説明

高濃度な無機溶液からのチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成法

【課題】 本発明は、燃料貯蔵材や自律的調湿材、また、脱臭材や有害汚染物質吸着材などに応用可能なチューブ状アルミニウムケイ酸塩を、安価でかつ安全にそして大量に合成する方法を提供する。
【解決手段】 溶液濃度が1〜500mmolの無機ケイ素化合物溶液と1〜1000mmolの無機アルミニウム化合物溶液を、所定のケイ素/アルミニウムのモル比率になるように混合して調整した溶液から前駆体を生成し、共存イオンを取り除いて溶液中のイオン濃度を低下させた後に、加熱熟成を行い、生成、析出する固形分を回収、洗浄することにより目的とする高純度のチューブ状アルミニウムケイ酸塩を製造する。
【効果】 チューブ状アルミニウムケイ酸塩を、従来の合成法よりも安価でかつ安全に、そして大量に合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高濃度の無機原料溶液からチューブ状アルミニウムケイ酸塩を合成する方法であり、高い表面活性により吸着機能やイオン交換能に優れ、高比表面積と細孔およびその形態を利用することにより、天然ガスの貯蔵や生活環境の湿度を自律的に制御する湿度調節材、有害汚染物質吸着材や脱臭材等に応用可能なチューブ状アルミニウムケイ酸塩を無機原料溶液から安価でかつ安全に、大量に合成する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】チューブ状アルミニウムケイ酸塩は、天然においてイモゴライトとして産出するが、イモゴライトは土壌中に存在するものであり、主に九州地方の火山灰由来の土壌に産することが明らかにされている。また、天然のイモゴライトは、類縁鉱物であるアロフェンと並んで、土壌における養分や水分の移動および植物への供給、さらに有害な汚染物質の集積や残留などに対して影響を与えるものである。
【0003】チューブ状アルミニウムケイ酸塩であるイモゴライトの特異な形状および物性は、工業的にも有用であると思われる。しかし、天然のイモゴライトが産する土壌の地域は限られており、また、産出量も少ない。さらに、天然土壌中から産出されるイモゴライトは、表面に酸化鉄の皮膜が存在しており、その皮膜は粘土から遊離酸化鉄を取り除く処理を行っても完全に取り除くことはできず、したがって、天然土壌中から高純度のチューブ状アルミニウムケイ酸塩を得ることは不可能であった。
【0004】このようなことから、高純度のチューブ状アルミニウムケイ酸塩を得るため、人工的に合成することが試みられた。単量体ケイ酸化合物溶液とアルミニウム化合物溶液にpHが5になるまで水酸化ナトリウム水溶液を添加し、約100℃で加熱することによりチューブ状アルミニウムケイ酸塩を得ていた(Farmer:British Patent,1574954,1977)。
【0005】上記のような合成法が確立されているが、高濃度でチューブ状アルミニウムケイ酸塩を合成する際には共存イオンがチューブ状アルミニウムケイ酸塩の生成を抑制するため、アルミ源として高価な有機アルミニウム化合物を用いたり、危険性のある過塩素酸アルミニウムと過塩素酸を用いたりして合成が行われている。したがって、安価でかつ安全に高濃度溶液からチューブ状アルミニウムケイ酸塩を合成することは不可能であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記の如くチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成方法は開発されているが、従来の方法ではチューブ状アルミニウムケイ酸塩はアルミ源として高価な有機アルミニウムや危険性のある過塩素酸アルミニウムを用いて合成されている等の問題点を残しているため、工業的に利用できる大量合成法としては不適当であった。
【0007】このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高純度のチューブ状アルミニウムケイ酸塩を低コストでかつ安全に、大量に得ることを可能とする新しい合成方法を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、高濃度の無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液を混合して調製した溶液中の共存イオンを取り除いて溶液中の不要イオン濃度を低下させた後に、これを加熱することにより、高純度のチューブ状アルミニウムケイ酸塩が生成されることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、チューブ状アルミニウムケイ酸塩を従来の方法よりも安価でかつ安全に、大量に合成する方法を提供するものである。下、本明細書において、mmolはmmol/lを意味する。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明は、高濃度の無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液を、所定のケイ素/アルミニウムのモル比率になるように混合して調整した溶液中でシリカ・アルミ系前駆体を生成し、共存イオンを取り除いて溶液中の不要イオン濃度を低下させた後に、加熱熟成を行い、生成・析出する固形分を回収、洗浄することにより高純度のチューブ状アルミニウムケイ酸塩を大量に合成する方法である。また、本発明は、1〜500mmolの無機ケイ素化合物溶液と1〜1000mmolの無機アルミニウム化合物溶液を混合する上記のチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成法を望ましい態様とするものである。さらに、本発明は、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液をケイ素/アルミニウムのモル比率が0.5〜0.75になるように混合する上記のチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成法を望ましい態様とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】次に、本発明についてさらに詳述する。本発明方法では、原料として無機ケイ素化合物と無機アルミニウム化合物が用いられる。ケイ素源として使用される試剤は、モノケイ酸であればよく、具体的には、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、無定形コロイド状二酸化ケイ素(エアロジルなど)などが好適なものとして挙げられる。また、上記ケイ酸塩分子と結合させるアルミニウム源としては、アルミニウムイオンであればよく、具体的には、例えば塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム化合物が挙げられる。これらのケイ素源およびアルミニウム源は、上記の化合物に限定されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0010】これらの原料を適切な水溶液に溶解させ、所定の濃度の溶液を調整する。これらの溶液を任意の比率で混合しても前駆体の形成において問題はないが、好適にはケイ素/アルミニウム比は0.5〜0.75になるように混合する。溶液中のケイ素化合物の濃度は1〜500mmolでアルミニウム化合物の溶液の濃度は1〜1000mmolであるが、好適な濃度としては1〜100mmolのケイ素化合物溶液と1〜200mmolのアルミニウム化合物溶液を混合することが好ましい。これらの比率および濃度により、アルミニウム化合物溶液にケイ素化合物溶液を混合し、前駆体が形成されたのち、遠心分離、濾過、膜分離等により、溶液中の共存イオンを取り除き、その後、回収した前駆体を酸性水溶液に分散させた後、加熱合成することにより生成される固形分が目的とするチューブ状アルミニウムケイ酸塩である。前駆体を分散させる酸性溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。チューブ状アルミニウムケイ酸塩は、好適には、加熱時の溶液のpHが3〜4ぐらいの範囲で合成される。中和反応に必要なアルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられる。好適には、予めアルカリを加えておいたアルカリ性のモノケイ酸水溶液と酸性のアルミニウム水溶液を混合する。加熱の方法および条件はマントルヒーターやオートクレーブを用いて、水が蒸発しないように加熱を行えばよく、また、温度の範囲は50℃〜120℃であるが、好適には100℃前後が望ましい。加熱後、生成、析出した固形分を遠心分離、濾過等により分離回収することにより、本発明のチューブ状アルミニウムケイ酸塩が分離回収される。生成物の洗浄は、純水にて数回洗浄を行う。乾燥は、室温から200℃の範囲であるが、好適には40℃〜80℃で1日乾燥することが望ましい。得られた生成物は、粉末X線回折、電子顕微鏡観察等の結果、チューブ状アルミニウムケイ酸塩であることが確認された。
【0011】
【実施例】次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は当該実施例のみに限定されるものではない。
実施例(1)合成方法SiO2 濃度が20mmolになるように純水で希釈したオルトケイ酸ナトリウム水溶液250mlを調整した後、1N水酸化ナトリウム水溶液4mlを加えた。また、これとは別に塩化アルミニウムを純水に溶解させ、30mmol水溶液250mlを調整した。塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を混合し、マグネティックスターラーで撹拌した。このときのケイ素/アルミニウム比は0.67である。この溶液を0.1μm孔径のミリポアフィルターにより濾過を行い共存イオンを除去した。濾過により回収された前駆体を0.001Nの塩酸500mlに分散させた後、マントルヒーターを用いて100℃で2日間加熱した。加熱後、生成物を0.025μm孔径のミリポアフィルターにより濾過を行い、この濾過により回収した生成物を、40℃の乾燥器で約1日乾燥した。得られた生成物について、そのX線回折パターン、形態、および細孔分布を解析した。
【0012】(2)結果以上の方法によって得られた生成物は、粉末X線回折において2θ=4,9.5,14,27,40°付近にピークを有し、チューブ状アルミニウムケイ酸塩特有のX線回折パターンを示した。また、電子顕微鏡観察において、約2.5nmの直径をもつチューブ状の形態を示した。さらに、細孔分布曲線では、約1.5nmと3nmおよび5nmにピークを有しており、約1.5nmの細孔はチューブ内部の細孔に、約3nmおよび5nmの細孔はチューブとチューブの隙間に由来するものである。
【0013】比較例比較例として、従来の合成方法の例を示す。従来の方法によると、SiO2 濃度が1.4mmolのモノケイ酸水溶液と2.4mmolの塩化アルミニウム水溶液を調整し、両溶液を混合した後、pHが5になるまでゆっくりと水酸化ナトリウム水溶液を加え、95℃で5日間加熱することによりチューブ状アルミニウムケイ酸塩を得ている(Farmer: British Patent,1574954,1977)。しかし、従来の方法では、塩化アルミニウム水溶液の濃度が8mmolを越えると、チューブ状アルミニウムケイ酸塩は合成できなかったため、2.4mmol塩化アルミニウム水溶液という薄い溶液からしか無機溶液からの合成は行われていなかった。
【0014】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明は、高濃度の無機原料溶液からチューブ状アルミニウムケイ酸塩を合成する方法に係り、高い表面活性により吸着機能やイオン交換能に優れ、高比表面積と細孔およびその形態を利用した天然ガスの貯蔵や生活環境の湿度を自律的に制御する湿度調節材、有害汚染物質吸着材や脱臭材等に応用可能な、チューブ状アルミニウムケイ酸塩を無機原料溶液から大量合成することを可能としたものであり、本発明により、従来の合成法よりも安価でかつ安全に、そして大量にチューブ状アルミニウムケイ酸塩を合成する方法を提供することができる。本発明によって合成されるチューブ状アルミニウムケイ酸塩は、燃料貯蔵材や自律的調湿材、また、脱臭材や有害汚染物質吸着材として広範な産業分野での利用が可能である。よって、本発明は高機能多孔質材料の提供に寄与する技術として、業界に寄与するところは極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で得られた生成物のX線回折パターンによる測定結果を示す。
【図2】本発明の実施例で得られた生成物の電子顕微鏡写真を示す。
【図3】本発明の実施例で得られた生成物の細孔径分布曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 加熱工程における溶液中の共存イオン濃度を低下させて、無機原料溶液からチューブ状アルミニウムケイ酸塩を合成する方法であって、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液を混合しチューブ状アルミニウムケイ酸塩前駆体を成長させた後、溶液中の共存イオンを取り除きイオン濃度を低下させ、その後、前駆体を酸性水溶液に分散させ、加熱を行うことにより生成される固形分を回収することを特徴とするチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成法。
【請求項2】 1〜500mmol/lの無機ケイ素化合物溶液と1〜1000mmol/lの無機アルミニウム化合物溶液を混合する請求項1記載のチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成法。
【請求項3】 無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液をケイ素/アルミニウムのモル比率が0.5〜0.75になるように混合する請求項1記載のチューブ状アルミニウムケイ酸塩の合成法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【特許番号】特許第3146360号(P3146360)
【登録日】平成13年1月12日(2001.1.12)
【発行日】平成13年3月12日(2001.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−242565
【出願日】平成11年8月30日(1999.8.30)
【審査請求日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【識別番号】220000334
【氏名又は名称】 220000334 工業技術院名古屋工業技術研究所長