説明

高温環境用ローラチェーン

【課題】 ブッシュとローラの摺動部の耐摩耗性を向上させて長寿命化を図る。
【解決手段】 外側リンクプレート3の両端部同士をピン4で連結した外側リンク2と、内側リンクプレート6の両端部同士をブッシュ7aで連結した内側リンク5とを、ブッシュ7aの内側にピン4を回動自在に挿通させて交互に連結する。ブッシュ7aはSUS440Cステンレス鋼の調質材製とし、その外周にSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製のローラ8aを回転自在に設けて高温環境用ローラチェーンを形成する。ブッシュ7aの周りでローラ8aが回転するときに、荷重によりローラ8aの内周面に押し付けられているブッシュ7aの下端部が、ローラ8aの内周面に沿う形状に摩耗されることで、両者の接触面積を増加させ、接触面圧を低減させて摩耗を抑制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続式熱処理炉のベルトコンベヤ用のローラチェーン等、高温環境下で使用する高温環境用ローラチェーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続した被処理物、たとえば、繊維状の被処理物を熱処理するための装置の1つとしては、上記被処理物を、ローラチェーン駆動方式のベルトコンベヤ上に順次載置して、300〜400℃程度の高温環境に保持された炉の中を搬送して通過させることにより、上記被処理物を連続的に熱処理できるようにした連続式熱処理炉がある。
【0003】
図7(イ)(ロ)は、ローラチェーン1の一般的な構造を示すもので、一対の外側リンクプレート3の両端部をそれぞれピン4により連結してなる外側リンク2と、一対の内側リンクプレート6の両端部を上記外側リンクプレート3同士の間隔に対応するブッシュ7によりそれぞれ連結してなる内側リンク5とを、上記ブッシュ7の内側に上記ピン4を回動自在に挿通させるようにして交互に連結してある。更に、上記ブッシュ7の外径よりも僅かに大きい内径を有すると共に、各リンクプレート3,6の幅寸法よりも大きい外径を有し、且つ軸心方向の長さ寸法を上記内側リンクプレート6同士の間隔に対応する寸法にしてあるローラ8を、上記各ブッシュ7の外周に回転自在に設けた構成としてある。
【0004】
以上の構成としてあるローラチェーン1をコンベヤの駆動用に用いる場合は、図7(イ)(ロ)では記載を省略してあるが、上記ローラチェーン1における所要のリンクプレート3,6やピン4の端部等の所要個所に、コンベヤのベルト等の被搬送物を載置するための搬送部材を、直接、あるいは、所要形状の取付部材を介して適宜取り付けるようにしてある。又、上記各ローラ8を、図示しないガイドレール上に載置させるように配置しておく。これにより、上記ローラチェーン1を循環駆動する際には、上記コンベヤの搬送部材の自重や被搬送物の重量を、上記各ローラ8を介して上記図示しないガイドレールに支承させると共に、上記各ローラ8がブッシュ7の周りで回転して上記ガイドレールに沿って走行するようにさせることで、被搬送物の円滑な搬送を行わせることができるようにしてある。
【0005】
上記ローラチェーン1を、前述の連続式熱処理炉のベルトコンベヤのような300〜400℃程度の高温環境で使用するコンベヤに適用する場合は、耐熱性を考慮して、上記ローラチェーン1の各リンクプレート3,6、ピン4、ブッシュ7、ローラ8を、いずれもステンレス鋼、たとえば、SUS403ステンレス鋼の焼入れ焼戻し材(以下、調質材という)等によって製作することが通常行われている。
【0006】
ところで、自動車エンジンのタイミングチェーンのような高温環境で使用するローラチェーンの耐久性を向上させるための手法の一つとしては、ピンやブッシュのいずれか一方又は双方の材質を適宜選択したり、ピンやブッシュのいずれか一方又は双方に所要の硬化処理や表面処理を施すことで、上記ピンとブッシュとの摺動部における耐摩耗性を向上させて、ローラチェーンの伸びを抑えるようにすることが考えられてきている(たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−133756号公報
【特許文献2】特開2003−301889号公報
【特許文献3】特許第3656844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、図7(イ)(ロ)に示したローラチェーン1を、前述した連続式熱処理炉のような300〜400℃程度となる高温環境下で使用する場合は、グリース等の潤滑油を使用することが困難である。又、上記のような高温条件の下では、固体潤滑剤として広く知られている二硫化モリブデンは酸化されてしまうため、該二硫化モリブデンによる潤滑を行うことも難しい。
【0009】
そのために、上記ローラチェーン1の循環駆動時に常時回転するローラ8と、その軸となるブッシュ7との摺動部の摩耗が大きくなってしまうというのが実状である。上記ローラ8とブッシュ7との摺動部の摩耗が進行すると、コンベヤの搬送部材の自重や被搬送物の重量を上記ローラ8を介してガイドレールに伝えることが困難になったり、コンベヤで搬送する被搬送物の通過位置が下方に変位して、該被搬送物が周囲の機器に干渉する虞が生じるようになることから、上記ローラチェーン1の交換が必要となる。したがって、上記従来のローラチェーン1を、前述の連続式熱処理炉のような300〜400℃程度となる高温環境下で使用すると、寿命が短くなってしまう。
【0010】
そのため、上記のような高温環境下で用いるローラチェーンの長寿命化を図ることを目的として、上記ローラ8とブッシュ7との摺動部における摩耗を抑制することが望まれている。
【0011】
上記特許文献1、2、3には、ローラチェーンの伸びを抑えるためにピンとブッシュとの摺動部の耐摩耗性を向上させる考えは示されているが、ローラとブッシュとの摺動部における摩耗を抑える考えは全く示されていない。
【0012】
更に、上記特許文献1、2、3に記載されたローラチェーンは、いずれも自動車エンジンのタイミングチェーンのように、潤滑油による潤滑の実施を前提として、潤滑油の酸化が進行しても高い耐摩耗性を得ることができるようにするためのものであって、上記連続式熱処理炉のような300〜400℃程度で、グリース等の潤滑油や二硫化モリブデンによる潤滑自体が困難な高温条件での耐摩耗性の向上化を図るものではない。
【0013】
したがって、上記特許文献1、2、3に記載されたピンとブッシュとの摺動部における耐摩耗性を向上させるための手法を、上記連続式熱処理炉のような300〜400℃程度で、グリース等の潤滑油や二硫化モリブデンによる潤滑が困難な高温条件の下でローラとブッシュとの摺動部における摩耗を抑制するためにそのまま適用することは困難である。
よって、300〜400℃程度の高温環境下で使用するローラチェーンにおけるローラとブッシュとの摺動部の耐摩耗性を向上させる手法については従来提案されていない。
【0014】
そこで、本発明は、上記連続式熱処理炉のような300〜400℃程度で、且つグリース等の潤滑油や二硫化モリブデンによる潤滑が困難な高温条件下においてもローラとブッシュとの摺動部における耐摩耗性を向上させることができて、長寿命化を図ることができる高温環境用ローラチェーンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、一対の外側リンクプレートの両端部同士をピンで連結してなる外側リンクと、一対の内側リンクプレートの両端部同士をブッシュで連結してなる内側リンクとを、上記ブッシュの内側に上記ピンを回動自在に挿通させて長手方向に連結し、更に、上記ブッシュの外周にローラを回転自在に設けてなる高温環境用ローラチェーンにおいて、上記ローラの少なくとも内径部の硬度を、上記ブッシュの硬度よりも高くなるようにして、上記ブッシュの周りで上記ローラが回転するときの互いの摺動部にて、ローラに比してブッシュの方が摩耗され易くなるようにした構成とする。
【0016】
又、上記構成において、ローラの少なくとも内径部の材質を、マルテンサイト系ステンレス鋼の浸炭焼入れ材又は窒化材とし、一方、ブッシュの材質を、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ焼戻し材とした構成とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高温環境用ローラチェーンによれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)一対の外側リンクプレートの両端部同士をピンで連結してなる外側リンクと、一対の内側リンクプレートの両端部同士をブッシュで連結してなる内側リンクとを、上記ブッシュの内側に上記ピンを回動自在に挿通させて長手方向に連結し、更に、上記ブッシュの外周にローラを回転自在に設けてなる高温環境用ローラチェーンにおいて、上記ローラの少なくとも内径部の硬度を、上記ブッシュの硬度よりも高くなるようにして、上記ブッシュの周りで上記ローラが回転するときの互いの摺動部にて、ローラに比してブッシュの方が摩耗され易くなるようにした構成としてあるので、上記ブッシュと上記ローラの摺動部においては、ブッシュの方をより摩耗させることで、該ブッシュの外形を、上記ローラの内周面に沿った形状とさせることができる。このため、上記ブッシュの摩耗の進行にしたがって該ブッシュと上記ローラとの摺動部における接触面積を増加させて、上記ブッシュとローラとの摺動部における接触面圧を減少させることができ、上記ブッシュとローラとの摺動部における両者の摩耗の進行を抑制できて、耐摩耗性を向上させることができる。
(2)更に、上記ブッシュとローラとの摺動部にてブッシュが摩耗される際に生じる摩耗粉を、ローラの摺動面側に移着させて、該ローラの摺動面に薄い酸化皮膜を形成させることができる。このため、上記ブッシュとローラとの摺動部における摩擦係数を低減させることができて、このことによってもブッシュとローラとの摺動部における耐摩耗性を向上させることができる。
(3)上記(1)(2)により、高温環境用ローラチェーンの寿命を長いものとすることができる。
(4)ローラの少なくとも内径部の材質を、マルテンサイト系ステンレス鋼の浸炭焼入れ材又は窒化材とし、一方、ブッシュの材質を、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ焼戻し材とした構成とすることにより、上記ローラとブッシュに、該ブッシュの周りで上記ローラが回転するときの摺動部にてローラに比してブッシュの方が摩耗され易くなるようにするための硬度差を容易に形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
ここで、先ず、図2及び図4を用いて本発明の導出に至る経過について説明する。
【0020】
本発明者等は、ローラとブッシュとの摺動部における耐摩耗性の向上化を図るために、先ず、軸と軸受との関係においては、軸の硬度を、その外周に位置する軸受(軸受メタル)の硬度よりも高い硬度とすることが一般的に行われていることに鑑みて、ブッシュ7の硬度を、ローラ8の硬度よりも高める手法を試みた。具体的には、試験体aとして、ローラ8をSUS403ステンレス鋼の調質材(Hv430程度(常温硬さ、以下同様))製とし、ブッシュ7を、より高い硬度の得られる硬化処理である浸炭焼入れ処理を施してなるSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材(Hv720程度)により製作して、上記図7(イ)(ロ)に示したと同様の構造のローラチェーン1を製作した。
【0021】
又、試験体bとして、ローラ8をSUS403ステンレス鋼の調質材(Hv430程度)製とし、ブッシュ7を、より高い硬度を有するステンレス鋼であるSUS440Cステンレス鋼の調質材(Hv620程度)により製作して、上記と同様に図7(イ)(ロ)に示したと同様の構造のローラチェーン1を製作した。
【0022】
そして、上記試験体aと試験体bを、連続熱処理炉の実機で使用しているローラチェーン1の一部に組み入れて所要期間運転した後、取り出してブッシュ7とローラ8との摺動面における摩耗状況をそれぞれ調べた。
【0023】
その結果、図2にブッシュ7とローラ8の摩耗量の和に応じた摩耗指数を示す如く、ローラ8に比してブッシュ7の硬度を高めた上記試験体a及び試験体bのいずれにおいても、ブッシュ7及びローラ8を共にSUS403ステンレス鋼の調質材製としてブッシュ7とローラ8の硬度をほぼ同様としてある従来品のローラチェーン1に比して、ブッシュ7とローラ8の摩耗量の和を低減化できることが判明した。
【0024】
ところで、上記試験体aのブッシュ7の製作に用いたSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材(Hv720程度)と、上記試験体bのブッシュ7の製作に用いたSUS440Cステンレス鋼の調質材(Hv620程度)とでは、材料としての硬度は、上記SUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材の方が高い。しかし、図2における上記試験体aと試験体bの摩耗指数の比較からは、SUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製のブッシュ7を用いた上記試験体aのほうが、硬度がより低いSUS440Cステンレス鋼の調質材製のブッシュ7を用いた試験体bよりも摩耗指数が大きい、すなわち、ブッシュ7とローラ8との摺動部における耐摩耗性が低いということが判明した。
【0025】
上記のような結果が得られる理由としては、以下のようなことが考えられた。すなわち、上記試験体aと試験体bでは、いずれもブッシュ7の硬度がローラ8の硬度よりも高くなるようにしてあるため、ローラ8の内周面とブッシュ7の外周面との摺動部においては、ローラ8の内周面の方がより摩耗し易い。
【0026】
ここで、上記ブッシュ7とローラ8との摺動部について着目すると、ブッシュ7は、外周面の周方向における荷重の作用する方向に位置する一部分のみでローラ8の内周面と接しているため、該ブッシュ7におけるローラ8との摺動面は、外周面の荷重の作用する方向に位置する下端側の一部分のみに限られる。これに対し、上記ローラ8は、ブッシュ7の周りで回転するものであるため、該ローラ8におけるブッシュ7との摺動面は、内周面における周方向の全面に亘っている。
【0027】
そのために、上記ブッシュ7の外周面とローラ8の内周面との摺動部において該ローラ8の内周面が周方向の全面に亘り摩耗されると、該ローラ8の内径が徐々に拡大されるようになることから、上記ローラ8の内周面の湾曲率は徐々に低下されるようになる。一方、上記ブッシュ7はローラ8と摺動してもあまり摩耗しないため、該ブッシュ7の外周面におけるローラ8との摺動部分の湾曲率はあまり変化しない。よって、上記ブッシュ7とローラ8との摺動部においては、ローラ8の内周面が摩耗して湾曲率が徐々に低下することに伴って、ブッシュ7とローラ8との接触面積が徐々に減少されて、両者の接触面圧が徐々に高まるようになると推察された。
【0028】
更に、この場合、上記ブッシュ7の硬度が高ければ高いほど、すなわち、上記試験体bで用いたSUS440Cステンレス鋼の調質材製のブッシュ7よりも上記試験体aで用いたSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製のブッシュ7のほうが、ブッシュ7におけるローラ8との摺動部が摩耗され難くなるため、該ブッシュ7の外周面におけるローラ8との摺動部分の湾曲率の変化がより抑制され、上記ブッシュ7とローラ8との摺動部における接触面圧の上昇の傾向がより顕著になり、このために、接触面圧がより高められてローラ8の内周面の摩耗が促進されると推察された。
【0029】
そこで、本発明者等は、次に、上記ブッシュ7とローラ8との摺動部のモデルとして、図3に示す如く、ブッシュ7の外形と同様の円筒形状としてあるブッシュモデル9を、ローラ8を周方向に展開した直線形状に相当する平板状のローラモデル10の上側に、回転させることなく所要の荷重で押し付けながら往復移動させて、上記ブッシュモデル9の下端部を、上記ローラモデル10の長手方向の全長に亘って摺動させるようにしてなる構成の摺動部モデルを用いて、上記ブッシュモデル9をSUS440ステンレス鋼の窒化材とし、ローラモデル10をSUS440ステンレス鋼の調質材として、上記ブッシュモデル9の硬度をローラモデルの硬度よりも高めた場合の試験体cと、上記ブッシュモデル9をSUS440ステンレス鋼の調質材とし、ローラモデル10をSUS440ステンレス鋼の窒化材として、該ローラモデル10の硬度をブッシュモデル9の硬度よりも高めた場合の試験体dについて、摺動部にて生じる摩耗量(摩耗した重量)について計測した。
【0030】
その結果、図4に示す如く、上記試験体cでは、ブッシュモデル9の硬度がローラモデル10の硬度よりも高いため、該ブッシュモデル9に摩耗はほとんど生じないが、ローラモデル10には摩耗が生じてしまい、両者の摩耗量の合計として比較的摩耗量が大きくなってしまう。これに対し、上記試験体dでは、ローラモデル10の硬度がブッシュモデル9の硬度よりも高いため、該ローラモデル10には摩耗はほとんど生じず、更に、上記ブッシュモデル9の摩耗を抑えることができて、両者の摩耗量の合計を、上記試験体cに比して大幅に低減できることが判明した。
【0031】
上記のような結果が得られる理由としては、ローラモデル10の硬度がブッシュモデル9の硬度よりも高いと、ブッシュモデル9とローラモデル10との摺動時に、上記ブッシュモデル9の下端部が摩耗され、この摩耗により該ブッシュモデル9の下端部が、上記ローラモデル10の上面に沿う形状に変形されることで、両者の接触面積が増加して、接触面圧が低下するためと考えられた。
【0032】
そこで、本発明者等は、以上のことに鑑みて、ローラチェーンにおけるブッシュよりもローラの硬度を高くすれば、ブッシュとローラとの摺動部における耐摩耗性を向上できることを見出した。
【0033】
図1(イ)(ロ)は本発明の高温環境用ローラチェーンの実施の一形態を示すもので、図7(イ)(ロ)に示したと同様の構成を有するローラチェーン1におけるブッシュとローラを、所要の硬度を備えたブッシュ7aと、該ブッシュ7aの硬度よりも高い硬度を有するローラ8aとして、上記ブッシュ7aとローラ8aに、該ローラ8aが上記ブッシュ7aの周りで回転されるときの両者の摺動部にて、上記ブッシュ7aの方がより摩耗され易くなるような硬度差を設けるようにする。
【0034】
具体的には、たとえば、上記ブッシュ7aを、マルテンサイト系ステンレス鋼の調質材製とし、一方、上記ローラ8aを、マルテンサイト系ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製とする。
【0035】
更に具体的には、上記ブッシュ7aをSUS440Cステンレス鋼の調質材(Hv620程度)製とし、上記ローラ8aをSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材(Hv720程度)製とする。
【0036】
その他の構成は図7(イ)(ロ)に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0037】
以上の構成としてある本発明の高温環境用ローラチェーンを図示しないコンベヤに採用して、該コンベヤの運転を行うべく上記高温環境用ローラチェーンを循環駆動すると、上記ローラ8aが図示しないガイドレール上を走行させられることに伴って、上記ブッシュ7aの周りで回転して、ブッシュ7aの外周面における荷重の作用する方向に位置する下端部と、上記回転するローラ8aの内周面とが摺動される。この摺動の際、上記ブッシュ7aの硬度よりも上記ローラ8aの硬度のほうが高くなるようにそれぞれの材質を選定してあるため、上記ブッシュ7aとローラ8aとの摺動部では、ブッシュ7aの方がより摩耗されて、該ブッシュ7aは、外周面の下端部における上記ローラ8aの内周面と接している部分が局所的に摩耗され、この摩耗により、上記ブッシュ7aの下端部の形状は、上記ローラ8aの内周面に沿う形状に変形される。一方、上記ブッシュ7aよりも硬度が高い材質としてある上記ローラ8aでは、ブッシュ7aとの摺動部における摩耗が抑えられて、該ローラ8aの内周面の湾曲率はほぼ保持される。したがって、上記ブッシュ7aの摩耗に伴い、該ブッシュ7aの外周面の下端部と、上記ローラ8aの内周面との摺動部における接触面積が増加するようになるため、上記ブッシュ7aとローラ8aとの摺動部における接触面圧が減少されるようになる。
【0038】
したがって、上記接触面圧の減少に伴って、該摺動部におけるブッシュ7a及びローラ8aの摩耗の進行が抑制されるようになることから、耐摩耗性を向上させることができる。
【0039】
更に、上記ブッシュ7aとローラ8aとの摺動部にてブッシュ7aが摩耗される際に生じる摩耗粉は、ローラ8aの摺動面側に移着されて、該ローラ8aにおける摺動面に、薄い酸化皮膜を形成するようになる。この酸化皮膜は、元々の非酸化状態の金属に比して表面エネルギーが低下することに起因して、摩擦係数が非酸化状態の金属に比して低くなるため、固体潤滑機能を発揮するようになる。したがって、このことによっても上記ブッシュ7aとローラ8aとの摺動部における耐摩耗性を向上させることができる。
【0040】
以上により、本発明の高温環境用ローラチェーンによれば、連続式熱処理炉のような300〜400℃程度というグリース等の潤滑油や二硫化モリブデンのような固体潤滑剤を使用した潤滑を行うことが困難な高温環境下においても、ブッシュ7aとローラ8aとの摺動部における耐摩耗性を向上させることができて、長寿命化を図ることが可能になる。
【0041】
次に、図5(イ)(ロ)は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1(イ)(ロ)に示したと同様の構成において、ローラを、SUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製のローラ8aとする構成に代えて、SUS403ステンレス鋼の窒化材(Hv1000程度)製のローラ8bを用いるようにしたものである。
【0042】
その他の構成は図1(イ)(ロ)に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0043】
本実施の形態においても、SUS440Cステンレス鋼の調質材(Hv620程度)製としてあるブッシュ7aの硬度よりも、SUS403ステンレス鋼の窒化材製としてあるローラ8bの硬度の方を高めることができて、ブッシュ7aとローラ8bの摺動部にてブッシュ7aの方がより摩耗され易くすることができることから、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
更に、上記SUS403ステンレス鋼の窒化材製のローラ8bは、SUS403ステンレス鋼により製作したローラを窒化処理して製造するが、この窒化処理では、600℃程度までは温度上昇に伴って表面硬度が向上する傾向にあるため、300〜400℃程度の高温環境下で使用する際には、上記ローラ8bの表面硬度の低下を確実に防ぐことができて、耐摩耗性の向上により有利なものとすることができ、更なる長寿命化が期待できる。
【0045】
上記各実施の形態においては、ローラ8aやローラ8bを、部材全体がSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製、あるいは、SUS403ステンレス鋼の窒化材製のものとしたが、ローラを、たとえば、図6に示す如く、スリーブ状の内径部材11と、その外周に配置する外径部材12とを一体に接合してなる2ピース構造のローラ8cとして、上記内径部材11のみを、ブッシュ7aの硬度よりも高い硬度を有するSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材や、SUS403ステンレス鋼の窒化材製としてなる構成とするようにしてもよい。
【0046】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、図1(イ)(ロ)の実施の形態では、ブッシュ7aをSUS440Cステンレス鋼の調質材製とし、ローラ8aをSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材としたものを、又、図5(イ)(ロ)の実施の形態では、ブッシュ7aをSUS440Cステンレス鋼の調質材製とし、ローラ8bをSUS403ステンレス鋼の窒化材製としたものを示したが、ブッシュとローラとの摺動部においてブッシュの方がローラよりも摩耗され易くなるように、上記ブッシュの材質とローラの材質に硬度差を設けることができれば、たとえば、ブッシュをSUS440Cの調質材、ローラをSUS440Cの窒化材や浸炭焼入れ材とする等、ブッシュをマルテンサイト系ステンレス鋼の調質材製とし、一方、ローラを、マルテンサイト系ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製又は窒化材製とする任意の組み合わせを採用してもよく、更には、ブッシュをHK40とし、ローラをコバルト系の耐熱鋼とする等、上記ブッシュとローラの材質の組み合わせを任意に変更してもよい。
【0047】
300〜400℃程度の高温環境の下で使用するローラチェーンであれば、連続式熱処理炉のベルトコンベヤ以外の機器で用いるいかなる高温環境用ローラチェーンにも適用できる。その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明者等が実施した本発明の有効性の検証を行った結果について説明する。
図1(イ)(ロ)に示した実施の形態と同様に、ブッシュ7aをSUS440Cステンレス鋼の調質材製とし、ローラ8aをSUS403ステンレス鋼の浸炭焼入れ材製としてなる高温環境用ローラチェーンを発明品Aとして製造した。
又、図5(イ)(ロ)に示した実施の形態と同様に、ブッシュ7aをSUS440Cステンレス鋼の調質材製とし、ローラ8bをSUS403ステンレス鋼の窒化材製としてなる高温環境用ローラチェーンを発明品Bとして製造した。
上記発明品A及び発明品Bを、それぞれ所要のリンク数ずつ製造し、連続熱処理炉の実機で使用しているローラチェーンの一部に組み入れて所要期間運転した後、取り出してブッシュ7aとローラ8a,8bとの摺動面における摩耗状況を調べた。
その結果、図2にブッシュとローラの摩耗量の和に応じた摩耗指数を示す如く、上記発明品A及び発明品Bでは、ブッシュ7及びローラ8を共にSUS403ステンレス鋼の調質材製としてなる従来品、及び、ローラ8に比してブッシュ7の硬度を高めるようにした前述の試験体a及び試験体bのいずれに比してもブッシュ7aとローラ8a,8bの摺動部における摩耗量を低減できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の高温環境用ローラチェーンの実施の一形態を示すもので、(イ)は一部切断概略平面図、(ロ)は一部切断概略側面図である。
【図2】本発明者等が実施した本発明の有効性を、ローラチェーンの従来品、及び、本発明の導出過程で実施した試験体による効果と比較して検証した結果を示す図である。
【図3】本発明を導出する過程で行った別の試験の装置構成を示す図である。
【図4】図3の試験の結果を示す図である。
【図5】本発明の実施の他の形態を示すもので、(イ)は一部切断概略平面図、(ロ)は一部切断概略側面図である。
【図6】本発明の実施の更に他の形態におけるローラ部分を示す図である。
【図7】一般的なローラチェーンを示すもので、(イ)は一部切断概略平面図、(ロ)は一部切断概略側面図である。
【符号の説明】
【0050】
2 外側リンク
3 外側リンクプレート
4 ピン
5 内側リンク
6 内側リンクプレート
7,7a ブッシュ
8,8a,8b,8c ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の外側リンクプレートの両端部同士をピンで連結してなる外側リンクと、一対の内側リンクプレートの両端部同士をブッシュで連結してなる内側リンクとを、上記ブッシュの内側に上記ピンを回動自在に挿通させて長手方向に連結し、更に、上記ブッシュの外周にローラを回転自在に設けてなる高温環境用ローラチェーンにおいて、上記ローラの少なくとも内径部の硬度を、上記ブッシュの硬度よりも高くなるようにして、上記ブッシュの周りで上記ローラが回転するときの互いの摺動部にて、ローラに比してブッシュの方が摩耗され易くなるようにしたことを特徴とする高温環境用ローラチェーン。
【請求項2】
ローラの少なくとも内径部の材質を、マルテンサイト系ステンレス鋼の浸炭焼入れ材又は窒化材とし、一方、ブッシュの材質を、マルテンサイト系ステンレス鋼の焼入れ焼戻し材とした請求項1記載の高温環境用ローラチェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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