説明

高温用エアフィルタ

【課題】捕集機能を有するろ材をジグザグ状に折り畳み、折り畳んだろ材間にセパレータを挟んで空気漏れが生じないようにその全周を接着材などのシール材を使用し気密に取り付けた構造の高温用エアフィルタにおいて、ジグザグ状に折り畳んだろ材の端面と上、下のフィルタ枠との間の気密性を確実にしたものである。
【解決手段】本発明はガラス繊維を主体とし無機バインダを用いたろ材を使用し、左側板、右側板、下板、上板から構成したフィルタ枠の下板、上板内面に設けたパッキン材とシール材を介して、ジグザグ状に折り畳んだろ材間にセパレータを挟んだろ材の上、下端面をフィルタ枠の上板、下板に固定し、左側板および右側板の内面に塗布したシリコン接着剤でろ材の左右端を気密に取り付けた高温用エアフィルタにおいて、パッキン材とシール材およびセパレータの組み合わせを、ろ材を通過する空気温度に応じて選定したことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造工業、製薬工業、食品などに用いられる空気清浄用の高温用エアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高温清浄空気で物品を乾燥するクリーンオーブンや乾燥機には導入空気を清浄化するための高温用エアフィルタがまたフラットパネルディスプレー製造時の乾燥、焼成などの工程あるいは特殊なRIや焼却炉排ガスなどに付設される空気清浄用の高温用エアフィルタが配置されるようになってきた。また、フラットパネルディスプレー製造時の膜つけや微細パターンの形成などのより高温を要求される工程においても導入空気を清浄化するニーズがあり、さらに耐熱度の高い高温用エアフィルタが求められている。
【0003】
一般に常温に使用されるエアフィルタは捕集機能を有するろ材をジグザグ状に折り畳み、折り畳んだろ材間にセパレータを挟んで空気漏れが生じないようにその全周を接着材などのシール材を使用し気密に取り付けた構造のものとなっている。
【0004】
しかし、高温用エアフィルタは従来の常温タイプのろ材およびシール材を使用したのでは、高温空気がろ材に触れると、ろ材中の有機バインダが炭化し、空気の流出側表面の炭化物が発塵、飛散する不都合をもたらしたり、シール材にクラックが入って空気漏れが生じるといった問題があった。
【0005】
そこで、高温用エアフィルタにはろ材にガラス繊維を主体とし無機バインダを用いたろ材を使用し、ステンレスなどのフィルタ枠内にシリコーン樹脂などの耐熱性接着シール材を介してろ材を気密に取り付けた構造が考えられている。
【0006】
しかし、シール材とフィルタ枠との熱膨張係数の相違によりジグザグ状に折り畳んだろ材の端面と上、下のフィルタ枠との間に剥離が生じたり、クラックが生じたりして気密性を損傷し空気漏れが生じるといった問題があった。
【0007】
そのため、ジグザグ状に折り畳んだろ材の端面と上、下のフィルタ枠との間に、ガラス綿などの繊維状パッキンと耐熱性接着シール材を使用した二重シール方法が考えられている。
【0008】
しかし、これらの二重シール方法も、高温域ではフィルタ枠とシール材との熱膨張係数の相違によりシール部にクラックが発生してしまい、エアフィルタの捕集効率の低下あるいはろ材自身の損傷につながるといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明はこれらの問題を解決しょうとするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は、ろ材を通過する空気の温度変化に対しても、安定した捕集効率を維持できるようにしたものである。
【0011】
本発明の第2の目的は、高温ガスに対してもジグザグ状に折り畳んだろ材の端面と上、下のフィルタ枠との間に剥離が生じたり、クラックが生じたりして気密性を損傷し空気漏れが生じないようしたものである。
【0012】
本発明の第3の目的はガスリークやろ材の破壊を生じることなく、長期間にわたり安定して高い捕集効率を維持できるようにしたものである。
【0013】
本発明の第4の目的は、通風時に発生するアウトガス量の少ない且つ低圧力損失の高温用エアフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の解決手段はガラス繊維を主体とし無機バインダを用いたろ材を使用し、左側板、右側板、下板、上板から構成したフィルタ枠の下板、上板内面に設けたパッキン材とシール材を介して、ジグザグ状に折り畳んだろ材間にセパレータを挟んだろ材の上、下端面をフィルタ枠の上板、下板に固定し、左側板および右側板の内面に塗布したシリコン接着剤でろ材の左右端を気密に取り付けた高温用エアフィルタにおいて、パッキン材とシール材およびセパレータの組み合わせを、ろ材を通過する空気温度に応じて選定したものである。
【0015】
本発明の第2の解決手段はろ材を通過する空気温度が250℃のとき、パッキン材をガラスファイバシート、シール材をエポキシ系接着剤、セパレータをアルミニウムとしたものである。
【0016】
本発明の第3の解決手段はろ材を通過する空気温度が500℃のとき、パッキン材をセラミックファイバシート、シール材をセラミック系接着剤、セパレータを耐熱SUSとしたものである。
【0017】
本発明の第4の解決手段は、フィルタ枠の左側板と右側板は平板で且つ対向する端部を外方L型にしたつば片と他の対向する端部を内方L型の先端部にした外方L型の補強片とから形成し、上板と下板は平板で且つ対向する端部を内方L型にした垂片と他の対向する端部を左、右側板のつば片に当接する舌片とから形成したものである。
【0018】
ここでろ材はガラス繊維同士を混合したガラス繊維を無機系バインダにより結合した構造を有する。このろ材は200〜900μmの厚さを有することが好ましい。
【0019】
無機系バインダとしては例えばシリカ、タルク、カオリン鉱物、ベントナイト(活性ベントナイトを含む)、珪藻土、アルミナ(活性アルミナを含む)、シリカとアルミナの混合物、ケイ酸アルミニム、リボン状構造の含水ケイ酸マグネシウムおよび合成ゼオライトの群から選ばれる少なくとも1種からなる無機系物質を用いることができる。 特に無機バインダとしてはオルガノシランおよびこのオルガノシランの加水分解縮合物であるオルガノシロキサンを原料としたシリカが好ましい。このオルガノシランとしては、例えばテトラクロロシラン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、テトラプロピルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラプロピルシラザン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0020】
そして、シリカからなる無機系バインダはガラス繊維に対する結合性が高く且つガラス繊維間に形成された結合膜自体の強度も高いため、添加するシリカ量を少なくしても得られたろ材の強度の向上およびろ材のプリーツ加工性を向上できる。なお、前記シリカは後述するろ材の製造においてメチルアルコールのようなアルコールの溶液として用いられる。
【0021】
フィルタ枠の上板、下板に敷き詰めるパッキン材はガラスファイバ、セラミックファイバなどのシートが好ましい。
【0022】
パッキン材上に塗布されるシール材はエポキシ系接着剤、セラミック系接着剤が好ましい。
【0023】
ろ材間に挿入したセパレータはアルミニウム、ステンレスなどが使用される。
【0024】
また上記問題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、フィルタ枠の上板、下板にパッキン材を敷き詰め、このパッキン材上にシール材を予め塗布し、このシール材を介してジグザグ状に折り畳んだろ材の上、下端面とフィルタ枠の上板、下板を固定するようにしたので、熱膨張係数の相違によりジグザグ状に折り畳んだろ材の端面と上、下のフィルタ枠との間に剥離が生じたり、クラックが生じたりして気密性を損傷し空気漏れが生じるといった問題がなく、いつまでも所定の捕集機能を維持できるものである。
【0025】
さらに、高温用エアフィルタを構成するろ材を高温に耐えられる無機系バインダを使用したガラス繊維とし、フィルタ枠を高温に耐えられる金属枠とし、シール材を高温に耐えられる素材とし、ろ材のプリーツ間に介材するセパレータを高温に耐えられる素材としたので、通過する高温空気によりろ材の繊維が飛散して、濾布が破れるといった事がなく、いつまでも所定の捕集機能を維持できるものである。
【0026】
しかも、ガラス繊維に添加するバインダも目詰まりを生じさせる素材でなくまた添加量もその素材に適した量としたので低い圧力損失の高温用エアフィルタを提供できるものである。
【発明の効果】
【0027】
(1)パッキン材上に塗布したシール材でろ材の上、下端面をシールしたので、熱膨張係数の相違による変形もパッキン材がクッション材の役目を果たし、ろ材の上、下端面とパッキン材との間のバイパスリークを有効に防止することができ、シール性の向上を図ることができる。
(2)パッキン材が上、下のフィルタ枠端面に当接しているので、金属性のフィルタ枠が雰囲気温度により膨張収縮しても追随してシール性が悪化するということがない。
(3)さらに、パッキン材が上、下のフィルタ枠端面に当接しているので、運搬などに受ける衝撃を吸収し、その結果シール材を衝撃から保護し、良好な接着状態を保持することができる。
(4)ろ材間に介材するセパレータが熱を受けてろ材の上、下端面方向に伸びたとしても、その伸びをパッキン材が吸収し、ろ材やシール材の損傷を防止することができる。
(5)ろ材を長期に亘り安定に保持および良好な高温用エアフィルタの機能を果たすことができる。
(6)クリーンオーブンなどの乾燥機に高温用エアフィルタを使用しても、発じんを発生することなく高温の清浄空気を導入させることができる。
(4)本発明の高温用エアフィルタの濾材は従来のものと比較し無機系バインダでの繊維固定から濾材強度が向上し、低圧損、高捕集効率化した点で優れている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】1部を切り欠いた本発明の高温用エアフィルタを示す斜視図。
【図2】A−A’断面図。
【図3】フィルタ枠の部品図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る高温用エアフィルタを添付図面に基づいて説明する。
【0030】
図中、1はフィルタ枠で、フィルタ枠1内にはパッキン材2およびシール材3を介してセパレータ4を挟んで繊維径が0.3〜50μm、厚みが0.1〜1.0.mmのガラス繊維同志または合繊繊維または天然繊維などからなるジグザグ形状のろ材5が取り付けられている。
【0031】
フィルタ枠1は左側板6、右側板7、下板8、上板9とからなり、左側板6と右側板7は対向端部を外方L型にしたつば片10と他の対向端部を内方L型の先端部11にした外方L型の補強片12とからなる平板で、上板8と下板9は対向端部を内方L型にした垂片13と舌片14とからなる平板で構成されている。そして、つば片10と舌片14とは当接する形状となっており、当接した時、それぞれに形成した穴が合致するようになっている。
【0032】
次に、本発明の高温用エアフィルタの製作方法について説明する。
【0033】
まず、繊維径が0.3〜50μm、厚みが0.1〜1.0mmのガラス繊維同志または合繊繊維または天然繊維などからなる不織布あるいは織布に有機バインダまたは無機バインダで結合して一体にしたろ材5を形成する。
【0034】
次に下板8にパッキン材2を敷きつめ、そのトにシール材を塗布する。
【0035】
そして、このシール材3にジグザグ状にしたろ材の下端面を浸し、乾燥硬化させる。
【0036】
このようにして、ジグザグ状に配置したろ材5をシール材に固定した後、左側板6および右側板7のつば片10’を下板8の舌片14に当接させ、それぞれに形成した穴を合致させた後、ボルトで固定する。その際左側板6および右側板7の内面にシリコン接着剤を塗布し、ろ材両端部をシール固定する。
【0037】
下板8に左側板6および右側板7を固定した後、左側板6および右側板7を持ってろ材5を逆さまにし、予め下に置いて上板9内部に敷き詰めたパッキン材2の上に塗布したシール材3にろ材5の下端面を浸し、乾燥硬化させる。
【0038】
この際、左側板6および右側板7のつば片10を下板8の舌片14に当接させ、それぞれに形成した穴を合致させた後、ボルトで固定する。これにより高温用エアフィルタを完成する。
【0039】
次に、具体的実施例について述べる。
【実施例1】
ろ材5を通過する空気の温度が250℃の場合、パッキン材とシール材およびセパレータの組み合わせは下記の如くである。

パッキン材:ガラスファイバシート
シール材 :エポキシ系接着剤
セパレータ:アルミニウム
【実施例2】
ろ材を通過する空気の温度が500℃の場合、パッキン材と接着材の組み合わせは下記の如くである。
パッキン材:セラミックファイバシート
シール材 :セラミック系接着剤
セパレータ:耐熱SUS
【0040】
なお、本発明は前記実施形態そのままに限定されるものでなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、また前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の変更が可能である。
【0041】
また本発明で述べた高温用エアフィルタは一般に言われている高性能フィルタ、超高性能フィルタ(ULPA)、中性能フィルタだけでなくプレフィルタでも、ポケット形フィルタであっても良く種々変更しても何ら本発明の要旨を変更するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
高温度域においてもろ材の発じん、発ガス、繊維の飛散が全くなく長期に亘り安定に使用し得る本発明の高温用エアフィルタはクリーンオーブンや乾燥機などの循環空気清浄用あるいは焼却炉の排ガス処理用などに最適、有用なものである。
【符号の説明】
【0043】
1・・・フィルタ枠 2・・・パッキン材 3・・・シール材
4・・・セパレータ 5・・・ろ材 6・・・左側板
7・・・右側板 8・・・下板 9・・・上板
10・・・つば片 11・・・先端部11 12・・・補強片
13・・・垂片 14・・・舌片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を主体とし無機バインダを用いたろ材を使用し、左側板、右側板、下板、上板から構成したフィルタ枠の下板、上板内面に設けたパッキン材とシール材を介して、ジグザグ状に折り畳んだろ材間にセパレータを挟んだろ材の上、下端面をフィルタ枠の上板、下板に固定し、左側板および右側板の内面に塗布したシリコン接着剤でろ材の左右端を気密に取り付けた高温用エアフィルタにおいて、パッキン材とシール材およびセパレータの組み合わせを、ろ材を通過する空気温度に応じて選定したことを特徴とする高温用エアフィルタ。
【請求項2】
ろ材を通過する空気温度が250℃のとき、パッキン材をガラスファイバシート、シール材をエポキシ系接着剤、セパレータをアルミニウムとしたことを特徴とする請求項1の高温用エアフィルタ。
【請求項3】
ろ材を通過する空気温度が500℃のとき、パッキン材をセラミックファイバシート、シール材をセラミック系接着剤、セパレータを耐熱SUSとしたことを特徴とする請求項1の高温用エアフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240042(P2012−240042A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124643(P2011−124643)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(390040888)日本エアー・フィルター株式会社 (45)
【Fターム(参考)】