説明

高温超伝導体

各層が酸素アニオンによって取り囲まれたカチオンのネットワークを含む積層された第1の層および第2の層を含む材料を含む超伝導体。本発明によれば、この材料は、イルメナイト結晶構造およびABX型の基本組成を有し、式中、AおよびBは、この第1の層および第2の層のカチオン部位を主に占める元素であり、これに対応して、元素AおよびBのうちの少なくとも1つは遷移金属であり、Xは、アニオン部位を主に占めるアニオン元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状構造を有する超伝導体に関する。より具体的には、本発明は、高温超伝導体(HTSC)、およびHTSCで使用される材料に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導体は、液体ヘリウムの非常な低温まで冷却した後にのみ超伝導特性 − 完全な電気伝導率および完全な反磁性 − を理想的に呈する元素または化合物である。転移温度Tは、その温度よりも低温で材料が超伝導体として振る舞い始める温度であるが、この転移温度Tは、材料特異的である。高温超伝導体は、従来の超伝導体に勝る明らかな恩恵のため、非常に重要である。最もよく知られたHTSC材料は、液体窒素の温度の付近の、またはそれより高い転移温度を有し、このため、材料の冷却のために、より高価な液体ヘリウムの代わりに液体窒素の使用が可能になる。
【0003】
HTSCの1つの典型的な応用例は、超伝導量子干渉素子(Superconducting Quantum Interference device、SQUID)であり、これは、非常に弱い磁界を検出することができ、磁気共鳴画像法(MRI)などの医学的応用ですでに使用されている。加えて、核磁気共鳴(NMR)装置において特徴的に採用される超伝導磁石は、磁石のオーム加熱を解消するHTSCの利用から恩恵を受ける。磁気浮上物体(Magnetic Levitated Car、MagLev)は、次世代の交通システムであり、これは、持ち上げおよび推進のために非常に多数の磁石からの磁気浮上を使用する。あまり高価ではない液体窒素で冷却されるHTSC磁石の使用により、この装置は、非超伝導磁石よりも少ないエネルギーを消費することになり、従って費用効率が高くなる。HTSCを使用して電気を送るためのエネルギー損失がゼロの電力線も、例えば日立電線(Hitachi Cables)および住友電気工業(Sumitomo Electric)によって開発中である。
【0004】
現在、いくつかの結晶構造だけがHTSCの中に存在し、そのうちのいくつかは、ペロブスカイト構造に基づく。通常は少なくとも4つの、特殊(exotic)であることが多い、成分を含むYBaCuおよびBiSrCaCuなどの公知のHTSC材料の複雑な結晶構造のため、公知のHTSCは、かなり複雑で、製造するのに費用がかかる。この高い工費は、工業用途、例えば薄膜におけるHTSCの使用を減少させる。HTSC構造の複雑さ自体も、HTSC構造を利用する応用例全体、例えば高品質膜、の製造を困難にする。加えて、Hg、TlおよびAsのような現在のHTSCで使用される元素のうちのいくつかは、有害で有毒であり、このことが、HTSCの商業的な使用を制限することが多い。有毒な元素の利用は、例えば、欧州連合によって2003年に採択されたRestriction of Hazardous Substances(RoHS)指針によって制約を受ける。
【0005】
超伝導体の転移温度が、超伝導体の結晶構造の中の酸素の量に相関するということは周知である。1つの例は、広く研究されているHTSCであるYBaCu7−δ(YBCO)である。この材料の転移温度Tは、酸素含有量、すなわちパラメータδに依存する。その構造は、斜方晶系の単位格子の寸法(a=3.83Å、b=3.88Å、c=11.68Å)によって与えられ、表1に列挙される。δ=1であるとき、Cu(1)層の中のO(1)部位は空であり、その構造は正方晶系である。YBCOの正方晶系の形態は絶縁性であり、超伝導特性を呈しない。酸素含有量が増加するにつれて、O(1)部位のうちのより多くが占有された状態になる。δが約0.07でありかつO(1)部位のすべてが占有され、空格子点がほとんどない場合に、最適の超伝導特性が起こる。それゆえ、この材料の酸素含有量の改変は、YBaCu7−δが、とりわけ液体窒素の温度の付近またはそれより高い温度で超伝導特性を呈するために、きわめて重要である。
【0006】
【表1】

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高温超伝導体としても作用することができる、単純な構造化された超伝導体の新規な群を提供することにより、超伝導体の開発を促すことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超伝導体は、請求項1に開示されるものによって特徴づけられる。本発明に係る材料の使用は、請求項7に開示されるものによって特徴づけられる。
【0009】
本発明は、超伝導体および超伝導体における材料の使用に焦点を当てる。当業者にとっては周知のとおり、超伝導体は、転移温度とも呼ばれる、いわゆる臨界温度Tよりも低い温度で、ほとんど完全な電気伝導率およびほとんど完全な反磁性を示す材料を意味する。ほとんど完全な電気伝導率は、温度が低下するにつれて連続的に減少する磁束線の熱運動のため、超伝導体の電気抵抗は必ずしもゼロに到達しないということを意味する。ほとんど完全な反磁性は、超伝導体において、外部場が磁束線の形で材料の中へと部分的に浸透することができるという事実を考慮したものである。どの程度これが起こるかは、温度、外部磁界および材料に依存し、反磁性は完全ではないという事実に終わる。高温超伝導体HTSCは、本願明細書中では、約25K以上の臨界温度を有する超伝導体を意味する。
【0010】
本発明の超伝導体は、各層がアニオンによって取り囲まれたカチオンのネットワークを含む交互に積層された第1の層および第2の層を含む材料を含む。層状結晶構造は、YBaCuおよびBiSrCaCuおよび最近発見されたLaO1−yFeAsのような公知の超伝導体およびHTSC材料に共通の特徴である。しかしながら、本質的な差異として、本発明によれば、当該超伝導体は、イルメナイト結晶構造ならびにABX型(式中、AおよびBは、第1の層および第2の層のカチオン部位を主に占める元素であり、これに対応して、元素AおよびBのうちの少なくとも1つは遷移金属であり、Xは、アニオン部位を主に占めるアニオン元素および/または負に帯電した分子である)の一般組成を有する材料を含む。
【0011】
このイルメナイト型結晶構造として組織化されるために、カチオン部位は、ほぼ同じサイズのイオン半径を有する元素によって占められる必要があり、しかも八面体の部位を占める必要がある。それゆえ、好ましくは、上記カチオンのイオン半径の組成加重平均は1Å未満である。ここで、カチオンは、当該材料のカチオン部位を占める原子であり、組成加重平均は、カチオン部位A(A−カチオン)およびB(B−カチオン)を主に占める元素について別々に算出される。なぜなら、平均A−カチオン半径は、平均B−カチオン半径と同程度であるべきだからである。A−カチオンの組成加重平均イオン半径は、各カチオン元素の分率に当該元素のイオン半径を乗算し、A−部位を占めるすべてのカチオンタイプにわたってその積を加算することにより算出され、B−カチオンの組成加重平均カチオン半径は、同様にして算出される。
【0012】
従って、イルメナイト化合物のA−カチオン部位が40%の、0.80Åのイオン半径を有するカチオンおよび60%の、0.70Åのイオン半径を有するカチオンによって占められる場合、組成加重平均A−部位カチオン半径は0.74Åである。同じ化合物が、50%の、B−部位が0.70Åのイオン半径を有するカチオンによって占められ、25%が0.76Åのイオン半径を有するカチオンによって占められ、25%が0.64Åのイオン半径を有するカチオンによって占められる場合、組成加重平均B−部位カチオン半径は0.74Åである。この例では、平均のA−カチオン半径は、平均B−カチオン半径に近い。
【0013】
カチオン部位を占めるAおよびB元素のうちのいずれかまたは両方の平均サイズが大きくなれば、結晶構造は変化する。1つの例は、同様にABXの化学量論を有するペロブスカイト構造である。AカチオンがBカチオン元素よりもはるかに長い結合長および高い配位数を必要とする場合、一般に、材料は、ペロブスカイト構造として組織化する。これは、ペロブスカイト構造を有するBaTiOによって示される。
【0014】
イルメナイト結晶構造は、第1には、鉱物のイルメナイトFeTiOに因んで名付けられた構造であって、構造の空間群対称性はR−3である構造を意味する。しかしながら、本願明細書中では、イルメナイトは、空間群対称性R−3cを有するコランダムAlに因んで名付けられた、密接に関連するコランダム結晶構造も包含するより一般的な定義として、使用される。現実に、コランダムは、イルメナイトのより一般的な定義の特別の場合と考えることができる。そして、当業者には公知のように、これらの2つの結晶構造は、1つのイルメナイト−コランダム構造として分類されることが多い。実際に、これらの2つのわずかに異なる結晶構造は、x線回折に基づく従来の結晶構造決定技術によっては区別することさえできない。イルメナイト構造を六回対称軸という点で特定することが一般的かつ簡便な実務であり、本願明細書ではこの慣習を採用する。
【0015】
イルメナイトおよびコランダム構造の両方は、交互の第1および第2のカチオン元素 − アニオン元素層を含み、この交互の第1および第2のカチオン元素 − アニオン元素層の各々は、六方晶系のc結晶軸に沿って積層されたカチオン元素(M) − アニオン元素(O)の八面体のMOのブロックからなる。カチオン元素AおよびBは、典型的には金属であり、アニオン元素は典型的には酸素である。さらに、イルメナイトの定義は、本願明細書中では、AおよびBカチオン部位のうちの少なくとも1つが少なくとも2つの異なる元素によって統計的に占められる場合も包含することを意味する。この種の材料では、結晶の対称性は、上記異なる元素の元の材料と比較して、わずかに改変されていてもよい。
【0016】
一般組成および主たる占有は、当該材料の化学量論が上記ABXからある程度は外れてもよいということを意味する。例えば、すべてのカチオンまたはアニオン部位が占有されていなくてもよく、1つの空の部位(空格子点部位と呼ばれる)、または複数の空の部位(空格子点)が存在してもよい。これは、化学量論の変化に相当する。特に、アニオン部位を主に占めるアニオンの含有量は、アニオン元素とカチオン元素との間の正確な比3:1:1から増減することが好ましい。上ですでに記載したように、カチオン部位も、AおよびBとは別のいくつかの他の元素および/または分子によって部分的に占められてもよい。換言すれば、上記主たる占有は、上記部位の過半数(必ずしも全部である必要ない)が上記元素によって占有されているということを意味する統計的な表現である。一般組成ABXの1つの特定のバリエーションとして、この2つの層のタイプのカチオン元素AおよびBは、A型の一般組成を有するコランダム結晶構造と同じ材料であることもできる。当該材料の正確な組成を適性に選択することにより、その材料の超伝導特性および他の特性を調整することができる。
【0017】
イルメナイト構造の1つの特別な場合は、LiNbOに因んで名付けられたいわゆるニオブ酸リチウム構造である。このニオブ酸リチウム構造では、占有されている八面体の部位は、イルメナイトにおける部位と同じである。しかしながら、AおよびBカチオンが交互層へと分離(segregation)しているのではなく、ニオブ酸リチウム構造の中の各層は、両方の化学種を等しい割合で含有する。この特徴は、2つの酸素を介して別の同様のカチオンへと橋かけされているカチオンはないということを特徴づける。
【0018】
本発明に係る材料は上記材料組成および構造に関する基本的な条件を満たすが、この本発明に係る材料は、基本の製造プロセス後に、そのままで超伝導特性を有するとは限らない。しかしながら、非超伝導性のイオン性酸化物材料を超伝導材料に切り替えるために、基本単位格子(primitive cell)あたりの電子の数は、その数が整数ではないように、改変されることになるということは、当業者にとっては周知である。これは、非超伝導材料のカチオンまたはアニオンを他の元素、分子または空格子点で置き換えることにより成し遂げることができる。この手順はドーピングとして知られており、非超伝導材料に加えられる元素、分子または空格子点はドーパントとして知られている。このドーパントは、非超伝導材料の中の格子間部位を占めることもできるし、または移動性であってさえもよく、後者は、ドーパントが水素またはリチウム原子である場合に多い。カチオンまたはアニオンが電子を化合物に(より正確に言えば、伝導帯に)与える元素によって置き換えられる場合、その元素は、電子ドナーと呼ばれる。ドナーは、電子ドーピングのために使用することができる。例えば、MnTiOにおいてバナジウムがTiを置き換える場合、バナジウムはドナーである。カチオンまたはアニオンが正孔を化合物に(より正確に言えば、価電子帯に)与える元素によって置き換えられる場合、その元素は、アクセプターと呼ばれる。アクセプターは、正孔ドーピングのために使用することができる。例えば、MnTiOにおいてCrがMnを置き換える場合、Crはアクセプターである。不純物原子は、その不純物原子が置き換える原子と周期表の同じ縦列に由来するとき、等電子的と呼ばれる。例えば、MnTiOにおいてZrがTiを置き換える場合、Zrは等電子不純物である。このように、ドーパントは、電子ドーピングおよび/または正孔ドーピングのために使用することができる。
【0019】
上で説明したように、特定の転移温度未満で超伝導特性を呈するために、イルメナイト型結晶構造を有する本発明に係る材料が、最初に改変されるものとする。これは、ドーピングにより、すなわち制御された欠陥を材料に導入すること(これにより、その材料の化学量論またはその材料の層の中の応力が変わる)により、成し遂げることが可能である。このような欠陥は、当該材料の結晶構造の中に挿入された、例えば水素、リチウム、ナトリウムまたは元素の周期表の1族に属する他の原子であることができる。欠陥は、他の原子状物質または分子性物質(OHなど)も含んでよい。
【0020】
制御された欠陥を導入することにより超伝導特性を成し遂げるように材料特性を変えることは、当該技術分野で周知の実務であり、YBaCu7−δ(YBCO)が周知の例である。しかしながら、材料を超伝導性にするようにこのような欠陥をイルメナイト型結晶構造に導入することは、当該技術分野ではこれまで公知ではなく、しかもイルメナイト型結晶構造を有する超伝導体は公知ではない。イルメナイト型結晶構造を有する材料に導入される特定の欠陥(この例は、上に提示されている)により、その材料が超伝導特性を呈するようにできるということは、本発明者らの驚くべき発見である。さらなる利点として、イルメナイト型結晶構造を有しかつ特定の制御された欠陥を導入することにより改変された材料は、HTSCとしても振る舞う。
【0021】
材料の化学量論を変えることは、例えば、還元性ガス雰囲気中もしくは真空中または酸素ゲッター(金属のTiもしくはTaなど)を具えた密封された石英管中でのアニーリングプロセスを通して実施することもできる。熱処理によって材料の酸素含有量は減り、これが、材料の組成を変え、その材料を超伝導体へと変える。熱処理は、酸素含有量を増やすためにも使用することができ、これは、酸素ガスフロー下で試料をアニーリングすることにより行うことができる。改質プロセスの詳細は、対象の材料に応じて変わる。
【0022】
本発明は、上記イルメナイト型結晶構造が、先行技術の解決策と比較して明らかに単純な組成および製造プロセスを用いて超伝導体を生成することを可能にするという、本発明者らによる驚くべき発見に基づく。組成および製造の単純さは、有用な物性 − ゼロまたはほぼゼロの電気抵抗および反磁性 − が現れる上限である転移温度の制御の容易さを通じ、特に有益である。加えて、本発明に係る超伝導体は、無毒でおよび比較的安価な材料のみからなることができ、このことは、超伝導体のために、新しい実用的応用のかなり広いバリエーションを開く。さらなる、非常に有利な特徴として、本発明は、高温超伝導性および強磁性を同時に示す材料を手にすることを可能にする。
【0023】
本発明の1つの実施形態では、Xは、以下のうちの1つの少なくとも1つを含む:N、P、As、O、S、F、Cl、Br、I、Se、Te、OH、CN、LiO、およびNO。元素周期表の15族〜17族の上記の非金属元素は、負に帯電したアニオンを形成するので、それらの非金属元素は、典型的にはアニオン部位を占める。これは、負に帯電した分子OH、CN、LiO、およびNOの場合にも当てはまり、これらの分子も負に帯電したアニオンを形成するので、これらは、典型的にはアニオン部位を占める。対照的に、金属または遷移金属は正に帯電したカチオンを形成する。加えて、これらの非金属元素のイオン半径は大きく、このことは、同じくさらにアニオン部位に有利に働く。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、アニオン部位を主に占める元素および/または負に帯電した分子は、少なくとも1つの他の元素および/または別の負に帯電した分子で少なくとも部分的に置き換えられる。換言すれば、アニオン部位を主に占める元素および/または分子は、アニオン部位を目下占める元素および/または分子以外の、いくつかの他の元素および/または分子によって部分的にまたは完全に置き換えられてもよい。元素および/または分子の間の正確なモル比は変わりうる。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、上記少なくとも1つの他の元素は、N、P、As、O、S、F、Cl、Br、I、Se、Teを含み;上記別の負に帯電した分子はOH、CN、LiO、およびNOを含む。本発明によれば、Xが酸素によって主に占められる場合では、酸素アニオンの少なくとも一部またはすべての酸素アニオンは、酸素以外の少なくとも1つの他の元素、例えばN、P、As、S、F、Cl、Br、I、Se、Te、ならびに/または負に帯電した分子、例えばOH、CN、LiO、およびNOによって置き換えることができる。Xがフッ素Fによって主に占められる場合、フッ素アニオンのうちの少なくとも一部またはすべてのフッ素アニオンは、フッ素以外の少なくとも1つの他の元素、例えばN、P、As、O、S、Cl、Br、I、Se、Te、ならびに/または負に帯電した分子、例えばOH、CN、LiO、およびNOによって置き換えることができる。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態では、Xは酸素である。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、Xは、酸素およびフッ素の両方を含む;正確なモルによる元素比は変わりうる。
【0027】
上記条件に係る層材料を形成する使用されうる元素の例は、例えば元素周期表の1族〜14族の中から見出すことができる。本発明の1つの好ましい実施形態では、当該超伝導体は、酸化チタンマンガンMnTiOである材料を含み、ここでOは、基本レベルの酸素含有量を意味するが、しかしながら、化学量論値の付近のOの変動量を包含する。本発明の別の実施形態では、当該超伝導体は、60Kの温度より上で超伝導特性を呈するために電子ドープおよび/または正孔ドープされている材料、を含む。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態では、当該超伝導体は、60Kの温度より上で超伝導特性を呈するために水素ドープおよび/またはLiドープされている材料、を含む。ここで、水素および/またはLi原子でドープされた材料は、上記原子がその材料の構造に挿入されかつ上記原子がカチオンまたはアニオン部位を置き換えるか、またはその材料の結晶構造の中の他の位置を占めるかのいずれかであることを意味する。本発明のさらに別の好ましい実施形態では、当該超伝導体は、水素ドープおよび/またはLiドープされた酸化チタンマンガンMnTiOである材料を含む。以下でより詳細に説明されるとおり、この基本組成を有する試料は、68K、またはこれよりも高い転移温度を有する超伝導特性を示した。この材料の試料は強磁性も同時に示したが、このことは、先行技術の超伝導体を用いては可能ではなかった。
【0029】
一般に、本発明に係る超伝導体は、当該分野で公知の任意の技術によって製造することができ、それらの技術の様々なバリエーションも当業者にとっては周知である。このように、製造プロセスについてのさらなる詳細な説明は、本願明細書では必要ではない。
【0030】
上記の実施形態の特徴は、任意の組み合わせで本発明に係る材料の中に存在することができる。
【0031】
本発明の、使用の態様によれば、上記定義に従う材料のいずれも、超伝導体の中で使用される。本発明の1つの態様によれば、超伝導体における、各層がアニオンによって取り囲まれたカチオンのネットワークを含む積層された第1の層および第2の層を含む材料の使用であって、当該材料はイルメナイト結晶構造を有し;およびこの材料はABX型の一般組成を有し、ここでAおよびBは第1の層および第2の層のカチオン部位を主に占める元素であり、これに対応して、元素AおよびBのうちの少なくとも1つは遷移金属であり、Xは、アニオン部位を主に占めるアニオン元素であることを特徴とする使用が提供される。上記の本発明のすべての好ましい実施形態は、本発明の使用の態様にも当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下では、本発明の1つの好ましい実施形態が、水素ドープされたMnTiO試料についての測定結果を示す添付の図面を参照してより詳細に説明される。
【図1】ゼロ磁界中で冷却された(zero field cooled)試料および磁界中で冷却された(field cooled)試料の磁化率の温度依存性を示す特徴的なグラフである。
【図2】室温における、試料のX線粉末回折パターンを示す特徴的なグラフである。
【図3】異なる温度における、印加した磁界の磁化依存性を示す特徴的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の1つの実施形態として、1:1モル比の化学量論量のMnOおよびTiO粉末を瑪瑙乳鉢の中で最初に混合することにより、水素ドープされた酸化チタンマンガンの試料を調製した。その後、混合した粉末をペレットへとプレスした。次に、このペレットを、箱形炉の中で、1000℃で6時間予熱した。予熱したペレットを管状炉の中でアニーリングし、その後、このペレットを粉砕し、粉末をTi金属粉末と混合し、10% H、90% Ar雰囲気中で1000℃で12時間アニーリングした。結果として、この材料中の酸素含有量は下がり、水素が当該構造の中へと挿入され、68K以上の転移温度を有する超伝導体材料を得た。
【0034】
本発明の別の実施形態として、1:1モル比の化学量論量のMnOおよびTiO粉末を瑪瑙乳鉢の中で同様に混合することにより、水素ドープされた酸化チタンマンガンの試料を調製し、この後、この混合した粉末をペレットへとプレスした。次に、このペレットを、箱形炉の中で、1000℃で6時間予熱した。その後、このペレットを、管状炉の中で、10% H、90% Ar雰囲気中で、1000℃で12時間アニーリングした。結果として、この材料中の酸素含有量は下がり、水素が当該構造の中へと挿入され、82K以上の転移温度を有する超伝導体材料を得た。
【0035】
本発明の1つの実施形態として、1:1モル比の化学量論量のMnOおよびTiO粉末を瑪瑙乳鉢の中で同様に混合することにより、Liドープされた酸化チタンマンガンの試料を調製し、この後、この混合した粉末をペレットへとプレスした。このペレットを、0.1mol/lのLiOH水溶液の中にさらに浸し、この後、管状炉の中で、300℃で1時間乾燥した。あるいは、ペレットをLiOH水溶液の中に浸す代わりに、予熱した粉末をLiCO粉末と混合し、その後、真空炉の中でアニーリングした。
【0036】
図1には、磁界中で冷却した状態で測定した(FC)およびゼロ磁界中で冷却した後に測定した(ZFC)、低下した酸素含有量を有する水素ドープしたMnTiO試料の、温度に対する磁化率の依存性を示す。図1に示すように、磁化率はT=68Kで減少し始める。Tよりも低い温度で、磁化率は負であり、この材料は反磁性となり、これは、超伝導性の強力な証拠である。1エルステッドの一定磁界をこの測定で印加した。
【0037】
図2には、室温における、研究した試料のX線粉末回折パターンを示す。このパターンは、試料の同定のために得たもので、その試料の基本組成はMnTiOと同定された。図2では、チェックマークは、イルメナイト相からのBragg反射に相当し、矢印は、試料ホルダーからの反射を示す。
【0038】
図3には、印加した磁界に対する、磁化の依存性を示す。これらの測定値は、T=68Kの上下の4つの異なる温度で取得した;T=100K、T=80K、T=60KおよびT=5Kにて。T=68よりも低い温度で取得した測定データ上で観察されたヒステリシスループは、研究した試料である水素ドープされたMnTiOは強磁性であることを確認する。
【0039】
下記の表2は、熱処理の詳細の変化が水素ドープされたMnTiOの超伝導特性にどのように影響を及ぼすかを示す。これらの結果は、プロセスパラメータの適正な選択によって材料の正確な超伝導特性を制御可能に調整するという有用な可能性を示す。試料1および2の調製経路間の差は、過剰のTiを、熱処理の前に試料1の出発物質に加えたということである。
【0040】
【表2】

【0041】
当業者には明確であるとおり、本発明は上記の例に限定されないということに留意することは重要である。本発明の現実の実施形態は、特許請求の範囲の範囲内で自在に変わりうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各層がアニオンによって取り囲まれたカチオンのネットワークを含む積層された第1の層および第2の層を含む材料を含む超伝導体であって、
前記材料はイルメナイト結晶構造を有し、
前記材料は、ABX型の一般組成を有し、式中、AおよびBは、前記第1の層および前記第2の層のカチオン部位を主に占める元素であり、これに対応して、前記元素AおよびBのうちの少なくとも1つは遷移金属であり、Xは、アニオン部位を主に占めるアニオン元素および/または負に帯電した分子である
ことを特徴とする超伝導体。
【請求項2】
前記カチオンのイオン半径の組成加重平均は、1Å未満である、請求項1に記載の超伝導体。
【請求項3】
Xは、N、P、As、O、S、F、Cl、Br、I、Se、Te、OH、CN、LiO、およびNOのうちの少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2に記載の超伝導体。
【請求項4】
前記材料は酸化チタンマンガンMnTiOである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超伝導体。
【請求項5】
前記材料は、電子ドープおよび/または正孔ドープされている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超伝導体。
【請求項6】
前記材料は、水素ドープおよび/またはLiドープされている、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超伝導体。
【請求項7】
超伝導体における、各層がアニオンによって取り囲まれたカチオンのネットワークを含む積層された第1の層および第2の層を含む材料の使用であって、
前記材料はイルメナイト結晶構造を有し、
前記材料は、ABX型の一般組成を有し、式中、AおよびBは、前記第1の層および前記第2の層のカチオン部位を主に占める元素であり、これに対応して、前記元素AおよびBのうちの少なくとも1つは遷移金属であり、Xは、アニオン部位を主に占めるアニオン元素であること
を特徴とする、使用。
【請求項8】
前記カチオンのイオン半径の組成加重平均は1Å未満である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
Xは、N、P、As、O、S、F、Cl、Br、I、Se、Te、OH、CN、LiO、およびNOのうちの少なくとも1つを含む、請求項7または請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記材料は酸化チタンマンガンMnTiOである、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記材料は、電子ドープおよび/または正孔ドープされている、請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記材料は水素ドープおよび/またはLiドープされている、請求項7から請求項11のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−530678(P2012−530678A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516811(P2012−516811)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050544
【国際公開番号】WO2010/149860
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511312355)
【出願人】(511312366)
【Fターム(参考)】