説明

高炉の炉内ガス流分布推定方法、高炉の炉内ガス流分布推定装置及び高炉の炉内ガス流分布推定プログラム

【課題】炉頂部内の炉内ガスの流量を直接測定することなく、炉頂部内の炉内ガスのガス温度、高炉内の原料高さ及び炉内ガスの総ガス流量の測定値に基づいて、炉頂部内を流れる炉内ガスのガス流分布を推定する。
【解決手段】ガス流分布推定装置34は、炉頂部14内における複数のガス測定点で測定されたガス温度TGM、複数の高さ測定点で測定された原料高さRMM及び、炉頂部14内を流れる炉内ガスの総ガス流量GTLの測定値に基づいて、複数のガス測定点をそれぞれ流れる炉内ガスのガス流分布を推定する。これにより、保守性、耐久性の観点から問題のある流量計、流速計等の気流センサにより炉頂部14内の炉内ガスGの流量又は流速を直接測定する必要がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の炉頂部内における半径方向に沿って異なる複数のガス測定点をそれぞれ流れる炉内ガスのガス流分布を推定する高炉の炉内ガス流分布推定方法、高炉の炉内ガス流分布推定装置及び高炉の炉内ガス流分布推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
安定な高炉操業を実現するためには、鉱石やコークス等装入物の炉内での堆積状況を把握するとともに、その結果として現れる炉内を通過する還元性ガスのガス流分布が重要な指標となるのは周知の事実である。ここで、ガス流分布とは、高炉における鉄鉱石、コークス等の装入原料上の空間である炉頂部内を流れる炉内ガスの流れの分布のことを言い、具体的には、炉内ガスの流速分布及び流量分布の何れかである。このガス流分布を適正にするためには、装入原料を構成するコークス、鉄鉱石等の原料毎の半径方向分布の調整することが必要となるが、その調整を実行する時点でのガス流分布を測定することにより、初めて原料毎の半径方向分布が望ましい分布となるような装入量、装入位置等を的確に判断することが可能になる。
【0003】
高炉操業では、例えば、炉内ガスのガス流分布を求める手段として、従来から流量計、流速計等の気流センサによりガス流量、ガス流速等を直接的に計測することが試みられているが、高炉炉内という悪環境下では、気流センサは、耐熱性の問題、目詰まりの問題等のために安定して長期運用できなかった。このため、炉頂ゾンデ等で計測する半径方向の温度分布やガス利用率分布といった計測値をガス流分布の代替データとして用いていた。
【0004】
これに対し、特許文献1には、高炉炉内塊状帯の高さ方向に微小区間をへだててすくなくとも4点のガス温度検出点を設け、その微小区間の原料温度差とガス温度差、原料降下速度等からガス流速を算出する方法(高炉内ガス流速測定方法)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−167610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の高炉内ガス流速測定方法では、原料の降下速度及びガス温度を測定するために、高炉内の塊状帯の内部までゾンデ(垂直ゾンデ)を挿入する必要があるので、この垂直ゾンデを用いた測定システムを長期に亘って連続使用する場合、測定システムの保守性及び耐久性の面から問題が生じてしまう。
本発明の目的は、上記事実を考慮し、炉頂部内の炉内ガスの流量を直接測定することなく、炉頂部内の炉内ガスのガス温度、高炉内の原料高さ及び炉内ガスの総ガス流量の測定値に基づいて、炉頂部内を流れる炉内ガスのガス流分布を推定できる高炉の炉内ガス流分布推定方法、高炉の炉内ガス流分布推定装置及び高炉の炉内ガス流分布推定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る高炉の炉内ガス流分布推定方法は、高炉の炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度を、該炉頂部の半径方向に沿ってそれぞれ異なる複数のガス測定点にて測定するガス温度測定ステップと、高炉内における前記測定点に対応する高さ測定点における装入原料の原料高さを測定する原料高さ測定ステップと、前記炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量を測定する炉内ガス流量測定ステップと、前記ガス温度測定ステップ、前記原料高さ測定ステップ及び前記炉内ガス測定ステップを、高炉内への原料装入後かつ次回原料装入前における2以上のサンプリング時刻にそれぞれ実行し、これら2以上の前記サンプリング時刻に測定された複数の前記ガス温度及び前記原料高さ並びに前記総ガス流量に基づいて、複数の前記ガス測定点を流れる前記炉内ガスのガス流分布を推定するガス流量分布推定ステップと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る高炉の炉内ガス流分布推定装置は、高炉の炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度を、該炉頂部の半径方向に沿ってそれぞれ異なる複数のガス測定点にて測定するガス温度測定手段と、高炉内における前記測定点に対応する高さ測定点における装入原料の原料高さを測定する原料高さ測定手段と、前記炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量を測定する炉内ガス流量測定手段と、前記ガス温度測定ステップ、前記原料高さ測定ステップ及び前記炉内ガス測定ステップを、高炉内への原料装入後かつ次回原料装入前における2以上のサンプリング時刻にそれぞれ実行し、これら2以上の前記サンプリング時刻に測定された複数の前記ガス温度及び前記原料高さ並びに前記総ガス流量に基づいて、複数の前記ガス測定点を流れる前記炉内ガスのガス流分布を推定するガス流量分布推定手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る高炉の炉内ガス流分布推定プログラムは、高炉の炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度を、該炉頂部の半径方向に沿ってそれぞれ異なる複数のガス測定点にて測定するガス温度測定ステップと、高炉内における前記測定点に対応する高さ測定点における装入原料の原料高さを測定する原料高さ測定ステップと、前記炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量を測定する炉内ガス流量測定ステップと、前記ガス温度測定ステップ、前記原料高さ測定ステップ及び前記炉内ガス測定ステップを、高炉内への原料装入後かつ次回原料装入前における2以上のサンプリング時刻にそれぞれ実行し、これら2以上の前記サンプリング時刻に測定された複数の前記ガス温度及び前記原料高さ並びに前記総ガス流量に基づいて、複数の前記ガス測定点を流れる前記炉内ガスのガス流分布を推定するガス流量分布推定ステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0010】
上記本発明に係る高炉の炉内ガス流分布推定方法、高炉の炉内ガス流分布推定装置及び高炉の炉内ガス流分布推定プログラムでは、高炉の炉頂部内における複数のガス測定点で測定されたガス温度、高炉内における複数の前記測定点にそれぞれ対応する複数の高さ測定点で測定された原料高さ及び、炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量の測定値に基づいて、複数のガス測定点をそれぞれ流れる炉内ガスのガス流分布を推定するので、保守性、耐久性の観点から問題のある流量計、流速計等の気流センサにより炉頂部内の炉内ガスの流量又は流速を直接測定する必要がなくなり、炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度、原料高さ及び炉内ガスの総ガス流量の測定値のみに基づいて、炉頂部内を流れる炉内ガスのガス流分布を推定できる。
【0011】
従って、上記本発明に係る高炉の炉内ガス流分布推定方法、高炉の炉内ガス流分布推定装置及び高炉の炉内ガス流分布推定プログラムによれば、例えば、炉頂部内に配置された流量計等のセンサにより炉内ガスの流量を直接測定する場合や、垂直ゾンデ等の装入原料内に装入されたセンサを用いてガス流量(又は流速)を測定又は推定する場合と比較し、炉内ガス流分布を推定するために用いられる各種のセンサに対する熱的、化学的及び物理的な負荷を軽減できるので、測定システムの耐久性及び保守性を大幅に向上でき、測定システムを長期間に亘って安定的に連続使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の高炉の炉内ガス流分布推定方法、高炉の炉内ガス流分布推定装置及び高炉の炉内ガス流分布推定プログラムによれば、炉頂部内の炉内ガスの流量を直接測定することなく、炉頂部内の炉内ガスのガス温度、高炉内の原料高さ及び炉内ガスの総ガス流量の測定値に基づいて、炉頂部内を流れる炉内ガスのガス流分布を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るガス流分布推定方法が適用される高炉設備の構成を示す一部をブロック図とした断面図である。
【図2】図1に示される炉頂部の水平方向に沿った断面図である。
【図3】高炉本体内に装入された装入原料と炉内ガスとの熱的関係を模式的に示す断面図である。
【図4】高炉本体内に新しい装入原料が装入される直前の状態から新しい装入原料が装入されてから一定時間が経過するまでの期間における炉内ガス及び装入原料の温度推移を示すグラフである。
【図5】図5のフローチャートに基づいて、本発明の実施形態に係るガス流分布推定方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】ガス温度TGMを含む測定データを用いて推定された炉頂部内を流れる炉内ガスのガス流分布の一例を三次元的に示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る高炉の炉内ガス流分布推定方法及び高炉の炉内ガス流分布推定装置について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る高炉の炉内ガス流分布推定方法(以下、単に「ガス流分布推定方法」)が適用される高炉設備が示されている。この高炉設備10は全体として円筒状に形成された高炉本体12を備えている。高炉本体12内には、装入原料Mを構成する鉄鉱石Ore、コークスCoke等が積層状態で装入されており、この装入原料の上表面より上側の部分が炉頂部14とされている。炉頂部14の上端には炉口16が開口している。
【0015】
高炉設備10には、高炉本体12の上方に鉄鉱石、コークス等の装入原料Mを貯留する集合ホッパ18が配置されると共に、この集合ホッパ18の下端部に接続された旋回シュート20が配置されている。旋回シュート20は、集合ホッパ18内に貯留された装入原料Mを高炉本体12内に投入するためのものであり、高炉本体12内への装入原料Mの投下位置が旋回方向及び半径方向に沿ってそれぞれ調整可能とされている。
【0016】
炉頂部14には複数本(本実施形態では、4本)の炉頂ゾンデ22が配置されている。4本の炉頂ゾンデ22は、図2に示すように、高炉本体12の半径方向に沿って炉頂部14の周壁から中心近くまで延びている。なお、図2中の符号24E、25W、26S及び27Nは、炉頂部14における東端部、西端部、南端部及び北端部をそれぞれ示しており、4本の炉頂ゾンデ22は、東端部24E、西端部25W、南端部26S及び北端部27Nにそれぞれ配置されている。
【0017】
炉頂ゾンデ22には、複数個(本実施形態では、6個)の温度センサ281〜286が配置されている。なお、温度センサ28に付された下付きの添字1〜6は、中心部から外周側へ向って昇べきの順に付されている。6個の温度センサ281〜286はそれぞれ所定のガス測定点に配置されており、これら6個のガス測定点は半径方向に沿って略等ピッチになるように配列されている。
【0018】
図1に示すように、炉頂部14には、炉頂ゾンデ22の上側にプロフィール計30が配置されている。プロフィール計30は、前記ガス測定点にそれぞれ対応する高さ測定点における装入原料Mの上表面までの測定を検出するのが好ましいが、ガス測定点と同じ点数(本実施形態では、24個)の高さ測定は実際上、困難である。従って、周方向には同じ高さであると見做すこととし、周方向に1点で径方向の高さ分布を測定する。もちろん、プロフィール計30を周方向に複数点設置できるのであれば、そうしても構わない。ここで、プロフィール計30としては、例えば、マイクロ波を用いた公知の非接触型の距離センサを用いることができる。
【0019】
図1に示すように、高炉設備10には、炉口16から排出される炉内ガスの流量を測定するガス流量計32が設けられている。このガス流量計32は、例えば、炉口16に接続された炉内ガス用ダストキャッチャ(図示省略)に配置されており、この炉内ガス用ダストキャッチャを流れるガスの流量(総ガス流量)を測定する。ここで、炉内ガス用ダストキャッチャ内を流れる総ガス流量(質量)は、炉頂部14内を流れる炉内ガスの総ガス流量GTL(質量)と一致する。
【0020】
図1に示すように、高炉設備10はガス流分布推定装置34を備えている。このガス流分布推定装置34は、例えば、演算機能を有するプログラマブルコントローラ(PLC)、データ及び信号の入出力装置等により構成されており、4本の炉頂ゾンデ22(温度センサ28)と共にガス温度測定手段を構成するガス温度測定部36、プロフィール計30と共に原料高さ測定手段を構成する原料高さ測定部38及び、ガス流量計32と共に炉内ガス流量測定手段を構成するガス流量測定部40を備えている。
【0021】
ここで、ガス温度測定部36は、炉頂ゾンデ22の温度センサ281〜286からそれぞれ入力する測定信号をガス温度TGMに変換する。原料高さ測定部38は、プロフィール計30から入力する測定信号を原料高さRMMに変換する。またガス流量測定部40は、ガス流量計32から入力する測定信号を炉内ガス用ダストキャッチャ内における総ガス流量GTLに変換する。
【0022】
ガス流分布推定装置34は、ガス温度測定部36、原料高さ測定部38及びガス流量測定部40からそれぞれ入力するガス温度TGM、原料高さRMM及び総ガス流量GTLに基づいて、炉頂部14内のガス測定点を流れる炉内ガスのガス流分布を推定するガス流分布推定部44及び、このガス流分布(推定値)をプロセスコンピュータ等の上位のコンピュータに出力し、また上位のコンピュータから原料装入信号等の各種信号を受け取るためのデータ入出力部42を備えている。
【0023】
次に、本実施形態に係るガス流分布推定装置34により実施されるガス流分布推定方法について説明する。本実施形態のガス流分布推定方法は、向流伝熱モデルを用いて、炉頂部14内における複数個のガス測定点をそれぞれ流れる炉内ガスの流量(ガス流量)を計算し、複数個のガス測定点を流れる炉内ガスのガス流分布を推定するものである。
操業中の高炉設備10では、集合ホッパ18内の鉄鉱石やコークス等の装入原料Mが旋回シュート20を通して高炉本体12内に間欠的に装入される。また高炉本体12では、羽口(図示省略)から吹き込まれた高温の空気がコークスCoke等との反応により還元性の炉内ガスとなり、装入原料M間の隙間を通って炉頂部14内へ流入し、炉頂部14から高炉本体12の外部へ排出される。このようなプロセスにおいて、高温の炉内ガスは、装入原料Mとの間で熱交換を行なうため、装入原料Mが高炉本体12内へ装入されると、その直後から熱交換の影響により炉頂部14内を流れる炉内ガス及び装入原料の温度がそれぞれ変化(下降及び上昇)する。
【0024】
図3は、高炉本体内に装入された装入原料と炉内ガスとの熱的関係を模式的に示す断面図であり、(A)は新たな装入原料が装入される直前の状態、(B)新たな装入原料が装入された直後の状態、(C)は(B)の状態から一定時間が経過した状態を示している。
図3(A)の新たな装入原料MNWが装入される直前の状態では、前回の装入原料MOLが炉内ガスGにより十分に昇温され略均熱状態になりつつある。これにより、炉頂部14内を流れる炉内ガスのガス温度が定常状態(平衡温度)に近づきつつある状態になる。図3(B)の新たな装入原料が装入された直後の状態では、略常温の装入原料MNWが前回の装入原料MOL上に積層された結果、炉内ガスGから装入原料MNWへ熱が移動することにより、図3(A)の状態と比較し、炉頂部14内を流れる炉内ガスGのガス温度が急峻に低下する。
【0025】
図3(C)の(B)の状態から一定時間が経過した状態では、新しい装入原料MNWが炉内ガスGにより徐々に昇温され、装入原料MNWの昇温に伴って炉頂部14内を流れる炉内ガスGのガス温度も徐々に上昇する。
図4のグラフには、装入原料及び炉内ガスが図3(A)の状態から図3(C)の状態に移行する際の炉内ガス及び装入原料の温度推移が示されている。この図4を参照しつつ、本実施形態のガス流分布推定方法の基本原理を説明する。
【0026】
図3(A)〜図3(C)に基づいて説明したように、炉頂ゾンデ22で計測された炉内ガスGのガス温度TGMは、新たな装入原料Mが間欠的に装入される毎に下降した後、上昇する変化を繰り返す。この際、ガス温度TGMが下降するのは、常温の新しい装入原料Mが装入されるからである。しかしながら、図4に示すように、下降するのはあくまで新しく装入された装入原料Mの上面におけるガス温度TGT度であり、新しく装入された装入原料Mの下面におけるガス温度TGLは上昇し続けると考えられる。なお、装入原料Mの上面におけるガス温度TGTは、炉頂ゾンデ22により計測されるガス温度TGMと一致するものとみなす。
【0027】
ガス温度TGLは、新しい装入原料Mの装入直前までのガス温度TGMを外挿することにより、推定が可能である。この外挿は、例えば2点による直線近似、3点による2次曲線近似等を適用することが可能であり、また熱交換の際の基本的結果である指数関数としての当てはめを行えば更に精度が高くなる。また符合TMが付された二点鎖線は、装入原料MNW自体の温度推移(推定値)を示している。
【0028】
図4において、横軸(時間軸)にプロットされたサンプリング時刻t1及びt2は、新たな装入原料Mの装入後、ガス温度TGMが上昇し続けている期間内にそれぞれ設定された時刻であり、サンプリング時刻t1はガス温度TGMが上昇開始した直後の時期であり、またサンプリング時刻t2は、サンプリング時刻t1から所定のサンプリング周期Δtが経過した時刻である。ここで、サンプリング時刻t2は、次の装入原料Mの装入前であって、ガス温度TGMが定常状態になる前ならば任意の時期に設定できる。このとき、向流伝熱の考え方より、微小時間ΔtINT間で、任意のガス測定点におけるガス流量が変化しないとするとサンプリング時刻t1及びt2において、それぞれ下記(1)及び(2)式が成り立つ。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
上記(1)及び(2)式にて、
Vg:単位面積当たりの炉内ガス質量流量(kg/m2・sec)
Cg:ガス比熱(J/kg・K)
Cs:固体比熱(J/kg・K)
Tg1:サンプリング時刻t1におけるガス温度TGM(K)
Tg2:サンプリング時刻t2におけるガス温度TGM(K)
ΔTg1:サンプリング時刻t1におけるガス温度TGTとガス温度TGLとの温度差(K)
ΔTg2:サンプリング時刻t2におけるガス温度TGTとガス温度TGLとの温度差(K)
Ts1:サンプリング時刻t1における今回の装入原料Mの温度(K)
Ts2:サンプリング時刻t2における今回の装入原料Mの温度(K)
h:伝熱係数(J/m2・sec・K)
a:装入原料Mの単位容積当りの粒子表面積(m2/m3
ΔZ:今回の装入原料Mの層高さ(m)
S:炉頂部の断面積(m2
ρ:装入原料Mの密度(kg/m3
ΔS:微小面積(m2
ΔtINT:微小時間(sec)
Δt:サンプリング時間(sec)=t2-t1とする。
【0032】
上記(1)及び(2)式では、いずれも左辺が熱交換により高温ガスが失う熱量(J)であり、右辺が装入原料Mの粒子表面位置におけるガス温度(高温)と装入原料Mの温度(低温)の差に比例する交換熱量を表す。なお、(1)及び(2)式の左辺及び右辺には、それぞれΔtINT及びΔSが挿入されているが、これらのΔtINT及びΔSについては両辺でキャンセルされる。
【0033】
一方、Δt間で、炉内ガスGと固体(装入原料M)が向流伝熱にて交換した熱量は互いに等しいので、下記(3)式が成り立つ。
【0034】
【数3】

【0035】
但し、上記(3)式では、Δt秒間における炉内ガスGのガス温度上昇分はサンプリング時刻t1及びt2でそれぞれ測定されたガス温度TGMの平均で近似している。上記(1)、(2)及び(3)式よりVgについて解くと、下記(4)式が求められる。
【0036】
【数4】

【0037】
また、下記(5)式に示すように、炉頂ゾンデ22の温度センサ281〜286(ガス測定点)に対応付けて、炉頂部14の断面を半径方向に沿って同心状に6分割すると共に、周方向に沿って扇状に4分割することにより、24個の断面の分割領域を設定する。4本の炉頂ゾンデ22の温度センサ281〜286は、それぞれ24個の分割領域の幾何学的な中心に配置されている。
【0038】
このとき、24個の分割領域をそれぞれ通過する炉内ガスの流量(kg/sec)を全ての分割領域について累計した値は、炉頂部14内を流れる炉内ガスGの総ガス流量GTLと一致する。このとき、分割領域をそれぞれ通過する炉内ガスの質量流量(kg/sec)は、分割領域の代表点(ガス測定点)におけるガス質量流量Vgと分割領域の面積との積により求める。従って、(4)式に存在する未知数haは、(4)式を(5)式に代入して、haについて解くことにより求めることができる。
【0039】
Σ(ガス質量流量Vg×分割領域の面積)=総ガス流量GTL (5)
このように求められた、haを(4)式に代入して、温度センサ281〜286(ガス測定点)におけるガス流量を求める。これによって、炉頂部14内における炉内ガスの流量分布を算出する。実際の演算においては、炉頂部14の装入原料Mのレベル高さの全領域において上記計算を可能とするため、次の(a)〜(g)の仮定を設ける。
【0040】
(a)装入原料Mは周方向に沿って均一厚に投入されている。つまり、装入原料Mの厚さは周方向に沿って変化しない。
(b)炉頂ゾンデ22の温度センサ281〜286の特性(時定数)はすべて同一とする。
(c)装入原料Mが装入された後の装入原料Mの温度上昇は向流伝熱による温度上昇のみとする。
(d)装入原料Mの蒸発潜熱は考慮しない。
(e)同一のタイミング(チャージ)で装入される装入原料Mは、粒径、かさ密度、比熱は同一である。すなわち、計算の対象期間においては、装入原料Mの粒径、かさ密度、比熱は変化しない。
(f)装入原料Mの高さ計測後の装入原料Mの流れ込み等の移動は考慮しない。
(g)装入原料Mにおける半径方向に沿った伝導伝熱は考慮しない。
【0041】
次に、図5のフローチャートに基づいて、本実施形態に係るガス流分布推定方法について詳細に説明する。先ずステップS100にて、ガス流分布推定部44は、所定の周期毎に、データ入出力部42を介して上位のコンピュータから原料装入信号が入力したか否かを判断する。
ステップS102にて、ガス流分布推定部44は原料装入信号の入力を判断すると、ステップS102にて、ループカウント数Kに“1”を設定すると共に、原料装入信号の入力時を基準として所定時刻としてサンプリング時刻t1を設定する。
【0042】
ガス流分布推定部44は、ステップS104にて、現在時刻が所定時刻(サンプリング時刻t1)に達したか否かを判断し、サンプリング時刻t1に達した場合には、ステップS106にて、ガス温度測定部36にアクセスし、サンプリング時刻t1に温度センサ281〜286により測定されたガス温度TGMを取り込む。ガス流分布推定部44は、ステップS108にて、原料高さ測定部38にアクセスし、サンプリング時刻t1にプロフィール計30により測定された高さ測定点における原料高さRMMを取り込む。またガス流分布推定部44は、ステップS110にて、ガス流量測定部40にアクセスし、サンプリング時刻t1にガス流量計32により測定された総ガス流量GTLを取り込む。
【0043】
ガス流分布推定部44は、サンプリング時刻t1に対応付けて、ガス測定点毎のガス温度TGM、ガス測定点にそれぞれ対応する高さ測定点毎の原料高さRMM及び総ガス流量GTLをそれぞれ内部メモリ(図示省略)に一時記憶する。
また、ガス流分布推定部44は、ステップS112にて、ループカウント数Kが“2”であるか否かを判断し、ループカウント数Kが“2”ではない場合(K=1である場合)、ステップS114にて、ループカウント数Kに“1”を加算すると共に、ステップS102で設定されたサンプリング時刻をt1からt2に変更した後、制御ルーチンをステップS104にリターンする。この場合、ガス流分布推定部44は、サンプリング時刻t2についてステップS104〜ステップS108の処理を再度実行することにより、サンプリング時刻t2における、ガス測定点毎のガス温度TGM、ガス測定点にそれぞれ対応する高さ測定点毎の原料高さRMM及び総ガス流量GTLを取り込み、これらのデータをサンプリング時刻t2に対応付けて内部メモリに一時記憶する。
【0044】
ガス流分布推定部44は、ステップS110でループカウント数Kが“2”であると判断した場合、ステップS116にて、(5)式の条件(Σ(ガス質量流量Vg×分割領域の面積)=総ガス流量GTL)を充足するように、(4)式の未知数haを決定し、ステップS116にて、決定された未知数haが代入された(4)式に基づいて、複数個(本実施形態では、24個)のガス測定点における炉内ガス質量流量Vgをそれぞれ算出した後、これらの炉内ガス質量流量Vgに基づいてガス流分布を推定する。
【0045】
ガス流分布推定部44は、ステップS120にて、ステップS118で得られた複数個のガス測定点におけるガス流分布の推定値を、データ入出力部42を介して上位のコンピュータに出力する。なお、ガス流分布推定部44により複数個のガス測定点における炉内ガス質量流量Vgの算出値を上位のコンピュータに出力し、上位のコンピュータによりガス流分布を推定させるようにしても良い。
【0046】
またガス流分布推定部44は、ステップS122にて、ガス流分布推定処理を終了するか否かを判断する。すなわち、ガス流分布推定部44は、今回の装入原料Mの装入から、次回の装入原料Mの装入までの期間中に、1回のみステップS104〜ステップS120の処理を実行する場合には、ガス流分布推定処理を終了することを判断する。
しかし、次回の装入原料Mの装入までの期間中に、2回以上に亘ってガス流分布推定処理を実行することも可能であり、その場合には、前回のサンプリング時刻t2を新しいサンプリング時刻t1とすると共に、新しいサンプリング時刻t2を再設定することにより、2回目以降のガス流分布推定処理を実行する。これにより、今回の装入原料Mの装入から、次回の装入原料Mまでの期間中における、サンプリング周期Δt毎のガス流分布の推移を把握することが可能になる。
【0047】
以上説明した本実施形態に係るガス流分布推定方法を実施するガス流分布推定装置34では、炉頂部14内における複数のガス測定点で測定されたガス温度TGM、複数の高さ測定点で測定された原料高さRMM及び、炉頂部14内を流れる炉内ガスの総ガス流量GTLの測定値に基づいて、複数のガス測定点をそれぞれ流れる炉内ガスのガス流分布を推定するので、保守性、耐久性の観点から問題のある流量計、流速計等の気流センサにより炉頂部14内の炉内ガスGの流量又は流速を直接測定する必要がなくなり、炉頂部14内を流れる炉内ガスGのガス温度TGM、原料高さRMM及び炉内ガスGの総ガス流量GTLの測定値のみに基づいて、炉頂部14内を流れる炉内ガスGのガス流分布を精度良く推定できる。
【0048】
従って、本実施形態のガス流分布推定装置34によれば、例えば、炉頂部内に配置された流量計等のセンサにより炉内ガスの流量を直接測定する場合や、垂直ゾンデ等の装入原料内に装入されたセンサを用いてガス流量(流速)を測定又は推定する場合と比較し、炉内ガス流分布を推定するために用いられるセンサである炉頂ゾンデ22(温度センサ281〜286)、プロフィール計30及びガス流量計32に対する熱的、化学的及び物理的な負荷を軽減できるので、装置の耐久性及び保守性を大幅に向上でき、装置を長期間に亘って安定的に連続使用することができる。
【0049】
なお、上述の本実施形態で説明したガス流分布推定装置34がガス流分布推定方法を実行するための各機能は、専用のハードウエア(本実施形態では、PLC及び入出力装置)を用いて構成されていたが、これに留まらず、ソフトウエアを用いて各機能を記載したプログラムを汎用のコンピュータに読み込ませて実現することもできる。また、各機能は、適宜ソフトウエア、ハードウエアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0050】
更に、各機能は図示しない記憶媒体に格納したプログラムをコンピュータに読み込ませることで実現させることもできる。ここで本実施の形態における記憶媒体は、プログラムを記憶でき、かつコンピュータが読み取り可能な記憶媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。
また本実施形態では、炉頂部14内を流れる総ガス流量GTLを炉内ガス用ダストキャッチャ(図示省略)の出口側に配置されたガス流量計32により測定していたが、総ガス流量GTLは、炉口16から排出される炉内ガスを構成する各成分の比率を測定することによっても算出することができる。この場合には、総ガス流量GTLは、下記(6)式により求めることができる。
【0051】
【数5】

【0052】
上記(6)式において、
a:装入原料M中の炭素量(kg/ton)
b:石灰石中の炭素量(kg/ton)
C:装入原料M及び石灰石以外の装入物に含まれる炭素量(kg/ton)
f:銑鉄中に入ることで消費される炭素量(kg/ton)
g:ガス灰中に逃げる炭素量(kg/ton)
j:炉内ガスに含まれるCO2(wt%)
k:炉内ガスに含まれるCO(wt%)
l:炉内ガスに含まれるCH4(wt%)である。
【実施例】
【0053】
図6には、図4のサンプリング時刻t1及びt2に、4本の炉頂ゾンデの温度センサによりそれぞれ実測されたガス温度TGMを含む測定データを用いて推定されたガス流分布が三次元的な分布図により示されている。この図7において、X軸は東西方向、Y軸は南北方向をそれぞれ示しており、Z軸は指数化された炉内ガス質量流量Vgを示している。炉頂部14の水平断面を流れる炉内ガスのガス流分布は、図7に示されるように、半径方向に沿って中心部で最も高く、中心部から周辺部へ向かってガス流量が急峻に低下している。またガス流分布は、半径方向に沿って炉頂部14の断面における中心部と周辺部との間で低流量となり、周辺部で外周側へ向ってガス流量が上昇している。従って、炉頂部14の水平断面を流れる炉内ガスのガス流分布は、中心部及び周辺部のガス流量がそれぞれ高い略W字状の分布パターンとなっている。
【符号の説明】
【0054】
10 高炉設備
12 高炉本体
14 炉頂部
16 炉口
18 集合ホッパ
20 旋回シュート
22 炉頂ゾンデ
24E 東端部
25W 西端部
26S 南端部
27N 北端部
28 温度センサ
30 プロフィール計
32 ガス流量計
34 ガス流分布推定装置
36 ガス温度測定部
38 原料高さ測定部
40 ガス流量測定部
42 データ入出力部
44 ガス流分布推定部
G 炉内ガス
TL 総ガス流量
M、MNW、MOL 装入原料
t1、t2 サンプリング時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度を、該炉頂部の半径方向に沿ってそれぞれ異なる複数のガス測定点にて測定するガス温度測定ステップと、
高炉内における前記ガス測定点に対応する高さ測定点における装入原料の原料高さを測定する原料高さ測定ステップと、
前記炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量を測定する炉内ガス流量測定ステップと、
前記ガス温度測定ステップ、前記原料高さ測定ステップ及び前記炉内ガス測定ステップを、高炉内への原料装入後かつ次回原料装入前における2以上のサンプリング時刻にそれぞれ実行し、これら2以上の前記サンプリング時刻に測定された複数の前記ガス温度及び前記原料高さ並びに前記総ガス流量に基づいて、複数の前記ガス測定点を流れる前記炉内ガスのガス流分布を推定するガス流量分布推定ステップと、
を有することを特徴とする高炉の炉内ガス流分布推定方法。
【請求項2】
高炉の炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度を、該炉頂部の半径方向に沿ってそれぞれ異なる複数のガス測定点にて測定するガス温度測定手段と、
高炉内における前記測定点に対応する高さ測定点における装入原料の原料高さを測定する原料高さ測定手段と、
前記炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量を測定する炉内ガス流量測定手段と、
前記ガス温度測定ステップ、前記原料高さ測定ステップ及び前記炉内ガス測定ステップを、高炉内への原料装入後かつ次回原料装入前における2以上のサンプリング時刻にそれぞれ実行し、これら2以上の前記サンプリング時刻に測定された複数の前記ガス温度及び前記原料高さ並びに前記総ガス流量に基づいて、複数の前記ガス測定点を流れる前記炉内ガスのガス流分布を推定するガス流量分布推定手段と、
を有することを特徴とする高炉の炉内ガス流分布推定装置。
【請求項3】
高炉の炉頂部内を流れる炉内ガスのガス温度を、該炉頂部の半径方向に沿ってそれぞれ異なる複数のガス測定点にて測定するガス温度測定ステップと、
高炉内における前記測定点に対応する高さ測定点における装入原料の原料高さを測定する原料高さ測定ステップと、
前記炉頂部内を流れる炉内ガスの総ガス流量を測定する炉内ガス流量測定ステップと、
前記ガス温度測定ステップ、前記原料高さ測定ステップ及び前記炉内ガス測定ステップを、高炉内への原料装入後かつ次回原料装入前における2以上のサンプリング時刻にそれぞれ実行し、これら2以上の前記サンプリング時刻に測定された複数の前記ガス温度及び前記原料高さ並びに前記総ガス流量に基づいて、複数の前記ガス測定点を流れる前記炉内ガスのガス流分布を推定するガス流量分布推定ステップと、をコンピュータに実行させることを特徴とする高炉の炉内ガス流分布推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−209404(P2010−209404A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56499(P2009−56499)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】