説明

高濃度ホウ酸化合物溶液及びその調合方法

【課題】人体に優しい抗カビ剤・難燃剤であるホウ酸化合物の高濃度溶解を可能にすると共に、処理対象物に対して長期間安定に保持可能にする方法、並びに、該方法によって得られる高濃度ホウ酸化合物溶液を提供することを課題とする。
【解決手段】ホウ酸化合物をアルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と反応させることにより前記ホウ酸化合物を溶解することを特徴とする。好ましくは、前記アルコキシシラン化合物と前記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度ホウ酸化合物溶液及びその調合方法、より詳細には、抗カビ作用及び難燃作用のあるホウ酸化合物を、高濃度に溶解させることを目的とする、高濃度ホウ酸化合物溶液及びその調合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる抗カビ剤として、多くの種類のものが知られている(非特許文献1)。これらの抗カビ剤は、カビに対して有効であることは言うまでもないが、その一方において、他の動植物に悪影響を与えるものが多いことが問題として指摘されている。
【0003】
また、難燃剤としては、有機難燃剤である臭素化合物、リン化合物、塩素化合物や、無機化合物であるアンチモン化合物などのほかに、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が幅広く使用されている(非特許文献2)。しかし、これらの難燃性化合物も、動植物や環境に悪影響を与えるものが多く、その大量使用には大きな問題がある。
【0004】
一方で、ホウ酸化合物に抗カビ作用及び難燃作用があることが知られており、古くから木材等の抗カビ剤又は難燃剤として用いられている。このホウ酸化合物は、その物自身が天然無機物であるために、カビや昆虫などへは有効であるが、腎臓を持つ動物の場合は、ホウ酸塩を過剰に摂取しても、腎臓の働きで体外へ排出されるため、その毒性は微弱であると言われている(非特許文献3)。
【0005】
これらのホウ酸化合物としては、具体的には、ホウ素、ホウ砂、ホウ酸亜鉛などを挙げることができるが、これらホウ酸化合物は水に対する溶解度がそれほど高くなく、例えばホウ酸の場合、通常の温度では5重量%程度に過ぎないため、高い効果を期待するのが難しかった。
【0006】
水に対する溶解度を上げるために、近年、八ホウ酸二ナトリウム四水和物(通称DOT)が開発された。この化合物は、約15重量%程度の溶解度があるため、高い効果が期待でき、木材用抗カビ剤として実用化されている(特許文献1、非特許文献3)が、その溶解度をもってしても、抗カビ効果あるいは難燃性の更なる期待に応えるには不十分であり、ホウ酸化合物の溶解度を更に上げる必要に迫られた。
【0007】
ところで、これらDOTを始めとするホウ酸化合物や他の抗カビ剤・難燃剤のほとんどが、いわゆるバインダー機能を有していないため、処理表面からの脱離を防ぐために、何らかの表面処理剤、即ち、いわゆるバインダーもしくは上塗り剤(オーバーコート剤)が必要となる。
【0008】
バインダーや上塗り剤を用いると、初めのうちはその効果が有効に働くが、次第にその効力が低下してくる。それは、木材などの天然植物由来物質は空隙が多く、その上柔軟性があるため、使用時あるいは温度や湿度の変化により変形したり、伸縮したりすることが多く、それに伴ってバインダーや上塗り剤も変形や伸縮し、その空隙からホウ酸化合物が脱離してしまうためである。このように、バインダーや上塗り剤を用いたとしても、長期間安定した効果が発揮されないという問題がある。
【0009】
また、このような表面処理剤としては従来、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が用いられているが、これらの樹脂は、合成有機高分子であるため、木材の表面に塗工すると、その表面から自然の風合いが失われてしまうという問題がある。それだけでなく、有機塗料は火が近づくと燃えて(こげて)、有害なガスを発生させるおそれがあり、更に、ホルムアルデヒド発生の問題もあり、安全上問題が多い。
【0010】
このような問題を解決する表面処理剤として、天然物由来の塗料がある。これらは原料に天然の油状物質を使用しているため、自然の風合いを残すことが可能であり、ホルムアルデヒドの発生も伴わない、環境に優しい塗料である。しかし、原料の油状物質は木材等の表面で固定化されないため、屋外で長時間雨に当たると溶脱してしまい、長期の安定使用には耐えられず、また、表面が擦られると脱離してしまうので、この点からも長期安定使用は望めなかった。
【0011】
かかる実情の下に、ホウ酸化合物の溶解度を更に上げると共に、ホウ酸化合物自身の固定化の方法を開発すべき要請があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−45134号公報
【0013】
【非特許文献1】ファインケミカル、Vol.33、NO12、P.57、2004年
【非特許文献2】ファインケミカル、Vol.29、NO5、P.5、2000年
【非特許文献3】U.S. Borax Inc. カタログ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記背景の下になされたもので、人体に優しい抗カビ剤・難燃剤であるホウ酸化合物の高濃度溶解を可能にすると共に、処理対象物に対して長期間安定に保持可能にする方法、並びに、該方法によって得られる高濃度ホウ酸化合物溶液を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、人体に対し低毒性であるが故に、抗カビ剤・難燃剤として古くから使用されているホウ酸化合物を、アルコキシシラン及び加水分解可能な有機金属化合物と共存及び/又は反応させることにより、木材等の処理対象物の表面もしくは内部に固定化させ、且つ、その効果を持続させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明は、下記ホウ酸化合物処理方法により、人体に対し低毒性である抗カビ剤や難燃剤として利用可能な高濃度ホウ酸化合物溶液を得、これを木材等の処理対象物の表面もしくは内部に固定化させ、その効果を持続させることを可能にしたものである。
[1] ホウ酸化合物をアルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と反応させることにより前記ホウ酸化合物を溶解することを特徴とする、高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
[2]前記アルコキシシラン化合物と前記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有させることを特徴とする、上記[1]に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
[3]上記アルコキシシラン化合物が下記構造式(1)で示されることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。

(式(1)において、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、nは1〜10である。)
[4]上記アルコキシシラン化合物が下記構造式(2)で示されることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。

(式(2)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは1〜10である。)
[5]上記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属アルコキシドである、上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
[6]ホウ酸化合物とアルコキシシラン化合物のモル比を1:1とすることを特徴とする、上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
[7]アルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物とホウ酸化合物とが反応して金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合を生成してホウ酸化合物が高濃度で溶解していることを特徴とする、高濃度ホウ酸化合物溶液。
[8]上記アルコキシシラン化合物と上記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有していることを特徴とする、上記[7]に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、それ自身溶解度の低いホウ酸化合物を、アルコキシシラン及び加水分解可能な有機金属化合物と反応させることにより、その溶解度を上げ、更に処理対象物と固く結合させることにより、その保持効果を高める効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。本発明は、ホウ酸化合物、アルコキシシラン化合物(以下、シラン系化合物ということがある)、及びこのホウ酸化合物と反応し、且つ、シラン系化合物を硬化及び/又は固化させる加水分解可能な有機金属化合物を含有し、必要に応じ、それらを互いに溶解させる溶媒を含有することを特徴とするものである。
【0019】
より具体的に示すと、ホウ酸化合物が加水分解可能な有機金属化合物と反応し、更に、共存するアルコキシシランと反応することにより、ホウ酸化合物が高濃度に溶解する溶液が調合可能となる。また、この溶液を処理対象物に処理すると、処理対象物の表面もしくは内部の水分と反応し、アルコキシシランがポリマー化し、処理対象物に安定的に保持されることが可能となるものである。以下に、本発明に係る方法について、更に具体的に説明する。
【0020】
アルコキシシランと加水分解可能な有機金属化合物(例えば、チタニウムプロポキシド)を、必要に応じてアルコール(例えば、エタノール)に溶解させ、そこにホウ酸化合物(例えば、ホウ酸)を添加すると反応が進行する。
【0021】
通常、アルコキシシランとチタニウムプロポキシドをイソプロピルアルコールに溶解させても、反応は進行しないことが報告されている(J.Sol−Gel Science and Technology,vol:36,P69−75(2005年)参照)。また、アルコキシシランとホウ酸をエタノール中で撹拌しただけでは反応が進行せず、ホウ酸が未溶解のまま残る。このことは、実験的に確認することができる。
【0022】
一方、チタニウムプロポキシドとホウ酸をエタノール中で撹拌すると、しばらくして液全体が高粘度化し、やがてゲル化する。このことも、実験的に確認することができる。これは、チタニウムプロポキシドとホウ酸が、互いに反応することを示している。
【0023】
また、アルコキシシランとチタニウムプロポキシドをエタノールに溶解させ、そこにホウ酸を加えた場合にも反応が進行し、チタニウムプロポキシドとホウ酸のみを用いた時よりも多くのホウ酸が溶解することが確認された。以上より、この反応は以下のように考えられる。
【0024】
ホウ酸は、水溶液(4%溶液)でpH=3.9の弱酸性を示す酸である。即ち、エタノールにチタニウムプロポキシドとホウ酸を混合して撹拌すると、ホウ酸自身の触媒作用によって両者の反応が進行することになる。その反応を反応式1に示す。
<反応式1>
(1)(RO)Ti−OR+HO−B(OH)
(RO)Ti−O−B(OH)+ROH
【0025】
このようにして生成した(RO)Ti−O−B(OH)は、チタンの金属性が強いため、即ち、チタンが電子を引き付けやすいため、ホウ酸の未反応の−OH基の酸性度は更に高くなる。そこにアルコキシシランを共存させると、更に反応が進行する。その反応を反応式2に示す。
<反応式2>
(2)(RO)Ti−O−B(OH)+RO−Si(OR)
(RO)Ti−O−B(OH)−O−Si(OR)+ROH
【0026】
この反応により、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合が生成され、ホウ酸がその結合内に固定化されることになる。その結果、通常、水溶液で最大5重量%程度の溶解度、エタノールに対しては約1.3重量%(25℃)程度の溶解度しかないホウ酸が、エタノール溶液中でもはるかに多く溶解することになる。即ち、この反応によってのみ、抗カビ・難燃作用のあるホウ酸の溶解度を上げることが可能となるのである。
【0027】
また、このようにホウ酸が、金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合内に固定化されることにより、処理対象物に処理した後でも、ホウ酸自身が処理対象物内部もしくはその表面に固く固定化されることになる。
【0028】
以下に、本発明で用いられる加水分解可能な有機金属化合物及びアルコキシシランを具体的に説明する。
【0029】
水と反応して直ちに加水分解する反応基は、弱酸性であるホウ酸と反応するため、反応促進剤としては、加水分解可能な有機金属化合物が用いられる。加水分解可能な有機金属化合物としては、例えば、金属アルコキシドが示される。このような目的で使用される金属アルコキシドとしては、チタニウム、ジルコニウム、アルミニウム等のアルコキシドが挙げられる。より具体的には、チタニウムテトラプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、アルミニウムトリプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0030】
これらの金属アルコキシドは、上述したようにホウ酸が弱酸性を示すため、他の触媒がなくても、また、反応水が存在していなくても、ホウ酸と反応して、金属−酸素−ホウ素結合を容易に生成する。
【0031】
アルコキシシランとしては通常、下記構造式で示される、いわゆる4官能シラン(構造式(3))、3官能シラン(構造式(4))及び2官能シラン(構造式(5))が知られている。
Si(OR) (3)
Si(OR) (4)
(RSi(OR) (5)
ここで、Si−OR結合は加水分解する結合であり、Si−R結合は加水分解せず分子内に残る結合である。
【0032】
本発明によって得られる液剤は、その後、木材等の処理液として使用されることを想定している。その目的で使用される場合、いわゆる2官能シラン(構造式(5))単独では、反応性アルコキシ基(OR基)がポリマー化して得られるシロキサンポリマーは直線状になるため、3次元構造が取れず、その物自身では塗工膜となり得ないため、単独での使用には問題がある。
【0033】
したがって、本発明で主に用いられるアルコキシシランは、いわゆる4官能シラン(構造式(3))及び3官能シラン(構造式(4))である。もちろん、4官能シラン及び3官能シランに2官能シランを共存させ、得られた塗工膜に柔軟性及び撥水性を付与させることは可能である。4官能シラン(構造式(3))が完全に縮・重合すると、3次元構造のしっかりしたシロキサン結合よりなる塗工膜が得られる。
【0034】
同様に、3官能シラン(構造式(4))も完全に縮・重合すると、3次元構造のしっかりしたシロキサン結合よりなる塗工膜が得られる。一方、反応にあずからない、いわゆる未反応な置換基(構造式(4)で、Rで示される)は、生成する塗工膜内に残るため、得られた塗工膜が柔軟性を発揮すると共に、有機置換基特有の撥水性を示す。
【0035】
また、この有機性置換基(Rで示される)は、柔軟性や撥水性を発揮するだけでなく、その有機性のために、例えば、木材等の有機性対象物に処理した場合、その塗布対象物との間でいわゆる有機―有機相互作用を示し、塗布対象物との間の付着力向上に寄与する役割も果たす。
【0036】
ここで用いられるアルコキシシランは、単量体もしくは重合度が2〜10程度の分子量の小さなものが好ましい。本発明では、加水分解可能な有機金属化合物とホウ酸化合物が反応した後に、更にアルコキシシランと反応することを想定している。そのため、アルコキシシランの分子量が大きいと嵩高くなり、立体障害で反応性が低下するおそれがある。そのため、反応性を上げるためには、単量体もしくは重合度が2〜10程度の分子量が小さなものが好ましい。
【0037】
4官能シランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等、及びこれらの2〜10分子程度の重合体を挙げることができる。なお、重合体は、かかる単量体の1種類のみを重合したものであっても、また、上記例示した単量体の2種類以上を重合したものであってもよい。このような4官能シランは、単独で使用してもよいし、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0038】
なお、このような重合体として、例えば、多摩化学工業株式会社製、製品名:MS−51、ES−40、ES−45等の市販品を使用することができる。
【0039】
ところで、上述したテトラメトキシシラン(単量体)は、その人体に対する有害性が指摘されている。そのため、通常の作業条件下では単量体での使用を控え、重合体で使用することが推奨される。
【0040】
3官能シランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、β-(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等、及びこれらの2〜10分子程度の重合体を挙げることができる。
【0041】
なお、これらの重合体は、かかる単量体の1種類のみを重合したものであってもよいし、あるいは、上掲の単量体の2種類以上を重合したものであってもよい。このような3官能シラン化合物は、単独で使用してもよいし、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0042】
また、このような重合体は、市販品を使用しても良い。例えば、信越化学工業株式会社製、製品名:KC−89、KC−89S、KR−500等が挙げられる。GE東芝シリコーン株式会社製、製品名:XC−96も同様に使用可能である。
【0043】
なお、これらの市販品の重合体を用いる場合には、以下の点に注意を払うべきである。即ち、市販品は本発明に基づき合成されている訳ではないため、置換基の種類や重合度が、必ずしも本発明で規定されている範囲に入ってるとは限らない。したがって、市販品を使用する場合は、実際に実験等を行い、事前に使用可能かどうかの確認をする必要がある。
【0044】
これらのアルコキシシラン/金属アルコキシド/ホウ酸化合物を溶解させ、また、その濃度調整やゲル化の防止等の目的で、有機溶剤を共存させることができる。アルコール類は、有機溶剤の中で有効に用いられる。アルコール類としては、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられる。アルコール類以外では、酢酸エチルやテトラヒドロフラン等が例示できるが、環境に配慮し、特にアルコール類、より好ましくは、エタノールやイソプロピルアルコールを使用することが推奨される。
【0045】
ホウ酸化合物は、金属アルコキシドと反応することが必須であるため、その分子内に活性な−OH基を含有することが必要となる。このようなホウ酸化合物としては、ホウ酸、メタホウ酸、ポリホウ酸が挙げられる。
【0046】
アルコキシシラン、金属アルコキシド、ホウ酸化合物、及び、必要に応じて用いる溶剤の添加順序は、特にこだわらなくても均一な溶液が得られる。一般的には、アルコキシシラン、金属アルコキシド、及び、必要に応じて溶剤の順に加え、撹拌しながらホウ酸化合物を加えると良い。ホウ酸化合物が十分に溶解しない時は、温水等で加温すると、均一溶液が得やすくなる。但し、このように加温して均一にした溶液は、冷えると沈殿等が生じやすくなるため、液剤調合後、速やかに使用することが望ましい。
【0047】
なお、ここで、アルコキシシラン、加水分解可能な有機金属化合物、及びホウ酸化合物を溶媒の存在なしで混合しても、条件によってはホウ酸化合物は反応し、均一溶液になるが、一般にはゲル化時間が早くなって作業性が悪くなることがある。その場合は、アルコール等の溶媒を共存させることによって作業性を改善することができる。
【0048】
更に、本発明の処理液には、本発明の目的を損なわない範囲で、求められる特性に応じ、種々の添加剤等の成分を添加することができる。任意に添加し得る成分としては、例えば、染料や顔料等の着色剤、紫外線防止剤、抗カビ剤、抗菌剤、防蟻剤、難燃剤、粘度調整剤等が挙げられる。
【0049】
本発明は、相互に安定なアルコキシシランと加水分解可能な有機金属化合物の存在下においてホウ酸化合物を添加して、アルコキシシラン、加水分解可能な有機金属化合物及びホウ酸化合物相互の反応を誘導し、結果的に、生成するシロキサン結合のネットワーク内に、安定的に且つ多量にホウ酸化合物を導入させることを可能にした。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて比較例との対比により更に具体的に説明するが、実施例はあくまで一例であって、本発明を何ら限定するものではない。
【0051】
[実施例1]
100mlポリエチレン容器に、メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−13。単量体。分子量136。3官能シラン)13.6g(Siとして0.10モル)、エタノール30.0g、及びチタニウムテトラプロポキシド(日本曹達株式会社製、A−1。分子量284)2.8g(Tiとして0.010モル)を加え十分に攪拌した。次に、ホウ酸(関東化学株式会社製、分子量62)9.3g(Bとして0.15モル)を加え、室温にて十分に攪拌した。撹拌後約50分でホウ酸の白色固体がほぼ消滅したが、容器の底にわずかに固体の存在が確認されたため、容器全体を約60℃の温水に浸けたところ、約1分で完全に固体が溶解した。この時の溶液の比率はモル比で、Si/Ti/B=1.0/0.1/1.5であり、溶液中のホウ酸の濃度は、約16.7重量%であった。
【0052】
[実施例2〜9]
実施例1と同様にして、表1に示す組成で実施例2〜9を行った。なお、実施例2〜9では加温処理は行わなかった。
【0053】
[実施例10〜11]
アルコキシシランをテトラメトキシシラン縮合体(多摩化学工業株式会社製、MS−51。平均重合度3.9量体。4官能シラン)とした以外、実施例1と同様にして表1に示す組成で実施例10〜11を行った。
【0054】
[実施例12〜14]
金属アルコキシドをジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(関東化学株式会社製、分子量384)とした以外、実施例1と同様にして表1に示す組成で実施例12〜14を行った。なお、実施例12では溶剤をイソプロピルアルコールとし、加温処理は行わなかった。
【0055】
[比較例1]
メチルトリメトキシシラン13.6g(Siとして0.10モル)、エタノール30.0g、及びチタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)を加え室温にて十分に攪拌した。しかし24時間経過後も、溶液の粘度変化等は認められなかった。
【0056】
[比較例2]
メチルトリメトキシシラン13.6g(Siとして0.10モル)、エタノール30.0g、及びホウ酸6.2g(Bとして0.10モル)を加え十分に攪拌した。しかし24時間経過後も、ホウ酸の白色固体はそのまま残っており、溶液の粘度変化等は認められなかった。
【0057】
[比較例3]
チタニウムテトラプロポキシド2.8g(Tiとして0.010モル)にエタノール30.0gを加え十分に攪拌した。次に、ホウ酸6.2gを加え、室温にて十分に攪拌した。ホウ酸添加直後に溶液は白濁ゲル状になった。24時間経過後もゲル状態のままであり、一部白色固体が存在したままであった。
【0058】
[比較例4〜10]
実施例1〜9と同様にしてSi/Ti/Bの比率(モル比)を変え溶液を調合した。結果を表2に示す。
【0059】
[比較例11〜15]
実施例10〜11と同様にしてSi/Ti/Bの比率(モル比)を変え溶液を調合した。結果を表2に示す。
【0060】
≪評価結果≫
評価結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す。ここで、結果の表記としては、
○;ホウ酸が完全に溶解し、室温で24時間放置しても、固体の析出や溶液のゲル化が起きなかった。
△;ホウ酸が完全に溶解したが、室温で放置すると24時間以内に、固体の析出や溶液のゲル化が起きた。
×;ホウ酸の一部しか溶解しなかった。もしくは、ホウ酸が完全に溶解したが、溶液が冷えると間も無く固体が析出した。
−;ほとんど反応しなかった。
また、評価としては、溶解後室温放置で24時間以上安定な溶液(評価結果:○)を成功例として、実施例に記載した。それ以外の場合(評価結果:△、×、−)は比較例として記載した。
なお、表1及び表2中における略記の示す化合物は、以下のとおりである。
MTMS:メチルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−13。単量体。分子量136。3官能シラン)
MS−51:テトラメトキシシラン縮合体(多摩化学工業株式会社製、MS−51。平均重合度3.9量体。4官能シラン)
Ti(OPr)4:チタニウムテトラプロポキシド(日本曹達株式会社製、A−1。分子量284)
Zr(OBu)4:ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド(関東化学株式会社製、分子量384)
EtOH:エタノール
IPA:イソプロピルアルコール
【0061】
<表1>

【0062】
<表2>

【0063】
比較例1〜3に示すように、2成分系、即ち、ケイ素/チタンプロポキシド、及びケイ素/ホウ酸のみでは、全く反応の進行が認められなかった。また、チタンプロポキシド/ホウ酸では、反応直後に白色ゲルが生成し、両者の間での反応の進行が認められたが、しかし、24時間後でもゲル状態であり、一部白色固体が存在したままであり、本発明の目的には使用できなかった。
【0064】
一方、実施例1〜14に示す通り、ケイ素/チタン(もしくはジルコン)/ホウ酸系では、混合後しばらくして均一溶液となり、室温で24時間以上放置していても均一溶液のままであって、個体の析出やゲル化などの現象は生じなかった。このことから、ホウ酸はケイ素/チタン(もしくはジルコン)/ホウ酸の3成分系が共存して初めて、均一な溶液となることが明らかとなった。
【0065】
実施例1〜9及び比較例4〜10から、ケイ素とホウ酸の比率(モル比)は同等が良い結果を示していた。ホウ酸含有量が比較的低い溶液(実施例1)では、Si/B=1.0/1.5でも安定な溶液が得られたが、それより溶液中のホウ酸濃度が高い溶液では(比較例5)、不安定な溶液となった。一方、ケイ素とホウ酸が等モル溶液では、ホウ酸濃度が25.0重量%(実施例7)でも、安定な溶液となった。
【0066】
以上述べたように、毒性が低く、抗カビ剤や難燃剤として有効なホウ酸は、通常、水溶液では5重量%程度の溶解度しかなく、それを用いた場合、抗カビ剤や難燃剤としての性能が不十分であったが、本発明に係る方法により、ホウ酸の濃度が25重量%溶液まで安定に調合できることが確立された。
【0067】
この発明をある程度詳細にその最も好ましい実施形態について説明してきたが、この発明の精神と範囲に反することなしに広範に異なる実施形態を構成することができることは明白なので、この発明は添付請求の範囲において限定した以外はその特定の実施形態に制約されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ酸化合物をアルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物と反応させることにより前記ホウ酸化合物を溶解することを特徴とする、高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
【請求項2】
前記アルコキシシラン化合物と前記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有させることを特徴とする、請求項1に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
【請求項3】
上記アルコキシシラン化合物が下記構造式(1)で示されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。

(式(1)において、R、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、nは1〜10である。)
【請求項4】
前記アルコキシシラン化合物が下記構造式(2)で示されることを特徴とする、請求項1又は2記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。

(式(2)において、R、R及びRは、それぞれ同一又は異なってもよい、水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rはこれらの基内にハロゲン原子又はエポキシ基を含んでもよい、炭素数が1〜10のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基であり、nは1〜10である。)
【請求項5】
前記加水分解可能な有機金属化合物が、チタニウム、ジルコニウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属アルコキシドである、請求項1乃至4のいずれかに記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
【請求項6】
ホウ酸化合物とアルコキシシラン化合物のモル比を1:1とすることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の高濃度ホウ酸化合物溶液調合方法。
【請求項7】
アルコキシシラン化合物及び加水分解可能な有機金属化合物とホウ酸化合物とが反応して金属−酸素−ホウ素−酸素−ケイ素結合を生成してホウ酸化合物が高濃度で溶解していることを特徴とする、高濃度ホウ酸化合物溶液。
【請求項8】
前記アルコキシシラン化合物と前記加水分解可能な有機金属化合物を溶解する有機溶剤を含有していることを特徴とする、請求項7に記載の高濃度ホウ酸化合物溶液。

【公開番号】特開2010−248110(P2010−248110A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98280(P2009−98280)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(508320147)株式会社エム&エムトレーディング (4)
【Fターム(参考)】