高濃度の低粘度懸濁液
本発明は、1又は2以上のタンパク質若しくはペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子を含有する、薬学的に許容される溶媒を用いた高濃度の低粘度懸濁液も提供する。任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための、前記薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物であって、送達時に前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解しておりペプチド凝集体を形成しないために、21〜27ゲージの針により注射可能な添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般にはタンパク質の保管及び送達の分野、より詳細には、新規の組成物及び高濃度のタンパク質懸濁液及びその前駆物質を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定するものではないが、その背景を、タンパク質の濃度に関して説明する。患者の幅を拡げ、より良い治療をするための手段として、タンパク質及び他のポリペプチドを治療薬として使用することが近年増えているが、その理由は、タンパク質及び他のポリペプチドは、体内で天然に見出されない他のクラスの薬物より、毒性が低く、インビボでより予想通りの挙動をすると考えられるからである。タンパク質治療薬の送達は、主に、必要とされる高用量(100〜1000mg)を送達するための大量の静脈内注射剤を希釈すること、及び、高濃度でのタンパク質の物理的及び化学的な不安定性を回避することに制限されている。潜在的に比較的侵襲性の低い投与方法は、皮下注射である。注射体積は1.5mlまでに制限されることから、タンパク質治療薬の濃度は実質的に100mg/mlを超えることが多い。ポリペプチドの安定性に加え、別の主要な懸念は、溶液濃度が100〜400mg/mlを超える場合には、タンパク質相互作用により、粘度が劇的に高まることである。主な相互作用が静電気によるタンパク質間の引力相互作用である場合、こうした粘度の上昇は、塩化ナトリウムを加えて溶液のイオン強度を高めることにより、又、溶液の緩衝種及びpHを変えることにより回避できる。このような高濃度では、変性を防止するために添加剤の濃度を高くすることが必要な場合が多い。代替的アプローチは、非水性溶媒中の不溶性タンパク質懸濁液を形成することであると考えられる。高濃度の懸濁液の粘度は、溶液の場合よりはるかに低く、タンパク質を安定化させるために必要な添加剤レベルはより低いと考えられる。しかし、高濃度の懸濁液をうまく送達するには、正確で均一な用量を投与するために粒径及び懸濁液の均一性を制御しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
今日まで、医薬目的での非水性媒体中のタンパク質懸濁液の例は比較的少ない。乳牛の乳生産量を増加させるために市販されている高粘度のウシのソマトトロピン懸濁液、及び、ウシの脳下垂体からソマトトロピンを放出するために使用されるウシの成長ホルモン放出因子アナログは、それぞれ、ゴマ油及びミグリオール油中で製剤化される。こうした粘性のある懸濁液を注射するためには大きな14〜16ゲージの針が必要であるが、ヒトにとって好ましい針のサイズは25ゲージ〜27ゲージである。加えて、ペプチドインスリン、並びに、プロテインC及び独占所有権のあるモノクローナル抗体などの非常に安定なタンパク質については、安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールなどの賦形剤の存在下で粘度向上剤及びゲル形成ポリマーを活用して、徐放剤としていくつかの非水性注射剤が製剤化されている。しかし、これらの製剤は、大きな21ゲージ針を用いてしか注射できず、これは相当な注射時の痛みを引き起こすことからノンコンプライアンスの原因となり、高レベルの添加剤により、製剤中のタンパク質の全体濃度は低下する。別の選択肢は、タンパク質又はモノクローナル抗体を結晶化させて水性の結晶懸濁液を形成することである。このアプローチは、3つのモノクローナル抗体及びインスリンについて示されている。しかし、高分子量のタンパク質の結晶化は、セグメント柔軟性の度合いが高いことから非常に困難である可能性があり、はるかに低度の柔軟性を有する小ペプチドの方が実現可能性が高い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子を形成すること、該1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子に1又は2以上の添加物を任意選択により加えること、及び、該1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子を薬学的に許容される溶媒に懸濁させて、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌時に懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成することにより、高濃度の低粘度タンパク質懸濁液又は低粘度ペプチド懸濁液を作製する方法であって、送達時に、該1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみで、21〜27ゲージの針により注射可能である、方法を提供する。薬学的に許容される溶媒は、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せであってもよい。
【0005】
加えて、1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、投与容器中で形成され、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器である該投与容器から直接送達することができる。1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、粉砕、沈殿、透析、篩過、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥、液体中への噴霧凍結、薄膜凍結、又は投与容器中での直接凍結により作製できる。1又は2以上の添加物は、1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部であっても良い。
【0006】
本発明は、薬学的に許容される溶媒中に、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子を有する高濃度の低粘度懸濁液も提供する。任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌時に懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物であって、21〜27ゲージの針により注射可能な、送達時に1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみである、添加物。薬学的に許容される溶媒は、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せであってもよい。加えて、1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、投与容器中で形成され、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器である該投与容器から直接送達することができる。1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、粉砕、沈殿、透析、篩過、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥、液体中への噴霧凍結、薄膜凍結、又は投与容器中での直接凍結により作製できる。1又は2以上の添加物は、1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部であっても良い。
【0007】
本発明は、単回用量容器に入った単回用量の高濃度の低粘度懸濁液を提供する。単回用量容器には、該単回用量容器中に配置された、水性溶媒、非水性溶媒又はその組合せから選択される薬学的に許容される溶媒と、該単回用量容器中に配置された、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子とが含まれる。加えて、単回用量容器中に1又は2以上の添加物を任意選択により配置して、少なくとも20mg/mlの濃度と、21〜27ゲージの針により注射可能な2〜100センチポアズの溶液粘性とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の特徴及び利点のより完全な理解のために、次に、添付の図面と併せて本発明の詳細な説明について述べる。
【図1A−C】本発明の一実施形態のプロセスにより作製される粒子のSEM画像である。
【図2A−2E】遠心分離(3000rpmで20分)の前(図2A及びB)及び後(図2C〜E)の懸濁液の画像である。左から右へ、1.5M硫酸アンモニウム(a及びc)、30%PEG300(b及びd)、35%NMP(e)、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中。
【図3】3000gでの20分の遠心分離後のPEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、30%PEG300、40%PEG300及び50%PEG300、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中。
【図4】多様なpHでの水性懸濁液の見かけの粘度を示すグラフである。全て、50%PEG300を含み、NaClを加えて154mMイオン強度としてある。
【図5】3000gでの20分の遠心分離後の50%PEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、pH4.7酢酸緩衝液、pH5.5酢酸緩衝液及びpH7.4酢酸緩衝液。
【図6】NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中にPEG300及び有機添加物を含む水性懸濁液の見かけの粘度を示すグラフである。
【図7A−7B】150mMのpH4.7酢酸緩衝液中の多様な比率での粉砕BSA+トレハロースの見かけの粘度を、a)25%PEG300及び20%エタノール、及びb)35%PEG300及び15%NMPにおける純粋な粉砕粒子の[η]を用いてKrieger-Dougherty式から計算した場合の理論粘度と併せて示すグラフである。
【図8A−8E】多様なIgG凍結粉末のSEM画像である。
【図9】350nmで測定した場合のIgGの可溶性を低下させるために総量が溶媒の50体積%の多様な添加物を用いたIgGの光学密度を示すグラフである。右側には、添加物を加えていないpH6.4の20mMヒスチジン緩衝液中の5mg/ml濃度のIgGの吸光度を示してある。
【図10A−10D】多様なIgG懸濁液の画像である。
【図11A−11E】多様なIgG懸濁液の顕微鏡画像である。
【図12】アセトニトリル及びエタノール中の元の粉砕粒子について、並びに、2カ月の保管後、純粋な安息香酸ベンジル中、及び、安息香酸ベンジルと油との混合物中(両方とも、エタノール中で希釈して光散乱法により遮蔽率10〜15%にした直後に測定した)の懸濁液について測定した、粒子の体積(%)対サイズを示すグラフである。
【図13A−13C】50/50の安息香酸ベンジル/ベニバナ油中の300mg/mLリゾチーム懸濁液の写真である。
【図14】室温で、さまざまな濃度での、安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶液の粘度を示すグラフである。
【図15】非水性溶媒中の懸濁液としての粒子の濃度と水性のリゾチーム溶液の理論粘度との関数としての見かけの粘度を示すグラフである。
【図16】懸濁液のカールフィッシャー含水量分析を示すグラフである。
【図17】製剤化直後に撮影した懸濁液の画像である。
【図18】バイアル内のリゾチーム溶液(10mg/ml)の凍結温度プロファイルを示すグラフである。
【図19A−19D】表2に記載の条件でバイアル内での膜凍結により作製したタンパク質粒子の体積サイズ分布を示すグラフである。
【図20】バイアル内での膜凍結により4mlのリゾチーム水溶液(20mg/ml)が凍結したことを示す写真である。
【図21】バイアル内での膜凍結により2mlのヘモグロビン水溶液(150mg/ml)が凍結したことを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多様な実施形態の作製及び使用を以下に詳細に論ずるが、本発明は、多種多様な特定の状況で具体化できる多くの応用可能な発明概念を提供するものであることが理解されるべきである。本明細書中で論ずる特定の実施形態は、単に本発明を作製及び使用するための特定の方式を例証するものにすぎず、本発明の範囲を定めるものではない。
【0010】
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書において定義する用語は、本発明に関連する分野の当業者により通常理解される意味を有する。「a」、「an」及び「the」などの用語は、単数形の実体のみを指すことを意図したものではなく、例証のために具体例が使用されうるその全体的な群を包含する。本明細書中では、本発明の特定の実施形態を説明するために専門用語を使用するが、特許請求の範囲内で概要が述べられている場合を除き、それらの使用により本発明の範囲が定められるものではない。
【0011】
本明細書中で使用する場合、用語「高タンパク質濃度」は、タンパク質濃度が100mg/mlを超える液体、ゲル、ヒドロゲル又はゲル様組成物を指す。
【0012】
本明細書中で使用する場合、用語「非凝集性の(non-aggregating)」又は「凝集しない(not aggregating)」又は「凝集していない(not aggregated)」は、高タンパク質濃度(例えば、100mg/mlを超えるタンパク質濃度)の形態で提供されているにも関わらず懸濁液のままであるタンパク質粒子を指す。
【0013】
本明細書中で使用する場合、用語「注射可能な」は、対象に送達するための、流動可能であるために十分に流動性である最終組成物を指す。例えば、「注射可能な」組成物は、注射器に入れて、過度の力をかけずに注射器から対象に注射するのに十分低い粘度を有する。
【0014】
本明細書中で使用する場合、用語「非沈殿性の」又は「再分散可能な」は、例えば、1時間、2時間、1日、3日、5日、1週間、1カ月、3カ月、6カ月、1年又はそれを超える長期間の後に溶液相のままである(すなわち、沈殿しない)組成物を指す。例えば、組成物が「再分散可能」であるとは、再分散させた際、当該組成物は、薬物の再現可能な投与を妨げるほど急速には凝集しないことである。
【0015】
本明細書中で使用する場合、用語「タンパク質(複数可)」、「ポリペプチド(複数可)」及び「ペプチド(複数可)」は、連結するアミノ酸から形成されて多様な長さの鎖になっているポリマー組成物を指す。
【0016】
本明細書中で使用する場合、用語「添加物(複数可)」は、塩、糖、有機化合物、緩衝液、ポリマー、及び、以下を包含する他の組成物を指す:エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、グルコヘプトン酸ナトリウム、アセチルトリプトファンナトリウム、炭酸水素ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、過テクネチウム酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、クエン酸アンモニウム、塩化カルシウム、カルシウム、塩化カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酸化亜鉛、亜鉛、塩化第一スズ、硫酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、DL−乳酸/グリコール酸、アスパラギン、L−アルギニン、塩酸アルギニン、アデニン、ヒスチジン、グリシン、グルタミン、グルタチオン、イミダゾール、プロタミン、硫酸プロタミン、リン酸、トリ−n−ブチルホスフェート、アスコルビン酸、塩酸システイン、塩酸、クエン酸水素、クエン酸三ナトリウム、塩酸グアニジン、マンニトール、ラクトース、スクロース、アガロース、ソルビトール、マルトース、トレハロース、界面活性剤、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188、モノオレイン酸ソルビタン、トリトンn101、m−クレゾール、ベニル(benyl)アルコール、エタノールアミン、グリセリン、ホスホリルエタノールアミン、トロメタミン、2−フェニルオキシエタノール、クロロブタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレングリコール、ポリオキシル35ヒマシ油、ヒドロキシ安息香酸メチル、トロメタミン、トウモロコシ油−モノ−ジ−トリグリセリド、ポロキシル(poloxyl)40水素化ヒマシ油、トコフェロール、n−アセチルトリプトファン、オクタフルオロプロパン、ヒマシ油、ポリオキシエチル化オレイン酸のグリセリド、ポリオキシテチル化(polyoxytethylated)ヒマシ油、フェノール(消毒薬)、グリクリグリシン(glyclyglycine)、チメロサール(消毒薬、抗真菌薬)、パラベン(防腐剤)、ゼラチン、ホルムアルデヒド、ダルベッコ変法イーグル培地、ヒドロコルチゾン、ネオマイシン、フォンウィルブランド因子、グルテルアルデヒド、塩化ベンゼトニウム、白色ワセリン、p−アミノフェイル(aminopheyl)−p−アニセート、グルタミン酸一ナトリウム、β−プロピオラクトン、酢酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、グリシン酸塩、ヒスチジン、乳酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トリス、カルボマー1342(アクリル酸と長鎖メタクリル酸アルキルとのコポリマーで、ペンタエリトリトールのアリルエーテルで架橋されている)、グルコーススターポリマー、シリコーンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ乳酸、デキストラン40、ポロキサマー(酸化エチレンと酸化プロピレンとのトリブロックコポリマー)、
【0017】
非水性溶媒中の高濃度のタンパク質懸濁液の場合、Krieger-Dougherty式を用いて、溶液の粘度η0に対する懸濁液の相対粘度ηを粒子の体積分率φと相関させることができる(式1)。
【0018】
【数1】
【0019】
固有粘度[η]がアインシュタイン値の2.5に近付くと、排除体積の相互作用のみを有する非相互作用性の球状粒子であると推測される。しかし、粒子が溶媒和して球形状から逸脱し、一次、二次及び三次的な電気粘性効果をもたらす静電相互作用が生じると、[η]は増加する。これまでに実証された非水性のタンパク質懸濁液の場合、およそ2.5の[η]からは、溶媒和、形状、及びリゾチーム粉砕粒子の粘度に対して電気粘性効果が及んでいないことが示唆された。しかし、非水性溶媒は、時に、注射時の痛み、並びに、粒子の放出の遅延及び低速化の原因となることがある。したがって、高濃度で分子的に安定なタンパク質粒子の水ベースの懸濁液は、非水性懸濁液の魅力的な代替品であると考えられる。
【0020】
治療用タンパク質は、例えばモデルタンパク質BSAでは、100mg/mlの範囲の水性媒体中で高い可溶性を有するように設計されうる。したがって、ミクロンサイズの粒子の懸濁液を形成するためには、可溶性を顕著に低下させなければならない場合が多い。水中でのタンパク質の可溶性を低下させることができる沈殿剤は、3つのカテゴリー、すなわち、塩、ポリマー及び水溶性有機化合物に分けることができる。塩は、水和の水を得るための競合、並びに、タンパク質分子との間でより強い相互作用を生じさせるイオン結合により、タンパク質の可溶性を低下させることができる。塩は、さらに、二重層の厚さを減少させることにより静電反発力も低下させる。しかし、注射時の痛みを防止するため、血液の張度である154mM前後の全体イオン強度が典型的には推奨される。タンパク質表面から優先的に排除されるポリマー(最も一般的にはポリエチレングリコール(PEG,polyethylene glycol)は、沈殿の原因となる枯渇引力を生じさせる。PEGは、タンパク質の熱安定性を高めることも知られている。さらに、PEGは、皮下注射剤用の許容される添加剤である。エタノール及びn−メチル−2−ピロリドン(NMP、n-methyl-2-pyrrolidone)などの水溶性の有機添加物は、誘電率を低下させることにより、又、こうした有機添加物がタンパク質表面から排除される結果生じる排除体積効果により、タンパク質可溶性を低下させる。
【0021】
この試験の目的は、モデルタンパク質のウシ血清アルブミン(BSA、bovine serum albumin)の、皮下送達に適したサブミクロン〜ミクロンサイズの粒子の低粘度(50cP未満)、高濃度(100〜350mg/ml)の水性懸濁液を形成することであった。タンパク質の可溶性を低下させることが知られている沈殿剤は、硫酸アンモニウム(代表的な塩)、PEG300(低分子量のポリマー)、及びエタノール及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の組合せを含んでいた。2つの重要な因子、すなわち、タンパク質を含まない溶液の最初の粘度及びタンパク質存在下での固有粘度は、所与の体積分率でのタンパク質懸濁液の粘度に影響する。37μm未満のBSA粉砕粒子をさまざまな水ベースの溶媒に懸濁させて、これらの競合効果を特徴付けた。多くのケースでは、添加物の濃度は、薬学的に許容される限度内であった。多様な粒子濃度の懸濁液の見かけの粘度をKrieger-Dougherty式と相関させて、固有粘度を決定した。この固有粘度を用いて、電気粘性相互作用及び溶媒和相互作用を含め粒子間の相互作用を特徴付けた。薬学的に関連する添加物を含むさまざまな低粘度、高濃度(最大350mg/ml)の水ベースの懸濁液を粉砕BSA粒子について報告する。モデルタンパク質BSAの懸濁液の粘度及び形態の試験から得られた知見は、IgGなどの治療用タンパク質の懸濁液の設計にとって有用であろう。
【0022】
受け入れたBSA粉末又はトレハロース粉末を、磁器製の乳鉢及び乳棒で別々に数分間乾燥粉砕した。次に、この粉砕粉末を、400番メッシュを通して篩過し、37μm未満の粒子を回収した。次に、混合粉砕されるBSA粒子とトレハロース粒子については、必要な比率のBSA対トレハロースを乳鉢及び乳棒で混合し、正確な粒子比率を維持しつつも37μm未満の粒径を保持するために、400番メッシュを通して再度篩過した。既知重量の粉末を、NMP、PEG300及び/又はエタノール、及び塩化ナトリウム又は硫酸アンモニウムの塩からなる水溶液に懸濁させた。pHは、酢酸(pH4.7及び5.5)緩衝液又はリン酸(pH7.4)緩衝液を用いた4.7、5.5又は7.4として選んだ。次に、各バイアルを手で振盪させて、粉末を懸濁液全体に均等に分散させた。必要に応じて、針の先端を用いたさらなる混合を用いて、均一性を確実にした。
【0023】
BSAは、pH4.7の150mM酢酸緩衝液中で5mg/mlにて容易に溶解した。タンパク質が沈殿する程度を決定する目的で、一定分量の5mg/mlのBSA溶液を、添加物を含有する等体積の第2の水溶液と混合した(PEG300、NMP又はその2つの組合せのいずれか)。タンパク質の沈殿を、高度に混濁(HT、highly turbid)、低度に混濁(LT、lowly turbid、わずかに混濁)又は濁度の変化なし(N、no change in turbidity)として分類した。溶液は全て、pH4.7の150mM酢酸緩衝液中で製剤化した。
【0024】
IgG懸濁液の見かけの粘度を、1mlのツベルクリンスリップチップ注射器に取り付けた25ゲージの1.5”針中に0.25mLの懸濁液を引き込む時間として測定した。典型的な時間は、5〜100秒の範囲であった。毎回、プランジャーの末端を1mlの印のところで保持することにより吸引力を維持しながら、各測定を少なくとも3回行って平均した。既知の粘度の液体(PEG200、PEG300、PEG400、水、エタノール、オリーブ油及び安息香酸ベンジル)の測定から、粘度と1mL(測定量の4倍)を引き込む時間とについての線形相関曲線を作製した。この相関は、ハーゲン−ポアズイユ式から推定した場合r2値が0.999超となり、過去に報告されていた。大部分のケースでは、粘度の再現性は5%以内であった。本発明者らの実験では、注射器中の空洞の25%の最大体積に、取込み用の懸濁液を充填した。結果的に、圧力低下は比較的一定であった。圧力低下のわずかな変化により生じる誤差は、各回とも同じプランジャー位置を用いることにより、又、データを既知の粘度の液体と相関させることにより、最小限に抑えた。
【0025】
懸濁液の粘度測定に次ぎ、Eppendorf Centrifuge(型式5810、Wesbury社製、NY)用の2ml遠心管アダプターを備えた回転バケット式の遠心分離ローター(パートA-4-62)を使用して、タンパク質懸濁液を3000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離した試料の写真を撮影し、針及び注射器を用いて試料を慎重にデカントすることにより上清を分離した。次に、残ったタンパク質粒子を、穏やかな浴槽超音波処理下で5分間、約15mlのアセトニトリル中に再分散させた。アセトニトリル中でのBSAの溶解量は無視できる規模であった。再分散後、次に、超音波処理した分散液の液滴について、タンパク質の粒径を測定した。この分散液を、小体積(11ml)の磁気撹拌したセルにおけるアセトニトリル中で遮蔽率およそ10%に希釈し、Malvern Instruments Mastersizer Sを用いた光散乱法により粒径を分析した。
【0026】
粒径測定の項で記載した遠心分離の後、次いで、回収した上清を、0.22μmのフィルターを通して濾過し、回収した。次に、濾過した試料をpH4.7の150mM酢酸緩衝液中で総体積0.7mlに希釈した。次に、各試料の3つの200μlアリコートを紫外線透過性の96ウェルプレート上に置き、分光光度計を用いて280nmで画像化した。同じ緩衝液中の3mg/ml、2mg/ml、1mg/ml、0.5mg/ml及び0mg/mlのBSA濃度対280nmでの吸光度の検量線から、0.99超のr2値が得られた。較正曲線を用いて、各試料について可溶濃度値を回帰させた。必要に応じて、その後試料を希釈し、濃度が0.5〜3mg/mlの範囲内になるまで再測定した。
【0027】
水性懸濁液の液滴を、液体窒素を用いて−200℃で維持した凍結アルミニウムのSEMステージ上に瞬間凍結させた。凍結した小滴は、VirTis Advantage Plus XL-70棚型凍結乾燥機を用いて、−40℃での一次乾燥を12時間、次いで、6時間かけて25℃に徐々に上げてから、25℃で少なくとも6時間二次乾燥させて、凍結乾燥させた。凍結乾燥により、SEMステージ上で乾燥粉末試料が作製された。粉砕粒子の乾燥粉末試料を粘着性のカーボンテープ上に置いた。次に、Cressington 208卓上スパッタコーティング装置を用いて、各試料を15nmの厚さに金−パラジウムスパッタコーティングした。次に、加速電圧5kVでZeiss Supra 40VP走査型電子顕微鏡を用いて、顕微鏡写真を撮影した。
【0028】
多様な添加物を加えて、水性緩衝液中でのタンパク質の可溶性を低下させることができる。表1に示す可溶性の濁度試験から、BSAは、純粋なPEG及びNMP又はその混合物いずれを用いた場合も、5mg/mlの低タンパク質濃度であっても沈殿することが示唆される。表2からは、低濁度の懸濁液(LT)が30%で形成されることから、PEGはNMPより強力な抗溶媒剤であることが示唆される。さらに、この2つの抗溶媒剤の混合物は、タンパク質の沈殿に対する相乗効果をもたらすことができる。例えば、20−20%混合物は高い濁度をもたらすのに対し、40%NMPは、濁度を変化させない。最後に、所与の総重量(%)の抗溶媒剤の場合は、PEGの相対的な画分の増加に従い濁度は上昇する。これらの実験から、希薄な5mg/mlのタンパク質濃度であっても、これらの抗溶媒剤により可溶性の限度をはるかに超えることが示唆される。したがって、全体のタンパク質濃度が、注射可能な懸濁液の典型的な濃度の約200mg/mlである場合は、これらの添加物を用いるとごくわずかなタンパク質が溶解するのみであるはずである。
【0029】
図1A〜Cは、本発明の一実施形態のプロセスにより作製された粒子のSEM画像である。図1Aは、元の粉砕粒子のSEM画像である。図1Bは、瞬間凍結及び凍結乾燥させた、200mg/mlの30%PEG300懸濁液のSEM画像である。図1Cは、瞬間凍結及び凍結乾燥させた、350mg/mlの25%PEG300+20%エタノール懸濁液のSEM画像である。
【0030】
元の粉砕粒子の形態を図1Aに示す。平均粒径は20μmであった。このサイズは、内径が241μm未満の25〜27ゲージの針を通過するのに十分小さいように選んだ。最終懸濁液の液滴を凍結及び凍結乾燥させてから、図1B及びCに示す、選んだ2つの沈殿剤について、SEMを利用して懸濁液中の粒径を決定した。粒径は、元の粉砕粒子のサイズよりわずかに大きいのみであり、このことから、粒子凝集又はオストワルド熟成からほとんど成長していないことが示唆された。加えて、図1Cは、より小さい1μm未満の粒子の量がわずかに増加していることを示すものである。これらの結果から、粒径は懸濁液中で本質的に維持できたこと、又、タンパク質の溶解は最小限であったことが示唆される。
【0031】
この項の目的は、タンパク質沈殿の機序を説明し、各クラスの沈殿剤の粘度についての結果の簡単な概要を示すことである。水性媒体中のBSA懸濁液を形成するために、BSA画分の顕著な溶解を防止する媒体を設計しなければならない。pH4.5の純粋な水性緩衝液中のBSAの可溶度は100mg/mlを超える。多様な添加物を水性緩衝媒体に導入して、塩、ポリマー及び水溶性有機化合物などの可溶性を低下させた。
【0032】
表1は、PEGとNMPとの混合物中のBSAの5mg/mlでの沈殿を示す表である。(Nは、添加物を含まない場合に対して濁度が変わらない透明な溶液を示し、LTは低濁度を示し、HTは高レベルの濁度を示す)
【0033】
【表1】
【0034】
可溶性が低下する機序を、各種の沈殿剤について表2に示す。表1でわかるように、3つの多様な添加物群全てについて、200mg/mlの不透明で白色の高濃度の懸濁液の形成が可能であった。表2は、タンパク質の可溶性を低下させる異なる添加物の比較であり、可溶性の低下の機序と、各添加物を加えた150mMのpH4.7酢酸緩衝液中にて200mg/mlで測定した懸濁液の粘度とを示してある。
【0035】
【表2】
【0036】
25gの1.5”針で測定した粘度の選択結果のまとめは、以下により詳細に記載するが、表2にも示してある。1.5Mの(NH4)2SO4では、極度に低い粘度3cPが得られた。この値は、他のPEG+NMPの抗溶媒剤の場合も相当低かった。これらの例の3つは全て、容易に注射可能とみなされるであろう限度内に十分収まっているが、その理由は、26g針から1mlを排出するのに20秒かからないと考えられるからである。これらの結果を、粒子及び懸濁液の形態に関して、及び、はるかに広範な条件について、以下にさらにより詳細に検討する。
【0037】
図2A〜2Eは、遠心分離(3000rpmで20分)の前(図2A及びB)並びに後(図2C〜E)の懸濁液の画像であり、左から右へ、1.5M硫酸アンモニウム(a及びc)、30%PEG300(b及びd)、35%NMP(e)、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中のものである。図2に示すように、可溶性を低下させる多様な添加物は、異なる量の大きな懸濁粒子を生じさせた。懸濁粒子の相対量は、最初の懸濁液の濁度から定性的に明らかである。図2B及び2Eに示すように、30%PEG300+35%NMPについては不透明な白色の懸濁液が形成され、このことから、溶解したタンパク質と比較して懸濁粒子が大量であることが示唆された。この観察は、3000rpmでの20分の遠心分離後の沈殿剤の体積分率により、より定量的に確認され、このことから、非常にわずかなタンパク質しか溶解しなかったことが示唆される。この力は、約400nmを超える全ての粒子を沈降させるのに十分である。これらの結果は、図1Cに示す極低温SEMによる懸濁液中のミクロンサイズのタンパク質粒子の直接観察を支持する。添加物としての1.5M硫酸アンモニウム塩の場合、元の懸濁液は半透明にすぎず、このことから、沈殿の度合いははるかに低いことが示唆された。遠心分離の後、少量の沈殿物のみが存在し(図2A及びC)、元の懸濁液における濁度は相対的に低いという観察と一致した。最初の懸濁液の濁度及び遠心分離後の沈殿剤の体積分率により特徴付けられた通り、沈殿の度合いは、懸濁液の粘性挙動を理解するための重要な因子であろう。
【0038】
表2に示すように、30%PEG300を含む水性懸濁液は、200mg/mlのBSAでは18cPの見かけの粘度を示す。この低粘度は、溶液中の溶解したタンパク質と比較したタンパク質粒子の存在に関して調べてもよい。これまでに実証されているように、30%PEG300を添加すると、BSAの可溶性は、25%ではおよそ6mg/mlから1mg/mlに低下する。こうした可溶性の大きな低下は、表1において、タンパク質濃度5mg/mlでは、沈殿剤である25%〜30%(体積比)のPEG300のレベルについて濁度が増すことにより検証された。
【0039】
30〜50体積%のPEG300のレベルについて、純粋な粉砕BSA粒子の懸濁液を形成した。2つの重要な因子、すなわち、タンパク質を含まない溶液の最初の粘度及びタンパク質存在下での固有粘度は、タンパク質の所与の体積分率での懸濁液の粘度に影響する。表3は、懸濁液の固有粘度データを、電気粘性及び水和の効果と比較するために示すものであり、試料は全て、150mMイオン強度のpH4.7酢酸緩衝液である(別途指示しない限り)。固有粘度の測定については、φ最大を0.64であると仮定した。(NMP:N−メチル−2−ピロリドン、ND:測定せず)。静的光散乱法により決定した平均粒径は20μmであった。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示すように、溶液粘度(タンパク質を含まない)は、30%PEG300溶液の2.6から50%PEG300溶液では6.6に上昇する。しかし、同時に、固有粘度は11.4から7.9に低下した。結果的に、全体的な懸濁液の粘度は約10%低下し、実験の不確定値の2倍であった。興味深いことに、固有粘度は溶媒粘度(タンパク質を含まない)が上昇した分を補うだけ十分には低下しなかったため、粘度は40%PEGの方が30%の場合より高かった。したがって、沈殿剤の量を最適化して、その量が、タンパク質を含まない溶液の最初の粘度に及ぼす効果とタンパク質懸濁液の固有粘度に及ぼす効果とを釣り合わせてもよい。
【0042】
図3は、3000gでの20分の遠心分離後のPEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、30%PEG300、40%PEG300及び50%PEG300、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中。3000gでの20分の遠心分離後は、PEGベースの懸濁液の3つ全てが高度の大きな沈降粒子を呈した(図3)。しかし、30%PEG300懸濁液の場合は、上清はわずかに混濁したように見え、このことから、懸濁した小さいナノ粒子の存在が示唆される。したがって、可溶濃度は、このケースについては測定しなかった。40%及び50%のPEG300懸濁液の場合の可溶濃度は2.0〜2.1mg/mlであり、このことから、200mg/mlでは粒子の99%が懸濁したことが示唆された(表3)。40%及び50%のPEG300懸濁液の平均粒径は、表3に示すように、いずれも粉砕粒子の元の20μmの値前後であった。しかし、30%PEG300懸濁液では、平均粒径は約10μmに低下し、上清の濁度に基づく可溶性の上昇と一致する。このようなサイズの低下は、図1に示すSEMによる観察と一致する。表面積が増加したこうしたより小さい粒子及び溶解したタンパク質が、表3に示す固有粘度の上昇の一因となった。
【0043】
30%PEG300製剤について、より高いイオン強度でさらなる見かけの懸濁液粘度を測定し、これを表4に示す。溶液のイオン強度が増すのに従い、粘度は56から19に低下した。イオン強度の上昇及びデバイ長の減少に伴う電気粘性効果の低下は、固有粘度の、ひいては懸濁液粘度の低下に、顕著に寄与する。
【0044】
【表4】
【0045】
タンパク質の電荷と可溶性とを変化させるために、酢酸イオンを緩衝液として維持しながら、BSAのpI(4.7)からpH5.5に溶液pHを高めた。加えて、pHを7.4に高めるには、酢酸緩衝液イオンではなくリン酸緩衝液イオンを使用した。タンパク質の可溶性は、pHがpIから離れるに従い上昇するので、BSAの低可溶性を確実にするために、50%PEG300添加物を媒体中に含ませた。
【0046】
図4は、多様なpHでの水性懸濁液の見かけの粘度のグラフであり、全て、50%PEG300を含み、NaClを加えて154mMイオン強度としてある。図4に示すように、緩衝液のイオンもpHも、いずれの濃度においても見かけの懸濁液粘度をあまり変化させなかった。50%PEG300については、pHを変化させた場合の溶液粘度はごくわずかに6.0から6.6に変化した。全ての濃度の全てのケースについて見かけの粘度は類似していたので、計算した固有粘度は、pHが上昇した場合に7.9から9.0にわずかに上昇しただけであった。図4の理論上の曲線は、Krieger-Dougherty式を用いて固有粘度(表3)を回帰させることにより決定した。
【0047】
図5は、3000gでの20分の遠心分離後の50%PEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、pH4.7酢酸緩衝液、pH5.5酢酸緩衝液及びpH7.4酢酸緩衝液。図5に示すように、遠心分離後のpH5.5及びpH7.4の試料については、いずれも上清は依然として混濁している。結果として、可溶濃度は決定できず、平均粒径はpH5.5の試料についてしか決定できなかった。pH5.5での平均粒径は、pH4.7での平均粒径と非常に類似しているが、上清の濁度の上昇から、pH4.7の試料中には存在しなかった何らかの追加的なより小さいナノ粒子の存在が示唆される。
【0048】
図6は、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中にPEG300及び有機添加物を含む水性懸濁液の見かけの粘度のグラフである。図6に示すように、10〜20%の有機添加物を少なくとも25%のPEG300に添加すると、300mg/ml超の極度に高いBSA濃度の場合であっても、懸濁液の見かけの粘度は50cP未満のままであった。さらに、表3に示すように、これらのPEG300+有機懸濁液は全て、BSA濃度250mg/mlでは見かけの粘度が14〜22cPの範囲に低下する。この粘度範囲は、先に述べた、これより高いイオン強度の試料(300mM及び500mM)の場合とほぼ同じである(表4)。これらのPEG300−有機化合物試料は、この試験において測定した中で最も低い固有粘度値(5.8〜6.5)を示した(表3)。10〜20%のNMPを加えた3つの試料は全て、元の20μmの粉砕粒子に非常に近い粒径を示した。加えて、3つのNMP試料全てについての可溶濃度は2.3〜2.9mg/mlであり、このことから、300mg/mlレベルでは、添加したBSAの99%超が懸濁したことが示唆された(表3)。20%エタノールを添加した試料の溶液粘度が最も低く、懸濁液粘度は250mg/mlで最も低い14cPであった(表3)。わずかに高い可溶濃度4.8mg/mlから、添加したBSAの98%超が懸濁したことが示唆された。しかし、懸濁率(%)のこうしたわずかな低下は、平均粒径を7.4μmに減少させるには十分であった。画像化したSEMにおいて、粒径のわずかな低下を見ることができた。
【0049】
前述の試料は全て、モデルタンパク質BSAを粉砕したものを含有しており、分子レベルでの治療用タンパク質のモノマー凝集に対する安定化を助けることができる糖分散保護剤は含有していなかった。BSAはかなり安定なタンパク質であることから、この試験において分子の安定性は考慮しなかった。しかし、粉砕により、多くの治療用タンパク質に不安定性が生じる恐れがある。{Maa}他方、タンパク質粒子を凍結及び凍結乾燥させると、サブミクロンサイズの場合であっても分子的に安定なタンパク質粒子が作製されることが示されている。非常に一般的な分散保護剤は、トレハロースである。
【0050】
図7A及び7Bは、150mMのpH4.7酢酸緩衝液中の多様な比率での粉砕BSA/トレハロースの見かけの粘度を、a)25%PEG300+20%エタノール、及びb)35%PEG300+15%NMPにおける純粋な粉砕粒子の[η]を用いてKrieger-Dougherty式から計算した場合の理論粘度と併せて示すグラフである。図7は、1:0.1〜1:1(重量比)のBSA対トレハロース比率でのタンパク質及びBSA粒子のデータ画像を示すものである。全ての点で、トレハロース対BSAの比率が高い方が、25%PEG300+20%エタノール、又は、35%PEG300+15%NMPのいずれかの中で形成された懸濁液の粘度を単調に上昇させる。トレハロースは添加物を加えた水性溶媒中で可溶性であると考えられるものの、やはり、溶媒又は溶解していない粒子のいずれにも利用できない追加的な排除体積の一因となると考えられる。したがって、この排除体積は、所与の粘度を維持することが可能な最も高い粒子の含有量を低下させると考えられる。図7では、トレハロースを含まないそれぞれの懸濁液について同じ固有粘度を用い、最大体積画分を0.64と仮定して、理論上のラインを計算した。
【0051】
抗体治療薬は、現在、年間150億ドルの市場規模を構成し、抗癌性、抗感染性及び抗炎症性の疾患における需要に対処している。大きなタンパク質分子であることから、こうした治療薬は現在、送達するには直接注射(静脈内又は皮下)が必要である。必要な用量が非常に大量であり頻繁に投与されることから、このことは、薬物送達にとって大きな障害であり、小口径の注射器での皮下送達を実現するためには、高濃度(100mg/ml超)、低体積(1.5ml未満)、低粘度(100cP未満)のフォーマットで抗体を製剤化しなければならない。こうした仕様は伝統的な溶液製剤(トレハロースを含有するリン酸緩衝液中のもの)を用いて達成するのは非常に困難であったが、溶解を防止するために塩及び沈殿剤を含有する水性溶媒中の凍結乾燥抗体の懸濁液は、可能性のある選択肢である。本発明者らは、モデルタンパク質BSAを用いたこのアプローチの成功をこれまでに実証しており、ここでは、この技術のポリクローナル抗体への拡張を示す。ここで、本発明者らは、免疫グルブリン(immunoglublin)を最大200mg/mlの濃度で、低粘度で凝集のない水性懸濁液(モノマータンパク質比率96%)として調製することができるという証拠を初めて示す。
【0052】
ヒツジ血清から生成したIgG(製品番号I5131)をSigma-Aldrich, Inc.から購入した。α−αトレハロース、平均分子量300のポリエチレングリコール(PEG300)、硫酸アンモニウム、USPグレードのエタノール及びn−メチル2−ピロリドン(NMP)をFisherChemicalsから購入した。
【0053】
既知量のIgGを、α−αトレハロースを含有する適切な量の20mMのpH5.5ヒスチジン緩衝液に溶解させた後、予め冷却しておいた凍結乾燥機の棚上で−40℃にて試料をゆっくり凍結させた。次に、−40℃、100mTorrで12時間、次いで25℃に徐々に上昇させて50mTorrで6時間、試料を凍結乾燥させて、少なくともさらに6時間かけた25℃、50mTorrでの二次乾燥のために維持した。次に、1mgの粉末を計り分け、以下に記載のサイズ排除クロマトグラフィーによる安定性分析用に、200mMのpH7.0リン酸緩衝液中にて1mg/mlで再構成した。
【0054】
5mg/mlのIgG溶液のアリコートを、タンパク質可溶性の低下を目的とした添加物を含有する等体積の第2の水溶液と混合した。タンパク質の沈殿を、24時間後、波長350nmでの溶液の濁度上昇により特徴付けた。溶液は全て、PEG300及びNMPを添加したpH6.4の20mMヒスチジン緩衝液中で製剤化した。100μlアリコートの最終製剤の濁度を、紫外線透過性の96ウェルプレート上で分光光度計を用いて測定した。
【0055】
タンパク質を含まず、さまざまな体積%のNMP、PEG300及びエタノールを含有する水ベースの溶媒混合物と、多様なモル濃度の塩化ナトリウム又は硫酸アンモニウムの塩とを混合して、均一な透明溶液を形成した。これらの溶液を、ヒスチジン緩衝液又はリン酸緩衝液のいずれかをpH6.4(ヒツジIgGの等電点)で用いて、さまざまなイオン強度で緩衝化した。次に、タンパク質試料を、粉末重量が所望の重量の5%以内であるように0.1mlの円錐形のバイアル中に詰めた。粉末重量は、最終的なタンパク質濃度及び添加剤/タンパク質比率に応じて決定した。測定した量の調製済みの水ベースの溶媒混合物を円錐形のバイアルに加えて、総体積が0.1mlの懸濁液を形成した。この混合物を、針の先端部を用いて撹拌してエアポケットを除去し、十分な均一性を有する懸濁液を形成した。超音波処理は使用せず、その必要もなかった。次に、均一な懸濁液の液滴を顕微鏡のスライド上に置いて懸濁液を画像化し、10μlの懸濁液を200mMのpH7.0リン酸緩衝液中で1mg/mlに希釈して、以下に詳述するサイズ排除クロマトグラフィーにより、タンパク質のモノマーの割合を測定した。
【0056】
IgG懸濁液の見かけの粘度は、1mlツベルクリンスリップチップ注射器に取り付けられた25ゲージの1.5”針中に50μlの懸濁液を引き込む時間として測定した。タンパク質のコストを考慮して、試料体積を最小限に抑えるために円錐形状のバイアルを使用した。懸濁液を含有する円錐形のバイアルのビデオを撮影し、円錐の底からの高さ0.4”の位置から、円錐の底からの高さ0.1”の位置まで引き込む時間を、Image Jソフトウェアを用いて測定した。高さの不確定率は約1%であった。ビデオは、1秒当たり20画像を有する画像スタックに変換したので、0.05秒内まで時間を測定した。毎回、プランジャーの末端を1mlの印のところで保持することにより、各測定について一定の吸引力を維持しながら、各測定を少なくとも3回行って平均した。大部分のケースでは、粘度の再現性は10%であった。モデルタンパク質の懸濁液を用いた過去の研究から、注射器中で特定量の試料を吸い上げる時間は粘度と直線的に相関することが見出された。注射器中の空洞の最大体積10%に、取込み用の懸濁液を充填した。結果的に、圧力は本質的に一定であり、粘度は、ポアズイユ式から得ることができる。この場合、多様な粘度の標準溶液(純粋なDI水、エタノール、PEG200、PEG300、PEG400及び安息香酸ベンジル)を用いると、0.99超のr2値を有する、円錐形のバイアルから0.05mlを引き込む時間と粘度との間の線形相関が得られた。
【0057】
凍結乾燥後の乾燥粉末の走査型電子顕微鏡法(SEM、scanning electron microscopy)用試料を粘着性のカーボンテープ上に載せた。次に、Cressington 208卓上スパッタコーティング装置を用いて、各試料を15nmの厚さに金−パラジウムスパッタコーティングした。次に、加速電圧5kVでZeiss Supra 40VP走査型電子顕微鏡を用いて顕微鏡写真を撮影した。Nikon Optiphot2-Pol(Nikon Instruments Inc.社製、Melville、NY)顕微鏡に取り付けたMTI CCD72(Dage-MTI社製、Michigan City、IN)カメラを用いて、ガラスの顕微鏡スライド上で最終懸濁液の液滴の光学顕微鏡画像を撮影した。
【0058】
型式717プラスのオートサンプラー、2487二重波長検出装置及び1525バイナリーポンプを備えるWaters BreezeのHPLCシステム(Waters Corporation社製、Milford、MA)に取り付けたTosoh Biosciences G3000SWXLサイズ除去カラム、次いで、G2000SWXLサイズ除去カラムを用いることにより、最初の溶液のモノマー比率(%)、再構成した粉末及び最終的な希釈した懸濁液を分析した。200mMのpH7.0リン酸緩衝液中で約1mg/mlに再構成するか又は希釈した調製試料を、0.22μmのMillex-GVフィルターを通して濾過して、分析の前に大きな凝集体を除去した。移動相は、流速0.7ml/分、pH7.0の200mMリン酸緩衝液及び50mM塩化ナトリウムからなるものであった。検出波長は214nmであった。注射体積20μlの、約1mg/mlの調製試料を使用した。モノマーはおよそ21.5分で溶出し、この前の最後の数分にわたり、サイズに応じて、より高い分子量の凝集体が溶出した。
【0059】
図8A〜8Eは、多様なIgG凍結粉末のSEM画像である。図8Aは、1:1のIgG対トレハロース比率で凍結させた40mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Bは、1:0.5のIgG対トレハロース比率で凍結させた55mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Cは、1:0.5のIgG対トレハロース比率で凍結させた25mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Dは、トレハロースを含まない場合の40mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Eは、1:1のIgG対トレハロース比率での20mg/mlのIgGのSEM画像である。α−αトレハロースにより安定化させたIgGの大きなミクロンサイズの粒子を、20mMのpH5.5ヒスチジン緩衝液中で、20〜80mg/mlの多様な最初のIgG濃度で1:1、0.5:1、0.25:1又は0:1比率のトレハロース対IgGを用いた凍結乾燥により作製した。最終的な乾燥粉末のSEM顕微鏡写真は、トレハロースを含まない場合(図8Dも含めた)各トレハロース対IgG比率(図8A及び8B)について、より高い濃度(40〜80mg/ml)で凍結させた粒子では、相対的に少ない微粒子(約数百ナノメートル)を有する大きな10〜100μmの粒子を示す。大きな粒子は、それぞれ、より低い濃度(20mg/ml及び25mg/mlのIgG)、高比率のIgG対トレハロース(1:1及び1:0.5)で凍結させたタンパク質での目に見えるより小さいクモの巣様の形態とは対照的である(図8C及び8E)。凍結中、より高濃度のタンパク質はより大きく成長し、したがって最終的な粒子はより大きくなる。
【0060】
SECによる相対的な安定性を、pH7.0リン酸緩衝液中の乾燥粉末の再構成後のモノマーピークの面積比率(%)の、同じpH7.0リン酸緩衝液中で希釈した最初の粉末に対する差と定義した。この相対的な安定性は、少なくとも98.6%であり、それより高い場合が多かった。トレハロースを一切含めずに凍結させた40mg/mlのIgG粉末の場合であってもこの安定性は高く、このことから、この手法により測定されるのと同じ高い安定性を達成するには凍結保護剤は必要ないことが示唆された。しかし、この98.6という値は、表の中の、トレハロースを含めた他の例全ての値より低い。このことから、凍結保護剤は安定性を高めるには有益であると考えられるので、トレハオルス(trehaolse)を含めた。
【0061】
多様な添加物を含む5mg/mlのIgG溶液の沈殿。先に詳細に記載したように、IgGの可溶性を低下させるために多様な添加物を加えることができる。本発明者らは、IgG濃度が5mg/mlの場合の、高いモル濃度(1.5M)の硫酸アンモニウム溶液中での沈殿を観察することにより、このことを確認している(光学密度は測定していない)。
【0062】
図9は、350nmで測定した際の、IgGの可溶性を低下させるために総量が溶媒の50体積%の多様な添加物を用いた場合のIgGの光学密度のグラフである。右側には、添加物を加えていないpH6.4の20mMヒスチジン緩衝液中の5mg/ml濃度のIgGの吸光度を示してある。図9に示すように、濃度5mg/mlのIgGでは、350nmでの吸光度は、pH6.4での純粋なタンパク質溶液の場合の約0.05から、pH6.4の50体積%PEG300溶液の場合の約0.6に上昇する(図9)。pH6.4の50体積%NMP溶液中のこの濃度でのIgGの場合の方が、350nmでの吸光度が約0.2で、50%PEG300の場合より有意に低かった(図9)。PEG300+NMP全体で溶媒の50体積%の混合試料の350nmでの吸光度と、少なくとも25%のPEG300の吸光度とは類似していた。25%PEG300+25%NMPの混合溶液の場合は、NMPの比率(%)が約0.6から0.5に増すにつれ吸光度はわずかに低下した。しかし、PEGを一切含まない50%NMP溶液の場合は、はるかに低い吸光度約0.2が観察された。これらの実験から、低いタンパク質濃度5mg/mlであっても、タンパク質はこれらの添加物と共に沈殿することが示唆される。したがって、全体のタンパク質濃度が、注射可能な懸濁液用の典型的な濃度の約200mg/mlである場合は、これらの添加物によりごくわずかなタンパク質のみが溶解することになる。
【0063】
粒径の関数としての懸濁液形態。凍結乾燥粒子中でのトレハロース対タンパク質の比率に加えて、粒子のサイズ及び表面積により、懸濁液の形態及び粘度(注射可能性)は変化することになる。最適な粒径は、25ゲージ針から吸い込まれるのに十分小さいが水和及び電気粘性力が粘度に及ぼす有害な効果を最小化するのには十分大きい粒子を含有する。さらに、粒子の表面積の減少により、タンパク質の変性及び凝集が低下する場合がある。
【0064】
図10A〜10Dは、多様なIgG懸濁液の画像である。A)1.5Mの硫酸アンモニウム塩を加えた20mMのpH6.4ヒスチジン緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液。B)50%PEG300を含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液。C)35体積%PEG300+15体積%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液、24時間後。D)35体積%PEG300+15体積%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:1の20mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液。
【0065】
図10A及び図10Bでは、高濃度の懸濁液を、懸濁液の形成後最初に、2つの異なる添加物、IgG濃度200mg/mLの場合について示す。懸濁液は白色で不透明であった。経路長は、円錐の中間点でおよそ0.5cmであった。図4における光学顕微鏡法で、懸濁液の小滴中の粒子をさらに特徴付けた。ミクロンサイズの粒子は、数ミクロンから10ミクロンの範囲で存在し、図8におけるSEMの乾燥した最初の粒子と一致する。図10Cは、24時間後、図10A及び図10Bのこれらの懸濁液がわずかに沈降した典型例を示すものである。図10Dでは、懸濁液のSEMにおいて、又、光学顕微鏡法により明らかなように、凍結乾燥のための最初の濃度ははるかに低い20mg/mlであり、粒子ははるかに小さかった。より小さいこれらの粒子は光を同様に強くは散乱させず、懸濁液の外見は、白色で不透明ではなく、半透明であった。
【0066】
図11A〜11Eは、多様なIgG懸濁液の顕微鏡画像である。図11Aは、1.5Mの硫酸アンモニウム塩を加えた20mMのpH6.4ヒスチジン緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Bは、50%PEG300を含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Cは、35%PEG300+15%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Dは、35%PEG300+15%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:1の20mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Eは、35%PEG300+15%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:1の80mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。表5は、20mMのpH5.5ヒスチジン緩衝液中で多様なタンパク質濃度及びトレハロース比率で作製したIgG凍結乾燥粉末を示すものであり、サイズ排除HPLCにより、乾燥粉末の安定性について特徴付けてある。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
図11Eに示すように、80mg/mlで凍結させた純粋なIgG粒子の場合に、最も大きい粒子が形成された。大きい粒径は、凍結乾燥中の高い出発濃度が原因で生じた。この粒子を、表2に記載する35%PEG300+15%NMP溶媒に懸濁させた。粒径は50ミクロン超に達し、したがって、この粒子は25ゲージの注射器を通って流れなかった。これに対し、図11に示す、より小さい粒子は、全て注射可能であった。
【0070】
【表7】
【0071】
100cP未満の粘度は、25ゲージの1.5”注射器による注射可能性にとって十分である。200mg/mlまでの濃度のIgGの懸濁液について、注射可能な粘度を得た(表6〜8)。BSA粉末{Miller、水性BSA}について前に見たように、トレハロースなどの凍結保護剤を添加すると懸濁液の粘度は高まることになる(表6)。この上昇は、主に、凍結保護剤により占められる排出体積が原因である。例えば、表6では、0.5:1のトレハロース対IgG比率の場合は104であるのに対し、トレハロースを含まない200mg/mlのIgG懸濁液の粘度は52cPである。トレハロースを加えると、溶質全体(トレハロース+IgG)の濃度は300mg/mlに上昇する。IgG対トレハロースの比率を1:1に高めることにより総溶質濃度を400mg/mlにさらに高めると、粘度はさらに194cPに上昇する。したがって、安定なタンパク質分子を形成するための凍結保護剤に対する潜在的な必要性は、凍結保護剤の排除体積による粘度の上昇に対して釣り合わせなければならない。前述の可溶性試験において見られた沈殿と懸濁液の粘度との間の関係を調べるために、55mg/mlのIgG 0.5:1トレハロース:IgG粒子を用いて一連の試験を実施した。表7の最初の3つの項目における添加物の条件については、図9の可溶性の決定における低タンパク質濃度の5mg/mlであっても、高いODが得られた。これらの150mg/mlタンパク質懸濁液用のバイアルは、図3に示すように白色で不透明なものであった。これらの試料は、57〜98cPの測定可能な粘度を有した。15%のみ又は0%のPEGと残りNMPとを含む最後の2つの項目における添加組成物については、5mg/mlタンパク質での沈殿試験ではODははるかに低く、このことから、より高いタンパク質可溶性が示唆された。これらの添加組成物及び150mg/mlの懸濁液については、粘度は、非常に高い287cPであるか、又は、ペースト様のゲルが形成されたことから測定不可能であるか、のいずれかであった。したがって、図9において5mg/mlで顕著なタンパク質沈殿の原因となる添加組成物も、より低い粘度をもたらすのに有益である。溶解したタンパク質対ミクロンサイズのタンパク質タンパク質粒子の比率が低下するのに従い、粘度は低下する。この低下は、溶媒和及び電気粘性力の低下が原因と考えられるが、この機序をより完全に説明するにはさらなる特徴付けが必要と考えられる。
【0072】
表8では、種々の添加物条件は、表6及び7における条件以外のものである。水溶液は、純粋な塩、純粋なPEG300、並びに、塩、PEG300及び水溶性の有機添加物の混合物を溶液の最大合計50%含有していた(表8)。これらのケース全てにおいて、25Gの1.5”針で注射可能な水ベースのIgG懸濁液が得られた。これらのケースのそれぞれにおいて、40〜55mg/mlのIgG凍結濃度を考慮して、ミクロンサイズの粒子を形成した。この表における全ての懸濁液について、ミクロンサイズの粒子の存在が光学顕微鏡で確認された(選択試料を図11に示す)。高いモル濃度の塩(1.5M)添加物は、IgG濃度が200mg/mlで、最も低い粘度の12.2cPを示した(表8)。トレハロースを加えたIgG濃度200mg/mlでは、次に低い粘度は、50%PEG300試料の場合の79cPであった(表8)。pH6.4では、15%NMPを加えPEG300を35%に減らすと、懸濁液の粘度は104cPまで高まる(表8)。同様の誘電率を有する異なる有機添加物エタノールは、同じ15%レベルで、わずかに低い92cPの粘度を示した(表4)。BSAについてこれまでに実証されているように、タンパク質の可溶度を5mg/ml未満に低下させる多様な添加組成物は、100mg/ml超のIgG濃度で、高度に沈殿した懸濁液及び100cP未満の粘度を示すことが多いと考えられる。ある添加組成物は、そのような粘度の最大200mg/mlのタンパク質を可能にし、より高いタンパク質濃度でさえ、さらなる最適化により実現できると考えられる。
【0073】
表5において言及したように、モノマー凝集に対して高度に安定なタンパク質を含有する粉末は、トレハロースを凍結保護剤として含んでも、又は含まなくても実現した。本発明者らは、さらに、懸濁液の形成後のタンパク質安定性を調べた。最終懸濁液については、最終的なIgG濃度の約1mg/mlを得るのに必要なpH7.0リン酸緩衝液中で10μlの懸濁液を希釈した。再希釈後のモノマー比率(%)を再構成時に最初の凍結乾燥粒子のモノマー比率(%)と比較したときとの間の差として、相対的な安定性を測定した。トレハロースが0.5:1以上の比率で存在し有機溶媒(NMP又はエタノール)を含まない表6〜8に示す例の全てについて、モノマー比率(%)は高く、少なくとも97%であった。モノマー比率(%)はいくつかのケースでは100%を超えたが、その理由は、実験誤差であるか、又は、入手したままの出発バルク材料と比較してモノマーの割合が実際に増加しているかのいずれかであった。PEGはタンパク質の熱安定性の維持を助けることが知られているため、PEGレベルの高い系の高い安定性は予想されたことであった。{Stevenson}高い安定性は、表4の最後の2つの列で、高い塩濃度(1.5M硫酸アンモニウム)を有する2つのケースについて示されている。高い塩濃度により、非常に低いタンパク質可溶性がもたらされ、ミクロンサイズのタンパク質粒子の存在に有利である。
【0074】
表6における、トレハロースを含まない2つの試験については、タンパク質凝集が顕著であった。トレハロースを含まない粉末を懸濁させた後では、SECは、モノマー比率(%)がおよそ20%低下して小さな凝集体になっていることを示している(表6の列2)。トレハロースの比率が不十分(0.25:1のトレハロース対IgG比率)な粒子については、モノマー比率(%)のより小さい低下、約15%が見られた(表6)。つまり、表5における最初の粉末については、トレハロースが安定性に及ぼす効果は小さいという事実にも関わらず、懸濁液中でのタンパク質の安定性を維持するためにトレハロース対IgGの比率0.5:1でのトレハロースが必要であった。
【0075】
NMP及びPEGを含有する系に関して、挙動はより複雑である。表7の最初の3つの列に示すように、一定の全体の添加物濃度が50%の場合、タンパク質安定性はNMP濃度の上昇に伴い低下する。しかし、35%PEG300+15%NMPを含む、より高い1:1のIgG対トレハロース比率では、最初のモノマーは98%であった。このことから、より高い比率のIgG対トレハロースは、より高度の有機添加物(NMP)を補って安定性を維持すると考えられる。
【0076】
この懸濁液のタンパク質安定性は、可溶性を低下させるための薬剤を添加していない緩衝液中のタンパク質の安定性と比較してもよい。55mg/mlの最初のタンパク質で形成された粉末(表5)を、他の添加物を一切含まないpH6.4緩衝液に加えた。その結果得られた混合物は、半透明で、表5〜8における項目のいずれよりも濁度が低かった。16,100gでの遠心分離の際、総タンパク質体積の10%未満の体積の沈殿物が形成された。つまり、タンパク質の大部分が溶解した。前述の懸濁液の際と同じ手順の場合、モノマー比率(%)は70%であった。これに対し、表6に示すミクロンサイズの粒子の不透明な白色の懸濁液については、200mg/mlレベルでの同じ粉末(55mg/ml)の場合、モノマー比率(%)は97.1であった。このことから、ミクロンサイズのタンパク質粒子は、もともと高濃度で溶解された状態のタンパク質よりはるかに安定であると考えられる。
【0077】
高濃度(40〜55mg/ml)で凍結及び凍結乾燥させた粒子を用いて、SECにより測定した通り安定な、モデルIgGの高濃度の水ベースの懸濁液を作製した。この濃度範囲(40〜55mg/ml)では、SECにより98%超安定であることが見出された直径約10〜100μmの粒子が作製された。トレハロースをトレハロース対IgGの最低比率の0.5:1で含む粒子を安定化させることにより、最終懸濁液も、元のモノマー比率(%)の少なくとも92%を維持することが見出された。IgGの可溶性は、高い塩(1.5M硫酸アンモニウム)、PEG300(溶媒の50体積%)、又は、PEG300とエタノール又はNMPとの組合せ(全体で溶媒の50体積%)を加えることにより、水ベースの溶媒中で5mg/ml未満に低下した。溶媒粘度が依然として約1cPである高い塩懸濁液の、25gの1.5”注射器を通る見かけの粘度は、200mg/mlの安定な(SECによる)IgG懸濁液については、およそ12cPで最も低かった。全体で見れば、高濃度の懸濁液について得られたモデルIgGの安定性、及び、25gの1.5”針を通る低粘度(100cP未満)から、皮下送達におけるタンパク質治療薬の進歩の可能性が示唆される。
【0078】
100〜400mg/mlの範囲の高濃度のタンパク質及びペプチドの、25〜27ゲージの針を通した皮下注射による送達は、粘度が約50cP未満の安定な溶液又は懸濁液については実現可能となる。安息香酸ベンジル、又は植物油を含む安息香酸ベンジル混合物中のリゾチーム微小粉砕粒子の懸濁液については、最大400mg/mlのタンパク質の場合、この限度を下回る粘度が達成された。タンパク質分子は、少なくとも2カ月間は凝集に対して安定であり、室温で1年間保管した後、懸濁液中の固形粒子は再懸濁可能であった。懸濁液の粘度と粒子の体積分率との間の相関から、粒子間の相互作用の主な原因は、単純に、この高濃度の粒子が、静電反発力、粒子の溶媒和又は粒子形状の球状表面形状からの逸脱などの追加的な力からの効果をほとんど受けないことによるものであったことが示唆される。これに対し、こうした追加的な力は、水溶液中のコロイド状タンパク質分子の粘度が大きく高まる原因となることがある。したがって、高濃度のタンパク質懸濁液については、タンパク質溶液と比較して低い溶媒粘度により、皮下注射にとっての新規の機会がもたらされると考えられる。
【0079】
本明細書中で使用する場合、「安定なタンパク質」は、溶解した状態で個々のタンパク質分子の変性又は凝集などの不安定性を示さないタンパク質を指す。こうした不安定性は、光学濁度法、動的光散乱法、サイズ排除クロマトグラフィー、分析用超遠心分離及びタンパク質依存活性アッセイなどの手法により測定できる。
【0080】
本発明で使用するための溶媒としては、その中で、非水性懸濁液により、2カ月の保管にわたり粒径が変化しない安定な粒子がもたらされ、タンパク質可溶性が0.03mg/ml未満のものが挙げられる。この溶媒は、タンパク質粒子の安定性に悪影響を与える原因になってもいけない。懸濁液中の粒子中への水の吸収は、同じ相対湿度で周囲空気条件にさらされた粒子中への水の吸収にほぼ等しい非水性溶媒の場合は、タンパク質粒子の安定性を得ることができる。加えて、非水性溶媒は、容器の底で粒子が固まって、再懸濁不可能な懸濁液を生じさせる原因となる粒子間の引力を防止するために、低い誘電率(37.5未満)を有するべきである。
【0081】
この試験の目的は、高投与量のモノクローナル抗体を25〜27ゲージの注射器を用いた皮下注射により送達するための高濃度のタンパク質懸濁液を作製することであった。37μm未満のリゾチーム粒子の、濃度が50〜300mg/mlの懸濁液を、薬学的に許容される溶媒であるベニバナ油と安息香酸ベンジルとの50/50体積の混合物を加えて製剤化した。この溶媒混合物は、FDAの不活性原料リスト18上で公開されている認可範囲内であった。安息香酸ベンジルは、分散液の形成及び注射を容易にするベニバナ油より粘度が低いが、現在、注射用としてはFDAにより純粋溶媒として認可されていない。しかし、毒性がないことが示されていることから、将来的には認可される可能性があることが示唆される。認可された溶媒混合物、並びに、純粋な安息香酸ベンジル中の製剤の見かけの粘度は、Krieger-Dougherty式により、少なくとも300mg/mlの濃度までの許容される範囲であり、懸濁液の理論粘度と相関することが示されるであろう。均一な用量を得る必要性は、沈降速度の測定により対処し、懸濁液のアリコートの濃度測定により確認する。粒子のコロイド安定性及びタンパク質分子の安定性は、経時的な粒子及びタンパク質の凝集を測定することにより対処し、多様な懸濁液中の含水量を分析することによりさらに確認する。
【0082】
凍結乾燥粉末形態のリゾチームをSigma Chemical Company(St.Louis、MO)から購入した。ACSグレードのアセトニトリル及びUSPグレードのエタノールをFisher Chemicals(Fairlawn、NJ)から受け入れたままの状態で使用した。食品用のオリーブ油及びベニバナ油を、最初の試験用に食料品店から購入した。安息香酸ベンジルをAcros Organics(New Jersey)から、N.F.グレードのオレイン酸エチルをSpectrum Chemical Corp.(Gardena、CA)から入手した。
【0083】
受け入れたリゾチーム粉末を、磁器製の乳鉢及び乳棒で数分間乾燥粉砕した。次に、400番メッシュを通してこの粉砕粉末を篩過し、37μm未満の粒子を回収した。次に、試料を計量し、測定した量の安息香酸ベンジル、又は安息香酸ベンジル/ベニバナ油の予め混合されている50/50体積の混合物に加えた。次に、各バイアルを手で振盪させて、粉末を懸濁液全体に均等に分散させた。
【0084】
粒径は、Malvern Mastersizer-S(Malvern Instruments, Ltd.社製、Worcestershire、UK)を用いた多角レーザー光散乱法により測定した。粉砕して篩過した粉末試料のサイズを、大きな再循環セル(約500ml)におけるアセトニトリル中の懸濁液として、小さいバッチセル(Malvern、Worcestershire社製、UK、約15ml)に入ったエタノールに加えた直後に測定した。各ケースにおいて、測定中の遮蔽率は10〜15%であった。懸濁液を2カ月間室温で保管した後、小さいバッチセルに入ったエタノール中の試料を振盪し希釈させた直後に粒径を再度測定した。
【0085】
粘度は、1mlの試料を、25gの5/8”又は27gの1/2”の針を用いて注射器中に引き込む時間として測定した。各測定は少なくとも3回行って平均した。Liu et al.は、この測定時間が粘度と直線的に相関することを見出した。各純粋な液体、安息香酸ベンジル、エタノール、オレイン酸エチル及びオリーブ油の既知の粘度から、1mlの溶液を引き込む時間と粘度との間の相関が各針サイズについて見出され、0.999超のr2値がもたらされた。各純粋溶媒中の懸濁液の見かけの粘度をこれらの相関から計算し、2つの別々の針サイズについて値を平均して、各試料の最終的な見かけの粘度の平均を得た。安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物の添加試料を、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%及び90重量%の安息香酸ベンジルで作製した。各試料の粘度を前述の通り計算した。
【0086】
溶媒中の粒子の沈降速度は、直径13mmの試験管中の懸濁液を振り混ぜることにより測定した。標準的なデジタルカメラで、10分後、30分後、60分後、90分後、120分後、150分後、180分後、210分後、240分後、1200分後及び1440分後に写真を撮影した。試料の最終的な沈降体積を測定するために、懸濁液の入ったバイアルを静かに4カ月間放置して、沈降懸濁液の画像を撮影した。ImageJソフトウェアを用いて、メニスカスから沈降表面までの距離について全ての画像を分析した。沈降懸濁液についての最大体積画分は、懸濁液全体における粒子の体積分率を、4カ月間の沈降後、粒子を含有する体積の全体の体積に対する比率で割ることにより定義した。
【0087】
水溶液中のリゾチームの濃度を、Micro BCA Protein Assayのためのプロトコールに従い測定した。各試料を、一般的なアッセイ用の96ウェルプレート中で相対標準偏差(%RSD,relative standard deviation)2%未満で3回測定した(以下に記載の統計分析を参照のこと)。吸光度は562nmで分光光度計にて測定した。未処理のリソザイム(lysosyme)の検量線を、2〜30μg/mlの濃度で準備した。
【0088】
高濃度の懸濁液からのリゾチームの分離及び溶解を、pH7.4リン酸カリウム緩衝液中で測定した。Vanderkamp VK650Aヒーター/循環装置付きのVanKel VK6010 Dissolution Testerを用いたUSPパドル法を用いた。容積が1Lの大きな溶解容器(Varian Inc.社製、Cary、NC)中で、900mlの溶解媒体を37℃に予熱した。合計18mgのリゾチームが得られる高濃度の懸濁液の試料を加えた。2分、5分、10分、20分、40分、60分、120分及び240分が経過した時点で1mlの試料を採取し、先に述べたMicro BCAタンパク質分析を用いて分析した。
【0089】
0.1mlの高濃度のリゾチーム懸濁液を、4mlのDI水の入った試験管に加えた。次に、この混合物を穏やかに混合して、タンパク質が水相に分離するように3日間放置した。次に、水相を分離して試料を希釈し、前述の要領でMicro BCA Protein Assayを用いて濃度を調べた。残っている水溶液を濃度1mg/mlに希釈した。この溶液を、96ウェルプレート中の少なくとも3つの300μlアリコートを用いて光学密度について試験し、μQuant分光光度計を350nmで用いて分析した。標準的なリゾチーム水溶液を1mg/mlの濃度で作製し、純粋な安息香酸ベンジル溶媒及び安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物に3日間曝露させて、油−水界面に誘導されたタンパク質凝集の標準として測定した。いずれの有機溶媒にも曝露させていない水溶液も、作製して全ての測定用の標準的な吸光度として使用した直後に測定した。
【0090】
再懸濁した高濃度のリゾチーム懸濁液の3つの別々の0.1mlアリコートを、8mlのDI水の入った試験管に加えた。次に、この混合物を穏やかに混合して、タンパク質が水相に分離するように1日間放置した。次に、水相を分離し、100%のタンパク質が分離していれば、理論濃度の20μg/mlに希釈した。次に、前述のMicro BCA タンパク質アッセイを用いて実際の濃度を分析した。
【0091】
カールフィッシャー水分分析。4カ月間保管した後、0.1mlの再分散させた高濃度の懸濁液の試料を、19ゲージ針を用いてAquatest 8 Karl-Fischer Titrator(Photovolt Instruments社製、Indianapolis、IN)の滴定セルの隔壁を通して挿入した。各懸濁液、純粋な安息香酸ベンジル、及び安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物を3回測定して平均した。
【0092】
極性決定。光学顕微鏡(Bausch & Lomb社製、倍率10倍)により個々の粒子がスライド上で見えるようになるまで、一定分量の懸濁液のアリコートを溶媒で希釈した。微量電気泳動を用い、粒子上に電荷が存在するかどうかを確認した。希釈した粒子分散液を、1mm離して配置した2つの並行のワイヤー電極(直径0.01インチのステンレス鋼304のワイヤー、California Fine Wire社製)間に配置した。電極をガラスの顕微鏡スライドに固定して、光学顕微鏡法により観察した。電極の極性を15〜60秒毎に切り替えて、10〜100Vの電位をかけた。
【0093】
試料を、タンパク質濃度、カールフィッシャー水分分析、懸濁液均一性、光学密度、及びリゾチームの水への分離速度について3回測定して、平均、標準偏差及び相対標準偏差(標準偏差/平均)を決定した。
【0094】
乳鉢及び乳棒により粉砕し400番のふるいを通して篩過したリゾチーム粒子の場合、光散乱測定による平均粒径はおよそ20μmであった(図12)。小規模の第2のサブミクロンピークも、全ての測定において視認できた。しかし、15mlの小さなバッチセルは500nmまでの粒径についてしか目盛が付いていないことから、このピークは分析に含めなかった。次に、粒子及び溶媒の入ったバイアルを手で振盪させ、粒子を分散させて均一な懸濁液を形成した(図13B)。粒子の懸濁液を静置すると、懸濁液は、24時間後であっても部分的に懸濁した状態が残るだけ十分ゆっくり沈降し(図13C)、高濃度の懸濁液は2カ月後でも体積の相当な部分を占める(図13A)。
【0095】
溶媒混合物及び懸濁液の粘度。純粋溶媒の既知の粘度を用いて、1mlの試料を引き込む時間と粘度との間で相関させた。この種の相関は、ハーゲン−ポアズイユ式
【0096】
【数2】
【0097】
(式中、υは速度であり、Rは針の内半径であり、ηは粘度であり、ΔP/Lは針の長さにわたる平均の圧力低下である)に基づきShireらにより記載されている5〜7。針の長さにわたる平均の圧力低下は、注射器内の同じ吸引圧力を維持することにより各試料について一定のままであることは確実なので、断面積を乗じた液体の速度の逆数は、特定の体積(この場合1ml)の液体を吸い上げる時間となる。この時間は、ハーゲン−ポアズイユ式により示されるように、粘度に比例する。
【0098】
安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物の粘度の測定値を図14に示す。この場合、最低値及び最高値は純粋溶媒についてのものなので、一般化された混合則は、式
【0099】
【数3】
【0100】
(式中、ηmは混合物の粘度であり、iは成分数であり、xiは液体の体積、重量又はモル画分であり、ηiは、i番目の成分の粘度である)に従うはずである。f(η)Lは、ηL、ln(ηL)、1/ηL、又は別の典型的な式であってもよい。20この場合、実験結果と最も密接に関連している相関は、f(η)Lがln(ηL)である場合であった。この理論上の結果を、図14において点線により示す。
【0101】
濃度が増すのに伴う懸濁液の見かけの粘度を、純粋な安息香酸ベンジル系及び50/50の安息香酸ベンジル/ベニバナ油との溶媒混合物の両方について測定した。その結果得られた粘度、2つの注射器サイズを用いた測定値の平均(左のy軸)、及び25ゲージ注射器から1mlを引き込む時間(右のy軸)を、リゾチーム粒子の濃度に対してプロットした(図15)。見かけの粘度と遊離溶媒の体積分率との相関をKreiger-Dougherty式
【0102】
【数4】
【0103】
(式中、ηは分散液の見かけの粘度であり、η0は溶液粘度、φは粒子の体積分率、φ最大は最大充填分率、[η]は固有粘度である)を用いてモデル化した。φ最大は、4カ月にわたる、重力による粒子の沈降後に概算した。この値は、低せん断速度については、純粋な安息香酸ベンジル溶媒溶液の場合はおよそ0.50、安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒の場合は0.52であった。これらの値を用いて懸濁液の固有粘度[η]を決定したところ、純粋な安息香酸ベンジル懸濁液については2.7、安息香酸ベンジル/ベニバナ油懸濁液については2.3であった。
【0104】
懸濁液中の粒子の安定性を、多数の異なる手法により測定した。まず、沈降速度を計算し、理論上のストークスの沈降速度
【0105】
【数5】
【0106】
(式中、rは粒子の半径であり、Δρは溶媒と粒子との間の密度差であり、gは重力による加速度である)と比較した。高濃度の粒子については、粒子の込合いにより得られる沈降速度が低下すると考えられる。
【0107】
【数6】
【0108】
この変形のストークスの沈降速度及び実験的に測定した値は、表1に示すように300mg/mlより低い大部分の濃度の場合の2つのうち1つの因子内にあることが見出された。しかし、濃度が400mg/mlの場合、値は予想された速度より1桁低い(表9)。
【0109】
【表8】
【0110】
懸濁液の均一性を、水相中への抽出比率(%)によりさらに定量化した。最初に、リゾチームが水相中に分離する速度を決定したところ、およそ60分が必要であった。再懸濁させた試料に由来する3つのアリコートを別々の試験管に入れ、1日かけて水相に分離させて、完全な分離を確実にした。次に、水相をおよそ1000倍希釈し、タンパク質濃度を測定した。結果は、0.1mlの高濃度の非水性懸濁液に曝露された小体積(8ml)の水相の場合でも、タンパク質の少なくとも3/4は24時間で水相中に分離することを示すものである(表10)。%RSD値は、典型的には5%を下回り、このことから、再分散させた懸濁液内のタンパク質粒子は、納得できる程度に均一であることが示唆された。%RSDは、混合溶媒中の高濃度の300mg/ml試料の方がわずかに大きかった。
【0111】
【表9】
【0112】
試料の保管を危うくするのに十分な速度では粒子の成長が生じていないことを確認するために、非水性溶媒に曝露された粒子の凝集も試験した。粒子を篩過し、リゾチームが非常に溶解しにくいアセトニトリルと、リゾチームがわずかに溶解するエタノールとの両方において再懸濁させた直後に、光散乱法により元の粒径を測定した。2つの測定値の均一性から、エタノール中では測定の時間尺度は粒子の成長の時間尺度よりはるかに速いことが確認される(図12)。保管の2カ月後、エタノール中で試料を希釈し、速やかに試験した。保管中、粒径は本質的に一定であることが見出された(図12)。1年間保管し振盪により再分散させた後の、製剤化した1つの懸濁液の目視検査により、粒子が再分散できることが確認される。
【0113】
静電反発力が粒子安定性に及ぼす潜在的な効果を試験した。しかし、安息香酸ベンジル溶媒中に1mm離して配置した2つの電極については、電圧が10から100に変化した際、リゾチーム粒子は、まとまった動きを示さなかった。
【0114】
有機化合物から水相に分離された試料のアリコートにおける光学密度を測定することにより、タンパク質凝集を調べた。タンパク質を濃度1mg/mlに希釈した。同じ濃度の水溶液中で追加のリゾチーム試料を溶媒に曝露させて、油−水界面が凝集に及ぼす効果を測定した。これらの溶液全てを、同じ濃度の新鮮なリゾチーム溶液との比較により、大きなタンパク質凝集体について確認した。350nmでの吸光度が標準及び全ての試料について1%以内、したがって、試験の誤差の範囲内だったため、凝集体は見出されなかった。
【0115】
含水量の定量化を用いて、懸濁液中の遊離水及び結合水を決定してもよい。大気条件に2カ月間曝露された後の各懸濁液について含水量を測定した。含水量と懸濁液濃度との間で見出された線形相関から、水分はタンパク質と直接関連があることが示唆される(図16)。安息香酸ベンジル溶媒は、溶液0.1ml当たり平均20μg又はおよそ0.02重量%の水を含有する。ベニバナ油/安息香酸ベンジル混合物は、同じ体積の試料中およそ74μg又はおよそ0.074%の水を含有する。安息香酸ベンジル中のタンパク質の濃度が最も高い(400mg/mL)試料は、最も多い水分、すなわち、溶液0.1ml当たり平均4450μgの水を含有し、2カ月間保管した後では最大の絶対濃度が4.5重量%の懸濁液が得られた。
【0116】
タンパク質及び粒子の安定性に加え、他の重要な基準は、懸濁液の見かけの粘度は注射器による注射のために十分低くなければならないということである。皮下送達では、50cPが適切な最大粘度であるが、この場合、1mlの懸濁液が26ゲージの注射器を経由して排出されるのにおよそ20秒かかることになる。図15から、測定された最大の見かけの粘度はおよそ50cPであり、この場合、1mlを25ゲージの注射器中に引き込むにはおよそ55秒かかった。測定された時間の相違は、当該体積を注射器中に引き込むための、注射器から溶液を排出するのに必要な力と比較してより小さい吸引力を反映している。加えて、これらの高濃度の懸濁液は、せん断減粘であると考えられるが、その理由は、懸濁液の流れが、より好ましい、粒子の再構成をもたらすことになるからである。例えば、せん断速度が増すのに従い、最初にランダムに充填された(φ最大=0.64)球状の粒子は、より規則的且つ充填密度が高くなり、0.71前後の、より高い最大充填分率が得られる。結果として、体積の排除と関連する、より高いせん断速度では、測定された懸濁液の見かけの粘度は低下し、皮下送達が可能な最大値を下回ったままとなる。
【0117】
Kreiger-Dourghety式を用いた懸濁液の粘度のさらなる分析により、懸濁液中での粒子間の力の効果が示唆されると考えられる。アインシュタインにより導かれた希薄な懸濁液の粘度についての最初の式は粒子を考慮しており、粒子は固形の球形物でありその濃度は粒子が個々に処理されるだけ十分低い(φ<0.1)と仮定する。これにより、勾配が2.5の溶媒については、粒子の体積分率が懸濁液の粘度比率と関連する一次方程式が得られる。より一般的な用語では、この勾配は、分散した粒子の添加による粘度の増大量を表し、固有粘度[η]とも呼ばれる。より高濃度の懸濁液については、粒子の込合い及び懸濁液の最大充填分率(φ最大)について説明すると、結果としてKrieger-Dougherty式となる(式5)。31、32 この場合、固有粘度という用語は、溶媒和、形状の変化及び静電力、並びにせん断速度の効果に依存するアインシュタイン係数値の2.5とは異なる場合がある。安息香酸ベンジル及び安息香酸ベンジル/ベニバナ油の混合懸濁液の固有粘度の値は、アインシュタインにより導かれた元の2.5に近いことから、せん断速度は低くゼロと近似できると仮定すれば、溶媒和、形状の変化及び静電力の効果は無視できると考えてもよい。誘電率がわずか4.8の溶媒中のイオン対化の傾向を考慮すれば、静電効果がないことは驚くべきことではなかった。このことは、先に測定した電気泳動移動度がゼロであることによりさらに確認される。粒子を溶媒により溶媒和する場合、体積分率は、
【0118】
【数7】
【0119】
(式中、ml,bは結合した溶媒の質量であり、m2は粒子の質量であり、ρ2は粒子の密度であり、ρ1は溶媒の密度である)により、上昇すると考えられる。Krieger-Dougherty式の場合、この上昇は[η]という用語に吸収され、測定された固有粘度を上昇させる。球形状からの粒子の逸脱は、最大充填分率に、又、固有粘度に強い効果を有する。例えば、さまざまな軸比、すなわち7、14及び21のガラス繊維は、固有粘度がそれぞれ3.8から5.03、6.0へと上昇し、最大充填分率は0.374から0.26、0.233へと低下する。
【0120】
溶液中のモノクローナル抗体などの大きな巨大分子は小さなコロイドとして近似できることから、同様の粘度分析を実行できる。この場合、モノクローナル抗体をさまざまな濃度で含有する溶液の粘度の上昇について過去に公表された値を使用すると、Krieger-Dougherty式を用いた分析から最終的な値の[η]45が得られた(表11)。しかし、タンパク質溶液の分析は、典型的には、体積分率ではなく質量濃度(g/ml)を用いて行われ、これにより、固有粘度(単位:cm3/g)の値、及び、わずかに異なる、タンパク質溶液と水性溶媒との粘度間のより高次の派生した関係が導かれる。粘度の高い準球形モデル
【0121】
【数8】
【0122】
(式中、cはタンパク質の質量濃度であり、kは高濃度のタンパク質を説明する込合い因子であり、υは、球形からの形状の変化を説明するSimhaパラメーターである)は、Krieger-Dougherty式と同じべき級数から導かれるが、しかし、x成分として体積分率ではなく濃度を用いる。結果として、υは、モノクローナル抗体の固有粘度については6.9cm3/g、κ/ν値0.533の値に導かれる。多様なタンパク質については、固有粘度の値は、リゾチームの場合のおよそ2.7cm3/gから200cm3/g超までさまざまである。このモデルは、ヘモグロビン、ウシ血清アルブミン、及び、長い範囲の静電力は、粘度対濃度において無視できる程度に関与することが見出された2つの多様なモノクローナル抗体の粘度を正確に予測することが示されている。非常に小さい軸比1.5を有するタンパク質であるリゾチームの場合でも、このモデルは、濃度300mg/ml前後での粘度の劇的な上昇を示す(図15)。したがって、粘度の高い準球形モデルにより説明でき、リゾチームより高い軸比を有する多様なモノクローナル抗体、BSA及びヘモグロビンについては(式8)、急速な粘度の上昇はより劇的なものとなり、より低い濃度でも生じることになろう。これらの溶液については、粘度の上昇は、粒子の込合いだけでなく溶媒和の排除体積効果及び球形からの形状の逸脱によるものである。この強い逸脱は、同じ濃度の懸濁液中の粒子については見られないが、その理由は、この場合の粒子は相当球状であり、溶媒により水和されず、タンパク質の密度は、典型的に1.35g/cm3前後であり、これにより、それぞれの濃度についての体積分率はより低くなるためである。
【0123】
【表10】
【0124】
最大300〜400mg/mlのモデルタンパク質リゾチームの粉砕粒子の高濃度の懸濁液の粘度は、27ゲージ針による皮下注射用に十分小さかった。タンパク質分子は、凝集に対して安定であり、大気条件で保管した場合、粒径は少なくとも2カ月間変化しなかった。Krieger-Dougherty式によれば、全ての条件で見かけの粘度は体積分率と相関があった。粒子が完全に沈降するには、24時間をはるかに超える時間がかかることが見出され、このことにより、均一なアリコートを採取及び分析するのに十分な時間が得られた。この結果から、単回注射又は複数回注射の適用のいずれの場合にとっても正確な投与を可能にする十分な懸濁液安定性が示唆された。全体として、リゾチーム微小粒子懸濁液のコロイド安定性及び用量均一性は、許容される低い粘度と共に、治療用タンパク質の皮下送達のための潜在的な進歩を示唆する。溶液中の高濃度のタンパク質については、静電反発力、溶媒和力、及び球状の表面形状からの粒子形状の逸脱などの多様な力は、粘度が大きく高まる原因となる可能性があるが、一方、これらの力は現在のタンパク質懸濁液についてはほとんど無視できる程度の効果を有し、結果としてはるかに低い粘度がもたらされる。
【0125】
この例の目的は、以下の通りである:(1)非水性溶媒及び水性溶媒中の懸濁液を形成するためのタンパク質粒子を作製するための多様な粒子光学的手法を使用すること、(2)バイアル中で粒子を形成する又はバイアルに粒子を移すための効率的な様式を見出すこと、(3)懸濁液の粒径、コロイド安定性及び粘度を決定すること、並びに(4)変性及び凝集に関してのタンパク質分子の安定性を決定すること。適切な粒子光学的手法としては、粉砕、噴霧乾燥、沈殿及び薄膜凍結が挙げられる。皮下注射によるタンパク質及びペプチドの送達の実行可能性は、25〜27ゲージの針により注射可能であるが、1.5ml未満の体積で完全な用量を投与するために必要な高濃度の活性タンパク質又はポリペプチドを含有する、十分に低粘度の製品の製剤化に依存する。所望の粘度は、最大400mg/mLを有するタンパク質懸濁液で実現されている。
【0126】
高濃度のモノクローナル抗体を含有し十分に粘度の低い安定な懸濁系の製剤において第一に重要なのは、安定で適切なサイズのモノクローナル抗体粒子の形成である。以前、約10〜20μmの粉砕化リゾチームを有する懸濁液が製剤化された。1
【0127】
粉砕に加えて、タンパク質粒子は、供給濃度に応じて、タンパク質2の安定なナノ粒子を作製し、同様のミクロンサイズの粒子を作製するために以前開示した薄膜凍結(TFF、thin film freezing)で形成してもよい。モノクローナル抗体は溶液の形態で提供されるので、TFFは、潜在的な凍結ストレスしか引き起こさない、顕著に破壊性の低下したプロセスであると考えられるが、一方、粒子を凍結乾燥に続いて粉砕及び篩過すると、粒子は、変性につながる可能性のある凍結、加熱及び機械的応力にさらされることになる。提案される作業としては、TFFプロセスを調整して、Mabの可溶性限度以内で供給濃度を変化させることにより特定の粒径を得ること、及びトレハロースなどの凍結保護糖を加えること、一定の比率(%)のエタノールと、皮下注射に必要な多様な緩衝液及び他の添加剤を含めるために溶媒(現時点では緩衝液を加えた純粋なDI水)を変更すること、及び皮下注射製剤用の適切なバイアル中への直接凍結を試験することが挙げられる。
【0128】
タンパク質粒子をバイアル中に移すには、多様な手法が利用される。目的は、処理ステップを単純化し、滅菌済の状態を維持することである。第1の方法は、凍結乾燥した粉末を固体としてバイアルに移すことである。第2の方法は、まだ凍結状態のうちにタンパク質をバイアルに移すことである。TFFプロセスを用いるこれらの方法のそれぞれを実証するために、粒径のデータを得た(表12)。
【0129】
【表11】
【0130】
適切な安定粒子を一旦作製したら、適切な溶媒系を見出さなければならない。この場合、水性ベース及び非水性ベース両方の系を分析することになる。純粋な非水性溶媒の安息香酸ベンジル中、及び溶媒系の安息香酸ベンジル/ベニバナ油中の、粉砕リゾチームの安定な低粘度製剤が以前分析されており1、前述のMab粒子を含有する懸濁液中でさらに分析する。高濃度の水溶液中でのタンパク質又はポリペプチドの不安定性、及び、可溶性の凝集体及び水和が原因で生じる粘度の上昇を克服するために、この試験の主な目的は、27ゲージ針により、且つ、100mg/mlを超える濃度で注射可能なモデルタンパク質リゾチームを用いて、非水性の溶媒又は溶媒混合物中のタンパク質懸濁液を製剤化することであった。製剤化された懸濁液は、少なくとも300mg/mlの濃度まで注射可能なままであることが見出された。タンパク質及び粒子の安定性は、少なくとも2カ月間維持され、このことから、潜在的に安定なタンパク質製品であることが示唆された。懸濁液中のタンパク質粒子は、室温で1年間保管した後に再懸濁可能であることも見出された。製剤の粘度と粒子の体積分率増加との間の相関から、粒子間の相互作用の主な原因は粒子の込合いによるものであり、静電反発力、溶媒由来の粒子の溶媒和、又は球形からの粒子形状の逸脱などの追加的な力を用いて懸濁液の安定性は維持されないことが示唆される。
【0131】
しかし、主な関心は水性溶媒に集まると考えられる一方、非水性溶媒は、次に興味のあるものであろう。水性溶媒系は、製剤化するには若干複雑で、以下を含めなければならない:(1)水中でのMabの可溶性を低下させるための薬剤(可溶性が20mg/mL超である場合)、(2)溶媒を加えた際に高濃度の懸濁液が泡を生じることを防止するための消泡剤、及び(3)Mab及び最終的な懸濁液製品の安定性を十分な期間にわたり維持するための追加的な添加剤。
【0132】
水中でのタンパク質の可溶性を低下させるために加えることができる薬剤としては、硫酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムなど高濃度の塩、亜鉛などの錯体化剤、PEGなどの水溶性ポリマー、エタノールなどの多様な有機溶媒及びTween 20など他の界面活性剤が挙げられる。塩を添加すると溶液のイオン強度は高まり、これによりタンパク質の親水性基の可溶性が低下する。しかし、皮下注射可能な送達では、等張性でない溶液は、ノンコンプライアンスにつながる可能性のある注射時の痛みを増すことになる。したがって、他の添加物を用いて可溶性を低下させる代用品が有利でありうる。ポリエチレングリコール(PEG)と水との混合物は、その同様の塩の「塩析」効果に対しても実証されており、注射可能な製剤中でより容易に可能となる。より低分子量のPEGは、さらに可溶性を低下させるためのはるかに高い濃度に製剤化できるが、より高分子量のPEGは、タンパク質の熱安定性を高めることが見出されているため、さまざまな分子量のPEGを試みる。1%(w/v)濃度のTween 20は、疎水性タンパク質フミコララヌギノーサリパーゼ5の沈殿を引き起こすことが実証されており、これにより、懸濁液中での添加Mab粒子の可溶化が妨げられ、懸濁液を製剤化するための別の代替方法が生み出される可能性がある。エタノール、プロピレングリコール及びジメチルアセトアミドなど、Mabがわずかに溶解するだけの水溶性の非水性溶媒などの追加的な添加剤も試みる。
【0133】
塩及びPEG製剤を用いた良好な低粘度の高濃度製剤を水性媒体中で作製した(表13)。最初の粒径測定値と同時に成分も開示する。これらの製剤は、少なくとも1時間にわたり粒子安定性を有することが見出されている(図17)が、長時間安定性は調査していない。予備データから、水性懸濁液のいくつかの粘度は、25ゲージ針用として十分に低かったことが示唆される。
【0134】
【表12】
【0135】
1.0M硫酸ナトリウムの水性溶媒懸濁液中では、乾燥したTFF粒子に液体を加えるとタンパク質の水性分散液が発泡することが観察されている。タンパク質と脂肪粒子との水性懸濁液の泡安定性は、異なるSpan添加剤を添加すると顕著に低下し、この場合、気泡の合体が増えたとの仮説が立てられた。SPAN(登録商標)80を用いた試行では、1.0M硫酸ナトリウム溶液中の高濃度のBSA分散液に加えると泡はうまく壊れ、低粘度、高濃度の懸濁液は維持された。発泡の課題を解決するためには、粒子形成段階及び最終製剤段階の両方において、他の界面活性剤を使用することになる。加えて、皮下投与される薬学的に許容される懸濁液の製剤を完成させるためには、他の添加剤を加えなければならない。タンパク質を安定化させるためには、必要に応じ、Tween 20及びTween 80などの界面活性剤を加えることができる。最終的な水性分散液を作り出すために、緩衝化剤、酸化防止剤及び抗菌剤を加えてもよい。
【0136】
次に、1mLの溶液を25ゲージ針、次いで27ゲージ針で注射器に吸い上げる時間を用いて、最終製剤化した懸濁液を粘度について試験する。これまでに実証されている通り、この測定を用いて概算した粘度は、理論上の結果及びこれまでの結果(前述)の両方により、納得できるものである。加えて、沈降速度測定値、光学顕微鏡法により得た画像、多角レーザー光散乱による粒径測定値及び電気泳動移動度測定値を用いて、懸濁液の安定性を特徴付ける。沈降速度は、懸濁液のアリコートをランダムに取り出してタンパク質の濃度について分析することに加え、ある期間にわたり懸濁液の均一性を決定するのに有用でありうる。加えて、光学顕微鏡法により得た画像は、低濃度で粒子上にかかっている支配的な力を、又、粒子が凝集、凝結又は反発しているかどうかを、示すことができる。経時的な粒径測定値により、オスワルド(Oswald)熟成及び粒子の凝固の効果が示されるだろう。試験を完全なものとするために、粒子の電気泳動移動度を測定して、懸濁液中の粒子の静電安定化を決定するゼータ電位を定量化する。
【0137】
最終ステップは、製剤化した懸濁液中のMabの安定性を決定することである。水ベースの懸濁液については、適切な希釈を行って、分析に必要な濃度でMab溶液を作製しなければならない。溶液中のMabも懸濁粒子から分離し、両方を安定性について別々に分析する。非水ベースの懸濁液については、十分なMab濃度を有するアリコートを純水又は適当な緩衝液に曝露させて、油−水界面上で変性させずに、懸濁粒子を溶液中の水相に分離させなければならない。これまでに行われてきたように、懸濁液を適切な水性緩衝液に1〜3日間曝露させて、時間をかけて分離させ、且つ変性させる可能性のある油−水界面への曝露を最低限にさせる。1加えて、標準を実施して、測定値が懸濁粒子を正確に表していることを確認する。1次に、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、size-exclusion chromatography)、動的光散乱法(DLS、dynamic light scattering)、分析用超遠心分離(AUC、analytical ultracentrifugation)、並びに、可溶性及び不溶性の凝集体についての光学濁度法などさまざまな手法により、Mabの安定性を特徴付けることができる。
【0138】
乾燥粉末及び再構成した非水性懸濁液両方の含水量を経時的に分析して、過剰な水が製剤の安定性に及ぼす効果を決定する。これまでの実験において述べられてきたように、非極性又は中程度に極性の有機溶媒中での、低レベルのタンパク質の水和における、経時的な水吸収は、蒸気相自体からのものと類似している。12加えて、製剤化後のMabの活性(%)を実証してMabのミスフォールディング及び変性を分析するために、Mab特異的なELISAアッセイを実施することができる。この手法は、結果として生じる再構成後のIgGの結合親和性を観察するために、これまでに使用されている。FTIRを実施して、任意のMab添加剤が最終製剤の任意の部分との相互作用を有するかどうかを決定することもできる。
【0139】
バイアル中での膜凍結による粒子の作製。多くの粒子形成プロセスでは、最終的な剤形を送達するために固形物を多様な表面からバイアルへ移すことは問題がある。滅菌済の状態を維持することが必要であり、移される粒子の正確な量を決定及び制御することは難しい場合がある。加えて、粒径は取扱い中に変化する場合がある。最終的な剤形が中で保管されることになるバイアル内で粒子を直接作製することが望ましいであろう。このバイアル内での直接凍結及び粒子作製のプロセスは、従来のトレー凍結乾燥において行われる。しかし、棚からバイアルへの熱伝達により凍結速度が遅いと、典型的には約数百ミクロンの粒子となる。本手法は、サブミクロン及びミクロンサイズの粒子分布を実現及び制御するための手段を提供する。
【0140】
バイアル内で物質の粒子を形成するための方法であって、(a)物質の液体溶液を円筒状のバイアル内に導入すること、(b)該円筒状のバイアルを、水平方向に回転させながら、液体がバイアルの内壁において膜として凍結するまで液体冷却液中に浸漬すること、(c)凍結乾燥又は凍結した溶媒の抽出により溶媒を第2の溶媒中に取り出すことを含む方法が提供される。
【0141】
したがって、本発明は、極低温の液体中にバイアルを浸漬させて、トレー凍結乾燥の場合よりはるかに急速に凍結させるための代用品を提供する。約20秒という急速凍結の結果、サブミクロン粒子を得ることができる。0.2〜4mmの範囲内の凍結用液体の厚さにより、急速な凍結が容易になる。バイアルを凍結乾燥機に直接移して、最終的な粒子をバイアル中で作製しながら溶媒を除去してもよい。最終的な粒子は、粒子の可溶性を低下させて粒子の懸濁液を作製するために、薬剤(塩、第2の溶媒、ポリマーなど)の添加により作製することもできる。したがって、固形物をバイアルから取り出す必要は全くない。
【0142】
この方法により、物質の液体溶液をバイアル内で急速な凍結速度で薄く均一な膜の形で凍結させることにより、サイズ分布を細かく制御した粒子の作製が可能になる。この方法は、以下の3つの基礎的なステップにおいて実行する:(a)物質の液体溶液を円筒状のバイアル内に導入すること、(b)該円筒状のバイアルを、水平方向に回転させながら、液体がバイアルの内壁において膜として凍結するまで液体冷却液中に浸漬すること、(c)凍結乾燥又は凍結した溶媒の抽出により溶媒を第2の溶媒中に取り出すこと。
【0143】
[0100]第1のステップは、活性物質を水溶液中に1mg/ml〜500mg/mlの範囲の典型的な濃度で溶解させることにより開始する。この溶液は、例として凍結保護剤又は界面活性剤などの添加剤も含有できる。溶液を円筒状のバイアル中に導入するが、このとき、液体体積及びバイアルの寸法により最終的な凍結膜の厚さ(サイズ分布の制御における重要な変数)が決まる。表14は、2つの異なるサイズのバイアルについて得られる異なる膜の厚さの例を示すものである。
【0144】
【表13】
【0145】
第2のステップは、バイアルを液体冷却液(例えば液体N2)内に水平方向に、回転させながら浸漬することを包含する。回転により、液体溶液は、円筒状のバイアル内壁において均一な厚さの膜として凍結する。冷却液温度(典型的には50K〜253Kの範囲)及び回転速度(典型的には15RPM〜600RPMの範囲)を調節して、凍結速度を制御してもよい。図18は、バイアル内で異なる液体体積の凍結について測定した凍結温度プロファイルを示すものである。80K、回転速度30RPMの条件で冷却液を用いて処理しながら、T型熱電対を用いて温度を測定した。
【0146】
第3のステップは、凍結乾燥、又は、懸濁液を作製する難溶性の環境を作り出すために、凍結した溶媒に薬剤を加えることにより溶媒を除去することである。第2の溶媒、塩、ポリマー及び他の薬剤を水ベースの製剤に加えて、タンパク質ベースの粒子のための難溶性の環境を作ることができる。溶媒は、典型的には、アセトニトリル及びエタノールなどの水混和性の有機溶媒である。硫酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムなどの塩、及びPEGなどのポリマーは、水性環境におけるタンパク質の可溶性を低下させ、それにより粒子の懸濁液を作り出す。
【0147】
図19は、アセトニトリル中で懸濁させた粒子を用いてMalvern Mastersizer-Sを用いた多角レーザー光散乱法により測定した、本発明の方法を用いて得られる典型的な粒径分布を示すものである。図19に示すように、選択された条件で、ナノメーターの粒子、マイクロメートル、又は、両方のサイズ尺度を有する二峰性の粒子分布の粒子を作製できる。サイズ分布は、溶質濃度、液体冷却液の温度及び液体の体積並びにバイアルの回転速度により制御する。表15は、図19に示す粒径分布をもたらした処理条件を示すものである。
【0148】
【表14】
【0149】
以下の例は、バイアル中でタンパク質を膜凍結、次いで凍結乾燥させてから、凍結乾燥させた材料を手で振盪させて溶媒に懸濁させることにより作製されたタンパク質懸濁液を実証するものである。図20では、水中の4mlのリゾチーム溶液(20mg/ml)をバイアル内での膜凍結により凍結させた。凍結乾燥後、安息香酸ベンジルを加えることにより80mg/mLのリゾチームを有する懸濁液が形成された。図21では、水中の2mlのヘモグロビン溶液(150mg/ml)をバイアル内での膜凍結により凍結させた。凍結した溶液を凍結乾燥させ、粒子を2mlの安息香酸ベンジルに懸濁させて、150mg/ml懸濁液を作製した。いずれのケースにおいても、懸濁液は1日かけても沈降せず、手で振盪させることにより再懸濁させることができた。
【0150】
本明細書において論ずるいかなる実施形態も、本発明の任意の方法、キット、試薬又は組成物に関して実行でき、その逆も同様であることが企図される。さらに、本発明の組成物は、本発明の方法を達成するために使用できる。
【0151】
本明細書に記載の特定の実施形態は、例証の目的で示すものであり、本発明の限定として示すものではないことが理解されよう。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく多様な実施形態において採用することができる。当業者であれば、通常の実験法のみを使用して、本明細書に記載の特定の手順との多数の等価物を認識し、又は確認することができよう。そのような等価物は、本発明の範囲内であるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。
【0152】
本明細書中で言及した全ての刊行物及び特許出願は、本発明が属する技術分野の当業者の技能の水準を示すものである。全ての刊行物及び特許出願は、各個々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個々に参照により組み込まれると示されている場合と同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0153】
単語「a」又は「an」の使用は、特許請求の範囲及び/又は明細書中で用語「〜を含む(comprising)」と共に使用される場合、「1つの」を意味することがあるが、「1又は2以上の」、「少なくとも1つの」及び「1又は1を超える」の意味とも一致する。特許請求の範囲における用語「又は、若しくは」の使用は、どちらか一方の選択のみを指すこと、又は、選択肢が相互排他的であることが明確に示されない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、どちらか一方の選択のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。本出願を通じて、用語「約」は、ある値が、その値を決定するために用いられている用具、方法に固有の誤差のばらつき、又は試験対象の間に存在するばらつきを包含することを示すために使用する。
【0154】
本明細書及び請求項(複数可)において使用する場合、単語「〜を含む(comprising)」(並びに、「comprise」及び「comprises」などcomprisingの任意の形)、「〜を有する(having)」(並びに、「have」及び「has」などhavingの任意の形)、「〜を包含する(including)」(並びに、「includes」及び「include」などincludingの任意の形)又は「〜を含有する(containing)」(並びに、「contains」及び「contain」などcontainingの任意の形)は、包含的又は非限定的であり、追加の列挙されていない要素又は方法ステップを排除しない。
【0155】
用語「又はそ(れら)の組合せ」は、本明細書中で使用する場合、その用語に先行する列挙項目の全ての順列及び組合せを指す。例えば、「A、B、C又はそれらの組合せ」は、A、B、C、AB、AC、BC又はABC、さらには特定の文脈において順序が重要である場合は、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC又はCABのうち少なくとも1つを包含することを意図したものである。この例を続ければ、明白に包含されるのは、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどといった1又は2以上の項目又は用語の繰返しを含有する組合せである。当業者には、文脈から別途明らかでない限り、典型的には、いかなる組合せにおける項目又は用語の数にも制限はないことは理解されよう。
【0156】
[0101]本明細書中で開示及び特許請求した組成物及び/又は方法は全て、本開示に照らせば過度の実験を行わずに作製及び実行することができる。好ましい実施形態について本発明の組成物及び方法を説明してきたが、当業者には、本明細書に記載の方法のステップ又は一連のステップにおいて、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく組成物及び/又は方法に変化を加えることができることが明らかである。当業者に自明のそのような類似の代替物及び変形は全て、添付の特許請求の範囲により定義されるように、本発明の精神、範囲及び概念内にあるものとみなされる。
【図1】
【図2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般にはタンパク質の保管及び送達の分野、より詳細には、新規の組成物及び高濃度のタンパク質懸濁液及びその前駆物質を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の範囲を限定するものではないが、その背景を、タンパク質の濃度に関して説明する。患者の幅を拡げ、より良い治療をするための手段として、タンパク質及び他のポリペプチドを治療薬として使用することが近年増えているが、その理由は、タンパク質及び他のポリペプチドは、体内で天然に見出されない他のクラスの薬物より、毒性が低く、インビボでより予想通りの挙動をすると考えられるからである。タンパク質治療薬の送達は、主に、必要とされる高用量(100〜1000mg)を送達するための大量の静脈内注射剤を希釈すること、及び、高濃度でのタンパク質の物理的及び化学的な不安定性を回避することに制限されている。潜在的に比較的侵襲性の低い投与方法は、皮下注射である。注射体積は1.5mlまでに制限されることから、タンパク質治療薬の濃度は実質的に100mg/mlを超えることが多い。ポリペプチドの安定性に加え、別の主要な懸念は、溶液濃度が100〜400mg/mlを超える場合には、タンパク質相互作用により、粘度が劇的に高まることである。主な相互作用が静電気によるタンパク質間の引力相互作用である場合、こうした粘度の上昇は、塩化ナトリウムを加えて溶液のイオン強度を高めることにより、又、溶液の緩衝種及びpHを変えることにより回避できる。このような高濃度では、変性を防止するために添加剤の濃度を高くすることが必要な場合が多い。代替的アプローチは、非水性溶媒中の不溶性タンパク質懸濁液を形成することであると考えられる。高濃度の懸濁液の粘度は、溶液の場合よりはるかに低く、タンパク質を安定化させるために必要な添加剤レベルはより低いと考えられる。しかし、高濃度の懸濁液をうまく送達するには、正確で均一な用量を投与するために粒径及び懸濁液の均一性を制御しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
今日まで、医薬目的での非水性媒体中のタンパク質懸濁液の例は比較的少ない。乳牛の乳生産量を増加させるために市販されている高粘度のウシのソマトトロピン懸濁液、及び、ウシの脳下垂体からソマトトロピンを放出するために使用されるウシの成長ホルモン放出因子アナログは、それぞれ、ゴマ油及びミグリオール油中で製剤化される。こうした粘性のある懸濁液を注射するためには大きな14〜16ゲージの針が必要であるが、ヒトにとって好ましい針のサイズは25ゲージ〜27ゲージである。加えて、ペプチドインスリン、並びに、プロテインC及び独占所有権のあるモノクローナル抗体などの非常に安定なタンパク質については、安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールなどの賦形剤の存在下で粘度向上剤及びゲル形成ポリマーを活用して、徐放剤としていくつかの非水性注射剤が製剤化されている。しかし、これらの製剤は、大きな21ゲージ針を用いてしか注射できず、これは相当な注射時の痛みを引き起こすことからノンコンプライアンスの原因となり、高レベルの添加剤により、製剤中のタンパク質の全体濃度は低下する。別の選択肢は、タンパク質又はモノクローナル抗体を結晶化させて水性の結晶懸濁液を形成することである。このアプローチは、3つのモノクローナル抗体及びインスリンについて示されている。しかし、高分子量のタンパク質の結晶化は、セグメント柔軟性の度合いが高いことから非常に困難である可能性があり、はるかに低度の柔軟性を有する小ペプチドの方が実現可能性が高い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子を形成すること、該1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子に1又は2以上の添加物を任意選択により加えること、及び、該1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子を薬学的に許容される溶媒に懸濁させて、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌時に懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成することにより、高濃度の低粘度タンパク質懸濁液又は低粘度ペプチド懸濁液を作製する方法であって、送達時に、該1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみで、21〜27ゲージの針により注射可能である、方法を提供する。薬学的に許容される溶媒は、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せであってもよい。
【0005】
加えて、1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、投与容器中で形成され、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器である該投与容器から直接送達することができる。1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、粉砕、沈殿、透析、篩過、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥、液体中への噴霧凍結、薄膜凍結、又は投与容器中での直接凍結により作製できる。1又は2以上の添加物は、1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部であっても良い。
【0006】
本発明は、薬学的に許容される溶媒中に、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子を有する高濃度の低粘度懸濁液も提供する。任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌時に懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物であって、21〜27ゲージの針により注射可能な、送達時に1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみである、添加物。薬学的に許容される溶媒は、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せであってもよい。加えて、1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、投与容器中で形成され、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器である該投与容器から直接送達することができる。1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子は、粉砕、沈殿、透析、篩過、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥、液体中への噴霧凍結、薄膜凍結、又は投与容器中での直接凍結により作製できる。1又は2以上の添加物は、1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部であっても良い。
【0007】
本発明は、単回用量容器に入った単回用量の高濃度の低粘度懸濁液を提供する。単回用量容器には、該単回用量容器中に配置された、水性溶媒、非水性溶媒又はその組合せから選択される薬学的に許容される溶媒と、該単回用量容器中に配置された、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子とが含まれる。加えて、単回用量容器中に1又は2以上の添加物を任意選択により配置して、少なくとも20mg/mlの濃度と、21〜27ゲージの針により注射可能な2〜100センチポアズの溶液粘性とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の特徴及び利点のより完全な理解のために、次に、添付の図面と併せて本発明の詳細な説明について述べる。
【図1A−C】本発明の一実施形態のプロセスにより作製される粒子のSEM画像である。
【図2A−2E】遠心分離(3000rpmで20分)の前(図2A及びB)及び後(図2C〜E)の懸濁液の画像である。左から右へ、1.5M硫酸アンモニウム(a及びc)、30%PEG300(b及びd)、35%NMP(e)、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中。
【図3】3000gでの20分の遠心分離後のPEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、30%PEG300、40%PEG300及び50%PEG300、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中。
【図4】多様なpHでの水性懸濁液の見かけの粘度を示すグラフである。全て、50%PEG300を含み、NaClを加えて154mMイオン強度としてある。
【図5】3000gでの20分の遠心分離後の50%PEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、pH4.7酢酸緩衝液、pH5.5酢酸緩衝液及びpH7.4酢酸緩衝液。
【図6】NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中にPEG300及び有機添加物を含む水性懸濁液の見かけの粘度を示すグラフである。
【図7A−7B】150mMのpH4.7酢酸緩衝液中の多様な比率での粉砕BSA+トレハロースの見かけの粘度を、a)25%PEG300及び20%エタノール、及びb)35%PEG300及び15%NMPにおける純粋な粉砕粒子の[η]を用いてKrieger-Dougherty式から計算した場合の理論粘度と併せて示すグラフである。
【図8A−8E】多様なIgG凍結粉末のSEM画像である。
【図9】350nmで測定した場合のIgGの可溶性を低下させるために総量が溶媒の50体積%の多様な添加物を用いたIgGの光学密度を示すグラフである。右側には、添加物を加えていないpH6.4の20mMヒスチジン緩衝液中の5mg/ml濃度のIgGの吸光度を示してある。
【図10A−10D】多様なIgG懸濁液の画像である。
【図11A−11E】多様なIgG懸濁液の顕微鏡画像である。
【図12】アセトニトリル及びエタノール中の元の粉砕粒子について、並びに、2カ月の保管後、純粋な安息香酸ベンジル中、及び、安息香酸ベンジルと油との混合物中(両方とも、エタノール中で希釈して光散乱法により遮蔽率10〜15%にした直後に測定した)の懸濁液について測定した、粒子の体積(%)対サイズを示すグラフである。
【図13A−13C】50/50の安息香酸ベンジル/ベニバナ油中の300mg/mLリゾチーム懸濁液の写真である。
【図14】室温で、さまざまな濃度での、安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶液の粘度を示すグラフである。
【図15】非水性溶媒中の懸濁液としての粒子の濃度と水性のリゾチーム溶液の理論粘度との関数としての見かけの粘度を示すグラフである。
【図16】懸濁液のカールフィッシャー含水量分析を示すグラフである。
【図17】製剤化直後に撮影した懸濁液の画像である。
【図18】バイアル内のリゾチーム溶液(10mg/ml)の凍結温度プロファイルを示すグラフである。
【図19A−19D】表2に記載の条件でバイアル内での膜凍結により作製したタンパク質粒子の体積サイズ分布を示すグラフである。
【図20】バイアル内での膜凍結により4mlのリゾチーム水溶液(20mg/ml)が凍結したことを示す写真である。
【図21】バイアル内での膜凍結により2mlのヘモグロビン水溶液(150mg/ml)が凍結したことを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多様な実施形態の作製及び使用を以下に詳細に論ずるが、本発明は、多種多様な特定の状況で具体化できる多くの応用可能な発明概念を提供するものであることが理解されるべきである。本明細書中で論ずる特定の実施形態は、単に本発明を作製及び使用するための特定の方式を例証するものにすぎず、本発明の範囲を定めるものではない。
【0010】
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書において定義する用語は、本発明に関連する分野の当業者により通常理解される意味を有する。「a」、「an」及び「the」などの用語は、単数形の実体のみを指すことを意図したものではなく、例証のために具体例が使用されうるその全体的な群を包含する。本明細書中では、本発明の特定の実施形態を説明するために専門用語を使用するが、特許請求の範囲内で概要が述べられている場合を除き、それらの使用により本発明の範囲が定められるものではない。
【0011】
本明細書中で使用する場合、用語「高タンパク質濃度」は、タンパク質濃度が100mg/mlを超える液体、ゲル、ヒドロゲル又はゲル様組成物を指す。
【0012】
本明細書中で使用する場合、用語「非凝集性の(non-aggregating)」又は「凝集しない(not aggregating)」又は「凝集していない(not aggregated)」は、高タンパク質濃度(例えば、100mg/mlを超えるタンパク質濃度)の形態で提供されているにも関わらず懸濁液のままであるタンパク質粒子を指す。
【0013】
本明細書中で使用する場合、用語「注射可能な」は、対象に送達するための、流動可能であるために十分に流動性である最終組成物を指す。例えば、「注射可能な」組成物は、注射器に入れて、過度の力をかけずに注射器から対象に注射するのに十分低い粘度を有する。
【0014】
本明細書中で使用する場合、用語「非沈殿性の」又は「再分散可能な」は、例えば、1時間、2時間、1日、3日、5日、1週間、1カ月、3カ月、6カ月、1年又はそれを超える長期間の後に溶液相のままである(すなわち、沈殿しない)組成物を指す。例えば、組成物が「再分散可能」であるとは、再分散させた際、当該組成物は、薬物の再現可能な投与を妨げるほど急速には凝集しないことである。
【0015】
本明細書中で使用する場合、用語「タンパク質(複数可)」、「ポリペプチド(複数可)」及び「ペプチド(複数可)」は、連結するアミノ酸から形成されて多様な長さの鎖になっているポリマー組成物を指す。
【0016】
本明細書中で使用する場合、用語「添加物(複数可)」は、塩、糖、有機化合物、緩衝液、ポリマー、及び、以下を包含する他の組成物を指す:エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、グルコヘプトン酸ナトリウム、アセチルトリプトファンナトリウム、炭酸水素ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、過テクネチウム酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、クエン酸アンモニウム、塩化カルシウム、カルシウム、塩化カリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酸化亜鉛、亜鉛、塩化第一スズ、硫酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、二酸化チタン、DL−乳酸/グリコール酸、アスパラギン、L−アルギニン、塩酸アルギニン、アデニン、ヒスチジン、グリシン、グルタミン、グルタチオン、イミダゾール、プロタミン、硫酸プロタミン、リン酸、トリ−n−ブチルホスフェート、アスコルビン酸、塩酸システイン、塩酸、クエン酸水素、クエン酸三ナトリウム、塩酸グアニジン、マンニトール、ラクトース、スクロース、アガロース、ソルビトール、マルトース、トレハロース、界面活性剤、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188、モノオレイン酸ソルビタン、トリトンn101、m−クレゾール、ベニル(benyl)アルコール、エタノールアミン、グリセリン、ホスホリルエタノールアミン、トロメタミン、2−フェニルオキシエタノール、クロロブタノール、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、プロピレングリコール、ポリオキシル35ヒマシ油、ヒドロキシ安息香酸メチル、トロメタミン、トウモロコシ油−モノ−ジ−トリグリセリド、ポロキシル(poloxyl)40水素化ヒマシ油、トコフェロール、n−アセチルトリプトファン、オクタフルオロプロパン、ヒマシ油、ポリオキシエチル化オレイン酸のグリセリド、ポリオキシテチル化(polyoxytethylated)ヒマシ油、フェノール(消毒薬)、グリクリグリシン(glyclyglycine)、チメロサール(消毒薬、抗真菌薬)、パラベン(防腐剤)、ゼラチン、ホルムアルデヒド、ダルベッコ変法イーグル培地、ヒドロコルチゾン、ネオマイシン、フォンウィルブランド因子、グルテルアルデヒド、塩化ベンゼトニウム、白色ワセリン、p−アミノフェイル(aminopheyl)−p−アニセート、グルタミン酸一ナトリウム、β−プロピオラクトン、酢酸塩、クエン酸塩、グルタミン酸塩、グリシン酸塩、ヒスチジン、乳酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トリス、カルボマー1342(アクリル酸と長鎖メタクリル酸アルキルとのコポリマーで、ペンタエリトリトールのアリルエーテルで架橋されている)、グルコーススターポリマー、シリコーンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ乳酸、デキストラン40、ポロキサマー(酸化エチレンと酸化プロピレンとのトリブロックコポリマー)、
【0017】
非水性溶媒中の高濃度のタンパク質懸濁液の場合、Krieger-Dougherty式を用いて、溶液の粘度η0に対する懸濁液の相対粘度ηを粒子の体積分率φと相関させることができる(式1)。
【0018】
【数1】
【0019】
固有粘度[η]がアインシュタイン値の2.5に近付くと、排除体積の相互作用のみを有する非相互作用性の球状粒子であると推測される。しかし、粒子が溶媒和して球形状から逸脱し、一次、二次及び三次的な電気粘性効果をもたらす静電相互作用が生じると、[η]は増加する。これまでに実証された非水性のタンパク質懸濁液の場合、およそ2.5の[η]からは、溶媒和、形状、及びリゾチーム粉砕粒子の粘度に対して電気粘性効果が及んでいないことが示唆された。しかし、非水性溶媒は、時に、注射時の痛み、並びに、粒子の放出の遅延及び低速化の原因となることがある。したがって、高濃度で分子的に安定なタンパク質粒子の水ベースの懸濁液は、非水性懸濁液の魅力的な代替品であると考えられる。
【0020】
治療用タンパク質は、例えばモデルタンパク質BSAでは、100mg/mlの範囲の水性媒体中で高い可溶性を有するように設計されうる。したがって、ミクロンサイズの粒子の懸濁液を形成するためには、可溶性を顕著に低下させなければならない場合が多い。水中でのタンパク質の可溶性を低下させることができる沈殿剤は、3つのカテゴリー、すなわち、塩、ポリマー及び水溶性有機化合物に分けることができる。塩は、水和の水を得るための競合、並びに、タンパク質分子との間でより強い相互作用を生じさせるイオン結合により、タンパク質の可溶性を低下させることができる。塩は、さらに、二重層の厚さを減少させることにより静電反発力も低下させる。しかし、注射時の痛みを防止するため、血液の張度である154mM前後の全体イオン強度が典型的には推奨される。タンパク質表面から優先的に排除されるポリマー(最も一般的にはポリエチレングリコール(PEG,polyethylene glycol)は、沈殿の原因となる枯渇引力を生じさせる。PEGは、タンパク質の熱安定性を高めることも知られている。さらに、PEGは、皮下注射剤用の許容される添加剤である。エタノール及びn−メチル−2−ピロリドン(NMP、n-methyl-2-pyrrolidone)などの水溶性の有機添加物は、誘電率を低下させることにより、又、こうした有機添加物がタンパク質表面から排除される結果生じる排除体積効果により、タンパク質可溶性を低下させる。
【0021】
この試験の目的は、モデルタンパク質のウシ血清アルブミン(BSA、bovine serum albumin)の、皮下送達に適したサブミクロン〜ミクロンサイズの粒子の低粘度(50cP未満)、高濃度(100〜350mg/ml)の水性懸濁液を形成することであった。タンパク質の可溶性を低下させることが知られている沈殿剤は、硫酸アンモニウム(代表的な塩)、PEG300(低分子量のポリマー)、及びエタノール及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の組合せを含んでいた。2つの重要な因子、すなわち、タンパク質を含まない溶液の最初の粘度及びタンパク質存在下での固有粘度は、所与の体積分率でのタンパク質懸濁液の粘度に影響する。37μm未満のBSA粉砕粒子をさまざまな水ベースの溶媒に懸濁させて、これらの競合効果を特徴付けた。多くのケースでは、添加物の濃度は、薬学的に許容される限度内であった。多様な粒子濃度の懸濁液の見かけの粘度をKrieger-Dougherty式と相関させて、固有粘度を決定した。この固有粘度を用いて、電気粘性相互作用及び溶媒和相互作用を含め粒子間の相互作用を特徴付けた。薬学的に関連する添加物を含むさまざまな低粘度、高濃度(最大350mg/ml)の水ベースの懸濁液を粉砕BSA粒子について報告する。モデルタンパク質BSAの懸濁液の粘度及び形態の試験から得られた知見は、IgGなどの治療用タンパク質の懸濁液の設計にとって有用であろう。
【0022】
受け入れたBSA粉末又はトレハロース粉末を、磁器製の乳鉢及び乳棒で別々に数分間乾燥粉砕した。次に、この粉砕粉末を、400番メッシュを通して篩過し、37μm未満の粒子を回収した。次に、混合粉砕されるBSA粒子とトレハロース粒子については、必要な比率のBSA対トレハロースを乳鉢及び乳棒で混合し、正確な粒子比率を維持しつつも37μm未満の粒径を保持するために、400番メッシュを通して再度篩過した。既知重量の粉末を、NMP、PEG300及び/又はエタノール、及び塩化ナトリウム又は硫酸アンモニウムの塩からなる水溶液に懸濁させた。pHは、酢酸(pH4.7及び5.5)緩衝液又はリン酸(pH7.4)緩衝液を用いた4.7、5.5又は7.4として選んだ。次に、各バイアルを手で振盪させて、粉末を懸濁液全体に均等に分散させた。必要に応じて、針の先端を用いたさらなる混合を用いて、均一性を確実にした。
【0023】
BSAは、pH4.7の150mM酢酸緩衝液中で5mg/mlにて容易に溶解した。タンパク質が沈殿する程度を決定する目的で、一定分量の5mg/mlのBSA溶液を、添加物を含有する等体積の第2の水溶液と混合した(PEG300、NMP又はその2つの組合せのいずれか)。タンパク質の沈殿を、高度に混濁(HT、highly turbid)、低度に混濁(LT、lowly turbid、わずかに混濁)又は濁度の変化なし(N、no change in turbidity)として分類した。溶液は全て、pH4.7の150mM酢酸緩衝液中で製剤化した。
【0024】
IgG懸濁液の見かけの粘度を、1mlのツベルクリンスリップチップ注射器に取り付けた25ゲージの1.5”針中に0.25mLの懸濁液を引き込む時間として測定した。典型的な時間は、5〜100秒の範囲であった。毎回、プランジャーの末端を1mlの印のところで保持することにより吸引力を維持しながら、各測定を少なくとも3回行って平均した。既知の粘度の液体(PEG200、PEG300、PEG400、水、エタノール、オリーブ油及び安息香酸ベンジル)の測定から、粘度と1mL(測定量の4倍)を引き込む時間とについての線形相関曲線を作製した。この相関は、ハーゲン−ポアズイユ式から推定した場合r2値が0.999超となり、過去に報告されていた。大部分のケースでは、粘度の再現性は5%以内であった。本発明者らの実験では、注射器中の空洞の25%の最大体積に、取込み用の懸濁液を充填した。結果的に、圧力低下は比較的一定であった。圧力低下のわずかな変化により生じる誤差は、各回とも同じプランジャー位置を用いることにより、又、データを既知の粘度の液体と相関させることにより、最小限に抑えた。
【0025】
懸濁液の粘度測定に次ぎ、Eppendorf Centrifuge(型式5810、Wesbury社製、NY)用の2ml遠心管アダプターを備えた回転バケット式の遠心分離ローター(パートA-4-62)を使用して、タンパク質懸濁液を3000rpmで20分間遠心分離した。遠心分離した試料の写真を撮影し、針及び注射器を用いて試料を慎重にデカントすることにより上清を分離した。次に、残ったタンパク質粒子を、穏やかな浴槽超音波処理下で5分間、約15mlのアセトニトリル中に再分散させた。アセトニトリル中でのBSAの溶解量は無視できる規模であった。再分散後、次に、超音波処理した分散液の液滴について、タンパク質の粒径を測定した。この分散液を、小体積(11ml)の磁気撹拌したセルにおけるアセトニトリル中で遮蔽率およそ10%に希釈し、Malvern Instruments Mastersizer Sを用いた光散乱法により粒径を分析した。
【0026】
粒径測定の項で記載した遠心分離の後、次いで、回収した上清を、0.22μmのフィルターを通して濾過し、回収した。次に、濾過した試料をpH4.7の150mM酢酸緩衝液中で総体積0.7mlに希釈した。次に、各試料の3つの200μlアリコートを紫外線透過性の96ウェルプレート上に置き、分光光度計を用いて280nmで画像化した。同じ緩衝液中の3mg/ml、2mg/ml、1mg/ml、0.5mg/ml及び0mg/mlのBSA濃度対280nmでの吸光度の検量線から、0.99超のr2値が得られた。較正曲線を用いて、各試料について可溶濃度値を回帰させた。必要に応じて、その後試料を希釈し、濃度が0.5〜3mg/mlの範囲内になるまで再測定した。
【0027】
水性懸濁液の液滴を、液体窒素を用いて−200℃で維持した凍結アルミニウムのSEMステージ上に瞬間凍結させた。凍結した小滴は、VirTis Advantage Plus XL-70棚型凍結乾燥機を用いて、−40℃での一次乾燥を12時間、次いで、6時間かけて25℃に徐々に上げてから、25℃で少なくとも6時間二次乾燥させて、凍結乾燥させた。凍結乾燥により、SEMステージ上で乾燥粉末試料が作製された。粉砕粒子の乾燥粉末試料を粘着性のカーボンテープ上に置いた。次に、Cressington 208卓上スパッタコーティング装置を用いて、各試料を15nmの厚さに金−パラジウムスパッタコーティングした。次に、加速電圧5kVでZeiss Supra 40VP走査型電子顕微鏡を用いて、顕微鏡写真を撮影した。
【0028】
多様な添加物を加えて、水性緩衝液中でのタンパク質の可溶性を低下させることができる。表1に示す可溶性の濁度試験から、BSAは、純粋なPEG及びNMP又はその混合物いずれを用いた場合も、5mg/mlの低タンパク質濃度であっても沈殿することが示唆される。表2からは、低濁度の懸濁液(LT)が30%で形成されることから、PEGはNMPより強力な抗溶媒剤であることが示唆される。さらに、この2つの抗溶媒剤の混合物は、タンパク質の沈殿に対する相乗効果をもたらすことができる。例えば、20−20%混合物は高い濁度をもたらすのに対し、40%NMPは、濁度を変化させない。最後に、所与の総重量(%)の抗溶媒剤の場合は、PEGの相対的な画分の増加に従い濁度は上昇する。これらの実験から、希薄な5mg/mlのタンパク質濃度であっても、これらの抗溶媒剤により可溶性の限度をはるかに超えることが示唆される。したがって、全体のタンパク質濃度が、注射可能な懸濁液の典型的な濃度の約200mg/mlである場合は、これらの添加物を用いるとごくわずかなタンパク質が溶解するのみであるはずである。
【0029】
図1A〜Cは、本発明の一実施形態のプロセスにより作製された粒子のSEM画像である。図1Aは、元の粉砕粒子のSEM画像である。図1Bは、瞬間凍結及び凍結乾燥させた、200mg/mlの30%PEG300懸濁液のSEM画像である。図1Cは、瞬間凍結及び凍結乾燥させた、350mg/mlの25%PEG300+20%エタノール懸濁液のSEM画像である。
【0030】
元の粉砕粒子の形態を図1Aに示す。平均粒径は20μmであった。このサイズは、内径が241μm未満の25〜27ゲージの針を通過するのに十分小さいように選んだ。最終懸濁液の液滴を凍結及び凍結乾燥させてから、図1B及びCに示す、選んだ2つの沈殿剤について、SEMを利用して懸濁液中の粒径を決定した。粒径は、元の粉砕粒子のサイズよりわずかに大きいのみであり、このことから、粒子凝集又はオストワルド熟成からほとんど成長していないことが示唆された。加えて、図1Cは、より小さい1μm未満の粒子の量がわずかに増加していることを示すものである。これらの結果から、粒径は懸濁液中で本質的に維持できたこと、又、タンパク質の溶解は最小限であったことが示唆される。
【0031】
この項の目的は、タンパク質沈殿の機序を説明し、各クラスの沈殿剤の粘度についての結果の簡単な概要を示すことである。水性媒体中のBSA懸濁液を形成するために、BSA画分の顕著な溶解を防止する媒体を設計しなければならない。pH4.5の純粋な水性緩衝液中のBSAの可溶度は100mg/mlを超える。多様な添加物を水性緩衝媒体に導入して、塩、ポリマー及び水溶性有機化合物などの可溶性を低下させた。
【0032】
表1は、PEGとNMPとの混合物中のBSAの5mg/mlでの沈殿を示す表である。(Nは、添加物を含まない場合に対して濁度が変わらない透明な溶液を示し、LTは低濁度を示し、HTは高レベルの濁度を示す)
【0033】
【表1】
【0034】
可溶性が低下する機序を、各種の沈殿剤について表2に示す。表1でわかるように、3つの多様な添加物群全てについて、200mg/mlの不透明で白色の高濃度の懸濁液の形成が可能であった。表2は、タンパク質の可溶性を低下させる異なる添加物の比較であり、可溶性の低下の機序と、各添加物を加えた150mMのpH4.7酢酸緩衝液中にて200mg/mlで測定した懸濁液の粘度とを示してある。
【0035】
【表2】
【0036】
25gの1.5”針で測定した粘度の選択結果のまとめは、以下により詳細に記載するが、表2にも示してある。1.5Mの(NH4)2SO4では、極度に低い粘度3cPが得られた。この値は、他のPEG+NMPの抗溶媒剤の場合も相当低かった。これらの例の3つは全て、容易に注射可能とみなされるであろう限度内に十分収まっているが、その理由は、26g針から1mlを排出するのに20秒かからないと考えられるからである。これらの結果を、粒子及び懸濁液の形態に関して、及び、はるかに広範な条件について、以下にさらにより詳細に検討する。
【0037】
図2A〜2Eは、遠心分離(3000rpmで20分)の前(図2A及びB)並びに後(図2C〜E)の懸濁液の画像であり、左から右へ、1.5M硫酸アンモニウム(a及びc)、30%PEG300(b及びd)、35%NMP(e)、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中のものである。図2に示すように、可溶性を低下させる多様な添加物は、異なる量の大きな懸濁粒子を生じさせた。懸濁粒子の相対量は、最初の懸濁液の濁度から定性的に明らかである。図2B及び2Eに示すように、30%PEG300+35%NMPについては不透明な白色の懸濁液が形成され、このことから、溶解したタンパク質と比較して懸濁粒子が大量であることが示唆された。この観察は、3000rpmでの20分の遠心分離後の沈殿剤の体積分率により、より定量的に確認され、このことから、非常にわずかなタンパク質しか溶解しなかったことが示唆される。この力は、約400nmを超える全ての粒子を沈降させるのに十分である。これらの結果は、図1Cに示す極低温SEMによる懸濁液中のミクロンサイズのタンパク質粒子の直接観察を支持する。添加物としての1.5M硫酸アンモニウム塩の場合、元の懸濁液は半透明にすぎず、このことから、沈殿の度合いははるかに低いことが示唆された。遠心分離の後、少量の沈殿物のみが存在し(図2A及びC)、元の懸濁液における濁度は相対的に低いという観察と一致した。最初の懸濁液の濁度及び遠心分離後の沈殿剤の体積分率により特徴付けられた通り、沈殿の度合いは、懸濁液の粘性挙動を理解するための重要な因子であろう。
【0038】
表2に示すように、30%PEG300を含む水性懸濁液は、200mg/mlのBSAでは18cPの見かけの粘度を示す。この低粘度は、溶液中の溶解したタンパク質と比較したタンパク質粒子の存在に関して調べてもよい。これまでに実証されているように、30%PEG300を添加すると、BSAの可溶性は、25%ではおよそ6mg/mlから1mg/mlに低下する。こうした可溶性の大きな低下は、表1において、タンパク質濃度5mg/mlでは、沈殿剤である25%〜30%(体積比)のPEG300のレベルについて濁度が増すことにより検証された。
【0039】
30〜50体積%のPEG300のレベルについて、純粋な粉砕BSA粒子の懸濁液を形成した。2つの重要な因子、すなわち、タンパク質を含まない溶液の最初の粘度及びタンパク質存在下での固有粘度は、タンパク質の所与の体積分率での懸濁液の粘度に影響する。表3は、懸濁液の固有粘度データを、電気粘性及び水和の効果と比較するために示すものであり、試料は全て、150mMイオン強度のpH4.7酢酸緩衝液である(別途指示しない限り)。固有粘度の測定については、φ最大を0.64であると仮定した。(NMP:N−メチル−2−ピロリドン、ND:測定せず)。静的光散乱法により決定した平均粒径は20μmであった。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示すように、溶液粘度(タンパク質を含まない)は、30%PEG300溶液の2.6から50%PEG300溶液では6.6に上昇する。しかし、同時に、固有粘度は11.4から7.9に低下した。結果的に、全体的な懸濁液の粘度は約10%低下し、実験の不確定値の2倍であった。興味深いことに、固有粘度は溶媒粘度(タンパク質を含まない)が上昇した分を補うだけ十分には低下しなかったため、粘度は40%PEGの方が30%の場合より高かった。したがって、沈殿剤の量を最適化して、その量が、タンパク質を含まない溶液の最初の粘度に及ぼす効果とタンパク質懸濁液の固有粘度に及ぼす効果とを釣り合わせてもよい。
【0042】
図3は、3000gでの20分の遠心分離後のPEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、30%PEG300、40%PEG300及び50%PEG300、全て、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中。3000gでの20分の遠心分離後は、PEGベースの懸濁液の3つ全てが高度の大きな沈降粒子を呈した(図3)。しかし、30%PEG300懸濁液の場合は、上清はわずかに混濁したように見え、このことから、懸濁した小さいナノ粒子の存在が示唆される。したがって、可溶濃度は、このケースについては測定しなかった。40%及び50%のPEG300懸濁液の場合の可溶濃度は2.0〜2.1mg/mlであり、このことから、200mg/mlでは粒子の99%が懸濁したことが示唆された(表3)。40%及び50%のPEG300懸濁液の平均粒径は、表3に示すように、いずれも粉砕粒子の元の20μmの値前後であった。しかし、30%PEG300懸濁液では、平均粒径は約10μmに低下し、上清の濁度に基づく可溶性の上昇と一致する。このようなサイズの低下は、図1に示すSEMによる観察と一致する。表面積が増加したこうしたより小さい粒子及び溶解したタンパク質が、表3に示す固有粘度の上昇の一因となった。
【0043】
30%PEG300製剤について、より高いイオン強度でさらなる見かけの懸濁液粘度を測定し、これを表4に示す。溶液のイオン強度が増すのに従い、粘度は56から19に低下した。イオン強度の上昇及びデバイ長の減少に伴う電気粘性効果の低下は、固有粘度の、ひいては懸濁液粘度の低下に、顕著に寄与する。
【0044】
【表4】
【0045】
タンパク質の電荷と可溶性とを変化させるために、酢酸イオンを緩衝液として維持しながら、BSAのpI(4.7)からpH5.5に溶液pHを高めた。加えて、pHを7.4に高めるには、酢酸緩衝液イオンではなくリン酸緩衝液イオンを使用した。タンパク質の可溶性は、pHがpIから離れるに従い上昇するので、BSAの低可溶性を確実にするために、50%PEG300添加物を媒体中に含ませた。
【0046】
図4は、多様なpHでの水性懸濁液の見かけの粘度のグラフであり、全て、50%PEG300を含み、NaClを加えて154mMイオン強度としてある。図4に示すように、緩衝液のイオンもpHも、いずれの濃度においても見かけの懸濁液粘度をあまり変化させなかった。50%PEG300については、pHを変化させた場合の溶液粘度はごくわずかに6.0から6.6に変化した。全ての濃度の全てのケースについて見かけの粘度は類似していたので、計算した固有粘度は、pHが上昇した場合に7.9から9.0にわずかに上昇しただけであった。図4の理論上の曲線は、Krieger-Dougherty式を用いて固有粘度(表3)を回帰させることにより決定した。
【0047】
図5は、3000gでの20分の遠心分離後の50%PEG300水性懸濁液の画像である。左から右へ、pH4.7酢酸緩衝液、pH5.5酢酸緩衝液及びpH7.4酢酸緩衝液。図5に示すように、遠心分離後のpH5.5及びpH7.4の試料については、いずれも上清は依然として混濁している。結果として、可溶濃度は決定できず、平均粒径はpH5.5の試料についてしか決定できなかった。pH5.5での平均粒径は、pH4.7での平均粒径と非常に類似しているが、上清の濁度の上昇から、pH4.7の試料中には存在しなかった何らかの追加的なより小さいナノ粒子の存在が示唆される。
【0048】
図6は、NaClを加えて154mMイオン強度とした150mMのpH4.7酢酸緩衝液中にPEG300及び有機添加物を含む水性懸濁液の見かけの粘度のグラフである。図6に示すように、10〜20%の有機添加物を少なくとも25%のPEG300に添加すると、300mg/ml超の極度に高いBSA濃度の場合であっても、懸濁液の見かけの粘度は50cP未満のままであった。さらに、表3に示すように、これらのPEG300+有機懸濁液は全て、BSA濃度250mg/mlでは見かけの粘度が14〜22cPの範囲に低下する。この粘度範囲は、先に述べた、これより高いイオン強度の試料(300mM及び500mM)の場合とほぼ同じである(表4)。これらのPEG300−有機化合物試料は、この試験において測定した中で最も低い固有粘度値(5.8〜6.5)を示した(表3)。10〜20%のNMPを加えた3つの試料は全て、元の20μmの粉砕粒子に非常に近い粒径を示した。加えて、3つのNMP試料全てについての可溶濃度は2.3〜2.9mg/mlであり、このことから、300mg/mlレベルでは、添加したBSAの99%超が懸濁したことが示唆された(表3)。20%エタノールを添加した試料の溶液粘度が最も低く、懸濁液粘度は250mg/mlで最も低い14cPであった(表3)。わずかに高い可溶濃度4.8mg/mlから、添加したBSAの98%超が懸濁したことが示唆された。しかし、懸濁率(%)のこうしたわずかな低下は、平均粒径を7.4μmに減少させるには十分であった。画像化したSEMにおいて、粒径のわずかな低下を見ることができた。
【0049】
前述の試料は全て、モデルタンパク質BSAを粉砕したものを含有しており、分子レベルでの治療用タンパク質のモノマー凝集に対する安定化を助けることができる糖分散保護剤は含有していなかった。BSAはかなり安定なタンパク質であることから、この試験において分子の安定性は考慮しなかった。しかし、粉砕により、多くの治療用タンパク質に不安定性が生じる恐れがある。{Maa}他方、タンパク質粒子を凍結及び凍結乾燥させると、サブミクロンサイズの場合であっても分子的に安定なタンパク質粒子が作製されることが示されている。非常に一般的な分散保護剤は、トレハロースである。
【0050】
図7A及び7Bは、150mMのpH4.7酢酸緩衝液中の多様な比率での粉砕BSA/トレハロースの見かけの粘度を、a)25%PEG300+20%エタノール、及びb)35%PEG300+15%NMPにおける純粋な粉砕粒子の[η]を用いてKrieger-Dougherty式から計算した場合の理論粘度と併せて示すグラフである。図7は、1:0.1〜1:1(重量比)のBSA対トレハロース比率でのタンパク質及びBSA粒子のデータ画像を示すものである。全ての点で、トレハロース対BSAの比率が高い方が、25%PEG300+20%エタノール、又は、35%PEG300+15%NMPのいずれかの中で形成された懸濁液の粘度を単調に上昇させる。トレハロースは添加物を加えた水性溶媒中で可溶性であると考えられるものの、やはり、溶媒又は溶解していない粒子のいずれにも利用できない追加的な排除体積の一因となると考えられる。したがって、この排除体積は、所与の粘度を維持することが可能な最も高い粒子の含有量を低下させると考えられる。図7では、トレハロースを含まないそれぞれの懸濁液について同じ固有粘度を用い、最大体積画分を0.64と仮定して、理論上のラインを計算した。
【0051】
抗体治療薬は、現在、年間150億ドルの市場規模を構成し、抗癌性、抗感染性及び抗炎症性の疾患における需要に対処している。大きなタンパク質分子であることから、こうした治療薬は現在、送達するには直接注射(静脈内又は皮下)が必要である。必要な用量が非常に大量であり頻繁に投与されることから、このことは、薬物送達にとって大きな障害であり、小口径の注射器での皮下送達を実現するためには、高濃度(100mg/ml超)、低体積(1.5ml未満)、低粘度(100cP未満)のフォーマットで抗体を製剤化しなければならない。こうした仕様は伝統的な溶液製剤(トレハロースを含有するリン酸緩衝液中のもの)を用いて達成するのは非常に困難であったが、溶解を防止するために塩及び沈殿剤を含有する水性溶媒中の凍結乾燥抗体の懸濁液は、可能性のある選択肢である。本発明者らは、モデルタンパク質BSAを用いたこのアプローチの成功をこれまでに実証しており、ここでは、この技術のポリクローナル抗体への拡張を示す。ここで、本発明者らは、免疫グルブリン(immunoglublin)を最大200mg/mlの濃度で、低粘度で凝集のない水性懸濁液(モノマータンパク質比率96%)として調製することができるという証拠を初めて示す。
【0052】
ヒツジ血清から生成したIgG(製品番号I5131)をSigma-Aldrich, Inc.から購入した。α−αトレハロース、平均分子量300のポリエチレングリコール(PEG300)、硫酸アンモニウム、USPグレードのエタノール及びn−メチル2−ピロリドン(NMP)をFisherChemicalsから購入した。
【0053】
既知量のIgGを、α−αトレハロースを含有する適切な量の20mMのpH5.5ヒスチジン緩衝液に溶解させた後、予め冷却しておいた凍結乾燥機の棚上で−40℃にて試料をゆっくり凍結させた。次に、−40℃、100mTorrで12時間、次いで25℃に徐々に上昇させて50mTorrで6時間、試料を凍結乾燥させて、少なくともさらに6時間かけた25℃、50mTorrでの二次乾燥のために維持した。次に、1mgの粉末を計り分け、以下に記載のサイズ排除クロマトグラフィーによる安定性分析用に、200mMのpH7.0リン酸緩衝液中にて1mg/mlで再構成した。
【0054】
5mg/mlのIgG溶液のアリコートを、タンパク質可溶性の低下を目的とした添加物を含有する等体積の第2の水溶液と混合した。タンパク質の沈殿を、24時間後、波長350nmでの溶液の濁度上昇により特徴付けた。溶液は全て、PEG300及びNMPを添加したpH6.4の20mMヒスチジン緩衝液中で製剤化した。100μlアリコートの最終製剤の濁度を、紫外線透過性の96ウェルプレート上で分光光度計を用いて測定した。
【0055】
タンパク質を含まず、さまざまな体積%のNMP、PEG300及びエタノールを含有する水ベースの溶媒混合物と、多様なモル濃度の塩化ナトリウム又は硫酸アンモニウムの塩とを混合して、均一な透明溶液を形成した。これらの溶液を、ヒスチジン緩衝液又はリン酸緩衝液のいずれかをpH6.4(ヒツジIgGの等電点)で用いて、さまざまなイオン強度で緩衝化した。次に、タンパク質試料を、粉末重量が所望の重量の5%以内であるように0.1mlの円錐形のバイアル中に詰めた。粉末重量は、最終的なタンパク質濃度及び添加剤/タンパク質比率に応じて決定した。測定した量の調製済みの水ベースの溶媒混合物を円錐形のバイアルに加えて、総体積が0.1mlの懸濁液を形成した。この混合物を、針の先端部を用いて撹拌してエアポケットを除去し、十分な均一性を有する懸濁液を形成した。超音波処理は使用せず、その必要もなかった。次に、均一な懸濁液の液滴を顕微鏡のスライド上に置いて懸濁液を画像化し、10μlの懸濁液を200mMのpH7.0リン酸緩衝液中で1mg/mlに希釈して、以下に詳述するサイズ排除クロマトグラフィーにより、タンパク質のモノマーの割合を測定した。
【0056】
IgG懸濁液の見かけの粘度は、1mlツベルクリンスリップチップ注射器に取り付けられた25ゲージの1.5”針中に50μlの懸濁液を引き込む時間として測定した。タンパク質のコストを考慮して、試料体積を最小限に抑えるために円錐形状のバイアルを使用した。懸濁液を含有する円錐形のバイアルのビデオを撮影し、円錐の底からの高さ0.4”の位置から、円錐の底からの高さ0.1”の位置まで引き込む時間を、Image Jソフトウェアを用いて測定した。高さの不確定率は約1%であった。ビデオは、1秒当たり20画像を有する画像スタックに変換したので、0.05秒内まで時間を測定した。毎回、プランジャーの末端を1mlの印のところで保持することにより、各測定について一定の吸引力を維持しながら、各測定を少なくとも3回行って平均した。大部分のケースでは、粘度の再現性は10%であった。モデルタンパク質の懸濁液を用いた過去の研究から、注射器中で特定量の試料を吸い上げる時間は粘度と直線的に相関することが見出された。注射器中の空洞の最大体積10%に、取込み用の懸濁液を充填した。結果的に、圧力は本質的に一定であり、粘度は、ポアズイユ式から得ることができる。この場合、多様な粘度の標準溶液(純粋なDI水、エタノール、PEG200、PEG300、PEG400及び安息香酸ベンジル)を用いると、0.99超のr2値を有する、円錐形のバイアルから0.05mlを引き込む時間と粘度との間の線形相関が得られた。
【0057】
凍結乾燥後の乾燥粉末の走査型電子顕微鏡法(SEM、scanning electron microscopy)用試料を粘着性のカーボンテープ上に載せた。次に、Cressington 208卓上スパッタコーティング装置を用いて、各試料を15nmの厚さに金−パラジウムスパッタコーティングした。次に、加速電圧5kVでZeiss Supra 40VP走査型電子顕微鏡を用いて顕微鏡写真を撮影した。Nikon Optiphot2-Pol(Nikon Instruments Inc.社製、Melville、NY)顕微鏡に取り付けたMTI CCD72(Dage-MTI社製、Michigan City、IN)カメラを用いて、ガラスの顕微鏡スライド上で最終懸濁液の液滴の光学顕微鏡画像を撮影した。
【0058】
型式717プラスのオートサンプラー、2487二重波長検出装置及び1525バイナリーポンプを備えるWaters BreezeのHPLCシステム(Waters Corporation社製、Milford、MA)に取り付けたTosoh Biosciences G3000SWXLサイズ除去カラム、次いで、G2000SWXLサイズ除去カラムを用いることにより、最初の溶液のモノマー比率(%)、再構成した粉末及び最終的な希釈した懸濁液を分析した。200mMのpH7.0リン酸緩衝液中で約1mg/mlに再構成するか又は希釈した調製試料を、0.22μmのMillex-GVフィルターを通して濾過して、分析の前に大きな凝集体を除去した。移動相は、流速0.7ml/分、pH7.0の200mMリン酸緩衝液及び50mM塩化ナトリウムからなるものであった。検出波長は214nmであった。注射体積20μlの、約1mg/mlの調製試料を使用した。モノマーはおよそ21.5分で溶出し、この前の最後の数分にわたり、サイズに応じて、より高い分子量の凝集体が溶出した。
【0059】
図8A〜8Eは、多様なIgG凍結粉末のSEM画像である。図8Aは、1:1のIgG対トレハロース比率で凍結させた40mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Bは、1:0.5のIgG対トレハロース比率で凍結させた55mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Cは、1:0.5のIgG対トレハロース比率で凍結させた25mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Dは、トレハロースを含まない場合の40mg/mlのIgGのSEM画像である。図8Eは、1:1のIgG対トレハロース比率での20mg/mlのIgGのSEM画像である。α−αトレハロースにより安定化させたIgGの大きなミクロンサイズの粒子を、20mMのpH5.5ヒスチジン緩衝液中で、20〜80mg/mlの多様な最初のIgG濃度で1:1、0.5:1、0.25:1又は0:1比率のトレハロース対IgGを用いた凍結乾燥により作製した。最終的な乾燥粉末のSEM顕微鏡写真は、トレハロースを含まない場合(図8Dも含めた)各トレハロース対IgG比率(図8A及び8B)について、より高い濃度(40〜80mg/ml)で凍結させた粒子では、相対的に少ない微粒子(約数百ナノメートル)を有する大きな10〜100μmの粒子を示す。大きな粒子は、それぞれ、より低い濃度(20mg/ml及び25mg/mlのIgG)、高比率のIgG対トレハロース(1:1及び1:0.5)で凍結させたタンパク質での目に見えるより小さいクモの巣様の形態とは対照的である(図8C及び8E)。凍結中、より高濃度のタンパク質はより大きく成長し、したがって最終的な粒子はより大きくなる。
【0060】
SECによる相対的な安定性を、pH7.0リン酸緩衝液中の乾燥粉末の再構成後のモノマーピークの面積比率(%)の、同じpH7.0リン酸緩衝液中で希釈した最初の粉末に対する差と定義した。この相対的な安定性は、少なくとも98.6%であり、それより高い場合が多かった。トレハロースを一切含めずに凍結させた40mg/mlのIgG粉末の場合であってもこの安定性は高く、このことから、この手法により測定されるのと同じ高い安定性を達成するには凍結保護剤は必要ないことが示唆された。しかし、この98.6という値は、表の中の、トレハロースを含めた他の例全ての値より低い。このことから、凍結保護剤は安定性を高めるには有益であると考えられるので、トレハオルス(trehaolse)を含めた。
【0061】
多様な添加物を含む5mg/mlのIgG溶液の沈殿。先に詳細に記載したように、IgGの可溶性を低下させるために多様な添加物を加えることができる。本発明者らは、IgG濃度が5mg/mlの場合の、高いモル濃度(1.5M)の硫酸アンモニウム溶液中での沈殿を観察することにより、このことを確認している(光学密度は測定していない)。
【0062】
図9は、350nmで測定した際の、IgGの可溶性を低下させるために総量が溶媒の50体積%の多様な添加物を用いた場合のIgGの光学密度のグラフである。右側には、添加物を加えていないpH6.4の20mMヒスチジン緩衝液中の5mg/ml濃度のIgGの吸光度を示してある。図9に示すように、濃度5mg/mlのIgGでは、350nmでの吸光度は、pH6.4での純粋なタンパク質溶液の場合の約0.05から、pH6.4の50体積%PEG300溶液の場合の約0.6に上昇する(図9)。pH6.4の50体積%NMP溶液中のこの濃度でのIgGの場合の方が、350nmでの吸光度が約0.2で、50%PEG300の場合より有意に低かった(図9)。PEG300+NMP全体で溶媒の50体積%の混合試料の350nmでの吸光度と、少なくとも25%のPEG300の吸光度とは類似していた。25%PEG300+25%NMPの混合溶液の場合は、NMPの比率(%)が約0.6から0.5に増すにつれ吸光度はわずかに低下した。しかし、PEGを一切含まない50%NMP溶液の場合は、はるかに低い吸光度約0.2が観察された。これらの実験から、低いタンパク質濃度5mg/mlであっても、タンパク質はこれらの添加物と共に沈殿することが示唆される。したがって、全体のタンパク質濃度が、注射可能な懸濁液用の典型的な濃度の約200mg/mlである場合は、これらの添加物によりごくわずかなタンパク質のみが溶解することになる。
【0063】
粒径の関数としての懸濁液形態。凍結乾燥粒子中でのトレハロース対タンパク質の比率に加えて、粒子のサイズ及び表面積により、懸濁液の形態及び粘度(注射可能性)は変化することになる。最適な粒径は、25ゲージ針から吸い込まれるのに十分小さいが水和及び電気粘性力が粘度に及ぼす有害な効果を最小化するのには十分大きい粒子を含有する。さらに、粒子の表面積の減少により、タンパク質の変性及び凝集が低下する場合がある。
【0064】
図10A〜10Dは、多様なIgG懸濁液の画像である。A)1.5Mの硫酸アンモニウム塩を加えた20mMのpH6.4ヒスチジン緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液。B)50%PEG300を含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液。C)35体積%PEG300+15体積%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液、24時間後。D)35体積%PEG300+15体積%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:1の20mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液。
【0065】
図10A及び図10Bでは、高濃度の懸濁液を、懸濁液の形成後最初に、2つの異なる添加物、IgG濃度200mg/mLの場合について示す。懸濁液は白色で不透明であった。経路長は、円錐の中間点でおよそ0.5cmであった。図4における光学顕微鏡法で、懸濁液の小滴中の粒子をさらに特徴付けた。ミクロンサイズの粒子は、数ミクロンから10ミクロンの範囲で存在し、図8におけるSEMの乾燥した最初の粒子と一致する。図10Cは、24時間後、図10A及び図10Bのこれらの懸濁液がわずかに沈降した典型例を示すものである。図10Dでは、懸濁液のSEMにおいて、又、光学顕微鏡法により明らかなように、凍結乾燥のための最初の濃度ははるかに低い20mg/mlであり、粒子ははるかに小さかった。より小さいこれらの粒子は光を同様に強くは散乱させず、懸濁液の外見は、白色で不透明ではなく、半透明であった。
【0066】
図11A〜11Eは、多様なIgG懸濁液の顕微鏡画像である。図11Aは、1.5Mの硫酸アンモニウム塩を加えた20mMのpH6.4ヒスチジン緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Bは、50%PEG300を含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Cは、35%PEG300+15%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:0.5の55mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Dは、35%PEG300+15%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:1の20mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。図11Eは、35%PEG300+15%NMPを含む50mMのpH6.4リン酸緩衝液中の、IgG対トレハロース比率1:1の80mg/mlのIgG粒子で作製した200mg/mlのIgG懸濁液の画像である。表5は、20mMのpH5.5ヒスチジン緩衝液中で多様なタンパク質濃度及びトレハロース比率で作製したIgG凍結乾燥粉末を示すものであり、サイズ排除HPLCにより、乾燥粉末の安定性について特徴付けてある。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
図11Eに示すように、80mg/mlで凍結させた純粋なIgG粒子の場合に、最も大きい粒子が形成された。大きい粒径は、凍結乾燥中の高い出発濃度が原因で生じた。この粒子を、表2に記載する35%PEG300+15%NMP溶媒に懸濁させた。粒径は50ミクロン超に達し、したがって、この粒子は25ゲージの注射器を通って流れなかった。これに対し、図11に示す、より小さい粒子は、全て注射可能であった。
【0070】
【表7】
【0071】
100cP未満の粘度は、25ゲージの1.5”注射器による注射可能性にとって十分である。200mg/mlまでの濃度のIgGの懸濁液について、注射可能な粘度を得た(表6〜8)。BSA粉末{Miller、水性BSA}について前に見たように、トレハロースなどの凍結保護剤を添加すると懸濁液の粘度は高まることになる(表6)。この上昇は、主に、凍結保護剤により占められる排出体積が原因である。例えば、表6では、0.5:1のトレハロース対IgG比率の場合は104であるのに対し、トレハロースを含まない200mg/mlのIgG懸濁液の粘度は52cPである。トレハロースを加えると、溶質全体(トレハロース+IgG)の濃度は300mg/mlに上昇する。IgG対トレハロースの比率を1:1に高めることにより総溶質濃度を400mg/mlにさらに高めると、粘度はさらに194cPに上昇する。したがって、安定なタンパク質分子を形成するための凍結保護剤に対する潜在的な必要性は、凍結保護剤の排除体積による粘度の上昇に対して釣り合わせなければならない。前述の可溶性試験において見られた沈殿と懸濁液の粘度との間の関係を調べるために、55mg/mlのIgG 0.5:1トレハロース:IgG粒子を用いて一連の試験を実施した。表7の最初の3つの項目における添加物の条件については、図9の可溶性の決定における低タンパク質濃度の5mg/mlであっても、高いODが得られた。これらの150mg/mlタンパク質懸濁液用のバイアルは、図3に示すように白色で不透明なものであった。これらの試料は、57〜98cPの測定可能な粘度を有した。15%のみ又は0%のPEGと残りNMPとを含む最後の2つの項目における添加組成物については、5mg/mlタンパク質での沈殿試験ではODははるかに低く、このことから、より高いタンパク質可溶性が示唆された。これらの添加組成物及び150mg/mlの懸濁液については、粘度は、非常に高い287cPであるか、又は、ペースト様のゲルが形成されたことから測定不可能であるか、のいずれかであった。したがって、図9において5mg/mlで顕著なタンパク質沈殿の原因となる添加組成物も、より低い粘度をもたらすのに有益である。溶解したタンパク質対ミクロンサイズのタンパク質タンパク質粒子の比率が低下するのに従い、粘度は低下する。この低下は、溶媒和及び電気粘性力の低下が原因と考えられるが、この機序をより完全に説明するにはさらなる特徴付けが必要と考えられる。
【0072】
表8では、種々の添加物条件は、表6及び7における条件以外のものである。水溶液は、純粋な塩、純粋なPEG300、並びに、塩、PEG300及び水溶性の有機添加物の混合物を溶液の最大合計50%含有していた(表8)。これらのケース全てにおいて、25Gの1.5”針で注射可能な水ベースのIgG懸濁液が得られた。これらのケースのそれぞれにおいて、40〜55mg/mlのIgG凍結濃度を考慮して、ミクロンサイズの粒子を形成した。この表における全ての懸濁液について、ミクロンサイズの粒子の存在が光学顕微鏡で確認された(選択試料を図11に示す)。高いモル濃度の塩(1.5M)添加物は、IgG濃度が200mg/mlで、最も低い粘度の12.2cPを示した(表8)。トレハロースを加えたIgG濃度200mg/mlでは、次に低い粘度は、50%PEG300試料の場合の79cPであった(表8)。pH6.4では、15%NMPを加えPEG300を35%に減らすと、懸濁液の粘度は104cPまで高まる(表8)。同様の誘電率を有する異なる有機添加物エタノールは、同じ15%レベルで、わずかに低い92cPの粘度を示した(表4)。BSAについてこれまでに実証されているように、タンパク質の可溶度を5mg/ml未満に低下させる多様な添加組成物は、100mg/ml超のIgG濃度で、高度に沈殿した懸濁液及び100cP未満の粘度を示すことが多いと考えられる。ある添加組成物は、そのような粘度の最大200mg/mlのタンパク質を可能にし、より高いタンパク質濃度でさえ、さらなる最適化により実現できると考えられる。
【0073】
表5において言及したように、モノマー凝集に対して高度に安定なタンパク質を含有する粉末は、トレハロースを凍結保護剤として含んでも、又は含まなくても実現した。本発明者らは、さらに、懸濁液の形成後のタンパク質安定性を調べた。最終懸濁液については、最終的なIgG濃度の約1mg/mlを得るのに必要なpH7.0リン酸緩衝液中で10μlの懸濁液を希釈した。再希釈後のモノマー比率(%)を再構成時に最初の凍結乾燥粒子のモノマー比率(%)と比較したときとの間の差として、相対的な安定性を測定した。トレハロースが0.5:1以上の比率で存在し有機溶媒(NMP又はエタノール)を含まない表6〜8に示す例の全てについて、モノマー比率(%)は高く、少なくとも97%であった。モノマー比率(%)はいくつかのケースでは100%を超えたが、その理由は、実験誤差であるか、又は、入手したままの出発バルク材料と比較してモノマーの割合が実際に増加しているかのいずれかであった。PEGはタンパク質の熱安定性の維持を助けることが知られているため、PEGレベルの高い系の高い安定性は予想されたことであった。{Stevenson}高い安定性は、表4の最後の2つの列で、高い塩濃度(1.5M硫酸アンモニウム)を有する2つのケースについて示されている。高い塩濃度により、非常に低いタンパク質可溶性がもたらされ、ミクロンサイズのタンパク質粒子の存在に有利である。
【0074】
表6における、トレハロースを含まない2つの試験については、タンパク質凝集が顕著であった。トレハロースを含まない粉末を懸濁させた後では、SECは、モノマー比率(%)がおよそ20%低下して小さな凝集体になっていることを示している(表6の列2)。トレハロースの比率が不十分(0.25:1のトレハロース対IgG比率)な粒子については、モノマー比率(%)のより小さい低下、約15%が見られた(表6)。つまり、表5における最初の粉末については、トレハロースが安定性に及ぼす効果は小さいという事実にも関わらず、懸濁液中でのタンパク質の安定性を維持するためにトレハロース対IgGの比率0.5:1でのトレハロースが必要であった。
【0075】
NMP及びPEGを含有する系に関して、挙動はより複雑である。表7の最初の3つの列に示すように、一定の全体の添加物濃度が50%の場合、タンパク質安定性はNMP濃度の上昇に伴い低下する。しかし、35%PEG300+15%NMPを含む、より高い1:1のIgG対トレハロース比率では、最初のモノマーは98%であった。このことから、より高い比率のIgG対トレハロースは、より高度の有機添加物(NMP)を補って安定性を維持すると考えられる。
【0076】
この懸濁液のタンパク質安定性は、可溶性を低下させるための薬剤を添加していない緩衝液中のタンパク質の安定性と比較してもよい。55mg/mlの最初のタンパク質で形成された粉末(表5)を、他の添加物を一切含まないpH6.4緩衝液に加えた。その結果得られた混合物は、半透明で、表5〜8における項目のいずれよりも濁度が低かった。16,100gでの遠心分離の際、総タンパク質体積の10%未満の体積の沈殿物が形成された。つまり、タンパク質の大部分が溶解した。前述の懸濁液の際と同じ手順の場合、モノマー比率(%)は70%であった。これに対し、表6に示すミクロンサイズの粒子の不透明な白色の懸濁液については、200mg/mlレベルでの同じ粉末(55mg/ml)の場合、モノマー比率(%)は97.1であった。このことから、ミクロンサイズのタンパク質粒子は、もともと高濃度で溶解された状態のタンパク質よりはるかに安定であると考えられる。
【0077】
高濃度(40〜55mg/ml)で凍結及び凍結乾燥させた粒子を用いて、SECにより測定した通り安定な、モデルIgGの高濃度の水ベースの懸濁液を作製した。この濃度範囲(40〜55mg/ml)では、SECにより98%超安定であることが見出された直径約10〜100μmの粒子が作製された。トレハロースをトレハロース対IgGの最低比率の0.5:1で含む粒子を安定化させることにより、最終懸濁液も、元のモノマー比率(%)の少なくとも92%を維持することが見出された。IgGの可溶性は、高い塩(1.5M硫酸アンモニウム)、PEG300(溶媒の50体積%)、又は、PEG300とエタノール又はNMPとの組合せ(全体で溶媒の50体積%)を加えることにより、水ベースの溶媒中で5mg/ml未満に低下した。溶媒粘度が依然として約1cPである高い塩懸濁液の、25gの1.5”注射器を通る見かけの粘度は、200mg/mlの安定な(SECによる)IgG懸濁液については、およそ12cPで最も低かった。全体で見れば、高濃度の懸濁液について得られたモデルIgGの安定性、及び、25gの1.5”針を通る低粘度(100cP未満)から、皮下送達におけるタンパク質治療薬の進歩の可能性が示唆される。
【0078】
100〜400mg/mlの範囲の高濃度のタンパク質及びペプチドの、25〜27ゲージの針を通した皮下注射による送達は、粘度が約50cP未満の安定な溶液又は懸濁液については実現可能となる。安息香酸ベンジル、又は植物油を含む安息香酸ベンジル混合物中のリゾチーム微小粉砕粒子の懸濁液については、最大400mg/mlのタンパク質の場合、この限度を下回る粘度が達成された。タンパク質分子は、少なくとも2カ月間は凝集に対して安定であり、室温で1年間保管した後、懸濁液中の固形粒子は再懸濁可能であった。懸濁液の粘度と粒子の体積分率との間の相関から、粒子間の相互作用の主な原因は、単純に、この高濃度の粒子が、静電反発力、粒子の溶媒和又は粒子形状の球状表面形状からの逸脱などの追加的な力からの効果をほとんど受けないことによるものであったことが示唆される。これに対し、こうした追加的な力は、水溶液中のコロイド状タンパク質分子の粘度が大きく高まる原因となることがある。したがって、高濃度のタンパク質懸濁液については、タンパク質溶液と比較して低い溶媒粘度により、皮下注射にとっての新規の機会がもたらされると考えられる。
【0079】
本明細書中で使用する場合、「安定なタンパク質」は、溶解した状態で個々のタンパク質分子の変性又は凝集などの不安定性を示さないタンパク質を指す。こうした不安定性は、光学濁度法、動的光散乱法、サイズ排除クロマトグラフィー、分析用超遠心分離及びタンパク質依存活性アッセイなどの手法により測定できる。
【0080】
本発明で使用するための溶媒としては、その中で、非水性懸濁液により、2カ月の保管にわたり粒径が変化しない安定な粒子がもたらされ、タンパク質可溶性が0.03mg/ml未満のものが挙げられる。この溶媒は、タンパク質粒子の安定性に悪影響を与える原因になってもいけない。懸濁液中の粒子中への水の吸収は、同じ相対湿度で周囲空気条件にさらされた粒子中への水の吸収にほぼ等しい非水性溶媒の場合は、タンパク質粒子の安定性を得ることができる。加えて、非水性溶媒は、容器の底で粒子が固まって、再懸濁不可能な懸濁液を生じさせる原因となる粒子間の引力を防止するために、低い誘電率(37.5未満)を有するべきである。
【0081】
この試験の目的は、高投与量のモノクローナル抗体を25〜27ゲージの注射器を用いた皮下注射により送達するための高濃度のタンパク質懸濁液を作製することであった。37μm未満のリゾチーム粒子の、濃度が50〜300mg/mlの懸濁液を、薬学的に許容される溶媒であるベニバナ油と安息香酸ベンジルとの50/50体積の混合物を加えて製剤化した。この溶媒混合物は、FDAの不活性原料リスト18上で公開されている認可範囲内であった。安息香酸ベンジルは、分散液の形成及び注射を容易にするベニバナ油より粘度が低いが、現在、注射用としてはFDAにより純粋溶媒として認可されていない。しかし、毒性がないことが示されていることから、将来的には認可される可能性があることが示唆される。認可された溶媒混合物、並びに、純粋な安息香酸ベンジル中の製剤の見かけの粘度は、Krieger-Dougherty式により、少なくとも300mg/mlの濃度までの許容される範囲であり、懸濁液の理論粘度と相関することが示されるであろう。均一な用量を得る必要性は、沈降速度の測定により対処し、懸濁液のアリコートの濃度測定により確認する。粒子のコロイド安定性及びタンパク質分子の安定性は、経時的な粒子及びタンパク質の凝集を測定することにより対処し、多様な懸濁液中の含水量を分析することによりさらに確認する。
【0082】
凍結乾燥粉末形態のリゾチームをSigma Chemical Company(St.Louis、MO)から購入した。ACSグレードのアセトニトリル及びUSPグレードのエタノールをFisher Chemicals(Fairlawn、NJ)から受け入れたままの状態で使用した。食品用のオリーブ油及びベニバナ油を、最初の試験用に食料品店から購入した。安息香酸ベンジルをAcros Organics(New Jersey)から、N.F.グレードのオレイン酸エチルをSpectrum Chemical Corp.(Gardena、CA)から入手した。
【0083】
受け入れたリゾチーム粉末を、磁器製の乳鉢及び乳棒で数分間乾燥粉砕した。次に、400番メッシュを通してこの粉砕粉末を篩過し、37μm未満の粒子を回収した。次に、試料を計量し、測定した量の安息香酸ベンジル、又は安息香酸ベンジル/ベニバナ油の予め混合されている50/50体積の混合物に加えた。次に、各バイアルを手で振盪させて、粉末を懸濁液全体に均等に分散させた。
【0084】
粒径は、Malvern Mastersizer-S(Malvern Instruments, Ltd.社製、Worcestershire、UK)を用いた多角レーザー光散乱法により測定した。粉砕して篩過した粉末試料のサイズを、大きな再循環セル(約500ml)におけるアセトニトリル中の懸濁液として、小さいバッチセル(Malvern、Worcestershire社製、UK、約15ml)に入ったエタノールに加えた直後に測定した。各ケースにおいて、測定中の遮蔽率は10〜15%であった。懸濁液を2カ月間室温で保管した後、小さいバッチセルに入ったエタノール中の試料を振盪し希釈させた直後に粒径を再度測定した。
【0085】
粘度は、1mlの試料を、25gの5/8”又は27gの1/2”の針を用いて注射器中に引き込む時間として測定した。各測定は少なくとも3回行って平均した。Liu et al.は、この測定時間が粘度と直線的に相関することを見出した。各純粋な液体、安息香酸ベンジル、エタノール、オレイン酸エチル及びオリーブ油の既知の粘度から、1mlの溶液を引き込む時間と粘度との間の相関が各針サイズについて見出され、0.999超のr2値がもたらされた。各純粋溶媒中の懸濁液の見かけの粘度をこれらの相関から計算し、2つの別々の針サイズについて値を平均して、各試料の最終的な見かけの粘度の平均を得た。安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物の添加試料を、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%及び90重量%の安息香酸ベンジルで作製した。各試料の粘度を前述の通り計算した。
【0086】
溶媒中の粒子の沈降速度は、直径13mmの試験管中の懸濁液を振り混ぜることにより測定した。標準的なデジタルカメラで、10分後、30分後、60分後、90分後、120分後、150分後、180分後、210分後、240分後、1200分後及び1440分後に写真を撮影した。試料の最終的な沈降体積を測定するために、懸濁液の入ったバイアルを静かに4カ月間放置して、沈降懸濁液の画像を撮影した。ImageJソフトウェアを用いて、メニスカスから沈降表面までの距離について全ての画像を分析した。沈降懸濁液についての最大体積画分は、懸濁液全体における粒子の体積分率を、4カ月間の沈降後、粒子を含有する体積の全体の体積に対する比率で割ることにより定義した。
【0087】
水溶液中のリゾチームの濃度を、Micro BCA Protein Assayのためのプロトコールに従い測定した。各試料を、一般的なアッセイ用の96ウェルプレート中で相対標準偏差(%RSD,relative standard deviation)2%未満で3回測定した(以下に記載の統計分析を参照のこと)。吸光度は562nmで分光光度計にて測定した。未処理のリソザイム(lysosyme)の検量線を、2〜30μg/mlの濃度で準備した。
【0088】
高濃度の懸濁液からのリゾチームの分離及び溶解を、pH7.4リン酸カリウム緩衝液中で測定した。Vanderkamp VK650Aヒーター/循環装置付きのVanKel VK6010 Dissolution Testerを用いたUSPパドル法を用いた。容積が1Lの大きな溶解容器(Varian Inc.社製、Cary、NC)中で、900mlの溶解媒体を37℃に予熱した。合計18mgのリゾチームが得られる高濃度の懸濁液の試料を加えた。2分、5分、10分、20分、40分、60分、120分及び240分が経過した時点で1mlの試料を採取し、先に述べたMicro BCAタンパク質分析を用いて分析した。
【0089】
0.1mlの高濃度のリゾチーム懸濁液を、4mlのDI水の入った試験管に加えた。次に、この混合物を穏やかに混合して、タンパク質が水相に分離するように3日間放置した。次に、水相を分離して試料を希釈し、前述の要領でMicro BCA Protein Assayを用いて濃度を調べた。残っている水溶液を濃度1mg/mlに希釈した。この溶液を、96ウェルプレート中の少なくとも3つの300μlアリコートを用いて光学密度について試験し、μQuant分光光度計を350nmで用いて分析した。標準的なリゾチーム水溶液を1mg/mlの濃度で作製し、純粋な安息香酸ベンジル溶媒及び安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物に3日間曝露させて、油−水界面に誘導されたタンパク質凝集の標準として測定した。いずれの有機溶媒にも曝露させていない水溶液も、作製して全ての測定用の標準的な吸光度として使用した直後に測定した。
【0090】
再懸濁した高濃度のリゾチーム懸濁液の3つの別々の0.1mlアリコートを、8mlのDI水の入った試験管に加えた。次に、この混合物を穏やかに混合して、タンパク質が水相に分離するように1日間放置した。次に、水相を分離し、100%のタンパク質が分離していれば、理論濃度の20μg/mlに希釈した。次に、前述のMicro BCA タンパク質アッセイを用いて実際の濃度を分析した。
【0091】
カールフィッシャー水分分析。4カ月間保管した後、0.1mlの再分散させた高濃度の懸濁液の試料を、19ゲージ針を用いてAquatest 8 Karl-Fischer Titrator(Photovolt Instruments社製、Indianapolis、IN)の滴定セルの隔壁を通して挿入した。各懸濁液、純粋な安息香酸ベンジル、及び安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物を3回測定して平均した。
【0092】
極性決定。光学顕微鏡(Bausch & Lomb社製、倍率10倍)により個々の粒子がスライド上で見えるようになるまで、一定分量の懸濁液のアリコートを溶媒で希釈した。微量電気泳動を用い、粒子上に電荷が存在するかどうかを確認した。希釈した粒子分散液を、1mm離して配置した2つの並行のワイヤー電極(直径0.01インチのステンレス鋼304のワイヤー、California Fine Wire社製)間に配置した。電極をガラスの顕微鏡スライドに固定して、光学顕微鏡法により観察した。電極の極性を15〜60秒毎に切り替えて、10〜100Vの電位をかけた。
【0093】
試料を、タンパク質濃度、カールフィッシャー水分分析、懸濁液均一性、光学密度、及びリゾチームの水への分離速度について3回測定して、平均、標準偏差及び相対標準偏差(標準偏差/平均)を決定した。
【0094】
乳鉢及び乳棒により粉砕し400番のふるいを通して篩過したリゾチーム粒子の場合、光散乱測定による平均粒径はおよそ20μmであった(図12)。小規模の第2のサブミクロンピークも、全ての測定において視認できた。しかし、15mlの小さなバッチセルは500nmまでの粒径についてしか目盛が付いていないことから、このピークは分析に含めなかった。次に、粒子及び溶媒の入ったバイアルを手で振盪させ、粒子を分散させて均一な懸濁液を形成した(図13B)。粒子の懸濁液を静置すると、懸濁液は、24時間後であっても部分的に懸濁した状態が残るだけ十分ゆっくり沈降し(図13C)、高濃度の懸濁液は2カ月後でも体積の相当な部分を占める(図13A)。
【0095】
溶媒混合物及び懸濁液の粘度。純粋溶媒の既知の粘度を用いて、1mlの試料を引き込む時間と粘度との間で相関させた。この種の相関は、ハーゲン−ポアズイユ式
【0096】
【数2】
【0097】
(式中、υは速度であり、Rは針の内半径であり、ηは粘度であり、ΔP/Lは針の長さにわたる平均の圧力低下である)に基づきShireらにより記載されている5〜7。針の長さにわたる平均の圧力低下は、注射器内の同じ吸引圧力を維持することにより各試料について一定のままであることは確実なので、断面積を乗じた液体の速度の逆数は、特定の体積(この場合1ml)の液体を吸い上げる時間となる。この時間は、ハーゲン−ポアズイユ式により示されるように、粘度に比例する。
【0098】
安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒混合物の粘度の測定値を図14に示す。この場合、最低値及び最高値は純粋溶媒についてのものなので、一般化された混合則は、式
【0099】
【数3】
【0100】
(式中、ηmは混合物の粘度であり、iは成分数であり、xiは液体の体積、重量又はモル画分であり、ηiは、i番目の成分の粘度である)に従うはずである。f(η)Lは、ηL、ln(ηL)、1/ηL、又は別の典型的な式であってもよい。20この場合、実験結果と最も密接に関連している相関は、f(η)Lがln(ηL)である場合であった。この理論上の結果を、図14において点線により示す。
【0101】
濃度が増すのに伴う懸濁液の見かけの粘度を、純粋な安息香酸ベンジル系及び50/50の安息香酸ベンジル/ベニバナ油との溶媒混合物の両方について測定した。その結果得られた粘度、2つの注射器サイズを用いた測定値の平均(左のy軸)、及び25ゲージ注射器から1mlを引き込む時間(右のy軸)を、リゾチーム粒子の濃度に対してプロットした(図15)。見かけの粘度と遊離溶媒の体積分率との相関をKreiger-Dougherty式
【0102】
【数4】
【0103】
(式中、ηは分散液の見かけの粘度であり、η0は溶液粘度、φは粒子の体積分率、φ最大は最大充填分率、[η]は固有粘度である)を用いてモデル化した。φ最大は、4カ月にわたる、重力による粒子の沈降後に概算した。この値は、低せん断速度については、純粋な安息香酸ベンジル溶媒溶液の場合はおよそ0.50、安息香酸ベンジル/ベニバナ油の溶媒の場合は0.52であった。これらの値を用いて懸濁液の固有粘度[η]を決定したところ、純粋な安息香酸ベンジル懸濁液については2.7、安息香酸ベンジル/ベニバナ油懸濁液については2.3であった。
【0104】
懸濁液中の粒子の安定性を、多数の異なる手法により測定した。まず、沈降速度を計算し、理論上のストークスの沈降速度
【0105】
【数5】
【0106】
(式中、rは粒子の半径であり、Δρは溶媒と粒子との間の密度差であり、gは重力による加速度である)と比較した。高濃度の粒子については、粒子の込合いにより得られる沈降速度が低下すると考えられる。
【0107】
【数6】
【0108】
この変形のストークスの沈降速度及び実験的に測定した値は、表1に示すように300mg/mlより低い大部分の濃度の場合の2つのうち1つの因子内にあることが見出された。しかし、濃度が400mg/mlの場合、値は予想された速度より1桁低い(表9)。
【0109】
【表8】
【0110】
懸濁液の均一性を、水相中への抽出比率(%)によりさらに定量化した。最初に、リゾチームが水相中に分離する速度を決定したところ、およそ60分が必要であった。再懸濁させた試料に由来する3つのアリコートを別々の試験管に入れ、1日かけて水相に分離させて、完全な分離を確実にした。次に、水相をおよそ1000倍希釈し、タンパク質濃度を測定した。結果は、0.1mlの高濃度の非水性懸濁液に曝露された小体積(8ml)の水相の場合でも、タンパク質の少なくとも3/4は24時間で水相中に分離することを示すものである(表10)。%RSD値は、典型的には5%を下回り、このことから、再分散させた懸濁液内のタンパク質粒子は、納得できる程度に均一であることが示唆された。%RSDは、混合溶媒中の高濃度の300mg/ml試料の方がわずかに大きかった。
【0111】
【表9】
【0112】
試料の保管を危うくするのに十分な速度では粒子の成長が生じていないことを確認するために、非水性溶媒に曝露された粒子の凝集も試験した。粒子を篩過し、リゾチームが非常に溶解しにくいアセトニトリルと、リゾチームがわずかに溶解するエタノールとの両方において再懸濁させた直後に、光散乱法により元の粒径を測定した。2つの測定値の均一性から、エタノール中では測定の時間尺度は粒子の成長の時間尺度よりはるかに速いことが確認される(図12)。保管の2カ月後、エタノール中で試料を希釈し、速やかに試験した。保管中、粒径は本質的に一定であることが見出された(図12)。1年間保管し振盪により再分散させた後の、製剤化した1つの懸濁液の目視検査により、粒子が再分散できることが確認される。
【0113】
静電反発力が粒子安定性に及ぼす潜在的な効果を試験した。しかし、安息香酸ベンジル溶媒中に1mm離して配置した2つの電極については、電圧が10から100に変化した際、リゾチーム粒子は、まとまった動きを示さなかった。
【0114】
有機化合物から水相に分離された試料のアリコートにおける光学密度を測定することにより、タンパク質凝集を調べた。タンパク質を濃度1mg/mlに希釈した。同じ濃度の水溶液中で追加のリゾチーム試料を溶媒に曝露させて、油−水界面が凝集に及ぼす効果を測定した。これらの溶液全てを、同じ濃度の新鮮なリゾチーム溶液との比較により、大きなタンパク質凝集体について確認した。350nmでの吸光度が標準及び全ての試料について1%以内、したがって、試験の誤差の範囲内だったため、凝集体は見出されなかった。
【0115】
含水量の定量化を用いて、懸濁液中の遊離水及び結合水を決定してもよい。大気条件に2カ月間曝露された後の各懸濁液について含水量を測定した。含水量と懸濁液濃度との間で見出された線形相関から、水分はタンパク質と直接関連があることが示唆される(図16)。安息香酸ベンジル溶媒は、溶液0.1ml当たり平均20μg又はおよそ0.02重量%の水を含有する。ベニバナ油/安息香酸ベンジル混合物は、同じ体積の試料中およそ74μg又はおよそ0.074%の水を含有する。安息香酸ベンジル中のタンパク質の濃度が最も高い(400mg/mL)試料は、最も多い水分、すなわち、溶液0.1ml当たり平均4450μgの水を含有し、2カ月間保管した後では最大の絶対濃度が4.5重量%の懸濁液が得られた。
【0116】
タンパク質及び粒子の安定性に加え、他の重要な基準は、懸濁液の見かけの粘度は注射器による注射のために十分低くなければならないということである。皮下送達では、50cPが適切な最大粘度であるが、この場合、1mlの懸濁液が26ゲージの注射器を経由して排出されるのにおよそ20秒かかることになる。図15から、測定された最大の見かけの粘度はおよそ50cPであり、この場合、1mlを25ゲージの注射器中に引き込むにはおよそ55秒かかった。測定された時間の相違は、当該体積を注射器中に引き込むための、注射器から溶液を排出するのに必要な力と比較してより小さい吸引力を反映している。加えて、これらの高濃度の懸濁液は、せん断減粘であると考えられるが、その理由は、懸濁液の流れが、より好ましい、粒子の再構成をもたらすことになるからである。例えば、せん断速度が増すのに従い、最初にランダムに充填された(φ最大=0.64)球状の粒子は、より規則的且つ充填密度が高くなり、0.71前後の、より高い最大充填分率が得られる。結果として、体積の排除と関連する、より高いせん断速度では、測定された懸濁液の見かけの粘度は低下し、皮下送達が可能な最大値を下回ったままとなる。
【0117】
Kreiger-Dourghety式を用いた懸濁液の粘度のさらなる分析により、懸濁液中での粒子間の力の効果が示唆されると考えられる。アインシュタインにより導かれた希薄な懸濁液の粘度についての最初の式は粒子を考慮しており、粒子は固形の球形物でありその濃度は粒子が個々に処理されるだけ十分低い(φ<0.1)と仮定する。これにより、勾配が2.5の溶媒については、粒子の体積分率が懸濁液の粘度比率と関連する一次方程式が得られる。より一般的な用語では、この勾配は、分散した粒子の添加による粘度の増大量を表し、固有粘度[η]とも呼ばれる。より高濃度の懸濁液については、粒子の込合い及び懸濁液の最大充填分率(φ最大)について説明すると、結果としてKrieger-Dougherty式となる(式5)。31、32 この場合、固有粘度という用語は、溶媒和、形状の変化及び静電力、並びにせん断速度の効果に依存するアインシュタイン係数値の2.5とは異なる場合がある。安息香酸ベンジル及び安息香酸ベンジル/ベニバナ油の混合懸濁液の固有粘度の値は、アインシュタインにより導かれた元の2.5に近いことから、せん断速度は低くゼロと近似できると仮定すれば、溶媒和、形状の変化及び静電力の効果は無視できると考えてもよい。誘電率がわずか4.8の溶媒中のイオン対化の傾向を考慮すれば、静電効果がないことは驚くべきことではなかった。このことは、先に測定した電気泳動移動度がゼロであることによりさらに確認される。粒子を溶媒により溶媒和する場合、体積分率は、
【0118】
【数7】
【0119】
(式中、ml,bは結合した溶媒の質量であり、m2は粒子の質量であり、ρ2は粒子の密度であり、ρ1は溶媒の密度である)により、上昇すると考えられる。Krieger-Dougherty式の場合、この上昇は[η]という用語に吸収され、測定された固有粘度を上昇させる。球形状からの粒子の逸脱は、最大充填分率に、又、固有粘度に強い効果を有する。例えば、さまざまな軸比、すなわち7、14及び21のガラス繊維は、固有粘度がそれぞれ3.8から5.03、6.0へと上昇し、最大充填分率は0.374から0.26、0.233へと低下する。
【0120】
溶液中のモノクローナル抗体などの大きな巨大分子は小さなコロイドとして近似できることから、同様の粘度分析を実行できる。この場合、モノクローナル抗体をさまざまな濃度で含有する溶液の粘度の上昇について過去に公表された値を使用すると、Krieger-Dougherty式を用いた分析から最終的な値の[η]45が得られた(表11)。しかし、タンパク質溶液の分析は、典型的には、体積分率ではなく質量濃度(g/ml)を用いて行われ、これにより、固有粘度(単位:cm3/g)の値、及び、わずかに異なる、タンパク質溶液と水性溶媒との粘度間のより高次の派生した関係が導かれる。粘度の高い準球形モデル
【0121】
【数8】
【0122】
(式中、cはタンパク質の質量濃度であり、kは高濃度のタンパク質を説明する込合い因子であり、υは、球形からの形状の変化を説明するSimhaパラメーターである)は、Krieger-Dougherty式と同じべき級数から導かれるが、しかし、x成分として体積分率ではなく濃度を用いる。結果として、υは、モノクローナル抗体の固有粘度については6.9cm3/g、κ/ν値0.533の値に導かれる。多様なタンパク質については、固有粘度の値は、リゾチームの場合のおよそ2.7cm3/gから200cm3/g超までさまざまである。このモデルは、ヘモグロビン、ウシ血清アルブミン、及び、長い範囲の静電力は、粘度対濃度において無視できる程度に関与することが見出された2つの多様なモノクローナル抗体の粘度を正確に予測することが示されている。非常に小さい軸比1.5を有するタンパク質であるリゾチームの場合でも、このモデルは、濃度300mg/ml前後での粘度の劇的な上昇を示す(図15)。したがって、粘度の高い準球形モデルにより説明でき、リゾチームより高い軸比を有する多様なモノクローナル抗体、BSA及びヘモグロビンについては(式8)、急速な粘度の上昇はより劇的なものとなり、より低い濃度でも生じることになろう。これらの溶液については、粘度の上昇は、粒子の込合いだけでなく溶媒和の排除体積効果及び球形からの形状の逸脱によるものである。この強い逸脱は、同じ濃度の懸濁液中の粒子については見られないが、その理由は、この場合の粒子は相当球状であり、溶媒により水和されず、タンパク質の密度は、典型的に1.35g/cm3前後であり、これにより、それぞれの濃度についての体積分率はより低くなるためである。
【0123】
【表10】
【0124】
最大300〜400mg/mlのモデルタンパク質リゾチームの粉砕粒子の高濃度の懸濁液の粘度は、27ゲージ針による皮下注射用に十分小さかった。タンパク質分子は、凝集に対して安定であり、大気条件で保管した場合、粒径は少なくとも2カ月間変化しなかった。Krieger-Dougherty式によれば、全ての条件で見かけの粘度は体積分率と相関があった。粒子が完全に沈降するには、24時間をはるかに超える時間がかかることが見出され、このことにより、均一なアリコートを採取及び分析するのに十分な時間が得られた。この結果から、単回注射又は複数回注射の適用のいずれの場合にとっても正確な投与を可能にする十分な懸濁液安定性が示唆された。全体として、リゾチーム微小粒子懸濁液のコロイド安定性及び用量均一性は、許容される低い粘度と共に、治療用タンパク質の皮下送達のための潜在的な進歩を示唆する。溶液中の高濃度のタンパク質については、静電反発力、溶媒和力、及び球状の表面形状からの粒子形状の逸脱などの多様な力は、粘度が大きく高まる原因となる可能性があるが、一方、これらの力は現在のタンパク質懸濁液についてはほとんど無視できる程度の効果を有し、結果としてはるかに低い粘度がもたらされる。
【0125】
この例の目的は、以下の通りである:(1)非水性溶媒及び水性溶媒中の懸濁液を形成するためのタンパク質粒子を作製するための多様な粒子光学的手法を使用すること、(2)バイアル中で粒子を形成する又はバイアルに粒子を移すための効率的な様式を見出すこと、(3)懸濁液の粒径、コロイド安定性及び粘度を決定すること、並びに(4)変性及び凝集に関してのタンパク質分子の安定性を決定すること。適切な粒子光学的手法としては、粉砕、噴霧乾燥、沈殿及び薄膜凍結が挙げられる。皮下注射によるタンパク質及びペプチドの送達の実行可能性は、25〜27ゲージの針により注射可能であるが、1.5ml未満の体積で完全な用量を投与するために必要な高濃度の活性タンパク質又はポリペプチドを含有する、十分に低粘度の製品の製剤化に依存する。所望の粘度は、最大400mg/mLを有するタンパク質懸濁液で実現されている。
【0126】
高濃度のモノクローナル抗体を含有し十分に粘度の低い安定な懸濁系の製剤において第一に重要なのは、安定で適切なサイズのモノクローナル抗体粒子の形成である。以前、約10〜20μmの粉砕化リゾチームを有する懸濁液が製剤化された。1
【0127】
粉砕に加えて、タンパク質粒子は、供給濃度に応じて、タンパク質2の安定なナノ粒子を作製し、同様のミクロンサイズの粒子を作製するために以前開示した薄膜凍結(TFF、thin film freezing)で形成してもよい。モノクローナル抗体は溶液の形態で提供されるので、TFFは、潜在的な凍結ストレスしか引き起こさない、顕著に破壊性の低下したプロセスであると考えられるが、一方、粒子を凍結乾燥に続いて粉砕及び篩過すると、粒子は、変性につながる可能性のある凍結、加熱及び機械的応力にさらされることになる。提案される作業としては、TFFプロセスを調整して、Mabの可溶性限度以内で供給濃度を変化させることにより特定の粒径を得ること、及びトレハロースなどの凍結保護糖を加えること、一定の比率(%)のエタノールと、皮下注射に必要な多様な緩衝液及び他の添加剤を含めるために溶媒(現時点では緩衝液を加えた純粋なDI水)を変更すること、及び皮下注射製剤用の適切なバイアル中への直接凍結を試験することが挙げられる。
【0128】
タンパク質粒子をバイアル中に移すには、多様な手法が利用される。目的は、処理ステップを単純化し、滅菌済の状態を維持することである。第1の方法は、凍結乾燥した粉末を固体としてバイアルに移すことである。第2の方法は、まだ凍結状態のうちにタンパク質をバイアルに移すことである。TFFプロセスを用いるこれらの方法のそれぞれを実証するために、粒径のデータを得た(表12)。
【0129】
【表11】
【0130】
適切な安定粒子を一旦作製したら、適切な溶媒系を見出さなければならない。この場合、水性ベース及び非水性ベース両方の系を分析することになる。純粋な非水性溶媒の安息香酸ベンジル中、及び溶媒系の安息香酸ベンジル/ベニバナ油中の、粉砕リゾチームの安定な低粘度製剤が以前分析されており1、前述のMab粒子を含有する懸濁液中でさらに分析する。高濃度の水溶液中でのタンパク質又はポリペプチドの不安定性、及び、可溶性の凝集体及び水和が原因で生じる粘度の上昇を克服するために、この試験の主な目的は、27ゲージ針により、且つ、100mg/mlを超える濃度で注射可能なモデルタンパク質リゾチームを用いて、非水性の溶媒又は溶媒混合物中のタンパク質懸濁液を製剤化することであった。製剤化された懸濁液は、少なくとも300mg/mlの濃度まで注射可能なままであることが見出された。タンパク質及び粒子の安定性は、少なくとも2カ月間維持され、このことから、潜在的に安定なタンパク質製品であることが示唆された。懸濁液中のタンパク質粒子は、室温で1年間保管した後に再懸濁可能であることも見出された。製剤の粘度と粒子の体積分率増加との間の相関から、粒子間の相互作用の主な原因は粒子の込合いによるものであり、静電反発力、溶媒由来の粒子の溶媒和、又は球形からの粒子形状の逸脱などの追加的な力を用いて懸濁液の安定性は維持されないことが示唆される。
【0131】
しかし、主な関心は水性溶媒に集まると考えられる一方、非水性溶媒は、次に興味のあるものであろう。水性溶媒系は、製剤化するには若干複雑で、以下を含めなければならない:(1)水中でのMabの可溶性を低下させるための薬剤(可溶性が20mg/mL超である場合)、(2)溶媒を加えた際に高濃度の懸濁液が泡を生じることを防止するための消泡剤、及び(3)Mab及び最終的な懸濁液製品の安定性を十分な期間にわたり維持するための追加的な添加剤。
【0132】
水中でのタンパク質の可溶性を低下させるために加えることができる薬剤としては、硫酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムなど高濃度の塩、亜鉛などの錯体化剤、PEGなどの水溶性ポリマー、エタノールなどの多様な有機溶媒及びTween 20など他の界面活性剤が挙げられる。塩を添加すると溶液のイオン強度は高まり、これによりタンパク質の親水性基の可溶性が低下する。しかし、皮下注射可能な送達では、等張性でない溶液は、ノンコンプライアンスにつながる可能性のある注射時の痛みを増すことになる。したがって、他の添加物を用いて可溶性を低下させる代用品が有利でありうる。ポリエチレングリコール(PEG)と水との混合物は、その同様の塩の「塩析」効果に対しても実証されており、注射可能な製剤中でより容易に可能となる。より低分子量のPEGは、さらに可溶性を低下させるためのはるかに高い濃度に製剤化できるが、より高分子量のPEGは、タンパク質の熱安定性を高めることが見出されているため、さまざまな分子量のPEGを試みる。1%(w/v)濃度のTween 20は、疎水性タンパク質フミコララヌギノーサリパーゼ5の沈殿を引き起こすことが実証されており、これにより、懸濁液中での添加Mab粒子の可溶化が妨げられ、懸濁液を製剤化するための別の代替方法が生み出される可能性がある。エタノール、プロピレングリコール及びジメチルアセトアミドなど、Mabがわずかに溶解するだけの水溶性の非水性溶媒などの追加的な添加剤も試みる。
【0133】
塩及びPEG製剤を用いた良好な低粘度の高濃度製剤を水性媒体中で作製した(表13)。最初の粒径測定値と同時に成分も開示する。これらの製剤は、少なくとも1時間にわたり粒子安定性を有することが見出されている(図17)が、長時間安定性は調査していない。予備データから、水性懸濁液のいくつかの粘度は、25ゲージ針用として十分に低かったことが示唆される。
【0134】
【表12】
【0135】
1.0M硫酸ナトリウムの水性溶媒懸濁液中では、乾燥したTFF粒子に液体を加えるとタンパク質の水性分散液が発泡することが観察されている。タンパク質と脂肪粒子との水性懸濁液の泡安定性は、異なるSpan添加剤を添加すると顕著に低下し、この場合、気泡の合体が増えたとの仮説が立てられた。SPAN(登録商標)80を用いた試行では、1.0M硫酸ナトリウム溶液中の高濃度のBSA分散液に加えると泡はうまく壊れ、低粘度、高濃度の懸濁液は維持された。発泡の課題を解決するためには、粒子形成段階及び最終製剤段階の両方において、他の界面活性剤を使用することになる。加えて、皮下投与される薬学的に許容される懸濁液の製剤を完成させるためには、他の添加剤を加えなければならない。タンパク質を安定化させるためには、必要に応じ、Tween 20及びTween 80などの界面活性剤を加えることができる。最終的な水性分散液を作り出すために、緩衝化剤、酸化防止剤及び抗菌剤を加えてもよい。
【0136】
次に、1mLの溶液を25ゲージ針、次いで27ゲージ針で注射器に吸い上げる時間を用いて、最終製剤化した懸濁液を粘度について試験する。これまでに実証されている通り、この測定を用いて概算した粘度は、理論上の結果及びこれまでの結果(前述)の両方により、納得できるものである。加えて、沈降速度測定値、光学顕微鏡法により得た画像、多角レーザー光散乱による粒径測定値及び電気泳動移動度測定値を用いて、懸濁液の安定性を特徴付ける。沈降速度は、懸濁液のアリコートをランダムに取り出してタンパク質の濃度について分析することに加え、ある期間にわたり懸濁液の均一性を決定するのに有用でありうる。加えて、光学顕微鏡法により得た画像は、低濃度で粒子上にかかっている支配的な力を、又、粒子が凝集、凝結又は反発しているかどうかを、示すことができる。経時的な粒径測定値により、オスワルド(Oswald)熟成及び粒子の凝固の効果が示されるだろう。試験を完全なものとするために、粒子の電気泳動移動度を測定して、懸濁液中の粒子の静電安定化を決定するゼータ電位を定量化する。
【0137】
最終ステップは、製剤化した懸濁液中のMabの安定性を決定することである。水ベースの懸濁液については、適切な希釈を行って、分析に必要な濃度でMab溶液を作製しなければならない。溶液中のMabも懸濁粒子から分離し、両方を安定性について別々に分析する。非水ベースの懸濁液については、十分なMab濃度を有するアリコートを純水又は適当な緩衝液に曝露させて、油−水界面上で変性させずに、懸濁粒子を溶液中の水相に分離させなければならない。これまでに行われてきたように、懸濁液を適切な水性緩衝液に1〜3日間曝露させて、時間をかけて分離させ、且つ変性させる可能性のある油−水界面への曝露を最低限にさせる。1加えて、標準を実施して、測定値が懸濁粒子を正確に表していることを確認する。1次に、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、size-exclusion chromatography)、動的光散乱法(DLS、dynamic light scattering)、分析用超遠心分離(AUC、analytical ultracentrifugation)、並びに、可溶性及び不溶性の凝集体についての光学濁度法などさまざまな手法により、Mabの安定性を特徴付けることができる。
【0138】
乾燥粉末及び再構成した非水性懸濁液両方の含水量を経時的に分析して、過剰な水が製剤の安定性に及ぼす効果を決定する。これまでの実験において述べられてきたように、非極性又は中程度に極性の有機溶媒中での、低レベルのタンパク質の水和における、経時的な水吸収は、蒸気相自体からのものと類似している。12加えて、製剤化後のMabの活性(%)を実証してMabのミスフォールディング及び変性を分析するために、Mab特異的なELISAアッセイを実施することができる。この手法は、結果として生じる再構成後のIgGの結合親和性を観察するために、これまでに使用されている。FTIRを実施して、任意のMab添加剤が最終製剤の任意の部分との相互作用を有するかどうかを決定することもできる。
【0139】
バイアル中での膜凍結による粒子の作製。多くの粒子形成プロセスでは、最終的な剤形を送達するために固形物を多様な表面からバイアルへ移すことは問題がある。滅菌済の状態を維持することが必要であり、移される粒子の正確な量を決定及び制御することは難しい場合がある。加えて、粒径は取扱い中に変化する場合がある。最終的な剤形が中で保管されることになるバイアル内で粒子を直接作製することが望ましいであろう。このバイアル内での直接凍結及び粒子作製のプロセスは、従来のトレー凍結乾燥において行われる。しかし、棚からバイアルへの熱伝達により凍結速度が遅いと、典型的には約数百ミクロンの粒子となる。本手法は、サブミクロン及びミクロンサイズの粒子分布を実現及び制御するための手段を提供する。
【0140】
バイアル内で物質の粒子を形成するための方法であって、(a)物質の液体溶液を円筒状のバイアル内に導入すること、(b)該円筒状のバイアルを、水平方向に回転させながら、液体がバイアルの内壁において膜として凍結するまで液体冷却液中に浸漬すること、(c)凍結乾燥又は凍結した溶媒の抽出により溶媒を第2の溶媒中に取り出すことを含む方法が提供される。
【0141】
したがって、本発明は、極低温の液体中にバイアルを浸漬させて、トレー凍結乾燥の場合よりはるかに急速に凍結させるための代用品を提供する。約20秒という急速凍結の結果、サブミクロン粒子を得ることができる。0.2〜4mmの範囲内の凍結用液体の厚さにより、急速な凍結が容易になる。バイアルを凍結乾燥機に直接移して、最終的な粒子をバイアル中で作製しながら溶媒を除去してもよい。最終的な粒子は、粒子の可溶性を低下させて粒子の懸濁液を作製するために、薬剤(塩、第2の溶媒、ポリマーなど)の添加により作製することもできる。したがって、固形物をバイアルから取り出す必要は全くない。
【0142】
この方法により、物質の液体溶液をバイアル内で急速な凍結速度で薄く均一な膜の形で凍結させることにより、サイズ分布を細かく制御した粒子の作製が可能になる。この方法は、以下の3つの基礎的なステップにおいて実行する:(a)物質の液体溶液を円筒状のバイアル内に導入すること、(b)該円筒状のバイアルを、水平方向に回転させながら、液体がバイアルの内壁において膜として凍結するまで液体冷却液中に浸漬すること、(c)凍結乾燥又は凍結した溶媒の抽出により溶媒を第2の溶媒中に取り出すこと。
【0143】
[0100]第1のステップは、活性物質を水溶液中に1mg/ml〜500mg/mlの範囲の典型的な濃度で溶解させることにより開始する。この溶液は、例として凍結保護剤又は界面活性剤などの添加剤も含有できる。溶液を円筒状のバイアル中に導入するが、このとき、液体体積及びバイアルの寸法により最終的な凍結膜の厚さ(サイズ分布の制御における重要な変数)が決まる。表14は、2つの異なるサイズのバイアルについて得られる異なる膜の厚さの例を示すものである。
【0144】
【表13】
【0145】
第2のステップは、バイアルを液体冷却液(例えば液体N2)内に水平方向に、回転させながら浸漬することを包含する。回転により、液体溶液は、円筒状のバイアル内壁において均一な厚さの膜として凍結する。冷却液温度(典型的には50K〜253Kの範囲)及び回転速度(典型的には15RPM〜600RPMの範囲)を調節して、凍結速度を制御してもよい。図18は、バイアル内で異なる液体体積の凍結について測定した凍結温度プロファイルを示すものである。80K、回転速度30RPMの条件で冷却液を用いて処理しながら、T型熱電対を用いて温度を測定した。
【0146】
第3のステップは、凍結乾燥、又は、懸濁液を作製する難溶性の環境を作り出すために、凍結した溶媒に薬剤を加えることにより溶媒を除去することである。第2の溶媒、塩、ポリマー及び他の薬剤を水ベースの製剤に加えて、タンパク質ベースの粒子のための難溶性の環境を作ることができる。溶媒は、典型的には、アセトニトリル及びエタノールなどの水混和性の有機溶媒である。硫酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムなどの塩、及びPEGなどのポリマーは、水性環境におけるタンパク質の可溶性を低下させ、それにより粒子の懸濁液を作り出す。
【0147】
図19は、アセトニトリル中で懸濁させた粒子を用いてMalvern Mastersizer-Sを用いた多角レーザー光散乱法により測定した、本発明の方法を用いて得られる典型的な粒径分布を示すものである。図19に示すように、選択された条件で、ナノメーターの粒子、マイクロメートル、又は、両方のサイズ尺度を有する二峰性の粒子分布の粒子を作製できる。サイズ分布は、溶質濃度、液体冷却液の温度及び液体の体積並びにバイアルの回転速度により制御する。表15は、図19に示す粒径分布をもたらした処理条件を示すものである。
【0148】
【表14】
【0149】
以下の例は、バイアル中でタンパク質を膜凍結、次いで凍結乾燥させてから、凍結乾燥させた材料を手で振盪させて溶媒に懸濁させることにより作製されたタンパク質懸濁液を実証するものである。図20では、水中の4mlのリゾチーム溶液(20mg/ml)をバイアル内での膜凍結により凍結させた。凍結乾燥後、安息香酸ベンジルを加えることにより80mg/mLのリゾチームを有する懸濁液が形成された。図21では、水中の2mlのヘモグロビン溶液(150mg/ml)をバイアル内での膜凍結により凍結させた。凍結した溶液を凍結乾燥させ、粒子を2mlの安息香酸ベンジルに懸濁させて、150mg/ml懸濁液を作製した。いずれのケースにおいても、懸濁液は1日かけても沈降せず、手で振盪させることにより再懸濁させることができた。
【0150】
本明細書において論ずるいかなる実施形態も、本発明の任意の方法、キット、試薬又は組成物に関して実行でき、その逆も同様であることが企図される。さらに、本発明の組成物は、本発明の方法を達成するために使用できる。
【0151】
本明細書に記載の特定の実施形態は、例証の目的で示すものであり、本発明の限定として示すものではないことが理解されよう。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく多様な実施形態において採用することができる。当業者であれば、通常の実験法のみを使用して、本明細書に記載の特定の手順との多数の等価物を認識し、又は確認することができよう。そのような等価物は、本発明の範囲内であるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。
【0152】
本明細書中で言及した全ての刊行物及び特許出願は、本発明が属する技術分野の当業者の技能の水準を示すものである。全ての刊行物及び特許出願は、各個々の刊行物又は特許出願が具体的且つ個々に参照により組み込まれると示されている場合と同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【0153】
単語「a」又は「an」の使用は、特許請求の範囲及び/又は明細書中で用語「〜を含む(comprising)」と共に使用される場合、「1つの」を意味することがあるが、「1又は2以上の」、「少なくとも1つの」及び「1又は1を超える」の意味とも一致する。特許請求の範囲における用語「又は、若しくは」の使用は、どちらか一方の選択のみを指すこと、又は、選択肢が相互排他的であることが明確に示されない限り、「及び/又は」を意味するために使用されるが、本開示は、どちらか一方の選択のみ及び「及び/又は」を指す定義を支持する。本出願を通じて、用語「約」は、ある値が、その値を決定するために用いられている用具、方法に固有の誤差のばらつき、又は試験対象の間に存在するばらつきを包含することを示すために使用する。
【0154】
本明細書及び請求項(複数可)において使用する場合、単語「〜を含む(comprising)」(並びに、「comprise」及び「comprises」などcomprisingの任意の形)、「〜を有する(having)」(並びに、「have」及び「has」などhavingの任意の形)、「〜を包含する(including)」(並びに、「includes」及び「include」などincludingの任意の形)又は「〜を含有する(containing)」(並びに、「contains」及び「contain」などcontainingの任意の形)は、包含的又は非限定的であり、追加の列挙されていない要素又は方法ステップを排除しない。
【0155】
用語「又はそ(れら)の組合せ」は、本明細書中で使用する場合、その用語に先行する列挙項目の全ての順列及び組合せを指す。例えば、「A、B、C又はそれらの組合せ」は、A、B、C、AB、AC、BC又はABC、さらには特定の文脈において順序が重要である場合は、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC又はCABのうち少なくとも1つを包含することを意図したものである。この例を続ければ、明白に包含されるのは、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどといった1又は2以上の項目又は用語の繰返しを含有する組合せである。当業者には、文脈から別途明らかでない限り、典型的には、いかなる組合せにおける項目又は用語の数にも制限はないことは理解されよう。
【0156】
[0101]本明細書中で開示及び特許請求した組成物及び/又は方法は全て、本開示に照らせば過度の実験を行わずに作製及び実行することができる。好ましい実施形態について本発明の組成物及び方法を説明してきたが、当業者には、本明細書に記載の方法のステップ又は一連のステップにおいて、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく組成物及び/又は方法に変化を加えることができることが明らかである。当業者に自明のそのような類似の代替物及び変形は全て、添付の特許請求の範囲により定義されるように、本発明の精神、範囲及び概念内にあるものとみなされる。
【図1】
【図2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子を形成するステップ、
前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子に1又は2以上の添加物を任意選択により加えるステップ、及び、
前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンミクロンサイズの粒子を薬学的に許容される溶媒に懸濁させて、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するステップ
を含み、送達時に、前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみである、高濃度の低粘度タンパク質懸濁液又は低粘度ペプチド懸濁液を作製する方法。
【請求項2】
高濃度の低粘度懸濁液が、21〜27ゲージの針により注射可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬学的に許容される溶媒が、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子が、投与容器中で形成され、前記投与容器から直接送達することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
投与容器が、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
高濃度の低粘度懸濁液の濃度が、25mg/mL、50mg/mL、100mg/mL、150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、300mg/mL、400mg/mL、500mg/mL又はそれを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
高濃度の低粘度懸濁液における、1又は2以上の添加物の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドに対する比率が、0.01未満、0.05未満、0.1未満、0.2未満、0.5未満、1未満、2未満、2.5未満、5未満、7.5未満、10未満、12未満又はそれを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
高濃度の低粘度懸濁液が、100センチポアズ未満、90センチポアズ未満、80センチポアズ未満、70センチポアズ未満、60センチポアズ未満、50センチポアズ未満、40センチポアズ未満、30センチポアズ未満、20センチポアズ未満又は10センチポアズ未満の粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドが、抗体、金属ナノ粒子にコンジュゲートされている1又は2以上の抗体、形状に基づく組成物上の1又は2以上の抗体、成長因子、抗原、ワクチン、抗炎症剤、治療用のポリペプチド若しくはペプチド又はそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子が、粉砕、沈殿、透析、篩過、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥、液体中への噴霧凍結、薄膜凍結、又は投与容器中での直接凍結により作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチド粒子の体積平均直径が、30マイクロメートル、20マイクロメートル、10マイクロメートル、5マイクロメートル、2マイクロメートル、1マイクロメートル、0.75マイクロメートル、0.5マイクロメートル、0.4マイクロメートル、0.3マイクロメートル、0.1マイクロメートル、0.05マイクロメートル又は0.02マイクロメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース及びスクロースから選択される1又は2以上の薬剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1又は2以上の添加物が、安定化剤、界面活性剤、乳化剤、塩、アミノ酸、小ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ポリマー、共溶媒及びそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
1又は2以上の添加物が、1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
1又は2以上の添加物が、ナトリウム塩、亜鉛塩、リチウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、リン酸塩、硫酸塩、グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース、スクロース、ポリ(エチレングリコール)、カルボマー1342、グルコースポリマー、シリコーンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ乳酸、デキストラン、ポロキサマー、及びエタノール、N−メチル−2−ピロリドン、PEG300、PEG400、PEG200、PEG3350、プロピレングリコール、N,Nジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ソルケタール、テタヒドロフルフリル(tetahydrofurfuryl)アルコール、ジグリム、乳酸エチルから選択される有機共溶媒又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
薬学的に許容される溶媒が、安息香酸ベンジル、又は安息香酸ベンジルに加えてベニバナ、ゴマ、ヒマシ、綿実、キャノーラ、サフラン、オリーブ、ピーナッツ、ヒマワリ種子、a−トコフェロール、ミグリオール812及びオレイン酸エチルから選択される1又は2以上の油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの0.5超、0.6超、0.7超、0.8超、0.9超、0.95超又は0.99超が、30nm未満、20nm未満又は10nm未満の実体として可溶でない、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
高濃度の低粘度懸濁液が、経路長が0.5mm〜1cmであるか又は体積が5〜0.1mlであるバイアル中で白色、不透明又は半透明である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
高濃度の低粘度懸濁液の形成前の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを緩衝化水性媒体中に溶解した際に0.7超、0.8超、0.9超、0.95超、0.97超、0.98超又は0.99超である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
高濃度の低粘度懸濁液中の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記ペプチドを1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子の緩衝化水性媒体中に溶解した際の前記モノマーの割合の値の0.93、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、0.995である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
高濃度の低粘度懸濁液を対象に送達するステップをさらに含み、前記高濃度の低粘度懸濁液が、皮下送達、筋肉内送達又は肺送達により送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子が、送達時に1分未満、5分未満、10分未満、30分未満、及び60分未満で対象内で溶解する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
約1時間〜10週間の時間をかけて1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の放出を制御するための徐放剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの非モノマーの部分が、総ペプチド重量の5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満又は0.1%未満の濃度で送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子が高濃度の低粘度懸濁液から沈降した後、前記高濃度の低粘度懸濁液を注射可能な用量に再懸濁させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
薬学的に許容される溶媒、
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子、及び、
任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための前記薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物
を含み、送達時に、前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみである、高濃度の低粘度懸濁液。
【請求項27】
高濃度の低粘度懸濁液が、21〜27ゲージの針により注射可能である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
薬学的に許容される溶媒が、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子が、投与容器中で形成され、前記投与容器から直接送達することができる、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
投与容器が、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器を含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
高濃度の低粘度懸濁液の濃度が、25mg/mL、50mg/mL、100mg/mL、150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、300mg/mL、400mg/mL、500mg/mL又はそれを超える、請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
高濃度の低粘度懸濁液における、1又は2以上の添加物の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドに対する比率が、0.01未満、0.05未満、0.1未満、0.2未満、0.5未満、1未満、2未満、2.5未満、5未満、7.5未満、10未満、12未満又はそれを超える、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
高濃度の低粘度懸濁液が、100センチポアズ未満、90センチポアズ未満、80センチポアズ未満、70センチポアズ未満、60センチポアズ未満、50センチポアズ未満、40センチポアズ未満、30センチポアズ未満、20センチポアズ未満又は10センチポアズ未満の粘度を有する、請求項26に記載の組成物。
【請求項34】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドが、抗体、金属ナノ粒子にコンジュゲートされている1又は2以上の抗体、形状に基づく組成物上の1又は2以上の抗体、成長因子、抗原、ワクチン、抗炎症剤、治療用のポリペプチド若しくはペプチド又はそれらの組合せから選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項35】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチド粒子の体積平均直径が、30マイクロメートル、20マイクロメートル、10マイクロメートル、5マイクロメートル、2マイクロメートル、1マイクロメートル、0.75マイクロメートル、0.5マイクロメートル、0.4マイクロメートル、0.3マイクロメートル、0.1マイクロメートル、0.05マイクロメートル又は0.02マイクロメートルである、請求項26に記載の組成物。
【請求項36】
グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース及びスクロースから選択される1又は2以上の薬剤をさらに含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項37】
1又は2以上の添加物が、安定化剤、界面活性剤、乳化剤、塩、アミノ酸、小ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ポリマー、共溶媒及びそれらの組合せから選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項38】
1若しくは2以上の添加物が、1又は2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部である、請求項26に記載の組成物。
【請求項39】
1又は2以上の添加物が、ナトリウム塩、亜鉛塩、リチウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、リン酸塩、硫酸塩、グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース、スクロース、ポリ(エチレングリコール)、カルボマー1342、グルコースポリマー、シリコーンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ乳酸、デキストラン、ポロキサマー、及びエタノール、N−メチル−2−ピロリドン、PEG300、PEG400、PEG200、PEG3350、プロピレングリコール、N,Nジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ソルケタール、テタヒドロフルフリルアルコール、ジグリム、乳酸エチルから選択される有機共溶媒又はそれらの組合せを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項40】
薬学的に許容される溶媒が、安息香酸ベンジル、又は安息香酸ベンジルに加えてベニバナ、ゴマ、ヒマシ、綿実、キャノーラ、サフラン、オリーブ、ピーナッツ、ヒマワリ種子、a−トコフェロール、ミグリオール812及びオレイン酸エチルから選択される1又は2以上の油を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項41】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの0.5超、0.6超、0.7超、0.8超、0.9超、0.95超又は0.99超が、30nm未満、20nm未満又は10nm未満の実体として可溶でない、請求項26に記載の組成物。
【請求項42】
高濃度の低粘度懸濁液が、経路長が0.5mm〜1cmであるか又は体積が5〜0.1mlであるバイアル中で白色、不透明又は半透明である、請求項26に記載の組成物。
【請求項43】
高濃度の低粘度懸濁液の形成前の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを緩衝化水性媒体中に溶解した際に0.7超、0.8超、0.9超、0.95超、0.97超、0.98超又は0.99超である、請求項26に記載の組成物。
【請求項44】
高濃度の低粘度懸濁液中の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記ペプチドを1若しくは2以上のミクロンサイズのペプチド粒子の緩衝化水性媒体中に溶解した際の前記モノマーの割合の値の0.93、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、0.995である、請求項26に記載の組成物。
【請求項45】
高濃度の低粘度懸濁液が、皮下送達、筋肉内送達又は肺送達により送達される、請求項26に記載の組成物。
【請求項46】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子が、送達時に1分未満、5分未満、10分未満、30分未満及び60分未満で対象内で溶解する、請求項26に記載の組成物。
【請求項47】
約1時間〜10週間の時間をかけて1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の放出を制御するための徐放剤をさらに含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項48】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの非モノマー部分が、総ペプチド重量の5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満又は0.1%未満の濃度で送達される、請求項26に記載の組成物。
【請求項49】
単回用量容器、
水性溶媒、非水性溶媒又はそれらの組合せから選択される、前記単回用量容器中に配置された薬学的に許容される溶媒、
前記単回用量容器中に配置された、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子、及び、
前記単回用量容器中に任意選択により配置された、少なくとも20mg/mlの濃度と、21〜27ゲージの針により注射可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための1又は2以上の添加物
を含む、単回用量の高濃度の低粘度懸濁液。
【請求項50】
制御された重量のペプチド又はタンパク質を高濃度の低粘度懸濁液として移す方法であって、
最初の容器、
前記最初の容器内の薬学的に許容される溶媒、
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む、前記最初の容器内の1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子、及び、
任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための前記薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物
を含み、前記高濃度の低粘度懸濁液を、前記最初の容器からバイアル、アンプル又は注射器を含む投与容器に移すことができる方法。
【請求項1】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子を形成するステップ、
前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子に1又は2以上の添加物を任意選択により加えるステップ、及び、
前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンミクロンサイズの粒子を薬学的に許容される溶媒に懸濁させて、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するステップ
を含み、送達時に、前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみである、高濃度の低粘度タンパク質懸濁液又は低粘度ペプチド懸濁液を作製する方法。
【請求項2】
高濃度の低粘度懸濁液が、21〜27ゲージの針により注射可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
薬学的に許容される溶媒が、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子が、投与容器中で形成され、前記投与容器から直接送達することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
投与容器が、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
高濃度の低粘度懸濁液の濃度が、25mg/mL、50mg/mL、100mg/mL、150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、300mg/mL、400mg/mL、500mg/mL又はそれを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
高濃度の低粘度懸濁液における、1又は2以上の添加物の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドに対する比率が、0.01未満、0.05未満、0.1未満、0.2未満、0.5未満、1未満、2未満、2.5未満、5未満、7.5未満、10未満、12未満又はそれを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
高濃度の低粘度懸濁液が、100センチポアズ未満、90センチポアズ未満、80センチポアズ未満、70センチポアズ未満、60センチポアズ未満、50センチポアズ未満、40センチポアズ未満、30センチポアズ未満、20センチポアズ未満又は10センチポアズ未満の粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドが、抗体、金属ナノ粒子にコンジュゲートされている1又は2以上の抗体、形状に基づく組成物上の1又は2以上の抗体、成長因子、抗原、ワクチン、抗炎症剤、治療用のポリペプチド若しくはペプチド又はそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子が、粉砕、沈殿、透析、篩過、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥、液体中への噴霧凍結、薄膜凍結、又は投与容器中での直接凍結により作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチド粒子の体積平均直径が、30マイクロメートル、20マイクロメートル、10マイクロメートル、5マイクロメートル、2マイクロメートル、1マイクロメートル、0.75マイクロメートル、0.5マイクロメートル、0.4マイクロメートル、0.3マイクロメートル、0.1マイクロメートル、0.05マイクロメートル又は0.02マイクロメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース及びスクロースから選択される1又は2以上の薬剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
1又は2以上の添加物が、安定化剤、界面活性剤、乳化剤、塩、アミノ酸、小ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ポリマー、共溶媒及びそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
1又は2以上の添加物が、1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
1又は2以上の添加物が、ナトリウム塩、亜鉛塩、リチウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、リン酸塩、硫酸塩、グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース、スクロース、ポリ(エチレングリコール)、カルボマー1342、グルコースポリマー、シリコーンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ乳酸、デキストラン、ポロキサマー、及びエタノール、N−メチル−2−ピロリドン、PEG300、PEG400、PEG200、PEG3350、プロピレングリコール、N,Nジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ソルケタール、テタヒドロフルフリル(tetahydrofurfuryl)アルコール、ジグリム、乳酸エチルから選択される有機共溶媒又はそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
薬学的に許容される溶媒が、安息香酸ベンジル、又は安息香酸ベンジルに加えてベニバナ、ゴマ、ヒマシ、綿実、キャノーラ、サフラン、オリーブ、ピーナッツ、ヒマワリ種子、a−トコフェロール、ミグリオール812及びオレイン酸エチルから選択される1又は2以上の油を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの0.5超、0.6超、0.7超、0.8超、0.9超、0.95超又は0.99超が、30nm未満、20nm未満又は10nm未満の実体として可溶でない、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
高濃度の低粘度懸濁液が、経路長が0.5mm〜1cmであるか又は体積が5〜0.1mlであるバイアル中で白色、不透明又は半透明である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
高濃度の低粘度懸濁液の形成前の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを緩衝化水性媒体中に溶解した際に0.7超、0.8超、0.9超、0.95超、0.97超、0.98超又は0.99超である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
高濃度の低粘度懸濁液中の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記ペプチドを1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子の緩衝化水性媒体中に溶解した際の前記モノマーの割合の値の0.93、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、0.995である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
高濃度の低粘度懸濁液を対象に送達するステップをさらに含み、前記高濃度の低粘度懸濁液が、皮下送達、筋肉内送達又は肺送達により送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子が、送達時に1分未満、5分未満、10分未満、30分未満、及び60分未満で対象内で溶解する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
約1時間〜10週間の時間をかけて1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の放出を制御するための徐放剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの非モノマーの部分が、総ペプチド重量の5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満又は0.1%未満の濃度で送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子が高濃度の低粘度懸濁液から沈降した後、前記高濃度の低粘度懸濁液を注射可能な用量に再懸濁させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
薬学的に許容される溶媒、
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子、及び、
任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための前記薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物
を含み、送達時に、前記1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチドが溶解し、ペプチド凝集体を形成しないか又はごくわずかな凝集体を形成するのみである、高濃度の低粘度懸濁液。
【請求項27】
高濃度の低粘度懸濁液が、21〜27ゲージの針により注射可能である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
薬学的に許容される溶媒が、薬学的に許容される水性溶媒、薬学的に許容される非水性溶媒又は組合せを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
1又は2以上のミクロンサイズのペプチド粒子が、投与容器中で形成され、前記投与容器から直接送達することができる、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
投与容器が、バイアル、アンプル、注射器又はバルク容器を含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
高濃度の低粘度懸濁液の濃度が、25mg/mL、50mg/mL、100mg/mL、150mg/mL、200mg/mL、250mg/mL、300mg/mL、400mg/mL、500mg/mL又はそれを超える、請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
高濃度の低粘度懸濁液における、1又は2以上の添加物の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドに対する比率が、0.01未満、0.05未満、0.1未満、0.2未満、0.5未満、1未満、2未満、2.5未満、5未満、7.5未満、10未満、12未満又はそれを超える、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
高濃度の低粘度懸濁液が、100センチポアズ未満、90センチポアズ未満、80センチポアズ未満、70センチポアズ未満、60センチポアズ未満、50センチポアズ未満、40センチポアズ未満、30センチポアズ未満、20センチポアズ未満又は10センチポアズ未満の粘度を有する、請求項26に記載の組成物。
【請求項34】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドが、抗体、金属ナノ粒子にコンジュゲートされている1又は2以上の抗体、形状に基づく組成物上の1又は2以上の抗体、成長因子、抗原、ワクチン、抗炎症剤、治療用のポリペプチド若しくはペプチド又はそれらの組合せから選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項35】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズのペプチド粒子の体積平均直径が、30マイクロメートル、20マイクロメートル、10マイクロメートル、5マイクロメートル、2マイクロメートル、1マイクロメートル、0.75マイクロメートル、0.5マイクロメートル、0.4マイクロメートル、0.3マイクロメートル、0.1マイクロメートル、0.05マイクロメートル又は0.02マイクロメートルである、請求項26に記載の組成物。
【請求項36】
グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース及びスクロースから選択される1又は2以上の薬剤をさらに含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項37】
1又は2以上の添加物が、安定化剤、界面活性剤、乳化剤、塩、アミノ酸、小ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ポリマー、共溶媒及びそれらの組合せから選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項38】
1若しくは2以上の添加物が、1又は2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の一部、高濃度の低粘度懸濁液の一部、或いは両方の一部である、請求項26に記載の組成物。
【請求項39】
1又は2以上の添加物が、ナトリウム塩、亜鉛塩、リチウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、リン酸塩、硫酸塩、グリセロール、エリトリトール、アラビノース、キシロース、リボース、イノシトール、フルクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、マンノース、トレハロース、スクロース、ポリ(エチレングリコール)、カルボマー1342、グルコースポリマー、シリコーンポリマー、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、ポリ乳酸、デキストラン、ポロキサマー、及びエタノール、N−メチル−2−ピロリドン、PEG300、PEG400、PEG200、PEG3350、プロピレングリコール、N,Nジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ソルケタール、テタヒドロフルフリルアルコール、ジグリム、乳酸エチルから選択される有機共溶媒又はそれらの組合せを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項40】
薬学的に許容される溶媒が、安息香酸ベンジル、又は安息香酸ベンジルに加えてベニバナ、ゴマ、ヒマシ、綿実、キャノーラ、サフラン、オリーブ、ピーナッツ、ヒマワリ種子、a−トコフェロール、ミグリオール812及びオレイン酸エチルから選択される1又は2以上の油を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項41】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの0.5超、0.6超、0.7超、0.8超、0.9超、0.95超又は0.99超が、30nm未満、20nm未満又は10nm未満の実体として可溶でない、請求項26に記載の組成物。
【請求項42】
高濃度の低粘度懸濁液が、経路長が0.5mm〜1cmであるか又は体積が5〜0.1mlであるバイアル中で白色、不透明又は半透明である、請求項26に記載の組成物。
【請求項43】
高濃度の低粘度懸濁液の形成前の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを緩衝化水性媒体中に溶解した際に0.7超、0.8超、0.9超、0.95超、0.97超、0.98超又は0.99超である、請求項26に記載の組成物。
【請求項44】
高濃度の低粘度懸濁液中の1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの相対的なモノマーの割合が、前記ペプチドを1若しくは2以上のミクロンサイズのペプチド粒子の緩衝化水性媒体中に溶解した際の前記モノマーの割合の値の0.93、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、0.995である、請求項26に記載の組成物。
【請求項45】
高濃度の低粘度懸濁液が、皮下送達、筋肉内送達又は肺送達により送達される、請求項26に記載の組成物。
【請求項46】
1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子が、送達時に1分未満、5分未満、10分未満、30分未満及び60分未満で対象内で溶解する、請求項26に記載の組成物。
【請求項47】
約1時間〜10週間の時間をかけて1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの粒子の放出を制御するための徐放剤をさらに含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項48】
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドの非モノマー部分が、総ペプチド重量の5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満又は0.1%未満の濃度で送達される、請求項26に記載の組成物。
【請求項49】
単回用量容器、
水性溶媒、非水性溶媒又はそれらの組合せから選択される、前記単回用量容器中に配置された薬学的に許容される溶媒、
前記単回用量容器中に配置された、1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子、及び、
前記単回用量容器中に任意選択により配置された、少なくとも20mg/mlの濃度と、21〜27ゲージの針により注射可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための1又は2以上の添加物
を含む、単回用量の高濃度の低粘度懸濁液。
【請求項50】
制御された重量のペプチド又はタンパク質を高濃度の低粘度懸濁液として移す方法であって、
最初の容器、
前記最初の容器内の薬学的に許容される溶媒、
1若しくは2以上のタンパク質又はペプチドを含む、前記最初の容器内の1若しくは2以上のサブミクロン又はミクロンサイズの非結晶性粒子、及び、
任意選択により、少なくとも20mg/mlの濃度と、振盪又は撹拌により懸濁可能な2〜100センチポアズの溶液粘度とを有する高濃度の低粘度懸濁液を形成するための前記薬学的に許容される溶媒中の1又は2以上の添加物
を含み、前記高濃度の低粘度懸濁液を、前記最初の容器からバイアル、アンプル又は注射器を含む投与容器に移すことができる方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図4】
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【図10】
【図11】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2012−508744(P2012−508744A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536414(P2011−536414)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/063852
【国際公開番号】WO2010/056657
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/063852
【国際公開番号】WO2010/056657
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】
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