説明

高濃縮のタンパク質治療薬を生成するための膜蒸発

本発明は、高濃縮のタンパク質溶液、例えば、抗体溶液、治療用タンパク質溶液などを生成する方法に関する。本発明の方法は、タンパク質を濃縮する、タンパク質溶液からのタンパク質を含まない溶媒の蒸発などの膜蒸発を包含する。本発明の方法は、従来の限外濾過法によりこれまで達成できなかったタンパク質溶液濃度、例えば、溶液1リットル当たりタンパク質約260gを超えるタンパク質溶液濃度をもたらす。
【図1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月24日に出願された米国仮特許出願第61/162,743号からの優先権の利益を主張するものであり、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、高濃縮のタンパク質、例えば、高濃縮の抗体またはタンパク質治療薬を生成する方法に関する。具体的に、本発明は、限外濾過装置内の多孔質膜の透過液側に気体流をあてながら限外濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、高濃縮され、例えば、溶液1リットル当たりタンパク質約260gを超える第二のタンパク質溶液を集めるステップとを含む高濃縮のタンパク質を生成する方法に関する。本発明は、高濃縮のタンパク質を生成する方法において使用するための機器にも関する。
【背景技術】
【0003】
溶液中のタンパク質を濃縮するステップは、タンパク質の製造および精製における最終ステップであることが多く、一般に、生物工学的応用と医薬的応用の双方にとって必要なステップである。しかしながら、タンパク質濃縮の現在利用されている方法は、いくつかの重大な欠点を有する。
【0004】
例えば、溶液を濃縮するための一部の方法には、蒸留プロセス、例えば、浸透蒸留(浸透蒸発としても知られている)または熱蒸留が関わる。熱蒸留において、1つはフィード溶液(溶質含有溶液、例えば、タンパク質含有溶液など)を含有し、もう1つは蒸留物(溶質を含まない溶媒、例えば、タンパク質を含まない溶媒)を含有する、機器の2つのチャンバーは、多孔質疎水性膜により隔てられる。例えば、Godinoら(1996)J.Membr.Sci.121:83〜93;Khaeyetら(2000)J.Membr.Sci.165:261〜72を参照されたい。温度差は、フィード含有チャンバーの温度が蒸留物チャンバーの温度より高くなるように2つのチャンバー間で維持される。チャンバー間の温度差は、蒸気圧差を引き起こし、フィード含有チャンバーから蒸留物チャンバーへの物質移動を促す。気相は、疎水性膜の細孔内にのみ存在する。熱蒸留の大きな欠点は、高温によりタンパク質溶質が損傷することがあるため、大部分のタンパク質溶液を濃縮するのに適していないことである。
【0005】
浸透蒸留には、2つのチャンバー間で温度勾配が維持されないことを除いて、熱蒸留と同様の原理が関わる。例えば、Kunzら(1996)J.Membr.Sci.121:25〜36を参照されたい。疎水性多孔質膜は2つのチャンバーを隔て、2つのチャンバーは異なる溶質濃度を有し、これが物質移動のための駆動力となる。蒸留物チャンバーは、浸透圧差を維持するために、高濃度の溶質、例えば、塩を含有することが多い。しかしながら、この方法において、達成可能なタンパク質濃度は、塩溶液の浸透圧に限定される。さらに、疎水性多孔質膜は、気液界面を生み出し、一部のタンパク質を損傷させることがある。
【0006】
浸透圧差も蒸気圧差も用いないタンパク質濃縮の異なる方法において、タンパク質溶液は、高圧で限外濾過装置にポンプ注入され、タンパク質が保持されながら、溶媒が装置の膜を通って流れるようにする(例えば、図2を参照)。タンパク質含有溶液は、溶媒が透過液中に存在するため保持液タンクへ再循環することができる。溶媒流は、保持液と装置の透過液側との間の加えられる圧力の差、典型的には、約10〜約100psig(重量ポンド毎平方インチゲージ圧)により引き起こされる。膜上流のタンパク質の濃度が十分に高くなると、タンパク質浸透圧は、加えられる圧力勾配と等しくなり、溶媒流は停止する(ゲル点)。この一般に使用される方法の欠点は、このいわゆる「ゲル点」が、この方法で達成可能な濃度を、大部分のタンパク質について1リットル当たり最高で約200グラムに限定することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、既存のタンパク質濃縮法の制限のため、高濃縮のタンパク質溶液、例えば、高濃縮の抗体溶液、高濃縮の治療用タンパク質溶液などを製造する新規な方法が必要である。タンパク質濃度は、現在の範囲、例えば、抗体溶液については約50〜200g/Lを超えて増加し、したがって、貯蔵体積を減少させる。言い換えると、冷凍庫体積要件も減少する。除去しなければならない水の体積の最高でおよそ30%、またはそれを超える減少があるため、凍結乾燥に必要とされる時間および空間は減少する。高濃縮のタンパク質溶液は、溶液の浸透圧を増加させ、それによって、細菌増殖を防ぐはずであり、タンパク質溶液の粘度を増加させ、それによって、患者における治療用タンパク質の滞留時間を増加させ、投与後の薬物利用能を増加させるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高濃縮のタンパク質溶液、例えば、高濃縮のタンパク質治療薬および高濃縮の抗体溶液を生成するための方法を提供する。本発明の方法には、タンパク質溶液の濃縮につながる、タンパク質溶液からのタンパク質を含まない溶媒の蒸発などの膜蒸発が関わる。本発明の方法は、従来の限外濾過法によりこれまで達成できなかったタンパク質溶液濃度、例えば、溶液1リットル当たりタンパク質約260グラムを超えるタンパク質溶液濃度をもたらす。本発明は、本発明の方法により製造される高濃縮のタンパク質溶液、ならびに高濃縮のタンパク質溶液を調製するための機器も提供する。
【0009】
本発明の方法は、いくつかの実施形態を包含することができる。本発明の少なくとも1つの実施形態は、機器において高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法であって、透過液側を持つ多孔質膜を含む限外濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、多孔質膜の透過液側に気体流をあてるステップと、高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を集めるステップとを含む方法を提供する。本発明の方法において使用される限外濾過装置は、任意のタイプ、例えば、中空繊維装置、プレート&フレーム(plate and frame)装置、螺旋型(spiral wound)装置、および撹拌セル装置であってよい。一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液を循環させるステップは、第二のタンパク質溶液を集めるステップの前に繰り返される。一部の実施形態において、機器外部の温度は、約2℃〜約60℃、例えば、約20℃〜約45℃である。
【0010】
本発明の一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液は、抗体溶液、例えば、モノクローナル抗体溶液である。一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液は、治療用タンパク質溶液である。
【0011】
本発明の方法により製造される高濃縮のタンパク質溶液は、非限定的な例として、少なくとも約200g/Lのタンパク質、少なくとも約260g/Lのタンパク質、少なくとも約300g/Lのタンパク質、少なくとも約350g/Lのタンパク質、約460g/L以上のタンパク質、または任意の中間値を含むことができる。
【0012】
本発明の一部の実施形態において、方法は、高濃縮のタンパク質溶液中の高分子量(HMW)種の形成の、約30%未満の増加、例えば、約25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満の増加をもたらす。本発明の一部の実施形態において、方法は、高濃縮のタンパク質溶液中の低分子量(LMW)種の形成の、約30%未満の増加、例えば、約25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満の増加をもたらす。
【0013】
一部の実施形態において、本発明の方法は、1つまたは複数の従来の限外濾過法を使用して濃縮されたタンパク質溶液を生成する第一ステップをさらに含むことができる。
【0014】
本発明の一部の実施形態において、気体流は、空気流である。さらなる実施形態において、空気流は、真空により作られる。一部の実施形態において、空気流は、約100psig以下の圧力にて供給される。一部の実施形態において、空気流は、約1〜2psigの圧力にて供給される。一部の実施形態において、多孔質膜は、親水性膜であり、これらの実施形態の一部において、多孔質膜の透過液側へ気体流をあてるステップは、第一のタンパク質溶液の水性緩衝液を多孔質膜中に吸収させ、多孔質膜外部に蒸発させる。一部の他の実施形態において、多孔質膜は、疎水性膜である。
【0015】
本発明の他の実施形態は、高濃縮のタンパク質溶液を調製するための機器であって、保持液タンクと、2つの端部を持ち、その1つの端部が保持液タンクに接続されており、透過液側を持つ多孔質膜を含む限外濾過装置と、限外濾過装置中の水性緩衝液を多孔質膜外部に蒸発させる気体流(例えば、空気流、例えば、真空により作られる空気流)を、多孔質膜の透過液側にあてるための装置と、限外濾過装置の反対の端部にある出口とを含む機器を提供する。
【0016】
本発明の機器の一部の実施形態において、空気流は、約100psig以下の圧力にて供給される。一部の実施形態において、空気流は、約1〜2psigの圧力にて供給される。一部の実施形態において、限外濾過装置の反対の端にある出口は、保持液タンクに接続され、溶液をもとの保持液タンクに戻す。一部の実施形態において、多孔質膜は、親水性膜であり、一部の他の実施形態において、多孔質膜は、疎水性膜である。
【0017】
本発明は、本発明の方法により製造される高濃縮のタンパク質溶液も提供する。一部の実施形態において、タンパク質溶液は、抗体溶液、例えば、モノクローナル抗体溶液である。一部の実施形態において、タンパク質溶液は、治療用タンパク質溶液である。一部の実施形態において、本発明は、本発明の高濃縮のタンパク質溶液および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物を提供する。
【0018】
本発明は、高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法であって、保持液タンク中に第一のタンパク質溶液を充填するステップと、第一のタンパク質溶液を保持液タンクから、透過液側を持つ多孔質膜を含む限外濾過装置中に流入させるステップと、限外濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、多孔質膜の透過液側へ気体流をあてるステップと、高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を集めるステップとを含む方法をさらに提供する。
【0019】
本発明の方法において使用される限外濾過装置は、任意のタイプ、例えば、中空繊維装置、プレート&フレーム装置、螺旋型装置、および撹拌セル装置であってよい。一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液を循環させるステップは、第二のタンパク質溶液を集めるステップの前に繰り返される。一部の実施形態において、機器外部の温度は、約2℃〜約60℃、例えば、約20℃〜約45℃である。本発明の一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液は、抗体溶液、例えば、モノクローナル抗体溶液であり、一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液は、治療用タンパク質溶液である。本発明の方法により製造される高濃縮のタンパク質溶液は、非限定的な例として、少なくとも約200g/Lのタンパク質、少なくとも約260g/Lのタンパク質、少なくとも約300g/Lのタンパク質、少なくとも約350g/Lのタンパク質、約460g/L以上のタンパク質、または任意の中間値を含むことができる。本発明の一部の実施形態において、方法は、高濃縮のタンパク質溶液中のHMWおよび/またはLMW種の形成の、約30%未満の増加、例えば、約5%未満の増加、例えば、約4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満の増加をもたらす。
【0020】
一部の実施形態において、本発明の方法は、1つまたは複数の従来の限外濾過法を使用して濃縮されたタンパク質溶液を生成する第一ステップをさらに含むことができる。本発明の一部の実施形態において、気体流は、空気流である。さらなる実施形態において、空気流は、真空により作られる。一部の実施形態において、空気流は、約100psig以下の圧力にて供給され、一部の実施形態において、空気流は、約1〜2psigの圧力にて供給される。一部の実施形態において、多孔質膜は、親水性膜であり、これらの実施形態の一部において、多孔質膜の透過液側に気体流をあてるステップは、第一のタンパク質溶液の水性緩衝液を多孔質膜中に吸収させ、多孔質膜外部に蒸発させる。一部の他の実施形態において、多孔質膜は、疎水性膜である。
【図面の簡単な説明】
【0021】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器において高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法であって、
(a)透過液側を持つ多孔質膜を含む限外濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、
(b)多孔質膜の透過液側に気体流をあてるステップと、
(c)高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を集めるステップとを含む方法。
【請求項2】
限外濾過装置が、中空繊維装置である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
限外濾過装置が、プレート&フレーム装置である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
限外濾過装置が、螺旋型装置である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
限外濾過装置が、撹拌セル装置である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第一のタンパク質溶液を循環させるステップが、第二のタンパク質溶液を集めるステップの前に繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記機器外部の温度が、約2℃〜約60℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記機器外部の温度が、約20℃〜約45℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第一のタンパク質溶液が、抗体溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗体溶液が、モノクローナル抗体溶液である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第一のタンパク質溶液が、治療用タンパク質溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
高濃縮のタンパク質溶液が、少なくとも約200g/Lのタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
高濃縮のタンパク質溶液が、少なくとも約260g/Lのタンパク質を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
高濃縮のタンパク質溶液が、少なくとも約350g/Lのタンパク質を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
高濃縮のタンパク質溶液が、約460g/Lのタンパク質を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
高濃縮のタンパク質溶液における高分子量(HMW)種の形成の約5%未満の増加をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
高濃縮のタンパク質溶液におけるHMW種の形成の約2.2%未満の増加をもたらす、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
高濃縮のタンパク質溶液における低分子量(LMW)種の形成の約5%未満の増加をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
高濃縮のタンパク質溶液におけるLMW種の形成の約2.2%未満の増加をもたらす、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
従来の限外濾過法を使用して濃縮されたタンパク質溶液を生成する第一ステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
気体流が、空気流である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
空気流が、真空により作られる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
高濃縮のタンパク質溶液を調製するための機器であって、
(a)保持液タンクと、
(b)2つの端部を持ち、その1つの端部が前記保持液タンクに接続されており、透過液側を持つ多孔質膜を含む限外濾過装置と、
(c)限外濾過装置中の水性緩衝液を多孔質膜外部に蒸発させる気体流を、多孔質膜の透過液側にあてるための装置と、
(d)限外濾過装置の反対の端部にある出口とを含む機器。
【請求項24】
気体流が、空気流である、請求項23に記載の機器。
【請求項25】
空気流が、真空により作られる、請求項24に記載の機器。
【請求項26】
空気流が、約100psig以下の圧力にて供給される、請求項24に記載の機器。
【請求項27】
空気流が、約1〜2psigの圧力にて供給される、請求項26に記載の機器。
【請求項28】
限外濾過装置の反対の端部にある出口が、保持液タンクに接続されていて、溶液を保持液タンクに戻す、請求項23に記載の機器。
【請求項29】
多孔質膜が、親水性膜である、請求項23に記載の機器。
【請求項30】
多孔質膜が、疎水性膜である、請求項23に記載の機器。
【請求項31】
請求項1に記載の方法により製造される高濃縮のタンパク質溶液。
【請求項32】
タンパク質溶液が、抗体溶液である、請求項31に記載の高濃縮のタンパク質溶液。
【請求項33】
抗体が、モノクローナル抗体である、請求項32に記載の抗体溶液。
【請求項34】
タンパク質溶液が、治療用タンパク質溶液である、請求項31に記載の高濃縮のタンパク質溶液。
【請求項35】
請求項34に記載の高濃縮のタンパク質溶液および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項36】
機器において高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法であって、
(a)保持液タンク中に第一のタンパク質溶液を充填するステップと、
(b)第一のタンパク質溶液を保持液タンクから、透過液側を持つ多孔質膜を含む限外濾過装置中に流入させるステップと、
(c)限外濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、
(d)多孔質膜の透過液側に気体流をあてるステップと、
(e)高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を集めるステップとを含む方法。
【請求項37】
気体流が、空気流である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
空気流が、真空により作られる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
多孔質膜が、親水性膜である、請求項1または請求項36に記載の方法。
【請求項40】
多孔質膜の透過液側に気体流をあてるステップが、第一のタンパク質溶液の水性緩衝液を多孔質膜中に吸収させ、多孔質膜外部に蒸発させる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
多孔質膜が、疎水性膜である、請求項1または請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記機器外部の温度が、約2℃〜約60℃である、請求項36に記載の方法。
【請求項43】
前記機器外部の温度が、約20℃〜約45℃である、請求項42に記載の方法。

【図1】本発明の例示的な機器を表す図である。
【図2】従来の限外濾過(UF)手順を行うための機器を表す図である。
【図3】中空繊維限外濾過装置(白菱形)か撹拌セル限外濾過装置(白三角)のどちらかを使用して濃縮されたタンパク質溶液中の増加するタンパク質濃度(X軸;(g/L))によるタンパク質溶液の粘度(Y軸;[cP])の増加を表す図である。
【図4】親水性UF膜を使用する限外濾過(UF)膜蒸発技法(図4A)と疎水性微多孔質膜を使用する疎水性膜蒸発技法(図4B)の間のスキーム比較である図である。
【図5】撹拌セル限外濾過装置を使用して濃縮されたタンパク質溶液中の増加するタンパク質濃度(X軸;(g/L))によるFc融合タンパク質溶液の粘度(Y軸;[cP])の増加を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、高濃縮のタンパク質溶液、例えば、治療用タンパク質溶液、抗体溶液などを生成するための方法に関する。より具体的に、本発明の方法は、例えば、中空繊維装置、プレート&フレーム装置、螺旋型装置、および撹拌セル装置などであり、多孔質膜を含む限外濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、多孔質膜の透過液側へ1つまたは複数の気体流、例えば、空気流をあてるステップと、高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を機器から集めるステップとを包含することができる。本発明は、高濃縮のタンパク質溶液を生成するための機器、本発明の方法により製造されるタンパク質溶液、および高濃縮のタンパク質溶液を含む医薬組成物も提供する。
【0023】
タンパク質溶液
本発明において使用される溶液は、タンパク質溶液を包含することができる。本明細書で使用されているように、および当技術分野において一般的に理解されているように、「タンパク質」および「対象とするタンパク質」という用語は、連続するペプチド結合を介して連結しているアミノ酸の少なくとも1つの鎖を指し、一般的に、「ポリペプチド」または「対象とするポリペプチド」と同義である。ある種の実施形態において、本発明のタンパク質は、外因性DNA配列(すなわち、タンパク質を産生する細胞に対して外因性の)によりコードされてもよい。この配列は、天然に存在する配列であってよく、または代替として、ヒトにより操作された配列であってよい。代替として、本発明のタンパク質は、内因性DNA配列によりコードされていてもよい。
【0024】
本発明の方法を使用し、医薬的特性、診断的特性、農業的特性、ならびに/または商業的応用、実験的応用、および/もしくは他の応用に有用である様々な他の特性のうちのいずれかを有するタンパク質を包含するがそれらに限定されない対象とする任意のタンパク質の溶液を濃縮することができる。さらに、対象とするタンパク質は、タンパク質治療薬であってよい。「タンパク質治療薬」(または「治療用タンパク質」)とは、例えば、体内、または直接作用する体内の領域、または中間体を介して遠隔作用する体の領域などにおいて生物学的効果を有するタンパク質である。ある種の実施形態において、本発明の方法を使用して濃縮されるタンパク質は、治療用タンパク質として対象へ投与される前に処理および/または改変することができる。
【0025】
本発明を使用し、薬学的または商業的に関連する酵素、受容体、受容体融合物、可溶性受容体、可溶性受容体融合物、抗体(例えば、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体)、抗体の抗原結合性断片、Fc融合タンパク質、SMIP、サイトカイン、ホルモン、調節因子、成長因子、凝固(coagulation)/凝固(clotting)因子、および抗原結合剤などの任意の治療用タンパク質を濃縮することができる。上記のタンパク質のリストは、単に、天然における例示であり、限定する引用であることは意図されていない。当業者は、本発明に従って濃縮することができる他のタンパク質(または、タンパク質様分子)について知っているはずであり、本明細書に開示されている方法を使用してそのようなタンパク質などを濃縮することができるはずである。
【0026】
本発明のある種の実施形態において、タンパク質溶液中の濃縮されることになるタンパク質は、抗体である。抗体という用語は、少なくとも1つ、典型的には、2つのVHドメインもしくはそれらの部分、および/または少なくとも1つ、典型的には、2つのVLドメインもしくはそれらの部分を含むタンパク質を包含する。ある種の実施形態において、抗体は、2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖の四量体であり、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖は、例えば、ジスルフィド結合により相互接続されている。抗体、またはそれらの部分は、齧歯類、霊長類(例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類)、ラクダ科動物、サメに加えて、組換えにより製造されたもの、例えば、キメラ、ヒト化されたもの、および/または、例えば当業者によく知られている方法によりインビトロで生成されたものを包含するがそれらに限定されない任意の起源から得ることができる。
【0027】
本発明は、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価断片であるFag断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結されている2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一の腕のVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片、(vi)ラクダ化動物またはラクダ化可変ドメイン、例えば、VHHドメイン、(vii)単鎖Fv(scFv)、(viii)二重特異性抗体、および(ix)Fc領域と融合している免疫グロブリンの1つまたは複数の抗原結合性断片を包含するがそれらに限定されない「抗体の抗原結合性断片」も包含する。さらに、Fv断片の2つのドメインVLおよびVHは、別々の遺伝子によりコードされるが、それらは、組換え法を使用し、VLおよびVH領域が対になって一価の分子(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242:423〜26;Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:5879〜83を参照されたい)を形成する単一タンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする合成リンカーにより結び付けることができる。そのような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合性断片」という用語に包含されることが意図されている。これらの抗原断片は、当業者に知られている従来の技法を使用して得られ、断片は、インタクトな抗体と同じように機能について評価される。
【0028】
本発明は、単一ドメイン抗体も包含する。単一ドメイン抗体は、その相補性決定領域が単一ドメインポリペプチドの一部である抗体を包含することができる。例は、重鎖抗体、天然で軽鎖を欠く抗体、従来の四本鎖抗体から誘導される単一ドメイン抗体、操作抗体および抗体から誘導されるもの以外の単一ドメイン骨格を包含するが、それらに限定されるものではない。単一ドメイン抗体は、当技術分野のいずれかであるか、任意の次世代単一ドメイン抗体であってよい。単一ドメイン抗体は、マウス、ヒト、ラクダ、ラマ、ヤギ、ウサギ、ウシおよびサメを包含するがそれらに限定されない任意の種から誘導することができる。本発明の一態様によれば、本明細書で使用されているような単一ドメイン抗体は、軽鎖を欠く重鎖抗体として知られている天然に存在する単一ドメイン抗体である。そのような単一ドメイン抗体は、例えば、WO94/004678に開示されている。明確さの理由で、天然で軽鎖を欠く重鎖抗体から誘導されるこの可変ドメインは、本明細書でVHHまたはナノ抗体として知られ、四本鎖免疫グロブリンの従来のVHと区別する。そのようなVHH分子は、ラクダ科(Camelidae)の種、例えば、ラクダ、ラマ、ヒトコブラクダ、アルパカおよびグアナコにおいて惹起される抗体から誘導することができる。ラクダ科に加えて他の種は、天然で軽鎖を欠く重鎖抗体を産生することができ、そのようなVHHは、本発明の範囲内にある。単一ドメイン抗体は、サメIgNARも包含し、例えば、Dooleyら(2006)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.103:1846〜51を参照されたい。
【0029】
「二重特異性」または「二機能性」抗体以外、抗体は、同一なその結合部位の各々を有することが理解される。「二重特異性」または「二機能性抗体」は、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を包含する様々な方法によって製造することができる(例えば、SongsivilaiおよびLachmann(1990)Clin.Exp.Immunol.79:315〜21;Kostelnyら(1992)J.Immunol.148:1547〜53を参照)。
【0030】
タンパク質が、抗体またはその断片である実施形態において、タンパク質は、少なくとも1つ、または2つの完全長重鎖、および少なくとも1つ、または2つの軽鎖を包含することができる。代替として、抗体またはそれらの断片は、抗原結合性断片(例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、または単鎖Fv断片)のみを包含することができる。抗体またはその断片は、モノクローナル抗体または単一特異性抗体であってよい。抗体またはその断片は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、CDR移植(CDR−grafted)抗体、またはインビトロで生成された抗体であってもよい。さらに他の実施形態において、抗体は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4から選択される重鎖定常領域を有する。別の実施形態において、抗体は、例えば、κまたはλから選択される軽鎖を有する。少なくとも1つの実施形態において、定常領域は、抗体の特性を改変するために(例えば、Fc受容体結合、抗体グリコシル化、システイン残基数、エフェクター細胞機能、または補体機能のうちの1つまたは複数を増加または低減するために)変化、例えば、変異される。一部の実施形態において、抗体またはその断片は、所定の抗原、例えば、障害、例えば、神経変性、代謝性、炎症性、自己免疫性および/または悪性の障害に関係する抗原と特異的に結合する。
【0031】
本明細書に記載されているタンパク質は、例えば、安定性、エフェクター細胞機能または補体固定のうちの1つまたは複数を強化する部分を場合によりさらに包含する。例えば、抗体または抗原結合性タンパク質は、ペグ化部分、アルブミン、または重鎖および/または軽鎖定常領域をさらに包含することができる。
【0032】
抗体は、一般的に、例えば、伝統的なハイブリドーマ技法(例えば、Kohlerら(1975)Nature 256:495〜99)、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号)、または抗体ライブラリーを使用するファージディスプレイ技法(例えば、Clacksonら(1991)Nature 352:624〜28;Marksら(1991)J.Mol.Biol.222:581〜97)を介して作製される。本発明の方法を使用して濃縮されることになる抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であってよい。モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を製造する方法は、当技術分野において知られている。様々な他の抗体製造技法については、例えば、Antibodies:A Laboratory Manual(1988)Harlowら編、Cold Spring Harbor Laboratoryを参照されたい。
【0033】
さらに、抗体は、検出可能か機能性の標識でタグ付けすることができる。これらの標識は、放射性標識(例えば、131Iまたは99Tc)、酵素標識(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)、および他の化学的部分(例えば、ビオチン)を包含する。
【0034】
「Small Modular Immunopharmaceutical」すなわちSMIP(商標)薬(Trubion Pharmaceuticals、Seattle、WA)は、抗原、対抗受容体などの同種構造のための結合ドメイン、1つのシステイン残基を有するかシステイン残基を有さないかのどちらかであるヒンジ領域ポリペプチド、ならびに免疫グロブリンのCH2ドメインおよびCH3ドメインからなる単鎖ポリペプチドである(trubion.comも参照)。SMIPならびにそれらの用途および応用は、例えば、米国公開特許出願第2007/002159号、第2003/0118592号、第2003/0133939号、第2004/0058445号、第2005/0136049号、第2005/0175614号、第2005/0180970号、第2005/0186216号、第2005/0202012号、第2005/0202023号、第2005/0202028号、第2005/0202534号、および第2005/0238646号、ならびにそれらの関連する特許ファミリーメンバーに開示されており、それらのすべては、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0035】
本発明の高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法の対象とされるタンパク質溶液、例えば、第一のタンパク質溶液は、内因的または外因的に発現されるタンパク質、例えば、外因的に産生される組換えタンパク質の精製の結果として得ることができる。当業者は、特定のタンパク質の産生にとって最適である細胞および細胞培養法を知っているはずである。
【0036】
代替として、高濃縮のタンパク質溶液を生成するために使用されるタンパク質溶液のタンパク質は、化学的タンパク質合成により得ることができる。化学的合成のための技法、例えば、Applied Biosystems,Inc.(Foster City、CA)製のものなどの市販されている自動ペプチド合成装置は、一般的に、当技術分野において知られている。
【0037】
細胞培養法を使用して産生される対象とするタンパク質については、細胞培養の終了時に、タンパク質を集めて精製し、第一のタンパク質溶液、すなわち、本発明の高濃縮のタンパク質溶液を生成するための本発明の方法に供されるタンパク質溶液を得ることができる。タンパク質の可溶性形態は、馴化培地から精製することができる。タンパク質の可溶性形態の例は、サイトカイン、可溶性受容体融合タンパク質、抗体などを包含する。ポリペプチドの膜結合形態は、発現細胞から全膜画分を調製し、TRITON(登録商標)X−100(EMD Biosciences、San Diego、CA)などの非イオン性洗剤で膜を抽出することにより精製することができる。サイトゾルタンパク質または核タンパク質は、宿主細胞を溶解し(機械力、パールボンベ、超音波処理、洗剤などを介して)、遠心分離により細胞膜画分を除去し、上清を保持することにより調製することができる。
【0038】
ポリペプチドは、当業者に知られている他の方法を使用して精製することができる。例えば、開示方法により製造されるポリペプチドは、市販されているタンパク質濃縮フィルター、例えば、AMICON(登録商標)またはPELLICON(登録商標)限外濾過ユニット(Millipore、Billerica、MA)を使用して濃縮することができる。濃縮ステップの後、濃縮物は、ゲル濾過培地などの精製マトリクスに適用することができる。代替として、陰イオン交換樹脂(例えば、MonoQカラム、Amersham Biosciences、Piscataway、NJ)を用いることができ、そのような樹脂は、ペンダント型のジメチルアミノエチル(DEAE)基またはポリエチレンイミン(PEI)基を有するマトリクスまたは基材を含有する。精製のために使用されるマトリクスは、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロースまたはタンパク質精製において一般に用いられる他のタイプであってよい。代替として、陽イオン交換ステップをタンパク質の精製のために使用することができる。適当な陽イオン交換体は、スルホプロピル基またはカルボキシメチル基を含む様々な可溶性マトリクス(例えば、S−SEPHAROSE(登録商標)カラム、Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)を包含する。
【0039】
培養上清からのポリペプチドの精製は、コンカナバリンA−アガロース、AF−HEPARIN650、ヘパリン−TOYOPEARL(登録商標)もしくはCibacronブルー3GA SEPHAROSE(登録商標)(Tosoh Biosciences、San Francisco、CA);フェニルエーテル、ブチルエーテル、もしくはプロピルエーテルなどの樹脂を使用する疎水性相互作用クロマトグラフィーカラム;または標識タンパク質に対する抗体を使用する免疫親和性カラムなどの、親和性樹脂上の1つまたは複数のカラムステップも包含することができる。最後に、疎水性HPLC媒体、例えば、ペンダント型のメチル基または他の脂肪族基を有するシリカゲル(例えば、Ni−NTAカラム)を用いる1つまたは複数のHPLCステップを用い、タンパク質をさらに精製することができる。代替として、ポリペプチドは、精製を容易にする形態で組換えにより発現させることができる。例えば、ポリペプチドは、マルトース結合性タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、またはチオレドキシン(TRX)などのタンパク質との融合物として発現させることができ、そのような融合タンパク質の発現および精製のためのキットは、それぞれNew England BioLabs(Beverly、MA)、Pharmacia(Piscataway、NJ)、およびInvitrogen(Carlsbad、CA)から市販されている。タンパク質も、小さなエピトープ(例えば、His、mycまたはFlagタグ)でタグ付けし、続いて、選択されたエピトープに対する特異抗体を使用して同定または精製することができる。共通エピトープに対する抗体は、多数の商業ソースから入手可能である。
【0040】
高濃縮のタンパク質溶液を生成する際に使用されるタンパク質溶液が抗体溶液である本発明の実施形態において、溶液は、例えば、抗体精製のための従来の方法(Protein A Chromatography、Protein G Chromatographyなど)を使用し、例えば、動物血清、ハイブリドーマ細胞培養上清、腹水などから抗体を精製することにより得られてきた。抗体精製のための方法は、Antibodies:A Laboratory Manual(1988)Harlowら編、Cold Spring Harbor Laboratoryにさらに記載されている。
【0041】
高濃縮のタンパク質溶液を生成するために使用されるタンパク質溶液中の水性緩衝液は、上の精製ステップのいずれかからの最終溶出緩衝液であってよい。代替として、上の精製ステップのいずれかからの最終溶出緩衝液は、例えば、緩衝液交換により、任意の適当な緩衝液、例えば、12mMヒスチジン、pH5.9に置き換えることができる。当業者は、どの方法を使用してタンパク質溶液の緩衝液交換を行うことができるかを知っているはずである。
【0042】
他の知られている方法の有無に関わらず、様々な組合せにおける上記の精製ステップの一部またはすべてを用い、本発明の高濃縮のタンパク質溶液の生成前に、対象とするタンパク質を精製し、第一のタンパク質溶液を生成することができる。
【0043】
高濃縮のタンパク質溶液を生成するための機器
一部の実施形態において、本発明の機器は、保持液タンクと、限外濾過装置の1つの端部が保持液タンクに接続されている限外濾過装置と、限外濾過装置の第二の端部にある出口とを含むことができる。一部の実施形態において、出口は、もとの保持液タンクに戻る。
【0044】
本明細書で使用されているように、「保持液」とは、機器により実質的に保持されているサンプルまたは溶液の部分(濃縮物と呼ばれることがある)を意味し、言い換えれば、保持液は、膜の上流側に留まっているサンプルまたは溶液の部分である。したがって、「保持液タンク」とは、機器により実質的に保持されているサンプルの部分を含有するタンクを指す。当業者によく知られているように、保持液タンクは、システム作動前および/またはシステム作動中に、例えば、ベントポートを通して、フィードタンクに接続されていてもよい。
【0045】
本発明の例示的な機器は、図1に示されている。少なくとも1つの実施形態において、本発明の高濃縮のタンパク質溶液を生成するための機器は、濃縮されることになるタンパク質溶液、すなわち、第一のタンパク質溶液を充填するための保持液タンクを含む。保持液タンクは、円錐底のスチール製タンク、Teflonライニングされたタンク、またはMillipore(Billerica、MA)、Hyclone(Novato、CA)、もしくはSartorius AG(Goettingen、Germany)のような製造者からの使い捨て袋などの当業者に知られている任意のタイプであってよい。
【0046】
保持液タンク中に充填される第一のタンパク質溶液は、例えば、上に記載されている任意の精製ステップの最終溶出液などの、水性緩衝液、または任意の他の適当な緩衝液中のタンパク質であってよい。
【0047】
機器の保持液タンクは、限外濾過装置に接続することができる。本発明の少なくとも1つの実施形態において、限外濾過装置は、第一のタンパク質溶液がもとの保持タンクに戻ることができるように、ループ状に保持液タンクに接続される。本発明のこの設定は、場合により、機器全体にわたる溶液の連続的な再循環を可能にする。
【0048】
限外濾過装置は、中空繊維装置、プレート&フレームの設計または装置、撹拌セル、螺旋型装置などであるがそれらに限定されない、当業者に知られている任意のタイプであってよい。中空繊維装置は、チューブシートを形成するエポキシまたは類似の材料中の端に植えられた繊維の束からなる。中空繊維装置は、チューブ側へのフィード流により作動させ、濾液流は、シェル側へ半径方向に移動する。プレート&フレーム装置は、支持プレート間に積み重ねられた平面シート膜からなる。撹拌セル装置は、剪断およびタンパク質混合が、典型的には、撹拌子または羽根車を使用し、膜に直接隣接した溶液を急速に撹拌することにより達成される容器からなる。螺旋型装置は、中央の濾液収集チューブの周りに巻かれている、多孔質メッシュの濾液およびフィードスペーサーにより上流側および下流側に結合されている平面シート膜の対を使用する。
【0049】
ある種の実施形態において、限外濾過装置は、多孔質膜、例えば、中空繊維多孔質膜を含む中空繊維装置である。本発明の少なくとも1つの実施形態において、膜は、親水性膜、例えば、30kDaポリスルホン中空繊維カートリッジ(GE Healthcare、Westborough、MA)などの中空繊維多孔質膜である。したがって、多孔質膜は、毛細管作用(すなわち、ウィッキング(wicking)力)による膜細孔中へのタンパク質を含まない溶媒(例えば、水性緩衝液)の吸収を可能にする。
【0050】
本発明の他の実施形態において、膜は、疎水性微多孔質Durapore PVDF膜(Amicon8019、Billerica、MA)などの疎水性膜である。そのような実施形態において、限外濾過装置中の溶媒は、液体形態である間は細孔に入る(細孔中に吸収する)ことはなく、むしろ、溶媒は、気体の形態で細孔に入る。膜の疎水性は、タンパク質が膜細孔に入るのを妨げる。
【0051】
多孔質膜は、特定のサイズの細孔を含有することができる。当業者は、特定の応用に適している膜の細孔サイズを決定することができる。一部の実施形態において、多孔質膜の細孔のサイズは、タンパク質溶液、例えば、第一のタンパク質溶液の水性緩衝液を膜中に吸収することができ、一方、タンパク質が限外濾過装置の内部に保持されるように選択される。
【0052】
さらに、機器は、図1に示されているように、膜の透過液側、すなわち、膜の下流に気体流(例えば、空気、窒素、乾燥蒸気など)をあてるための装置を含む。膜の透過液側は、タンパク質を含まない緩衝液が、第一のタンパク質溶液から除去される、例えば、第一のタンパク質溶液から蒸発することを可能にする膜の側である。膜の透過液側にあてられる気体流は、例えば、圧縮機、圧縮空気タンク、送風機、空気/気体を熱して流れを生成する装置、真空ポンプなどを使用して生成することができる。少なくとも1つの実施形態において、気体流は、中空繊維多孔質膜の透過液側全体にあてられる。
【0053】
本発明の方法は、膜の透過液側にあてられる気体流が空気流である実施形態を包含することができる。空気流は、圧縮機、圧縮空気タンク、送風機、空気を熱して流れを生成する装置、および/または真空ポンプなどであるがそれらに限定されない、当業者に知られている空気流を生成する任意の装置、方法、または方途によりあてるかつ/または作り出すことができる。少なくとも1つの実施形態において、空気流は、1〜2psigの入口圧力で周囲(室内(house))空気を吹き込むことにより作られるが、フィルター装置により許容される限界まで、例えば、約100psigまでの圧力を使用することができる。さらに、機器は、機器を通してタンパク質溶液をポンプ注入するフィードポンプに接続することができる。
【0054】
本発明の機器は、場合により、図2に描かれているものなどの従来の限外濾過法から本発明の1つまたは複数の方法、すなわち、蒸発駆動法に動作モードを切り替えるための装置または方途を含むことができる。したがって、本発明の一部の実施形態において、機器は、透過液流束がゼロに近づくまで従来の限外濾過モードで動作させることができる。この点は、ゲル点と呼ばれることが多い。その時点で、機器は、本発明の1つまたは複数の方法に切り替えることができる。代替として、第一の機器を使用し、従来の限外濾過モードでタンパク質を濃縮することができ、次いで、流体を、本発明の1つまたは複数の方法に基づいてタンパク質を濃縮するために使用される第二の機器に移すことができる。
【0055】
当業者は、本明細書における本発明の機器の一般的な説明に基づき、機器に行うことができる他の可能な改変に気づいているはずである。機器に対するそのような改変は、本発明により包含される。
【0056】
高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法
本発明の少なくとも1つの実施形態において、高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法は、多孔質膜を含む限外濾過装置などの濾過装置中に第一のタンパク質溶液を循環させるステップと、多孔質膜の透過液側、すなわち、限外濾過装置中の膜の下流側に1つまたは複数の気体流、例えば、空気流をあてるステップと、高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を機器から集めるステップとを包含する。
【0057】
別の実施形態において、方法は、保持液タンク中に第一のタンパク質溶液を充填するステップと、第一のタンパク質溶液を保持液タンクから多孔質膜を含む限外濾過装置中に流入させるステップと、限外濾過装置で第一のタンパク質溶液を濾過するステップと、多孔質膜の透過液側、すなわち、限外濾過装置中の膜の下流側に気体流、例えば、空気流をあてるステップと、高濃縮のタンパク質溶液である第二のタンパク質溶液を機器から集めるステップとを含む。
【0058】
第一のタンパク質溶液を保持液タンクから限外濾過装置に流入させるステップは、例えば、保持液タンクと限外濾過装置の間の弁を開くこと、および第一のタンパク質溶液が、ある流速で限外濾過装置に流入することを可能にするまたは強制することを含むことができる。少なくとも1つの実施形態において、第一のタンパク質溶液を保持液タンクから限外濾過装置に流入させるステップは、保持液タンクと限外濾過装置の間に位置する蠕動ポンプ(例えば、フィードポンプ)を作動させることを含む。流速、例えば、蠕動ポンプの速度は、1時間につき膜面積1平方メートル当たり約1〜約10,000リットルであってよい。
【0059】
本発明の方法は、タンパク質溶液が、高圧で限外濾過装置中にポンプ注入される実施形態を包含することができる。少なくとも1つの実施形態において、限外濾過装置は、多孔質膜が、第一のタンパク質溶液からタンパク質を含まない溶媒(例えば、水性緩衝液)を吸収するように、多孔質膜、例えば、中空繊維多孔質膜を含む。本発明の方法は、タンパク質を含まない溶媒が、膜の保持液側(すなわち、膜の内側すなわち上流側)を加圧することにより作ることができる力より典型的には高い毛細管力(または、ウィッキング力)により膜中に吸収される実施形態を包含することができる。気体流(例えば、空気流)への膜の透過液側の曝露は、吸収されたタンパク質を含まない溶媒を空気中へ蒸発させ、溶媒のそのような緩やかな蒸発および除去は、タンパク質溶液を濃縮し、一方、膜は、タンパク質を損傷させる可能性のあることが知られている空気界面にタンパク質が曝露されることを防ぐ。膜の下流側、すなわち、膜の透過液側全体に流れる空気は、膜からのタンパク質を含まない溶媒のより早い蒸発を可能にする。本発明の少なくとも1つの実施形態において、例えば、周囲(室内)空気供給からの空気流は、約1〜2psigの圧力で供給される。
【0060】
本発明の一部の実施形態において、膜の透過液側全体に流れる空気は、周囲温度、例えば、約25℃に維持される。機器内のタンパク質溶液は、典型的には、タンパク質の安定性を最もよく保持する温度、例えば、約2℃〜約45℃の範囲、例えば、約18℃と約35℃の間の温度に維持される。一部の実施形態において、機器外部の温度は、約2℃〜約60℃の範囲、例えば、約2℃〜約45℃の間、例えば、約20℃と約45℃の間の温度に維持される。熱は、例えば、限外濾過装置または保持液タンク中かそれらの近くの電気加熱素子、膜の透過液側上の熱空気または乾燥蒸気、加熱ランプなどの放射源を使用し、システム、または膜の丁度透過液側に加えることができる。高温で、蒸発は、より急速に起きるはずであり、溶液は、粘稠でなくなるはずであり、装置内のタンパク質物質移動は、改善するはずである。これらの利益は、高温で存在することがある任意の潜在的なタンパク質安定性についての懸念と比較検討しなければならない。当業者は、タンパク質の起源および使用に応じて、タンパク質が安定である温度が異なることを理解しているはずであり、したがって、当業者は、どの温度で機器内部にタンパク質溶液を維持するかを知っているはずである。
【0061】
本発明の方法の一部の実施形態において、第一のタンパク質溶液は、限外濾過装置中を循環する。本発明の方法は、タンパク質溶液が保持液タンクに戻ってくる実施形態を包含することができる。その時点で、保持液、すなわち、機器中に留まっているタンパク質溶液を集めることができる。代替として、タンパク質溶液は、保持液タンクに戻され、限外濾過装置中を再循環することができる。本発明の少なくとも1つの実施形態において、第一のタンパク質溶液は、限外濾過装置中を連続的に再循環することができる。
【0062】
機器内部のタンパク質溶液が、望ましい濃度値または望ましいフィード圧を達成した場合、再循環を減らすことができ、高濃縮のタンパク質溶液、すなわち、第二のタンパク質溶液を集めることができる。高濃縮のタンパク質溶液は、少なくとも約200g/L、例えば、少なくとも約260g/L、約300g/L、約350g/L、または約460g/L以上である。
【0063】
当業者は、タンパク質濃度が、UV分光光度法またはELISAなどの当技術分野において知られている様々な方法を利用して測定することができることを理解しているはずである。本発明の一部の実施形態において、タンパク質濃度は、280nmの波長を持つ紫外光の吸光度により測定される。測定は、典型的には、320nmにおける吸光度シグナルを減じることにより大粒子の存在について補正される。タンパク質が濃縮および回収された後、タンパク質を様々な方法を使用して特徴付け、タンパク質の質が影響を受けていないことを保証することができる。高分子量種および低分子量種であるタンパク質の割合は、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定することができる。生物活性アッセイを使用し、タンパク質が、望ましい生物学的機能を行う能力を依然として保持しているかどうかを決定することができる。タンパク質を、質量分析法、SDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)ゲル、イオン交換クロマトグラフィー、またはキャピラリー電気泳動で特徴付け、アミノ酸、アミノ酸鎖、または任意の多糖成分に対する影響があるかどうかを決定することができる。タンパク質構造は、示差走査熱量測定法、近紫外スキャンおよび遠紫外スキャン、および円二色性などの技法を使用して特徴付けることができる。
【0064】
本発明の方法は、機器における初期フィード圧が、少なくとも約5psig、例えば、約5psigと装置の最大フィード圧限界の間であり、第一のタンパク質溶液が、限外濾過装置を通して再循環される実施形態を包含することができる。固定されたフィード流速で動作させる場合、粘度およびフィード圧は、タンパク質が濃縮するにつれて増加するはずである。フィード圧が、装置の限界に達した場合、フィード流速を減らし、最大値に近いフィード圧を維持することができる。タンパク質溶液がフィルター装置内で粘稠になるか乾燥し過ぎるのを防ぐため、フィード流速は、溶媒が膜の透過液側で蒸発する速度を大幅に上回る、例えば、少なくとも約2倍上回らなければならない。濃縮実行(「実行」)は、(1)フィード圧がフィルター装置の限界に近く、一方、フィード流速が透過液流速の2倍未満である場合、(2)プロセス時間制限に達する場合、または(3)タンパク質濃度目標が達成される場合に停止されるはずである。
【0065】
タンパク質濃縮の方法は、低分子量凝集体および高分子量凝集体などの、溶液中のタンパク質凝集体の形成につながることがある。そのような凝集体は、1つまたは複数の非機能性の、最適以下の、または望ましくないタンパク質生成物を生み出す。
【0066】
「低分子量凝集体」または「低分子量種」(LMWと略される)という用語は、対象とするタンパク質より低い分子量を有するように見えるタンパク質を指す。LMWは、対象とするタンパク質の断片または媒体、宿主細胞、もしくは溶液成分からの他の種の断片であってよい。「高分子量凝集体」または「高分子量種」(HMW)という用語は、少なくとも2つのタンパク質間の会合に起因するタンパク質産生の1つまたは複数の望ましくない副成物を指す。HMWは、少なくとも2つの同じタンパク質間の会合および/または対象とするタンパク質と1つまたは複数の別のタンパク質もしくは1つまたは複数の断片の間の会合であってよい。会合は、共有結合性、非共有結合性、ジスルフィド、および/または非還元性の架橋を包含するがそれらに限定されない任意の方法により生じることがある。当業者は、タンパク質が多量体形態(例えば、二量体形態)で活性である場合、すなわち、2つ以上のポリペプチド鎖がタンパク質活性に必要とされる場合、「高分子量凝集体」などという用語は、2つ以上のそのような多量体形態間の会合を指すことを理解しているはずである。当業者は、低分子量凝集体と高分子量凝集体の両方の産生をモニターし影響を与えるのに必要とされる技法、例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SEC−HPLC)を知っているはずである。
【0067】
本発明の高濃縮のタンパク質溶液を生成する方法は、HMW凝集体とLMW凝集体の両方のわずかな増加をもたらす。本発明の一部の実施形態において、方法は、HMW凝集体および/またはLMW凝集体の形成の約30%未満の増加、例えば、HMW凝集体および/またはLMW凝集体の形成の約5%未満の増加、例えば、HMW凝集体および/またはLMW凝集体の形成の約2.2%未満の増加をもたらす。
【0068】
当業者は、限外濾過プール(すなわち、限外濾過ステップを包含する、完全な精製プロセス後に得られる溶液のプール)のpHを制御し、タンパク質の質および安定性を保証することが重要であることを知っているはずである。pHおよび小溶質濃度の不均衡は、例えば、Stonerら(2004)J.Pharm.Sci.93:2332〜42により記載されているように、ドナン効果によって従来の限外濾過ステップ後に透過溶液と濃縮されたタンパク質溶液の間に存在することがある。ドナン効果によれば、電気的中性は、膜のどちらかの側で維持され、各対イオンペアについて膜全体に等化学(equichemical)ポテンシャルが存在する。そのような電気的中性は、タンパク質のそれと反対の電荷を有する小イオンの保持、およびタンパク質と同じ電荷を持つ溶質の通過の増加につながり、保持液と膜の透過液側との間(すなわち、上流側と下流側の間)にpHの差を生じさせ、保持液のpH変動をもたらす。小溶質濃度におけるオフセットは、タンパク質および溶質−タンパク質結合の排除体積に副次的に起因することがある。本発明によるタンパク質濃縮の方法が、保持液のpHの変動につながらないのは、小イオンが、限外濾過装置内部に保持され、典型的には、溶媒と共に蒸発しないためである。
【0069】
本発明の方法は、少なくとも約200g/L、例えば、少なくとも約260g/L、約300g/L、約350g/L、または約460g/L以上までのタンパク質、例えば、モノクローナル抗体の濃縮を可能にする。中空繊維多孔質膜の細孔中に水を引き込む毛細管圧は、濃縮されたタンパク質溶液における浸透圧より少なくとも1桁高い。このことは、最も濃縮されたタンパク質溶液からも水を流出させる。膜細孔中のタンパク質を含まない溶媒は、上流タンパク質濃度に関係なく空気中に蒸発する。これらの2つの効果は、本発明の方法が、図2に描かれている従来のシステムなどの従来の加圧限外濾過システムでは不可能であるタンパク質濃縮を達成することを可能にする。
【0070】
本発明の少なくとも1つの実施形態において、本発明の方法を利用して濃縮されるタンパク質溶液は、抗体溶液である。そのような方法により濃縮される抗体溶液は、モノクローナル抗体溶液であってよい。他の実施形態において、濃縮されるタンパク質溶液は、治療用タンパク質溶液であり、例えば、タンパク質溶液中のタンパク質は、治療用タンパク質である。
【0071】
当業者は、任意の溶液を、本発明の方法を利用して濃縮することができることを理解しているはずであるが、特定の実施形態において、濃縮される溶液は、タンパク質溶液である。例えば、濃縮される溶液は、ジュースまたはミルクなどの飲料溶液を包含することができる。当業者は、溶液中の対象とする溶質を濃縮するためには、中空繊維多孔質膜が、対象とする溶質に対して不透過性であるべきことを理解しているはずである。本明細書に記載されている方法を利用するタンパク質溶液以外の溶液の濃縮は、本発明によりさらに企図されている。
【0072】
当業者は、本明細書における本発明の方法の一般的な説明に基づき、方法に行うことができる他の可能な変更に気づいているはずである。方法のそのような変更は、本発明により包含される。
【0073】
医薬組成物
本発明のある種の実施形態において、本発明の1つまたは複数の方法に従って濃縮されるタンパク質溶液は、医薬品の調製において有用であることがある。本発明の1つまたは複数の方法に従って濃縮されるタンパク質溶液は、対象に投与するか、まず、例えば、非経口(例えば、静脈内)、皮内、皮下、経口、鼻腔、気管支、眼、経皮(局所)、経粘膜、直腸、および膣経路を包含するがそれらに限定されない任意の利用可能な経路による送達のために製剤化することができる。本発明の医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容できる担体と組み合わせて、哺乳動物細胞系から発現される精製タンパク質および送達剤(例えば、陽イオン性ポリマー、ペプチド分子輸送体、界面活性剤など)を包含する。本明細書で使用されているように、「薬学的に許容できる担体」という言葉は、医薬品投与と適合する、1つまたは複数の活性成分の有効性/生物学的活性を顕著に妨害しない無毒性材料、例えば、溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを包含する。担体の特徴は、投与の経路によって異なるはずである。補助的活性化合物も、組成物に組み入れることができる。
【0074】
医薬組成物は、その意図する投与経路と適合するように製剤化される。本発明の1つまたは複数の方法に従って製造される治療用タンパク質が、経口形態で投与される場合、医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末、溶液、エマルジョン、またはエリキシルの形態であるはずである。錠剤形態で投与される場合、本発明の医薬組成物は、ゼラチンまたは補助剤などの固体担体をさらに含有することができる。錠剤、カプセル、および粉末は、結合剤約5%から約95%まで、例えば、結合剤約25%から約90%までを含有するはずである。
【0075】
本発明の1つまたは複数の方法に従って製造される治療用タンパク質が、液体形態(例えば、溶液、エマルジョン、またはエリキシル)で投与される場合、水、石油、ゴマ油、ピーナッツ油(集団におけるアレルギー反応の発生を考慮に入れる)、鉱油、ダイズ油、合成油などの動物もしくは植物起源の油、および/またはアルコールなどの液体担体を加えることができる。医薬組成物の液体形態は、生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなどのグリコールをさらに含有することができる。液体形態で投与される場合、医薬組成物は、結合剤約0.5重量%から約90重量%まで、例えば、結合剤約1重量%から約50重量%までを含有する。当業者は、これらの設定において使用されることになる製剤を知っているはずである。
【0076】
本発明の1つまたは複数の方法に従って製造される治療用タンパク質が、静脈内、皮膚または皮下注射により投与される場合、治療用タンパク質は、発熱物質を含まない非経口的に許容できる水溶液の形態であるはずである。pH、等張性、安定性などを十分に顧慮したそのような非経口的に許容できるタンパク質溶液の調製は、当業者の範囲内にある。一部の実施形態において、静脈内、皮膚または皮下注射のための医薬組成物は、治療用タンパク質に加えて、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、デキストロース注射液、デキストロースおよび塩化ナトリウム注射液、乳酸リンゲル注射液、または当技術分野において知られているような他のビヒクルなどの等張性ビヒクルを含有することができる。本発明の医薬組成物は、安定剤、保存剤、緩衝剤、抗酸化剤、または当業者に知られている他の添加剤も含有することができる。
【0077】
本発明の医薬組成物中の本発明のポリペプチドの量は、治療されている状態の性質および重症度、ならびに患者が受けた事前の治療の性質によって異なるはずである。最終的には、主治医が、各個別の患者を治療する本発明の医薬組成物またはポリペプチドの量を決めるはずである。初めに、主治医は、低投与量の本発明の医薬組成物/ポリペプチドを投与し、患者の応答を観察するはずである。より高投与量の本発明の医薬組成物/ポリペプチドは、患者にとって最適な治療効果が得られるまで投与することができ、その時点で、用量がさらに増やされることは一般的にはない。それを必要としている対象を治療するのに使用される様々な医薬組成物は、体重1kg当たり本発明のポリペプチド約0.1μg〜約100mgを含有するべきであることが企図されている。
【0078】
本発明の医薬組成物を使用する静脈内(i.v.)療法の期間は、治療されている疾患の重症度ならびに各個別の患者の状態および潜在的特異体質応答に応じて変わるはずである。医薬組成物または本発明のポリペプチドの各適用の期間は、連続的または間欠的なi.v.投与の範囲、例えば、1〜12、6〜18、または12〜24時間の範囲内であってよいことが企図されている。本発明の医薬組成物を使用する皮下(s.c.)および筋肉内(i.m.)療法も企図されている。これらの療法は、非限定的な例として、毎日、毎週、隔週、または毎月投与することができる。最終的には、主治医が、本発明の医薬組成物を使用し、i.v.、i.m.、もしくはs.c.療法、または小分子による療法の適切な期間、および療法の投与のタイミングを決めるはずである。
【0079】
本発明の1つまたは複数の方法により濃縮される治療用タンパク質溶液を含む医薬組成物のさらなる製剤は、当業者に知られているはずである。当業者は、本発明に従って製造されるタンパク質にふさわしい単位用量製剤にも気づいているはずである。
【0080】
本出願全体で引用されるすべての参考文献、特許、および特許出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0081】
続く実施例は、本発明の理解を助けるために示されるが、決して本発明の範囲を限定することは意図されておらず、そのように解釈されるべきではない。実施例は、従来の方法、例えば、クローニング、トランスフェクション、細胞系においてタンパク質を過剰発現させるための方法の基本的態様、およびタンパク質精製のための基本的方法の詳細な説明を包含しない。そのような方法は、当業者によく知られている。
【実施例】
【0082】
(実施例1)
実験の目的は、中空繊維多孔質膜を含む限外濾過装置における膜蒸発技法を使用してモノクローナル抗体1(mAb1)を濃縮することであった。GE Healthcare製の中空繊維チューブ(UFP−30−E−H22LAおよびUFP−30−E−4MA、Westborough、MA)を、本発明の新規蒸発濃縮技法の使用を除いて、伝統的な(従来の)限外濾過(UF)と一致する様式で使用した。
【0083】
mAb1材料は、タンパク質A精製に続くプールから入手し、それを、Millipore A1HC膜(Billerica、MA)に通して濾過することによりさらに精製した。材料を、pH5.9、12mMヒスチジン緩衝液に緩衝液交換し、150g/Lまで濃縮した。この材料を、実験のための出発ロード(starting load)として使用した。
【0084】
ロード材料を、内腔1mmの30kDa親水性ポリスルホン中空繊維カートリッジ(GE Healthcare)を使用して処理した。異なる面積の膜を2つの実行について使用した(38cmおよび420cm)。新しいフィルターを、使用前に水ですすぎ、保存溶液を除去した。Becton Dickinson圧力トランスデューサー(Newark、DE)を、カートリッジ上のフィードポートおよび保持液ポートに設置した。限外濾過システムは、Scilog蠕動ポンプ(Scilog Model 1081、Middleton、WI)で作動させた。500mlのPall Minim容器(FS700M01、Pall、East Hills、NY)を保持タンクとして使用し、磁気撹拌子でかき混ぜた。システムを、システムが作動中である場合に開いているタンク最上部のルアーベントポートを除いて密閉した。使用していない場合には、システムを完全に密閉した。
【0085】
初めに、ロードを、限外濾過システムの従来の操作によって濃縮した(例えば、図2を参照)。中空繊維カートリッジは、10psigのチャンネル圧降下および25psigの膜間差圧降下で作動させた。フィードチャンネル圧降下は、溶液が濃縮し、より粘稠になるにつれて増加した。40psigのフィード圧に達したら直ぐに、濃縮法を、本発明の膜蒸発法(例えば、図1を参照)に切り替えた。
【0086】
従来の限外濾過操作は、溶液をおよそ200g/L、すなわち、ゲル点に導き、200g/Lを超えると、粘度は指数関数的に増加し、タンパク質のさらなる濾過および濃縮を制限した(データ省略)。
【0087】
膜蒸発法の間、室内(周囲)空気を、1〜2psigの入口圧力で膜の透過液側に吹き付けた。フィード材料を、10〜15psigの範囲の初期フィード圧および開放保持液弁でゆっくりした流速で再循環させた。この濃縮プロセスを、材料粘度によりフィード圧が40psigを上回るまで続けた。この時点で、再循環流速を減少させ、材料を集めた。中空繊維膜蒸発法を使用すると、最終タンパク質濃度は、顕著な溶液粘度の増加があっても、従来の限外濾過で達成可能な最大タンパク質濃度を上回った(図3;中空繊維)。
【0088】
280nmにおける吸光度として測定された実行1および実行2についての最終濃度は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)結果と一緒に表1に列挙されている。SEC法は、限外濾過が、高分子量(HMW)種または低分子量(LMW)種の形成を引き起こしたかどうかを示している。HMW凝集体および/またはLMW凝集体の生成は、タンパク質損傷の指標と見なされる。HPLC−SEC分析は、HPLCカラムに充填する前に1mg/mlに希釈されたサンプルについて行った。
【0089】
【表1】
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【0090】
HPLC−SEC結果は、ロード1と実行1の間で変化せず、動作が、タンパク質特性に影響を与えないことを示した。実行2において、HMW凝集体にわずかな増加があり、このことは、一部のタンパク質損傷があったことを示している。しかしながら、ロード2と実行2の間の%HMWの差は約2.1%に過ぎなかったため、タンパク質損傷の量は、小さいと考えられる。
【0091】
(実施例2)
実験の目的は、撹拌セルを含む限外濾過装置における膜蒸発技法を使用してmAb1を濃縮することであった。30kDa限外濾過膜付きのMillipore製の撹拌セル(Amicon 8010、Billerica、MA)を、本発明の新規蒸発濃縮技法の使用を除いて、伝統的なUFと一致する様式で使用した。
【0092】
mAb1材料は、完全精製プロセスに由来する従来の限外濾過プールから入手した。タンパク質Aクロマトグラフィーカラム、陰イオン交換クロマトグラフィーカラム、ウイルス保持フィルター(例えば、Planova 20フィルター(Asahi Kasei Corporation、Tokyo、Japan))、およびウルトラフィルターをこの完全精製プロセスにおいて使用した。タンパク質は、6mMヒスチジン、8mMメチオニン、pH6.0緩衝液中で171g/Lであった。この材料を、実験のための出発ロードとして使用した。
【0093】
ロード材料を、30kDaの再生セルロース膜(Millipore PLCTK)を使用して処理した。新しいフィルターを、使用前に水ですすぎ、保存溶液を除去した。システムを、最上部の開口部を通してパワースターラー(Glas−Col 099DGT31、Terre Haute、IN)および羽根車で80RPMにて撹拌した。使用していない場合には、システムを完全に密閉した。
【0094】
膜蒸発法の間、室内(周囲)空気を、1.2psigにて膜の透過液側に撹拌セル基板中の穴を通して吹き付けた。
【0095】
【表2】
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【0096】
撹拌セル膜蒸発装置を使用すると、最終タンパク質濃度は、顕著な溶液粘度の増加があっても、従来の限外濾過で達成可能な最大タンパク質濃度を上回った(図3;撹拌セル)。280nmにおける吸光度として測定された最終濃度は、SEC結果と一緒に表2に列挙されている。HPLC−SEC分析は、HPLCカラムに充填する前に1mg/mlに希釈されたサンプルについて行った。HPLC−SEC結果は、動作が、タンパク質特性に影響を与えないことを示した。
【0097】
(実施例3)
実験の目的は、疎水性膜を含む限外濾過装置と共に膜蒸発技法を使用してmAb1を濃縮することであった。図4は、実施例1で使用された限外濾過(親水性)膜蒸発技法(図4A)と本実施例で使用された疎水性膜蒸発技法(図4B)の間のスキーム比較を示している。気相は、動作中に疎水性膜の細孔内にのみ存在した。空気流は、装置の透過液側にあてた。この設定において、溶媒は、膜細孔内の空気中に蒸発し、透過液側に流れる空気により徐々に除去された。溶媒の緩やかな除去は、タンパク質溶液を濃縮した。タンパク質は、膜の保持液側の気液界面と接触し、一部のタンパク質損傷の可能性を生んだ。疎水性微多孔質Durapore PVDF膜付きのMillipore製撹拌セル(Amicon 8010、Billerica、MA)を使用した。
【0098】
上のように、mAb1材料は、完全精製プロセスに由来する従来の限外濾過プールから入手した。タンパク質は、6mMヒスチジン、8mMメチオニン、pH6.0緩衝液中で171g/Lであった。この材料を、実験のための出発ロードとして使用した。
【0099】
ロード材料を、疎水性微多孔質Durapore PVDF膜(Millipore GVHP04700(ロットR5BN49933))の26mm(直径)の円形ピースを使用して処理した。膜を取り付け、70%エタノールで濡らし、使用前に緩衝液で洗い流した。システムを、最上部の開口部を通してパワースターラー(Glas−Col 099DGT31)および羽根車で38RPMにて撹拌した。使用していない場合には、システムを完全に密閉した。
【0100】
膜蒸発法の間、室内(周囲)空気を、1.0psigにて膜の透過液側に撹拌セル基板中の穴を通して吹き付けた。
【0101】
280nmにおける吸光度として測定された最終濃度は、SEC結果と一緒に表3に列挙されている。HPLC−SEC分析は、HPLCカラムに充填する前に1mg/mlに希釈されたサンプルについて行った。
【0102】
【表3】
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【0103】
HPLC−SEC結果は、疎水性微多孔質膜蒸発技法における気液界面の存在が、タンパク質特性に影響を与えないことを示した。
【0104】
(実施例4)
実験の目的は、撹拌セルを含む限外濾過装置における膜蒸発技法を使用してFc融合タンパク質(Fc1)を濃縮することであった。30kDa限外濾過膜付きのMillipore製の撹拌セル(Amicon 8010、Billerica、MA)を、本発明の新規蒸発濃縮技法の使用を除いて、伝統的なUFと一致する様式で使用した。
【0105】
材料は、完全精製プロセスに由来する従来の限外濾過プールから入手した。ロード材料を、30kDaの再生セルロース膜(Millipore PLCTK)を使用して処理した。新しいフィルターを、使用前に水ですすぎ、保存溶液を除去した。システムを、最上部の開口部を通してパワースターラー(Glas−Col 099DGT31)および羽根車で80RPMにて撹拌した。使用していない場合には、システムを完全に密閉した。
【0106】
膜蒸発法の間、室内(周囲)空気を、1.2psigにて膜の透過液側に撹拌セル基板中の穴を通して吹き付けた。
【0107】
撹拌セル膜蒸発装置を使用すると、最終タンパク質濃度は、顕著な溶液粘度の増加があっても、従来の限外濾過で達成可能な最大タンパク質濃度を上回った(図5)。280nmにおける吸光度として測定された最終濃度は、SEC結果と一緒に表4に列挙されている。HPLC−SEC分析は、HPLCカラムに充填する前に1mg/mlに希釈されたサンプルについて行った。
【0108】
【表4】
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【0109】
HPLC−SEC結果は、動作が、タンパク質HMWレベルにわずかな増加をもたらすことを示した。しかしながら、%HMWの差は約2%に過ぎなかったため、タンパク質損傷の量は、小さいと考えられる。これらの実験は、技法が、抗体以外の治療用タンパク質で使用することができることを示している。
【0110】
(実施例5)
実験の目的は、大規模平行流濾過(TFF)モジュールを含む限外濾過装置における膜蒸発技法を使用してmAb1を濃縮することであった。TFF(クロスフロー濾過としても知られている)は、中空繊維装置またはプレート&フレーム装置に応用することができる。30kDa限外濾過膜付きのSartorius AG(Goettingen、Germany)製のTFFモジュールを、本発明の新規蒸発濃縮技法の使用を除いて、伝統的なUFと一致する様式で使用した。
【0111】
材料は、完全精製プロセスに由来する従来の限外濾過プールから入手した。膜蒸発法の間、室内(周囲)空気を、1.2psigにて膜の透過液側に通して吹き付けた。
【0112】
TFF膜蒸発装置を使用すると、最終タンパク質濃度は、顕著な溶液粘度の増加があっても、従来の限外濾過で達成可能な最大タンパク質濃度を上回った(データ省略)。UFプールを集め、プールの濃度および体積を測定した。次いで、フィルターを、洗浄緩衝液と共に再循環させて追加生成物を回収し、洗浄緩衝液を集めた。この洗浄ステップを繰り返し、次いで、2回の洗浄ステップの濃度および体積を測定した。280nmにおける吸光度として測定された最終濃度、ならびにプールサンプルおよび洗浄サンプルの体積は、SEC結果と一緒に表5に列挙されている。プール、第一の洗浄液と合わせたプール、ならびに第一および第二の洗浄サンプルを合わせたプールから得られたであろう体積、濃度、および収率を算出した。算出された仮想プールデータとして表5に示されている。HPLC−SEC分析は、HPLCカラムに充填する前に1mg/mlに希釈されたサンプルについて行った。
【0113】
【表5】
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【0114】
HPLC−SEC結果は、操作が、タンパク質特性に影響を与えないことを示した。mAb1の回収率は高く、操作は3時間もかからなかった。このことは、膜蒸発技法が、大規模に行うことができ、良好な製品品質および高収率をもたらすことを示している。
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−521991(P2012−521991A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502203(P2012−502203)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/028486
【国際公開番号】WO2010/111378
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】