説明

高温超電導コイル

【課題】 従来の樹脂含浸に代えて、瞬間接着剤を超電導コイルに塗布又は含浸することで、熱ひずみによる高温超電導線材の剥離をなくして超電導コイルの性能低下を防止することができる、高温超電導コイルを提供する。
【解決手段】 高温超電導線材1と絶縁層2を備える高温超電導コイルにおいて、瞬間接着剤3により前記高温超電導線材1の性能低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導コイルに係り、特に、瞬間接着剤塗布高温超電導コイル又は瞬間接着剤含浸高温超電導コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、RE(レアアース)系高温超電導線材は、磁場中における通電特性が優れていることから、超電導コイルへの応用が期待されている。
本出願人は、既に、RE系超電コイル伝導冷却方法及びその装置の提案を行っている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−035216号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「接着技術マニュアル」,著者:塚田邦夫、発行所 株式会社 テクノ、pp.25−33、46−53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械的な強度が必要な超電導コイルには樹脂含浸が行われている。しかしながら、RE系高温超電導線材は、引っ張り強度は高いものの、超電導層積層方向(剥離方向)には強度が低く、剥離による超電導コイルの性能低下が問題となる(上記特許文献1参照)。
図9は従来の樹脂含浸高温超電導コイルの部分断面図であり、図10は図9の樹脂含浸高温超電導コイルの熱収縮に伴う劣化を示す模式図である。
【0006】
図9に示すように、機械的強度を持たせるために、超電導線材101の間にエポキシ樹脂102の含浸が行われているが、エポキシ樹脂102は超電導線材101と比較して熱収縮率が大きいため、図10に示すように、超電導線材101間に収縮力が働くと、剥離103を生じる。
すなわち、樹脂材料は超電導線材に対して熱収縮率が大きく、エポキシ樹脂は強度が高いため、超電導線材間に収縮力が働くと、樹脂自体ではなく高温超電導線材の剥離が発生し、超電導コイルの性能低下を引き起こしてしまう。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて、従来の樹脂含浸に代えて、瞬間接着剤を超電導コイルに塗布又は含浸することで、熱ひずみによる高温超電導線材の剥離をなくして超電導コイルの性能低下を防止することができる、高温超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高温超電導線材と絶縁層を備える高温超電導コイルにおいて、瞬間接着剤により高温超電導コイルの性能低下を防止することを特徴とする。
〔2〕上記〔1〕記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が前記高温超電導線材に塗布されることを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が前記高温超電導線材に含浸されることを特徴とする。
〔4〕上記〔2〕記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が塗布された前記高温超電導線材にはさらにエポキシ樹脂が含浸されることを特徴とする。
〔5〕上記〔2〕記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が含浸された前記高温超電導線材にはさらにエポキシ樹脂が含浸されることを特徴とする。
【0010】
〔6〕上記〔4〕又は〔5〕記載の高温超電導コイルにおいて、前記高温超電導コイルがさらにコイル冷却板上に配置され、一体化されることを特徴とする。
〔7〕上記〔1〕から〔6〕の何れか一項記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤はシアノアクリレート系接着剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、以下のような効果を奏することができる。
(1)超電導コイルが熱ひずみを生じた場合に、高温超電導線材ではなく接着剤自体が剥離を起こすので、超電導コイルの性能低下を引き起こすことがない。
(2)瞬間接着剤は、真空含浸などを用いなくても塗布するだけで線材間に浸透するので、機械的強度の高い超電導コイルを簡易に作製することができる。
【0012】
(3)瞬間接着剤とエポキシ樹脂を二重含浸することで、コイル冷却板やコイルケースと超電導コイルを一体成型することができ、高い機械的強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例を示す高温超電導コイルの断面図である。
【図2】本発明の第2実施例を示す高温超電導コイルの断面図である。
【図3】本発明の第3実施例を示す二重含浸高温超電導コイルの断面図である。
【図4】本発明の第4実施例を示す二重含浸高温超電導コイルの断面図である。
【図5】試験対象高温超電導コイルの斜視図である。
【図6】従来の高温超電導コイルの通電試験結果(処理前のものと、エポキシ樹脂含浸したもの)を示す図である。
【図7】本発明による高温超電導コイルの通電試験結果(処理前のものと、瞬間接着剤を塗布したものと、さらにエポキシ樹脂を含浸したもの)を示す図である。
【図8】本発明による高温超電導コイルの通電試験結果(処理前のものと、瞬間接着剤を含浸したものと、さらにエポキシ樹脂を含浸したもの)を示す図である。
【図9】従来の樹脂含浸高温超電導コイルの部分断面図である。
【図10】図9の樹脂含浸高温超電導コイルの熱収縮に伴う劣化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の高温超電導コイルは、瞬間接着剤により高温超電導コイルの性能低下を防止するようにした。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す高温超電導コイルの断面図である。
この図において、1は高温超電導線材、2は高温超電導線材1の間に配置された絶縁層(ポリイミドフィルムもしくは絶縁紙)、3は高温超電導線材1の間に塗布された瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)である。
【0016】
なお、本発明に使用される瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)は、液状のモノマーが空気中あるいは被着体の表面のごく微量の水分によって瞬時に重合して接着能を発揮するものであり、接着力自体は強いものの剥離は容易であるという特徴がある。そのため、本発明の瞬間接着剤を用いた高温超電導コイルにおいては、コイルが熱ひずみを生じたことによって高温超電導線材ではなく瞬間接着剤自体が剥離を起こすため、超電導コイルの性能低下を引き起こすことがない。
【0017】
さらに、エポキシ(主剤)の粘性が例えば1〜50Pa・sであるのに比べて、本発明の瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)の粘性は、低粘度のものならば、2〜5×10-3Pa・sと極めて低い(上記非特許文献1参照)。そのため、エポキシ樹脂のように真空含浸をしなくとも、塗布するだけで超電導コイルの線材間に浸透するので、コイル製作工程が簡易になる。
【0018】
このように、本発明の第1実施例では、従来の樹脂に代えて瞬間接着剤を塗布することで超電導コイルの機械的強度を向上させることができる。
図2は本発明の第2実施例を示す高温超電導コイルの断面図である。
この図において、11は高温超電導線材、12は高温超電導線材11の間に配置された絶縁層(ポリイミドフィルムもしくは絶縁紙)、13は高温超電導線材11間に含浸された瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)である。
【0019】
この実施例では、高温超電導線材11間に瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)13を含浸するようにしたので、高温超電導線材11間に十分に接着剤が充填されることになり、超電導コイルの性能と機械的強度を更に向上させることができる。
図3は本発明の第3実施例を示す二重含浸高温超電導コイルの断面図である。
この図において、21は高温超電導線材、22は高温超電導線材21の間に配置された絶縁層(ポリイミドフィルムもしくは絶縁紙)、23は高温超電導線材21の間に塗布された瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)、24は高温超電導線材21の全体を覆うように含浸されたエポキシ樹脂、25はコイル冷却板である。
【0020】
このように、本発明の第3実施例では、上記第1実施例に加えて、エポキシ樹脂24の含浸を行うようにした。なお、高温超電導コイルはコイル冷却板25上に配置するようにした。
図4は本発明の第4実施例を示す二重含浸高温超電導コイルの断面図である。
この図において、31は高温超電導線材、32は高温超電導線材31の間に配置された絶縁層(ポリイミドフィルムもしくは絶縁紙)、33は高温超電導線材31に間に含浸された瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)、34は高温超電導線材31を覆うように含浸されたエポキシ樹脂、35はコイル冷却板である。
【0021】
このように、本発明の第4実施例では、上記第2実施例に加えて、エポキシ樹脂34の含浸を行うようにした。なお、高温超電導コイルはコイル冷却板35上に配置するようにした。
上記した第3、第4実施例のように、瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)が超電導線材間に入り込んだ状態では、エポキシ樹脂による含浸を行っても性能低下は起きない。このような二重含浸を行うことにより、コイル冷却板またはコイルケース(図示なし)と超電導コイルとを一体成型することができ、高い機械的強度を得ることができる。
【0022】
次に、本発明により得られた高温超電導コイルの性能を示すため、以下、高温超電導コイルの試験結果について説明する。
図5は試験対象高温超電導コイルの斜視図である。
この高温超電導コイルの仕様は、内径50mm、外径約60mm、巻回数40、超電導線材は希土類系高温超電導線材、線材幅4.2mm、線材厚み約0.1mm、層間絶縁材はポリイミドフィルム、厚み0.025mmである。
【0023】
図6は従来の高温超電導コイルの通電試験結果(処理前のものと、エポキシ樹脂含浸したもの)を示す図である。
この図において、横軸はコイル通電電流i〔A〕、縦軸は発生電圧v〔V〕、aは処理前のコイルの特性グラフ、bはエポキシ樹脂含浸後のコイルの特性グラフである。
この図6から、コイルをエポキシ樹脂含浸した場合、処理前のコイルに比べて、コイルの通電特性が低下してしまうことが分かる。
【0024】
図7は本発明による高温超電導コイルの通電試験結果(処理前のものと、瞬間接着剤を塗布したものと、さらにエポキシ樹脂を含浸したもの)を示す図である。
この図において、横軸はコイル通電電流i〔A〕、縦軸は発生電圧v〔V〕であり、cは処理前のコイルの特性グラフ、dは瞬間接着剤を塗布したものの特性グラフ(第1実施例に対応)、eはさらにエポキシ樹脂を含浸したものの特性グラフ(第3実施例に対応)である。
【0025】
この図7から、瞬間接着剤塗布処理、又はそれに加えてエポキシ樹脂の含浸処理を施しても、処理前のコイルに比べて、コイルの通電特性が損なわれないことが分かる。
図8は本発明による高温超電導コイルの通電試験結果(処理前のものと、瞬間接着剤を含浸したものと、さらにエポキシ樹脂を含浸したもの)を示す図である。
この図において、横軸はコイル通電電流i〔A〕、縦軸は発生電圧v〔V〕であり、fは処理前のコイルの特性グラフ、gは瞬間接着剤を含浸処理したものの特性グラフ(第2実施例に対応)、hはさらにエポキシ樹脂を含浸したものの特性グラフ(第4実施例に対応)である。
【0026】
この図8から、瞬間接着剤含浸処理、又はそれに加えてエポキシ樹脂の含浸処理を施しても、処理前のコイルに比べて、コイルの通電特性が損なわれないことが分かる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の高温超電導コイルは、瞬間接着剤により高温超電導コイルの性能低下を防止することができる高温超電導コイルとして利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1,11,21,31 高温超電導線材
2,12,22,32 絶縁層
3,23 塗布された瞬間接着剤
13,33 含浸された瞬間接着剤
24,34 含浸されたエポキシ樹脂
25,35 コイル冷却板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温超電導線材と絶縁層を備える高温超電導コイルにおいて、瞬間接着剤により高温超電導コイルの性能低下を防止することを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項2】
請求項1記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が前記高温超電導線材に塗布されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項3】
請求項1記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が前記高温超電導線材に含浸されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項4】
請求項2記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が塗布された前記高温超電導線材にはさらにエポキシ樹脂が含浸されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項5】
請求項2記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤が含浸された前記高温超電導線材にはさらにエポキシ樹脂が含浸されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項6】
請求項4又は5記載の高温超電導コイルにおいて、前記高温超電導コイルがさらにコイル冷却板上に配置され、一体化されることを特徴とする高温超電導コイル。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項記載の高温超電導コイルにおいて、前記瞬間接着剤はシアノアクリレート系接着剤であることを特徴とする高温超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55265(P2013−55265A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193472(P2011−193472)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)