説明

高濃度アルコールフォーム剤

【課題】本発明は、アルコールを高濃度に含有し、起泡性に優れ、かつ安定な泡を維持することができるフォーム型高濃度アルコール製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明におけるフォーム型高濃度アルコール製剤は、50重量%以上のアルコール、フッ素系アニオン性界面活性およびカチオン性化合物を含むことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、50重量%以上のアルコール中にフッ素系アニオン性界面活性剤を添加することによって泡立ちが認められ、また、カチオン性化合物を配合することにより安定な泡を維持する組成物を見出したフォーム型高濃度アルコール製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療従事者向けの手指消毒剤は50%〜90%のアルコールを有効成分とし、なかには70%以上の高濃度のアルコールを含むものが多く、剤型として液剤のスプレーポンプ噴霧、ジェル剤のポンプ吐出が主流となっている。液剤は容器から手に取った時に液たれがあり、床等を汚してしまう欠点がある。一方、ジェル剤は手から液垂れしにくいものの、ポンプの詰まりやポンプ先端で部分的に固形化することにより横飛びして着衣を汚したり、ジェル化剤が消毒後の手指に残留しべたつく等の問題がある。これらは頻繁に手指消毒を行う医療従事者および医療機関にとって、決して軽微な問題ではなく、感染予防の基本である手指消毒のコンプライアンス低下に繋がりかねない。
【0003】
フォーム型の高濃度アルコール製剤(以下、アルコールフォーム剤)は液垂れしにくいため床を汚す事がほとんどない。また、フォーム状の製剤が長く手指に滞留するため、手指全体を満遍なく消毒するのに適している。さらに、使用後にべとつかなく、かつ手肌に優しく、殺菌力が持続される。
【0004】
ところが、アルコールは消泡効果があり、界面活性剤を溶解させ、界面上にきれい並ばないため起泡できないとされている。特に高濃度になると一時的に機械的に泡立たせることができたとしても、手指全体に広げる間に安定な泡を維持するのは難しい。
【0005】
これに対し、高濃度のアルコール中にフッ素化界面活性剤および両性界面活性剤を加えたもの(特許文献1参照)、パーフルオロアルキルアルコールを加え、エアゾールにしたもの(特許文献2参照)、エトキシ化ノニオン性フルオロ界面活性剤と水溶性ポリマーを添加したもの(特許文献3参照)が提案されてきた。
【0006】
しかしながら、特許文献2におけるアルコールの起泡は高圧ガスを利用した噴射によるもののためポンプ等の使用時には同様の効果を期待できない。また、COやNなどのガスの発生、容器の無駄などは環境にやさしくなく、医療施設などでの使用が難しい。特許文献1および特許文献3では、効果的な殺菌に必要とされる70%以上のエタノールにおいて安定な泡が得られにくいと考えられる。
【0007】
一方、フッ素系アニオン性界面活性剤については、皮膚外用剤への配合例として、皮膚保護物があるが(特許文献4参照)、起泡に関する報告がなく、アルコールを起泡できるという事実は知られていない。一方、フッ素系アニオン性界面活性剤については、皮膚外用剤への配合例として、皮膚保護物があるが(特許文献4参照)、起泡に関する報告がなく、アルコールを起泡できるという事実は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−506684号公報
【特許文献2】特開2004−284996号公報
【特許文献3】特表2010−506007号公報
【特許文献4】特開2009−040759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アルコールを高濃度に含有し、起泡性に優れ、かつ安定な泡を維持することができるフォーム型高濃度アルコール製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、シリコン系およびフッ素系化合物を調べたところ、驚くべきことにフッ素系アニオン性界面活性剤を添加することによって50%以上のアルコールでも起泡し、さらにカチオン性化合物を添加することにより泡の安定化がきたすことができ、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、50重量%以上のアルコール中にフッ素系アニオン性界面活性剤を添加することによって泡立ちが認められ、また、カチオン性化合物を配合することにより安定な泡を維持する組成物に関するものである。特に70%以上のアルコールにも同様な起泡力が維持され、速乾性を増強しながら効果的な殺菌力を示すフォーム型高濃度アルコール製剤を提供できる。
【発明の効果】
【0012】
以上記載のごとく、本発明は、50重量%以上のアルコール及びフッ素系アニオン性界面活性剤を含み、さらにカチオン性化合物を含有する起泡性が安定した組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においてアルコールは、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、およびn−ヘキサノール少なくとも1種を含む。
【0014】
本発明においてフッ素系アニオン性界面活性剤はパーフルオロポリエーテル基を有する群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の組成物である。パーフルオロポリエーテル基は、パーフルオロポリエーテルそのもの、或いはパーフルオロポリエーテル基の末端がカルボキシル基、水酸基、リン酸基、シラン基、イソシアネート基、ヒドロキシメチル基、ポリオキシエチレンリン酸基などで、修飾された化合物などが挙げられる。
【0015】
本発明においてカチオン性化合物は塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、塩化トリメチルアンモニオヒドロキシプロピルグァーガム、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化トレハロース、ベヘントリモニウムクロリド、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、デシルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、オクチルジメチルアミンオキシド、リノールアミドプロピルPG−ジモニウムクロリドリン酸ジメチコン、リノールアミドプロピルPG−ジモニウムクロリドリン酸、ヤシ油アルキルPGジモニウムクロリドリン酸Na、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、グルコン酸クロルヘキシジン、N−ステアロイル−N−メチルタウリンNaのうち少なくとも1種を含む。
【0016】
本発明は、必要に応じて保湿剤、防腐剤、界面活性剤、増粘剤、油剤、溶剤、香料、pH調整剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合することができる。
【0017】
アルコールの配合量としては全成分組成物中、50重量%以上であり、70重量%以上でも構わない。フッ素系アニオン性界面活性剤の配合量は0.001〜20重量%であり、より好ましくは、0.01〜10重量%で、最も好ましくは、0.1〜5重量%である。カチオン性化合物の配合量は0.01〜1重量%であり、より好ましくは、0.1〜0.5重量%である。この範囲であれば、泡立ちが認められ、また、安定な泡を維持することができる組成物として利用できる。
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明を詳説する。本発明は特にこれらにより限定されるものではない。また、用いた試験方法については以下に示す。
【性能比較例1】
【0019】
表1および表2の比較例および実施例の組成物を作製し、性能評価を行った。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【性能比較例2】
【0023】
<起泡力試験>共栓付き試験管中に、比較例および実施例の組成物を入れ、規定回数に上下に激しく振り、直後の泡高さおよび2分間放置後の泡の高さを測定した。また、同時にポンプを用いて吐出し、泡の外観および30秒後の泡を観察した。
ポンプ吐出時の外観
○:細かい泡ができる
△:粗い泡ができる
×:泡にならない
30秒後泡の外観
○:細かい泡
△:粗い泡
×:泡にならない
【0024】
【表4】

【0025】
エタノールのみの比較例1、2は全く泡立たないのに対し、フッ素系アニオン性界面活性剤を添加した実施例1〜4(エタノールが50〜80重量%)のいずれも泡たちが認められ、さらにカチオン性化合物である塩化ベンザルコニウムを添加した実施例5、6は泡の持続性もよくなった。また、パーフルオロアルキルアルコールを配合した特許文献2である比較例6およびエトキシ化ノニオン性フルオロ界面活性剤を配合した特許文献1、3の組成である比較例3〜5よりもフッ素系アニオン性界面活性剤を配合した実施例1〜4は泡立ちおよび2分後の泡立ちが良いことが明らかであった。パーフルオロアルキルアルコールおよびエトキシ化ノニオン性フルオロ界面活性剤のいずれもイオン性がないのに対し、フッ素系アニオン性界面活性剤はアニオン性のため、イオン性の違いにより泡立ちに違いが生じたと思われる。
【0026】
【表5】

【0027】
フッ素系アニオン性界面活性剤の濃度を0.1〜1.0重量%に変化させた実施例7〜10のいずれもよい泡立ちであることが明らかであった。また、0.001〜20重量%のフッ素系アニオン性界面活性剤にも同様な泡立ちを有する。しかし、0.001〜0.01重量%では少し泡立ちが弱く、10〜20重量%では透明な処方を作ることが難しいため、0.01〜10重量%のフッ素系アニオン性界面活性剤はより好ましいである。さらに、エタノールからイソプロパノールに変えた実施例11〜15もよい泡立ちであったことから、アルコールはエタノールに限定されたものではないことがわかった。
【0028】
【表6】

【0029】
実施例16〜36のいずれもよい泡立ちであることが明らかであった。従って、実施例16〜36に示したカチオン性化合物のいずれも泡を安定化させることができることがわかった。
【性能比較例3】
【0030】
<使用感>比較例1〜6および実施例1〜15の組成物について10名の被験者にべとつきなどの使用感および乾燥時間について評価してもらった。
べとつき
○:べとつかない
△:ややべとつく
×:非常にべとつく
乾燥時間
○:早い
△:やや早い
×:遅い
【0030】
【表7】

【0031】
パーフルオロアルキルアルコールを配合した特許文献2である比較例6およびエトキシ化ノニオン性フルオロ界面活性剤を配合した特許文献1、3の組成である比較例3〜5よりもフッ素系アニオン性界面活性剤を配合した実施例1〜6はのいずれもべとつきがなく、乾燥しやすいことが明らかであった。
【0032】
【表8】

【0033】
フッ素系アニオン性界面活性剤の濃度を0.1〜1.0重量%に変化させた実施例7〜10およびエタノールからイソプロパノールに変えた実施例11〜15のいずれもべとつかなく、乾燥しやすいことが明らかであった。
【0034】
上記から、50重量%以上のアルコール中にフッ素系アニオン性界面活性剤を添加することによって泡立ちが認められ、また、カチオン性化合物を配合することにより安定な泡を維持することが明らかであり、手指消毒剤として有用なフォーム型高濃度アルコール製剤を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50重量%以上のアルコール及びフッ素系アニオン性界面活性剤を含むフォーム型高濃度アルコール製剤。
【請求項2】
カチオン性化合物をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルコールとして、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、およびn−ヘキサノールのうち少なくとも1種を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
50重量%以上のアルコールを含む請求項1乃至3に記載の組成物。
【請求項5】
60重量%以上のアルコールを含む請求項1乃至3に記載の組成物。
【請求項6】
70重量%以上のアルコールを含む請求項1乃至3に記載の組成物。
【請求項7】
フッ素系アニオン性界面活性剤はパ−フルオロポリエ−テル基を有する群から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至3に記載の組成物。
【請求項8】
上記請求項7のパーフルオロポリエーテル基は、パーフルオロポリエーテルそのもの、或いはパーフルオロポリエーテル基の末端がカルボキシル基、水酸基、リン酸基、シラン基、イソシアネート基、ヒドロキシメチル基、ポリオキシエチレンリン酸基などで、修飾された化合物などが挙げられる。
【請求項9】
フッ素系アニオン性界面活性剤の配合量は0.01〜10重量%である請求項1乃至3に記載の組成物。
【請求項10】
カチオン性化合物として塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化トリ(ポリオキシエチレン)ステアリルアンモニウム(5E.O.)、塩化ラウリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、塩化トリメチルアンモニオヒドロキシプロピルグァーガム、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化トレハロース、ベヘントリモニウムクロリド、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アルギニンエチル・DL−ピロリドンカルボン酸塩、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、デシルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、オクチルジメチルアミンオキシド、リノールアミドプロピルPG−ジモニウムクロリドリン酸ジメチコン、リノールアミドプロピルPG−ジモニウムクロリドリン酸、ヤシ油アルキルPGジモニウムクロリドリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、グルコン酸クロルヘキシジン、N−ステアロイル−N−メチルタウリンナトリウムのうち少なくとも1種を含む請求項1乃至3に記載の組成物。
【請求項11】
カチオン性化合物の配合量は0.01〜1重量%である請求項2に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−219094(P2012−219094A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103837(P2011−103837)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】