説明

高濃度の局所麻酔薬調合物

神経因性疼痛を改善または阻害するために用いられ得る経皮的局所麻酔薬調合物が開発された。好ましい実施形態において、局所麻酔薬はリドカインなどの局所麻酔薬であり、最も好ましくはゲル中のリドカイン遊離塩基であり、局所麻酔薬の用量は、痛みのある領域またはすぐ隣接する領域において痛みを改善または除去するために有効である。担体中の溶液における高濃度の局所麻酔薬を用いて、薬物の迅速な放出および摂取を起こす。典型的には数時間の期間の鎮痛が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2007年8月17日に米国特許商標庁に出願された、James N.Campbellによる表題「Local Anesthetic Formulation for Treating Neuropathic Pain」のU.S.S.N.第60/956,458号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本発明は、神経因性疼痛の処置に用いられ得る、高濃度の局所麻酔薬、たとえばリドカインなどを含有する調合物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
神経因性疼痛とは、神経系の病理学によって起こる痛みを示す。糖尿病、感染症(帯状疱疹)、神経圧迫、神経外傷、「チャネル疾患」、および自己免疫疾患は、神経因性疼痛をもたらし得る疾患の例である(非特許文献1;非特許文献2)。神経因性疼痛は慢性的であることが多く、重大な障害の原因であり得る。神経因性疼痛はしばしば、痛覚過敏(疼痛閾値の低下および疼痛知覚の上昇)および/または異痛症(無害の機械的または熱的刺激による痛み)に関連する。神経因性疼痛はしばしば壊滅的な結果をもたらし、既存の治療法の効力は限られていることから、新たな治療法の開発に強い関心が持たれてきた。
【0004】
古典的な鎮痛薬は、効力の不足または副作用の発生率が高いために、有用性が限られている。臨床研究からのデータおよび従来の臨床知識から、NSAIDはあまり効果がないことが示されている。オピオイドは有効かもしれないが、副作用、耐性、嗜癖および転換に関する懸念といったものすべてによって、その有用性が限られている。末梢の神経因性疼痛(peripheral neuropathic pain:PNP)に対する制御された臨床データを分析した概説(非特許文献3)は、NSAIDはおそらくPNPに対する鎮痛薬としての効果を持たないこと、およびいかなる薬物の鎮痛薬の有効性を支持する長期的データもないことを報告した。公表された試行の結果および臨床的経験は、ガバペンチンと、5%のリドカインパッチと、オピオイド鎮痛薬と、塩酸トラマドールと、三環系抗鬱薬とを含む、第一線の処置に対する特定の推奨についての基礎を提供する(非特許文献4によって概説されている)。
【0005】
神経因性疼痛は、麻酔薬の全身送達に感受性であることが示されている(非特許文献5)。しかし神経因性疼痛は少なくとも部分的に、皮膚のレベルで起こる神経信号に関わっている(非特許文献6;非特許文献1;非特許文献2)。よって、治療を皮膚に直接向けることに対する臨床的および科学的理論が存在する。
【0006】
経皮的経路による薬物の送達は、長年にわたって公知である。徐放経皮装置の効果は、薬物の既知のフラックス(flux)を、一般的には1日、数日間または1週間などの長期にわたって皮膚に送達することに依存している。薬物のフラックスを調節するために2つの機構が用いられる:薬物は薬物リザーバ内に含まれ、薬物リザーバは合成膜によって着用者の皮膚と分離されていて、その合成膜を通って薬物が拡散する;または薬物はポリマーマトリックス中に溶解または懸濁されて保持され、そのポリマーマトリックスを通じて薬物が皮膚に拡散する。リザーバを組み込んだ装置は、過剰な非溶解薬物がリザーバ内に残っている限り、膜を通じて安定した薬物フラックスを送達する;マトリックスまたは一体化した装置は典型的に、皮膚に近い方のマトリックス層の薬物が枯渇するために、時間とともに薬物フラックスが落ちることを特徴とする。経皮パッチを作製するための方法は、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に記載されている。リドカインに関して、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15および特許文献16は、局所製剤(パッチなど)として適用できる、リドカインを10〜40%w/wの範囲で含有する組成物を開示している。
【0007】
局所的なゲル、硬膏剤およびパッチは、特許文献17、特許文献18、特許文献19および特許文献20に記載されており、これらはEndo Pharmaceuticalsに譲渡されている。これらの特許に記載されるゲルは、2〜20%のリドカイン、好ましくは1〜10%または5〜10%のリドカインを含有する。
【0008】
LIDODERM(登録商標)として市販されている5%リドカインパッチはEndo Pharmaceuticals,Inc.より入手可能である。LIDODERM(登録商標)パッチは5%のリドカインを含有する接着材料を含み、その接着材料は不織ポリエステルフェルトの裏当てに塗布されて、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate:PET)フィルムの剥離性ライナーで覆われている。このパッチは1度だけ、所与の24時間の期間のうち最大12時間適用される。この市販のパッチは一部の患者には満足のいく治療を提供する。しかし、パッチ中のリドカインの送達は、患者に対する多くの不利益を有する。パッチは限られたサイズおよび形であるため、適用範囲は痛みのある部位の寸法ではなくパッチによって決まる。痛みの範囲が大きくて滑らかな表面ではないときには、パッチがその欠陥に順応しないおそれがあるため、パッチが必ずしもその範囲に適合しなかったり、または着用者にとって快適でなかったりすることがある。たとえば、パッチをつま先および指に適用することは困難である。顔にパッチを適用することは患者に恥辱の問題をもたらす。パッチは体毛を有する範囲に対しても望ましくない。なぜなら体毛は付着性を制限し、パッチを除去する際に脱毛が起こり得るためである。パッチは患者を暖めることもあるため、暑い環境では重荷となり得る。
【0009】
リドカインパッチからの薬物の送達は、12時間の曝露期間にわたって一定となるように設計される。しかし、最初に治療を施すときには、素早く痛みを除去するために負荷投与量の薬物を与えることが治療上重要であり得る。痛みがより強くなることを防ぐために必要な鎮痛薬よりも、確立された痛みを処置するために必要な鎮痛薬の方が多いことは、痛みの処置において周知である。こうしたプロファイルは、一定の速度で送達するパッチで与えることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,461,644号明細書
【特許文献2】米国特許第6,676,961号明細書
【特許文献3】米国特許第5,985,311号明細書
【特許文献4】米国特許第5,948,433号明細書
【特許文献5】米国特許第4,777,046号明細書
【特許文献6】米国特許第5,958,446号明細書
【特許文献7】米国特許第5,719,197号明細書
【特許文献8】米国特許第5,686,099号明細書
【特許文献9】米国特許第5,656,286号明細書
【特許文献10】米国特許第5,474,783号明細書
【特許文献11】米国特許第5,300,291号明細書
【特許文献12】米国特許第4,994,267号明細書
【特許文献13】米国特許第4,814,168号明細書
【特許文献14】米国特許第7,018,647号明細書
【特許文献15】米国特許第6,299,902号明細書
【特許文献16】米国特許第6,297,290号明細書
【特許文献17】米国特許第5,411,738号明細書
【特許文献18】米国特許第5,601,838号明細書
【特許文献19】米国特許第5,709,869号明細書
【特許文献20】米国特許第5,827,829号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】CampbellおよびMeyer、Neuron(2006)52(l):77−92
【非特許文献2】Campbell、Muscle Nerve(2001)24:1261−1273
【非特許文献3】Kingery、Pain(1997)73(2):123−39
【非特許文献4】Vadaloucaら、Ann NY Acad Sci.(2006)1088:164−86
【非特許文献5】Chabal,Anesthiology(1992)(4):513−7
【非特許文献6】SatoおよびPerl,Science(1991)251(5001):1608−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の目的は、ある期間にわたって神経因性疼痛からの解放を与えるために用いられ得る局所麻酔薬調合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
局所適用に対する医薬的に許容できる担体中に高濃度の局所麻酔薬を含有する局所麻酔薬調合物と、神経因性疼痛を含む痛みを改善または阻害するための使用方法とが開発されたことにより、標的組織(皮膚)に麻酔薬が適切に投薬される。好ましい実施形態において、局所麻酔薬はリドカイン、最も好ましくはリドカイン遊離塩基であり、局所麻酔薬は最も好ましくは連続相ゲル中にあるが、クリーム、ローション、泡、スプレーまたは軟膏が用いられてもよく、局所麻酔薬の用量は、痛みのある領域またはすぐ隣接する領域において痛みを改善または除去するために有効である。調合物は、投与のすぐ後、たとえば投与の0時間から6時間後に最大用量の薬物を放出する。この初期期間放出によって、患者に対する鎮痛がより迅速に開始されるはずである。調合物中の薬物の濃度は、調合物の約20重量%より多くから約40重量%またはそれ以上である。好ましい実施形態では、その濃度は約40%である。調合物は、痛みのある領域の部位に、またはそこに隣接して適用される。投薬スケジュールに依存して、軽減は典型的に数時間または数日の期間得られる。調合物は1日1回、またはより頻繁に、たとえば1日に2回または3回適用され得る。好ましい実施形態においては、神経因性疼痛の処置または緩和のために調合物が適用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒトの皮膚を通る、以下からのリドカインの累積的浸透を示すグラフである:ゲルID:2749−30(◆)、ID:2749−32(σ)、ID:2749−31(ν)、およびID:2749−28(リドカインHCl、X);スプレーID:2749−72(白抜きσ);クリームID:2749−38(λ)およびID:2749−37(*);泡ID:2749−52(白抜きλ);配合調剤製品(白抜きν);およびリドカインパッチ(白抜きυ)、これらは時間での期間にわたって、マイクログラムリドカイン/cmとして測定された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
I.調合物
調合物は、罹患した皮膚の表面に直接的に連続相において適用される高濃度の薬物を含有する。本明細書で用いられる「高濃度」とは、薬物の放出が熱力学の第3法則に支配されることを意味する;希釈溶液からの薬物の放出を支配するFickの拡散の第2法則ではない。Fickの拡散の第2法則は、希釈溶液からの薬物放出の速度を指示する。その結果、投与後の初期の期間、たとえば投与の0〜6時間後には大用量の薬物が放出される。以下により詳細に考察するとおり、「高濃度」とは典型的には20%の薬物/担体のw/wよりも大きい濃度となる。
【0016】
調合物は、ゲルなどの単相系であっても、または1つもしくはそれ以上の付加的な相が連続相と動的平衡にあってもよいより複雑な多相系であってもよい。こうした系の例には、クリーム、ローション、連続的な水相の全体にわたる脂質含有小滴のエマルション、安定なミセル性分散物、エマルションと全体的に分散した過剰な薬物粒子との組合せ、および自己乳化系が含まれる。さまざまな調合物の共通する特質は、系の連続相での非常に高濃度の薬物である。
【0017】
上に考察したとおり、Fickの拡散の第2法則は希釈溶液からの薬物の放出を支配する。しかし、非常に高度に濃縮された溶液においてはFickの法則は破綻する。非常に高度に濃縮された溶液においては、溶質(すなわち薬物)の存在によって、溶媒分子が任意に方向付けする能力が阻害される。これらの高度に濃縮された溶液における薬物の溶媒和は、隣接水分子の非常に高度の特定的方向付けをもたらし、非常に高エネルギーの状態を作る。熱力学の第3法則は、系全体のエネルギーを下げるために分子が常にエントロピーが増加した状態を求めることを指示するため、薬物を連続相から出して皮膚のバリア膜を横切らせることを強いる熱力学的推進力が高められる。連続相から薬物を除去した結果、連続相のエントロピーが増加する。これは、薬物の濃度を下げることで溶媒分子がより多く動けるようになる(すなわちエントロピーが増加する)ためであり、よって系のエネルギー全体が減少する。その結果、薬物製品から標的組織に薬物が迅速に早期送達される。
【0018】
実施例のデータにおいてこの効果の証拠を見ることができる。参照リドカインパッチ(5%薬物含有量)または非常に低い有効レベルのリドカイン遊離塩基しか有さない塩酸リドカインクリーム(無電荷の塩基はバリア膜を横切ることができるのに対し、荷電塩の形は横切ることができない)に比べて、高度に濃縮されたゲル調合物は、ヒトの皮膚膜を横切る初期(最初の6時間)レベルの薬物輸送がより高くなる。
【0019】
A.局所麻酔薬
本明細書で用いられる「局所麻酔薬」という用語は、局所的な麻痺または鎮痛を与える薬物を意味する。局所麻酔薬は、典型的には電位開口型ナトリウムチャネルとの干渉に関する作用によって、活動電位の伝導および/または開始の可逆的遮断をもたらす。脂質溶解度は、固有の麻酔能力の主要な決定要素のようである。親油性の高い化学化合物は、より容易に神経膜に浸透する傾向があるため、伝導遮断に必要な分子が少なくなり、その結果効力が高くなる。
【0020】
化学的には、ほとんどの局所麻酔薬がエステルまたはアミドである。エステルは、プロカイン、テトラカイン、およびクロロプロカインを含むがこれらに限定されない。それらは偽コリンエステラーゼによって血漿中で加水分解される。アミドは、リドカイン、メピビカイン(mepivicaine)、プリロカイン、ブピバカイン、およびエチドカインを含むがこれらに限定されない。これらの化合物はしばしば「カインアルカロイド」と呼ばれる。カインアルカロイドは一般的に高い初回通過代謝を有する。肝臓は薬物を迅速に代謝させ、腎臓は代謝産物および/または変化していない薬物を排出する。
【0021】
ジブカイン、ブピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、リドカイン、およびキシロカインを含むいくつかの異なる局所麻酔薬が用いられてもよい。好ましい実施形態において、麻酔薬はリドカインであり、最も好ましくは遊離塩基の形のリドカインであるが、塩、たとえば塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、クエン酸塩または硫酸塩などを用いることも可能であってもよい。実施例に示されるとおり、リドカイン遊離塩基を含有するゲルならびにリドカインHClを含有するクリームおよびスプレーが調製された。これらの薬物の遊離塩基形に比べて、より親水性の高い塩酸塩は、より長く高密度の神経遮断、マトリックスからのより完全な放出、標的とする神経範囲からのより遅いクリアランス、およびより少ない被包を示す。
【0022】
本明細書に記載される調合物は、全身的吸収がほとんどない状態で高い局所濃度を送達すべきであり、それはカインアルカロイドの全身的吸収に関連する有害な副作用を最小化するはずである。たとえば、リドカイン遊離塩基を含有する調合物の投与後、血漿中に変化していない薬物はほとんどまたはまったく検出されなかった。
【0023】
調合物は、調合物の約20重量%より多い量から約60重量%の薬物を含有する。好ましい調合物において、調合物は約40重量%のリドカイン、最も好ましくは遊離塩基のリドカインを含有する。以下の実施例における研究に基づいて、同じ経皮的摂取を達成するためにはより多くの塩の形が必要である。下記により詳細に考察され、実施例によって示されているとおり、濃度および薬物動態学は局所麻酔薬および賦形剤の形によって決まる。一般的に、ゲル中のより低濃度のリドカイン遊離塩基が、多相賦形剤中のより高濃度のリドカインHClと同等の摂取を与える。
【0024】
B.賦形剤
1.ローション、クリーム、ゲル、軟膏、泡
本明細書で用いられる「水溶性」とは、5g/100mlの水以上の溶解度を有する物質をいう。
【0025】
本明細書で用いられる「脂質可溶性」とは、ヒマシ油などの疎水性の液体中で5g/100ml以上の溶解度を有する物質をいう。
【0026】
本明細書で用いられる「親水性」とは、水と容易に相互作用する強い極性基を有する物質をいう。
【0027】
「親油性」とは、脂質に対する親和性を有する化合物をいう。
【0028】
「両親媒性」とは、親水性および親油性(疎水性)の特性を組合せた分子をいう。
【0029】
本明細書で用いられる「疎水性」とは、水に対する親和性を欠いた物質をいい;これは、水をはじいて吸収せず、かつ水に溶解または混合しない傾向がある。
【0030】
「ゲル」とは、分散相が連続相と組合さってゼリーなどの半固体材料を生成しているコロイドである。
【0031】
「油」とは、少なくとも95%wtの親油性物質を含有する組成物である。親油性物質の例は、天然および合成の油、脂肪、脂肪酸、レシチン、トリグリセリドおよびその組合せを含むがこれらに限定されない。
【0032】
「連続相」とは、中に固体が懸濁されているか、または別の液体の小滴が分散している液体をいい、時には外部相と呼ばれる。連続相は、固体または流体粒子が分配されたコロイドの流体相のこともいう。連続相が水(または別の親水性溶媒)であるとき、その連続相には水溶性または親水性の薬物が溶解する(分散とは対照的に)。多相調合物(例、エマルション)においては、連続相中に個々の(discreet)相が懸濁または分散される。
【0033】
「エマルション」とは、均一に共にブレンドされた非混和性構成要素の混合物を含有する組成物である。特定の実施形態において、非混和性構成要素は新油性構成要素および水性構成要素を含む。エマルションは、1つの液体を小液滴(small globule)の形で第2の液体の全体にわたって分配させた調製物である。分散された液体は不連続相であり、分散媒は連続相である。油が分散液体であって水溶液が連続相であるとき、それは水中油型エマルションとして公知であり、一方で水または水溶液が分散相であって油または油性物質が連続相であるとき、それは油中水型エマルションとして公知である。油相および水相のいずれかまたは両方が、1つまたはそれ以上の界面活性剤、乳化剤、エマルション安定化剤、緩衝剤、およびその他の賦形剤を含有してもよい。好ましい賦形剤は、界面活性剤、特に非イオン性界面活性剤;乳化剤、特に乳化ワックス;および液体の不揮発性非水性材料、特にプロピレングリコールなどのグリコールを含む。油相は、他の油性の医薬的に承認された賦形剤を含有してもよい。たとえば、水酸化ヒマシ油またはゴマ油などの材料が、界面活性剤または乳化剤として油相に用いられてもよい。
【0034】
「軟化薬」とは、皮膚を軟化または鎮静させる、外部から適用される薬剤であり、当該技術分野において一般的に公知であって、たとえば「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,第4版,Pharmaceutical Press,2003年などの概論にリストされている。これらの軟化薬は、アーモンド油、ヒマシ油、セラトニア抽出物、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、セチルエステルワックス、コレステロール、綿実油、シクロメチコン、エチレングリコールパルミトステアレート、グリセリン、グリセリンモノステアレート、グリセリルモノオレエート、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、ラノリン、レシチン、軽鉱油、中鎖トリグリセリド、鉱油およびラノリンアルコール、ワセリン、ワセリンおよびラノリンアルコール、大豆油、澱粉、ステアリルアルコール、ヒマワリ油、キシリトール、ならびにその組合せを限定的でなく含む。実施形態の1つにおいて、軟化薬はエチルヘキシルステアレートおよびエチルヘキシルパルミテートである。
【0035】
「界面活性剤」とは、表面張力を下げることによって、製品の乳化、発泡、分散、伸展および湿潤特性を増加させる表面活性剤である。好適な非イオン性界面活性剤は、乳化ワックス、グリセリルモノオレエート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリソルベート、ソルビタンエステル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、シクロデキストリン、グリセリンモノステアレート、ポロキサマー、ポビドン、およびその組合せを含む。実施形態の1つにおいて、非イオン性界面活性剤はステアリルアルコールである。
【0036】
「乳化剤」とは、1つの液体の別の液体への懸濁を促進し、油と水との安定な混合物またはエマルションの形成を促進する表面活性物質である。一般的な乳化剤は次のとおりである:金属石鹸、特定の動物および植物油、ならびにさまざまな極性化合物。好適な乳化剤は、アカシア、アニオン性乳化ワックス、カルシウムステアレート、カルボマー、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、ジエタノールアミン、エチレングリコールパルミトステアレート、グリセリンモノステアレート、グリセリルモノオレエート、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ラノリン、含水、ラノリンアルコール、レシチン、中鎖トリグリセリド、メチルセルロース、鉱油およびラノリンアルコール、一塩基リン酸ナトリウム、モノエタノールアミン、非イオン性乳化ワックス、オレイン酸、ポロキサマー、ポロキサマー類(poloxamers)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、プロピレングリコールアルギネート、自己乳化グリセリルモノステアレート、クエン酸ナトリウム無水物(sodium citrate dehydrate)、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタンエステル、ステアリン酸、ヒマワリ油、トラガント、トリエタノールアミン、キサンタンガム、およびその組合せを含む。実施形態の1つにおいて、乳化剤はグリセロールステアレートである。
【0037】
「ローション」とは、低粘度から中間粘度の液体調合物である。ローションは、懸濁剤および分散剤の使用によって分散媒に溶解できる、細かい粉末にした物質を含有してもよい。代替的に、ローションは、ビヒクルと非混合性であって通常乳化剤またはその他の好適な安定化剤によって分散される液体物質を分散相として有してもよい。実施形態の1つにおいて、ローションは100センチストークスから1000センチストークスの粘度を有するエマルションの形である。ローションの流動性によって、広い表面積への迅速かつ均一な適用が可能になる。典型的に、ローションは皮膚の上で乾燥して、その医薬的構成要素の薄いコートを皮膚の表面に残すことが意図される。
【0038】
「クリーム」とは、「水中油」または「油中水型」のいずれかの、粘性液体または半固体エマルションである。クリームは乳化剤および/またはその他の安定化剤を含有してもよい。実施形態の1つにおいて、調合物は、1000センチストークスより大きい、典型的には20,000〜50,000センチストークスの範囲の粘度を有するクリームの形である。クリームは一般的に薄く塗ることがより簡単でかつ除去がより簡単であるため、しばしば軟膏よりも好まれる。
【0039】
エマルションは、1つの液体を小液滴の形で第2の液体の全体にわたって分配させた調製物である。分散された液体は不連続相であり、分散媒は連続相である。油が分散液体であって水溶液が連続相であるとき、それは水中油型エマルションとして公知であり、一方で水または水溶液が分散相であって油または油性物質が連続相であるとき、それは油中水型エマルションとして公知である。油相は、HFA噴霧剤などの噴霧剤から少なくとも部分的になっていてもよい。油相および水相のいずれかまたは両方が、1つまたはそれ以上の界面活性剤、乳化剤、エマルション安定化剤、緩衝剤、およびその他の賦形剤を含有してもよい。好ましい賦形剤は、界面活性剤、特に非イオン性界面活性剤;乳化剤、特に乳化ワックス;および液体の不揮発性非水性材料、特にプロピレングリコールなどのグリコールを含む。油相は、他の油性の医薬的に承認された賦形剤を含有してもよい。たとえば、水酸化ヒマシ油またはゴマ油などの材料が、界面活性剤または乳化剤として油相に用いられてもよい。
【0040】
エマルションの部分集合は、自己乳化系である。これらの薬物送達系は典型的に、界面活性剤(類)および油またはその他の水非混合性液体などの親油性液体の混合物に分散または溶解された薬物から構成されたカプセル(ハードシェルまたはソフトシェル)である。カプセルが水性環境に曝露して外側のゼラチンシェルが溶解すると、水性媒体とカプセル内容物との接触によって、即座に非常に小さなエマルション小滴が生じる。これらは典型的に、ミセルまたはナノ粒子のサイズ範囲である。エマルション調合プロセスにおいて典型的に必要な混合力を必要とせずにエマルションが生じる。以下の表に示されるとおり、自己発生するエマルションは薬物の吸収を高めることが公知である。
【0041】
クリームとローションとの基本的な違いは粘度であり、粘度は調合物を調製するために用いられるさまざまな油の量/使用および水のパーセンテージによって決まる。典型的にクリームはローションよりも濃く、さまざまな用法が可能であり、しばしば皮膚に対する所望の効果によってより多様な油/バターが用いられる。クリーム調合物において、水ベース(base)のパーセンテージは全体の約60〜75%であり、油ベースは約20〜30%であり、それ以外のパーセンテージは乳化剤、保存剤および添加剤であって、合計100%となる。リドカイン/塩酸リドカインクリームの組成の例を実施例に示す。
【0042】
「軟膏」とは、軟膏ベースおよび任意には1つまたはそれ以上の活性剤を含有する半固体調製物である。好適な軟膏ベースの例は、炭化水素ベース(例、ワセリン、白色ワセリン、黄色軟膏、および鉱油);吸収ベース(親水性ワセリン、無水ラノリン、ラノリン、およびコールドクリーム);水除去可能ベース(例、親水性軟膏)、および水溶性ベース(例、ポリエチレングリコール軟膏)を含む。ペーストは、より大きなパーセンテージの固体を含有するという点において、典型的に軟膏とは異なる。ペーストは典型的に、同じ構成要素で調製された軟膏よりも吸収性が高く、油っぽさが少ない。
【0043】
「ゲル」とは、液体ビヒクルに溶解または懸濁された増粘剤または重合材料の作用によって半固体にされる、液体ビヒクル中に小分子または大分子の分散を含有する半固体系である。液体は、親油性構成要素、水性構成要素またはその両方を含んでいてもよい。いくつかのエマルションはゲルであるか、または別様にゲル構成要素を含んでいてもよい。しかし、いくつかのゲルは、非混合性構成要素の均質化ブレンドを含有しないのでエマルションではない。リドカイン/塩酸リドカインゲルの組成の例を実施例に示す。好適なゲル化剤は、修飾されたセルロース、たとえばヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースなど;Carbopolホモポリマーおよび共重合体;ならびにその組合せを含むがこれに限定されない。液体ビヒクル中の好適な溶媒は、ジグリコールモノエチルエーテル;アルキレングリコール、たとえばプロピレングリコールなど;ジメチルイソソルビド;アルコール、たとえばイソプロピルアルコールおよびエタノールなどを含むがこれに限定されない。溶媒は典型的に、薬物を溶解する能力によって選択される。調合物の皮膚感触および/または軟化性(emolliency)を改善するその他の添加剤も取り入れられてもよい。こうした添加剤の例は、イソプロピルミリステート、酢酸エチル、安息香酸C12−C15アルキル、鉱油、スクアラン、シクロメチコン、カプリン酸/カプリル酸トリグリセリド、およびその組合せを含むがこれに限定されない。
【0044】
泡は、ガス状の噴霧剤と組合せられたエマルションからなる。ガス状の噴霧剤は、主にハイドロフルオロアルカン(hydrofluoroalkanes:HFAs)からなる。好適な噴霧剤は、HFA、たとえば1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)などを含むが、医療用の使用に対して現在承認されているか、または今後承認され得るこれらおよびその他のHFAの混合物および混和物(admixture)が好適である。噴霧剤は、噴霧中に可燃性または爆発性の蒸気を生成し得る炭化水素噴霧剤ガスではないことが好ましい。さらに、組成物は、使用中に可燃性または爆発性の蒸気を生成し得る揮発性アルコールを含有しないことが好ましい。
【0045】
緩衝剤を用いて組成物のpHを調節する。好ましくは、緩衝剤はpH約4からpH約7.5、より好ましくはpH約4からpH約7、最も好ましくはpH約5からpH約7まで組成物を緩衝する。好ましい実施形態において、緩衝剤はトリエタノールアミンである。
【0046】
保存剤を用いて真菌および微生物の生育を防いでもよい。好適な抗真菌剤および抗菌剤は、安息香酸、ブチルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、およびチメロサールを含むがこれに限定されない。
【0047】
II.処置の方法
A.有効用量;投与の部位
本明細書に記載される調合物は、鎮痛を与えるために痛みの部位またはその隣接部に投与されてもよい。調合物は、たとえば急速な一時的鎮痛のために1日1回投与されても、または長期間にわたって鎮痛を維持するために1日2回もしくは3回など、より頻繁に投与されてもよい。
【0048】
1.局所
組成物は、痛みのある領域の部位またはそれに隣接する部位に局所的に適用される。組成物は必要に応じて再適用される。痛みのある皮膚および皮下構造に投薬を適用することによって、全身送達に関連する副作用を避けながら鎮痛をもたらす。鎮痛は数分から数時間以内に得られ、約3〜6時間から24時間の間続く。痛みおよびかゆみなどその他不快な感覚を改善または除去するために、痛みのある範囲またはすぐ隣接する範囲に有効用量を与えるために十分な用量となるように、化合物が適用される。
【0049】
2.皮内
調合物のいくつかは、たとえばインスリン注射器などを用いて皮内投与されてもよい。可能な限り小さい用量を投与するように注意すべきであり、局所または皮内のすべての場合において、全身レベルまたは局所毒性を避けるよう注意すべきである。
【0050】
B.治療の指標
神経因性疼痛などの痛みを処置するために調合物を用いることができる。神経因性疼痛とは、主に神経系を冒す疾患または状態に関連する痛みである。たとえば、ひざの骨関節炎からの痛みは神経因性疼痛とは考えられない。しかし、糖尿病性神経障害に関連する痛みまたは神経損傷に関連する痛みは、神経障害性であると考えられる。神経因性疼痛は、ナトリウムチャネルなどのイオンチャネルの障害からも起こり得る。神経系は、傷害からのあらゆる進行中の刺激なしに痛みを生成および永続させることができる(すなわち神経障害性)。神経因性疼痛は、原因がないように見え、標準的な痛みの治療法にあまり反応せず、無限に続いて時間とともに強くなることすらあり、結果としてしばしば深刻な障害をもたらすため、しばしば患者および医者の両方にとって不可解かついらいらさせるものとなる。
【0051】
神経因性疼痛の状態における末梢組織の痛みの生成には、4つの病理学的機構が関連する。それらは次のとおりである:1)侵害受容器感作、これによって侵害受容器が刺激に対する感受性を高める;2)変換チャネルの異常な活性またはスパイク生成機構の異常な感受性のいずれかに関係する自発活性;3)交感神経遠心性線維と侵害受容器との間の異常な結合(交感神経によって維持される痛み);および4)求心路遮断、痛みの中心的機構であって、これによって、痛みが、一次求心路からの入力の変更の結果として中枢神経系における痛みと関連したニューロンにおける異常な活性から生じる。
【0052】
痛みに関係する信号を運ぶ一次感覚ニューロンは、C線維およびAデルタ侵害受容器と呼ばれる。通常それらは、有害な機械的、熱的および/または化学的刺激に応答して活動電位を発火させる。腰部椎間板ヘルニアは、隣接する神経根への付随的な化学刺激物によって、座骨神経の痛みを生成し得る。手根管症候群は、正中神経の反復的な伸張と、周囲組織の浮腫と肥大に起因する圧縮と、正中神経の化学的刺激を生じる炎症との組合せによるものである。三叉神経痛は、脳幹の近くの三叉神経における脈管圧縮に起因すると考えられており、多発性硬化症などの状態にも関係しているかもしれない。
【0053】
傷害または疾患によって損傷を受けた神経線維は、傷害の部位において、または損傷した神経に沿った異所性病巣において、自発的に発火し得る。その結果もたらされる痛みの発作はしばしば、電撃痛、刺されたような痛み、またはズキズキする痛みと説明される。多くの神経線維が影響を受けて非同期的に発火するとき、神経因性疼痛は連続的にヒリヒリする結果をもたらす性質を有すると考えられている。しかしそれに加えて、損傷した神経の神経支配領域を共有する神経線維も異常に放電するおそれがある。この放電は皮膚で起こるため、局所療法に向いている。たとえば、局所的に適用されたクロニジンは、痛みのある部位への送達後に痛みを鎮めることが見出されている。
【0054】
正常な状態では、感覚は末梢組織から、ニューロンの結合鎖を介して脊髄、脳幹および脳に伝達される。その鎖のいずれかの部分が中断すると、経路のさらに上方の神経の過敏性および発火の増加がもたらされる可能性がある。この現象は、幻肢痛がどのようにして起こり得るかを説明する:四肢からの感覚入力を失うことによって、2次および3次ニューロンの自発的発火が起こることがあり、その結果失われた四肢の痛みおよびその他の感覚的経験がもたらされる。同様に、糖尿病性神経障害、ヘルペス後の神経障害、または末梢神経の外傷によって損傷を受けた神経は、より高次の神経の発火、すなわち進行中の痛みを生成し得る。
【実施例】
【0055】
以下の限定的でない実施例を参照することによって、本発明がさらに理解されるであろう。
【0056】
(実施例1)
医薬的に許容できる局所担体におけるリドカインおよびリドカインHClの溶解度および適合性の決定
主目的は、神経因性疼痛の処置のために、全身暴露が制限された活性医薬成分(Active Pharmaceutical Ingredient:API)として40%リドカインを含有する即効性の局所用製品を開発することだった。
【0057】
材料および方法
調合物開発企画(effort)を指示するために、局所用医薬製品に典型的に用いられる溶媒におけるリドカインおよびリドカインHClの溶解度および適合性を評価した。溶媒は、予想溶解度パラメータおよび溶媒の挙動、ならびにそれがFDA承認のInactive Ingredient Guide(IIG)に含まれていることに基づいて選択した。付加的な特徴には、適切な化粧品特性を保持しながら高レベルの薬物を収容できること、ならびに胴および顔への適用のための速乾製品に対する可能性が含まれた。
【0058】
最初に、さまざまな親油性を有する単一溶媒におけるリドカインおよび塩酸リドカインの溶解度を評価した。高濃度のAPIを与えると、可溶化した薬物サンプルを1週間の保存後に視覚的に調べ、結晶化が起こっていないことを確かめた。この単一溶媒のデータに基づいて、適合性の研究を開始し、可能な原型ゲルまたはクリーム調合物のベースを形成し得るさまざまな溶媒ブレンドにおける40%w/wの濃度の薬物の化学的安定性を評価した。リドカインおよび塩酸リドカインの両方が物理的外観を保持し、加速条件で2週間保存されたサンプルと最初のサンプルとの間に能力の低下がないことによって、溶媒ブレンド中のリドカインの化学的適合性が支持された。
【0059】
表1.R&D安定性の概要
【0060】
【表1−1】

Brookfield粘度計で測定、使用したスピンドル:27、サンプル重量:12.5gm、rpm=50
**Brookfield粘度計で測定、使用したスピンドル:14、サンプル重量:2.5gm、rpm=60
ND:決定せず。
【0061】
表1.R&D安定性の概要(続き)
【0062】
【表1−2】

表2A:活性剤としてリドカインHClを有するクリームの組成;活性剤としてリドカインを有するクリームの組成
【0063】
【表2−1】

表2B:活性剤としてリドカインHClを有するゲルの組成;活性剤としてリドカインを有するゲルの組成
【0064】
【表2−2】

表2Aおよび表2Bに示されるとおり、リドカインまたは塩酸リドカインを40%w/wで調合した合計11種の調合物を調製した。11調合物のうち4つがリドカイン遊離塩基を含有した(非水性および水性ゲルの両方)のに対し、残りの7調合物はリドカインのHCl塩の形を含有した(クリーム、ゲル、スプレー、および泡剤形)。調合物を透明なガラス容器に入れて、5℃、25℃および40℃にて1ヶ月間保存した。それとは別に、調合物は凍結/融解または高温/低温のサイクリングを各々3サイクル受けた。
【0065】
すべての原型調合物の活性物質の効力、外観およびpHをテストした。選択されたサンプルは、粘度および顕微鏡法テストも受けた。
【0066】
結果
安定性の結果を表1に示す。
【0067】
データは、テストされたすべての原型調合物に対して、時間または温度による顕著な活性物質の損失を示していない。分解産物の証拠は観察されなかった。
【0068】
どの原型もテストされたいずれの条件においても外観の変化を示さなかったが、例外として2749−37および2749−38は5℃で保存したときに相分離を示した。リドカイン塩基を含有する原型調合物は、保存温度の上昇によって色(黄色っぽい)強度の増加を示した。調合物2749−30は強い臭気を有したが、これはこの調合物が含有する酢酸エチルに起因すると考えられる。
【0069】
25℃にて3ヶ月保存後、析出も結晶化も観察されなかった。以下に挙げられるゲルの例外を除き、原型調合物に対するpH値は5.41から5.98の範囲だった。目標pHは5.5から6.0だった。測定されたpHは、評価されたすべてのサンプルについて初期値から顕著な変化を示さなかった。リドカインを含有する原型ゲル(2749−30および2749−32)は非水性である;したがって、希釈組成物のpHに対する変化をモニタするために、水による1:9希釈後にpHを測定した。データは、時間または温度による測定pH値の顕著な変化を示していない。
【0070】
選択サンプルの粘度を評価した。目立つほどの低粘稠化を示したサンプルはなく、すべてのサンプルがそのゲル様またはクリーム状の粘稠度を維持した。原型2749−28はいくらかの曳糸性(stringiness)を示し、それは生成物中の増粘剤の濃度を変えることによって最適化できた。
【0071】
まとめると、1ヶ月の保存後の調合物を物理的および化学的に評価した。リドカインHClを含有するクリームを除くすべての原型調合物は、異なる条件で1ヶ月間保存された後にも最初の物理的および化学的安定性特性を保持した。3ヶ月の時点で生じた結果に基づいて、2749−37および2749−38を除くすべての原型を、さらなる検討に適したものとした。原型調合物2749−37および2749−38は、冷蔵条件で観察される層分離に対処するためのさらなる最適化が必要である。
【0072】
(実施例2)
ヒトの皮膚を用いた原型調合物からのリドカインのインビトロ経皮吸収
材料および方法
実施例1の結果に基づいて、8つの原型調合物を選択して、インビトロ皮膚浸透研究における評価を行なった。この研究の目的は、選択的手術からの切除されたヒト皮膚に局所適用した後に、2つの対照調合物(配合調剤製品および市販のパッチのLIDODERM(登録商標))と比較して、原型調合物からの活性物質(リドカイン遊離塩基またはリドカインHCl)のインビトロ経皮吸収を特徴付けすることであった。この研究でテストする調合物の選択は、主に物理的および化学的安定性、リドカイン塩基または塩酸リドカインのいずれかを含有する広範囲の剤形(クリーム、スプレータイプ、泡およびゲル)を含むことの要望、および原型調合物から広範囲の送達が得られることに基づいた。
【0073】
この研究は、the FDA and AAPS Report of the Workshop on Principles and Practices of In Vitro Percutaneous Penetration Studies:Relevance to Bioavailability and Bioequivalence(Skellyら、1987)から適合された手順を用いて行なわれた。選択的手術後に得られた単一ドナーからのデルマトームで採取された(dermatomed)ヒト腹部組織に、5mg/cmの臨床的に関連する用量を適用した。組織の厚さは0.025〜0.038インチ(0.635〜0.965mm)であり、その厚さの平均+/−標準偏差は0.031+/−0.004インチ(0.792+/−0.092mm)、変動係数は11.6%であった。
【0074】
Bronaughフロースルー拡散セルに入れたこの単一ドナーからのヒト腹部組織を用いて、経皮的吸収を評価した。再循環水浴を用いて、セルを32℃の一定の温度に維持した。これらのセルは0.64cmの公称拡散面積を有する。新鮮な受容体相、すなわち0.1%のアジ化ナトリウムと4%のウシ血清アルブミンとを有するPBSを、公称1.0ml/hrの流速で組織の下に連続的にポンピングし、6時間間隔で集めた。受容体相サンプルは、予め計量したシンチレーションバイアルに集めた;研究期間に続いて、後の重量が取られた。24時間の曝露期間の後、組織表面に存在する調合物をCuDerm D−Squameストリッピングディスクによるテープストリッピングによって除去した。表皮、真皮および受容体相サンプルに存在するリドカインの量を適切に標識し、外部の契約の生物分析研究所であるPyxant Labs,Inc.に送って、LC/MS/MSによるリドカイン含有量のさらなる分析および最終的なサンプル処分を行なった。
【0075】
表3は、テストされた調合物の組成を示す。投薬された組織の平方センチメートル当りのリドカインの質量は、各サンプル中のリドカインの質量を調合物に曝露した皮膚の面積で割ったものを用いて算出した。
【0076】
組織浸透の結果は、独立スチューデントt検定(調合物間の有意差は、95%の信頼区間で、<0.05のp値によって定義された)を用いて統計学的に評価された。
【0077】
結果
図1に示されるとおり、3つのゲルすべて(2749−30、249−31および2749−32)の候補からのリドカイン送達は、配合調剤調合物と同等またはそれ以上であり、ゲルのうち2つ(2749−32および2749−30)からのリドカイン送達は、24時間の期間にわたってLIDODERM(登録商標)パッチに匹敵した。
【0078】
LIDODERM(登録商標)パッチは、24時間の期間にわたってテスト調合物よりも線形的な薬物浸透の速度を示した。調合物2749−32および2749−30は、適用時から6時間まで、LIDODERM(登録商標)パッチを含むその他すべての調合物よりも多くのリドカインを送達した。このことから、これら2つの調合物は作用の発現がより速い可能性があり、よってより迅速な鎮痛を与えるはずであることが示された。
【0079】
調合物31は配合調剤クリームに匹敵する送達プロファイルを有した。リドカインHClを含有する原型候補は、遊離塩基を含有する調合物ほどの送達を行なわなかった。
【0080】
リドカインの皮膚浸透(受容体相レベル)は、2.8μg/cmから35μg/cmの範囲であり、これはそれぞれ調合物2749−72および2749−30からのものであった。調合物2749−32および2749−30は、それぞれ34μg/cmおよび35μg/cmと、最高のリドカイン浸透量を有した。調合物2749−32および2749−30からのリドカイン送達は、LIDODERM(登録商標)パッチの34μg/cmに匹敵した。対照調合物(配合調剤製品およびリドカインパッチ)からのリドカインの組織浸透は、それぞれ24μg/cmおよび34μg/cmだった(リドカインの適用量の1.4パーセントおよび0.68パーセントに等しい)。調合物2749−32および2749−30からの24時間曝露後のリドカインの皮膚送達はリドカインパッチに匹敵した。調合物2749−32および2749−30ならびにLIDODERM(登録商標)パッチからのリドカインの皮膚浸透は、配合調剤製品の24μg/cmよりも有意に高かった(p<0.05、独立スチューデントt検定)。調合物2749−31からの皮膚浸透(21μg/cm)は、配合調剤製品のものに匹敵した。
【0081】
組織浸透の動力学的プロファイルが図1に示されており、ここではリドカインの累積的組織浸透がμg/cmの単位で時間での期間に対してプロットされている。リドカインの皮膚浸透は、半固体剤形の局部適用に続く最初の12時間の曝露後にほぼ完了した;これに対し、LIDODERM(登録商標)パッチは、この研究の24時間の期間にわたって、より線形的な薬物浸透速度を示した。調合物2749−32および2749−30は、適用時から受容体相回収の最初の時点である6時間までに、その他すべての調合物よりも多くのリドカインを送達し、このことからこれら2つの調合物は作用の発現がより速い可能性があり、それによってより迅速な鎮痛をもたらすはずであることが示唆された。調合物2749−31は配合調剤製品に匹敵するリドカイン送達プロファイルを有した。リドカインの組織浸透は、独立スチューデントt検定(調合物間の有意差は、95%の信頼区間で、<0.05のp値によって定義された)を用いて統計学的に評価された。
【0082】
結果
結果を図1および表4に示す。図1は、時間での期間にわたってマイクログラムリドカイン/cmとして測定された、ヒトの皮膚を通るリドカインの累積的浸透を示すグラフである。表4は、適用量のパーセントで示されたリドカインの累積的受容体相レベルを示す。
【0083】
リドカイン含有ゲルは、リドカインHCl含有のクリームおよびスプレーよりも大きいリドカイン累積的浸透を示した。LIDODERM(登録商標)は5%のリドカインを含有する接着材料からなる商業的に入手可能なパッチであり、その接着材料は不織ポリエステルフェルトの裏当てに塗布されて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの剥離性ライナーで覆われており、このパッチは1度だけ、所与の24時間の期間のうち最大12時間適用される。
【0084】
リドカインゲル調合物2749−32および2749−30は、テストされたすべての半固体剤形の中で最高レベルのリドカイン送達を与え、これら2つのゲル調合物から24時間にわたって送達されるリドカインの合計量は、市販のLIDODERM(登録商標)パッチによって得られるものに匹敵した。調合物2749−32および2749−30は、適用時から6時間まで、LIDODERM(登録商標)パッチを含むその他すべての調合物よりも多くのリドカインを送達した。このことから、これら2つの調合物は作用の発現がより速い可能性があり、よってより迅速な鎮痛を与えるはずであることが示された。
【0085】
調合物2749−31によって、配合調剤製品に匹敵するリドカイン送達および動力学的プロファイルが得られた。
【0086】
【表3】

表4:適用量のパーセントでのリドカインの累積的受容体相レベル
【0087】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
痛みを処置するための調合物であって、
ローション、クリーム、スプレー、泡、分散物、ゲル、または軟膏の中の局所麻酔薬を含み、該局所麻酔薬は20重量%よりも大きい量で存在する、調合物。
【請求項2】
前記局所麻酔薬は、ジブカイン、ブピバカイン、エチドカイン、テトラカイン、リドカイン、およびキシロカインからなる群より選択される、請求項1に記載の調合物。
【請求項3】
前記局所麻酔薬はリドカイン遊離塩基である、請求項2に記載の調合物。
【請求項4】
前記調合物はゲルまたはその他の連続相である、請求項1または3に記載の調合物。
【請求項5】
前記局所麻酔薬は20重量%より大きい量と40重量%との間の量で存在する、請求項1または3に記載の調合物。
【請求項6】
前記局所麻酔薬は約40重量%の量で存在する、請求項1に記載の調合物。
【請求項7】
前記調合物はローション、クリーム、ゲル、泡、懸濁物、分散物またはスプレーである、請求項1に記載の調合物。
【請求項8】
投与の6時間以内に初期バースト放出を与える、請求項1に記載の調合物。
【請求項9】
前記局所麻酔薬の濃度は、放出が単純な拡散ではなく熱力学の第3法則に支配されるために十分に高い、請求項1に記載の調合物。
【請求項10】
痛みを処置する方法であって、痛みのある部位またはそれに隣接する部位に、請求項1から9のいずれかに記載の調合物の有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項11】
前記痛みは神経因性疼痛である、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−536793(P2010−536793A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521214(P2010−521214)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/073381
【国際公開番号】WO2009/026178
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(508137556)アルション セラピューティクス, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】