説明

高温用途およびランプ用の酸化物多層膜

本明細書では、NbTaZr酸化物を含む高い屈折率の材料を使用した、光干渉多層コーティングが開示される。このようなコーティングは、好ましい光学的および物理的特性の高温での維持を強化する。本明細書ではまた、光透過性外囲器を備えるランプが開示され、光透過性外囲器の表面の少なくとも一部分に上記の光干渉多層コーティングが設けられる。このようなコーティングがランプに用いられた場合は、このようなランプに対する改善されたエネルギー効率を有利にもたらすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に光学多層コーティングに関する。具体的には本明細書でのいくつかの実施形態は、高温耐性を有する光学多層コーティング、ならびにランプおよび他の用途におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光干渉コーティングは、薄膜光コーティングまたはフィルタと呼ばれることもあり、異なる屈折率の2つ以上の材料の交代層を備える。一部のこのようなコーティングまたは膜は、紫外、可視、および赤外放射など、電磁放射スペクトルの様々な部分からの光放射を選択的に反射または透過するために用いられている。例として光干渉コーティングは、反射器およびランプ外囲器を被覆するためにランプ産業において一般に用いられる。光干渉コーティングが有用となる1つの用途は、(たとえばフィラメントまたはアークによって)放出されるエネルギーをフィラメントまたはアークに向かって戻すように反射し、一方、光源から放出される電磁スペクトルの可視光を透過することによってランプの視感度効率(illumination efficiency、またはillumination efficacy)を改善することである。これにより光源がその動作温度を維持するのに必要な電気エネルギーの大きさが低減する。
【0003】
光干渉コーティングは一般に、2つの異なるタイプの交代層を備え、一方は低い屈折率を有し、他方は高い屈折率を有する。異なる屈折率を有するこれら2つの材料を用いて、ランプ外囲器の表面に堆積することができる光干渉コーティングを設計することができる。一部の場合にはコーティングまたはフィルタは、光源から放出された可視スペクトル領域の光を透過し、赤外線を反射する。ランプ動作時には戻された赤外線は光源を加熱し、結果として被覆されたランプのルーメン出力は、被覆されないランプのルーメン出力よりも大幅に大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許第4407067A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白熱ランプおよびハロゲンランプに対するエネルギー規制の可能性の到来と共に、エネルギー効率の良い製品を開発し導入することがますます重要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、第1の層は比較的低い屈折率を有し、第2の層は第1の層より比較的高い屈折率を有する、複数の交互の第1および第2の層を備える光干渉多層コーティングを対象とする。第2の層は、Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30、Ta/(Nb+Ta+Zr)>約50の原子比を満足する、少なくともNbTaZr酸化物を含む。
【0007】
本発明の別の実施形態は、表面を有する光透過性外囲器と、外囲器が少なくとも部分的に取り囲む少なくとも1つの光源とを備えるランプを対象とする。光透過性外囲器の表面の少なくとも一部分には、光干渉多層コーティングが設けられる。コーティングは、第1の層は比較的低い屈折率を有し、第2の層は第1の層より比較的高い屈折率を有する、複数の交互の第1および第2の層を備える。第2の層は、Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30、Ta/(Nb+Ta+Zr)>約50の原子比を満足する、少なくともNbTaZr酸化物を含む。
【0008】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明からより良く理解されるであろう。
【0009】
次に本発明の実施形態について添付の図を参照してより詳しく述べる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による例示のランプの概略図である。
【図2】比較材料の正透過率をプロットしたグラフである。
【図3】本発明の実施形態による例示の材料の正透過率をプロットしたグラフである。
【図4】本発明の実施形態による例示の材料のX線による結晶学的データを表す図である。
【図5】比較材料および例示の材料の顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態によれば、複数の交互の第1および第2の層を備える光干渉多層コーティングが提供される。第1の層は比較的低い屈折率を有し、第2の層は第1の層より比較的高い屈折率を有する。特性的には、第2の層の一部またはすべては、少なくともいくらかのNbTaZr酸化物を含む。一部の実施形態では第2の層のすべては、ほぼ完全にNbTaZr酸化物から構成される。
【0012】
本発明の実施形態によるコーティングは、光干渉コーティングが望ましいまたは通常用いられる、多種多様な用途のいずれにも利用することができる。これらはたとえば、照明用途(たとえばランプ)、光導波路、反射器、装飾材料、証券印刷などを含む。本発明の実施形態によるコーティングの高温耐性の結果として、これらはまたレーザ用途または他の高温光学系(高速航空機またはミサイルなど)などの高温耐性を必要とする多くの用途に使用することができる。
【0013】
一部の実施形態ではコーティングは、電磁スペクトルの一部分を選択的に反射し、電磁スペクトルの別の部分を透過するように構成される。例としてコーティングは、「コールドミラー」または「ホットミラー」として用いることができる。「コールドミラー」は、可視光は反射し、同時に長い波長の赤外エネルギーはフィルタを通過させる光フィルタである。「ホットミラー」は、赤外放射は反射し、同時に短い波長の可視光はフィルタを通過させる光フィルタである。本明細書におけるホットミラーの1つの非限定的な用途は、赤外熱をランプのフィラメントに戻してランプ効率を向上することである。
【0014】
本発明の実施形態によれば、用いられるNbTaZr酸化物の化学組成は、次の原子比、Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30、およびTa/(Nb+Ta+Zr)>約50の両方を同時に満足する。NbTaZr酸化物の残りの金属は、ほぼZrである。より具体的な実施形態では、用いられるNbTaZr酸化物は、次の原子比、約5<Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30、および約80>Ta/(Nb+Ta+Zr)>約50の両方を同時に満足することができる。ここでもNbTaZr酸化物内の残りの金属は、ほぼZrとすることができる。他のより具体的な実施形態では、NbTaZr酸化物は原子比、約5<Nb/(Nb+Ta+Zr)<約10、約75>Ta/(Nb+Ta+Zr)>約65、および約20<Zr/(Nb+Ta+Zr)<約25を満足することができる。
【0015】
使用されるNbTaZr酸化物は、混合金属酸化物と呼ぶことができる。本明細書で用いる「混合金属酸化物」という用語は、金属酸化物の混合物、金属酸化物の固溶体、金属酸化物の化学量論的または非化学量論的化合物、またはそれらの組み合わせであることにより定義することができる。例としてかつ例示のみとしてNbTaZr酸化物は、次のいずれか1つまたは複数を指すものであり、すなわち(1)酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウムを含む混合物、(2)Nb25、Ta25、およびZrO2の固溶体、(3)化合物NbaTabZrcd、ただしa、b、およびcは正の実数で、d=2.5a+2.5b+2c(Nbが五価のとき)、もしくはd=1.5a+2.5b+2c(Nbが三価のとき)、(4)酸素欠乏非化学量論的化合物NbaTabZrcd-δ、ただしa、b、c、dは上記の通り、δは約0.2未満、(5)酸素過剰非化学量論的化合物NbaTabZrcd+δ、ただしa、b、c、d、およびδは上記の通り、またはこれらの組み合わせ、または同様のものである。例として「NbTaZr酸化物」は、それぞれの酸化物(たとえば混合物にて)の分離した分子を含むことができ、またはNb/Ta/Zr基材の酸化物とすることができる。
【0016】
上記のように光干渉多層コーティングの第1の層は、比較的低い屈折率を有し、したがって「低屈折率」層と呼ぶことがある。これらの第1の層は一般に、少なくともスペクトル的に第2の層に隣接し、より典型的にはまた物理的に第2の層に隣接する。常に必要ではないが典型的には、第1および第2の層は交互でありかつ隣接する。一般に低屈折率層は、波長が550nmの光で測定したときに、約1.35から約1.7の屈折率を有する材料から構成することができる。典型的にはこれらの低屈折率層は、セラミック材料、高融点材料、シリコン、金属または半金属の酸化物、金属または半金属の窒化物、金属または半金属のフッ化物などから独立に選択された材料を含むことができる。金属のフッ化物はMgF2などの化合物を含むことができる。しばしばこれらの低屈折率層は、ガラスまたは石英、または他の形の非晶質または結晶シリカなどの、酸化シリコンを含むことができる。その低い屈折率、低コスト、および好ましい熱特性により、最も一般に使用される低屈折率材料は、1つまたは複数の形のSiO2(シリカ)である。
【0017】
一般に第2の層(「高屈折率」層と呼ぶことがある)は、約550nmにて約1.7から約2.8の屈折率を有する材料から構成される。上述の第2の層のNbZrTa酸化物成分に加えて、追加の高屈折率材料をTi、Hf、W、Mo、およびInからなる群から選択された1つまたは複数の金属の1つまたは複数の酸化物(または混合酸化物)または同様のものから独立に選択することができる。
【0018】
実施形態によれば光干渉多層コーティングは、約0.001マイクロメータ(「ミクロン」)から約25ミクロンの幾何学的厚さを有することができる。より典型的には幾何学的厚さは、約1から約20ミクロン、または約3から約18ミクロンとすることができる。このようなコーティングの厚さの測定値は、一般に基板の厚さを含まない。比較的厚い全体コーティングは、光干渉多層コーティングが赤外放射を反射し可視放射を透過するバンドパスフィルタとして働くように構成される用途の場合に、効率の高いものとなり得る。
【0019】
個々の高い屈折率の層および低い屈折率の層は、典型的には約20nmから約500nm、時には約10nmから約200nmの厚さを有することができる。実施形態によれば光干渉多層コーティングは、任意の数の層、またはより具体的には両端を含めて約4から約250層の任意の整数の層の総数を有することができる。それらの間のすべての整数値も具体的に企図される。異なる用途はそれぞれの個々の第1および第2の層の異なる厚さを有して、異なる数の層が必要となる。一部の特定の実施形態では光干渉多層コーティングは、約11ミクロンの幾何学的厚さを有して約120の層の総数を有することができ、または約18ミクロンの幾何学的厚さを有して約210の層の総数を有することができる。
【0020】
一部の実施形態によれば光干渉多層膜は、ホットミラーとして働き、すなわち光源から放出された可視スペクトル領域内の光を透過し、赤外線を反射する。このような実施形態では光干渉多層コーティングは、400〜750nmの波長の可視光にて約60%より大きな平均透過率を有することができる。光干渉多層コーティングは、ホットミラーとして構成されたときは、次のように赤外領域での平均反射率の値を有することができ、すなわち、800〜1500nmの波長の電磁スペクトルの赤外領域では約50%より大きく、1500〜2500nmの波長の赤外領域では約40%より大きく、2500〜3500nmの波長の赤外領域では約30%より大きい。
【0021】
一部の実施形態では光干渉多層コーティングは、可視光を透過し、スペクトルの紫外領域の部分を反射する能力を有するように構成することができる。たとえばコーティングは、可視光にて60%より大きな平均透過率をもたらし、300〜370nmの波長の電磁スペクトルの紫外領域にて約30%より大きな(さらには約60%より大きな)平均反射率をもたらすように構成することができる。
【0022】
本明細書で開示される高い屈折率の材料を光干渉コーティングの高屈折率層に用いることによって、頻繁な温度変化、特に800℃さらにはそれより高くまでの増加を含む変化に耐える材料を得ることができる。このような高温耐性を表すものとして、本発明の実施形態によるコーティングはしばしば、過度の層間剥離または亀裂の影響を受けない。例として光干渉多層コーティングは典型的には、第2の(高屈折率)層、または第1の層、または両方の顕著な機械的劣化なしで、室温と約800℃以上の間の繰り返しサイクルの能力がある。他の強化された温度耐性を表すものとしては、本発明の実施形態によるコーティングはしばしば、約800℃程度さらにはそれより高い温度(たとえばおよそ825℃)への暴露の後にも、可視領域での過度の光の散乱の影響を受けない。
【0023】
本発明の実施形態による多層コーティングは、コーティング材料を堆積するための知られている任意の適当な堆積技法によって堆積することができる。たとえば多層コーティングは、物理蒸着法(PVD)、または化学気相成長法(CVD)によって堆積することができる。一般に、使用されるPVD法は、熱蒸着、RF蒸着、電子ビーム蒸着、反応性蒸着、DCスパッタリング、RFスパッタリング、マイクロ波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、マイクロ波強化DCマグネトロンスパッタリング、アークプラズマ蒸着、反応性スパッタリング、レーザアブレーション、およびそれらの組み合わせなどからなる群から選択することができる。典型的には使用されるCVD法は、常圧CVD、低圧CVD、高真空CVD、超高真空CVD、エアロゾル支援CVD、直接液体注入CVD、マイクロ波プラズマ支援CVD、プラズマ強化CVD、リモートプラズマ強化CVD、原子層CVD、熱線CVD、金属有機CVD、複合型物理蒸着−化学気相成長、急速熱CVD、気相エピタキシ、およびそれらの組み合わせなどからなる群から選択することができる。
【0024】
一般に理解されるように通常の化学気相成長法では、基板は1つまたは複数の揮発性またはガス状前駆体(通常は分子前駆体)に曝され、前駆体は基板表面に対して反応しかつ/または分解して望ましい堆積を生成する。多様な異なるタイプのCVD法が存在し、それらの動作圧力、蒸気の特性、エネルギー入力のタイプ、その他の特徴によって分類することができる。本明細書でその用語が用いる場合は、以下のすべては「CVD」法の範囲に含まれるものとする。例としていくつかのCVD法は、常圧CVD、低圧CVD(LPCVD)(この場合、化学気相成長は通常は常圧より低い圧力で生じる)、通常は約10-6Pa未満で行われる高真空または超高真空CVDを含む。他の形のCVDでは前駆体は厳密に気体ではなく、エアロゾル支援CVDは液体−気体エアロゾルとして前駆体を使用し、直接液体注入CVD(DLICVD)は注入され基板へ輸送される液状前駆体を用いる。いくつかのCVD法は、マイクロ波プラズマ支援CVD(MPCVD)、プラズマ強化(またはプラズマ支援)CVD(PECVD)、およびリモートプラズマ強化CVD(RPECVD)など、高エネルギー手段によって補助される。他のタイプのCVDとしては原子層CVD(ALCVD)、熱線CVD(HWCVD)、金属有機CVD(MOCVD)、複合型物理蒸着−化学気相成長(HPCVD)、急速熱CVD(RTCVD)、気相エピタキシ(VPE)などを含むことができる。これらのそれぞれのタイプのCVDは常には相互に排他的ではなく、したがって上記のCVD法の2つ以上を使用する組み合わせも企図される。
【0025】
多層コーティングを堆積するのにLPCVDが用いられる場合は、典型的には米国特許第5,143,445号に記載されているプロセスを使用することができる。さらに本出願の権利者が所有する米国特許第5,412,274号に示されるいずれの条件および前駆体も本開示に用いるのに適し得る。さらに例示の化学気相成長法および低圧化学気相成長法は、たとえば米国特許第4,949,005号、第5,143,445号、第5,569,970号、第6,441,541号、および第6,710,520号に述べられている。記載したこれらの特許は、関連する部分において参照により本明細書に組み込まれる。
【0026】
当業者なら一般に理解されるように、通常の物理蒸着(PVD)法では、材料が物理プロセスによって蒸発され、その後に基板に凝縮されて堆積を形成する。時には蒸発された材料は、酸化(酸素との反応による)などの反応を受けることができる。しばしば堆積は、堆積すべき材料を物理的手段によって蒸気に変換するステップと、蒸気をその供給源から基板に輸送するステップと、蒸気を基板上に凝縮するステップとによって基板上に作製される。本明細書で用いるPVD法とは、熱蒸着、RF蒸着、電子ビーム蒸着、反応性蒸着、DCスパッタリング、RFスパッタリング、マイクロ波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、マイクロ波強化DCマグネトロンスパッタリング、アークプラズマ蒸着、反応性スパッタリング、レーザアブレーションなどを含むことができる。
【0027】
これらのそれぞれのタイプのPVDは常には相互に排他的ではなく、したがって上記のPVD法の2つ以上を使用する組み合わせも企図される。たとえば「マグネトロンスパッタリング」は、DCおよびRFマグネトロンスパッタリングの両方を含み得ることが理解されよう。同様に「DCマグネトロンスパッタリング」は、「マイクロ波強化DCマグネトロンスパッタリング」を含み得ることが理解されよう。多層コーティングを堆積するのにRFマグネトロンスパッタリングが用いられる場合は、関連する部分が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,494,997号に示されるプロセスを適切に使用することができる。マグネトロンスパッタリングでは、ターゲットに衝突させるのに高エネルギーの不活性ガスプラズマが用いられる。スパッタされた原子は、冷温のガラスまたは石英ハウジング上に凝縮する。DC(直流)、パルス式DC(40〜400KHz)、またはRF(無線周波数、13.65MHz)法を用いることができる。
【0028】
スパッタリングが使用されるときは、高い屈折率の層の混合金属酸化物を形成するために用いられる、合金および/または金属の混合物を保持する単一のターゲットを用いることができる。別法として、それぞれが1つまたは複数の金属を保持する複数のターゲットを用いることができる。さらには金属酸化物または他の化合物を含んだ1つまたは複数のターゲットを用いることもできる。一般にこのようなスパッタリング操作は、通常は酸素/アルゴン雰囲気中で実行される。コーティングの意図される用途が光源またはランプ用のバンドパスフィルタとして動作することである場合は、被覆される基板としては典型的にはランプの光透過性外囲器を含むことができる。
【0029】
一部の実施形態では光干渉多層コーティングは、基板上に堆積することができる。このような基板は、ガラス、石英、石英ガラス、またはほぼ透明なセラミックなどの少なくとも1つから選択された材料を含むことができる。ほぼ透明なセラミックを含む基板が使用される場合は、基板は、多結晶アルミナ、サファイア、およびYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)などの1つまたは複数から構成される材料から選択することができる。基板の一実施例は、石英、ガラス、または任意の上述の基板物質などの、任意の透明または半透明の材料から作製されたランプ外囲器とすることができる。基板の形状は特に限定されないが、たとえば円筒形または楕円形などの形状を含むことができる。
【0030】
本発明の実施形態によればまた、本開示の光干渉多層コーティングを含む1つまたは複数のランプが提供される。このようなランプは一般に、表面を有する光透過性外囲器と、外囲器が少なくとも部分的に取り囲む光源とを有する。光透過性外囲器の表面の少なくとも一部分には、上述の光干渉多層コーティングが設けられる。一般に知られているようにこのような光透過性外囲器は、感知できる程度の光透過性であり、比較的高い(たとえば約800℃、さらにはそれより高い)温度に耐えることができる任意の材料から構成することができ、たとえばガラス、石英、石英ガラス、またはほぼ透明なセラミック、または任意の上記の基板物質から構成することができる。
【0031】
光源は、白熱光源(たとえば、フィラメントの抵抗性発熱により光を生じる)とすることができ、および/または高輝度放電(high−intensity discharge(HID))光源などの電気アーク放電光源とすることができ、および/または他のタイプの光源とすることができる。通常はフィラメントが使用される場合は、良く知られているようにタングステンなどの通常はコイル状の形の高融点金属から構成される。ランプに電圧供給するために通常は、外囲器内に配置され、外囲器を通って延びる電流供給導体(または電気リード)に接続された少なくとも1つの電気要素がある。
【0032】
通常は外囲器は、充填ガスを封入する。好ましい充填ガスは、ランプ寿命、品質、および/または性能を向上するように選択される任意のガスまたはガス状混合物を含む。いくつかの充填ガスとしては、少なくとも1つの希ガス(たとえばクリプトンまたはキセノン)などのイオン化可能な充填ガス、および/またはハロゲン化アルキル化合物(たとえば臭化メチル)などの蒸発可能なハロゲン物質を含むことができる。ハロゲンを含んだガスは、しばしば使用される。金属ハロゲン化物、水銀、およびそれらの組み合わせを含むことができる多くの他の充填組成も企図される。
【0033】
本開示によるランプは、ランプ外囲器の内面上または外面上のいずれかに光干渉多層コーティングを有することができる。別法としてランプは、ランプ外囲器の内面上および外面上の両方に光干渉多層コーティングを有することができる。
【0034】
次に図1を参照すると、本発明の実施形態による例示のランプの概略図が示される。これは限定するものではく、原寸に比例して描かれていない。この例示的実施形態ではランプ10は、気密封止されたガラス質の光透過性石英外囲器11を備え、その外面は光干渉多層コーティング12で被覆される。外囲器11は、内部電気リード14、14’によって電圧供給することができるコイル状タングステンフィラメント13を取り囲む。内部電気リード14、14’は金属箔片15、15’に溶接され、外部電気リード16,16’は金属箔片の反対側の端部に溶接される。外囲器11の内部17には、ハロゲンまたはハロゲン化合物を含むイオン化可能な充填物が配置される。
【0035】
上述の光干渉コーティングは、ランプ上のコーティングとして用いられたときは有利なことにこのようなランプたとえばハロゲンランプに対して、改善されたエネルギー効率をもたらすことができる。このような改善は、増加したLPW(ワット当たりルーメン)の値に現れ得る。パーセントで表した場合、LPWの増加は「利得」と呼ばれる。本発明の実施形態による光干渉膜で被覆された場合はハロゲンランプは、被覆されないランプに対して約20%から約150%(たとえば約90%から約95%)の利得を示すことができる。このような比較は、通常は同じ熱いフィラメント温度、たとえば通常動作の温度まで電圧供給された同じランプに対して行われる。
【0036】
少なくとも1つの光源がフィラメントを備える実施形態の場合、コーティングは、400〜750nmの波長の可視光にて約60%より大きな平均透過率を有し、800〜1500nmの波長の電磁スペクトルの赤外領域にて約50%より大きな平均反射率を有するように構成することができる。少なくとも1つの光源が電気アークまたは放電を備える実施形態の場合はコーティングは、可視光にて60%より大きな平均透過率をもたらし、300〜370nmの波長の電磁スペクトルの紫外領域にて約30%より大きな平均反射率をもたらすように構成することができる。
【0037】
さらに上述の光干渉膜はまた、高温に曝された後でも高い構造的および光学的完全性を示すことができる。本発明の実施形態は、第1および第2の層の顕著な機械的劣化なしに室温と約750℃以上(たとえば約800℃)の間の繰り返しサイクルの能力を有する光干渉多層コーティングを有するランプを実現することができる。本発明の実施形態により被覆されたランプは典型的には、約800℃で約4日間のコーティングのアニーリング後に、400〜750nmの波長の可視光にて約5%未満の透過損失を示すことができる。
【0038】
さらに本発明の実施形態による光干渉コーティングで被覆されたランプは、改善された堅牢性および性能安定性を示すことができ、改善された外観(円滑で透明なコーティング表面)を有することができる。
【0039】
本発明のさらなる理解を進めるために以下の実施例を示す。これらの実施例は例示であり、特許請求される本発明の範囲を何らかの形で限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0040】
比較例1、2、および実施例3
これらの比較実験は、各タイプのコーティングに対して同一の条件を用いて、イオン衝撃下でRFマグネトロンスパッタリングによって堆積させた厚い多層コーティング(IRを反射するように構成された120層のバンドパスフィルタ、幾何学的厚さは約11ミクロン)の最大熱安定性温度を求めるために行った。サンプルは、低屈折率材料としてシリカを用い、1.27cmx2.54cmx1mmの石英インゴット上に堆積させた。試験の温度条件は、それぞれ累進的に増加する温度で4時間の空気炉ベーキング、25℃ごとの増分で続行される550〜800℃の温度範囲である。すなわちサンプルを空気炉において550℃で4時間保持し、次いで試験し、次いで25℃の増分だけ温度を増加させて再び空気炉において4時間保持し、次いで試験し、次いで25℃の増分だけ温度を増加させる、といったものある。
【0041】
これらの例では、堆積直後の材料の好ましい光学的および物理的特性を維持する能力の観点から熱安定性が試験される。光学的および物理的特性は、(1)各温度にて測定された発光効率(photometric efficiency:PE、正透過率および球透過率の両方)、(2)各温度での明視野顕微鏡検査(倍率50倍)、(3)最初に「堆積直後」に、次いでコーティングの破損の直前に、次いで破損の直後に測定したX線回折(x−ray diffraction:XRD)により測定した。400〜500nmの間のPE透過率(正透過率)の低下が、堆積直後の膜に対して1%未満の場合は、所与の測定温度で「熱的に安定」であるとして肯定的な評価がコーティングに与えられる。XRDおよび/または顕微鏡検査により測定温度にて非晶質のままである場合は、肯定的な評価がコーティングに与えられる。基板上で物理的に損傷なしのままである場合は、肯定的な評価がコーティングに与えられる。
【0042】
表Iに示すように、これらの判定基準でシリカとNbTa酸化物の多層膜(比較例1)は625℃で不合格となり、これらの判定基準でシリカとTa酸化物の多層膜(比較例2)は675℃で不合格となった。これと対照的に低屈折率材料としてシリカ、および高い屈折率の層としてNbTaZr酸化物を用いた多層膜(実施例3)は、800℃まで熱的に安定であった。NbTaZr酸化物は、金属ベースにて8.9原子%のNb、69.5原子%のTa、および21.6原子%のZrから(すなわち酸素を除いて)構成された。
【0043】
【表1】

NbTa酸化物およびTa酸化物材料は不合格となったので(それぞれ625℃および675℃から)、より高い温度では試験せず、表Iの空欄はそのためである。
【0044】
図2は高屈折率層にNbTa酸化物を用いた材料(比較例1)の正透過率をプロットしたグラフを示す。図2の実線のトレースは堆積直後の状態での材料の場合の透過率データを示し、破線のトレースは625℃で4時間後の同じ材料を示す。温度エージングされた材料の場合の可視領域での透過率の低下が著しい。特に堆積直後のものと比べてエージングされた材料では、400〜500nmの領域での平均透過率は16.4%低下した。これと対照的に図3は、高屈折率層にNbTaZr酸化物を用いた材料(実施例3)の正透過率をプロットしたグラフを示す。この図では実線のトレースは堆積直後の材料を指し、破線のトレースは温度エージングされた(4時間、800℃に曝された)材料である。示される可視領域の透過率の減少は可視領域全体にわたってほとんどゼロであり、優れた温度安定性を示す。
【0045】
光学膜の透過率は、光を散乱する傾向がある晶子の有無に大きく依存すると考えられる。したがって一般に、層には非晶質の組成が望ましい。図4は、実施例3のNbTaZr酸化物材料の場合の、堆積直後の形(図4A)、800℃でのエージング(図4B)、および825℃でのエージング(図4C)におけるX線による結晶学的グラフを表す。この材料は、図4BのX線による結晶学的プロットにおいて明確な構造がないことで示されるように、800℃でもほぼ非晶質状態を維持する。825℃でのみ顕著な結晶性が生じた(図4C)。
【0046】
比較例1および2、および実施例3の光干渉多層コーティングの顕微鏡写真(50倍の明視野画像の結果)を図5に示す。図から分かるように675℃でのエージングの後に、比較例1および2の材料は顕著な亀裂を生じ始めるが、実施例3の材料には亀裂はなかった。実施例3の材料では、800℃まで加熱されない限り亀裂の発生は見られなかった。
【0047】
本明細書で用いられる近似する用語は、それが関係する基本機能における変化を結果として生じることなく変化し得る任意の定量的表現を修飾するために適用することができる。したがって、「約」、「ほぼ」などの1つまたは複数の用語によって修飾される値は、一部の場合には指定された正確な値に限定されない。量と共に用いられる「約」という修飾語は述べられる値を含み、文脈によって決められる意味を有する(たとえば、特定の量の測定値に関連する誤差の程度を含む)。「任意選択の(optional)」または「適宜(optionally)」とは、後続して述べられる事象または状況が生じても生じなくてもよく、後続して特定される材料が存在しても存在しなくてもよく、その記述は事象もしくは状況が生じまたは材料が存在する場合、および事象もしくは状況が生じず、または材料が存在しない場合を含む。単数形「a」、「an」、および「the」は、明らかに言及されない限り複数の指示対象を含む。本明細書で開示されるすべての範囲は、記載の端点を含み、独立に組み合わせることができる。
【0048】
本明細書で用いられる「適応される(adapted to)」、「構成される(configured to)」などの語句は、特定の構造を形成するように、または特定の結果を達成するようにサイズ設定され、配置され、または製造される要素を指す。本発明について限られた数の実施形態のみに関して詳細に述べてきたが、本発明はこのような開示された実施形態に限定されないことは容易に理解されるべきである。むしろ本発明は、任意の数の変更、変形、置換、またはこれまで述べていないが本発明の趣旨および範囲と同等である等価な構成を組み入れるように変更することができる。さらに本発明の様々な実施形態について述べたが、本発明の態様は、述べられた実施形態の一部のみを含み得ることを理解されたい。したがって本発明は、上記の説明によって限定されると見なされるべきではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【0049】
新規として請求され、米国特許証による保護を望むものは添付の特許請求の範囲の通りである。
【符号の説明】
【0050】
10 ランプ
11 光透過性石英外囲器、外囲器
12 光干渉多層コーティング
13 コイル状フィラメント
14 内部電気リード
15 金属箔片
16 外部電気リード
17 外囲器の内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の交互の第1および第2の層であって、前記第1の層は比較的低い屈折率を有し、前記第2の層は前記第1の層より比較的高い屈折率を有する、第1および第2の層を備え、前記第2の層は、
Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30
および
Ta/(Nb+Ta+Zr)>約50
の原子比を満足するNbTaZr酸化物を含む、光干渉多層コーティング。
【請求項2】
前記NbTaZr酸化物内の残りの金属がほぼZrである、請求項1記載の光干渉多層コーティング。
【請求項3】
前記第2の層が、
約5<Nb/(Nb+Ta+Zr)<約10
および
約75>Ta/(Nb+Ta+Zr)>約65
および
約20<Zr/(Nb+Ta+Zr)<約25
の原子比を満足するNbTaZr酸化物を含む、請求項1記載の光干渉多層コーティング。
【請求項4】
前記コーティングが約1から約20ミクロンの幾何学的厚さを有する、請求項1記載の光干渉多層コーティング。
【請求項5】
前記コーティングが4から250の層の総数を有する、請求項1記載の光干渉多層コーティング。
【請求項6】
前記コーティングが、400〜750nmの波長の可視光にて約60%より大きな平均透過率を有する、請求項1記載の光干渉多層コーティング。
【請求項7】
前記コーティングが、800〜1500nmの波長の電磁スペクトルの赤外領域にて約50%より大きな平均反射率を有する、請求項6記載の光干渉多層コーティング。
【請求項8】
前記コーティングが、1500〜2500nmの波長の電磁スペクトルの赤外領域にて約40%より大きな平均反射率を有する、請求項6記載の光干渉多層コーティング。
【請求項9】
前記コーティングが、2500〜3500nmの波長の電磁スペクトルの赤外領域にて約30%より大きな平均反射率を有する、請求項6記載の光干渉多層コーティング。
【請求項10】
表面を有する光透過性外囲器と、
前記外囲器が少なくとも部分的に取り囲む少なくとも1つの光源と
を備えるランプであって、
前記光透過性外囲器の前記表面の少なくとも一部分には、複数の交互の第1および第2の層を備える光干渉多層コーティングが設けられ、前記第1の層は比較的低い屈折率を有し、前記第2の層は前記第1の層より比較的高い屈折率を有し、
前記第2の層は、
Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30
および
Ta/(Nb+Ta+Zr)>約50
の原子比を満足するNbTaZr酸化物を含む、ランプ。
【請求項11】
前記第2の層が、
約5<Nb/(Nb+Ta+Zr)<約30
および
約80>Ta/(Nb+Ta+Zr)>約50
の原子比を満足するNbTaZr酸化物を含む、請求項10記載のランプ。
【請求項12】
前記少なくとも1つの光源はフィラメントを備え、前記コーティングは400〜750nmの波長の可視光にて約60%より大きな平均透過率を有し、800〜1500nmの波長の電磁スペクトルの赤外領域にて約50%より大きな平均反射率を有する、請求項10記載のランプ。
【請求項13】
前記コーティングは、第1および第2の層の顕著な機械的劣化なしに、室温と約750℃の間の繰り返しサイクルの能力がある、請求項10記載のランプ。
【請求項14】
前記コーティングが、約800℃で約4日間のアニーリング後に、400〜750nmの波長の可視光にて約5%未満の透過損失を示す、請求項10記載のランプ。
【請求項15】
前記少なくとも1つの光源はフィラメントを備え、前記ランプは熱いフィラメント温度に電圧供給されたときに、前記コーティングなしで同じ熱いフィラメント温度に電圧供給された同じランプと比べて、約20%から約150%のLPW利得を示す、請求項10記載のランプ。
【請求項16】
前記外囲器内に配置され、前記外囲器を通って延びる電流供給導体に接続された少なくとも1つの電気要素をさらに備える、請求項10記載のランプ。
【請求項17】
前記少なくとも1つの光源は電気アークまたは放電を含み、前記コーティングは可視光にて60%より大きな平均透過率をもたらし、300〜370nmの波長の電磁スペクトルの紫外領域にて約30%より大きな平均反射率をもたらすように構成された、請求項10記載のランプ。
【請求項18】
前記外囲器がハロゲンを含んだガスを含む充填ガスを封入する、請求項10記載のランプ。
【請求項19】
前記外囲器が、ガラス、石英、石英ガラス、およびほぼ透明なセラミックの少なくとも1つを含む、請求項10記載のランプ。
【請求項20】
前記光干渉多層コーティングが、前記外囲器の内面上および外面上の一方または両方に設けられる、請求項10記載のランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−512462(P2013−512462A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541082(P2012−541082)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/053547
【国際公開番号】WO2011/066047
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】