説明

高熱伝導性シート及びレーザ光学装置

【課題】熱伝導性及び衝撃吸収性に優れる高熱伝導性シート及びその高熱伝導性シートを用いたレーザ光学装置を提供する。
【解決手段】高熱伝導性シートは、含フッ素エラストマーに無機物の熱伝導用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を含み、熱伝導度が10〜500W/m・Kである。また、レーザ光学装置は、光学素子と、光学素子を配置する基体と、光学素子と基体との間にあってそれらと当接する高熱伝導性シートと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性シート及びレーザ光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光を利用したレーザ光学機器は、例えば材料加工分野、光記録再生装置分野、医療装置分野など、利用技術分野が広がってきている。このようなレーザ光学装置は、レーザ光を発光・出射する例えば半導体レーザなどの発光素子や、レーザ光が受光される例えばレンズやミラーのような受光素子などの複数の光学素子を有している。
【0003】
レーザ光学装置の基体に対する光学素子のそれぞれの配置は、高い精度が要求される。また、レーザの出力による光学素子の発熱は熱膨張などによる光学素子の配置に望ましくない変化を生じるため、光学素子を基体に当接し固定する材料として熱伝導性のよいインジウム箔が用いられていた(例えば、特許文献1参照)。インジウム箔は熱伝導性に優れ、光学素子と基体との間に効率的な熱伝導を与え、光学素子を固定する材料としては好適であった。
【0004】
しかしながら、インジウム箔は、弾性率が高く衝撃吸収性に劣るという欠点があった。
【特許文献1】特開平10−223945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、熱伝導性及び衝撃吸収性に優れる高熱伝導性シート及びその高熱伝導性シートを用いたレーザ光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる高熱伝導性シートは、
含フッ素エラストマーに、無機物の熱伝導用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を含み、
熱伝導度が10〜500W/m・Kである。
【0007】
また、本発明にかかるレーザ光学装置は、
光学素子と、
前記光学素子を配置する基体と、
前記光学素子と前記基体との間に配置される前記高熱伝導性シートと、
を含む。
【0008】
本発明の高熱伝導性シートによれば、含フッ素エラストマーを用いることで低弾性率で衝撃吸収性に優れ、熱伝導用フィラーを含むことで熱伝導度を向上せることができ、さらにカーボンナノファイバーによって高温における高剛性を得ることができる。しかも、含フッ素エラストマーはレーザ出力時のアウトガスがほとんど発生しないため、レーザ光学装置にも用いることができる。特に、本発明のレーザ光学装置によれば、光学素子と基体との間で高熱伝導性シートを当接させることで、光学素子と基体との間に効率的な熱伝導を与えると共に、基体から光学素子への衝撃も吸収することができる。
【0009】
本発明にかかる高熱伝導性シートにおいて、
30℃における動的粘弾性率(E’)が0.1〜4.0GPaであって、200℃における動的粘弾性率(E’)が0.1〜2.0GPaであることができる。
【0010】
本発明にかかる高熱伝導性シートにおいて、
含フッ素エラストマーは無架橋であることができる。
【0011】
本発明にかかる高熱伝導性シートにおいて、
前記熱伝導用フィラーは、熱伝導度が100〜500W/m・Kであることができる。
【0012】
本発明にかかる高熱伝導性シートにおいて、
前記熱伝導用フィラーは、アルミニウム、銀、銅及び窒化アルミニウムから選択された少なくとも1種であることができる。
【0013】
本発明にかかる高熱伝導性シートにおいて、
前記熱伝導用フィラーは、平均粒径が1〜200μmであることができる。
【0014】
本発明にかかる高熱伝導性シートにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施の形態にかかる高熱伝導性シートは、含フッ素エラストマーに、無機物の熱伝導用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を含み、熱伝導度が10〜500W/m・Kである。
【0017】
本実施の形態に用いられる含フッ素エラストマーは、分子中にフッ素原子を含む合成ゴムであり、例えば、含フッ素アクリレートの重合体、フッ化ビニリデン系共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体(TFE-P)、テトラフルオロエチレン−パーフ
ルオロメチルビニルエーテル共重合体(TFE-PMVE)、含フッ素ホスファゼン系、含フッ素シリコーン系などがある。含フッ素エラストマーは、レーザ光の照射によってアウトガスの発生がほとんど無い。したがって、本実施の形態にかかる高熱伝導性シートをレーザ光学装置における光学素子と基体との間に配置してもアウトガスによる光学素子への悪影響がない。また、本実施の形態に用いられる含フッ素エラストマーは無架橋のまま用いることができる。架橋工程を必要としないので、製造が容易でありコストダウンとなるという効果を有する。また、無架橋であれば、含フッ素エラストマーを溶剤に混合してスクリーン印刷などの方法で基材に塗布することで膜化するなど加工性も高い。高熱伝導性及び衝撃吸収性を低下させなければ強度や耐熱性を向上させるために架橋させてもよい。さらに、含フッ素エラストマーを用いることで、光学素子や基体の形状に対応できる柔軟性があり、また、加工が容易である。
【0018】
本実施の形態にかかる高熱伝導性シートは、無機物の熱伝導用フィラーを含むことで、含フッ素エラストマーでありながら、熱伝導度を10〜500W/m・Kとすることができ、さらに好ましくは、50〜300W/m・Kとすると加工性がよく市販用として低価格化が可能である。高熱伝導性シートの熱伝導度が10W/m・K未満だと光学素子からの熱を伝えるのには不十分であり、熱伝導度が500W/m・Kを超える高熱伝導性シートを製造することは困難である。
【0019】
このような熱伝導用フィラーとしては、含フッ素エラストマーの熱伝導度を効率よく向上させることができることから、熱伝導度が100〜500W/m・Kであることが好ましく、含フッ素エラストマーとの混練加工性から粒子状であることが好ましい。特に、熱伝導性フィラーとしては、加工性に優れること、市場で入手しやすいことなどの点から、アルミニウム(例えば熱伝導度237W/m・K)、銀(例えば熱伝導度429W/m・K)、銅(例えば熱伝導度401W/m・K)及び窒化アルミニウム(例えば熱伝導度150W/m・K)から選択された少なくとも1種であることが好ましい。このような熱伝導用フィラーの平均粒径は、1〜200μmであることが好ましい。熱伝導用フィラーの平均粒径が1μm未満であると、フォノンの伝達が困難なため、熱伝導性を向上させにくい。また、熱伝導用フィラーの平均粒径は、高熱伝導性シートの厚さよりも小さいことが好ましく、例えば200μm以下であることが好ましい。ただし、高熱伝導性シートの厚さは、その用途によって異なる。
【0020】
本実施の形態に用いられるカーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましく、平均直径が0.5ないし200nmであることがさらに好ましい。カーボンナノファイバーはストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。また、このようなカーボンナノファイバーとしては、平均長さが20μm程度が好ましい。
【0021】
カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できるが、含フッ素エラストマー100重量部に対して、8〜120重量部含むことが好ましく、20〜100重量部含むことがさらに好ましい。
【0022】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノファイバーは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノファイバーは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0023】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0024】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0025】
カーボンナノファイバーは、含フッ素エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0026】
本実施の形態にかかる高熱伝導性シートは、含フッ素エラストマー100重量部(phr)に対して、均一に分散された熱伝導用フィラーを100〜900重量部(phr)含むことが好ましく、さらに好ましくは200〜800重量部(phr)である。熱伝導用フィラーの配合量が100重量部未満であると、レーザ光学装置における高熱伝導性シートとして好ましい熱伝導度が得られず、熱伝導用フィラーの配合量が900重量部(phr)を超えると、エラストマーとの混練が困難となり好ましくない。
【0027】
本実施の形態にかかる高熱伝導性シートは、30℃における動的粘弾性率(E’)が0.1〜4.0GPaであって、200℃における動的粘弾性率(E’)が0.1〜2.0GPaであることが好ましい。高熱伝導性シートの30℃における動的粘弾性率(E’)が0.1GPa未満であると、基体に光学素子を確実に固定することが難しくなり、4.0GPaを超えると、衝撃吸収性が低くなり好ましくない。また、本実施の形態にかかる高熱伝導性シートの耐熱温度は、200℃以上が好ましい。
【0028】
本実施の形態にかかる高熱伝導性シートは、オープンロールを用いたオープンロール法、バンバリミキサ、インタナルミキサ、ニーダなどを用いた密閉式混練法、二軸押出機、三軸押出機などを用いた多軸押出し混練法などを用いて混練して得ることができる。ここでは、2本のロールを用いたオープンロール法を用いた例について述べる。
【0029】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば1.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。
【0030】
まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、含フッ素エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間に含フッ素エラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内に粒子状の熱伝導用フィラー50とカーボンナノファイバー40とを加えて、第1、第2のロール10,20を回転させると、含フッ素エラストマー30と熱伝導用フィラー50とカーボンナノファイバー40の混合物が得られる。この混合物をオープンロールから取り出す。さらに、第1のロール10と第2のロール20の間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔に設定し、得られた混合物をオープンロールに投入して薄通しを行なう。薄通しの回数は、例えば5〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0031】
このようにして得られた剪断力により、含フッ素エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40が含フッ素エラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、含フッ素エラストマー30に分散される。
【0032】
また、カーボンナノファイバー40の投入に先立って、粒子状の熱伝導用フィラー50をバンク32に投入しておくと、ロールによる剪断力は熱伝導用フィラー50のまわりに乱流状の流動を発生させ、カーボンナノファイバー40を含フッ素エラストマー30にさらに分散させることができる。
【0033】
この工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、含フッ素エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。
【0034】
このとき、本実施の形態の含フッ素エラストマーは、上述した特徴、すなわち、含フッ素エラストマーの分子形態(分子長)や分子運動によって表される弾性と、粘性と、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用と、を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた複合材料を得ることができる。より具体的には、含フッ素エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有する含フッ素エラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、含フッ素エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)含フッ素エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、含フッ素エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性による含フッ素エラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、含フッ素エラストマー中に分散されることになる。本実施の形態によれば、混合物が狭いロール間から押し出された際に、含フッ素エラストマーの弾性による復元力で混合物はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した混合物をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーを含フッ素エラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、含フッ素エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0035】
こうして薄通しされた含フッ素エラストマーの複合材料を所定の厚さ例えば20μm〜1mmにシート出しする。
【0036】
さらに、このようにして得られたシートを、例えばプレス成形、押出成形、射出成形、トランスファー成形などの通常のエラストマーの加工法を用いて所望の形状に成形して高熱伝導性シートを得る。このとき、高熱伝導性シートを架橋する場合には、オープンロールによる混練の際に、架橋剤を混合させておくことで、例えばプレス成形時に架橋させて成形することができる。低弾性率を得るために、架橋させずに成形することが好ましい。このようにして得られた高熱伝導性シートは、熱伝導性フィラーによる高熱伝導性と、低弾性率による衝撃吸収性と、を有し、さらにカーボンナノファイバーによる高剛性を有している。
【0037】
本実施の形態にかかるレーザ光学装置は、光学素子と、前記光学素子を配置する基体と、前記光学素子と前記基体との間に配置される前記高熱伝導性シートと、を含む。
【0038】
高熱伝導性シートは、レーザ光学装置において、基体と光学素子との間にあって、効率的な熱伝導を行なうと共に、基体に対し光学素子を確実に位置決め配置することができる。光学素子は、例えばレーザ光を発光・出射する例えば半導体レーザなどの発光素子や、レーザ光が受光される例えばレンズ、ミラー、フォトダイオードなどの受光素子などがあり、レーザ光学装置は、これらの複数の光学素子を高熱伝導性シートを介して基体例えば台座やフレームなどの所定箇所に配置・固定している。光学素子と高熱伝導性シートもしくは基体と高熱伝導性シートの間は、接着剤によって接着してもよいし、高熱伝導性シート自体が柔軟に変形可能であるため、光学素子を高熱伝導性シートに押し付けて固定してもよい。
【0039】
本実施の形態にかかるレーザ光学装置において、光学素子と基体との間で高熱伝導性シートが効率よく熱伝導するので、レーザ光出力時に光学素子の熱を基体へと伝え、光学素子の温度上昇を抑えることができる。また、本実施の形態にかかるレーザ光学装置において、高熱伝導性シートは基体からの衝撃を吸収し、光学素子への衝撃を緩和することができる。しかも、高熱伝導性シートはレーザ高出力時においてもアウトガスが発生しないので、光学素子への悪影響もない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1〜4、比較例1〜5)
(1)高熱伝導性シートサンプルの作製
オープンロールに、表1に示す所定量の含フッ素エラストマー(100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせた。含フッ素エラストマーに対して表1に示す量(重量部(phr))の粒子状の熱伝導用フィラー及びカーボンナノファイバーを投入し、混練した。さらに、薄通しを5回行い、厚さ1.5mにシート出しした。このシートを250℃で1分間プレス成形して、厚さ1.0mmの実施例1〜4の無架橋の高熱伝導性シートを得た。なお、ここでは各物性を測定するためシート厚を1.0mmとしたが、実際にレーザ光学装置に用いる場合には、200μm程度である。
【0042】
比較例1、2、4、5も実施例1〜4と同様にして混練、薄通し、プレス成形を行ない、厚さ1.0mmのシートを得た。また、比較例3は、従来から用いられている厚さ1.0mmのインジウムとした。
【0043】
なお、含フッ素エラストマーとしてはデュポン・ダウ・エラストマー・ジャパン社製のバイトンA−500を用いた。また、比較例1のEPDMとしてはJSR社製のEP22を用い、比較例2のシリコーンゴムとしては信越シリコーン社製のKE752−Uを用いた。さらに、銀粉としては平均粒径35μmのアトマイズ銀粒子を用い、カーボンブラックとしては、ケッチェンブラックを用いた。カーボンナノファイバーとしては、平均直径が約100nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブを用いた。
【0044】
(2)動的粘弾性率及び耐熱温度の測定
各シートのサンプルについて、30℃及び200℃におけるE’(動的粘弾性率)をSII社製の動的粘弾性測定装置によって測定した。なお、比較例1〜5のサンプルの200℃におけるE’(動的粘弾性率)は測定しなかった。また、SII社製の熱機械分析装置(TMA)によって耐熱温度を測定した。耐熱温度の測定は、前記TMAを用いて、サンプルに25KPaの負荷をかけて、−100℃〜300℃の間で熱膨張を計測し、熱劣化の生じる温度を耐熱温度とした。これらの結果を表1に示す。
【0045】
(3)熱伝導度の測定
各シートのサンプルについて、ブルカー・エイエックスエス社製のLFA447キセノンフラッシュアナライザーを用いてキセノンフラッシュ法で熱伝導度(単位はW/m・K)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0046】
(4)アウトガスの測定
各シートのサンプルを250℃で1時間保持し、ガスクロマトグラフィーで発生したガスを検出した。この測定結果を表1に示す。表1において、ガスの発生が検出されなかった場合には「○」と記載し、ガスの発生が検出された場合には、「×」と記載した。
【0047】
【表1】

表1から、本発明の実施例1〜4によれば、以下のことが確認された。すなわち、実施例1〜4は比較例3のインジウム箔に比べて動的粘弾性率が低く、熱伝導度も同等もしくはそれ以上であることがわかった。実施例1〜4の銀粉は、比較例4のカーボンブラックに比べてシートの熱伝導度を大きくすることができ、熱伝導用フィラーとして好適であることがわかった。また、実施例1〜4の含フッ素エラストマーを用いた場合はアウトガスの発生が検出されなかったが、比較例1のEPDMは耐熱温度が150℃であり、分解された有機物が検出され、比較例2のシリコーンゴムは耐熱温度が200℃であり、シロキサンの発生が検出された。さらに、本発明の実施例1〜4は、200℃における動的粘弾性率(E’)が0.1GPa以上であり、高温における高い剛性を有していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法による含フッ素エラストマーと熱伝導用フィラーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 第1のロール
20 第2のロール
30 含フッ素エラストマー
40 カーボンナノファイバー
50 熱伝導用フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素エラストマーに、無機物の熱伝導用フィラーと、カーボンナノファイバーと、を含み、
熱伝導度が10〜500W/m・Kである、高熱伝導性シート。
【請求項2】
請求項1において、
30℃における動的粘弾性率(E’)が0.1〜4.0GPaであって、200℃における動的粘弾性率(E’)が0.1〜2.0GPaである、高熱伝導性シート。
【請求項3】
請求項1または2において、
含フッ素エラストマーは無架橋である、高熱伝導性シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記熱伝導用フィラーは、熱伝導度が100〜500W/m・Kである、高熱伝導性シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記熱伝導用フィラーは、アルミニウム、銀、銅及び窒化アルミニウムから選択された少なくとも1種である、高熱伝導性シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記熱伝導用フィラーは、平均粒径が1〜200μmである、高熱伝導性シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、高熱伝導性シート。
【請求項8】
光学素子と、
前記光学素子を配置する基体と、
前記光学素子と前記基体との間に配置される請求項1〜7のいずれかに記載の高熱伝導性シートと、
を含む、レーザ光学装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−303279(P2008−303279A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150839(P2007−150839)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】