説明

高温部材の寿命診断方法および寿命診断装置

【課題】種々の加熱時効による材料の組織変化がクリープ強度に与える影響を考慮し、高温機器の運転条件の変化に対応した高温部材の高精度な寿命診断を行う。
【解決手段】高温部材の寿命診断方法では、硬さ基準の応力を使用し、運転実績情報記憶部から各定常運転状態のデータを順次読み込み(S05)、これに基づき運転履歴算出部が部材温度、部材応力を求める(S06)。更に各運転状態の応力上昇分を算出し(S07)、応力上昇によるクリープ強度低下量を算出し(S09)、クリープ強度を算出する(S10)。現在の部材硬さを求め(S17)、計画運転状態データに基づきクリープ強度低下量を算出し(S15)、クリープ強度を算出(S16)した上で最終のクリープ強度の予測値を算出し(S18)、この予測値と計画運転条件に基づき残余寿命を算出する(S19)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンを含む高温部材の寿命診断方法および寿命診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温機器である蒸気タービンは、高速で流れる高温蒸気によって回転力を得ているため、高温の蒸気が流入する部分には運転に伴って損傷や変形が生じる場合がある。
【0003】
蒸気タービンでは高温高圧の蒸気が、高圧、中圧タービンの各段落で温度、圧力を低下させながら羽根すなわちタービン動翼を介してロータに回転力を与えている。
すなわち、原動力は上記流体によってタービン動翼を介してロータ軸に伝達されるが、近年の発電プラントの大容量化に伴うタービンの作動流体量の増大や高温高圧化による作動条件の高度化から、使用する蒸気の温度、圧力は益々高くなり、また大量となっている。
【0004】
このため、これら高温高圧の蒸気にさらされている機器の高温部材では、高温下で部品に加わる応力によって材料自体の劣化とともに様々な損傷や変形が生じる。また、局部的にき裂を生じ、発生したき裂をもとにして機器全体の破壊が引き起こされることもあった。
高温高圧部に用いられる羽根は、運転中絶えず高温高圧の蒸気にさらされていると同時に、ロータの回転に伴う遠心力によって一定荷重を受ける。この荷重は複雑な羽根の各部に過大な応力を発生させるとともに、高温で長時間使用されるため、高温での長時間にわたる加熱時効による組織変化と同時に材料はクリープ変形し、ロータや羽根に多大な損傷を与え、重大な変形やき裂が発生することがあった。
【0005】
このため、これまで様々な方法で、加熱時効を受けると同時に材料の損傷、特にクリープ損傷を受ける部材についてクリープ損傷を評価する方法が提案されてきた。
【0006】
クリープ損傷は、組織変化を引き金とし、応力負荷により進展する。このため、特許文献4および特許文献7に開示された評価技術では、直接の損傷評価に対応する量は、応力負荷に伴う損傷量であるとして、高温クリープ時の測定量から熱時効による変化量を除き、応力負荷に伴う損傷に対応する量を応力支配型損傷量と定義して抽出する。この方法では物理量を計測して熱時効を評価しているが、直接熱時効によるクリープ強度の影響が示されていない。
【0007】
また、特許文献1および特許文献5に開示された技術では、金属材料の光学顕微鏡による像を入力画像としてその色濃度分布を求め、低濃度部の面積と、色濃度分布全体の面積との比率をパラメータとして評価する。そして、低濃度部は、色濃度分布を包括するなめらかな曲線上のピーク点と、ピーク点の半分の値の点とを結ぶ直線Lがピーク零の線と交わる点の色濃度をしきい値とし、熱時効がしきい値以下の部分に相当するとして、加熱時効による金属組織の変化を、定量的に評価する。これは熱時効が金属組織に明確に現れる場合に適用できる技術であり、また熱時効によるクリープ強度の影響が明確でない。
【0008】
特許文献3では、ニッケル基耐熱合金から成るガスタービン翼のクリープ余寿命を評価する技術が開示されている。具体的には、まずガスタービン翼の特定箇所から試料を採取してその箇所におけるγ′相の変化組織の平均アスペクト比L/Tと同組織の平均幅Tとを測定する。ガスタービン翼と同一の材料について予め求めたγ′相のアスペクト比L/Tと応力との関係および平均幅Tと温度との関係に基づいて、ガスタービン翼の使用応力および温度を推定する。推定した応力および温度の値を、破断時間との関係を示すクリープマスター曲線に対応させることにより、ガスタービン翼のクリープ寿命を評価するという技術である。
【0009】
これは、熱時効による組織変化が直接クリープ強度に影響を与える場合の寿命診断方法である。この技術は、組織とクリープ強度の関係が明確なニッケル基合金に限られ、組織変化に現れない熱時効のクリープ強度の影響が明確でない。
【0010】
特許文献2および特許文献6に開示された技術は、クリープ余寿命を推定して部品の使用可否を判定することを特徴とする金属材料の劣化および余寿命予知方法である。高温で使用される構造部材の材質の初期状態と温度・応力と使用時間とから時効軟化およびクリープ軟化履歴を推定する工程と、硬さ実測値から、時効軟化またはクリープ軟化特性にもとづき使用温度・使用応力を最適値に補正する工程と、補正された使用温度・応力と今後の運転パターンにもとづき将来の時効軟化およびクリープ軟化特性を予測する工程とを有する。ここでは、熱時効による軟化を評価する方法が示されているが、クリープ強度に直接影響を与えるのは硬さのみであり、熱時効条件によるクリープ強度の変化は示されていない。
【0011】
以上のように、これまで一般に知られている寿命評価技術は、硬さや金属組織、物理的測定量などのデータを基にして加熱時効を評価して寿命評価に反映する方法である。ここでは、硬さを用いて寿命診断する場合においても、加熱時効の影響を全て硬さに置き換えて評価しているが、実際には同一の硬さで加熱時効の受け方または事前のクリープ損傷の受け方によってクリープ破断強度が変化することが知られるようになった。
【0012】
一般的にクリープ進行中には2つの相反した過程が起こっていると考えられている。すなわち、第1は、クリープ速度が温度上昇とともに著しく増大するように、原子の熱運動による転位の回復である。第2は、遷移クリープの存在が示すように転位の増殖による加工硬化現象である。変形速度が一定である定常クリープでは、両方の現象、すなわち回復と加工硬化が釣り合って、転位密度が一定に保たれており、変形中に回復現象が働いて加工硬化と相殺していることを示している。
【0013】
熱時効は転位の回復のみが進み、転位密度が大きく低下した状態であり、その後のクリープによって急激に転位が増殖してクリープ変形が同一の硬さの材料よりも増大し、クリープ破断時間も低下すると考えられる。以上の転位の運動については、光学顕微鏡による通常の組織観察では捉えることができず、材料の薄膜を用いた電子顕微鏡による観察が必要である。また局部的にクリープ損傷が累積する場合には、材料の採取自体が困難となる。
【0014】
以上に述べた加熱時効とクリープ損傷の係わり合いは、一定の負荷条件で運転する場合にはこれまでの寿命診断方法で問題は無いが、圧力や回転数、温度などの運転条件を変えて運転する場合には、運転条件を変更するまでの運転条件に基づく加熱時効やクリープ損傷の結果が、それ以降の寿命に影響を及ぼすことになる。例えば、蒸気圧力を高めることによって、各部に生ずる応力が大きくなるので、それまで転位の回復が進んでいる状態から、急激に転位の増殖が進み、短時間でクリープ破断に至ることになる。しかし、これまでの寿命診断法では上記の運転条件の変化を考慮した診断方法は提供されておらず、単にクリープ損傷の累積量によって評価していた。
【0015】
このため、実際の機器におけるクリープ損傷の評価において、これまでの方法では運転条件の変更があった場合、常に不確かな寿命推定となっていたため、評価精度を向上させる寿命診断方法の提供が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−113800号公報
【特許文献2】特開平7−128328号公報
【特許文献3】特開平11−248605号公報
【特許文献4】特開2004−144549号公報
【特許文献5】特許第3079345号公報
【特許文献6】特許第3281147号公報
【特許文献7】特許第3728286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、これまで示された方法では硬さや金属組織などの非破壊的な方法を用いて加熱時効を評価し、そのクリープ強度に及ぼす影響を考慮して寿命を診断していた。しかしながらこれらの方法は電子顕微鏡を用いる微細な変化を調べる必要があることから、加熱時効が与えるクリープ強度の影響が不明確であり、特に運転条件を変更する場合における寿命診断方法が確立されておらず不確かな寿命推定となっていた。
【0018】
このため、クリープ強度に与える加熱時効の影響を明らかにして運転条件の変更を考慮した高精度な寿命診断方法の提供が重要な技術的課題であった。
【0019】
本発明はこのような点に鑑み、種々の加熱時効による材料の組織変化がクリープ強度に与える影響を考慮することにより、高温機器の運転条件の変化に対応した高温部材の高精度な寿命診断を行えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の目的を達成するため、本発明に係る高温部材の寿命診断方法は、対象とする高温部材の寿命診断方法において、材料強度データベースに硬さ基準の応力に基づくクリープ破断強度データを記憶するステップと、硬さ基準の応力に基づきクリープ破断強度を求め、このクリープ破断強度に基づきクリープ寿命の初期値を設定するステップと、異なるn個の定常状態を順次推移していく運転状態の履歴において、初期状態のiをゼロとし、この運転状態の番号iを1番目から現在の運転状態であるn番目まで順次カウントするときに、運転実績情報記憶部の運転実績情報データベースから運転時間、圧力、温度、外部荷重を含むi番目の運転状態データを読み込むステップと、前記i番目の運転状態データに基づき、運転履歴演算部が、部材温度、部材応力を求める運転履歴算出ステップと、前記iを1からnまでの整数としたときに、前記i番目の運転状態および1つ前の(i―1)番目の運転状態における前記部材応力に基づき、i番目の運転状態における応力から(i−1)番目の運転状態における応力を引いた応力差を算出する応力差算出ステップと、前記応力差算出ステップで算出した応力差が正か否かを判定する第1の判定ステップと、第1の判定ステップにおいて、応力が増加すると判定された場合は、i番目の運転状態における加熱劣化によるクリープ強度低下量を、材料強度データベースに記憶された所定の計算式により算出する第1のクリープ強度低下量算出ステップと、前記第1の低下量算出ステップで算出したi番目の運転状態による低下量ΔPからi番目の運転状態を経過した後のクリープ強度を算出する第1のクリープ強度算出ステップと、運転状態番号iが、現在までの運転状態の総数nに至ったか否かを判定する第2の判定ステップと、第1の判定ステップにおいて応力が増加しないと判定された場合、および第2の判定ステップにおいてiがnより小さいと判定された場合に、iを1増やし前記実績状態読み込みステップに移行し、前記応力差算出ステップ、前記第1の判定ステップ、前記第1の強度低下量算出ステップおよび前記第2の判定ステップの各ステップを繰り返すための繰り返しステップと、現在の部材硬さを求める硬さ取得ステップと、運転計画情報記憶部の運転計画情報データベースから計画されている運転状態データとして、運転時間、圧力、温度、外部荷重を含むj番目の運転状態データを読み込むステップと、前記j番目の運転状態データに基づき、運転履歴演算部が、部材温度、部材応力を求める運転履歴算出ステップと、前記計画状態読み込みステップにおいて読み込まれた計画運転状態に基づき、クリープ強度の低下量を材料強度データベースに記憶された所定の計算式により算出する第2のクリープ強度低下量算出ステップと、前記第2のクリープ強度低下量算出ステップで算出したクリープ強度の低下量に基づいて最終のクリープ強度の予測値を算出する第2のクリープ強度算出ステップと、前記最終のクリープ強度の予測値と、前記計画運転状態の運転条件とに基づき、残余寿命を算出する残余寿命算出ステップと、を有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る高温部材の寿命診断装置は、高温部材の寿命診断装置において、高温機器の運転計画内容として、過去の各運転状態の温度、圧力、運転時間を記憶する運転実績記憶部と、高温機器の運転計画内容として、将来の各運転状態の温度、圧力、運転時間を記憶する運転計画記憶部と、前記運転実績記憶部および運転計画記憶部に記憶された各運転状態の温度、圧力、運転時間に基づき、応力を算出する運転履歴算出部と、前記高温部材の材料に関する強度データを記憶する材料強度データ記憶部と、前記運転履歴算出部での演算結果と、材料強度データ記憶部に記憶された前記高温部材の材料の強度データに基づき、各運転状態での加熱劣化によるクリープ強度低下量を算出するクリープ強度低下算出部と、硬さ計測結果および硬さ推定結果のうち少なくともいずれか一方と、前記クリープ強度低下算出部による演算結果から得られるクリープ強度から、前記運転履歴算出部に記憶された今後の運転状態に基づき、今後の許容運転時間を算出する寿命評価部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明による高温部材の寿命診断方法によれば、種々の加熱時効による材料の組織変化がクリープ強度に与える影響を考慮することにより、高温機器の運転条件の変化に対応した高温部材の高精度な寿命診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る高温部材の寿命診断方法の第1の実施形態を示すフロー図である。
【図2】本発明に係る高温部材の寿命診断方法の第1の実施形態における高温部材の寿命診断装置の構成を示すブロック図である。
【図3】運転時間と運転状態の変化を説明する概略図である。
【図4】未使用材と加熱劣化材の硬さ基準化応力の違いを示す特性図である。
【図5】未使用材、加熱劣化材およびクリープ劣化材の硬さ基準化応力の違いを示す特性図である。
【図6】クリープ劣化材の応力を変化させた場合の、未使用材、加熱劣化材およびクリープ劣化材の硬さ基準化応力の違いを示す特性図である。
【図7】クリープ強度の低下量と応力変化量および加熱時温度・時間パラメータとの関係を説明する概略図である。
【図8】12Cr系材料及び9Cr系材料の硬さ基準化応力によるクリープ強度データを説明する概略図である。
【図9】CrMoV系材料の硬さ基準化応力によるクリープ強度データを説明する概略図である。
【図10】CrMo系材料の硬さ基準化応力によるクリープ強度データを説明する概略図である。
【図11】加熱時効条件の異なる同一硬さの材料のクリープ破断強度の違いを説明した概略図である。
【図12】本発明に係る高温部材の寿命診断方法の第2の実施形態における硬さ低下量と加熱時温度・時間パラメータとクリープ損傷の関係を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明に係る高温部材の寿命診断方法の実施形態について説明する。ここで、同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0025】
(第1の実施形態)
図2は、本発明に係る高温部材の寿命診断方法の第1の実施形態における高温部材の寿命診断装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、本実施形態による高温部材の寿命診断装置10は、中央演算処理装置(CPU)10a、記憶装置10b、表示部18および操作部17を備える。
【0027】
記憶装置10bは、運転実績情報記憶部11、運転計画情報記憶部12および材料強度データ記憶部13を有する。中央演算処理装置(CPU)10aは、運転履歴算出部14、クリープ強度低下算出部15および寿命評価部16を有する。
【0028】
運転実績情報記憶部11は、評価対象とする高温部材を有する機器が現在までに受けた温度、圧力および外的荷重といった履歴を、定常的な運転状態ごとに順次整理された運転実績情報データベース11aとして記憶する。
【0029】
運転計画情報記憶部12は、今後の運転計画に基づいて、運転実績と同様の形態で、定常的な状態ごとに順番に整理した運転状態のデータを運転計画情報データベース12aとして記憶する。
【0030】
運転履歴算出部14は、運転実績情報記憶部11および運転計画情報記憶部12に記憶されたデータに基づき、対象とする部材の応力の算出を行うとともに、前回の運転状態と比べ応力が上昇しているか否かを判定し、評価対象とする運転状態を選択する。
【0031】
材料強度データ記憶部13は、評価対象とする高温部材の熱膨張率、弾性係数、降伏応力他の強度特性、クリープ強度特性、硬さ基準の強度特性などの材料特性を材料強度データベース13aとして記憶する。
【0032】
クリープ強度低下算出部15は、運転履歴算出部14に記憶されたデータと、材料強度データ記憶部13に記憶された材料特性データに基づき、現在まで、および現在以降の各定常運転ごとのクリープ強度の低下量を算出する。
【0033】
寿命評価部16は、最終的なクリープ強度の算出結果と、今後の運転温度条件から、残余寿命を算出する。
【0034】
表示部18は、各算出結果を表示する。また、操作部17は、記憶装置10bの各記憶装置へのデータ入力、中央演算処理装置(CPU)10aの各演算装置の演算指令、表示部18への指令等に関する入出力装置である。
【0035】
図1は、本実施形態の高温部材の寿命診断方法を示すフロー図である。
【0036】
まず高温締結機器のうち対象となる部材を選定し、対象となる部材の過去の過渡変化を除く異なる定常状態を順次推移していく運転状態の履歴を調査する。各運転状態の番号iを順次1番目から現在の運転状態であるn番目までを順次カウントし、それぞれの運転状態データとして少なくとも運転時間、部材温度を含み、その他、部材圧力、外部荷重等の運転状態を運転実績情報データベース11aに記憶させる。また、今後の運転計画についても同様に、運転計画情報記憶部12の運転計画情報データベース12aに記憶させる(S01)。
【0037】
また、対象となる部材の材料に関する材料データおよびクリープ強度の算出データ、クリープ強度の低下の評価式を材料強度データベース13aに記憶させる(S02)。
【0038】
クリープ強度低下算出部15は、対象とする評価部位について、材料強度データベース13aに基づき、先ず運転に入る前の部材の初期のクリープ強度を算出する(S03)。なお、この初期状態をi=0とする。
【0039】
次に、運転履歴算出部14は、過去に運転状態の変化が有ったか否かを判断する。運転状態の変化がなかった場合には、過去の履歴の評価は不要である(S04)。
【0040】
運転状態の変化があった場合には、運転履歴算出部14は、運転実績情報データベース11aからi番目の運転状態のデータを読み込む(S05)。変化した前後の運転時間、部材温度および部材応力の前後での値を抽出する。ここで運転状態の変化とは評価する損傷がクリープ損傷であるため、定常運転状態の変化を示し、過渡的な運転状態の変化は含まない。
【0041】
過渡的な運転状態による材料の疲労損傷については、最終的に、本実施形態により得られたクリープ損傷の結果と合計した上で、所定の許容値に入っていることを評価することになる。ここで、疲労損傷の評価については従来の確立した手法を用いる。
【0042】
次に、運転履歴算出部14は、評価部位ごとに負荷する主要な荷重として定常的に負荷する荷重を取り出す。定常的な荷重としては遠心力、圧力、締結力等がある。運転履歴としては運転温度やそれに伴う運転時間の変化も含まれる。これに基づき、評価部位ごとに応力を算出する(S06)。
【0043】
運転履歴算出部14は、ステップS06の結果から、運転状態の変化の前後での定常応力の変化を算出する(S07)。ここで、i=1の場合は、i―1は0であるが、この場合の前回の運転状態は、ステップS03で求めた初期状態のものを前回の運転状態のものとして用いる。
【0044】
ステップS07の結果により、定常応力の変化が負の場合には、定常応力の変化は履歴上考慮せず、次の運転状態の評価として、ステップS06以降を繰り返すために、iに1を加え(S12)、ステップS06に戻る(S08)。
【0045】
クリープ強度低下算出部15は、定常応力の変化が正の場合には、運転状態の変化のあった前の状態でのクリープ強度低下量を所定の計算式で求める(S09)。
【0046】
クリープ強度を示す指標としては、例えば、温度・時間パラメータがあり、クリープ強度を示す温度・時間パラメータとしては、ラーソンミラーパラメータ(LMP)がよく使用されている。指標が、ラーソンミラーパラメータ(LMP)である場合には、LMPの減少量ΔPiは、運転状態変化前のLMPと、運転状態の変化に因る応力変化量Δσに基づき算出できる。
【0047】
以下、温度・時間パラメータについては、下式で定義されるラーソンミラーパラメータ(LMP)である場合を例にとって説明する。
【0048】
LPM=T×[C+LN(tr)]
(ただし、Tは絶対温度、trは時間、LN(tr)はtrの自然対数、Cは定数を示す。)
クリープ強度低下算出部15は、以上のようにして順次、各運転状態変化におけるクリープ強度低下量ΔPを求め、このクリープ強度低下量ΔPに基づき、第i番目の運転状態経過後のクリープ強度としてのラーソンミラーパラメータ(LMP)の値LPMiを算出する(S10)。
【0049】
一通り、i=1〜nまでの評価がされたか否かを判定する(S11)。i<nの場合は、以上の評価を繰り返すためにステップS12を経由して、ステップS06に戻る。
【0050】
i=nとなったら、以上のステップの結果算出された温度・時間パラメータの最終の値が、現在の温度・時間パラメータすなわちクリープ強度を表しており、現在時点のクリープ強度が求められたことになる。従って、i=nとなったら今後計画された運転によるクリープ強度の低下分を評価し、最終のクリープ強度を求めるステップに入る。
【0051】
運転履歴算出部14は、運転計画情報記憶部12に記憶された運転計画情報データベース12aから今後の運転状態を読みだして確認する(S13)。
【0052】
今後の運転計画として、定常の運転状態の番号jを、最初の1番目から最終のm番目までを順次カウントし、それぞれの運転状態データとして少なくとも運転時間、部材温度を含み、その他、部材圧力、外部荷重等の運転状態を確認する。j番目の運転状態について評価対象の部材ごとに温度T、応力σおよび以前の運転状態での応力からの応力変化Δσとして求める(S13)。
【0053】
この応力変化Δσが正であるか否かを判定する(S14)。
【0054】
正の場合には、クリープ強度低下算出部15は、過去の運転履歴について行ったように、クリープ強度低下量ΔPを求める(S15)。j番目の運転状態の結果としてのLMPを、LMPj−1からΔPを減じて求める。応力変化が正でない場合には、ΔP=0とする(S16)。ステップS15およびステップS16を、j=1からmまで繰り返す。
【0055】
次に、評価部位の硬さ計測を行って、現在の高温部材硬さHを計測する(S17)。
【0056】
クリープ強度低下算出部15は、材料強度データベース13aから材料データを読み込み、前記硬さHと応力σを用いてクリープ寿命の算出のため、運転条件の変更に伴うクリープ強度の低下量ΔPを減じた最終のLMPを算出する(S18)。
【0057】
最後に、寿命評価部16は、今後の運転状態を考慮して残余寿命を算出する。すなわち、LPMが求められ、今後の運転条件として評価対象部材の運転温度がわかれば、残余寿命tはt=G(T、LMP)となる(S19)。
【0058】
この実施形態では、まず高温締結機器のうち対象となる部品を選定し、対象となる部品の過去の運転履歴を調査する。評価部位ごとに負荷する主要な荷重として定常的に負荷する荷重を取り出す。定常的な荷重としては遠心力、圧力、締結力等がある。運転履歴としては運転温度やそれに伴う運転時間の変化も含まれる。過去に運転状態が変化の有無を判断して、運転状態が変化した場合には、変化した前後の運転時間、部材温度および部材応力の前後での値を抽出する。ここで運転状態の変化とは評価する損傷がクリープ損傷であるため、定常運転状態の変化を示し、過渡的な運転状態の変化は含まない。
【0059】
図3は、運転時間と運転状態の変化を説明する概略図である。本実施形態では定常状態におけるクリープ損傷を問題とするので、ここでは起動・停止に伴う過渡的な温度や応力の変化は取り扱わず、定常的な運転状態での変化を問題とする。
【0060】
同図では、温度 T、時間 t、応力 σである第1番目の運転状態と、温度 T、時間 t、応力 σである第2番目の運転状態とでは、温度、応力が変化し、応力変化Δσは正となるように変化している。また第2番目の運転状態と第3番目の運転状態とでは応力変化Δσは負となるように変化している。本実施形態では、応力変化が正となる場合に加熱時効に伴うクリープ強度の低下があるとしているので、このようにΔσが正の場合の運転状態の変化を取り出し、クリープ強度の低下を評価している。
【0061】
図4は、未使用材と加熱劣化材の硬さ基準化応力の違いを示す特性図であり、材料のクリープ破断強度を破断時間と硬さで基準化した応力の関係で示している。
【0062】
ここで、硬さ基準とは、応力値を硬さのべき乗で除することにより表すことを意味し、硬さ基準化応力とは、当該応力値を硬さのべき乗で除した値をいう。硬さで応力を基準化するとは、硬さのべき乗で除することを基準とすることをいう。
【0063】
硬さで応力を基準化する際に硬さの何乗とするかについては材料によって異なるので、ここでは硬さ基準化応力と表示している。
【0064】
ここで、未使用材についてのクリープ試験とは、試験当初に、硬さを測定した上で、温度、応力一定条件でクリープ破断試験を行うものである。
【0065】
加熱劣化材の試験とは、応力ゼロの状態で、長時間加熱状態に置き、その後、硬さ測定を実施した上で、温度、応力一定条件でクリープ破断試験を行うものである。
【0066】
様々な硬さの未使用材のクリープ試験結果と、応力を負荷しない状態で高温度に長時間放置する加熱時効材、即ち加熱によって材料が劣化した加熱劣化材のクリープ試験結果とを比較すると、硬さで基準化したにもかかわらず、未使用材と加熱劣化材には明確なクリープ破断強度の差異が生じている。このクリープ強度低下は材料の硬さ低下以上に生じており、材料内の転位の回復による微細な組織変化に起因すると考えられる。これは単純に硬さによって材料のクリープ強度を評価した場合には、材料の使用履歴によっては大きく寿命低下し、短時間で破断して機器の予想外の破損を生ずる可能性があることを示している。
【0067】
図5は、未使用材、加熱劣化材およびクリープ劣化材の硬さ基準化応力の違いを示す特性図である。
【0068】
ここで、クリープ劣化材の試験とは、試験当初に硬さ測定を実施の上、ある温度と応力条件を付加しクリープ劣化させ、その後、硬さ測定を実施の上、新たな温度と応力条件を付加しクリープ破断試験を行うものである。
【0069】
クリープ劣化材についても加熱劣化材と同様に硬さで基準化した応力で評価しているにもかかわらず、未使用材と明らかにクリープ強度差を生じている。このクリープ強度差はラーソンミラーパラメータLPMにおける差異ΔPに相当するものと評価されるが、この値は加熱劣化やクリープ劣化などの高温での加熱条件と応力条件により変化する。
【0070】
図11は応力を負荷した材料と負荷しない材料で同一の硬さになるまで、加熱した後、同一の応力でクリープ破断を実施した場合の破断時間の相違を示している。応力を負荷した材料は当初から同一条件でのクリープ試験であるため、通常の破断時間となるが、最初の応力を負荷しない場合には短時間で破断する結果となる。
【0071】
図6は、クリープ劣化材の応力を変化させた場合の、未使用材、加熱劣化材およびクリープ劣化材の硬さ基準化応力の違いを示す特性図である。クリープ劣化時の応力から応力を上昇してクリープ破断した場合には未使用材のデータと比較して、大きなクリープ強度の低下が認められるが、クリープ劣化時と同一または応力を低下した場合には未使用材のデータと大きな差異は生じないことが判明した。
【0072】
この原因としてはクリープ劣化時と比較して応力を上昇させない場合には、クリープ劣化時の転位の回復状態から急激な転位の増殖が起こりにくく、このためクリープ強度について本来の強度を維持できるためではないかと考えられる。このようにクリープ劣化材についてもその後のクリープ状態で応力上昇がある場合も加熱劣化によるクリープ強度の低下があると判断される。
【0073】
これは機器の運転条件の変化によってクリープ損傷の応力に変化がある場合には、一定負荷でのクリープ損傷と比べて大きく損傷が進む可能性を示している。本実施形態ではこのクリープ強度の低下をクリープ条件の変更から定量的に評価し、精度の高い寿命診断を与えている。
【0074】
このように運転状態の変化の前後での定常応力の変化を算出し、その値が正の場合には、運転状態の変化のあった前の状態でのクリープ強度低下量ΔPiを材料強度データベースに定められている所定の算出式によって求める。
【0075】
算出式には変化前における温度・時間パラメータであるラーソンミラーパラメータ量LMPと応力変化量Δσが適用される。なお、ラーソンミラーパラメータ以外でも、適切な温度・時間パラメータがあれば、本実施形態による方法は同様に適用できる。
【0076】
図7は、クリープ強度の低下量と応力変化量および加熱時温度・時間パラメータとの関係を説明する概略図である。材料強度データ記憶部13は、たとえば、この内容を材料強度データベース13aとして記憶し、クリープ強度低下算出部15は、この内容に基づきクリープ強度の低下量を評価する。
【0077】
低下量ΔPは加熱時の温度・応力パラメータ量LMPと応力変化量Δσの対数値の線形和として表示され、それぞれLMPやΔσが大きいほど、クリープ強度低下量ΔPも大きくなる。ここで応力変化量Δσに対数を取って用いているのは、この値が正の場合以外は無効であることが明確になるためである。
【0078】
応力変化が0か負の場合には、クリープ強度低下量ΔPの算出をせずに、元に戻って次の運転状態変化を調べる。このように、繰り返しの上で全ての運転状態変化におけるクリープ強度低下量ΔPiを求めれば、当初の温度・応力パラメータ量LMPからΔPの積算量ΔP=ΣΔPを減じることにより、現在時点のLPMの値が得られる。
【0079】
さらに、運転履歴算出部14が、運転計画情報記憶部12の運転計画情報データベース12aの内容に基づき、今後の運転状態を部材ごとに温度T、応力σを求める。また運転状態変更による応力変化分Δσを求め、この応力変化が正である場合には、上記と同様にクリープ強度低下量ΔPを求める。
【0080】
次に、評価部位の硬さ計測を行って、硬さHを計測して、既存の硬さHと応力σを用いたクリープ寿命の算出を行う。この際、運転条件の変更に伴うクリープ強度の低下量ΔPを差し引いた最終の温度・応力パラメータ量LMPを求める。図1では、ΔPを差し引く前の温度・応力パラメータ量を、硬さHと、応力σの関数としてF(H,σ)とし、ΔPを差し引いて、LMP=F(H,σ)−ΔPにより算出した結果を最終の温度・応力パラメータ量としている。
【0081】
この結果得られたLMPは、温度Tと時間tの関数である。従って、LMPと温度Tの条件が与えられれば、残余寿命tはt=G(T、LMP)として求めることができ、前述のように寿命評価部16がこの内容の評価を行う。
【0082】
硬さ基準化応力は材料によって基準化する方法が異なる。
【0083】
図8は、12クロム系材料(12Cr系材料)及び9クロム系材料(9Cr系材料)の硬さ基準化応力によるクリープ強度データを説明する概略図である。図8に示すように、応力σを硬さHで除したσ/Hを用いて、クリープ破断データを評価すると比較的、ばらつきの小さなデータの整理が可能となる。即ち、12Cr系材料や9Cr系材料についてはクリープ寿命算出式はP=f(σ/H)となる。クリープ寿命式としては、例えば基準化応力の対数値の多項式P=ΣD(LOG(σ/H))が用いられる。
【0084】
図9は、クロムモリブデンバナジウム系材料(CrMoV系材料)の硬さ基準化応力によるクリープ強度データを説明する概略図である。図9に示すようにCrMoV系材料では応力σを硬さHの2乗で除したσ/Hを用いて、クリープ破断データを評価すると比較的、ばらつきの小さなデータの整理が可能となる。即ち、CrMoV系材料についてはクリープ寿命算出式はP=f(σ/H)となる。
【0085】
図10は、クロムモリブデン系材料(CrMo系材料)の硬さ基準化応力によるクリープ強度データを説明する概略図である。図10に示すようにCrMo系材料では、応力σを硬さHの1/2乗で除したσ/√Hを用いてクリープ破断データを評価すると、比較的ばらつきの小さなデータの整理が可能となる。即ち、CrMo系材料についてはクリープ寿命算出式はP=f(σ/√H)となる。
【0086】
一般的には応力σを硬さHの指数乗で除した値σ/Hを用いてクリープ破断強度を評価する。
【0087】
以上のように、本実施形態では特にクリープ損傷評価において、従来の方法とは異なり、加熱時効とクリープ損傷の係わり合いを明確にしており、一定の負荷条件で運転する場合にはこれまでの寿命診断方法で問題は無いが、圧力や回転数、温度などの運転条件を変えて運転する場合には、それまでの運転条件で加熱時効やクリープ損傷の条件が、今後の寿命に影響を及ぼすことを明確にしている。
【0088】
例えば、蒸気圧力を高めることによって、各部に生ずる応力が大きくなるので、それまで転位の回復が進んでいる状態から、急激に転位の増殖が進み、短時間でクリープ破断に至ることを予測している。
【0089】
これまでの寿命診断法では上記の運転条件の変化を考慮した診断方法は提供されておらず、単にクリープ損傷の累積量によって評価していた。本実施形態では、実際の機器におけるクリープ損傷の評価において、これまでの方法では、常に不確かな寿命推定となっていた運転条件の変更時の評価精度を向上させる寿命診断方法を提供している。
【0090】
本実施形態の効果として次があげられる。
【0091】
本実施形態では、まず高温締結機器のうち対象となる部品を選定し、対象となる部品の過去の運転履歴を調査する。評価部位ごとに負荷する主要な荷重として定常的に負荷する荷重を取り出す。定常的な荷重としては遠心力、圧力、締結力等がある。運転履歴としては運転温度やそれに伴う運転時間の変化も含まれる。過去に運転状態が変化の有無を判断して、運転状態が変化した場合には、変化した前後の運転時間、部材温度および部材応力の前後での値を抽出する。ここで運転状態の変化とは評価する損傷がクリープ損傷であるため、定常運転状態の変化を示し、過渡的な運転状態の変化は含まない。本実施形態では応力変化が正となる場合に加熱時効に伴うクリープ強度の低下があるとしているので、運転状態の変化を取り出し、どの程度のクリープ強度の低下があるかを評価している。
【0092】
以上のようにクリープ強度の低下はラーソンミラーパラメータの低下量として運転変化前の温度・応力パラメータ量LMPと応力変化量Δσの対数値の線形和で与えられ、簡単に寿命の低下を評価することができる。
【0093】
また、最適な硬さ基準化応力を用いることによって、様々な硬さの材料に適用できる最もばらつきの小さな寿命評価式を与えることができる。
【0094】
単純に硬さによって材料のクリープ強度を評価した場合には、材料の使用履歴によっては大きく寿命低下し、短時間で破断して機器の予想外の破損を生ずる可能性がある。機器の運転条件の変化によってクリープ損傷の応力に変化がある場合には、一定負荷でのクリープ損傷と比べて大きく損傷が進む可能性を示している。
【0095】
本実施形態ではこのクリープ強度の低下をクリープ条件の変更から定量的に評価し、精度の高い寿命診断を与えている。クリープ強度の低下はラーソンミラーパラメータの低下量として運転変化前の温度・時間パラメータ量LMPと応力変化量Δσの対数値の線形和で与えられ、簡単に寿命の低下を評価することができる。
【0096】
また材料に最適な硬さ基準化応力を用いることによって、様々な硬さの材料に適用できる最もばらつきの小さな寿命評価式を与えることができる。
【0097】
以上のように本実施形態では運転状態の変化を的確に捉え、加熱時効がその後のクリープ強度に与える影響を定量的に判定してクリープ強度を算出して、クリープ寿命を簡易で高精度に診断することができ高温部材の安全運用に大いに貢献することができる。
【0098】
(第2の実施形態)
図12は、本発明に係る高温部材の寿命診断方法の第2の実施形態における硬さ低下量と加熱時温度・時間パラメータとクリープ損傷の関係を説明する概略図である。
【0099】
図12に示すように評価部位の硬さ計測に代わり、それまでの使用履歴に基づいて算出された温度・時間パラメータ量LMPとクリープ損傷Φcの値を用いて、初期硬さからの硬さ低下量ΔHをその線形和で与えるものである。
【0100】
本実施形態による方法を適用すれば、硬さ計測が困難な局部にクリープ損傷が集中する部位や酸化スケールで覆われ部品を取り出すことができない部位の硬さの推定を容易に行うことができ、上記の硬さに基づいたクリープ寿命診断を容易に行うことができる。
【0101】
この関係を変形すると、硬さ低下量に代わり、初期硬さとの比についても同様な関係を得ることができる。
【0102】
本実施形態では、実際の硬さ計測に代わり使用履歴に基づいて算出された温度・応力パラメータ量LMPとクリープ損傷Φcの値を用いて、初期硬さからの硬さ低下量ΔHや硬さ比から寿命診断時の材料の硬さを容易に推定でき、硬さ計測が困難な部位の硬さ推定や硬さ評価時間の短縮を実現できる。
【0103】
(その他の実施形態)
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、第1の実施形態における過去の運転履歴による効果の評価を、今後の運転計画における評価に使用してもよい。また、第1の実施形態において、第2の実施形態による硬さの推定を行うなど、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
【0104】
第1の実施形態においては、クリープ強度を示す指標として、ラーソンミラーパラメータ(LMP)の場合を説明したが、クリープ強度を示す指標であれば、ラーソンミラーパラメータに限らない。
【0105】
さらに、第1の実施形態では、硬さのn乗で応力を除しているが、対象とする高温材料に適切な硬さ基準化応力であれば、他の基準であっても、以上の実施形態による余寿命予測のための算出方法を用いることができる。この結果、様々な硬さの材料に適用できる最もばらつきの小さな寿命評価式を与えることができる。
【符号の説明】
【0106】
10・・・高温部材の寿命診断装置
10a・・・中央演算処理装置(CPU)
10b・・・記憶装置
11・・・運転実績情報記憶部
11a・・・運転実績情報データベース
12・・・運転計画情報記憶部
12a・・・運転計画情報データベース
13・・・材料強度データ記憶部
13a・・・材料強度データベース
14・・・運転履歴算出部
15・・・クリープ強度低下算出部
16・・・寿命評価部
17・・・操作部
18・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする高温部材の寿命診断方法において、
材料強度データベースに硬さ基準の応力に基づくクリープ破断強度データを記憶するステップと、
硬さ基準の応力に基づきクリープ破断強度を求め、このクリープ破断強度に基づきクリープ寿命の初期値を設定するステップと、
異なるn個の定常状態を順次推移していく運転状態の履歴において、初期状態のiをゼロとし、この運転状態の番号iを1番目から現在の運転状態であるn番目まで順次カウントするときに、運転実績情報記憶部の運転実績情報データベースから運転時間、圧力、温度、外部荷重を含むi番目の運転状態データを読み込むステップと、
前記i番目の運転状態データに基づき、運転履歴算出部が、部材温度、部材応力を求める運転履歴算出ステップと、
前記iを1からnまでの整数としたときに、前記i番目の運転状態および1つ前の(i―1)番目の運転状態における前記部材応力に基づき、i番目の運転状態における応力から(i−1)番目の運転状態における応力を引いた応力差を算出する応力差算出ステップと、
前記応力差算出ステップで算出した応力差が正か否かを判定する第1の判定ステップと、
第1の判定ステップにおいて、応力が増加すると判定された場合は、i番目の運転状態における加熱劣化によるクリープ強度低下量を、材料強度データベースに記憶された所定の計算式により算出する第1のクリープ強度低下量算出ステップと、
前記第1のクリープ強度低下量算出ステップで算出したi番目の運転状態による低下量ΔPからi番目の運転状態を経過した後のクリープ強度を算出する第1のクリープ強度算出ステップと、
運転状態番号iが、現在までの運転状態の総数nに至ったか否かを判定する第2の判定ステップと、
第1の判定ステップにおいて応力が増加しないと判定された場合、および第2の判定ステップにおいてiがnより小さいと判定された場合に、iを1増やし前記実績状態読み込みステップに移行し、前記応力差算出ステップ、前記第1の判定ステップ、前記第1のクリープ強度低下量算出ステップおよび前記第2の判定ステップの各ステップを繰り返すための繰り返しステップと、
現在の部材硬さを求める硬さ取得ステップと、
運転計画情報記憶部の運転計画情報データベースから計画されている運転状態データとして、運転時間、圧力、温度、外部荷重を含むj番目の運転状態データを読み込むステップと、
前記j番目の運転状態データに基づき、運転履歴算出部が、部材温度、部材応力を求める運転履歴算出ステップと、
前記計画状態読み込みステップにおいて読み込まれた計画運転状態に基づき、クリープ強度の低下量を材料強度データベースに記憶された所定の計算式により算出する第2のクリープ強度低下量算出ステップと、
前記第2のクリープ強度低下量算出ステップで算出したクリープ強度の低下量に基づいて最終のクリープ強度の予測値を算出する第2のクリープ強度算出ステップと、
前記最終のクリープ強度の予測値と、前記計画運転状態の運転条件とに基づき、残余寿命を算出する残余寿命算出ステップと、
を有することを特徴とする高温部材の寿命診断方法。
【請求項2】
前記硬さ取得ステップは、評価部位についての硬さ測定を行うことによることを特徴とする請求項1に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項3】
前記硬さ基準の応力は、応力を硬さの指数乗で除した値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項4】
前記所定の計算式は、多項式であって、当該運転状態開始前の加熱劣化の温度および時間に依存する項と、当該運転状態における応力値の前回運転状態における応力値からの上昇分に依存する項および定数項を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項5】
前記温度・時間パラメータは、次の式
LPM=T×[C+LN(tr)]
(ただし、Tは絶対温度、trは時間、LN(tr)はtrの自然対数、Cは定数を示す。)
で算出されるLPMであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項6】
前記所定の計算式は、次の式
ΔP=C1×LMP+C2×LOG(Δσ)+C3
(ただし、Δσは運転状態の変化に伴う応力の増加分、C1、C2およびC3は定数を示す。)
であることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項7】
前記高温部材は12クロム系材料または9クロム系材料であって、
前記硬さ基準の応力は、応力を硬さで除した値で基準化することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項8】
前記高温部材はクロムモリブデンバナジウム系材料であって、
前記硬さ基準の応力は、応力を硬さの2乗で除した値で基準化することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項9】
前記高温部材はクロムモリブデン系材料であって、
前記硬さ基準の応力は、応力を硬さの2分の1乗で除した値で基準化することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項10】
前記硬さ基準の応力は、応力を硬さのべき乗で除した値で基準化した応力の多項式で表すことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項11】
前記硬さの取得は、クリープ損傷および加熱劣化に伴う硬さ変化によるものとして、温度・時間パラメータとクリープ損傷から算出することを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の高温部材の寿命診断方法。
【請求項12】
高温部材の寿命診断装置において、
高温機器の運転計画内容として、過去の各運転状態の温度、圧力、運転時間を記憶する運転実績情報記憶部と、
高温機器の運転計画内容として、将来の各運転状態の温度、圧力、運転時間を記憶する運転計画情報記憶部と、
前記運転実績情報記憶部および運転計画情報記憶部に記憶された各運転状態の温度、圧力、運転時間に基づき、応力を算出する運転履歴算出部と、
前記高温部材の材料に関する強度データを記憶する材料強度データ記憶部と、
前記運転履歴算出部での演算結果と、材料強度データ記憶部に記憶された前記高温部材の材料の強度データに基づき、各運転状態での加熱劣化によるクリープ強度低下量を算出するクリープ強度低下算出部と、
硬さ計測結果および硬さ推定結果のうち少なくともいずれか一方と、前記クリープ強度低下算出部による演算結果から得られるクリープ強度から、前記運転履歴算出部に記憶された今後の運転状態に基づき、今後の許容運転時間を算出する寿命評価部と、
を有することを特徴とする高温部材の寿命診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−57546(P2013−57546A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194886(P2011−194886)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】