説明

高炉発生物中の湿ダストの再活用方法

【課題】製鉄用の高炉排ガスから集塵された湿ダストの有効活用のため、該湿ダストを、鉄(Fe)を目的として利用する部分と、カーボン(C)を目的として利用する部分と、亜鉛(Zn)を目的として利用する部分に三分離する簡易、実用的かつ有効な高炉発生物中の湿ダストの再活用方法を提供する。
【解決手段】湿ダストをスラリー状となし、そのスラリーの湿式磁選15を行い、その非磁着物に対して湿式サイクロン処理17、18を二段行ない、鉄(Fe)を目的として利用する部分と、カーボン(C)を目的として利用する部分と、亜鉛(Zn)を目的として利用する部分に分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄工程で生じる発生物を再度製鉄工程で有効利用するためのリサイクル方法、より詳しくは、製鉄高炉からの排ガスの集塵物である湿ダスト中の鉄(Fe)とカーボン(C)と亜鉛(Zn)の三者の相互分離による、湿ダストの再活用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉排ガスから集塵されるダストには、乾式で集塵される粗粒の一次集塵ダスト(乾式集塵ダスト)と湿式で集塵される微粒の二次集塵ダスト(湿式集塵ダスト、湿ダスト)とがある。乾式集塵ダストは、Feの回収のためほぼ全量が焼結原料として再利用されている。
ところが、湿ダストはFe源として焼結工程で利用するにしても、微粒であるため含水率が高く、脱水しても焼結操業への悪影響があることにも増して、一般にZnの含有量が多く、高炉内の炉材の損傷や炉壁付着物生成の助長の原因となるなどの悪影響が有り、焼結原料に使用等の方法による高炉原料としてのリサイクル使用が制約され、廃棄されることも多い。
【0003】
この高炉排ガスから集塵された湿ダスト活用のためには脱Zn処理を行なう必要があり、従来法の湿ダスト活用のためのプロセス全体の一例を図4に示すが、脱水機で処理された湿ダストは、還元炉による処理が行われることが多い。その還元炉操業では、還元剤としてCが使用されるものの、Cの装入総量は還元反応との関連で適正範囲があり、過剰なCの配合は製品である還元ペレット(還元鉄)の強度劣化をもたらす原因となり、品質に悪影響を与えるという問題がある。
【0004】
然るに、高炉湿ダストには、表1(鉄鋼便覧第四版より引用)に示すようにCが大量に含まれているのでCの装入総量制約により、還元炉原料として大量に使用できず、図4に示すように一部は破棄せざるを得ないという問題がある。
【0005】
【表1】

【0006】
またC源を燃焼用などに有効活用する場合には、Fe、Znが障害になる。Feは燃焼残渣になり、Znは揮散し煙道付着等を起こすので問題となり、現実的には使用が困難である。よって、Fe、C、Znの三者をそれぞれ資源として有効活用を行なうためには、それぞれ他の二者の含有値の影響が実質的に問題とならないよう、三者を分離、濃縮する必要がある。この観点より、Fe、C、Znの三者分離技術は従来から幾つか提案されている。
【0007】
その第1が、特許文献1である。これは高炉一次灰( 乾式集塵ダスト) 及び二次灰( 湿式集塵ダスト) 両方を対象として、活性炭となるC分の回収を目的としたものである。酸処理による金属酸化物の溶解による溶解残留物としてのC分の分離を行い、一方酸は炭酸ソーダによる中和、更にアルカリ性化により生じる水酸化鉄、炭酸鉄沈殿を加熱してベニガラとして回収し、残液は更に濃縮し炭酸ソーダ添加による炭酸亜鉛回収を行なうものである。また酸溶解前に磁選を行い磁着分は鉄源として利用することも記載されている。
それぞれを利用するために三者の分離を行なうとの概念は明瞭に示されているものの、その方法については「酸処理による金属酸化物の溶解、溶解残留物としてのC分の分離、その溶解酸液の炭酸ソーダによる中和などに留まり、教科書的な化学的手法以上の具体的な方法は示されていない。また酸、アルカリを使用する必要があることから、排水処理も含めて設備費、操業費が高くなる欠点を有す。
【0008】
また、特許文献2には、製銑、製鋼の湿式集塵ダストを対象とした、Fe、Zn、 Cの富化分離の方法が提案されている。その第一の工程はマグネットサイクロン処理による、鉄リッチダスト分(下側排出)と亜鉛、Cリッチダスト分(上側排出) の分離である。その第二工程は前工程の上側排出物へn‐ヘキサン等有機溶媒を添加、分散させることによる、Cとの接触、浮上処理( 沈殿層中;亜鉛リッチ分、 浮上層中;C主成分ダスト) である。
【0009】
三者分離の具体的な方法を提供しているが、実施例に提示されている結果を見るとFeを主とするFe回収側へのC分配比が39〜63%と高く、必ずしもFe〜Cの分離性は良くない。また有機溶媒を使用することによってコストが増加する欠点がある。更には有機溶媒使用に当たっては、防災、安全、衛生面の配慮も必要となる。例えば、記載されているヘキサンは引火点が−22℃の可燃性物であり空気中の爆発限界濃度も低く、衛生面でも吸引による人体へ影響もあるので、使用するためには防災面、衛生面の厳重な対策が必要である。
【0010】
Fe、 Zn、 Cの三者の内二者の分離、ないし三者の中の一成分を他の二者から分離する方法を目的としているものは従来から多数提案されている。そのうち、湿式サイクロンを用いて、高炉ダストからZnとFeを分離すること、又はZnをFe以外の成分から分離することを目的とした提案の例として、特許文献3〜7がある。
特許文献3には、湿式サイクロンの二段処理によるC及びFeとZn及びPbの分離方法が示されている。
特許文献4には、正の磁場勾配をもつ電磁サイクロンによるFeとZn分離の方法が示されている。
特許文献5には、分散剤使用のうえでの超音波処理及び負圧利用の特殊湿式サイクロンによるFeとZnの分離の方法が示されている。
特許文献6には、超音波処理及び液体サイクロン処理によるFeとZnの分離が示されている。
特許文献7には、液体サイクロンの二段処理によるFe及びCとZn及びPbの分離方法が示されているが、湿式磁選は行われておらず、FeとCがリッチな還元屑から更にFeとCを分離してそれぞれ独立して原料とすることについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭48−052616号公報
【特許文献2】特開昭53−025201号公報
【特許文献3】特開昭51−120466号公報
【特許文献4】特開昭53−039907号公報
【特許文献5】特開昭53−081479号公報
【特許文献6】特開昭58−034051号公報
【特許文献7】特表平8−507577号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】化学工学協会;化学工学便覧第4版、昭和39年、丸善
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これらはそれぞれ三者を二分する分離との目的においては最適な方法の提案であるが、別々の提案を組み合わせればFe、C、Znの三者分離が最適に行えるというものではない。即ち、これらを組み合わせても、Fe、C、Znを効率良く分離するという最適な三者分離方法の一部を提供するものでは無い。
本発明はかかる事情に鑑みなされたもので、高炉排ガスの湿ダストに関して、鉄(Fe)、Zn、カーボン(C)の三者を、それぞれを有効に再活用するためにお互いに分離するための、簡易で実用的かつ有効な高炉発生物中の湿ダストの再活用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的に沿う本発明に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法は、製鉄用の高炉から発生する排ガスを、湿式集塵した際に捕集される湿ダスト(高炉湿ダスト)をスラリー状とする第1工程と、
前記スラリー状とした湿ダストの湿式磁選を行うことにより、「鉄を目的として利用する部分a」と「カーボン及び亜鉛を目的として利用する部分b」に分ける第2工程と、
前記「カーボン及び亜鉛を目的として利用する部分b」に対して第1回目の湿式サイクロン処理を行なう第3工程と、
前記第1回目の湿式サイクロン処理の下側排出物に対して更に第2回目の湿式サイクロン処理を行なう第4工程とを有し、
前記第1回目の湿式サイクロン処理の上側排出物と前記第2回目の湿式サイクロン処理の上側排出物と合せたものを「亜鉛を目的として利用する部分c」とし、前記第2回目の湿式サイクロン処理の下側排出物を、「カーボンを目的として利用する部分d」とすることにより、前記湿ダストを前記「鉄を目的として利用する部分a」と前記「カーボンを目的として利用する部分d」と前記「亜鉛を目的として利用する部分c」の三部分に分離する。
【0015】
本発明に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法において、前記第2工程の湿式磁選の前に、前記スラリー状とした湿ダストに超音波処理を施しているのが好ましい。
【0016】
ここで、前記超音波処理が、「スラリー1m3 当たりのkWで表示した超音波強度」と「分で表示した超音波照射時間」の積で表される超音波処理パラメーターが、20kW・min/m3以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法によって、高炉湿ダストを、Fe分、Zn分、C分それぞれを目的として利用する部分の三者に分離することができる。その結果、Feを主とする部分をリサイクル使用する際のZn分、C分の弊害を、Cを主とする部分をリサイクル使用する際のFe分、Zn分の弊害を減少し、またZnを主とする部分をリサイクルし易くする。これにより、高炉湿ダストを有効利用できる量を増加できる。言い換えれば、利用できずに廃棄される高炉湿ダスト量を減少させ、資源を有効活用できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法のプロセスを示すフロー図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法の処理フローを説明する図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法の処理フローを説明する図である。
【図4】従来例に係る高炉発生物中の湿ダストの処理プロセスの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した一実施の形態に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法について説明する。
(スラリー化の条件)
図1に示すように、製鉄用の高炉10において発生したダスト(排ガス)は、ダストキャッチャー11、湿式ベンチュリースクラバー12で集塵された直後は希薄なスラリー状のものであるので、通常は(即ち、従来は)ハンドリングしやすいように、シックナー13で沈降濃縮の後に脱水機(図示せず)で脱水する。
【0020】
本発明を適用するために湿ダストは、スラリー状態とする必要があるが、その方法としては、湿式ベンチュリースクラバー12で集塵されたスラリーそのままでも良いし、またシックナー13で沈降濃縮したスラリーでも良い。またこれらのスラリーを元に、何らかの方法で濃縮ないし希釈したスラリーでも良い。
更には輸送や保管の便宜上から、脱水機で脱水を行いスラッジ状となった高炉湿ダストへ、再度水分を加えてスラリー化したものでも良い。
【0021】
また、本発明においては、必須ではないが、スラリーのpHを8.5〜10程度に保持することが、より好適である。その理由は、他のpH値に比しこのpH範囲ではFe、Znなど金属元素の液中への溶出が少なく、最終的な固液分離後の排液処理が容易なためである。
【0022】
(湿式磁選及び湿式サイクロン処理のそれぞれの意味)
高炉湿ダストに含有されるFe分のかなりの部分は、強磁性物質である。一方、高炉湿ダストに含有されるC分ないしZn分は1テスラ以下の通常の磁束密度勾配での磁力選別では殆ど磁着されない。よってFe分を、C分及びZn分から分離するためには湿式磁選を適用することが好適である。
Znを主とする粒子のサイズは、8〜10μm以下のサイズが質量比率で6〜8割であり、Feを主とする粒子及びCを主とする粒子の6〜8割は15μmを超える粒子径を持つ。よって、計算50%分級粒径を8〜15μmに設計した湿式サイクロンを用いれば、Znを主とする粒子とFeを主とする粒子及びCを主とする粒子とを分級分離することができる。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る高炉発生物中の湿ダストの再活用方法のプロセスは、超音波処理14の後に又は超音波処理14なしで、スラリー状の高炉湿ダストに対して湿式磁選(湿式磁力選別)15を行い、その非磁着側(カーボン及び亜鉛を目的として利用する部分b)に対して、湿式サイクロン処理を二回適用して(即ち、第1回目の湿式サイクロン処理17と第2回目の湿式サイクロン処理18を行う、以下、単に「湿式サイクロン処理」ということもある)、Fe分、Zn分、C分をそれぞれを目的として利用する「鉄主体回収物(鉄を目的として使用する部分)a」、「カーボン主体回収物(カーボンを目的として利用する部分)d」、「亜鉛主体回収物(亜鉛を目的として利用する部分)c」の三者に分離するものである。
【0024】
( 湿式磁選の条件)
実質的にFe分の多いスラリーをマクロ的に分離できる方法であれば、ドラム式湿式磁選、フィルター式湿式磁選等のどんな湿式磁選方式でも適用できる。また工業的に分離できる限りは、湿式磁選の具体的な方法や磁束密度などその条件は如何なる条件でも良い。
【0025】
(湿式サイクロン処理の条件)
前述のようにZnを目的として利用する粒子のサイズ分布とFeを目的として利用する粒子やCを目的として利用する粒子のサイズ分布より、湿式サイクロン(第1回目、第2回目の湿式サイクロン処理17、18のいずれにおいても)の計算50%分級粒径は、 8〜15μm前後とすることが好ましい。
湿式サイクロンの計算50%分級粒径d50* [ μm] は、例えば前記した非特許文献1に記載されている(1)式を用いれば計算できる。
【0026】
【数1】

【0027】
(1)式における記号は以下の事項を意味する。
Dc;サイクロンの胴部の内径[cm]
Di;サイクロンの流入口の内径[cm]
De;サイクロンの上側排出口の内径[cm]
μ;液体の粘性[kg/m.sec]
ρp;粒子の密度[kg/m3 ]
ρ;液体の密度[kg/m3 ]
Q;サイクロンへの液体供給速度[ リットル/sec]
【0028】
第1、第2回目の湿式サイクロン処理17、18に供給するスラリーの固体濃度は特に限定されない。但し固体濃度が高くなるとスラリーの取り扱いが難しくなる場合もあり、固体濃度30%以下程度が実用上は好ましい。また希薄な側は設備効率が低下しより大きな設備を必要とする不都合がある。高炉二次灰の湿式サイクロン処理では、下排出側にCなどの固相が大量に排出され高固体濃度のスラリーになる場合がある。よって第1回目の湿式サイクロン処理17の下側排出物を第2回目の湿式サイクロン処理18に供する場合には、その濃度によっては前記のような固体濃度に希釈することが好ましい。
【0029】
(超音波処理の意味)
後述の実施例で示すように、スラリーの超音波処理なしでスラリー化した高炉湿ダストに「湿式磁選15と、湿式サイクロン処理2段17、18」を行なうことにより、Fe分、Zn分、C分それぞれを目的として利用する部分の三者に分離することが可能である。更に該スラリーに最初に超音波処理14を行なってから、「湿式磁選15と湿式サイクロン処理2段17、18」を行なうと、該処理なしの結果に比し、Fe分、Zn分、C分それぞれを目的として利用する部分の三者の分離の程度がより改善される。特にZnの収率が改善される。
【0030】
この、超音波処理14の目的、機能は、物理的に相互に付着しているFe主体やC主体やZn主体などの様々な種類の粒子を、お互いにミクロ的に分離することである。ここでいうミクロとは、スラリーに懸濁する微細粒子相互の分離との意味である。すなわち、Fe分の多いスラリーないしスラッジとC分の多いスラリーないしスラッジと、Zn分の多いスラリーないしスラッジに分けるための、湿式磁選あるいは湿式サイクロン分離というマクロな湿式分離を次工程で行う前に、個別の粒子の分離を極力促進しておく意味をもつ。
【0031】
(超音波処理の条件)
超音波処理14は、実質的にスラリーに超音波が照射できれば良い。例えば、スラリー1m当たりの1kWの超音波強度で2〜3分の超音波照射にても、超音波照射なしの場合に比してFeとCやZnの分離が改善される。より好適な条件は後述する。
照射する超音波の周波数は特に限定されないが、100kHz以下の比較的低い周波数の方がより好適である。
超音波照射を、バッチ式容器で行っても連続的な流路で行っても、いずれでも構わない。
バッチ式処理、連続処理いずれの場合にも、何らかの方法によって、十分なスラリー撹拌が必要である。超音波の加振力のみではスラリーの均一化、ひいては均一な超音波照射ができないためである。
【0032】
超音波照射を行う際のスラリー濃度、すなわち、固体物質量/全質量の比も特には限定されない。低濃度ほど処理効率が低下しドライベースでの同一湿ダスト処理量に対する設備規模が大きくなり、経済的に不利である。また高濃度になれば、処理効率は向上するが撹拌や移送など処理が難しくなる。いずれのスラリー濃度でも効果は得られるが、これらの観点から実質的には3〜25質量%程度がより好適な範囲といえる。
【0033】
(超音波処理のより好適な条件)
超音波処理条件は、スラリー1m3 当たりのkWで表示した超音波強度と、分で表示した超音波照射時間の積で表される超音波処理パラメーターが、特に、20kW・ min/m3 未満では、この超音波処理パラメーターの値が増加するにつれて、各成分の分離結果が大きく向上する。この超音波処理パラメーターの値が20kW・ min/m3 以上の領域となると、これ以上に超音波処理パラメーターの値を増加しても各成分の分離状況はあまり変化しない。
【0034】
これは超音波処理パラメーターの値が20kW・ min/m3 未満である領域では、超音波処理によるFe主体の粒子、C主体の粒子、Zn主体の粒子のミクロな相互分離がまだ不足であり、超音波処理強度の増加とともに分離が急速に進んでいることを示している。一方20kW・min/m3 以上となると超音波処理強度の増加とともに分離は多少進むが、その改善の程度は僅かとなる。
このため、設備費と効果の効率バランスを考慮すると、工業的には超音波処理パラメーターの値が20kW・min/m3 以上との条件を満たすことが、特に、好適な条件と言える。
【0035】
また、超音波強度と照射時間の組合せは特に限定されない。20kW・ min/m3 以上との条件を満たす限り、4kW/m3 のような低強度で長時間の照射を行う場合と、35kW/m3 のような高強度で長時間の照射を行う場合とで明瞭な差はなく、任意の組合せが選べる。
【実施例】
【0036】
実施例1
図2に示す過程によって、超音波処理14を行なった後に湿式磁選15を行い、その非磁着物を第1回目の湿式サイクロン処理17と第2回目の湿式サイクロン処理18、18aで二回処理する分離処理を行なった。
表2に示す組成の高炉湿ダストを用いた。
【0037】
【表2】

【0038】
因みに表2に示す組成の高炉湿ダストを含むスラリーは、シックナーから引抜いた濃縮スラリーであり、その質量濃度は12%であった。スラリーのpHは9〜10に調整した。このスラリーを4kW/m3 の超音波処理強度で25minの超音波処理を行なった。超音波処理は、貯槽にスラリーをため粒子が沈降分離することを防ぐためにインペラー撹拌をしながら所定時間、所定強度の超音波照射を行った。
その後、湿式磁選15を行なった。湿式磁選15は、表面磁束密度0. 24テスラのドラム式磁選機で行った。
【0039】
湿式磁選15の非磁着物のサイクロン処理を2回にわたって行なったが、1回目の湿式サイクロン処理17の下側排出スラリー(下側排出物20)について再度サイクロン処理(第2回目の湿式サイクロン処理18)を行なう際には、質量濃度を12%程度に希釈した。サイクロン処理は、負圧利用方式でない通常方式のサイクロンを用いて前述の(1)式を用いて計算50%分級粒径d50* がほぼ10μmになるように流量を調整して分級処置を行なった。
図2に示すフローのように、湿式磁選15の磁着物とサイクロン二段による分離物4種それぞれを個別に分析した。結果を表3に示す。
【0040】
湿式磁選15の磁着物(表3のNo1参照)は、Fe値が50質量%と高く、CやZnの成分値も低いのでそのままFeを目的として使用する部分としてFe回収部分になると判断した。
湿式磁選15の非磁着物は、サイクロン二段の処理を行なった。
サイクロン一段目の上側排出物の全て(それをサイクロン二段目で処理した際の上側、下側排出物、表3のNo2、3参照)とサイクロン一段目の下側排出物のサイクロン二段目処理での上側排出物(表3のNo4参照)は、原料の高炉湿ダストよりZn濃度が大幅に濃縮されており、Znを目的として利用する部分としてZn回収部分とすべきと判断した。量配分を計算してみると原料の高炉湿ダストより持ち込まれたZn総量のうち、2/3がこのZn回収部分に含まれる。
【0041】
またサイクロン一段目下側排出物のサイクロン二段目処理での下側排出物(表3のNo5参照)は、Cが成分値52%と濃縮されており、Cを目的として利用する部分とするC回収部分と判断された。またこの部分へは、原料から持込みのC総量の約6割が分配されている。
以上のように処理をしてその分離物を上記区分で分類すると、実質的にFe、Zn、Cの三者分離が実現できることが確認できた。
【0042】
言い換えれば、湿式磁選処理の後に、サイクロン処理を行わなければ、Cを目的として利用する部分とZnを目的として利用する部分の分離が不可能であったと言える。また、サイクロンの二段処理を行わずに、サイクロン一段目の下側をすべてCを目的として利用する部分とするならば、サイクロン二段目の上排出(表3のNo4)のZn分配15%分がZnを目的として利用する部分に入らず、Cを目的として利用する部分に混ざりこんでいたことになる。すなわちZn回収率が66%から51%に低下し、一方Cを目的として利用する部分にZnが15%混ざってZnが27%も分配されていたこととなる。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例2
次に超音波処理の有無による分離挙動の差を確認した。
表4に示す高炉湿ダストを用いて、図3に示すフローで処理を行なった。超音波処理や湿式磁選の条件などは、実施例1と同様である。但しスラリー濃度は1%以下の希薄スラリーであった。
【0045】
【表4】

【0046】
表5に超音波処理有りのケースの結果を、表6に超音波処理なしのケースの結果を示す。

湿式磁選処理、サイクロン処理の前に超音波処理を行ったケースでは、実施例1と同様に、Znを目的として利用する部分には、原料の高炉湿ダストより持ち込まれたZn総量のうち約6割が分配されている。またCを目的として利用する部分には持ち込まれたC総量のうち8割以上が配分されている。
【0047】
一方、事前に超音波処理を行っていないケースでも、Cを目的として利用する部分に、持ち込まれたC総量のうち約7割が配分されており、またZnを目的として利用する部分にも原料の高炉湿ダストより持ち込まれたZn総量の約半分のZnが分配されている。
このことは、事前の超音波処理無しでも、湿式磁選とサイクロン二段処理により、C回収率、Zn回収率がやや低下するものの、実質的にFe、Zn、Cの三者分離が実現できていることが示されている。もちろん、事前に超音波処理を行うことがより好適である。
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【符号の説明】
【0050】
10:高炉、11:ダストキャッチャー、12:ベンチュリースクラバー、13:シックナー、14:超音波処理、15:湿式磁選、17:第1回目の湿式サイクロン処理、18、18a:第2回目の湿式サイクロン処理、20:下側排出物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鉄用の高炉から発生する排ガスを、湿式集塵した際に捕集される湿ダストをスラリー状とする第1工程と、
前記スラリー状とした湿ダストの湿式磁選を行うことにより、「鉄を目的として利用する部分a」と「カーボン及び亜鉛を目的として利用する部分b」に分ける第2工程と、
前記「カーボン及び亜鉛を目的として利用する部分b」に対しては第1回目の湿式サイクロン処理を行なう第3工程と、
前記第1回目の湿式サイクロン処理の下側排出物に対して更に第2回目の湿式サイクロン処理を行なう第4工程とを有し、
前記第1回目の湿式サイクロン処理の上側排出物と前記第2回目の湿式サイクロン処理の上側排出物と合せたものを「亜鉛を目的として利用する部分c」とし、前記第2回目の湿式サイクロン処理の下側排出物を、「カーボンを目的として利用する部分d」とすることにより、前記湿ダストを前記「鉄を目的として利用する部分a」と前記「カーボンを目的として利用する部分d」と前記「亜鉛を目的として利用する部分c」の三部分に分離することを特徴とする高炉発生物中の湿ダストの再活用方法。
【請求項2】
請求項1記載の高炉発生物中の湿ダストの再活用方法において、前記第2工程の湿式磁選の前に、前記スラリー状とした湿ダストに超音波処理を施していることを特徴とする高炉発生物中の湿ダストの再活用方法。
【請求項3】
請求項2記載の高炉発生物中の湿ダストの再活用方法において、前記超音波処理が、「スラリー1m3 当たりのkWで表示した超音波強度」と「分で表示した超音波照射時間」の積で表される超音波処理パラメーターが、20kW・min/m3 以上であることを特徴とする高炉発生物中の湿ダストの再活用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23719(P2013−23719A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158056(P2011−158056)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000253226)濱田重工株式会社 (17)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】