説明

高温超電導線材およびそれを用いた高温超電導コイル

【課題】 断面が多角形状で臨界電流の角度依存性がない高温超電導線材及びそれを用いた高温超電導コイルを提供する。
【解決手段】 高温超電導線材において、中心部に形成される金属基材1と、この金属基材1の外側に形成される基材2と、この基材2の外側に形成される中間層3と、この中間層3の外側に形成される超電導層4と、この超電導層4の外側に形成される安定化層5と、この安定化層5の外側に形成される保護層6とを具備し、断面が多角形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流機器、例えばエネルギー貯蔵、磁場応用、変圧器、リアクトル、限流器、モータ、発電機等に用いる高温超電導線材及びそれを用いた高温超電導コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温超電導線材は、大電流容量化のため、多数本の高温超電導線材を用いて多並列導体を構成し巻線にするようにしている。
従来の高温超電導線材としては、六角形または十字形の横断断面を有する超電導線材が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−129617号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Super Power社(http://www.superpower−inc.com/system/files/2010 0315 Larbalestier+SP10th+Anniv.pdf)
【非特許文献2】先進超伝導線材の開発とその応用 熊倉 浩明 2009年1月16日、(http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/0902super/r0902 kumakura.html)
【非特許文献3】イットリウム(Y)系高温超電導線材プロセス開発、Focus NEDO Vol.3 No.12,pp.7−8,2003.12
【非特許文献4】「大型IBAD装置を用いたY系高温超電導線材向け中間層の線速の大幅な向上」,材料技術研究所 羽生 智 外10名,フジクラ技報,第116号、Vol.1,pp38−42(2009)
【非特許文献5】「TFA−MOD法による低コストYBCO線材の開発(7)−500級線材の開発−」、小泉勉 外12名、第79回 2008年度秋季低温工学・超電導学会、pp.115
【非特許文献6】住友電気工業株式会社:超電導Webサイト ビスマス系超電導線(http://www.sei.co.jp/super/hts/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のイットリウム系高温超電導線材(非特許文献1参照)の場合は、図9に示すように、テープ状の第1のCu部材(厚さ20μm)101上に、基材としての、例えば、一例としてハステロイ(登録商標)(Hastelloy)(厚さ50μm)102、IBAD MgO(約10nm)103aと、Homo−epi MgO(約30nm)103bと、LMO(約30nm)103cとからなるバッファ層103、高温超電導部材(厚さ1μm)104、Ag部材(厚さ2μm)105、第2のCu部材(厚さ20μm)106が順次積層されてテープ形状を形成している。このような従来のテープ形状の高温超電導線材は、結晶構造を作る必要があるためにテープ形状に形成されているので、高温超電導コイルを作成する場合には、パンケーキ型に形成せざるを得ないといった状況にあった。
【0006】
図10はかかる従来のイットリウム系高温超電導線材の問題点の説明図であり(非特許文献1〜3参照)、高温超電導線材に印加される外部磁界とこの高温超電導線材のc軸との角度(°)に対する臨界電流(A/4mm)特性図である。
この図10において、aは標準的なMOCVD法による高温超電導体テープの臨界電流値、bは目標とする臨界電流値であり、201は高温超電導体テープ、202はそのc軸を示している。なお、測定の雰囲気は77K,1Tであった。
【0007】
図10に示すように、従来の高温超電導線材における臨界電流は、外部磁界とc軸との角度が90°の場合は大きくとれるが、その他の角度では小さくなる。
このように、従来のテープ形状の高温超電導体線材の場合、臨界電流に磁場の角度依存性が生じるといった問題があった。
本発明は、上記状況に鑑みて、断面が多角形状で臨界電流の角度依存性がない高温超電導線材及びそれを用いた高温超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高温超電導線材において、中心部に形成される金属基材と、この金属基材の外側に形成される基材と、この基材の外側に形成される中間層と、この中間層の外側に形成される超電導層と、この超電導層の外側に形成される安定化層と、この安定化層の外側に形成される保護層とを具備し、断面が多角形状を有することを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の高温超電導線材において、前記金属基材の断面形状が四角形状であり、この金属基材の四角形状のそれぞれの外周部分に前記基材が積層され、この基材の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、この基材の四角形状のそれぞれの外周部分に前記中間層が積層され、この中間層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、この中間層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記超電導層が積層され、この超電導層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、この超電導層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記安定化層が積層され、この安定化層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、この安定化層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記保護層が積層され、この保護層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成されたことを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔1〕記載の高温超電導線材において、前記金属基材の断面形状が六角形状であり、この金属基材の六角形状のそれぞれの外周部分に前記基材が積層され、この基材の外周形状が六角形状であり、この基材の六角形状のそれぞれの外周部分に前記中間層が積層され、この中間層の外周形状が六角形状であり、この中間層の六角形状のそれぞれの外周部分に前記超電導層が積層され、この超電導層の外周形状が六角形状であり、この超電導層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記安定化層が積層され、この安定化層の外周形状が六角形状であり、この安定化層の六角形状のそれぞれの外周部分に前記保護層が積層され、この保護層の外周形状が六角形状となるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
〔4〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載の高温超電導線材において、前記金属基材が第1のCu部材、前記基材がハステロイ(Hastelloy)部材又はNi−W合金部材、前記中間層が前記超電導層の結晶粒の方位を揃えるために自ら二軸配向している部材、前記超電導層が希土類元素からなるRE系超電導層、前記安定化層がAg部材、前記保護層が第2のCu部材からなることを特徴とする。
【0012】
〔5〕上記〔1〕、〔2〕又は〔3〕記載の高温超電導線材において、前記金属基材がハステロイ(Hastelloy)部材又はNi−W合金部材からなることを特徴とする。
〔6〕上記〔4〕記載の高温超電導線材において、前記超電導層の結晶粒の方位を揃えるために自ら二軸配向している部材がMgO/Homo−epiMgO/LMO(LaMnO3 )、又はY2 3 /YSZ/CeO2 、GZO(Gd2 Zr2 7 )/CeO2 、MgO/LMO(LaMnO3 )/CeO2 であることを特徴とする。
【0013】
〔7〕上記〔4〕記載の高温超電導線材において、前記RE系超電導層がREBa2 Cu3 x からなることを特徴とする。
〔8〕上記〔1〕から〔6〕の何れか一項記載の高温超電導線材において、前記超電導層がYBCO部材からなることを特徴とする。
〔9〕上記〔1〕から〔6〕の何れか一項記載の高温超電導線材において、前記超電導層がビスマス系超電導層であることを特徴とする。
【0014】
〔10〕上記〔1〕から〔9〕の何れか一項記載の高温超電導線材において、臨界電流に磁場依存性のある高温超電導部材を用いて臨界電流に磁場の角度依存性のない高温超電導線材を得ることを特徴とする。
〔11〕高温超電導コイルであって、上記〔1〕から〔10〕の何れか一項記載の高温超電導線材を用いて得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、断面が多角形状で臨界電流の角度依存性がない高温超電導線材及びそれを用いた高温超電導コイルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例を示す高温超電導線材の断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す高温超電導線材の製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す高温超電導線材の断面図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す高温超電導線材の製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の第3実施例を示す高温超電導線材の断面図である。
【図6】本発明の第3実施例を示す高温超電導線材の製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の第4実施例を示す高温超電導線材の断面図である。
【図8】本発明の第4実施例を示す高温超電導線材の製造工程を示す断面図である。
【図9】従来のイットリウム系超電導線材を示す断面斜視図である。
【図10】従来のイットリウム系高温超電導線材の問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の高温超電導線材は、中心部に形成される金属基材と、この金属基材の外側に形成される基材と、この基材の外側に形成される中間層と、この中間層の外側に形成される超電導層と、この超電導層の外側に形成される安定化層と、この安定化層の外側に形成される保護層とを具備し、断面が多角形状を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す高温超電導線材の断面図、図2はその製造工程を示す断面図である。
本発明の高温超電導線材は、中心部に形成される金属基材(第1のCu部材)と、この金属基材の外側に形成される基材〔ハステロイ(登録商標)部材又はNi−W合金部材〕と、この基材の外側に形成される中間層(Y2 3 /YSZ/CeO2 )と、この中間層の外側に形成される超電導層〔RE(Rare Earth:希土類元素)Ba2 Cu3 x 、YBCO部材、ビスマス系超電導層)と、この超電導層の外側に形成される安定化層(Ag部材)と、この安定化層の外側に形成される保護層(第2のCu部材)とを具備することを特徴とする。
【0019】
図1において、1は中心部に形成される断面が四角形状の金属基材(第1のCu部材)、また、ハステロイ(登録商標),又はNi−W合金部材でもよい。2はこの金属基材1の外側に形成される基材、例えば、ハステロイ(登録商標),又はNi−W合金部材、3はこの基材2の外側に形成される中間層(Y2 3 /YSZ/CeO2 )、4はこの中間層3の外側に形成される超電導層(例えば、REBa2 Cu3 x ,YBCO部材,ビスマス系超電導層、5は超電導層4の外側に形成される安定化層(Ag部材)、6はこの安定化層の外側に形成される保護層(第2のCu部材)である。
【0020】
なお、基材2としてのハステロイ(登録商標)は、主にニッケル基にモリブデンやクロムを多く加えることで耐食性や耐熱性を高めた合金であり、モリブデンやクロム、鉄などの成分量の違いによって、ハステロイBやハステロイCなどの種類に分かれている。析出硬化型のニッケル基合金に属し、耐酸化性や耐熱性が高い金属であるため、腐食性環境や高温環境での使用に適している。
【0021】
まず、図2(a)に示すように中心部に第1のCu部材1を成形する。次いで、図2(b)に示すように、第1のCu部材1の外周面に基材2としてのハステロイ(登録商標)を組織変形(Deformation texturing)により成形する。次いで、図2(c)に示すように、基材2の外周面に例えば、Y2 3 /YSZ/CeO2 の中間層3を形成する。この中間層3の製法としては、例えば、以下の(1)〜(3)のような製法を用いることができる。(1)化学反応を用いた気相成長法(CVD法):加熱した基板物質上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面あるいは気相での化学反応により膜を堆積する。(2)スパッタリング法:ターゲット(物質)にArなどの不活性な物質を高速で衝突させると、ターゲット表面で原子や分子と衝突し、さまざまな現象が発生する。この現象の内で、ターゲットを構成する原子や分子が叩き出される過程をスパッタリングといい、この叩き出された原子や分子を基板上に付着させて薄膜を形成する。(3)IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法(非特許文献4参照):スパッタリング法で成膜する際に斜めからビームを同時に照射することにより、中間層の結晶方向が揃うように成膜させる。なお、より詳細には、SuperPower社では、IBAD法によるMgO/Homo−epiMgO/LMO(LaMnO3 )、AMSC社では、Y2 3 /YSZ(yttria−stabilized zirconia)/CeO2 、そのほかにGZO(Gd2 Zr2 7 )/CeO2 、IBAD法によるMgO/LMO(LaMnO3 )/CeO2 の組み合わせも用いることができる。
【0022】
次に、図2(d)に示すように、中間層3上に超電導層4を形成する。その超電導層4の製法としては、例えば、(1)PLD(Pulse Laser Deposition)法:ターゲット上にパルスレーザを照射して、原料を昇華してターゲットに対向して配置されている基材上に飛散、堆積させる方法や(2)TFA−MOD(Trifluoroacetate−Metal Organic Deposition)法(上記非特許文献5参照):有機金属塩熱分解法と呼び、RE系が含まれたTFA溶液を線材に塗布後、熱処理を加えることによりRE系超電導層を成膜する方法、のいずれかを用いることができる。
【0023】
そして、図2(e)に示すように、この超電導層4上にDCスパッタリングにより安定化層(Ag部材)5を成膜し、最後に、図2(f)に示すように、安定化層(Ag部材)5上に保護層(第2のCu部材)6を形成する。
図3は本発明の第2実施例を示す高温超電導線材の断面図、図4はその製造工程を示す断面図である。
【0024】
図3において、11は中心部に形成される断面が四角形状の金属基材としての第1のCu部材、また、ハステロイ(登録商標)、又はNi−W合金部材でもよい。12は第1のCu部材11の外周部分に形成される基材、例えば、ハステロイ(登録商標)、又はNi−W合金部材であり、この基材12の断面の外周が四角形状となるように形成する。13はこの基材12の四角形状の外周の各辺に積層される中間層であり、この中間層13の断面の外周が四角形状となるように形成する。14はこの中間層13の四角形状の外周の各辺に積層される超電導層としての超電導材であり、この超電導部材14の断面の外周が四角形状となるように形成する。15はこの超電導部材14の四角形状の外周の各辺に積層される安定層としてのAg部材であり、このAg部材15の断面の外周が四角形状となるように形成する。16はこのAg部材15の四角形状の外周の各辺に積層される保護層としての第2のCu部材である。また、17は積層した部材11〜16の四隅を埋め込むように形成される保護層としての第3のCu部材であり、この第3のCu部材17によって、高温超電導線材全体の断面が四角形状となるように構成される。
【0025】
まず、図4(a)に示すように、中心部に断面が四角形状の第1のCu部材11を成形する。次いで、図4(b)に示すように、第1のCu部材11の外周部分にマスク(図示なし)をして、断面が四角形状の第1のCu部材11の外周面に凸形状の基材12を形成する。同様に、図4(c)に示すように、この凸形状の基材12の上面にマスク(図示なし)をして凸形状の中間層を積層して凸形状の中間層13を形成する。次いで、図4(d)に示すように、この凸形状の中間層13の上面にマスク(図示なし)をして超電導層を積層して凸形状の超電導層としての超電導部材14を形成する。次いで、図4(e)に示すように、この超電導部材14の上面にマスク(図示なし)をして安定化層としてのAg部材を積層して凸形状のAg部材15を形成する。次いで、図4(f)に示すように、この凸形状のAg部材15の上面に保護層としての第2のCu部材を積層して凸形状の第2のCu部材16を成形する。次いで、図4(g)に示すように、四隅の空間部に保護層としての第3のCu部材17を形成して、高温超電導線材全体の断面が四角形状となるように構成する。
【0026】
図5は本発明の第3実施例を示す高温超電導線材の断面図、図6はその製造工程を示す断面図である。
図5において、21は中心部に形成される断面が六角形状の金属基材としての第1のCu部材、また、ハステロイ(登録商標)、又はNi−W合金部材でもよい。22は第1のCu部材21の外周部分に形成される基材、例えば、ハステロイ(登録商標)、又はNi−W合金部材であり、この基材22の断面の外周が六角形状となるように形成する。23はこの基材22の六角形状の外周の各辺に積層される中間層であり、この中間層23の断面の外周が六角形状となるように形成する。24はこの中間層23の六角形状の外周の各辺に積層される超電導層としての超電導部材であり、この超電導部材24の断面の外周が六角形状になるように形成する。25はこの超電導部材24の六角形状の外周の各辺に積層される安定化層としてのAg部材であり、このAg部材25の断面の外周は断面形状が六角形状となるように形成する。26はこのAg部材25の六角形状の外周の各辺に積層される保護層としての第2のCu部材であり、このCu部材26は断面の外周が六角形状となるように形成する。
【0027】
まず、図6(a)に示すように中心部に断面が六角形状の金属基材としての第1のCu部材21を成形する。次いで、図6(b)に示すように、第1のCu部材21の外周部分に基材22を積層する。次いで、図6(c)に示すように、この基材22の外周面に中間層23を積層する。次いで、図6(d)に示すように、この中間層23の外周面に超電導層としての超電導部材24を積層する。次いで、図6(e)に示すように、この超電導部材24の外周面に安定化層としてのAg部材25を積層する。次いで、図6(f)に示すように、このAg部材25の外周面に保護層としての第2のCu部材26を成形し、全体の断面が六角形状の高温超電導線材を形成する。
【0028】
図7は本発明の第4実施例を示す高温超電導線材の断面図、図8はその製造工程を示す断面図である。
図7において、31は中心部に形成される断面が六角形状の金属基材としての第1のCu部材、また、ハステロイ(登録商標)又はNi−W合金部材でもよい。32はこの第1のCu部材31の六角形状の外周の各辺にマスク(図示なし)をして基材を積層して形成される凸形状の基材、例えば、ハステロイ(登録商標)又はNi−W合金部材、33はこの凸形状の基材32の上面にマスク(図示なし)をして凸形状の中間層を積層して形成される凸形状の中間層、34はこの凸形状の中間層33の上面にマスク(図示なし)をして超電導層としての超電導部材を積層して形成される凸形状の超電導部材、35はこの超電導部材34の上面にマスク(図示なし)をして安定化層としてのAg部材を積層して形成される凸形状のAg部材、36はこの凸形状のAg部材35の上面にマスク(図示なし)をして保護層としての第2のCu部材を積層して形成される凸形状の第2のCu部材である。また、37はマスク(図示なし)をして六隅を埋め込むように形成される保護層としての第3のCu部材である。この高温超電導線材は、断面形状が全体的に六角形状となるように形成する。
【0029】
まず、図8(a)に示すように、中心部に断面が六角形状の金属基材としての第1のCu部材31を成形する。次いで、図8(b)に示すように、第1のCu部材31の外周部分にマスク(図示なし)をして、第1のCu部材31の外周面に第1の基材を積層して凸形状の基材32を形成する。次いで、図8(c)に示すように、この凸形状の基材32の上面にマスク(図示なし)をして凸形状の中間層を積層して凸形状の中間層33を形成する。次いで、図8(d)に示すように、この凸形状の中間層33の上面にマスク(図示なし)をして超電導層としての超電導部材を積層して凸形状の超電導部材34を形成する。次に、図8(e)に示すように、この超電導部材34の上面にマスク(図示なし)をして安定化層としてのAg部材を積層して凸形状のAg部材35を形成する。次いで、図8(f)に示すように、この凸形状のAg部材35の上面に保護層としての第2のCu部材を積層して凸形状の第2のCu部材36を成形する。次いで、図8(g)に示すように、六隅の空間部にマスク(図示なし)をして保護層としての第3のCu部材37を形成して、高温超電導線材全体の断面が六角形状となるように構成する。
【0030】
なお、上記実施例では、超電導部材としては、主にYBCO部材について説明したが、これに限定されるものではなく、Yの部分をGd、Ho、Smなどの希土類元素に換えたRE系超電導部材(REBa2 Cu3 x )やビスマス系超電導部材(上記非特許文献6参照)を用いるようにしてもよい。
ビスマス系超電導材料とは、Bi−Sr−Ca−Cu−Oで構成されるもので、特にBi,Sr,Ca,Cuの組成比が2:2:2:3となる2223相は臨界温度が110Kと高い。また、その製法としては、AgとBi系高温超電導材料を複合加工する固相法を中心に開発が進められてきたが、革新的なプロセス開発〔Controlled Over Pressure:CT−OP(登録商標)〕により、品質向上(臨界電流の向上、機械強度の向上)と生産性の向上(1,000m以上の長尺化、歩留り4倍以上)が図られている。例えば、従来法による焼結によると、組織は異相や空隙が大きく、多い(密度は約85%以下)のに対して、CT−OP(登録商標)(高圧焼結)によれば、異相が小さい上に少なく、空隙がない(密度は約100%以下)の超電導組織を有している。したがって、空隙がないため、液体窒素での冷却時に液体窒素が浸透することはなく、温度上昇時にガス化してバルーニング(膨れ)が生じることもないという利点を有する。本発明においても、これらのBi系高温超電導材料を用いることができる。
【0031】
このようにして製造された高温超電導材は、図示しないが、巻枠に複数層敷き詰めて巻き付けることにより、高温超電導コイルとして用いることができる。その高温超電導コイルとして構成した場合には、臨界電流の角度依存性をなくすことができる。
また、上記実施例では、超電導部材としては、主にYBCO部材やBi系部材について説明したが、他の臨界電流に磁場依存性のある高温超電導部材を用いて臨界電流に磁場の角度依存性のない高温超電導線材や高温超電導コイルを得るように構成するようにしてもよい。ここで、臨界電流に磁場依存性のある高温超電導部材の例としては、RE123系やBi系以外に、2008年に細野氏らによって発表された鉄系超電導体がある。具体的には、ReFeAsO1-x X (Reは希土類)およびAFe 2 As2 (Aはアルカリ金属やアルカリ土類金属)、AFeAsなどの組成である。
【0032】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、断面形状が多角形状で臨界電流の角度依存性がない高温超電導線材及びその高温超電導コイルとして利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1,11,21,31 金属基材(第1のCu部材、また、ハステロイ(登録商標)、又はNi−W合金部材)
2,12,22,32 基材(ハステロイ部材やNi−W合金部材)
3,13,23,33 中間層(Y2 3 /YSZ/CeO2 層)
4,14,24,34 超電導層(RE系超電導層、YBCO部材、ビスマス系超電導層)
5,15,25,35 安定化層(Ag部材)
6,16,26,36 保護層(第2のCu部材)
17,37 保護層(第3のCu部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に形成される金属基材と、該金属基材の外側に形成される基材と、該基材の外側に形成される中間層と、該中間層の外側に形成される超電導層と、該超電導層の外側に形成される安定化層と、該安定化層の外側に形成される保護層とを具備し、断面が多角形状を有することを特徴とする高温超電導線材。
【請求項2】
請求項1記載の高温超電導線材において、前記金属基材の断面形状が四角形状であり、該金属基材の四角形状のそれぞれの外周部分に前記基材が積層され、該基材の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、該基材の四角形状のそれぞれの外周部分に前記中間層が積層され、該中間層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、該中間層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記超電導層が積層され、該超電導層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、該超電導層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記安定化層が積層され、該安定化層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成され、該安定化層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記保護層が積層され、該保護層の外周形状は断面形状が四角形状となるように形成されたことを特徴とする高温超電導線材。
【請求項3】
請求項1記載の高温超電導線材において、前記金属基材の断面形状が六角形状であり、該金属基材の六角形状のそれぞれの外周部分に前記基材が積層され、該基材の外周形状が六角形状であり、該基材の六角形状のそれぞれの外周部分に前記中間層が積層され、該中間層の外周形状が六角形状であり、該中間層の六角形状のそれぞれの外周部分に前記超電導層が積層され、該超電導層の外周形状が六角形状であり、該超電導層の四角形状のそれぞれの外周部分に前記安定化層が積層され、該安定化層の外周形状が六角形状であり、該安定化層の六角形状のそれぞれの外周部分に前記保護層が積層され、該保護層の外周形状が六角形状となるように構成されたことを特徴とする高温超電導線材。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の高温超電導線材において、前記金属基材が第1のCu部材、前記基材がハステロイ(Hastelloy)部材又はNi−W合金部材、前記中間層が前記超電導層の結晶粒の方位を揃えるために自ら二軸配向している部材、前記超電導層がY元素及び希土類元素からなるRE系超電導層、前記安定化層がAg部材、前記保護層が第2のCu部材からなることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の高温超電導線材において、前記金属基材がハステロイ(Hastelloy)部材又はNi−W合金部材からなることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項6】
請求項4記載の高温超電導線材において、前記超電導層の結晶粒の方位を揃えるために自ら二軸配向している部材がMgO/Homo−epiMgO/LMO(LaMnO3 )、又はY2 3 /YSZ/CeO2 、GZO(Gd2 Zr2 7 )/CeO2 、MgO/LMO(LaMnO3 )/CeO2 であることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項7】
請求項4記載の高温超電導線材において、前記RE系超電導層がREBa2 Cu3 x からなることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項8】
請求項1から6の何れか一項記載の高温超電導線材において、前記超電導層がYBCO部材からなることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項9】
請求項1から6の何れか一項記載の高温超電導線材において、前記超電導層がビスマス系超電導層であることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項記載の高温超電導線材において、臨界電流に磁場依存性のある高温超電導部材を用いて臨界電流に磁場の角度依存性のない高温超電導線材を得ることを特徴とする高温超電導線材。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項記載の高温超電導線材を用いて得られることを特徴とする高温超電導コイル。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−14883(P2012−14883A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148409(P2010−148409)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】