説明

高濃縮のインスリン溶液及び組成物

高濃縮インスリン溶液及び製薬組成物、その調製方法及びその使用を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一つの目的は、高濃縮のインスリン溶液及び組成物、その調製の方法、並びにその使用を提供することである。したがって、本発明は、胃腸管を介した吸収及び経口投与を含むがこれらに限らず様々な代替的経路に適切な投与形態の開発に適する高濃縮のインスリン水溶液を提供する。
【背景技術】
【0002】
1型及び2型糖尿病の治療では、典型的に、常習的な注射を必要とする皮下(sc)投与手段によりインスリンが治療上効率的に投与されている。注射が与えるかもしれない不快を減少させるために、投与のいくつかの代替的な非侵襲性の手段が従来調査されている。しかしながら、インスリンの皮下投与のこのような代替法は、ごく最近利用できるようになっているだけである。これらは、吸入用インスリン(噴霧用乾燥粉の吸入によってされる肺投与手段によるインスリンの全身運搬)、そして、口腔に液体インスリン組成物を直接噴霧することによってされる口腔インスリン運搬(口腔でのインスリンの吸収による全身インスリン運搬)に限られている。これらの代替インスリン投与形態の市販の製品は、それぞれExubera(登録商標)及びOra-Lyn(登録商標)との商品名で登録されている。
特に、経口法は非常に関心が高まっている。他の因子もあるが、経口投与手段は最も簡便で、最もなじみのある投与手段であるので後者の試みがなされている。しかしながら、インスリンの経口投与は、克服されていないいくつかの重大な障害と関係している。
【0003】
皮下注射のために造られる通常の治療上有用なインスリン溶液は、100U/ml又は3.5mg/mlの濃度を上回らない。注入ポンプのためのインスリン溶液(Hoechstのヒトの半合成インスリン、Genapol安定化、400U/ml)や吸入のための濃縮インスリン溶液(AerX insulin blister 1500U/ml;Diabetes Tech Therapeut (2002), vol. 4, page 499)のような特定の目的がなければ、濃縮インスリン溶液は、フェノール及び亜鉛又はこれらの組合せの存在下において中性pH及び酸性の状態で記載されている(欧州特許第1117114号A2及びここに援用される参考文献)。
酸性pHのブタインスリンの高濃縮溶液は、Diabetes Care (1981), volume 4, page 266において記述される。しかしながら、組成物中のインスリンは、アミド分解及び重合作用のために安定でない。酸性pHとともにこれにより、更なる加工及び、経口投与手段を含むがこれに限らず代替的な投与手段に適する投与形態を開発するための組成物の適性が減少する。
【0004】
中性のpHでは、天然の(すなわちヒト又は動物の)インスリンは、インスリン六量体につき2−4の亜鉛イオン、0.1−0.5%w/vフェノール及び5−150mM 塩化ナトリウムの存在によりその物理的安定性が増加する。中性のpHの亜鉛を含有する安定性ブタインスリン溶液は、6mM以下の濃度のブタインスリンにて造られている(Brange and Havelund in Artificial Systems for Insulin Delivery, Brunetti et al. eds. Raven Press 1983)。
一又は複数の添加物を全く含まないかもしくは極微量に含む安定な高濃縮のインスリン溶液、特に亜鉛イオン及び/又はフェノールを全く含まないかもしくは極微量に含む安定な高濃縮のインスリン溶液は、胃腸管などの他の経路を介するインスリンの運搬のためのその後の加工に特に有用である。したがって、6.5−9.0の範囲のpHを有し、亜鉛及び/又はフェノールを全く含まないかもしくは極微量含む高濃縮のインスリン溶液の必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一つの目的は、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含む水溶液であり、インスリン濃度が12mMを超えるものを提供することである。
ある態様では、本発明に係る水溶液は、6.5から9.0の範囲のpHを有する。
インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分、場合によって一又は複数の賦形剤を含む薬学的組成物も本発明によって得られる。
ある態様では、インスリンの濃度が12mMを超える薬学的組成物は、本発明に従って得られる。
さらに、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含有する水性インスリン溶液であって、インスリン濃度が12mMを超えるものの調製方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】安定かつ高濃縮の亜鉛及びフェノールを含まないインスリンAspart(登録商標)溶液を絶食させたSPRDラット(n=2)の十二指腸へ直接注射投与した後の血中グルコースの減少。
【図2】poloxamer界面活性剤と混合した安定かつ高濃縮の亜鉛及びフェノールを含まないインスリンAspart(登録商標)を絶食させたSPRDラット(n=3)の回腸へ直接注射投与した後の血中グルコースの減少。
【図3】安定かつ高濃縮の亜鉛及びフェノールを含まないインスリンAspart(登録商標)マイクロエマルジョンを絶食させたSPRDラット(n=2−4)の回腸へ直接注射投与した後の血中グルコースの減少。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(発明の説明)
本発明は、経口投与を目的とするインスリン組成物のような代替インスリン投与形態の加工に同様に有用である固有のインスリン薬学的組成物の製造を可能にするインスリン水溶液に関する。
高濃縮の溶液から得られる凍結乾燥粉ないしは粒子は一般に、凍結乾燥した懸濁物から得る粉ないしは粒子よりも均一である。
薬剤吸収の熱力学的駆動力は、他にもあるが、吸収の側近くに溶解される薬剤と血液との間の濃度勾配によるものであることが知られている。
インスリンは直接溶解され、酸性水性インスリン溶液となるが、溶液中のインスリン分子の細動や化学的悪化を避けるために非酸性水溶液にインスリンを溶解するのが良い。
安定した非酸性インスリン水溶液を得るために、従来から、インスリン六量体当たり2以上の亜鉛イオンがインスリン溶液に添加されている。あるいは、インスリン組成物Apidraから知られているように、界面活性剤は同じ安定性効果を得るために加えられている。Detemirなどのいくつかのインスリン誘導体のために、亜鉛を添加しても、インスリンの溶解性が増している。
本発明の一つの目的は、高濃縮の非酸性インスリン溶液及び組成物、その調製方法、及びその使用を提供することである。したがって、本発明は、胃腸管を介した吸収及び経口投与を含むがこれらに限らず様々な代替的経路に適切な投与形態の開発に適する高濃縮のインスリン水溶液を提供する。
驚くべきことに、本発明者等は、安定なインスリン溶液が例外的に高いインスリン濃度で調製されうることを発見した。
【0008】
以下は、本明細書中の至る所にさらに記載される態様の非限定的な例である。
本発明の態様1では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール及び/又はm−クレゾールを含有する水溶液であって、インスリン濃度が12mMを超えるものが得られる。
態様2。インスリン濃度が15mMを超える、態様1に記載の水溶液。
態様3。インスリン濃度が20mMを超える、態様2に記載の水溶液。
態様4。インスリン濃度が25mMを超える、態様3に記載の水溶液。
態様5。インスリン濃度が30mMを超える、態様4に記載の水溶液。
態様6。インスリン濃度が12mMから60mMの範囲にある、態様1に記載の水溶液。
態様7。インスリン濃度が12mMから55mM範囲の範囲にある、態様6に記載の水溶液。
態様8。インスリン濃度が12mMから50mMの範囲にある、態様7に記載の水溶液。
態様9。インスリン濃度が15mMから50mMの範囲にある、態様8に記載の水溶液。
態様10。インスリン濃度が20mMから50mMの範囲にある、態様9に記載の水溶液。
態様11。インスリン濃度が25mMから60mMの範囲にある、態様6に記載の水溶液。
態様12。インスリン濃度が25mMから50mMの範囲にある、態様11に記載の水溶液。
態様13。インスリン濃度が30mMから60mMの範囲にある、態様11に記載の水溶液。
態様14。インスリン濃度が30mMから50mMの範囲にある、態様13に記載の水溶液。
【0009】
態様15。亜鉛含量がインスリン六量体につき1以下の亜鉛イオンである、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様16。亜鉛を基本的に含まない、態様15に記載の水溶液。
態様17。フェノール類成分の濃度が60mM未満である、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様18。フェノール類成分の濃度が40mM未満である、態様17に記載の水溶液。
態様19。フェノール類成分の濃度が20mM未満である、態様18に記載の水溶液。
態様20。フェノール類成分を基本的に含まない、態様19に記載の水溶液。
態様21。亜鉛を基本的に含まず、フェノール類成分を基本的に含まない、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様22。pHが6.5から9.0の範囲にある、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様23。pHが6.5から8.5の範囲にある、態様22に記載の水溶液。
態様24。pHが7.0から8.5の範囲にある、態様23に記載の水溶液。
態様25。塩濃度が0.5M未満である、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様26。塩濃度が0.3M未満である態様25に記載の水溶液。
態様27。塩濃度が0.15M未満である、態様26に記載の水溶液。
態様28。塩を基本的に含まない、態様27に記載の水溶液。
態様29。塩化ナトリウムを基本的に含まない、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
【0010】
態様30。インスリンがヒトインスリン、インスリン類似体及びインスリン誘導体からなる群から選択される、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様31。インスリンがヒトインスリン及びインスリンの類似体からなる群から選択される、態様30に記載の水溶液。
態様32。インスリンが、
ヒトインスリン;
インスリンの位置B28のアミノ酸残基がPro、Asp、Lys、Leu、Val又はAlaであり、位置B29のアミノ酸残基がLys又はProであり、そして場合によって、位置B30のアミノ酸残基が欠失しているインスリン類似体;
des(B28−B30)ヒトインスリン、des(B27)ヒトインスリン又はdes(B30)ヒトインスリン;
位置B3のアミノ酸残基がLysであり、位置B29のアミノ酸残基がGlu又はAspであるインスリン類似体;
位置A14のアミノ酸がLys、Glu、Arg、Asp、Pro及びHisからなる群から選択され、位置B25のアミノ酸がHisであり、そして、場合によって一又は複数の更なる突然変異を更に含むインスリン類似体;
インスリン類似体であって、
・位置A8のアミノ酸はHisであり、及び/又は、位置A12のアミノ酸はGlu又はAspであり、及び/又は、位置A13のアミノ酸はHis、Asn、Glu又はAspであり、及び/又は、位置A14のアミノ酸はAsn、Gln、Glu、Arg、Asp、Gly又はHisであり、及び/又は、位置A15のアミノ酸はGlu又はAspであり;そして、
・位置B1のアミノ酸はGluであり、及び/又は、位置B16のアミノ酸はGlu又はHisであり、そして、又は、位置B25のアミノ酸はHisであり、及び/又は、位置B26のアミノ酸はHis、Gly、Asp又はThrであり、及び/又は、位置B27のアミノ酸はHis、Glu、Lys、Gly又はArgであり、及び/又は、位置B28のアミノ酸はHis、Gly又はAspであり;そして、
場合によって一又は複数の更なる突然変異を更に含むもの;及び
位置A14のアミノ酸がLys、Glu、Arg、Asp、Pro及びHisからなる群から選択されるインスリン類似体であって;インスリン類似体のB鎖が親インスリンと比べて少なくとも2つの突然変異を含み、この2以上の突然変異が、位置B27、B28、B29及びB30のアミノ酸の欠失の形態、又は位置B30のアミノ酸の欠失と位置B25のHisへのアミノ酸置換、B26のGly又はGluへのアミノ酸置換、B27のGly又はLysへのアミノ酸置換及びB28のAsp、His、Gly、Lys又はGluへのアミノ酸置換から選択されるアミノ酸の置換との組合せの形態で存在するもの
からなる群から選択される、態様31に記載の水溶液。
態様33。インスリンが、
ヒトインスリン;
DesB30ヒトインスリン;
AspB28ヒトインスリン;
AspB28,DesB30ヒトインスリン;
LysB3,GluB29ヒトインスリン;
LysB28,ProB29ヒトインスリン;
GluA14,HisB25ヒトインスリン;
HisA14,HisB25ヒトインスリン;
GluA14,HisB25,DesB30ヒトインスリン;
HisA14,HisB25,DesB30ヒトインスリン;
GluA14,HisB25,desB27,desB28,desB29,desB30ヒトインスリン;
GluA14,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;
GluA14,HisB16,HisB25,desB30ヒトインスリン;
HisA14,HisB16,HisB25,desB30ヒトインスリン;
HisA8,GluA14,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;
HisA8,GluA14,GluB1,GluB16,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;及びHisA8,GluA14,GluB16,HisB25,desB30ヒトインスリン
からなる群から選択される、態様32に記載の水溶液。
【0011】
態様34。界面活性剤の濃度が60mM未満である、前の態様の何れか一に記載の水溶液。
態様35。界面活性剤の濃度が40mM未満である、態様34に記載の水溶液。
態様36。界面活性剤の濃度が20mM未満である、態様35に記載の水溶液。
態様37。界面活性剤を基本的に含まない、態様36に記載の水溶液。
【0012】
態様38。インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール及び/又はm−クレゾール、場合によって一又は複数の賦形剤を含有する製薬組成物。
態様39。インスリン濃度が12mMを超える、態様38に記載の製薬組成物。
態様40。インスリン濃度が15mMを超える、態様39に記載の製薬組成物。
態様41。インスリン濃度が20mMを超える、態様40に記載の製薬組成物。
態様42。インスリン濃度が25mMを超える、態様41に記載の製薬組成物。
態様43。インスリン濃度が30mMを超える、態様42に記載の製薬組成物。
態様44。インスリン濃度が12mMから60mMの範囲にある、態様39に記載の製薬組成物。
態様45。インスリン濃度が12mMから55mM範囲の範囲にある、態様44に記載の製薬組成物。
態様46。インスリン濃度が12mMから50mMの範囲にある、態様45に記載の製薬組成物。
態様47。インスリン濃度が15mMから50mMの範囲にある、態様46に記載の製薬組成物。
態様48。インスリン濃度が20mMから50mMの範囲にある、態様47に記載の製薬組成物。
態様49。インスリン濃度が25mMから60mMの範囲にある、態様44に記載の製薬組成物。
態様50。インスリン濃度が25mMから50mMの範囲にある、態様49に記載の製薬組成物。
態様51。インスリン濃度が30mMから60mMの範囲にある、態様49に記載の製薬組成物。
態様52。インスリン濃度が30mMから50mMの範囲にある、態様51に記載の製薬組成物。
【0013】
態様53。亜鉛含量がインスリン六量体につき1以下の亜鉛イオンである、態様38−52の何れか一に記載の製薬組成物。
態様54。亜鉛を基本的に含まない、態様53に記載の製薬組成物。
態様55。フェノール類成分の濃度が60mM未満である、態様38−54の何れか一に記載の製薬組成物。
態様56。フェノール類成分の濃度が40mM未満である、態様55に記載の製薬組成物。
態様57。フェノール類成分の濃度が20mM未満である、態様56に記載の製薬組成物。
態様58。フェノール類成分を基本的に含まない、態様57に記載の製薬組成物。
態様59。亜鉛を基本的に含まず、フェノール類成分を基本的に含まない、態様38−58の何れか一に記載の製薬組成物。
態様60。pHが6.5から9.0の範囲にある、態様38−59の何れか一に記載の製薬組成物。
態様61。pHが6.5から8.5の範囲にある、態様60に記載の製薬組成物。
態様62。pHが7.0から8.5の範囲にある、態様61に記載の製薬組成物。
態様63。塩濃度が0.5M未満である、態様38−62の何れか一に記載の製薬組成物。
態様64。塩濃度が0.3M未満である態様63に記載の製薬組成物。
態様65。塩濃度が0.15M未満である、態様64に記載の製薬組成物。
態様66。塩を基本的に含まない、態様65に記載の製薬組成物。
【0014】
態様67。インスリンがヒトインスリン、インスリン類似体及びインスリン誘導体からなる群から選択される、態様38−66の何れか一に記載の製薬組成物。
態様68。インスリンがヒトインスリン及びインスリン類似体からなる群から選択される、態様67に記載の製薬組成物。
態様69。インスリンが、
ヒトインスリン;
インスリンの位置B28のアミノ酸残基がPro、Asp、Lys、Leu、Val又はAlaであり、位置B29のアミノ酸残基がLys又はProであり、そして場合によって、位置B30のアミノ酸残基が欠失しているインスリン類似体;
des(B28−B30)ヒトインスリン、des(B27)ヒトインスリン又はdes(B30)ヒトインスリン;
位置B3のアミノ酸残基がLysであり、位置B29のアミノ酸残基がGlu又はAspであるインスリン類似体;
位置A14のアミノ酸がLys、Glu、Arg、Asp、Pro及びHisからなる群から選択され、位置B25のアミノ酸がHisであり、そして、場合によって一又は複数の更なる突然変異を更に含むインスリン類似体;
インスリン類似体であって、
・位置A8のアミノ酸がHisであり、及び/又は、位置A12のアミノ酸がGlu又はAspであり、及び/又は、位置A13のアミノ酸がHis、Asn、Glu又はAspであり、及び/又は、位置A14のアミノ酸がAsn、Gln、Glu、Arg、Asp、Gly又はHisであり、及び/又は、位置A15のアミノ酸がGlu又はAspであり;そして、
・位置B1のアミノ酸がGluであり、及び/又は、位置B16のアミノ酸がGlu又はHisであり、そして、又は、位置B25のアミノ酸がHisであり、及び/又は、位置B26のアミノ酸がHis、Gly、Asp又はThrであり、及び/又は、位置B27のアミノ酸がHis、Glu、Lys、Gly又はArgであり、及び/又は、位置B28のアミノ酸がHis、Gly又はAspであり;そして、
場合によって一又は複数の更なる突然変異を更に含むもの;及び
位置A14のアミノ酸がLys、Glu、Arg、Asp、Pro及びHisからなる群から選択されるインスリン類似体であって;インスリン類似体のB鎖が親インスリンと比べて少なくとも2つの突然変異を含み、この2以上の突然変異が、位置B27、B28、B29及びB30のアミノ酸の欠失の形態で、又は位置B30のアミノ酸の欠失と位置B25のHisへのアミノ酸置換、B26のGly又はGluへのアミノ酸置換、B27のGly又はLysへのアミノ酸置換及びB28のAsp、His、Gly、Lys又はGluへのアミノ酸置換から選択されるアミノ酸の置換との組合せの形態で存在するもの
からなる群から選択される、態様68に記載の製薬組成物。
態様70。インスリンが、
ヒトインスリン;
DesB30ヒトインスリン;
AspB28ヒトインスリン;
AspB28,DesB30ヒトインスリン;
LysB3,GluB29ヒトインスリン;
LysB28,ProB29ヒトインスリン;
GluA14,HisB25ヒトインスリン;
HisA14,HisB25ヒトインスリン;
GluA14,HisB25,DesB30ヒトインスリン;
HisA14,HisB25,DesB30ヒトインスリン;
GluA14,HisB25,desB27,desB28,desB29,desB30ヒトインスリン;
GluA14,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;
GluA14,HisB16,HisB25,desB30ヒトインスリン;
HisA14,HisB16,HisB25,desB30ヒトインスリン;
HisA8,GluA14,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;
HisA8,GluA14,GluB1,GluB16,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;及びHisA8,GluA14,GluB16,HisB25,desB30ヒトインスリン
からなる群から選択される、態様69に記載の製薬組成物。
【0015】
態様71。界面活性剤の濃度が40mM未満である、態様38−70の何れか一に記載の製薬組成物。
態様72。界面活性剤の濃度が20mM未満である、態様71に記載の製薬組成物。
態様73。界面活性剤を基本的に含まない、態様72に記載の製薬組成物。
【0016】
態様74。インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製する方法であって、
a) インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含有するインスリンないしはインスリンの結晶をHOに懸濁又は溶解させる、
b) pHを測定する、
c) pHがpH6.5未満又は9.0を超える場合にはpHをpH6.5から9.0に調整する、そして、
d) 場合によってインスリンを凍結乾燥又は噴霧乾燥させ、その後HOにインスリンを再溶解させ、インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含むインスリンを含有し、インスリン濃度が12mMを超えるか、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5から9.0である水溶性インスリン溶液を得る
ことを含む方法。
態様75。インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製する方法であって、インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含有するインスリンないしはインスリンの結晶をHOに懸濁又は溶解させ、pHを測定し、場合によって、pHがpH6.5未満又は9.0を超える場合にはpHをpH6.5から9.0に調整し、さらに場合によって、インスリンを凍結乾燥又は噴霧乾燥させ、その後HOにインスリンを再溶解させ、インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含むインスリンを含有し、インスリン濃度が12mMを超えるか、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5から9.0である水溶性インスリン溶液を得ることを含む方法。
態様76。
a.インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含有するインスリン、あるいは、インスリン六量体につき1未満の亜鉛イオンを含有するインスリン、あるいは基本的に亜鉛を持たないインスリンをHOに懸濁して、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える懸濁液を得る、
b.pH6.5から9.0にpHを調整することによって溶液を得ることを含む、態様74又は75に記載の、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製するための方法。
態様77。
a.インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含有するインスリン、あるいは、インスリン六量体につき1未満の亜鉛イオンを含有するインスリン、あるいは基本的に亜鉛を持たないインスリンの最小限量をHOに溶解させて、インスリン濃度が12mM未満である溶液を得る、
b.pH6.5から9.0にpHを調整する、
c.該溶液を凍結乾燥又は噴霧乾燥させる、そして
d.pHを調整することなく、凍結乾燥させた生成物をHOに再溶解させ、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5から9.0の間である溶液を得る
ことを含む、態様74又は75に記載の、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製するための方法。
態様78。
a.インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含有するインスリン、あるいは、インスリン六量体につき1未満の亜鉛イオンを含有するインスリン、あるいは基本的に亜鉛を持たないインスリンの結晶をHOに溶解させて、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5と9.0の間である溶液を得る、
ことを含む、態様74又は75に記載の、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製するための方法。
【0017】
態様79。高血糖、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、高血圧、内臓脂肪症候群、異脂肪血症、認知障害、アテローム性動脈硬化、心筋梗塞、冠状動脈性心臓病及び他の循環系疾患、アルツハイマー病などのCNS疾患、脳卒中、炎症性腸症候群、胃腸障害及び胃潰瘍からなる群から選択される疾患又は障害の治療方法であって、
治療を必要とする被検体に、態様1から73の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物の有効量を投与することを含む方法。
態様80。医薬としての使用のための態様1から73の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物。
態様81。高血糖、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、高血圧、内臓脂肪症候群、異脂肪血症、認知障害、アテローム性動脈硬化、心筋梗塞、冠状動脈性心臓病及び他の循環系疾患、アルツハイマー病などのCNS疾患、脳卒中、炎症性腸症候群、胃腸障害及び胃潰瘍の治療又は予防のための医薬としての使用のための、態様1から73の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物。
態様82。2型糖尿病の疾患進行を遅らせるか又は予防するための医薬としての使用のための、態様1から73の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物。
【0018】
本明細書中で用いられる「インスリン」は、ヒトインスリン、インスリン類似体又はインスリン誘導体を意味する。
本明細書中で用いられる「インスリン類似体」は、形式的にヒトインスリンの構造から誘導されうる分子構造を有するポリペプチドを意味する。したがって、動物のインスリンはヒトインスリン類似体になる。類似体の構造は、例えば天然のインスリン中に生じる少なくとも一のアミノ酸残基を欠失させるか及び/又は置換させる、及び/又は、少なくとも一のアミノ酸残基を挿入させるか及び/又は付加させることによって誘導されうる。挿入、付加及び/又は置換されたアミノ酸残基は、典型的にコードアミノ酸残基である。
本発明によるインスリン類似体は、インスリンのA鎖及び/又はB鎖に一又は複数の突然変異を含むヒトインスリンないしはその類似体であってもよい。
ある実施態様では、本発明のインスリン類似体は親インスリンと比較して8未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。ある実施態様では、インスリン類似体は親インスリンと比較して7未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。ある実施態様では、インスリン類似体は親インスリンと比較して6未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。他の実施態様では、インスリン類似体は親インスリンと比較して5未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。他の実施態様では、インスリン類似体は親インスリンと比較して4未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。他の実施態様では、インスリン類似体は親インスリンと比較して3未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。他の実施態様では、インスリン類似体は親インスリンと比較して2未満の修飾(置換、欠失、付加)を含む。
インスリン類似体の例は、B鎖の位置28のProがAsp、Lys、Leu、Val又はAlaに変異しているものである。他の態様では、位置B29のLysがPro、Glu又はAspに変異する。さらに、位置B3のAsnが、Thr、Lys、Gln、Glu又はAspに変異してもよい。さらに、インスリン類似体の例は、欠失類似体、例えばヒトインスリンのB30アミノ酸が欠失している類似体(des(B30)ヒトインスリン)、ヒトインスリンのB1アミノ酸が欠失しているインスリン類似体(des(B1)ヒトインスリン)、des(B28−B30)ヒトインスリン及びdes(B27)ヒトインスリンである。上記の突然変異の組合せを含むインスリン類似体は、インスリンの類似体及びインスリンの類似体の実施例であるA鎖及び/又はB鎖がN末端伸展を有するインスリン類似体、及びA鎖及び/又はB鎖がC末端伸展を有するインスリン類似体もインスリン類似体の例である。位置A14のアミノ酸がGlu又はHisであり、位置B25のアミノ酸がHisであり、場合によってさらに一又は複数の付加的な突然変異を含むインスリン類似体も、本発明のインスリン類似体の例である。
【0019】
本明細書中で用いる「インスリン誘導体」は、例えばインスリン骨格の一又は複数の位置でのグアニル化、サクシニル化、アセチル化又はカルバモイル化によって、化学的に修飾されているインスリン類似体又は天然に生じるインスリン を意味する。
一態様では、本発明のインスリンは、ヒトインスリン又はインスリン類似体である。
更なる態様では、本発明のインスリンは、ヒトインスリン;インスリンの位置B28のアミノ酸残基がPro、Asp、Lys、Leu、Val又はAlaであり、位置B29のアミノ酸残基がLys又はProであり、そして場合によって、位置B30のアミノ酸残基が欠失しているインスリン類似体;des(B28−B30)ヒトインスリン、des(B27)ヒトインスリン又はdes(B30)ヒトインスリン;位置B3のアミノ酸残基がLysであり、位置B29のアミノ酸残基がGlu又はAspであるインスリン類似体;そして、位置A14のアミノ酸がGlu又はHisであり、位置B25のアミノ酸がHisであり、そして、場合によって一又は複数の更なる突然変異を更に含むインスリン類似体;インスリン類似体であって、
・位置A8のアミノ酸はHisであり、及び/又は、位置A12のアミノ酸はGlu又はAspであり、及び/又は、位置A13のアミノ酸はHis、Asn、Glu又はAspであり、及び/又は、位置A14のアミノ酸はAsn、Gln、Glu、Arg、Asp、Gly又はHisであり、及び/又は、位置A15のアミノ酸はGlu又はAspであり;そして、
・位置B1のアミノ酸はGluであり、及び/又は、位置B16のアミノ酸はGlu又はHisであり、そして、又は、位置B25のアミノ酸はHisであり、及び/又は、位置B26のアミノ酸はHis、Gly、Asp又はThrであり、及び/又は、位置B27のアミノ酸はHis、Glu、Lys、Gly又はArgであり、及び/又は、位置B28のアミノ酸はHis、Gly又はAspであり;そして、
場合によって一又は複数の更なる突然変異を更に含むもの;及び
位置A14のアミノ酸がLys、Glu、Arg、Asp、Pro及びHisからなる群から選択されるインスリン類似体であって;インスリン類似体のB鎖が親インスリンと比べて少なくとも2つの突然変異を含み、この2以上の突然変異が、位置B27、B28、B29及びB30のアミノ酸の欠失の形態、又は位置B30のアミノ酸の欠失と位置B25のHisへのアミノ酸置換、B26のGly又はGluへのアミノ酸置換、B27のGly又はLysへのアミノ酸置換及びB28のAsp、His、Gly、Lys又はGluへのアミノ酸置換から選択されるアミノ酸の置換との組合せの形態で存在するもの
からなる群から選択される。
【0020】
より更なる態様では、本発明のインスリンは、ヒトインスリン;DesB30ヒトインスリン;AspB28ヒトインスリン;AspB28,DesB30ヒトインスリン;LysB3,GluB29ヒトインスリン;LysB28,ProB29ヒトインスリン;GluA14,HisB25ヒトインスリン;HisA14,HisB25ヒトインスリン;GluA14,HisB25,DesB30ヒトインスリン;HisA14,HisB25,DesB30ヒトインスリン;GluA14,HisB25,desB27,desB28,desB29,desB30ヒトインスリン;GluA14,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;GluA14,HisB16,HisB25,desB30ヒトインスリン;HisA14,HisB16,HisB25,desB30ヒトインスリン;HisA8,GluA14,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;HisA8,GluA14,GluB1,GluB16,HisB25,GluB27,desB30ヒトインスリン;そして、HisA8,GluA14,GluB16,HisB25,desB30ヒトインスリン
からなる群から選択される。
【0021】
本発明の安定なインスリン溶液又は組成物は、すべての構成成分が室温で、完全に溶解される溶液又は組成物として理解されるものであり、すなわち溶液又は組成物中において全く沈殿物がない。
本発明の水溶液は、12mMを上回る濃度を有する。一態様では、水溶液中のインスリン濃度は15mMを超え、他の態様ではインスリン濃度は20mMを超え、他の態様ではインスリン濃度は25mMを超え、更なる態様ではインスリン濃度は30mMを超え、更なる態様ではインスリン濃度は35mMを超え、更なる態様ではインスリン濃度は40mMを超える。本発明の一態様では、インスリン濃度は、インスリン濃度が55mM、ある本発明の別の態様において、インスリン濃度が50mM、ある本発明の更に別の態様の60mM未満である。本発明の一態様では、インスリン濃度は12mMから60mMの範囲にあり、他の態様では、溶液中のインスリン濃度は12mMから55mMの間にあり、更なる態様では濃度は12mMから50mMの範囲にあり、より更なる態様ではインスリン濃度は15mMから50mMの間にあり、より更なる態様では、インスリン濃度は20mMから50mMの間にある。
【0022】
本発明の製薬組成物は12mMを上回る濃度を有する。ある態様では、製薬組成物中のインスリン濃度は15mMを超え、他の態様では、インスリン濃度は20mMを超え、更なる態様では、インスリン濃度は30mMを超え、さらに他の態様ではインスリン濃度は40mMを超える。本発明の一態様では、インスリン濃度は12mMから60mMの範囲にあり、他の態様では、溶液中のインスリン濃度は12mMから55mMの間にあり、更なる態様では濃度は12mMから50mMの範囲にあり、より更なる態様ではインスリン濃度は15mMから50mMの間にあり、より更なる態様では、インスリン濃度は20mMから50mMの間にある。
本発明の水溶液又は製薬組成物は、少量の亜鉛及び/又はフェノールの構成成分を含んでいてもよい。
【0023】
現在市販されるほとんどの商業的なインスリン及びインスリン類似体組成物は、インスリンの安定性を上げるため、またフィブリル化、すなわち原繊維形成のリスクを最小化するために、亜鉛を含む。これら組成物中の亜鉛の量は通常、インスリン六量体につき2、3又は4の亜鉛イオンである。
発明者等は、本発明の高濃度のインスリンを含む水溶液又は製薬組成物が極僅かな量の亜鉛を含むか実質的に亜鉛を含んでいなくてもよいことを発見した。
本発明の一態様では、水溶液又は製薬組成物は、インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含む。本発明の他の態様では、水溶液又は製薬組成物は、インスリン六量体につき1以下の亜鉛イオンを含む。本発明のより更なる態様では、水溶液又は製薬組成物は、基本的に亜鉛を含んでいない。
【0024】
本発明の水溶液又は製薬組成物は少量のフェノール類成分を含んでいるか、又は全く含んでいなくてもよい。本明細書中で用いる「フェノール化合物」なる用語は、微生物汚染から守るために溶液や組成物に添加されることが多い、フェノールないしは例えばm−クレゾール、m−パラベン及びフェノールなどのフェノール様分子を意味する。
本発明の一態様では、水溶液又は製薬組成物は、60mM以下のフェノール類成分を含む。他の態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は、40mM以下のフェノール類成分を含み、更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は20mM以下のフェノール類成分を含む。まだ更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は、フェノール類成分を基本的に含んでいない。
本発明の一態様では、水溶液又は製薬組成物は、60mM以下のフェノール及び/又はm−クレゾールを含む。他の態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は40mM以下のフェノール及び/又はm−クレゾールを含み、更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は20mM以下のフェノール及び/又はm−クレゾールを含む。より更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は、フェノール及び/又はm−クレゾールを基本的に含んでいない。
本発明の一態様では、水溶液又は製薬組成物は、60mM以下のフェノールを含む。他の態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は40mM以下のフェノールを含み、更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は20mM以下のフェノールを含む。より更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は、フェノールを基本的に含んでいない。
一態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は、亜鉛及びフェノール類成分を基本的に含んでいない。他の態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物は、亜鉛及びフェノールを基本的に含んでいない。
ある態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物の塩濃度は0.5M未満である。更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物の塩濃度は0.3M未満である。更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物の塩濃度は0.15M未満である。より更なる態様では、本発明の水溶液は基本的に塩を含まない。なお更なる態様では、本発明の製薬組成物は基本的に塩を含まない。
【0025】
この文脈において、特定の構成成分を「基本的に含まない」なる用語は、特定の構成成分を全く含まないか、又は極微量に含む溶液又は組成物を意味する。インスリン溶液又は組成物を生成する過程の何れかの段階において積極的に加えられない場合であっても例えば極微量の亜鉛がインスリン溶液又は組成物中に存在しうることが知られている。本発明の一態様では、亜鉛を基本的に含まない水溶液又は製薬組成物は、0.1%、0.05%又は0.03%未満の微量の亜鉛を含む水溶液又は製薬組成物として理解される。本発明の更なる態様では、亜鉛を基本的に含まない水溶液又は製薬組成物は、亜鉛を含んでいない水溶液又は製薬組成物として理解される。本発明の一態様では、フェノールを基本的に含まない水溶液又は製薬組成物は、0.1%、0.05%又は0.03%未満の微量のフェノールを含む水溶液又は製薬組成物として理解される。本発明の更なる態様では、フェノールを基本的に含まない水溶液又は製薬組成物は、フェノールを含んでいない水溶液又は製薬組成物として理解される。
本発明の水溶液又は製薬組成物は、およそ6.5からおよそ9.0のpH範囲であってもよい。一態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物のpHは6.5から8.5の間であり、更なる態様では、本発明の水溶液又は製薬組成物のpHは7.0から8.5 の間である。
高濃縮の中性の亜鉛及びフェノールを含まないインスリン水溶液又は組成物は血中グルコースレベルを良好な程度に減らしていることが明らかにされた。一態様では、本発明の高濃縮の中性の亜鉛及びフェノールを含まないインスリン組成物は、定式化されてない高濃縮のインスリン溶液より、血中グルコースレベルを良好な程度に減らしている。更なる態様では、本発明の濃縮された中性の亜鉛及びフェノールを含まないインスリン組成物を含むマイクロエマルジョンは、定式化されてない高濃縮のインスリン溶液より、血中グルコースレベルを良好な程度に減らしている。
【0026】
インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製する方法も本発明に包含される。
このような方法は実施例においてさらに記述され、インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含有するインスリンないしはインスリンの結晶をHOに懸濁又は溶解させ、pHを測定し、場合によって、pHがpH6.5未満又は9.0を超える場合にはpHを調整し、さらに場合によって、インスリンを凍結乾燥又は噴霧乾燥させ、その後HOにインスリンを再溶解させ、インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含むインスリンを含有し、インスリン濃度が12mMを超えるか、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5から9.0である水溶性インスリン溶液を得ることを含みうる。
【0027】
一態様では、本発明の水溶性のインスリン溶液の調製方法は、亜鉛を含有しないインスリンあるいは亜鉛を含有しないインスリンの結晶をHOに懸濁又は溶解し、pHを測定して場合によってはpHを調整し、さらに場合によって、インスリンを凍結乾燥又は噴霧乾燥させ、その後HOにインスリンを再溶解させて、基本的に亜鉛を含まない水溶性インスリン溶液であって、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5から9.0である溶液を得ることを含む。
一態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が12mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法が得られる。
一態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が15mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法が得られる。
一態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が20mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法が得られる。
一態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が25mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法が得られる。
一態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が30mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法が得られる。
一態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が35mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法が得られる。
【0028】
他の態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法であって、
a.亜鉛を含まないインスリンをHOに懸濁して、インスリン濃度が12mMを超える懸濁液を得る、そして、
b.pHを6.5から9.0に調整して、溶液を得る工程を含む方法が得られる。
更なる態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法であって、
a.亜鉛を含まないインスリンの最小限量をHOに溶解させて、インスリン濃度が12mM未満である溶液を得る、
b.pH6.5から9.0にpHを調整する、
c.該溶液を凍結乾燥又は噴霧乾燥させる、そして、
d.pHを調整することなく、凍結乾燥させた生成物をHOに再溶解させ、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える溶液を得る
工程を含む方法が得られる。
さらに他の態様では、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性インスリン溶液の調製方法であって、
a.亜鉛を含まないインスリンの結晶をHOに溶解させて、インスリン濃度が12mMを超えるかあるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5と9.0の間である溶液を得る工程を含む方法が得られる。
【0029】
経粘膜送達に適する組成物を調整するための、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含み、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える溶液の使用もまた本発明に包含される。前記組成物により、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分を含んだまま、経粘膜経路によるインスリンの摂取のために、pH6.5から9.0で十分なインスリンの溶液濃度が可能となる。
【0030】
製薬組成物
本発明の製薬組成物は、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン、60mM以下のフェノール類成分及び場合によって一又は複数の賦形剤を含み、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超えるインスリン溶液から調製される組成物である。一態様では、本発明の製薬組成物は、インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン、60mM以下のフェノール類成分及び場合によって一又は複数の賦形剤を含み、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える組成物である。
【0031】
本発明の他の目的は、インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える、本発明のインスリン溶液から調製されるインスリンを含有し、6.5から9.0のpHを有する製薬組成物を提供することである。組成物は、当業者に公知のプロテアーゼインヒビター(類)、緩衝系、バッファー系、防腐剤(類)、等張化剤(類)、キレート剤(類)、安定剤及び界面活性剤をさらに含有してよい。本発明の一態様では、製薬組成物は水性組成物であり、すなわち組成物は水分を含有している。このような組成物は一般的に溶液又は懸濁液である。本発明の更なる態様では、製薬組成物は水溶液である。「水溶性組成物」なる用語は、少なくとも50%w/wの水分を含有する組成物と定義される。同様に「水溶液」なる用語も、少なくとも50%w/wの水分を含有する溶液と定義され、「水性懸濁液」なる用語は、少なくとも50%w/wの水分を含有する懸濁液と定義される。
他の態様では、製薬組成物は凍結乾燥された組成物であり、医師又は患者は、使用前に溶媒及び/又は希釈液を添加する。
他の態様では、製薬組成物は、何ら事前に溶解することなく使用準備が整った乾燥した組成物(例えば凍結乾燥又は噴霧乾燥)である。
更なる態様では、本発明は、12mM以上、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える濃度で存在するインスリンの溶液から調製される、本発明のインスリンの水溶液又は懸濁液とバッファとを含有する、6.5から9.0のpHを有する製薬組成物に関する。
【0032】
経口使用を意図した組成物は、任意の公知の方法に従い調製されてよく、このような組成物は、製薬的に上品かつ美味な調製物を提供するために、甘味料、香料、着色剤、及び防腐剤からなる群から選択される、一又は複数の薬剤を含有していてもよい。錠剤は、錠剤の製造に適切な、無毒で製薬的に許容可能な賦形剤との混合物に、活性成分を含有せしめたものであってよい。錠剤はコートされていなくてもよく、又は崩壊もしくは治療的に活性なポリペプチドの放出を遅延化するために、公知の技術によりコートされてもよい。
本発明の経口的に投与される組成物は、薬化学でよく知られている方法に従い、調製及び投与されてよく、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第17版. (A. Osol編, 1985)が参照される。
【0033】
本発明の一態様では、本発明の製薬組成物は、錠剤及びカプセルなどの固形用量形状によって投与されてもよい。錠剤は、乾式造粒法によって、直接圧縮又は溶融造粒法によって調製されてもよい。この発明のための錠剤は、従来の成形技術を利用して調製されてもよい。
経口使用のための組成物は、硬質又は軟質なゼラチンカプセルとしても提供されてよく、ここで活性成分は、不活性な固体状希釈剤、例えばマンニトール、マルトデキストリン、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、カオリン、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムと混合されており、又は軟質なゼラチンカプセルの場合は、活性成分は水又は油性媒体、例えばピーナッツ油、流動パラフィン、又はオリブ油と混合されている。
この発明のカプセルは、従来からの方法を使用して調製されてよい。製造のための一般的方法は、治療的に活性なペプチド、アルギン酸塩、水溶性の希釈剤、親水性バインダー、場合によっては錠剤分解物質の一部を混合することを含む。ついで、この混合物を、親水性バインバーの水溶液又は親水性バインダーと界面活性剤との水溶液を用いて造粒し、必要であるならば挽く。顆粒を乾燥させ、所望の大きさに小さくする。任意の他の成分、例えば滑剤を顆粒に添加し、混合する。ついで、従来からのカプセル充填機を使用し、得られた混合物を適切なサイズの殻の固いゼラチンカプセルに充填する。
【0034】
本発明の組成物は、プロテアーゼインヒビター、例えばEDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びベンズアミジン塩酸塩をさらに含んでもよいが、セリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、システインプロテアーゼ及びメタロプロテアーゼのプロテアーゼインヒビターのような他の市販のプロテアーゼインヒビターも使われてもよい。
本発明の製薬組成物の投与は、頬側、経口、心室及び腸管経路投与による、治療を必要とする患者への投与であってもよい。
本発明の組成物は、様々な用量形態、例えば溶液、懸濁液、エマルジョン、マイクロエマルジョン、多重エマルジョン、軟膏、シロップ、ドロップ、ゲル類、錠剤、被覆錠剤、舌下錠、速溶解性頬側錠剤、カプセル、例えば硬質ゼラチンカプセル及び軟質ゼラチンカプセルで投与されてもよい。
本発明の組成物は、さらにインスリン化合物の安定性を強化し、生物学的利用能を増やし、可溶性を増やし、副作用を減少させ、当業者に周知の時間療法を行い、患者の遵守又はこれらのいずれか組合せを増やすために、例えば、共有結合的、疎水性及び静電的な相互作用、薬剤担体、薬物送達システム及び高度な薬物送達システムにより、混合されても接着されてもよい。
「安定化された組成物」なる用語は、物理的安定性が増加、化学的安定性が増加、又は物理的及び化学的安定性が増加した組成物を指す。
【0035】
水性懸濁物は、水性懸濁物の製造に適した賦形剤と混合してインスリンを含みうる。このような賦形剤は、沈澱防止剤、分散剤又は湿潤剤である。また、水性懸濁物は、一又は複数の着色剤、一又は複数の香料、及び一又は複数の甘味料、例えばスクロース又はサッカリンを含有してもよい。
油性懸濁物は、植物性油、例えばラッカセイ油、オリブ油、ゴマ油又はココナツ油、又は鉱物性油、例えば流動パラフィンに活性成分を懸濁させることにより製剤化されうる。油性懸濁物は、増粘剤、例えばミツロウ、固形パラフィン、又はセチルアルコールを含みうる。甘味料、及び香料を添加し、口に合う経口製剤が提供される。製剤は、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸を添加することにより保存されうる。
水の添加による水性懸濁物の調製に適した分散パウダー及び顆粒は、分散剤又は湿潤剤、懸濁剤、及び一又は複数の保存料と活性化合物を混合することにより提供される。付加的な賦形剤、例えば甘味料、香料及び着色剤もまた存在しうる。
【0036】
本発明のインスリンを含有する製薬組成物はまた水中油型エマルションの形態であってもよい。油相は、植物性油又は鉱物性油、又はそれらの混合物でありうる。エマルジョンは適切な乳化剤、甘味料及び香料を含みうる。
シロップ及びエリキシルは、甘味剤、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はスクロースとで処方してもよい。このような組成物は、また、粘滑剤、防腐剤及び香味及び着色剤を含有してもよい。
本発明の更なる態様では、組成物は浸透促進剤を更に含む。一般的に、浸透促進剤は、膜インテグリティを可逆的に変化させることにより、高分子の傍細胞及び経細胞輸送を増加させる。
【0037】
本発明の更なる態様では、組成物は粘膜付着性ポリマーを更に含む。胃腸管の粘膜への薬剤送達系の密接した接触は、粘膜接着ポリマーの使用により得ることができる。膜への投与形態の密着した接触は、送達系と吸着膜との間の経路で、治療的に活性なポリペプチドの酵素的分解が回避可能なため、有利であるように思われる。さらに、受動的な薬剤の取込みのための駆動力を表す吸着膜における段階的濃度勾配を提供することができる。
本発明のさらなる態様では、組成物は、酵素障壁をさらに回避し、治療的に活性なポリペプチドの送達を達成するために、タンパク質分解酵素(群)のインヒビター、例えばアミノペプチダーゼインヒビター、アマスタチン(amastatin)、ベスタチン、ボロロイシン、及びピューロマイシンをさらに含有する。プロテアーゼインヒビターの例は、グリコール酸ナトリウム、メシル酸カモスタット、バシトラシン、ダイズトリプシンインヒビター及びアプロチニンである。
封入及びカプセル化は、酵素分解に対して、保護を含む送達特性を最適にするために、治療的に活性なポリペプチドの薬剤送達系に使用される技術である。封入又はカプセル化は、ポリマー薬剤送達系の形態、例えばハイドロゲル及びナノカプセル/ミクロスフィア、及び脂質薬剤送達系、例えばリポソーム及びマイクロエマルションとすることもできる。
【0038】
この発明の溶液及び組成物が、様々な疾患の治療において用いられてもよい。
一態様では、本発明は、高血糖、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、高血圧、内臓脂肪症候群、異脂肪血症、β-細胞アポトーシス、β-細胞欠乏症、心筋梗塞、炎症性腸症候群、消化不良、認知障害、例えば認識促進、神経防護作用、アテローム性動脈硬化、冠状動脈性心臓病及び他の循環器系障害の治療のための医薬の調製における、本発明の溶液又は組成物の使用に関する。
本発明の別の態様では、本発明による溶液又は組成物は、2型糖尿病の疾患進行を遅延させるか予防するための医薬の調製のために用いられる。
【0039】
本発明は以下の実施例によってさらに説明するが、この実施例は保護範囲を制限するものと解されるものではない。前述の説明及び以下の実施例において開示した特徴は、別々でもいずれかを組み合わせてでも、多様な形態の本発明を理解するための材料である。
【実施例】
【0040】
実施例1 インスリンAspart(登録商標)の16mM以下の溶液の調製
216mgの等電性沈殿Znを含まない[B28-Asp]ヒトインスリン(インスリンAspart(登録商標))を2mlの蒸留水に溶解し、pHを2N水酸化ナトリウム溶液にて7.4に慎重に調整した。混合物をローター攪拌機にて穏やかに撹拌し、終夜立たせておき、16mM以下のインスリンAspart(登録商標)溶液(2700IU/ml以下)を得た。溶液1とする。絶食させたSPRDラットの十二指腸に、蒸留水との比較で溶液を与え(0.4ml/kg、n=2)、血中グルコースの変化を図1に示す。
【0041】
実施例2 60mMのインスリンAspart(登録商標)の粘性溶液の調製
1mgの等電性沈殿Znを含まない[B28-Asp]ヒトインスリン(インスリンAspart(登録商標))を100mlの水に溶解し、pHを2N水酸化ナトリウムにて7.4に調整した。結果として生じた溶液を凍結乾燥した。
720mgの凍結乾燥したインスリンAspart(登録商標)を1.3mlの蒸留水に溶解し、混合物をローター攪拌機にて穏やかに撹拌し、60mMのインスリンAspart(登録商標)の粘性溶液を得た。
【0042】
実施例3 36mMのヒトインスリン溶液の調製
420mgの結晶化したZnを含まないヒトインスリンを1.6mlの蒸留水に溶解し、完全に溶解するまで穏やかに撹拌し続けた。体積は、最終的に水にて2.0mlに調整した。この結果、pH8の36mMのヒトインスリン溶液(6000IU/ml)が得られた。
【0043】
実施例4 亜鉛及びフェノールを含まないインスリンAspart(登録商標)溶液1を用いた、界面活性剤ベースの組成物A−Dの調製
組成物A:3.7mM インスリンaspart(21.5mg/ml)
poloxamer188、poloxamer407及びインスリンaspartの混合物を以下のように調製した。1.065mlのインスリンaspart溶液(15.6mM、実施例1に記載のように調製される)と3.435mlのMQ HOを、38.83mgの粉poloxamer188と58.37mgの粉poloxamer407の混合物に加えた。混合物を回転テーブル上で回転させて混合させたままにした。結果として生じる組成物Aを完全に透明にし、沈降することなく室温で安定であることが示された。
【0044】
組成物B:5mM インスリンaspart(29mg/ml)
poloxamer188、poloxamer407及びインスリンaspartの混合物を以下のように調製した。1mlのインスリンaspart5.35mMを、44.94mgのpoloxamer188及び67.41mgのpoloxamer407の混合粉末に加えた。混合物を回転テーブル上で回転させて混合させたままにした。結果として生じる組成物Bを完全に透明にし、沈降することなく室温で安定であることが示された。
【0045】
組成物C:10.3mM インスリンaspart(59.7mg/ml)
poloxamer188、poloxamer407及びインスリンaspartの混合物を以下のように調製した。0.5mlのインスリンaspart溶液B1及び0.375mlのMQ HOを、76.7mgのpoloxamer188及び114.62mgのpoloxamer407の混合粉末に加えた。混合物を回転テーブル上で回転させて混合させたままにした。結果として生じる溶液組成物Cを完全に透明にし、沈降することなく室温で安定であることが示された。
【0046】
組成物D:18mM インスリンaspart(104.4mg/ml)
poloxamer188、poloxamer407及びインスリンaspartの混合物を以下のように調製した。2mlのインスリンaspart 18mMを、302.4mgのpoloxamer188及び453.6mgのpoloxamer407の混合粉末に加えた。混合物を回転テーブル上で回転させて混合させたままにした。結果として生じる溶液組成物Dを完全に透明にし、沈降することなく室温で安定であることが示された。
【0047】
実施例5 高濃縮の亜鉛及びフェノールを含まないインスリンaspart含有マイクロエマルジョンの調製
先の実施例のいずれを用いて、高濃縮の亜鉛及びフェノールを含まないインスリン含有マイクロエマルジョンを得てもよい。
組成物E:
例として、実施例1に記載内容を基に、中性(pH7.4)の亜鉛及びフェノールを含まない高濃縮のインスリン含有マイクロエマルジョンを調製することができる。14.8mMの原液は、トリエタノールアミンバッファ中の亜鉛及びフェノールを含まないインスリンを溶解させて、NaOHを用いてpHを調整することによって調製した。
高濃縮の亜鉛及びフェノールを含まない中性(pH7.4)のインスリンaspart溶液の組成物と使用についてはいくらか異なるが、Ritschel (W.A. Ritschel Microemulsions for Improved Absorption from the Gastrointestinal Tract. Meth Find Exp Clin Pharmacol 1991, 13: 205-220)]に記載の手順に従って、21.5mg/mlのインスリンaspartを含有するマイクロエマルジョンは、以下を用いて調製した。
1000mgのcetiol V
1647.05mgのlabrasol
2352.95mgのplurol isostearique
1.667mlの85.8mg/ml 亜鉛及びフェノールを含まないインスリンaspart溶液(pH7.4)
インスリンを除くすべての成分を40℃で5分間、その後回転テーブルの上で10分間混合した後、試料を30分間置いた。次いで、亜鉛及びフェノールを含まないインスリンaspartを加え、2分間にわたって手でバイアルをゆっくりと回転及びねじることにより混合した。
【0048】
実施例6 ラットの胃腸管への組成物Aの投与
組成物A、すなわち実施例4によって調製した21.5mg/mlの亜鉛及びフェノールを含まないインスリンaspart(pH7.4)を、糖尿病でないSPRDラットの腸管に直接投与することによって回腸に投与し、血中グルコースを4時間モニターした。結果を図2に示す。
【0049】
実施例7 ラットの胃腸管への組成物Eの投与
組成物E、すなわち実施例5によって調製した21.5mg/mlの亜鉛及びフェノールを含まないインスリンaspart(pH7.4)を、糖尿病でないSPRDラットの腸管に直接投与することによって回腸に投与し、血中グルコースを4時間モニターした。結果を図3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール及び/又はm−クレゾールを含有し、インスリン濃度が12mMを超える水溶液。
【請求項2】
インスリン濃度が20mMを超える、請求項1に記載の水溶液。
【請求項3】
亜鉛を基本的に含まない、請求項1又は2に記載の水溶液。
【請求項4】
フェノール類成分を基本的に含まない、請求項1から3のずれか一に記載の水溶液。
【請求項5】
pHが6.5から9.0の範囲にある、請求項1から4の何れか一に記載の水溶液。
【請求項6】
塩濃度が0.15M未満である、請求項1から5の何れか一に記載の水溶液。
【請求項7】
塩を基本的に含まない、請求項1から6の何れか一に記載の水溶液。
【請求項8】
インスリン、インスリン六量体当たり2未満の亜鉛イオン及び60mM以下のフェノール類成分、場合によって一又は複数の賦形剤を含有する製薬組成物。
【請求項9】
インスリン濃度が12mMを超える、請求項8に記載の製薬組成物。
【請求項10】
インスリン濃度が12mMを超える、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超える水溶性のインスリン溶液を調製する方法であって、
a) インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含むインスリンないしはインスリンの結晶をHOに懸濁又は溶解させる、
b) pHを測定する、
c) pHがpH6.5未満又は9.0を超える場合にはpHをpH6.5から9.0に調整する、そして、
d) 場合によってインスリンを凍結乾燥又は噴霧乾燥させ、その後HOにインスリンを再溶解させ、
インスリン六量体につき2未満の亜鉛イオンを含むインスリンを含有し、インスリン濃度が12mMを超えるか、あるいは15mM、20mM、25mM、30mM又は35mMを超え、pHが6.5から9.0である水溶性インスリン溶液を得る
ことを含む方法。
【請求項11】
高血糖、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、高血圧、内臓脂肪症候群、異脂肪血症、認知障害、アテローム性動脈硬化、心筋梗塞、冠状動脈性心臓病及び他の循環系疾患、アルツハイマー病などのCNS疾患、脳卒中、炎症性腸症候群、胃腸障害及び胃潰瘍からなる群から選択される疾患又は障害の治療方法であって、治療を必要とする被検体に、請求項1から9の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物の有効量を投与することを含む方法。
【請求項12】
医薬として使用するための、請求項1から9の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物。
【請求項13】
高血糖、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、高血圧、内臓脂肪症候群、異脂肪血症、認知障害、アテローム性動脈硬化、心筋梗塞、冠状動脈性心臓病及び他の循環系疾患、アルツハイマー病などのCNS疾患、脳卒中、炎症性腸症候群、胃腸障害及び胃潰瘍の治療又は予防のための医薬の調製のための、請求項1から9の何れか一に記載の水溶液又は製薬組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−525033(P2010−525033A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504743(P2010−504743)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/055341
【国際公開番号】WO2008/132229
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(596113096)ノボ・ノルデイスク・エー/エス (241)
【Fターム(参考)】