説明

高温耐熱材料及びその製造方法

【課題】純Irよりも高温耐熱性に優れた材料を提供すること。
【解決手段】IrにReを添加することで純Irより高い融点の材料を生成することができ、しかも、高温での結晶粒の粗大化及び材料の軟化が抑制することで、高温強度が保たれる。また、加工時に熱間鍛造を加えることにより、材料表面及び内部のクラックの発生を抑制でき、かつ、後加工での良好な表面状態を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温負荷環境にて使用される耐熱材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙産業やエネルギー産業においては、ニッケル基合金等の各種耐熱材料が広く用いられている。しかしながら、近年における工業技術の向上に伴い、各種産業界で使用される耐熱材料には、より高い耐熱特性が要求されるようになっている。Ir(イリジウム)は融点が高いため耐熱材料として注目されているが、その耐熱特性は用途によっては必ずしも満足のいくものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、上記背景に鑑み、本発明の目的は、純Irよりも高温耐熱性に優れた材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、イリジウムをベースとし、第二元素としてレニウムを1〜20wt%含有する固溶体であることを特徴とする高温耐熱材料である。この場合、高温耐熱材料は、凝固組織が破壊され、等軸晶ないし繊維組織を有することが好ましい。
【0005】
また、本発明は、イリジウムとレニウムとを均一に溶融し、熱間で塑性加工することを特徴とする高温耐熱材料の製造方法である。
【0006】
さらに、本発明は、イリジウムとレニウムとを均一に溶融してインゴットを生成し、該インゴットを再結晶温度以上(好ましくは1400℃〜1700℃)に加熱して加工を加えることを特徴とする高温耐熱材料の製造方法である。
【0007】
上記製造方法において、熱間鍛造後には、熱間圧延及び熱間伸線の一つ又は二つ以上を組み合わせて加工してもよい。また、前記工程で加工した材料を、切削、研削、放電加工、アークまたはプラズマ溶接、及び研磨剤による切断加工の一つ又は二つ以上を組み合わせて加工してもよい。
【0008】
本発明において高温耐熱材料の成分配合比を限定する理由は以下のとおりである。
すなわち、Reの配合比については、20wt%を超えると、融点は上昇するが耐酸化性が低下する。また、20wt%を超えると固溶体を形成しなくなるので、結果として、たとえばRe30wt%では熱間であっても塑性加工が困難となる。一方、1%未満では結晶粒微細化(粒径200μm以下、好ましくは100μm以下)を図ることが難しい。そこで、Reの配合比を1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%と決定した。このような範囲でReを配合することにより、純Irよりも融点が高く、耐酸化性に優れ、微細結晶を有する高温耐熱材料を製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
IrにReを添加することで純Irより高い融点の材料を生成することができ、しかも、高温での結晶粒の粗大化及び材料の軟化が抑制することで、高温強度が保たれる。また、加工時に熱間鍛造を加えることにより、材料表面及び内部のクラックの発生を抑制でき、かつ、後加工での良好な表面状態を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、具体例として90Ir−10Re(wt%)合金を挙げ、本発明に係る高温耐熱材料の製造方法の一例を図1に基づいて説明する。なお、以下の説明で挙げる材料の形状,寸法や加工方法等は一例であって、本発明の範囲を限定する趣旨ではない。
【0011】
まず、直径約10μmのIr(イリジウム)粉末を1125g,直径約10μmのRe(レニウム)粉末125gを計量し、これらIr粉末とRe粉末とをV型混合機を用いて均一に混合する。次に、混合粉末を圧粉成型し、円柱形状に固める。この圧粉成型の目的は次の溶解工程で原料粉末が飛散しないようにすることであるため、原料が固形状になる方法であれば他の方法を採用してもよい。例えば、冷間静水圧成型、機械式または油圧式プレスなどを利用して成型してもよい。
【0012】
上記処理で作製した円柱形状の材料を、銅製の溝付き水冷鋳型に配置し、アーク溶解により、この合金の融点(液相点:約2600℃)以上の温度、例えば2700℃で溶解させる。これにより、直方体状のインゴット(約t10×w30×L150mm)が得られる。
【0013】
得られた直方体状インゴットをガス炉、高周波加熱装置、又は酸水素バーナーなどにより1400℃以上(再結晶温度以上)に加熱し、エアハンマーによりインゴット側面を少なくとも一方向以上から数回熱間鍛造し、材料が直方体状から円柱状(約φ20mm×L150mm)になるまで加熱と熱間鍛造を繰り返す。次に円柱状になったインゴットを約1400℃以上に加熱し、縦方向および横方向から鍛造し、インゴットが所定の寸法(約φ32×L60mm)になるまで熱間鍛造を繰り返す。このとき少なくとも一方向以上の加工率が50%以上となるように加工する。このように複数方向からの加工を加えることにより、不安定な凝固組織が破壊され、結晶粒径の微細化(粒径200μm以下、好ましくは100μm以下)が図られる。その結果、靭性が高まって機械的性質が改善されるとともに、均一な組織でかつ精密加工のできる材料を得られる。
【0014】
よって、上記工程を経て加工された材料を、切削、研削、放電加工、アークまたはプラズマ溶接、及び研磨剤による切断加工の一つ又は二つ以上を組み合わせて精密加工することが可能である。その結果、寸法精度が良く、表面状態の良好な最終製品を提供することが可能になる。
【0015】
また、上記熱間鍛造(工程S5)後には、図2の工程S7に示すように、熱間圧延及び熱間伸線の一つ又は二つ以上を組み合わせて、鍛造された材料を所定形状に加工することも可能である。なお、このように所定形状に加工された材料については、工程S5で既に凝固組織が破壊され、等軸晶ないし繊維組織を有している。したがって、熱間圧延等が施された材料に対し更に加工を加える際には、上述したように再結晶温度以上に加熱する必要はなく、それ以下の温度(たとえば1200℃程度)で加工することができる。
【0016】
次に本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0017】
上記実施形態で説明した加工方法(工程S1〜S5)に従って、凝固組織が破壊されたインゴット(約φ32×L60mm)を作製した。このインゴットの結晶粒を調べたところ、凝固組織が破壊され、等軸晶(粒径100μm程度)が形成されていることが確認された。
【0018】
次に、このインゴットを全面切削により円柱形状(約φ28×L55mm)に削り出した。その後、放電加工ないしドリル加工により中心にφ10mmの穴を開け、外面を研削加工でミクロン単位で仕上げた。その結果、表面状態が良好で、寸法精度の良いリング状の製品を作製することができた。
【実施例2】
【0019】
上記実施形態で説明した加工方法(工程S1〜S5)に従って、板形状(約t8×w40×L150mm)のインゴットを作製した。このインゴットを電気炉、酸水素バーナーおよび高周波加熱などにより1200℃以上に加熱したのち圧延ロールに通した。(このとき既に凝固組織が壊れ等軸晶ないし繊維組織であるため、上記実施形態の場合のように1400℃以上に加熱しなくて構わない。)このときの1パスの加工率は10%程度とし、以下、所定の板厚になるまで繰り返すことでt1.5mmの板材にし、円形に丸めた後アーク溶接により板の両端部を溶接した。その結果、クラックの発生がなく、表面状態が良好で、精度の良いリング状の製品を作製することができた。
【実施例3】
【0020】
上記実施形態で説明した加工方法(工程S1〜S5)に従って、凝固組織が破壊され均一な組織としたインゴットを作製した。このインゴットの外面を研削加工でミクロン単位で仕上げ、研削仕上がり面が3μm以下の光沢のある製品にした。この製品について各温度毎に硬さ試験を行い、製品の軟化温度を調べた。試験結果を、純Irの軟化温度と対比して下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示す結果から分かるように、本発明に係るイリジウム基合金製耐熱材料によれば、純イリジウムと比較して高温での耐熱特性に優れ、高温強度が保たれることが確認された。
【0023】
以上、本発明に係る高温耐熱材料及びその製造方法について詳細に説明した。なお、本発明における構成及び工程は、上述した実施形態,実施例,及び添付図面に示したものに限定されず、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において種々の改変が可能であることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る高温耐熱材料の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明に係る高温耐熱材料の製造方法を示す工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウムをベースとし、第二元素としてレニウムを1〜20wt%含有する固溶体であることを特徴とする高温耐熱材料。
【請求項2】
凝固組織が破壊され、等軸晶ないし繊維組織を有することを特徴とする請求項1記載の高温耐熱材料。
【請求項3】
請求項1記載の耐熱材料の製造方法であって、イリジウムとレニウムとを均一に溶融し、熱間で塑性加工することを特徴とする高温耐熱材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の耐熱材料の製造方法であって、イリジウムとレニウムとを均一に溶融してインゴットを生成し、該インゴットを再結晶温度以上に加熱して加工を加えることを特徴とする高温耐熱材料の製造方法。
【請求項5】
熱間鍛造後、熱間圧延及び熱間伸線の一つ又は二つ以上を組み合わせて加工することを特徴とする請求項3又は4記載の高温耐熱材料の製造方法。
【請求項6】
前記工程で加工した材料を、切削、研削、放電加工、アークまたはプラズマ溶接、及び研磨剤による切断加工の一つ又は二つ以上を組み合わせて加工することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか記載の高温耐熱材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−84866(P2007−84866A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273149(P2005−273149)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)