高濃度のグルコース耐性を有するβ−グルコシダーゼ
【課題】高濃度グルコースによる阻害をほとんど受けず、セロビオースに高い特性を有し、酸性領域で活性を有するβ-グルコシダーゼ及びそれを利用したセルロースの糖化方法を提供することである。
【解決手段】くさや汁由来のメタゲノムライブラリのスクリーニングによって単離された、500mMの高濃度グルコース存在下で酵素活性を有するβ-グルコシダーゼを提供し、またその酵素を用いたセルロースを分解する方法を提供する。
【解決手段】くさや汁由来のメタゲノムライブラリのスクリーニングによって単離された、500mMの高濃度グルコース存在下で酵素活性を有するβ-グルコシダーゼを提供し、またその酵素を用いたセルロースを分解する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のグルコース存在下でも活性を有するβ-グルコシダーゼ及びセルロースの糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の光合成によって生産されるセルロース及びヘミセルロースは、地上で最も豊富なバイオマスである。化石燃料等の非再生可能資源の限界が懸念される中で、セルロースやヘミセルロースは、人口増大による食糧、飼料及び燃料不足を解決し得る再生可能資源として最も注目を集めている。しかし、セルロースやヘミセルロースは、化学的に非常に安定であるため、食糧やバイオエタノールの原料となる単糖にまで糖化することは技術面やコスト面で容易ではなく、エネルギー資源としての実用化に向けて解決すべき課題は多い。
【0003】
一般にセルロースは、セルラーゼを合成できる微生物(細菌、真菌、粘菌、原生動物、昆虫等)によって分解される(非特許文献1)。セルラーゼは、セルロースのβ-1,4-グルカン又はβ D-グルコシド結合を加水分解して、セロオリゴ糖、セロビオース及びβ-D-グルコースを生成する酵素の総称であり、その作用形式により3つの型に大別されている。すなわち、エンドグルカナーゼ(EG;EC3.2.1.4)、エキソグルカナーゼ(セロビオハイドラーゼ;CBH;EC3.2.1.91)、及びβ-グルコシダーゼ(β-D-グルコシドグルハイドラーゼ;BG;EC3.2.1.21)(非特許文献2)である。エンドグルカナーゼは、主としてセルロース繊維の非結晶部分に作用してセルロース糖鎖の内部を切断する(非特許文献3)。また、エキソグルカナーゼは、結晶性セルロースに作用してセルロース糖鎖の末端を分解し、セロビオースを産生する(非特許文献4)。一方、β-グルコシダーゼは、エンドグルカナーゼ及び/又はエキソグルカナーゼの作用によって生じたセロビオース及び/又はセロオリゴ糖等から最終産物であるβ-D-グルコースを遊離させる働きをもつ(非特許文献5)。したがって、セルロースの糖化には、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼの3つの酵素の存在とそれらの効率的な活性が必要となる。
【0004】
ところが、公知のβ-グルコシダーゼの多くは、1〜10mM程度の低濃度のグルコース存在下でその活性が阻害されるという性質をもつ。つまり、多くのβ-グルコシダーゼは、自身の活性によって生じるβ-D-グルコースの増加に伴い、その活性が低下してしまう。この性質は、セルラーゼによるセルロース分解反応系において、セロビオースの蓄積をもたらす原因となる。また、蓄積したセロビオースは、エキソグルカナーゼの活性を阻害するため、セルロース分解反応の更なる停滞を引き起こす。それ故、セルラーゼをグルコースへと完全に糖化するためには、グルコースによる活性阻害を受けないβ-グルコシダーゼの開発が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Aro et al. Journal of Biological Chemistry, 276(26):24309-14 (2001)
【非特許文献2】Knowles et al. Trends in Biotechnology, 5, 255-261 (1987)
【非特許文献3】Kumar et al. J Ind Microbiol Biotechnol. 35(5):377-91. (2008)
【非特許文献4】Nevalainen and Penttila, 1995 Molecular biology of cellulolytic fungi. In: Genetics and Biotechnology K. Esser and U. Kuck, Editors, The Mycota Vol. III (1995), pp. 303-319 Springer Verlag.
【非特許文献5】Suurnakki et al. Cellulose 7:189-209 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高濃度のグルコース存在下であっても、グルコースによる阻害作用を受けることなく酵素活性を保持することのできるβ‐グルコシダーゼを単離し、それを提供することである。
【0007】
また、本発明の課題は、前記グルコース耐性を有するβ‐グルコシダーゼ若しくはその活性ポリペプチド断片又はそれらをコードする核酸を導入した形質転換体若しくはその後代を用いて、セルロースを効率的に糖化する方法を開発し、それを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者は、メタゲノム解析法によって高濃度グルコース耐性を有するβ‐グルコシダーゼのスクリーニングを行った。その結果、500mMの高濃度のグルコース存在下でもグルコース非存在下の活性に対して100%の相対酵素活性を有する新規β‐グルコシダーゼをくさや汁から単離することに成功した。本発明は、上記知見に基づいて成されたものであり、すなわち以下を提供する。
【0009】
(1)SDS-PAGEにおいて45〜55キロダルトンの分子量を示し、500mM以下のグルコース存在下で酵素活性を有するβ‐グルコシダーゼ。
(2)以下の(a)又は(b)のポリペプチドからなる、(1)に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド
(3)前記(1)に記載のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片。
(4)アミノ酸配列の一部が(2)に記載のアミノ酸配列の一部である、(3)に記載のポリペプチド断片。
(5)前記(1)若しくは(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ又は(3)若しくは(4)に記載のポリペプチド断片をコードする核酸。
(6)前記(5)に記載の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクター。
(7)前記(6)に記載の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代。
(8)前記(7)に記載の形質転換体又はその後代に発現誘導処理を行い、(1)若しくは(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ又は(3)若しくは(4)に記載のポリペプチド断片を製造する方法。
(9)前記(1)若しくは(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ又は(4)若しくは(5)に記載のポリペプチド断片、あるいは(7)に記載の形質転換体若しくはその後代を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含む、セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法。
(10)前記(9)に記載の方法を用いた、セルロースからβ-D-グルコースを製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ‐グルコシダーゼ又はそのポリペプチド断片によれば、500mM以下のグルコース存在下であれば、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(以下、本明細書においては「pNPG」とする)、セロビオース及び/又はセロオリゴ糖をグルコース非存在下の活性に対して100%の相対活性で加水分解することができる。
【0011】
本発明の糖化方法によれば、500mMのグルコース存在下であってもpNPG、セルロース及び/又はヘミセルロースを効率的に糖化し、β-D-グルコースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のβ‐グルコシダーゼのSDS-PAGEにおける分子量の測定結果を示す。矢印で示すバンドが本発明のβ‐グルコシダーゼに相当する。
【図2】各濃度のグルコース存在下での本発明のβ‐グルコシダーゼの活性を示す。5mM、10mM又は20mMのpNPGを基質とした。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3】pNPGを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼのカイネティクスを示す。
【図4】セロビオースを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼのカイネティクスを示す。
【図5】各濃度のエタノール存在下での本発明のβ‐グルコシダーゼの活性を示す。ここでは、エタノール非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH5.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図7】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図8】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した50℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図9】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図10】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のDTTの影響を示す。ここでは、0mM DTTの活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図11】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のEDTA(エチレンジアミン四酢酸)の影響を示す。ここでは、0mM EDTAの活性を100%としたときの相対活性を表している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片
本発明の第1の実施形態は、β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片である。
1−1.β‐グルコシダーゼの特徴
本発明のβ‐グルコシダーゼは、以下の(a)〜(c)に示す物理的及び化学的性質を有する。
【0014】
(a)分子量
本発明のβ‐グルコシダーゼは、SDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)において、分子量マーカーとの相対的位置で45〜55キロダルトン(kDa)の分子量を示す。
【0015】
(b)活性基質特異性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、pNPG、セロビオース及びセロオリゴ等(例えば、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース等)を基質として、それらを加水分解することができる。特にセロビース又はセロオリゴ糖に対して、pNPG以上に高い加水分解活性を示す。
【0016】
(c)グルコース耐性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、基質を含む反応溶液中のグルコース濃度が500mMの高濃度な状態であっても、グルコース非存在下の活性に対して100%の相対活性でその反応溶液中の基質を加水分解することができるグルコース耐性を有する。
【0017】
さらに本発明のβ−グルコシダーゼは、以下の(d)〜(f)に示す一以上の化学的性質を有することができる。
【0018】
(d)エタノールによる活性向上性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、基質を含む溶液中に該溶液に対して体積比(volume/volume)5〜20%のエタノールが存在する場合、エタノール非存在下と比較して酵素活性を20%〜50%向上させることができる。
【0019】
(e)至適pH
本発明のβ‐グルコシダーゼは、30℃において、pH4.8〜pH6.8、好ましくはpH5.0〜pH6.5の酸性領域で高い活性を示す。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、30℃において、pH5.5〜pH8.5の範囲で安定的な活性を示す。
【0020】
(f)至適温度
本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH5.5下において、40℃〜53℃、好ましくは45℃〜50℃の範囲で高い活性を示す。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH5.5下において、45℃以下で安定的な活性を示す。
【0021】
本発明のβ‐グルコシダーゼは、前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドであれば、それが由来する生物種は問わない。例えば、細菌(例えば、アクチノマイセス類)、真菌(例えば、酵母、糸状菌)、粘菌、原生動物、又は昆虫(例えば、シロアリ、ゴキブリ)等のいずれの由来であってもよい。
【0022】
本発明のβ‐グルコシダーゼの具体例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加され、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドが挙げられる。ここで「数個」とは、2〜5個、好ましくは2〜4個、より好ましくは2〜3個又は2個の整数をいう。前記置換は、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。保存的アミノ酸置換であれば、配列番号1で示されるβ‐グルコシダーゼと実質的に同等な構造又は性質を有し得るからである。保存的アミノ酸置換とは、同一の保存的アミノ酸群に属するアミノ酸間の置換をいう。保存的アミノ酸群には、非極性アミノ酸群(グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、トリプトファンが属する)及び極性アミノ酸群(非極性アミノ酸以外のアミノ酸が属する)、荷電アミノ酸群(酸性アミノ酸群(アスパラギン酸、グルタミン酸が属する)及び塩基性アミノ酸群(アルギニン、ヒスチジン、リジンが属する))及び非荷電アミノ酸群(荷電アミノ酸以外のアミノ酸が属する)、芳香族アミノ酸群(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンが属する)、分岐状アミノ酸群(ロイシン、イソロイシン、バリンが属する)、並びに脂肪族アミノ酸群(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンが属する)等が知られている。また、β‐グルコシダーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有し、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドであってもよい。ここで「同一性」とは、二つのアミノ酸配列にギャップを導入して、又は導入しないで、最も高い一致度となるように整列(アラインメント)させたときに、前記ギャップの数を含めた、一方のアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する他方のアミノ酸配列の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。
【0023】
本発明のβ‐グルコシダーゼを構成するアミノ酸は、修飾されていてもよい。ここでいう「修飾」は、例えば、本発明のβ‐グルコシダーゼがその活性を有する上で必要な機能上の修飾(例えば、グリコシル化のような糖鎖の付加)及び/又は本発明のβ‐グルコシダーゼを検出する上で必要な標識修飾のいずれも含む。標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
【0024】
また、本発明の、βグルコシダーゼは必要に応じて、シグナルペプチドや標識ペプチドのような他の生物種由来のアミノ酸配列又はタグアミノ酸配列のような人工的アミノ酸配列と連結することができる。
【0025】
1−2.活性ポリペプチド断片
本明細書において「活性ポリペプチド断片」とは、本発明のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片をいう。本活性ポリペプチド断片のアミノ酸配列の長さは、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性及びその化学的性質を有していれば特に限定はしない。本発明の活性ポリペプチド断片も前記β‐グルコシダーゼと同様に、構成するアミノ酸が修飾されていてもよく、また、必要に応じて、シグナルペプチドや標識ペプチドのような他の生物種由来のアミノ酸配列又はタグアミノ酸配列のような人工的アミノ酸配列と連結することができる。
【0026】
1−3.効果
本発明のβ−グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片によれば、従来知られていたβ‐グルコシダーゼよりも高濃度の100〜500mMのグルコース存在下でも、グルコース非存在下の活性に対して100%の相対活性で基質を加水分解することができる。
【0027】
また、本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片によれば、基質を含む溶液中に該溶液に対して5〜20%(V/V)のエタノールが存在する場合、エタノール非存在下と比較して酵素活性を20%〜50%向上させることができる。したがって、セルロースの糖化から連続して酵母による発酵を行なうことができる。
【0028】
2.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸
2−1.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸の特徴
本発明の第2の実施形態は、第1実施形態のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片(以下、本明細書において「本発明のβ‐グルコシダーゼ等」とする)をコードする核酸である。
【0029】
本明細書で「核酸」とは、原則として、DNA、RNA又はそれらの組合せをいうが、それ以外にも、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)/BNA(Bridge Nucleic Acid)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸、擬似核酸又はそれらとDNA及びRNAの組み合わせも含む。好ましくは、DNAである。
【0030】
本発明の核酸は、本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする。例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくは配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド又はそれらのアミノ酸配列の一部を含み、かつ第1実施形態に記載の酵素活性を有するポリペプチド断片をコードする核酸が挙げられる。具体的には、例えば、配列番号2で示される塩基配列を含む核酸、あるいはSNP(一塩基多型)等の多型変異体、スプライス変異体又は遺伝暗号の縮重変異体のように配列番号2で示される塩基配列において1個又は数個のヌクレオチドが欠失、置換又は付加した核酸、配列番号2で示される塩基配列とそれぞれ95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有する核酸、又は配列番号2で示される塩基配列の全部又は一部と相補的な塩基配列からなる核酸断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸である。これらの核酸がコードするポリペプチドは、いずれも第1実施形態に記載のβ‐グルコシダーゼのグルコース耐性を有する。さらに、エタノールによる活性向上性を有することもできる。ここで「同一性」とは、2つの塩基配列にギャップを導入して又は導入しないでアラインメントさせたときに、一方の塩基配列の全塩基数に対する他方の塩基配列の同一塩基数の割合(%)をいう。「数個」とは、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個、2〜3個又は2個の整数をいう。また、「ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。通常は低ストリンジェント〜高ストリンジェントな条件が挙げられるが、高ストリンジェントな条件が好ましい。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件であり、好ましくは50℃、5×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。
【0031】
2−2.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸の調製
本発明の核酸は、例えば、配列番号2で示す塩基配列に基づいて、PCR法を用いて合成したポリヌクレオチドを連結することによって得ることができる他、配列番号2で示す塩基配列に基づいて、その一部配列又はそれに相補する一部配列をプローブ又はプライマーとして用いて、適当な生物種のcDNAライブラリ、好ましくはメタゲノム解析法によって調製される複数の微生物(細菌、糸状菌、原生動物等を含む)由来のcDNAライブラリ又はゲノムライブラリからサザンブロッティング又はPCR等の当該分野で公知の方法、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法によってそのオルソログを得ることができる。
【0032】
3.発現ベクター
3−1.発現ベクターの特徴
本発明の第3の実施形態は、第2実施形態の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクターである。「発現ベクター」とは、一般に、内部にコードされた遺伝子を発現制御できるシステムを包含するベクターをいう。「第2実施形態の核酸」とは、本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸をいう。「発現可能な状態」とは、発現ベクターに含まれる前記核酸が宿主内の所定条件下で転写され得る状態をいう。例えば、発現ベクターに含まれる宿主特異的なプロモーターの制御下に前記核酸を連結した状態が該当する。
【0033】
本発明の発現ベクターにおけるベース部分、すなわち、ベクターの主要な骨格部分は、特に限定はしない。好ましくは、プラスミド又はウイルスである。プラスミドの場合、例えば、大腸菌由来のプラスミド(pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、pBluescript系(stratagene社)プラスミド)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(Yep13、Yep24、YCp50等)等を使用することができる。ウイルスの場合、ファージ(λgt11、λZAP等のλファージ)、植物ウイルス(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV))、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルス)等を使用することができる。これらは、導入する宿主に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
本発明の発現ベクターは、第2実施形態の核酸及びベース部分以外に、他の構成要素を含むことができる。例えば、プロモーター、エンハンサー若しくはターミネーター等の調節領域、又は選択マーカー遺伝子等の標識領域が挙げられる。また、宿主が真核生物である場合には、スプライシングシグナル(ドナー部位、アクセプター部位、ブランチポイント等)、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等の調節領域を連結することもできる。それぞれの構成要素の種類は、導入する宿主に応じて当該分野で公知のものを適宜選択すればよく、特に限定はしない。
【0035】
本発明の発現ベクターにおいて、前記プロモーターは、宿主特異的なプロモーター、すなわち、特定の宿主細胞内で作動可能なプロモーターを使用する。例えば、大腸菌中で作動可能なプロモーターとしては、lac、trp若しくはtacプロモーター又はファージ・ラムダ由来のPR若しくはPLプロモーター等が挙げられる。また、酵母で作動可能なプロモーターとしては、例えば、酵母解糖系遺伝子由来のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2-4cプロモーター等が挙げられる。植物細胞で作動可能なプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。昆虫細胞で作動可能なプロモーターとしては、例えば、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0036】
エンハンサーとしては、例えば、CaMV 35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域及びCMVエンハンサー等が挙げられる。
【0037】
ターミネーターとしては、例えば、大腸菌用のリポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、酵母用のADH1遺伝子のターミネーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35Sターミネーター等が挙げられる。
【0038】
選択マーカー遺伝子としては、細菌用選択マーカーとしての薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子又はネオマイシン耐性遺伝子)、酵母用選択マーカーとしての栄養素遺伝子(例えば、ロイシン、ウラシル、アデニン、ヒスチジン、リジン又はトリプトファンの合成遺伝子)、蛍光又は発光レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、又は緑色蛍光タンパク質(GFP))、酵素遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸還元酵素等)が挙げられる。
【0039】
3−2.発現ベクターの調製
第2実施形態の核酸を前記本発明の発現ベクターの所定の部位に挿入する方法は、当該分野で公知の方法、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法に従って行えばよい。通常は、調製された第2実施形態の核酸の両端を適当な制限酵素で処理し、発現ベクター中のプロモーター制御下における対応する制限酵素部位に挿入して連結する方法、又はTaq DNAポリメラーゼ等による3'-A突出末端を有するPCR産物であれば発現ベクター中のプロモーター制御下における5'-T突出末端部位に挿入して連結する方法等が採用される。その他、市販のシステム又はキットを用いる場合であれば、それらに特異的な方法によって調製することもできる。
【0040】
3−3.発現ベクターの効果
本実施形態の発現ベクターによれば、適応する宿主に導入することで、次で説明する形質転換体を得ることができる。
【0041】
4.形質転換体又はその後代
4−1.形質転換体又はその後代の特徴
本発明の第4の実施形態は、第3実施形態の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代である。
【0042】
本明細書において「形質転換体」とは、第3実施形態の発現ベクターの導入により形質転換された宿主であり、形質転換体の第1世代をいう。宿主は、導入された発現ベクターの複製が可能で、かつその発現ベクターに含まれる第2実施形態の核酸を発現できれば特に限定されない。宿主の具体例を挙げると、細菌(例えば、大腸菌(Escherichia coli等)及び枯草菌(Bacillus subtilis))、酵母(例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)又はメタノール資化性酵母(Pichia pastoris))、糸状菌(例えば、コウジカビ(Aspergillus)及びアカパンカビ(Neurospora))、植物(植物体、その器官、組織、分化した細胞若しくは未分化状態の植物細胞(カルス)を含む)又は昆虫細胞(例えば、sf9又はsf21)が挙げられる。
【0043】
本明細書において「形質転換体の後代」とは、前記形質転換体(第1世代)から無性生殖又は有性生殖を介して得られる形質転換体第2世代以降であって、かつ第2実施形態の核酸を発現可能な状態で保持しているものを意味する。例えば、宿主が大腸菌や酵母等の無性生殖を行う単細胞微生物であれば、形質転換体第1世代以降から分裂又は出芽等によって新たに生じた細胞(クローン体)が該当する。また、形質転換される宿主が植物であれば、形質転換体第1世代以降から採取した植物体の一部から再生させた植物体、形質転換体第1世代以降から無性生殖で得られる栄養繁殖器官(例えば、根茎、塊根、球茎、ランナー等)より新たに生じた新たな植物体、又は形質転換体第1世代以降の実生が該当する。
【0044】
4−2.形質転換体の調製
第3実施形態の発現ベクターを宿主に導入して本発明の形質転換体又はその後代を調製する方法は、当該分野で公知の形質転換方法を使用することができる。
【0045】
宿主が細菌であれば、例えば、ヒートショック法、カルシウムイオン法(例えば、リン酸カルシウム法)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、宿主が酵母であれば、例えば、リチウム法、エレクトロポレーション法等を用いればよい。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、Sambrook, J. et.al、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Guthrie, C. & Fink. G.R., 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biolog, Method in Enzymology, 194, Academic Pressを参照されたい。さらに、宿主が植物細胞であって、かつ前記発現ベクターがプラスミドベクターである場合には、形質転換方法としてプロトプラスト法、パーティクルガン法又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)法等を利用することができる。いずれの方法も当該分野においては、公知の方法であり、詳細については植物代謝工学ハンドブック(2002年、NTS社)又は新版モデル植物の実験プロトコール:遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001年秀潤社)等を参照すればよい。
【0046】
また、宿主が植物細胞であって、かつ前記発現ベクターがウイルスベクターの場合には、そのウイルスベクターを植物細胞に感染させることによって導入することができる。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法も公知の方法であり、詳細については、Hohnらの方法(Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)1982、pp549)、米国特許第4,407,956号明細書等を参考にすればよい。
【0047】
4−3.後代取得法
本発明の形質転換体から後代を得る方法は、その形質転換体の宿主である生物種において後代を得るために用いられる通常の方法で行えばよい。例えば、形質転換体の宿主が大腸菌や酵母であれば、適当な公知培地で培養することによって容易に得ることができる。例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkを参照すればよい。また、形質転換体の宿主が植物であれば、後代は、通常、種子、栄養繁殖器官又は植物体の一部(例えば、挿し木)の土耕栽培により得ることができる。
【0048】
4−4.効果
本発明の形質転換体又はその後代によれば、適当な発現条件下で、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させることができる。
【0049】
5.β‐グルコシダーゼ又は活性ポリペプチド断片の製造方法
本発明の第5の実施形態は、第4実施形態の形質転換体又はその後代(以下、本明細書においては「形質転換体等」とする)に発現誘導処理を行い、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を製造する方法である。
【0050】
本方法は、本発明の発現ベクターを包含する形質転換体等を培養する工程(培養工程)、培養した形質転換体等に発現誘導処理を行う工程(発現誘導工程)、及び培養液及び/又は形質転換体等から本発明のβ‐グルコシダーゼ等を回収する工程(回収工程)を含む。以下、それぞれの工程について説明をする。
【0051】
5−1.培養工程
「培養工程」は、本発明の形質転換体等を適当な培地で培養する工程である。形質転換体等を培地で培養する方法は、形質転換体の宿主の培養に用いられる通常の方法に従えばよい。例えば、細菌を宿主とする場合、培地は、その微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ生育、増殖可能なものであれば、天然培地、合成培地のいずれを用いることもでき、特に限定はしない。具体例としてLB培地が挙げられるが、これに限定はされない。また、形質転換体等を選択的に培養する場合にように、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加することもできる。培養は、通常、撹拌等の好気的条件下において37℃で対数増殖期まで行えばよい。また、酵母を宿主とする場合、培地は前記と同様にその酵母が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ発現ベクターを保持しながら生育、増殖可能なものであれば、特に制限はしない。例えば、YPD培地や栄養素選択合成培地等を使用することができる。これらの培養方法は、当該分野で公知である。例えば、Sambrook, J. et.al、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Guthrie, C. & Fink. G.R., 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biolog, Method in Enzymology, 194, Academic Pressを参照することができる。さらに、植物を宿主とする場合、培地は公知の液体培地で公知の方法に従い、水耕栽培するか、又は圃場で栽培すればよい。
【0052】
5−2.発現誘導工程
「発現誘導工程」は、培養した前記形質転換体等に所定の発現誘導処理を行い、形質転換体等に包含される発現ベクター中の本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする核酸の発現を誘導させる工程である。発現誘導の方法は、ベクターに含まれるタンパク質発現制御システムによって異なるため、そのシステムに適した誘導処理を行えばよい。例えば、細菌を宿主とするタンパク質発現誘導型ベクターにおいて最も一般的に利用されているタンパク質発現誘導システムは、lacリプレッサー遺伝子及びlacオペレーターからなるシステムである。本システムは、IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-Galactoside)処理によって発現を誘導することが可能である。したがって、本発明の形質転換体等が包含する発現ベクターがこのlacシステムを有する場合には、目的とする本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させるためには、適当量(例えば、終濃度で1mM)のIPTGを培地中に添加すればよい。これらの誘導処理は、当該分野では公知の技術である。例えば、大野茂男及び西村善文監修,1997,タンパク質実験プロトコール(1)機能解析編,細胞工学別冊,実験プロトコールシリーズ,秀潤社を参照されたい。また、形質転換体等に包含される発現ベクター中の本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする核酸が、発現ベクターを宿主細胞内に導入することで恒常的に発現可能な場合には、特段の誘導処理を必要とすることなく、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させ、次の回収工程に供することができる。
【0053】
5−3.回収工程
「回収工程」は、発現誘導工程で誘導された本発明のβ‐グルコシダーゼ等を形質転換体等又はその培養液から回収する工程である。発現した本発明のβ‐グルコシダーゼ等が形質転換体の細胞内に生産される場合には、細胞を遠心等によって回収し、ソニケーター等の細胞破砕機を用いて破砕して本発明のβ‐グルコシダーゼ等を含む抽出液を調製する。また、発現した本発明のβ‐グルコシダーゼ等が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、又は遠心分離等により形質転換体等を除去し、上清を使用する。必要に応じて、得られた細胞抽出液又は上清を一般的なタンパク質の精製方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で、又は適宜組合せて用いることにより、前記培養物中から本発明のβ‐グルコシダーゼ等を単離精製することができる。ポリペプチドの回収は、当該分野では公知の技術である。例えば、大野茂男及び西村善文監修,1997,タンパク質実験プロトコール(1)機能解析編,細胞工学別冊,実験プロトコールシリーズ,秀潤社を参照されたい。
【0054】
なお、本発明のβ‐グルコシダーゼ等が目的のポリペプチドであるか否かは、例えば、SDS-PAGEによる泳動距離がその塩基配列から予想される分子量サイズに合致するか否か、本発明のβ‐グルコシダーゼに対する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体)があれば、その抗体により免疫反応が見られるか否か、又は後述するような高濃度のグルコース存在下でpNPGを加水分解する活性を有するか否かで確認すればよい。
【0055】
5−4.効果
本発明の製造方法によれば、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を大量に製造することが可能となる。
【0056】
6.セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法
本発明の第6の実施形態は、セルロース及び/又はヘミセルロースを分解し、糖化する方法である。本糖化方法は、本発明のβ‐グルコシダーゼ等及び/又は本発明の形質転換体等を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含むことを特徴とする。
【0057】
本明細書の「セルロース及び/又はヘミセルロース」(以下、「セルロース等」とする)は、セルロース等を含有するあらゆる資源を対象とすることができる。例えば、木本類(例えば、スギ又はカラマツのような針葉樹若しくはブナ、ナラ、カシ、ユーカリ又はポプラのような広葉樹の樹幹、根、枝、葉、花、種子及びそれらの落葉を含む)及び草本類(ススキ、タケ若しくはササ等の単子葉類、ヨモギ、セイタカアワダチソウ若しくはクズのような双子葉類の根、茎、葉、花、種子及びそれらの枯死体を含む)を含む種子植物又はシダ類等の利用度の低い植物資源のみならず、植物性農業廃棄物(例えば、イネ、ムギ、トウモロコシ等の茎、葉、籾殻)、農産物の加工処理で発生する残渣(例えば、果皮、オカラのような搾り粕)、紙資源(例えば、新聞紙、雑誌、廃棄OA紙、ダンボール)及び建築廃材が挙げられる。
【0058】
一般に、セルロース等の糖化は、セルロース等をセロオリゴ糖に加水分解する工程(セルロース分解工程)、セロオリゴ糖をセロビオースに加水分解する工程(セロオリゴ糖分解工程)及びセロビオースをβ-D-グルコースに加水分解する工程(セロビオース分解工程)を含む。本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程は、主として「セロビオース分解工程」に含まれる。以下、前記3つの工程について説明をする。
【0059】
6−1.セルロース分解工程
「セルロース分解工程」は、セルロース等を分解して主としてセロオリゴ糖、一部でセロビオースを生成する工程である。本工程は、通常、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼによる加水分解作用によって進行する。使用するエンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼは、セルロース等の加水分解活性を有するものであれば、細菌由来、真菌(酵母、糸状菌を含む)由来、粘菌由来、シロアリやゴキブリ等の昆虫又は原生動物由来のいずれであってもよく、その種類は問わない。例えば、糸状菌の一種であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のエンドグルカナーゼを使用することができる。本工程で使用するエンドグルカナーゼは、その活性を有していれば必ずしも精製されている必要はなく、例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各種セルラーゼ(エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ及びβ‐グルコシダーゼ)を包含する未精製(クルードな)溶液を使用することもできる。
【0060】
本工程の具体的方法としては、例えば、エンドグルカナーゼを1gのセルロース等に対して1〜10mg、好ましくは2mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。本工程で使用するセルロース及び/ヘミセルロースは、木質状態、すなわち、リグニンを含有する状態又は後述するリグニン分解除去処理工程を経た状態のいずれであってもよい。好ましくは、リグニン分解除去処理工程を経た状態である。また、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各セルラーゼを混合状態で包含する未精製溶液を使用する場合、当該未精製溶液が、エキソグルカナーゼも含有するため、本工程と次のセロオリゴ糖分解工程を連続的に行うことができる。それ故、当該未精製溶液処理後は、次のセロオリゴ糖分解工程を別途行わず、連続的にセロビオース分解工程に進めてもよい。
【0061】
6−2.セロオリゴ糖分解工程
「セロオリゴ糖分解工程」は、セルロース分解工程等で生じたセロオリゴ糖を分解してセロビオースを生成する工程である。本工程は、通常、エキソグルカナーゼによる加水分解作用によって進行する。使用するエキソグルカナーゼは、セロオリゴ糖の加水分解活性を有するものであれば、由来する種類は問わない。したがって、前記セルロース分解工程で使用したエンドグルカナーゼの由来する種と異なる種に由来するものであってもよい。例えば、セルロース分解工程でトリコデルマ・リーゼイ由来のエンドグルカナーゼを使用し、本工程で黒コウジカビの一種であるアスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)由来のエキソグルカナーゼを使用することもできる。
【0062】
前記セルロース分解工程後、エンドグルカナーゼを失活させてそれらを除去する処理は、特に必要はない。前記セルロース分解工程後、エキソグルカナーゼを添加することで、本工程の反応液中にセルロース又はヘミセルロースが残存していても、エンドグルカナーゼにより引き続きそれらを加水分解することができるからである。ただし、必要に応じて、失活・除去処理を行ってもよい。
【0063】
本工程で使用するエキソグルカナーゼも、前述のエンドグルカナーゼと同様に、その活性を有していれば必ずしも精製されている必要はなく、例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように他のセルラーゼを包含する未精製状態であってもよい。
【0064】
本工程の具体的方法としては、例えば、エキソグルカナーゼを1gのセロオリゴ糖に対して1〜10mg、好ましくは2mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。
【0065】
本工程で、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いてもよい。本発明のβ‐グルコシダーゼ等は、前述のようにセロオリゴ糖を加水分解する活性も有するからである。この場合、本発明のβ‐グルコシダーゼ等の作用により、次のセロビオース分解工程まで連続的に行うことができるため、別途セロビオース分解工程を行う必要がないという利点がある。一方、本工程において、本発明の形質転換体等を使用することもできる。この場合、反応液がその形質転換体等の培養に適した状態であって、かつその形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体等を当該反応液に直接投入すればよい。また、反応液はその形質転換体等の培養に不適ではあるが、本発明の形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体等を別途適当な条件下で培養し、その培養液上清を当該反応液に投入すればよい。一方、本発明の形質転換体等が本発明のβ‐グルコシダーゼ等を内包し、分泌しない場合には、適当な培養条件で別途培養したその形質転換体等から前記第5実施形態に記載の方法を用いて本発明のβ‐グルコシダーゼ等を回収し、それを反応液に添加する必要がある。これらは、当該分野で公知の技術に基づいて、適宜調節すればよい。
【0066】
6−3.セロビオース分解工程
「セロビオース分解工程」は、セロオリゴ糖分解工程等で生じたセロビオースを酵素によって加水分解し、最終産物であるβ-D-グルコースを生成する工程である。本工程は、通常、β-グルコシダーゼによる加水分解作用によって進行するが、一般的なβ-グルコシダーゼは、グルコースによりその活性が阻害されるため、本工程で生成したグルコース濃度が増加するにつれてはセロビオースの分解が停滞してしまう。それ故、従来のβ-グルコシダーゼでは、セロビオースが蓄積し、効率的な糖化反応を行えないという問題があった。本実施形態のセルロース等の糖化方法では、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を本工程に使用し、この問題を解決することを特徴としている。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼ等は、500mMの高濃度グルコース存在下であってもセロビオースを加水分解する活性を保持できることから、グルコース濃度の増大に伴うセロビオース分解工程の停滞を回避し、効率的に糖化反応を完了することが可能となる。
【0067】
前記セロオリゴ糖分解工程後、エキソグルカナーゼ等を失活させてそれらを除去する処理は、特に必要ではない。これは、前記セロオリゴ糖分解工程後、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を添加することで、セロオリゴ糖分解工程後に残存するセロオリゴ糖をエキソグルカナーゼにより引き続き加水分解することができるからである。ただし、必要に応じて、失活・除去処理を行ってもよい。
【0068】
本工程の具体的方法として、例えば、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を使用する場合であれば、それらを1gのセロビオースに対して0.1〜1mg、好ましくは0.5mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。
【0069】
また、本工程において、本発明の形質転換体等を使用する場合、セロオリゴ糖分解工程で記載したように、反応液がその形質転換体等の培養に適した状態であって、かつ形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体等を当該反応液に直接投入すればよい。この場合、反応温度は、形質転換体等の増殖に適した温度にするか、又はそれらを増殖させた後、本発明のβ‐グルコシダーゼの至適温度に上げればよい。また、反応液はその形質転換体等の培養に不適ではあるが、形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、形質転換体等を別途適当な条件下で培養し、その培養液上清を当該反応液に投入すればよい。この場合、反応温度は、本発明のβ‐グルコシダーゼの至適温度にすることができる。一方、形質転換体等が本発明のβ‐グルコシダーゼ等を内包し、分泌しない場合には、適当な培養条件で別途培養した形質転換体等から前記第5実施形態に記載の方法を用いてβ‐グルコシダーゼ等を回収し、それを反応液に添加する必要がある。その際、添加する量は本発明のβ‐グルコシダーゼ等を使用する場合に準ずればよい。
【0070】
一例として、形質転換体が酵母であった場合、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性と酵母の生育の至適pHは、ほぼ一致する。また、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性によってセロビオースから生じたβ-D-グルコースは、酵母の栄養源となり得る。それ故、反応温度を酵母の増殖に適した30℃前後にすれば、酵母形質転換体を反応液にそのまま投入することで、本工程を達成し得る。さらに、当該工程を嫌気的条件下で行った場合、酵母はエタノール発酵を行うが、本発明のβ‐グルコシダーゼは、エタノールが反応液に対する体積比で5〜20%のときにエタノール非存在下と比較して活性が20%〜50%向上するという利点もある。したがって、セルロールやヘミセルロースからバイオエタノールを生成する場合に酵母の使用は非常に有効である。
【0071】
本工程では、本発明のβ‐グルコシダーゼ等がその活性を失わない範囲で、他の生物種由来のβ‐グルコシダーゼと共存することもできる。例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各セルラーゼを混合状態で包含する未精製溶液をセルロース分解工程で使用する場合が該当する。
本工程後に、セルロースの糖化産物であるβ-D-グルコースを得ることができる。
【0072】
6−4.リグニン分解除去工程
一の実施形態において、木質バイオマスからセルロース等を糖化する場合、前記セルロース分解工程に先立ち、リグニンを分解除去する工程を含むことができる。この工程を含むことによって、効率的な木質バイオマスの糖化が可能となる。リグニン分解除去工程は、木質部においてセルロース及びヘミセルロースと結合するリグニンを除去する工程である。
【0073】
6−5.セルロース等の糖化方法の具体例
以下で、本実施形態の具体的方法について、一例を挙げて説明する。ただし、本実施形態は、ここで説明する方法に限定するものではない。
【0074】
まず、スギの木質部を1g採取し、コンバージミルで30分間粉砕する。次に、粉砕した粒子を2mg〜20mgのタンパク質成分を含有するトリコデルマ・リーゼイの培養上清1ml、及び1ユニット〜10ユニットの本発明のβ‐グルコシダーゼを含む10ml反応溶液(50mM酢酸ナトリウム、pH5.0を含む)に加える。ここで、トリコデルマ・リーゼイの培養上清は、酵素製剤として市販されているものを使用すればよい。続いて、反応液を50℃で振とうしながら24時間反応させることで、スギセルロースをβ-D-グルコースに糖化することができる。
【0075】
6−6.効果
本発明の糖化方法によれば、反応産物として生じるグルコースの濃度が500mM以下であれば、その阻害作用を受けることなく、セルロース等の糖化反応を進行させることができる。その結果、セルロース等の十分な糖化が可能となる。
【0076】
7.β-D-グルコース製造方法
本発明の第7の実施形態は、前記第6実施形態の糖化方法を用いてセルロース等からβ-D-グルコースを製造する方法である。
本製造方法は、前記第6実施形態の糖化方法に準じて行うことにより、その結果の生産物としてβ-D-グルコースを得ることができる。したがって、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0077】
以下で本発明の実施例を説明するが、ここで挙げる実施例は単なる具体的例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0078】
<実施例1>グルコース耐性β-グルコシダーゼの単離
高濃度のグルコース存在下であっても、pNPGを加水分解できる活性を有するβーグルコシダーゼをメタゲノム解析法によって単離した。
【0079】
(1)くさや汁由来の微生物ゲノムの抽出
くさや汁(東京都新島村産)より微生物ゲノムを抽出した。まず、45mlのくさや汁を4℃にて10分間、300gで低速遠心して、粗雑物を除去した。次に4℃にて1時間、8,000gで遠心して集菌した。遠心分離機は、トミー精工社の製品を用いた。
【0080】
次に、上清を除き、得られた沈殿に10mlのDNA抽出バッファ(100mM Tris(Sigma社)−HCl(ナカライテスク社)バッファ(pH8.0)/100mM EDTA(pH8.0)(ナカライテスク社)/100mM リン酸ナトリウムバッファ(pH8.0)(ナカライテスク社)/1.5M NaCl(東京化成社)/1% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(シグマ社))を加え、混合液を穏やかに撹拌した。
【0081】
続いて、その混合液を-80℃のフリーザー内に一晩保存した後、60℃のインキュベータ(BR-40LF;タイテック社)内で溶解させた。溶解した溶液に20mg/mlのプロテイナーゼK(Sigma社)を200μl加え、37℃で1時間、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて200rpmで水平振とうしながら反応させた。その後、20% SDS溶液を1.5ml及び100mg/ml リゾチーム(ナカライテスク社)をそれぞれ1ml加え、65℃で3時間、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて200rpmで水平振とうさせた。
【0082】
続いて、反応後の溶液を、25℃で8000gにて30分間遠心分離し、水層と有機層に分離した後、水層を回収した。その水層と等量のTE飽和フェノール(ニッポンジーン社)を加え、一晩転倒混和させた。この工程を計3回繰り返した。ただし、2回目の転倒混和時間は、3時間とした。回収した水相にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCI)溶液(Nippon gene社)を等量加え、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて室温で3時間転倒混和した。再び、25℃で8000gにて30分間遠心分離を行い、水層を回収した。
【0083】
得られた水層に1/10容量の3M 酢酸ナトリウム(ナカライテスク社)を加えて穏やかに撹拌した後、2.5倍容量のエタノール(キシダ化学社)を追加し、穏やかに撹拌した。溶液中に生じた糸状のDNA(メタゲノムDNA)を取りこぼさないように注意しながらデカンテーションにより上清を除き、その後、DNAを70%エタノールで2回洗浄した。DNAを風乾後、5mlのTEバッファを加え、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)内で一晩穏やかに水平に震盪させてメタゲノムDNAを溶解させた。
【0084】
(2)メタゲノムライブラリの構築
上記で得られたメタゲノムDNAをハイドロシェアー(ジーンマシーンズ社)によって物理的に剪断し、アガロースゲル(ニッポンジーン社)で電気泳動して分画した。5〜10kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出し、T4 DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)を用いてDNA断片の平滑化を行った。BamHI(NEB社)で切断後、T4 DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)による平滑末端化し、アルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)による脱リン酸化処理を行ったp18GFPベクターに、DNA Ligation Kit Mighty Mix (タカラバイオ社)を用いて、前記調製したDNA断片を4℃、16時間で連結させた。反応後、反応液をフェノール(ニッポンジーン社)抽出し、エタノール沈殿を行って、30μlの0.1×TEに溶解した。作製したメタゲノムライブラリを、エレクトロポレーション法(ジーンパルサー;バイオラッド社)を用いて以下の条件にて大腸菌に導入した。25μlの大腸菌DH10B株(ElectroMAX DH10B cells,インビトロジェン社)、1μlのライゲーション溶液(組成)を混合し、エレクトロポレーションキュベット Gap 0.1 cm (Bio rad)に入れた後、1.8kV、200Ω、25μFでパルス処理し、直ちに1mlのSOC培地を加えて37℃で1時間振とう培養した。その後、培養液全量を100μg/ml アンピシリン及び100μM IPTGを含有するLBプレート(9cm)1枚に播種し、37℃で一晩培養した。翌日、プレートに1mlのLB培地を加え、スプレッダーを用いてプレートから形質転換体コロニーを回収した。得られた形質転換体の集団をメタゲノムライブラリとした。
【0085】
(3)βーグルコシダーゼ陽性クローンのスクリーニング
次に、得られたメタゲノムライブラリを、10μM IPTG(ナカライテスク社)、40μg/ml X-Glc(5-ブルモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-グルコピラノシド;シグマ社)を含むLBプレート上に播種し、β‐グルコシダーゼ活性を有するクローンのスクリーニングを行った。X-Glcは、β‐グルコシダーゼによって分解されると青色色素を発生する。そこで、青色を呈する形質転換体をβーグルコシダーゼ陽性クローンとして回収した。10000クローンを解析した結果、953クローンのβーグルコシダーゼ陽性クローンを得ることができた。
【0086】
(4)グルコース耐性β-グルコシダーゼのスクリーニング
メタゲノムライブラリより得られた953クローンのβーグルコシダーゼ陽性クローンのうち、768クローンについてグルコース耐性のスクリーニングを行った。寒天培地上に生育させた各クローンを、1mlのLB-アンピシリン(ナカライテスク社)液体培地を含む96穴マイクロプレートに接種した。当該プレートをシェーカー(タイテック社M BR-024)で37℃、1000rpmにて一晩振とう培養した。培養液から200μlを分取し、100μlずつグルコース非存在下(0%)及び10%(v/v)グルコース存在下における活性測定に供した。具体的に説明すると、分取した培養液を、まず、遠心分離器(5810R;エッペンドルフ社)を用いて4℃にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。次に、ペレット(菌体)を、1mM pNPG(シグマ社)/及び0%又は10%グルコース(ナカライテスク社)を含む100mMリン酸バッファ(pH6.0)に懸濁した。シェーカー(M BR-024;タイテック社)で、37℃、1000rpmにて48時間振とうして反応させた後、遠心分離器(5810R;エッペンドルフ社)を用いて4℃にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清50μlを分取して100μlの炭酸ナトリウム(ナカライテスク社)を添加し、反応を停止させた。反応のモニターは、405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)の上で測定した。その結果、10%(v/v)グルコース存在下でも活性を示す7クローン(5A7、5B6、5F2、6C8、7F9、9B4、10H11)をグルコース耐性β-グルコシダーゼの遺伝子を有する形質転換体として単離した。各クローンの活性は、グルコース非存在下における活性の3分の1以上の活性を示した。
【0087】
<実施例2>グルコース耐性β-グルコシダーゼの同定
実施例1で得られた7クローンについて、プラスミドのショットガン解析を行った。プラスミドの抽出は、大腸菌からプラスミドを抽出する常法に従った。抽出した約1μgのプラスミドをそれぞれ1ユニットのSau3AI(タカラバイオ社)を用いて室温で5分間の反応により切断し、アガロースゲル(ニッポンジーン社)電気泳動により分画した後、1〜3kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出した。一方、1μgのpTDCm-ccdBamを5ユニットのBamHI(NEB社)で37℃にて4時間の反応により完全消化した。pTDCm-ccdBamは、pUC系プラスミドにアンバーコドン(停止コドン)を含むccdB遺伝子をクローン化したプラスミドである。また、ccdB遺伝子は、通常の大腸菌では致死的に作用するため、この遺伝子内に目的のDNA断片が挿入されていない形質転換体はコロニーを形成できない。続いて、BamHI切断したpTDCm-ccdBamの末端をアルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)で脱リン酸化処理し、得られた開裂pTDCm-ccdBamと前記ゲル抽出したDNA断片とをT4 DNAリガーゼ(NEB社)により連結した。反応液を大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ社)に導入し、34μg/mlクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に播種した。37℃で一晩培養した後、生育した形質転換体をランダムに96個選択し、34μg/mlクロラムフェニコール含有LB培地を入れた96穴マイクロプレートに接種した。37℃にて一晩培養し、菌体の一部を鋳型とし、GEヘルスケア社鋳型増幅キットTempliPhiを用いて添付マニュアルに従い塩基配列用の鋳型を調製した。シーケンシング反応は、BigDye(登録商標)Terminator V3.1キット(ABI社)を用いてDNAシーケンサー(PRISM 310;ABI社)により行った。
【0088】
決定後の塩基配列をBLAST検索にかけて、既知のβ-グルコシダーゼ遺伝子と相同性の比較的高い(50%程度の相同性)ORFを推定β-グルコシダーゼとして選択した。続いて、その推定遺伝子のサブクローニングを行った。遺伝子の増幅は、Fwプライマーとして5A7Fwd(オペロン社)を、またRvプライマーとして5A7 Bgl R stop free (XhoI)(オペロン社)を用いて行った。増幅された断片をアガロースゲル(ニッポンジーン社)電気泳動により分画後、約1.5kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出し、30μlの水に溶解した。得られたDNA溶液を1μl分取し、pCR-Blunt IIクローニングキット(インビトロジェン社)を用いて、マニュアルに従いクローニングした。さらに、クイックチェンジ法(ストラタジーン社)に従い、配列中に存在する2カ所のNdeI部位を除去した。具体的には、xNdeI-1 F(配列番号3)とxNdeI-1 R(配列番号4)を用いて1つ目のNdeI部位を除去した。さらに除去後の塩基配列を確認後、xNdeI-2 F(配列番号5)とxNdeI-2 R(配列番号6)を用いて2番目の部位を除去し、その後、再び塩基配列を確認した。得られたポリヌクレオチド断片をNdeI(NEB社)とXhoI(タカラバイオ社)で切断し、約1.5kbのβ−グルコシダーゼ遺伝子断片を調製した。この断片をNdeI/XhoI切断したpET29b(+)(ノバジェン社)にT4 DNAリガーゼ(NEB社)を用いて連結させた。大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン社)を反溶液で常法により形質転換した後、100μM IPTG(ナカライテスク社)/40μg/ml X-Glc(シグマ社)を含有するLBプレート上に塗布し、βーグルコシダーゼ活性を有するクローンのスクリーニングを行った。活性の見られたクローンを培養後、プラスミドを調製し、BigDye(登録商標)Terminator V3.1キット(ABI社)を用いてDNAシーケンサー(PRISM 310;ABI社)により塩基配列を確認した。その結果、前記で得られた7クローンは、いずれも同一クローン由来であり、配列番号2に記載の塩基配列を有する新規のβ‐グルコシダーゼ遺伝子であることが確認された。この遺伝子を含むプラスミドを「pET29b Ks Bgl1」と名付けた。
【0089】
<実施例3>β-グルコシダーゼの製造
(1)組換え型β-グルコシダーゼ遺伝子の発現
実施例2で調製したpET29bKs Bgl1を大腸菌コンピテントセルRosetta(ノバジェン社)に導入し、50μg/mlのカナマイシン及び34μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上に塗布した後、37℃で16時間培養した。生育した単一コロニーを、前記抗生物質を含む5mLのLB液体培地に植菌し、37℃で16時間振とう培養した(前培養)。続いて、50μg/mlのカナマイシン34μg/mlのクロラムフェニコール及びOvernightExpress溶液(ノバジェン社)を含む1LのLB液体培地に植菌し、30℃で16時間振とう培養した(大量培養)。培養後の菌体を5000g、10分間の遠心で回収し、湿菌体重量で10gを90mlの20mM Tris-HCl(pH8.0)に懸濁した。次に10mlの10×BugBuster溶液(ノバジェン社)を加え、室温で20分間穏やかに混和した。4℃にて20000gで20分間遠心(タイテック社)した後、上清を回収した。
【0090】
His−Trapカラム(5ml)(トーソー社)を20mM リン酸ナトリウム(pH7.4)/0.5M 塩化ナトリウム/20mMイミダゾール(いずれもナカライテスク社)で平衡化した後、前記上清をカラムに通した。平衡化に用いた溶液50mlでカラム内を洗浄し、イミダゾールの濃度勾配(20mM〜0.5M、100ml)をかけて、吸着蛋白質を溶出した。各画分の一部を取り出して、β-グルコシダーゼの活性を検証した。活性は、5μlの20mM pNPG/50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)/20μlのddw(deionaized distilled water)からなる溶液に前記各画分25μl加えた計100μlの反応液について、プレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)により405nmにおける吸光度を測定した。その結果、活性を示した画分を回収し、一部を後述する分子量測定用に取り出し、残りを引き続き、20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl/10mMジチオスレイトール(DTT)(ナカライテスク社)溶液とアミコンウルトラ-15限外濾過キットを用いて、添付のプロトコルに従い遠心濃縮を3回繰り返した。その結果、20mM Tris-HCl/50mM NaCl溶液に含まれる本発明のβ‐グルコシダーゼ溶液を得た。本酵素溶液を用いて、以下の酵素学的解析を行った。
【0091】
<実施例4>グルコース耐性組換え型β-グルコシダーゼの分子量の測定
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼの分子量をSDS-PAGEにより測定した。
【0092】
1μlの実施例3の酵素溶液(約8μgのタンパク質含有)、5μlの分子量マーカー(バイオラッド社)及び10μlの濃縮前の活性可溶画分を、SDS-PAGE(7.5-15%グラジエントゲル;DRC社)の各ウェルにアプライし、常法により電機泳動を行った。泳動後、ゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)で約30分間染色し、脱色液で30分間脱色した。
【0093】
結果を図1に示す。組換え型β‐グルコシダーゼのマーカーに対する相対的な移動度は50kDa付近であった(図中矢印)。これは、アミノ酸配列から計算される53.5747kDaとほぼ一致していた。したがって、本発明のβ‐グルコシダーゼの分子量は、50kDa前後であることが明らかとなった。
【0094】
<実施例5>グルコース存在下におけるβ-グルコシダーゼの活性
異なるグルコース濃度下における実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼの活性をpNPGを基質として検証した。
【0095】
β‐グルコシダーゼがpNPGを加水分解した際に生じるp‐ニトロフェノール(pNP;4−ニトロフェノール)の遊離量を測定し、これを本酵素のグルコース生成(基質分解)活性とした。活性反応速度は、反応液の405nmにおける吸光度の変化をプレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)上でモニターすることによって測定した。なお、本系では、総量を170μlとした。これは、この量における光路長が0.5cmとなるため吸収の値を1cm光路に換算し易いからである。
【0096】
反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)を加え、これに5mM、10mM及び20mMのpNPG溶液と0mM、15.625mM、31.25mM、62.5mM、125mM、250mM及び500mMのグルコース溶液をそれぞれ組み合わせて添加し、ddwで100μlに調製した。これを、30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0097】
結果を図2に示す。この図は、各pNPG濃度における0mMグルコースの反応速度を100%としたときの各グルコース濃度の相対活性値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、pNPG濃度にかかわらず500mMのグルコース濃度まで、0mMのときとほぼ変わらぬ活性を有することが明らかとなった。
【0098】
<実施例6>pNPGを基質としたときのβ-グルコシダーゼのカイネティクス
pNPGを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼの最大初速度(Vmax)及びミカエリス定数(Km)を算出した。
【0099】
反応液は、0.01μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)を加え、これに0.015625mM、0.03125mM、0.0625mM、0.125mM、0.25mM、0.5mMのpNPG溶液を添加し、ddwで100μlに調製した。これを、45℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。上記実験を3回行い、平均をとった。
【0100】
結果を図3に示す。この図から算出されるVmaxは、89.6±0.8 Unit/mg、Kmは、75.4±4.2μMであった。実施例7の結果と共に、表1にpNPGにおけるVmax及びKmを示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<実施例7>セロビオース及びセロオリゴ糖を基質としたときのβ-グルコシダーゼのカイネティクス
セロビオースを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼのVmax及びKmを算出した。
【0103】
反応液は、0.01μgのβ‐グルコシダーゼを含む50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)溶液(酵素溶液)に、50μlの基質溶液(0.0625mM、0.125mM、0.25mM、0.5mM、1mM、2mM、4mMのセロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、あるいはセロペンタオース)を添加した。これを、45℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて酵素反応により生成された反応溶液中のグルコース量をインビトロジェン社製Amplex Red Glucose/Glucose Oxidase Assay Kitキットにより定量した。5μlの酵素反応液を取り出し、25μlのddwに加え、キット中の検出用反応溶液(working solution) 30μlに混合し、総量60μlとした。室温で30分間放置した後、グルコースとworking solutionとの反応により生じた蛍光を、蛍光プレートリーダー(SPECTRA max GEMINI XS ;モレキュラーデバイス社)を用いて、励起波長550nm、蛍光波長590nmの条件で測定した。上記実験を3回行い、平均をとった。
【0104】
セロビオースにおける結果を図4に、またセロビオース、セロトリオース、セテトラオース、セロペンタオースにおいて算出されたVmax及びKmを前記表1に示す。
【0105】
表1で示すようにセロビオース、セロトリオース、セテトラオース、セロペンタオースに対するVmaxは、それぞれ、155±8.3 Unit/mg、111±3.2 Unit/mg、114±2.5 Unit/mg、 112±2.5 Unit/mgであり、Kmは、それぞれ、0.358±0.055mM、0.163±0.016mM、0.160±0.012mM、0.132±0.011mMであった。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、既知の多くのβ‐グルコシダーゼで見られる性質、すなわちpNGPに対して高い活性を有するが、セロビオースやセロオリゴ糖に対しては活性が低いという性質は見られず、むしろpNGPよりもセロビオースやセロオリゴ糖に対して高い活性を有するという特異な性質を示すことが明らかとなった。
【0106】
また、表2に、本発明のβ‐グルコシダーゼ及び既知高濃度グルコース耐性β‐グルコシダーゼの各特性を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2で示すように、本願発明のβ‐グルコシダーゼ以外にも高濃度のグルコース存在下でその活性を有するβグルコシダーゼは既にいくつか知られていた。しかし、本発明のβ‐グルコシダーゼは、少なくとも表2において最も高いグルコース濃度存在下で100%の残存活性を有することが明らかとなった。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼは、既知の高濃度のグルコース耐性β‐グルコシダーゼよりもその耐性が高い。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、従来のいずれの高濃度グルコース耐性β‐グルコシダーゼよりもKm値が小さく、pNPG及びセロビオースに対して強い作用を有することが判明した。
【0109】
<実施例8>β-グルコシダーゼのエタノールによる活性向上性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼのエタノール存在下における活性について検証した。
【0110】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、これに0μl、3.125μl、6.25μl、12.5μl及び20μlのエタノール(99.5%;キシダ化学)を加えて、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0111】
結果を図5に示す。この図は、エタノール非存在下(0mM)における本発明のβ‐グルコシダーゼの反応速度を100%としたときの各エタノール濃度下における相対値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、5〜20%(v/v)のエタノール存在下では120%〜150%まで活性が向上することが判明した。
【0112】
<実施例9>β-グルコシダーゼ活性のpH依存性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性について検証した。
【0113】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。前記McIlvaineバッファは、pH3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8及び8.5を調製し、各反応液に加えた。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0114】
結果を図6に示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示したpH(pH5.5)の測定値を100%としたときの各pHにおける相対値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH4.5〜pH7.0の領域で70%以上の相対活性を有し、特にpH5.0〜6.5の比較的広い領域に98%以上の相対活性を示すことが判明した。
【0115】
<実施例10>β-グルコシダーゼ活性のpH安定性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性について検証した。
【0116】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。まず、各pH下で酵素を前処理するため0.1mgのβ‐グルコシダーゼを含む20μlの20mM Tris-HC(pH7.0)l/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に80μlの各pHのMcIlvaineバッファ(すなわち、pH3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8及び8.5)を加えて混合し、室温で30分間処理した。続いて、10μlの処理後の溶液を取り出し、20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液で10倍希釈した後、これを酵素溶液として活性測定に用いた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの前記酵素溶液に50μlの対応するpHのMcIlvaineバッファ及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0117】
結果を図7に示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示したpH(pH8.5)の測定値を100%としたときの各pHにおける相対値を示している。本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH5.5〜pH8.5の範囲で約90%以上の相対活性を示した。したがって、このpHの範囲内では比較的安定であることが判明した。
【0118】
<実施例11>β-グルコシダーゼ活性の温度依存性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性について検証した。
【0119】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を20℃、25℃、30℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃又は75℃の各温度で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0120】
結果を図8に示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示した温度(50℃)の測定値を100%としたときの各温度における相対値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、40℃〜50℃の範囲で約90%以上の相対活性を示すことが判明した。
【0121】
<実施例12>β-グルコシダーゼ活性の温度安定性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性について検証した。
【0122】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。まず、各温度下で酵素を前処理するため0.1mg/mlのβ‐グルコシダーゼを含む100μlの20mM Tris-HCl/50mM NaCl溶液/10mM DTT(酵素溶液)を20℃〜75℃まで5℃刻みの各温度で10分間処理し、その後、氷中に保存した。続いて、処理後の酵素溶液1μl(1μgのβ‐グルコシダーゼを含む)に24μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液、50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を加えて混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0123】
結果を図9に示す。この図は、20℃における測定値を100%としたときの各温度における相対値を示している。本発明のβ‐グルコシダーゼは、45℃以下で約90%以上の相対活性を示した。したがって、この温度の範囲内では比較的安定であることが判明した。
【0124】
<実施例13>β-グルコシダーゼ活性の阻害剤及び二価金属の影響
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の還元剤(DTT)又は二価金属(Mg2+、Ca2+)の影響について検証した。
【0125】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、0.1MのDTT又は0.1MのEDTAを最終濃度0%、0.1%、1%又は10%となるようにそれぞれ加えて、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0126】
DTTの結果を図10に、またEDTAの結果を図11に示す。いずれの図も、0%のときの測定値を100%として各温度における相対値を示している。これらの結果は、本発明のβ‐グルコシダーゼが10mMのDTT又は10mMのEDTA存在下であっても活性が低下しないことを示している。したがって、本発明のβ‐グルコシダーゼは、DTTのような還元剤の影響を受けにくく、また、活性に二価金属イオンを必要としないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いたセルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法によれば、セルロース及び/又はヘミセルロースを効率的に、かつ有効に糖化することができるため、未利用物を含む自然界に存在する多種多様なセルロース資源を食糧、飼料又はバイオエタノール等のエネルギー資源に変換することが可能となる。それ故、セルロース資源のエネルギー変換方法として、食品産業、畜産産業、エネルギー産業等の様々な分野に貢献し得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のグルコース存在下でも活性を有するβ-グルコシダーゼ及びセルロースの糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の光合成によって生産されるセルロース及びヘミセルロースは、地上で最も豊富なバイオマスである。化石燃料等の非再生可能資源の限界が懸念される中で、セルロースやヘミセルロースは、人口増大による食糧、飼料及び燃料不足を解決し得る再生可能資源として最も注目を集めている。しかし、セルロースやヘミセルロースは、化学的に非常に安定であるため、食糧やバイオエタノールの原料となる単糖にまで糖化することは技術面やコスト面で容易ではなく、エネルギー資源としての実用化に向けて解決すべき課題は多い。
【0003】
一般にセルロースは、セルラーゼを合成できる微生物(細菌、真菌、粘菌、原生動物、昆虫等)によって分解される(非特許文献1)。セルラーゼは、セルロースのβ-1,4-グルカン又はβ D-グルコシド結合を加水分解して、セロオリゴ糖、セロビオース及びβ-D-グルコースを生成する酵素の総称であり、その作用形式により3つの型に大別されている。すなわち、エンドグルカナーゼ(EG;EC3.2.1.4)、エキソグルカナーゼ(セロビオハイドラーゼ;CBH;EC3.2.1.91)、及びβ-グルコシダーゼ(β-D-グルコシドグルハイドラーゼ;BG;EC3.2.1.21)(非特許文献2)である。エンドグルカナーゼは、主としてセルロース繊維の非結晶部分に作用してセルロース糖鎖の内部を切断する(非特許文献3)。また、エキソグルカナーゼは、結晶性セルロースに作用してセルロース糖鎖の末端を分解し、セロビオースを産生する(非特許文献4)。一方、β-グルコシダーゼは、エンドグルカナーゼ及び/又はエキソグルカナーゼの作用によって生じたセロビオース及び/又はセロオリゴ糖等から最終産物であるβ-D-グルコースを遊離させる働きをもつ(非特許文献5)。したがって、セルロースの糖化には、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ及びβ-グルコシダーゼの3つの酵素の存在とそれらの効率的な活性が必要となる。
【0004】
ところが、公知のβ-グルコシダーゼの多くは、1〜10mM程度の低濃度のグルコース存在下でその活性が阻害されるという性質をもつ。つまり、多くのβ-グルコシダーゼは、自身の活性によって生じるβ-D-グルコースの増加に伴い、その活性が低下してしまう。この性質は、セルラーゼによるセルロース分解反応系において、セロビオースの蓄積をもたらす原因となる。また、蓄積したセロビオースは、エキソグルカナーゼの活性を阻害するため、セルロース分解反応の更なる停滞を引き起こす。それ故、セルラーゼをグルコースへと完全に糖化するためには、グルコースによる活性阻害を受けないβ-グルコシダーゼの開発が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Aro et al. Journal of Biological Chemistry, 276(26):24309-14 (2001)
【非特許文献2】Knowles et al. Trends in Biotechnology, 5, 255-261 (1987)
【非特許文献3】Kumar et al. J Ind Microbiol Biotechnol. 35(5):377-91. (2008)
【非特許文献4】Nevalainen and Penttila, 1995 Molecular biology of cellulolytic fungi. In: Genetics and Biotechnology K. Esser and U. Kuck, Editors, The Mycota Vol. III (1995), pp. 303-319 Springer Verlag.
【非特許文献5】Suurnakki et al. Cellulose 7:189-209 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高濃度のグルコース存在下であっても、グルコースによる阻害作用を受けることなく酵素活性を保持することのできるβ‐グルコシダーゼを単離し、それを提供することである。
【0007】
また、本発明の課題は、前記グルコース耐性を有するβ‐グルコシダーゼ若しくはその活性ポリペプチド断片又はそれらをコードする核酸を導入した形質転換体若しくはその後代を用いて、セルロースを効率的に糖化する方法を開発し、それを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者は、メタゲノム解析法によって高濃度グルコース耐性を有するβ‐グルコシダーゼのスクリーニングを行った。その結果、500mMの高濃度のグルコース存在下でもグルコース非存在下の活性に対して100%の相対酵素活性を有する新規β‐グルコシダーゼをくさや汁から単離することに成功した。本発明は、上記知見に基づいて成されたものであり、すなわち以下を提供する。
【0009】
(1)SDS-PAGEにおいて45〜55キロダルトンの分子量を示し、500mM以下のグルコース存在下で酵素活性を有するβ‐グルコシダーゼ。
(2)以下の(a)又は(b)のポリペプチドからなる、(1)に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド
(3)前記(1)に記載のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片。
(4)アミノ酸配列の一部が(2)に記載のアミノ酸配列の一部である、(3)に記載のポリペプチド断片。
(5)前記(1)若しくは(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ又は(3)若しくは(4)に記載のポリペプチド断片をコードする核酸。
(6)前記(5)に記載の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクター。
(7)前記(6)に記載の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代。
(8)前記(7)に記載の形質転換体又はその後代に発現誘導処理を行い、(1)若しくは(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ又は(3)若しくは(4)に記載のポリペプチド断片を製造する方法。
(9)前記(1)若しくは(2)に記載のβ‐グルコシダーゼ又は(4)若しくは(5)に記載のポリペプチド断片、あるいは(7)に記載の形質転換体若しくはその後代を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含む、セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法。
(10)前記(9)に記載の方法を用いた、セルロースからβ-D-グルコースを製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のβ‐グルコシダーゼ又はそのポリペプチド断片によれば、500mM以下のグルコース存在下であれば、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(以下、本明細書においては「pNPG」とする)、セロビオース及び/又はセロオリゴ糖をグルコース非存在下の活性に対して100%の相対活性で加水分解することができる。
【0011】
本発明の糖化方法によれば、500mMのグルコース存在下であってもpNPG、セルロース及び/又はヘミセルロースを効率的に糖化し、β-D-グルコースを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のβ‐グルコシダーゼのSDS-PAGEにおける分子量の測定結果を示す。矢印で示すバンドが本発明のβ‐グルコシダーゼに相当する。
【図2】各濃度のグルコース存在下での本発明のβ‐グルコシダーゼの活性を示す。5mM、10mM又は20mMのpNPGを基質とした。ここでは、グルコース非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図3】pNPGを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼのカイネティクスを示す。
【図4】セロビオースを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼのカイネティクスを示す。
【図5】各濃度のエタノール存在下での本発明のβ‐グルコシダーゼの活性を示す。ここでは、エタノール非存在下における活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図6】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH5.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図7】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性を示す。ここでは、最高活性値を示したpH8.5の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図8】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性を示す。ここでは、最高活性値を示した50℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図9】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性を示す。ここでは、20℃の活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図10】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のDTTの影響を示す。ここでは、0mM DTTの活性を100%としたときの相対活性を表している。
【図11】本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のEDTA(エチレンジアミン四酢酸)の影響を示す。ここでは、0mM EDTAの活性を100%としたときの相対活性を表している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片
本発明の第1の実施形態は、β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片である。
1−1.β‐グルコシダーゼの特徴
本発明のβ‐グルコシダーゼは、以下の(a)〜(c)に示す物理的及び化学的性質を有する。
【0014】
(a)分子量
本発明のβ‐グルコシダーゼは、SDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)において、分子量マーカーとの相対的位置で45〜55キロダルトン(kDa)の分子量を示す。
【0015】
(b)活性基質特異性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、pNPG、セロビオース及びセロオリゴ等(例えば、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース等)を基質として、それらを加水分解することができる。特にセロビース又はセロオリゴ糖に対して、pNPG以上に高い加水分解活性を示す。
【0016】
(c)グルコース耐性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、基質を含む反応溶液中のグルコース濃度が500mMの高濃度な状態であっても、グルコース非存在下の活性に対して100%の相対活性でその反応溶液中の基質を加水分解することができるグルコース耐性を有する。
【0017】
さらに本発明のβ−グルコシダーゼは、以下の(d)〜(f)に示す一以上の化学的性質を有することができる。
【0018】
(d)エタノールによる活性向上性
本発明のβ‐グルコシダーゼは、基質を含む溶液中に該溶液に対して体積比(volume/volume)5〜20%のエタノールが存在する場合、エタノール非存在下と比較して酵素活性を20%〜50%向上させることができる。
【0019】
(e)至適pH
本発明のβ‐グルコシダーゼは、30℃において、pH4.8〜pH6.8、好ましくはpH5.0〜pH6.5の酸性領域で高い活性を示す。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、30℃において、pH5.5〜pH8.5の範囲で安定的な活性を示す。
【0020】
(f)至適温度
本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH5.5下において、40℃〜53℃、好ましくは45℃〜50℃の範囲で高い活性を示す。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH5.5下において、45℃以下で安定的な活性を示す。
【0021】
本発明のβ‐グルコシダーゼは、前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドであれば、それが由来する生物種は問わない。例えば、細菌(例えば、アクチノマイセス類)、真菌(例えば、酵母、糸状菌)、粘菌、原生動物、又は昆虫(例えば、シロアリ、ゴキブリ)等のいずれの由来であってもよい。
【0022】
本発明のβ‐グルコシダーゼの具体例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又は配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加され、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドが挙げられる。ここで「数個」とは、2〜5個、好ましくは2〜4個、より好ましくは2〜3個又は2個の整数をいう。前記置換は、保存的アミノ酸置換であることが好ましい。保存的アミノ酸置換であれば、配列番号1で示されるβ‐グルコシダーゼと実質的に同等な構造又は性質を有し得るからである。保存的アミノ酸置換とは、同一の保存的アミノ酸群に属するアミノ酸間の置換をいう。保存的アミノ酸群には、非極性アミノ酸群(グリシン、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、トリプトファンが属する)及び極性アミノ酸群(非極性アミノ酸以外のアミノ酸が属する)、荷電アミノ酸群(酸性アミノ酸群(アスパラギン酸、グルタミン酸が属する)及び塩基性アミノ酸群(アルギニン、ヒスチジン、リジンが属する))及び非荷電アミノ酸群(荷電アミノ酸以外のアミノ酸が属する)、芳香族アミノ酸群(フェニルアラニン、トリプトファン、チロシンが属する)、分岐状アミノ酸群(ロイシン、イソロイシン、バリンが属する)、並びに脂肪族アミノ酸群(グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンが属する)等が知られている。また、β‐グルコシダーゼは、配列番号1で示されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有し、かつ前記物理的性質及び化学的性質を有するポリペプチドであってもよい。ここで「同一性」とは、二つのアミノ酸配列にギャップを導入して、又は導入しないで、最も高い一致度となるように整列(アラインメント)させたときに、前記ギャップの数を含めた、一方のアミノ酸配列の全アミノ酸残基数に対する他方のアミノ酸配列の同一アミノ酸残基数の割合(%)をいう。
【0023】
本発明のβ‐グルコシダーゼを構成するアミノ酸は、修飾されていてもよい。ここでいう「修飾」は、例えば、本発明のβ‐グルコシダーゼがその活性を有する上で必要な機能上の修飾(例えば、グリコシル化のような糖鎖の付加)及び/又は本発明のβ‐グルコシダーゼを検出する上で必要な標識修飾のいずれも含む。標識には、例えば、蛍光色素(FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンによる標識が挙げられる。
【0024】
また、本発明の、βグルコシダーゼは必要に応じて、シグナルペプチドや標識ペプチドのような他の生物種由来のアミノ酸配列又はタグアミノ酸配列のような人工的アミノ酸配列と連結することができる。
【0025】
1−2.活性ポリペプチド断片
本明細書において「活性ポリペプチド断片」とは、本発明のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片をいう。本活性ポリペプチド断片のアミノ酸配列の長さは、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性及びその化学的性質を有していれば特に限定はしない。本発明の活性ポリペプチド断片も前記β‐グルコシダーゼと同様に、構成するアミノ酸が修飾されていてもよく、また、必要に応じて、シグナルペプチドや標識ペプチドのような他の生物種由来のアミノ酸配列又はタグアミノ酸配列のような人工的アミノ酸配列と連結することができる。
【0026】
1−3.効果
本発明のβ−グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片によれば、従来知られていたβ‐グルコシダーゼよりも高濃度の100〜500mMのグルコース存在下でも、グルコース非存在下の活性に対して100%の相対活性で基質を加水分解することができる。
【0027】
また、本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片によれば、基質を含む溶液中に該溶液に対して5〜20%(V/V)のエタノールが存在する場合、エタノール非存在下と比較して酵素活性を20%〜50%向上させることができる。したがって、セルロースの糖化から連続して酵母による発酵を行なうことができる。
【0028】
2.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸
2−1.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸の特徴
本発明の第2の実施形態は、第1実施形態のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片(以下、本明細書において「本発明のβ‐グルコシダーゼ等」とする)をコードする核酸である。
【0029】
本明細書で「核酸」とは、原則として、DNA、RNA又はそれらの組合せをいうが、それ以外にも、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)/BNA(Bridge Nucleic Acid)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸、擬似核酸又はそれらとDNA及びRNAの組み合わせも含む。好ましくは、DNAである。
【0030】
本発明の核酸は、本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする。例えば、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド若しくは配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド又はそれらのアミノ酸配列の一部を含み、かつ第1実施形態に記載の酵素活性を有するポリペプチド断片をコードする核酸が挙げられる。具体的には、例えば、配列番号2で示される塩基配列を含む核酸、あるいはSNP(一塩基多型)等の多型変異体、スプライス変異体又は遺伝暗号の縮重変異体のように配列番号2で示される塩基配列において1個又は数個のヌクレオチドが欠失、置換又は付加した核酸、配列番号2で示される塩基配列とそれぞれ95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有する核酸、又は配列番号2で示される塩基配列の全部又は一部と相補的な塩基配列からなる核酸断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸である。これらの核酸がコードするポリペプチドは、いずれも第1実施形態に記載のβ‐グルコシダーゼのグルコース耐性を有する。さらに、エタノールによる活性向上性を有することもできる。ここで「同一性」とは、2つの塩基配列にギャップを導入して又は導入しないでアラインメントさせたときに、一方の塩基配列の全塩基数に対する他方の塩基配列の同一塩基数の割合(%)をいう。「数個」とは、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個、2〜3個又は2個の整数をいう。また、「ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。通常は低ストリンジェント〜高ストリンジェントな条件が挙げられるが、高ストリンジェントな条件が好ましい。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば42℃、5×SSC、0.1% SDSで洗浄する条件であり、好ましくは50℃、5×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば65℃、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。
【0031】
2−2.β‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸の調製
本発明の核酸は、例えば、配列番号2で示す塩基配列に基づいて、PCR法を用いて合成したポリヌクレオチドを連結することによって得ることができる他、配列番号2で示す塩基配列に基づいて、その一部配列又はそれに相補する一部配列をプローブ又はプライマーとして用いて、適当な生物種のcDNAライブラリ、好ましくはメタゲノム解析法によって調製される複数の微生物(細菌、糸状菌、原生動物等を含む)由来のcDNAライブラリ又はゲノムライブラリからサザンブロッティング又はPCR等の当該分野で公知の方法、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法によってそのオルソログを得ることができる。
【0032】
3.発現ベクター
3−1.発現ベクターの特徴
本発明の第3の実施形態は、第2実施形態の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクターである。「発現ベクター」とは、一般に、内部にコードされた遺伝子を発現制御できるシステムを包含するベクターをいう。「第2実施形態の核酸」とは、本発明のβ‐グルコシダーゼ又はその活性ポリペプチド断片をコードする核酸をいう。「発現可能な状態」とは、発現ベクターに含まれる前記核酸が宿主内の所定条件下で転写され得る状態をいう。例えば、発現ベクターに含まれる宿主特異的なプロモーターの制御下に前記核酸を連結した状態が該当する。
【0033】
本発明の発現ベクターにおけるベース部分、すなわち、ベクターの主要な骨格部分は、特に限定はしない。好ましくは、プラスミド又はウイルスである。プラスミドの場合、例えば、大腸菌由来のプラスミド(pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、pBluescript系(stratagene社)プラスミド)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(Yep13、Yep24、YCp50等)等を使用することができる。ウイルスの場合、ファージ(λgt11、λZAP等のλファージ)、植物ウイルス(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV))、昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルス)等を使用することができる。これらは、導入する宿主に応じて適宜選択すればよい。
【0034】
本発明の発現ベクターは、第2実施形態の核酸及びベース部分以外に、他の構成要素を含むことができる。例えば、プロモーター、エンハンサー若しくはターミネーター等の調節領域、又は選択マーカー遺伝子等の標識領域が挙げられる。また、宿主が真核生物である場合には、スプライシングシグナル(ドナー部位、アクセプター部位、ブランチポイント等)、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等の調節領域を連結することもできる。それぞれの構成要素の種類は、導入する宿主に応じて当該分野で公知のものを適宜選択すればよく、特に限定はしない。
【0035】
本発明の発現ベクターにおいて、前記プロモーターは、宿主特異的なプロモーター、すなわち、特定の宿主細胞内で作動可能なプロモーターを使用する。例えば、大腸菌中で作動可能なプロモーターとしては、lac、trp若しくはtacプロモーター又はファージ・ラムダ由来のPR若しくはPLプロモーター等が挙げられる。また、酵母で作動可能なプロモーターとしては、例えば、酵母解糖系遺伝子由来のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2-4cプロモーター等が挙げられる。植物細胞で作動可能なプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。昆虫細胞で作動可能なプロモーターとしては、例えば、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0036】
エンハンサーとしては、例えば、CaMV 35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域及びCMVエンハンサー等が挙げられる。
【0037】
ターミネーターとしては、例えば、大腸菌用のリポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、酵母用のADH1遺伝子のターミネーター、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35Sターミネーター等が挙げられる。
【0038】
選択マーカー遺伝子としては、細菌用選択マーカーとしての薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子又はネオマイシン耐性遺伝子)、酵母用選択マーカーとしての栄養素遺伝子(例えば、ロイシン、ウラシル、アデニン、ヒスチジン、リジン又はトリプトファンの合成遺伝子)、蛍光又は発光レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、又は緑色蛍光タンパク質(GFP))、酵素遺伝子(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸還元酵素等)が挙げられる。
【0039】
3−2.発現ベクターの調製
第2実施形態の核酸を前記本発明の発現ベクターの所定の部位に挿入する方法は、当該分野で公知の方法、例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: a Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法に従って行えばよい。通常は、調製された第2実施形態の核酸の両端を適当な制限酵素で処理し、発現ベクター中のプロモーター制御下における対応する制限酵素部位に挿入して連結する方法、又はTaq DNAポリメラーゼ等による3'-A突出末端を有するPCR産物であれば発現ベクター中のプロモーター制御下における5'-T突出末端部位に挿入して連結する方法等が採用される。その他、市販のシステム又はキットを用いる場合であれば、それらに特異的な方法によって調製することもできる。
【0040】
3−3.発現ベクターの効果
本実施形態の発現ベクターによれば、適応する宿主に導入することで、次で説明する形質転換体を得ることができる。
【0041】
4.形質転換体又はその後代
4−1.形質転換体又はその後代の特徴
本発明の第4の実施形態は、第3実施形態の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代である。
【0042】
本明細書において「形質転換体」とは、第3実施形態の発現ベクターの導入により形質転換された宿主であり、形質転換体の第1世代をいう。宿主は、導入された発現ベクターの複製が可能で、かつその発現ベクターに含まれる第2実施形態の核酸を発現できれば特に限定されない。宿主の具体例を挙げると、細菌(例えば、大腸菌(Escherichia coli等)及び枯草菌(Bacillus subtilis))、酵母(例えば、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)又はメタノール資化性酵母(Pichia pastoris))、糸状菌(例えば、コウジカビ(Aspergillus)及びアカパンカビ(Neurospora))、植物(植物体、その器官、組織、分化した細胞若しくは未分化状態の植物細胞(カルス)を含む)又は昆虫細胞(例えば、sf9又はsf21)が挙げられる。
【0043】
本明細書において「形質転換体の後代」とは、前記形質転換体(第1世代)から無性生殖又は有性生殖を介して得られる形質転換体第2世代以降であって、かつ第2実施形態の核酸を発現可能な状態で保持しているものを意味する。例えば、宿主が大腸菌や酵母等の無性生殖を行う単細胞微生物であれば、形質転換体第1世代以降から分裂又は出芽等によって新たに生じた細胞(クローン体)が該当する。また、形質転換される宿主が植物であれば、形質転換体第1世代以降から採取した植物体の一部から再生させた植物体、形質転換体第1世代以降から無性生殖で得られる栄養繁殖器官(例えば、根茎、塊根、球茎、ランナー等)より新たに生じた新たな植物体、又は形質転換体第1世代以降の実生が該当する。
【0044】
4−2.形質転換体の調製
第3実施形態の発現ベクターを宿主に導入して本発明の形質転換体又はその後代を調製する方法は、当該分野で公知の形質転換方法を使用することができる。
【0045】
宿主が細菌であれば、例えば、ヒートショック法、カルシウムイオン法(例えば、リン酸カルシウム法)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、宿主が酵母であれば、例えば、リチウム法、エレクトロポレーション法等を用いればよい。これらの技術は、いずれも当該分野で公知であり、様々な文献に記載されている。例えば、Sambrook, J. et.al、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Guthrie, C. & Fink. G.R., 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biolog, Method in Enzymology, 194, Academic Pressを参照されたい。さらに、宿主が植物細胞であって、かつ前記発現ベクターがプラスミドベクターである場合には、形質転換方法としてプロトプラスト法、パーティクルガン法又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)法等を利用することができる。いずれの方法も当該分野においては、公知の方法であり、詳細については植物代謝工学ハンドブック(2002年、NTS社)又は新版モデル植物の実験プロトコール:遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001年秀潤社)等を参照すればよい。
【0046】
また、宿主が植物細胞であって、かつ前記発現ベクターがウイルスベクターの場合には、そのウイルスベクターを植物細胞に感染させることによって導入することができる。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法も公知の方法であり、詳細については、Hohnらの方法(Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)1982、pp549)、米国特許第4,407,956号明細書等を参考にすればよい。
【0047】
4−3.後代取得法
本発明の形質転換体から後代を得る方法は、その形質転換体の宿主である生物種において後代を得るために用いられる通常の方法で行えばよい。例えば、形質転換体の宿主が大腸菌や酵母であれば、適当な公知培地で培養することによって容易に得ることができる。例えば、Sambrook, J. et. al., (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkを参照すればよい。また、形質転換体の宿主が植物であれば、後代は、通常、種子、栄養繁殖器官又は植物体の一部(例えば、挿し木)の土耕栽培により得ることができる。
【0048】
4−4.効果
本発明の形質転換体又はその後代によれば、適当な発現条件下で、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させることができる。
【0049】
5.β‐グルコシダーゼ又は活性ポリペプチド断片の製造方法
本発明の第5の実施形態は、第4実施形態の形質転換体又はその後代(以下、本明細書においては「形質転換体等」とする)に発現誘導処理を行い、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を製造する方法である。
【0050】
本方法は、本発明の発現ベクターを包含する形質転換体等を培養する工程(培養工程)、培養した形質転換体等に発現誘導処理を行う工程(発現誘導工程)、及び培養液及び/又は形質転換体等から本発明のβ‐グルコシダーゼ等を回収する工程(回収工程)を含む。以下、それぞれの工程について説明をする。
【0051】
5−1.培養工程
「培養工程」は、本発明の形質転換体等を適当な培地で培養する工程である。形質転換体等を培地で培養する方法は、形質転換体の宿主の培養に用いられる通常の方法に従えばよい。例えば、細菌を宿主とする場合、培地は、その微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ生育、増殖可能なものであれば、天然培地、合成培地のいずれを用いることもでき、特に限定はしない。具体例としてLB培地が挙げられるが、これに限定はされない。また、形質転換体等を選択的に培養する場合にように、必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加することもできる。培養は、通常、撹拌等の好気的条件下において37℃で対数増殖期まで行えばよい。また、酵母を宿主とする場合、培地は前記と同様にその酵母が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、かつ発現ベクターを保持しながら生育、増殖可能なものであれば、特に制限はしない。例えば、YPD培地や栄養素選択合成培地等を使用することができる。これらの培養方法は、当該分野で公知である。例えば、Sambrook, J. et.al、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual Second Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、Guthrie, C. & Fink. G.R., 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biolog, Method in Enzymology, 194, Academic Pressを参照することができる。さらに、植物を宿主とする場合、培地は公知の液体培地で公知の方法に従い、水耕栽培するか、又は圃場で栽培すればよい。
【0052】
5−2.発現誘導工程
「発現誘導工程」は、培養した前記形質転換体等に所定の発現誘導処理を行い、形質転換体等に包含される発現ベクター中の本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする核酸の発現を誘導させる工程である。発現誘導の方法は、ベクターに含まれるタンパク質発現制御システムによって異なるため、そのシステムに適した誘導処理を行えばよい。例えば、細菌を宿主とするタンパク質発現誘導型ベクターにおいて最も一般的に利用されているタンパク質発現誘導システムは、lacリプレッサー遺伝子及びlacオペレーターからなるシステムである。本システムは、IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-Galactoside)処理によって発現を誘導することが可能である。したがって、本発明の形質転換体等が包含する発現ベクターがこのlacシステムを有する場合には、目的とする本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させるためには、適当量(例えば、終濃度で1mM)のIPTGを培地中に添加すればよい。これらの誘導処理は、当該分野では公知の技術である。例えば、大野茂男及び西村善文監修,1997,タンパク質実験プロトコール(1)機能解析編,細胞工学別冊,実験プロトコールシリーズ,秀潤社を参照されたい。また、形質転換体等に包含される発現ベクター中の本発明のβ‐グルコシダーゼ等をコードする核酸が、発現ベクターを宿主細胞内に導入することで恒常的に発現可能な場合には、特段の誘導処理を必要とすることなく、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を発現させ、次の回収工程に供することができる。
【0053】
5−3.回収工程
「回収工程」は、発現誘導工程で誘導された本発明のβ‐グルコシダーゼ等を形質転換体等又はその培養液から回収する工程である。発現した本発明のβ‐グルコシダーゼ等が形質転換体の細胞内に生産される場合には、細胞を遠心等によって回収し、ソニケーター等の細胞破砕機を用いて破砕して本発明のβ‐グルコシダーゼ等を含む抽出液を調製する。また、発現した本発明のβ‐グルコシダーゼ等が形質転換体の細胞外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、又は遠心分離等により形質転換体等を除去し、上清を使用する。必要に応じて、得られた細胞抽出液又は上清を一般的なタンパク質の精製方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で、又は適宜組合せて用いることにより、前記培養物中から本発明のβ‐グルコシダーゼ等を単離精製することができる。ポリペプチドの回収は、当該分野では公知の技術である。例えば、大野茂男及び西村善文監修,1997,タンパク質実験プロトコール(1)機能解析編,細胞工学別冊,実験プロトコールシリーズ,秀潤社を参照されたい。
【0054】
なお、本発明のβ‐グルコシダーゼ等が目的のポリペプチドであるか否かは、例えば、SDS-PAGEによる泳動距離がその塩基配列から予想される分子量サイズに合致するか否か、本発明のβ‐グルコシダーゼに対する抗体(好ましくは、モノクローナル抗体)があれば、その抗体により免疫反応が見られるか否か、又は後述するような高濃度のグルコース存在下でpNPGを加水分解する活性を有するか否かで確認すればよい。
【0055】
5−4.効果
本発明の製造方法によれば、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を大量に製造することが可能となる。
【0056】
6.セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法
本発明の第6の実施形態は、セルロース及び/又はヘミセルロースを分解し、糖化する方法である。本糖化方法は、本発明のβ‐グルコシダーゼ等及び/又は本発明の形質転換体等を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含むことを特徴とする。
【0057】
本明細書の「セルロース及び/又はヘミセルロース」(以下、「セルロース等」とする)は、セルロース等を含有するあらゆる資源を対象とすることができる。例えば、木本類(例えば、スギ又はカラマツのような針葉樹若しくはブナ、ナラ、カシ、ユーカリ又はポプラのような広葉樹の樹幹、根、枝、葉、花、種子及びそれらの落葉を含む)及び草本類(ススキ、タケ若しくはササ等の単子葉類、ヨモギ、セイタカアワダチソウ若しくはクズのような双子葉類の根、茎、葉、花、種子及びそれらの枯死体を含む)を含む種子植物又はシダ類等の利用度の低い植物資源のみならず、植物性農業廃棄物(例えば、イネ、ムギ、トウモロコシ等の茎、葉、籾殻)、農産物の加工処理で発生する残渣(例えば、果皮、オカラのような搾り粕)、紙資源(例えば、新聞紙、雑誌、廃棄OA紙、ダンボール)及び建築廃材が挙げられる。
【0058】
一般に、セルロース等の糖化は、セルロース等をセロオリゴ糖に加水分解する工程(セルロース分解工程)、セロオリゴ糖をセロビオースに加水分解する工程(セロオリゴ糖分解工程)及びセロビオースをβ-D-グルコースに加水分解する工程(セロビオース分解工程)を含む。本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程は、主として「セロビオース分解工程」に含まれる。以下、前記3つの工程について説明をする。
【0059】
6−1.セルロース分解工程
「セルロース分解工程」は、セルロース等を分解して主としてセロオリゴ糖、一部でセロビオースを生成する工程である。本工程は、通常、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼによる加水分解作用によって進行する。使用するエンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼは、セルロース等の加水分解活性を有するものであれば、細菌由来、真菌(酵母、糸状菌を含む)由来、粘菌由来、シロアリやゴキブリ等の昆虫又は原生動物由来のいずれであってもよく、その種類は問わない。例えば、糸状菌の一種であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のエンドグルカナーゼを使用することができる。本工程で使用するエンドグルカナーゼは、その活性を有していれば必ずしも精製されている必要はなく、例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各種セルラーゼ(エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ及びβ‐グルコシダーゼ)を包含する未精製(クルードな)溶液を使用することもできる。
【0060】
本工程の具体的方法としては、例えば、エンドグルカナーゼを1gのセルロース等に対して1〜10mg、好ましくは2mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。本工程で使用するセルロース及び/ヘミセルロースは、木質状態、すなわち、リグニンを含有する状態又は後述するリグニン分解除去処理工程を経た状態のいずれであってもよい。好ましくは、リグニン分解除去処理工程を経た状態である。また、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各セルラーゼを混合状態で包含する未精製溶液を使用する場合、当該未精製溶液が、エキソグルカナーゼも含有するため、本工程と次のセロオリゴ糖分解工程を連続的に行うことができる。それ故、当該未精製溶液処理後は、次のセロオリゴ糖分解工程を別途行わず、連続的にセロビオース分解工程に進めてもよい。
【0061】
6−2.セロオリゴ糖分解工程
「セロオリゴ糖分解工程」は、セルロース分解工程等で生じたセロオリゴ糖を分解してセロビオースを生成する工程である。本工程は、通常、エキソグルカナーゼによる加水分解作用によって進行する。使用するエキソグルカナーゼは、セロオリゴ糖の加水分解活性を有するものであれば、由来する種類は問わない。したがって、前記セルロース分解工程で使用したエンドグルカナーゼの由来する種と異なる種に由来するものであってもよい。例えば、セルロース分解工程でトリコデルマ・リーゼイ由来のエンドグルカナーゼを使用し、本工程で黒コウジカビの一種であるアスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)由来のエキソグルカナーゼを使用することもできる。
【0062】
前記セルロース分解工程後、エンドグルカナーゼを失活させてそれらを除去する処理は、特に必要はない。前記セルロース分解工程後、エキソグルカナーゼを添加することで、本工程の反応液中にセルロース又はヘミセルロースが残存していても、エンドグルカナーゼにより引き続きそれらを加水分解することができるからである。ただし、必要に応じて、失活・除去処理を行ってもよい。
【0063】
本工程で使用するエキソグルカナーゼも、前述のエンドグルカナーゼと同様に、その活性を有していれば必ずしも精製されている必要はなく、例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように他のセルラーゼを包含する未精製状態であってもよい。
【0064】
本工程の具体的方法としては、例えば、エキソグルカナーゼを1gのセロオリゴ糖に対して1〜10mg、好ましくは2mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。
【0065】
本工程で、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いてもよい。本発明のβ‐グルコシダーゼ等は、前述のようにセロオリゴ糖を加水分解する活性も有するからである。この場合、本発明のβ‐グルコシダーゼ等の作用により、次のセロビオース分解工程まで連続的に行うことができるため、別途セロビオース分解工程を行う必要がないという利点がある。一方、本工程において、本発明の形質転換体等を使用することもできる。この場合、反応液がその形質転換体等の培養に適した状態であって、かつその形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体等を当該反応液に直接投入すればよい。また、反応液はその形質転換体等の培養に不適ではあるが、本発明の形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体等を別途適当な条件下で培養し、その培養液上清を当該反応液に投入すればよい。一方、本発明の形質転換体等が本発明のβ‐グルコシダーゼ等を内包し、分泌しない場合には、適当な培養条件で別途培養したその形質転換体等から前記第5実施形態に記載の方法を用いて本発明のβ‐グルコシダーゼ等を回収し、それを反応液に添加する必要がある。これらは、当該分野で公知の技術に基づいて、適宜調節すればよい。
【0066】
6−3.セロビオース分解工程
「セロビオース分解工程」は、セロオリゴ糖分解工程等で生じたセロビオースを酵素によって加水分解し、最終産物であるβ-D-グルコースを生成する工程である。本工程は、通常、β-グルコシダーゼによる加水分解作用によって進行するが、一般的なβ-グルコシダーゼは、グルコースによりその活性が阻害されるため、本工程で生成したグルコース濃度が増加するにつれてはセロビオースの分解が停滞してしまう。それ故、従来のβ-グルコシダーゼでは、セロビオースが蓄積し、効率的な糖化反応を行えないという問題があった。本実施形態のセルロース等の糖化方法では、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を本工程に使用し、この問題を解決することを特徴としている。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼ等は、500mMの高濃度グルコース存在下であってもセロビオースを加水分解する活性を保持できることから、グルコース濃度の増大に伴うセロビオース分解工程の停滞を回避し、効率的に糖化反応を完了することが可能となる。
【0067】
前記セロオリゴ糖分解工程後、エキソグルカナーゼ等を失活させてそれらを除去する処理は、特に必要ではない。これは、前記セロオリゴ糖分解工程後、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を添加することで、セロオリゴ糖分解工程後に残存するセロオリゴ糖をエキソグルカナーゼにより引き続き加水分解することができるからである。ただし、必要に応じて、失活・除去処理を行ってもよい。
【0068】
本工程の具体的方法として、例えば、本発明のβ‐グルコシダーゼ等を使用する場合であれば、それらを1gのセロビオースに対して0.1〜1mg、好ましくは0.5mgで添加し、pH4〜pH6、好ましくはpH4.5〜pH5.5の範囲内において、30℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃の温度下で、6時間〜48時間、好ましくは12〜24時間インキュベートすればよい。
【0069】
また、本工程において、本発明の形質転換体等を使用する場合、セロオリゴ糖分解工程で記載したように、反応液がその形質転換体等の培養に適した状態であって、かつ形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、その形質転換体等を当該反応液に直接投入すればよい。この場合、反応温度は、形質転換体等の増殖に適した温度にするか、又はそれらを増殖させた後、本発明のβ‐グルコシダーゼの至適温度に上げればよい。また、反応液はその形質転換体等の培養に不適ではあるが、形質転換体等が細胞外に本発明のβ‐グルコシダーゼ等を分泌することができるのであれば、形質転換体等を別途適当な条件下で培養し、その培養液上清を当該反応液に投入すればよい。この場合、反応温度は、本発明のβ‐グルコシダーゼの至適温度にすることができる。一方、形質転換体等が本発明のβ‐グルコシダーゼ等を内包し、分泌しない場合には、適当な培養条件で別途培養した形質転換体等から前記第5実施形態に記載の方法を用いてβ‐グルコシダーゼ等を回収し、それを反応液に添加する必要がある。その際、添加する量は本発明のβ‐グルコシダーゼ等を使用する場合に準ずればよい。
【0070】
一例として、形質転換体が酵母であった場合、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性と酵母の生育の至適pHは、ほぼ一致する。また、本発明のβ‐グルコシダーゼの活性によってセロビオースから生じたβ-D-グルコースは、酵母の栄養源となり得る。それ故、反応温度を酵母の増殖に適した30℃前後にすれば、酵母形質転換体を反応液にそのまま投入することで、本工程を達成し得る。さらに、当該工程を嫌気的条件下で行った場合、酵母はエタノール発酵を行うが、本発明のβ‐グルコシダーゼは、エタノールが反応液に対する体積比で5〜20%のときにエタノール非存在下と比較して活性が20%〜50%向上するという利点もある。したがって、セルロールやヘミセルロースからバイオエタノールを生成する場合に酵母の使用は非常に有効である。
【0071】
本工程では、本発明のβ‐グルコシダーゼ等がその活性を失わない範囲で、他の生物種由来のβ‐グルコシダーゼと共存することもできる。例えば、トリコデルマ・リーゼイの培養上清のように各セルラーゼを混合状態で包含する未精製溶液をセルロース分解工程で使用する場合が該当する。
本工程後に、セルロースの糖化産物であるβ-D-グルコースを得ることができる。
【0072】
6−4.リグニン分解除去工程
一の実施形態において、木質バイオマスからセルロース等を糖化する場合、前記セルロース分解工程に先立ち、リグニンを分解除去する工程を含むことができる。この工程を含むことによって、効率的な木質バイオマスの糖化が可能となる。リグニン分解除去工程は、木質部においてセルロース及びヘミセルロースと結合するリグニンを除去する工程である。
【0073】
6−5.セルロース等の糖化方法の具体例
以下で、本実施形態の具体的方法について、一例を挙げて説明する。ただし、本実施形態は、ここで説明する方法に限定するものではない。
【0074】
まず、スギの木質部を1g採取し、コンバージミルで30分間粉砕する。次に、粉砕した粒子を2mg〜20mgのタンパク質成分を含有するトリコデルマ・リーゼイの培養上清1ml、及び1ユニット〜10ユニットの本発明のβ‐グルコシダーゼを含む10ml反応溶液(50mM酢酸ナトリウム、pH5.0を含む)に加える。ここで、トリコデルマ・リーゼイの培養上清は、酵素製剤として市販されているものを使用すればよい。続いて、反応液を50℃で振とうしながら24時間反応させることで、スギセルロースをβ-D-グルコースに糖化することができる。
【0075】
6−6.効果
本発明の糖化方法によれば、反応産物として生じるグルコースの濃度が500mM以下であれば、その阻害作用を受けることなく、セルロース等の糖化反応を進行させることができる。その結果、セルロース等の十分な糖化が可能となる。
【0076】
7.β-D-グルコース製造方法
本発明の第7の実施形態は、前記第6実施形態の糖化方法を用いてセルロース等からβ-D-グルコースを製造する方法である。
本製造方法は、前記第6実施形態の糖化方法に準じて行うことにより、その結果の生産物としてβ-D-グルコースを得ることができる。したがって、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0077】
以下で本発明の実施例を説明するが、ここで挙げる実施例は単なる具体的例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0078】
<実施例1>グルコース耐性β-グルコシダーゼの単離
高濃度のグルコース存在下であっても、pNPGを加水分解できる活性を有するβーグルコシダーゼをメタゲノム解析法によって単離した。
【0079】
(1)くさや汁由来の微生物ゲノムの抽出
くさや汁(東京都新島村産)より微生物ゲノムを抽出した。まず、45mlのくさや汁を4℃にて10分間、300gで低速遠心して、粗雑物を除去した。次に4℃にて1時間、8,000gで遠心して集菌した。遠心分離機は、トミー精工社の製品を用いた。
【0080】
次に、上清を除き、得られた沈殿に10mlのDNA抽出バッファ(100mM Tris(Sigma社)−HCl(ナカライテスク社)バッファ(pH8.0)/100mM EDTA(pH8.0)(ナカライテスク社)/100mM リン酸ナトリウムバッファ(pH8.0)(ナカライテスク社)/1.5M NaCl(東京化成社)/1% ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(シグマ社))を加え、混合液を穏やかに撹拌した。
【0081】
続いて、その混合液を-80℃のフリーザー内に一晩保存した後、60℃のインキュベータ(BR-40LF;タイテック社)内で溶解させた。溶解した溶液に20mg/mlのプロテイナーゼK(Sigma社)を200μl加え、37℃で1時間、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて200rpmで水平振とうしながら反応させた。その後、20% SDS溶液を1.5ml及び100mg/ml リゾチーム(ナカライテスク社)をそれぞれ1ml加え、65℃で3時間、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて200rpmで水平振とうさせた。
【0082】
続いて、反応後の溶液を、25℃で8000gにて30分間遠心分離し、水層と有機層に分離した後、水層を回収した。その水層と等量のTE飽和フェノール(ニッポンジーン社)を加え、一晩転倒混和させた。この工程を計3回繰り返した。ただし、2回目の転倒混和時間は、3時間とした。回収した水相にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCI)溶液(Nippon gene社)を等量加え、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)を用いて室温で3時間転倒混和した。再び、25℃で8000gにて30分間遠心分離を行い、水層を回収した。
【0083】
得られた水層に1/10容量の3M 酢酸ナトリウム(ナカライテスク社)を加えて穏やかに撹拌した後、2.5倍容量のエタノール(キシダ化学社)を追加し、穏やかに撹拌した。溶液中に生じた糸状のDNA(メタゲノムDNA)を取りこぼさないように注意しながらデカンテーションにより上清を除き、その後、DNAを70%エタノールで2回洗浄した。DNAを風乾後、5mlのTEバッファを加え、インキュベータ(BR-40LF;タイテック社)内で一晩穏やかに水平に震盪させてメタゲノムDNAを溶解させた。
【0084】
(2)メタゲノムライブラリの構築
上記で得られたメタゲノムDNAをハイドロシェアー(ジーンマシーンズ社)によって物理的に剪断し、アガロースゲル(ニッポンジーン社)で電気泳動して分画した。5〜10kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出し、T4 DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)を用いてDNA断片の平滑化を行った。BamHI(NEB社)で切断後、T4 DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社)による平滑末端化し、アルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)による脱リン酸化処理を行ったp18GFPベクターに、DNA Ligation Kit Mighty Mix (タカラバイオ社)を用いて、前記調製したDNA断片を4℃、16時間で連結させた。反応後、反応液をフェノール(ニッポンジーン社)抽出し、エタノール沈殿を行って、30μlの0.1×TEに溶解した。作製したメタゲノムライブラリを、エレクトロポレーション法(ジーンパルサー;バイオラッド社)を用いて以下の条件にて大腸菌に導入した。25μlの大腸菌DH10B株(ElectroMAX DH10B cells,インビトロジェン社)、1μlのライゲーション溶液(組成)を混合し、エレクトロポレーションキュベット Gap 0.1 cm (Bio rad)に入れた後、1.8kV、200Ω、25μFでパルス処理し、直ちに1mlのSOC培地を加えて37℃で1時間振とう培養した。その後、培養液全量を100μg/ml アンピシリン及び100μM IPTGを含有するLBプレート(9cm)1枚に播種し、37℃で一晩培養した。翌日、プレートに1mlのLB培地を加え、スプレッダーを用いてプレートから形質転換体コロニーを回収した。得られた形質転換体の集団をメタゲノムライブラリとした。
【0085】
(3)βーグルコシダーゼ陽性クローンのスクリーニング
次に、得られたメタゲノムライブラリを、10μM IPTG(ナカライテスク社)、40μg/ml X-Glc(5-ブルモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-グルコピラノシド;シグマ社)を含むLBプレート上に播種し、β‐グルコシダーゼ活性を有するクローンのスクリーニングを行った。X-Glcは、β‐グルコシダーゼによって分解されると青色色素を発生する。そこで、青色を呈する形質転換体をβーグルコシダーゼ陽性クローンとして回収した。10000クローンを解析した結果、953クローンのβーグルコシダーゼ陽性クローンを得ることができた。
【0086】
(4)グルコース耐性β-グルコシダーゼのスクリーニング
メタゲノムライブラリより得られた953クローンのβーグルコシダーゼ陽性クローンのうち、768クローンについてグルコース耐性のスクリーニングを行った。寒天培地上に生育させた各クローンを、1mlのLB-アンピシリン(ナカライテスク社)液体培地を含む96穴マイクロプレートに接種した。当該プレートをシェーカー(タイテック社M BR-024)で37℃、1000rpmにて一晩振とう培養した。培養液から200μlを分取し、100μlずつグルコース非存在下(0%)及び10%(v/v)グルコース存在下における活性測定に供した。具体的に説明すると、分取した培養液を、まず、遠心分離器(5810R;エッペンドルフ社)を用いて4℃にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。次に、ペレット(菌体)を、1mM pNPG(シグマ社)/及び0%又は10%グルコース(ナカライテスク社)を含む100mMリン酸バッファ(pH6.0)に懸濁した。シェーカー(M BR-024;タイテック社)で、37℃、1000rpmにて48時間振とうして反応させた後、遠心分離器(5810R;エッペンドルフ社)を用いて4℃にて4000rpmで10分間遠心分離し、上清50μlを分取して100μlの炭酸ナトリウム(ナカライテスク社)を添加し、反応を停止させた。反応のモニターは、405nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)の上で測定した。その結果、10%(v/v)グルコース存在下でも活性を示す7クローン(5A7、5B6、5F2、6C8、7F9、9B4、10H11)をグルコース耐性β-グルコシダーゼの遺伝子を有する形質転換体として単離した。各クローンの活性は、グルコース非存在下における活性の3分の1以上の活性を示した。
【0087】
<実施例2>グルコース耐性β-グルコシダーゼの同定
実施例1で得られた7クローンについて、プラスミドのショットガン解析を行った。プラスミドの抽出は、大腸菌からプラスミドを抽出する常法に従った。抽出した約1μgのプラスミドをそれぞれ1ユニットのSau3AI(タカラバイオ社)を用いて室温で5分間の反応により切断し、アガロースゲル(ニッポンジーン社)電気泳動により分画した後、1〜3kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出した。一方、1μgのpTDCm-ccdBamを5ユニットのBamHI(NEB社)で37℃にて4時間の反応により完全消化した。pTDCm-ccdBamは、pUC系プラスミドにアンバーコドン(停止コドン)を含むccdB遺伝子をクローン化したプラスミドである。また、ccdB遺伝子は、通常の大腸菌では致死的に作用するため、この遺伝子内に目的のDNA断片が挿入されていない形質転換体はコロニーを形成できない。続いて、BamHI切断したpTDCm-ccdBamの末端をアルカリホスファターゼ(タカラバイオ社)で脱リン酸化処理し、得られた開裂pTDCm-ccdBamと前記ゲル抽出したDNA断片とをT4 DNAリガーゼ(NEB社)により連結した。反応液を大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ社)に導入し、34μg/mlクロラムフェニコールを含むLB寒天培地上に播種した。37℃で一晩培養した後、生育した形質転換体をランダムに96個選択し、34μg/mlクロラムフェニコール含有LB培地を入れた96穴マイクロプレートに接種した。37℃にて一晩培養し、菌体の一部を鋳型とし、GEヘルスケア社鋳型増幅キットTempliPhiを用いて添付マニュアルに従い塩基配列用の鋳型を調製した。シーケンシング反応は、BigDye(登録商標)Terminator V3.1キット(ABI社)を用いてDNAシーケンサー(PRISM 310;ABI社)により行った。
【0088】
決定後の塩基配列をBLAST検索にかけて、既知のβ-グルコシダーゼ遺伝子と相同性の比較的高い(50%程度の相同性)ORFを推定β-グルコシダーゼとして選択した。続いて、その推定遺伝子のサブクローニングを行った。遺伝子の増幅は、Fwプライマーとして5A7Fwd(オペロン社)を、またRvプライマーとして5A7 Bgl R stop free (XhoI)(オペロン社)を用いて行った。増幅された断片をアガロースゲル(ニッポンジーン社)電気泳動により分画後、約1.5kbのDNA断片をMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてゲルから抽出し、30μlの水に溶解した。得られたDNA溶液を1μl分取し、pCR-Blunt IIクローニングキット(インビトロジェン社)を用いて、マニュアルに従いクローニングした。さらに、クイックチェンジ法(ストラタジーン社)に従い、配列中に存在する2カ所のNdeI部位を除去した。具体的には、xNdeI-1 F(配列番号3)とxNdeI-1 R(配列番号4)を用いて1つ目のNdeI部位を除去した。さらに除去後の塩基配列を確認後、xNdeI-2 F(配列番号5)とxNdeI-2 R(配列番号6)を用いて2番目の部位を除去し、その後、再び塩基配列を確認した。得られたポリヌクレオチド断片をNdeI(NEB社)とXhoI(タカラバイオ社)で切断し、約1.5kbのβ−グルコシダーゼ遺伝子断片を調製した。この断片をNdeI/XhoI切断したpET29b(+)(ノバジェン社)にT4 DNAリガーゼ(NEB社)を用いて連結させた。大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン社)を反溶液で常法により形質転換した後、100μM IPTG(ナカライテスク社)/40μg/ml X-Glc(シグマ社)を含有するLBプレート上に塗布し、βーグルコシダーゼ活性を有するクローンのスクリーニングを行った。活性の見られたクローンを培養後、プラスミドを調製し、BigDye(登録商標)Terminator V3.1キット(ABI社)を用いてDNAシーケンサー(PRISM 310;ABI社)により塩基配列を確認した。その結果、前記で得られた7クローンは、いずれも同一クローン由来であり、配列番号2に記載の塩基配列を有する新規のβ‐グルコシダーゼ遺伝子であることが確認された。この遺伝子を含むプラスミドを「pET29b Ks Bgl1」と名付けた。
【0089】
<実施例3>β-グルコシダーゼの製造
(1)組換え型β-グルコシダーゼ遺伝子の発現
実施例2で調製したpET29bKs Bgl1を大腸菌コンピテントセルRosetta(ノバジェン社)に導入し、50μg/mlのカナマイシン及び34μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上に塗布した後、37℃で16時間培養した。生育した単一コロニーを、前記抗生物質を含む5mLのLB液体培地に植菌し、37℃で16時間振とう培養した(前培養)。続いて、50μg/mlのカナマイシン34μg/mlのクロラムフェニコール及びOvernightExpress溶液(ノバジェン社)を含む1LのLB液体培地に植菌し、30℃で16時間振とう培養した(大量培養)。培養後の菌体を5000g、10分間の遠心で回収し、湿菌体重量で10gを90mlの20mM Tris-HCl(pH8.0)に懸濁した。次に10mlの10×BugBuster溶液(ノバジェン社)を加え、室温で20分間穏やかに混和した。4℃にて20000gで20分間遠心(タイテック社)した後、上清を回収した。
【0090】
His−Trapカラム(5ml)(トーソー社)を20mM リン酸ナトリウム(pH7.4)/0.5M 塩化ナトリウム/20mMイミダゾール(いずれもナカライテスク社)で平衡化した後、前記上清をカラムに通した。平衡化に用いた溶液50mlでカラム内を洗浄し、イミダゾールの濃度勾配(20mM〜0.5M、100ml)をかけて、吸着蛋白質を溶出した。各画分の一部を取り出して、β-グルコシダーゼの活性を検証した。活性は、5μlの20mM pNPG/50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)/20μlのddw(deionaized distilled water)からなる溶液に前記各画分25μl加えた計100μlの反応液について、プレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)により405nmにおける吸光度を測定した。その結果、活性を示した画分を回収し、一部を後述する分子量測定用に取り出し、残りを引き続き、20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl/10mMジチオスレイトール(DTT)(ナカライテスク社)溶液とアミコンウルトラ-15限外濾過キットを用いて、添付のプロトコルに従い遠心濃縮を3回繰り返した。その結果、20mM Tris-HCl/50mM NaCl溶液に含まれる本発明のβ‐グルコシダーゼ溶液を得た。本酵素溶液を用いて、以下の酵素学的解析を行った。
【0091】
<実施例4>グルコース耐性組換え型β-グルコシダーゼの分子量の測定
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼの分子量をSDS-PAGEにより測定した。
【0092】
1μlの実施例3の酵素溶液(約8μgのタンパク質含有)、5μlの分子量マーカー(バイオラッド社)及び10μlの濃縮前の活性可溶画分を、SDS-PAGE(7.5-15%グラジエントゲル;DRC社)の各ウェルにアプライし、常法により電機泳動を行った。泳動後、ゲルをクマシーブリリアントブルー(CBB)で約30分間染色し、脱色液で30分間脱色した。
【0093】
結果を図1に示す。組換え型β‐グルコシダーゼのマーカーに対する相対的な移動度は50kDa付近であった(図中矢印)。これは、アミノ酸配列から計算される53.5747kDaとほぼ一致していた。したがって、本発明のβ‐グルコシダーゼの分子量は、50kDa前後であることが明らかとなった。
【0094】
<実施例5>グルコース存在下におけるβ-グルコシダーゼの活性
異なるグルコース濃度下における実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼの活性をpNPGを基質として検証した。
【0095】
β‐グルコシダーゼがpNPGを加水分解した際に生じるp‐ニトロフェノール(pNP;4−ニトロフェノール)の遊離量を測定し、これを本酵素のグルコース生成(基質分解)活性とした。活性反応速度は、反応液の405nmにおける吸光度の変化をプレートリーダー(VersaMax;モレキュラーデバイス社)上でモニターすることによって測定した。なお、本系では、総量を170μlとした。これは、この量における光路長が0.5cmとなるため吸収の値を1cm光路に換算し易いからである。
【0096】
反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)を加え、これに5mM、10mM及び20mMのpNPG溶液と0mM、15.625mM、31.25mM、62.5mM、125mM、250mM及び500mMのグルコース溶液をそれぞれ組み合わせて添加し、ddwで100μlに調製した。これを、30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0097】
結果を図2に示す。この図は、各pNPG濃度における0mMグルコースの反応速度を100%としたときの各グルコース濃度の相対活性値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、pNPG濃度にかかわらず500mMのグルコース濃度まで、0mMのときとほぼ変わらぬ活性を有することが明らかとなった。
【0098】
<実施例6>pNPGを基質としたときのβ-グルコシダーゼのカイネティクス
pNPGを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼの最大初速度(Vmax)及びミカエリス定数(Km)を算出した。
【0099】
反応液は、0.01μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)を加え、これに0.015625mM、0.03125mM、0.0625mM、0.125mM、0.25mM、0.5mMのpNPG溶液を添加し、ddwで100μlに調製した。これを、45℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。上記実験を3回行い、平均をとった。
【0100】
結果を図3に示す。この図から算出されるVmaxは、89.6±0.8 Unit/mg、Kmは、75.4±4.2μMであった。実施例7の結果と共に、表1にpNPGにおけるVmax及びKmを示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<実施例7>セロビオース及びセロオリゴ糖を基質としたときのβ-グルコシダーゼのカイネティクス
セロビオースを基質としたときの本発明のβ‐グルコシダーゼのVmax及びKmを算出した。
【0103】
反応液は、0.01μgのβ‐グルコシダーゼを含む50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)溶液(酵素溶液)に、50μlの基質溶液(0.0625mM、0.125mM、0.25mM、0.5mM、1mM、2mM、4mMのセロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、あるいはセロペンタオース)を添加した。これを、45℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて酵素反応により生成された反応溶液中のグルコース量をインビトロジェン社製Amplex Red Glucose/Glucose Oxidase Assay Kitキットにより定量した。5μlの酵素反応液を取り出し、25μlのddwに加え、キット中の検出用反応溶液(working solution) 30μlに混合し、総量60μlとした。室温で30分間放置した後、グルコースとworking solutionとの反応により生じた蛍光を、蛍光プレートリーダー(SPECTRA max GEMINI XS ;モレキュラーデバイス社)を用いて、励起波長550nm、蛍光波長590nmの条件で測定した。上記実験を3回行い、平均をとった。
【0104】
セロビオースにおける結果を図4に、またセロビオース、セロトリオース、セテトラオース、セロペンタオースにおいて算出されたVmax及びKmを前記表1に示す。
【0105】
表1で示すようにセロビオース、セロトリオース、セテトラオース、セロペンタオースに対するVmaxは、それぞれ、155±8.3 Unit/mg、111±3.2 Unit/mg、114±2.5 Unit/mg、 112±2.5 Unit/mgであり、Kmは、それぞれ、0.358±0.055mM、0.163±0.016mM、0.160±0.012mM、0.132±0.011mMであった。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、既知の多くのβ‐グルコシダーゼで見られる性質、すなわちpNGPに対して高い活性を有するが、セロビオースやセロオリゴ糖に対しては活性が低いという性質は見られず、むしろpNGPよりもセロビオースやセロオリゴ糖に対して高い活性を有するという特異な性質を示すことが明らかとなった。
【0106】
また、表2に、本発明のβ‐グルコシダーゼ及び既知高濃度グルコース耐性β‐グルコシダーゼの各特性を示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2で示すように、本願発明のβ‐グルコシダーゼ以外にも高濃度のグルコース存在下でその活性を有するβグルコシダーゼは既にいくつか知られていた。しかし、本発明のβ‐グルコシダーゼは、少なくとも表2において最も高いグルコース濃度存在下で100%の残存活性を有することが明らかとなった。すなわち、本発明のβ‐グルコシダーゼは、既知の高濃度のグルコース耐性β‐グルコシダーゼよりもその耐性が高い。また、本発明のβ‐グルコシダーゼは、従来のいずれの高濃度グルコース耐性β‐グルコシダーゼよりもKm値が小さく、pNPG及びセロビオースに対して強い作用を有することが判明した。
【0109】
<実施例8>β-グルコシダーゼのエタノールによる活性向上性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼのエタノール存在下における活性について検証した。
【0110】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、これに0μl、3.125μl、6.25μl、12.5μl及び20μlのエタノール(99.5%;キシダ化学)を加えて、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0111】
結果を図5に示す。この図は、エタノール非存在下(0mM)における本発明のβ‐グルコシダーゼの反応速度を100%としたときの各エタノール濃度下における相対値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、5〜20%(v/v)のエタノール存在下では120%〜150%まで活性が向上することが判明した。
【0112】
<実施例9>β-グルコシダーゼ活性のpH依存性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH依存性について検証した。
【0113】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。前記McIlvaineバッファは、pH3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8及び8.5を調製し、各反応液に加えた。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0114】
結果を図6に示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示したpH(pH5.5)の測定値を100%としたときの各pHにおける相対値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH4.5〜pH7.0の領域で70%以上の相対活性を有し、特にpH5.0〜6.5の比較的広い領域に98%以上の相対活性を示すことが判明した。
【0115】
<実施例10>β-グルコシダーゼ活性のpH安定性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性のpH安定性について検証した。
【0116】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。まず、各pH下で酵素を前処理するため0.1mgのβ‐グルコシダーゼを含む20μlの20mM Tris-HC(pH7.0)l/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に80μlの各pHのMcIlvaineバッファ(すなわち、pH3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8及び8.5)を加えて混合し、室温で30分間処理した。続いて、10μlの処理後の溶液を取り出し、20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液で10倍希釈した後、これを酵素溶液として活性測定に用いた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの前記酵素溶液に50μlの対応するpHのMcIlvaineバッファ及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で3分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0117】
結果を図7に示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示したpH(pH8.5)の測定値を100%としたときの各pHにおける相対値を示している。本発明のβ‐グルコシダーゼは、pH5.5〜pH8.5の範囲で約90%以上の相対活性を示した。したがって、このpHの範囲内では比較的安定であることが判明した。
【0118】
<実施例11>β-グルコシダーゼ活性の温度依存性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度依存性について検証した。
【0119】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を20℃、25℃、30℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃又は75℃の各温度で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0120】
結果を図8に示す。この図は、405nmにおける吸光度が最高値を示した温度(50℃)の測定値を100%としたときの各温度における相対値を示している。この結果から、本発明のβ‐グルコシダーゼは、40℃〜50℃の範囲で約90%以上の相対活性を示すことが判明した。
【0121】
<実施例12>β-グルコシダーゼ活性の温度安定性
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の温度安定性について検証した。
【0122】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。まず、各温度下で酵素を前処理するため0.1mg/mlのβ‐グルコシダーゼを含む100μlの20mM Tris-HCl/50mM NaCl溶液/10mM DTT(酵素溶液)を20℃〜75℃まで5℃刻みの各温度で10分間処理し、その後、氷中に保存した。続いて、処理後の酵素溶液1μl(1μgのβ‐グルコシダーゼを含む)に24μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液、50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を加えて混合し、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0123】
結果を図9に示す。この図は、20℃における測定値を100%としたときの各温度における相対値を示している。本発明のβ‐グルコシダーゼは、45℃以下で約90%以上の相対活性を示した。したがって、この温度の範囲内では比較的安定であることが判明した。
【0124】
<実施例13>β-グルコシダーゼ活性の阻害剤及び二価金属の影響
実施例3で得られた本発明のβ‐グルコシダーゼ活性の還元剤(DTT)又は二価金属(Mg2+、Ca2+)の影響について検証した。
【0125】
活性測定の方法は、実施例5に準じた。反応液は、0.1μgのβ‐グルコシダーゼを含む25μlの20mM Tris-HCl(pH7.0)/50mM NaCl溶液(酵素溶液)に50μlのMcIlvaineバッファ(pH5.5)及び5μlの20mM pNPG溶液(最終濃度1mM)を混合し、0.1MのDTT又は0.1MのEDTAを最終濃度0%、0.1%、1%又は10%となるようにそれぞれ加えて、ddwで100μlに調製した。反応液を30℃で5分間反応させた後、95℃で2分間処理した。続いて、85μlの反応液を取り出し、等量のNa2CO3と混合して、総量170μlとした。この溶液の405nmにおける吸光度を上記プレートリーダーにより測定した。
【0126】
DTTの結果を図10に、またEDTAの結果を図11に示す。いずれの図も、0%のときの測定値を100%として各温度における相対値を示している。これらの結果は、本発明のβ‐グルコシダーゼが10mMのDTT又は10mMのEDTA存在下であっても活性が低下しないことを示している。したがって、本発明のβ‐グルコシダーゼは、DTTのような還元剤の影響を受けにくく、また、活性に二価金属イオンを必要としないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のβ‐グルコシダーゼ等を用いたセルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法によれば、セルロース及び/又はヘミセルロースを効率的に、かつ有効に糖化することができるため、未利用物を含む自然界に存在する多種多様なセルロース資源を食糧、飼料又はバイオエタノール等のエネルギー資源に変換することが可能となる。それ故、セルロース資源のエネルギー変換方法として、食品産業、畜産産業、エネルギー産業等の様々な分野に貢献し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDS-PAGEにおいて45〜55キロダルトンの分子量を示し、500mM以下のグルコース存在下で酵素活性を有するβ‐グルコシダーゼ。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のポリペプチドからなる、請求項1に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド
【請求項3】
請求項1に記載のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片。
【請求項4】
アミノ酸配列の一部が請求項2に記載のアミノ酸配列の一部である、請求項3に記載のポリペプチド断片。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項3若しくは4に記載のポリペプチド断片をコードする核酸。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換体又はその後代に発現誘導処理を行い、請求項1若しくは2に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項4若しくは5に記載のポリペプチド断片を製造する方法。
【請求項9】
請求項1若しくは2に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項3若しくは4に記載のポリペプチド断片、あるいは請求項7に記載の形質転換体若しくはその後代を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含む、セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法を用いた、セルロースからβ-D-グルコースを製造する方法。
【請求項1】
SDS-PAGEにおいて45〜55キロダルトンの分子量を示し、500mM以下のグルコース存在下で酵素活性を有するβ‐グルコシダーゼ。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のポリペプチドからなる、請求項1に記載のβ‐グルコシダーゼ。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたポリペプチド
【請求項3】
請求項1に記載のβ‐グルコシダーゼのアミノ酸配列の一部を含み、かつその酵素活性を有するポリペプチド断片。
【請求項4】
アミノ酸配列の一部が請求項2に記載のアミノ酸配列の一部である、請求項3に記載のポリペプチド断片。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項3若しくは4に記載のポリペプチド断片をコードする核酸。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸を発現可能な状態で含む発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターを宿主に導入した形質転換体又はその後代。
【請求項8】
請求項7に記載の形質転換体又はその後代に発現誘導処理を行い、請求項1若しくは2に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項4若しくは5に記載のポリペプチド断片を製造する方法。
【請求項9】
請求項1若しくは2に記載のβ‐グルコシダーゼ又は請求項3若しくは4に記載のポリペプチド断片、あるいは請求項7に記載の形質転換体若しくはその後代を用いてセロビオース及び/又はセロオリゴ糖を加水分解する工程を含む、セルロース及び/又はヘミセルロースの糖化方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法を用いた、セルロースからβ-D-グルコースを製造する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−110011(P2011−110011A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271812(P2009−271812)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 :第9回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集 発行日 :平成21年10月23日 発行者 :糸状菌分子生物学研究会 該当ページ:第3、及び22−24ページ 公開者 :宮崎 健太郎
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/酵素糖化・効率的発酵に資する基盤研究」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 :第9回糸状菌分子生物学コンファレンス要旨集 発行日 :平成21年10月23日 発行者 :糸状菌分子生物学研究会 該当ページ:第3、及び22−24ページ 公開者 :宮崎 健太郎
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー等高効率転換技術開発(先導技術開発)/酵素糖化・効率的発酵に資する基盤研究」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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