: 保温材、10: ろ過性能評価装置、11:
高温試験装置、12: 低温試験装置、13: 加熱装置、14: 制御装置、
L1: 高温水系(復水系)、L2: 高温試験水路、L3: 低温試験水路、C1:
第1の冷却装置、C2: 第2の冷却装置、S1: 第1のサンプリング路、S2: 第2のサンプリング路、S3: 第3のサンプリング路、M1〜M3: メンブレンフィルタ、V1〜V8: 弁、CV1〜CV3: 定圧弁、T1〜T3: 温度計、P1〜P5: 圧力計、F1,F2: 流量計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温水系に設けられたろ過装置に装着されるろ過エレメントのろ過性能を評価する装置であって、
前記高温水系から分岐する高温試験水路と、
高温試験水路から第1の冷却装置を介して分岐する低温試験水路と、
第1のろ過エレメントを装着して高温水のろ過を行うように、高温試験水路に設けられた高温試験装置と、
第2のろ過エレメントを装着して低温水のろ過を行うように、低温試験水路に設けられた低温試験装置と、
低温試験水路の第1の冷却装置と低温試験装置間に連絡する第1のサンプリング路と、
高温試験水路の高温試験装置の下流側に第2の冷却装置を介して連絡する第2のサンプリング路と、
低温試験水路の低温試験装置の下流側に連絡する第3のサンプリング路と
を備えていることを特徴とするろ過性能評価装置。
【請求項2】
高温試験装置および低温試験装置に、それぞれ同じ差圧をつけるように負荷をかけて通水し、試験を行うように構成された制御装置を備えている請求項1記載の装置。
【請求項3】
高温試験水路の高温試験装置の前に加熱装置を備えている請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
第1ないし第3のサンプリング路に、SS粒子を捕捉し、その粒径を計測するメンブレンフィルタを備えている請求項1ないし3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
高温水系から分岐する高温試験水路を構成する配管の外部に保温材を装着した請求項1ないし4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のろ過性能評価装置を用い、
高温水系から分岐する高温試験水路に設けられた高温試験装置に、第1のろ過エレメントを装着し高温水をろ過して、高温水におけるろ過性能を評価し、
高温試験水路から第1の冷却装置を介して分岐する低温試験水路に設けられた低温試験装置に、第2のろ過エレメントを装着し低温水をろ過して、低温水におけるろ過性能を評価し、
高温水における評価結果と低温水における評価結果から、前記高温水系におけるろ過性能を予測して、高温水系で使用するろ過エレメントを選択し、
選択されたろ過エレメントを前記高温水系に設けられたろ過装置に装着して高温水のろ過を行うことを特徴とする高温水のろ過方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−213700(P2012−213700A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80038(P2011−80038)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】