説明

高炉における炭素使用量の算出方法、装置及びプログラム

【課題】高炉で使用した実炭素量を算出するにあたり、炭素含有原料の供給側(装入・吹き込み)条件を使用することを避け、羽口からの送風流量条件と、炉頂におけるガス成分分析条件から、高炉における「炭素」の使用量を定量化できるようにする。
【解決手段】高炉炉内に吹き込まれた窒素総流量と、炉頂排出ガスの窒素体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、炉頂排出ガスからの炭素排出量を用いて、高炉で使用した全炭素使用量を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉等のシャフト型還元炉において、鉄鉱石等の各種酸化鉄原料を還元するに要した炭素総量を算出する技術、及び、公表されている還元材比(RAR)等の指標に対して、その妥当性を客観的に評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業で使用された炭材の量を評価する指標として、RAR(Reduction Agent Ratio)という指標が一般に公表されている。RAR[単位:kg/pig−ton]の算出方法についての細かい計算ロジックは、各会社・各高炉工場により異なる。しかしながら、基本的な算出の考え方は、コークス・微粉炭・LNG等で代表される炭材の単位時間当たりの使用量[例えば、kg/min]を分子にして、単位時間当たりの出銑量[例えば、pig−ton/min]で割り戻す(分母にする)ことで求められる(以下、通常RARと称す)。つまり、通常RARは、単位出銑量生産するための炭材使用効率を表現したものになっていて、通常RARが高ければ、炭材の使用効率が低く、通常RARが低ければ、炭材の使用効率が高いことを示している。一般に、通常RARの他に、各高炉の出銑量[pig−ton/day]も月平均で公表されているので、各高炉が使用した炭材の量[kg/day]は、(通常RAR×出銑量)として算出できることになる。
【0003】
通常RARの他には、高炉における全炭材の使用量を示す指標は、知られていない。非特許文献1には、高炉操業に関する各種考え方・モデル等が明示されているが、当時「燃料比」と称されていた通常RARについては、高炉関係者なら当然知っている指標として取り扱っており、その算出方法すら記載されていない。非特許文献1の第6章等には、高炉内の熱収支・物質収支に基づく、高炉操業理論の考え方が記載されているが、通常RAR算出の問題点については、全く言及されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】重見彰利、「製銑ハンドブック」地人書館、1979、第6章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1に、通常RARでは、各社各工場での炭材装入量の算出方法の違い等によって、その算出方法に任意性があるので、高炉毎に算出結果にバラツキが生じる可能性がある。例えば、その還元材種類は、コークス、微粉炭、LNG、重油、含炭塊成鉱等と多様化しているので、その種類・物理的性状の異なる炭材を統一的に一元化し、各社横並び評価ができる算出方法を案出することは益々難しくなっていくと考えられる。つまり、通常RARの算出方法の本質的な問題点は、装入炭材(固体)や、重油(液体)、含炭素還元ガス(ガス)等、性状が全く異なる炭素供給源が混在しているにも係わらず、「各種炭素源の高炉への供給側(装入・吹き込み)条件」を元にして、通常RARを算出している点にあると考えられる。
【0006】
さらに、通常RARは、本質的に、炭材の「炭素」の使用量を指標化できている訳ではない。通常RAR算出の際の分子は、炭材の単純質量を使用しているので、用いた炭材の種類によって、実際に使用した「炭素」の量は大きく変化することになる。例えば、コークスや微粉炭等の質量は、アッシュ・含水分・結晶水分・結合各種元素等の炭素以外の不純物が含まれた質量であって、その含有量比率は、炭材種類によって大きなバラツキがある。つまり、同じ炭材の質量であっても、その中に含まれている炭素量は、各社・各工場の原料条件・季節・期間等の条件によって大きく変化している訳である。特に微粉炭については、その含有揮発成分量やアッシュ成分量の違いによって、炭素含有量が大きく異なるので、単純な質量比較では、使用炭素量の実態が反映できない可能性が高い。
【0007】
また、高炉の実操業において、高炉へ実際に供給した「炭素」量を正確に把握しておくことは、高炉の熱管理・温度管理において、非常に重要であることは言うまでもない。ところが、単純な質量比較から算出した通常RARの計算値から、各種炭材材料の分析値を用いて、正確な「炭素」量を推定することには限界がある。例えば、ある炭材の含有炭素量は、サンプリングされた試料の固定炭素量分析値を元にするので、その代表性を確保するためには、多くの分析結果を総合しなければならない。炭材の銘柄・種類が多様化していく中で、これらの正確な分析値を決定することは、大きな作業負荷となる上に、その信頼性には最後まで疑問が残ることになる。このように、高炉操業管理上も、通常RARだけを元にして炭素供給量を管理していると、思いがけない熱不足や、熱過剰ということにもなりかねず、大きな操業トラブルに結びつく危険もあるのである。
【0008】
さらに、今後、国際的なCO2ガス排出量削減の動きの中で、実際に使用した「炭素」量を客観的に評価する必要があるが、通常RARでは、言わば申告者の言い値で決まる危険性もある。そして、申告された通常RARが、操業実態を反映した妥当な値であるかどうかを検証することは、極めて難しいという問題も抱えている。
【0009】
加えて、通常RARは、各種炭材の単純質量から算出したものであるため、将来、通常RARの多少に応じて、炭素税等が課税される状況を想定してみると、炭材原料選定の考え方に歪が生じる可能性も否定できない。例えば、通常RAR算出の考え方を元にすると、羽口吹き込み用微粉炭種の選定に当って、炭素の含有量比率の高い微粉炭を使った方が、通常RARが下がる計算となる。つまり、不純物の多い劣質炭の使用を検討する場合、通常RARでの課税メリットを評価してもマイナスになり、さらに、高炉操業の安定性にもマイナスであることを考慮すると、敢えて、そのような石炭を使用するメリットは全くなくなるのである。今後、全地球的に炭材資源の有効活用を図る上では、高炉においても炭素含有量比率の低い劣質炭を使いこなす技術を確立することが重要であると思われるが、通常RARで評価してしまうと、このような技術開発モチベーションを喚起することは難しくなってしまうのである。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、高炉で使用した実炭素量を算出するにあたり、炭素含有原料の供給側(装入・吹き込み)条件を使用することを避け、羽口からの送風流量条件と、炉頂におけるガス成分分析条件から、高炉における「炭素」の使用量を定量化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高炉における炭素使用量の算出方法は、高炉炉内に吹き込まれた不活性ガス総流量と、炉頂排出ガスの該不活性ガス体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、該炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、該炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、高炉で使用した全炭素使用量、又は、還元材比(RAR)を算出することを特徴とする。
また、本発明の高炉における炭素使用量の算出方法の他の特徴とするところは、該不活性ガスとして窒素を用いる点にある。
また、本発明の高炉における炭素使用量の算出方法の他の特徴とするところは、前記RARと、高炉への供給炭材の使用量から算出された通常RARを比較することで、該通常RARの妥当性を評価する点にある。
本発明の高炉における炭素使用量の算出装置は、高炉炉内に吹き込まれた不活性ガス総流量と、炉頂排出ガスの該不活性ガス体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、該炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、該炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、高炉で使用した全炭素使用量、又は、還元材比(RAR)を算出する演算手段を備えたことを特徴とする。
本発明のプログラムは、高炉炉内に吹き込まれた不活性ガス総流量と、炉頂排出ガスの該不活性ガス体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、該炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、該炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、高炉で使用した全炭素使用量、又は、還元材比(RAR)を算出する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、その算出の標準化が困難で信頼性に欠けるような、炭素含有原料の供給側(装入・吹き込み)条件に頼ることなく、計測方法の標準化が比較的容易な、羽口からの送風流量や、炉頂集合管での炉頂ガス成分の体積分率計測データ等から、高炉操業において使用した全炭素量を定量化することができる。そして、高炉に供給した実炭素量が定量化できるので、高炉操業における熱・温度管理の正確性を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】高炉における炭素使用量の算出装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施例における炭素使用量の算出方法の計算例を説明するための特性図である。
【図3】本発明のRARと、通常RARの関係を説明するための特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
高炉操業においては、炉下部の円周方向に並んだ複数の羽口より、酸素を含んだ高温ガスを送り込み、高炉炉内で不完全燃焼を起こして、COガスを生成している。そして、このCOガスが炉頂へと上昇する間に、その一部が、炉上部から降下してくる各種鉄鉱石を還元し、炉頂CO2ガスとなって炉頂から排出されることになる(ウスタイトFeOの還元反応を例に取れば、FeO+CO→Fe+CO2)。加えて、COガスの生成源は、このような羽口前での不完全燃焼によるものだけではなく、一度還元に寄与したCO2ガスが、再び炉内の固体炭素と結びついて(CO2+C→2COのソルロス反応と呼ばれる)、COガスが再生する反応も絡んでくる。このCOガスが再度、鉄鉱石還元に寄与すると、CO2ガスが再生成することになる。
【0015】
このように、高炉内で消費される「炭素」ガスに着目すると、羽口前不完全燃焼によるCOガス、鉄鉱石の還元反応によるCO2ガス、及び、ソルロス反応によるCOガス、のいずれかとなることが分かる。最終的には、その大部分が、炉頂COガス又は炉頂CO2ガスとして、炉外に排出されることになる。従って、炉頂ガス内の炉頂COガス量及び炉頂CO2ガス量を定量化することが、高炉で使用した炭素量(単位時間当たりの炭素使用量)を決定する上で非常に重要である。
【0016】
本発明の内容について、不活性ガスとして、最も吹き込み量が多く、一般的に使用される窒素を代表例として、炉頂全ガス流量、炉頂COガス、炉頂CO2ガス等、それぞれの排出流量を算出する方法について説明し、その上で、高炉で使用した全炭素量を推定する方法について説明する。
【0017】
【数1】

【0018】
式(1)は、羽口から吹き込んだ全O2流量O2all,blowを推定する式である。全O2流量O2all,blowは、送風流量Vbと酸素富化流量O2との和であることを示している。式(1)において、送風流量Vbは、空気の標準状態での流量なので、空気中の酸素含有比率0.21を乗じている。また、酸素富化流量O2の単位は、慣例的に[Nm3/hr]であるので、60[min]で除している。式(2)は、羽口から吹き込んだ全N2流量N2all,blowを推定する式である。式(1)及び式(2)より、羽口前送風ガスの酸素、窒素それぞれの体積比率xO2,blow、xN2,blowを概算することができる。その結果が、式(3)及び式(4)である。式(5)は、羽口から流入する全N2流量N2all,blowが炉頂より排出する全N2流量N2all,topと概略バランスすることを示す式である。式(6)は、式(3)を変形したものであり、式(7)は、炉頂より排出する全N2ドライ流量N2all,top,dryについて、炉頂全ガス流量Vall,topと、炉頂における窒素体積比率xN2,topで表現した式になっている。式(6)及び式(7)を式(5)に代入して、炉頂全ガス流量Vall,topについて解くと、式(8)になる。式(8)右辺各項は、既知条件となるので、式(8)より、ドライ基準での炉頂全ガス流量Vall,topが、算出できることになる。ここで、炉頂全ガス流量Vall,topを求める際には、式(5)での窒素バランスを取ることが重要である。従って、通常羽口から空気に同伴して吹き込まれる窒素以外に、窒素富化して吹き込んだり、羽口以外の場所から窒素を吹き込んだりした場合には、式(2)、式(3)及び、式(6)等に対して、適宜、窒素流量補正を施す必要があることは言うまでもない。
【0019】
【数2】

【0020】
炉頂ガス成分は、ガスクロマトグラフィーで計測されており、その計測結果から各成分のガス体積比率を推定している。典型的には、ドライ基準で計測している組成成分数は、4種類であり、一酸化炭素CO、二酸化炭素CO2、窒素N2、水素H2、が一般的ある。式(9)は、炉頂H2ガス体積比率xH2,top,dry、炉頂CO2ガス体積比率xCO2,top,dry、炉頂COガス体積比率xCO,top,dry、炉頂N2ガス体積比率xN2,top,dryの、炉頂ガス成分体積比率の総和が1.0であることを示す式である。ここで、式(9)の左辺にある全ての炉頂ガス成分体積比率は、既知となる。そして、炉頂全ガス流量Vall,topと炉頂ガス成分体積比率から、炉頂における一酸化炭素CO、及び二酸化炭素CO2の各ガスモル流量は、式(10)、及び式(11)で求めることができる。但し、ρ0,Xは、成分Xの標準状態での密度を表し、MWXは、成分Xの分子量を表す。即ち、高炉から排出される「炭素」ガス量は、一酸化炭素CO、又は、二酸化炭素CO2のどちらかとなるので、式(10)及び、式(11)より、式(12)で表現される。式(12)では、高炉で排出される「炭素」ガス量Carbonall,Gasは、炭素の原子量MWCを乗ずることによって、[kg/min]の単位に換算している。
【0021】
【数3】

【0022】
高炉の炉頂より排出される炭素量は、高炉において消費される炭素量の大部分を占めるが、その他の寄与を含めることで、総炭素使用量を評価することができる。例えば、総炭素使用量Carbonallは、式(13)を用いて計算する。式(13)では、炉頂ガスとして排出される炭素以外にも、溶銑の中に溶け込んでいる炭素量(溶銑中の質量%:Mass%C)及び、炉頂から排出されるダスト中のカーボン量DustCも考慮した式となっている。ここで、式(13)では、出銑量Pmaxが一般的に[pig−ton/day]で表現されるので、そのための単位調整も行っている。また、出銑量Pmaxとしては、高炉の休止(休風)時間等の考慮方法の違いにより、その定義が異なるが、各炉横並びで成績比較するためには、休風時間を含まない出銑量Pmaxを用いることが望ましいと思われる。その理由は、例えば、1日当たりの高炉の稼動時間を別途計算して、式(13)に掛け合わせれば、1日に排出した炭素量[kg]を算出することが可能であるからである。また、出銑量Pmaxの算出方法についても、統一した算出方法とするのが望ましいが、高炉毎に若干の違いがあることはやむを得ない。代表的な出銑量Pmaxの算出方法は、炉頂からの鉱石装入ピッチ(単位時間当たりに何回鉱石を装入したか)、1回の装入ピッチ当りの装入鉱石質量、鉱石中に含まれる鉄分含有質量比率、の3項目を掛け合わせて算出する。炉頂ダスト中のカーボン量DustCは、高炉で排出される「炭素」ガス量Carbonall,Gasと比べると、かなり僅かな量となるが、炉頂で捕集されたダスト量と、その中に含まれる平均炭素含有量等から換算して考慮することが可能である。
【0023】
最後に、炉頂ガスとして排出される炭素量に基づくRAR(銑鉄生産量(出銑量)Pmax当りの炭素使用量:以下、本発明のRARと称す)の算出方法であるが、例えば、式(14)を用いて計算する。式(14)についても、慣習的な単位系の換算を行っている。この場合も、出銑量Pmaxとしては、休風時間を含まない出銑量を使用することが望ましい。また、通常RARも、前述のように、同様の考え方から算出してはいるが、通常RARでは、式(14)のCarbonall,Gasを用いずに、炭素含有原料の供給側(装入又は吹き込み)条件より算出している点が大きく異なっている。
【0024】
以上の計算方法は、炉頂ガス成分(成分X)として、ドライ基準の体積分率の計測値xX,top,dryを用いている。その一方で、水素による還元量を算出する目的も含めて、水素利用率ηH2の推定値を用いて、ドライ基準の体積分率の計測値を、ウエット基準の炉頂ガス各種成分体積分率に換算してから、炉頂から排出される炭素量Carbonall,Gasを計算する方法も考えられる。ところが、この場合も、式(12)の計算結果は、全く同じとなり、どちらの方法で計算しても、原理的に、炉頂ガス中の炭素使用量Carbonall,Gasの計算値には、殆ど影響を及ぼさないことも付言しておく。
【0025】
図1に、高炉における炭素使用量の算出装置の概略構成を示す。図1において、101は入力部であり、入力条件として高炉における各種操業データが入力される。
【0026】
102は演算部であり、これまでに説明した各数式による、時系列的な計算処理が実行される。
【0027】
103は出力部であり、例えば、演算部102により算出された、高炉で排出される総炭素使用量(式(13))、本発明のRAR(式(14))等を時系列変化として、グラフ化して出力する。
【0028】
図1の入力部101の入力条件として、羽口での送風流量Vb、羽口での酸素富化流量O2、炉頂COガス体積比率xCO,top,dry、炉頂CO2ガス体積比率xCO2,top,dry、炉頂N2ガス体積比率xN2,top,dry、炉頂H2ガス体積比率xH2,top,dry、銑鉄生産量(出銑量)Pmax、溶銑の中に溶け込んでいる炭素質量%Mass%C、炉頂から排出されるダスト中のカーボン量DustC等である。これらのデータは、時系列的に入力される。その際、瞬時値データで処理しても構わないが、データ精度等を考慮すると、予め瞬時値計測データを平均化して、30分以上間隔の入力データとして図1の演算部102へ引き渡す方が、現実的であると考えられる。
【0029】
図1の演算部102では、入力データから、式(1)〜式(14)を用いて、各計算を実行する。最終的には、式(13)や、式(14)の計算結果が、本発明の高炉における炭素使用量の出力値となる。
【0030】
なお、本実施形態の高炉における炭素使用量の算出装置は、上述した機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成されることは言うまでもない。
【0031】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、プログラムコード自体及びそのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0032】
なお、本発明の高炉における炭素使用量の算出方法では、炉頂から排出される総ガス流量(式(8))推定値の信頼性が、その精度に大きく影響することになる。即ち、式(8)における各項の値の計測精度を十分確保することが大きなポイントである。従って、本指標を有効に活用するために、1)羽口からの送風流量を測定するオリィフィス式流量計、2)炉頂での各ガス体積比率を測定するガスクロマトグラフィー、それぞれの計測装置の計測方法について、高炉毎に計測方法が異なることによる誤差が生じないように、標準化・基準化を行うべきことは言うまでもない。
【0033】
また、究極的には、式(1)の送風流量Vb=0という純酸素吹き込み操業を実施することも考えられる。この場合には、本発明で説明したような、窒素という不活性なガス成分がないので、式(5)の不活性ガス(窒素)バランスを考えることができなくなり、本発明の方法は、適用できなくなってしまう。この場合には、羽口より、窒素、アルゴン等、不活性なガストレーサーを敢えて吹き込んで、式(5)に相当する式が成立するように配慮することが必要となる。その際、羽口、炉頂において、当該不活性ガス成分の計測精度が十分に取れる程度の量を吹き込む必要があることは、言うまでもない。
【0034】
なお、本発明で言う不活性ガス成分とは、高炉の鉄鉱石還元反応に直接関与しないガス成分のことを指しており、例えば、窒素、アルゴン、ネオン、キセノン等が考えられる。窒素の場合、若干、供給原料中に含まれるが、羽口からの窒素吹き込み量の方が、圧倒的に多いことを想定している。従って、羽口から純酸素に近い、空気・酸素の混合ガスを吹き込む場合は、不活性ガスとして窒素が適当であるかどうかは、式(5)の物質バランス的に検討する必要がある。つまり、不活性ガス種類を選定するに当り、それぞれの不活性ガスが、高炉供給原料の中に、どの程度入っているかを十分吟味して、式(5)に相当する物質バランスに問題がないかどうかを検討する必要があることは言うまでもない。
【0035】
また、ここまでは、窒素を代表例とする不活性ガスの大部分は、羽口から吹き込まれることを前提とした、一般的な高炉操業を想定して説明してきた。しかしながら、例えば、シャフト部等、羽口とは異なる高さ位置より、式(5)の物質バランスに影響を与える量の不活性ガスを導入する場合には、その量を考慮して、式(5)に相当する式を導出する必要があることは、言うまでもない。
【0036】
なお、本発明による炭素使用量の算出方法は、高炉単独での総炭素使用量、又は、高炉単独での本発明のRARを算出する方法となっている。従って、羽口から通常吹き込まれる酸素・空気以外に、一酸化炭素や二酸化炭素などの含炭素ガスを吹き込んだ場合にも、その吹き込み量に応じて、式(3)の窒素吹き込み比率を修正すれば、式(13)、又は、式(14)が適用できることになる。これに対して、炉頂ガスの一部をリサイクルして、羽口より再吹き込みする場合には、そのリサイクルした炭素含有ガス量を式(13)、又は、式(14)より差し引く考え方もある。しかしながら、この場合にも、このガスリサイクル操作は、「高炉系外」での調整操作であると考えると、高炉単独での炭素使用量は、式(13)、又は、式(14)で評価できるのである。
【実施例】
【0037】
図2は、ある高炉操業について、本発明の入力条件(a)〜(g)と、本発明による(h)全炭素使用量、(i)本発明のRARと通常RARの、それぞれの推定結果のシリーズ(40日間)を示したものである。これらは、24時間平均値であり、入力データは、上から7段目までのグラフの縦軸値推移である。なお、図2における(c)炉頂CO体積比率、(d)炉頂CO2体積比率、(e)炉頂N2体積比率等は、縦軸が[%]表示となっているが、実際の計算では、その1/100を取って、式(9)の形式に合わせた単位にして計算している。本発明の計算結果である図2の(h)全炭素使用量、(i)本発明のRARは、それぞれ、式(13)、式(14)により計算しており、いずれも、炉頂から排出されるダスト中のカーボン量DustCは、無視している。ここで、式(1)〜式(14)中の各物性値は、以下のように仮定している。即ち、標準状態のCOガスの密度ρ0,CO=1.123kg/m3、標準状態のCO2ガスの密度ρ0,CO2=1.773kg/m3、COの分子量MWCO=28、CO2の分子量MWCO2=44、炭素の分子量MWC=12である。
【0038】
図2の(h)全炭素使用量については、この期間は、漸増していることが分かる。実際に、この期間は、図2の(f)出銑量の推移を見れば分かるように、徐々に出銑量を上げており、出銑量の増加に合わせて、全炭素使用量が増えていることが分かる。図2の(h)全炭素使用量グラフの縦軸は、24時間平均での[kg/min]であるが、この値に24[hr]×60[min]の値を掛け合わすことで、1日に使用した全炭素使用量[kg]を算出することができる。但し、休風等で、実際の稼動時間が短い場合には、その分を考慮する必要があることは言うまでもない。
【0039】
図2の(i)本発明のRARと通常RAR、においては、本発明のRAR(左縦軸:実線)の他に、通常RAR(右縦軸:破線)についてもプロットしている。まず、本発明のRARの方が、通常RARに比べて、その絶対値が小さくなっていることが分かる。これは、式(12)において、[kg−mol/min]から[kg/min]へ換算するに際して、炭素の分子量MWCを用いているためである。即ち、本発明では、実質的な炭素の使用量を算出するために、炭素の分子量MWCを用いている点が特徴である。その一方で、通常RARは、コークス・微粉炭等の「全炭材質量」を用いて計算しているので、炭素以外に、それらに含まれているアッシュ分や水分の寄与を加えた上での計算値ということになる。参考まで、アッシュが含んだ形で、コークスと微粉炭の炭素基準分子量(炭素1モルに付随しているアッシュモル数から換算)を推定すると、MWCoke&PC=14〜16程度となる。従って、式(12)において、炭素の分子量MWCの替りに、コークスと微粉炭の炭素基準分子量MWCoke&PCを用いると、本発明のRARは、通常RARとオーダーが一致することになる。具体的に、この考えに基づいて、式(12)を書き換えると、式(15)のようになる。
【0040】
【数4】

【0041】
このように、本発明のRARは、「炭素」の使用量を定量化した計算値であるのに対して、通常RARは、炭素以外の不純物を含んだ上での計算値である。本発明のRARの方が、炭材原料が全く異なる条件間で比較する場合においても、使用した「炭素」の量を適正に評価できることは言うまでもない。
【0042】
図2の(i)のグラフにおいて、本発明のRARと通常RARの動きを比較すれば分かるように、両者のRARは、必ずしも「平行」関係を保ちながら推移しているとは言えない。そして、本発明のRARで評価すると、この期間の「炭素」供給量は、単位出銑量に対して殆ど変動がなく、安定した「炭素」供給量管理ができていることが分かる。即ち、本発明のRARで見ると、10kg/pig−ton以内の小さな変動の範囲に収まっている。これに対して、通常RARでは、それ以上の変動があり、その変動も本発明のRARの動きと全く連動していない。このように、通常RARのみでは、「炭素」の量は不明であるので、本発明のRARで補完することにより、実操業の「炭素」供給量管理に関して、より正確を期すことが可能となる。
【0043】
図3には、本発明のRARと、通常RARの相関関係について、炉容積の異なる4つの高炉に対して比較した結果を示している。それぞれの高炉に対して、24時間平均で算出した2つのRARを更に30日平均にして、プロットしている。縦軸(本発明のRAR)と横軸(通常RAR)は、既に説明した理由により、その絶対値がずれている。図3には、実線と破線の2つのラインも図示されているが、これらのラインは、式(12)と式(15)より、本発明のRARと、通常RARが、概略、式(16)で示した関係にあると仮定して直線表示したものである。式(16)は、溶銑の中に溶け込んでいる炭素質量%Mass%Cや、炉頂から排出されるダスト中のカーボン量DustCの影響が、無視できるとした場合に、概略成立する近似式である。
【0044】
【数5】

【0045】
図3の凡例に示したように、実線が、コークスと微粉炭の炭素基準分子量MWCoke&PC=15とした時の、破線が、コークスと微粉炭の炭素基準分子量MWCoke&PC=16とした時の、それぞれの直線である。標準的なコークスの炭素基準分子量MWCoke&PCが、概略15程度であることを考慮すると、本発明のRARと通常RARの関係は、この2つの直線の周辺にプロットされることが予想できる。
【0046】
高炉1と高炉2については、ほぼ両直線の間で操業されており、コークスや微粉炭等の炭材原料条件変化幅が、比較的小さいことが推察できる。一方、高炉3については、特に「A」で示した領域において、通常RARは低い操業でありながら、本発明のRARで見ると、相対的に高い操業を行っていたことを示している。この現象を定性的に説明すると、この領域「A」での期間の高炉3は、使用した炭材の原料条件として、アッシュの含有比率が低く、比較的炭素含有率の高い原料を用いて操業していた可能性が高いと解釈することができる。その反対に、高炉4については、「B」で示した領域において、通常RARが高い操業でありながら、本発明のRARは相対的に低い操業を行っていたことを示している。これも、同様の説明を加えると、この領域「B」の期間での高炉4は、アッシュの含有比率が高く、炭素含有率の低い劣質原料を用いて操業していた可能性が高いと解釈することができる。
【0047】
このように、通常RARは、元々が、炭材の単純質量に基づいて算出しているために、原理的に、炭材原料に含まれる「炭素」と「不純物」を区別することはできない。つまり、通常RARは、実際の炭素使用量を適正に反映した指標にはならないのである。そこで、本発明のRARを援用することで、図3のような関係を明示することができ、実際の「炭素」使用量を把握することが可能となるのである。例えば、日々の操業管理の中で、図3の高炉4の領域「B」にあるような場合には、羽口からの送風条件を「いつもより」増熱側に設定する等して、「炭素」不足分を補うようなアクションを実行すれば、大きな操業トラブルを回避することが可能となる。
【0048】
以上、説明してきたように、たとえ、通常RARを中心として高炉操業管理する場合にも、本発明のRARから図3のような関係を求めて、通常RAR計算値の妥当性を評価し、的確な操業アクション判断に結び付けていくことは、非常に有意義であると考えられる。既に説明したように、図3に示した両者RARの相関関係のプロット位置は、使用した炭材に含まれる不純物量に依存している。従って、図3の「A」や「B」のポジションに操業状態がある場合には、念のために、使用しているコークス、及び微粉炭について、その工業分析値、アッシュの質量比率、アッシュの成分分析値等、不純物分析結果も照合した上で、通常RAR計算値の妥当性が評価できれば、さらに望ましい高炉操業アクション判断ができると考えられる。
【符号の説明】
【0049】
101 入力部
102 演算部
103 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉炉内に吹き込まれた不活性ガス総流量と、炉頂排出ガスの該不活性ガス体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、該炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、該炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、高炉で使用した全炭素使用量、又は、還元材比(RAR)を算出することを特徴とする高炉における炭素使用量の算出方法。
【請求項2】
該不活性ガスとして窒素を用いることを特徴とする請求項1に記載の高炉における炭素使用量の算出方法。
【請求項3】
前記RARと、高炉への供給炭材の使用量から算出された通常RARを比較することで、該通常RARの妥当性を評価することを特徴とする請求項1又は2に記載の高炉における炭素使用量の算出方法。
【請求項4】
高炉炉内に吹き込まれた不活性ガス総流量と、炉頂排出ガスの該不活性ガス体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、該炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、該炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、高炉で使用した全炭素使用量、又は、還元材比(RAR)を算出する演算手段を備えたことを特徴とする高炉における炭素使用量の算出装置。
【請求項5】
高炉炉内に吹き込まれた不活性ガス総流量と、炉頂排出ガスの該不活性ガス体積分率分析値から、炉頂排出ガス総流量を求めて、該炉頂排出ガスの二酸化炭素体積分率及び一酸化炭素体積分率から、該炉頂排出ガスからの炭素排出量を算出し、高炉で使用した全炭素使用量、又は、還元材比(RAR)を算出する処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−157605(P2011−157605A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21447(P2010−21447)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】