説明

高濃度液体燃料を用いて低酸化剤化学量論比で動作する燃料電池およびシステム用カソード電極

燃料電池で使用するカソード電極が、順番に、触媒層、疎水性マイクロポーラス層(MPL)、およびガス拡散層(GDL)を備え、MPLは、異なる溶融粘度を有する第1および第2の疎水性材料の混合物を含む。カソード電極の一部分として疎水性マイクロポーラス層を製作する方法も開示される。このカソード電極は、高濃度液体燃料で運転する直接メタノール燃料電池およびシステムなどの直接酸化型燃料電池およびシステムにおいて、特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、燃料電池、燃料電池システム、およびその電極/電極アセンブリに関する。より詳細には、本開示は、直接メタノール燃料電池(以下「DMFC」)などの直接酸化型燃料電池(以下「DOFC」)、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DOFCは、液体燃料の電気化学的酸化によって電気を発生させる電気化学装置である。DOFCは、あらかじめ燃料を処理する段階を必要としないので、間接型燃料電池、すなわちあらかじめ燃料を処理する必要がある電池よりも、重量およびスペースの点で相当な利点を提供する。DOFCで使用する対象となる液体燃料としては、メタノール、ギ酸、ジメチルエーテルなど、ならびにそれらの水溶液が挙げられる。酸化剤は、ほぼ純粋な酸素、または空気中にあるような酸素の希釈流であってもよい。DOFCを移動および携帯用途(例えば、ノートブック・コンピュータ、携帯電話、PDAなど)に利用する重要な利点としては、液体燃料の貯蔵と取り扱いが容易であり、かつそのエネルギー密度が高いことが挙げられる。
【0003】
DOFCシステムの一例は、DMFCである。DMFCは、一般に、アノードと、カソードと、それらの間に配置されたプロトン伝導性電解質膜とを有する膜電極接合体(以下、「MEA」)を利用する。電解質膜の代表例は、Nafion(登録商標)などの、パーフルオロスルホン酸−テトラフルオロエチレン共重合体からなるものである(Nafion(登録商標)は、E.I.Dupont de Nemours and Companyの登録商標である)。DMFCでは、メタノール/水溶液が燃料としてアノードに直接供給され、空気が酸化剤としてカソードに供給される。アノードにおいて、メタノールは、触媒、典型的にはPtまたはRu金属ベースの触媒の存在下で水と反応して、二酸化炭素、H+イオン(プロトン)、および電子を生成する。電気化学反応は式(1)として以下に示される。
【0004】
【化1】

【0005】
DMFCの動作中、プロトンは、電子非伝導性であるプロトン伝導性電解質膜を通ってカソードに移動する。電子は、電力を負荷装置に送達する外部回路を通ってカソードに進む。カソードでは、プロトン、電子、および典型的には空気からの酸素分子が結合して、水を形成する。電気化学反応は次の式(2)で与えられる。
【0006】
【化2】

【0007】
電気化学反応(1)および(2)は、次の式(3)に示されるような全体的な電池反応を形成する。
【0008】
【化3】

【0009】
従来のDMFCの1つの欠点は、メタノールが部分的にアノードからカソードまで電解質膜に浸透することであり、そのような浸透したメタノールは「クロスオーバー・メタノール」と称される。クロスオーバー・メタノールは、化学的に(すなわち、電気化学的にではなく)カソードにおいて酸素と反応し、その結果、燃料利用効率とカソード電位が低減し、それに対応して燃料電池の発電が低減する。したがって、DMFCシステムには、メタノールのクロスオーバーとその不利益な結果を制限するため、過度に希釈した(3〜6体積%)メタノール溶液をアノード反応に使用するのが一般に行われている。しかし、そのようなDMFCシステムに関する問題は、可搬型システムに大量の水を収容する必要があるということであり、したがってシステムのエネルギー密度が減少する。
【0010】
特に、DMFC技術は現在、リチウムイオン技術に基づくものなどの高度な電池と競合しているため、高濃度燃料が使用可能であることが可搬型の電源にとって望ましい。しかし、高濃度燃料(例えば、純メタノール)を備えた燃料カートリッジが水をほとんど、またはまったく収容していない場合であっても、アノード反応、すなわち式(1)には、完全な電解酸化のため、各メタノール分子に対して水1分子を依然として必要とする。同時に、酸素の還元、すなわち式(2)によって、カソードにおいて水が生成される。したがって、高濃度燃料を利用する燃料電池を十分に活用するためには、(a)電池からの水分損失全体(主にカソードを介して)が、好ましくは正味の水分生成量を超過しない(すなわち、式(3)に従って消費される各メタノール分子に対して水2分子)電池内での正味の水バランスを維持することと、(b)生成された水の一部をカソードからアノードに運搬することが望ましい。
【0011】
濃縮燃料を直接使用するために、上述の目的を達成するのに2つの方策が開発されている。第1の方策は、カソード水蒸気を回収し、それをアノードに戻す、能動的な水分凝縮およびポンプ輸送システム(特許文献1)である。この方法は、濃縮された(かつ、さらには純粋な)メタノールを燃料カートリッジに収容するという目的を達成するものの、嵩高いコンデンサおよびその冷却/ポンプ輸送付属物が必要なため、システムの体積が大幅に増加し、それに付随して電力損失も大きくなる。
【0012】
第2の方策は、高疎水性のマイクロポーラス層(以下「MPL」)をカソードに含めることによってカソードにおいて水圧が発生し、この圧力が、薄膜を介してカソードからアノードへ水を駆動するのに利用される、受動的な水分還流技術である(非特許文献1)。この受動的な方策は効率的であり、付随的な電力損失を招かないものの、戻される水分量、したがってメタノール燃料の濃度は、電池の温度と電力密度に大きく依存する。現在、純メタノールの直接的な使用は、40℃以下かつ低電力密度(30mW/cm2未満)においてのみ実証されている。大幅に低濃度のメタノール燃料は、高電力密度(例えば、60mW/cm2)のシステムで、60℃などの高温において利用される。それに加えて、この方法には薄膜が必要であるため、燃料効率と電池の動作電圧が犠牲になり、したがってエネルギー効率全体が低くなる。
【0013】
上述のDMFCシステムなどのDOFCシステムで高濃度燃料を利用するためには、酸化剤化学量論比、すなわち上記の式(2)による反応のためのカソードへの酸化剤(空気)の流れを低減させることが必要である。一方、カソード上またはカソードの付近で生成される1つまたは複数の液体生成物、例えば水を、カソードの重大なフラッディングを生じることなくそこから除去することができるように、カソードの運転が最適化されなければならない。
【特許文献1】米国特許第5599638号
【非特許文献1】Ren et al.and Pasaogullari&Wang,J.Electrochem.Soc.,pp A399−A406,March,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、高濃度燃料および約8未満の低酸化剤化学量論比で運転される際に、燃料電池内の水のバランスを維持し、十分な量の水をカソードからアノードに戻すDOFC/DMFCシステムが広く必要とされている。純メタノールを含む高濃度燃料で運転し、外部から水を供給するかまたは電気化学的に生成された水を凝縮する必要を最小限に抑えるDOFC/DMFCシステムが、さらに必要とされている。
【0015】
前述のことに鑑みて、非常に高濃度の燃料および高電力効率で最適な性能が得られるようにDOFC/DMFCシステムの運転を容易にする電極および電極アセンブリを含む、改善されたDOFC/DMFCシステムおよび方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の一利点は、燃料電池で使用する改善されたカソード電極である。
【0017】
本開示の別の利点は、直接メタノール燃料電池(DMFC)およびシステムなどの、直接酸化型燃料電池(DOFC)およびDOFCシステムで使用する、改善されたカソード電極である。
【0018】
本開示の別の利点は、高濃度液体燃料を用いて低酸化剤化学量論比で運転するDOFCで使用する、改善されたカソード電極である。
【0019】
本開示の別の利点は、直接メタノール燃料電池およびシステムなどのDOFCおよびDOFCシステムの、膜電極接合体の一部として使用するカソード電極を製作する改善された方法である。
【0020】
本開示のさらなる利点および特徴は、続く開示の中で記載され、一部は、下記を検討すれば当業者に明らかとなり、または、本開示の実施から知り得ることができる。それらの利点は、添付の特許請求の範囲において個々に指摘されるように実現し、得ることができる。
【0021】
本開示の一観点によれば、前述の利点および他の利点が一部には、順番に
(a)触媒層、
(b)疎水性MPL、および
(c)ガス拡散層(以後「GDL」)
を備える、燃料電池で使用する改善されたカソード電極であって、
MPLが第1および第2の疎水性材料の混合物を含む、カソード電極によって達成される。
【0022】
本開示の諸実施形態によれば、第1および第2の疎水性材料がそれぞれフルオロポリマーを含み、第1のフルオロポリマーの融点および溶融粘度が、第2のフルオロポリマーの融点および溶融粘度よりも高い。
【0023】
本開示の諸実施形態は、第1のフルオロポリマーがポリテトラフルオロエチレン(以後「PTFE」)であり、第2のフルオロポリマーが、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以後「FEP」)、テトラフルオロエチレン−アルキルビニルエーテル共重合体(以後「PFA」)、ポリクロロトリフルオロエチレン(以後「PCTFE」)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(以後「ETFE」)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(以後「ECTFE」)、およびポリフッ化ビニリデン(以後「PVDF」)からなる群から選択されるものを含む。好ましくは、第1のフルオロポリマーはPTFEであり、第2のフルオロポリマーはFEPである。
【0024】
本開示の別の実施形態は、第1の疎水性材料がフッ化黒鉛を含み、第2の疎水性材料がフルオロポリマーを含むものを含む。フッ化黒鉛は、非導電性でも導電性でもよい。あるいは、フッ化黒鉛は、導電性フッ化黒鉛と非導電性フッ化黒鉛の混合物でもよい。好ましくは、フルオロポリマーはPTFEを含み、MPLがさらに、導電性カーボン粉末を含む。
【0025】
本開示の別の観点は、燃料電池用のカソード電極の一部として疎水性MPLを製作する、改善された方法であって、
(a)界面活性剤を含む水性溶媒またはアルコール溶媒中に分散された導電性カーボン粉末を含む第1の分散液を形成する工程、
(b)水性溶媒またはアルコール溶媒中に分散された第1および第2の疎水性材料を含む第2の分散液を形成する工程であって、第1の疎水性材料がフルオロポリマーを含む工程、
(c)第1および第2の分散液を、攪拌によって混合して、均一なペーストを形成する工程、
(d)カソードのGDLのバッキング層の表面にペーストの層を塗布する工程、および
(e)界面活性剤を実質的に除去し、かつ第1の疎水性材料を溶融して、バッキング層の表面全体にわたって広げるのに十分な高温でペーストを乾燥および加熱する工程、
を含む方法である。
【0026】
本開示の諸実施形態によれば、第2の疎水性材料がフルオロポリマーであり、第1のフルオロポリマーの融点および溶融粘度が、第2のフルオロポリマーの融点および溶融粘度よりも高い。
【0027】
本開示の諸実施形態によれば、第1のフルオロポリマーがPTFEであり、第2のフルオロポリマーが、FEP、PFA、PCTFE、ETFE、ECTFE、およびPVDFからなる群から選択される。好ましくは、第1のフルオロポリマーはPTFEであり、第2のフルオロポリマーはFEPである。
【0028】
本開示のさらなる実施形態は、第1の疎水性材料がフルオロポリマー(好ましくはPTFE)を含み、第2の疎水性材料がフッ化黒鉛を含むものを含む。いくつかの実施形態によれば、フッ化黒鉛は非導電性であるが、他の実施形態によれば、フッ化黒鉛は導電性である。あるいは、フッ化黒鉛は、導電性フッ化黒鉛と非導電性フッ化黒鉛の混合物を含む。
【0029】
本開示の追加の利点は、以下の詳細な説明から当業者には容易に明白になると思われるが、以下の説明では、限定目的ではなく単に例示目的で、本開示の好ましい実施形態のみが示され記載されている。理解されるように、本開示は他の、ならびに異なる実施形態が可能であり、また、そのいくつかの詳細は様々な明白な観点において修正することができ、それらはすべて本発明の趣旨から逸脱するものではない。したがって、図面および説明は、限定的ではなく事実上例示的であるものと見なされる。
【0030】
本開示の様々な特徴および利点は、本発明の範囲を限定するためではなく、例示のみを目的として提供される添付の図面を参照することによって、より明らかに、また容易になるであろう。図面では、同じ参照符号が、同様の特徴を示すために全体を通じて使用され、様々な特徴が、必ずしも一定の縮尺で描かれるのではなく、関連する特徴を最も良く示すように描かれている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本開示は、高濃度燃料で運転するDOFCおよびDOFCシステム、例えばメタノールを燃料とするDMFCおよびDMFCシステムなどの、高電力変換効率を有する燃料電池および燃料電池システム、ならびにその電極/電極アセンブリに関する。
【0032】
図1を参照すると、図には、高濃度燃料で運転するDOFCシステム、例えばメタノール・ベースのDMFCシステム10の一例示的実施形態が概略的に示されている。このシステムは、高電力および高温運転条件下で、燃料電池内の水のバランスを維持し、十分な量の水をカソードからアノードに戻す。(DOFC/DMFCシステムは、2004年12月27日出願の、同時係属の、本願の譲受人に譲渡された米国特許出願第11/020306号において開示されている。)
【0033】
図1に示すように、DMFCシステム10は、一般にMEAと呼ばれる多層複合膜電極接合体または構造9を形成する、アノード12、カソード14、およびプロトン伝導性電解質膜16を含む。一般には、DMFCシステム10などの燃料電池システムは、複数のそのようなMEAをスタックの形で有するが、図1は、例示を簡単にするために、単一のMEAのみを示す。しばしば膜電極接合体9は、燃料を接合体に供給し、燃料および副生成物をそこから戻すための蛇行流路を有するセパレータ板によって分離される(例示の都合上図示せず)。燃料電池スタックでは、MEAおよびセパレータ板が、交互になった層の形態で一列に並べられて電池のスタックを形成し、スタックの端部は、集電板と電気絶縁板に挟まれ、ユニット全体は締結構造を用いて固定される。例示を単純にするため図1には示されないが、負荷回路がアノード12およびカソード14に電気的に接続される。
【0034】
燃料の供給源、例えば、高濃度燃料19(例えばメタノール)を収容する燃料容器またはカートリッジ18が、(以下に説明するように)アノード12と流体的に連通する。酸化剤、例えばファン20および関連する導管21によって供給される空気が、カソード14と流体的に連通する。燃料カートリッジ18からの高濃度燃料が、ポンプ22によって、関連する導管区分23'および25を介して気液分離器28に直接供給されるか、またはポンプ22および24、ならびに関連する導管区分23、23'、23''および23'''を介して、アノード12に直接供給される。
【0035】
運転の際には、高濃度燃料19がMEA2のアノード側に、または電池スタックの場合には、スタックのアノード・セパレータの入口マニホールドに導入される。MEA9のカソード14側、またはカソード電池スタックで、(式(2)で表す)電気化学反応によって生成された水が、そこからカソード出口ポート/導管30を介して取り出されて、気液分離器28に供給される。同様に、過剰な燃料、水、および二酸化炭素ガスが、MEA9のアノード側、またはアノード電池スタックから、アノード出口ポート/導管26を介して取り出されて、気液分離器28に供給される。空気または酸素が、MEA9のカソード側に導入されて、電気化学的に生成される液体の形をとる水の量を最大にすると共に、電気化学的に生成される水蒸気の量を最小限に抑えるように調節され、それによって、水蒸気がシステム10から逃れるのが最小限に抑えられる。
【0036】
システム10の運転中に、(上記で説明したように)空気がカソード14に導入され、過剰な空気および液体の水が、そこからカソード出口ポート/導管30を介して取り出されて、気液分離器28に供給される。以下にさらに論じるように、入力空気流量または空気の化学量論比が、電気化学的に生成された水の液相の量を最大にすると共に、電気化学的に生成された水の蒸気相の量を最小限に抑えるように制御される。酸化剤の化学量論比は、燃料電池システムの運転条件に応じてファン20の速度を一定速度に設定することによって、または電子制御ユニット(以後「ECU」)40、例えばデジタル・コンピュータ・ベースのコントローラまたは同等の働きをする機構によって制御することができる。ECU40は、気液分離器28の液相29と接する温度センサ(例示を簡単にするために、図中には示さず)から入力信号を受け取り、カソード排気中の液体水相を最大にし、かつ排気中の水蒸気相を最小限に抑えるように、酸化剤の化学量論比を調整し、それによって、水凝縮器が、MEA2のカソードから生成し、排出された水蒸気を凝縮する必要を最小限に抑える。さらにECU40は、燃料電池内に過剰な水が蓄積しないようにするために、起動中に、酸化剤の化学量論比を、最小設定値を超えて増大させることができる。
【0037】
運転中に気液分離器28内に蓄積する液体の水29は、循環ポンプ24ならびに導管区分25、23''および23'''を介して、アノード12に戻すことができる。排出二酸化炭素ガスが、気液分離器28のポート32を通じて放出される。
【0038】
上記で示したように、カソード排出水、すなわち運転中にカソードで電気化学的に生成された水が、液相およびガス相に分割され、各相における水の相対量が、主として温度および空気流量によって制御される。十分に小さな酸化剤流量または酸化剤の化学量論比を使用することによって、液体の水の量を最大にし、かつ水蒸気の量を最小限に抑えることができる。その結果、カソード排気からの液体の水を、システム内で自動的に捕捉することができ、すなわち外部の凝縮器を不要とし、また液体の水を十分な量で、例えば約5モル濃度を上回る高濃度燃料と混ぜ合わせてアノードの電気化学反応の実施に使用し、それによって燃料の濃度および貯蔵容量を最大にし、システムの全体的なサイズを最小限に抑えることができる。この水は、例えば二酸化炭素ガスとメタノール水溶液を分離するのに一般に使用されるような、既存のタイプの気液分離器28内で回収することができる。
【0039】
図1に示すDOFC/DMFCシステム10は、少なくとも1つのMEA9を備え、MEA9は、高分子電解質膜16と、膜を挟む触媒層およびガス拡散層からそれぞれが構成される一対の電極(アノード12およびカソード14)とを含む。典型的な高分子電解質材料には、パーフルオロスルホン酸基を有するフッ素化ポリマー、またはポリ(アリーレンエーテルエーテルケトン)(以降「PEEK」)などの炭化水素ポリマーがある。電解質膜は、例えば約25〜約180μmのような、任意の適切な厚さとすることができる。触媒層は一般に、白金またはルテニウム系の金属、あるいはそれらの合金を含む。アノードおよびカソードは一般に、燃料をアノードに、また酸化剤をカソードに供給するための流路を有するセパレータ板で挟まれる。燃料電池スタックは、隣接するMEAの間に挟まれてMEAを互いに直列に電気的に接続し、かつ機械的に支持する、少なくとも1つの導電性のセパレータを有する、複数のそのようなMEA9を含むことができる。
【0040】
上に示したように、ECU40は、酸化剤の流量または化学量論比を調整して、カソード排気中の液体水相を最大にし、かつ排気中の水蒸気相を最小限に抑え、それによって、水凝縮器の必要を排除する。ECU40は、酸化剤の流量、したがって化学量論比を、以下に示す式(4)に従って調整する。
【0041】
【数1】

【0042】
式中、ζcは酸化剤化学量論比であり、γは燃料供給源における水と燃料の比であり、psatは、電池温度に対応する飽和水蒸気圧であり、pはカソード作動圧力であり、ηfuelは、以下の式(5)で表すように、運転電流密度Iと、運転電流密度と等価燃料(例えばメタノール)クロスオーバ電流密度Ixoverの和との比として定義される燃料効率である。
【0043】
【数2】

【0044】
そのような制御された酸化剤化学量論比により、どんな運転条件下でも、DMFC内での適切な水バランス(すなわち、アノード反応に十分な水)が自動的に確保される。例えば、DMFCシステムの起動中に、電池温度が例えば20℃から60℃の運転点まで増大すると、対応するpsatが初めは低く、したがって、システム内の過剰な水の蓄積、したがって液体の水による電池のフラッディングを回避するために、大きな酸化剤化学量論比(流量)を使用すべきである。電池温度が増大するにつれて、式(4)に従って、酸化剤化学量論比(例えば空気流量)が低減され得る。
【0045】
上記では、必要ではないが、MEA9内で電気化学反応によって生成され、気液分離器28に供給される液体(例えば水)の量が、基本的に一定であり、それによって、ポンプ24ならびに導管区分25、23''および23'''を介してアノード12の入口に戻される液体生成物の量が、基本的に一定であり、燃料容器またはカートリッジ18からの高濃度液体燃料19と適切な比で混合されて、アノード12に燃料が理想的な濃度で供給されると仮定されている。
【0046】
次に図2を参照すると、MEA9の様々な構成要素をより詳細に図示する、MEA9の代表的な構成の概略断面図が示されている。図示のように、カソード電極14およびアノード電極12が、運転中にアノードからカソードに水素イオンを輸送する、上述のような材料製のポリマー電解質膜16を挟んでいる。アノード電極12は、電解質膜16から順番に、電解質膜16に接する金属ベースの触媒層2A、およびその上にあるGDL3Aを備え、一方カソード電極14は、電解質膜16から順番に、(1)電解質膜16に接する金属ベースの触媒層2C、(2)介在する疎水性MPL4C、および(3)その上にあるGDL3Cを備える。GDL3Aおよび3Cはそれぞれ、ガス透過性および導電性であり、カーボン粉末およびフッ素化樹脂を含む多孔質カーボン・ベースの材料と、例えばカーボンペーパー、カーボン織布またはカーボン不織布、カーボン・フェルトなどの材料で形成された支持体とからなることができる。金属ベースの触媒層2Aおよび2Cは、例えばPtまたはRuを含んでよい。
【0047】
燃料カートリッジ18内に貯蔵される燃料の濃度を増大させるために、酸化剤化学量論比(流量)ζcが、約8未満、例えば約2未満に低減されることが好ましい。その結果、そのような低酸化剤化学量論比(流量)での運転中にフラッディングしないように、カソード電極が、カソード電極からの液体生成物(例えば水)の除去に対して最適化されなければならない。これは、触媒層2CとGDL3Cの間に挟まれた疎水性MPL4Cによって達成される。
【0048】
アノード12電極およびカソード14電極をポリマー電解質膜16に対して機械的に固定するための、それぞれに対応する導電性のアノード・セパレータ6Aおよびカソード・セパレータ6Cが、MEA9を完全なものにしている。図示のように、アノード・セパレータ6Aおよびカソード・セパレータ6Cはそれぞれ、反応物をアノード電極およびカソード電極に供給し、かつ過剰な反応物ならびに電気化学反応によって生成された液体生成物およびガス生成物を除去する、それぞれに対応する流路7Aおよび7Cを含む。最後に、MEA9には、燃料および酸化剤がアセンブリの外側に漏れないようにするために、カソード電極およびアノード電極の縁部の周りにガスケット5が備えられる。ガスケット5は一般に、Oリング、ゴムシート、または弾性ポリマー材料および剛性ポリマー材料からなる複合シートで形成される。
【0049】
低酸化剤化学量論比(流量)での運転中にフラッディングを最小限に抑えるために、確実にMEA9のカソード電極から液体生成物(例えばDMFC電池の場合には水)を十分に除去するのに望ましい疎水性MPL4Cの特性には、
1.十分な導電性、
2.撥水性を得るための高い疎水特性、および
3.良好なガス透過性に十分な多孔性
がある。
【0050】
一般に、MPL4Cは、カーボン・ブラックおよびPTFEで形成された、約25〜50μmの層厚および10〜500nmの平均細孔径を有する複合材料を使用して、液体生成物(水)を除去することができるように最適化される。カーボン・ブラック(例えばVulcan XC72R)は、導電性および多孔質構造を有する複合材料をもたらし、PTFEは、高い疎水特性を有する複合材料をもたらす。
【0051】
しかし、MPL4Cの疎水特性を強化し、またその製作中に追加材料を使用しやすくするために、MPL4Cをさらに改善/最適化することは、電極製造の柔軟性/容易性の増大、および低酸化剤化学量論比でのシステム運転の向上が得られるという点で、有利と考えられる。
【0052】
カーボン・ブラック−PTFE複合材料で形成される上述のMPL4Cの製作に利用される典型的な工程の順序は、以下のとおりである。
1.カーボン・ブラック粉末を、水またはアルコール溶媒中に界面活性剤と一緒に分散して、第1の分散液を形成し、
2.PTFE粉末を、水またはアルコール溶媒中に分散して、第2の分散液を形成し、
3.第1および第2の分散液を、攪拌によって混合して、均一な混合ペーストを形成し、
4.ペーストを、GDL3Cのバッキング層(例えばカーボンクロスまたはカーボンペーパー)に塗布し、
5.ペーストが塗布されたGDL3Cを、界面活性剤をそこから除去し、かつPTFEを溶融して、バッキング層の表面全体にわたって広げるように乾燥および加熱して、MPL4Cを形成する。
【0053】
しかし、PTFEは、非常に疎水性のあるフルオロポリマーであるが、非常に高い融点(327℃)および溶融粘度(380℃で10GPa・sec)も有し、したがって不都合なことに、非常に高い溶融温度を必要とするとともに、ほとんど広がりを呈さない。
【0054】
したがって、本開示の諸実施形態によれば、その融点においてより低い粘度(例えば約350℃未満で1〜10GPa・sec)を呈する他のフルオロポリマーが、GDL3Cの疎水性成分として使用するために、上記の手順においてPTFEの一部分の代わりに使用される。適切なフルオロポリマーの例を、そのそれぞれに対応する概略の融点(MP)と共に、以下に示す。
1.FEP:260〜270℃、
2.PFA:300〜310℃、
3.PCTFE:220℃、
4.ETFE:270℃、
5.ECTFE:245℃、および
6.PVDF:MP172〜175℃
【0055】
本開示のこれらの実施形態によれば、上述の手順で利用されるPTFEの一部分が、列挙した、より低い粘度のフルオロポリマーのうち少なくとも1つで置き換えられる。というのも、後者は、単独で使用されると、工程5においてGDL支持体全体にわたってあまりにも容易に広がり、それによって、カーボン・ブラック粉末によって形成される、またはカーボン・ブラッククロス中に形成された細孔が目詰まりし、不都合なことに、MPLを通るガス/燃料の透過性が低減するためである。したがって、上記の順序の工程2〜3が、本開示の諸実施形態に従って、高溶融粘度フルオロポリマー(例えばPTFE)と、少なくとも1つのより低い溶融粘度のフルオロカーボンポリマー(例えば、上記で列挙したフルオロポリマー1〜6のうち1つまたは複数)とのブレンド、または混合物を含むように変更される。
【0056】
フルオロポリマーの好ましいブレンドは、FEPがPTFEの疎水性に匹敵する非常に高い疎水性を有することに鑑みて、FEP−PTFEである。結果として、PTFEの一部分をFEPと置き換えると、それらから形成されたMPLの疎水性がまったく減少しない。
【0057】
本開示の別の実施形態によれば、極めて高い疎水性に鑑みて、MPL4C用の疎水性材料としてフッ化黒鉛が利用される。例えば、水に対するフッ化黒鉛の接触角は140°であるが、水に対するPTFEの接触角は100°しかない。しかし、フッ化黒鉛は、カーボン・ブラックまたは黒鉛をフッ素ガスで処理することによって形成される粉末であり、それ自体でMPL4Cに製作することは困難である。さらに、フッ化黒鉛は導電性ではない。
【0058】
したがって、本開示の諸実施形態によれば、上記の順序の工程2〜3が、フッ化黒鉛、導電性カーボン・ブラック、およびバインダとしての疎水性ポリマー(例えばPTFE)からなるペーストを形成するように変更される。好ましくは、ペーストは、結果として得られるMPL4Cの良好な導電性を維持するために、約10重量%を上回るカーボン・ブラックに加えて約10重量%を上回る疎水性ポリマーを含む。
【0059】
本開示の別の実施形態によれば、MPL4Cの形成に、導電性フッ化黒鉛粉末が利用される。この点に関して、1:1のフッ素とカーボンの原子比(F:C)を有する化学量論的なフッ化黒鉛は、導電性ではないが、約1未満のF:C比を有するフッ化黒鉛は導電性であり、導電性は、F:C比が減少するにつれて増大することに留意されたい。
【0060】
したがって、本開示の別の実施形態によれば、上記の順序の工程2〜3が、導電性フッ化黒鉛、導電性カーボン・ブラック、およびバインダとしての疎水性ポリマー(例えばPTFE)からなるペーストを形成するように変更される。
【0061】
あるいは、本発明のさらに別の実施形態によれば、上記の順序の工程2〜3が、導電性および非導電性のフッ化黒鉛、導電性カーボン・ブラック、ならびにバインダとしての疎水性ポリマー(例えばPTFE)からなるペーストを形成するように変更される。
【0062】
要約すると、本開示は、DOFC/DMFCおよびDOFC/DMFCシステムの製作および性能の点で、そのようなシステムで使用するMEAを製作する際のより高い柔軟性および容易性を可能にし、またカソード電極が、増大された疎水性を有する改善されたMPLを備え、低酸化剤化学量論比(流量)での、液体(例えば水)生成物の保存/再利用を用いた運転を容易にすることを含む、いくつかの利点をもたらす。
【0063】
先の説明では、本開示をより良く理解するために、特定の材料、構造、反応物、プロセスなど、多くの特定の詳細が記載されている。しかし、本開示は、具体的に記載された詳細を用いずに実施することができる。他の場合には、本開示を不必要に曖昧にしないために、公知の加工材料および技法が詳細に説明されていない。
【0064】
本開示では、本開示の広い用途のうち数例の他は、本開示の好ましい諸実施形態のみが示され、説明されている。本開示は、様々な他の組合せおよび環境において使用することができ、本明細書において表記される本発明の概念の範囲内にある変更および/または修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】高濃度メタノール燃料で運転することができるDOFCシステム、すなわちDMFCシステムの、簡略化された概略図である。
【図2】図1のDOFC/DMFCシステムなどの燃料電池/燃料電池システムで使用するのに適した膜電極接合体の、代表的な構成の概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
順番に
(a)触媒層、
(b)疎水性マイクロポーラス層(MPL)、および
(c)ガス拡散層(GDL)
を備える、燃料電池用カソード電極であって、
前記MPLが、第1および第2の疎水性材料の混合物を含むカソード電極。
【請求項2】
前記第1および第2の疎水性材料がそれぞれ、フルオロポリマーを含む、請求項1に記載のカソード。
【請求項3】
前記第1のフルオロポリマーの融点および溶融粘度が、前記第2のフルオロポリマーの融点および溶融粘度よりも高い、請求項2に記載のカソード。
【請求項4】
前記第1のフルオロポリマーがPTFEであり、前記第2のフルオロポリマーが、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−アルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される、請求項3に記載のカソード。
【請求項5】
前記第1のフルオロポリマーがPTFEであり、前記第2のフルオロポリマーがFEPである、請求項3に記載のカソード。
【請求項6】
前記第1の疎水性材料がフッ化黒鉛を含み、前記第2の疎水性材料がフルオロポリマーを含む、請求項1に記載のカソード。
【請求項7】
前記フッ化黒鉛が非導電性である、請求項6に記載のカソード。
【請求項8】
前記フッ化黒鉛が導電性である、請求項6に記載のカソード。
【請求項9】
前記フッ化黒鉛が、導電性フッ化黒鉛と非導電性フッ化黒鉛の混合物を含む、請求項6に記載のカソード。
【請求項10】
前記フルオロポリマーが、ポリテトラフルオロエチレンPTFEを含む、請求項6に記載のカソード。
【請求項11】
前記MPLがさらに、導電性カーボン粉末を含む、請求項1に記載のカソード。
【請求項12】
燃料電池のカソード電極の一部分として疎水性微孔質層(MPL)を製作する方法であって、
(a)界面活性剤を含む水性溶媒またはアルコール溶媒中に分散された導電性カーボン粉末を含む第1の分散液を形成するステップ、
(b)水性溶媒またはアルコール溶媒中に分散された第1および第2の疎水性材料を含む第2の分散液を形成するステップであって、前記第1の疎水性材料がフルオロポリマーを含むステップ、
(c)前記第1および第2の分散液を、攪拌によって混合して、均一なペーストを形成するステップ、
(d)前記ペーストの層を、前記カソードのガス拡散層(GDL)のバッキング層の表面に塗布するステップ、および
(e)前記ペーストを、前記界面活性剤を実質的に除去し、かつ前記第1の疎水性材料を溶融して、前記バッキング層の前記表面全体にわたって広げるのに十分な高温で、乾燥および加熱するステップ
を含む方法。
【請求項13】
前記第2の疎水性材料がフルオロポリマーであり、前記第1のフルオロポリマーの融点および溶融粘度が、前記第2のフルオロポリマーの融点および溶融粘度よりも高い、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1のフルオロポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、前記第2のフルオロポリマーが、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−アルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のフルオロポリマーがPTFEであり、前記第2のフルオロポリマーがFEPである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の疎水性材料がフルオロポリマーを含み、前記第2の疎水性材料がフッ化黒鉛を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記フッ化黒鉛が非導電性である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記フッ化黒鉛が導電性である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記フッ化黒鉛が、導電性フッ化黒鉛と非導電性フッ化黒鉛の混合物を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記フルオロポリマーがPTFEを含む、請求項16に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−522746(P2009−522746A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549471(P2008−549471)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/044886
【国際公開番号】WO2007/081443
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(501456515)ザ ペン ステート リサーチ ファウンデイション (15)
【Fターム(参考)】