説明

高濃度塩分調味料

【課題】だしの経時変化による風味(特に香り)の劣化を極力防止できる高濃度塩分調味料を提供する。
【解決手段】高濃度塩分調味料は、だし入りカプセルであって、40℃以下の温度の、塩分濃度が3wt%以上の高濃度塩分の調味料中では所要期間カプセルが溶解せず、該調味料が味噌汁等として所要使用濃度に希釈され、かつ所要温度まで加熱された際にはカプセルが溶解されてだしが放出されるだし入りカプセルが所要量配合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味噌等の高濃度塩分調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
味噌中に直接かつおだし等のだしが混入されただし入り味噌が製造販売されている。だし入り味噌は、他の味付けをしなくとも、そのまま味噌汁等に使用できるので便利である。しかしながら、製造後、長時間経過したり、保管状況が悪かったりするとだしが変質し、味はある程度残るが、だしとしての風味(香り)が失われやすいという問題がある。
【0003】
また、特許文献1には、醤油類、味噌類、だし類とその他の調味料を含む液状調味料であって、その液状調味料を、それに配合される醤油類、味噌類、だし類の部分とその他の調味料の部分とに2分し、醤油類、味噌類、だし類の部分を100℃未満の殺菌を施し、その他の調味料の部分をレトルト殺菌を施して得られる2種類の液状調味料を1セットとした液状調味料セットについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−88325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される液状調味料セットの場合、レトルト殺菌をすると、いわゆるレトルト臭と称する異臭の発する、醤油類、味噌類、だし類とその他の調味料とを2分し、醤油類、味噌類、だし類を100℃未満の緩やかな殺菌処理をし、その他の調味料をレトルト殺菌するようにしているので、レトルト臭のない調味液を提供できる。
しかしながら、この特許文献1に示される調味液も、だし類がそのまま配合されているので、経時変化によるだし類の劣化は避けられない。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、だしの経時変化による風味(特に香り)の劣化を極力防止できる高濃度塩分調味料を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る高濃度塩分調味料は、だしを封入したカプセルであって、40℃以下の温度の、塩分濃度が3wt%以上の高濃度塩分の調味料中では所要期間カプセルが溶解せず、該調味料が味噌汁等として所要使用濃度に希釈され、かつ所要温度まで加熱された際にはカプセルが溶解されてだしが放出されるだし入りカプセルが所要量配合されていることを特徴とする。
【0008】
だしを封入したカプセルが、だしを含有する内容液をカプセル皮膜で封入したシームレスカプセルであることを特徴とする。
カプセル皮膜が、デキストリン、グリセリン、カラギーナンを含む材料からなることを特徴とする。
また、カラギーナンがゲルプレス法によって製造されたものであることを特徴とする。
調味料としては、味噌、醤油、鍋たれ、つゆたれ、キムチたれ等の高濃度塩分の調味料に適用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、だしが封入されたカプセルが配合された高濃度塩分調味料であって、製品の流通段階や保管時等にはカプセルが破壊(溶解)されず、したがって、だしの劣化が防止でき、希釈して使用するときにはカプセルが溶解してだしが放出されることから、長期間風味が損なわれず、使い勝手のよい調味料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態に係る高濃度塩分調味料は、前記のように、だしを封入したカプセルであって、40℃以下の温度の、塩分濃度が3wt%以上の高濃度塩分の調味料中では所要期間カプセルが溶解せず、該調味料が味噌汁等として所要使用濃度に希釈され、かつ所要温度まで加熱された際にはカプセルが溶解されてだしが放出されるだし入りカプセルが所要量配合されていることを特徴とする。
【0011】
だしは上記のようにカプセル中に封入された状態を保ったまま所要期間製品としての高濃度塩分調味料中に存在できる。すなわち、製品としての調味料が流通され、使用者の手元に渡って、使用者に使用されるまでの間、カプセルが製品中で溶解せずにいる。そして、使用者が味噌汁等として調味料を所要濃度に希釈した際にカプセルが溶解し、中に封入されていただしが味噌汁中に放出されるのである。
【0012】
このように、調味料として使用されるまでの間、カプセルが破壊されずに調味料中に存在することによって、だしは、カプセルに封入されて空気と触れない状態にあるので風味が維持される。そして、使用される際に初めてカプセルが溶解して、だしが味噌汁等の中に放出されるので、風味、特に香りが損なわれていない、新鮮さをかんじさせる味噌汁等を味わうことができる。
【0013】
カプセルは、使用者が味噌汁等として調味料を所要濃度に希釈した際に直ちに溶解するのでなくてもよい。味噌汁等として所要温度にまで加熱していく過程でカプセルが溶解するのであってもよい。通常は、調味料を単に希釈しただけではカプセルは溶解しにくい。通常は、カプセルは、所要温度にまで加熱することによって溶解する。溶解するまでの時間も重要である。溶解するまでにあまり長時間を要するのでは意味がない。味噌汁等を作製する時間内(通常は1分前後)に溶解してくれるものがよい。
【0014】
調味料は特に限定されるものではないが、味噌、醤油、鍋たれ、つゆたれ、キムチたれ等の高濃度塩分の調味料に適用できる。これらの調味料における塩分濃度は用途等に応じて種々のものがあるが、製品としての所要塩分濃度において、カプセルが溶解されないことが重要である。カプセルの材質にもよるが、塩分濃度が高い領域ではカプセルは溶解されにくい。塩分濃度が低くなってくるとカプセルは溶解されやすくなってくる。
また、だしも特に限定されず、かつお節等の香味節、こんぶだし等が好適である。
【0015】
カプセル皮膜の材質は特に限定されないが、デキストリン、グリセリン、カラギーナンを含む材料が好適であった。
前記、カプセル皮膜に用いるカラギーナンは特に限定されないが、製造方法によりアルコール沈殿法のものとゲルプレス法のものがあり、本発明ではゲルプレス法によって製造されたものが好適である。
本発明に係るだしを封入したカプセルは、既知の方法により製造することができる。例えば、シームレスカプセル法、界面重合法、in situ重合法、液中硬化法、コアセルベーション法などを用いて製造することができる。しかし、高濃度塩分の調味料中での安定性、及び加熱された際の溶解性に優れるカプセルを得るためには、シームレスカプセル法が望ましい(例えば、特許第3405746号)。すなわち、シームレスカプセル法による場合は、上記したカプセル皮膜基材を水に溶解させた皮膜液を外側のノズルから流し、内側のノズルからだしを含有する液、すなわちだし成分を芯液として流して、油系冷却液体中に連続して押し出し、芯液と皮膜液、及び皮膜液と油系冷却液体との2つの界面張力を利用して二重液滴を形成させ、次に外側の皮膜液を冷却硬化させる。その後、乾燥させることにより、本発明のだしを封入したカプセルを得ることができる。このとき用いる油系冷却液体としては、流動パラフィン、植物油などのカプセル形成に際して通常用いられる物質であれば特に制限はない。
なお、油系冷却液体の温度を0〜10℃、好ましくは1〜5℃に調整することにより、形成したカプセルを効果的に硬化させることができる。
また、カプセルの大きさも特に限定されないが、取り扱い上、直径2mm前後が好適である。この点でもシームレスカプセル法を用いてカプセルを得ることが好ましい。
調味料中のカプセルの配合量は特に限定されるものではなく、調味料として用いた際、好適なだしの量となるように配合するとよい。
【0016】
表1に、お湯、または各食塩水160mlに実施例および比較例1、2の各カプセル(内容物:中鎖脂肪酸)10粒を添加し、スターラーにより撹拌して、各カプセルの溶解性を調べた結果を示す。なお、カプセルは、大きさを粒径2mm、皮膜率(カプセルにおける皮膜の重量%)を45wt%のものとなるように調整したカプセルを用いた。
【0017】
【表1】

【0018】
表2に、上記実施例のカプセル10粒を、種々の温度のお湯および各食塩水160mlに添加し、スターラーにより撹拌し、カプセルを入れた時を0秒として、カプセルの溶け始めと全てが溶解するのにかかった時間を計測した。
【表2】

表2における*は10粒がほぼ同時に溶解し、×は30分経過後も溶けないことを示す。また−は試験未実施を示す。
【0019】
表3は、表1に示すカプセル材料と同じ材料で、粒径1.5mmで、表1に示すカプセルと皮膜の厚さが同一となるように皮膜率を調整したカプセルを用いて、表2に示すものと同一の条件でカプセルの溶解性試験を行った結果を示す。
【表3】

表2、表3から明らかなように、カプセルの粒径が相違しても、同じ厚さの皮膜となるようにカプセルを調整することで、ほぼ同じ、カプセルの溶解性を示すことがわかる。
【0020】
表1、表2および表3から明らかなように、実施例のカプセルは、3wt%〜10wt%食塩水中、40℃でも溶解しないことから、例えば、製品の味噌中でも溶解せず、調味料として保存性がきくことを示している。40℃という温度は、例えば流通過程での倉庫中の温度が想定される。また、実施例のものは、1wt%の食塩水中、80℃の温度で、1分5秒後に全て溶解していることから、例えば、調味料、味噌において、味噌汁の作製中に十分溶解することを示し、調味料として使い勝手がよいことを示している。なお、表2から明らかなように、食塩濃度が高いほど溶解しにくくなることから、15wt%以上の高濃度の塩分の調味料中でも溶解しない。
なお、塩分濃度9wt%の味噌中に実施例のカプセルを添加した味噌を作製し、常温でそれぞれ、1カ月、2ヶ月、3カ月、4カ月保存した味噌におけるカプセルの溶解性を上記と同様の条件で試験したところ、いずれも味噌中でのカプセルの溶解は確認されず、一方、80℃の1wt%の食塩水中では、全てのカプセルが1分以内に溶解した。
【0021】
比較例1のカプセルのものは、実施例のものとカラギーナンの種類以外ほとんど同じ組成のものであるが、10wt%食塩水中、40℃で全て溶解してしまった。したがって、調味料中で保存性が悪い。
同じカラギーナンでも少し組成の異なるものは使用できないことがわかる。なお、カラギーナンはいずれも三晶株式会社製のものである。
カラギーナンの製造方法にはアルコール沈殿法とゲルプレス法があり、SWG−Jはアルコール沈殿法、WR−78Jはゲルプレス法によるものである。カラギーナンの分子には硫酸根(−SO)が存在しており、そこにカウンターイオンが付いている。ゲルプレス法のWR−78Jのカウンターイオンの多くはカリウムとなっており、アルコール沈殿法のSWG−Jはカルシウムとなっている。カリウム含量の高いWR−78Jの方がSWG−Jに比べるとゲル化温度が高くなり、高い塩濃度での溶解性が低くなる傾向にあると推測される。
比較例2のカプセルは、実施例のものに微量のジェランガムを添加した材料を用いたカプセルであるが、1wt%の食塩水中、80℃で溶解しないことから、調味料としては使い勝手が悪い。
【0022】
次に、カツオブシエキスをカプセルに封入したものを添加した味噌と、カツオブシエキスをカプセルに封入せずそのまま添加した味噌とを作製し、経時変化によりかつおの香りがどのように変化したかを検証した。
・加熱済みのだし無し味噌17gに80粒のカプセル(径1.5mm、皮膜率40wt%、 カツオブシエキス5wt%)を添加してカプセル入り味噌を調合した。
・加熱済みのだし無し味噌500gにカツオブシエキス600mgを加え、よく混合してエキス入り味噌を調合した。
1)と、2)のカツオブシエキスの量は等量である。作製時の官能評価も行い、かつおの香りがほぼ同じであることを確認した。
これら2種類の味噌をそれぞれ2つに分け、5℃と40℃で保管した。
3日後、10日後に比較官能試験を行い、かつおの香りの違いを確認した。
A :エキス入り味噌(5℃保管)
A´:エキス入り味噌(40℃保管)
B :カプセル入り味噌(5℃保管)
B´:カプセル入り味噌(40℃保管)
Aと比較してA´のかつおの香りはどうか。Bと比較してB´のかつおの香りはどうか、の観点で比較試験を行った。
下記9段階による評価を行った。
4点:きわめて強い
3点:強い
2点:やや強い
1点:わずかに強い
0点:同じ
−1点:わずかに弱い
−2点:やや弱い
−3点:弱い
−4点:きわめて弱い
結果は次の表4の通り。
【表4】

3日後のパネラーは15名、10日後のパネラーは17名で行ったところ、表4に示すように、3日後、10日後のいずれも、カプセル入り味噌よりもエキス直接添加味噌の方が香りの劣化が大きいという結果が得られた(T検定により検証した結果、危険率5%でいずれも有意差が認められた)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
だしを封入したカプセルであって、40℃以下の温度の、塩分濃度が3wt%以上の高濃度塩分の調味料中では所要期間カプセルが溶解せず、該調味料が味噌汁等として所要使用濃度に希釈され、かつ所要温度まで加熱された際にはカプセルが溶解されてだしが放出されるだし入りカプセルが所要量配合されていることを特徴とする高濃度塩分調味料。
【請求項2】
だしを封入したカプセルが、だしを含有する内容液をカプセル皮膜で封入したシームレスカプセルである請求項1に記載の高濃度塩分調味料。
【請求項3】
カプセル皮膜が、デキストリン、グリセリン、カラギーナンを含む材料からなることを特徴とする請求項2記載の高濃度塩分調味料。
【請求項4】
カラギーナンがゲルプレス法によって製造されたものであることを特徴とする請求項3記載の高濃度塩分調味料。
【請求項5】
味噌または醤油であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の高濃度塩分調味料。

【公開番号】特開2012−34619(P2012−34619A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177481(P2010−177481)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(595068232)マルコメ株式会社 (12)
【出願人】(000112912)フロイント産業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】